Thu.

satan 13  

44satan

 ギルの一撃で見事中央突破を成功させた冒険者たちは、号令一下、大広間へと突入を果たした。

「ヴ・・・・・・・・・」

 その視線の先には、ザンダンカルの魔王が佇んでいる。
 すぐに冒険者に気づいたようだ。両脇には体を低くし、前傾に構えた魔物が2体残っている。
 魔王の前に、赤い玉が出現した。
 先ほど教会を吹き飛ばした玉と、全く同じ形状をしている。

「ク・・・・・・ジーニ、これは・・・!」

 エディンが焦った声を出した。冒険者の後方には、倒しきらなかった魔物の大群が詰め寄せてきている。
 突っ込んで魔法を打たせるなと指示しようとしたギルを制し、ジーニは打たせろと叫んだ。

45satan

「皆、四方に散って!固まるな!1人でも多く直撃を避けて!!」
「! そういうことか!」

 彼女の意図に気づいたアレクが、いち早くトールを逃がしつつ大広間の端のほうへと体を投げ出す。
 戸惑ったようなラングの体を、委細構わずギルが体当たりで吹き飛ばした。
 魔王がゆっくりと手を上げていく。

「散れぇーーーっ!!」

 他の仲間たちも、ジーニのその叫びが終わらぬ内に四方八方へと体を投げ出していった。

「ヴオオォーーーーーーーー!!」

 ・・・・・・魔王の呪文による爆炎が辺り一帯を包む。
 凄まじい量の熱と煙がようやく晴れた時、”金狼の牙”で立ち上がれたのはアレク・エディン・ミナスの3名だけだった。
 アレクが声をかけると、ギルによってちょうど上手い具合に死角となる場所へ吹き飛ばされていたラングも、そこから這い出してくる。

46satan

「ク・・・・・・大丈夫か、ラング・・・・・・」
「は・・・・・・・・・はい、何とか・・・・・・・・・」

 魔王が放った赤い玉は、広間の入り口付近を直撃した。その近くにいたジーニたちが巻き込まれ倒れている。
 だがそれ以上に、多くの魔物が爆発に巻き込まれており、無数の体の破片が飛び散っていた。
 天井から大小問わず多くの瓦礫が崩れ落ち、その下敷きになっている魔物もいる。

「なるほど・・・・・・な。王は魔物を気にせず魔法を放つ。四方に散った俺たちの方が被害が少ない・・・・・・か」
「そして、生き残った者が・・・・・・王を討つ・・・・・・と・・・・・・」

 アレクの感心した呟きに、エディンが応じて双剣を抜き放つ。

「・・・・・・ったく、随分な賭けだな・・・・・・」

 呆れたように頭を振ると、エディンは敵の戦力を観察した。王以外に魔物は2体、後方で正常に動ける魔物は、せいぜい数体程度といったところだろう。
 王自身も正常に立つ事が出来ていない。すっかり杖代わりと化した剣は左右に大きくぶれており、直立する事すら辛そうに見える。

「行くぞ、ラング!」

 ここが好機と、アレクは気合の篭った声で呼ばわった。

「は、はい!」
「雑魚は僕に任せて、皆は王に集中して!」

 ミナスはそう言い放つと、≪森羅の杖≫に魔力を集中し始めた。
 主の意を受けて、スネグーロチカが冷気を振り撒きながら魔物へと取り付く。更にはミナスの足元から奔流が迸り、ナパイアスが敵を押し流していく。
 エディンは立ちはだかろうとする魔物を精妙なステップで振り切り、王のローブを魔力による杭で奥の壁にはりつけた。

「今だ、アレク!」
「おう!」

 動けずにいる魔王へ、アレクが続けざまに何度も斬撃を放つ。

「こいつで・・・・・・どうだ!」
「ヴ・・・・・・・・・ヴヴヴヴォーーー!!」

 渾身の力が篭った戦士の一撃が、魔王の頭を砕いた。
 杖代わりにしていた剣が前方に転がる。

47satan

「!」

 エディンは≪クリスベイル≫を落として素早く魔王の剣を拾い上げ、目前の胸に突き刺した。

「終わりだ」

 王の全身の力が抜けていくのが分かる。

「オォォォォ・・・・・・」

 悲しげな咆哮を上げると、魔物も活動を停止し始めた。王の方を向き、力なくただ立っている。
 ラングが信じられないものを見た、といった態で「やった・・・・・・」と呟いている。
 次の瞬間、建物全体が揺れ始めた。
 アレクが慌てて辺りを見回す。

「何だ!?」
「あー・・・こりゃ、さっきの大魔法で建物が逝っちまったんじゃねえ?崩れるぞ」
「早く脱出した方が良さそうだな」

 エディンの言葉を受け、天井に隠れていたトールがようやく下りてきたのを懐に収めたアレクは、ギルの体を背負い始めた。
 倒れている仲間たちは大小の傷はあるものの、しっかり息をしており、充分な休養と回復魔法を施せば大丈夫な様子である。
 顎でジーニを担当するようラングに合図をして、エディンはミナスにギルの斧とジーニの杖を持たせた。
 自分はアウロラの体を担ぎ上げ、やれやれと息をつく。

「長居は無用だな」

 アレクが淡々と言った。

「街で新たにさらわれた子供もいるかもしれない。注意して行こう」
「大丈夫、生命の気配があれば僕に分かるから!任せて!」

 小さなエルフが自分の胸を叩いたが、彼らが調査しながら帰る途中の道に新たな子供の姿はなかった。
 轟音と共に、徐々に瓦礫が降り注いでいく。
 王の上にも瓦礫は落ち、その体は少しずつ埋まっていった。
 やがて、ひときわ大きな瓦礫が落下し、王の姿は完全に見えなくなった・・・・・・。

 教会の地下から崩落音が鳴り響き、やがて静まり返ると、誰にとも無くアレクは独白した。

「終わった・・・・・・・・・な・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・ああ」

 エディンが頷く後ろで、すっかり汚れてしまった顔を拭いもせず、ラングは問いかけた。

「本当に・・・・・・本当に終わったんですか?アレクシスさん・・・・・・」
「ああ」

 ゆっくりとラングがしゃがみ込む。張り詰めていたものが一気に切れたようで、抱えていた荷物をミナスがそっと下に置き、彼の背中を撫でた。
 ヴァニラは言っていた。王は封印こそできても、死ぬ事は無いのだと。
 またもし、王を蘇らせるヴァニラのような人間が出現したら・・・・・・。

「僕は・・・・・・多くの人たちの役に立ちたい。そう思って冒険者になりました」

 ラングがゆっくりと呟く。
 騎士の守護の無い田舎の地方では、まだまだ多くの者達が妖魔に苦しめられている。ラングは、そんな弱者たちを助けたいとずっと思っていた。
 しかし、このザンダンカルにおいては・・・・・・人が人を殺した。

「生きるために人を襲う。そんな人は、今まで何度も見てきました・・・・・・」

 だが、今回は違っている。自分の欲望のためだけに人を犠牲にした者がいる。
 アレクはゆっくりと胸のうちを吐露した。

「・・・・・・・・・ラング。冒険者としての経験・・・・・・それをお前に教える事は出来る」

 ただし、と彼は付け加える。

「冒険者としての目的、それをお前に授ける事は出来ない。それはお前が自分で答えを見つけるものだからだ」
「・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・」

 ラングは思った。これからどんな困難な事が待ち構えていようと、今日と言う日を決して忘れまいと。ラングは、この後にアレクにこう聞いたのだ。

48satan

「道に迷ったら・・・・・・・・・付いていってもいいですか?」
「・・・・・・それも、お前が決める事だ」

 否定もせず、肯定もせず、アレクはただ静かにひたと血色に見える双眸を、後輩に向けていた。

※収入2500sp※
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■後書きまたは言い訳

57回目のお仕事は、leaderさんのシナリオでsatanです。
いやはや、長いのなんのって・・・っ!今まで一番長いのはDr.タカミネ様作の「最後の最後に笑う者」46KBだったのですが、今回のリプレイ原稿見たらぶっちぎりの72KB。
手ごたえのある、さすが高レベルらしい依頼と敵とキャラクターたちの立ち回り具合だったのですが、圧倒的に体力取られました。その分だけ見ごたえのあるリプレイになったんだといいのですが・・・。

途中でちょこちょこと今までに受けた依頼のことが出てきておりますが、本編では特に出てきておりません。ただ、魔王の正体について、魔法使いがあれはリッチーに近いものだ、と看破する前から「この画像はカナン様に似てるよなあ・・・。」と思ってはいたんですが。(笑)
盗賊役だったり、後輩の世話役だったり、リーダーだったり、参謀だったりを選ぶ事が出来るシナリオで、”金狼の牙”の場合はこれしかないなーという感じで、すぐ決定できました。
なるべく台詞は本編のままを書くようにしてるのですが、ほぼ直す必要がなかったです。
一応大きく違うところとしては、ザンダンカルの宿亭主から情報収集する様子はかなりアレンジをさせてもらっています。アウロラがきな臭いと言ってますが、あの段階でそこまで疑っていないんですよね。ただ、彼女なら少し疑わしく感じるんじゃないかなと思い、そこは改変させてもらいました。

今回、ジーニが元貴族脅したり、後輩からかったり、治安局の人叱ったりしているのはシナリオのとおりそのままなんですが、この人ものすごく生き生きしてるなあ・・・と、作者が思ってしまいました。(笑)

次回はもうちょっと短いシナリオにしよう・・・。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/04/11 18:31 [edit]

category: satan

tb: --   cm: 3

Thu.

satan 12  

 教会の表側では、すでに治安局員と暴徒が少数で小競り合いを行なっているが、崩れ落ちずに残った瓦礫が遮り、表と裏の様子はお互いに分からない。

「魔物は・・・・・・いないようですね」

 きょろきょろと辺りを見回すラングに、アレクはここに残れと指示をした。
 自分も当然行くものだと思っていたラングは、気色ばんで否を唱えたが、魔物が何匹帰ってくるかをバイゼルに知らせる役目が必要なのだと彼は説明した。

「重要な情報だ。それに今度こそお前が足手まといになる」

 分かってるだろうと言われると、それ以上返す言葉は新米たる彼には残っていない。確かに、最初の後退の時でさえ彼はチームの足を引っ張っていたのである。
 渋々頷いたラングは、それでもアレクに縋るように言った。

「で、でも必ず戻ってきてください!!約束して下さい!!」
「当たり前だ」

 彼らは教会の地下へと進んだ。
 隠し階段の辺りまでたどり着くと、再びエディンは辺りを素早く伺ったが、誰もいないと結果を告げる。
 そしてエディンは、アレクを助手に階段のある部屋のガラクタをバリケード代わりに積み上げた。これで挟撃を防ぐつもりなのだ。

「もう少し灯を近づけてくれ」
「こうか?」
「ああ、悪ぃな・・・・・・ん?」

 作業の途中、灯りで照らされている範囲の端に見覚えのある影が映り、エディンは手を止める。

「ラング!?」

 何をやっていると言い咎めるアレクに構わず、ラングは自分が見たものを報告した。

「ま、魔物です!!魔物がいっぱい戻ってきました!!」
「それでどうしてこちらに来るんだ、お前は!?」
「い、いっぱいいたので・・・・・・知らせないとと思って・・・」

 珍しく動揺して後輩を叱り飛ばすアレクの背中を叩いて落ち着かせると、ギルは「何体だ?」と問うた。

「10体です!すぐそこまで来てます!」
「・・・・・・このバリケードは10体でも持つの?」

 ジーニが胡乱げな目になってガラクタの山を見つめる。エディンは小さく唸った。

「ここで応戦すれば少しは持つが・・・・・・」
「それじゃ意味が――」

 意味がないだろう、とジーニが言いかけた時。
 腹に響くような咆哮を上げて、魔物が教会地下へと侵入してきた。即座にこちらに気づいたらしい。
 アレクは持っていたフォーチュン=ベル製のランタンをラングに押し付けると、すらりと愛剣を抜き放った。

