Sun.

グライフの魔道書 7  

 その瞬間、空は白く輝いた。

「受けよ!星の輝き!!メテオ・ストライク!!!」
「こ、これは・・・!」

 ミナスが呻く。
 男が唱えた魔法は、かつて”金狼の牙”たちが北方の城塞都市キーレの大戦に参加した際、味方呪術師の女性が唱えた最強の呪文であった。
 あの時は、蛮族をなぎ払うためにと味方が唱えた魔法だったが・・・。
 アレクが上空を見て叫ぶ。

「星が!!星が落ちてくる・・・!!」

 もうダメだ・・・あの呪文の威力を知っている全員が目を瞑ったその時、ミレイがひときわ澄んだ声で「トリス!!!」と呼びかけていた。

「――――!!?」

 男が唱えたものは、間違いなく現存する中で最強にして最悪の呪文・・・そのはずであった。
 しかし。

「・・・・・・生きてる・・・のか?」
「何とか辛うじて、ね・・・」

 エディンの呻き声にジーニが答える。
 彼らの少し離れた地点では、ミレイとトリスが胸を張っている。
 トリスが高々と笑い声をあげた。

「フォウンティーヌ教会の大司教様より授かった最強の時空遮断防御符を使わせて頂きましたわ♪」
「・・・そっか、それで僕ら、消し炭だけは免れたのか」
「ええ。この呪符でも、完全に遮断できない威力というのには驚きましたけど」
「いや・・・生きてるってだけで十分ありがたいよ」

グライフ29

 同族のミナスへ残念そうに首を振っていたトリスであったが、そういわれてはにかむように微笑んだ。

「バ・・・バカな・・・生きているだと・・・・・・」

 なおも現状が信じられないウルフの様子に、エディンが「ケ」と短くはき捨てた。

「アイツだか復讐だかしらねぇが、やりたきゃ他人に迷惑かけずにやりやがれってんだ」

 ミレイから、大神官がありがたい上級の神聖呪文を込めたという治癒符が投げられる。
 受け取ったミナスがそれを天にかざすと、たちまち”金狼の牙”たちの傷が癒えた。

「バカな・・・こんな・・・っ」
「なんか悩んでる所悪いけど、決着つけさせてもらうよ!」

 ミナスが≪森羅の杖≫を構える。前衛の三人も、各々の得物を構えてウルフの方へと移動した。
 まずアレクが【炎の鞘】でもって、ウルフの足を傷つける。焦った彼はレイピアとナイフをかざして走り寄るエディンへ、青く煌く雷光を放出した。

グライフ30

「ぐっっ!?・・・て、てめえ・・・」
「こんなところで・・・負けるわけには・・・!」

 だが抵抗できたのはそこまでであった。
 雷光で焼け爛れていたエディンの体を、ジーニが一番最近に取得した薬瓶で快癒させ。
 さらには、アレクが唱えた癒しの上級呪文が彼ら全員を包み込む。
 完全に体勢を立て直した”金狼の牙”の中、スネグーロチカの目くらましによる援護を受けながら、エディンが【暗殺の一撃】でウルフの胸部を深く突き刺した。

グライフ32

「ぐあぁ!」
「さっきのお返しだ・・・たんと受け取れ!」

 深々とレイピアを突き刺され、ウルフはその場に崩れ落ちた。

「ば・・・こんな・・・こんな・・・ところで・・・わ、私は・・・・・・アレグレット・・・キミの仇を・・・・・・」
「いいか、兄さん。あんたにも事情があるんだろうが、まずはこっちの用件を聞いてもらおうか」

 静かなエディンの声にかぶさるように、厳しい声のアウロラが詰問する。

「獣人化した村人はどうすれば元に戻せるのです!?・・・答えなさい!」
「村人だと・・・?赤の他人だろうが・・・何故だ?これほどの危険を冒して何故奴らを救う?」
「・・・・・・仕事だ。それ以下でもそれ以上でもないさ」

グライフ33

 乾いた声でエディンが言う。

「・・・フッ、まぁそう言うことにしておくか。なんにせよ、私には関係の無い事だったな・・・」

 ウルフいわく、彼らの獣人化は幻術によるものであったと言う。
 先ほど放った【メテオ・ストライク】に全魔力を集中した時点で、その幻術が切れているだろうと彼は語った。

「さぁ、殺すがいい」
「悪いがな。兄さん」

 エディンは残像が残るほど素早くレイピアを抜き去ると、ことさらゆっくりと彼に話しかける。

「今回の仕事は村人の獣人化を解決することで、あんたの命を取る事じゃない。こっちは早く帰って宴会したいんでな」
「な、貴様、私の首に掛かった賞金はいらぬのか!?」
「アー?聞こえねぇな、んなもん。なあ、皆?」

 最年長者の言葉に、全員が「仕方ないなあ」とでも言うような顔で苦笑いし、宿の方角へと歩き始めた。

 さて、その後。
 今度の事件の真相を知りたがった親父さんや娘さんたちに、ミレイとトリスを肩をすくめてから説明を開始した。
 ウルフがグライフの魔道書を何らかの目的で欲したこと。
 村人に魔道書を探させるために幻術を使い、獣人化したように思わせ、治療には魔道書が不可欠だと言う噂を流したこと。
 偶然近くに滞在していたミレイとトリスが、村人から依頼された魔道書探索の前に噂の出所を調査したところ、発生源を突き止めたが逆に捕まってしまったこと。

グライフ34

「で、トリスを人質にミレイに探させたって事ね」
「でも魔道書を持っていってもトリスを無事に返してくれるっていう保障はないじゃない?それで悩んでたんだけど・・・」

 ミレイは両の人差し指をツンツンさせながら、上目遣いにジーニを見た。

「そんな時、狼の隠れ家の親父さんが魔道書の情報を手に入れたって聞いて、ジーニの事を思い出したのよ」

 だが、魔法でミレイの行動がウルフに筒抜けであったことに気づいたため、ミレイは直接トリスが人質となっていることを伝えるわけにはいかなかった。
 そのために、わざわざ”金狼の牙”をモンスターで足止めし、目当ての魔道書を持って逃亡する(しかも追ってくるように仕向けつつ)ということを行なったのである。
 トラップを仕掛けたのは、少々の時間を稼ぐためと、緊張と集中力を持続させるため。

「不用意にウルフに近づいて捕まっちゃったら、洒落にならないもんね」

 悪戯っぽく微笑んだミレイの杯に、ジーニが何杯目かも分からない葡萄酒入りの杯を合わせて言った。

「そしてあたしたちが近くに来たら、事情が伝わるように会話を誘導して救助を請う!と」
「気づいてくれて助かったわ。ありがと、ジーニ」
「お礼は形のあるもので勘弁してあげるわよ。まあ、今日のあたしの酒代くらいでいいわ」
「えええ!?」

 お茶目に紛らわせて焦らせた責任を逃れようとしたミレイだったが、さすがにジーニはそれも見抜いていたのであった。

※収入2000sp、【雷神の眼光】※
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■後書きまたは言い訳

61回目のお仕事は、八雲蒼司さんのシナリオでグライフの魔道書でした。思いのほか少し長いリプレイとなりましたが、シナリオの元の文章やテンポの良さのおかげでしょうか。ほとんど苦にならずに書き上げることができました。こちらは「発展都市ラスーク」とのクロスオーバーイベントがあったり、「竜殺しの墓」の称号で反応する台詞があったりと、今までの冒険者の経験をちらと垣間見ることができます。
今回、エディンは「俺は冒険者で暗殺者じゃねーんだよ」とウルフ殺害をしませんでしたが、賞金首云々の場面で違う選択肢を取れば、追加称号(0点)と追加報酬があります。こっちのエンディングもどんなものなのかちょっと見たかったかも。

ミレイとトリスについては、こういう展開だと連れ込みするのかな~?と思っていたのですが、作者様が続編を心に期していたらしく、宿には連れ込めませんでした。・・・まあ、よく考えたらミレイとギルの様子を見て「なに!?何でそんなに親しいの!?」ってことになる人が一人いそうなので、やっぱり連れ込みなくて正解だったんだと思います。(笑)
大丈夫だギル、月姫の方は生暖かく見守ってくれてるから。(笑)

途中で手に入れた別の魔道書から解読された【雷神の眼光】ですが、レベル比7(肉体属性)の固定値15(魔力属性)、おまけに成功率かなり上昇修正という単体用の強力な攻撃魔法です。ただ、今現在ジーニが【神槍の一撃】を持っているので、使うことも無いだろうな~と売却してしまいました。
ですが綺麗な画像の魔法スキルですので、もし雷系統の魔法で統一してる魔術師さんなどいらっしゃいましたらお勧めさせていただきます。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/04/28 14:06 [edit]

category: グライフの魔道書

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Sun.

グライフの魔道書 6  

 どれほどの余裕か、しょせんは騙された冒険者たちと舐め切って、支援魔法をかける時間すら与えていたウルフであったが・・・。
 早くも高速圧縮魔術を唱え、グリフォンを召喚し彼らと相対することになっていた。

「1体は私とトリスで相手をするから、残り2体よろしく」
「はいはい、わかったわ。ほらいっておいで」

 ぱたぱたと手を振ってミレイを送り出したジーニは、ウルフに張られているらしい妙なバリアの存在に気づいていた。
 ≪エメラダ≫を通して彼を透かし見ると、ウルフはローブの下に何かのマジックアイテムを身につけており、そこから魔力を供給しているらしい。

グライフ22

「なんて傍迷惑な男なの、こいつ。ちっ、アイテムを破壊するのは無理ね・・・アレク!」
「今やってる!」

 海精の神殿から授けられた呪文【召雷弾】を、呼びかけられると同時に敵へぶつけたアレクは、胸元のペンダントを握り締めた。
 ウルフの高速圧縮呪文による召喚がまた行なわれる。

「今度のは死霊術ってとこね」

 ジーニの予測に違わず、肉体を持たない死霊たちが森の木陰から霧のように湧き出てきた。
 ギルが斧を振り回しつつ叫ぶ。

「また召喚したのか!?」
「怯まないで。死霊相手なら、私でも相手できます」
「おう、頼んだぜ、アウロラ。ミレイ!そっちは・・・」
「こっちは手一杯!」

 新たに出現したモンスターの一部は、彼女たちの方にも流れていた。
 多勢に無勢のその姿に、早めにウルフを片付けなければいけないとギルは判断した。

「ジーニ・・・」
「分かってるわよ。・・・死霊はアウロラに頼んでおきましょ。グリフォンはミナスの魔法に任せなさい。親玉は、あたしがとっておきの瓶を投げてあげるから」

 ジーニの右手が、ベルトポーチの中に突っ込まれている。ギルは軽く頷くと、体を回転させて前線へと切り込んでいった。
 その後ろで、気息を整えていたアウロラが右の上腕部を傷つけられながらも、一所懸命に導きの歌を発声したが・・・。

「くっ!!」

 不思議な力にかき消されたことに気づき、いち早く指輪を媒介に魔力をまた集中し始めた。

「次から次へと・・・!目障りじゃ!」

 氷の姫に憑かれているミナスが腕を振ると、たちまち辺りが氷霧に覆われて白くなっていく。
 そんな中、ウルフはいくつかの印を結びながら呪文を唱えて姿を消した。

「消えた・・・!?」

 愕然とした表情になった同族へ、やっと沈黙の魔法を解除したトリスが叫ぶ。

グライフ25

「おそらく幻術です!転送呪文封じの結界符はすでに貼りましたから。姿が見えないだけでまだ居るはずですわ!」
「・・・なら、とにかく見えてる奴から片付けちまおうぜ。リーダー、アレク!」
「おう!」
「わかった」

 最年長者の指示に、戦士たち二人が応える。
 そうして死霊がただの幻術であることに気づき、大蛇やグリフォン、トロールたちを先に片付けていった。
 その様子を見て焦りを感じたのか、椎の木の一つが揺らぐと、その幹から分かれるように人影が滲み出る。
 幻術の集中が途切れたウルフであった。

「くっ。並みの冒険者ではないな・・・」
「当たり前だ。お前なんか、あのカナンのじいさまや魔王に比べれば!」
「おのれええ!」

 ローブの上から斧の刃がかすめ、激昂したウルフは最後にして最強の召喚呪文を唱えた。
 アレクが嫌な顔になる。

「・・・げ」

グライフ26

「な・・・こいつはまさか・・・っ」

 途切れたエディンの言葉尻をジーニが捕えた。

「ドラゴン!?」
「わが召喚に応じし竜よ!わが前に立ち塞がりし愚か者どもを蹴散らせッ!」

 ウルフの命令に竜たちが呼応する。
 空気がとてつもない咆哮に震える中、またウルフの姿が消えた。

「くそっ、また消えやがった!」
「ったく、とんでもないヤツ呼び出しやがって!」

 エディンとギルが悪態をつく中、アウロラは冷静に効果時間を見極めて防御呪文を張り直した。

「主よ、我が仲間を護りたまえ・・・そして更なる力をお与え下さい・・・!」

 彼女の足元には、神精ファナス族の幼生が毛を逆立てて最強の幻獣を睨みつけている。
 ギルとアレクが入れ替わり立ち代わりで分厚い鱗越しに強烈な斬撃を与える中、その幼生は思い切り飛び上がり、鱗の無い長大な喉笛に喰らいついた。
 ドオオォォン・・・・・・と土煙と轟音を上げて、氷竜が斃れる。

「後一匹じゃ!」

 ミナスが放った氷の宝石の首飾りは、狙い通りに火のエレメントを持つ竜を縛り上げ、ギリギリとその命を削った。

グライフ27

 続けざまに斃れた竜を、信じられないものをみたといった態で、幻が解けてしまったウルフが見つめている。

「ようやくおでましか」
「あの2体をも倒すとはな・・・だが丁度いいとも言える」
「なんだと?」

 そう言ったギル以下、身構えていた”金狼の牙”たちの目の前で、ウルフは手にしていた魔道書を燃やしてしまった。
 あまりの意外な出来事に動けない一行を嘲るように見やった男は、すでに魔道書から読み取った新たな力を試さんと進み出た。

「ヤツを殺す為のこの力!貴様等の体で試させてもらう!!」

2013/04/28 14:04 [edit]

category: グライフの魔道書

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Sun.

グライフの魔道書 5  

 数十分後。
 ”金狼の牙”は、ミレイと思わしき人影を捕える事に成功した。

(いた・・・。あそこだ)

 エディンの囁き声にミナスが反応する。

(うん、ここからじゃよく分からないけど、多分そうだろうね。生命の反応がそれっぽいもの)

グライフ15

(!?おい、他にも誰かいるぞ)

 エディンに促されるまでもなく、もう一人誰かが居ることには全員が気づいていた。

(仲間・・・かしら?気づかれないように近寄ってみましょう)

 ジーニの指示に、エディンがヘマすんなよと囁く。
 アレクがそこでやっとニヤっと笑った。

(そっちこそ)

 気配を殺し、できるだけ物音を立てず接近を試みる。
 すると・・・もう一人――ローブ姿の男から、

グライフ16

「ご苦労だったなミレイ」

という台詞が聞こえてきた。

「軽々しく呼ばないで!」
「それは失礼・・・約束の物は持ってきたろうな?」
「答えを知ってるくせにわざわざ聞く奴はキライなのよね!」

 憤然とした様子のミレイに、ローブの男は顔色を変えることもなく応えた。
 偉そうな物言いの割に、案外と若い顔立ちをしている。
 アウロラのそれよりも幾分か薄い赤の髪と瞳は、緑の濃い森の中では異質なほど浮いて見えた。

「おや?どういう事かな?」
「とぼけないでよ!遠見の魔法で私の行動と会話を盗み見てたくせに!」
「・・・ほう、気づいていたか。見た目より優秀な冒険者のようだな」

 ローブの男は腕組みしていた手を解き、ひらりと左手を振った。
 つまり――今回の件は、このローブの男がグライフの魔道書を欲したことが発端であったようだ。

「ま、だからこそキミに協力してもらおうと思ったのだがね」

グライフ17

「あなたに褒めてもらったってちっとも嬉しくなんかないわ!それよりトリスはどこ!!」
「キミと一緒にいた冒険者の彼女かね?もちろんいるとも。”それ”と交換の約束だからな」

 ミレイは本を固く抱きしめて言い募る。

「ならトリスに会わせて!」
「そいつを渡してくれれば返してやるさ」
「彼女に会うのが先よ!」

 さすが盗賊というべきか、こういう交渉においても彼女は目的を達することは忘れないようである。
 存外に強情なミレイの態度に舌打ちしたくなったが、それをこらえて男は「・・・いいだろう」と言った。
 3語ほどのルーンを呟くと、彼は傍らの大木の陰に向かって指示した。

「足元の戒めだけ解いてやった。ゆっくりと出て来い」

 ゆっくりとした足取りで、エルフと思われる少女が木陰から姿を見せた。
 ≪呪符≫のようなものをたくさん身につけているところからみると、どうやら彼女は”呪符魔術師”という、符を媒介にすることで魔力を高める種類の魔術師らしかった。

「トリス!無事だった?・・・えっちな事とかされてない?」

 ミレイのとんでもない言葉に、エルフらしき娘は抗議するように身を揺らした。だが、その口からは声が発せられていない。
 たちまち、藤色の眉がしかめられる。

「!?」
「魔法を使われては面倒なのでね。彼女には沈黙しててもらっているよ・・・彼女の代わりに、先ほどの質問にも答えておこうか」

 ローブの男は堂々とした挙措で、それ以上ミレイとトリスと呼ばれた娘が近づくのを止めつつ口を開いた。

「安心したまえ。人質に危害を加えたりはしていない・・・悪いが何の興味も感じないしね」

 それはそれで失礼な話ではある。案の定、トリスはすっかり怒りの表情に変わり、地団駄を踏みそうな雰囲気を漂わせていた。
 ・・・・・・と、それまで彼らの様子を伺っていた”金狼の牙”にも、ようやくミレイの不審な行動の理由が分かったわけである。
 そういうことだったのかと腑に落ちた表情のジーニの頭の中で、素早く計算機が動いている。この状況を打破する為には・・・。

(となると・・・・・・)

 彼女は身振りだけで仲間に指示を出した。

(仕方ありませんね)

 小さく頷いたアウロラや他の仲間たちは、その意図を的確に理解し即座に行動に移す。無論、物音には細心の注意を払わなければならない。
 幸いにして、一番やかましい音を出しそうな男には、≪霧影の指輪≫という便利なマジックアイテムを渡してある。
 これは盗賊の【闇に隠れる】という技のように、暗闇に同化して隠れてしまう効果を持っている。洞窟から見つけた碧曜石と大精霊の護衛料に貰った紅曜石で、ジーニが練成したものであった。
 舞台裏で彼らが移動している間にも、ローブの男とミレイの取引は続いていた。

「・・・いいわ。ここに置くからトリスをその場に残して取りにきなさい!」

 そう言うとミレイは魔道書を地面に置き、自分は後ろにさがった。
 魔道書に呪文遮断の呪札を貼り付けてあることを目視で確認した男は、今度こそ舌打ちをしたが、

「・・・抜け目の無い女だな。いいだろう」

と言って、ミレイに言われたとおりトリスを置いて魔道書を取りにいく。

グライフ18

(いまよ!!)

 ジーニの合図とともに、”金狼の牙”は一斉に飛び出した。人質となっていたトリスを助け出す為に――。

「――!!何!?」

 男が濃紺のローブを翻して振り返った先には、拘束を解いてもらったトリスの姿と、こちらをねめつける冒険者たちの姿があった。
 クスッとその様子を笑ったジーニが、奥にいるミレイに声をかける。

「これでいいんでしょ?ミレイ」
「ジーニ~!よかった、あなたならやってくれると思ってたわ」
「ミレイに利用されていただけの冒険者が・・・何故ここに!?」

 男の台詞を、ジーニが鼻先で笑い飛ばした。

「ミレイとあたしたちの方が一枚上手だったって事よ!」
「・・・だが、まぁいい。魔道書さえ手に入れば他はどうでもよい事だ」

 ギルが金色に輝く魔法の斧を構える。

「おっと!そういうわけにはいかないな。そいつが無いと報酬がパーになっちまう」

 だがローブの男は口を歪めて嘲った。

「報酬・・・?」
「そうじゃないわ!その魔道書じゃないの!!」

 意外なことに、そう叫んだのはミレイであった。

「なんだって?」
「そいつなの!!今回の獣人化の騒ぎの元凶は!!」

 そしてミレイは、男の名前を明かす。

「ラルゴ・A・ウルフ!全てはその魔道書欲しさに彼が仕組んだ事!!」
「そうかお前が『赤き狼』か!召喚術と幻影術、さらに暗黒魔術まで手を染めた魔道士・・・赤き狼、ラルゴ・A・ウルフ」

 アレクは賢者の搭出身者である母から得ていた知識の中にあった情報を思い出した。愛剣である≪黙示録の剣≫の切っ先を向ける。
 魔力の宿った鋭き刃には目もくれず、男は余裕の構えだ。

「フッ。ではどうするね?」
「決まってるじゃない!なら尚のこと、黙って帰す訳にはいかないわね!!」

グライフ19

 ダンッ、と足を一歩踏み出し、杖の先の髑髏を向けてジーニは宣言した――まさにそれは宣言というに相応しいものであった。

「ブラウム村のため、あたしたちの報酬のため、あたしたちやミレイたちの恨みのため!ここできっちり落とし前つけてもらうわよ!」

2013/04/28 14:03 [edit]

category: グライフの魔道書

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Sun.

