黒幕と思われる最後の悪魔を倒した、一週間後のことである。
 サルセカを含む北方の大部分を収めているニージュ公爵から、この地に休養のため留まっている旗を掲げる爪の一行へとある書状が届いた。
 領主の館に程近いある地域に、なんと黒い竜が現れたというのである。
 ニージュ公爵は自分の騎士団をもってこれに当たらせようとしたが上手くいかず、高名な傭兵を雇い入れたものの、彼は奮闘空しく竜に敗れたという。
 やむを得ず今度は強い冒険者を探していたところ、救援要請の出ていたサルセカに、リューンでも有数の高レベル冒険者パーティが滞在していることを知ってこちらへ連絡してきたらしい。

黒竜
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2016/05/31 11:59 [edit]

category: 凍える湖城後の20の命を持つ黒龍

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 何度目かの――今日はすでに五日目に突入してる――こと、街の住民をまたもや送り届け城に戻る道すがら、テアが首を傾げる。

「しかし、人に戻る魔物と、そのまま溶けて消える魔物の違いはなんじゃろうの?」
「まさか……時間切れ、とか?」

 言っていて自分で蒼くなったシシリーだったが、テーゼンが優しくその肩を叩いて落ち着かせた。

「いや、人が変化した魔物はごく一部で、残りはそのコピーか何かだと思うぜ。あれだけの数を近隣からみんな攫ってきたなら、さすがに国が対処に動くだろうよ」
「なるほど、コピーね……でも、なんでそんなことするのかしら?」
「さてね。他の悪魔の思惑までは、分からねぇよ。中には自分の狂った規範で動く奴もいるから、あまりまともに考えない方がいい」

 第一、聞いたところで答えはしないだろうとテーゼンは心中で呟いた。
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2016/05/31 11:55 [edit]

category: 凍える湖城後の20の命を持つ黒龍

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 旗を掲げる爪は念の為に街の魔術師とも面会したのだが、三角帽子を被っている老爺は、薄暗い部屋の隅で五弦の楽器――テアによると、カンテレという撥弦楽器の一種――を爪弾いて歌っているだけで、てんで冒険者たちへ注意を払おうとしなかった。
 一応、正気に戻ったのではないかと思える瞬間もあったのだが、

「さあいつも通り、そのツボの中に素材をお入れ。お前の望むものと交換してくれるじゃろう。それで………ロヴィーサや。飯はまだかのう?」
「何で俺を見て女名を連想するんだ、爺さん」
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2016/05/31 11:51 [edit]

category: 凍える湖城後の20の命を持つ黒龍

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 元御堂騎士団の老雄が指名してきたとんでもない依頼の結末は既に述べたとおりだが、少々の情報操作とほとぼりの冷める時間を必要とした旗を掲げる爪は、北の果てにある湖城の街を訪れていた。
 ≪狼の隠れ家≫の亭主と古い知り合いだという町長から出された救援は、湖の城に現れた悪魔を退治して欲しい、というものだったのである。

「……悪魔が悪魔を殺せって、けっこう皮肉な仕事だな」

 人形のような美貌を皮肉げに歪めたのは、”森閑の悪魔”テーゼンである。

凍える湖城
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2016/05/31 11:47 [edit]

category: 凍える湖城後の20の命を持つ黒龍

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Sat.

死こそ我が喜びその6  

 マグヌス率いる”死の祝福教団”との死闘に見事勝利を収め、ラゲル村を出てから1週間。
 ようやくモーゼル卿の館に到着した冒険者たちは、入口で用件を告げ、一度通されたことのある応接間へと案内してもらう。
 待っていると、ほんの数分で少々興奮気味のモーゼル卿が部屋に入ってきた。
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2016/05/28 11:42 [edit]

category: 死こそ我が喜び

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Sat.