「奥に引くか!?」
「駄目だ!10体ではこのバリケードは持たない!挟み撃ちにあう!!」

 リーダーの言葉にエディンが返す。

42satan

「クソッ!!ここでやるしかないかっ!!」

 ギルはさっさと斧を構えた。最初は一匹しか近づいて来れなかったものの、ゾクゾクと魔物が地下に降りてくる。
 すでに地下は埋め尽くされてしまった。
 多すぎると舌打ちしたジーニは、ラングに向かって叫んだ。

「ラング!!そこのバリケードに火と油を投げ込んで!!」

43satan

「えぇ!?ちっ、地下ですよっ!?本気ですか!?」
「いいからやんなさい!アンタ、あたしに逆らうの!?」
「は、はいっ!!」

 金属製の手甲に包まれた腕が弧を描き、ランタン用の油と、火種を移したガラクタの木片がバリケードに投げ込まれる。
 油は若干それたが、それでも勢いよく火が燃え始めた。

「よしっ!!行くわよっ!!」

 ジーニがバリケードを杖で薙ぎ倒すと、魔物と冒険者の間に燃えさかるバリケードが崩れ落ち、炎の障壁が出来る。
 退け、という合図によって彼らは階段を駆け下り、子供の遺体を発見した小部屋まで移動した。
 まだ体力の少ないラングは、全力疾走により吐き気を催している。
 えづく後輩の背中を撫でつつ、アレクが涼しい顔で訊ねた。

「どれくらい持つ?」
「分からないわ・・・・・・。30分以上は燃えると思うけど、炎の勢いが弱まれば突っ込んでくるかもしれない」
「・・・・・・なら、躊躇してる暇はねえな」

 エディンは一行の先頭に立った。

「先に進むぞ。・・・ラング、行けるか?」
「は、はい」

 健気にもラングはすっくと立ち上がった。
 支援魔法をかけられるだけかけ、王の待つであろう広間へと向かう。
 ・・・・・・ふと、先を歩んでいたエディンの足が止まった。

(皆、止まれ。・・・・・・・・・居やがるぜ)

 大広間の前で、2体の魔物がうろついている。こちらにはまだ気づいていない。
 一行は奇襲を選択した。

(・・・・・・行くぞ!!)

 ・・・・・・準備満タンで挑んだ彼らが、2体の魔物に負けるはずも無い。あっという間に2つの巨体が地を這った。
 その死体を見つめながら、アレクが長く息を吐く。

「ヴオオオォォォ・・・・・・ン!!!」
「!!」

 後方より魔物の咆哮が聞こえる。もうあのバリケードを突破したものらしい。彼らは前方へと足を向けた。
 ところが、前にも無傷の魔物たちが集まり始めたではないか!!

「くっ・・・・・・後ろにも・・・・・・」

 ギルは後方を確認して呻いた。前方には10体程度、後方には見える範囲でも5体はいる。完全な挟み撃ちだ。

「愚痴っても仕方ないが・・・・・・ジーニ?」
「分かってるわよ。今考えてる」

 リーダーからの要請前に、ジーニの頭はフル回転していた。

「・・・・・・奥の広間に突入しましょ。真ん中の奴だけ倒して一気に行くのよ」
「突入してどうすんだよ。勝算はあるのか?」
「なきゃ言うわけ無いでしょ。あたしに賭けなさい」
「うわあ。すごい不安」

 傍らでそれを聞いていたミナスは、口ではそう言いながら顔が笑っていた。
 ギルもそれに勇気付けられて笑う。

「・・・・・・行くぞ!仕掛けられる前に仕掛ける!」

2013/04/11 18:27 [edit]

category: satan

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Thu.

satan 11  

 骸骨が【炎の玉】の何十倍もの威力をした焔を教会に放って建物のほとんどを吹き飛ばし、魔物たちが街へと飛び去った後、ジーニは騎士団の要請をミーナに切り出した。

38satan

 もはやあの数では、いち冒険者たちの手には負えるものではない。即急に、人海戦術で対抗すべきであった。
 そのため治安局に戻り、バイゼルの手助けを借りようとしたが、返事ははかばかしいものではなかった。
 治安局にも魔物の目撃証言が届けられており、教会が放火された事実も伝わってはいたものの、”金狼の牙”たちが承知しているほど大きな状況だと思っていないのだ。
 今も、正確な報告を受けたはずの彼の目は点になっている。

「バイゼル。まずは、落ち着いて聞いて。多くの魔物が街に放たれた。魔王の食料になるのか、魔物の召喚に使うのか知らないけど、このままでは多くの人間が犠牲になる」
「数も多く、とても私たちだけでは対応できません。治安局員もですが、騎士団の出動をすぐに要請すべきです」

 ジーニとアウロラが代わる代わる言うのに、彼は力なく首を横に振るばかりだ。

「お、俺に・・・・・・そんな権限は・・・・・・・・・議長じゃないと・・・・・・・・・」

39satan

「なら、さっさと議長に話を通しなさい!今対応できなければ、たくさんの人間が死ぬのよ。アンタが街の人間を守るんじゃないの!?」

 ジーニは毅然として言い放った。

「・・・・・・だな。すまん・・・・・・・・・よし!!」

 バイゼルは顔に朱の色を取り戻し、議長に騎士団出動の要望を出すと言って動き出した。

 ――しかし、議長は魔物の目撃証言が一件だけで、他は全てリューンから来た冒険者の話でしかない事を理由に、騎士団出動に難色を示す――暴動を抑え込むより、一匹しか目撃されていない魔物の方が脅威なのか?
 貴族が多い騎士団に抵抗を持つ議長には、うかうかと返事の出来ないことであった。
 それからどれほど時間が経ったのか、議長が権限を行使し騎士団出動をさせるまでにこぎつけたバイゼルの顔は、疲労によって彩られていた。
 これからの対策を話し始めた一同の中で、ふとエディンがいち早く何かの違和感に気づいて顔をあげた。

「皆、気をつけろ。何かが近づいてきてる」
「何っ!?魔物かっ!?」
「分からない。何かが部屋の外まできている」

 気色ばんだギルを落ち着かせるようエディンは言い、そっとマントの内側で≪スワローナイフ≫の柄を握り締めた。
 アレクがさり気なく立ち位置を変え、バイゼルやラングを庇う場所に立つ。アウロラもそれに気づき、すっとミーナの前に立った。
 そして、それが部屋に入ってきた。

「ヴァニラっ!?」
「おおっと、これはこれは皆さん臨戦態勢で」
「いい度胸だな。わざわざ捕まりに来てくれるとは・・・・・・」

 ギルがそう言うと、ヴァニラはわざとらしく両手を挙げて応える。

「いやいや捕まる気は毛頭ない。君らと会話しに来ただけだ」
「会話?」

 訝しく思ったアレクが嫌悪感を込めたまま声を発すると、ヴァニラは口の端を微かに上げて情報を持ってきたのだと告げた。

「とりあえず、まずは私の話を聞いたらどうだ?魔王の事を知りたいだろう」

 ジーニは臍を噛んだ。情報がほしいのは確かだが、ヴァニラの企みがまったくと言っていいほど見えない。
 その時、静かに佇んでいたはずのアウロラが、ヴァニラの目を真っ直ぐねめつけながら口を開いた。

「分かりました。喋りたいことがあるならどうぞ」
「アウロラ・・・!」
「そうこなくては」

 ミナスが非難の声をあげるも、それをそっと押し留めたアウロラの姿ににやりと笑い、ヴァニラは情報とやらを一同に披露してみせた。
 教会の地下に出現した骸骨、あれこそがザンダンカルの魔王であり、羽の生えた化け物は彼の召喚した魔物である事。
 彼自身が地下で執り行っていたのは、結局あの魔王の復活の手助けであった事。
 全てはカウフマンの指示ではなく、ヴァニラが魔王の眠る教会を押さえるために上手く唆し、街に不穏な噂をばら撒く一方で生贄となる子供たちをさらった事。
 
「私のそもそもの目的は、王の禁呪。これを手に入れることだった」

40satan

「・・・・・・ろくでもない目的ね」
「君にとってはそうかね? 人間界に本来存在するはずの無い、魔界の王が使う禁呪・・・・・・」

 あるものは山を吹き飛ばし、あるものは川を干上がらせる。
 魔法を使う人間であれば、その魅力に焦がれるものだと濁った熱をもって語るヴァニラの顔を睨み、ジーニは唾を吐き捨てた。
 木箱に封印された魔王の胸に突き刺さる剣を抜き取り、血を数滴垂らすことで蘇らせると、ヴァニラは魔王と契約を結んだ。
 封印が解けたばかりの魔王は、その本来の力からするとあまりに脆弱。従って自らを守る守護者を必要としており、契約を結んだ見返りに禁呪を与えるのである。
 王が完全復活を遂げた暁には、契約時に賜った指輪で禁呪を制御する事が可能となる。ヴァニラは歓喜した。
 ところが、”金狼の牙”たちやラングの邪魔が入った・・・・・・。

「私は王を見捨ててしまった・・・・・・王の完全復活の前に・・・・・・」

 後に残ったのは制御不能の禁呪だけだと零したヴァニラはこちらを睨んだ。その殺気が増していく。
 フン、とアレクが鼻を鳴らした。

「それで俺達に復讐か?」
「そんな事をしてどうなる。すでに終わった事だ」

 その言葉と共に、確かにヴァニラの殺気は消えていく。

「王は、契約を破棄した者を許しはしない。私をどこまでも追いかけ探し出し・・・指輪を取り上げると共に私を殺すだろう」
「・・・・・・・・・いい気味だな」
「だから、私は君たちに託す事にしたのだよ。王の封印をな」
「それは都合が良すぎるというものだろう。第一、あんな化け物をどう相手しろと?」

 アレクがそう言うと、ヴァニラは魔王が不完全な身体で強力な魔法行使をしたことを指摘した。間違いなく、かなりの反動を喰らっているはずだと。
 そして今であれば、魔物の大半も王の側から離れている。
 ヴァニラを救うつもりなど冒険者たちにはさらさらないし、彼が魔王によって殺されるのは因果応報というものである。ただし、それもザンダンカルという街の事がなければだ。
 早く魔物たちを駆逐しなければ、罪なき市民たちがヴァニラの起こした事態の巻き添えを食うのである。そしてその犠牲者の数が多ければ多いほど、魔王は今よりももっと力を増していく・・・。

「・・・・・・・・・話は分かってもらえたかな?では失礼する。いつか君らの英雄譚を聞かせて貰うことにしよう」
「・・・・・・ま、待てっ!!」

 ラングが追いすがるも、ヴァニラは音もなく消えた。

「聞きたかったらキーレにでも行きなさいよ。そして巨人にでもやられちゃえ」

 そう小さく吐き捨てた仲間を、ミナスがつぶらな濃藍色の瞳で見上げる。

「ね、ジーニ。ヴァニラが言ってる事って本当かな?」
「どこまで本当かはわからないわ。ただ、恐らくは・・・否定する材料の方が少ないからね。王を倒すのが今しかないのも、本当でしょう・・・・・・」

 強力な魔法を使ってはいたが、王の動きは明らかに鈍かった。そして、大半の魔物が飛び去っている。
 そこまでジーニが分析をした時、不意にギルがバイゼルを呼ばわった。

「なっ、なんだ?」
「・・・・・・・・・俺たちが突入する」

41satan

 狼狽するバイゼルにギルは静かに言った。

「騎士団を待っていたら、手遅れになる。今のヴァニラの話を聞いてたろ?」
「も、もちろん聞いていたが、お前らがそこまでする必要は無い!」
「ここまで関わった以上、もう後には退けない。・・・・・・そんなとこか、ギル?」

 アレクが微笑んで幼馴染の顔を見やると、ギルは悪戯っぽくにやりと笑った。
 この都市を救う方法は一つ。今すぐ教会地下に入り、魔物が戻る前に王を倒す事である。
 ジーニは歯切れのいい声で指示をした。