グライフの魔道書 4  

「あった!グライフの魔道書!!」

 呆れたようにジーニが言う。

「なんだ。こっちが戦闘中の間も、探していたのね」
「これで・・・」
「ん?」

 ジーニが続きを促すように首を傾げると、ミレイはどこか迷子のような雰囲気を漂わせつつ、小さな声で言った。

「・・・これで契約終了ね」
「え?・・・ええ」

 戸惑ったジーニはとりあえず相槌を打ったが、ミレイの顔は晴れなかった。
 それどころか・・・。

「・・・ゴメンね、ジーニ」
「――――!?ミレイ、何を・・・」

 謝られたジーニよりも先に、何かがおかしいと気づいたギルが声をかけるも、ミレイは何も答えることなく入ってきた入り口へと駆け出していた。
 ――手に、グライフの魔道書を抱えたまま。

「あいつ、まさかっ・・・」
「だ、出し抜かれたっ!?えっ、ちょ。マジ?」

 慌てるジーニの前方を二、三歩ほど進んだギルが叫ぶ。

「ミレイ!裏切るのか!!ミレイ――――!!!!」

 だが彼女はひたすら走り去っていく。

「くっ、追うぞ!!」

 リーダーの号令で、体勢を立て直し全員が走り出そうとするが・・・その先には、まるで立ち塞がるかのごとくいつの間にかモンスターが出現していた。

「ッ、邪魔だ!!」
「ギル、ここは私が」

 一瞬だけ眼を閉じ、左手の指輪に意識を集中したアウロラが再び目を開いた時には、すでに最初の一音が朗々と発せられていた。
 通常の攻撃ではダメージを与えられない死霊たちに、【浄福の詠歌】をもって天へと導く。
 そうして開けた道を、彼らは記憶を頼りに入り口へと引き返していった。

「・・・・・・」

 洞窟から出たところで、エディンが油断なく目を光らせる。
 アウロラが小さく訊ねた。

「どうです?」
「微かだけど足跡はある・・・なんとか追えそうだ」
「他にも何組か冒険者が来ていたみたいよ。間違えたりしてない、エディ?」

 ジーニの台詞に、エディンは鞘に包まれたままのレイピアで地面を示した。

「単独行動を取っている足跡は少ない。加えて、サイズや歩幅等の条件をあわせればバッチリさ」
「それでは追跡開始ですね」

 アウロラの言葉に一同が頷いた。
 微かな手がかりを見失わないようにしつつ、なるべく早足で追跡する。
 その手のことには慣れている冒険者といえど、そうそう簡単にはできない事ではあるのだが、エディンを先頭にした”金狼の牙”たちは見事にやってのけた。
 途中で、ポツリとギルが呟く。

グライフ13

「・・・なぁ。隠し部屋のモンスターも、ミレイの仕業だったと思うか?」

 やはり彼も、エディンと同じく正解なのに出てきた敵に対して不信感を抱いていたらしい。流石はリーダー大した勘だと感心しつつ、エディンは応じることにした。

「ああ、そりゃそうだろう。あそこにあったトラップをわざと作動させたと思うぜ」
「・・・あのような事をするような人には見えなかったのですが・・・」
「・・・たしかに、他の冒険者からもそんな話は無かったな」

 そんな人には見えない――優しいだけのように見えて、両親と死に別れた後の財産争いの経験から意外と人を観るアウロラの言は、重々しいものであった。
 だからこそ、盗賊として長く人生を過ごしてきたエディンもそれに同意する。

「・・・・・・」

 ミレイの裏切りがよほど辛かったか、無言のまま少し苦しそうな顔に変わったアレクを雪精トールが心配そうに見やる。
 そうしてどれほど走ったか――いきなりエディンがその長い足を止めて、すぐ後ろを走っていたギルに呼びかけた。

「!! リーダー、ストップだ!」
「え」

 言われたとおり立ち止まったギルの足元には・・・。

「よく見ろ・・・トラップだ」
「なんで・・・これもミレイが・・・?」

 訳が分からない、といった態のギルにジーニが突き放すように言う。

グライフ14

「・・・他に考えられる?」
「・・・・・・」
「追跡がバレてるみたいね。他にもトラップが仕掛けられた可能性が高いわ。もっと慎重に行きましょう」

 おおよそ、敵対する意志を明らかにした相手に対して、ジーニほど冷たい者もそうはいない。例えそれが――よく自分たちの宿に出入りしていた相手であっても。
 洞窟内で慌てていた姿はどこへやら、すっかり彼女は冷静さを取り戻していた。
 気配を消し、さらに慎重に追跡を再開する。

2013/04/28 14:02 [edit]

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Sun.

グライフの魔道書 3  

「たぶんお目当ての魔道書はこの部屋だと思うけど・・・」

 そういう女盗賊に、にっこりとアウロラは笑いかけた。

「ミレイさんのおかげで、案外楽に辿り着けましたね」
「まぁ、私もプロですからね~。それにギルバートがいるからモンスターも怖くないし」
「あんまりあてにされても困るけどな」

 台詞のとおり、ちょっと困ったような顔でギルが頭をかく。

「またまたぁ、謙遜しちゃって。さっきのモンスターなんか楽勝だったじゃない」
「まぁ、さっきのはな」

 そう返したギルの声が聞こえていたのか、いなかったのか。
 ミレイは何かに気づいたように顔をやや上に向けて言った。

「あら?コレは・・・」
「え?」

 ギルがそちらを見やると、動物を象ったレリーフが何枚も壁に埋まっていることに気がついた。描かれている動物は、鼠や牛など様々だ。
 アレクが首を傾げる。

「なんだ・・・?」
「トラップみたいね・・・」

と返したのは、じっとそれを睨みつけていたミレイであった。

「多分、最後の。ほらここを見て」

 ミレイが示した場所には、文字が書かれているプレートがあった。

グライフ9

「えーと、何々?『くらやみにもかがやくみずほ だいちをおおうそのほしくさ かえりみたまえこのうきよ すべてをみちびくりんね そはせかいのほんしつ』・・・なんだろ、これ?」

 なんとも長ったらしい人間語の文章を読み下したミナスだったが、その内容には首を捻るばかりである。どうもリドル(謎かけ)のようであった。
 バッ!と他の仲間たちがアウロラの顔を見つめた。

「・・・いっせいにやられると、心臓が口から飛び出てしまいますよ。まあ、私の出番なんでしょうけれど」
「うん。というか頼む」
「・・・・・・少し自分でも考えてくださいね、ギル」

 ミレイによると、この動物のレリーフはスイッチであるらしい。
 後ろでエディンも首を縦に振っている。正しい場所を押せば道が開けるタイプの仕掛けだということだが・・・それは間違えればトラップが発動するということでもある。
 恐らくは、先ほどのリドルが正解のレリーフを教えてくれるものだろう、とミレイとエディンが結論付けた。

「・・・・・・この言葉・・・。文字自体の意味というよりは、文字の並び方に何かヒントがある気がしますね」

 プレートの文字の上を、ゆっくりとアウロラの指が這う。

「わざわざ1文字ずつずれている・・・。これが怪しい。もしかして・・・」

 アウロラは羊皮紙の端っこになにやら文字を書き付け、しばらくそれとにらめっこを続けていたが・・・何かを掴んだのであろう、頷いてレリーフの方へ移動する。
 彼女は猿のレリーフの目の前に移動した。

グライフ10

 そして躊躇なく、その手の部分に触れる。

「正解~~~♪」

 天真爛漫なミレイの声が響く。
 間の抜けた音の拍手を彼女が続ける横で、ジーニが感心したように言った。

「よく分かったわね。今のは・・・?」
「ああ、はい。一番右端の文字が答えです」
「ほ、さ、よ、ね、つ・・・って書いてあるけど?」
「横一列ごとに、1文字ずつずれていた文章だったでしょう?つまり、一番右端の文字を一文字ずつずらして読め・・・というメッセージだったんです」
「・・・・・・ああっ、なるほど!」

 そこで理解してすっきりしたジーニは手を打ったが、ギルやミナスがまだ理解していない表情であることに気づき、アウロラは「ほさよねつ」と書いた羊皮紙の横に、「ましらのて」と書き込んで二人に見せた。

「この右端の文字を、一個ずつずらして読むと『ましらのて』・・・つまり、猿の手になるんですよ。レリーフの答えはこれです」
「うわあ・・・僕、全然わかんなかった」
「・・・俺も今言われてやっと分かった」

 そんな二人が囁き合う中、部屋のどこかで仕掛けが動いたような音がした。だが、音が反響しているせいで正確な位置は掴めない。
 ジーニが呟く。

「お宝・・・かしら?」

グライフ11

「手分けして探すか」

 応じたアレクが進み出ようとするのを、ミレイが防いだ。

「待って!・・・どうやら最後にもう一つ試練があるみたい」

 部屋中からモンスター特有の気配を感じ取る前に、アレクの本能がすでに剣を抜かせていた。雪精トールも戦いの予感を感じたのか、懐から肩の位置に移動している。

グライフ12

 エディンが眉をしかめつつ武器を構える。

(・・・解せねぇな。わざわざリドルを仕掛けて、正解を当てたのにモンスターが出てくるなんざ・・・。やっぱりこりゃあ・・・)

 彼のやや後ろで、「やるしかないようね」といって≪死霊術士の杖≫を構えるジーニは、エディンの持つ違和感に気づいているのだろうか?

(気づいてなくても不思議じゃねえ。今回、ずいぶんと自然にやってるからなァ・・・リーダーは勘で気づいてるみてえだが)

 とにかく、彼の疑惑が当たっているのかどうかを確かめるためには、目の前の死霊たちを片付ける必要がある。
 やれやれとため息をついたまま、彼は手近な死霊へミスリルのレイピアを突き刺した。

2013/04/28 14:01 [edit]

category: グライフの魔道書

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Sun.

グライフの魔道書 2  

 トラップだらけ――そう評されるこの場所にミレイを連れて来たのは、なんとも切羽詰ったような響きを、彼女の台詞から偶々ギルが拾ったからであった。

グライフ5

「・・・ねぇギルバート。今回の仕事、私と組まない?」

と申し出た時の彼女の顔色が、どこかギルの勘に引っかかった。
 そもそも、ミレイと組んで仕事をするのは初めてではない。
 彼女は単独で≪狼の隠れ家≫に来る事が多かったのだが、人手が必要な時などは一仕事だけほかの冒険者と組むことがある。
 ”金狼の牙”たちもそうで、以前に組んだ時の印象や他の先輩たちの体験談からすると、彼女の評価は”トラップ関係のスペシャリスト”だが、戦闘に関しては・・・といったところ。
 実際にはそれほど弱い訳ではない。そもそも、弱ければ”金狼の牙”やその先輩たちと組んで仕事ができるわけが無い。
 身ごなしはとても素早く、相手の裏をかく戦法も取ることができるだけに敵に回すと厄介なのだが、そこまで知能の高くないモンスターが相手ともなると、その力を発揮しきれず窮地に追いやられることが多いらしい。
 そんな訳で大量のモンスターが相手ともなると、仕事を請けないか、他の冒険者を頼る事となる。

「ミレイはブラウムの村に行ったのか?」

 宿にいた時に発したギルの疑問に、ミレイは事も無げに「行ったけどめぼしい情報はなし」と答えていた。
 村人はうろたえているだけ、目撃証言も、原因になりそうな心当たりもまるでなかったのだと言う。
 少々原始的ながらも、何かかの祟りではないか・・・という話もあったそうだ。しかし村人のほうで思い当たる節が無く、それ以上の調査も困難を極めている。
 高位の魔道師が関わっているなら、あり得ない話ではないのだが・・・。

グライフ6

「『カナン王』・・・とか?」

 ギルがぼそりと出した名に、親父さんは頷いていた。

「ああ、そのクラスの魔道師や魔術師なら人為的にもこんな事件を引き起こせるだろうが・・・」
「そんな相手は、そうそういるもんじゃない・・・か」

 アレクの言葉に、だがミレイは何も言わなかった・・・・・・。
 親父さんに教えられた洞窟の入り口は幻覚によって隠蔽されていたのだが、ミレイがあっさりと見破っていた。
 内部はかなりの広さを誇っていた。加えて、相当数の罠も仕掛けられていたが、それらはすべてミレイが解除してくれる。
 現れる敵だけに集中できる分、いつもよりは楽なのだが、絶え間なくやってくるモンスターのせいで流石に息切れし始めた為、洞窟内の広場で一端休憩を取った。

「結構広いわね~。情報通り、罠だらけだし」
「片っ端から調べながら来たしな。後はココから北のエリアだけだろ?」

 ギルの言に、ミレイはこくりと頷く。

「ええ。・・・残りどれくらいかはわからないけどね」

 疲労から火照った足をナパイアスの水で冷やしてもらいながら、ミナスが「にしても・・・」と言って洞窟内を見渡した。

「こんな洞窟内にしてはトラップが多すぎじゃない?」
「ん~~。その辺の事情は知らないけど大方、どっかの盗賊がお宝隠すのにこの洞窟を改造したんじゃない?」

 ミレイが腕を軽く広げて言った推測に、ギルは肩をすくめる。

グライフ7

「魔道書はその戦利品って訳か」
「ま、ただの推測だけど・・・さ、休憩終わり。頑張って行こっ♪」

 発破をかけるような彼女の言葉に、いつになく言葉数の少ないエディンが頷く。
 この洞窟に出るモンスターは、いわゆる死霊などのアンデッドが多い――親父さんの言っていたとおり、この洞窟で出会う敵は大抵その手のカテゴリに入る存在であった。
 それらを適当にあしらいながら進むと、やがて少し開けた場所の奥に宝箱を見つけた。

「この中に魔道書が・・・?」

 アウロラの呟きに、「ちょっと待ってて、開けてみる」と言ったミレイが静かに進み出て、手慣れた様子で調べ始めた。
 やがて、罠は無いと判断したのだろう、白い指先が微細に動いて開錠する。

「開いた」

 箱の中には一冊の本が入っていた。
 ジーニの目の色が変わった。

「それは・・・」
「・・・結構古い文字ね。えっと・・・・・・」

 ミレイはページをめくって目視していたが、すぐにぺろりと小さく舌を出した。

「『上級魔道書・エグリルの章』って書いてある。・・・ハズレみたいね」
「グライフの魔道書じゃ無いのね・・・」

 疲れきったようなジーニの声音に、労わるようにミレイがフォローをした。

「でも、魔法使いには役に立ちそうよ。宿に帰ったら解読するといいわ」
「ええ、そうさせてもらうわ」

 とにかく目当ての品とは違うということで、一行はまた暗い洞窟の中を、フォーチュン=ベル製のカンテラを掲げて進んでいった。

「・・・・・・どうやらお目当ての品は近そうよ」

 ミレイの囁きに、眉間に皺を寄せたエディンが言う。

「ここ・・・行き止まりじゃ?」
「ここに仕掛けがあるんだな~。ちょっと分かりにくいけどね」

 そう言ってミレイが盗賊の七つ道具をブーツの隠し場所から取り出す。
 しばらく、その仕掛けとやらに彼女は掛かりきりになっていたが、焦れたギルが「まだか~?」とせっつくと、案外とすぐに、

グライフ8

「ん~~。もうちょっと待って・・・よし!」

という返事があった。
 目の前の壁だと思われていた部分が動き出す。
 ふむ、と顎を撫でてエディンが呟く。

「隠し部屋か・・・!」

2013/04/28 14:00 [edit]

category: グライフの魔道書

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Sun.

グライフの魔道書 1  

 ギルは≪狼の隠れ家≫の中を見て呟いた。

「・・・なんだかみんなあわただしいな・・・」

 「騒々しい」という日はよくあったが、この日は違っていた。
 明らかに「慌しい」のである。
 幼馴染の傍らで、≪魔鋼の篭手≫を無言で手入れしながら考えをめぐらせていたアレクは、ふと思い出した。
 そう、こんな日は決まって「大きな依頼があった」日だったと。
 仲間の呟きをきちんと耳に入れていたアウロラは、ちょうど近頃書き溜めている楽譜の束を整理し終わったところである。

グライフ1

 「理由を聞いてみますか」

と、羊皮紙を丁寧に丸めて言った。
 首を縦に振る仲間たちを確認し、彼女はカウンターの向こうへ呼びかける。

「親父さん、何かあったのですか?」
「何かって・・・お前達、何も聞いてないのか?」

 意外そうな親父さんの台詞に、”金狼の牙”は顔を見合わせた。
 好奇心ではちきれんばかりになったミナスが、目を輝かせて続きをせがむ。

「だから何を?」
「ふぅ・・・うちの宿でくつろいでくれるのは結構な事だが、あまり呑気なのは考え物だぞ」
「焦らさないで早く言ってよ。僕、早く知りたい!」
「まあいい、ブラウムの村は知っているな?」

 ≪狼の隠れ家≫があるリューンからも程近い、そこそこの大きさの村である。恐らく、ちょっとした財源でもあれば今頃は町と呼ばれるくらいにはなっているだろう。
 こくりと首肯した面々を見渡して親父さんが告げる。

「1週間ほど前から大変な事になっとる。・・・これも知らんのか?」
「その村なら知ってるが・・・大変な事ってのは?」

 エディンが剃り残した無精ひげを摘みつつ訊ねると、親父さんは呆れた顔をして結論を言った。

「獣人化だ・・・」

 思いもかけない親父さんの返答に、髑髏の杖を適当に振り回していたパーティの知恵袋がたちまち柳眉を顰める。

「獣人化?」
「突如として村人が次々に獣人に変化してしまったんだよ。それも全村民の3分の1がな」
「はあ!?」

 間の抜けた大声を上げたのはエディンである。しかし、他の仲間たちもやはりあんぐりと口を開けていた。

「そんなにも!?なんで?原因は?」
「不明だ。もともとそういった血統の者はいなかったし、事件直前に獣人やモンスターが出没した様子も無い」
「うーん・・・何の前触れもねぇのか・・・」
「全く普通に生活していた住人が突然変化し始めたんだそうだ。1週間前から次々とな」

 気分を落ち着かせようとする無意識の表れか、長い指を蒼い≪スワローナイフ≫の柄でタップさせながらエディンは質問を続けた。

「被害が広がってるのか?」
「いや、獣人化の進行は2日間だけだ。それ以降は誰も変化しておらず、被害の拡大には至っていない」
「・・・妙な話だな」

 ぽつり、と漏らした声は、だがこれ以上ない真剣味を帯びていた。
 ”金狼の牙”が実際の冒険で獣人化する敵と戦った覚えは無いが、エディンのそれなりの人生経験の中でもそんな獣人化現象は聞いた事が無い。
 そもそも獣人化が厄介なのは、獣人へ変化することにコントロールができない者が多いことや、獣人化の感染が早いことが挙げられる。
 一度獣人化した者がいる場合、もとの人間に戻るのが難しいということも、この問題の厄介さの一端であった。
 そんな真顔のエディンの横で、肘をついたジーニが親父さんに「ねえ」と問う。

「で、その獣人化というのは・・・まさか猫系じゃないでしょうね?」

 彼女の脳裏に浮かんだのは、恐らく月獣と化した猫族・イリスから受けた仕打ちと苦くて懐かしい思い出のことだったのだろうが、そんなことは知らない親父さんは普通に応対しただけだった。

「人虎(ワー・タイガー)の類か?いや、ハズレだ。人狼(ワー・ウルフ)系に近いという話だ」

 「≪狼の隠れ家≫に来たのが人狼の問題かよ・・・」というギルのぼやきをよそに、アウロラは気になった点を口にした。

「近い、というのは?」
「似ているが、違う可能性もある。としか言えんらしい」
「なんだそりゃ。ハッキリしてないのかよ」
「うむ」

 要領を得ない難問を嫌うギルらしいしかめっ面に、親父さんは頷いてみせた。

「ともかく、原因も全く分かっておらんからな。今は無事な村民も『自分も獣人化してしまうのでは?』と不安がっている」
「あ、ウルフといえば、親父さん以外にもそんな名前の凄腕魔道師がいましたね、たしか」

 現役時代の二つ名が”光輝の狼”というこっ恥ずかしいものだった親父さんは、未だに本名不明である。
 それは”金狼の牙”だけではなく、他の先輩冒険者たちですら知らないトップシークレットというやつだったりする。
 仕方ないので親父さんを名前で呼ぶ必要がある時は、皆ウルフと呼んでいる・・・という話だ。もっとも、宿の寄り合い以外で親父さんを名前で呼ぶ人間がいるのかどうかは分からないが。
 アウロラの指摘に、ハイオートンとイリスごと高所から落ちた時の記憶を何とか追っ払ったジーニが首肯した。

グライフ2

「ああ、『赤き狼』ね。相当できるらしいけど・・・」
「おいおい、話を脱線させんでくれ」
「あ、悪りぃ」

 謝罪したエディンは、ようやっと柄から指を離した。
 親父さんの注意に面白くない顔をしていたジーニだったが、急に「あ」と声をあげた。

「獣人化について一つ思い出した事があるわ」

 エディンが頬杖をついて訊ねる。

「なんだ?」
「満月の夜に獣の足跡に溜まった水を飲んでしまうと・・・!」
「獣人に変身してしまうって話?僕もかすかに聞いた事があるよ」

 まだ父親が生きてた頃に聞いた、という最年少の話を「ふーん・・・」とかすかに頷いて聞いていたエディンだったが、やがて頬杖をやめて問いかけた。

「でも、その話、本当の事なのか?かなり胡散臭いけど」
「実際にあったらしい。・・・って、聞いたけど」

 伝聞だから、と肩をすくめたジーニの前のカウンターを、親父さんが厚い手の平で軽く叩いて注意を引く。

「・・・話を戻していいか?真偽はともかく、村民3分の1がそんな水を飲むはずがなかろう」
「それもそうですね」

 あっさりとアウロラが同意する。
 ちょっとむくれたジーニが「それで獣人化を治す方法は?」と質問すると、親父さんは鼻の下の髭を左手で撫でつつ答えた。

「ああ、村人からも3000spで依頼が出ておるからな。結構な数の冒険者達が色々探ってはいるが・・・」
「それもまだ分かっていない・・・という事ね」
「いくつかは候補があるんだがな」

