肉体的ダメージはさほどじゃないものの、精神的ダメージに多大な影響を受けたフタバは、目が明らかに死んでいた。ハイライトをどこかに置き忘れている。
 横を飛んでいるリュミエールが、気の毒に……と言わんばかりの顔になっているが、とてもここでフタバへ声を掛ける度胸はない。粛々とついて行くほかなかった。
 たまにヘドロの塊を発見し、鼻を摘まみながら武器の鞘などで掻き分けるも、未だに目的のものは見つからない。暗い通路の中で、松明の明かりにより、伸びた影法師たちがゆらゆら揺れている。

「こうなると、なるべく早く、例の指輪を見つけるほかありませんね。僕もここにずっとはいたくないですよ」
「全く同意見です。しかし、指輪はどこに行ってしまったのでしょう」
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2019/09/26 13:38 [edit]

category: 小さいことはいいことだ?

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 リューンを出て、ちょうど2日。
 町の人から教えてもらった依頼人の家は、アズールの郊外にある森に囲まれていた。
 柔らかな緑の色彩の多い中で、木漏れ日があちこちに差し込んでおり、可愛らしい小鳥の声も聞こえてくる。あまりにものんびりした様子に、正直、拍子抜けしたといっても良い。
 フタバが扉をノックすると、開いて出迎えてくれたのは、聡明そうな整った面差しの、20代半ばくらいの女性であった。ドワーフが主に作製することで知られる高価な視力矯正器具――眼鏡をさりげなくかけている。
 白いシャツにスリットの入ったロングスカートを身につけていて、きびきびした印象を与える人だ。
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2019/09/26 12:56 [edit]

category: 小さいことはいいことだ?

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 ≪のんびり柘榴亭≫の女主人であるエセルは、以前に店の経営を任される前、この仕事のイロハを教えてくれた光り輝く――特に頭が――師匠から言われていたことがある。

「いいか、宿にはたまに、食材をありきたりの道具や調味料で暗黒物質に変えてしまう、恐ろしい人材が所属することがある。そういう人材を台所に入れるのは、自殺行為に等しい。宿の冒険者たちや自分の身が惜しいのなら、決して彼らを入れてはいけないよ」

 そういう人はデスコックという称号を持ち、周囲をとんでもない恐怖に陥れるという。
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2019/09/26 12:45 [edit]

category: 小さいことはいいことだ?

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Sat.

塩の降る村 その4  

 たっぷり休憩を取り終わった冒険者たちは、宝箱から回収した火晶石をリュミエールの荷物袋に納めて、休憩室の向かい側にある部屋の魔法陣を起動していた。
 もうひとつあった正面のドアの向こうは、己の目の働きを疑うような光景があり進んでいない。
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2019/09/21 16:48 [edit]

category: 塩の降る村

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Sat.

塩の降る村 その3  

 変異種のモンスターに会う機会は、一般人ならほとんどないはずだが、冒険者のそれは比較が馬鹿馬鹿しくなるほどに多くなる。
 今現在、彼らが刃を向けている相手もその口であり、魔術師学連に所属している身としては遭遇を喜ぶべきかもしれないが、正直に言えばカノンはくそくらえと思った。
 伝説でよく聞く蛇や蛸の足だって充分に厄介だが、蛇の如く長い首を具えた猛犬とて、危険性でおさおさ劣るものではない。第一、噛みついて引き千切る力は、こっちの方が強い。
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2019/09/21 16:47 [edit]

category: 塩の降る村

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Sat.

塩の降る村 その2  

 翌朝、ポートリオン商人の手助けをちょっとしてから、村の人たちからサス湖が干上がるまでのことについて情報収集した。
 端的に結果を言えば、ルドニーの住人にも、水が引いてしまった原因は分からない。
 ただ、この現象は2ヶ月前から始まっており、ヌクスよりも交流の深かったココン村の方では、水を新たに得ようと井戸の掘削をずいぶん頑張っていたものの、地下水が湧くことがなく、ついに住民が村を棄てる羽目になった。
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2019/09/21 16:45 [edit]

category: 塩の降る村

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Sat.