「バイゼルとミーナは騎士団の要請に向かって。ラングはあたしたちと共に来るのよ。万が一ってこともあるからね。こっちが全滅したら騎士団が最後の砦よ」

 一緒に来たそうな顔をしているバイゼルにそう言って微笑むと、ジーニは「アンタの地位を利用しなさい」と告げた。

2013/04/11 18:23 [edit]

category: satan

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Thu.

satan 10  


 ギルが斧の刃を喉先に突きつけると、ヴァニラは呻き声をあげた。

「・・・・・・・・なん・・・・・・と・・・・・・・」

 カウフマンが裏切って情報を漏らしたことを指輪と共にヴァニラに放つと、彼は金で”金狼の牙”たちを買おうと申し出たが、鼻先で笑い飛ばしたジーニに一蹴された。
 当然、二人の部下を使って彼は口封じをしようと戦いを挑んできたのだが、あっという間に叩き伏せられたのである。

34satan

「逃げ場は無い。死にたくなければ、その手に持っている物を今すぐ捨てろ」
「これは恐れ入った・・・・・・これほどの・・・・・・腕前とは・・・・・・」
「ミーナは、連れ去った治安局員はどこだ?」
「もはやここまでか・・・・・・。半分しか・・・・・・達成できんとは・・・」
「質問に答えろ、訳わからねえ事ばかり言ってんじゃねえ!!」

 ギルは斧を握る手に力を込めたが、ヴァニラの様子が変わることはなかった。
 「まあいい」と呟いた彼に何を感じたのか、慌ててジーニがヴァニラの腕を掴もうとする。

「遅い」

 桜色に塗られた爪つきの手は、あっけなく空を切った。何かのアイテムに封じていたらしい転移呪文の仕業である。

「そうよ、これがあったのよ・・・油断してたわ・・・・・・」

 すでにヴァニラの気配は微塵も辺りから感じない。気持ちを切り替えた”金狼の牙”たちは、まずはミーナを探す事にした。
 更に奥へと続く通路をラングが見つけ、一行がそこを通り抜けると、地下とは思えないほどの大きな広間に出た。
 一人の少女が倒れている――ミーナのようだ。
 ラングがすぐにミーナの元に駆け寄り、抱きかかえる。

「ミーナ!!大丈夫か!!」
「ン・・・・・・ヴーン・・・・・・・・・」

35satan

 先ほどとは違い、暖かい感触が伝わってきた。生きているようだ、とラングは安堵した。

「ン・・・・・・ラン・・・・・・グ?」
「ミーナ・・・・・・よかった。本当によかった・・・・・・・・・」
「ここ・・・・・・は・・・・・・?私、確かカウフ・・・・・・痛ッ・・・・・・」

 ミーナは腕を抱えてうずくまった。

「怪我人でっか?わての出番でっしゃろか?」

 アレクの暗い色の外套から雪精トールが飛び上がり、宿主の肩に乗る。

「どれ・・・・・・うちの精霊に見せてみろ」
「あ・・・・・・・・・は、はい」

 ミーナは生まれて初めて目にする精霊に興味津々となりながらも、ヴァニラとの交戦の際に受けた傷を、トールが氷の魔力で癒すのに任せた。幸い、軽傷のようである。

「大丈夫ですわ。浅い傷でんな」
「・・・・・・よかった」

 ほっとした様子のラングの肩をギルが叩き、まだ事態を把握できていないミーナにジーニが気をしっかり持つよういい含めて事情を説明する。
 治安局員という仲間を失った事に対してさすがにショックを受けているものの、彼女の一言一言をミーナは冷静に聞いた。
 ぽつり、とミーナは呟いた。

「ヴァニラは・・・・・・もう?」
「そうね・・・・・・。すぐにこの街を後にするでしょう」
「・・・・・・カウフマンは?」
「ヴァニラは逃がしたけど、他の2人は捕まえてあるわ。そいつら次第だけど、上手く取引を持ち出せば、証言は取れるでしょう」

 カウフマンの企みが公となれば、街での暴動も収まり奴は失脚する。それで魔王騒動も終わりだと、ジーニは肩をぐるぐる回して言った。

「アレクシスさん・・・・・・」
「どうした?」

 ラングはアレクに向き直った。

「魔王って・・・・・・魔王って一体何なんでしょう?」
「・・・・・・」
「結局は人が・・・・・・一番残酷でした・・・・・・。魔王って・・・・・・いえ・・・・・・人って・・・」

 上手く言い表せないらしい様子のラングに、アレクは静かに訊ねる。

「・・・・・・・・・人に・・・・・・失望したか?」
「えっ」
「リューンに帰る時にでも、ゆっくり考えるといい。話が纏まった時、いくらでも聞いてやるよ」
「・・・・・・は、はい!」

 それより早く暴動を鎮めて無駄な血を流すのを止めないと、と一同が立ち上がった時だった。バタン、と何処かのドアが開く音が響いた。
 広間の奥に、先ほどまでは無かった扉が有り、その前に何かが立っている。こちらを見ているようだ。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・なっ!?」

 エディンが小さく声をあげた。
 その何かは薄汚れたローブを羽織っており、顔とローブが擦り切れた身体の一部分しか見えない。しかし、明らかに人間のものとは異なる。
 手にはやや古びた剣を持ち、杖代わりにしている様に見える。

「・・・・・・アレク、俺ああいうの前に一回見たことある」
「偶然だな、ギル。俺も今思い出してた」

 幼馴染たちはミーナとラングを背後に庇いながら囁いた。
 暗闇を塗りこめたように感じる圧倒的な魔力と、心胆を震わせる迫力。生者には感じる事の無い禍々しい負の気配。
 全て、一度とある化け物の前で感じた事であった・・・・・・・・・そう、あのカナナン村に封じられていたソドムの狂王から!!

「な、何ですか、あれは!?ち、近づいてきますよ!?」

 正体は分からないながらもおぞましい存在である事を感覚で察したのか、泣きそうな声でミーナが叫ぶのに、ギルが小さく叱咤した。

「落ち着け、ミーナ、ラング!取り乱すな!」
「そ、そんな事言われても!あのスケルトンは何なんですか!?」

 ラングの顔も引きつっている。スケルトンではなく、恐らくリッチの類だろうとジーニは推察した。
 ギルがそっと後輩に声をかける。

「いいから落ち着け。隙を見てここから一度引くぞ」
「え?」

 きょとんとした顔になったラングに向かって、ジーニが言う。

「状況が全く把握出来ていない。危険すぎるわ。一戦を交えるのは無謀、そして無意味よ」

 正直、あの狂王と同じくらいの実力であれば、戦闘はきついとしか言いようが無い。あの時は古代文明期の兵器を利用したが、今それはないのだから。
 ジーニの囁きに対し、人形のようにラングは頷いた。

「あ、は、はい」

 そして、その判断が正しい事がすぐに分かった。
 骸骨の後ろに、突如3体の魔物が現れた。どす黒い紫色の肌をしており、背中には大きな翼が生えている。体長も2mは優に超えているだろう。
 ギルがジーニに訊ねる。

「・・・・・・逃げ切れるか?」
「途中の階段まで行ければ、後は逃げ切れるわ。あの階段は狭いからね、小さなこっちが有利よ」

 今のこの距離が、冒険者たちのアドバンテージである。その使い方を間違えれば、彼らの人生はあっけなく幕切れとなる事だろう。
 じりじりと広間の入口近くまで後退し、身動きの無い相手を不審がりながらこのまま逃げ切れるかと思われたが・・・・・・その瞬間。

「ヴオオオオオオオオオオ!!!」

 大きな咆哮と共に・・・・・なんと、魔物が奥からゾクゾクと湧いてきた。その数、50体以上。

37satan

「走れーーーッ!!」

 ギルの叫びと共に、命を賭けた鬼ごっこが開始された!

2013/04/11 18:18 [edit]

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Thu.

satan 9  

 鬱蒼とした木々の中。
 軍の要人というからどれだけ手強いかと思っていたが、所詮は金で地位を買った人物と言うべきか、気絶から復帰したカウフマンが本物の殺気をもって問いを放ってきた冒険者たちを手こずらせたのは、最初の三分だけであった。
 ミーナの残したダガーを片手に、ジーニが笑いを含んで言う。

「カウフマン。自分をよく見てみて」
「!?」

 顔、腹を中心に、ドロドロとした薄黒い液体で濡れている。気絶中に、ラングが皮袋から彼に振り撒いた油であった。

「一度、火をつけたが最後。どうしようも出来ないわ。もう一度だけ聞く。ヴァニラと子供達はどこ?」
「や、やめてくれっ!!ほ、本当だ!!本当に知らん!!」
「・・・・・・じゃあ、別な質問をしましょう。イエスかノーで答えて。ヴァニラは、ザンダンカルの人間なの?」

 ジーニは、黒ローブの男のようにカウフマンが呪法を仕込まれていた時の用心のため、余計な事を喋らせないようなやり方に変えて質問を続けた。
 ヴァニラはここの人間では無いという。であれば、治安局でも探し出せないような拠点を彼が自分で持ち得たとは考えにくい。
 空き家か何かを与えたのか、という質問に対してカウフマンは否と答えた。

「何でもいいわ。ある一定の大きさを持った場所よ。そう、子供を何人も置いておける・・・・・・」
「ノ、ノーだ」
「奴と話した内容を全て思い出すのよ。・・・・・・思い出して!!」

 ダガーを持つ手に力が篭ったのを見て、脂汗まみれになった元貴族は悲鳴を上げた。

「ヒィ!!し、知らん!!あ・・・・・・広い場所・・・・・・・・・?」

 そしてカウフマンは、ヴァニラに教会を確保してほしいという要望を思い出したのである。
 魔王捜索で候補となった教会。捜索など形だけだったため、地下は人が立ち入らないようになっているだけで、後は何も知らないという。
 地下への入口をテキパキと聞き出したジーニは、続けて殺人事件と子供の誘拐についての目的についても聞き出したが、それはやはり彼らの推測どおりであった。
 呆れたように首を振った後、ギルはやや首を傾けて意見を聞いた。

「・・・・・・で、どうする?確証は無いが、教会に行くか?」
「そうね。でもその前に・・・・・・・・・」

31satan

 ジーニは再びダガーをカウフマンの首に近づけ、そっと脅した。

「よく聞きなさいよ、カウフマン。アンタは自力で治安局から逃げ出してきた。そして、このまま帰る。わかったかしら?」
「わっ、わかった!!」
「正直、アンタが権力を得ようが得まいがどうでもいいわ。ただし、間違っても今回の件で騒いだら・・・・・その時は殺すわ」

 仕上げにカウフマンから趣味の悪い指輪を貸すよう求め、渡されると同時に後頭部をナイフの柄で殴って気絶させた。

「殺さなくていいのか?」

 エディンがいつもの口調で言う。
 ジーニは、ダガーを持つ間ミナスが抱えていてくれた≪死霊術士の杖≫を持ち直すと、小さく肩をすくめた。

「あたしたちが真っ先に疑われるし、バイゼルも困るじゃない」
「この豚、喋らんかねぇ」
「自分も後ろ暗いところがあるんじゃ無理よ。せいぜいがとこ、殺し屋に暗殺依頼ってとこでしょ」

 それくらいなら何とでもなるだろう、と付け加えたジーニにエディンは苦笑した。かつて自分が”白い夢魔”というアサシンに、同じ事を言ったことがあったからである。
 ラングが激情のあまり気絶したカウフマンを殺しかかったが、そこはアレクが止めた。
 今更この愚かな元貴族を殺した所で、犠牲となった者たちは帰ってこない・・・・・・そして、自分達の今すべき事はミーナたちの救出である・・・。
 ラングと”金狼の牙”たちはその場にカウフマンを残し、教会の裏口へと向かった。すでに黄金色の夕日が、地平線へと向かい始めている。
 かけられていた鍵を事も無げにエディンが外し、一同は彼を先導にして中へと進む。
 見える範囲でも、部屋が数室あることが分かるが、特に扉などの敷居は無く、大まかに分かれているだけのようだ。