 親父さんの説明によると、現在解決法として有力視されているのは2つ。
 まずは住人に気づかれないように徘徊している獣人の仕業と推定し、その獣人を探し出すという方法。
 こっちは、犯人さえ分かれば後は何とかなる・・・という考えで行なわれているのだろう。
 可能性は確かに高いが、未だにその獣人が存在するということすら証明できていない。
 説明をしている親父さんの顔を見て、ギルがにやりとした。

グライフ3

「親父さんはこの説にはあまり賛成じゃなさそうだね?」
「フッ・・・相変わらずそういう所は鋭いな。ま、ただの勘でしかないがな」
「親父さんの勘はよく当たりますからね」

 自分のところのリーダーのように、とアウロラは心中で付け足した。全く、親父さんとギルときたら、本当に妙なところで勘が鋭かったりするのだ。
 もう一つは、と促すとすぐ親父さんは口を開いた。

「『グライフの魔道書』というのを知っておるか?」
「何よ、それ?」

 専門家であるジーニにも思い当たる事の無い名に、他の面々は顔を見合わせた。
 親父さんの様子からすると相当に長い話になりそうだと判断したミナスは、「簡単に教えてね」と釘を刺した。

「ま、詳しくは割愛するが、その魔道書に記されている魔法ならば・・・という話だ」
「こっちが親父さんの本命なの?」

 無邪気で真っ直ぐな双眸に見つめられ、親父さんは苦笑する。

「どうかな・・・話の出所が不確か・・・というのが気になる」
「じゃあ他に・・・?」

 何か勘に引っかかるものがあるのか、と言わんばかりのジーニの口調にも彼の苦笑は続いていた。

「他のも正直な・・・ま、どれかと問われれば、わしも魔道書説をとるが・・・」
「・・・」

 無言のエディンが自分のブルネットをくしゃくしゃと弄った。
 話の出所が不確か、というのは、「誰かが何らかの目的でわざと流した噂である」という可能性も存在するのである。
 流言蜚語を上手く使い分ける技術は盗賊ギルドでも習うことがあるが、この時エディンが案じていたのはそのことであった。
 すると。

「私もその意見に賛成だな」

 凛とした可愛らしい声が響いた。

「ミレイ!」

 驚きの声を挙げたギルの背後に、いつの間にか藤色の髪をショートカットにした娘が立ち、こちらに向かって手を振っていた。

「はぁい♪ギルバート元気そうね」

 彼女の名はミレイ。
 ギルたちと同じく冒険者である。
 拠点は別の宿に構えているが、活動地域は広いようでここ≪狼の隠れ家≫にも時々やってきている。明るく人懐っこい性格で、宿の親父さんはもちろん、常連の冒険者たちとはすでに顔なじみである。
 無論、暇を持て余しては宿でのんびりしている”金狼の牙”たちも例外ではない。
 久々に見た顔に喜色をあらわにしたミナスが近寄った。

グライフ4

「ミレイさんもこの件を?」
「ま~ね、依頼料もいいし。・・・で、親父さんが何かつかんだって聞いたけど?」

 つぶらだが油断の無い目つきで彼女は見やる。

「耳が早いな・・・おそらく、といったレベルだが魔道書の在り処が判明したよ」

 親父さんの台詞に、一同は「えっ」と言ってカウンターへ身を乗り出さんばかりに移動した。
 急かすミレイの声に、親父さんが人の悪い笑みを浮かべる。

「情報料は依頼成功時に報酬から500sp貰うがいいか?」
「OK♪ 私はそれでいいよ。ギルバート達は?」
「ああ、いいぜ。聞かせてくれ」

2013/04/28 13:59 [edit]

category: グライフの魔道書

tb: --   cm: 0
 下にごちゃごちゃ書いた経緯により、またシナリオ作りました。
 魔武具専門店です。ただし、銀貨では買えません・・・鉱石と、シナリオで戦う
モンスターから素材(マテリアル)を集めて合成して下さいという奴です。
 相手モンスターの対象レベルは大雑把に低~中~高くらいしか分かれてません。
 そのことをよく吟味した上で戦い、素材を集めていただければ楽しめるのでは
ないかと思います。

 ・・・そして、また周摩様やはく様にとってもとってもお世話になっています。

神炉の守人(しんろのもりびと)


2013年5月6日をもって、Ver1.00として完成版といたします。
 テストプレイにご協力いただきました皆様、ご自分のシナリオフォルダにダウンロードしてくださった皆様。
 効果コンテントのレベル等々、色々教えていただいて真にありがとうございます。それと同時に、まだまだ改善の余地の多い状態で遊んでいただき、ご迷惑をおかけした事をお詫びいたします。
 最後までお付き合いくださり、まことにありがとうございました。

-- 続きを読む --

2013/04/26 20:50 [edit]

category: シナリオ

tb: --   cm: 16

Thu.

異国の華 5  

「ここが・・・・・・」

 そう言ったきり絶句したエディンは、辺りの街の様子を彼らしからぬ落ち着きのなさで眺めやった。リューンでは見たこともない樹木が赤い葉を揺らし、その下を往く人々は奇妙な衣服を身に纏っている。
 いつも頼りになる最年長者の呆れるような姿に、ギルは背中を叩いて水を差した。

15異国の華

「おいおい・・・感動してる暇なんてないだろ?ドレスを探そう!」
「あ、ギル。あの人に聞いてみようよ」

 ミナスが示したのは、かつて屏風の怪物退治を依頼してきたサトウ氏と同じ、地味な色彩の服を纏った見慣れぬ髪型の青年であった。
 柔らかな微笑みを浮かべてアウロラが「すいませーん」と声をかけると、ワコクではあまり見ない色彩の髪と瞳を目にした青年がびくついて彼女を見やったが、自分たちの目的を何とか告げると、

「あーあ。それならあの店だよ」

と言って赤い布――のれん、と言うらしい―ーを飾っている質素な店を指した。
 のれんを潜ると、そこには美しい色彩のワコクのドレスが置いてあった。
 奥から現れた若い女性は、「いらっしゃいませー」と言って珍しい来訪者を見つめていたが、ふとその視線がアレクの上で止まった。
 神々しいに近い白皙の美貌を見て、頬を染める。

16異国の華

「・・・・・・??」

 まったく意味が通じていないアレクの背後で、ギルとミナスがこっそり話をしていた。

「全然女っ気がないんじゃないと思うんだよな、アレクの場合」
「あれって、天然で気づいてないよねきっと。」
「なまじ顔が桁外れに綺麗なだけに、厄介ごとばっかりやってくるんだろうな」

 その向こうでは、「はっ!!すいません!」と己を取り戻したらしい店員が直立不動となっている。

「あの・・・なにかお探しでしょうか?」
「買い物を頼まれてね、どれがいいかと思って」
「それでしたら!当店自慢の商品があるんです」

 彼女は意気揚々と紙の貼られた扉の向こうから出してきた衣服を、「これです!!」と言って一行の目の前に広げてみせた。

「お客様なら、ぜっったい!似合うと思いますよ!!」

17異国の華

「・・・・・・え?」

 間の抜けたアレクの返答である。
 それはそうだ、ここに並べてある衣服はドレス――つまり、婦人用のものだという認識であり、依頼主の話からもそれは間違ってはいない。
 なにをどう考えたら、ドレスを自分用に買い求めに来たことになるのかと、アレクは珍しく目を吊り上げて抗議しようとしたが、あっさりとその口はジーニの杖の髑髏によって封じられた。

「アンタはちょっと黙ってなさい。・・・ねえ、店員さん。これってどんな品物なわけ?」
「あ、はい!桜という植物で染めた着物です」

 彼女によると、沈黙を癒すという特殊な効果があるらしい。代価は銀貨で1000枚だというが、他の着物に比べればこれが段違いに上等な品であることは見れば知れた。

「異国の衣服展示、見るのは上流のご婦人たち・・・だもんね。やっぱりこれかな、どう思うアウロラ?」
「その・・・正直、これを見てしまうと他の品は・・・」
「そうよねえ・・・ちょっと店員さん。この服、一着包んでくれる?」
「はい!毎度ありがとうございます!」

 ・・・・・・こうして無事、ワコクのドレスというものを手に入れた”金狼の牙”は、その後にエディンが勝手に入っていた賭博屋で稼いだり(ちなみに賭博は17回やった)、道具屋で売っているものを≪狼の隠れ家≫へのお土産に買ったりして時間を過ごした。
 そして。

18異国の華

「すごい!!さすがだわ!!本当にワコクのドレスを用意してくれるなんて!!」

 タリサの顔つきは、まさに天にも昇る気持ちといった按配であった。

「冒険者として当然だよ」

と言って、エディンが片目を瞑る。
 小さくふふっと笑い声を上げたタリサだったが、ふとその目が寂しさと――郷愁に翳った。肩書きに相応しい小さく敏捷な仕事をこなす手が、そっと薄紅色の布地を撫でる。

「それにこの柄・・・きっと・・・これが桜なのね・・・・・・」
「知ってるのか?」

 エディンは年の功だけあって、一応ワコクでしか咲かない「桜」という存在があることを知っていた。
 この話し方であれば、恐らくタリサもエディンと同程度しか知らないのだろうが――リューンでは見ることのないその樹木のつける花を、見たことはなくとも知っているということだけで驚きに値する。
 彼女によると、彼女の父親がよく話をしていたのだと言う。ワコクに咲く、もっとも美しいと彼が思う花のことを・・・。

「私は実物を見たことないけど、きれいな花・・・。このドレスを見ればそれがどんなにきれいかわかる・・・」

 まるで目の前で咲いているかのように、と言って眼を閉じたタリサの脳裏には、確かに「桜」が咲き誇っていた。

「・・・・・・私には半分ワコクの血が流れているの」
「ああ。気づいてたよ。なんとなく向こうの人と顔が似てるんだ」

19異国の華

 エディンの肯定に、依頼主は顔を綻ばせた。

「そっか。うれしいな。父は本名浦部勝郎(ウラベカツロウ)っていって・・・れっきとしたワコクの人間よ。桜の花は・・・父の好きな花なのよ・・・」

 彼女の脳裏に咲く桜を垣間見たような気がして、ミナスが無言で彼女の顔を見つめた。
 精霊使いはえして感応力が強く、それによって自然界に溶け込んでいる精霊たちの力を借り受けることができるのだが、この時のミナスはそれを懐旧に浸るタリサとのリンクに使ったようだ。
 つぶらな濃藍色の視線をどう捉えたか、タリサは小さく彼に微笑んだ。

「ごめんなさい。脈絡もなくて面白くない話聞かせちゃって。報酬渡さないとね」

 そう言ったタリサは、なんと1800spもの大金を入れた皮袋をこちらに寄越してきた。
 ぎょっとした顔になったアレクが口を出す。

「多くないか!?」
「気持ちよ。あと・・・」

 事も無げに答えた後に、タリサは全員の顔を眺めやって付け加えた。

「よかったらあなた達も展示会に来る?あなたたちなら大歓迎よ!!」

 行く!と間髪いれずに答えた冒険者たちに、タリサは今度こそ満面の笑みを返したのであった。

※収入1800sp+1360sp、≪ビボ酒≫×2≪魔法薬≫×6≪梅酒≫≪彼岸花の薬瓶≫≪桜の着物≫※
--------------------------------------------------------

■後書きまたは言い訳

60回目のお仕事は、annさんのシナリオで異国の華でした。構想から制作まで一ヶ月ほどだったというこちらのシナリオ、1~10レベル対象なわけは途中にあった「ワコクのドレスを手に入れる方法」での分岐だったりします。
”金狼の牙”はワコクに行きたいのとレベル対象に合わせて、結局戦闘コースに進んでいってしまったわけですが、サルベージとかやっても面白かったでしょうね。それから今回の選択肢には出てこなかったのですが、判定に成功すると裏通りの店で手に入れるというやり方も出てきます。ただ失敗は多そうですが・・・。

リプレイの流れとしてここで終わらせるのがすっきりしたので書きませんでしたが、シナリオではこの後、タリサの仕切る展示会での冒険者の様子というのもあります。ジーニは東西を問わぬ化粧の歴史に興味を持ちアウロラを実験台にしようと企んだり、金ぴかで豪華な着物を見てギルが東国の将軍とかの着物かな凄いな~、と言ってる横でそれは女性用寝巻きだと関係のない人に突っ込まれたり、なかなか落ち着かない鑑賞でした。(笑)
とりあえず、依頼人に父親の故国であるワコクの桜を見せられて満足です。

≪桜の着物≫は後日、宿に送り返されてプレゼントされます。沈黙を癒す効果があるのならジーニにと思いましたが、データよく見ると「沈黙時に使えない」着物なんですよね・・・沈黙を癒すのに沈黙時使えないとは、これいかに。仕方ないので売る予定です。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/04/25 12:25 [edit]

category: 異国の華

tb: --   cm: 2

Thu.

異国の華 4  

 猛々しい開戦の合図が上がり、まるで黒雲に見える人の塊――軍隊が、ときの声をあげてぶつかり合う。
 眼前で繰り広げられるそれを見て、ミナスが小さい声で唸った。

「うう・・・絶対敵のほうが多いよ!!」

 追加報酬の件を頭の片隅にがっちりホールドしてあるジーニが、不安げに瞳を揺らすエルフに発破をかけた。

11異国の華

「どうやら始まったようね。行くしかないのよ!!」
「・・・お前さん、ホント頼りになるわあ・・・」

 はは、と力ない笑いを発したエディンは、気を取り直して装備の確認をした。ミスリル製レイピアも名匠のナイフも、手入れを怠っていないおかげで新品同様に美しい姿を保っている。これからそれらがどれほどの血を吸うことかと思うと、自然気が重くなった。

「・・・・・・まあ、確かに行くしかないだろ。リーダー、合図頼むわ」
「あいよ。じゃあ皆、行くぞ。食い破れ!」

 ギルがさっと左手を下ろし、彼らはいっせいに駆け出した。
 すぐに敵の部隊と交戦が始まるものの、今まで培ってきた経験からなる臨機応変の戦闘に、敵の兵士たちは抗う術を持たない。

「な、なんなんだ、こいつら・・・」
「気をつけろ、魔法を使う奴がいる!」
「こっちは魔法剣だ!くそ!」

 これまでの戦争になかった攻撃に、敵は浮き足立っている様子である。頃合を見計らい風で相手を薙ぎ倒したジーニが、「さあ、進むわよ!」と元気な声をあげた。
 その彼女の肩を、エディンが掴んだ。

「何よ、エディ?」
「ちょいまち。どうやら敵の親玉さんは・・・あっちみたいだ」

 これまでの進路であった北ではなく、彼の長い指は西の方角を指し示していた。
 たちまち顔を見合わせた一行の中で、一番にギルが言う。

「ちょうどいい、ワコクにこのまま行っても文句が出ないよう、片付けておこうぜ」
「・・・まあ、このまま消えたら契約違反になるもんね」

 肩をすくめてみせたミナスの頭を、そっとアレクが撫でた。

「そういうことだ。もう少しだけ頑張ろうな」
「よし、支援魔法をかけなおしたら一気にいこう。いいな?」
「おう!」

 リーダーの決定に全員が頷く。
 ・・・ほぼゲリラ戦闘のように襲い掛かってきた冒険者相手に、すぐさま本営の陣を厚くすることもできず、敵将は舌打ちをしながら抜刀した。
 敵軍の将はさすがにずば抜けた攻撃力を持っていたが、そのほかの敵兵は大した使い手ではない。
 そのことにいち早く気づいたギルが、雑魚の間を縫って斧の刃の一点に集中した気を斬撃とともに叩き込んだ。

12異国の華

「ぐふっ!?ば、ばかな・・・・・・」
「悪いけど、早く仕事終わらせたいんでな」

 残りの敵兵をアレクやエディン、アウロラやミナスの召喚した者達が蹴散らしていく。敵将を倒した勢いをそのままに、”金狼の牙”はひたすら戦場をワコクの方角へと駆け抜けていった。

「はあ・・・はあ・・・。ここまで来れば・・・ワコクは・・・もう・・・すぐ・・・」

 戦闘の連続で息を切らせたミナスが呟く頃には、すでに夜の帳が下りていた。
 同じように息をハアハア切らせていたアレクが、しばらく黙り込んだ後に「ん?」と首を傾げる。気づいた幼馴染が「どうした?」と声をかけた。

「いや・・・ここまで来たら、追加の報酬は受け取れないんじゃないか?」
「・・・・・・あーー!!」

 彼の言葉の意味に気づいたギルが大声を上げ、ジーニがショックを受けた顔つきになった。ちなみにアウロラとエディンはそれにちゃんと気づいていたらしく、困ったように微笑んでいるばかりである。
 何しろ、報酬を受け取るべきベラスの陣営は、先ほどまで彼らが駆け抜けてきた敵軍のさらに向こう側にある。今から引き返して行けば、報酬を受け取ることもできるだろうが・・・。

「3000sp・・・でも冒険者として依頼を投げ捨てていいものか・・・」

 腕組みをしているアレクだったが、ギルが断腸の思いで「俺たちには、依頼を果たす責任がある!」と意見を通したために、一行は先へ進むこととなった。

「そうだな、しかたないか。先に進もう」

14異国の華

「しかたないかって・・・アンタよく淡白に割り切れるわね!?」
「今さらぐだぐだ言った所で、戻るのはまずいだろう?」
「まあね。確かにね!・・・あたしが怒ってるのは、エディもアウロラも気づいた事に、なんであたしが気づかなかったのかって事だけよ!」

 ほぼヤケクソ気味に叫んだジーニを宥めつつ、一行はとある民家にて足を止め、一晩の宿と置いた馬つきの馬車を買う事ができた。
 銀貨500枚を代金に置いて行った時には、軽くなった財布を睨んだジーニがため息をつき通しだったという・・・。

2013/04/25 12:23 [edit]

category: 異国の華

tb: --   cm: 0

Thu.

