Wed.

金狼の牙の小旅行 2  

 世の中から忘れられたかのような辺境の小村に、”金狼の牙”たちは来ていた。
 『歌の一族』と別れた後、深緑都市ロスウェルに少々滞在し冒険をこなした彼らは、リューンに真っ直ぐ帰らずわき道にそれてここまでやってきたのだ。
 この集落に訪れるのは何も初めてではないのだが――どうにも、寂しすぎる印象のせいか、よそよそしさが抜けない。
 小村の中心にある質素な小屋へ彼らは向かった。
 先頭に立っているギルが、軽くノックする。
 ・・・・・・ギイイィィ・・・・・・。

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「・・・お久しぶりです。ゆっくりしていってください」
「・・・・・・おねーさん、相変わらず怖いっすね・・・」

 ギルが軋むドアを細く開けた向こう側で、にたりと――いや、主観的にはにっこりのつもりかもしれない――笑っている女性は、かつて賢者の塔で魔法開発に携わっていた魔女であった。
 しかし、一般的な魔法から大きく外れた彼女のことを塔は危険視し――彼女は、それまで研究していた魔法によって逃れたのである。
 まったく、皮肉の効いた話である。
 だとすれば、亜人や何らかの理由で元々の場所から爪弾きにされた者が集うこの世捨ての集落に、彼女が終の棲家を見出したのは、運命のなせる業とでもいうべきだろうか。
 顔色のしごく悪い、二十代ぐらいに見えるこの女性を、ジーニははっきり嫌っていた。
 元々、禁呪と呼ばれるような呪文の類を人間が使おうとするのが好かないので、あの女性が開発する魔法にも難色を示していたのだ。
 今も杖の先にある髑髏でしきりに自分の肩を叩きながら、落ち着かなさげに木製の本棚や端の綻びたカーテンのかかった室内を見回している。
 にもかかわらず、今日訪れたのは・・・。

「さあ、ほら。アンタが開発した魔法出してちょうだい」
「おやおや・・・。どういう風の吹き回しで?」
「うるっさいわねー。仕方ないでしょ、新アイテム手に入れたら、また呪文書を整理する必要性が生じたのよ」
「それはご苦労様です・・・・・・。では、こちらの魔道書をどうぞ・・・」

 本棚から一冊の本を取り出した女性は、表面のざらついたテーブルの上に置いた。
 女性がまとめたらしいその魔道書は、ひどくぼろぼろなところがいくつかあった。女性が自分で使ってみた印だ。
 それに気づいてやや眉をしかめたが、ジーニは口には出さずただページを捲った。
 コーラルピンクのマニキュアを塗った爪が、あるページに綴られた呪文のところを指す。

「これこれ。威力が強くて高い技量を必要とする割に、呪文構成そのものは単純で分かりやすい」
「ああ、【神槍の一撃】ですか。なるほど・・・」

20130305_06.png

 それは周囲の空気を歪め、振動波を発生させて対象を貫く魔法である。
 貫通力は凄まじいものがあり、通常の生命体なら一撃で仕留められるほどである。
 ただ、大胆な術者向きのこれは性質的には向かないと思うが・・・と指摘されて、ジーニはあっさり首肯した。

「そんなこともちろん分かってるわよ。でも制御自体はできるんだし、これだけ威力があるなら十分でしょ」
「そこまでご承知いただいてるなら・・・お売りいたしましょう」

 ジーニが持参した羊皮紙にその呪文構成や詠唱を書きとめ、丸めて封蝋で閉じる間、ふとアレクの目が一つの剣術書に留まった。
 それは【魔風襲来】と表紙に書かれている。
 手を伸ばしてページを開いてみたところ、どうも魔法剣のようである。
 女性がそれに気づき、声をかけた。