塩の降る村 その1  

 強く吹く熱風に晒され、支給品として貸与された皮のマントが翻る。
 口に入ったりしないよう片腕を挙げて俯いているのに、それでも狙いすませたように、鼻の穴や服の隙間に入り込んでくる砂の粒が痛い。
 風の収まった後、身体についた不愉快な砂を神経質に手で払いのけながら、ミハイルは不満たらたらの顔で呟いた。

「前の依頼でも熱い思いをしたのに、なんだってまた、砂漠なんかに来てしまったんでしょう」
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2019/09/21 16:44 [edit]

category: 塩の降る村

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Fri.

オルドリノの愛し猫 その3  

 街中に残存する物資があるかも――勝算を練る冒険者たちに、オルドリノはそう助言してから、彼らの一部を自身が過ごしてきた主人のアトリエへ案内した。そこは地下道に繋がる部屋であり、芸術家のオルドリノが執事を生み出した場所でもある。
 工房の心臓たる機械文明を利用した竈、何に使うのか知れない薄い硝子の筒、魔法などを込めるのに使う白紙のカード、空っぽのバケツに、切ることも突くこともままならぬ古びた剣……。
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2019/09/20 14:01 [edit]

category: オルドリノの愛し猫

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Fri.

オルドリノの愛し猫 その2  

 ――結論から言えば、猫は何者かの意を受けていたのか、冒険者たちへ帰るように促しに来たようであったが、それを断られると、彼らをタブロアートの中枢とも呼べる場所に案内してくれた。
 これが『火を抱く猫』の独自の判断によるものなのか、それとも帰らない客をここへ案内するよう予め登録されていたものなのか、一行には分からなかった。
 だが、空の不穏な赤い光が斜めに差し込む書斎は、高度な知識を有する人物の部屋であることが明白で、魔術師学連所属であるカノンや、21世紀の日本の学校図書館を覚えているフタバにも、大した質と量の蔵書だと感じられた。
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2019/09/20 14:00 [edit]

category: オルドリノの愛し猫

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Fri.

オルドリノの愛し猫 その1  

 オレンジ色と赤色の混ざり合う複雑な光が、ちょっとずつ地平線に近づいている。
 身を寄せるための岩肌も木陰もなく、ただただ寂寞とした荒野に近い光景が広がっていた。
 歩いていた6人――いや、1人は飛んでいるので5人か――の先頭を歩いていた人影が止まる。
 
「ああー、ダメだ、日が暮れちまう!」
「今夜は野宿ね……」

 ヤケクソのようにフレッドが叫んだところで、フタバが何かを達観した顔で応じた。
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2019/09/20 13:58 [edit]

category: オルドリノの愛し猫

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 見逃していた残りのゴブリンがいないか、鉱山跡から出てからもしばらく森の中を散策していると、湧水による泉を発見した。
 そこで体力を回復した一行は、もう他にゴブリンはいないだろうと、村へ続く道を歩いていた。

「今回は少々、梃子摺りましたね」

 最後尾を歩くモイラが感想を述べると、少し前方を歩いていたフタバが肯定する。

「本当ね。何だか、死に物狂いって感じだったわ」
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2019/09/15 13:14 [edit]

category: ゴブリンの洞窟&恐るべきゴブリン退治

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 木漏れ日は少ないながら、こないだほど鬱蒼としていない森の中で、はてと首を傾げたのはリュミエールであった。フレッドの村にジャイアントスラッグがなだれ込んだ時のような、妙な緊張感がある。
 だが視界内はおろか、妖精族にだけ分かるような淡い森の囁きに引っ掛かるものはない。

「……変なのー」
「どうかしましたか、妖精さん?」
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2019/09/15 13:13 [edit]

category: ゴブリンの洞窟&恐るべきゴブリン退治

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 悪天候に見舞われることもなく無事到着できたナザム村は、のんびりと水車の回る音の響く、のどかとしか言いようのない集落だった。この辺りはリューン近辺の中でも豊かな穀倉地帯に当たるはずで、辺境の寒村とは違い、人々の暮らしに余裕のある様子なのが、傍から見ていても分かる。

