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Sat.

甘いものもシナリオでどうにか  

 Leeffesです。
 まだオランジェルのテストプレイは終わってませんが、今のうちにこっちもアップ。
 21日には載せてたんですが、時間がなくて今記事更新しました。
 お菓子とお酒販売です。イベントや分岐はありません。
 お時間がある方や、お優しい方などいらっしゃいましたら、またテストプレイお付き合いお願いします。


 菓蜜工房へようこそ


 2013年8月1日をもって、Ver1.00として完成版といたします。
 テストプレイにご協力いただきました皆様、ご自分のシナリオフォルダにダウンロードしてくださった皆様。
 悲しいダイエット時期、本当に誰が楽しんでくれるのだろう・・・と不安でしたが、思いもかけず多くの方に遊んでいただき感謝いたしております。
 最後までお付き合いくださり、まことにありがとうございました。
 2013年8月13日にギルドへ投稿いたしました。
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2013/05/25 17:20 [edit]

category: シナリオ

tb: --   cm: 3

Sat.

そしてシナリオができていく  

 Leeffesです。
 リプレイ完結記念とはまったく関係無しに、テスト版村シナリオを作ってみました。
 錬金術、細剣技、防具、それから探索アイテムがちょこちょこと。
 イベントというにはささやかな戦闘もちょっとだけ。
 お時間がある方や、お優しい方などいらっしゃいましたら、またテストプレイお付き合いお願いします。


 落日の村オランジェル

 2013年8月13日をもって、Ver1.00として完成版といたします。
 テストプレイにご協力いただきました皆様、ご自分のシナリオフォルダにダウンロードしてくださった皆様、初めての街シナリオにおいて貴重なご意見ご鞭撻、ありがとうございます。
 とても偉大な先達には適わないちっぽけな村ではありますが、少しでも楽しんでいただけたのでしたら幸いです。
 最後までお付き合いくださり、まことにありがとうございました。







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2013/05/18 20:48 [edit]

category: シナリオ

tb: --   cm: 6

Thu.

おしまいによせて  

alibg-2.jpg


・・・・・・なんてタイトルにしながら、今のところ書くべきことを何も思いつきません。
なので、上のありさん背景素材(MainSt,5-77-3様)をご覧いただきながら、下記の曲を聞いていただければ”金狼の牙”たちのいいエンディングになるんじゃないかと思います。
ちなみに脳内設定で揚げじゃがはエセルがギルのために作った奴になっています。






こっそりと続きに「悪魔の書(gulafu様作)」による内部数値暴露をつけました。
こんな低い数値の冒険者でも、ちゃんと敵意の雨クリアできるんですよ・・・!

2013/05/16 01:24 [edit]

category: 未分類

tb: --   cm: 6

Thu.

敵意の雨 13  

 翌日の正午、一行は寝ぼけ眼をこすりつつ支度を整えると、宿のチェックアウトを済ませてシアノス商会の本部へと向かった。

「し、失礼します!」

敵意43

「よう、ダニー。やっぱりお前さんが来たんだな」

 軽い調子で挨拶するエディンや周りに座っている面々を見て、ダニーはがくがくと震えながら言葉を搾り出した。

「み、皆さん・・・・・・!?受付の姉ちゃんから話を聞いて、飛んできたんですが・・・・・・どうやってこんな短時間で島からここまで?」
「あー、うん、実はさー」

 ギルはダニーに島での出来事をありのまま話した。
 ”漆黒の鳳凰””蒼い毒蛇””白銀の狂犬”のこと。魔王ディアーゼのこと。暗黒邪竜のこと。そして、その他諸々・・・・・・。

「たっ・・・・・・たったの1日で!?」
「ああ。これが証拠だ」

 普段は斧を掴む無骨な手が、ダニーに邪竜の鱗を渡す。
 まさかという気持ちと信じられないという気持ちでどもるダニーに、ジーニが邪竜の鱗であることを言い添える。
 鑑定のため、と応接間に待たされたまま鱗を別室に持っていかれて、約20分。間違いなく本物と商会が確認したことを、ダニーが伝えに来てくれた。

「よかった。信じてもらえなかったらどうしようと思っていたところです」
「いえ、他の連中はともかく、俺は皆さんを疑うようなことは・・・・・・と、忘れるところだった。今すぐ報酬を持ってきます」
「慌てなくていいぜ。別に急いでねえからよ」

 ソファの肘掛に行儀悪く片肘をついたエディンがのんびり笑ったが、ダニーはとんでもないといった調子で首を横に振った。

「そういうわけにもいきません。では、すぐ戻ってきますんで」

 やがて、ダニーを含めた商会の人間4人がかりで抱えてきたものは、しっかりした作りの宝箱であった。
 ぐおおおおの、重い・・・・・・だの、口々に呻きながら、どうにか彼らは応接間の堅牢なテーブルに箱を乗せる事に成功した。もし失敗していたら、挟まれた指なり何なりはきっと骨折していたことだろう。

「今回の報酬です。現物支給で申し訳ないんですが・・・・・・」

と言いながらダニーが蓋を開く。
 燦々とした光を放つ本物の金銀財宝が、そこにみっしりと詰まっていた。思わずエディンが「ヒュウ――」と口笛を吹く。
 ついいつもの癖で品定めをしたエディンは、

「金、銀、宝石、指輪、首飾り・・・・・・。どれも本物だな。確かに全部売却すれば、丁度10000spになると思うぜ」

敵意44

と、最後のアクセサリーを箱に戻して言った。

「てっきり、現金でもらえるものと思ってましたが」
「すいません・・・・・・。まさか、1日で帰ってくるとは夢にも思わなかったものですから、現金で10000spはすぐにご用意できなかったんです」

 小首を傾げたアウロラに、ダニーがそういいながら頭を掻く。
 ミナスはにこりと笑った。

「まあ、そりゃそうだよね。アレク、もてる?」
「ちょ、ちょっと。男4人がかりでやっと持てる箱なんですよ?いくらアレクシスさんでも――」
「余裕」

敵意45

「アレクはん、やりますな~。さすがわての相棒ですわ!」
「さっすがー!僕も大きくなったらやってみたいな~」
「げげんちょ!?」

 目を丸くするダニーの目の前で、アレクは片手で宝箱を持ち上げてみせ、トールとミナスが無邪気に手を叩いて喜んだ。
 ・・・・・・ダニーは知らないだろうが、アレクはジーニが錬金術により作り出した≪魔鋼の篭手≫をつけるようになってから、とんでもなく筋力が向上したのである。
 それは常識では考えられないほどに重い篭手を装着し、無事に戦い抜いてきたことによる当然の結果であったのだが、それを知らないダニーは期せずして、ジュビアがジーニを見つめたような目で彼を眺めることとなった。

「さて、長居も無用だし、そろそろお暇しようかな」
「え・・・・・・も、もうですか?もうちょっと、ゆっくりしていかれたらどうです?まだお茶も出してないし・・・・・・」
「気遣いは不要さ」

 重い宝箱を抱えたまま、ふわりと神々しい美貌でアレクが笑う。・・・・・・やはりこうして見ると確かに化け物の範疇なのかもしれない。

「用もないのにいつまでも居座っては、邪魔だろうし」
「そうですか・・・・・・。皆さんがそう仰るのなら」

 律儀な性格と言うか、ダニーは玄関先まできっちりと冒険者たちを見送ってくれた。

「今回は本当にありがとうございました。また何かありましたら、その時は是非宜しくお願いします」
「ああ。その時があれば――な」

 ギルが最後の握手を交わす。
 その時、先に行こうとしていたジーニが、何かに気づいたように引き返してきた。

「そうだダニー。一つ頼まれてくれない?」
「何でしょう?皆さんの頼みとあらばなんでも」
「”これ”を商会の会長さんに渡してほしいんだけどー」

 彼女が差し出したのは、木製の可愛らしい小箱であった。

「まあ、平たく言えば”挨拶”代わりかしら。今回いい仕事をもらったから、これからも御贔屓に――ってことで」
「挨拶・・・・・・ですか?あんなクソジジ・・・・・・ゲフンゲフン!あー・・・・・・あの方には別に必要ないんじゃないですかね」
「いいの。この先、商会はあたしたちにとっていいクライアントになるかもしれないしね」

 そうまで言われては、例え会長が気に入らない性格をしているとはいえ、断るわけにはいかない。
 ダニーは責任を持って会長に渡すと約束してくれた。
 ”金狼の牙”たちがエルリースの雑踏に紛れていくのを見守りながら手を振っていたダニーは、ぼそっと呟いた。

「決めた・・・・・・!こんな商会やめて、冒険者に戻ろう・・・・・・!」

 ・・・商会を飛び出した一行の中で、先頭を歩いていたギルが言う。

「今回は、久々にキツいヤマだったな」
「全くです。普通の人間なら、確実に全滅ものですよ……」
「大丈夫、大丈夫。そもそも普通の奴らなら、ディアーゼに目をつけられること自体ないから」

 けらけらと明るい笑い声を立てたジーニが、そう言ってアウロラの背中を叩いた。
 空中に漂うシルフィードたちを目で追っていたミナスは、彼女たちが北の方角へと流れていったのを見送ってから仲間たちに問いかける。

「さて……これからどこに行く?アレトゥーザ?フォーチュン=ベル?それとも、ポートリオン?」
「う~ん……とりあえず、キーレとペテンザムはパスだな。向こう1、2ヶ月は戦いとは無縁の生活を送りてえしな」
「同感ね。しばらく戦いはコリゴリだわ」

 大人組の慨嘆に、けろっとした顔でアレクが応じた。

「そうか?俺はまだまだ、闘り足りない気がするが」
「……あなたって、本当に底無しの体力ですね」
「素直に褒め言葉と受け取っていいのかどうか微妙だな……」

 幼馴染と緋色の髪の娘の会話が終わった頃を見計らい、ギルはキラキラとした目を向けて口を開く。

「なあ――久しぶりにリューンに帰らないか?」
「リューンに?」
「もう長い間≪狼の隠れ家≫に帰ってないし――」
「エセルの顔を見てないから寂しくなったんでしょ、アンタ」

 間髪いれずまぜっかえしたジーニの言葉に、ギルは真っ赤になって彼女を追い回す。
 たちまち仲間たちから離れ始めた二人を、顔を見合わせたミナスとアウロラが走って追いかけ始めた。

「ほら、お前さんも急げよ」

 エディンが宝箱を抱えたままのアレクに笑いかけ、あっという間に彼を置いていく。

「おい、みんな・・・・・・・・・人に荷物押しつけといてそれはないだろうがああああ!!」
「いやー、アレクはん。怒鳴ってないではよ追いかけんと、ホンマに置いて行かれますで?」
「トール!!もう、あいつらが治療頼んできたら断ってやれ!!」

 半ば本気で叫びつつ、澄み渡った青空の下、アレクもまた仲間の後を追いかけた。

「待てって言ってるだろおおお!!」

 ――その日の夕方。
 シアノス商会会長は、カエルに例えられそうな異相を不機嫌に歪め、イライラと机を指で叩いていた。卓上の書類が片付く様子はない。

(全く・・・・・・ディアーゼのやつめ。あれだけでかい口を叩いておいて、負けていては笑い話にもならんわ。)
(これでやっと、目障りな”金狼の牙”を消せると思ったのに・・・・・・。)
(やつらのせいで、わしの裏の商売がどれだけ損失を被ったことか!)
(いい取引相手だった奴隷商人や悪徳貴族――皆、奴らのせいで死んだかブタ箱行きじゃ!ああ、思い出しただけで腹が立つ!!)

 暫くは身を震わせる怒りに思考を任せていたのだが、彼は商売人である。やがて冷静さを取り戻すと、書類を掴んでサインを書き始めた。

「それにしても・・・・・・”金狼の牙”の連中め、一体何をよこしてきたんじゃ?」

 彼の脂ぎった視線の先には、律儀なダニーが会長宛にきちんと届けた例の小箱があった。
 彼の話では、会長への挨拶代わりということだが・・・・・・。

「とにかく開けてみるか」

 鍵が特についている様子もない。すっと蓋を開くと、そこに入っていたのはカラーダイヤのついた装飾品であった。

「ほう・・・・・・!」

敵意46

 目の肥えた彼にもよく分かる、高価で華麗でありながら、決してごてごてとはしていない極上品のアクセサリー。

「これはなかなか上等な装飾品ではないか!今まで星の数ほどの品を見てきたが、これほどの物はそうそうなかったぞ!」

 たちまち上機嫌になった会長は哄笑する。

「奴らも、少しは見る目があるようじゃな!わしに媚を売っておくのが吉と思ったか!だが、無駄なことじゃな!お前らを消そうという意志は変わらぬわ!ふははははははははは!!」

 きらり、とシャンデリアの明かりを反射する装飾品に、ふと彼は目を細めた。
 これはどこかで見たことがあるような・・・・・・?

「はて、どこだったか・・・・・・」

 それほど昔のことではない。つい最近に誰かが身につけていた――。

「あ」

 ディアーゼの、耳飾り。
 そう、決して知られてはいけない『あの取引』の時に彼が身に着けていた、あのイヤリングと同じものではないか――!?
 狼狽した会長がうわごとのように呟く。

「これは、まさか――ま、まずい」

 これを彼らが寄越してきたということは、あの”金狼の牙”たちはディアーゼと商会の繋がりを知っているぞ、ということだ。
 泡を食ったように会長室の中を走り回る会長は、心臓の辺りを押さえながら必死に自分を落ち着かせていた。

「いや待て・・・・・・!落ち着け・・・・・・落ち着け・・・・・・!いくら巷で英雄だの勇者だのと持て囃されてはいても、所詮は冒険者よ・・・・・・!」

 もともとの冒険者の社会的地位は、さして高くない。貴族や聖職者の後見がいない冒険者パーティであれば、その立場の頼りなさは尚更であろう。
 ・・・・・・ただ、”金狼の牙”はランプトン卿やウェルブルク王国のソフィア殿下、高名な魔道師ファラン・ディトニクス令嬢のルーシー、はては聖風教会などにまで伝手があったりするのだが、会長はそこまで彼らを調査したことはなかった。

「それに比べてわしはどうじゃ?エルリースで絶対的な権限を持つ『シアノス商会』のドン――他国の富豪や貴族にも顔が利く」

 会長は断じる。そんな自分を所詮いち冒険者に過ぎない”金狼の牙”が殺せば、ただではすまないだろうと。
 そうして自分を安心させ、徐々に血の色を室内へ満たしていく夕焼けに照らされながら笑っていると・・・・・・。

「うるせえなあ。3歳児みたいに騒いでんじゃねえよ」
「!!!!?」
「はじめまして、だな?会長さんよ」

 すらりとした長身を窓から部屋へ滑り込ませた男は、眠たげな目で見やった。

「何じゃ貴様は!誰の許しを得て入った!!衛兵、衛兵!!不審者が侵入しとるぞ、さっさと摘み出せ!いや、八つ裂きに・・・・・・!!」
「あ、呼んでも誰も来ねえぞ」

 けろっとした顔で男は言った。

「今、この建物にいる奴はてめえを除いて、皆ぐっすり寝てるからよ」

 蒼い装飾を施された美しい短剣を取り出し、ぺたぺたと手の平を叩きながら彼は続ける。

「少なくとも、あと3時間は目が覚めないんじゃねえかな」
「ななななななななななななな・・・・・・!き、貴様は何者じゃ!?何が目的だ!!?」
「カースト最下層で浮浪者や奴隷にも劣るチンピラでございます」
「ま、まさか”金狼の牙”の・・・・・・」

 彼は僅かに口角を吊り上げたようだった。

「その通り。そして用件は――」

 エディンはゆっくりと≪スワローナイフ≫を構えた。

「言わなくてもわかるだろ?俺たちは――依頼人の裏切りを絶対に許さねえ」

敵意48

 ――この後、シアノス商会会長がどうなったかを語る必要はあるまい。
 ただ、方々にまで出没しては色んな依頼を受けていた”金狼の牙”は――今回の件の後にリューンの常宿に帰還し、また管を巻いているということだ。

※≪邪竜の盾≫≪財宝入りの箱≫≪銀の聖印≫≪魔法薬の瓶≫※
--------------------------------------------------------

■後書きまたは言い訳

65回目のお仕事は、JJさんのシナリオで敵意の雨でした。あの恐ろしい長編リプレイ「satan(leaderさん作)」と並ぶ13章構成、リプレイのテキストデータサイズは驚きの93KB。・・・予め戦闘が多いのは分かりきっていたので、あえて削れるシーンは削ってこれでしたから・・・泣くかと思いました。
狂犬を襲ったヴァンパイヤロードの動きだとか、ジュビアの過去話などはPC視点ではないため載せませんでした(オープニングのみは、あれがないと物語の格好がつかないので入れてあります)が、そのために分かりづらいお話になっていたら申し訳ありません。特に作者様。でも、こういう緊迫した高レベル用ストーリーがお好きだという方にはとっても面白いシナリオだと思いますので、是非オススメさせていただきます。
私も、リプレイ書きつつプレイしていたので途中で意識が朦朧としておりましたが、苦労した分だけやり応えがあり、非常に楽しませてもらいました。
本編自体のクロスオーバーと、私がちょこちょこ個人的にいれたクロスオーバーが混じっておりますが、どこからどこまでが本編なのかをお確かめいただくのも一興かもしれません。
ついでに、今までギルの二つ名は思いついてはいたのですが、誰も呼ぶ機会がなかったので、このシナリオの冒頭で後輩たちからそう呼ばれて恐れられていることにしました。由来は彼の所持スキルに【破邪の暴風】【暴風の轟刃】【風割り】と、嵐のように戦う技が多いことから。

あ、そうそう。暗黒邪竜を「精神平和適性の高いPCによる神聖属性攻撃で弱らせる」ことをせずに倒すと、邪竜のでっかい鱗がボーナスとしていただけます。こんな感じに。
 ↓↓↓

敵意おまけ
邪竜の特殊能力にするか、鱗を使った技能配布の盾にするかが選択可能です。
うちはギルのための盾にして持たせることにしました。すごいアイテムがもらえたよ、ばんざーい!


前々から予告していた通り、これが”金狼の牙”のラストミッションとなります。
この後、ミナスが青藍渓流のお母さんと再会したり、エセルとギルでアレトゥーザ向かったり、キーレでアレクが今回知った顔に再会したり、大人組みがのんべんだらりと同棲始めてみたり、アウロラが小さな小屋で後輩のために呪歌の販売を始めたりするわけですが――皆、また気が変わって冒険に出ることもあるかもしれません。
もし自分に時間があり、「”金狼の牙”でこのシナリオのリプレイ読みたかったのに・・・!」などと言うお声があれば、もしかしたら番外編として考えるかも? クリアしてるやつだったら・・・。
その時はまた、寛大なお気持ちで迎えてくださるとありがたいです。
リプレイをご覧になってくださった皆々様方、誤字の多いつたないリプレイにお付き合いをいただき真にありがとうございました。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/05/16 00:40 [edit]

category: 敵意の雨

tb: --   cm: 3

Thu.

敵意の雨 12  

 夜明けが近い。
 女はたった一人でその墓を作った。
 粗末な墓標である――到底、この下に眠る骸が、魔界でそれと知られたデーモンロードだ等と気づく者はおるまい。
 慈母のような声で何事かを墓の下へ囁いていた女は、ふと口を噤んでから振り返った。

「気を遣ってくれなくてもいいのよ、ギルバート」

敵意40

「・・・・・・気づいていたか。このまま黙って立ち去ろうと思ってたんだが」

 ジュビアは僅かに口角を上げる。

「心遣いありがとう。・・・・・・で、邪竜は倒したの?」
「ああ。ほら、この通りだ」

 そう言ってギルは、暗黒邪竜の死体から削り取った鱗をジュビアに差し出した。

「これは間違いなく奴の鱗だわ!信じられない・・・・・・!私たちや”鳳凰”たちとやり合った後だというのに・・・・・・」
「まあ、それだけ激しい戦いを繰り返したものだから、もうボロボロだがな」

 アレクの肩の上で、そのボロボロになったはずの”金狼の牙”たちを癒し続けてぐったりした雪精がピースサインを出したが、ジュビアにそれが見えたかどうかは定かではない。
 にやりと人の悪い笑い方をしてみせたジーニが、からかうように言った。

「今なら、あなたでも倒せるかもよ?」
「ふっ・・・・・・よく言うわ。仮にあなたの言うことが本当だとしても、そんなハイエナみたいなマネはしたくない」
「あっそ」
「でも・・・・・・あなた達はいつか私が倒すわ。負けっぱなしでは終われない」
「ふっ・・・・・・。やはりお前は生粋の戦士だな」

敵意41

 アレクの言葉に、彼女は「単純なだけよ」とだけ返した。

「さて。じゃあ帰るとしましょうか」
「だね」

 錬金術を使う賢者の言葉に、エルフの少年が首肯する。
 彼らの台詞に驚いたジュビアは、まだ船が来ないのにどうやって帰るつもりかと問いただしたが、ジーニは事も無げに答えた。

「何言ってるの。飛んで帰るに決まってるじゃない」
「飛んで・・・・・・・・・?」

 ちょっと昔のこと。
 雷神に仕えるものと風神に仕えるものの間で争いがあった依頼で、”金狼の牙”たちは風の司祭からリューンの常宿まで魔法で飛ばされたことがある。
 ジーニが最近になってようやく開発したのは、その応用を使った特殊な風による瞬間転移魔法であった。

「よほどのことがない限りはやりたくないんだけどね~。尋常じゃないくらい疲れちゃうから」
「そんな魔法まで使えるの、あんた・・・・・・?」

 ほら並べ並べと仲間に指図したジーニは、ジュビアから化け物を見るような目で見られて、ちょっとだけ心にダメージを負った。

「ジュビア。お前はどうする?何だったら一緒に帰るか?」
「え・・・・・・」

 何でもなさそうに言うアレクの肩に肘を乗せ(アレクのほうが背が高いので、少々難しそうだったが)、ギルもにひゃっと気の抜けるような笑いをする。

「別に6人でも7人でも一緒だしな」
「・・・・・・申し出はありがたいけど、私はいいわ。この島でまだやることがあるし」
「そうか」

 アレクは小さく頷くと、懐に疲れきった相棒をしまった。

「お疲れさん、トール。超過勤務させてすまなかったな」
「ほんまハードでしたわ~、今回は。・・・でも、皆を信じていたさかい」

 体長15cmという小さな精霊は、強面の造作を柔らかなものに変えて笑った。
 それは、宿主と定めた青年への信頼と愛情に溢れている。
 それに気づいたアレクは、もう一度彼の頭を人差し指で撫でて労った後、彫刻によく例えられる白皙の美貌をジュビアに向けた。

「じゃあな。次会うときまでに腕を磨いておけよ」
「言われなくても。・・・・・・あんた達こそ、油断しすぎて足元救われないようにね」
「ああ」

 それは魔族であるジュビアなりの、激励の言葉だったのに違いない。
 いつもなら他人に偉そうな態度を取られるとむっとするジーニが、正確にその意を汲んで別れの言葉を告げた。

「よく肝に銘じておくわ。・・・・・・じゃあね」

敵意42

 風が彼女とその仲間たちを取り巻き、徐々にその嵐のような回転を早めていく。
 ジュビアが見守る中で、やがて風は光となり――空へと立ち昇ると”金狼の牙”たちの姿もそこにはなかった。

「さて――島を出る前に、もう一仕事していこうかしら」

 この言葉の後、実際にどんなことがあったかを見守っていた者はいない。
 だから、竜の島に突然できた墓標の群れ――それらを作り、魔物や人間の別なく埋葬したのが誰なのかは、一部の者以外には永遠の謎である。

敵意42-2

 そしてこの後、北方の辺境であるキーレにて徒手空拳の桁外れに強い女戦士が現れたと――リューンに噂が届くことになったが、それはまた後日の話である。

 一方。

 ・・・・・・・・・・・・すっかり暗くなった海港都市エルリースに6人の人影が降り立ったのは、午後10時頃であった。
 街はそろそろ眠りの精霊の腕に抱かれ、静まり始めている。
 時折、遠くのほうから酒に酔った男の声や商売女の嬌声が響くも――その眠りを妨げるほどではないのだった。
 ぐるぐると取り巻く小規模の嵐がおさまった後、術者は満足そうに辺りを見回す。

「到着、と。周囲に人がいなくてラッキーだったわね」
「まだ制御し切れずに、周り吹き飛ばしちゃうもんね!」
「・・・・・・悪意のない言葉が一番凶器になる時があるって知ってる?ミナス」

 しばしにらみ合いを続ける仲間を余所に、アウロラは自分たちの降り立った地点に気づいた。先日に泊まっていた宿屋の前である。
 無言で宿を見上げる彼女を気遣ってギルが切り出した。

「今日はとりあえず宿で休もう。起きてからシアノス商会の本部に行けばいい」

 ジーニに追いかけられていたミナスが、走りながら手を挙げて賛同する。

「さんせーい!!」
「そうだな、リーダーの言うとおりだ。・・・・・・ジーニ、そろそろやめようぜ。いい大人が恥ずかしいからよ・・・」

 唐突な鬼ごっこはともかくとして、一応”金狼の牙”らはとてつもない疲労を引きずっているからと、商会に向かうのは休んだ翌日に決定した。
 一行の最後尾を、アレクとエディンがゆっくり歩く。

「やれやれ。ゆっくり休養を取りたいものだ」
「そうだなァ。俺は明日色々予定が詰まってるんで、なるべく長く眠りたいもんだよ」
「そうなのか?それは知らなかった・・・・・・」

 幼い子どものようなあどけない顔で彼はエディンを見つめた。とんでもないレベルの美貌も、こういう表情になると非常に人間くさい。
 エディンは詳しく語ることなく、

「まあ、野暮用だがね。・・・大丈夫、商会の報酬を受け取った後で十二分に間に合うさ」

とだけ説明し、懐に精霊を入れたままの仲間の肩をぽんと叩いた。
 そして――”金狼の牙”たちは、ベッドにつくや否や泥のように眠り込んだ。たった一日で、あれだけの激戦を繰り広げたのだから無理もない。普通の冒険者であれば、疲労で5日は動けないだろう。

2013/05/16 00:08 [edit]

category: 敵意の雨

tb: --   cm: 0

Thu.