「気になりますか?」
「あ・・・・・・ああ・・・・・・」
「この技は、剣を嗜みとする隣人と共同で開発した魔法剣技です。凄まじい烈風を巻き起こしながら・・・」

 女性は、手でふぁさっと辺りを払うような仕草をした。

「魔力を帯びた剣で敵を縦横無尽に斬り裂きます」
「詠唱は必要になるんだな?」
「はい。その分の時間がかかるのと、防御がやや疎かになってしまうのが欠点と言えます」

 しかし、と彼女は続けた。

「安易な防御型召喚獣については、【魔風襲来】でもたらされる烈風でほとんどが削り取られるはずです」

20130305_05.png

「シルフィードなんかの加護を削り取るってことか・・・」

 幼馴染がひょいっと顔を出して言う。

「買いたいなら買っていいんだぜ、アレク。強敵とやりあう機会も増えるだろうし、技のレパートリーが増えるのは大歓迎だからな」
「うむ・・・ギルがそう言うのなら」
 
 こうして、アレクは剣術書を手に入れた。嬉しそうに表紙を撫でている。

「この世捨ての村の技術と魔法・・・・・・。どこまで通じるか、今度また来て教えてくださいね・・・」
「はいはいはい。せいぜいモルモットのように頑張らせてもらいます」
「ジーニの憎まれ口って、どうしてこう・・・、ああもういいや、俺」

 頭を抱え込んだギルの横で、アウロラが首をかしげている。
 それに気づいたエディンがどうした?と聞いた。

「いえ、その・・・前の『月姫』関係の依頼は現金で儲かっていないはずなのに、差額が計算と合わなくて・・・」
「あー・・・うん、そんなに合わないのか?」
「ええ。2500spほど、どこかで収入があったようなんですけど」

 エディンは他の仲間には内緒にしているが、前の事件で実は召喚魔法の本を一冊盗んでいる。
 アウロラの言う2500spとは、その本自体が売れた金額そのままだったのである。

(こいつぁやばい。アウロラが本格的に調査しないうちに、手早くどっかで計算をごまかさねえと)

 ちなみに、『月姫』関係の依頼では≪ユニコの杖≫という、魔法生物や不浄な敵に素晴らしく効果の高い武器も、貰っていたのだが――。
 それを寄越したロワード氏が気に食わないと、杖はギルが真っ二つに叩き折った。
 珍しい魔法の品(何せ100年前の品だ)には違いないので、折った当初はジーニが狼狽して思い切り自分の杖でギルを叩いていたが、アウロラが取り成してどうにか落ち着き、そのことを口にすることはもうない。

(ま、使うとすりゃ、あの杖のサイズは俺向けだったんだが・・・細剣と杖を使うなんざぁ、曲芸モドキになっちまうからな)

 自分が計算をし直してやろうとアウロラに申し出ながら、エディンはやれやれとため息をついた。

※収入1600sp、【氷姫の歌】【神槍の一撃】【魔風襲来】※

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■後書きまたは言い訳
今回は店シナリオ2点です。私がとってもお世話になっている周摩さん作の歌の一族と、以前にもちらりとリプレイの中に出てきた、カムイさん作の世捨ての集落。
アイテムによるスキルの見直しが必要だったため、深緑都市ロスウェルに寄って地図作製組合の探索ポイントを増やす一方、ここで新スキルを購入する事にしました。

まず、歌の一族ですが・・・彼らの噂を、鳥間鈴女さん作の吟遊詩人寄合所で聞いたことにしていますが、これはシナリオの本筋にはありませんのでご注意を。目的としては、「同族(エルフ)をミナスに会わせる」「アウロラの対多数用呪歌を買う→そこからミナスの新スキルにも繋げる」あたりです。
後者については9レベルに上がった時のお楽しみということで・・・分かる人にはばれている気がしますが。
それにしてもショコラが可愛い。ほややん。
サラーさんのお声は、きっとまろやかで瑕の無い声なんだろうなあ・・・と漠然としか想像できず、あんな形容になっています。うちのアウロラの場合は・・・設定参照で。

世捨ての集落。いきなりジーニが喧嘩売ってすいませんでした。
いや、その・・・・・・ジーニは禁呪が嫌い(行過ぎた技術や魔法は必ず滅びをもたらすから)という設定があるので、これを守るとどうしてもああいう反応になってしまうのです。あのおねーさん、好きなのにー。(笑)
一応、説明を読む限り【神槍の一撃】は禁呪ではなさげなので、大ダメージ魔法を確保のために購入。
それから、【飛礫の斧】ととっかえっこする形で【魔風襲来】も購入しました。このスキルの召喚獣出てる間、全体的に能力下がるんでちょっと辛いんですが、それを補って余りある技能だと思っているので我慢。
こちらのお店のスキル絵は本当に素敵なので、レベルが上がれば後もう一つくらい買うかもしれません。

あ、そうそう。本文にも書いてますが、前回のシナリオで手に入る≪ユニコの杖≫は、取っておいた方がいいアイテムです。売却値は0spですが、神聖属性・魔力属性でそれぞれレベル3比ダメージ、全属性ダメージもレベル2比あります。物理ですが、器用/好戦適性キャラがいるのなら持たせて損はしないはず。
・・・うちはなんと言うか、ギルが「絶対こんなの使うもんか!」と主張した為に、やむを得ず破棄したんですけどね。

次回はいよいよ、爽やかなシナリオを。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/06 06:49 [edit]

category: 小話

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Wed.