「小麦を引くのに、あの水車を利用してるんでしょうね…」
「村に流れ込むこの川は、あの北の山から流れてるんでしょう。そうすると、多分の山の栄養を含む土がここまで運ばれ、農地を肥えさせているのかもしれません」

 聖北の神のご加護ですね、とミハイルがひとりで頷いている。
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2019/09/15 13:11 [edit]

category: ゴブリンの洞窟&恐るべきゴブリン退治

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 トトリスからリューンの間の街道を襲っていた盗賊団を壊滅し、意気揚々と≪のんびり柘榴亭≫に戻ってきた冒険者たちは、少額だが得た銀貨をこれまでの貯金と合わせて、誰かに新たな技術を習得させようと協議した。
 また色んな意見があったものの、今回はそう長引くこともなく――呪文使いの守護も前衛も頼まれることの多いモイラに、対多数を相手取るための技を覚えてもらうことになった。どちらの役目を果たすことになるにせよ、彼女が一番、敵に囲まれる可能性が高そうだ、と言う予測によるものである。
 【散華の閃】という新たな剣技を覚えようと、技術書を見せてくれる女性の元へモイラが通うようになって、ちょうど一週間目の朝のことだった。
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2019/09/15 13:09 [edit]

category: ゴブリンの洞窟&恐るべきゴブリン退治

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 ヒュンと鋭い音を立てて突き込まれた短剣を、フタバは余裕のある動きで受け流し、返す刃で肩に浅く斬りつける。

「ひっ……!」

 必死で抵抗しようと短剣を持ち替えて一歩踏み込んだ敵に、低い体勢から無理矢理振り上げた斧が襲い掛かり、恐ろしいほどの膂力で右脇腹から斜めに人体が断ち切られた。
 ごろりと転がる味方の身体を避けた男が、真っ青になって命乞いをする。

「たっ、助けてくれ!何でもするから……!」
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2019/09/13 13:06 [edit]

category: トトリスからリューンまで

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「慈悲深き聖北の神よ、癒しの御業を現したまえ…」
「ううおぉ……気持ち良い……」

 目の詰まった毛織物のズボンを引き裂くようにあった傷口が、ミハイルの【癒身の法】による効果でみるみるうちに塞がっていく。
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2019/09/13 13:04 [edit]

category: トトリスからリューンまで

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 小さな兄妹の悲劇の痕跡だった洞窟を離れ、トトリスからリューンまでを繋ぐ街道をフレッドたちは歩いていた。
 この辺りは比較的整備が遅れている方で、針葉樹林の立ち並ぶ景色には、人の手による建築物があからさまに少ない。とはいうものの、行商人は構わず通るし、聖北の巡礼者の旅程などに組み込まれてはいるので、もう少し歩けば宿屋もあるはずだ。
 油断はしていないものの、黙りこくって歩くのも気が塞ぐからと、最初に引き合わされた時には詳細を話さなかった『冒険者になった理由』を、互いに説明しながら進んでいる。
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2019/09/13 13:03 [edit]

category: トトリスからリューンまで

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Thu.

怨霊の洞窟その3  

 ミハイルがしくじった時の備えにと、洞窟の入口でも唱えた【輝星の矢】の呪文を、カノンは中断して息をついた。思っていたより連携の取れた戦いになったが、さすがにモイラが主を庇って敵の一撃を受けた時は、冷静沈着な彼もひやりとしたものだ。

「ふー、何とかなったな。従者さんは癒した方が良いんじゃないか?」
「あ、いや、妙な打撃だったので体勢を崩したが、負傷はそれ程でもないので」

 それよりも、とモイラは視線を奥の方へと向けた。岩盤の崩れた辺りで、フェアリーがさっきからウロウロしているのである。

「リュミエール殿は、いったい何を?」
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2019/09/12 12:53 [edit]

category: 怨霊の洞窟

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Thu.