敵意の雨 11  

敵意34

「言っておくけど――暗黒邪竜は他のドラゴンと違って、財宝の類は一切持ってないわよ」

 雪精トールが治療に走り回る間、≪知恵の果実≫を食べて気力と体力を回復した”金狼の牙”たちが立ち上がった時、初めてジュビアが顔をこちらに上げて言った。

「アイツはそんなものには全く興味がない。アイツが本当に好きなのは、強者との戦いだけよ」
「そうかい」

 ギルの返答はごく短かった。そのまま仲間たちに声をかける。

「皆。やれるな?」

敵意35

「ああ」
「仕方あらしませんなー。わても最後までお付き合いさせてもらいますわ、毒喰らわば皿まで言いますし」
「・・・・・・うん、猛毒ですまないトール」
「意地でも10000sp手に入れてやるわ」
「このまま帰ったんじゃ、ジーニのキライなただ働きになっちゃうもんね」
「何のために島に来たのか分からなくなりますからねえ・・・・・・」
「うるっさいわよ、ミナスとアウロラ!いいじゃないの、報酬があって燃えるのはプロとして健全な証よ!」
「やれやれ・・・・・・。仕方のねえ奴らだ。ま、リーダーをリーダーに推薦したのは俺だしな。最後まで付き合うぜ」

 ギルの掛け声にアレクが、トールが、ジーニが、ミナスが、アウロラが、エディンが返事をしていく。
 その様子にジュビアは目を細めた。

「これと似たような”地獄”を今までに幾つも潜り抜けて来たんだ。このぐらい、どうってことはないさ」
「フッ・・・・・・。どうやら、少しあんた達のことを見くびっていたようね。本音を言えば、奴は私がブチ殺したかったんだけど――あんた達に譲ることにするわ」
「じゃあな。行ってくる」

 ひょいっと片手を上げて振ったギルは、そのまま気軽に――まるで近くの店に出かけるかのような調子で赤い炎のようなマントを翻した。
 ひと際大きな山の麓にある洞窟の奥を目指し、彼らは歩き続けた。
 洞窟に入る直前につけたカンテラで、エディンが周りを見渡す。
 罠も何もないと判断し、仲間たちへ近づくよう手で合図を送ると、先頭を進んだ。

「中は、さっきの洞窟とあんまり変わらねえな」
「ええ。もっとも、さっきの洞窟ではこんなやばい気配は感じませんでしたけどね・・・・・・」

 アウロラの背中を冷や汗が伝う。先ほどから、彼女の聖職者としての勘に何かが訴えかけてきているのだ。
 瘴気と悪意の渦巻くその向こう――邪竜の存在を。
 言葉少なになり、カンテラの明かりだけでは不十分なほど暗くなってきた頃。

「ギルバート。分かってるとは思うけど・・・・・・」
「ああ。いるな、これは」

 2人が言葉を交わした刹那、辺りに地響きが起こった。
 慌てて地を踏みしめた彼らの視線の向こうに――。

「こいつが――暗黒邪竜」

敵意36

 今まで戦ったどの敵よりも恐ろしい相手を前に、ミナスは落ち着いた声音で呟いた。
 とてつもなく巨大な竜だ。
 たいていの場合、伝承と言うのは捻じ曲げられているものだ。
 いかに巨大な竜だと言い伝えられてきたとしても、実物を見れば、せいぜい一軒家くらいの大きさだったという例は珍しくない。
 しかし――この邪竜、確実に全長70mはある。まさに、伝承に恥じないほどの巨躯であった。
 全身の黒い鱗は朧げな光を放っており、深い暗闇の中でも鮮明に巨竜の姿を現している。
 邪竜は、ただじっと”金狼の牙”たちを見つめている。その瞳に宿るのは侮蔑か。怒りか。憎しみか。憐れみか。・・・・・・ギルたちには分からない。
 唯一つ、確実に言える事は、この竜がギルたちを生かして帰すつもりがないこと。

「やれやれ・・・・・・。どうやら、かなり気に入られたようだな」

 ギルは≪護光の戦斧≫を構えた。
 その刃から放たれた【暴風の轟刃】を合図に、ミナスが、ジーニが、己の魔法を邪竜の頭部へと叩き込んでいく。

「マナよ集まれ、魔法の矢となり穿て!」
「イフリート、お前の息吹を少しここに貸して!」

 白い魔力の矢と業火が過ぎ去った後を、二刀の盗賊と魔剣を構えた剣士が奔る。その目に躊躇いはない。

「・・・ったくよお!とんだ依頼だぜ!」

 両手を硬化させたエディンが遠距離から振りぬき、それとタイミングを合わせたアレクが反対方向から緋色に輝く魔法剣技を披露する。

「・・・・・・緋の翼を、刻まれろ!!」

 辛うじてその攻撃を弾いた硬い鱗が音を立てる中、アウロラは息を整えて神精を召喚する歌を歌った。
 黒く柔らかな毛並みをした獣は、方陣から飛び出すと分厚い鱗をものともせずにその足へと噛み付き、肉を引きちぎった。

「――――――――!!!!!」

 とんでもないダメージを初っ端に食らった邪竜が、大きく息を吸い込む。恐らくはジーニの言っていた黒い火炎の準備動作であろう。
 ところが、それをいち早く察したエディンが、尾から登って竜の鼻先に飛び上がり、思い切りその鋭い細剣で顎を貫く。

「――!!」

 邪竜は凄まじい憎々しげな視線を浴びせた。これでは火炎を吐くことができない。
 それでも血の流れる両の太い脚で地響きを起こし、竜は何とか冒険者たちの体勢を崩そうと試みる。

「・・・・・・くっ!頭が悪いと言う割に、やるではないですか・・・・・・!」
「・・・・・・同感だな。トール!ジーニの治療は任せるぞ!」
「了解でんがな、アレクはん!」

 アウロラとアレクの足場が崩され、ジーニも思わぬ方向からの攻撃に膝をつく。だが、彼女はそんな不利な体勢からも呪文を完成させ、強烈な【神槍の一撃】を竜の頭部へと叩き込んだ。

「我が敵を貫け、神の槍よ!」
「うおおおおおお・・・・・・!」

敵意37

 丹田に力を込めたギルは、巨大な尾に薙ぎ倒され壁に叩きつけられた。
 それでもどうにか歯を食いしばり、めり込んだ体をどうにか引き剥がすことに成功すると、筋肉の躍動を喉に集める。ジュビアも使った【獅子の咆哮】である。
 さらにミナスはナパイアスを、アウロラは再度神精ヴァンを召喚した。

「ここに来て、渓流の魔精よ!僕らの敵を押し流して!」
『あいよ、ミナス!あたしに任せな!』 
「我を助けるは聖なる獣、神に近しきその血筋・・・・・・!」
「ワンッ!!」

 幻獣などよりも神に近いと言われる聖なる獣の幼生が、アウロラの歌に合わせて竜の翼を引き裂いて。
 勇気ある精神力の持ち主でしか制御なしえないと言う渓流の精霊は、≪エメラダ≫による束縛を打ち破った竜の動きを、つかの間停止させた。

「よし、いいぞ!喰らえ【花散里】の氷片を!!」

 何度も原始的なまでの再生能力をもって、千切れたはずの翼や腕が元に戻るのを、エディンは必死に【花散里】で削ってゆく。彼の肩には、いつかリューンの店で入れた黒猫の刺青が汗に光っていた。
 咆哮によって1度召喚獣を打ち消されたりはしたものの、エディンの決死のサポート的攻撃が及んでか、いつの間にか竜の動く部分は頭部のみとなっていた。

「あと少しだ、皆頑張れ!」
「おう!!!」

 リーダーの励ましに、汗みずくでありながらも皆笑顔になり、生き生きとした答えを返した。
 そんな中、誰よりも幼馴染によって奮起した男が、鋭い爪や暴れまわる尾を回避しながら一つの技を竜の頭部へと突き刺す。
 彼の心は無心――全ての意識を刃へと乗せていた。

「これで・・・・・・どうだッ!!」

敵意38

 特殊な生き物――竜、という存在を打ち破るために開発された回避を捨てた技、【竜牙砕き】――。

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 邪竜が凄まじい悲鳴を上げる。普通の人間がいたならば、鼓膜が破れるか下手をするとショック死しかねないほどの絶叫だった。

「やったのか、アレク!?」
「いや、この技でも一撃では倒せない!だが・・・!」

 竜の牙を砕き鱗を破ると言われるこの特殊な技により、邪竜は本来持っている原始的な能力のいくつかを封じられてしまった。
 3体のスネグーロチカが雪の華を飛ばし援護をこなす中、エディンは【磔刑の剣】でもって邪竜の頭部を突き刺す。

「ガアアアアアアアアアアッ!!!」

 苦痛を振り払うかのように、暗黒邪竜が咆哮を上げる。聖なる光に耐え抜いたらしい。

「まだ死なないのか!お前さん大した奴だよ、本当に・・・・・・」
「ああ。だが、これで終わりだ」

 アレクの【魔風襲来】が、エディンの【暗殺の一撃】が続き――。

「風よ!我が力となりて敵を引き裂け!」

 ≪死霊術士の杖≫を振り上げているジーニの周囲を取り巻く旋風が、恐ろしいほどの勢いでもって邪竜の全身を引き裂いた――!

「――――」

敵意39

 断末魔の悲鳴が上がることもなく、邪竜の体がゆっくりと傾いてゆく。
 重々しい音が響き、”金狼の牙”たちが再び動き出すまでには、暫くの間があった。
 やがて誰からともなく・・・・・・。

「や・・・・・・」
「やっ・・・・・・た・・・・・・!」

 ある者は地面に倒れこみ、ある者はその場でへたりこみ、ある者は地面に突きたてた武器に寄りかかって大きく息を吐いた。

「あー、やべー。本当に疲れた。皆、少しだけこのまま休もうぜ」
「さんせーい・・・・・・」

 ギルの決定に、地を這うような仲間たちの声が応じた。

2013/05/16 00:05 [edit]

category: 敵意の雨

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Wed.

敵意の雨 10  

 あの後のディアーゼの申し出――『殺さない代わりに邪竜退治を手伝え』という彼の言葉をギルが蹴ったのは、ディアーゼが邪竜と戦う理由の為であった。
 祖父と父親の敵討ち――それは彼の念頭にない。あるのは、100年ほど前に己が敗れたという屈辱を晴らすための復讐の念だけだったのである。
 もっとも、敵討ちを口にしたところで、平気で3組ものパーティを捨て駒として扱ったディアーゼに手を貸したかは別だが。

「こんなタチの悪い罠に嵌めておいて、今更手を貸せですって?」

 ふんぞり返って魔王を睨み付けたジーニが、びしっと杖の髑髏を突きつけた。

敵意30

「寝言は寝てから言え!!」

 ディアーゼが右頬を痙攣させながら、ものすごい形相でギルたちを睨みつける。普通の人間なら、その視線に2秒と耐えられないだろう。

「上等だよ・・・・・・!お望みどおりブチ殺してやらァ!」

 ディアーゼの言葉とともに、残っていた下級や上級の悪魔たちが召喚される。雑魚が邪魔で中々攻撃が届かないことに気づき、氷姫と化したミナスは舌打ちをした。

「おのれ、生意気な・・・!」

 部下の悪魔から【風刃乱舞】や【炎導剣】の技を喰らいながら戦っていたが、後方に佇むディアーゼが何か呪文を唱えていることにジーニが気づいた。
 声を封じるか、速攻で倒すか――。
 遠距離対応の攻撃に切り替えたジーニやミナスだったが、ディアーゼの詠唱が紡がれるほうが早い・・・・・・!

「うおおおおお!!!」

 ギルは【破邪の暴風】で周りを吹き飛ばしながら魔王に肉薄するが、後から現れるデーモンたちに阻まれ、その刃が届かない。

敵意31

「ククッ・・・・・・。準備は整ったぜ」
「これは――」

 目を瞠るギルの横にいつの間にか立っていたエディンが、眠たげな双眸を細めた。

「闇の・・・・・・魔力の渦!?」
「ディアーゼ!あたしたちを何処の世界にやったの!?」
「どこにも連れてってねえよ。俺たちは、山にいるままだ。この空間は俺が作ったんだよ。居心地はどうだい?」
(こいつ・・・・・・やっぱり魔力が半端じゃない・・・・・・!)

 少しでも気を抜けば、膨大な闇の魔力によって渦の中心に吸い込まれそうである。
 ギルがアウロラを、アレクがジーニを支え、エディンはミナスの腕をひっ捕まえ、慌てて自分のほうへと引き寄せた。

「舐めないでください、ディアーゼ・・・・・・!こんなチンケな風では、私たちを涼しがらせるぐらいしかできませんよ!」

敵意32

「チッ、この渦は象でも軽く放り込むんだが――てめえらには効かねえようだな・・・まあいい。ハナっからそっちの効果には期待してねえさ」
「え?」

 不審な声をあげたミナスの視界の中で、渦に巻き込まれたデーモンたちが悲鳴を上げている。彼らにも、この闇の渦は脅威なのだ。
 自分の部下を利用する為に作った魔力の渦――その戦い方に、エディンは嫌悪の顔になった。

「あいつらには――強力な助っ人を呼ぶための生贄になってもらったのさ」
「助っ人だって?」
「ちっとばかし体がでかくてな。島まで連れては来れなかったんだが・・・・・・力が必要になった時は、今のように生贄使って召喚――って考えてたわけさ」

 本来は暗黒邪竜との戦いにおける最大の切り札であったのだが、邪竜との戦いの前に札を切らざるを得なかったのは、さすがに”金狼の牙”というべきか。

「・・・・・・ッ!?」

 アウロラの顔が引きつる。渦の中心から現れた秘密兵器は、ドラゴンのゾンビ――体長30m程もある、腐りきった竜であった。
 かつて何頭かの竜に出会い、その生物の力強さや誇り高さを目にしてきた彼らにとって、骨や贓物がむき出しになっている竜の姿は衝撃的である。
 その昔、邪竜との戦いに敗れたエルダードラゴンだったという屍竜はしばし首をめぐらし――暗黒邪竜がいないことに怒り狂っていたが、ディアーゼに目前の冒険者を片付けたら邪竜の元へ連れて行くといわれ、山をも裂くような咆哮をあげた。
 確かにこんな巨大な竜に立ちはだかれたら、容易に魔王へ攻撃を届かせることはできない。
 しかしディアーゼは目算を誤った――彼らを相手にするのであれば、たった一匹の強敵を召喚するより、物量作戦を続けるべきであったのだ。

「がっ・・・・・・!!」

敵意33

 ディアーゼは信じられないという顔で、近くの召喚陣から飛び出した獣に引き裂かれた己の喉を右手で押さえた。
 彼の驚愕する視線の先には、≪エメラダ≫を構えたジーニと歌をうたい終わったアウロラがすっくと立っている。

「かかったわね。まずはあたしの呪縛――」
「ドラゴンに隙ができたところで、私がディアーゼの傍に神精ヴァンを召喚。前衛が堅固だからこその作戦ですが、上手くいって何よりです」

 ディアーゼの魔力によってこの世に留まらせていた屍竜は、創造主が斃れたため体がどんどん崩れている。
 しかし今のドラゴンゾンビからは怒りや狼狽などといったものはまったく感じられない。むしろ、その表情は安らかなものに見えた。
 恐らく魔力から解放されたことで、一時的に正気を取り戻したのであろう。

「・・・・・・それでいいんだ。本来の場所に帰れよ」

 じっと崩れゆくゾンビを見つめていたギルが呟いた。

「お前らに、頼み、ある」
「何だ?」
「俺の、代わりに、暗黒邪竜、殺してくれ。お前ら、強い。お前らなら、絶対、できる」
「・・・・・・」
「頼んだ、ぞ」

 ドラゴンゾンビはそう言って穏やかな笑みを浮かべると、塵となってとうとう崩れ落ちた。残骸を山風がさらってゆく。
 ディアーゼはもうとうに息絶えていておかしくはなかったが、まだ「何故だ・・・・・・!?何故勝てねえ・・・・・・!」と血と共に言葉を噴出していた。

「あたしたちの力が、アンタの想像を遥かに上回っていた――ってことじゃない?」
「・・・・・・!」

 冷酷に彼を見下ろしたジーニが放った台詞に、ディアーゼは歪んだ笑みを浮かべた。既に死相は濃く、話しているのが不思議なくらいだ。

「・・・・・・こんなことなら一時的にでも、他のデーモンロードに同盟を持ちかけりゃあよかったぜ・・・・・・」
「やめろ。想像しただけで寒気がする」

 疲れたようなエディンの声に、「ククッ」と魔王は笑った。やはりそれも歪んでいる。

「もし、てめえらが三下に殺されて来たら・・・・・・おもっクソ馬鹿にしてやる・・・・・・」
「さようならディアーゼ」

 ジーニの言葉が耳に入っていたかどうか――秀麗な三つ目のデーモンロードは、そこで息絶えた。
 その時、一行の背後で足音がした。
 ギルたちが一斉に振り返ると、無表情でこちらを見据えているジュビアが立っている。

「・・・・・・生きてたのか」
「そのようね・・・・・・。正直、自分でも信じられないけど」

 アレクの静かな視線とジュビアの真っ直ぐな視線がぶつかり合う。だが2人は構えるどころか、そのまますれ違った。
 ジュビアはディアーゼの亡骸に近づくと、ゆっくりと腰をおろした。

「間に合わなかった、か・・・・・・」

 ジュビアはそう言って軽くため息をつく。今の彼女からは、怒りや憎しみなどといった感情はまったく感じられない。
 どちらかと言えば――今の双眸から窺えるのは、悲しみや諦めの色であった。

「私が仕えていたのは、あくまでもこの子の父親。この子を助ける義理はあっても、義務はない・・・・・・仇を討つ義務もね」
(・・・・・・その割に泣きそうだけどね。アンタ)

 賢者の心中の呟きは知らず、ジュビアは赤子をあやすように、重いパンチを放つはずの手でディアーゼの死に顔を優しく撫でた。

「こんなお姿になってしまって――申し訳ありません、ディアーゼ様。私が不甲斐ないばっかりに・・・・・・」

 いつまでも、いつまでも撫でていた。
 涙は流していないのに――その頬に光るものがあるような気がするのは、どうしてなのだろう?
 魔王を倒したことに対して後悔も弁解もするつもりはない。手を出してきたのも、罠に嵌めてきたのも向こうである。
 ただ、今だけは――この目の前の女戦士に、優しい風が吹くことを祈らずにはいられなかった。

2013/05/15 23:59 [edit]

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Wed.

敵意の雨 9  

 下級悪魔の後を尾行してディアーゼの元へと辿り着いた”金狼の牙”たちは、目の前の少年に呆気に取られていた。

「・・・・・・アンタがディアーゼ?」
「わかりきったこと聞いてんじゃねえよ」

 一行は目の前にいる魔族の少年が、自分たちを悪質な罠に嵌めた魔王だということが、にわかには信じられないでいたのである。
 肌の色と、額で不気味に蠢く眼を除けば、秀麗な顔立ちをした小柄な美少年に見える。

敵意28

「ギルバート以外は、間抜けな表情浮かべてやがんなオイ。敵の魔王が、こんなガキで調子狂ったか?」
「・・・・・・外見なんて関係ないさ。お前が恐ろしい力を持っていることはよくわかる」

 黄金色に輝く≪護光の戦斧≫を肩に担ぎ、ギルは少年を睨み付けた。

「これはこれは。天下のギルバート様にお褒めいただき、誠に光栄でございます」
「・・・・・・ッ!ふざけてんじゃねえぞコラア!」

敵意29

 よほどにその態度が癇に障ったのか、珍しくエディンが誰よりも先に切れた。
 その肩をトンと叩いて我を取り戻させたジーニが、今までの疑問をディアーゼに問いただした。

「アンタ・・・・・・一体何を企んでるの?あたしたちをこんな手の込んだ罠に嵌めて、どうするつもり?」
「たくらみ、ねえ。まあいくつかあるんだけどよ。その内の3割くらいは、てめえらがやってくれたぜ?」
「何だと・・・・・・?」

 訝しげな顔になったアレクへ、話には順番ってもんがあるとディアーゼは声をかけ、その質問に答えた。
 第一の目的は簡単である。噂に名高い”金狼の牙”をブチ殺したと言う肩書き――それが欲しかったのだ。
 カナン王を始めとする人外の強者たちが倒されているのだ。”金狼の牙”を殺せば、そのネームバリューは計り知れない。 
 第二の目的は人間の世界を支配する前段階における、最大の邪魔者――英雄を始末したかった。
 ディアーゼの考える中で、およそもっとも面倒な敵とは大国が抱える騎士団などではない。己の実力だけをたのみに人外の実戦経験をひたすら磨いてきた英雄である。
 そこで気づいたジーニは、我慢できずディアーゼに自分の推量をぶつける。

「”毒蛇”や”狂犬”をけしかけたのは、何もあたしたちを疲弊させるためだけじゃない・・・・・・!あいつ等にも死んで欲しかったからね!?英雄の候補生であるあいつらに・・・・・・」
「正解!さすがは”金狼の牙”のブレインだ。人間にしておくのが惜しいぜ」
「ふざけた事を・・・・・・!」

 確かに”漆黒の鳳凰”や”青い毒蛇”、”白銀の狂犬”たちは今の一同には遠く及ばない。だが、数年先にはどうか?
 そして、ディアーゼの策であれば、今でも少なからずこっちに被害を齎す厄介な英雄候補生たちを、最小限の被害で片付けることができる・・・・・・。
 実際に”白銀の狂犬”にやられていたロードヴァンパイアのことを、思い出しながらギルはぽつりと言った。

「そこで・・・・・・俺達の出番か」
「その通り。そうすりゃこっちの被害はゼロ。おまけに、てめえらも奴らとの戦いで消耗してくれる。いいことずくめじゃねえか!」

 無言でディアーゼを睨みつけているアレクの唇が、僅かに震えている。
 怒りと言う激情を、必死に言霊に乗せないようにしているためであった。

「だがッ!そこまでは順調だったのに・・・・・・!一番肝心な『最後の目的』が、達成できなくなっちまった・・・・・・!」

 急にどうしたことであろうか――全ての眼をカッと見開いたディアーゼが、アレクの怒りを上回るかのような勢いで怒鳴りだす。

「このクソボケのせいでなあアアア!?」

 ディアーゼは忌々しげにそう吐き捨て、魔族の死体を乱暴に蹴りつけた。
 この魔王に相対する直前まで尾行し、一行が切り捨てた下級魔族だ。

「てめえ、なんで来やがった!?合図がない限り、俺の所には来るなっつったろが!?頭沸いてんのか!?あア!?」
(もう死んでるのに・・・・・・。)

 ぞっとしたミナスは、さすがにその場に怯えて後じさりはしなかったものの、やや青ざめてその光景を眺めている。
 急に怒りを露にし、部下をボロ雑巾のように踏みにじっている秀麗な異形の少年を。
 そんなうかつに身じろぎもできない状況を、ばっさりとギルは断ち切った。

「・・・・・・やめろ」
「あア!?」
「その辺にしとけと言ってるんだ。・・・・・・見苦しい」
「なんだア・・・・・・!?その辺ってのは・・・・・・この辺か!?この辺のことか!?」

 ディアーゼは、その後も魔族の大きな体がただの肉片に変わるまで踏みにじろうとでもいうようにしていたが、やがて激情が遠ざかったのか――いや、無理矢理治めたのか。
 ふっと足を引くとニタリとこちらを眺めた。

「見苦しい所を見せた。わりいな」

 さっきまでの激昂ぶりが嘘のように、気味が悪いほど落ち着き払っている。
 あまりといえばあまりの豹変振りに、一行は咄嗟に言葉が出ない。

「・・・・・・一応説明しとこうか。『最後の目的』ってのはてめえらと邪竜のクソ野郎を戦わせることだったんだ。とは言っても、どっちに勝たれても正直こっちには困る」
「何故なの?」

 ジーニは容赦のない声で詰問した。

「あたしたちが邪竜に殺されたら困るってのは分かる。あんたが直接手を下したいでしょうからね。でも、逆のケースは!?あたしたちが邪竜を殺すのに、何の問題があるの?竜の1匹2匹死のうが、あんたの知ったことじゃないでしょ?」
「・・・・・・それが大問題で、俺の知ったことなんだよ」
「何だと?」

 想定外の返事に、ギルは片眉を上げた。
 そういえば・・・・・・1階層目で退治したワーウルフも、そのようなことを言っていた。「暗黒邪竜を倒すのは『あのお方』なんだよ!」と・・・・・・。

「お前――過去に暗黒邪竜と何があった?」
「へっ・・・・・・。昔の恥を晒すのは気が進まねえが、てめえらには教えてもいいか」

 そしてディアーゼは語りだした。
 祖父、父の代から魔法も使えぬ古竜との戦いを続けてきたことを――そして、彼自身も100年前に邪竜に戦いを挑んで負けたことを。
 思わず「何だってー!?」と叫んでしまった”金狼の牙”たちを冷めた眼で見やり、彼は話を続けた。

「あの時は――ジュビア・バルガス・イルードの3人は勿論のこと、部下の魔族2万人も引き連れて奴の所にカチ込んだんだ」

 結果は惨敗。
 壮絶な戦いなどと言うものですらなく、一方的な虐殺という有様だったらしい。
 実に手下の八割を失うこととなったディアーゼは、恐らく百万人いたとしても暗黒邪竜には勝てる気がしないと言った。

「で――そんな化け物を俺達にぶつけようと考えたわけだ?シアノス商会に圧力をかけてまで・・・・・・」
「”圧力”だなんて人聞きの悪いこと言うんじゃねえよ。シアノス商会とは、普段からいい”お付き合い”をしててな。今回の話を持ちかけたら会長の奴、ノリノリで承諾しやがったぜ?」
「どでかい商会と魔族の”お付き合い”ね・・・」
「お前ら、商会から何か恨みでも買ってるんじゃねえか?」

 商会に限らず、恨まれる心当たりなどいくらでもある。例え、逆恨みや妬みといった理由からのものでも――。

「まあ、俺が邪竜のクソ野郎をブチ殺したがってる理由はわかっただろう」
「まあね。ついでに、アンタがあたしたちと邪竜が弱ったところで、漁夫の利せしめようと考えてたことも理解したわ」

 ジーニが肩をそびやかした。

「で?どうすんの?」
「こうなったら計画変更だ。ここでお前らを殺しとくぜ」

 その明白な意思表示に、冒険者たちはそれぞれの得物を構える。

「ジュビアたちや”漆黒の鳳凰”共との激戦で既にガタガタなんだろ?そんな状態で俺に勝てると思ってんのか?」
「思ってるね」

 金色の斧を掲げた男が、迷いなく言い放った。

「・・・・・・ホント、いい目をしやがるぜ。つくづく殺すのが惜しい」

 キュイ、と三つの目全てが愉快そうに細められる。

2013/05/15 23:55 [edit]

category: 敵意の雨

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Wed.

