Wed.

金狼の牙の再出発 2  

 紅茶のカップを置いたトミテは、「それはそれは・・・」と言ったきり絶句してしまった。
 ここは吟遊詩人の寄合所――リューンの片隅にある小さな店である。
 しばらくの間、依頼の失敗による評判の下降からリューンを留守にしていたパーティは、前以上の名声を引っさげて帰ってきた。
 ぜひとも、彼らの口からかの地で成した冒険を聞いてみたいと思っていたのだが、あまりにも≪狼の隠れ家≫の辺りに人が多かったので、せめて落ち着くまではと遠慮していたのである。
 それが今日、どういうわけか子どもを連れて弟子――直接発声法などを教えたのだから弟子だろう――の方から、店にやってきたのであった。
 彼らはかつてここで、珍しい楽譜などを旅先で見つけたら披露して欲しい、と約束したことを覚えていた。
 そしてエルフから習い覚えた呪歌だけではなく――トミテが切望していた冒険の話を持参し、披露してくれたという訳だ。

「アレクが張り切って、ダークエルフの戦士と一騎打ちを所望した時は、どうしようかと思いましたけど」

幕間05

「でもちゃんと勝ったんだよ!『俺が相手だ』って剣を構えてね・・・最後に【炎の鞘】でドーンって!」

 竜のいるというヘントウ山に向かう”金狼の牙”たちを、竜を崇めるダークエルフの集団が迎え撃ったのである。
 彼らは四人組で、熟練した戦闘集団であった。
 その中から進み出た女戦士が、

「私の名はサイネリア・・・お前たちに一騎打ちを申し込みたい」

と申し出たのを、アレクが受けてたち・・・・・・見事に彼女を打ち倒した。
 サイネリアの敗北に激昂したダークエルフたちは、それでも崇める竜を守らんと、機械仕掛けのゴーレムや魔の狼を従えて戦闘に入った。
 
「そこはダークエルフの聖地だったそうです。ですが依頼である以上、そして私たちもまた竜を見たいと望んだがために、侵入者であることを自覚しつつも彼らを退けました」
「ダークエルフに遠慮なんかしないでいいんだよ。アウロラは優しすぎるんだから」

 水蜜桃のような頬がぷっくりと膨れる。
 トミテは厚めに切り分けたケーキを彼に薦め、上手く機嫌をとってからアウロラに訊ねた。

「その後で竜に会ったのですか?」
「依頼人の希望で・・・・・・詳しい場所は申し上げられませんが、故郷である洞窟で、竜は死期を悟り静かにその時を待っていたのです」

幕間06

 アウロラは悲しげに首を横に振った。

「ですが私たちはそのことを知らず・・・ただ、依頼人であるかつての勇者を救おうと、目の前の竜をひたすらに攻撃しました」

 竜の鱗は恐ろしいほど硬く、斧を振るったギルの腕も、剣で斬りつけたアレクの腕も、しばらく痺れたままだった程である。
 それでも”金狼の牙”は諦める事なく、ミナスとジーニの攻撃魔法と、アウロラの支援魔法の助けを貰いながら、依頼人・・・オハラハンという名の老人の横で戦い続けた。

「最後には和解できたんだけどね」

と言って、ミナスはのんびりと胡桃入りのパウンドケーキを頬張る。
 ゆっくりと息を吐いたトミテは、空になったカップに再び紅茶を淹れた。

「さて・・・・・・これほどまでに成果を上げた後に、よりにもよってキーレに行くとは。ずいぶんと思い切ったものですね」

 果てしない戦闘の続く不毛の辺境・・・・・・それが大抵のリューン市民が抱く、キーレのイメージである。
 何しろ、「キーレ送り」という言葉すらあるくらいだ。
 それはある意味での流刑であったり、生還の困難な場所へ送り出すためのだったり・・・或いは、相手に対しての罵倒を込めての単語である。
 実際にキーレに向かおうとする者があれば、リューン自警団では、詰所で身元証明の手形を渡してくれる。
 それを片手に北へ城砦都市キーレを目指すと、出発して10日あまりで、森がちであった街道沿いの光景は荒涼たるものに代わるのだ。
 一面が赤みがかった茶色い風景となるのである。今まで見てきたどんな景色よりも、心の荒むものに違いない。
 さらに徒歩数日で、不毛の土地を貫く荒れ果てた街道の先に、孤高の城砦があるのが認められる。