怨霊の洞窟その2  

「やれやれ、術が万全に効いてよかった」

 隠れていた叢を揺らし、ひょっこり頭を出したのはハーフエルフの魔術師だった。
 怨霊が出現するという洞窟まで、おおよそ3~4時間。これといった難所もなく、フレッドたちは問題の洞窟に辿り着き、入口に蟠っていた何らかの不浄な”気配”をどうにかして、中に入ろうと思っていたのだが……。
 いざという時のために、ミハイルの【亡者退散】は温存しておきたい。
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2019/09/12 12:52 [edit]

category: 怨霊の洞窟

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Thu.

怨霊の洞窟その1  

 フレッドたち一行は報酬を得たことから、新たなスキルの導入とアイテム購入について、長い間話し合った。予算にだいぶ限りがあるので、呪文にしろ技にしろ一つだけにしようと、まずこれについては早く決まったのだが、肝心のスキルを何にするか、残った金で何の道具を買うか、意見が色々出たため紛糾したのである。
 明確にリーダーを決めたわけでもないので、互いの意見のぶつかり合いは激化した。
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2019/09/12 12:50 [edit]

category: 怨霊の洞窟

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Wed.

バリアントの洞窟その4  

 6人連れのパーティになった一行は、リューンから一時間ほど掛かるマイヤー養鶏場へ訪れた。
 森の端に作られた養鶏場は森にある敷地部分を高い杭で囲んであり、かなり広い土地を駆け回る放し飼いが基本らしい。卵を産む雌鶏たちでさえ、小屋の定位置に押し込められて餌を詰め込まれるのではなく、いくつか抱卵に適当そうな東屋があり、気に入った場所で産んでいくスタイルであるようだ。
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2019/09/11 12:49 [edit]

category: バリアントの洞窟

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Wed.

バリアントの洞窟その3  

 慌ててカウンターにとって返したエセルの目に、初めてお目にかかる男女が飛び込んできた。
 後ろからついてきたフタバも彼らを認め、あらと声を漏らす。
 朗々と響く声で自己紹介を始めたのは、色んな人種の入り混じる交易都市でもあまり例のない紫色の髪を、胸元近くで切り揃えた僧侶だった。たとえ捧げ持つ聖北の印がなくとも、衒いなく相手を真っ直ぐ見つめる彼を見れば、難なく職業を言い当てることができるだろう。
 妙なのは、癖のない長い金髪を背に垂らした清廉な印象の女戦士が、目を伏し気味にしてやや斜め後ろで佇んでいることであり――物腰からすれば正式に剣の訓練を受けたらしい彼女が、どうして下級の聖職者に付き従うようにいるのか、関係性がまったく見えないことである。
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2019/09/11 12:48 [edit]

category: バリアントの洞窟

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Wed.

バリアントの洞窟その2  

 エセルは元・木こりの少年とフェアリーという奇妙なふたり連れに、じゃが芋をたっぷり使った朝食を出してやった後、店の名前の由来になった柘榴の描かれた看板を磨くため外に出た。
 ここはそもそも、後継者がいなかったために潰れてしまった普通の宿屋があったのだが、どういう伝手があったのか、エセルが世話になった≪狼の隠れ家≫の亭主が建物ごと土地を買い取り、エセルへ新たな冒険者の宿を経営するよう頼んだのである。
 向こう3年間は、売り上げのいくらかを≪狼の隠れ家≫に送るのだが、その後は独立採算で続けていくことになっている。
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2019/09/11 12:47 [edit]

category: バリアントの洞窟

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Wed.

バリアントの洞窟その1  

 小高い丘の上で一息ついたそばかすのある少年は、木を伐採するのに使った斧を逆さに立てて寄りかかり、ぼんやりと眼下に広がる光景を見ていた。
 森の異なる色調の緑が重なるその向こう、細くたなびく雲が幾層にも空に漂い、青い影を互いに落としこんでいる。虹等とは違い、特別に美しい現象でもないのだが、ふとした時に見惚れてしまうような魅力があった。
 少し前の地震で、重い家具を妙な体勢のまま支えようとして腰を捻った父に代わり、ここ5日間は少年が1人で木を切っている。
 その合間にできた新しい小さな友人は、まだ彼の元へ来る様子がなかった。
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2019/09/11 12:46 [edit]

category: バリアントの洞窟

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