敵意の雨 8  

 自前の薬を使って自分たちを強化し、それによって狂戦士と化した吸血鬼の”白銀の狂犬”たちも、さすがに”金狼の牙”には叶わなかった。
 最初のラウンドで盗賊のゲイルと剣士のナツキが倒れ、程なく魔法使いのミラージュやリーダーのソフィアも、前衛たちの波状攻撃により斃れる。

敵意25

 最後まで立っていた蛮族出身のロミナをギルの斧が引き裂いた時、”金狼の牙”たちは1人として怪我を負ったものがいなかった。驚異的な強さであった。

「怪我人いないのはええんですが、わての出番はまるでありませんな」
「贅沢言わないでくれ。こっちはヒヤヒヤものだったんだから」

 相棒のぼやきに、刀身の血を振り落としながらアレクが答えた。
 彼女たちの攻撃を受けることは、すなわち吸血鬼になる可能性があるということである。早々怪我を負うわけにはいかなかったのだ。
 半ば以上千切れた腕を押さえつつ、ソフィアが呻く。

「アレ(薬)さえ使えば、あんたたちにも勝てると思ったんだけどね・・・・・・」
「お前、バカじゃないのか?」

 ギルは容赦なく言った。
 死に瀕したソフィアの顔が、痛みや恐怖とは別の感情から引きつる。

「・・・・・・何ですって?」
「あんなものに頼ってるから負けたんです。どうしてそのことがわからないんですか?」

 抉るようなリーダーの台詞を、アウロラは正確に補足してみせた。

「あんな外道の薬に手を出した時点で、あなたたちの負けは決まっていたのです」
「・・・・・・言い返せないわね」

 ソフィアは、まだ息があるうちにと自分を雇った者について話すと言い始めた。
 きょとんと眼を丸くしたミナスが訊ねる。

「・・・・・・誰なの?」
「ふふっ、どんな奴だと思う・・・・・・?聞いて驚いちゃダメよ。魔族よ。それも魔王レベルの・・・」

 名前はディアーゼ。
 人間の間ではほとんど知られていないが、「あちら」の世界では結構な有名人らしい。
 魔族の頂点に立つデーモンロード(魔王)の1人だと、ジーニが頭の倉庫を引っくり返してソフィアの情報に付け加えた。
 狡猾さと、魔力。その二つに秀でた魔族は、タチが悪いという点において、今回の目的である邪竜と同レベルであった。

「ちょっと待ってください。そういえば、”鳳凰”のジャックも自分たちの雇い主は人間じゃないとか言ってましたよね?」
「あ・・・・・・」

 アウロラの指摘にミナスも声をあげる。
 エディンは誰にともなく呟いた。

「ワーウルフの言っていた『あのお方』とやらは、ディアーゼなのか?」
「そう考えるのが妥当でしょうね」
「・・・・・・やっぱり」

 3組の冒険者パーティ、狼男、吸血鬼は既にない。
 残る敵は最後の手下とディアーゼ、そして暗黒邪竜・・・・・・。
 自分が捨て駒にされたことへの意趣返しとして”金狼の牙”たちへ情報を漏洩したソフィアが事切れた後、アレクが近づいてその目を閉じさせた。

「・・・・・・行こう。終わりはもうすぐだ」

 一同のリーダーは真っ直ぐ洞窟の奥を指差す。
 そして北へ、と彼らは急いだ。

「・・・・・・どうやら洞窟の出口にたどり着いたみてえだな」
「ええ。でも、この階層を守る”仲間”の姿が見当たりません」

 エディンとアウロラはそっと仲間たちを見回した。それは、彼らなりの仲間への忠告だ。
 恐らくこの出口を出たところにいる――そう睨んだ彼らは、もう何度目になるかも分からないが戦いの前準備を始めた。

「行こう。俺達に関わったこと、後悔させてやろうじゃないか」
「おお!!」

 ときの声をあげた冒険者たちは、赤く燃える夕日が見える外へと歩いていった。
 黄昏に照らされた辺りの山々は絶景と言ってよかったが、ぽつんとその中に佇む影があることに全員が気づいていた。
 ふ、とギルが口角を上げる。

「夕焼けの山で、1人物思いに耽る女戦士――ってところか。結構絵になる風景だな」
「はっ・・・・・・」

 こちらを振り返ったのは、黒髪に鋭い眼を持つ女だった。
 先ほどまでの立ち姿では隙だらけと言ってよかったのに、ギルの声で振り返り構えるまでの動作に、まったくの無駄がない。
 今の一挙手一投足を見れば、彼女が明らかに歴戦の戦士であることは知れた。

「見たところ――どうやらお前さんが、ワーウルフの言ってた”仲間”のようだな」
「バルガスの事か。予想通りってところかしら。バルガスたちじゃあ、足止めにもならなかったようね」

 エディンのからかうような声音に激することもなく、女はこの階層を任されているジュビアと自己紹介した。
 精霊術師の常であろうか、誰に言われるともなく何となく【生命感知】を行なっていたミナスは、忙しなく眼を瞬かせて首を捻っている。

「あれ・・・・・・魔族?いや、妖魔?それとも人間・・・・・・?」

敵意26

「さあ?どうかしら?」

 黙ってじっと様子を窺っていたジーニが、挑発にも似たジュビアの台詞にぼそりと返した。その左手には、杖の≪カード≫が握られている。

「あなた・・・・・・人間じゃないわね。恐らく魔法生物、それもフレッシュゴーレムじゃない?」
「あら、すごいわね。一目見ただけでわかるの?普通の人間なら、ただの体がでかいだけの女にしか見えないでしょうに」
「ちょっとズルはしたけどね。・・・・・・でもアンタは何かおかしい」

 ギルやミナスが怪訝そうな顔になるのに、すらすらとジーニは説明を始める。

「フレッシュゴーレムは、それほど強くない魔物のはずよ。・・・・・・でも、コイツは明らかに”鳳凰”やさっきのワーウルフより強い」

 フレッシュゴーレムは人間の死肉を使って作られる魔法生物である。
 ゴーレムにしては高い俊敏性と、ゴーレムだからこそ高いタフネスさは中堅の冒険者などにとってみれば悪夢のような相手ではあるが、今の彼らにとっては脅威ではない。
 しかし、現実として目前の彼女は脅威と言ってよかった。

「あら、それは素直に喜んでいいのかしらね?」
「明確な自我や知能を持っている。こんなゴーレム見たことない。・・・・・・あなた、一体何者なの?」
「何者って言われても・・・・・・。魔族のお坊ちゃまの世話に疲れ気味な、ただの戦闘狂としか?」

 ジュビアは肩をすくめて見せた。
 少なくとも、この言葉自体はウソではない。200年前、ディアーゼの祖父の代に1度手痛くやられた魔族の軍が、復讐に燃えるディアーゼの父に率いられて暗黒邪竜との戦いに挑んだ。
 その時からディアーゼの守役であったジュビアも、類稀な実力を買われて竜討伐に加わっていたのである。
 ただ――その時に、彼女は一度死んでいる。
 今の彼女の体は、魔族であった彼女の手下6名が文字通り命を捨てて作り上げてくれた、かりそめの肉体なのである。

「さて、と。そろそろ始める?それとも、もう少しおしゃべりする?」
「お前との話は退屈しなさそうだが・・・・・・こっちの話の方が楽しめそうだ」

 ちゃきりと音を立てて構えられた≪黙示録の剣≫を見て、「あなたとは気が合いそうね」とジュビアは笑った。晴れやかな戦士の笑みである。
 生きていた時は斧を愛用していた彼女であったが、今は素手で戦っている。
 ゴーレムと言う性質上、繰り出される彼女の拳は武器など笑ってしまうほどに重い。
 また、彼女の馬鹿力に耐えうる武器と言うものが、魔族のいる世界においても滅多にないことから、ジュビアは今や徒手空拳のエキスパートとなっていた。
 開始早々による一撃で、そのことを否応無しに体に叩き込まれたギルは、彼女の体勢と息を吸い込み気を練る様子を見て目を瞠った。
 あれは――彼自身が母から受け継ぎ体得した、倣獣術の一つ【獅子の咆哮】ではないか――!?

「くっ!」
「おおおおお!」

 鼓膜を破らんとする獣じみた叫びは、容赦なく”金狼の牙”たちの恐怖心を煽った。
 その心を押し殺してジーニはベルトポーチから取り出した薬瓶を放ったが、その電撃をジュビアはいとも簡単に握りつぶす。

「なっ!?」
「無駄よ。私に電撃は効かないわ。・・・・・・雷の力によって、再び生を受けた身なんでね」

敵意27

「くっ!厄介な!」

 舌打ちでもしそうな顔になるジーニ。これほどまでに戦いに手慣れた敵は、今までの彼女の戦歴にもそうはいなかった。
 再び【獅子の咆哮】でダメージを受けた”金狼の牙”たちだったが、神精ファナンの幼生がぶつかり、彼女の体を吹き飛ばした事が勝機に繋がった。
 いちかばちか――恐怖心や沈黙の効果を、ジーニによる【破魔の薬瓶】で支援魔法ごと消去されたアレクが、体勢を崩した敵に正確な一撃を浴びせる。
 膝をついたジュビアに、ジーニはびしっと杖を向けた。

「あたしたちの勝ちよ。・・・・・・通してもらうわ」
「まだよ・・・・・・!まだ終わってないわ・・・・・・!」

 立ち上がったジュビアに、アレクが再び剣を構える。咆えるような懇願に負けてもう1度、今度は1対1で戦い始めた。
 ――彼女の轟音と共に突き出された蹴りを、辛うじて篭手を嵌めた手でアレクが受け流し、最低限の動きで女戦士の背後をとる。
 そして発動させた【炎の鞘】を力任せに叩きつけ、よろけて体勢が完全に崩れたところで【召雷弾】を這わせた篭手がみぞおちへと吸い込まれた。
 ――ジュビアのつぎはぎだらけの肢体は、めり込むほどの強さで近くの岩山に叩きつけられた。
 すると――ぐらり、と。
 血色の瞳の視界の中、動いたものがある。

(あれは・・・・・・!ジュビアの体がぶつかった衝撃で岩が・・・・・・!?)

「ジュビア・・・・・・!」

 避けろ、と叫ぼうとしたアレクの声は、ジュビアにまで届いたのかどうか――蹴りを回避され、みぞおちに強烈な突きを喰らったせいでピクリとも動かない彼女の上に、多くの岩が落下した。
 ・・・・・・さすがに、こうなってはもう生きてはいないだろう。
 同じ戦士として共感できる部分があっただけに、アレクは悲しげな顔で岩と、その下に潰されたであろうゴーレムの女性を見つめた。
 ギルが行こうと声をかけるまで。

2013/05/15 23:53 [edit]

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Wed.

敵意の雨 7  

 ギルの言葉どおり、途中で立ち塞がってきた狼男・バルガスをやっつけた”金狼の牙”たちだったが、先ほどから困惑した雰囲気を漂わせていた。

「・・・・・・厄介なことになったな」
「古竜や”狂犬”だけでも大変なのに、”あのお方”とやらとその手下まで・・・・・・」

 最年長と最年少が、同時にため息をつく。
 バルガスは人間嫌いの魔物であったらしく、興奮しきって負けた挙句に、色々な情報を漏らして死んでいったのだが・・・。
 彼はこの洞窟があと2階層はあり、それぞれに魔物が配置されていることや、自分たちを配置した”あのお方”とやらがいることを示唆して逝ったのである。

「全く困ったもんだな」
「・・・・・・ギルバート」
「ん?」
「『困った』とか言いながら・・・・・・どうして笑ってるの?」

 ジーニは彼の顎の辺りを、杖の髑髏でぐりぐりと押しながら訊ねた。

「楽しみが増えたかと思うと、どうしても・・・・・・な」
「アホか」
「ワクワクしてくるじゃないか?一体どんな強い奴なのか・・・・・・。ホント、冒険者をやっててよかったと思うよ」
(・・・・・・やれやれ。今更ながら、とんでもないリーダーを持ったものだ。)

敵意22

 とんでもないリーダーの幼馴染は、無言で肩をすくめるに留まった。
 そして縄の梯子を上がり、次の階層へと向かうが――その瞬間、ギルたちは突然襲ってきた不快な臭気に顔をしかめた。

「血の匂いだな。それも腐った血の・・・・・・。いくら嗅いでも、この匂いだけは好きになれそうにない」
「・・・・・・同感」

 ギルとアレクはそう言って、それぞれ先頭と殿の位置についた。
 少し歩いた先にはボロボロになった遺体が積み重なっている。形のよい眉をしかめたミナスが首を横に振った。

「ひどいね・・・・・・。他の冒険者の死体かな?」
「いえ・・・・・・それとは違うと思うわ。腐敗がかなり進んでいる所から見て、死後数ヶ月は経っている」

 倒れている者たちを目視で確かめていたジーニは、これは他の冒険者の死体ではないと断じた。杖の先でぺろりと剥いた服を戻してやる。

「もっとも、【病魔の呪詛】で殺されたというなら話は別だけどね・・・・・・」
「あんまり気が進まねえけど、ちょっと調べてみるぜ。何かわかるかもしれねえ」

 エディンは手際よく死体を引っくり返した。

「何かわかったか?」
「ああ、リーダー。・・・・・・これ、人間の死体じゃねえよ」
「え?」
「アンデッドの死体だな。でも、ゾンビやグールとはちょっと違うんだ」

 かつてトラップ男爵の館の地下で、さんざっぱらグールや後輩冒険者たちの遺体を検分した覚えのあるエディンである。その見立てはかなり確かだ。

「たぶん、レッサーヴァンパイアの死体じゃねえかな」
「ロードヴァンパイアに血を吸われて吸血鬼化した人間だな。そいつらがいるということは・・・・・・」
「間違いなく、近くに親玉のロードヴァンパイアがいるわね」

 ギルの懸念をジーニがはっきり口にする。
 つまり、この階層を守るのはロードヴァンパイアというわけだろう。
 しかし、ここで一つの疑問が生まれる。

「それはわかりますが、では一体誰がこの吸血鬼を倒したのでしょう?」

敵意23

 アウロラの冷静な指摘に、エディンは彼らを倒したのは魔物ではなく、人間の可能性が高いことを告げた。明らかにそういう痕跡が残っているのだと言う。
 この島に来ている冒険者は、ほとんどが駆け出しか中堅程度だが、彼らではこれほどの数のヴァンパイアをさばききれるかどうか。
 となれば、残るは――。

「やったのは、”白銀の狂犬”か」
「確実じゃないけど、その可能性はかなり高いわ」

 ギルの言葉にジーニは首肯した。だが、いくら熟練である彼女たちでも、さすがにロードヴァンパイヤには歯が立たないのではないか――とも付け加えた。
 最悪の場合、すでに”白銀の狂犬”がロードヴァンパイアに倒されていて、眷属にされていることもあり得る。
 完全に体を破壊され、再生する様子も見られない吸血鬼の死体をその場に置いて、”金狼の牙”たちは警戒を強めながら歩き始めた。

「何かこう、死体の山を見ていると・・・・・・」
「ん?」

 アウロラが首を傾げてギルの次の言葉を待つ。

「コボルトのゾンビがいる洞窟から、商人を助けた時のことを思い出してきたよ」
「あったね、そんなことも・・・・・・」

 ミナスがジーニの持つ杖を見ながら、小さくくすっと笑った。

「ヴィザニールって街で商売してるって言ってたよな。今回のヤマが片付いたら行ってみようか」
「・・・・・・それも良いかもしれませんね」

 アウロラはうっすらと笑みを浮かべ、支援魔法をまた仲間たちにかけた。

「この先から嫌な気配が致しますからね。準備は万端で行かないと」
「こっちもオッケーだよ!」

 それぞれの支度を終えた一行は、北の方角へと歩を進めた。
 目の前の光景に、ギルが呆気に取られて足を止めるまで。

「・・・・・・これはまた」
「まるで、吸血鬼の死体のバーゲンセールね」

 妙な例えであったが、ジーニの台詞はまさにその場の光景を現すに相応しいものであった。
 間髪いれず、若く高慢そうな女の声が響く。

「そのバーゲンに、あなた達の死体も追加販売しなきゃね」
「!」

 たちまち顔を硬くした”金狼の牙”たちの前に、6人の女性が姿を現す。アレクは雪精トールを肩に乗せながら、剣の切っ先を彼女たちに向けた。

「アレクはん、このおねーちゃんたちは・・・・・・」
「ああ、分かってる。・・・・・・”白銀の狂犬”、だな」
「あら、伝説の”金狼の牙”に知っていてもらえたとは光栄ね」
「ひょっとして、私たちがあなた達を狙っている事も知っているのかしらねえ?」
「あははははははは!それは困ったわあ」

 嘲るような女の笑い声に、ピクリとアレクの眉が動いた。

(コイツら・・・・・・生気が感じられない)

敵意24

 殺気はある。闘気もある。・・・・・・だが、人間が人間たる所以であるエネルギー、生気が感じられない。精霊であるトールは、いち早くそれに気づいてアレクに注意を促したのだ。
 最悪の想像があたったのかも、とギルは斧を握り締める。
 一触即発の雰囲気に誰もが息を詰める中、唐突にトン、と静かな音が響いた。
 その場の全員が見つめる先、≪死霊術士の杖≫をついたジーニが背筋を伸ばして、堂々とというよりはむしろせせら笑うかのように”狂犬”たちを見つめていた。

「この吸血鬼の群れ、あなた達が倒したの?だとしたら大したものね」

 いやらしい笑いと共に、彼女たちから返答がある。

「ああ。どっかのバカが聖印落としたせいでな」
「うるさいわねえ。あんたの方こそ、過ぎたことをグチグチ言わないでよ」
「もういいじゃない。今となっちゃ必要なさそうだし」

 それは、聖印が必要ない存在に変わったと言うことに他ならない。ぴくりとミナスが身を強張らせた。

「でも、おかしいわね?この吸血鬼たちを束ねるロード種がいるはずなんだけど、まだ見てないわ。あなた達・・・・・・知らない?」

 通常の駆け引きもしくは交渉はともかくとして、戦場における腹の探り合いであればジーニが誰よりも長けている。
 彼女の質問に、案の定1人がにいと唇を吊り上げ笑った。

「ええ、よ~く知ってるわよ?」
「そこの粗大ゴミのことだろ?」
「なっ・・・・・・」

 そこに倒れていたのは、他とは明らかに異なる吸血鬼だった。ロードヴァンパイヤと見て間違いないだろう。
 しかし――徹底的に痛めつけられ、血みどろになって倒れているその姿は一行が考えるロードヴァンパイア像とはあまりにもかけ離れていた。

「ぐっ・・・・・・!ち、ちくしょお・・・・・・!」
「・・・・・・何よ、まだ息があったわけ?」

 蛮族出身らしき大女が、ロード種へと唾を吐く。

「しぶといわね。さすがは死に損ないというべきか」
「・・・・・・あんた達が倒したの?」

 誰もが眉をひそめて成り行きを見守る中、ミナスは真っ直ぐな瞳で彼女たちに問うた。

「他にいると思う?」
「きっ・・・・・・汚ねえぞてめえら・・・・・・!妙な薬なんて使いやがって・・・・・・!」
「ケッ!よく言うぜ。そっちは何十匹も手下連れてたくせによ!」

 呻く吸血鬼の吐いた気になる単語に、ジーニは心中で考えをめぐらせていた。

(・・・・・・何か毒薬の類を使ったって事?でも、アンデッドに効く毒なんて聞いたことないわ。)

「くそおおおおお・・・・・・!呪ってやるううううううう・・・・・・!化けて出てやるぞおおおお・・・・・・!」
「呆れた。化けて出てやるだって」
「いまどき、子どもでもそんな事いわないんじゃない?」

 黄色い肌をした、東洋風の剣士がぶらぶらと吸血鬼へ近づいていく・・・・・・得物の刀を手に。

「てめえ、既に死んでんじゃねえかよ・・・・・・。つーか、死に際の台詞ならもっとマシなこと言いやが――れッ!!」
「ぴぎいいいいいいいいいいいッ!!!?」

 剣士の止めの一撃を喰らい、ロードヴァンパイアはみっともない悲鳴を上げて塵と消えた。それと同時に、配下らしき吸血鬼の死体も消えていく。

「・・・・・・随分と容赦ないんだな」

 平坦なアレクの声に、1人がにっこりと微笑みながら言った。

「相手は人間じゃなくて邪悪な吸血鬼よ?情けなんてかける必要がある?」
「そうか、なら――」

 ≪黙示録の剣≫に、風が宿る。

「俺も情けをかけるのはやめよう」

2013/05/15 23:50 [edit]

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Wed.

敵意の雨 6  

 たっぷりとした悪意を込めた笑いを顔に張り付かせた眼帯付きの戦士が、一歩前に出て冒険者たちへ言った。

「裏の世界じゃ、お前らの首には莫大な賞金がかけられているからな。依頼があろうがなかろうが、俺達にとってはそれが充分な『理由』さ」

 森の木陰からばらばらと出てきたのは、”蒼い毒蛇”の面子であった。大扉を開けようと油断したところを襲おうと思ったのに、先に”金狼の牙”たちに察知されていたことが忌々しい様子である。
 戦士の真後ろに立つフードを目深に被った男・・・リーダーのゼノは、地を這うような声で呟く。

敵意18

「”金狼の牙”・・・・・・俺達の踏み台になってもらうぜ」
「そいつぁ無理だ。だってさ・・・・・・」
「俺たちのが・・・・・・強い!」

 たちまち、ギルとアレクがとんでもない速さで前方に飛び出し、呪文を唱えようとしていたゼノを同時に攻撃する。
 痛みに身を硬くしたゼノに、治療をと赤毛の女や眼帯の戦士が傷薬を構えるが、揃ってジーニの≪エメラダ≫に気を取られてしまった。

「そーら、こっちにいいものがあるわよ!」
「ぐっ・・・・・・ゼノを死なせはせんぞおおおおお!」

 1人、重戦士であろう男が力任せにその束縛を打ち破るも、多勢に無勢では対処のしようがない。
 たちまちミナスの援護を得たエディンによって、渾身の力を込めた攻撃が空振り、がら空きになった脇へ致命的な一撃を喰らう。
 束縛の終わった眼帯の戦士が彼へ襲いかかろうとするのを、体当たりをするようなギルの【風割り】が防いだ。
 慌てたリーダーのゼノが攻撃魔法を放つ。

「くっ・・・・・・回復役を狙うのは、向こうも同じでしたか・・・っ」

 彼の白い指先から飛び出した一条の閃光がアウロラの肩を穿つ。
 よろけた仲間を支えたアレクが、仕返しとばかりによく練られた電撃をゼノにぶつけた。続いて、赤毛の女が今度こそゼノを助けようと彼に近づいていくが・・・。

「そいつをやられちゃ、形勢が不利になっちゃうだろうがよ」
「元”黒鼠”かっ・・・・・・!」

 毒の篭ったダガー代わりの簪を隠しポケットから取り出し、女は次々と仲間たちが倒れる中、エディンの腕を狙って緑に輝く先端を突き出した。
 まるで一流の舞踏を見ているかのよう――女の赤いぴったりとしたドレスと、エディンのボロボロのマントがひらりひらりと宙に躍り、互いの得物が光を放つ。

敵意19

「うあっ・・・・・・!!」

 一瞬の光芒ののち――鋭く突いた胸から≪スワローナイフ≫を引き抜くと、

「終わったな・・・・・・」

とエディンが乾いた声で倒れゆく女を見た。

「いや・・・・・・ゼノがまだ生きてる」

 ギルはもう息も絶え絶えのゼノにゆっくりと近づいていく。

「へっ・・・・・・そのツラだと、このまま見逃してくれそうにはないな・・・・・・。俺たちのような腐れ外道は、生かしておけないってか・・・・・・?」
「・・・・・・その傷ではどの道、もう助からんさ」

敵意20

 ひどく冷静な声だ。ゼノは、本人の与り知らぬところで”暴風”と例えられ、熱血青年だとばかり思っていたギルの思いがけない言葉につかの間絶句した。
 鉄のような冷たい瞳がゼノの視線を捕えて離さない。

「それとも何だ?止めを刺されずに、そのままもがき苦しんで死ぬ方がいいのか?」
「・・・・・・やってくれるんなら、痛みを感じないように一瞬で頼むよ・・・・・・」
「いいだろう。・・・・・・最後に言い残すことはあるか?」
「死ぬまでに1度・・・・・・『フィロンラの花』ってのを見てみたかったよ・・・・・・とても美しい花なんだろうな・・・・・・」
「ああ。・・・綺麗だったよ」

 かつて遺跡でその花を2度も採取したギルは、ゼノの焦がれるような声に優しく――斧を構えているとは思えないほどの――声で同意した。

「そろそろ・・・・・・おやすみ」

 ギルはし損なうなんてことはしなかった。真っ直ぐ振り下ろした刃は、正確にゼノの命を絶った――昔エセルの父をそうした時のように。
 エディンがそっと声をかける。

「リーダー・・・・・・」
「ふん・・・・・・。悪人の癖に、随分と安らかな死に顔しやがって・・・・・・」

 口調は明らかに憎まれ口であったが、彼の顔はひどく青白い気がした。
 脳裏にこびりつく人々の悲鳴、怒号、怨讐の声――ギルの脳裏にこの時あったのは、かつて自分が殺しつくした村のことであった。
 今も後悔はしていない・・・・・・依頼だったから。
 だが、それを忘れずにいること、そしてそれを背負ったまま生きていくこと――ギルはエセルに口止めを施したからこそ、1人で向き合わねばならない。

「・・・・・・さあ、行こう」

 何かを押し殺すような彼の声に、誰も異を唱えようとはしなかった。
 改めて扉を開けると、ジーニが入る前に忠告したように扉は自動的に閉まってしまった。

「・・・・・・邪竜の所に急ごう。帰り道のことを心配するのはそれからだ」
「確かにな」

 リーダーの決断に頷いた一行は、たまに出てくる下級悪魔を適当に倒しつつ、前へと進んでいった。
 途中の分かれ道で宝箱を発見し、レベルの高い罠を解除して中の品物を覗き込む。

「これは≪魔法薬≫ね。大きい瓶に入ってるから3回くらいは使えるわよ」
「使わなきゃならねえ事態は勘弁だぜ」

 分岐はあるものの入り組んでいる洞窟ではない。ほぼ一本道に等しい道行きで、”金狼の牙”たちはトラップよりもむしろ不意打ちに気をつけて歩くことにした。
 ふとエディンが足を止める。

「・・・・・・なあ」
「うん・・・・・・わかってる。この先、誰かいるね」

敵意21

 幼いながらも美しい顔に緊張を浮かばせたミナスが応じ、アレクがぽそりと呟く。

「これは人間の気配じゃない。どちらかと言えば魔物の気配に近いな」

 ザンダンカルで散々魔物に苦しめられた経験を持つ”金狼の牙”である。その独特の好戦的で異質極まりない気は、間違えようがなかった。

「ということは、”狂犬”ではない・・・・・・?」

 考え込み始めたアウロラの肩を、ぽんとギルが叩いた。

「誰だろうと、立ち塞がる奴は薙ぎ倒すだけさ」

2013/05/15 23:47 [edit]

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Wed.