キーレ到着後1

 キーレの正規軍は1000人ほど、それだけの人数がたった600人の民を、さらに北方より攻めてくる蛮族から守るのだという。

「この寄合所で伝え聞く限りでは・・・・・・あちらでは蛮族だけではなく、翼竜や巨人なども闊歩しているとか。お気をつけてくださいね」
「はい。きっとまた、こちらに戻ってまいります。・・・お土産話を持って」

 ――――その日の夜、それぞれ賢者の塔と盗賊ギルドから帰ってきたジーニとエディンは、他の仲間たちが寝静まった後、≪狼の隠れ家≫の一階で杯を交わしていた。

「まったく、キーレに行こうだなんて・・・呆れてものも言えないわよ」
「まあ、そう言いなさんな。永らく街の暮らしに馴染んでいるお前さんからすりゃ、確かにとんでもないところだろうがね」
「あら。エディはそんなにあそこへ行きたいの?」

 ジーニが柳眉を顰めて訊いてきたのに、エディンはいささか苦笑しながら答えた。

「危険を冒して富と名声を得る。そいつが、冒険者って奴の本分なんじゃないのかい」
「・・・まあねえ、アンタの言い分も分かるけど」

 ジーニはワインを空にした杯をカウンターに置くと、酒臭い息を吐きながら自分の爪を眺めた。

「あーあ、またろくにお手入れもできない状況になっちゃうのか」
「そんな暇のある方が稀だろうよ。特に・・・・・・これからの俺たちじゃな」

 ポキ、と肩の骨を鳴らしてエディンは言った。

※【熱病の呪い】【陽春の息吹】【雪夜の静寂】【陸割り】【焔割り】≪女神の尖兵≫≪年代物の酒≫×2≪防御石≫≪ネックレス≫を売却※
※≪鏡≫についてはエセルへ譲渡※

--------------------------------------------------------

■後書きまたは言い訳
今回は・・・・・何と言えば良いのか、いろんなシナリオを絡めてみました。

・深緑都市ロスウェル(周摩様)
・悪魔たちの挽歌(ロムシフ(現ラ・フランス)様)
・城砦都市キーレ(ブイヨンスウプ様)
・吟遊詩人寄合所(鳥間鈴女様)

主に出てきてるのはこんな感じ・・・かな?
今回やりたかったのは・・・地図作製組合(CWGeoProject様)でキーレを増やして探索ポイントを上昇させたいという思惑から、じゃあどういう理由で向かおうという辺りでした。
”金狼の牙”の場合、ちょうど地図作製組合の小話で、アレクに「じゃあ宿に居られなくなったらキーレに行こう」と言わせているのですね。なので、いつものキーレ初回イベントの台詞では向かわないだろうなあと。
そんなわけで、まず以前の依頼失敗を踏まえて、名誉挽回する為にロスウェルの盗賊ギルドからの依頼と竜退治、それから悪魔たちの挽歌の解呪を行っております。
そこでまた名前を売りすぎたので、ほとぼりが冷めるまで城砦都市キーレでどんぱちやってよう・・・というのがキーレ行きを決意した理由となっております。
回りくどい?いえ、これくらいのレベルになったらきっと英雄視されて、「前と変わったりしてないのに・・・」と本人たちもぐったりしてることがあるのではないかと思うのです。

それから、結構荷物袋がいっぱいになってきたのでその整理も兼ねています。
売ってしまった技能やアイテムについては、「他の宿の冒険者に売ることにした」とも書いておきましたので、もしどこかの宿で同じ技能を手に入れた方は、うちから買い上げたよーというクロスオーバーも可能に!(露骨な主張で本当すいません)
前回の死人の宴で手に入れた≪女神の尖兵≫については、正直、売るよりもギルに持たせておきたいのですが、パーティ名である”金狼の牙”について、≪護光の戦斧≫の色から連想してるリューン住民とかもいそうだな・・・と思い、手放すことにしました。レベル比4に吸収つきという、困難な依頼に相応しいかなりの強武器でしたのですごい悩みましたが。

キーレ攻略後、ベルサレッジにも寄って最終依頼をこなす予定でおります。
本当は9レベル相当の依頼なのですが、低レベルクリアを行うと、1つしかもらえないアイテムが3つもいただけるのです。ただ、相当きつい戦闘になりますので、キーレの最終戦を勝利できなければ、恐らくベルサレッジの戦闘もクリアは難しいでしょう。抵抗不可の必中即死技が飛んできますし。

エディンの書く出納帳がすごい長いことになってしまいそうですが、ひと段落つきましたら記載いたしますので、よろしくおねがいします。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/13 23:47 [edit]

category: 小話

tb: --   cm: 3

Wed.