異国の華 3  

「・・・・・・で、出た結論が傭兵登録か。結局リーダーの発案に乗ったんだよな、俺たちは」
「恨みっこいいっこなしよ。仕方ないわよ、結局は一番現実的だったもの」

 大人コンビがしみじみと述懐しながら、ベラスの街の様子へ目を走らせた。ワコクへ行く途中の経路で戦争を起こしている国の主要都市である。
 さすがに戦時中だけあり、大通りにすら人通りが少ない。
 その中を巡回している若い兵士に、走り寄ったミナスが「傭兵募集の張り紙を見たのだけど・・・」と声をかける。

7異国の華

 兵士は最初、あまりに若すぎるその希望者に何の冗談だと叱りかけたが、後ろからゆったりと追いついてきた彼の仲間たちを見て口を噤んだ。
 只者じゃないということは分かったのであろう、存外丁寧に審査会場である城のとある一角まで案内をしてくれた。
 傭兵登録はすぐできるわけではなく、一応戦闘能力がどれほどあるかを擬似的な魔法生物との模擬戦で示してから、契約の価値があるかを審査するのだが――。

「ベンヌ、スネグーロチカ!奴の足止めを!」
「いいぞ、ミナス。・・・・・・ほらよっ、【双翼の剣】!」

 最年少の精霊術師と、最年長の戦闘型盗賊が大活躍したおかげで、至極あっさりと終了してしまった。

「合格だ!!君たちを傭兵として認めよう!!」

 興奮した審査員が、”金狼の牙”たちに忙しげに握手しながら結果を報告する。その強い力にほとほと辟易したアレクは、

「やれやれ・・・で、俺たちは何をすればいいんだ?」

8異国の華

と問うた。

「宿を用意してある。本日はそこで休まれるがいいだろう。しかし、わが国は現在戦力が不足しているため、おそらく明日からでも働いてもらうこととなろう」

 にっこりと微笑んだ審査員の回答は、ある程度までジーニやアウロラが予測していたものと同じであった。
 わざと戦力が不足しているほうに参加したのは、傭兵登録のテストを受かりやすくするため。そして、一刻も早くワコクへ向かう船に乗るためでもある。
 契約書へのサインを勧められ、ギルが代表して書いた羊皮紙を満足げに眺めた審査員は、宿の地図を一行に渡して明日の朝またここに来るよう告げた。
 城を出た彼らは、ふと道具屋や魔道書が置いてある店の看板に目を留めた。リューンからちょっと離れたベラスの街であれば、何か珍しい物を置いているかもしれない。

「やっぱりここは・・・・・・」
「見るわよね?」

 ギルとジーニが仲間を振り返ると、もうすでに予想していたであろう他の4人は、苦笑を浮かべつつも首を縦に振った。
 最初に寄った道具屋では、リューンの下水道で会ったあの怖い魔法生物を象った瓶の酒が置いてあり、冒険者たちの度肝を抜いた。

9異国の華

 やややつれた感じのある女性店員の説明によると、アルコール濃度が高く、独特な味わいが得られるという。飲めば闘志が湧く、という話もあるようで、さっそく好奇心旺盛なギルがこれを購入していた。
 気軽な様子にエディンがすかさず釘を刺す。

「おいおい、リーダー。それ600spするんだからな?」
「分かってるって。でも俺達の今の財政からすれば、二つくらい買っても大丈夫だろ?」

 ため息混じりにアウロラが応えた。

「・・・・・・まあ、確かにそうなんですよね。っと、ギル、エディン!こちらの≪魔法薬≫の値段・・・」
「へ?」
「・・・・・・えーっ!?」

 アウロラの示した値段表を二人が覗き込むと、なんとリューンでの売値の半額――500spと書いてあるではないか。
 慌てたジーニが鑑定をするが、どうやらリューンで売っているものと遜色のない品で間違いないようである。

「これはすごいお買い得ですよ、エディン・・・・・・」
「確かになあ。・・・先々のことを考えると、買占めとはいかなくともそれなりの本数を購入した方が良さそうだ」

 ≪魔法薬≫はそもそも、物理的な技や魔法などを繰り出す気力が尽きた時に、それを賦活させるための薬品である。
 精製困難とされているために、普通の道具屋でお目にかかれるものではないというのに、戦争の影響かこの街には呆れるほどたくさん在庫があった。
 同じ作用を持つ、希望の都フォーチュン=ベルで作った≪知恵の果実≫が後4つも残っているとは言え、備えあれば憂いなしとは≪狼の隠れ家≫の先輩連中がしょっちゅう彼らに言っていることでもあり、彼らたちも後輩に伝えていることだ。決心したエディンが店員へ声をかけた。

「買える内に買っておこう。お姉さん、これ6つ包んでもらえる?」
「かしこまりました!」

 たちまち線の細い顔に赤みが差し、女性店員は瞬く間に目当ての品を包装してくれた。
 その後入った魔道書の店でも、当然ジーニが購入欲を爆発させるのだろうと思っていたのだが、これは予想が外れた。
 大きな目を瞠ってミナスが訊ねる。

「ねえ、ジーニ。本当にいらないの?」
「んー。妖魔を呼ぶ風の魔法と、混乱と毒を与える胞子の魔法。どっちも面白いっちゃ面白いんだけど・・・」
「なんだ。詠唱がしづらいのか?」

 アレクが首を傾げると、ジーニはぱたぱたと顔の前で手を振って否定した。

「いや、今あたしが持ってる魔道書のストックで、大体事足りてるかなあって。毒もねえ。使うときの風向きとか大変だから」
「・・・結構、いろいろ考えてるんだな」
「アレク。それはちょっと、ジーニ相手でも言ったらダメなんじゃ・・・・・・」
「あのね、アンタたち・・・」

 余計な一言を言わずにいられない年少組みを、ジーニがねめつける。
 こんな風に、”金狼の牙”は猶予期間を過ごした。
 そして翌日。

「そろったようだな」

 夫が戦地から帰って来ない若い妻や、びっこを引いているために兵役から外れた市民などに見守られながら、”金狼の牙”たちは待ち合わせ場所に到着した。
 すでに壇上には審査員役を務めた将校が、長剣を片手に作戦の説明を始めている。

「では、作戦の説明をする。諸君も知っていると思うが、現在我々の本陣はベネル平原にて敵と対峙した状態にある」

10異国の華

 こちらは4500人に対し、敵軍は6000人。数の多いほうが勝つと言うのは、戦の常道だと言える。
 奇策を用いて勝つ例を挙げる者もいるが、そう言うのはよほどの戦略と戦術の達人に状況が合致して、初めて実現できるものだ。そんな軍師がいるのなら、そもそもこの国は戦争を始めたりしなかったであろう。
 将校は自分とともにそこへ赴き戦って欲しいと口にした後、

「ちなみに、敵将を討ち取ったものには3000spの追加報酬を約束する」

と付け加えた。
 その言葉にぎょっとしたアレクとエディンが視線を一点に注ぐ。
 ・・・・・・案の定、約一名の目が爛々と輝いていた。

「なんと言いましょうか・・・確かに現実的なんですが・・・」
「アウロラ、しっかりして。ジーニだもの、仕方ないんだよ・・・」
「敵将かあ。どのくらい強い奴かな」
「あなたもあなたで、何に期待してるんです!」

 わくわくを押さえきれないギルに、アウロラがつっこんだ。

2013/04/25 12:22 [edit]

category: 異国の華

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Thu.

異国の華 2  

 とりあえず今までの仕入れルートがどうなっているのか確認ということで、”金狼の牙”は船着場に訪れていた。
 ギルは近くにいた、手の空いていそうな船乗りに話し掛けた。

4異国の華

「ちょっといいかな?東方の国に行きたいんだが・・・ワコクっていう」

 人懐こい感じのする船乗りは、うーんと唸って腕組みをする。

「ワコクねぇ・・・そこに行くには一苦労だな。いい船使ったとしても、行くだけで2ヶ月くらいかかるぞ?」
「ええ!!」

 驚いた声を上げるギル。
 そんな事も知らないのかと、ため息混じりに船乗りは「あたりまえだ」と漏らした。
 彼に代わってアウロラが進み出る。

「困りましたねえ・・・何とかなりませんか?」
「こればっかりはなぁー。まぁ、航海図見て納得してくれよ」

 リューンの船乗りの大部分は、女性に甘い。
 しかも若くてそれなりに可愛らしいとあれば、その性向も大分に発揮されてしかるべきだろうが、人間できることとできないことというのは厳然として存在するのである。
 船乗りの広げた航海図を全員が覗き込むも、あいにくとその見方がよく分からず首を捻ることとなった。

「よくわからないな・・・」
「そういや、俺ら海洋冒険はやったことないもんなァ」

 アレクとエディンの会話を頭上に聞きながら、ミナスが「ありがとう、もういいよ」と礼を言って航海図を返却した。
 とりあえず船着場から離れ、リューンの街中に戻った一行はこれからの方針を相談し始める。

「困ったなぁ」

と呟いたミナスが、他の仲間の顔を振り仰いだ。

「とりあえずみんなの案は?」
「ないのなら作っちゃえばいいのよ」

5異国の華

 すごい発想を始めたのはジーニであった。自分でやらないこと前提だからか、手芸店の材料でもってワコクの服を作っては・・・と言うのだ。
 もしそうなれば自分がこき使われること必至であるアウロラは、「行く途中の戦争に参加しちゃえばいいのさ!」と主張をするギルを宥め、頬に手を当てて考え込み始めた。

「どうしたの、アウロラ?」
「・・・ワコクって言っても、船で飛ばせば何とか期日内にいけるんじゃないでしょうか」

 航海図の見方の詳細を知らないので断言はできないが、と断りを入れて、

「もう一度航海図をチェックしてみませんか?いい航路を発見できるかもしれません」

と言う意見に大人組みは顔を見合わせた。プロである船乗りが無理と断言したものだが、この娘であれば本当に見つけかねない。
 先ほどから黙り込んでいるアレクに濃藍色の瞳が視線を定めると、彼は無言で肩をすくめた。

「・・・・・・」

6異国の華

 特に思いつくものもなかったらしい。
 エディンの意見はとアウロラが話を振ると、彼はにやりと笑った。

「俺たちは・・・冒険者だ。宝探しは得意分野。元々、ワコクのドレスを失くした原因は海難事故だと依頼人は言ってただろ」
「ええ。・・・・・・って、まさか」
「ブツは海ン中って事だ。だったら探し出すまで」
「気は確かですか?ものは布ですよ?・・・腐らないわけないじゃないですか・・・」
「いや、それがそうとも言えねえのよ」

 脱力したアウロラにエディンが説明した。
 上流階級のサロンにとって価値のあるお宝なら、包装は厳重である。少なくとも、他の品物のように潮風に当たるに任せるわけにはいかない。
 そういう時、ほぼ完璧な密閉状態を作れるような特注のチェストを使って保存するのが通例だと言うのだ。

「かえって、金塊とかなら腐りも錆びもしないからな。ああいうのはむき出しだ。食料やそういう腐るお宝に関しての保存は、船乗りにゃ結構な課題なんだぜ?」
「なるほど・・・・・・。よくご存知ですこと」
「これもまあ、若いときに得た知識なんだがな。・・・っと、悪い。ミナスの意見を聞いてなかったな」

 エディンに急に「お前はどうしたらいいと思う?」と訊かれ、少し目を白黒させていたミナスだったが、彼は黙って首を横に振った。アレクと同様、特に思いつくことはなかったらしい。
 ギルはそこで意見をまとめた。

「えーっと、サルベージ船か、海図の見直しか、手芸店か、傭兵登録か・・・」
「アンタ、≪狼の隠れ家≫で最近戦闘ばっかりとか言ってたじゃない・・・」
「じゃあ傭兵は止めとくか?でも船の支度の心配とかは、これだと要らないんだぜ?」
「それなら手芸店だってそうよ?」
「ただ・・・それも問題でして・・・」

 ギルとジーニの言い争いの途中で、”金狼の牙”における家事のほとんどを引き受けるアウロラが、困惑を滲ませて口を開く。

「私はあいにくと、ワコクのドレスというものの形も作り方も存じません。まずはそこを調べてとなると、相当時間かかるかもしれませんよ」
「あ、そうか・・・アウロラもワコクのドレスなんて知らないわよね」
「ただ、海図の見直しとサルベージも問題がないわけじゃない」

 アレクがそこで口を挟んだ。

「沈んだドレスがどこの地点にあるか、はっきりと分からないと無駄足になる。一方、海図はプロである船乗りが無理と口に出していた。協力が得られるかどうか・・・」
「だよなあ・・・どうする、リーダー?」

 ブルネットを掻きつつ問いかけたエディンに、ギルは決心した答えを口にした。

2013/04/25 12:18 [edit]

category: 異国の華

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Thu.

異国の華 1  

 ある日の昼過ぎのことだった。
 昼食を食べ終わって何刻かは経っている冒険者たちが1階のテーブル席でうだうだとまどろんでいると、宿へ入ってきた上流階級風の女性が親父さんへ何事か話しかけ――。
 断る親父さんに業を煮やした彼女が、”金狼の牙”の一人であるアレクの腕を引っ掴んで話を聞いてくれと言い始めた。
 いきり立ってその手を離すように言ったギルを宥め、アウロラがどうしたのかと女性に問う。

「私はリューンで服飾に関する仕事をしている者なんだけど、今度私にとってはとても重要な企画を担当することになったの」 

1異国の華

 珍しくも≪狼の隠れ家≫の親父さんがしきりと「やめとけ」と口を出した依頼を、その女性は手際よく説明し始めた。

「今リューンではちょっとした異国文化のブームよね?そこで、異国の服やアクセサリーやらを集めた展覧会をやることにって・・・その担当者が私ってわけ」
「まあ、ブームといえばブームね。特に東の国の文化が、上流階級のサロンでもてはやされてるのは知ってるわよ」

 ジーニの言葉に、癖のない長い黒髪を持つ女性は頷いた。
 その様子をよそに、アレクは頭を抱えている。

「東国か・・・・・・」

 以前、”金狼の牙”が駆け出しだった頃に、東の国からリューンに移り住んだサトウという男の依頼を受けたことがある。
 屏風と呼ばれる特殊な家具に封じられたモンスターを退治せよという内容で、首尾よく依頼は果たしたものの、実入りが期待していたほどではなかった為に仲間へエールを奢らされたのだ。
 かつての苦い思い出を回想する羽目になった男を、ジーニはちろりと横目で見たが、変わらぬ口調で女性に続きを促した。

「それで?」
「一番の目玉だった東の国、ワコクのドレスが運搬中に海難事故にあって・・・」
「あら。異文化ブームの中でも東洋の人気は貴族の女性にとりわけ高い・・・それは厄介なことになったわね」
「そして、彼女たちは私の良いパトロンでもあるのよ」

 杖を抱きかかえて腕組みをしたジーニに同意するように、女性は困惑した顔で言う。
 事情がうっすらと飲み込めてきたアレクは、静かに推察を口にした。

2異国の華

「俺たちにそのドレスを何とかして手に入れてくれってわけか?」
「そのとおり!」

 ふむ、と顎に手を当てたアレクが気になった点を確かめる。

「だがな、それは商人とかに頼む仕事だろ?俺達の専門じゃない」

 依頼として頼まれれば下水道の探索まで行なうのが冒険者であるが、被服の仕入れについてはまったくの無力である。
 彼がそう代案を出すのも無理はなかった。
 しかし女性は眉を顰めて首を横に振る。

「私も最初はそう思って、彼らに片っ端から当たってみたわ。でもね・・・」

 声のトーンを落として続ける。

「東国にいくための通過点にいくつか国があるのだけど・・・今その国同士で戦争が起きてるの・・・」

 そのため、商人たちは一様に「そんな危ない仕事はごめんだ」と断ってきたのだという。おまけに、できたとしても完全に予定している期間中には届かないのでは・・・という意見すらあった。
 命がけの仕事になる上、仕事の期限を守れない可能性が大分にある――それは、一般的な商人であれば尻込みするもしようというものである。
 しかし。

「・・・でも・・・なんで冒険者?」

3異国の華

とギルに首を傾げられるのも、また当然というべきだった。
 女性は早口になり、手を忙しく上下に動かして理由を説明した。

「冒険者はいろいろな国や土地に旅するから、ひょっとしたら商人達も知らないようなルートを知っているとか・・・可能にするような手段を知っているかも・・・と思って」
「手段・・・ルートねえ・・・・・・」

 うーむと唸り声を上げたエディンに代わり、ギルが頭を掻いて質問する。

「前と同じルートじゃだめなのか?」
「これも完全に期日オーバーよ。展示会まで後3ヶ月しかないの。あなた達の今までの冒険者としての力が必要なのよ」

 リューンの”金狼の牙”と言えば、黒魔導師アニエスの討伐やザンダンカルの魔王退治、キーレで戦争に参加し蛮族の長の首級を上げたこと等でも知られている。
 確かに有名と言えば有名だが、それと商品の新ルート開拓は話が違うんじゃないかなあと、ミナスは心中で思った。
 女性は白い手を胸の前で組み合わせて懇願した。

「報酬として900sp、内前払い分として500sp払うわよ。やってくれる?」

 本来の仕事とは大分違うし、親父さんは一度ならず諦めるよう促している。
 そういう依頼は受けないのが”金狼の牙”のスタンスなのだ、が・・・。

「とは言え、ここんとこ戦ってばっかりだったからなあ」
「血なまぐさいのもねえ。続くのは気が滅入るわ」

という意見がギルとジーニから出れば、

「異国かあ・・・僕、そんな遠い国まで行ったことないな」
「東はここと大分文化が違うらしいからなァ」
「季節もどのくらい違うものなんでしょうね?想像もつきません・・・」

という、なんとものんびりした会話がミナス・エディン・アウロラから発せられる。
 そんな様子の仲間たちを見て、アレクが苦笑しつつ言った。

「なんだ。皆、結構興味があるんじゃないか。受けてみるか?」
「お前ら・・・アホだろ・・・」

 カウンターの向こうで親父さんが呆れ返っていたものの、好奇心に負けた”金狼の牙”たちは女性に依頼承諾の返事をして、彼女から名刺と前金を受け取ったのであった。

「東国のドレス・・・その・・・ワコクっていう国のものじゃないとダメなんですか?」

 アウロラの質問に女性――異国文化展の担当者であるタリサ・コクラン嬢はゆったりと否定の意を表した。

「いえ・・・そうではないのだけど・・・ただちょっとこだわりがあって」

 煮え切らない言い方に、ジーニとアウロラは顔を見合わせた。女同士の勘というやつだろうか、彼女にはなにやら事情があるらしい。

「・・・できたらワコクのドレスをお願いしたいわ」
「ふーん」

 一方で鈍感というか大雑把というべきか。
 ギルは気の抜けるような返事をして「ま、なんでもいいいさ」と前金の皮袋を卓上からひょいっと取り上げた。

「よ、よろしくね」
「ああ。出来得る限り頑張る」
「それじゃ、さっそくいってきまーす」

 タリサの縋るような眼差しに真顔で首肯するアレクの横で、暢気な調子のミナスが手を振る。親父さんはもう何も言うまいと、無言で彼に手を振りかえした。

2013/04/25 12:16 [edit]

category: 異国の華

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2竜人族の邑

 見張りのリザードマンを倒すと、後から後から敵が溢れてきた。
 外にいる見張り役を眠らせるなり暗殺するなりしなかったのは、見通しの悪いよく茂る森の中、地の利は圧倒的にリザードマンにあったからである。
 下手に小細工をすれば、その間に隙をつかれてしまう可能性が高い。
 ならば力技で押し通る方がこっちの被害は少ないはず――と、酒精から解放されたジーニが指示したのは中央突破という策であった。

「・・・なるほど統率も取れているし、よく見るリザードマンよりも強いのがちらほら見られるな」

 【魔風襲来】の準備をしていたアレクが、じっと敵を図りながら呟いた。
 槍を携えたものや、人間では両腕で支えなければならないような大きい得物を2つぶら下げたものまで混ざっている。
 彼らリザードマン側の戦術は中々巧妙で、召喚獣の出現タイミングをずらされている現状に、精霊使いであるミナスが臍を噛んでいた。

「ああもう!出るならいっぺんに出てきてよ、面倒なんだから」

 純白のドレスを身にまとい、ダイヤと見紛うような氷の宝石がついた首飾りを手にした彼――いや、今は彼女か――をちらと横目で確認したエディンは、

「あちらさんも戦い慣れているってこったろう。油断はならねえぜ」
「・・・奥から出てきたの、ロード種のようですね」

 気息を整えたアウロラが仲間たちに注意を促した。
 リザードマンとは言え、ロード種ともなればかなり竜に近い存在である。
 少なくとも、≪狼の隠れ家≫にいる中堅冒険者たちでは、生半なことで太刀打ちするのは難しいであろう。
 しかし、それをものともせず嬉々として飛び込んでいく者がいた。

「あれ、俺がもーらい!」

 ・・・・・・・・・ギルである。

「どうしてあんなにうちのリーダーは好戦的なんだか・・・」
「めくらめっぽうに喧嘩を売ってるわけでもない。相手が好戦的だからそれに相応しい感情を返してるだけだ。・・・・・・多分?」

 エディンのぼやきにアレクがフォローともいえないフォローをする。
 ロード種からの、人間にはよく分からない激がどう飛んだものか、リザードマン側が士気を上げてこちらに襲い掛かってくる。
 それをギルとアレクが委細構わず切り込んで打ち払い、エディンは戦況を見ながら面倒そうな敵(実は回復役だった)に狙いを定めて討ち取った。

「これなら大丈夫・・・かしらね」
「油断はせんでくれよ。こっちも、妖魔たちがこれほど統率が取れてるとは思ってなかったからな」
「まあねー。だからちゃんと盾は構えてるわよ」

 ジーニが薔薇の模様が描かれた盾を誇示するように振った、その時であった。
 ”金狼の牙”の強さに慌てたリザードマンの一人が、自棄になって手にしていた槍を投げつけてきた。投げた当人ですら思いもせぬ速さで飛んでいったそれは、盾を構えていたジーニの肩を掠める。

「グガアアアァァ!」
「痛っ・・・!・・・もう!ちょっとは大人しくなさい。眠れ、空気よ眠りの雲と化せ!」

 振り上げた≪死霊術士の杖≫の髑髏から、誘眠性のガスが発射される。

3竜人族の邑

 気合のよく入ったジーニの魔法――それに包み込まれた妖魔達は、強制された眠りに打ち勝つことができずに次々と膝をついた。

「神精ヴァンよ、我が呼び声に応えて出でよ。汝が力をここに示し、愚かなるものを打ち倒さんことを・・・」

 アウロラの歌が戦場に響く。その神聖なる音によって召喚がなされた神精ファナス族の幼生は、牙をむき出しにして寝ている妖魔の喉笛をかききった。

「あと二匹、か」
「どっちがロード討ち取るか競争と行こうぜ、アレク」

 幼馴染コンビがそう言って飛び出す。
 ギルの力強い振りで繰り出される斧と、フェイント交じりのアレクの剣――しかし、どちらの斬撃も厚い鱗によって弾かれてしまった。
 これは長期戦になるだろうかと舌打ちしたエディンの後ろから、妙に強い魔力が膨れ上がる。
 一体何事かと視線を走らせると、ちょうど【雪花の装飾】の持続時間の切れたミナスが、≪森羅の杖≫を振り上げて新たな召喚を行なっていたところであった。

「渓流の魔精・ナパイアス!出てきてあの敵を押し流しちゃえ!」

 たちまち、≪森羅の杖≫を軸として澄み切った奔流が迸り、いとし子を守るかのようにミナスの体を包んだ。そこからジーニに飛ばされた槍の何倍もの威力で、水の槍が勢いよく噴出する。
 真っ直ぐにロード種を狙ったその魔法は、狙い過たず心臓を串刺しにする。

「・・・・・・ありゃ。とられちゃった」

 困ったように頭を掻くギルを置いて、アレクが落ちていたリザードマンの槍を拾い上げた。

「死体を持ち歩くのも嫌だし、これを証拠に持ち帰るとしよう。・・・何だか妙に軽いな」

 アレクがよく観察すると、その槍は攻撃を受け流しやすいようなつくりになっていた。
 どんな材質で作ってあるのか非常に丈夫そうで、投擲にも向いたその形は、おそらく実戦で磨かれてきたものなのだろうと思われる。
 それを手にしたアレクを先頭に、次々と”金狼の牙”はリューンへと引き上げていった。