死こそ我が喜びその5  

「やっぱりなー!ただじゃすまないと思った!」

 そうアンジェが声をあげているのは、先ほどよりもさらに下の階層に進んだ小部屋の中である。
 階段に繋がる通路から見て左右の壁には木の扉が、奥の壁には大きな金属製の扉があり、その左右の扉から調べてみると、ドアノブという物が付いていなかったのである。
 よく見ると、扉の上方に小さな木枠が三つあり、左から赤・青・黄に塗装されていた。
 また、各木枠の下には箱が付いていて、中には各色の金属板が3枚ずつ入っている。
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2016/05/28 11:39 [edit]

category: 死こそ我が喜び

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Sat.

死こそ我が喜びその4  

 地下への階段を下りて進むと、通路が二つに分かれる小部屋に辿り着いた。
 調べてみると、最近の物と思われる多数の足跡が床に残っているのを、アンジェが確認した。
 少なくとも10名以上が、階段側の通路と、階段側から見て右側の通路を行き来したようだ。

「右か?」
「右だよ。こっち」
「ならそっちから行ってみようぜ、シリー」
「ええ」

 十数名の足跡ということは、先ほど死んだ司祭の言っていた、最初のクドラ教徒たちの探索時についたものだと考えて差し支えないだろう。
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2016/05/28 11:34 [edit]

category: 死こそ我が喜び

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Sat.

死こそ我が喜びその3  

 山中では所々、竜骨の採掘を取り仕切っているラゲルの村人に出会うこともある。
 あまり採掘場でうろつくなと言われながらも、灰色の服を着た妙な集団に関しては全員が胡散臭さを感じ取っているらしく、山の麓や奥山でよく見かけると教えてくれた。
 採掘という言葉の印象どおり、木々を剥いだような岩肌の続くエリアが奥では続くが、ここへ来るまでの過程は、今まで歩いたことのある山道とあまり変わらなかった。
 数名が証言したとおり、毒蛇が現れることもあるが、倒したら溶けて消えるようなことはない。

「普通の蛇だよな、これ」

 腰から抜いた曲刀で刺し殺した蛇の死骸を、毒がある辺りに見当をつけ、丁寧に取り除きながらロンドは言った。
 アンジェから借りた短刀で、蒲焼にできるよう下ごしらえしている。
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2016/05/28 11:30 [edit]

category: 死こそ我が喜び

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Sat.

死こそ我が喜びその2  

 北東、ラゲル村――北側には黒々とした山の稜線が広がっており、切妻屋根の立ち並ぶ集落の合間を縫うように、黄色や紫の花々が咲き乱れている。
 広場と思しき場所には、酒場と雑貨屋、それに教会が隣接している。

「思ったより広いところだね、おばあちゃん」
「そうさのう。竜骨の採掘をしているというから、もう少し荒涼とした感じを想像しておったが。この分だと、かなり過ごしやすい村のようじゃ」

 広場の規模や住居の数から考えて、村と呼称しているが、それなりに大きな集落のようだ。
 探索の途中でトラブルが起きても、ここに戻れば態勢を整え直す事ができるだろう。
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2016/05/28 11:28 [edit]

category: 死こそ我が喜び

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Sat.

死こそ我が喜びその1  

 どんぐり眼がちらりと天井際や置いてある調度品に施された細工を見て、なかなか金を持っている人だとホビットは判断した。
 彼女の目の前では、前金に銀貨3000枚、報酬自体は8000枚を用意しようとえらく景気のいい金額を提示している老人がいる。
 襟の高い黒い服は質素に見えて、実は上等の生地で作られている。
 それを気負うことなく普段着として着こなしているということは、彼にとってこの程度は贅沢の範疇にすら入っていないということだろう。
 長く伸びた白髪もよく手入れされており、もつれや汚れとは無縁であることが分かる。
 ただ、80歳の声を聞こうかという年齢でありながら、なおかつその佇まいに隙はない。