敵意の雨 5  

 島を探索する内、”漆黒の鳳凰”や”蒼の毒蛇”とは違うはるか格下の冒険者の不意打ちを受けたが、あっさりとそれを返り討ちにした”金狼の牙”たちは気になる情報を拾った。
 この島の中央にはやたらとでかい扉があり、その先に邪竜がいるであろうこと。
 それを開く為には2つの石が必要で、それはこの島のどこかにあること。
 6人の女たちが、青い石と赤い石を使ってその扉を2時間ぐらい前に開けていたこと――。

敵意15

 そこまで聞き出してすっぱり相手を殺してきたギルについて、誰も詮索はしなかった。実直と狂気を重ね合わせたようなこの男の性情は、あまり追及するべきではない。

「とすりゃ・・・・・・ここか?」

 ある地点でごそごそと茂みを調べ始めたエディンをサポートしようと、他の仲間は周囲警戒を行なっていたが、やがて彼は青い宝玉を持って出てきた。

「これが・・・・・・扉を開けるのに必要な石?」

 ミナスが突付くが、石にこれと言った反応は見られない。
 肩をすくめた一行は、残る赤い石とやらを求めてまた島を彷徨ったが・・・・。

「・・・・・・ッ!」
「この先・・・・・・誰かいるな」

 真っ先に人の殺気を感じ取ったエディンに、横にいたギルが囁いた。相変わらず、妙な勘はいい男である。

「例のパーティかもしれないわね。”鳳凰”か”毒蛇”かはたまた”狂犬”か」
「準備してから進んだ方がよさそうだな」

 落ち着き払ったアレクの台詞に、ミナスとアウロラがそれぞれ頷いて支援魔法を仲間にかけた。さらにジーニが、自分の周りに風の結界を張る。

「そんじゃま、行きましょうか」

 足を進めると、そこはひときわ荒れた土地であった。
 茶色の色彩が殆どを占めているその空間の中で、

「来たか――」

という声が聞こえてくる。
 気配もさせずに大木の陰から6人の冒険者達が現れた。

「≪狼の隠れ家≫の”金狼の牙”さんでいらっしゃいますな?」

 モノクルをつけた男が尋ねてくるのに、ギルは肩をそびやかした。

「・・・・・・人違いです、と言っても信じないんだろうな」
「ふむ、噂どおりというべきか。中々肝が据わっていらっしゃる」
「まずは、『第一陣』か――」

 面倒くさそうな顔で彼らを見つめるジーニの台詞に、聖戦士らしき金髪の女性と、髪を二つ縛りにした魔術師っぽい装備の娘が声をあげる。

「第一陣?」
「なるほど。今の言葉から察するに・・・・・・まだ”毒蛇”とも”狂犬”とも遭遇していないのね?」

 その台詞は、つまり彼ら自身が”漆黒の鳳凰”であること、そして彼らも競争するパーティの存在を認知していることを示している。
 きょとんとした様子のギルが口を出した。

「・・・・・・まさか、他の2つと手を組んでるのか?」
「ふふん。俺達を見損なうんじゃねえぜ」
「そんな汚い真似をしてまで勝ちたいとは思わねえよ」

 それぞれの獲物を構えた”鳳凰”側の男たちが言う言葉に、ギルは「ふーん」と興味なさそうに返しただけであった。
 若干その態度に苛立ちながらも、聖戦士らしき女性が鼻を鳴らす。

「私たちは今まで、多くの冒険者たちを殺してきたけど――。まさかあなた達を標的にする日が来るとは夢にも思わなかったわ。あなた達を相手にするのは、ドラゴンや魔王と戦うようなものだからね」
「ずいぶんおだてるじゃないか」

 アレクはそう言いつつ、愛剣の柄に手をかけた。
 その動作に若干後退った”鳳凰”たちが、同じように武器を構えた。アレクの見えない気迫に押されているのだ――そのことを誤魔化すように、魔術師の女と黒髪の男が再び口を開く。

「まあ、そういうことで。気の毒だけど、ここで死んでもらうわ」
「俺たちや”毒蛇”共に狙われてるのは知っていたはずだ。それでも逃げずにここまで来たのは、その覚悟があったからだろう?」
「御託はいらん」

 抜き放った≪黙示録の剣≫は、ぬらりとした輝きを放っている。赤褐色であるはずの瞳が、血色の輝きに変わっているのに気づいた雪精トールがごくりと喉を鳴らした。
 彫刻のような美青年は、厳しく一言だけ突きつけた。

「態度で示せ」
「さて――お喋りはこれくらいにするか」

敵意16

 魔法剣士同士、何か反発するものでもあるのか――アレクとジャックの目がぎらりとかち合う。
 それが開戦の合図であった。
 だが、すでに氷姫を自らに憑依させていたミナスを始め、”金狼の牙”たちの戦闘時の動きは、十分に練られ、経験に裏打ちされているものであった。
 最初に気を失ったリーダーのジャックをはじめ、ものの30秒ほどで”鳳凰”のメンバーたちは打ち倒されていく。 

「見事だ――」

 最後まで立っていた長い黒髪の男が倒れると、アウロラはぼそっと呟いた。

「これでまず1組と」
「そうだな。それにしてもコイツら――まるで話にならん。冒険者専門の暗殺集団というから、どれほどのものかと思えば――がっかりさせやがる」

 ギルが困った顔で慨嘆し、ジーニが”蒼い毒蛇”や”白銀の狂犬”も彼らとほぼ互角の強さだと思うと言うと、アレクが眉間に皺を寄せた。

「・・・・・・要するに、残りの2組も全く期待できないってことか」
「やれやれ・・・」
「随分とひどい言われよう・・・だぜ・・・・・・」

 倒れていたはずのジャックが呟くのに全員が得物を構えたが、彼の寿命がもう長くないことは、口から溢れる血泡からして明らかであった。

「さすがは天下の”金狼の牙”だぜ。俺たちが手に負えるような相手じゃなかった」
「それはどうも」
「ま、くだらねえミスで死んだりチンケな奴に殺されたりだと死んでも死にきれねえが・・・・・・お前さんたちのような英雄と戦って死ぬなら、悔いはねえさ――」
「死ぬ前に一つ聞かせろ。お前ら、誰に雇われた?」

 ギルのその言葉に、ジャックはゆるゆると首を振る。
 依頼人のことを漏らすのは冒険者のタブー――彼らもまた、冒険者だったのだ。

「とりあえず雇い主は人間じゃない、とだけ言っておくぜ」
(妖魔か、知能の高い魔物に雇われたって事・・・・・・?)

敵意17

 後方で柳眉をひそめたジーニの様子は、もうジャックの霞がかった視界には入っていないだろう。
 それでも、彼はおぼつかない手つきで荷物袋をまさぐり、そこから赤色に輝く石を取り出した。

「何も言わずに持っていきな。俺たちにゃあもう必要ねえ・・・・・・」
「・・・・・・何故敵である俺達にこんな大切な物を渡す?」
「これから死んでいく俺達には無用な物さ。それなら、生きているあんた達が有効に活用するべきだろう。違うかい・・・・・・」

 言葉もなく彼を見つめてくる一行に、ジャックは最後の力を振り絞って言った。

「簡単に”こっち”には来るんじゃねえぜ・・・・・・」

 もう楽にさせる必要もなくなった男を置いて、一行は石で開くという大扉の前まで移動した。
 色の違う宝玉が二つ、目の前の扉と共鳴するように眩しい光を放ち始める。

「これで――封印は解けたはずだ」

 そう言ってエディンは仲間たちを振り返った。
 ”漆黒の鳳凰”との戦いの後、何かを無言で考えていたジーニはようよう口を開く。

「これはあくまでもあたしの勘だけどさ。いったんこの扉の中に入ったら、邪竜を倒すまで外に戻れないような気がするの」
「・・・・・・あり得る」

 エディンはうんざりとした顔で頷いた。

「それに、扉を開けてすぐの所に敵が待ち構えているかもしれない。ちょっと準備整えてからいきましょ」
「・・・・・・そうしますか」

 ジーニの説得に首肯した仲間たちは、再び支援魔法をかけてから扉を開こうとしたが・・・・・・。
 ギルを始め、”金狼の牙”の面々は向かって右手にある森に眼を向けた。

2013/05/15 23:42 [edit]

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Wed.

敵意の雨 4  

「引き受けよう。俺たちなら不可能ではないはずだ」

 通常であれば絶望的状況とも言える今回の件に、あっさりとギルはそう決断を下していた。有体に言えば、そういう状況だからこそ燃えたのである。救い難い性を持つ青年であった。
 ――そんなわけで、翌日の正午に”金狼の牙”の面子は、シアノス港から出発した船に乗っていたのである・・・・・・。
 黒い眠たげな瞳がチロリと動いた。

「・・・・・・いねえな」
「やはり、わかるか?」

 ギルが熟練者と睨んだ3名について、彼らだけはこの船に乗っていないのをエディンは察知したのである。
 いや、エディンだけではない。他の仲間たちもまた、その違和感に気づいていた。
 だが油断はできない・・・・・・とジーニは言う。先に違う船で島へ先回りし、罠を仕掛けて待機している可能性もあるからだ。

「あ・・・・・・そうそう。万が一、島で”鳳凰”や”毒蛇”の襲撃に遭った時のことを想定してあたしなりに対策を考えてみたんだけどね」
「お、どんなのだ?」
「対策・・・・・・とは言っても、それほど大したもんじゃないわ。結局、相手の具体的な戦法とかもわからずじまいだったしね」

 期待に目を輝かせるアレクの出鼻をくじく様な言い方をジーニがする。その横でエディンがため息をついた。

「エルリースの盗賊ギルド、本当に使えなかったぜ・・・・・・。まあ、規模がかなり小さいようだったから無理もねえけど」
「まあ、その辺りについては文句を言ってもしょうがないさ。・・・・・・それで、考えた対策というのは?」

敵意12

「相手の戦法が分からない以上、堅実な方法を取りましょ。回復係を優先的に潰していくってのが、一番簡単な方法よ」

 ジーニは羊皮紙にある相手パーティの回復役を推察し、仲間たちへ話していく。
 ただ、”蒼い毒蛇”については魔法を使える人員が1人しか見当たらないので、全員が傷薬を携帯している可能性が高く、≪エメラダ≫の呪縛か、全体攻撃で蹴散らすべきだと彼女は主張した。
 話が終わると、ジーニが杖の髑髏で自分の頭を掻いた。

「さて、さっきから気になってんだけど・・・・・・」
「俺達と話がしたいなら、コソコソしてないでこっちに来いよ。ダニー」

 ギルがマストの裏に呼びかけると、「うっ」という小声とともに説明役をしていたあの青年が姿を現した。

「き、気づいてたんですね・・・・・・。いや、別に隠れてたつもりはなかったんですが・・・・・・」
「あれで気づかない方がどうかしてるだろ」
「ど、どうも初めまして!シアノス商会のダニーといいます!以前から”金狼の牙”の皆さんとは、是非お会いしたいと思っていました!」

 しゃちほこばって挨拶するダニーに、アレクが首を傾げた。

「俺達と?」
「はい!実は俺、商会で働く前はヴィスマールで冒険者をしてたんです!」
「やはりな・・・・・・。そんなことだと思った」
「え・・・・・・。知ってたんですか?」

 舳先に体重を預けながら笑うギルに、ダニーがぎょっとした顔になった。

「だって、身体つきが明らかに素人のものじゃないしな」

 淡々と幼馴染がギルの代わりの種明かしをする。

「肉体労働者ともまた違う――実戦向けの肉体をしている」
「ひ、一目見ただけでそこまでわかるんですか!?さすがだ・・・・・・!俺、冒険者やってた頃はずっと貴方達に憧れてたんです!それが今こうして会えるなんて・・・・・・!夢のようだ!」
「そ、そうか」

 あまりの興奮具合に若干引き気味になりながらも、アレクはどうにか笑顔らしきものを作ることに成功した。彼の懐では、その戸惑い具合を察知したトールが声を殺して笑っている。
 特に何もすることがない”金狼の牙”たちは、ダニーに請われるまま彼といろいろな話をしてやることにした。
 ダニーは珍しい話に飢えた田舎村の子どものように、色々な質問を一行にぶつけた。彼らが質問に答えるたびに、目を輝かせては耳を傾けている。

「やっぱり皆さんは世界一の英雄っす!ウチの商会も会長自らが出向いて、皆さんに依頼を申し込むべきだったのに!」
「う~ん。でも、名が売れた今となっても白い眼で見られることは少なくないわよ。英雄だろうが勇者だろうが、冒険者の地位はまだまだ低い」
「そうさなあ。冒険者の俺たちなんかより、商会で働くダニーのほうが世間受けはいいはずだぜ」

 エディンの言葉に、それまで底なしに明るかったダニーの表情が急に曇る。

「あ・・・・・・何かマズい事言ったか?」
「え・・・・・・。あ、ああ、すいません。その・・・実を言いますとね」

 なんとダニーは、自分から進んで商会に就職したわけではなく、ヴィスマールの宿の主人が借金を拵えて夜逃げしたことから、金を貸したシアノス商会の末端に捕まり商会で働かされることになったのである。
 商会で働いているとは言っても、ほぼ力仕事ばかり。借金の件があるために賃金はすずめの涙ほどだと彼は愚痴った。
 今回の説明会での司会も、人手が足りずにお鉢が回ってきた・・・というのが正しいそうで。

「・・・・・・まあ、幸運と言えば、まだ幸運かもしれません。やばい所に売り飛ばされたり、臓器を売られたりすることに比べれば・・・ね」
「・・・・・・話題を変えようか」

 泣きっ面になりかかっているダニーを見かねて、ギルが切り出した。
 特に助け舟を出すつもりはなかったのだが、ジーニが「それにしても」と口を開く。

「商会も思い切ったことするわね。冒険者を雇って古竜討伐だなんて」
「あ、それは僕も思った。古竜なんて、一大国の全兵力を持ってしても討ち取るのは至難の魔物なのに・・・・・・」

敵意13

「・・・・・・そのことなんですけどね。どうもおかしいんです」

 ダニーはぽろりと自分の意見を話し始めた。

「ん?」
「と言うのも――依頼を出す前は、商会の中で邪竜の話題が出てきたことなんて、全くなかったんですよ」
「じゃあ、なんで今回のような依頼を出したの?」

 ミナスのその質問はまったくもって真っ当なものであったが、ダニーにはそれに答えることができずに首を横に振る。

「俺にも分かりません・・・・・・。邪竜討伐の話が出てきたのは、つい5日前のことでしたし」
「5日前って――」
「商会の人間が、私たちに依頼の話を持ちかけてきた日じゃないですか・・・・・・」

 絶句したようなギルの台詞をアウロラが引き取った。
 ダニーによると、その日の昼頃に商会の人間全員が集められ、会長の命が下ったのだと言う。
 曰く、「暗黒邪竜の依頼を出すぞ!都市にいる冒険者全員に声をかけて来い!」・・・・・・と。
 ダニーは、会長のワンマンさや日頃からムチャな命令をしていることは承知していたが、今回の件だけはしっくり来ずに首を傾げていたらしい。
 彼がそこまで語った時、

「おい、ダニー!悪い、ちょっと来てくれ!」

という商会の同僚の声が響いた。
 ダニーは”金狼の牙”たちに中座を詫び、その場を足早に離れた・・・・・・。

「・・・・・・ジーニ」
「ええ、わかってるわ」

 大人組には、その呼びかけだけで充分であった。すなわち――どう考えても、今回の依頼は不自然で怪しすぎること。

「今回のヤマが片付いたら――会長とやらに、じっくり話を聞いてみましょう」

 さっくりと尋問もやってしまう一行の頭脳は、実は恐ろしい意味を秘めた台詞をさらっと口に出した。
 やがて一行の乗った船は、竜の島へと近づく。
 離れていても魔物の殺気をびんびんと感じるアレクの横で、ギルは左手をかざしながら島を眺め、心中で呟いていた。

(島を見てると――ケノダインの依頼を受けて財宝を探しに海賊王の島まで行った時のことを思い出すな)

敵意14

 かつての海賊王シェクザがどんな人物だったのか・・・・・・今回の依頼とは関係のないそれを、ギルは船を下りるその時までつらつらと考えていた。

2013/05/15 23:39 [edit]

category: 敵意の雨

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Wed.

敵意の雨 3  

 彼が宿≪舌ピアスの聖母亭≫にたどり着いたのは夜9時過ぎのことであった。≪304≫と、装飾のなされた文字で書かれたドアをノックする。

「誰だ?」

敵意09

「俺だ。今帰った」

 ギルの声に、明るいジーニの声が応じる。

「あ、お疲れ!開いてるわよ」

 部屋に入ると、アウロラが疲れた様子のギルにお茶を淹れてくれた。

「お帰りなさい。どんな仕事でした?」
「案の定と言うべきか、厄介そうなヤマだ。というのも――あれ?」

と、部屋の中にエディンがいないことに気づく。

「ああ。エディなら、盗賊ギルドに行ってるわ」
「盗賊ギルドに?なんでまた?」

 秘蔵のお菓子であるクッキーをギルのソーサーに乗せながら、ミナスが答えた。

「どうも商会が胡散臭いんで、何か情報がないか聞きに行くって言ってたよ。・・・・・・まあ、商会が胡散臭いってのは同感だけど」
「多分、そろそろ帰ってくるんじゃないか」

 アレクがそういった矢先、またもや静かなノックが響いた。

「俺だ・・・・・・。今帰ったぜ・・・・・・」
「噂をすれば何とやら」

 肩をすくめるギルの横で、アウロラがにこやかに言った。

「お疲れ様。開いてますよ」
「ただいま・・・・・・」
「お帰り・・・・・・って、どうしたの?そんな暗い顔して」
「ああ、ちょっと・・・・・・な。悪い知らせというか何と言うか・・・・・・」

 無言で眉を寄せたアレクの反応に続き、ギルが「一体、何事だ?」と訊ねる。

「あー・・・・・・。俺の話の前に、とりあえず依頼の詳細を聞かせてくれね?その後で話すからよ」

敵意10

 言われるままに、ギルは仲間たちへ今回の依頼について話を聞かせた。
 顎に手を当てて考え込むアレクや他の仲間がため息をつく中、ぽつりとエディンが漏らした。

「・・・・・・最悪だぜ」
「まあ、確かに最悪と言えば最悪かもね。全ての魔物の中で最強という意見が一番多い奴だし」

 素直なミナスが同意する。
 こてり、と小首を傾げたアウロラがエディンに向き直り口を開いた。

「でも、古竜クラスの魔物とは過去に何度も戦ったことがあるでしょう?」
「確かに、そうなんだけどよ――」

 そこで、杖の髑髏を人差し指でリズムカルに叩いていたジーニが発言した。

「まさか、よりによってあの暗黒邪竜とはね――」
「え?知ってんのかよ、ジーニ?」

 エディンが水を向けると、ジーニは「まあね」と肩をそびやかした。

「一応、竜に関する知識ではそこらの学連の教授より上だと自負してるわ」
「知ってる範囲でいいから、暗黒邪竜とやらのことについて詳しく教えてくれないか?」

 ギルがそう切り出すと、ジーニは割りとあっさり頷いた。
 気分屋の彼女は、勿体つけて講釈を垂れる時もあれば、こちらが拍子抜けするほど素直に説明してくれる時もある。
 何から話そうかな、としばしジーニは人差し指を紅唇に当てていた。ギルが大まかな特徴を教えて欲しいと希望すると、すらすらと頭の中にあるデータを引っ張り出してきた。

「まず、年齢については定かじゃないの。古竜だから、少なくとも千年は生きていると思うけど、専門家によっては、三千年以上生きているという説を唱える人もいるわ」
「三千年・・・・・・。もしその説が本当なら、古竜の中でもかなりの長寿ですね」
「体の大きさは?」

 トールに残りのお茶を全部あげてしまったアレクが、振り返って問う。

「それも説によってバラつきがあってね。でも、おおよそ50mから100mの間だと思うわ」

 呆気に取られた様子のエディンの横で、ジーニは竜族の平均全長は30mほどと説明する。つまり、暗黒邪竜の大きさは平均の2倍から3倍もあるのだ。
 勇敢な少年であるはずのミナスが、さすがにジト目になった。

「・・・・・・死ぬかもね」
「他の特徴はと言えば――鱗の強度は並みのドラゴン以上で、金剛石にも匹敵するという説すらあるわ。それと、さっき言ったように体が半端なくでかいから、普通のドラゴンより遥かに力が強い」
「・・・・・・」

 黙りこんでしまったギルをちろりと見てから、エディンが挙手した。その口元は敵の強烈な情報にひくついている。

「先生。我々に勝てる要素が見つかりません」
「そう悲観することもないわ」

 驚くべきことに、ジーニはけろっとそう言い放った。

「確かにこれまでは長所しか述べてないけど、奴には致命的な弱点が2つもあるもの」
「致命的な弱点・・・・・・?」
「そうよ、エディ。わかんない?・・・・・・まず一つ目だけど、奴は神聖な攻撃に弱いの」
「神聖な攻撃っていうと、【浄福の詠歌】みたいな?」

 エディンの視線の先で、アウロラが目を丸くして自分を指差している。

「そう。でも、暗黒邪竜はアンデッドじゃないから、そういう攻撃で消滅することはないんだけど、神聖な光を浴びれば、その強靭な鱗は大幅に脆くなってしまうの」

 ひらひら、と繊手が踊った。

「一説によれば、人間の皮膚と同じくらいの脆さになるらしいわ」
「なーるほど。神聖な攻撃を食らわせて鱗を弱体化させてしまえば、充分勝機はある・・・!」

 ギルが小さなガッツポーズを作る。

「二つ目の弱点は、これはもう致命的なんてもんじゃないわ。古竜にあるまじき欠陥とも言えるわね」
「・・・・・・何なんです?」
「ぶっちゃけて言えば、ムチャクチャ頭が悪いの。魔法を使うことは愚か、言葉を喋ることもできないわ」
「え・・・・・・」

 そう呟いたギルをじーっと見つめながら、ジーニは続ける。

「多分、知能は獣並みなんじゃないかしら」
「・・・・・・おい待て、何でこっち見る?俺喧嘩売られてるの、ねえ?」
「いいから、ギル落ち着いてって!」

 ミナスが泡を食って彼に近寄り、その膝をぽふぽふ叩いた。
 落ち着いたところを見計らって、小さな顔がジーニを振り向く。

「・・・・・・マジですか?」
「ええ。そもそも古竜であるにも関わらず、ツガティグエやローファフォンのような固有名がないのはそれが原因なの」

 何しろ、自分で名乗ろうにも言葉を喋れない。
 人間が名づけようにも「あんな知能の低い古竜は古竜にあらず。固有名は不要」という意見が一般的だったりする。

「まあ、名前のことはさておき。魔法が使えないってのは深刻な弱点でしょ?」

敵意11

「確かに」
「でも、何故でしょう?古竜のくせに、そんなに知能が低いなんて・・・・・・」

 首肯しているアレクに、トールと違う新たなお茶を注いで渡してから、アウロラが心中の疑問を投げかけた。

「大男、総身に知恵が回りかね――ってやつじゃない?」
「うーん・・・・・・。弱点についてはよくわかりました。これは思ったより、楽な相手かもしれませんね」
「油断は禁物よお。確かに致命的な弱点があるとは言ったけど、邪竜が弱いなんてこれっぽっちも言ってないじゃない」

 ジーニは「例えば」と髑髏のついた杖を振り回して言った。
 邪竜は口から黒い火炎を吐く。闇の属性が強く、恐ろしいまでの破壊力を秘めたブレスは、魔剣を持った魔族50人を一瞬のうちに焼き尽くした。
 そして、魔法が使えないということは、ひたすら力任せのゴリ押し戦法で攻めてくる――ということでもある。
 決して勝てない相手ではない。だが、ほんの僅かな油断が命取りになるのが暗黒邪竜という敵なのだ。

「・・・・・・よく肝に銘じておくよ」

と呟いたギルは、”金狼の牙”の他の面々を見渡して依頼を引き受けるか否かを問うたが、概ね引き受けようかと言う流れになった。
 その時、エディンが発言した。

「俺は反対だ」
「あら」

 ぱちくりと目を瞬かせたギルの膝の上に座っていたミナスが、「・・・・・・どうして?」と小首を傾げる。

「タイミングが悪すぎる・・・・・・」
「タイミング?どういうことです?」

 大体において、”金狼の牙”での交渉役を担っているエディンとアウロラは、盗賊と僧侶という対照的な立場にありながら、お互いの考えというものがある程度は読めている。
 それは人生経験を積み様々なことを学んできた最年長の男と、時に聡明すぎるほど聡明な知識欲の強い娘の、他者にはよく理解できない交感であった。
 アウロラのどういうことか、という問いは、必然的に「どういう不利な情報を抱えてきたのか?」ということに他ならない。
 それに気づいたギルとアレクは顔を見合わせ、同時にエディンの方を見つめた。

「結論から言うぜ」

 彼は腕組みをした。

「同業者の集団が俺達の命を狙ってるらしいんだよ・・・・・・。それも3組」

 さすがに動揺の声をあげる”金狼の牙”の仲間たちに、エディンはフラットな声でとびっきりタチの悪い3組について語った。
 冒険者の暗殺を生業としている特異な集団の”漆黒の鳳凰”。優れた実力と功績を持つが、黒い噂の絶えない”蒼い毒蛇”。女性のみで編成されているが、全員が凶暴で好戦的と名高い”白銀の狂犬”。

「・・・・・・どの名前も聞いたことはあるだろ?」

 それぞれのパーティ構成を書き留めた羊皮紙を配られた。
 普通に考えればどれも”金狼の牙”よりは格下のパーティだが、一度に3組となると憂鬱にならざるを得ない。
 羊皮紙にちらっとだけ視線を向けたミナスが、困惑したような顔で訊ねる。

「一体どこの誰が雇ったんだろ?そこまではギルドも教えてくれなかったの?」
「教えてくれなかったんじゃなくて、ギルドもそこまでは掴めなかったみてえだ。・・・・・・信じられないことだがよ」
「・・・・・・なあ、ちょっといいか?」
「なんだい、リーダー」
「その3組のパーティの情報なんだが・・・・・・最初に名前が書かれているのがそこんとこのリーダーか?」
「そうだぜ」

 鳳凰はジャックという魔法剣士、毒蛇はゼノという魔術師、狂犬はソフィアという女戦士、いずれも大した実力者だと言われている。

「どうかした、ギルバート?」
「俺・・・・・・そいつらと会ったかも」

 ジーニの問いに、ギルは説明会で見かけた3名の冒険者について話した。

「”鳳凰”や”狂犬”ほどの冒険者パーティはそうそういない。それに連中のこと・・・・・・あたしたちがエルリースにいるという情報はすでに手に入れてるはず」

 シアノス商会の依頼を受けるふりをして、自分たちに近づこうとしているのではないか――という意見に、一同は厳しい顔つきとなった。
 いずれにしろ商会の依頼を受ければ、最悪、暗黒邪竜だけではなく3組の冒険者パーティと戦う羽目になる。エディンの危惧はもっともであった。

2013/05/15 23:37 [edit]

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Wed.

敵意の雨 2  

 海港都市エルリース。
 ギルがリューンの遥か西にある街へ仲間とやって来たのは、依頼の為ではなく半分以上観光目的での滞在であった。
 それが今から3日前の夜、一行が都市の酒場で寛いでいると、1人の商人風の男が話しかけてきたのである。
 男の話を簡潔にまとめるとこうだ。

「私はこの街の商会の人間です。あなた達のような優秀な冒険者に是非お願いしたいことがあります。報酬は皆さんの満足のいく額を商会の名にかけて約束しましょう。ただ、依頼の詳細はここでは言えません」
「もし興味がおありでしたら3日後の夜、あなた達の中から代表者を1人選んで街の北西にある集会場までお越しください」
「ただ、この件はあなた達だけではなく複数の冒険者パーティにも依頼をするつもりですので、あらかじめご了承を――」

 その時は男の話を怪しまないでもなかったが、商会が実在すること、そして男がそこの商会の人間であることをエディンが翌日に確認。
 今のところ、特に仕事もない一行は話だけでも聞きに行くことにし、ギルが男の指定した場所まで足を運んだのだった。

「あそこか・・・・・・」

 街の中で、ひときわ豪華でも何でもない建物は、まさに街の外観に『溶け込むように』してあった。個人の邸宅とはほど遠い様子のその造りだけが、集会を目的とした建物であることを物語っている。
 ギルは小さく息を吐くと、ゆっくりと集会場の扉を開いた。

(これは・・・・・・)

 中に入ると、そこには多くの冒険者達がひしめき合っていた。

敵意04

(依頼を申し込んだ冒険者は俺達だけじゃないと言ってたが・・・・・・。予想してたより多いな。30人はいそうだ。)

 冒険者は基本的に、4~6人のパーティで行動する事が多い。
 今この場に集まっているのはパーティの代表者のみなので、依頼を受ける冒険者は120~180人はいる計算となる。

「おい、アイツ見ろよ・・・・・・。”金狼の牙”のギルバードじゃないか?」
「え、ギルバートって・・・・・・あのキーレの英雄かよ!?」
「ああ、間違いない。・・・・・・本物の”暴風”ギルバートだ!」

 ギルはすっかり他の冒険者たちの注目の的となっている。・・・・・・正直、複雑な気分だった。

(・・・・・・俺も有名になったのものだ。ってゆーか”暴風”ギルバートって何だよ。名乗ったことねえぞ、そんなもん。)

 そんな彼の思いと裏腹に、まだこそこそした周りの囁きは納まらない。

「ねえ、知ってる・・・・・・?ギルバートと揉めて潰された冒険者は、10人や20人じゃきかないらしいわよ・・・・・・?」
「マジかよ!こわーっ!!」
(心なしか、噂が捻じ曲げられてるような気が・・・・・・。バトルオリンピアトーナメントのことと混ざってるんじゃねえか?)