※3000sp+800sp、≪竜人族の槍≫※
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■後書きまたは言い訳

59回目のお仕事は、SADさんのバトルオリンピアトーナメントと、レカンさんの竜人族の邑でした。どちらも戦闘もので、まずバトルオリンピアが2003年にアップされた作品です。SADさんの他シナリオと言えば、「科学魔法研究所」とか「666の獣」辺りが有名でしょうか。独特の観点からいつも毛色の違うシナリオをお作りになられています。
一方、竜人族の邑は2012年の作品で、ギルド投稿された中では「封印の剣」辺りが知られているかと思いますが、それ以外にも魅力的な一人旅シナリオ等どんどんアップなさっている意欲的な作者さんのシナリオです。

・・・それで、何ゆえ今回は2つを合体させたのかと言うと・・・。
私如きの筆力では、どうにもバトルオリンピアを一カテゴリ分として書ききることができなかったのです。
こちらのシナリオ、勝ち進んでいく上で後輩たちとの会話があったり、前に準優勝したチームと優勝したチームの間において、チームメイトを過失により殺害にいたってしまったというしこりがあったりと、非常に魅力的な挿話があるのですが・・・どういうわけか、生かしきることができません。
すでにシナリオクリアをしているので、書かないわけにもいかず。
困っていた私の出した結論としては・・・「そうだ、もう一つ魅力的で短い戦闘シナリオくっつけて、1カテゴリ分まで書いてしまおう」でした。
それでシナリオフォルダを漁っていると、そういえばレカンさんのシナリオはまだプレイしたことがなかったことに気づき、9レベルで挑めてかつ世界観的にバトルオリンピアから繋げられるものを探すと・・・ありましたありました、竜人族の邑が!
竜人族の邑にとってはまさにとばっちりと言えなくもない経緯だったりしますが、両作品の作者様やファンの皆様には多めに見ていただけるとありがたいです・・・すいません・・・。

次回はちょっと毛色の違うシナリオを選んでみようと思います。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/04/24 08:14 [edit]

category: バトルオリンピア+竜人族の邑

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「あ~。それにしても3000spか・・・」

 特大のベーコンエッグを平らげたギルは、カウンターについていた肘を行儀が悪いと親父さんに払われながらもそう言った。
 何の事かと言われると、”金狼の牙”は新しく導入した魔法や技術の試運転に、ヴァルハラ闘技場まで出かけてバトルオリンピアトーナメントというイベントに出場してきたのである。 

1オリンピア

 コロシアムでの戦いは初めての経験であった(何しろかの武闘都市ですら技術の習得だけだった)が、【暗殺の一撃】に代表されるような急所をつくような技は禁止、死人が出ないようにという考慮のなされたルールの中での戦いであったから、ミナスも連れていったのだ。
 ・・・・・・まあ、もっともそれほど考慮されていても、死人が出てしまう時は出てしまうが。
 優勝賞金3000spという話に目を輝かせたのは、もちろんジーニであった。
 
「参加しましょう!あたしたち、こう見えても腕っ節には自信あるし」
「・・・腕っ節に自信があるのは確かだけど。ジーニがそうやって目を輝かせると怖いのは、何でなんだろうな・・・」

 それは金に釣られたジーニが関わると、大概がろくな目に合わないからであろう。ギルは頭が良いわけではないが、勘はたまに呆れるほど冴える男であった。
 ”金狼の牙”の後輩である”黄色い牙”も参加するということで、南方のイーストランドという国まで一緒に出かけて行ったのが1ヶ月ほど前の話。
 準優勝で1500sp、三位で1000sp、ベスト8でも800spと中々良心的な賞金体系であったのだが・・・。
 受付でパーティ名での登録はちょっと恥ずかしい、となり、適当に”リューン組”などと名づけた彼らの快進撃は、恐ろしいほど順調に進んでいた。
 一回戦では闘技場外で絡んできた柄の悪い連中を片付け。

3オリンピア

 二回戦では違う宿の冒険者たちを負かし。
 三回戦の奇怪な外見のチーム相手も、四回戦での騎士団との対戦も、”金狼の牙”は危なげなく勝ち進んでいった。

「邪魔をするんじゃない、おとといいらっしゃい!」
「輝いてる、ジーニが恐ろしく輝いてる」
「生き生きしとりますなぁ、ジーニはん」
「・・・・・・ミナス。これは見習っちゃいけませんよ。いいですね?」
「はあい」

 嬉々として風の召喚魔法を唱え相手を蹴散らすパーティの頭脳を、アレク&トールやアウロラ、ミナスは遠巻きに見守っていたりする。
 準々決勝では”黄色い牙”(実は去年ベスト4だったらしい)との対戦であったが、チームの回復役とアタッカーを見抜いた眼力までは賞賛されるものの、やはり彼ら”金狼の牙”の敵ではなかった。

5オリンピア

「だってなあ・・・あいつ、アレクのこと回復役だと思ってたもんな」
「・・・・・・俺じゃなくてトールがやってくれてたんだけどな」
「アタッカーがエディンと言うのも、まあ・・・・・・分からなくはないんですが」
「俺ァそんなに撃墜数稼いでたかねぇ。ま、敵に攻撃を当てる回数は一番多かったかもしれねえが、な」

 準決勝と決勝で当たったチームには何やら因縁があったそうなのだが、それもガン無視して彼らは優勝まで突き進んでいった・・・。

6オリンピア

「うーんと。僕ちゃんとお姫様を呼べることも分かったし、そろそろ冒険のお仕事、したい、なあ・・・」
「あー・・・そうだな」

 優勝賞金などでのんびりと今まで過ごしていた”金狼の牙”だったが、≪水銀華茶≫片手の最年少メンバーから異論が上がったのは、ある晴れた日の午前のことであった。
 のんびりと相槌を打ったギルを見て、「それなら・・・」と、アウロラやエディンが壁に貼り付けられている依頼書の数々をチェックし始めた。
 手ごろで割の良い依頼は、朝早くに起きてきた他の冒険者たちがチェック済みのためになくなっている。

「あまり長いこと留守にする冒険よりは、ぱっと終わる方がいいかね・・・・・・」
「そうですね。1000spに満たないお仕事でも、なるべく近場から選んでみましょう」
「僕もお手伝いするよ」

 人間の言語に対する読解を学んでしばらく経つミナスが、アウロラの横から羊皮紙の束に手をかけた。
 その瞬間、彼の袖に当たった羊皮紙が3枚ほど床に散る。

「あ、あああ。ごめんなさい・・・」
「かまいませんよ、拾えばいいのですから」
「そうそう・・・・・・ん?」

 エディンの手が止まる。

「どうした、エディン」
「リューン自警団から依頼が出てるぜ」

 アレクの呼びかけにそう応えると、エディンは一番遠くまで落ちた羊皮紙をぴらりと皆に見えるようかざした。その依頼書の右隅には、確かにリューン自警団との書き込みがある。
 ギルが席を立って覗き込む。

「なになに?えー、南西にあるレノの村がリザードマンの一族により滅ぼされた・・・」
「放置しておけば近隣の村にも進出する可能性が高いので急いで対処して欲しい、ですか」
「リザードマンだろ?俺らで受けて後輩に恨まれないかね?」

 ギルとアウロラが目を合わせて首を傾げるのに、エディンは「ここ見ろよ」と長く器用な指で一点を示した。そこには、「偵察した冒険者によると非常に統率された動きをとるらしく手強い」という文が書かれている。

「報酬は800sp。緊急依頼のハンコも押してあるし、この時間で誰も引き受けないなら、やっちまった方が親父さんも助かるんじゃねえ?」

 エディンはカウンターの向こうで皿を洗う親父さんを振り返った。
 当の本人も、苦笑しながら頷いている。

「そっか。じゃあちょっと行って片付けて来るか」
「それなら僕、ジーニのこと起こしてくるね!」

 パタパタと軽い足音を立てて走り出したミナスを見送りつつ、ギルはアレクに訊ねた。

「・・・何、あいつまだ起きてなかったの?」
「昨夜は結構深酒だったらしい」
「何で?」
「新しく開発した薬瓶のレシピで、何人かに惚れられて追っかけまわされたんたどさ」

 アレクはそう言って肩をすくめた。

2013/04/24 08:12 [edit]

category: バトルオリンピア+竜人族の邑

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 Leeffesです。
 「またか!」と言われそうですが、テスト版店シナリオを作ってみました。
 今回はスキル販売店で、呪歌技能18個とナイフ技能5個を置いてあります。
 後はアイテムが1個。
 リプレイをご覧になった方は、店主についてちょっと覚えがあるかもしれません。
 お時間がある方や、お優しい方などいらっしゃいましたら、またテストプレイお付き合いお願いします。



 天道を歩む歌(てんどうをあゆむうた)

 さすがにこれはプライベートシナリオにした方がいいのかな?

 2013年5月1日をもって、Ver1.00として完成版といたします。
 リプレイの自キャラの店ということで、「誰得だよ!?」と思いプライベートシナリオにしようと考えていたのですが・・・快く素材をお貸し下さった素材提供者様や、クロスオーバーの件にお返事下さったシナリオ作者様のことなどを鑑みて、やはりギルド投稿することに決めました。
 テストプレイにご協力いただきました皆様、ご自分のシナリオフォルダにダウンロードしてくださった皆様。もうシナリオ4作目だというのに、まだまだバグの多い作品ですいません。
 また、クロスオーバーやインポートに快くご承諾を下さった各シナリオ作者様、お忙しい中でお返事を賜りましたこと御礼申し上げます。
 最後までお付き合いくださり、まことにありがとうございました。

 つまり無事引退したらこんな感じなのかと。

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2013/04/21 18:00 [edit]

category: シナリオ

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Thu.

くもつ亭さんよりアレク  

 続けて、同じくくもつ亭さんより再び戴いて強奪してきたアレク。

 ・・・・・・いや、もうね。たまらんですよえへへへ。

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2013/04/18 21:34 [edit]

category: 頂き物

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Thu.

くもつ亭さんよりギル  

 リンクを繋いでいただいてるくもつ亭さんにて、素敵なギルのイラストを戴いて強奪して参りました。・・・え?ちゃんと許可は貰ってますよ!(笑)

 さあ、皆様ご覧下さい。
 流し目ギルですよ!

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2013/04/18 21:28 [edit]

category: 頂き物

tb: --   cm: 0

Thu.

金狼の牙の再調整 3  

 かつて娘さんがならず者たちへのトラウマを克服する為に、決闘を行なった裏山にてのこと――。
 黄金色の斧の刃が間断なく襲い掛かってくるのを、軽いというよりは精妙なステップで回避し続けたエディンは、重い刃が振り抜かれた隙をついて猛然と攻勢に出た。
 凄まじい速さの細剣の突きと、懐に潜りこむようにした短剣の斬撃という二つの攻撃を、鎧の硬い箇所を当てる事でどうにか防いだギルが焦った声を上げる。

「ちょ、ちょっとちょっと!何か本気の速さなんすけど!?」
「言い訳なんて見苦しいぜ、リーダー」

 左耳の上を危うく細剣が掠め、ギルの黒髪がニ、三本宙に舞った。
 エディンは深緑都市ロスウェルで盗賊ギルド同士の争いに首を突っ込んだ際に、さる道場に立ち寄ったことがある。
 その際に見かけた双剣の技を、自分で使える様に練習中なのである。
 ロスウェルにいた頃に理論と動き方だけを覚えておき、実力がついてからそれを習得しようと思っていたのだが・・・。
 存外難しく、こうしてギルに実戦紛いの訓練に付き合ってもらいながら、自分のものにしようとしているのだ。
 両手の気力を集中・硬化して、それを相手に飛ばして切りつける技なのだが・・・・・・戦いのさなかに気力を集中させるまではともかく、それを硬化するまで持っていくのが大変らしい。

「ちっ。こいつを使えるようになれば、色々と便利だっていうのに」
「舌打ちしながら、さり気なく【暗殺の一撃】を使ってるんじゃねー!!」

 その技じゃないだろ!とギルがツッコミを入れた。
 喉に向けて突き出された短剣を斧の柄で叩き、軌道を逸らす。
 だがその合間に、エディンの細剣が鎧の脇にある隙間から刺し込まれようとしていた。

「・・・・・・!!」

 もう距離を取るだけの時間が無いと感じたギルは、咄嗟に体を回転させ急所を刺されないようにすると、背中を向けたままエディンに体当たりをぶちかました。
 二人の体がごろごろと地面を転がり、10mほど離れて立ち上がる。

「あっぶね。危うく刺されるとこだった」
「・・・っつー。いてて、おっさんに乱暴なことするなよ・・・」
「エディンの攻撃は、的確に人体急所狙うからこえーんだよ!」
「細剣は突き用なんだから当たり前だろっ・・・と。・・・・・・待てよ?」

 ロスウェルの双剣術の師匠――サクラスという名前の身軽そうな優男だった――が、「この技は斬撃そのものを気力で具現化し、相手に飛ばす技だ」と言っていた。
 つまり、突きを多用している今のエディンの技では、いつまで経っても身につけられないということである。
 しかし、師匠の言う事が本当であれば、技を使うための剣には斬るための刃は必要ないはずだ。『斬る』のは剣ではなく、剣の持ち主の気力なのだから。
 エディンは【花散里】を使う時のイメージを脳裏に描いた。
 あれは本来であれば、魔力で生み出した氷片を扇によって花びらのように舞い散らせるという技である。
 エディンの場合は扇を使わず細剣の刀身に氷片を作っておき、しなやかな細剣を振り抜くことで同じような効果を発生させているわけだ。

「・・・・・・なーるほど。答えはすぐ近くにずっとあったってぇワケか」
「ん?何か言ったか?」
「リーダーに礼を言ったのさ。まあ見ててくれよ」

 エディンは動きの止まったギルに背を向けると、近くにあった大岩へと向き直った。
 そしてしばらくそれを睨みつけていたかと思うと、両腕をいきなり交差させる。

「?」

 一体どうしたのだろうとギルが眺めていると、見る見るうちにエディンの腕が盛り上がっていった。

「ハアァァ・・・・・・!」

 丸太のような腕になったかと思うと、そこからうっすらとした光が細剣と短剣に伝い流れる。
 その光が全て二つの得物に流れていったと思った直後、エディンは両の腕を振り下ろしていた・・・・・・!

 スパアアアァァンッ!!!

 勢いのいい音と共に、大岩が真っ二つに断たれている。人間がやったとは思えないほど滑らかな切り口であった。
 ずっと経過を見守っていたギルは、呆気に取られたような顔で言った。

「すげー・・・。もう習得しちゃったわけ?【斬隗閃】って技」
「一応な。後は、どれだけ本番でスムーズにこいつを使う事が出来るかって辺りだろう」

 装飾品しか売っていない、変わった防具屋で入れてもらった左肩の刺青を無意識に掻きながら、エディンは応える。

「単体でも多数相手でも使える技だ、ちゃんと練習しておかないとな」

 刺青の意匠である黒猫とルーン文字を見つめながら、ギルは「頼んだぜ」とだけ短く言った。

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■後書きまたは言い訳
そんなわけで予告どおりの小話回・・・勝手気ままに書いたので、スクリーンショットはございません。
色々またシナリオ出してきました。

・リューン思案橋界隈(竹庵様)
・風鎧う刃金の技(Y2つ様)
・歌の一族(周摩様)
・魔光都市ルーンディア(ロキ様)
・メレンダ街ペルラの市(ブランカ様・匈歌ハトリ様)
・聖域といわれた森(OKN様)
・娘と冒険者(きちょうじ様)
・深緑都市ロスウェル(周摩様)

前に出てきたシナリオを引っ張り出すのって、書き手側でも「あ~。こんなことあったよな~」とか追憶が楽しめるので非常に好きです。

アウロラの【浄福の詠歌】に関しては少し前のタイミングで購入をしているのですが、文章の流れとして小話ではみんなのスキルと同時期に買ったことにしました。
・・・・・・憑精術で美少年が男の娘になるとか、中々おいしいですよね!(何)本当、あの方真面目な顔で販売してくださいましたが、誰も止めないこの楽しさたまらない。
メレンダ街ペルラの市にあった【春靄香】は、正確には錬金術の範囲外だと思うのですが、瓶に調合するイメージならこれでもいいんじゃないかな・・・と。「世捨ての集落(カムイ様作)」で売っている【瞳の誘惑】と迷ったんですけどね・・・あちらは詠唱いらずだし。ただ、魅了キーコードと回復が一緒になってる方が、先々便利そうだったのでこちらにしました。
エディンについては攻撃スキルの追加。便利系をつけるか迷いましたが、闇に隠れるキーコードは「魔術師の工房(Niwatorry様作)」謹製の≪霧影の指輪≫で充分だし、盗むや窃盗のキーコードは「鼠の行路(SIG様作)」の【盗賊の手】についてました。・・・・・・回避上昇スキルも「俺はもう若くないから素早くなんて動けないぜ~」と公言してるエディンに似合わないかと思って、すっぱり諦めます。
後はこっそりと自作シナリオから召喚獣買い上げたり。

それから、9レベルになった”金狼の牙”たちについて、ここで最終目標を発表します。

「敵意の雨(JJ様作)」を最後のシナリオとして定めます

・・・・・・「人生という名の冒険(テイル様作)」とどっちにしようか迷いましたが、”金狼の牙”たちって「ゴブリンの洞窟(Ask様作)」やっていないのです。クリア推奨シナリオを無視してというのもなんですし、どうせならクロスオーバー多い総決算シナリオで最後を〆るほうが、何となく”金狼の牙”らしいかと。(笑)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/04/18 05:41 [edit]

category: 小話

tb: --   cm: 2

Thu.

金狼の牙の再調整 2  

 後輩冒険者の怪我を、雪精トールの力ではなく自分の神聖呪文で癒す事ができたアレクは、深く安堵のため息を吐いた。
 リューン下水道に潜る仕事をしてきたそうなのだが、その時に鼠に齧られていたらしく、宿に帰り着くなりぶっ倒れたのである。
 慌てて親父さんがアウロラを探したが、あいにくと彼女は外出中。
 その時に偶々通りかかったアレクが、「どれ。俺に診せてみろ」と言ったのだった。

「これでよし・・・・・・と。毒のほうはどうだ?」
「すっかり良くなりましたよ!鼠の毒って、馬鹿にできないんですね・・・」
「鼠は病気の媒介になる場合もある。噛まれたら決して軽視せず、早めに治すことだ」
「はい。ありがとうございました!」

 仲間の方へと駆けて行く後輩を見送り、アレクはゴキッと痛そうな音を立てて肩を鳴らした。
 親父さんがそれを見て苦笑する。

「おい、まだ肩こりが酷くなるような年じゃないだろうに」
「上手く唱えられるか、ヒヤヒヤものだったからな。≪聖別の葡萄酒≫を裏で用意してたのは内緒にしといてくれよ」
「そろそろ自分の父親を追い越す英雄になりつつあるくせに、妙なところは変わらないんだな。どれ、オレンジタルトでも用意するか」

 そう言って奥の厨房に親父さんが引っ込んだのと入れ違いに、2階から欠伸交じりの挨拶をしながらジーニが降りてきた。

「んあー・・・・・・おはよう」
「もう昼過ぎだけどな」
「いいのよ、ちょっと昼寝してたんだから。あー、でもまだ何か眠い」
「仕方のない人だな・・・・・・」

 呆れたように呟いたアレクは、自分用に貰っていた薬草茶をジーニに渡した。
 ルーンディアで購入したのと同じ≪水銀華茶≫だ。しきりに試させろという親父さんに根負けして飲ませて以来、この宿でも出すようになっている。

「あ、これか。匂いがいいのよね、このお茶」
「葡萄酒と同じくらい高いけどな」

 エセルに頼んで、もう一杯≪水銀華茶≫を注文したアレクは、熱々のそれをよく冷ましてから口に含んだ。
 ちょうど親父さんも切り分けたタルトの一切れを持ってきてくれる。
 優雅なお茶の時間となった仲間を、肘をついて眺めやりながらジーニはポツリと呟いた。

「・・・・・・ねえ。エレンのこと宿に誘ってあげなくて良かったの?」
「・・・・・・・・・!!ゴフッ!ゲフッ、ゲフッ!」

 彼は≪水銀華茶≫を勢いよく噴出した。

「きゃっ!アレクさん汚い!」

 エセルが慌てて持ってきた布巾を受け取り、むせ終わったアレクは汚した箇所を真っ赤な顔のまま拭き清めた。

「ちょっと聞いただけで、どんだけ動揺するのよアンタ」
「・・・・・・それはその、不意打ちだったから・・・」
「だって、あの子が失くしたっていう赤い指輪、あれだけ一所懸命探してあげたのアンタだけじゃない。しかも玄関先で出てきたネズミ退治までやってさ」

 つい2週間ほど前に終わらせた依頼であった。真紅の都市ルアーナ近郊にある森で出現する魔物の調査・・・その実体は、神精族と呼ばれる聖なる獣と、それに仕える巫女の救援信号だったわけだが。
 神精族の幼生を操る歌まで教わり、巫女とその騎士の両方とずいぶん仲良くなった”金狼の牙”だったが、その最中に巫女エレンが一番親身となってくれたアレクに恋をしてしまったのである。

「エレンもサラサールも、村を滅ぼす原因となった宝珠の捜索をするって言うけど、何の当てもなかったわけでしょ?」
「・・・・・・ああ。宝珠を持ち去った男の正体も分からないままだしな」
「せめて引き止めて、こっちにつれて来てあげれば良かったのに」
「それが出来るくらいなら・・・・・・」

 アレクはそこで言葉を切った。
 しかし、ジーニは彼が何を言わんとしていたか理解してしまった。

「それやるくらいなら、彼女のほうに一緒について行ってあげたって?」
「・・・・・・うるさい」
「ラングといい、アンタといい、女に対して詰めが甘いのは同じね。『側にいて欲しい』くらい言ってあげればいいのにさ」

 ジーニの視界の隅に、金色の澄んだ輝きが映る。
 価値がつけられないほどのマジックアイテムであるペンダントは、その名を≪縁の首飾り≫という――。

「ま、その首飾りに免じてこれ以上のお説教はやめてあげるわ」
「待て、どこに行くつもりだ?」
「新しい薬瓶開発するのよ。前にメレンダ街行った後輩が、面白いレシピ持ってきてくれたからね」

 それは、通常であれば体力を回復してくれるだけの、甘い花の匂いがする香水に過ぎない。
 だが・・・・・・実は香水に仕込まれている術式によって、合言葉を発すると【魅了】の効果が現れるという、ある意味恐ろしいレシピだったりする。
 敵味方双方に作用させる事の出来る新魔法を、彼女は詳しく説明することなく再び二階へ上がった。

2013/04/18 05:40 [edit]

category: 小話

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Thu.