金狼の牙の小旅行 1  

 小鳥はさえずり、木々の合間から差し込む日の光が、心地よい暖かさを作ってくれている。

「ふむ・・・流石”深緑都市”と呼ばれるだけあるな・・・」

20130305_01.png

 エディンはのんびりと辺りを見回した。
 ”金狼の牙”一行は、『深緑都市』ロスウェル近郊のキルヴィの森に来ていた。
 森の奥深く、憩いの滝という場所に『歌の一族』と呼ばれたエルフの一族が住んでいたという噂を、リューンにある吟遊詩人の寄合所で聞いている。
 今はそこで呪歌を教えているエルフがいるそうで、隠れ里を失ったミナスの母の手がかりを知らないか、一行は確かめに向かっていた。
 ぴたり、とギルのブーツが止まる。
 不審そうに幼馴染がギルに問いかけた。

「どうした?」

20130305_02.png

「今、あっちの方向で水の音がしたぞ。行ってみよう・・・」

 ギルの指し示す方向へ進む事、10分足らず。
 勢いよく流れ落ちる滝の前に彼らは出ていた。
 物珍しそうにジーニが清水を覗き込むのを見ながら、ミナスはリーダーを振り仰いだ。

「滝だ・・・ここが『憩いの滝』かな?」
「違うよ、ここの向こう側がそうだよ」

 突然、背後から声をかけられた。
 驚いてぴょん!と飛び上がったミナスは、着地前に体を180度回転させて声の主を確かめる。
 そこに立っていたのは、黒い髪と瞳を持つミナスよりも幼いエルフだった。

「あなたたち、お客さん?『歌の一族』にご用なの?」

20130305_03.png

 エルフの少年は、岩壁に開いた裂け目から出てきて質問する。
 彼は『歌の一族』の者らしい。
 自分の知るエルフではなかったことに内心落胆しながらも、同族はやはり珍しいので、ミナスは上ずる声を押さえつつ彼に話しかけた。

「うん、そうだよ。君が案内してくれるの?」
「うん、いいよ。さ、こちらへどうぞ~」

 エルフの少年は岩の裂け目にするりと消えてしまった。
 どうやら中は空洞になっているらしい。
 ”金狼の牙”たちは見失わないように急いで後を追った。
 先程の滝よりも、よほど大きな轟音が響き渡っている。思わずジーニが杖を握っていない方の手だけ耳に当てて、ふーむと気の抜けるような声を出した。

「すごい音ね・・・」

 水分を含んで滑りやすくなっている苔に気をつけながら、エディンはミナスに問うた。

「エルフの隠れ里ってなあ、みんなこんな感じなのか?」
「うちは違ってたよ。やっぱり、それぞれ特性があるんじゃ・・・」

 途中で言葉が途切れたのは、滝の更に裏側にあったその風景が非常に美しく、また見事であったからだ。 
 アウロラが呆気に取られたように言う。

「ここが・・・『憩いの滝』ですか・・・」
「お~い、サラー!お客さんだよ~!」

 黒い髪を持つエルフの少年は、滝の側の岩に腰掛けているローブの女性に呼びかけた。
 女性は”金狼の牙”たちをちらりと見やると、微笑んで会釈をした。
 そのまま、背の低い少年と目線を合わせるようにして言う。

「ご苦労様、ショコラ」

 驚くほど澄んだ――まるで水晶でできたカナリアのような美声である。
 にっこりと笑い返した少年の頭を撫でて、女性は立ち上がった。

「あなたたちがお客様ですね。初めまして、サラーと申します。この子はショコラ。ほら、挨拶なさい」
「そういえば名前も言ってなかったね。ゴメンね。ボクはショコラだよ」
「僕はミナス。僕らの中で歌を歌うのは、アウロラだけなんだけど・・・」