「・・・・・・それほど広いと言うわけでもないな」
「何かありそうか?」

 一室ずつ覗き込んで確認するエディンに、ギルが声をかける。

「・・・・・・・・・発見っと」

 エディンは埃の少なさに気づき、部屋の片隅に置かれていた箪笥を動かした。裏側に隠されていた階段が現れる。
 恐らくヴァニラたちは、この道を何度も繰り返し通っているのだろう。
 怯えと緊張から固くなったラングを真ん中に挟むようにして、一行は隠し階段を降りた。

「・・・・・・駄目だ、これ以上は暗すぎる。ラング、火だ」
「は、はいっ」

 アレクから促されたラングが手探りでランタンに火を灯す。
 体が震えているのか、先ほどからカチャカチャと金属を打ち合わせる音が、妙にギルの耳に障った。

「ラング、もう少しだけ静かに歩こうぜ。さっきから金属音が酷い」
「は、はい!す、すみません!」

32satan

(駄目だ・・・・・・普段の動きが出来ていない・・・・・・)

 しかし、自分が指摘をすればもっと緊張してしまうだろうと、アレクは黙っている事にした。いずれにしろ、ランタンまで灯してしまえば敵方にばれるのも時間の問題だからである。
 慎重かつ素早く階段を降り続けていくと、先には微かな灯火のともる場所があるようだ。奇襲できる可能性を残すために、ギルとジーニはラングに言ってランタンを消させた。
 小さな部屋の向こうに通路が見えており、光はその先から来ているようである。
 冒険者たちは支援魔法を小さく唱えて準備を済ませると、一気にその通路を駆け抜けようとした。
 ギルが言う。

「・・・・・・行くぞ」
「・・・・・・ん?」

 先に一歩を踏み出していたエディンが、足先に違和感を感じて下に視線をやる。

「・・・・・・どうした?」
「・・・・・・皆、動くな」

 アレクの疑問に強張った声でエディンが答えた。視線がしばらく辺りの床を這い回り・・・・・・ラングの鉄に包まれた足先に止まる。

「ラング・・・・・・お前さんの足元・・・・・・」
「・・・・・・え?」

 ラングの足元に小さな子供が横たわっている。
 急いでラングは子供の身体を抱き上げるも、その身体は冷たい感触しか返してこなかった。

「死ん・・・・・・・・・でる・・・・・・グ・・・・・・何で・・・・・・何でこんな・・・・・・」
「・・・・・・殺されたのは、さらわれてからすぐのようですね」

 アウロラの手が虚ろと化した子供の目を覆い、その瞼を閉じさせた。

「主よ、哀れな子供の魂を導きたまえ・・・・・・」

 次第に暗闇にも慣れ辺りが見えてくると、彼らのいる小部屋には今まで行方知れずとなっていた子供たちの遺体が、価値の無いガラクタのように放り出されている事が分かった。

「ミーナはいないようだな・・・・・・」

 流石と言うべきか、エディンは冷静にその遺体の中に同行してきた少女の姿が無い事を見抜いた。
 それが耳に入っていたのかいないのか――カチャカチャ、と金属鎧の震える音がした。

33satan

「ク・・・・・・・・・クソォーーーーーッ!!」

 ラングは叫ぶなり奥の通路へと駆け出した。ギルが真っ先に動き出す。

「追うぞ!」

2013/04/11 18:15 [edit]

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Thu.

satan 8  

 カウフマン。
 かの貴族が男達を雇い、親を人が食べたように見せかけて子供をさらうように命じた――そんな驚きの証言を吐いた男は、しかし”ヴァニラ”と言う男の目的や詳細を話そうとした瞬間、事切れた。
 時限式の魔法・・・・・・呪法に近いものだが、それが黒ローブの男の胸部を吹き飛ばしたからである。

25satan

 それでも、現場から真っ直ぐ治安局に戻り、冒険者たちはバイゼルや局員たちと共にカウフマン邸へと向かった。
 バイゼルは消極的であったが、軍の要人であるカウフマンを証拠の無いまま拘束することが出来たのは、彼が冒険者と共に屋敷へ踏み込んだ直後に起きた、裏口における惨劇のおかげとも言えた。
 8人の治安局員が【炎の玉】のような呪文で焼き殺された跡――そして、得物の短剣を裏口に残したままのミーナの不在。

「どこだ!!ミーナをどこに連れて行った!!」

26satan

 激昂したラングがカウフマンの喉元を掴みあげて詰問したが、それはアレクが羽交い絞めにして止めた。

「止めろ、ラング!」
「ウ・・・・・・ゲホゲホッ・・・・・・無礼者が・・・・・・」
「カウフマン殿」

 形式だけは恭しく「殿」と付けながらも、バイゼルの目は怒りに燃えていた。

「あなたの家から逃亡した者がいる。これはどういうことですか?」
「・・・・・・・・・さぁな?」
「どこへ逃げた!!答えろ、カウフマン!!」
「・・・・・・・・・愚民が。証拠があるなら咆える前に出せ。裏口で誰が野垂れ死のうと私には関係ないことだ」
「・・・・・・・・・クソッ。連れて行け」

 こうして治安局は彼の身柄を拘束したのである。
 しかし、カウフマンはそのふてぶてしい態度を改める事もせず、このままでは金による伝手を持った彼を拘留し続けることが出来ない。
 何かの証拠が残っていないかとカウフマン邸での調査をするも、無為に終わり苛ついた冒険者達が重い足取りで街中を通りかかると、そこには市民たちが妙に集まっている場所がある。

27satan

「魔王だ!魔王が蘇ったんだ・・・・・・!数日も立たない内にザンダンカルは悪魔で満たされ・・・・・・血の海に覆いつくされるであろう!!」
「この事態に、今の議会は何の手も打てずにいる!!ただ市民に事態を隠しているだけだ!」
「なっ・・・・・・!」

 話している内容にアレクは驚愕した。事件はある程度伏せられているのに、その話を持って市民を暴徒化しかねない扇動を行なう者がいるとは。

「我々は今こそ立ち上がり!議長の更迭!!更には全権限を軍に委ねるようにしなければならない!!」
「そんなこと・・・・・・!」

 前の圧政に戻るだけじゃないかと、ミナスがカッとなって進み出ようとするのを、慌ててエディンが襟髪を掴んで引き戻した。
 あそこに集っている市民は頭に血が上っている。よそ者でしかも亜人であるミナスが否定を唱えたら、どんな事をするか分からない。

「魔王を信じる市民にとっては街の破滅ってわけね」
「俺たちには理解できない話だがな」
「でも・・・・・・!」

 ジーニとギルが殊更静かな声で話していたのに、ラングが異を唱えた。

「もう誰も・・・・・・殺させない。ミーナだって・・・・・・・・・」

 だがちょうどその頃。
 貴族派の政敵たちによって更迭される危険性を重視した議長は、その伝手を使われる前にカウフマンの釈放をバイゼルに命じていた――。

「・・・・・・・・・すまん。もう尋問は出来ん・・・・・・・・・すまん・・・・・・」

29satan

 治安局にたどり着いた一行の前で、バイゼルは頭を抱えて落ち込んでいた。ミーナの捜索やカウフマンの調査に当たりたいだろうに、その人手を全て暴動と化しそうな市民の鎮圧へ回すようにとも命じられてしまったからである。
 アレクは静かに発言した。

「・・・・・・暴動の鎮圧も分かる。俺も途中で見てきたしな・・・・・・だが、だからこそ、カウフマンから情報を引き出すべきだ」

 暴動を起こしている市民は、まるで魔王が復活するとでも思っているようであった。多分、それこそがカウフマンの狙い。
 市民から選出した議長をこの騒動によって更迭させ、悪魔退治の名目で軍に全権限を預けさせる――クーデターである。
 それを聞いたバイゼルは、しかしもう議長は自分と話し合うつもりが無いのだと告げた。既にこれ以上、彼が打つ手は残っていない。

「ミーナのこと・・・・・・頼んだぞ・・・・・・」

 部下の事を案じているバイゼルは、最後までそれのみを口にして冒険者たちの前から去ったが、”金狼の牙”たちは目の輝きを失っていなかった。

「いずれにしろ、今はカウフマンから情報を聞き出すのが第一よ」
「・・・・・・・・・だな」

 アレクによるジーニへの同意に、ラングが焦りから口篭りながら訊ねる。

「で、でも、どうやるんですか!?もう釈放じゃ・・・・・・」
「すでに選択肢は無いわ。あとは決断しだいよ。・・・・・・でしょ、リーダー?」
「うん。よし、やるぞ。まずは・・・・・・・・・頼む」

 ギルが目を向けたのは、普段と変わらず眠たそうなエディンの顔である。
 「わかった」とだけ告げると、エディンはその場から音も立てず奥に消えていった。

「な、何をするんですか?」
「・・・・・・。ラング。冒険者にとって必要なのは何だ?」

30satan

「え?やっぱり・・・・・・いざっていう時に重要な決断が出来る事だと思います。僕には欠けてるけど・・・・・・」
「・・・・・・その通りだ。今必要なのは決断力」

 なら今からすべき事も分かるだろう、とアレクは落ち着いた様子で言った。

「すでに俺達に残された選択肢は多くない。つまり、目的達成の為には、やばい橋を渡る必要がある」

 それでも、自己犠牲を承知の上でミーナを救う覚悟がお前にあるのかと、アレクはラングに問うた。
 彼の返答はごく短かった。

「・・・・・・・・・勿論です」
「わかった」
「・・・おい」

 静かにエディンが舞い戻ってきた。

「奥の客間だ。もうすぐ釈放とあって警備も居ない。予想通りだな」
「よし」

 ギルが皆に頷く。
 バイゼルが先に渡しておくと卓上へ置いていった報酬を回収すると、彼らは颯爽と歩き出した。
 その後――それなりに見栄えのするよう整えられた客間から、釈放されてバイゼルへの仕返しを脳裏に描いていたカウフマンが消えた。

2013/04/11 18:10 [edit]

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Thu.

satan 7  


 ”金狼の牙”たちは、ミーナやラングと共に西南地区の周回に当たっていた。
 1時間ほど前から突然豪雨が降り出したために、全身がずぶ濡れになっている。視界は雨のせいで十数メートル先は見えない状態だ。
 酷い雨だな、と愚痴りつつ周回を続けていると・・・・・・。

「・・・・・・何か・・・・・・聞こえなかったか?」

 エディンが眠たげな目をじっと雨の向こうに据えて言った。

「え?」

 ミーナがぽかんとした表情で聞き返す。
 その隣で、ジーニも柳眉をしかめつつ「いえ、何も・・・・・・」と否定しようとしたが、そのとき犬の吠える声が全員の耳に届いた。
 アウロラが呟く。

「・・・・・・犬!?」
「・・・・・・行くぞ!!」

 ギルの号令で、全員が犬の声の方角へと走り出した。
 途中から犬が悲しげな咆哮をあげて静かになる。
 事態の切迫していることに嫌でも気づかざるを得ない・・・・・・”金狼の牙”たちは、泥はねにも構うことなく足の速度を更に速めて一軒の家になだれ込んだ。
 奥には血まみれの男女と、恐らくその子供らしき黒髪の幼児が倒れているが、こちらからでは生死の区別まではつかない。傍には息絶えた犬が転がっていた。
 その少し手前に、怪しげなローブ姿の男が二人。

「チッ・・・・・・何たることじゃ・・・・・・」

 年長らしき男の方が、冒険者たちをじろりとねめつけ舌打ちした。
 仲間たちですら滅多に聞かないような底冷えした声で、ギルが詰問する。

「・・・・・・何をしている」
「・・・・・・・・・」

 男たちからの応えは無い。

「何をしているかと聞いてるんだ!」

 ミーナはその声の怖ろしさにぶるりと身を震わせた。
 彼女は知らない――ギルには、”月姫”と呼ばれた少女との約束があることを。子供に愛情を与え、守ってやる大人になると彼は約束したのである。