金狼の牙の再調整 1  

 死霊たちのために【解放の讃歌】という歌を吟遊詩人の寄合所で覚えたアウロラだったが、ジーニの≪エメラダ≫による敵の束縛まで解除してしまうと仲間から苦情があった。
 そのため、似たような効果をもたらす別の歌を探しているうちに、リューン思案橋のたもとで盲目の歌い手と出会い――アウロラは、シリリドと名乗った彼から【浄福の詠歌】という歌を習ったのである。

「技巧の良し悪しよりも、歌に込められた強い思いを私は聴きたいと思います」

 見えぬ眼差しは閉じたまま、盲目の歌い手はそう語った。

「眼が見えぬからこそ、見えるものがあります」
「・・・・・・あなたはその心で、唄に込められたものをご覧になるのですね」

 シリリドは放浪楽師という立場である。
 誰の庇護をも受けぬ代わりに、隷従すべき主人も持たなかった。
 安息を得られる家は持っていないが、広い天地を棲家とする――琴を抱えた美女や笛を携えた少年と共に歌う彼は、そう言ってひっそり笑った。

「唄は世につれ、世は唄につれ。誰にも、その人生と重なる思い出の深い唄があるものです」

 願わくば、自分の教えた【浄福の詠歌】もそのような唄になるように――彼の言葉に、アウロラは静かに首肯した。
 礼と共にいくばくかの銀貨をシシリドに渡して歩き出したアウロラは、幾つかの冒険者の店が集まった界隈から駆けてくる仲間に気づいた。ミナスである。

「アウロラー!ねえねえ、聞いて聞いて!」
「どうしたんですか、急に。ちゃんと周りを見て走らないと危ないですよ?」

 いつでも無邪気な子ではあるが、今回は殊更興奮した様子である。
 背中を撫でて落ち着かせると、彼は唾を飲み込んで深呼吸をした。

「えっとねえ・・・・・・。アウロラの唄に、氷のお姫様の歌あったでしょ?」

 それは”歌の一族”というエルフ達が並べた中からアウロラが選び、習い覚えた、伝説上の氷姫の美貌を称える歌である。
 歌を聴いた敵全てに対して、精神的なダメージによって動きを一瞬だけ止めるという効果があるのだが・・・。

「なんとかの希望亭ってお店にいたお兄さんがね。その話を聞いて、『彼女』のことじゃないのかって教えてくれたんだ!」
「・・・『彼女』ですか?」

 中々、エルフの少年の話が見えず、アウロラは首を傾げた。
 ――続けざまに言われた彼の言葉を聞くまでは。

「そう、”吹雪の姫君”だよ!色んな装飾品を使って魔法を使うんだ」
「・・・・・・え?」
「それでね、今の僕の実力だったらきっと大丈夫だからって、”吹雪の姫君”に取り憑いてもらう魔法を教えてもらったの!すごいでしょ?」

 ぴしりとアウロラは固まった。
 氷雪の精霊の中でも高貴なる王族と称えられる”吹雪の姫君”は、雪精の筆頭たる”雪の女王”の幼生だといわれている。
 魔力だけなら上位精霊に追従するほどで、強力な吹雪でダイヤモンドダストを起こすほどの冷気をもたらす。
 豪奢にして華麗、幻想的なほど美しい容姿をしているという彼女であれば、確かにアウロラが歌う【氷姫の歌】との類似点が多いとは言えるが。

「あの・・・・・・ひょっとして取り憑くって・・・」
「憑精術だよ?」
「・・・・・・召喚して使役するのではなく、精霊を身に宿す術ですよね?」
「うん!」
「それがミナスに憑依して、魔法を使うんですか? 美貌を称えられるお姫様が?」
「うん、そうだよ。・・・・・・どうしたの、アウロラ。汗がすごいけど?」

 自分が【氷姫の歌】を”歌の一族”から習わなければ、ミナスも男の娘にならずに済んだのだろうか――アウロラは遠い目になった。

「いえ、本人がいいのなら別に構わないのですけど・・・」

 ミナスの言うなんとかの希望亭とやらに心当たりがガンガンある彼女は、

(・・・あの人、一体どんな真面目な顔でこの子に新しい魔法を教えたのでしょう・・・。そして周りの誰も、男の子にお姫様になる魔法だってこと、指摘しなかったんでしょうか・・・・・・。)

と心の中で呟いた。

2013/04/18 05:39 [edit]

category: 小話

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Sun.

聖域といわれた森 5  

 ”金狼の牙”たちの出した結論に、しばしルイアールは眼を閉じた。
 その赤い眼が再び開いた時、彼は天にも届くような咆哮で答えた。

「・・・よかろう。手は抜かぬ、いくぞ!」

 せめてもの情けだと体についたかすり傷を癒してはもらったが、勝算はおぼつかなかった。
 彼らの攻撃は確かにルイアールに当たっているものの、どういうわけかその神々しい毛皮に覆われた皮膚には傷一つすらつかないのである。
 エディンが感心したように言った。

「なるほどな、幻獣より神に近いってえのは、本当だったわけだ・・・!」
「そんな事を言ってる場合なの!?ちょっと、大丈夫なんでしょうね!?」

 再び【風刃の纏い】で【旋風の護り】を身に纏いながらも、ジーニは怒鳴り返した。
 あの巨大な爪がこちらにおりてきたら、こんなものでは防ぎきれないかもしれない。彼女はずたずたに引き裂かれた自分の姿を想像して、ぶるりと身を震わせた。
 間断なく攻撃は続けたが、一向にルイアールを倒すどころか、傷をつけることもできていない。
 ミナスは立て続けにスネグーロチカを召喚し、ジーニはベルトポーチの薬瓶をありったけ投げつけた。
 その絶望的な状況が変わったのは、分厚い毛皮に攻撃を弾かれ、ギルが腕を抱えた時だった。

「汝らの力、確かめさせてもらった。・・・命を助けるだけの価値のある者達だ」

 突如としてファナス族の長が言い出した言葉に、一同は攻撃の手を休めて呆気に取られた。
 脳裏に響く声は続く。

「汝らは見逃してやろう」

 その短い台詞の真意に気づいたサラサールは、唾を飛ばして叫んだ。

「村の者は!村の者はどうなるんですか?」
「・・・人の過ちは、人の手で正さねばならぬ」

 聖域と呼ばれる遺跡から神精族の監視する宝珠を奪ったのは、確かに村の者であった。彼はそのツケを等しく払わそうとしているのである。
 エレンとサラサール、そして冒険者たちは、果敢にも(無謀でもあったが)ルイアールに立ち向かい、己の価値を示す事に成功した。
 だが他の者は・・・・・・。

「さらばだ・・・」

 それ以上のことを決して語らず、ルイアールは別れを口にした。
 神聖な光が彼らを覆い、ふわりと身が軽くなるような感覚に襲われる。
 ・・・・・・気がつくと、彼らは≪聖域の森≫の入り口にいた・・・。

「ここは・・・?」

 心許ないような顔で、エレンが辺りを見回す。
 ハッと気づいたサラサールが、

17聖域

「結界の外?」

と言ってエレンの側へ歩み寄った。
 村がどうなったのか、ここからでは彼らには分からない。
 ただひとつ、自分達が助かったのだという事だけは理解できた。
 その後・・・。
 ”金狼の牙”たちは、エレンとサラサールを連れて真紅の都市ルアーナに向かった。
 そこで聞いた話では、聖域の森の村は廃墟と化していたらしい。
 いくら探しても、神精ファナス族の姿は見当たらなかったそうだ。

「・・・・・・というのが、今回の事件だったようです」

 森林保護協会の事務所にて、冒険者たちは事の顛末を全てクラント会長に話した。

「そうでしたか・・・。いろいろとあったんですね。本当にお疲れ様です」

 報酬の増額は出来ませんが、と断った上で彼は続けた。

18聖域

「村の事は私たちにお任せください。これからすぐに救出活動を行ないますので」

 クラント会長はそう約束すると、報酬の皮袋をこちらに手渡してくれた。
 その報酬から宿代を払い、ルアーナに一泊する。
 あくる日、今までの疲れをすっかり癒した一同は、一階の酒場で向かい合って座った。

「・・・皆さん、色々ありましたけど・・・ありがとうございました」

 エレンがそう言ってぺこりと頭を下げる。
 その頼りなさげな様子に、アレクはつい口を挟んだ。エレンの家で過ごした短い時間の中、最初は冷たい態度をしていたのに徐々に彼女に親身になっていたのは、この青年であった。

「・・・大丈夫かい?」
「・・・はい、大丈夫です。くよくよしても仕方ないですもの。それに・・・生きているんですから」

 そう言って小さく微笑んだエレンの隣で、サラサールは切れ長の瞳をまっすぐこちらに向けて宣言した。

「・・・私たちは、これから旅に出るつもりだ。宝珠を奪った男を探す旅にな」
「そうか・・・。少し寂しくなるな」
「・・・縁があれば、また会う事もあるだろう」

 今までとは違って、すっかり”金狼の牙”たちと打ち解けたサラサールを頼もしそうに見上げた後、エレンは胸元で輝くペンダントをおもむろに外し、卓上へそっと置いた。

「・・・あの、これ依頼の報酬です」
「毎度あり、ってね。貰っておくわ」

 たちまち嬉しそうに相好を崩したジーニへ、周りの仲間が苦笑を漏らす。
 しばらく同じように笑っていたエレンだったが、それを収めて立ち上がり・・・訝しげな様子の”金狼の牙”たちの中で、彼女はアレクの方へと近寄った。

「!?!?!?」

 チュッ・・・という小さなリップ音が響く。

19聖域

「なっ・・・・・・なっ、何をするんだ、エレン!?」
「・・・また、逢えるといいな」

 それまでのお守り、と言って彼女は微笑んだ。

※収入500sp、【ヴァンの曲】≪縁の首飾り≫※
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■後書きまたは言い訳

58回目のお仕事は、OKNさんのシナリオで聖域といわれた森でした。真紅の都市リアーナものの一つです。別名「アレクにもたまには女の子と縁を作ろうか」回ともいう。
1~8という幅広いレベル対象の中、「2がベストかな?」とシナリオ作者さんが言っておられるのを無視して、思い切り上限の8レベルで挑んだりしたのですが、やっぱりルイアール様は強かった・・・。
というか強制戦闘で強制敗北というのは、私は正直に申し上げるとあまり面白くないです。PCたちもそれなりの体験を経て強くなっているものを、一方的に負かされるのは・・・ただ、こちらの作品においてエレンのその後のフォローだとか、サラサールのテンプレートのようなツンデレ具合とかが可愛らしかったので、まあいいや~と。(笑)

こちらのシナリオ、エディタで覗いた方はご存知でしょうが、特別クーポンを手に入れるためのステップとフラグがわけ分からんことになってます。自分でこないだ依頼シナリオ作ったから思うのですが、よくこれを完成にまでこぎつけたなあ・・・とクリア後に感心しておりました。私なら途中で投げ出すかもしれない・・・・・・。
いただいた【ヴァンの曲】は、二回ドッグフードをあげて懐いたヴァンを召喚して使うことが出来る呪歌スキルです。適性が器用/正直なので少しアウロラには合わないのですが、魔法的物理属性をレベル比10ダメージというとんでもない強力スキル。ちなみにこの適性、ミナスだと綺麗な緑色の○になります。しかし、これから取得する召喚スキルとの兼ね合いもありアウロラにいきました。

そうそう、途中で寄った冒険者の宿において、「ルアーナで売ってる【催眠術】があれば戦闘が楽になるかもしれないよ」と忠告をしてもらってたのですが、このシナリオのためだけに買うのもな・・・と思い、ジーニに【眠りの雲】で頑張って貰いました。
成功率からすると、エディンの【暗殺の一撃】の方が良かったです。
が、最近あまり使ってなかったので。ただジーニ、すぐ飽きるんですよね。(笑)

さて、今回のシナリオでいよいよ全員が9レベルに達しました。
そろそろ小話でスキルを揃える様子を書いていこうかと思います。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/04/14 17:04 [edit]

category: 聖域といわれた森

tb: --   cm: 0

Sun.

聖域といわれた森 4  

「なにぃっ!?・・・自警団!何をやっている!あいつらを止めるんだ!」

 自警団のうち、何名かが物陰からの【魔法の矢】によって戦闘不能となり倒れるのを見て、ガラードは焦りながら指示を出した。

「遅い遅い。そんなんじゃ、あたしたちは止めらないってね」

 急いで冒険者を止めようと立ち塞がる自警団に、用意周到な”金狼の牙”の攻撃が降り注ぐ。
 ベンヌの神聖なる炎やイフリートの吐息にたたらを踏んだ彼らに、アウロラの【氷姫の歌】が炸裂する。
 異形の美貌を讃える歌に恐慌状態となったところへ、前衛たちが飛び込んで武器を縦横に振るった。フラフラになりながらも残っていた敵も、ジーニの【旋風の護り】によって吹き散らされていく。

「・・・クゥ・・・!役に立たん奴等だ!」
「どうする、残りはそちらさんだけのようだがね?」

 エディンの挑発に激昂したガラードは得物を構えて突進してきた。

13聖域

「・・・俺が片をつけてやる!」
「ふふーん。理想的な布陣、まさに飛んで火にいる夏の虫ってとこね」
「油断したら危ないよ、ジーニ」

 鼻歌交じりに≪エメラダ≫を構え始めた賢者へ、ミナスが釘を刺した。

「だーいじょうぶ。あいつら、回復は傷薬頼りみたいだからね・・・そんなんじゃあ、あたしたちは止めらないわよ」

 そして彼女の予測どおり、冒険者たちが大した怪我を負う事もなく、ガラード含む最後の自警団の勢力はあっという間に取り押さえられた。

14聖域

「ここで失敗するとは・・・・・・」
「なにを考えているかは知らないが、もう諦めるんだな」

 颯爽と言い放ったサラサールの顔を睨みつけつつ、ガラードが呻く。

「・・・負けるわけには・・・いかない!」

 怪我を押して立ち上がろうとする彼を、エレンが慌てて止めた。

「ガラード!もうやめて!もう勝負はついたはずよ」
「あの方に宝珠を渡すまでは・・・」
「・・・・・・あの方?」

 不審そうに顔を歪めたギルが問いただそうとした瞬間。
 ガラードの体に眩いばかりの魔力光が突き刺さった!

「ぐぁ・・・・・・!」
「見苦しい奴だ・・・。お前の役目は終わったのだよ」

 どこから現れたのか、男が一人・・・遺跡の中央に立っていた。
 事切れたガラードに悲しげな視線を向けてから、エレンは震える声で訊ねる。

「・・・なに?あなたは・・・誰?」
「・・・お前達に名乗る必要はない。邪魔者は消えるがいい!」

 謎の男の腕がまっすぐ伸びて、ガラードを殺した時以上の魔力が収束していく・・・・・・。
 だがしかし、その魔法が放たれることはなかった。

「・・・チッ!・・・気づかれたか」

15聖域

 横目で森のほうをちらりと睨んだ後、男はガラードの懐から何かを奪い・・・転移呪文を唱えると、一瞬の間に男は去っていた・・・。
 呆然とした様子で、サラサールが呟く。

「・・・どうなってるの?」
「それはこっちの台詞だ。いったい、なんだってあんな強そうなのが・・・・・・」

 エディンは言葉を切った。
 凄まじい速さで、こちらに近づいてくる存在がある・・・!
 目配せで再び戦闘状態の構えをした一行の前に、森の中から風の如く神精族が現れた。
 先頭には、見覚えのある大きな狼・・・・・・ファナス続の長の姿がある。
 長は脳裏に直接響く声で言った。

「・・・一足、遅かったようだな」
「・・・・・・誰かと思いきや、あんたか。さっきの奴はそれで逃げたんだな」

 ギルが斧の構えを解くと、その隣にエレンが立って呼びかける。

「ルイアール様?」
「巫女のエレンか・・・」
「どうなっているんですか・・・? 先ほどの者は・・・?」

 ルイアール、と真名を呼ばれた長はしばらく黙り込んでいたが、なにを決意したのか、こちらへ再び向き直った。

「・・・汝らに話せる事は2つ・・・。あの者が、この遺跡に封印されていた宝珠を持って行ったという事」

 そして、と長は厳しくも悲しげな目をして続けた。

16聖域

「・・・我らの役目が終わったという事。宝珠を監視するという役目がな」
「・・・私たちは・・・どうなるんですか?」

 エレンの問いに、一瞬の間があった。

「本来なら、この村ごと滅びる定め。しかし汝らにはチャンスをやろう」
「チャンス・・・だと?」

 ファナス族の世話をする巫女も、巫女を戴く村も、彼ら神精族の役目がなければ不要だというのである。
 それを覆す何を提案するのかと、アレクは体を強張らせた。

「そうだ。1時間以内に結界の外へ逃げ出すか、いまこの場で我を倒すか・・・」
「・・・・・・」

 ”金狼の牙”たちは眉を顰めた。
 相手は、自分達が手も足も出ないうちにこちらを打ち倒してきた化け物である。
 冒険者としての保身を考えれば、当然だが逃げる方法を選ぶべきであろう。
 しかし、それでは村に残っている人間たちが生き延びる術がない。
 進退窮まったとはこのことだろう。
 知らないうちに、ギルの背中に脂汗が滲んできていた・・・・・・。

2013/04/14 17:02 [edit]

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Sun.