 一所懸命にこちらを見やるミナスに一つ頷くと、サラーはすんなりと指の長い手で竪琴を持ち直し、口を開く。

「歌がご入用でしたよね。・・・では、こちらへどうぞ」

 一際大きく、平らな岩に近づくと、彼女は懐から羊皮紙の束を取り出して広げて見せてくれた。
 そこに書き綴られているのは、間違いなくエルフの呪歌であった。
 たちまち、アウロラは今まで呆気に取られていた様子を取っ払い、真剣な顔で束を丁寧に捲り上げている。

「学びたい歌はありますか?気になる事がございましたら遠慮なくご質問くださいね」
「詳細については・・・?」
「裏側に書いてあります。もちろん、選んでいただければ私が説明いたしますが・・・」
「わかりました。皆さん、申し訳ないですが少々お時間をくださいね。全部眼を通してみたいので」

 いつになく貪欲な知識欲が刺激されたのか、アウロラはそう言って一枚一枚の楽譜を熱心に検討し始めた。
 その様子に軽くため息をつくと、エディンはサラーに向き直り質問した。

「その・・・見て分かるとおり、俺らもエルフの子を連れているんだがね。この子、ダークエルフとのいさかいで母親や一族からはぐれちまってるんだ」
「まあ。お気の毒に・・・・・・」
「そんなわけで、同じ里のエルフを探してる。あんたヘルブラウランツェ・・・って氏族のこと知らないかい?」

 サラーは残念そうに首を横に振る。

「そうか、仕方ねえな・・・。じゃあ、『歌の一族』のことを詳しく教えてくれねえか?話せる範囲でかまわない。ミナスの親たちの手がかりになるかもしれねえ」
「お役に立てますかどうか・・・とりあえず分かりました。『歌の一族』というのは、秘伝ともいえる呪歌を代々受け継いできたエルフの一族の事を指します」
「どうしてここで教えることにしたんだ?他のエルフは?」
「・・・・・・5年前の内乱によって、継承者が死んでしまったからなのです・・・」

 たちまち、サラーの美しい面が微かに悲哀と――それ以上の悔悟の感情で歪んだ。

「原因は黒エルフにそそのかされた継承者の弟でした。彼は私とショコラを除く、一族の大変の仲間を殺しました」
「・・・ふーむ。やっぱり不倶戴天の敵か、黒エルフは」
「私とショコラは偶然街に出ていたため助かりましたが・・・両親や兄弟は・・・」

 サラーはそのままうつむいた。
 エディンはきまずい雰囲気を感じると、それ以上の質問はやめた。
 肝心の一人であるミナスはといえば――子どもはやはり子ども同士がいいのか、ショコラがミナスを相手に呪歌のルーツになった童話を教えている。
 その近くにギルがいるのは、同レベルだと判断されているからなのか否か。

「むかしむかし、街はずれの森に、一人の魔法使いが住んでいました。その魔法使いは一匹の子インプを従えていました・・・」
「インプ知ってる!こないだ、依頼人がインプに騙されてた!」
「満腹食堂の事件な・・・」
「そんなことあったの?」
「あ、ごめん。話の腰折っちゃった。続き続き!」
「あ、ええと、それで子インプはある日、魔法使いが大切にしていた魔法の瓶を・・・・・・」

 その様子を、アレクとジーニが頬杖をつきながら眺めている。

「やれやれ。この分じゃしばらくはここから動けないだろうな」
「アウロラがあれで、ミナスにお友達ができちゃったんじゃ仕方ないわね。・・・とりあえず、終わったら起こしてね」
「・・・・・・何?」

 いい具合に陽光で暖められた岩の上に、ごろりとジーニは寝転がった。岩の上を寝るためのベストポジションにする者は少ないだろうが、野営になれた冒険者の基準からすると、ジーニの今いる岩は寝転がるのに最適な形と温度であった。

「おやすみなさーい」
「・・・・・・えーと」
「アレクはん。諦めなはれ、黙って耐えるトコですわこれ」

 悟ったかのような雪精トールの言に、アレクはもうそれ以上何も言う事がなくなった。
 ――かれこれ2時間後。
 吟味を終えたアウロラが、【氷姫の歌】という精神的ダメージを多数に与える呪歌を選び、それを聞いたミナスが後日、とんでもない精霊と契約を結ぶこととなったのだが・・・・・・。
 この時は誰も予想していなかったに違いない。

2013/03/06 06:27 [edit]

category: 小話

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