「お主らには関係無いことよ。しかし、見られた以上、生きて帰すわけにはいかんな・・・・・・」
「・・・・・・それはお前らだ」

 言うなり、ギルの斧が唸りをあげて風をも切りうる斬撃を年長の男へと放ったが、その一撃は手前に立ち塞がった黒ローブの男に邪魔される。
 咄嗟に、横から踏み込んでいったエディンが【花散里】を放ち、ローブの男たちの身体を氷の花弁で切り刻む。
 たたらを踏んだ彼らに向かい、

「イフリートよ、その吐息の一部をここに!」

と言って、ミナスの小さな手の平から業火が迸り、ついに黒ローブの男が倒れる。
 しぶとく残っていた年長の男が、彼らに抵抗しようと何かの印を結び始めた瞬間に、アレクは熟練の舞い手のように躍りかかり≪黙示録の剣≫から不可視の風圧を放った。
 風の刃によってぼろぼろになったローブを握り締めつつ、年長の男は呻き声をあげる。

「な、なんじゃこいつら・・・・・・こんな手練れが居るとは、予想外じゃ・・・・・・」
「さあ、おとなしく捕まってもらおうか」

 でなければ殺す――言外にそれだけの意味を込めて、ギルが一歩踏み出した。

「クゥ・・・・・・かくなる上は・・・・・・」

 男の右腕が微かに動き、ルーン文字による簡易詠唱を呟く。すると、年長の男と倒れていた子供の姿が薄れていく・・・・・・。

「・・・・・・!?消えた!?」
「ど、どこだ!?どこにいった!?」

 ギルとラングが驚きの声をあげる。
 どうやら転移の術を使ったのだろうと、アウロラは苦々しげに言った。
 厳しい顔つきになったアレクが、そっと血まみれの男女の方へと近づく。
 エディンもそれに気づいて彼らの脈を取るが、既に手遅れであった。

「でも・・・・・・昨日の事件とは明らかに異なるな。父親は酷い状態だが、母親は一突きで殺されているだけだ」
「母親を食べる前に、俺たちが来たって事か?」

 残っている黒ローブの男をふんじばりつつ、ギルが訊ねる。

「・・・・・・わからないが、恐らくは・・・・・・」
「ちょい待って」
「ジーニ?」
「父親をもう少し詳しく調べて。少し気になる点が・・・・・・」

24satan

 エディンはそれ以上無駄口を利かず、父親の遺体を改め始めた。

「・・・!・・・・・・一見、食われている様に見える。が、散らかしているだけでどこも無くなっていない」
「つまり、食べたように偽装しているということですか?」

 アウロラのあげた声にエディンは小さく首肯し、髑髏の杖を顎に当てている仲間へ向き直った。

「なぜ、わかった?」
「こいつの口元を見てみて、エディ」
「・・・・・・そうか。血で濡れていない」
「最初の事件も偽装だった可能性は無い?」
「今となってはあまり自信は無いな」

 大人組みの静かなやり取りに、震えを抑えた声でラングが横槍を入れた。

「しかし、何故・・・・・・です?何故、こんな事する必要が・・・・・・」
「わからない・・・・・・わからないことだらけよ。それにまた子供をさらっていったわ。何故なの?」
「それは、この人から聞くとしよう」

 すっかり身動き取れないように縛り上げられた男へ、アレクは冷たい一瞥をくれた。

2013/04/11 18:06 [edit]

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Thu.

satan 6  

「・・・・・・大丈夫か、ラング?」

 アレクはそっとラングに声をかけた。
 彼は子供の遺体を見て軽い貧血をおこしたのである。
 ミーナから手渡された水を飲んで少し生気を取り戻したらしいが・・・・・・。

「先ほどは・・・・・・すみません・・・・・・動揺してしまって・・・・・・」
「・・・・・・しょうがない」

 あの現場ではな、とアレクは呟いた。

「だが、次は無いぞ。何を見ても、動揺だけはするな」
「わ、わかりました!」

 ラングは元々、他の仲間たちを引っ張っていく立場である。リーダーの責務を負う者が動揺しては、気づくはずの事にも気づけず、仲間の命を落とす原因を作るかもしれない。

「それで・・・・・・何かわかりましたか?」

 ミーナが遠慮がちに質問した。
 バイゼルが首を縦に振る。

「とりあえず、一から順を追って話そう」

 まず死体の状態は死後から大分経過しているようである事。このことから、子供はさらわれてすぐ殺されたのだろうと思われる。
 次に殺人現場。大量の血痕から言っても、発見された場所がそうと睨んで間違い無さそうだ。
 そして・・・死因。

「エディンが、非常に重要な点を発見してくれた」
「な、何ですか?」

 ラングが勢い込んで尋ねる。

「重要というか・・・・・・おぞましい話でもあるんだが・・・・・・」

と注釈を付けておいて、エディンは死体にはある痕跡があったと短く指摘した。

21satan

「・・・・・・恐らく食べられてる」
「なっ・・・・・・」

 流石に絶句したラングに、エディンは腹や太ももなどの柔らかい場所を中心に、子供の肉がなくなっていた事実を説明した。
 そして、人が食べたのであろう痕跡があるということも。

「人が、人を食べるなんて・・・・・・そんな事あるわけない!!あれは・・・・・・あれは、魔王の仕業です!!」

 激昂したラングに、エディンは苦い顔で答える。

「俺もそう思いたいところだがね・・・・・・だが、二つの証拠がそれを示している」

 1つ目は子供の連れ去り方。野犬やその類ではあり得ない・・・・・・少なくとも、人と考えるのが妥当である。
 2つ目は足跡。現場に大量の出血により、不完全ながら足跡が残っていた。足のサイズは人と同等。そして何より、二足歩行で歩いている・・・。
 バイゼルが口を開いた。

「問題は動機だ。それが全くわからん。あれじゃあ、まるで・・・・・・・・・」
「食べたかった・・・・・・」

 ぎょっとした顔でラングがエディンを見つめた。バイゼルの言葉尻を奪ったエディンの台詞が、まるで犯人の自白のように聞こえたからだ。
 エディンは顎に微かに残っている髭を弄りつつ、真っ直ぐにラングの碧眼を見返した。

「そうとしか考えられない・・・・・・」
「狂ってる・・・・・・」

 苦悩から頭を抱え込んでしまったラングをそのままに、ジーニはバイゼルにこれからどうするのかと問う。

「そうだな・・・・・・まずは、現場付近の家を一軒ずつ聞き込む。犯人がまだ近くに潜んでいるかもしれないし、何か目撃情報があるかもしれん」
「妥当なところね」
「局員もなるべくこっちの担当に回す。失踪事件から、凶悪な殺しになっちまったからな・・・・・・・・・」
「じゃあ、あたしたちも聞き込みに回る?」
「いいのか?俺がお前たちに頼んだのは、子供の捜索だ。犯人の確保じゃない」

 バイゼルの言葉に、ふんと鼻を鳴らしてジーニは言った。

「何を言ってるの。依頼を受けた時点で、犯人の確保まで当然含まれているわ」
「じゃあ、少しだけ待っててくれ。人員を整理した後で、担当区域をミーナに知らせる」

 ・・・しかし、割り当てられた担当区域の調査ははかばかしい結果を生むことは出来ず、一行は他の区域の報告を治安局で待つことになった。
 すでに時刻は夜となっている。

「! 戻ってきたか!?」

 バイゼルが駆けてくる足音にハッと顔をあげる。
 一人の治安局員が、息を切らしながら戻ってきた。深刻な表情をしている。

「た、大変ですっ!新たに行方不明者が出てます!」
「な、なんだとぉ!」
「また子供がさらわれたのか!?」

 アレクがそう問い詰めると、治安局員は激しく首肯した。

「は、はい。子供です!しかし、今度は両親が・・・・・・・・・殺されています」

22satan

「クソッ!なんて事だ!」

 犯人への憤慨を露にするバイゼルを余所に、ジーニは現場の状況を説明するよう治安局員へ促した。
 子供の両親は寝室で殺されており、部屋中が血の海になっていると言う。
 昨日の夕方頃には被害者の目撃証言があった事から、犯行は恐らく昨日の夜から今朝にかけて行なわれたことが分かっている。

(最初の犯行が一昨日の夜・・・・・・そして、昨日か・・・・・・ペースが早い・・・・・・・・・)

 ジーニは心中でそう呟きつつ部屋の物色跡があるかを訊ねたが、めぼしい金品が残っている事から物取りとは思えないと返答があった。
 周辺捜索はまだ行なわれておらず、これからすぐ捜索を開始するそうだ。
 死体の状況などから見ても、恐らく同一犯で間違い無いだろう。

「・・・・・・・・・わかった。とりあえず、現場に案内して。まず、状態を見てみたいわ」
「ああ、そうしよう・・・・・・」

 そう、バイゼルが頷いた時。
 また別の治安局員が、子供の失踪を知らせに来て――――結局、ザンダンカルで計三名もの子供が失踪していることが判明した。
 驚愕の事実から水を打ったように静まり返った治安局内で・・・・・・まず発言をしたのは、ギルであった。

「バイゼル」
「・・・・・・な、なんだ!」
「わかっているとは思うが、今すぐ動く必要がある」

23satan

 犠牲者が急激に増え、しかも犯行はいずれも恐らく夜。今この時間帯に再び事件が起こっている可能性は高い・・・・・・。

「今すぐ、西南地区の各所に治安局員を配備し、警戒に当たらせた方がいい」
「わ、わかった」
「・・・・・・冷静にな、バイゼル。上の動揺は下に伝わる」
「・・・・・・そうだな。悪ぃ」

 そして彼らも動き出す――。

2013/04/11 18:05 [edit]

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Thu.

satan 5  

 紆余曲折はあったものの、結局ラングと”金狼の牙”たちは危険手当と拘束期間の二つについて再確認を行い、その依頼を引き受ける事にした。
 例によってラングは感情論と彼個人の正義感で引き受けようとしていたため、アレクは依頼の内容をよく吟味し、自分の能力と照らし合わせた上で引き受けるよう進言していた。
 だが、他の者達もまた、子供の安否を気遣っていたのである。
 ミーナの案内で子供が失踪したバッカス家に移動する。
 ほとんど有益な情報を持たない両親から話を聞いた後、一行は息子の部屋から何か得るものがないかと探索を開始した。

「まず・・・・・・エディンさんの意見を伺いたいです。この部屋に侵入する経路は?」
「・・・・・・そうだな」

 エディンはラングの言葉にさっと眠たげな目を部屋に走らせると、小さく頷いて言った。

17satan

「目の前に見える窓・・・・・・俺たちが入ってきたドア・・・・・・この2箇所以外は考えられないな」

 そして、「ちょっと待ってくれ」と言うと窓に近づき、手慣れた手つきで調べ始める。

「鍵は外れている」
「外れている・・・・・・という事は?」

 きょとんとした様子のミナスに、間髪いれずエディンは答えた。

「ここから侵入した可能性が高いな。それに・・・・・・・・・」
「それに?」
「何かを引きずった様な跡がある」

 エディンは窓に残った微かな痕跡を指でなぞりながら呟いた。
 ジーニが柳眉を顰める。

「・・・・・・子供を?」
「恐らくな」
「・・・・・・・・・手慣れた者の犯行ですか?」
「いや、違うな」

 やや青ざめた感のあるラングに否定の回答をし、有能な盗賊の指がするりと窓に付けられている鍵を撫でた。

「ここの鍵は幼稚なもので、軽い衝撃で簡単に外れる。お前でも外せるよ」

 他に手がかりがないかどうかを確かめるため、くまなく部屋中を調査するも、そのほかに分かったのは、争った形跡がないために寝ている所を襲われたのだろうと言う推測くらいであった。
 考えられる線としては子供浚いか、怨恨か・・・・・・ジーニの言葉に顔を見合わせた一行は、ラングの主導で近所の聞き込みも行なったが、精々がバッカス家は仲のいい家庭であることが裏づけされた程度だった。