死こそ喜び
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2016/05/28 11:23 [edit]

category: 死こそ我が喜び

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 こんにちは、Leeffesです。
 ご飯の店シナリオがまだテストプレイ中ですが、そちらより先に手をつけていてなかなか出来上がらなかったシナリオです。
 街というには小規模だし依頼もないのですが、最近買ったタジン鍋につられて作りました。
 モロッコ、いいですね。蒸し料理だからとってもヘルシーかと思いきや、デザートやお茶に使う砂糖の量が半端ないので、結構食習慣真似すると太るかもしれない…でもおいしい。
 かなり昔に作った香水技能の、今度は精神適正などを置いてたり、筋力適正の狙撃銃スキルとかもあります。

 ご飯のお店でご助言くださった素材作者さんや、他にもたくさんの方の素材を使わせていただきました。
 毎度ながら、カード絵をご提供くださっている作者様方には篤くお礼を申し上げます。
 また時間のあるやさしいご奇特なテストプレイヤー様がおられましたら、どうぞお付き合いよろしくお願いします。

 小さな砂漠の集落に(Next版)

2016年6月15日をもって、Ver1.00として完成版といたします。
テストプレイにご協力いただきました皆様、ご自分のシナリオフォルダにダウンロードしてくださった皆様。
同じ砂漠でもアローラに比べるとかなり小さい街ですが、遊んで下さってありがとうございました!
モロッコ系統はアラビアとは違うんだけどなあ……。

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2016/05/25 12:17 [edit]

category: シナリオ

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Wed.

常夜の街その5  

 一日中、太陽の昇らない街――。
 そんな寒々しさの中でずっと暮らしてきたその人にとって、”陽の光”などと言うものは、もはや物語の中のものに過ぎなかった。
 今まで夢見てきた、あの城での生活のように――いや、それも、ローザがヴァルプスギス伯爵家に嫁ぐまでのことだった。
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2016/05/18 12:06 [edit]

category: 常夜の街

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Wed.

常夜の街その4  

「また来て悪いんだけどさ」

 けろっとした様子で伯爵に切り出したのは、テーゼンである。
 旗を掲げる爪は、また月下の道を歩んでこの謁見のままで通されていた。
 さすがに一日に二度もやって来た客人に、扉を開けて応対した老人も訝しい顔になっていたが、彼にどう思われようと、自分たちが今抱えている依頼を放り出すわけにはいかない。
 そんな気負いが分かっているのかいないのか、テーゼンは平然とマリアの腕を掴み、自分の前へ引っ張り出した。

「わっ、っとと……」
「街の住民たちは、本当にアンタ以外の領主は欲しくないらしいんだ。アンタが”渇ききる”前に、こっちの子を奥さんにして、血を供給してくれって言うのが総意。住民の総意を頭から無視するのは、さすがに良くないんじゃねえの?僕が言うのもなんだけどさ」

 伯爵はあまり表情を変えてはいないが、その雰囲気は……あえて言うなら、困惑していた。
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2016/05/18 12:02 [edit]

category: 常夜の街

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Wed.

常夜の街その3  

 吸血鬼への”変化”により尖った耳、暗い中でも冴え冴えとした光を放つ金髪、血の気のないというよりは青ざめたような白皙の美貌――何より、哀しげな色を湛えた緑の瞳。
 家臣による取次ぎで謁見の間で面会したエメリッヒ・フォン・ヴァルプルギスは、色んな人に出会うことの多い冒険者稼業でも、そうそうお目にかかることのない麗しさを具えていた。

「さて、今日はどのような用向きかな?」

とこちらに問いかける声も、月の雫を絞り出したように不思議な響きを伴って耳に入ってくる。
 ウィルバーは賢者の搭で仕込まれた正式な礼を取りながら、

「マリアという娘を花嫁として連れて参りました。我々はその付添です」

と、返答をする。
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2016/05/18 11:59 [edit]

category: 常夜の街

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Wed.