金狼の牙の再出発 1  

 武器による胼胝のついた手が、幾つかの瓶を丁寧に包んで荷物袋に入れている。
 羊皮紙の切れ端を眺めて、ぶつぶつと目の前の物品の数を数えていた美貌の青年が、やがてその手を止めた。
 荷物袋に詰めていたほうがその気配を察し、振り返る。

「おーい、そっちはどうだ?」
「・・・・・・大丈夫なようだ。アウロラのメモにある物はちゃんと揃っている」

 ギルとアレクは忘れ物が無いかどうかをしばらく点検していたが、やがて納得がいった様に頷きあった。
 ≪クドラの涙≫という唯一無二の宝石の探索依頼に端を発した、とあるクドラ教司祭の秘儀の目撃から、既に3ヶ月が経っていた。
 北方貿易の雄である大商人・オットーの依頼を失敗した事から、宿の評判を落としたと居辛くなり、一時は深緑都市ロスウェルからの盗賊ギルドの使いがあったのをいい事にそちらで仕事をしていたのだが、

幕間01

成り行きで竜を倒すということまでやってのけた為、早く帰って来いと親父さんから言われたのだ。
 そして”金狼の牙”たちは≪狼の隠れ家≫へ戻ってきた――なんと、ロスウェルの盗賊ギルドから盗賊を1人引き連れて。

幕間03

「・・・アッシュよ。よろしく」

 顎の辺りで切りそろえられた黒髪と、鋭く射抜くような目が印象的なその若い女性は、最初こそ頑なであったが、次第にざっくばらんな≪狼の隠れ家≫の他の冒険者たちにも馴染んでいった。
 今は数少ない女性冒険者の2人と話し合い、近々パーティを組むための仲間探しを始める予定でいるらしい。
 ・・・さて、帰ってきたはいいものの、しばらくは”金狼の牙”らの冒険を称える者達がひっきりなしに宿を訪れ、寛ぐ暇も与えられなかった。
 下手にまた評判を上げるようなことになっては困るので、しばらく依頼を控えようと、宿に据えられた呪いの水晶「悪魔たちの挽歌」にひたすら挑戦していたのだが・・・。
 実はつい昨日、やっと地下7階において大悪魔アスモダイの討伐に成功し、見事に水晶の呪いを解いたのである。

幕間08

 クリアしたジーニ曰く。

「・・・・・・なんでそろいも揃って、悪魔召喚の適性があたしにないのよ!?」
「悪魔召喚って禁呪じゃないんですか?」
「違うわよ!でも使いづらいんじゃ意味がないわ!」

 悪魔が使っていた呪文は錬金術だったり死霊術だったり、はたまたただの高位魔法であったりして、それはそれで銀貨を代償に得ることができるのだが、現在のジーニにはこれ以上魔法を収める器が不足していた。
 とにかく”金狼の牙”たちは、信じられないことにまたもやリューンを旅立つ用意が必要になったということである。
 ギルは親父さんと相談した上で、北方のキーレに赴く事にした。

「キーレかあ・・・どんな街だろうな?」
「さあ。・・・地図作製組合の人は、帰ったら早く報告を下さいねと念を押してたが」

 城砦都市キーレ。
 リューンから北へおおむね徒歩で15~20日ほどかかる場所にある街。 
 北の蛮族と国境を接する城砦都市であり、ほうぼうの都市や城から兵を割いて守っている、文明世界側の防衛拠点である。
 親父さんによると、「蛮族討伐で名を挙げようと各地から猛者が集まる、腕試しにはもってこいの街」だとか。
 一時期には蛮族の手に落ちていたこともあったと言う。

「わしが冒険者をやっていた頃は、世界は今よりも混乱していた。群雄割拠の時代だったからな。混乱に乗じて、妖魔が大挙して街に攻め込んでくることも珍しいことではなかったよ」

キーレ出発前1

「・・・・・・親父さんが冒険者やってたのって、いつの話だよ・・・・・・」
「なあに、1000年や2000年も昔の話ではないさ。今だって、きっと大して変わってないだろう」