18satan

 有力な手がかりも得られぬまま宿に帰り、翌日5日目。
 事件は大きく動いた・・・・・・・・・最悪な形で。

19satan

「ゆ、行方不明の子供が見つかったようです!」
「何だと!?どこで見つかった!?」

 冒険者達が途中経過を報告しに来た治安局にて、突然飛び込んできた治安局員の一人がバイゼルに叫んだのは、もう昼も過ぎた頃のことであった。

「西南地区16番街の裏通り!特徴が酷似しているとの事です!」
「無事なのか!?」
「い、いえ、まだそこまでの情報は・・・・・・見つかったというだけで・・・・・・」

 舌打ちをしたバイゼルは、ミーナや”金狼の牙”たちを引き連れて現場へと急行した。
 傍らにいる、母親の代わりに小さな甥を心配して治安局に訪れた若い叔母を放置して・・・・・・。

「この辺りだな・・・・・・」

 バイゼルと冒険者たちは路地裏に到着した。日が出ている時間帯にもかかわらず、非常に薄暗く、辺りの視界がはっきりしない。
 遠めに2、3人の人だかりが見える。

「あそこか!」

 バイゼルの言葉と共にその場へ駆けつけると、治安局員の一人が青ざめた顔でこちらを振り向いた。
 皆が絶句する。目の前にあったのは――。
 一面を覆う血痕と・・・・・・散らばる内臓と肉片・・・・・・。

「な・・・・・・な・・・・・・・・・」

 言葉を失ってラングが口を戦慄かせる。碧眼である彼の目は、地面に無造作に置かれた子供の首に注がれていた。

「こんな・・・・・・・・」

 こんな無残な結果に終わるとは、という言葉を辛うじてアレクは飲み込む。
 子供が見つかったとすっかり興奮した若い叔母が、子供の母親を引っ張って現場にやってきてしまった事に気づいたからだ。

「ここよ!ここよ、姉さん!」
「デューク!デュークはどこ!?」
「なっ!だ、駄目だ!」

20satan

 慌てて彼女たちから酷い状態になっている子供の姿を隠そうとするも、時は既に遅く――。
 子供の空ろな眼と、母親の眼が合う。

「デュー・・・ク・・・・・・?・・・キャーーーーーーーッ!!!」

 母親の悲痛な叫びが、その場に木霊した。
 冒険者たちも、その場に立ち尽くす以外無かった・・・・・・。

2013/04/11 18:04 [edit]

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Thu.

satan 4  

 史跡局の調査の変化は、3日目に現れた。

「!!おい!!」

 エディンの指摘に皆が注目すると、今までとは違い、本ではなく真っ暗な小さな穴が見えている。
 本をどかしてもう少し穴を広げると、降りる階段の続く道が拓けた。決して広くはないが、人が2人ほど並んで通れる。
 ラングが小さな歓声を上げた。

13satan

「やったっ・・・・・・」
「よし。ようやく先に進めるな」

 ギルが小さく笑うと、仲間たちを先へと促した。
 数十メートル下ったところにある突き当たりに、扉を発見する。

「・・・・・・さぁどうする、ラング?動揺は死を招く、落ち着けよ」

 ギルが再び主導権を彼に渡した。
 この先に魔王がいるのかも知れないと緊張していたラングであったが、ギルの台詞に数回深呼吸をして冷静さを取り戻すと、

「・・・・・・無いとは思いますが、まずは罠の確認をしましょう」

と言って、エディンに調査を依頼した。
 承諾した盗賊が繊細な指の動きで扉やドアノブ、扉前の床などを調べていくが、やがて「・・・大丈夫だ。何も無い」と言って報告する。
 それを聞いたラングは唾をひとつ飲み込むと、やや上ずった声で言った。

「じゃあ、態勢を整えて、突入しましょう」

 扉を開ける役をミーナに任せ、その瞬間に冒険者達が突入する事となった。
 ぴりりとした空気が彼らを包み込む。
 前衛で戦うものは得物を構え、魔法を使うものたちは皆、杖や指輪に意識を集中して魔力を高め始めた。
 そしてラングの合図で呼吸を合わせ、部屋に飛び込んだ一行だったが・・・・・・。

「どこだ!?魔王!!」

 舞台上の勇者もかくやというタイミングと見得で入室したラングだったが、そこにあるのはひたすら古い本棚が2つだけであった。
 無言のまま気配を探っていたギルだったが、構えていた斧をゆっくりと下ろす。

「・・・・・・特に危険は無さそうだな」
「・・・・・・なーんだ。拍子抜けですね」
「油断は禁物だ。本棚を確認してみよう」

 一応は先輩格としてそうラングに注意したギルであったが、彼も少々肩透かしを食らったような気分であった。
 その後、部屋全体を確認したが、特に気になる点は見当たらない。単なる本置き場のようである。
 (議長が喜びそうな結果ね・・・・・・)と思いながら、ふっと肩をすくめてジーニが向き直る。

14satan

「ここはどうやら外れだったようね、ミーナ」
「・・・・・・その様ですね・・・・・・」

 案内役治安局員も張っていた気が抜けたようで、なんとも頼りなげな声を発した。
 史跡局の調査は、念の為に今日一杯を使って通ってきた通路を含め確認してみたものの得るものも無く、夜の訪れと共に帰宿した。
 その日の夜は、ミーナを交えて一杯だけというささやかな酒宴を開いた。なんといっても、片方の調査は済んだのだから。
 まずはラングが音頭を取る。

「じゃあ・・・・・・・・・乾杯!」
「・・・・・・だから、何か一言付け加えろよ・・・・・・昨日も言っただろ?」

 呆れたようにアレクが言うと、ラングは「そ、そう言われても・・・・・・何も思い浮かばないですし」と困惑したように頭を掻いた。
 そんなラングの様子を見て、にやりと嫌な笑みを浮かべたジーニが、

「ミーナのために!とかでもいいのよ」

とからかい出す。
 たちまちラングが赤面して抗議を始めるのに、ミーナはやや朱の入った顔でクスリと笑った。
 アレクが話を振ってみると、ミーナは生まれも育ちもザンダンカルで、この街から離れた事がないという。
 リューンのような大都会に憧れる気持ちはあるようで、どんなところなのかとラングや他の者たちに訊いてる。
 そんな中、アウロラは40年前にあったという革命について、宿の亭主にさり気なく尋ねてみた。

「当時、ここザンダンカルは、有力貴族のカウフマン家が支配していてな・・・・・・とにかく、やりたい放題だった」

 重税による貧困層の拡大、賄賂が招いた治安態勢の腐敗、貴族のみが儲かる制度の構築・・・・・・。
 市民たちは長い間、そんな腐りきった政治体系に苦しんでいたのだが・・・とうとう耐え切れず、40年前に革命を起こしたのだという。
 通常であれば、何の後ろ盾も持たない市民が革命を起こしたところで成功するはずもないのだが、ザンダンカル市民たちは幸運だった。
 彼らの後ろ盾には、カウフマンの圧政を苦々しく思っていた聖北教会がついたのである。
 その甲斐あってか無血革命が成功し、カウフマンは政治の表舞台から失脚を余儀なくされた。
 以降、ザンダンカルでは市民による議会制度が導入されている。

15satan

「ただし・・・・・・ここ2~3年の話だが、カウフマンの息子が軍の騎士団で台頭してきた。ようは金で爵位を買っているんだが」

 恐らく、その息子とやらが調査2日目に邂逅したカウフマンなのだろう。

「まあ。呆れた話ですね」
「うむ、失脚した父親の死がきっかけになったのかもしれん。政界に返り咲く事を夢見ているんだろう・・・・・・」

 今はまだまだ小さい影響力だが、何かをきっかけにクーデターを起こす力を得るかもしれない・・・と語る宿の亭主の目は、今の生活を手に入れてくれた者たちへの畏敬と、将来起こり得るかもしれない凶兆に揺れていた・・・。
 翌日の朝――。
 治安局からの依頼も4日目に入った。ラングが今までの史跡局での調査結果をバイゼルに報告し終わると、彼は厳つい顔をしかめる事もなく首肯した。

「そうか」
「これで、史跡局の調査は終了と言う事になりますが・・・・・・次の調査は・・・・・・・・・どうしますか?」
「その事なんだが・・・・・・」

 バイゼルは語尾を濁すようにしばらく言いづらそうにしていたが、ため息を一つつくと、教会の調査権をいよいよカウフマンに取られてしまったと告げた。

「悪ぃな・・・・・・」
「・・・・・・・・・別に俺達に謝る事じゃない」

16satan

 ギルはそう言ってバイゼルの腕を軽く叩く。
 そこまでは昨日の段階で覚悟していたことだったが、なんとバイゼルは他に頼みたい事があると言い出した。

「・・・・・・・・・別な仕事?」

 ミナスが小首を傾げてバイゼルに問いかけると、彼は子供の捜索についての依頼である旨を説明し始めた。
 昨日の朝から、両親が寝ている間に姿を消した子供がおり、今でもその行方は知れないままなのだと言う。
 現段階において、目撃証言もなければ有力な情報もなく、人手が足りないためにろくに捜索すらできていないらしい。

(失踪した子供の捜索・・・・・・こいつはちょっと厄介そうだな・・・)

と、ギルは思った。

2013/04/11 18:03 [edit]

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Thu.

satan 3  

 史跡局の調査は・・・・・・いきなり先行き不安に包まれた。
 なんとなれば、見たことも無いほど大量に山積みされた本が、彼らの行く先を塞いでいたからである。

8satan

 史跡局の者に話を聞いたところ、少なくとも史跡局で地下を使用したことは無く、不要な本の投げ捨て場になっているらしい。
 足の踏み場も無いほどの本のひどい散乱具合に、本好きのアウロラがぐらりと倒れかかり、慌ててラングとギルが彼女を支える一幕もあった。
 結局、人手は彼ら冒険者たちとミーナしかいないのだという返答を受け、力をあわせて片付け始めたものの・・・・・・日が落ちかかり暗くなるまで作業を続けたにも関わらず、一行に目的地は見えていなかった。
 一同は続きを明日に回し、手配して貰った宿で疲れきった身体を休めていた。
 ミーナは「また明日」と言って帰り、宿の亭主が用意してくれた夕飯をゆっくりと胃の腑に収める。

「だあー、生き返ったー!」
「ちょっとエディ、おっさんくさい!」
「アレク、僕このお肉切れない・・・」
「貸してみろ」
「ラングも今日はお疲れ様です。さ、一杯どうぞ」
「あ、すいません、アウロラさん」
「亭主、こっちエールお代わり!」

 なんとも賑やかな一行である。それでも満腹になりちょっと一息ついたころで、エディンが木の杯を片手に亭主へ声をかけた。

「なあ、ご亭主。確か、ここにはカウフマンだかって貴族がいたと思うんだが・・・・・・」
「カウフマン?お前よく知ってるな」
「名前ぐらいしか知らねえよ。仕事の関係で、ちょっとどんな奴か知りたいだけさ」
「まあ、有力貴族の一人だ。一時は落ちぶれたんだが、最近また盛り返してきたな。・・・・・・私は嫌いだ。まあ、奴を好きという人間はいないが」

9satan

「ふーん、そういう輩なのかい」
「っと、そうでもないか。金が好きな奴はカウフマンが好きだからな」

 宿の亭主は、眉尻を下げた笑いを顔に貼り付かせた。

「困った事に、議会にも多々そんな奴がおるんだよ・・・・・・困ったもんだ・・・・・・」
「ああ、全く困った奴らだな。・・・それと街中で聞いたんだが、魔王が復活してどうとか?」
「魔王だって?ああ、勿論知っておるよ。一部では、本気で信じている奴もいるみたいだが・・・・・・」