常夜の街その2  

 常夜の街では、三日月が仄かな光を道に落としていた。
 リューンのような石畳ではないが、躓くと怪我をしてしまいそうな小石やごみなどは落ちていない。
 ざっと回ったところ、極端な貧民街なども見られず、統治の行き届いた都市だという印象を受ける。
 木とレンガで造られた家々が立ち並ぶ中、はしこいアンジェの双眸が、”宿屋”を示すベッドとカップが描かれた錬鉄製の看板を見つけた。

「めっけ!」
「えらいえらい」

 武骨で大きな手が、アンジェの頭をそっと撫でる。
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2016/05/18 11:56 [edit]

category: 常夜の街

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Wed.

常夜の街その1  

 いつも無愛想極まりない顔を、にっこにこと緩ませながら新たに購入した防具を手入れするロンドを見て、アンジェが年不相応に深いため息をついた。

「新しい鎧がよっぽど嬉しかったんだねえ、兄ちゃんてば」
「そうね。私も彼に貸していた盾が返って来たのは嬉しいんだけど……あの顔はないわ」

 騎兵用の凧型の盾を自分が座る椅子に立てかけたシシリーが、やや半眼になりながらコメントする。
 先輩冒険者からのアドバイスで、手ごろな値段で効果の高い防具を売っているという魔法品物店を教えてもらい、ロンドがかねてより欲しいと熱望していた鎧を買ってきた。

常夜



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2016/05/18 11:51 [edit]

category: 常夜の街

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 こんにちは、Leeffesです。
 現在、とある街シナリオを製作中なのですが、まだまだ完成に遠く愚痴っていたところ、某素材作者様よりアドバイスをいただきましたので、食べ物だけのお店を気軽に作ってみました。
 街の方は現実にある所を舞台にして作っているので、こっちは小さいころ夢中になって読んだ冒険小説などのご飯です。
 一部推理小説が混ざってるって?仕様です。

 ”おかしなお菓子の店”の時だって枯れ葉通りに作ったんですが、今度もあのストリートに。
 もしかしたらあそこ、カフェ系の店が案外多いのかもしれない。
 また時間のあるやさしいご奇特なテストプレイヤー様がおられましたら、どうぞお付き合いよろしくお願いします。

 枯れ葉通りの食料品店

2016年6月22日をもって、Ver1.00として完成版といたします。
テストプレイにご協力いただきました皆様、ご自分のシナリオフォルダにダウンロードしてくださった皆様。
いい物語とご飯は切っても切り離せないとゆー個人的な思いから作っただけのシナリオではありますが、遊んで下さってありがとうございました!
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2016/05/16 12:40 [edit]

category: シナリオ

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Sun.

くろがねのファンタズマその7  

 通路を通り抜けると――蒼い闇が満ちる、広い空間に出た。
 そこは、古代文明の残した様々な機構が天井や床を這う独特の部屋であり――同時に、この魔列車の全ての機能が集約されていることを感じさせる、まさに「中枢」であった。
 ミカの体がよろける。

(……な、なんという魔力――)

 例え魔法の才がほとんどない者でも、その蒼い闇に滞空する圧倒的な魔力を感じるほどに。
 この場所は、何かが”はじまる”気配に満ちていた。
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2016/05/15 12:49 [edit]

category: くろがねのファンタズマ

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Sun.

くろがねのファンタズマその6  

 壁を埋め尽くしているはずの本棚が倒壊した車両の中、次の車両へ続く出口を塞いでいる瓦解した棚が冒険者たちの進行を邪魔していたのだが――。

「えいっ!」
「みんなっ、伏せて!」

 シシリーが勢いよく投げつけた火晶石によって生まれた爆炎が、大量の書物を飲み込む。
 粉塵と化した本が吹っ飛び、新たに進むべき道が開かれた。
 そんな混沌とした中で、ウィルバーは一冊の本を拾い上げ、凍りついたように固まっている。
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2016/05/15 12:47 [edit]

category: くろがねのファンタズマ

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Sun.