聖域といわれた森 3  

 最近この村では、一部の村人たちが森にある聖域を荒らしているという。
 聖域とは、この村の近くにある遺跡の事で、神精族から「近づいてはいけない!」と言われていたそうだ。
 彼らの巫女であるエレンは、当然のごとく神精族の怒りを買う前に止めようとしたが、それをなし得る事はできなかった。
 森林保護協会の人間が森に立ち入ってる事を知っていたので、その力を借りようと思ったそうだが、力量を確かめるべく作り出した幻の魔物だけで逃げ出してしまい、彼らの協力を得ることを諦めた・・・というのが、今回の魔物出現の真相らしい。
 ジーニは呆れかえってため息をついた。

「なんとも本末転倒ね。あんた達の幻のせいで、ここに調査以外の人間は入らないようにされたのに」
「・・・・・・協力者を得るにしては、少々やり方が稚拙過ぎないか?」

 アレクもぼそりと付け加えるのに、サラサールが「エレン様が、お一人で一所懸命考えた策に文句を言うな!」と噛み付く。
 その場の雰囲気が一気に険悪になったのに、アウロラが宥めに入った。

「まあまあ。・・・それでエレンさん。私たちが訪れた時に、あの幻影を解いたのですよね?」
「はい、そうです。幻影を見破ったので、この村の結界を一時的に解いて、村へお誘いしました」
「それが、どういうわけでファナス族の長から私たちが攻撃されることに?」
「す、すいません!それが予想外でして・・・」

 エレンたちが”金狼の牙”を出迎える前に、巫女から何も聞かされずじまいだった長が侵入者と勘違いし、攻撃をしたということである。
 そんな凡ミスによって、危うくあの世へ直行するところだった冒険者たちは、今度こそ呆れたため息を漏らした。
 だが、すぐに一部の村人たちも侵入者に気づいて”金狼の牙”を殺そうと動いていたそうだ。そこでエレンは彼らの身柄を預かった・・・・・・。
 ギルは今までの会話をどうにかまとめて、肝心の部分を訊いた。

「ようは、聖域って名前の遺跡を荒らす村人を止めて欲しい・・・ってことでいいよな?」
「はい、そのとおりです。報酬はこの首飾りで代わりにならないでしょうか・・・?」

 エレンはその首にかけていた金色のペンダントを外し、卓上へと置いた。澄んだ輝きを放つそれは、≪縁の首飾り≫というマジックアイテムだという。
 ジーニが杖の≪カード≫を片手に、その価値をじっくり鑑定する。

「・・・・・・価値があり過ぎて、うかつに売れないんじゃないかと思うんだけど。高いものだっていうのは確かよ」
「・・・どうですか?私たちに協力していただけますか?」

8聖域

「ふーん。・・・・・・まあ、ここまで来て知らん振りもあれだし」
「また深く考えないで返事をする」

 アレクが幼馴染の答えに嘆息すると、彼は赤くなりながらも抗弁した。

「だっ、だってエレンは俺達を助けてくれたんだろ!?なら、恩返しくらいはしてもいいじゃないか・・・」
「俺たちがいきなり重傷に追い込まれたのも、彼女のせいだけどな」

 とは言うものの、ちゃんとした報酬を用意してまでの頼みであれば無碍にもできない。
 ”金狼の牙”は若干心に引っかかるものがありながらも、エレンの願いを聞き入れることにした。

「じゃあ、行動は夜になってからということで、今は家の中で寛いでいてください」
「ああ」
「あと、昼間はこの家から出るなよ」

 サラサールが横から助言した。

「村の者に見つかると厄介だからな」
「そういうことか、了解した」

 そして彼らは、一緒に食事をしたり、失くしたという指輪を探してあげたりしながら、夜までの時間をエレンの家で過ごした・・・・・・。
 焼き魚を中心とした夕飯を終え、いよいよ時間になると、エレンは真剣な顔になりこちらを向いた。

「首謀者はガラードという人で、この人を捕らえれば、何とかなると思います。ただ、彼は自警団を率いているので気をつけてください」
「わかった」

 ギルは素直に首肯した。
 サラサールの話によると、遺跡への道は2通りとのことだ。

9聖域
10聖域

 ひとつはエレンの家から村の中央を突っ切って遺跡へ行く方法。この場合、自警団に見つかる恐れがあるが、短時間でいけるという。
 もうひとつは村の周りを迂回して遺跡に行く方法。当然時間はかかるが、自警団には見つかりにくい。
 ”金狼の牙”がそこまで話を聞いたときだった。

「あのぅ・・・、私もついて行きます!皆さんの力になりたいんです」
「エレン様!危険です!お止めください!」

 急に同行を申し出たエレンを、サラサールが慌てて押し留めようとするが、存外エレンは強情な性質だったらしく「もう決めた」と言ってきかない。
 挙句の果てには、「サラサールもついてきてくれない?」とけろっとした顔で言い出した。

「・・・・・・冒険の素人を連れ歩くのは危険ですが、万が一村で不測の事態があった場合、彼女たちの助勢は必要になるかもしれません」
「ってこたぁ、村を突っ切っていく方向か」

 エレンに根負けしたサラサールも同行を決めた後、アウロラとエディンはそう言ってルートを決定した。
 途中、エレンが予め忠告していたように、自警団がうろついているのに何度も遭遇したが、ジーニの【眠りの雲】を中心とした奇襲で、何事もなく切り抜けていく。

11聖域

 やがてジーニが「飽きたー。この呪文飽きたー」と文句を言い始めた頃、ようやく森にさしかった。
 向こうには遺跡らしき建物の影が見える。

「ここから先が、遺跡になります」

12聖域

 頷いた冒険者たちは小休憩を取ると、支援魔法や召喚魔法をかけられるだけかけて突入する事にした。

「主よ・・・・・・我が仲間に新たな力を与え、その身を護りたまえ・・・・・・!」
「おいで、スネグーロチカ。ベンヌ。ここから先、君たちに頑張ってもらうよ」

 そうして準備を整えた一行は、すり足で遺跡へと近づいていった。
 遠めにもかなりの数の自警団が、遺跡を詮索しているのが分かる。中央には、指示を出している大柄な男がいた。
 あれがガラードだろうと冒険者たちが思っていると、案の定、サラサールがそれを肯定した。

「あの中央にいる奴がガラードだ。アイツは自警団を率いるだけの力は持っている。気を抜くなよ」
「もとより」

 アレクはそっと≪黙示録の剣≫を握り締めると、懐から雪精トールを取り出した。

「なんですのん、アレクはん」
「お前は範囲魔法に巻き込まれないように、注意して俺達についてきてくれ」
「そういうことでっか。了解でっせ」
「な、なんだ今のは」

 驚いて目を瞠るサラサールと、おっとりとした表情でトールを見送るエレンに、アレクはふっと笑いかけた。

「俺の大事な相棒どのさ。雪の精霊だよ」
「それよりも。ガラードさんとやらのところまで距離がありますが、どう近づくんですか?」

 アウロラの疑問に、にやりと笑ったのはジーニであった。

「そりゃあもう、あれしかないでしょ。任せてよ」

2013/04/14 17:00 [edit]

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Sun.

聖域といわれた森 2  

 ぴちゃん。・・・・・・・・・ぴちゃん。
 水のはねる音に気づき、ミナスは宝石のような濃藍色の瞳を開いた。
 気が付くと、暗い部屋に閉じ込められている。

「・・・・・・ここ、どこ?」

 ミナスは必死に途切れている記憶を掘り起こす事に努めた。確か、エディンが幻影の向こうにあった村を発見し、彼の先導で進んでいったはずである。
 そして・・・・・・そこで、途轍もなく大きな狼に会ったことを、彼は思い出した。

5聖域

「この村に立ち入るとは・・・・・・」

 人の言葉ではない、直接脳へと訴えかけるような声であった。
 大きな狼相手に、”金狼の牙”たちともあろうものが手も足も出せず、魔力の波動のようなもので防御の暇すらなく打ち倒されたのである。
 完全に意識を失う寸前に、綺麗な女性の声を聞いたような気がしたのだが・・・・・・。
 とにかくこのままではいけないと、ミナスは軋む体を叱咤して他の仲間を起こした。

「・・・・・・牢屋か」

 ぽつりとアレクが呟いた。
 体調が万全であれば、なんとしても鉄格子を壊し脱獄を試みるところであったが、戦士である彼自身も、他の仲間たちも、重傷を負ったままである。
 自分たちをここに閉じ込めたものが害意を持っていたとしても、気絶している合間に殺せたはずだ。
 それをしなかったのであれば、今すぐ自分達が殺されるということもないだろう・・・・・・そういう分析をアウロラが行なったので、ひとまず休んで精気を取り戻そう、というギルの提案に全員が頷いた。

6聖域

 冒険者たちは体を休めるため、また眠りについた・・・。
 そして丸一日が経過した。

「・・・・・・!足音がするぜ。軽いから多分女か子供だと思うがね」
「誰かがこっちに向かってるってことか」

 ミナスを支えるようにしながらギルが言う。
 ほどなく、一人の女性が鉄格子の向こうに現れた。黒い髪を短くした、健康そうな若い女性である。武装はまったくしていない。
 冒険者たちが目を開けている様子に気づくと、彼女は青い目を細めてにっこり笑った。

「・・・良かった!もう気がついたんですね!お体はもう大丈夫ですか?」

 その台詞自体よりも、そこに込められた本当の労りが垣間見えたような気がして、ギルやアレクは少し肩の力を抜いた。
 アウロラがそれに応える。

「もう大丈夫です。失礼ですが、あなたは・・・?」
「っあ、すいません。私は巫女をしているエレンといいます。事情があって、あなた達を牢でかくまう事にしたんです」
「かくまう?」

 鸚鵡返しに訊ねたが、女性はそれに気づくことなく早口で説明した。

「でも、もう大丈夫です。いま鉄格子の鍵を外しますので、ちょっとまっていただけますか」

 しかし、エレンという女性が通ってきた通路からもう一つ急いでこちらに駆けてくる足音がある。こちらはエレンとは違って、鎧の重々しい金属音が付き纏っていた。
 やって来たのは、エレンと同年代か、それよりもやや上のように見受けられる長い髪の女であった。
 騎士のような格好をしており、その茶色い切れ長の瞳には厳しさが覗いている。

「エレン様!お待ちください!」

 掠れたようなハスキーな声でエレンの行動を押し留めると、彼女は眦を上げて”金狼の牙”を睨みつけてきた。

「サラサール?どうして止めるの?」
「この者たち、我らの味方と決まったわけではありません。それに、突然襲ってくるかもしれません!」

7聖域

「怪我人を牢屋に放り込んでおいて、随分と勝手な事言ってくれるわねえ」

 ジーニが低い声で唸るように言ったのに気づき、慌ててエディンが彼女を抑えた。

(しっ。ここから脱出するのがまず先決だろ?)
(ああいう頭固そうな馬鹿女見ると、黙ってられないのよ!)
(いいからここは大人しくしておけって。お前さんの実力なら、いつでもあの女を取り押さえれるだろうがよ。)

 大人組みの内緒話をよそに、エレンとサラサールのやり取りも続いていたようだ。お人よしらしいエレンを心配しているサラサールが、何か言い募っている。

「・・・わかったわ。じゃぁこうしましょう。彼らが私たちに危害を加えないなら鍵を開ける。これなら問題はないでしょう?」
「・・・そういうことなら」
「あ、え?それでいいの?」

 思わずギルがつっこんだが、彼女たちはそれに構う様子はなく、危害を加える気があるか否かだけを問われた。
 当然、そんなつもりはないと答えると、「じゃあ、いま開けますね」と言って、あっさりとエレンは鍵を開いた。

「お前達!怪しげな動きでもしたら、即、私が斬るからな!」

 実力的に絶対無理だろう、とは思いつつも”金狼の牙”は大人しく従った。
 牢屋の鍵を開けてくれたエレンは、ここで話すのもなんだから場所を移そうと言って、先に立って案内をしてくれる。
 彼女が一行を連れてきてくれたのは、質素な居間であった。

「まずは椅子にお掛けください」

 木製の粗末な椅子に腰をおろすと、彼らの足元に二匹の動物がやって来た。ミナスが嬉しそうに目を細める一方で、ジーニがなんともいえない顔になる。
 片方は耳の垂れた犬、もう一方は空色の瞳をした黒猫に見える。
 犬のほうはパトラッシュという名前だとエレンが説明した。お利口さんだが少々臆病だという。

「こっちの子は・・・・・・」
「その子犬は神精族の子供なんです。私が巫女なので一時的に預かっているんです。名前はヴァンっていうの」
「・・・・・・え。犬なの?」

 はてしない違和感に襲われて、ミナスは目を忙しなく瞬かせた。なんでも、魔物の幻影を創ったり、村の結界を一時的に解除したのもヴァンがやったことらしい。

「へえ・・・・・・すごい子なんだねえ」
「?? ワン!」

 ミナスはヴァンの小さな頭を優しく撫でた。
 大人たちはその様子を微笑ましく思いながらも、エレンとサラサールから事情を聞きだすのに余念がない。
 村で”金狼の牙”を攻撃してきた大きな狼は、なんと伝承にある守り神にして神精ファナス族の長だという。しかし、伝承とは違って「森の」ではなく、「この村の」守り神らしい。
 冒険者たちを侵入者だと思い込み攻撃してきたそうで、「悪気はないんです、許してあげて下さい」とエレンが困ったように言うのに逆らう事も出来ず、渋々彼らは頷いた。

「・・・まぁ、神精族の攻撃を受け、生きていられただけ感謝するんだな」

 ぼそっとサラサールが言葉を漏らす。
 ギルは首を傾げた。

「神精族?・・・さっきもこっちの子犬のことでその単語聞いたけど、それって・・・?」

 不可思議な力を秘めた、幻獣より神に近い属性の獣のことを指すらしい。それ以上の説明をサラサールはしようとしなかった。
 諦めて話題を変え、この村自体について訪ねてみるが・・・・・・とたんにエレンとサラサールの顔が曇る。
 思いつめたような双眸をこちらにひたと向け、エレンは切迫した声でこちらに話しかけた。

「あなた方には私たちに協力をしていただきたいのです。そのためにあなた方を、この村に招いたんです」

2013/04/14 17:00 [edit]

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Sun.

聖域といわれた森 1  

「聖域と呼ばれてる森・・・・・・?」

 波打つ亜麻色の髪をジーニに弄ばれながら、少年はその貼り紙をじっくりと眺めた。
 親父さんが拭き終わった皿を置いて声をかける。

「お!その依頼に興味あるのか?」
「どんな依頼なの?」
「最近、遺跡発見で騒がしくしている真紅の都市を知っているだろ?」

 ミナスが背後のジーニを見上げると、はたして彼女は首を縦に振っていた。

「真紅の都市ルアーナでしょ。もちろん知ってるわよ」
「その近辺で≪聖域の森≫と言われているところがあるんだが・・・」

 その≪聖域の森≫は一切の魔物がいないと言われていて、平和で豊かな森だった。
 しかし、最近になってその森に魔物が現れたと噂が立ち、その調査の為の依頼が、≪狼の隠れ家≫に来たというわけである。

1聖域

「まぁ、おおかたは動物なんかを見間違えたんだろう。簡単な依頼だとおもうぞ。依頼料も500spだ」
「ちょっと安いわねー。でもま、ルアーナの近くっていうのなら、未発見の遺跡とかが森の中にあるかもしれないわね」
「ジーニ、興味あるの?」
「まあね。ギルバートに言って、この依頼引き受けてみない?」
「僕もダンジョン嫌いじゃないし、いいよ!」

 こうして、”金狼の牙”たちは真紅の都市にある森林保護協会へ向かったのであった。

 聖域の森。
 いつからそう呼ばれ始めたのかは誰も知らない。
 守り神が存在する森。魔物の姿もなく、緑豊かな動物たちの楽園・・・伝承によれば、≪聖域の森≫とはそれを指すと記されている。
 だがしかし、≪聖域の森≫で守り神を見たものはまだ誰もいない・・・。

 真紅の都市ルアーナに到着した一行は、さっそく森林保護協会の事務所へと足を運んだ。そばかすの浮いた顔の、少女めいた顔立ちをした受付の女性によって応接間に案内される。
 そのまま15分ほど経過しただろうか。ノックの後、くすんだ金髪の中年男性がドアを開けて入ってくる。

2聖域

「はじめまして、私が森林保護協会の会長を務めているクラントです」

 会長のクラントは仕事に忙殺されているのか、少しばかり憔悴しているようにも見えた。

「さて、依頼のことですが・・・貼り紙にあったように、聖域の森に現れた魔物を駆除していただきたいのです」
「どんな魔物ですか?」

 ギルのわくわくを押さえきれない声に気づいたクラントは、苦笑しながら説明を始めた。

「実は、まだ魔物の確認をとっていないのです。協会の者は、魔物を恐れて森には入らなく・・・。ですから今回の依頼は調査も含めてのことなのです」
「あら・・・・・・じゃ、本当に初めからの調査ってことね。他に分かっている事はないのかしら?」
「・・・ただ伝承によれば、あの森には守り神がいるとされています。もし森に魔物がいるとなれば、守り神をも凌ぐ強さでしょう」

 ジーニの質問に依頼主はそう答えてため息をついた。
 アウロラがやや俯くようにして「守り神を凌ぐ魔物、ですか・・・」と呟く。

「魔物がいるにせよ、いなかったにせよ、報酬は払います。ただし魔物がいた場合は、退治もお願いいたします」

3聖域

「報酬がこのままって事はないわよね?」

 クラントの台詞の一部に反応したジーニが黒い双眸を煌かせて彼に報酬の値上げを迫ったが、さすがやり手の会長と言うべきなのか、あっけなくそれは却下された。
 森林保護協会は国の援助を受けて運営しているのだが、その予算はあまり大きなものではないらしい。
 一行は森へ入る前に事務所での登録を済ませ、その場を後にした。
 エディンが口を開く。

「おい、あそこの店にちょっと寄っていこうぜ」
「ん?冒険者の店に?」

 首を傾げたリーダーに、エディンは何か≪聖域の森≫に関しての情報があるかもしれないだろ、と言って先頭に立った。
 扉を開くと、そこにはカウンターでグラスを磨く主人のほかに、三人の冒険者達がたむろしている。
 しかし芳しい情報はまったく得られず、失意の”金狼の牙”たちは森へ真っ直ぐ向かうことにした。

「・・・・・・魔物がいるとは思えないけどなあ」

 ≪聖域の森≫までの道程はさして困難なものではなく、その日の昼過ぎには問題の場所へと着いていた。
 とても緑豊かな森の様子を見て、ミナスが首を傾げる。
 青空が眩しい。アレクは目を細めて、辺りを探っているエディンが戻ってくるのを待った。

「・・・特に魔物がいるような痕跡はない。どっから行っても一緒だと思うが、リーダーどうする?」
「うーん・・・・・・。じゃあ西へ。太陽を追いかけて行こう」

 こうしてしばらく森をさ迷った≪金狼の牙≫だったが、たまさか狼や蛇などが茂みから飛び出すほかは、目ぼしいものも見当たらない。
 これは魔物とやらもただの噂だけかな、とアレクが心中でつぶやいた時、ふとエディンがある場所で足を止めた。

「・・・この周辺は妙な感じがするな」

 さっそく調べてみようと一歩踏み出すと、その途端に茂みから何かが飛び出してくる。
 どうせまた狼か蛇だろうと思ったギルが、ため息をつきつつ≪護光の戦斧≫を構えると・・・なんと、そこに立っていたのはミノタウロスであった。
 さすがに慌てた声をエディンが上げる。

「え!?嘘だろオイ!?」
「・・・・・・っ!エディン、構えろ!ミナス、アウロラ、頼む!」

 一行は今さらミノタウロスに遅れは取るまいと、連携の効いた攻撃を繰り出したのだが・・・。

「ちょっと、まったく効いてないじゃないの!?」
「これ、は・・・・・・よく見てください、幻影ですよ」

4聖域

 アウロラが魔物の正体に気づくと同時に、その姿は泡のように消えていった・・・。

「どういうことなの、一体・・・・・・」
「・・・それを知りたきゃ、もう一回調べろってこったな」

 そう言って盗賊が前に進むと、魔物が消えたその向こうに村らしきものが見える。
 ”金狼の牙”は確かめるように奥へと進んだ。

2013/04/14 16:57 [edit]

category: 聖域といわれた森

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 Leeffesです。
 今回は、店シナリオではなく普通の依頼シナリオ(5-7対象)作ってみました。
 えー・・・分類上は推理物になるんだろうけど、途中で読み物っぽい描写が出てきたり、非常に間尺に合わない行動をNPCがとったりするかもしれません。フラグを見つけられないと時間掛かるだろうけど、30~50分くらいあればいけるかな?

 そして諸注意を少々。
1.【魔力感知】がないとシナリオクリアができないというとんでも仕様です。ですが一応、シナリオの中でそれ専用のアイテムは出てきます。
2.mp3を二曲使ってるので、1.30仕様になっちゃいました。「うちのカードワースエンジンはまだ1.28だ!遊べないだろう!」という方がいらっしゃいましたら、解凍したファイルの中からmp3を削除すれば遊べるんじゃないかなあ、とか・・・。でも素敵なBGMです。

 「なんでもいいさ、とりあえず遊ぶから見せてごらん」というお優しい方がいらっしゃいましたら、テストプレイのお付き合いお願いします。


 駒の行く末


 2013年4月21日をもって、Ver1.00として完成版といたします。
 テストプレイにご協力いただきました皆様、ご自分のシナリオフォルダにダウンロードしてくださった皆様。まだまだフラグや分岐管理等がきっちりできておらず、ご迷惑をおかけした事をお詫びいたします。
  最後までお付き合いくださり、まことにありがとうございました。

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2013/04/12 01:14 [edit]

category: シナリオ

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Thu.

satan 13  

44satan

 ギルの一撃で見事中央突破を成功させた冒険者たちは、号令一下、大広間へと突入を果たした。

「ヴ・・・・・・・・・」

 その視線の先には、ザンダンカルの魔王が佇んでいる。
 すぐに冒険者に気づいたようだ。両脇には体を低くし、前傾に構えた魔物が2体残っている。
 魔王の前に、赤い玉が出現した。
 先ほど教会を吹き飛ばした玉と、全く同じ形状をしている。

「ク・・・・・・ジーニ、これは・・・!」

 エディンが焦った声を出した。冒険者の後方には、倒しきらなかった魔物の大群が詰め寄せてきている。
 突っ込んで魔法を打たせるなと指示しようとしたギルを制し、ジーニは打たせろと叫んだ。

45satan

「皆、四方に散って!固まるな!1人でも多く直撃を避けて!!」
「! そういうことか!」

 彼女の意図に気づいたアレクが、いち早くトールを逃がしつつ大広間の端のほうへと体を投げ出す。
 戸惑ったようなラングの体を、委細構わずギルが体当たりで吹き飛ばした。
 魔王がゆっくりと手を上げていく。

「散れぇーーーっ!!」

 他の仲間たちも、ジーニのその叫びが終わらぬ内に四方八方へと体を投げ出していった。

「ヴオオォーーーーーーーー!!」

 ・・・・・・魔王の呪文による爆炎が辺り一帯を包む。
 凄まじい量の熱と煙がようやく晴れた時、”金狼の牙”で立ち上がれたのはアレク・エディン・ミナスの3名だけだった。
 アレクが声をかけると、ギルによってちょうど上手い具合に死角となる場所へ吹き飛ばされていたラングも、そこから這い出してくる。

46satan

「ク・・・・・・大丈夫か、ラング・・・・・・」
「は・・・・・・・・・はい、何とか・・・・・・・・・」

 魔王が放った赤い玉は、広間の入り口付近を直撃した。その近くにいたジーニたちが巻き込まれ倒れている。
 だがそれ以上に、多くの魔物が爆発に巻き込まれており、無数の体の破片が飛び散っていた。
 天井から大小問わず多くの瓦礫が崩れ落ち、その下敷きになっている魔物もいる。

「なるほど・・・・・・な。王は魔物を気にせず魔法を放つ。四方に散った俺たちの方が被害が少ない・・・・・・か」
「そして、生き残った者が・・・・・・王を討つ・・・・・・と・・・・・・」