 宿の亭主が語ったのは、役場にて議長が語ったそれと大差なかった。
 亭主自身もまた、魔王の復活とやらは信じていないらしい。一度は見てみたいものじゃが、などとおどけている。
 ただし、その魔王のせいで一部治安が不安定になっているそうで、その伝承に煽られた者が暴徒化しているのだという。

「じゃから、これ以上魔王で騒いで欲しくないのが本音じゃ。騒げば騒ぐほど暴徒が増えるからな」
「・・・・・・なんだか気に入りませんね」
「ん?どうした、アウロラ?」

 ギルは、やや俯き加減になって思考を始めたアウロラの顔を覗きこんだ。

「いえ。魔王だのなんだのと、そういう噂で世間が不安に駆られるのはともかく、暴徒などが発生するほどのものなのだろうか、と思いまして」

 どこか作為的な匂いがすると小さく続けたアウロラの意見に、”金狼の牙”の仲間たちは顔を見合わせた。
 ラングは既に酔いつぶれ、テーブルに突っ伏している。
 やがて顔をあげたアウロラは、小首を傾げるようにして宿の亭主へ質問を投げかけた。

「ご亭主、こちらに騎士団などはいないのですか?」
「勿論おるよ。どうしてじゃ?」
「いえ、まだお見かけしてませんので・・・・・・」
「まあ、他の都市から比べたら少ないのは確かじゃ。この都市では、治安組織そのものが都市の軍勢になろうとしているからな」

 形式上、ザンダンカルの騎士団は議会の下に位置しているが、現実的な問題を多く抱えている。
 騎士団の多くは、昔からの貴族が中心である。
 議会に属しているとは言え、元は一般市民から指示されるというのはプライドが許さないらしい。表立って言わないだけである。
 そんな事情があるので、議長は治安組織を拡張し、新たな都市軍勢を作ろうとしているというのが実情らしい。

「言う事を聞かない獅子より、言う事を聞く狼を飼い慣らしたい・・・ってところですか」
「市民のための都市とか聞いてたが、思ってたよりゃあ色々あるんだなァ」

 アウロラとエディンがそこまで話したところで、ジーニが「そろそろ休まない?」と提案した。

「明日だってあの本の山が待ってるんだし、さ。備えて寝ておきましょ?」
「そうだな、ジーニの言うとおりだ」

 ギルが頷き、突っ伏していたラングの身体をアレクが担ぎ上げた。

「男部屋はラングでちょうど4人になりますから、ミナスは私たちの部屋で寝ましょう。ではおやすみなさい」
「うん!エディン、ギル、アレク、おやすみなさーい!」
「ああ、おやすみ」
「おう。じゃあな」
「ちゃんと寝ろよ」

 仲間たちが挨拶を口にしながらそれぞれの部屋へ分かれる中、ジーニが無言のまま手を振り、ちらりと窓の外を見上げた。
 夜空にもそれと分かる暗雲が垂れ込めている。

「・・・・・・なーんか、嫌な予感すんのよね」

 この時のジーニの勘、そして先ほどのアウロラの懸念が当たるとは、誰もまだ毛筋ほども思ってなかったのである・・・・・・。
 そして2日目、今までの経過を治安局にいるバイゼルへまず通達した一行は、彼から驚くべき事実を耳にする。

10satan

「教会は調査が出来なくなった。ちょっと問題が発生してな」
「調査が出来なくなった?」

 目を丸くして鸚鵡返しに訊ねたのはアレクであった。
 何でも、噂のカウフマンという貴族が自前で調査員を雇ったのだという。
 この町が出来た当初から幅を利かせていたが、40年前に革命を起こされてからは領主の座を退き、財産の豊富な一市民として不本意な生活を送るだけの男だったはずだが、何故そんな出すぎた真似をしでかしたのか。
 「魔王捜索の協力を」と言い出しているそうだが、バイゼルには手ごろな売名行為にしか映らず、不審を抱いているらしい。
 とにかく、ラングや”金狼の牙”たちの仕事が減るのかというアレクの問いには、バイゼルも胸を叩いて、

「これは治安局の仕事だ。カウフマンなんて豚にやらせる訳にはいかん」

と言い放ったものの、さりとてさっさと断るわけにもいかないそうだ。まったく迷惑な話である。
 ジーニが心配した報酬の減額はしないと請け負ってもらい、彼らは渋々史跡局での調査を続行している。
 ひと際ぼろぼろの装丁になった本を丁寧に片付けながら、ジーニは舌打ち混じりに呟いた。

「それにしても、いけ好かない豚野郎だったわ」
「まあまあ、ジーニ。・・・・・・そりゃあ、私も腹に据えかねたところはございましたが」

 煌びやかな服装が全く不似合いなカウフマンとは、バイゼルとの打ち合わせの最中に顔を合わせたが、「勝手に教会を調査するつもりか」「お前等はクズの冒険者か」等という台詞を浴びせられ、不愉快極まりない邂逅だったのである。
 ふふん、とジーニは鼻で笑って言った。

「あの太っ腹に【魔法の矢】で風穴空けてやりたいわ。さぞ、いい風が通るでしょうよ」
「・・・・・・それよりも、あの黒ローブだろ」

 エディンはカウフマン本人よりも、その後ろにつき従うようにしていた黒ローブ姿の男の方を気にしていた。
 何しろ、目をあわせた途端に凄まじい殺気を放ってきたため、反射的に得物に手を伸ばしてしまったのである。

12satan

(馬鹿なっ・・・・・・ここでやる気か!?)

等と、エディンは背中に冷や汗を掻いていたくらいだ。
 彼はかつて”白い夢魔”という暗殺者と死闘を演じたほどの男である。殺気については慣れている、と言っていい。
 しかし、あの時感じたのはそれまでと比較にならないようなシロモノだった。

「なんなんだ、あの殺気は・・・・・・・・・異常だ」

2013/04/11 18:02 [edit]

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Thu.

satan 2  

 ノック後に現れたのは、この街の治安局員であるバイゼルという壮年の男だった。
 議長からあらかた必要な事項を聞き取り終わっていた”金狼の牙”たちは、議長室を退出し、役場の一角にある治安局まで案内されていた。

「それじゃあ、早速で悪ぃが、依頼の説明をさせてもらうぜ」
「ああ」
「今後の指示は議長ではなく、俺から出る。宜しく頼むぜ、優秀なリューンの冒険者さんよ」

5satan

 言葉だけなら低次元のイヤミとも取れるが、バイゼルの闊達とした様子から判断するに、それは他愛の無いからかいのようである。
 ジーニがやや柳眉を上げただけで、一同は再びバイゼルの説明に耳を傾けた。

「・・・・・・で、もう聞いたかもしれんが、お前たちが担当する調査場所は2箇所だ。西南部の聖北教会、そしてザンダンカル史跡局。以上だ」
「詳細を知りたいんだが・・・」
「一つずつ説明しよう・・・・・・と・・・・・・・・・ミーナッ!あれ持って来い!」
「は、はい!」

 ミーナと呼ばれた一人の女性が現れ、その手に持ってきた紙をテーブルの上に広げた。地図の様だ。

「先にこの街の地図を渡しとく。お前らに調査をお願いしたい場所はすでにマーキングしてある」

 そして、とバイゼルは付け加えた。

「お前らにはコイツ・・・・・・ミーナというんだが、コイツを付ける。この街の案内人というか、お前らの世話役みたいなもんだ。こき使ってやってくれ」
「よ、よろしくおねがいします」

6satan

 長い銀の髪を揺らしながらミーナが敬礼した。年の頃はおそらく、アレクと同年代くらいであろう。若草色の瞳が緊張と期待の光をはらんで煌いている。
 冒険の素人を連れ歩くのは危険だし、今回においては新米のラングも同行している。
 もしこれが探索ではなく討伐の依頼であれば、”金狼の牙”は彼女を置いていったであろう。しかし、この依頼では承諾せざるを得なかった。
 バイゼルが地図の一部を突付いて言う。

「じゃあ話を戻して、まずは、西南部の聖北教会だ。この教会は数百年前に建設されており、この町で最も古い建物の一つだ」
「中はどんな感じなの?」
「俺も調査候補の絞込みのために先日立ち寄り、事前調査を行なったが・・・・・・特に地下室はかなり酷い状態だった」

 ミナスの質問に、彼はゆるゆると首を横に振る。

「教会の人間にも聞いたが、実際ここ何十年は地下室を全く利用していないらしい。ガラクタの物置・・・・・・とか言ってたな」

 教会の地下に”魔王”を封印するとも考えにくいしな、とバイゼルは語ったが、”金狼の牙”の面々は苦虫を潰した様な顔になって言及を控えた。
 かつて彼らは、廃教会の地下に閉じこもっていた元人間の怪物を退治してしまった事がある。
 あれは先に依頼を受けていた同じ宿の冒険者をやられていたからとは言え、苦々しい思いはまだ胸にわだかまっていた。
 そうとも知らず、バイゼルは話を続ける。

「次に史跡局だ。歴史は浅いが建物は十分古い。元々は国の研究施設として設立されたもので、近年になって史跡局が使用している」
「こちらの中の調査はお済みですか?」
「ここは・・・・・・実は全く見れていない。別に何か理由があるわけじゃない。単に時間が無かっただけだ。色々忙しくてな・・・・・・」

 その「色々忙しい」と言った時の思い悩むような陰のある調子に、ラングは気づかなかったが、ジーニはじっとバイゼルの顔を見つめた。

(それだけ・・・・・・本当に少ないわね。いずれにしろ、これからが本格的な調査という段階か・・・・・・ただ史跡局側が全く見れてない、ってのが気になるわね・・・・・・・・・)

 そして、アレクはアレクでラングの顔を見やっていた。

「・・・・・・ラング」
「・・・・・・はい?」
「『はい?』じゃないだろう。さっきから何を黙っている。お前が主導的に進めろ」
「そ、そうでした!すみません!」

 ラングは慌てて背筋を伸ばすと、バイゼルに確認した。

「え、えぇ~と・・・・・・バイゼルさん。話をまとめると、僕達が調査する2箇所は・・・・・・聖北教会と史跡局の2つである。教会はすでに事前調査済み、史跡局は事前調査前で特に情報なし」

 ということですよね?と念を押すラングに、バイゼルは同意した。

「となると・・・・・・まずは1次調査と言う事で、史跡局から調査を進めますか?」
「そうだな。まずは、状態・雰囲気・感触をつかんで報告して貰うとありがたい」

 それから本格的な調査を始めるとしよう、とバイゼルは言った。口は悪いが仕事には真面目な男のようで、事前調査が終わっていない点についてしきりに悪いなと謝っている。

「いえ、これが仕事ですからね。じゃあ・・・・・・ミーナさん・・・・・・でしたっけ?早速で悪いですが、史跡局までの案内をお願いしても宜しいですか?」
「は、はい!勿論です!」

 直立不動になったミーナは、一同をそのまま目的地へ先導し始めた。
 治安局を出てすぐに、ラングが大きく息を吐く。

「フゥ~・・・・・・緊張した。アレクシスさん急にふるから」
「何を言ってるんだ。お前がポケッとしているからだろ」

 ばっさりとアレクは言い捨てる。
 ラングは少し反省したような顔になった後、バイゼルとの交渉や今回の行き先決定について気になったのだろう、小声で問いかけた。

「ところで、あれでよかったですか?」
「・・・・・・50点、といったところか」
「えぇぇ!?後の50点は何ですか!?」
「好みもあるが・・・・・・俺なら先に教会から見るな」

 今回の依頼は、魔王を見つければそこで終了である。
 その場合、一番調査が進んでいる所から潰していった方が、全部捜索する必要がない分だけ早く終了できる。
 そこまでをアレクに指摘されて、ラングは「あ・・・・・・」と声を漏らした。
 勿論、全部を一度見て当たりをつけてから、本格的に調査を行なうのも間違いとは言い切れないので、好みの問題と言い添えてはいるが。