くろがねのファンタズマその5  

 ミカが目を開いた時、人形のように整った綺麗な顔がこちらを覗き込んでいた。

「ミカ。意識が戻ったのかい」
「あ……」

 滅多にない近距離で異性に見られていることに羞恥を覚え、ミカは仄かな血の色――それすらもかなり淡いものであったが――を頬に浮かべて、それを誤魔化すようにつっかえながら言った。

「夢を……見ていました。みんなと…知り合った頃の夢を」
「夢……じゃあ、記憶が戻ってきてるんだな?」
「はい。まだ、思い出せないことも多いけど――」
「起き上がるか?無理はすんなよ」
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2016/05/15 12:45 [edit]

category: くろがねのファンタズマ

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Sun.

くろがねのファンタズマその4  

 常緑樹の輝きのように美しい緑の光が満たされているキューブをつまみ上げ、

「綺麗だな」

とテーゼンは歎息した。
 今は談話室と前方車両を繋ぐ通路の間に移動している。
 さらさらと草原を渉る風のような音を立てて、キューブに注がれた旗を掲げる爪の冒険の思い出は、リューンの草原の色にも、≪狼の隠れ家≫近くの並木道の色にも似ているように思われた。
 風に揺れる緑の景色は、懐かしい故郷のようでもあり、旅路で見慣れた日常のようでもある。

「親父さんによく使いを頼まれる道が、ちょうどこんな木立でよ」
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2016/05/15 12:43 [edit]

category: くろがねのファンタズマ

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Sun.

くろがねのファンタズマその3  

 客室にわだかまっていた悪霊たちを、神聖な光を放つ聖印の力で怯ませて振り切った冒険者たちは、貨物車の中で聖水や火晶石、鉄道会社が乗務員に支給する身分保証のカードなどを見つけた。
 聖水の瓶をお手玉のようにひょいっと投げ、危なげなく受け止めたアンジェがにやりと笑う。

「結構良い物あったね」
「だよなー。何とかこれで、僕らがレオランまで来た交通費くらいは元が取れる……はずだ」
「このカード……IDカード、だっけ?どこかで使えるのかしらね」
「持っておいて損はないと思いますよ。乗客側では出入りできない所に私たちが入り込む時などがあれば、これが鍵になってくれるはずです」

 亡霊列車にいるというのに、賑やかな一行である。
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2016/05/15 12:40 [edit]

category: くろがねのファンタズマ

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Sun.

くろがねのファンタズマその2  

 シシリーは一角に現れた虫を注視していた。
 記憶がなくなったはずのミカが、何を感知したのか唇をわななかせて一方を見た時、そこから空間を掻き分けるようにして現れた蜘蛛である。
 ウィルバーは油断なく杖を構えながら、竜の牙の焦点具の波動を感じ取った。

「いいえ。ただの蜘蛛ではない。魔力を纏っていますね――これは“使い魔”です…!」

 ミカを除いて全員に緊張が走る。
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2016/05/15 12:37 [edit]

category: くろがねのファンタズマ

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Sun.

くろがねのファンタズマその1  

 心細そうな背中だった。
 様々な人種(時に異種族)が集う冒険者の店の中でも、ひときわ華奢な印象の強い背中――≪狼の隠れ家≫に最近加わった新米魔術師だ。
 軽いはずの木の匙すら持て余すように、ゆっくりとミルク粥を掬っている。
 酒場の窓から差し込む陽光や、冒険者が連れている光の精霊の明かりなどが、彼女の赤毛をまるで磨き上げた赤銅のように輝かせているのに、その顔色は一向に冴えなかった。

(寂しそうだわ)

 そう思った。

くろがね
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2016/05/15 12:34 [edit]

category: くろがねのファンタズマ

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Thu.