等と考えながら、ギルは辺りをさり気なく見渡した。
 それにしても――あまり大した実力の冒険者はいなさそうである。そのほとんどが、中堅か駆け出しといったところ。

(・・・・・・あの3人を除いては)

敵意05

 ギルの目がきゅう、と窄まった。他の冒険者たちとは明らかにレベルが違う。
 もっとも、そのことに気づいているのはギル自身と当の3名だけであったろう。
 そこまで考えた時、コツコツという小気味のいい革靴の足音が廊下の方に響き、部屋に集まっていた冒険者たちは顔をあげて入り口を見やった。

「・・・・・・お。誰かきたみたいだぜ」
「商会の人じゃない?そろそろ時間だし」
「これだけの冒険者を集めて説明会をするぐらいだから、やっぱり長話になるのかな・・・・・・」

 そんな会話をしているうちに一番奥の扉が開き、商会の人間らしき男が姿を現した。
 会場の中に入ってきたのは、20代半ばぐらいの精悍な顔つきをした男だった。
 一見すると中肉中背のようだが、見る者が見れば、この男がかなり鍛えられた体の持ち主であることがわかるだろう。

(・・・・・・あれは素人じゃないな。それに何か同業者の匂いがする)

 そう推察するギルを余所に、男は口を開いた。

「皆さん、こんばんは。本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。ただいまより、我々シアノス商会が提示しております依頼についての説明会を開始したいと思います」

 男はそこでお辞儀をした。

「申し遅れました。私、本説明会の司会を努めさせていただきますダニーという者です。以後宜しくお願いします」

 彼はきびきびと、説明会は質疑応答を含めて40分ほどを予定していることを話し、その間の入退室は自由であること、ただし他の者の迷惑にならないようにすることを述べた。

「では、本題に入る前にお伺いしたいのですが――皆様の中で、このエルリースを拠点にしていらっしゃる方はおられますか?」

 約30人の冒険者の中で、挙手をしたのは2人だけだった。

「では最初に、エルリースがどういう都市なのかをお話しましょうか。そもそもエルリースの成り立ちは――」

 それから約20分に渡って、海港都市エルリースについての詳しい紹介が行なわれた。
 歴史・特産物・主産業等々――歴史や特産物についての説明はそれほど時間は割かれなかったが、主産業である交易についての説明はかなり熱が入っていた。
 そのことから、エルリースにとって交易業いかに重要なのかが窺える。

「・・・・・・というわけなのです。ですので、我々シアノス商会――いえ、エルリースにとって新たな交易の航路を開拓することは重要な課題なのです」
(航路の開拓、ね・・・・・・。)
「さて、ここから本題ですが――その航路開拓にあたって、深刻な障害があるのです」
「深刻な障害?」

 そう疑問を口にしたのは、黒いフードを目深に被った男だった。ギルが気にした実力者のうちの1人である。 
 ダニーと名乗った説明役はこっくりと頷いた。

「はい。エルリースから、西に船で1日程の処に一つの孤島があるのですが・・・・・・『障害』というのは、その島なのです」
「島が?」
「!ま、まさか・・・・・・」

 訝しげな表情をする者の多い中、そう言って立ち上がったのは先ほど、エルリースを拠点にしていると言っていた冒険者であった。

「そ、それって・・・・・・『竜の島』のことか!?」
「そのとおり。『竜の島』です」

 首を捻るギルのやや前方に座ったヒゲ面の男が、渋いバスでダニーに問うた。

「何だい、その竜の島ってえのは――」
「何の変哲もない、ただの小さな島ですよ。・・・・・・魔物共の巣であるということ以外はね」
「・・・・・・!」

 航路開拓にあたって、魔物の巣窟である島は障害以外の何物でもない。
 過去、あの島に近づいただけで魔物共に沈められた船は数知れず、と説明役は顔色も変えずに言った。

「ここまで申し上げれば、勘のいい方ならもうお分かりと思いますが、我々シアノス商会が皆さんに依頼したいことは、竜の島に巣食う魔物共の掃討です」

 彼は言う。島の魔物の数は全くの未知数であると。

「今この場にいる方々のパーティを全て動員しても、根絶できる可能性は決して高くはないでしょう」
「じゃあ、どうするんだ?」
「そこで我々は考えました。魔物共の親玉さえ倒せば、島から魔物はいなくなるのではないかと――」
「魔物共の親玉?」

 口々に疑問をぶつけてくる冒険者パーティの代表者たちに、ダニーは臆することなく答えた。

「はい。よって、その魔物の親玉を倒していただけたら依頼完了とみなし、報酬を支払いましょう。報酬は10000spを用意しております」

 ギルは手袋したままの指で頬をかいた。

(これはまた、べらぼうな・・・・・・)

 呆れたような顔のギルの近くにいる冒険者たちは、すっかり興奮しきった声で言い募っている。
 そんな中、最初にエルリースを拠点にしていると挙手した男たち2人の顔色はすっかり蒼白となっていたが。

「ほ、本当か!?その親玉とやら1匹倒しただけで、10000spもくれるのかよ!?」
「はい。証拠となる品を持って、商会本部までお越しくだされば報酬をお支払いします」
「うおおおおおおお、マジか!」
「おい、俺と組もうぜ!」
「バカ言ってんじゃねえ!10000spは俺達のパーティがもらうぜ!」

 興奮と狼狽の坩堝で、それでも微塵も表情を変えない者が4人。
 うち1人であるフードの男が、ふらりと顔を説明役へ向けた。

「・・・・・・ダニーさんと言ったな。一つ聞かせてもらえないか」
「何でしょう?」
「その魔物の親玉とは、どんな奴なんだ?」
「ドラゴンです」

 ダニーがそう呟いた瞬間、ざわめきがピタリと止んだ。

「お、おい・・・・・・。今、何て言った・・・・・・?」
「我々シアノス商会が、皆さんに討伐していただきたい魔物の親玉とはドラゴンなのです。・・・・・・厳密に言えば、エンシェントドラゴンなのですが」

 エンシェントドラゴン。一説によれば、神や悪魔にも匹敵するとまで言われる伝説の魔物である。その名を知らない冒険者がいたら、冒険者など廃業した方がいい。
 そんな伝説の魔物が標的であるとわかった今――場内にいる冒険者たちの頭からは報酬のことなど吹き飛んでしまったことだろう。

(・・・・・・そんなことだと思った)

 ギルは脚を組んだ体勢で、やれやれと頬杖をついた。
 ダニーは説明した。
 ドラゴンの名前は暗黒邪竜。全身を黒い鱗で覆われていることからそう名づけられたという。
 いつ頃から島に住み着いているのか、どういった性質を持つのか、といったことはほとんど知られていない。
 ただカルバチア図書館の文献によると、900年前の時点ですでに暗黒邪竜が島に生息していた記録が残っている。
 900年以上も生きているということは、古竜すなわちエンシェントドラゴンと見て間違いないだろう――というのがシアノス商会の見解らしい。

「纏めに入りますが、依頼内容は島にいるエンシェントドラゴン、暗黒邪竜の討伐。報酬は10000sp。期限は1週間ということでお願いします」

 この条件で納得して貰えたなら、明日正午にエルリースの港まで足を運んで欲しい、とダニーは凍りついたように動かない面々を見回した。

「そこから当商会の船で、皆さんを島までお送りいたしましょう。島に到着してから、その1週間後に迎えの船を送ります。依頼の成功失敗に関わらず、その船には絶対に乗るようにしてください」
「・・・・・・条件に納得できない場合は?」
「無論、条件がお気に召さない場合は無理に引き受けてくださらなくて結構です。断りの旨を伝える必要もありません」

 説明は以上だと区切ったダニーは、質疑応答の時間を取る事にした。
 遠慮なくギルが手を挙げる。

敵意06

「ちょっといいか?ドラゴン級の魔物を討伐するなら普通は騎士団の出番だろう。何故冒険者に依頼を出す?」

 実際、”金狼の牙”がやった蟲竜退治においても、ランプトン卿の騎士団が派遣されていた。結果的に、あれはシニサという1人の騎士と”金狼の牙”たちとの共闘となったが――。

「実は過去に2度――約300年前と約70年前に国は騎士団を島に派遣し、邪竜討伐を試みたのですがいずれも全滅したらしいのです」
「き、騎士団でも歯が立たなかったのか!?」

 上ずった声が駆け出しらしい男から発せられ、ダニーはいずれも1万人以上の大規模な騎士団が出動された旨を話す。

「・・・・・・ですが我々は、その敗因は単純な強さの問題だけではないと考えています」
「どういうこと?」

 眉をひそめながら聞いたのは、赤みがかった金髪の女性であった。

「まず一つ目。騎士団とは本来、国の戦争――すなわち、自分たちと同じ人間との戦いでこそ力を発揮するもの。相手が魔物では、本来の実力を発揮できないでしょう」
「そして二つ目。あんな小さな島に万単位の騎士団を送り込んでも、活躍は到底期待できません。それならば、少人数での行動が得意な冒険者たちの方が遥かに有利でしょう」

 以上のようなダニーの説明に、中堅や駆け出しといった風情の代表者たちは口々に「なるほど」などと呟き、首肯している。

「そういった要因を考慮に入れて、我々は冒険者である皆さんに依頼を申し込むことにしたのです。・・・・・・それに」
「それに?」

敵意07

「我々は、現在この都市にとある英雄達が滞在していることを耳にしました。凡百の騎士団など及びも付かない力を秘めた英雄達のことを――」
「英雄たち・・・・・・?」
「!そ、それってまさか・・・・・・!」

 場内にいる冒険者達が、一斉にギルの方を向く。

「その通り。リューン・・・・・・いや、世界最強と言われている”金狼の牙”です。ギルバートさん。あなた達には商会の人間全員が期待していますよ」
「期待されすぎても困るな・・・・・・。やってみなければわからんよ」

敵意08

「ははは。あなたが言うと、頼もしく聞こえるから不思議です」

 ギルは不本意そうな顔になって頭を掻いた。彼が言ったのは謙遜でも何でもなく、本気の言葉だったのである。
 何しろ、今のギルにはその暗黒邪竜とやらの能力も竜の島の知識も、何も前情報がない。
 ロスウェルの時は、あの先輩冒険者からの説明があった。だからこそ、彼らはあの黒エルフの崇拝する竜が待つ穴へ飛び込んだのである・・・・・・。

(後でジーニに聞いてみよう。)

 彼の思いとは裏腹に、ダニーの台詞は続いていた。

「それに加えて、ここにいらっしゃるのはいずれも有能な方ばかり・・・・・・。皆さんの力を持ってすれば、必ずや我々の期待に応えてくださるものと信じています」
(とてもそうは見えんが。)

 その有能な方々とやらから、報酬についての追加質問があった。
 邪竜以外を倒した者に対する報酬――それについては1匹につき50spを支払うそうだ。勿論、証拠の品あってと注釈をつけることを忘れない。
 70年前の記録ではオーガ・トロール・ミノタウロス等がいたという。
 大方の冒険者たちの意識は、邪竜討伐からその雑魚退治にシフトしたようだ。10匹退治で真っ当な報酬になることや、今は魔物の顔ぶれが少し変わっているのではと口々に呟いている。

(皆、邪竜を倒すことは諦めているようだな・・・・・・。まあ当然と言えば当然だろうが。)

 上がった質問もそこまで。ダニーは説明会を終了することにした。

「それでは、説明会を終了させていただきます。本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございました」

 彼のその言葉を契機に、場内の者達は次々と立ち上がり、出口へ向かっていく。

(帰るか――。)

 そう思い立ち上がったギルの視線の端で、悠々と座るヒゲ面の男の姿が、妙に彼の記憶に残った――。

2013/05/15 23:33 [edit]

category: 敵意の雨

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Wed.

敵意の雨 1  

「おう、来たか」 
「ハッ!ここに!」
「・・・・・・どういったご用件でしょう?ディアーゼ様」

 その場に集まったのは3名の影だった。
 特筆すべきは、ディアーゼと呼びかけられた、最初に「来たか」と発言した影である。それは紛れもなく少年期特有の高い声であった。
 彼はその声で言った。

「その前に、ジュビアはどうした?まだ来てねえのかよ?」

 不満そうな響きに、「ここに」とすぐ応えた方の影が戸惑いがちに言う。

「すぐに来るように伝えたのですが・・・・・・」

 そのときだった。

「遅れて申し訳ございません」

 女の声が響く。これで4度目だと怒鳴る声に、彼女は怒鳴らなくても聞こえるとからかうように返した。
 一触即発の雰囲気を止めたのは、少年の声であった。

「やめとけ、バルガス」
「し、しかし・・・・・・」
「ジュビアもいい加減、呼ばれたらとっとときやがれ。分かったな」
「以後気をつけます」

 そのやり取りに、残る一つの影が(何故こうもこの女には甘いのか)という表情をしたことに気づいたのだろう少年の声が、

「何か言いたそうだな、イルード?」

と鋭く問う。
 気づかれたことと、それについて追求されたことによる狼狽の声が出たが、「何でもございませんよ」という台詞でその場は納まった。
 バルガスと呼ばれた影が、ここに自分たちを集めた理由を少年へ訊ねる。

敵意01

「・・・・・・本題に入る前に、お前らに聞いときてえんだが。”金狼の牙”のことは知っているな?」
「”金狼の牙”・・・・・・ですか?はて、聞いたことがあるような・・・・・・」
「何ですそりゃ?新しくできた娼館ですかい?」

 バルカスとイルードがそう応えるのに、ディアーゼという少年はあからさまに脱力した声をあげた。

「・・・・・・知らねえのかよ」
「人間の冒険者集団ですよね?それも、極めてタチの悪い――」

 残るジュビアが切り出した評価に、我が意を得たりといった風情で少年は頷いた。
 人間の。
 わざわざそういう単語を冠した事からも分かるとおり、この場に居る影はいずれも、人ではない。
 三つ目の魔族、青白い顔の吸血鬼、傷だらけの顔を持つ狼男、大柄で継ぎ目の目立つ人造人間・・・どれもがある意味で「人間」の敵側に位置する存在であった。

「そうだ。もっとも、『タチが悪い』なんてレベルじゃねえがよ」
「人間・・・・・・!」

 はき捨てるようなバルカスの言葉に、イルードが茶化すように出した台詞が重なった。

「人間の冒険者・・・・・・ねえ。そんな連中、取るに足らないでしょ?」
「普通なら、ね」
「ああ?」

 そんなイルードを鼻で笑うかのようなジュビアに、彼は不審そうな声をあげた。

敵意02

「そうね。例えば・・・風の大悪魔ヴィンディバックス。ザンダンカルに封じられし魔王。冥王カナン――」

 ジュビアは次々と人外の強者の名を挙げていく。それはディアーゼももちろんのこと、バルガスやイルードもよく知っている名ばかりだった。

「・・・・・・全員、”金狼の牙”の被害者でしたわね?」
「ああ、その通りだ」
「おいおい、ウソだろ・・・・・・!どれもヤバい奴らばっかりじゃねえか!」

 落ち着き払ったディアーゼの首肯とは対照的に、額に脂汗を滲ませたイルードが叫ぶ。
 その様に三つ目の少年は苦笑した。

「全くだ。・・・・・・どいつもこいつもヤバすぎて、俺でも近づきたくねえ。だが――”金狼の牙”の連中は、そいつら全員に打ち勝ってきたんだよ」

 バルガスが勢いよく首を横に振り、イルードが動揺する。

「バカな・・・・・・!人間如きにそんな・・・・・・!」
「し、信じられねえ」
「”金狼の牙”ともし戦うことになれば、いくらディアーゼ様といえどかなり分が悪いのでは?うふふ・・・」
「ジュビア!!言葉に気をつけんかァ!!!」
「あら、事実を言ったまでよ?」
「何!?」

 どれほどこの魔族に心酔しているのか、バルガスは噛み付くように――まさしく文字通りの意味で――ジュビアに反論し激昂したのだが、当の本人から水を差された。

「ジュビアの言う通りだよ。とてもじゃねえが勝てる気がしねえ」
「ディアーゼ様!?何を仰います!!」
「考えてもみろ、バルガス。今さっきジュビアが挙げていった奴ら――。あいつらを倒すような連中が、俺の手に負えると思うか?」
「そ、それは・・・・・・」

 口篭ったことそれ自体が、何よりも雄弁な答えである。
 決してこの狼男の気性が嫌いではないディアーゼは、彼を宥めるように見た後に口を開いた。

「しかし、だ。逆に考えれば――もし、この手で”金狼の牙”をブチ殺せたら?」
「!」
「あの連中を俺がブチ殺したら、闇の世界で俺に逆らう奴は今よりも遥かに少なくなる。・・・・・・そうは思わねえか?」

 反抗的な言動の目立つジュビアですら、それに同意した。

「”金狼の牙”のボケ共の首には、それだけの価値がある。これを利用しない手はねえだろ?」
「・・・・・・なるほど」

 小ずるい笑みを浮かべて吸血鬼が頷く。その向こうで、狼男がディアーゼへ新たな忠誠を誓うかのように宣言した。

「話はわかりました。憎き人間共を滅するためならばこのバルガス、喜んで力を尽くしましょうぞ!!」」
「意気込みは買うが、まあ落ち着け。連中の力を侮るな。さっきも言ったとおり、闇の強者たちを次々と討ち取ってきた奴らだ」

 ぺろり、と闇の中で赤い舌が蠢く。

「いくら俺達といえども、まともにやり合えば勝ち目はねえ」
「ぬう・・・・・・!」
「・・・・・・じゃあ、どうすれば?」

敵意03

「・・・・・・まともにやり合えば、な」

 ディアーゼはそう言ってニヤリと口元を歪めた。
 その笑みを目にしたジュビアたちの背に冷たいものが走る。

「俺にちょっとした考えがあるんだけどよ・・・・・・。当然、お前らにも乗ってもらうぜ?」

2013/05/15 23:29 [edit]

category: 敵意の雨

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Wed.

木の葉通りの醜聞 9  

 大蜘蛛は馳せる――。
 女優イルマ・スカルラッティによって用意された食卓のもとへと――!

醜聞30

「さぁ・・・網にかかるのはあなたか私か・・・」

 アウロラは徐々に近づいてくる大蜘蛛の醜怪な姿を視界から外さぬようにしつつ、苦しげな吐息を漏らした。
 この罠はタイミングを逃がしてはならない。
 逃がしてしまえば、今までの仲間たちの努力も、面倒な教会からの手引きも、7人目の被害者の命ですら台無しになってしまう・・・それだけは御免である。

「勝負・・・!!!!!」

 声なき咆哮を正面から浴びせられながら、彼女はカッと目を見開いた。
 その大蜘蛛が範囲内に体の全てを滑り込ませた瞬間、アウロラは己の魔力を最大限まで燃やして罠のトリガーを引いた。
 たちまち、夜闇に走る白い細い閃光が、蜘蛛の巣をも凌駕するほどの複雑な紋様を描く。
 それは聖北教会による円陣――魔法陣であった。

醜聞31

「かかっ・・・た・・・!」

 ぽたり、と彼女のこめかみから顎へと汗が伝った。
 その陣は、あわや大蜘蛛がアウロラの喉笛をかき切る寸前に発動したのである。
 かくてこの大捕り物はアウロラが完全に掌握した。

「これが聖北教会へ円陣の開発を頼んだ理由です!」

 両の手で結んだ印を叩いてその終焉とする。
 この魔法陣には強力な【破魔の印】が組み込まれていた。
 アウロラは、陣の中へ残されたこの事件の顛末を確認して呟いた。

「・・・・・・やっぱり・・・」

 だがそこまでが限界――。
 目前の景色がぐにゃりと音を立てて歪んでいく・・・。

「翡翠の海の対毒結界といえども・・・・・・さすがに一気に中和できるような毒ではなかったですか・・・」

 アウロラはがっくりと膝をつき、やがてその場へ倒れこんだ――が。なにやら、誰かに呼ばれている気がする。

「お起きになって」
「つ・・・っ」

 アウロラが緋色の双眸を見開くと、そこにはいつもの上等な衣服に身を包んだ女優イルマ・スカルラッティが立っていた。

「蜘蛛の消化液をお飲みになったのよ。中和液を飲ませておきましたが暫くは動けませんわよ」
「そう・・・ですか・・・」

 何故自分を助けたのか。
 そんな当たり前の疑問を、アウロラはわざと口に乗せなかった。乗せる必要はないと思った。

「・・・・・・。名乗らぬ画家様、教えて下さいませ。何故・・・何故。私の全てをお知りでいらっしゃるの?」

 どこかあどけない幼女のようなその問いに、つかの間アウロラは微笑んだ。

「偶然の積み重ねに過ぎません、が・・・。そうですね・・・最初は・・・木の葉通りの変死事件を知り、死体を見る機会がありました」

 あの時にアウロラは思ったのだ。
 その死体は、血や水分を「啜られた」のではなく・・・「消化された」と考えるべきではないのかと。それが全てのきっかけであった。

「相手に消化液を流し込み後から回収する――。そう、体外消化です。そんな芸当、人にはできません」
「ええ・・・そうです・・・それは蜘蛛の食事法なのですよ」

醜聞32

「次の偶然はとある外交官との話でした。マリーオ氏はご存知ありませんか」
「・・・・・・・・・」

 だが女優は黙したまま。

「実を言うと貴女は・・・私とも面識があります。しかしその反応はまるで初対面」

 そこでアウロラは考えた。マリーオ氏の虚構か、イルマ女史の虚構か、第三者の振るまいか。貪欲な彼女は、とことん調べつくしてみたのである。
 その結果、マリーオ氏に嘘がないことは判明した。
 イルマ女史も、女優スカルラッティとして非常に確かであるらしい・・・では何故話がすれ違うのか?

「それは貴女がスカルラッティでありながらスカルラッティではなかったということです。本当の女史は・・・左利きでしたからね」

 悪戯っぽく片目を瞑ってみせたアウロラは、変死事件にそれをつなげたことに話を向けた。
 規則的に起こる事と大蜘蛛によって手が下される事。
 動機が金銭でも怨恨でも艶事でもないとなれば・・・愉快犯もしくは魔術的な何かであろう事。
 魔術的な何か・・・そこまで考えれば、真実までたどり着くのにそう遠くはなかった。

「そう、貴女は女優ですがスカルラッティ女史ではない・・・貴女が蜘蛛です」

 女優イルマ・スカルラッティは観念したようだ。ふぅ、と息を吐き出し空を仰いだ。

「あなたが・・・あなたが最後の1人でしたのに」

 そして彼女はおもむろに己を語りだした。

「私・・・魔女に飼われていた蜘蛛でしたのよ。人間の――とりわけ芸術という艶やかな分野は、私の光明でした」

 いつか人になり、技芸に酔い痴れ溶けてしまいたい。
 そんな思いを抱いていたある日のこと、魔女の家にイルマ・スカルラッティがやってきたのだ・・・。

「魔女は私と彼女の姿を入れ替え、人となった私にこう囁きました」

 1ヶ月に1度。蜘蛛に人の体液を啜らせることを繰り返し・・・7回。
 そうすればその人間の体は完全におまえのものになる・・・。

「人間と蜘蛛の魂が入れ替わる、と。私はあの醜悪な蜘蛛の姿に戻りたくありませんでした。そのためなら何だってしました」
「そして今日が最後の日だったのですね」
「ええ。記念すべき最後の日・・・なるはずでしたのに・・・」

 そう語る彼女の横顔に、暁の光が差し込み始める。

「ああ・・・夜が・・・夜が明けてしまう――」

 人として生きることに満足していたのであろう女優は、美しい笑みを残してアウロラに別れを告げた。
 彼女が蜘蛛に戻れば、可哀相な大蜘蛛もまた完全に元の姿へと戻るという。

「もう帰ります。もうこんなことは致しませんからご安心になって。さようなら、画家さん」

 まだ中和剤の効果から抜け出れていないアウロラは、黙って彼女が歩み去るのを見送った。
 女優として名を馳せている彼女の歩みは、やはりというか美しいものであった――。

「アウロラ!」

 横たわる彼女を発見して血相を変えたエディンが走り寄るのに、アウロラは苦笑して言葉を返した。

「遅かったではないですか。とうに事件は解決しましたよ」

 緋色の目線で促した、聖北教会によって開発された円陣の中心には、かつて大蜘蛛だったであろうイルマ・スカルラッティ女史本人が気を失って倒れていた。
 ジーニが短く問う。

「大蜘蛛は?」
「元に戻ったと言っておきましょう。詳しく語るのは、彼女の名誉に関わりますからね」

醜聞33

 それを聞いたミナスが首を傾げる中、アウロラがふと見上げた先では・・・細脚の女郎蜘蛛が巣を張り始めていた。
 露にでもあたったのだろうか。
 朝日に照らされ、その糸は瞬いていた。

 大蜘蛛にされていたイルマ・スカルラッティ女史はその間の記憶を失っていたという。
 気が付くと半年もの歳月が経過しており、身分は学者から一転して女優。一躍有名人となっていたのだ。驚かないわけがない。
 だが・・・。彼女は自分の最後の記憶が魔女の住処であったことは覚えていたらしく、深く詮索する事はなかったらしい。
 そもそもの依頼主である騎士団員は、事件の証拠や犯人の説明を当然ながら求めたものの、「これは事故であった」と語るアウロラの瞳に何を見出したのか、それ以上を聞き出そうとせずに「了解した」とだけ返した。

「事故の内容はこちらで調べがつくということだろう?詰まったら知恵を借りるということで、今回は手を打とう」

醜聞34

「ええ。分かりました」

 彼は報酬の皮袋を置くと、協力に感謝すると言ってその場を立ち去った。
 後日にやってきた外交官については・・・。

「アウロラさんに言われたとおり、後日改めて手紙を送りました」
「ええ。返事はきましたか?」
「はい。昔を懐かしむ文章とともに、論文についても快諾して頂けました。一体、彼女に何があったのですか?」
「女史からはお聞きになっておりませんか?」
「ええ。何分、事故に遭っていて、記憶があやふやになっていると」

 それを聞いたアウロラは、うっすらとした笑みを浮かべて依頼人を見つめた。

「残念ですが、そういうことです」
「そうでしたか。では報酬の方ですが・・・」
「いえ、結構」

 彼女の胼胝のできた指が、すっと暖炉の横の楽器を指差した。

「もう頂いております」 

醜聞35

※収入2000sp+1000sp※
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■後書きまたは言い訳

64回目のお仕事は、小柴さんのシナリオで木の葉通りの醜聞でした。
前回の後書きに書いていたとおり、恐らく全員が10レベルに達するであろうシナリオをどれにするかは、相当悩んでおりました。候補は今回の木の葉通りの醜聞の他、「帰らずの遺跡(カリン様作)」と「緊急の依頼にて(RE様作)」の二つを考えていました。
その中で特にこれを選んだ理由は、まず前回がダンジョン探索だったのでシティアドベンチャーをやってみたかったこと、”金狼の牙”たちがこなしてきた冒険とクロスオーバーが多いこと、戦闘よりもむしろシナリオ自体の話の流れが主であり、ストーリーがすごく引き込まれること・・・などがあげられます。
他の2作品もそれぞれに面白いところがあり、ダウンロードしている以上お気に入りのシナリオであることに変わりはないのですが、リプレイとして書き起こすことを考えた場合、これが一番かなあ・・・と思ったのが正直な感想です。

最初の世捨ての集落(カムイ様作)と希望の都フォーチュン=ベル(Djinn様作)は、当然ながら本編にはない流れです。ただ、帰ってくる時にここに寄ったよー、という報告をちらっと入れておくのが好きなだけです。
護衛求む(がじろー様作)階下に潜むモノ(ABC様作)のクロスオーバーは本編にあるとおりで・・・「サクッと寝る前カードワース」に収録された他作品とも色々クロスなさっていますので、気になる方はぜひ全部プレイしてからこちらを遊んでみて頂きたいと思います。思いがけないところにぽろっと過去の冒険話が出てくるのって、楽しくなりませんか?