 親父さんはこともなげに肩をすくめた。
 とは言え、リューンでぐずぐずしている場合ではない。
 ジーニは賢者の塔へ、禁呪を持ち帰って封印指定を頼んだ導師へ事情を説明しに。
 エディンは盗賊ギルドへ、前の依頼で情報を売ってくれた幹部にお礼と挨拶をしに。
 アウロラとミナスは吟遊詩人の寄合所へそっと立ち寄り、店主のトミテへロスウェルで受けた依頼の話をしに。
 残ったギルとアレクで荷物袋を整理して必要な品だけを詰め直し、不要と判断したものについては、親父さんに託すこととなったのである。
 中には、好事家に売れば結構高く売れるだろうという剣術書や呪文書、アイテムなどもあるのだが、

「色々な思いの籠ったものだから、知らないところに売ってしまうのも・・・」

という意見が仲間に多く、冒険で有効活用してもらおうと、後輩冒険者や他の宿の冒険者に売ることにした。
 作業の終わった2人が一息ついていると、相部屋のドアが軽くノックされた。

「ギルさん、アレクさん?親父さんから差し入れです。そろそろ手を休めろって・・・」
「おっとエセル、グッドタイミング。今ちょうど、作業が終わったトコだったんだ」

 弾むようなギルの台詞とは対照的に、アレクが黙ってドアに近寄り開ける。
 そこにはお盆の上に揚げじゃがとホットミルクを乗せたエセルが立っていた。
 急に白皙の美貌が近くにあって、エセルの顔が朱に染まる。

「あ、えと、アレクさんありがとうございます・・・」
「いや。どうぞ入ってくれ」

 エセルは必死に顔に集まった熱を冷まそうとしながら、丸い小さな卓へ2人の軽食を手際よく並べる。
 塩と乾燥したハーブが掛かった揚げじゃがを大きく頬張りミルクで飲み込むと、ふとギルが思い出したように言った。

「そういえばエセル。前に買った香水、どうだった?」
「あ、すごいいい匂いで勿体無いから、滅多につけないんですけど・・・大事にとってありますよ」
「そっか。大事にしてくれるのはすごく嬉しいけど、使われないのはちょっと寂しいな・・・・・・って。あ、そうだ!」

 ギルは整理の終わった不要な品の中から、一枚の鏡を取り出してエセルに見せた。

「これ、高そうだからって冒険の途中で持ってきたのはいいんだけど、値段の折り合いがつかないまま売れなくってさ。良ければエセル、これ使わない?」
「え!?」

 エセルは驚きの声をあげた。
 ギルの手にあるのは、縁に金の装飾がついた見るからに高価そうな鏡である。
 鏡面にはまったく曇りというものがない。
 躊躇したエセルは、慌てて首を横に振った。

「こ、こんな高そうなもの、私が勝手に貰うのは・・・」
「だーいじょうぶ。親父さんや娘さんには、俺から話しておくからさ」

 なおも固辞しようとするエセルに、軽くため息をついてからアレクが口を出した。

「受け取っておいてくれ、エセル。・・・こいつの幼馴染として忠告させて貰うが、こうと決めたら絶対譲らないぞ」
「う、う、う~。本当にいいんですか・・・?」

 にこりと笑ったギルが首肯すると、彼女は大事そうに捧げられた鏡を受け取り、その精妙な細工にしばし見入った。

「綺麗・・・・・・本当に素敵」
「親父さんから聞いてると思うけど、俺たちまた旅に出るから・・・。何か面白そうな物があったら、また土産にするからな」
「はい!・・・・・・皆さん、また無事に戻ってきてくださいね」

 鏡を抱きしめながらエセルが言った。

「あれをしたこれもやったって、”金狼の牙”が評判になるたび・・・誰かが無茶をしたんじゃないかと、心配になるんです」

 だから、と続けようとしたエセルの唇を、いつの間にかギルの人差し指が押さえている。
 彼は悪戯っぽく笑って言った。

「大丈夫だ。≪狼の隠れ家≫でエセルや、親父さんや娘さんが待っててくれるって分かってるから・・・だから俺たち、ちゃんと帰ってこれるんだよ」
「ま、こいつが無茶やった時は俺も止めるから、安心してくれ」

 アレクはそう言って少し冷めてしまったホットミルクを飲んだ。
 その台詞にずっこけたギルが抗議し、アレクが静かに切り返し・・・・・・2人の様子を見て、エセルはついつい笑ってしまった。
 そう、”金狼の牙”は必ず帰ってくる・・・ならば笑顔で皆を出迎えるのが自分の仕事。
 エセルはそう結論付け、それ以上彼らには何も言わなかった。

2013/03/13 23:09 [edit]

category: 小話

tb: --   cm: 2

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top