 アレクの感心した呟きに、エディンが応じて双剣を抜き放つ。

「・・・・・・ったく、随分な賭けだな・・・・・・」

 呆れたように頭を振ると、エディンは敵の戦力を観察した。王以外に魔物は2体、後方で正常に動ける魔物は、せいぜい数体程度といったところだろう。
 王自身も正常に立つ事が出来ていない。すっかり杖代わりと化した剣は左右に大きくぶれており、直立する事すら辛そうに見える。

「行くぞ、ラング!」

 ここが好機と、アレクは気合の篭った声で呼ばわった。

「は、はい!」
「雑魚は僕に任せて、皆は王に集中して!」

 ミナスはそう言い放つと、≪森羅の杖≫に魔力を集中し始めた。
 主の意を受けて、スネグーロチカが冷気を振り撒きながら魔物へと取り付く。更にはミナスの足元から奔流が迸り、ナパイアスが敵を押し流していく。
 エディンは立ちはだかろうとする魔物を精妙なステップで振り切り、王のローブを魔力による杭で奥の壁にはりつけた。

「今だ、アレク!」
「おう!」

 動けずにいる魔王へ、アレクが続けざまに何度も斬撃を放つ。

「こいつで・・・・・・どうだ!」
「ヴ・・・・・・・・・ヴヴヴヴォーーー!!」

 渾身の力が篭った戦士の一撃が、魔王の頭を砕いた。
 杖代わりにしていた剣が前方に転がる。

47satan

「!」

 エディンは≪クリスベイル≫を落として素早く魔王の剣を拾い上げ、目前の胸に突き刺した。

「終わりだ」

 王の全身の力が抜けていくのが分かる。

「オォォォォ・・・・・・」

 悲しげな咆哮を上げると、魔物も活動を停止し始めた。王の方を向き、力なくただ立っている。
 ラングが信じられないものを見た、といった態で「やった・・・・・・」と呟いている。
 次の瞬間、建物全体が揺れ始めた。
 アレクが慌てて辺りを見回す。

「何だ!?」
「あー・・・こりゃ、さっきの大魔法で建物が逝っちまったんじゃねえ?崩れるぞ」
「早く脱出した方が良さそうだな」

 エディンの言葉を受け、天井に隠れていたトールがようやく下りてきたのを懐に収めたアレクは、ギルの体を背負い始めた。
 倒れている仲間たちは大小の傷はあるものの、しっかり息をしており、充分な休養と回復魔法を施せば大丈夫な様子である。
 顎でジーニを担当するようラングに合図をして、エディンはミナスにギルの斧とジーニの杖を持たせた。
 自分はアウロラの体を担ぎ上げ、やれやれと息をつく。

「長居は無用だな」

 アレクが淡々と言った。

「街で新たにさらわれた子供もいるかもしれない。注意して行こう」
「大丈夫、生命の気配があれば僕に分かるから!任せて!」

 小さなエルフが自分の胸を叩いたが、彼らが調査しながら帰る途中の道に新たな子供の姿はなかった。
 轟音と共に、徐々に瓦礫が降り注いでいく。
 王の上にも瓦礫は落ち、その体は少しずつ埋まっていった。
 やがて、ひときわ大きな瓦礫が落下し、王の姿は完全に見えなくなった・・・・・・。

 教会の地下から崩落音が鳴り響き、やがて静まり返ると、誰にとも無くアレクは独白した。

「終わった・・・・・・・・・な・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・ああ」

 エディンが頷く後ろで、すっかり汚れてしまった顔を拭いもせず、ラングは問いかけた。

「本当に・・・・・・本当に終わったんですか?アレクシスさん・・・・・・」
「ああ」

 ゆっくりとラングがしゃがみ込む。張り詰めていたものが一気に切れたようで、抱えていた荷物をミナスがそっと下に置き、彼の背中を撫でた。
 ヴァニラは言っていた。王は封印こそできても、死ぬ事は無いのだと。
 またもし、王を蘇らせるヴァニラのような人間が出現したら・・・・・・。

「僕は・・・・・・多くの人たちの役に立ちたい。そう思って冒険者になりました」

 ラングがゆっくりと呟く。
 騎士の守護の無い田舎の地方では、まだまだ多くの者達が妖魔に苦しめられている。ラングは、そんな弱者たちを助けたいとずっと思っていた。
 しかし、このザンダンカルにおいては・・・・・・人が人を殺した。

「生きるために人を襲う。そんな人は、今まで何度も見てきました・・・・・・」

 だが、今回は違っている。自分の欲望のためだけに人を犠牲にした者がいる。
 アレクはゆっくりと胸のうちを吐露した。

「・・・・・・・・・ラング。冒険者としての経験・・・・・・それをお前に教える事は出来る」

 ただし、と彼は付け加える。

「冒険者としての目的、それをお前に授ける事は出来ない。それはお前が自分で答えを見つけるものだからだ」
「・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・」

 ラングは思った。これからどんな困難な事が待ち構えていようと、今日と言う日を決して忘れまいと。ラングは、この後にアレクにこう聞いたのだ。

48satan

「道に迷ったら・・・・・・・・・付いていってもいいですか?」
「・・・・・・それも、お前が決める事だ」

 否定もせず、肯定もせず、アレクはただ静かにひたと血色に見える双眸を、後輩に向けていた。

※収入2500sp※
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■後書きまたは言い訳

57回目のお仕事は、leaderさんのシナリオでsatanです。
いやはや、長いのなんのって・・・っ!今まで一番長いのはDr.タカミネ様作の「最後の最後に笑う者」46KBだったのですが、今回のリプレイ原稿見たらぶっちぎりの72KB。
手ごたえのある、さすが高レベルらしい依頼と敵とキャラクターたちの立ち回り具合だったのですが、圧倒的に体力取られました。その分だけ見ごたえのあるリプレイになったんだといいのですが・・・。

途中でちょこちょこと今までに受けた依頼のことが出てきておりますが、本編では特に出てきておりません。ただ、魔王の正体について、魔法使いがあれはリッチーに近いものだ、と看破する前から「この画像はカナン様に似てるよなあ・・・。」と思ってはいたんですが。(笑)
盗賊役だったり、後輩の世話役だったり、リーダーだったり、参謀だったりを選ぶ事が出来るシナリオで、”金狼の牙”の場合はこれしかないなーという感じで、すぐ決定できました。
なるべく台詞は本編のままを書くようにしてるのですが、ほぼ直す必要がなかったです。
一応大きく違うところとしては、ザンダンカルの宿亭主から情報収集する様子はかなりアレンジをさせてもらっています。アウロラがきな臭いと言ってますが、あの段階でそこまで疑っていないんですよね。ただ、彼女なら少し疑わしく感じるんじゃないかなと思い、そこは改変させてもらいました。

今回、ジーニが元貴族脅したり、後輩からかったり、治安局の人叱ったりしているのはシナリオのとおりそのままなんですが、この人ものすごく生き生きしてるなあ・・・と、作者が思ってしまいました。(笑)

次回はもうちょっと短いシナリオにしよう・・・。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/04/11 18:31 [edit]

category: satan

tb: --   cm: 3

Thu.

satan 12  

 教会の表側では、すでに治安局員と暴徒が少数で小競り合いを行なっているが、崩れ落ちずに残った瓦礫が遮り、表と裏の様子はお互いに分からない。

「魔物は・・・・・・いないようですね」

 きょろきょろと辺りを見回すラングに、アレクはここに残れと指示をした。
 自分も当然行くものだと思っていたラングは、気色ばんで否を唱えたが、魔物が何匹帰ってくるかをバイゼルに知らせる役目が必要なのだと彼は説明した。

「重要な情報だ。それに今度こそお前が足手まといになる」

 分かってるだろうと言われると、それ以上返す言葉は新米たる彼には残っていない。確かに、最初の後退の時でさえ彼はチームの足を引っ張っていたのである。
 渋々頷いたラングは、それでもアレクに縋るように言った。

「で、でも必ず戻ってきてください!!約束して下さい!!」
「当たり前だ」

 彼らは教会の地下へと進んだ。
 隠し階段の辺りまでたどり着くと、再びエディンは辺りを素早く伺ったが、誰もいないと結果を告げる。
 そしてエディンは、アレクを助手に階段のある部屋のガラクタをバリケード代わりに積み上げた。これで挟撃を防ぐつもりなのだ。

「もう少し灯を近づけてくれ」
「こうか?」
「ああ、悪ぃな・・・・・・ん?」

 作業の途中、灯りで照らされている範囲の端に見覚えのある影が映り、エディンは手を止める。

「ラング!?」

 何をやっていると言い咎めるアレクに構わず、ラングは自分が見たものを報告した。

「ま、魔物です!!魔物がいっぱい戻ってきました!!」
「それでどうしてこちらに来るんだ、お前は!?」
「い、いっぱいいたので・・・・・・知らせないとと思って・・・」

 珍しく動揺して後輩を叱り飛ばすアレクの背中を叩いて落ち着かせると、ギルは「何体だ?」と問うた。

「10体です!すぐそこまで来てます!」
「・・・・・・このバリケードは10体でも持つの?」

 ジーニが胡乱げな目になってガラクタの山を見つめる。エディンは小さく唸った。

「ここで応戦すれば少しは持つが・・・・・・」
「それじゃ意味が――」

 意味がないだろう、とジーニが言いかけた時。
 腹に響くような咆哮を上げて、魔物が教会地下へと侵入してきた。即座にこちらに気づいたらしい。
 アレクは持っていたフォーチュン=ベル製のランタンをラングに押し付けると、すらりと愛剣を抜き放った。

「奥に引くか!?」
「駄目だ!10体ではこのバリケードは持たない!挟み撃ちにあう!!」

 リーダーの言葉にエディンが返す。

42satan

「クソッ!!ここでやるしかないかっ!!」

 ギルはさっさと斧を構えた。最初は一匹しか近づいて来れなかったものの、ゾクゾクと魔物が地下に降りてくる。
 すでに地下は埋め尽くされてしまった。
 多すぎると舌打ちしたジーニは、ラングに向かって叫んだ。

「ラング!!そこのバリケードに火と油を投げ込んで!!」

43satan

「えぇ!?ちっ、地下ですよっ!?本気ですか!?」
「いいからやんなさい!アンタ、あたしに逆らうの!?」
「は、はいっ!!」

 金属製の手甲に包まれた腕が弧を描き、ランタン用の油と、火種を移したガラクタの木片がバリケードに投げ込まれる。
 油は若干それたが、それでも勢いよく火が燃え始めた。

「よしっ!!行くわよっ!!」

 ジーニがバリケードを杖で薙ぎ倒すと、魔物と冒険者の間に燃えさかるバリケードが崩れ落ち、炎の障壁が出来る。
 退け、という合図によって彼らは階段を駆け下り、子供の遺体を発見した小部屋まで移動した。
 まだ体力の少ないラングは、全力疾走により吐き気を催している。
 えづく後輩の背中を撫でつつ、アレクが涼しい顔で訊ねた。

「どれくらい持つ?」
「分からないわ・・・・・・。30分以上は燃えると思うけど、炎の勢いが弱まれば突っ込んでくるかもしれない」
「・・・・・・なら、躊躇してる暇はねえな」

 エディンは一行の先頭に立った。

「先に進むぞ。・・・ラング、行けるか?」
「は、はい」

 健気にもラングはすっくと立ち上がった。
 支援魔法をかけられるだけかけ、王の待つであろう広間へと向かう。
 ・・・・・・ふと、先を歩んでいたエディンの足が止まった。

(皆、止まれ。・・・・・・・・・居やがるぜ)

 大広間の前で、2体の魔物がうろついている。こちらにはまだ気づいていない。
 一行は奇襲を選択した。

(・・・・・・行くぞ!!)

 ・・・・・・準備満タンで挑んだ彼らが、2体の魔物に負けるはずも無い。あっという間に2つの巨体が地を這った。
 その死体を見つめながら、アレクが長く息を吐く。

「ヴオオオォォォ・・・・・・ン!!!」
「!!」

 後方より魔物の咆哮が聞こえる。もうあのバリケードを突破したものらしい。彼らは前方へと足を向けた。
 ところが、前にも無傷の魔物たちが集まり始めたではないか!!

「くっ・・・・・・後ろにも・・・・・・」

 ギルは後方を確認して呻いた。前方には10体程度、後方には見える範囲でも5体はいる。完全な挟み撃ちだ。

「愚痴っても仕方ないが・・・・・・ジーニ?」
「分かってるわよ。今考えてる」

 リーダーからの要請前に、ジーニの頭はフル回転していた。

「・・・・・・奥の広間に突入しましょ。真ん中の奴だけ倒して一気に行くのよ」
「突入してどうすんだよ。勝算はあるのか?」
「なきゃ言うわけ無いでしょ。あたしに賭けなさい」
「うわあ。すごい不安」

 傍らでそれを聞いていたミナスは、口ではそう言いながら顔が笑っていた。
 ギルもそれに勇気付けられて笑う。

「・・・・・・行くぞ!仕掛けられる前に仕掛ける!」

2013/04/11 18:27 [edit]

category: satan

tb: --   cm: 0

Thu.

satan 11  

 骸骨が【炎の玉】の何十倍もの威力をした焔を教会に放って建物のほとんどを吹き飛ばし、魔物たちが街へと飛び去った後、ジーニは騎士団の要請をミーナに切り出した。

38satan

 もはやあの数では、いち冒険者たちの手には負えるものではない。即急に、人海戦術で対抗すべきであった。
 そのため治安局に戻り、バイゼルの手助けを借りようとしたが、返事ははかばかしいものではなかった。
 治安局にも魔物の目撃証言が届けられており、教会が放火された事実も伝わってはいたものの、”金狼の牙”たちが承知しているほど大きな状況だと思っていないのだ。
 今も、正確な報告を受けたはずの彼の目は点になっている。

「バイゼル。まずは、落ち着いて聞いて。多くの魔物が街に放たれた。魔王の食料になるのか、魔物の召喚に使うのか知らないけど、このままでは多くの人間が犠牲になる」
「数も多く、とても私たちだけでは対応できません。治安局員もですが、騎士団の出動をすぐに要請すべきです」

 ジーニとアウロラが代わる代わる言うのに、彼は力なく首を横に振るばかりだ。

「お、俺に・・・・・・そんな権限は・・・・・・・・・議長じゃないと・・・・・・・・・」

39satan

「なら、さっさと議長に話を通しなさい!今対応できなければ、たくさんの人間が死ぬのよ。アンタが街の人間を守るんじゃないの!?」

 ジーニは毅然として言い放った。

「・・・・・・だな。すまん・・・・・・・・・よし!!」

 バイゼルは顔に朱の色を取り戻し、議長に騎士団出動の要望を出すと言って動き出した。

 ――しかし、議長は魔物の目撃証言が一件だけで、他は全てリューンから来た冒険者の話でしかない事を理由に、騎士団出動に難色を示す――暴動を抑え込むより、一匹しか目撃されていない魔物の方が脅威なのか?
 貴族が多い騎士団に抵抗を持つ議長には、うかうかと返事の出来ないことであった。
 それからどれほど時間が経ったのか、議長が権限を行使し騎士団出動をさせるまでにこぎつけたバイゼルの顔は、疲労によって彩られていた。
 これからの対策を話し始めた一同の中で、ふとエディンがいち早く何かの違和感に気づいて顔をあげた。

「皆、気をつけろ。何かが近づいてきてる」
「何っ!?魔物かっ!?」
「分からない。何かが部屋の外まできている」

 気色ばんだギルを落ち着かせるようエディンは言い、そっとマントの内側で≪スワローナイフ≫の柄を握り締めた。
 アレクがさり気なく立ち位置を変え、バイゼルやラングを庇う場所に立つ。アウロラもそれに気づき、すっとミーナの前に立った。
 そして、それが部屋に入ってきた。

「ヴァニラっ!?」
「おおっと、これはこれは皆さん臨戦態勢で」
「いい度胸だな。わざわざ捕まりに来てくれるとは・・・・・・」

 ギルがそう言うと、ヴァニラはわざとらしく両手を挙げて応える。

「いやいや捕まる気は毛頭ない。君らと会話しに来ただけだ」
「会話?」

 訝しく思ったアレクが嫌悪感を込めたまま声を発すると、ヴァニラは口の端を微かに上げて情報を持ってきたのだと告げた。

「とりあえず、まずは私の話を聞いたらどうだ?魔王の事を知りたいだろう」

 ジーニは臍を噛んだ。情報がほしいのは確かだが、ヴァニラの企みがまったくと言っていいほど見えない。
 その時、静かに佇んでいたはずのアウロラが、ヴァニラの目を真っ直ぐねめつけながら口を開いた。

「分かりました。喋りたいことがあるならどうぞ」
「アウロラ・・・!」
「そうこなくては」

 ミナスが非難の声をあげるも、それをそっと押し留めたアウロラの姿ににやりと笑い、ヴァニラは情報とやらを一同に披露してみせた。
 教会の地下に出現した骸骨、あれこそがザンダンカルの魔王であり、羽の生えた化け物は彼の召喚した魔物である事。
 彼自身が地下で執り行っていたのは、結局あの魔王の復活の手助けであった事。
 全てはカウフマンの指示ではなく、ヴァニラが魔王の眠る教会を押さえるために上手く唆し、街に不穏な噂をばら撒く一方で生贄となる子供たちをさらった事。
 
「私のそもそもの目的は、王の禁呪。これを手に入れることだった」

40satan

「・・・・・・ろくでもない目的ね」
「君にとってはそうかね? 人間界に本来存在するはずの無い、魔界の王が使う禁呪・・・・・・」

 あるものは山を吹き飛ばし、あるものは川を干上がらせる。
 魔法を使う人間であれば、その魅力に焦がれるものだと濁った熱をもって語るヴァニラの顔を睨み、ジーニは唾を吐き捨てた。
 木箱に封印された魔王の胸に突き刺さる剣を抜き取り、血を数滴垂らすことで蘇らせると、ヴァニラは魔王と契約を結んだ。
 封印が解けたばかりの魔王は、その本来の力からするとあまりに脆弱。従って自らを守る守護者を必要としており、契約を結んだ見返りに禁呪を与えるのである。
 王が完全復活を遂げた暁には、契約時に賜った指輪で禁呪を制御する事が可能となる。ヴァニラは歓喜した。
 ところが、”金狼の牙”たちやラングの邪魔が入った・・・・・・。

「私は王を見捨ててしまった・・・・・・王の完全復活の前に・・・・・・」

 後に残ったのは制御不能の禁呪だけだと零したヴァニラはこちらを睨んだ。その殺気が増していく。
 フン、とアレクが鼻を鳴らした。

「それで俺達に復讐か?」
「そんな事をしてどうなる。すでに終わった事だ」

 その言葉と共に、確かにヴァニラの殺気は消えていく。

「王は、契約を破棄した者を許しはしない。私をどこまでも追いかけ探し出し・・・指輪を取り上げると共に私を殺すだろう」
「・・・・・・・・・いい気味だな」
「だから、私は君たちに託す事にしたのだよ。王の封印をな」
「それは都合が良すぎるというものだろう。第一、あんな化け物をどう相手しろと?」

 アレクがそう言うと、ヴァニラは魔王が不完全な身体で強力な魔法行使をしたことを指摘した。間違いなく、かなりの反動を喰らっているはずだと。
 そして今であれば、魔物の大半も王の側から離れている。
 ヴァニラを救うつもりなど冒険者たちにはさらさらないし、彼が魔王によって殺されるのは因果応報というものである。ただし、それもザンダンカルという街の事がなければだ。
 早く魔物たちを駆逐しなければ、罪なき市民たちがヴァニラの起こした事態の巻き添えを食うのである。そしてその犠牲者の数が多ければ多いほど、魔王は今よりももっと力を増していく・・・。

「・・・・・・・・・話は分かってもらえたかな?では失礼する。いつか君らの英雄譚を聞かせて貰うことにしよう」
「・・・・・・ま、待てっ!!」

 ラングが追いすがるも、ヴァニラは音もなく消えた。

「聞きたかったらキーレにでも行きなさいよ。そして巨人にでもやられちゃえ」

 そう小さく吐き捨てた仲間を、ミナスがつぶらな濃藍色の瞳で見上げる。

「ね、ジーニ。ヴァニラが言ってる事って本当かな?」
「どこまで本当かはわからないわ。ただ、恐らくは・・・否定する材料の方が少ないからね。王を倒すのが今しかないのも、本当でしょう・・・・・・」

 強力な魔法を使ってはいたが、王の動きは明らかに鈍かった。そして、大半の魔物が飛び去っている。
 そこまでジーニが分析をした時、不意にギルがバイゼルを呼ばわった。

「なっ、なんだ?」
「・・・・・・・・・俺たちが突入する」

41satan

 狼狽するバイゼルにギルは静かに言った。

「騎士団を待っていたら、手遅れになる。今のヴァニラの話を聞いてたろ?」
「も、もちろん聞いていたが、お前らがそこまでする必要は無い!」
「ここまで関わった以上、もう後には退けない。・・・・・・そんなとこか、ギル?」

 アレクが微笑んで幼馴染の顔を見やると、ギルは悪戯っぽくにやりと笑った。
 この都市を救う方法は一つ。今すぐ教会地下に入り、魔物が戻る前に王を倒す事である。
 ジーニは歯切れのいい声で指示をした。

「バイゼルとミーナは騎士団の要請に向かって。ラングはあたしたちと共に来るのよ。万が一ってこともあるからね。こっちが全滅したら騎士団が最後の砦よ」

 一緒に来たそうな顔をしているバイゼルにそう言って微笑むと、ジーニは「アンタの地位を利用しなさい」と告げた。

2013/04/11 18:23 [edit]

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