主人公は頭脳派、とゲーム途中で指示があったように、本来であればここは魔法使いが主人公となるべきなのかな~と思ったのですが、最後に自分を囮にして蜘蛛を円陣へ引きずり出す辺り、ジーニよりはアウロラがやるだろうな・・・と思って彼女を選択しました。そもそもジーニだったら、ちょっと護衛した相手を助けるためにあそこまでするかどうか・・・場合によってはかなり酷いこともできる人なので、違う手段取りそうです。
円陣を開発したのは、アウロラが所属している聖北教会でしたしね。
蜘蛛の消化液についても、「翡翠の海(タナカケイタ様作)」で【玉泉の祝福】の付帯能力を手に入れた彼女ならチャレンジしそうだと思い、その辺もリプレイに付け加えてあります。
イルマ・スカルラッティ(蜘蛛の方)は、終始女優だのフルネームだので語られていましたが、元のイルマさんについてはイルマ女史で一環して書かれているようで、リプレイを書いている時に非常に感心させられました。私はどちらのイルマさんも好きなのですが、やっぱり自分の望みを叶える為になりふり構わないという蜘蛛のイルマさんの姿勢は、止められてしかるべきなのでしょうね・・・。

さて今回全員が10レベルとなりました。めでたいことです。
こんなに成長するまでリプレイを続けられるとは、始めた当初考えていませんでした。これも、わざわざこんなサイトにやってきてリプレイを読んで下さる優しい読者の皆さんのおかげです。ありがとうございます。
最後までちゃんと走りきりたいな・・・と思っております。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/05/08 05:15 [edit]

category: 木の葉通りの醜聞

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Wed.

木の葉通りの醜聞 8  

 さて、問題の1ヶ月後。
 その日の早朝のやり取りを回顧するなら、こんな感じであった。

「皆さんにお願いする事は3つです」

 アウロラは普段と変わらない口調で説明を始めた。

「私は画家としてあの女優の家に入ります。そして夜もとっぷり暮れた頃、屋敷を後にします。それまでに館へ侵入してください」

醜聞25

 召使も今日は居ないだろうと彼女は言う。
 エディンは不審そうに尋ねた。

「お前さん、何故そうだと分かる?」
「あの女優は、自分の秘密を誰にも知られたくない割に、その秘密は手元に置かないと落ち着かない性分でしたから」

 女優イルマ・スカルラッティ邸――その麗姿を眺めやりながら、”金狼の牙”たちの脳裏ににっこりと笑ったアウロラの言葉が思い浮かぶ。

「そして私が館を後にしたら、居間へ忍び込んで、見て下さい」
「見る?一体何を・・・?」
「彼女のお友達ですよ。洞察通りならば・・・かなり厳つい」

 そこでアウロラは2つ目のお願いとやらも口にした。
 事件を解決させるためのもっとも重要な庶機になる、と釘を刺した彼女は、その友達とやらがアウロラを狙って屋敷を飛び出すと断言した。

「その姿に狼狽するかもしれません。ですが暫くの間、足留めして頂きたいのです。罠を張るのに・・・手間がかかりますから」
「聖北教会から返答が来たんだな?」

 ギルの台詞にアウロラはくたびれたといった顔で返答した。

「ええ、骨が折れそうな結果を寄越してくれたものです」

 後は仲間を信じるだけ――アウロラの双眸が雄弁に語るそれに、ギルは得物をくいと持ち上げ返答とした。
 緋色の髪の娘が館を後にする・・・それが作戦決行の狼煙である。

「またお会いしましょう」

と言って邸宅へと消えていった華奢な背中を、ミナスやアレクは心配そうに見送った。
 そして現在――。

「今日はありがとうございました」
「お役に立てて何よりです」

 女優イルマ・スカルラッティとアウロラが正面玄関から現れた。いよいよ、作戦決行である。

「それでは私はこれで。前回にましてこんな土産まで申し訳ないですよ」
「前にも申しましたけれど、私の気持ちの問題ですのよ。家まで気にせずお持ちになって」
「ええ、そうさせて頂きます」
「・・・・・・」

 イルマはアウロラの後姿が見えなくなるまで名残惜しそうに立ち尽くしていた。
 そして玄関の戸を開け放したまま、屋敷の中へと引き返して行く。

「居間はここから東だった・・・作戦決行しよう」

 アレクの促しに、全員が首肯した。
 ――居間の窓はアウロラの手筈で錠を外されており、中を詳しく見ることが出来た。

(ここに何を隠しているのだろう?)

 もとより好奇心の強い子どもであるミナスは、興味津々といった態で濃藍色の目を瞠っていた。そんな彼の視界の中で、女優イルマ・スカルラッティは暖炉まで歩いていくと、中の薪を取り除き始める。
 ずずず・・・という重々しい音が響き、ミナスは息を呑んだ。

醜聞26


(驚いた・・・!暖炉の下に階段がある・・・!)

 イルマは、その階段前に立った。

「さあ、出ていらっしゃい」

 鐘を鳴らして何かを呼んでいる。どうやら「友達」のお目見えらしい。
 ギルがミナスにそっと囁く。

「そういえば・・・3つ目のお願いとやらは、覚えてるか?」
「うん・・・勿論だよ」
「女優イルマ・スカルラッティ及び、その友達は・・・」

 そうギルが語るうちにも、階段からにょっきりと毛の生えた醜い脚が突き出されている。
 脚があるということは、その向こうに居るであろう胴体、顔もやがて顔を覗かせてくるわけで・・・。
 エディンが静かにギルの台詞を結んだのは、「友達」とやらが顔を居間に現したのと同時であった。

「殺すべからず・・・」

 暖炉からその巨躯を捩らせ姿を現したのは――高さ5ヤードはある大蜘蛛であった。
 内心でアレクがその醜悪さに呻く。

(うっ・・・これは・・・?!!同じ階下よりの異形でも大海蛇のほうがマシだったな・・・!)

醜聞27

 かつて海精の神殿に巣食っていた化け物を退治した思い出と比較しながら、アレクの目は油断なく大蜘蛛の動きを注視していた。
 その横で、≪森羅の杖≫を構えたミナスが元気よく言った。

「でも今更背に腹は変えられないね!行こう!」

 少年に遅れを取るまいと、残りの仲間も隠れていた場所から居間へと飛び出していく。彼らの気配に振り返ったイルマ・スカルラッティは、驚愕に目を丸くした。

「・・・・・・!!!迷い人か強盗かは存じません。見られたからにはお灸をすえる必要がございますわ」
「勘弁してもらいたいな!ほんの道すがらだ!」

 リーダーに応答を任せていたエディンは、冷静に敵との距離や能力を測っていた。

(とはいえ・・・あの巨躯に加えて脚の毒・・・100秒持てば十分だな)

 全員、2人をアウロラのいう時期が来るまでは殺してはいけないことを承知していた。だからこそ・・・。

「あたしの出番ってわけよ!さあ、これはどうかしらね!?」

 ジーニが高々と見せ付けた≪エメラダ≫の輝きに、秀麗な女優とそれに操られる醜悪な蜘蛛の気がそれた。
 足止めを見事に喰らったことに舌打ちをしながらも、イルマ・スカルラッティは彼らを睨みつける。

「あなた方・・・何かご存知のようですわね」

醜聞28

「詳しくは知らないさ、女優さん。その蜘蛛を使って何をする気かもね・・・」

 宝石の輝きによる束縛を打ち破ろうとする大蜘蛛の注意を引くように、幼馴染とともに敵の目の前を駆け回るギルが応えた。
 アレクはといえば、鋭いステップから繰り出されるフェイントを多用して、蜘蛛の脚が束縛の要であるジーニの方へ行かないよう努力している。
 イルマは苦しげな声をして呻いた。

「今夜・・・今夜限りなのです。どうか見逃してくださって」
「それはできない相談よ。貴女の友達はこっちを見逃すように思えないわ」

 慈悲の欠片もないジーニの言葉により不快げに柳眉を逆立てた女優は、横に立つ蜘蛛の脚を優しげに撫でる。

「ごめんなさい・・・耐えるのよ・・・」
「・・・・・・・・・!!」

 声帯を持たないはずの蜘蛛の声なき咆哮が響き渡る。
 痺れを切らした大蜘蛛の前足が、束縛を打ち破って”金狼の牙”たちの足元をなぎ払った。
 たちまち体勢を崩してしまった彼らであったが、ジーニは果敢にも起き上がってすぐに【眠りの雲】の魔法詠唱を始めている。
 ミナスも、仲間たちの援護をするためにと精霊魔法【蛙の迷彩】の呪文を唱え始めた。

「あなた達の目的は・・・この蜘蛛ですか?それとも私ですか?」

 問いかける女優の言葉に、斧を構え直したギルが笑う。

「両方だよ。木の葉通りの変死事件・・・その蜘蛛の仕業だな?」
「・・・・・・。やっておしまい!」

 大蜘蛛の振り上げた脚は、存外の素早さを持ってギルの鍛え上げた体躯を柱に叩きつけた。

「ぐはっ・・・・・・」
「ギル!」
「トール、頼む!」

 アレクは丁度【癒しの煌めき】でもって仲間たちの回復を図ったのだが、ギルだけが遠くに吹き飛ばされたせいで呪文の範囲外に出てしまっている。
 1人離れた位置であばらの辺りを押さえ込むギルへ、懐から飛び出した雪精が氷の魔力で治療に当たった。

「ギルはん、もう大丈夫でっせ。わてが付いてます!」
「ありがとよ、トール・・・」

 ジーニによる【眠りの雲】によって女優は崩れ落ちたものの、大蜘蛛は相変わらず束縛を半ばぶち切りながら、こちらのほうを睨んでいた。
 ギルは人差し指に嵌めた指輪の感触を意識しながら、トールへ呼びかける。

「トール、俺によっく捕まっててくれよ・・・『その姿、霧の如く影の如く消え去り!』」

 ギルが唱えたのは、ジーニが練成したマジックアイテム≪霧影の指輪≫のコマンドワードである。
 透明の魔法を封じ込めたこの品は、非常に短い時間だが、合言葉を唱えた者への物理的攻撃を完全に回避することができるのだ。
 それによって更なる怪我を回避したギルは、眠りから早い段階で覚めたイルマ・スカルラッティの言葉を耳にした。

「この蜘蛛には1ヵ月に1度・・・消化液を飲ませた人間に・・・使い魔を封じた札を張り、夜中に襲わせておりました」
「今、消化液って言ったわね。それって・・・」

 怪訝そうなジーニは、油断なく指輪をかざしながら己の思考が間違いであることを祈らずにいられなかった。
 蜘蛛の食事方法を、彼女は一般的な知識としてだが知っている。
 彼らは網に掛かった獲物に消化液を注入し、溶け果てた体液を啜り取るのである。

「ごめんなさい・・・。先ほど1人・・・画家に飲ませました・・・あの方は・・・今頃」

醜聞29

「くっ・・・『手間がかかる』理由ってこれかよ!?まったく強がりだな、もう!!」

 襲ってきた脚を、今度は余裕を持って斧でさばきつつギルが仲間を想って叫んだ。
 アレクは額から流れ落ちる冷や汗を拭うこともせず、大蜘蛛を睨みつけている。

(そろそろ頃合・・・)

 約束した100秒はそろそろ過ぎ去っている。
 幼馴染の目配せに頷いたギルが合図し、彼らは一斉に後退した。
 邪魔の消えた大蜘蛛は、元の獲物を追うべく部屋を飛び出た!

2013/05/08 05:14 [edit]

category: 木の葉通りの醜聞

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Wed.

木の葉通りの醜聞 7  

 数日後。
 銘々で行動していた”金狼の牙”たちは、≪狼の隠れ家≫で集めた情報を概括することにした。

「ところで・・・」

 眠たげな黒瞳をちらり、と暖炉の脇にやったエディンが問う。

「これは?」

醜聞22

「野暮な到来物でしてね」

 アウロラはそれ以上詳しくは語らず、肩をすくめるに留まった。
 芸術にさして興味はないとはいえ、職業柄その価値を推し量ってしまうエディンの眼からすると、そのチェロは売れば5000spはするだろう代物であった。
 パーティの共有財産から買った様子も見られず、少し戸惑ったような顔をしていた仲間たちであったが、アウロラは構わずに話を続けることにした。

「そういえば・・・この間のメモのことは調べてくれましたか」
「うん。後は聖北教会に頼むだけ・・・何に使うんだ?」

 ギルは首肯しつつメモの控えをアウロラに投げて渡した。

「救助用です。囚われし7人目の被害者のためのね・・・」
「囚われし7人目だって?次の犠牲者はもう犯人の手にかかっているということか?」

 アレクが訝しげに訊ねると、アウロラは静かに肯定する。

「ご明察。7人目にして最初の犠牲者ですよ。ですがまだ助かります」
「その口ぶりだと・・・犯人に検討がついているようね」

醜聞23

 杖を弄ぶジーニの台詞に、彼女はただ静かに微笑んで応じた。
 自分の肩にトールを座らせたアレクが、「ちょっといいか」と仲間たちに呼びかける。

「俺にも気になる人物が居る。女優イルマ・スカルラッティ」
「アレクはんとわてで調べてきた話ですがね。6人目のお嬢さんは、その女優さんの肖像画教室に通ってたらしいんですわ」
「それと事件の日、体調を崩して、医者へ行く途中に事件に遭ったらしいな」
「ああっ、それそれ!」

 幼馴染と雪精の会話の途中で、ギルが割り込む。

「それだよ。他の被害者の家族にも話を聞いてみたけど、その日のうちに体調が悪くなったと聞いたよ」
「そういえば・・・・・・」
「どうした、ミナス?」

 エディンが横に座る少年へ水を向けた。

「5人目の被害者のホフマンさんは、劇場からの帰り道に犠牲になったらしいよ」
「劇場か・・・あやしいな」
「だけど、裏付けもなくイルマ・スカルラッティを犯人扱いするわけにもいかねえよな」

 顎に手をやって考え込むアレクに、珍しくギルが真っ当な意見を出す。

「その女優から話を聞くだけ聞いてみようよ」

 ミナスが小さい拳をぶんぶん振り回して主張する。
 いつもならそれに賛同するであろうアウロラは、気の毒そうに彼に言った。

「おっと・・・残念なことにその女優は来月まで戻りません。アレトゥーザで公演をしていますからね」
「えーっ!?」

 不満そうな叫びをあげた少年を慰めようと、アウロラは小さく苦笑して、ハーブを練りこんだビスケットを彼に渡す。
 少し機嫌の直った彼や仲間たちのために、慣れた仕草で翡翠色の≪水銀華茶≫を淹れていると、ジーニが「アウロラ」と呼び止めた。

「知った口ね。アウロラのつけた犯人の目星とやらはどうなの?」

 コポポポポ・・・と、花柄の塗装が剥げたポットから不恰好なマグに、芳香立ち昇るお茶が注がれる。
 きっかり6人分を淹れ終わると、彼女は落ち着いた挙措でそれを仲間たちに配ってからジーニの質問に答えた。

「それについては、皆さんに手伝って貰いたい事があります。それは違法であり、ややもすると追われる身になりかねませんが」
「あら、珍しいこと」

 目を閉じてお茶の薫香を楽しんでいたジーニが、愉快そうにそう呟いた。
 今までのアウロラは、どちらかといえば窮地の立場に追いやられるパーティを客観的に見て、あえて主流と反対の意見を述べる事の多い立場であった。
 自らの行いでパーティをまずい立場へ追いやるようなことは、ついぞやったことはない。どちらかと言えば、それはギルやジーニのやらかす事である。
 それがここに来てどういう心境の変化であろう。
 戸惑う他の大人たちを制して、アウロラの味方をすると決めているミナスが、「毒を喰らわば皿までっていうじゃない」と快活な笑い声をあげた。
 アウロラも、他の仲間たちも、その姿にふっと頬を緩めた。

「ありがとうございます。ではこの8人目の犠牲者に犯人を手引きして貰うとしましょう」
「8人目?アウロラが?」

醜聞24

「複雑怪奇な醜聞の巣も、ひょんな依頼からその網を絡め取られることがあります・・・」

 眉をひそめたアレクの反応に、アウロラはそっと応えた。

2013/05/08 05:13 [edit]

category: 木の葉通りの醜聞

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Wed.

木の葉通りの醜聞 6  

「な、何だい!?」

 そう気色ばむ女主人とともに、アレクは店内へと走り戻った。
 2人の視線の先には、椅子を武器で叩き壊したらしい酔っ払い・・・トラビス公の姿があった。

「トラビス公!何をなさいます!?」

 どろりと澱んだ酔眼がこちらを睨む。

「ラウラを出せ!あんた等、共謀して俺とラウラを引き剥がそうったって、そうはいららないぞ――!!」

 最早、呂律がまわっていない。錯乱しているのは明らかだった。
 必死に公を抑えようとする女主人の前に、アレクが庇うように立つ。

「下がってな」

醜聞19

「お客さん・・・!公は錯乱しておりますが剣術の使い手と聞きます・・・!」
「知ってるさ、心配ない」

 アレクの父方の祖父に当たるランダース男爵家は、一応はトラビス公の親戚筋に当たる。
 養子やらなにやらの縁組による遠い縁である上に、アレク自身がすでに男爵家とは何の関係性も持たない間柄であるがゆえに、アドレア・トラビス公はアレクのことを知りもしないだろうが――。
 一応、男爵家を抜けてきた父から聞き及ぶ公爵家の厳しい修行のことは、アレクも耳にしていた。
 おまけにこの男、各地を修行のために巡って様々な剣術を身につけているという。決して酔漢と侮れる相手ではない。ましてや、今は手加減もしてこないだろう。

「なんら、あんた?俺と張り合おうってか!」

 先ほどまでの千鳥足はドコへやら、途端、足取りだけは雄雄しくなる。
 先手を打って雪精トールを逃がしたアレクの胸元へ、トラビス公は脱いだ手袋を叩きつけるように投げつけた。

「意味知ってるだろ?決闘ら!」
「・・・・・・」

 こうなってくると、黙っていられないのがこの男の悪い癖でもある。
 アレクも無言で手袋を取り、横柄な宣戦布告に応じた。

「上等だ!かかってきやがれ!」
「ああ、そうさせてもらう」
「決闘だ!私はアドレア・トラビス!貴殿の名誉と誇りは今日で私の添物となる!!!」

 そう叫ぶトラビス公に、アレクは容赦なく竜を仕留めるためだけに編み出された剣術――【竜牙砕き】を見舞った。

醜聞20

 防具や装甲の僅かな間隙を見抜いて繰り出される急所突きは、どんな渾身の一撃よりも鋭く相手を貫く。
 向こう見ずなまでの攻撃にやや怯んだ公爵であったが、それでも戦意は喪失せずに、苛烈な反撃をアレクの腿へと喰らわせる。
 血の花が舞い、傍らで震えながら見守っている娘たちから悲鳴が上がった。

「どうした!それで仕舞いか!」
「まさか」

 怪我した腿を庇う仕草もせずに、アレクは愛剣を横一文字に構え、短い呪文を唱える。
 その刀身が先ほど散った血液よりも赤く燃え上がり、トラビス公が眼を丸くする隙をつくように、美しい魔剣士が得物をふるう。
 持ち前の反射神経と、今までの修行で培った勘でどうにか致命傷は避けたものの、トラビス公の体は硬い木で出来たカウンターへと叩きつけられてしまった。

「み、認めんぞ!!!」

と、喚きたてるトラビス公の眼前にアレクは立った。
 差し出された手に舌打ちをした公であったが、続く言葉に絶句する。

「ラウラ・パリッラはもう居ない。もう居ないんだ・・・」

 しばし、巨人の見えない拳に打ちのめされたかのような表情をしていたトラビス公は、酒焼けでひび割れた声で応えた。

「わかってるさ・・・それでも・・・認めたくなかった・・・」

 しばらくの間、辺りを泣き崩れる男の嗚咽が包んだ・・・・・・。

「・・・・・・また悪酔いしてしまった。何処の誰かは知らないが非礼を詫びよう」
「気に病む事はない。愛する者を失えば仕方のないことだろう」

醜聞21

 公爵はその言葉にしばし目を瞑ったが、やがて手袋を拾い上げて埃を払いながら呟く。

「俺がラウラにあんな事を教えたばっかりに・・・」
「・・・何を教えたんだ?」
「肖像画の教室さ。滅多に出歩く娘ではなかったから、他に外との接点が考えられない」

 アレクは女主人との会話を反芻した。曰く、『時期が来たら教えると言ったので詮索はしませんでした』という言葉・・・。
 「わるいね、お客さん・・・」と言って、傷ついたアレクの脚に包帯や傷薬を用意してくれた女主人は、思いがけない公爵の言葉にふと手を止めた。

「肖像画・・・・・・」
「・・・・・・貴女の肖像画だっただろう。今にして思えばな」

 公の説明によれば、その教室自体には叩いて出る埃はなかったそうである。道中で何かがあったのか・・・。
 痛ましげな表情でトラビス公は頭を横に振った。

「あんな酷い事になるのなら・・・いっそ教えない方がよかったというものだ・・・」
「その教室の名前は?」
「スカルなんとか・・・だったな。ほら、最近売れている女優の」
「それはどうも」

 アレクは参考になるかどうかは分からないが、ひとまず脳裏に書き留めておくことにした。
 外套の懐の中では、人知れず帰ってきていたトールが、

「スカルゆーたら頭蓋骨とちゃいまっか?えらい物騒な名前でんな~」

等と呑気な意見を述べている。それにやれやれと小さくため息をついていると、公がしげしげとアレクの顔に見入っていることに気づいた。

「しかしあんた・・・何処かで見たことあるんだよな」
「夢の中でじゃないか?」

 慌てて誤魔化した。
 各地を修行しているとなれば、キーレでの大戦で蛮族の長を打ち破ったり、アニエスという黒魔導師を退治した彼ら”金狼の牙”について公が聞き及んでいる可能性はある。
 これ以上の追求を避けるためにと、アレクはトールを連れてほうほうの態で館から立ち去った。

2013/05/08 05:12 [edit]

category: 木の葉通りの醜聞

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Wed.

木の葉通りの醜聞 5  

 処変わって、木の葉通りの娼婦の館――。
 ギイィ・・・という微かな軋みをあげたドアに反応して、娼婦の館の女主人は元気よく声を張り上げた。

「一名様ご案内だよ!」

 そして姿を現した客の姿に、女主人は目を剥いた。
 形の良い頭部を覆う癖の無い銀髪。こちらを真摯に見つめる、照明によっては血色に見える赤褐色の瞳。雪花石膏に彫られた半神半人のような、端整でどこか浮世離れした美貌――。
 逞しい長身と相まって、恐ろしいほどの美丈夫ぶりである。
 女主人は、その美貌に呑まれないよう深呼吸をしてから彼に声をかけた。

「お・・・お先にチップで500。決まりだから頂戴致しますよ」
「これで丁度か?」

 そう言って500spを差し出し、さらにそれとなく女主人の懐に100spを追加して押し込んだ。
 気を良くした女主人が、こちらの機嫌を窺いながら捲くし立てる。

「お客さん、本当にツいてますねぇ。今日は新酒が入ってるんですよ」

(とびきりの美い男な上に、チップをどこで使うかも知っている・・・。こりゃ上客だよ、逃がしたくないねぇ。)

 彼女は内心で舌なめずりした。ただ顔が綺麗なだけではない――この客は一体どんな素性なのかは分からないものの、若いながら相当の修羅場を潜ったのだろう落ち着きと自信に溢れていた。
 出来れば自分がつきっきりになりたいくらいだが、女主人は自分の館における役割をちゃんと心得ていて、それを逸脱する愚かしさも承知している。
 その代わり、この男には上等の娘を見繕ってやろうと心に決めた。

「じゃんじゃん!飲んでいって頂戴よ!」

 そこへ千鳥足の男が転がり込んできた。

「へッ・・・葬儀の余り酒さ・・・有り難く飲んでやれよ、ヒック」

醜聞16

(チッ。こんな時に面倒なヤツがきやがった・・・!)

 女主人は心のうちで眉をひそめながらも、表面上は笑顔を取り繕って酔っ払いに応対した。

「誰がそんな失礼をしますか。ほら!飲みすぎですよトラビス公、お席のほうへどうぞ!」

 そして居合わせたウェイターに彼を任せると、こちらは営業スマイルではない本当の笑顔でアレクに向き直る。

「さっ、お気にせず奥の方へどうぞ」
「いや、結構。葬儀というのが気になるな。それはラウラ・パリッラ嬢のことではないか?」

 ラウラの名を出した途端、女主人の顔はみるみる青くなった。
 微かに動く紅唇を読み取ると、「どこでその話を?」と動いている。
 アレクは白皙の美貌を女主人の耳近くにそっと寄せて囁いた。

(紳士の名誉には謎がつきもの。『筋』の者とでも言えばいいか?少し話を聞きたく参ったわけさ。)

 中々の演技ぶりに、外套の懐に入っているトールが笑いをこらえて震えている。内心で自分も苦笑しながら、アレクは女主人の反応を待った。
 刹那、彼女は沈んだ顔を見せたが、頷きながら囁き返す。

(裏でお話しましょう、こちらへ。)

 アレクは、おやと眉を上げた。
 職業柄、秘密主義の色濃い場所である。何度か足を運ぶ羽目になるだろうと構えていただけに、この反応は意外であった。
 女主人の後を追いながら、すれ違う娼婦の顔を窺う――。
 みな意気消沈した様子でどこか落ち着きがない。
 館の裏口にたどり着くなり、女主人は口を開いた。

「可哀相なラウラ。あの子はいい子だったよ・・・」

醜聞17

 女主人の無聊を堪え切れない左手が煙草に火を点け、狼煙をあげた。

「ラウラは・・・。器量良しとは言えなかったが、誰にも好かれるいい子でしてね」
「家事も進んでする女性だったようだな」
「そんなことまで?」

 目を丸くした女主人に、アレクは話の出所を明かさずに話の続きを促した。
 明らかに、女主人は自分の話をしたがっている。こういった商売をしている女性にしては珍しいことであったし、この機会を逃がすべきではない。
 煙管の吸い口を、落ち着かなさげに弄くっていた彼女は、ようよう口を開いた。

「誰かから疎まれたり恨みを買うようなことは、決して無かったと思います」

 その言葉にしばし顎に指を当てて考え込んでいたアレクが、静かに訊ね始めた。

「惚れこんだ客が駆け落ちを目論んだりは?」
「あたしはここを高級な館として上手く仕切ってるつもりですよ。そんな素振りはありません」

 ふと女主人が眉をひそめる。

「あるとしてもさっきの酔っ払い・・・アドレア・トラビス公くらいだね」
「何かに巻き込まれたと考えるべきだな」

醜聞18

「ええ。あんな良い子から逝くなんて神はなんて理不尽なんだろうね」

 巧妙に顔を伏せてはいたが、アレクはそっとハンカチを彼女に差し出した。
 ハンカチを受け取った女主人は、目じりの光を押さえる様にして目前の青年へと言った。

「どんなヤマを抱えてるか存じませんが、よろしくお願いしますよ」
「ああ。些細なことでも良い。何か変わった事はなかったか?」
「事件の日の夜・・・ラウラは『調子が悪い』と言い出し、開店準備の後、店の裏で休ませておきました」

 みるみる顔色は悪くなるし、小刻みに震えっぱなしであったそうだ。
 一緒に医者へ行こうと女主人は言ったのだが、結局は仕事が立て込み、1人で行かせることになった・・・。

「あの時・・・一緒に行ってやっていれば・・・」

 女主人は目を閉じ、肩を震わせた。彼女の手にある煙草から立ち上った煙は、夜の漆黒に啜られて再び目の当たりにする事はなかった。

「心中お察しする。最近、変わったことなどは?」
「そうだね・・・外へ出たからない娘だったけど、何か稽古事を始めたらしく時折外出していたね」
「具体的には?」
「時期が来たら教えると言ったので、詮索はしませんでしたよ」

 彼女は深々と煙管を吸って煙を吐き出した。

「我々は日陰の女ですが、心までは落ちぶれちゃいない。お互いを探り合うような関係になったらもうお仕舞いだよ」
「承知しているさ」
「そうだ・・・事件の日の午後も30分ほど外出したかもしれません」

 それ以外に思い当たるものはもうないという。慎ましやかで誇れる娘だった、と女主人は追憶の向こうにいるラウラを評した。
 アレクは左手の拳を胸にあて、静かに礼を言った。

「感謝する。お悔やみ申し上げよう」
「さあ、夜はこれからですよ。中でお飲みくださ・・・」
「!!」

 女主人が誘いの言葉を言い終わらないうちに、店内から何か物が割れるような音が裏口まで響いてきた。

2013/05/08 05:11 [edit]

category: 木の葉通りの醜聞

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Wed.