「それよりも報酬だな。確認しておくべきだった」
「えぇ!?1000spじゃないんですか?」
「違う。危険手当の事だ。議長が更に1000sp追加する事も考えてる、と言ってたろう?・・・・・・具体的な条件は?」
「危険・・・・・・・・・になったらじゃ無いんですか?」
「その危険という抽象的な事柄を、どうやって判定する?」

 そこまで説明されて、ラングは「ん~・・・・・・」と考え込んでしまった。
 アレクは、彼にしては珍しく饒舌に具体例を出した。

「だから予め決めておくんだ。戦闘行為が一度でもあった場合、危険手当をつける・・・・・・とかな」
「なるほど・・・・・・」

 そこまで講義が進んだ時、前を歩いていたミーナが遠慮がちに、名前を伺っても良いかと声をかけてきた。

「短い期間ですけど、一緒にお仕事するわけですし、お互いを知っていた方が何かと良いかと思いまして・・・・・・皆さんの・・・・・・関係とか諸々」
(関係?あ・・・・・・そういう意味か・・・・・・)

 アレクは心中で頷いた。回りくどい聞き方をしているが、ラングと他の冒険者の関係が中立でないため、どうやら不思議に思ったようだ。
 ミーナ自身は、治安局に勤め始めてまだ半年ほどの新米局員なのだという。
 それを耳にしたラングが、「半年!?じゃあ僕と同じだ!」と喜びの声をあげた。

「え?あなたもですか?・・・・・・すいません、お名前は・・・・・・」
「僕はラングミュア。皆はラングって呼んでるから、ミーナもそう呼んでくれればいいよ。それで・・・・・・」

7satan

 各々が自己紹介をしていく。
 ミーナはラングが自分と同じ新人の立場で、少し安心しているようだ。自分と近いものを感じるのだろう。
 互いに名乗りあえたところで、改めて史跡局に向かう事となった。

2013/04/11 18:01 [edit]

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Thu.

satan 1  

 市民の市民による市民のための政治を行なう都市、ベール地方ザンダンカル――――。
 治安のいい大規模な半独立都市であり、その人口は大都市リューンの半数にも上る。
 整備された街道を馬車で4日も行けば、その威容を拝む事ができた。
 今回、”金狼の牙”がこの街に訪れたのは、後輩冒険者・ラングの指導依頼のためであった。
 指導依頼とは、上級の先輩冒険者が新米の冒険者とともに依頼をこなすことである。
 後輩への教育のためであり、基本的には依頼の選定から行動の方針までを彼らが決定する。
 その上で、先輩の指示を仰ぐのだ。
 後輩指導に今回当たるのはアレクで、その神秘的な容姿や魔法剣の腕に崇拝の念を抱いている後輩は、ほぼ有頂天になっていた。

1satan

 赤髪碧眼の後輩冒険者は、本名をドラゴ・ラングミュアという。
 通称、ラング。
 元々は騎士見習いだったが騎士というものに疑念を持ち、半年ほど前に転職した。今はまだ、ゴブリン相手に互角の勝負をする程度の腕だ。
 ちなみに、比較的老舗である≪狼の隠れ家≫のほかにも、こういった後輩への指導をしている冒険者の店はあるらしい。
 風の名前を冠するとある冒険者パーティが、指導依頼のはしりをやった――と言う人もいる。
 とにもかくにも、新米のラングが選んだ他2件の依頼、サイクロプス(村人の目撃証言から判断した)やマーマン(ラングの鎧は重いので却下)の退治をはねのけて「魔王探索」を選んだのは、ジーニの口添えがあったからであった。

2satan

「まあよく考えてみなさいよ。今までそんな依頼あったけど、実際はどうだった?」
「・・・・・・あの聖風教会から頼まれた魔王退治のことか?」

 アレクは眉を顰めた。
 かつて、シリス村という所には聖北教会の流れを汲む2つの勢力があり、森に潜むという魔王を退治した方の教会が村のお布施を受けられることとする、と村長が決定した。
 その魔王を退治するために冒険者達・・・つまり”金狼の牙”が雇われたのだが、森で実際に遭遇した魔王の強さは、肩書きからすると大したことはなかった。
 少なくとも、その後に聖雷教会の襲撃で持ってこられた雷神のほうが恐ろしかったと言える。
 ジーニはそれを指摘しているのであった。

「実際は下級悪魔かもね。地域によって、悪魔が過大評価される事は多いわ。それに基本的に探索の依頼よ。退治を依頼された時は、状況によって断ればいい」
「ん~・・・・・・まぁ、確かにお前さんの言うとおりかもなあ」

 エディンがそこで相槌を打つ。

「報酬も1000spと悪くない。『役場に来てくれ』と言うのだから、依頼人の身元も確かなものでしょう。この依頼、決して悪くないと思うけど・・・どう、アレクシス?」
「ふむ・・・・・・」

 アレクは顎の辺りを撫でながら唸った。
 そして結局、ジーニの口添えに折れて怪しげな「魔王探索」の依頼を引き受けることとなったのだ。
 ザンダンカル到着後、すぐに宿を取ろうと言ったラングに対して、アレクが柔らかく助言する。

「まずは依頼人の所だな。まだ日も明るいし・・・・・・それに依頼人で宿の手配をしているかもしれない」

 実際、アレクが一人で依頼を引き受けた際に、チレジア公爵から上等な宿を用意しようと申し出られたこともある。

「あっ・・・・・・そうか・・・・・・」

 ラングは己の至らなさに赤面し、挽回しようとすぐ役場の場所を通行人から聞き込んできた。

「アレクシスさん!役場の場所分かりました。まずはこの道を直進するそうです。さあ行きましょう」
「ああ、分かった」

 ”金狼の牙”はラングの案内で、ザンダンカルの役場に訪れた。
 意外にも、すぐ議長室へと案内される。
 公的な仕事とは分かっていたが、さすがに都市のトップに位置する議長から直接依頼内容を聞かされるとは思わず、冒険者たちは驚きを隠せない。

「君たちがリューンから来てくれた冒険者だね?」

 議長は細身の老紳士であった。
 目に宿った強い輝きがなければ、議長などという領主クラスの偉い役職についているとは見えなかったろう。
 アレクが真っ直ぐ彼の目を見て首肯した。

「はい」
「リューンの冒険者は非常にレベルが高いと聞いている。今回、君たちのような冒険者が依頼を引き受けてくれて、非常に光栄に思っているよ」
「こちらこそ、議長にお会い出来て光栄です」
「それでは早速で悪いが、依頼の説明をしてもいいかな?」

 一同から賛同を得ると、議長は居住まいを正して一呼吸いれ、依頼の説明を開始した。
 依頼書に記述していた”魔王”については、ザンダンカルに古くから伝わる話があるそうだ。
 高度な知能を有し、強力な魔法を使う。
 人を食し、人の子を使って魔物を召喚する。
 ただ現在、”魔王”はこの都市のどこかに封印されているのだと言う。202年ごとに破られる封印だとか・・・・・・。

「・・・・・・202年で蘇る?・・・・・・・・・つまり?」

 話の腰を折ったギルを咎めもせず、議長は軽く頷いて今年がその202年目の節目に当たる事を認めた。
 ”魔王”の復活を阻止する為には、今議長が持っている札の封印が必要になるそうだ。満腹食堂で魔女が使った封印札に少し似ているような気がする。

「みすぼらしい紙だろう・・・・・・だが、言い伝えではこの札を貼る事で、再度202年の眠りにつくらしい」
「ほう。期間限定による効力の増加・・・ですかな」
「私には全く信じられん」

 議長はアレクの指摘ののち、そうぽつりと漏らす。
 どういうことだとエディンが訝しく思い首をかしげていると、気を取り直したように彼が口を開いた。

「ここで一つ問題なのが・・・・・・”魔王”が封印されている場所が分からない事だ」
「え?」

 ギルが間の抜けた声を発した。
 何せ前回の封印から202年も経過しているがために、当時の資料の多くが紛失しているらしい。
 それでも数箇所の当たりはつけており、ザンダンカル西南部の地下に眠っているらしいという結果までは導き出されている。
 議長は両手を神経質に組み直しながら話を進めた。

「この都市でも古くからある地下、更に西南部となると、当然数が限られてくる。君たちにはその候補の中から、2箇所を重点的に探索してほしい」
「なるほど・・・・・・」

 アウロラは頷いた。そのような条件下であれば、資料が散逸しているとは言ってもどうにかなる見込みがある。
 報酬は1000sp、特に危険はないと思っているが、有事の際はもう1000spを追加することも考えている。

3satan

 依頼の拘束期間は2週間、宿は既に手配済みで宿代や食事代は議会で持ってくれる。
 おおよその依頼に比べれば、至れり尽くせりと言っていい仕事であった。
 他の仲間たちから目配せされたギルが、慣れない敬語で相手に対する。

「わかりました。問題ありません。報告はどのように?」
「詳細については、担当者がいるのでそちらに聞いてくれ。そろそろこの部屋に来ると思うんだが・・・・・・」

 妙に語尾を濁す。

「まあ、しっかり調査さえしてくれれば、『魔王はやっぱりいませんでした。』の一言で構わんと思ってるが、私はね」
「・・・・・・・・・?」

 議長は全く”魔王”についての伝承を信じていないクチらしい。
 ではどうして議会の公的な依頼として冒険者を雇ったのであろうと、ジーニは疑念を抱いた。

4satan

「議長。重ねて失礼とは思いますが・・・・・・根本的な事を聞いても宜しいでしょうか?」
「? なんだね?気にすることは無い。何でも聞いてくれ」
「議長は・・・・・・”魔王”という存在を信じているのでしょうか?」
「・・・・・・・・・」
「議長のお言葉を聞いていると・・・・・・あまり議長自身も魔王を信じておられないように聞こえますが・・・・・・」

 彼はしばしジーニの質問に眼を閉じ、彫像のように身体を強張らせていたが、やがてふっと口元を歪めた。

「実は・・・・・・・・・私も”魔王”など信じていない。ましてやこの薄っぺらい札で封印など・・・・・・」

 議長の示すそれは、何が書いてあるわけでもない。確かにただの古い紙に見える。

「・・・・・・では、何故このような依頼を?」
「発端は・・・・・・議会だ。有力貴族の一人がこの”魔王”の話を突然持ち出してきてね・・・・・・」

 正確に言えば、貴族の息が掛かった議員だということだ。どこでも、そのような手合いはいるものである。
 政治の主権が貴族から市民に移ったことをよしとしない貴族が、ザンダンカルには未だに多くいるのだそうだ。
 ”魔王”の話を持ち出してきたのはカウフマンという男で、当時の有力貴族の筆頭として、現在のザンダンカルの在り方に相当悔しい思いをしていると推測される。
 彼の指摘により、議長も初めて今年が202年目に当たることを知った。その時は気にも留めなかったのだが・・・・・・。

「後で調べてみた所、意外にも今年が魔王の復活年である事を知っている市民が多くてね・・・・・・」
「なるほど。復活を信じる者もいたと、そういうわけですね?」

 ジーニの言葉に議長が頷く。

「市民の不安の種を放置するのは、議長の業ではない。はじめは”魔王の捜索”など馬鹿げた事だと考えていたんだが・・・・・・これも市民を安心させる為だよ」
「そうでしたか・・・・・・」

 彼女は杖の髑髏を軽く顎に当てた。つまりこの議長は、「魔王はいない」という調査結果が欲しいだけなのだ。
 いもしない存在の探索というのは、どうにもモチベーションの上がらない仕事である。ただ、待遇その他は確かにいいのだから、ここで仕事を断るのはもったいないように思えた。
 議長も、そういった自分の事情を冒険者側が察した事に気づいたのであろう、慌ててフォローに入った。

「いや、しかし、君たちには失礼な態度を取ってしまった。申し訳ない。依頼者本人ですら信じていないものを探させようというのだから・・・・・・」
「いえいえ、そんな事は・・・・・・」

 そのとき、議長室にノックの音が響いた。

2013/04/11 18:00 [edit]

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