宿の地下の怪その4  

 ”開かずの間”と伝えられた部屋は、泥濘のような闇と静寂に覆われていた。

「アンジェ!どこにいるのよ」

 シシリーは一同の先頭に立って、十数年来の付き合いの子の姿を求めた。
 仲の良い相手のこと、こうやって呼べばどんな状態でも返事だけは返すはずなのだが、一向に子どもらしいあどけない声が出てこない。
 その代わり、ごとりと何かが身じろぎした音がする。

「アンジェ?」
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2016/05/12 12:31 [edit]

category: 宿の地下の怪

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Thu.

宿の地下の怪その3  

 浮かんでいたゲートが跡形もなく消滅し、床に転がっていた荷物袋を無事に回収し終えたシシリーたちは、ランプさんに照らしてもらいつつ毛生え薬探しを再開した。
 だが、一向に見つかる気配が無い。

「ここはハズレだな……」

 高いところを覗き込んでいたロンドが、首を回して結論を出した。
 丁寧に箱を開けたり閉めたりして捜していたウィルバーは、木箱の一つにどっかりと腰をおろして、それなりに長い脚を組む。
 そうして、おもむろに口を開いた。
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2016/05/12 12:29 [edit]

category: 宿の地下の怪

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Thu.

宿の地下の怪その2  

「やれやれ、結局ネズミ退治をすることになっちまった」

 捜索の済んだ部屋の中を見渡して、テーゼンが愚痴った。
 あれほど翼を齧られつつもネズミが出てこないよう頑張って、やっと状況を打破できそうな仲間に攻撃魔法を使ってもらった(しかもギリギリで自分が避けた)というのに。
 愚痴の一つや二つ、出ようというものである。
 しかも、ネズミを一掃した後で毛生え薬の瓶を捜してみたのだが、やはりここにもないようである。
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2016/05/12 12:26 [edit]

category: 宿の地下の怪

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Thu.

宿の地下の怪その1  

 その日、漁師町のシーサイドベッドから戻った旗を掲げる爪のリーダー、シシリーが一番遅くに起きたのはただの偶然だった。
 同室のアンジェとテアはとっくに起きた後のようで、ベッドの上の寝具は綺麗に畳まれている。
 いつにない遅れに多少の気恥ずかしさを感じながら、シシリーもいつもの通りに寝台を整え、顔を備え付けの洗面道具で洗った。
 塩で歯を磨きながら、外の天気を窓から確認する。
 晴天とも曇天とも言いかねる、微妙な天気だ――今日はあまり外出したくないな、とシシリーは思った。

宿の地下
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2016/05/12 12:21 [edit]

category: 宿の地下の怪

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Mon.

ウニ退治後の夏の休日その3  

 翌日。
 『依頼が済んだら海で遊ぼう』という約束どおり、町長の口利きで料亭のお昼を食べ終わった旗を掲げる爪は、海岸にまた来ていた。
 まだ季節が早いので少々寒いものの、本格的なバカンスの時期になったらここはきっと芋を洗うような状態になるだろうから、堪能できるのは今のうちである。
 潮風で錆びたら困るということで、本日は武具を宿に置いてきてある。

夏の休日
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2016/05/09 12:17 [edit]

category: ウニ退治後の夏の休日

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Mon.

ウニ退治後の夏の休日その2  

 波の打ち寄せる音、細かな砂の続く浜辺、そして……そこには、大量のウニが蠢いていた。

「おい!」
「落ち着け、ロンド殿。…にしても、なんじゃこの量は」

 老婆は呆れたように首を振った。
 ウニモドキは鳴くこともなく、浜辺に鎮座してたまにピクッと動く程度だ。
 正直、薄気味悪いとしか言えない。
 シシリーの口の端が引きつっている。
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2016/05/09 12:14 [edit]

category: ウニ退治後の夏の休日

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