木の葉通りの醜聞 4  

 さて、外交官マリーオの依頼を受けていたアウロラであるが・・・論文を返さないイルマ・スカルラッティ女史。
 意外なことではあるが、アウロラはまんざらに彼女に対して無知という訳ではなかった。
 つい先ごろ女優として有名になったのもあるが、アウロラは過去に彼女から依頼を受けていたことがあったのだ。

「ここまでで結構ですわ。護衛の依頼、お疲れ様でした」
「お安い御用ですよ」

 それはイルマ女史が、まだ女優として活動する前の出来事である。ちょっとした行きがかりで、彼女を護衛したことがあった。
 淡い金髪に上品な笑み・・・黄昏の中で微笑んでいた彼女を、アウロラは今でも生き生きと脳裏に思い描くことができる。

「わたくし、エントを見たのは初めてでしたわ。アウロラ様が居なければどうなっていたことか・・・」

と、かの女性は感謝の意を述べた。

「駆け出しの頃、フォーン村へ行商の護衛の途中に出会ったこともありましてね」

醜聞12

 トレセガ街道を通って荷を運ぶ行商人の護衛を行なった経験を、アウロラは懐旧の念を抱きながら話した。
 その言葉にイルマ女史はうっすらと笑む。

「経験豊富でいらっしゃるのね。今回の沈勇にして果断な処理も鮮やかでした。感謝致します」
「それと、依頼完遂の証にサインが必要になります。ここへ・・・」
「ええ、確かに」

 彼女はペンを手に取り、整った文体でサインをした。
 紙面を彩ってゆく文字――しかし、その書き方にどこか違和感を感じた。
 そう、イルマ女史は文を書くのに不都合な利き腕を持っていたのだ。それが、なんとなくアウロラの印象に残っていた・・・・・・。

 ここまで思い出したアウロラは、はて、と首を捻った。
 面識はある。イルマ女史は確かに華のある容姿をしていた・・・しかし女優としてはどこか腑に落ちなかった。
 少し前に芸術都市ミューゼルというところで見事な演劇を披露したという、くもつ亭の冒険者たちの噂を耳にしたことがある。
 噂で伝わってきた、彼らにはあったらしい「役を演じる」のに必要な要素――カリスマ性、情熱、役に入り込み客をも魅了する何がしかの因子――というものが、果たしてイルマ女史に備わっていたかどうか。
 それを考えると、どうにも疑問を禁じえない。

「私を覚えていることは期待できませんが・・・何かが警鐘を鳴らしています」

 冒険者としての勘なのか、アウロラの中の何かを疼かせている。
 目の前には当時の依頼の終点地、イルマ・スカラッティ女史の邸宅。
 どのように中へと通して貰うべきか決めかねている彼女が思案しているうちに、馬車の音が聞こえてきた。

(彼女ですね)

 アウロラは咄嗟に門に寄りかかって邸内を伺う振りをした。

「あら・・・あなた・・・?」

醜聞13

 こちらを覚えているかは相手の出方を伺わねばならない。アウロラは悪戯っぽく首を傾げてみせた。

「こんな質素な家に何か御用かしら?」
「いいえ、私は卑賤の画家でして」

 咄嗟のこととはいえ、あまり上出来でもない自分の言い訳に自嘲しながら彼女は言った。
 あの死体の傷跡を書き留めていたせいで、木炭は指に付いたままである。一応の説得力があるのは幸いであった。

「その純朴な様が気に止まりました。スケッチでもしようかと、ね」
「まあ!画家でいらしたのね。あなたの目を信じてお願いしたい事がございますの」
「藪睨みでもよければなんなりとおっしゃってください」

 イルマ女史によると、先日新しい絵を客間に飾ったはいいものの、どうにもしっくりこなくて悩んでいるところなのだそうだ。
 品評してほしい、という女史の申し出を快く受けると、アウロラは女史によって邸内へと招かれた。

「観て頂きたいのは・・・暖炉の右上にあるあの絵のことですわ」

 件の絵を指で示しつつ、彼女は「率直な感想を頂きたいのです」とのたまった。それは裸婦画だったのである。

醜聞14

 アウロラは少し考えてこう答えた。

「描きかけではないでしょうか?」
「なぜそう思われました?」
「淡いコントラストは右へ向かうほど濃くなり、人物へ影を落としています」

 だがその影は描かれていない。

「寄りかかったポーズも、その対象が暗示されていません。非常に抽象的であり・・・。そう、干からびた・・・いや」

 緋色の眉をひそめた。これと同じ表現方法を用いた覚えはなかったか・・・?

「まるで空っぽのような・・・」
「ふふ、面白い論評ですのね。とても参考になりましたわ」

 そう言うと、女子は暖炉の上にあった筆を右手に取り、空に筆を走らせた。

「その絵は私が描きましたの。先に言うと遠慮させてしまいますから、あえて伏せて聞かせて頂きましたわ」
「これは1本とられましたね」

 アウロラも筆を取り、真似て空に筆を走らせた。
 少し時間が経つと、アウロラは少し身震いした。そんな季節でもないのに――石造りの多い邸宅だからこその室温なのであろうか。
 隣にいるイルマ女史の服装はといえば、流行らしいシースルーのストールを纏うだけで、あまり温かい格好とはいえない。

「少し寒いでしょう。暖炉をおつけしましょう」
「いいえ、構いませんわ。それよりも・・・」

 言いかけた言葉は宙に浮いた。無粋なノックがかき消したのである。

「イルマ様、劇場へ行く時間でございます」
「・・・申し訳ございませんわ。次の舞台地へ移動しなくてはなりません」
「次はどちらまで?」
「アレトゥーザです」

 一ヵ月後にリューンへ戻る予定なのだという。
 また絵の品評をお願いしたいと申し出たイルマ女史に、アウロラは「ええ喜んで」と伝えて彼女を見送ることにした。
 引き止めてしまった礼だと言って、女史は黒く大きなケースを抱えて戻ってきた。

「こちらをお持ちになって下さい」

 そう言って引き出されたのは、上等な木を使ったであろうチェロである。

「驕奢はお断りですよ。飯の種にしかできません」
「構いません、私の気持ちの問題ですのよ。雄渾な品評代とお思いになって」
「そう言われては、どんな言葉も返す力がございませんね」

 アウロラはもったいぶって受け取った。
 良い絵が描けたらぜひ自分に見せて欲しい――そう言って身を翻した女史へ、アウロラは一つだけ訊ねた。

「お手の方、右利きですか?」

醜聞15

「・・・・・・?ええ、右利きです」

 イルマ女史は、一瞬訳が分からないといった顔つきになったが、ようよう答えを口にした。
 答えを聞いたアウロラは、慇懃に礼をしてみせた。

「誇り高き女優の花道に幸多き事を。それでは私もこれで」

2013/05/08 05:11 [edit]

category: 木の葉通りの醜聞

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Wed.

木の葉通りの醜聞 3  

 現在、”金狼の牙”は騎士団員ロレンツィオに招聘され、木の葉通りを訪れていた。

「これで6人目だ・・・」

 哀れな変死体の数がまた増えてしまった、と若き騎士団員は臍を噛んでいる。
 冒険者たちは目の前の「元人間」へと視線を転じた。
 なるほど、これは噂どおりの変死体である。
 体中の水分という水分を抜かれ、ミイラをさらに干し物にしたような見事な出来栄えだ。

「現場は?」

 アウロラの短い問いに、ロレンツィオはきびきびと答えた。

「発見されてから一切触れられていない状態だ。野次馬が入らないよう、一時通りは封鎖してある」
「上出来です。・・・・・・エディン」
「あいよ」

 エディンは常の眠たげな双眸を鋭くして変死体を観察する。
 服装・体格からしてこれは女性・・・指輪や機工式ブローチ等の装飾品が付いたままとなっている。

「お金目当ての線ではなさそう」

 仲間の盗賊の指摘でアクセサリーを観察していたギルが言った。
 近頃、エセルにプレゼントする装飾品をあれこれ見ていたので、目が一時的に肥えているのだ。その彼の基準からすると、特にブローチ等は高く売れるはずの品であった。

「それと・・・一見、干からびていてただの皺に見えますが首筋に傷がありますよ」

 アウロラは、この哀れな女性の長く美しかったであろうブロンドの髪をついと持ち上げ、その首筋を仲間へ見せる。
 赤褐色の目を細めてアレクが呟く。

「ほぅ。何かに噛み付かれたような傷跡に見えなくもないな・・・」
「やはり吸血鬼の仕業か・・・?」

醜聞09

 顔を強張らせたエディンに、アウロラは首を横に振ってみせた。

「いえ。その割に血の抜かれ方が奇妙です」
「新種かもしれねえだろ」
「ええ・・・断定はまだできません。それとこの傷跡は独特の形を成しているようです。少し調べてみるべきでしょう」

 ミナスが背負っていた荷物から、素早く羊皮紙と木炭をアウロラへ手渡した。
 それを受け取ったアウロラが、手早く模写を取りながら干からびた手も持ち上げてみる。

「軽い、まるで羽の様・・・!外見上は干からびていますが、『空っぽ』という表現のほうが相応しいかもしれませんね」
「どれどれ?・・・ハーン、確かにね。それにしてもこのストール・・・」

 リューンで最近流行のやつよね、と緑色の透ける布を拾い上げたジーニが、しげしげと見つめて言った。
 後ろではエディンが現場の足跡やなんらかの痕跡が無いか、丁寧に再調査をしている。
 やがて、変死体は騎士団員により検死官の元へ送られて行った。

「さて、この可哀相な娼婦について詳しく教えて貰いましょう」

 静かなアウロラの台詞に、ロレンツィオは目を丸めた。

「な、何故娼婦と知っている・・・?」
「少し演鐸しただけです。下着は安物ですが化粧は濃く、装飾品は豪華でここは高級街」
「そんな女が爪を短くするのはね、平素家事もこなすからよ」

 丁寧にケアしている桜色に塗られた爪を、これ見よがしに騎士団員へ突きつけながらジーニが補足した。彼女は手が荒れるのを嫌がり、家事は一切やらない。
 アウロラはやや苦笑を閃かせながら首肯する。

「雇われる身分の者にしては、ずいぶん派手で偏った服装ですしね」
「いかにも・・・。被害者の名はラウラ・パリッラ。木の葉通りの一角にある館で高級娼婦として働いていたそうだ」
「それだけ情報があればお手柄ですよ。全ての事件には共通項が必ずあるはずです。項と項を結ぶ公式を見つけた時、全ての=(イコール)は犯人を提案する」

 ジーニが繊細な手を、ピエロのように冗談めかしてヒラヒラ動かしつつ言う。

「それを求めるには地道な行動というのが誰かさんの金言だったわ」

醜聞10

「ご名答!それでこそ”金狼の牙”です」

 アウロラは、分断作戦をすることを提案した。

「ああ同感だね。娼館となると、大勢で聞きに行く場所ではあるまい」

 もう少し踏み込んで言うと、子どものミナスを連れて聞き込みを行なうような場所ではない――発言者のアレクとしては、小さな一人前冒険者の心情を傷つけないよう言葉を選んだわけである。
 娼婦相手ということであれば、その手の商売の事情に通じているエディンが適役かと思われたが、彼は笑って否定した。

「高級娼婦相手だろ?俺よりは、お前さんが行った方が向こうも喋ると思うね」
「・・・・・・俺が?乗り気はしないんだが・・・」

 きょとん、とした顔でアレクは自分を指差した。その懐から顔を覗かせている雪精トールが、不思議そうに顔を見上げている。

「お前さんぐらいの男前相手なら、女も安心すらァな。行ってこいよ」
「・・・・・・分かった」

 一人で調査に行くというアウロラと、渋々了承した態のアレクが静かにその場を去ると、ギルは残りの三名の仲間を見回して発言した。

「俺は他の被害者を当たってみようと思う」
「・・・・・・ギル、何はみ出してるの?」

 ミナスの指摘に、慌ててギルは自分のポケットを見やった。メモが挟まれている。
 ぴ、と紙を伸ばして目を通したギルは、呆気に取られたような顔になった。

「・・・・・・これは・・・また困った頼まれ事を残していったなぁ・・・」

醜聞11

2013/05/08 05:10 [edit]

category: 木の葉通りの醜聞

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Wed.

木の葉通りの醜聞 2  

 届いた資料によると、事件の概要はこういうことだったらしい。

 木の葉通り全域で起きている連続変死事件、死亡者は述べ5名。いずれも干からびた状態で遺体を発見されている。
 最大の特徴として、死亡者は皆体内から血や水分等を抜かれ、干からびて死んでいることである。体内の臓器もなくなっており、その死体はまさに「骨抜き」状態にあった。
 事件の起きる頻度にも規則性があると考えられ、およそ1月に1度事件を確認している。
 事件のあった現場の保存状態はいずれも良好。
 1・2件目は木の葉通りの貴族邸宅内。3件目は飲食店地下。4件目は倉庫として使われていた空屋敷。5件目は路上であった。
 5件目の被害者ホフマン氏以外には争った形跡や外傷は無く、現場での出血の痕跡なども確認はなされなかった。
 金銭や装飾品の類も身に付けたまま死亡。着衣等の乱れも無し。

(余計な苦しみを被害者に与えることもなく、物盗りの様子も無い。つまり、犯人の目的は明らかに被害者の体液そのものだけであった――ということですね。)

 手紙をめくりつつアウロラは一人頷いていた。
 最後のページは死体の検証結果についてである。
 被害者の死因は体液を抜かれたことによる失血と脱水。いずれも死亡推定時刻は夜中の2時~5時。発見された時点で遺体は干からびており、脱水と失血のどちらが先に起きたかの判別は不可能。
 被害者らには差し迫った持病等は無く、薬物の検出もされなかった。ただし路上で死亡していた5人目の被害者・ホフマン氏には前頭部打撲が見受けられた。
 彼女は丁寧に手紙を折りたたんだ。

(人の手による犯罪の動機は大抵3種類に大別される。金銭・怨恨・情事・・・どれも罪深いことです。人の性、という奴ですか。)

 だがここに提示されている資料だけでは、この事件を解決する突破口とはなりえない。

醜聞05

「それぞれ現場へ向かって話を聞かねばなりませんか」

 深くため息をついた時、部屋のドアがノックされる。

「・・・お入りなさい」

 だがアウロラには、この時間に部屋を叩く人物には大方察しがついていた。――ほかならぬ、アウロラを指名した依頼人である。
 皆で引き受けた騎士団員の依頼とは別口の仕事について、彼女が話を聞くつもりになったのは、いささかの事情あってのことだ。
 清々しい朝にも関わらず、神妙な面持ちでこちらを眺めやる依頼人に、アウロラは椅子を勧めて座るように指示した。
 礼を言って腰掛けた新たな依頼人は、おもむろに口を開いた。

「朝早くから失礼しました。私はマリーオ。アウロラ様へ極秘裏に依頼したく参りました」
「これはご丁寧に。養父からもあなたのお話を伺うよう、言伝を貰っております」

 アウロラの養父は聖北教会の司祭である。とはいうものの、ざっくばらんで気の置けない人物であり、妙なところで顔が広い。
 このマリーオ氏も、彼の数多い交友関係の一人に位置しているはずだが・・・。

「極秘裏とは・・・どういったご用件でしょう」
「口のほうは固いとお約束できますか?」
「そのつもりですが」

 そもそも、秘密を守れる冒険者でなければならないからこそ彼女を指名したのではないのか――そういった意味の視線で射抜かれたマリーオ氏は、眉間の皺をさらに深く刻みながらため息をついた。

「あるものを取り返して頂きたいのです」
「あるもの、ですか」
「私は外交官をしております。近く魔道都市カルバチアに大使として赴任することが急に決まったのです」

醜聞06

「これは、おめでとうございます。来月は式典と聞いてますよ」

 なんという皮肉か、偶然の一致か。
 先ごろの依頼で聞き及んだ情報を頭で反芻しながら、彼女はとりあえずの祝辞を述べた。

「しかし、困ったことがありましてな」

 依頼人は言い辛そうに言葉を濁していたが、覚悟を決めたのか思い切ったように話を続ける。

「私も若い頃はカルバチアで学生をしておりました。魔術はからっきしでしたが・・・それを利用した経済学を修めておりました」

 その時分は、魔術を金銭と結びつけて考えるというのは少しばかり斬新過ぎたらしい。
 今でこそ当たり前になりつつある話だが、当時のマリーオ氏は魔術を市民生活に広く受け入れてもらうためにも、と学生運動に参加していたという。

「しかし・・・私はリューンの大使になる身分です。他に私の名誉を後ろ暗くするどのような行いも、決して致してはおりません」
「はい」
「ただこの学生運動に所属していた諸々の事実が公に暴露されるのは、歴史上の醜聞となりかねません」

 訝しい顔をしたアウロラに、依頼人は己の所属していた学生運動について説明をした。曰く、経済学だけではなく錬金術や生物実験等・・・際どい分野も要する運動一派だったのである。

「つまり貴方にはその運動に参加した紛れもない証拠があるということですね」
「ええそうです。同じ運動をしていた学生にイルマという女性がおりました。イルマは聡明で明朗快活、男を命がけにさせる瓜実顔をもつまさに華のある女性でした」

 マリーオ氏はイルマ女史と親交を持ち、互いに切磋琢磨していた。ただ、互いに進むべき道が異なる為に卒業と同時に決別することにした・・・。

「その証として、学生運動の参加腕章と自筆の論文を交換しました。その、論文が依頼品です」
「問題ないでしょう。国家反逆の証拠として扱うには、強い力を持つものとは思えません」
「それが・・・私の書いた論文は・・・法の網を上手く潜る偽造sp硬貨の作成方法を著したものです」

 よりにもよって、端くれとはいえ聖職者の前でなんという告白であろうか。アウロラは苦虫を噛み潰したような表情を、わざとらしくしてみせた。

「なるほど。それはマズイですね。実にマズイ論文ですよ。だがしらを切れば良いのでは?」
「自筆ですから筆跡で分かりましょう」
「模倣と言い張れば・・・」
「それに学院内でしか使われない透かしの入った紙を使いました」

 若き日の過ちとはいえ、真に厄介なことをしたものだ。
 アウロラはもはや面倒になって単語を口に乗せる。

「偽造」
「シグニチュア(サイン)に私本人に反応するインプを契約しています」

醜聞07

「チェックメイト。使い魔ばかりは手に負えません」

 額に手を当てたアウロラを恐る恐る窺いながら、マリーオ氏は話を結んだ。

「今回の依頼は、その論文を彼女から取り返して頂くことです」

(義父さん・・・。義父さんの人間関係とやらは、1度見直すべきだと不肖の娘からも思わざるを得ませんよ・・・・・・っ!)

 遥か遠い目をしながら、アウロラはそう養父に頭の中で忠告した。
 マリーオ氏の言によると、不可思議なことにイルマ女史は彼の論文返却についての手紙に、

『人違いではないか、手紙は見なかったことにするから忘れなさい』

というような事を書いて返送してきたらしい。おまけに、「貴方のことなんて知りません存じません」の一点張りということだ。
 論文を交換した相手が人違いではないことは確か。とすれば、マリーオ氏に推測(邪推の域だが)出来るのは、イルマ女史が彼を貶めようとしているのか。それとも彼女が何らかの陰謀に関与してしまっているのか。
 大変情けない上に、聖職者になんてことを頼むのかという仕事ではある。
 これはどちらかというと、エディンのような職業の者に頼むものではないだろうか。
 だが、世の中には浮世の義理という言葉もあり――何より、ささやかな好奇心が疼いた。
 依頼を受けると口にしたアウロラに、マリーオは歓喜した。
 礼よりも先にイルマ女史のことを詳しく知りたい、と問われたマリーオ氏は、少々早口になって問題の人物について語った。

「名はイルマ・スカルラッティ。半年前から名の馳せてきた女優です」

 当時は質実剛健の権化と表現足るに相応しい淑女であったため、大変驚いたという。

「ところで、貴方が手紙を送り始めたのはいつからですか?」
「一ヶ月前からです」
「なるほど・・・では、彼女の住所などもお聞かせ願えますね」
「ええ。木の葉通りの中ほどにある閑静な二階建ての屋敷ですよ」

 メモを取ることもなく、それを頭に叩き込んだアウロラは小さく首を縦に振った。

「結構。進展があればお知らせできましょう」
「どうかよろしくお願いします。それでは私はこれで」
「事は重大極めましょう、気を楽にもつことです」

醜聞08

 依頼を引き受けてもらった反動からか、やや強張っていた表情筋を和らげたマリーオ氏は、前金として1000spの入った皮袋を彼女に手渡した。

2013/05/08 05:09 [edit]

category: 木の葉通りの醜聞

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Wed.

木の葉通りの醜聞 1  

 ここは≪狼の隠れ家≫――。
 今日も不可解な謎と私情を抱えた依頼人が戸を叩きに来る。

 地図作製組合から教わった秘境にて、見事に古代文明期の遺産を漁りつくした後。
 世捨ての集落といわれる辺境の村でマジックアイテムの魔力充填を行い、希望の都フォーチュン=ベルにて≪魔法薬≫と≪解毒剤≫の練成を済ませて3ヶ月ぶりにリューンへ帰還した”金狼の牙”たち。

醜聞01
醜聞02

 彼らは、つい1刻ほど前までのんびりと過ごしていたはずだった。
 その平穏が破られたのは、とある手紙が元であった。
 後光を背負う十字という独特の封蝋――聖北教会の関係者を示す印である。
 宿の親父さんはわざわざ個室を用意して、人目を避けるようにして現れた依頼人を”金狼の牙”たちと引き合わせた。

「さて・・・。いきなりだが本題へ入ろう」
「ええ、結構よ」

醜聞03

 ジーニは鷹揚に頷いた。
 依頼人は騎士風の出で立ちをしており、まだ年は若いが凛とした雰囲気を漂わせている。
 それもそのはず、彼は聖北騎士団の治安維持派に属するものであった。
 互いの自己紹介を終えた後、依頼人――ロレンツィオに対し、アレクが声をかける。

「とりあえず椅子の方へどうぞ」
「いや、このままで結構」

 ロレンツィオは手を振って断った。
 そういった何気ない振る舞いや鎧の装飾に見られる、年不相応な威厳・・・アウロラはこの依頼人が高い地位の人物であることに気がついた。
 背筋をしゃんと伸ばしたまま、彼は口を開く。

「貴殿らもご存知かと思うが、ここ最近木の葉通りで変死体が相次いで見つかっている」

 杖の髑髏を無意識に指で撫でつつ、ジーニが応じた。

「ええ。ここへ騎士団が来るならこの件だと思っていたわ」

 木の葉通りの連続変死事件――。
 ここ半年、リューン市内で話題になっている事件である。
 木の葉通りはいわずと知れた高級住宅街なのだが、そこで1ヵ月に1度決まって死人が出るというのだ。貴族を狙った物盗りか怨恨絡みのよくある事件だと誰もが思った。
 だが一つ不可解な点があった。
 ・・・・・・遺体の変容である。
 被害者らは決まって彼ら自身の体液を抜かれて死んでいたのだ。
 これがこの凡庸な殺人事件を、にわかに奇妙頂礼な醜聞へと変貌を遂げさせた。

「犯人は吸血鬼ではないかと風評立った事件だ。承知のとおり解決はしていない」
「そこまではあたしたちが聞いていたとおり、ね」
「認めたくはないが。この件には人ならざる特異な存在の気配を感じてならない・・・」

 呻くようにロレンツィオが言った。
 ギルが手袋を外したままの手で頬杖をつきながら問う。

「同感だねぇ・・・で、何をしたらいいのかな?」
「ずばり解決だ。報酬は2000sp。生け捕れば倍出そう」

 アウロラはやや眉を上げた。

(亡霊や亡者は払えども吸血鬼を専門にした騎士が居ないのですね。ええ、ええ。実に興味深い)

 それに気づいた様子もなく、依頼人は「実は・・・」と話を切り出した。
 来月、魔導都市カルバチアで各都市の大使が入れ替わる際に、大規模な式典が行われるらしい。

「我々はもとより・・・有能な騎士団員の多くはその式典の警護にあたるはずだ。式典が終わるまでの間でも構わない。”金狼の牙”の力をぜひともお借りしたいのだ」

 ちらり、とギルが仲間たちを見やった。
 実力と仕事内容に見合ったらしい報酬、一応の拘束期間、聖北騎士団というはっきりとした依頼元・・・依頼を受けるのに異を唱えるような要素はないはずだ。
 案の定、他の仲間たちからは「止めろ」という意味を込めた目配せは一切来ない。ならば良かろうと、ギルは首肯した。

「分かった。その仕事引き受けよう」
「おお・・・ありがとう。教会の検死記録や報告書の閲覧を許そう。いつでも見に来るといい」

 その言葉の後、騎士団員ロレンツィオは神経質そうに暖炉の周りを往復していたが、何かを思いついたらしく立ち止まった。

「すぐに連絡が付くよう≪狼の隠れ家≫付きの伝令兵を置こう。紙面には代表者の名前を書かせて頂きたいがどなただね?」
「伝令とか面倒くさいな・・・アウロラ、頼む」
「ギル、あなたねえ・・・ま、いいです。分かりましたよ。ロレンツィオさん、私にお願いします」
「了解した。チームの時も個人の時も連絡は全てアウロラ氏名義でお送りする」

 依頼人はすかさず取り出したメモに、アウロラの名前を書き付ける。
 優美な白い羽ペンと凝った装飾の携帯インク壺は、恐らく≪狼の隠れ家≫の一晩の宿代などよりもよほど高価なのだろうと、エディンは見当をつけた。

「引き受けてくれて感謝する。その馳せた盛名通りの顛末を期待させて頂こう」
「手は尽くしましょう」

醜聞04

 ロレンツィオの期待の言葉に、

(私たちの手に負える相手と決まったわけでもないのですが・・・)

と内心苦笑しつつも、アウロラはそう言うに留めた。

 翌朝。
 騎士団から届いた手紙は、ピクルス紙に丁寧な文字で綴られていた。
 「木の葉通り連続変死事件 聖北騎士団自警部 内部資料」と。

2013/05/08 04:35 [edit]

category: 木の葉通りの醜聞

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Sun.

ネルカ城砦跡 6  

 ≪エア・ウォーカー≫で再び魔法の翼を生やした”金狼の牙”の面々は、ゆっくりと穴の下に降りていった。

「何ですか、すごく暗すぎません・・・?」
「確かに・・・まったき闇といえども、ここまで暗いのはおかしい」

 アレクがアウロラに同意する。
 2人に先行する形で先に下りていたギルは、小さく身を震わせた。
 何かとてつもないものが、この闇の向こうにいる気がする――。
 空中にいる時に襲われない用心のため、マントでランタンの灯りを隠していたエディンが、ばさっと一気に覆いを外した。

「――!?」

 あげた声なき叫びは誰のものだったのか。

ネルカ城砦17

「マダダ、マダ負ケテイナイ!」

 ぎしぎしと軋みをあげて大きな鎌を振り上げていた”それ”が口にしたのは、憤怒と悲痛に歪んでいる声であった。
 白く蠢くその様子は骨に間違いは無いのだが、その瘴気といい、漂う重圧といい、今までの遺跡の敵の比にはならない強敵であることを、全員悟らざるを得ない。
 ミナスが呻く。

「ネルカの石の力がこんなところにも・・・!」

 地下をコーティングしているネルカストーンの影響は、どうやらこの得体の知れない敵にも及んでいるようだ。
 振り上げられた鎌は、精霊が憑依したミナスの放つ氷霧やギルの【破邪の暴風】をものともせず、”金狼の牙”たちをなぎ払った。
 冒険者たちはバラバラに吹き飛ばされ、床に血反吐とともに叩きつけられる。

ネルカ城砦18

「ぐあっ・・・!」
「くっ・・・。【召雷弾】!」

 篭手の指先に宿った魔法の雷が、暗闇を引き裂いて頭蓋骨へと突き刺さる。
 瞬間だけ明るくなった軌跡を確認して、エディンが床を蹴った。
 【暗殺の一撃】によるレイピアの刺突と、それを軽減させようと動く鎌の動きは殆ど同時。
 エディンは返した武器で切り裂かれた腿を押さえつつ、くるりと宙返りをしてギルの傍に立った。

「あんまりダメージは食らってねえかな・・・。リーダーの技のほうがよく効いてそうだ」
「だとすれば、あれはアンデッドの分類に入ってるはずだ」

 床に叩きつけられた際に痛めた肩をさり気なく庇いつつ、彼は立ち上がる。
 その視線の先で、背中からモロに叩きつけられたはずのアウロラが背筋を無理矢理伸ばし、息を吸い込んでいた。

「主よ・・・!聖なる光を抱く天よ・・・!」

 瘴気漂う異様な空間の中で響き渡ったのは、今までにも何度か不死者に歌ってみせた【浄福の詠歌】である。
 だが、それまでより倍するような朗々とした歌声は、他の何者をも圧して、全てを優しく清らかに包み込んだ。
 痛みを忘れさせるほどの神々しさ、声に込められた慰撫と安らぎ。
 彼女の歌に敵すらも動きを止めた。
 そして・・・・・・。

「隕石・・・・・・。天ハ何故アノヨウナモノヲ・・・・・・」

 鎌を振りかざしたまま、それを下ろすことも出来ずに固まっていた不浄の敵は、そこまで呟くと輪郭から徐々に光の粒となって天へ昇っていく。
 怖気を奮う造形と白いぬめぬめとした質感を持った骨が、詠歌に見送られ姿を消す寸前。

「神ヨ・・・・・・、しんたらノ神ヨ・・・・・・、オ答エクダサイ・・・・・・」

ネルカ城砦19

という悲しげな台詞を残していった・・・。
 ジーニが柳眉を寄せる。

「シンタラの神?」
「彼らの信仰・・・なのでしょう。ここで負けたことが、よほどに心に掛かっていたのか・・・。はたまた、何かをそこまで守り抜きたかったのか・・・」

 今の自分では推察するしかできないが、とアウロラは付け加えた。
 暗闇の中を残りの敵がいないか念の為に歩き回ると、魔法陣が宙に浮かんでいるのを見つけた。
 茶褐色の瞳を輝かせたジーニがじっと見つめる。

「これは・・・音に反応するって書いてあるわね。大事な品を隠すための陣みたいだけど」
「音・・・」

 ハッとなったアウロラが、ポケットから羊皮紙の切れ端を出す。

「ジーニの忠告に従って正解でしたね」
「あの老婆の言葉か」

 アレクが覗き込んだ。
 城砦に入る前に街で聞き込んだ際、さる老婆が城砦に纏わる呪文だと教えてくれた言葉の書付である。
 ただ、最後の一言がわからないと老婆は申し訳なさそうに身を縮めていたはずだ。

「大丈夫なのか、最後までわからなくて」
「先ほど、ヒントを頂いていたでしょう?」
「ヒント?」

 珍しく悪戯っぽく微笑んだアウロラの様子に、アレクが首を傾げる。

「私自身が申し上げたではないですか。彼が守り抜きたかったもの、それがこの魔法陣なのです」

 そこまで説明したアウロラは魔法陣に向き直り、堂々と魔法陣を解除する言葉を発した。

「エルレ・ピレ・シンタラ!」

 先ほど骸骨が呟いていた神の名を最後に唱えると、隠されていた宝箱が出現した。
 たちまち仲間たちは感心した声をあげる。
 鉄製の箱をエディンが調べると、罠が仕掛けられている。
 慎重にそれを外すと、彼は滑らかな動きで開錠し、蓋を開いた。

「槍だ。真っ白だな」
「これは・・・ネルカストーン製ね!これだけで結構なお宝じゃないの!」

 杖の≪カード≫をかざして鑑定したジーニから歓声が漏れる。
 どうやら、苦労してここに降りてきた甲斐は(少なくとも彼女の基準では)あったらしい。
 一同は互いの検討を称えながら、外に出るための魔法陣を発見してその上に乗った・・・・・・。

※≪万象の司≫≪石化治療薬≫≪大きな宝石≫≪解毒剤≫≪ネルカの槍≫≪ネルカの護符≫≪ネルカの石≫×8※
--------------------------------------------------------

■後書きまたは言い訳

63回目のお仕事は、SARUOさんのシナリオでネルカ城砦跡でした。
シナリオ公開からリプレイにするまでが早すぎるかなあ、とは思ったのですが、一応1ヵ月くらいは間を置いたので勘弁してやっていただければ幸いです。
特に依頼を受けるシーンなどが開始時になかったので、前回の小話と繋げられるよう、地図作製組合のクレーマーさんから情報を貰ったことにしてみました。本編にはありません。
地図作製組合が再始動なさった暁には、ぜひこちらのダンジョンも入れて欲しいものです。

主目的はダンジョンアタックなわけですが、入り口を探し当てるのに【魔力感知】が必要だったり、そこから潜り込むのに【魔法を解除】のキーコードが必要だったり、最後のボスのところは【飛行】キーコードがあった方が有利だったりと、なかなかテクニカルな魔法の使い方が求められる辺りが、高レベルダンジョンの高レベルたるゆえんなのではないかと私は思っております。
うちは全て自前で賄いましたが、もしこれらのキーコードを持たないパーティでも安全安心設計、街中でスクロールが購入可能です。ただ、翼の呪文については向こう岸に飛び越すのと、穴から下に降りるのに2つ必要になるのではと思いますが・・・。
まあ、ネルカストーンがあるからと開き直ってそのまま降りるのも、一つの方法ではあります。私はあまりお勧めいたしませんが。

ビボルダーが護符、アンデッド連中が【浄福の詠歌】で軒並み対処できたので楽でした。【亡者退散】を持ってる僧侶がいるのなら、そう苦労はなさらないのではというのがプレイした感想です。
ただし、あまりにも全体攻撃の火力が少ないと、護符を取る前のプチデーモンやビボルダーたちに散々苦しめられることになると思いますので、その分のフォローは各自パーティに潜ませておくべきかもしれませんね。

さてこちらのシナリオで、とうとうレベル10冒険者が生まれました。
アウロラ、アレク、ジーニの三名です。
地図作製組合によるポイントでクーポン貰ってた影響がモロに出ましたね。
恐らくこの分で行くと、ギル・エディン・ミナスも一つ高レベルシナリオこなせば10に到達するのではないかと推察されます。現在、次回にやるシナリオを三つほど検討中なのですが、どれにしたものか・・・。
戦闘がとにかくメインのシナリオとなると、とたんに私の文章力は落ちます(戦闘描写がとにかく下手っぴ)ので、それ以外にもストーリーが見えるやつがいいのですが。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/05/05 05:29 [edit]

category: ネルカ城砦跡

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Sun.

ネルカ城砦跡 5  

 目の前に開いた巨大な穴を、恐々と”金狼の牙”たちは覗き込んだ。
 底は見えない。
 穴が深すぎてロープがあっても安全に降りることは出来ない。

ネルカ城砦15

「持ってて良かったよね、この腕輪」

 ミナスが腕を振って元気よく合言葉を唱えると、その背中からうっすらと輝く翼が伸びた。
 代わる代わる、≪エア・ウォーカー≫と呼ばれる魔法の腕輪の効果で翼を作った彼らは、穴を跳び越して向こう岸へと到着する。
 床や壁、天井に仕掛けられた罠が無いかを警戒しつつ進むと、5個目の宝箱に行き当たる。
 鮮やかな手並みでエディンが取り出したのは、宝石つきの杖であった。

「≪万象の司≫ね・・・。回数制限はあるけど、≪賢者の杖≫やあたしの使ってる≪死霊術士の杖≫よりも強力な魔法の媒体よ」
「魔法詠唱を助ける道具か・・・」
「ええ、そう。優れた宝石回路がついててね、これが使用者の集中力を何倍も高めてくれるって寸法よ」
「大した魔法文明の遺産だな・・・。誰も今まで手をつけてないのが不思議なくらいだぜ」

 ギルが肩をすくめてみせたのを見て、ジーニは顔色も変えずに部屋の一方を指差した。

「それはね。ああいうことだと思うわよ」

 彼女の優美な指が示すのは、すっかり石化したらしい冒険者の姿であった。
 原因なのであろうビボルダーが2体、後ろでふよふよ漂っていたのだが、それはミナスの護符による光で動きを止められる。
 古代王国期の遺跡に希に出没する最悪の生物兵器がもう動かない様子を確認した”金狼の牙”たちは、揃って石像のほうへと近寄った。
 灰色の石と化した顔は意外なほど若く、整った顔立ちの女性であった。
 石の体に欠けた様子が無いことを素早く確認したアウロラが、

「石化さえ解ければ助かるかもしれません」

とギルを振り仰ぐ。
 彼が浅くはあったものの首を縦に振ったので、アウロラはかつて海賊王の秘宝が隠された孤島で使った、≪水銀華茶≫というお茶を石像に注ぎかけた。
 コルクの栓が外された口から緑色のお茶が滑り落ち、たちまち灰色の体がかつての色彩を取り戻して、石の硬い質感を失っていく。

「あ・・・・・・」

 石化の解けた唇が戦慄いた。
 しばし待つと、石像は亜麻色の髪の少女に戻っていた。
 ふらりとよろめいたところをアレクに抱えられる。

「貴方達が助けてくれたの?」
「ああ。解ける手段があって良かった」
「ありがとう。何かお礼をしないといけないわよね・・・・・・」

 間近にある白皙の美貌に、半ばうっとりとした目つきに変わった少女の背中を、ジーニは杖についた髑髏でノックした。

「ね、アンタさ。ここの採石するための工具持ってない?」
「・・・工具ですか?それでしたら・・・」

 彼女は腿に固定していたナイフを外し、鞘ごとジーニへと渡した。

ネルカ城砦16

「そのナイフを使えば、この辺りの壁からネルカの石を採取できるの」

 ジャンナと名乗った彼女は元々、それで一山当てようと来ていたのだと言う。
 しかし、ここの魔物はジャンナには強力すぎた。

「だから、貴方達に譲る。それじゃあね。バイバイ」
「ばいばい、じゃあね」

 望みの工具を手に入れた”金狼の牙”は、ジャンナを出口の近くまで見送ると、さっそくそれで近くの石を掘り出し始めた。

「なるほど、さくさく石が切れるな。・・・でも、これはいつまでも持つものじゃないぜ。精々、八回が限度ってとこだ」
「とりあえず、それで切り出せるだけ切り出しちゃう?」
「ちょっと待ってください」

 大人組みにアウロラが異を唱えた。

「先ほどの大きく裂けた穴ですが・・・何となく放置しておかないほうがいい気がするんです」
「アウロラの予感か。当たるからな・・・」

 ギルが頭を掻く。
 それを見つめつつジーニが言った。

「でも、もしそっちに何かの仕掛けなり敵なりがいるんなら、ここの石は持っておいたほうがいいんじゃない?回復と強化できるんでしょ?」
「・・・確かにな。エディン、取れるだけ取ってしまってくれ。その後であそこも調べてみよう」

 ギルの決定に一同は頷いた。

2013/05/05 05:28 [edit]

category: ネルカ城砦跡

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Sun.

ネルカ城砦跡 4  

「・・・っく、ビボルダーまで出てくるとはなあ」
「雑魚のスケルトンはアウロラの歌のおかげですぐ終わったけど・・・厄介だったね」

 【活力の法】で麻痺の効果から体をほぐしたギルにミナスが駆け寄り、残った怪我が無いかを確かめつつため息をついた。
 アレクの心配は的中し、”金狼の牙”たちは普段であれば何でもないクラスの敵に手こずらされている。

ネルカ城砦11

 へにょんと破裂した風船のようになったビボルダーの亡骸を蹴飛ばし、エディンは奥へ続く暗闇を照らした。

「・・・なんか落ちてやがんな」

 宝箱にすら入っていないそれを怪しみ、何かの仕掛けが部屋に施されていないか警戒したエディンだったが、あいにくと不審な点は見当たらなかった。
 問題ないだろうと拾い上げると、それはかつてリューンの下水道において拾い上げた護符にそっくりな形状をしている。

ネルカ城砦12

 ただ違うのは、側面にルーンらしきものが刻まれている点であった。

「アレク、ジーニ。読めるか・・・?」
「どれだ・・・?」
「ん?どうしたの?」

 ルーン文字を修めている2人が覗き込むも、その効果は分からない。
 ジーニが唇をやや尖らせるようにして言った。

「宝箱にも入れてない、ってことは、誰かが直接これを使ってたんじゃないかな。何かのコントローラーとか・・・」
「詳細は分からないが、確かにルーンの綴りの中にはそういう意味も含まれているな」

 現在、装備として違う首飾りをアウロラとアレクが身につけている。
 誰がつけるべきかとやや悩んでいると、ミナスが頂戴という形に手を伸ばした。

「僕つけてみたい!」
「え・・・えー・・・?」

 具体的な効果が不明なままだったのでエディンは躊躇ったが、ジーニが「やらせてあげなさいよ」と口を出したため、エルフの少年は嬉々としてそれを首にかけた。
 フェニックスの装飾がされた腕輪に、純金製の指輪。そして六芒星の描かれた首飾り――。
 ジャラジャラと装飾品だらけになってしまったミナスを見て、うーんとアウロラが唸った。

「鎧を身につけるよりはいいかもしれませんけど・・・」
「なんかなあ。段々エルフのイメージと離れてきたな」

 ギルがつんつんと立っている黒髪を掻いた。
 とりあえず拾った装飾品には即効性の効果は無いようなので、”金狼の牙”たちは警戒しつつ北へと進むことにした。
 途中、返り血で染まったのか赤くなったスケルトンのようなアンデッドが現れるも、【浄福の詠歌】で魂を天へと導かれる。
 喉を押さえてアウロラが呟く。

「・・・・・・ふぅ。ずいぶんと死に切れなかった者が多いようですね」
「お疲れさん。≪魔法薬≫とかあるからな。辛かったら言ってくれよ」

 ギルが軽く彼女の肩を叩いて労った。
 ランタンをかざしたエディンが「お!」と声をあげて足を進める。
 彼の視線の先には、鉄製の宝箱があった。
 エナジードレインという魔法的仕掛けの罠を見抜いたエディンは、ひときわ細く硬い針金を取り出し、蓋の一部に差し込んだ。

ネルカ城砦13

 微細な動きを繰り返すと、がちゃりと罠の外れる音がする。

「お、でかい宝石」

 エディンが手に乗せた宝石をジーニが鑑定する。

「綺麗なアクアマリンじゃないの。特別な効果はないけど、売ったら結構高いわよ」
「さて行こうか・・・・・・っ!?」

 エディンが素早く≪スワローナイフ≫を抜き放ち、ジーニの横へと投げつけた。
 死角から襲い掛かろうとしていたスケルトンのうち、一体を仕留める。
 だがもう一体は、ゆらゆらとした動きで暗闇の向こうへと消えていこうとしている。
 スケルトンは雑魚だが、この城砦地下でうろつかれるのはあまり嬉しい事ではない。
 咄嗟にそのまま追いかけると、ビボルダーやもう一体出てきたスケルトンが待ち構えていた。

「ちっ!」

 鋭く舌打ちしたギルが斧を構えた、その瞬間。
 一行の後ろのほうにいたミナスの胸元から、真っ白な光がビボルダーへと突き刺さる。

「わっ!?」

ネルカ城砦14

 驚きの声をあげるミナスをよそに、ネルカの護符から溢れた光を受けたビボルダーは、その奇怪にくねる動きを止めた。

「なーるほど、そういう物だったのか」

 ギルが感心した声をあげる。
 仲間が首から提げた護符は、魔法生物のコントローラーだった・・・ということである。
 残ったスケルトンを苦もなく破壊すると、彼らは残りの場所の探索にかかった。

2013/05/05 05:27 [edit]

category: ネルカ城砦跡

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Sun.

ネルカ城砦跡 3  

 まずは街から程近い城砦の南部に足を踏み入れた。
 そのほとんどが崩れ、瓦礫の山となっている。

ネルカ城砦07

 油断するとすぐ足を滑らしかねない場所を警戒し、”金狼の牙”たちはお互いに補助をしながらその場所に下りていった。

「・・・・・・どんな栄光も、時の前には空しいもんね」

 辺りを見回したジーニが、ぽつんと呟いた。
 伝承では魔法石で覆われた美しい外壁があったとされている。
 しかし、その殆どは削り取られ、遠い日の威光は見る影も無かった。

ネルカ城砦08

 時折、エディンが立ち止まっては残っている外壁を軽く叩いたり、ひびの入った辺りを指でなぞって調べたりしていたが、機械的な罠や仕掛けは見当たらない。

「こりゃ、本命は北部のほうかもしれないな」
「・・・そうかしら。ここまで来るとかえって怪しい気がするわ」

 ジーニはとある外壁の前まで来ると、首を傾げてそれを見上げた。

「これ・・・何だか怪しいのよね。ちょっと試してみてもいいかしら?」
「魔法か?」
「かもしれない。いずれにしろ調べてみなきゃ確かなことは・・・っと、この指輪もそろそろ力を使い切りそうね」

 彼女が優美な指で摘み上げたのは、蒼い輝きを見せる宝石の嵌まった指輪であった。
 貰った当初はスターサファイアのように誇らしげに輝いていたそれは、度重なる使用に魔力をすり減らし、5分の1ほどに光を失っている。
 ジーニはゆっくりとコマンドワードを唱えた。

『魔力を捕らえ我が目に映せ・・・!』

 たちまち、術者であるジーニの視界内が紫色に染まっていく。
 その中で、本来不可視であるはずの魔力のオーラが、外壁の一点から発せられているのが分かった。

ネルカ城砦09

「やっぱり・・・!」
「まさか幻覚ですか?」

 アウロラの指摘に彼女は首肯した。

「それも実体を伴った高度な術よ。でも正体さえ分かれば・・・!破魔の術をかけるわ」

 すんなりとした手がベルトポーチから翡翠色の瓶を引っ張り出した。
 栓を捻り、中の薬液をオーラの出ている場所に注ぎ込むと、たちまち幻覚の術は解除される。
 ギルが目を瞠った。

「階段が・・・」
「そういうこと!さって、ココから先はあなたの領分だからね、エディ」
「あいよ、任せてもらおうか」

 ランタンを掲げたエディンが、開いた入り口に長身を滑り込ませる。
 しばらくして、「いいぞ」という彼の声が返ってきたので、一同はアレク・アウロラ・ジーニ・ミナス・ギルの順で一人ずつゆっくりと降りていった。
 タン、と着地した足元よりも、アレクはまず周りの様子に呆気に取られた。

「これは・・・・・・ネルカの魔法石?」

 地下の壁はネルカの魔法石、すなわちネルカストーンと呼ばれる物体で覆い尽くされている。

ネルカ城砦10

 この魔法石の影響下にあるものは常に再生し続けることとなるわけで、それが不滅城砦と恐れられたこの場所の秘密だったのだろう。
 むき出しの石は敵味方の区別無く影響を及ぼす。
 こんな状況では、弱い敵であっても長期戦を強いられることは想像に難くない。

「ちょいとすごいだろう。・・・っと、アウロラ。お前さん、肥えたんじゃないか?」
「失敬な!」
「抱き心地が良くなったと褒めたのに・・・」
「全然褒めてませんよ!ジーニも何とか言ってやってください!」

 緊張感を欠くにも程がある仲間たちの様子である。
 自分の体を否応無く包み込む強化の力とは裏腹に、たちまちアレクは不安に包まれた。

2013/05/05 05:26 [edit]

category: ネルカ城砦跡

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Sun.

ネルカ城砦跡 2  

 ネルカ城砦跡のある街の近くまで訪れた”金狼の牙”たちは、さっそくマッピングをしながら進むことにした。
 薄い雲の浮かぶ晴天をギルが仰ぐ。

「いーい天気だな」
「全くだな。・・・で、どっちに向かえばいいんだ?」
「このまま東にひたすら歩いていけば城砦があるはずだけど・・・。ただ、途中にある街に寄ってみない?何か情報があるかもよ」

 エディンの疑問にジーニが答える。北東へ、という指示通りに彼らは隊列を組んで歩き始めた。
 するとほどなく、フィネルカの街並みが見えてくる。
 ミナスが赤褐色の屋根を持つ家々を指差した。

ネルカ城砦06

「あの大きな街?」
「そうよ。東国の大都市として知られたフィネルカ――」

 かつての大都市は、現在観光都市となっており、そこかしこに見目の良い昔ながらの建築物が並んでいる。
 一同はまず聞き込みを行うことにした。
 すると意外なことに、高度な魔法文明が栄えていた場所だというのに、現在の魔法の普及率が非常に低いことが判明した。
 雑貨屋にあるスクロールも、あれは実用品とは言えず骨董品と同じ扱いを受けているのだという。

「へえ・・・そんなことになってるなんてね。もったいないったら」
「こいつぁ、後で雑貨屋を覗いてみる必要があるな」
「なんで?」

 ぱちぱちと目を瞬かせるミナスに、エディンはそっと答えた。

「もし骨董品同然となりゃ、呪文書そのものの値段もリューンと比べて変動してる可能性が高い。目の玉を剥くほど高いか――ちり紙ほどに安いかだ」
「安かったら買っちゃおう、ってこと?」
「その方が良ければな。もっとも、売ってる物にもよるだろうが」

とエディンは付け加えた。
 ジーニが記憶している古文書によると、不滅城砦ネルカは一繋ぎの巨大な長城である。しかし、聞き込みによる現実のネルカ城砦跡は、ラーガリカ山を挟んで北部と南部に分かれている。
 この違いが確かならば、ネルカ城砦跡には何らかの仕掛けが――それも盗賊が見つけるのとは質の違う仕掛けがあると睨んだほうがいい。
 もし雑貨屋に置いてあるものでどうにかできるのなら、今のうちに唾をつけておくべきだと彼は自分の考えを述べた。
 眠たげな視線の先で、アレクとアウロラが、道端のベンチに座り込みながら編み棒を動かしていた老婆に話しかけている。
 アウロラがメモ用にとってある羊皮紙のきれっぱしを取り出し、何かを書き付けた。
 2人がこちらに戻ってきたのを見計らい、エディンが声をかける。

「よう。あの婆さんから何か教えてもらえたのかい?」
「エルレ・ピレ・なんとかという秘密の呪文があるそうなんです。城砦に纏わるものらしいのですが、それ以上はご存知ないようで・・・」

 やや頼りなげな顔でいうアウロラに、案外と神妙な顔つきになったジーニが言った。

「そういう土着の言い伝えってのは、結構ばかにできないもんよ。そのメモ、絶対に失くさないでね」
「それはもちろんです」
「それから・・・これも先ほどのお婆さんに教えてもらったんだが、ネルカの魔法石を採取するには、特殊な工具が必要らしいんだ」

 アレクが困惑した様子で言った。

「あん?工具を売ってる場所は聞いたのか?」
「石が採取されつくした現在じゃ、工具は作られていないんだそうだ」

 眉をひそめたエディンは、さっそく雑貨屋に向かい店内の様子を確かめてみたが、その工具とやらが置かれていることはなかった。
 呪文書についても思っていたほど値は安くなく、いずれの呪文についても備えのある自分たちが改めて買う必要は無いと、彼は残念そうに首を横に振った。

「ね、見て。これがネルカの魔法の石なんだって」

 ミナスが示したのは、不滅城砦ネルカの外壁から切り出したという魔法石だ。青白く滑らかな表面上に、ルーン文字に似た紋様が浮き彫られている。

ネルカ城砦05

 その傍らには、復元と強化の力を有し、味方全員の失われた体力を回復することができる、という注意書きが書いてある。
 ギルが唸った。

「ここに書かれたことが確かなら、貴重品もいいところだぜ」
「私の【癒身の結界】もアレクの【癒しの煌めき】も、そう簡単に手に入る呪文ではありませんでしたからね。ましてや、癒し手のいないパーティにはどれほど重要なアイテムか・・・」

 値段を覗き込むと、そこには銀貨2500枚とあった。
 ジーニがポン、と杖の髑髏で自分の肩を叩いた。

「そうだ。ココにはなくても、採掘に来てた冒険者なら持ってるんじゃない?工具」
「・・・俺は追いはぎは良くないと思うぞ」

 真面目な顔を崩さずに言ったアレクの額を、コツンと髑髏が軽く叩く。

「違うっ。交渉して得られないかってこと!中に入ったはいいけど、手に負えないから諦めたってやつに声をかけるのよ」
「あ、なるほど・・・」

 ジーニの意見に納得した一行は、城砦跡に行くことにした。

2013/05/05 05:25 [edit]

category: ネルカ城砦跡

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