Fri.

コデルモリアの英雄 6  

 裏口から、ラクーンの遺体をマントに来るんで運び出した一行の前に、山賊の残党が一人現れた。
 目は血走り、口から泡を吹きながら喚いている。

「ち、畜生っ!本当に頭領も若頭もみんなやられちまったってのか!?」
「・・・そのとおりです。あなたも早く投降を・・・」

 冷静なアウロラの言葉を耳に入れる余裕は、既に残党の心にはない。
 彼は掲げていた松明を殊更見せ付けるように高く上げると、「こうなりゃヤケクソだ!」と怒鳴り始めた。

「森に火をつけて村もアジトも全部焼き払ってやる!」
「何ですって!?」

 咄嗟に止めようと思ったアウロラや他の冒険者たちだったが、その挙動が一歩遅れたのは、皮肉にもラクーンの遺体を抱えていたからこそであった。
 それに早く気づいたミナスが、もうダメだと目を瞑ったときに誰しも予想しなかったことが起こった。

コデルモリア14

「そんなことさせるか!」

 ルースターが腰に佩いていた小剣を真っ直ぐに突き出し、目の前の残党の腹へと突き入れたのだ。

「危ないよ、ルースター!」
「きゃいんっ!?」
「ざまぁみろってんだ。ん??」

 息絶えた残党の手放した松明から、ルースターの服に引火している・・・!
 赤々と燃えるそれをどうにか消そうと、マントを脱いだエディンが必死に布を叩きつけ消火しようとするも、今までの暮らしで燃えやすい物でも染み込んでいたのか、たちまちルースターが火だるまになっていく。

「スネグーロチカ、お願い消火して!」
「動くな、ルースター!動かれると雪の精がお前さんに近寄れない!」
「あちいっ!火が!火がーっ!」

 エディンの腕を振り切り走り去っていくルースターを、誰も止める事はできなかった。
 そして池の淵で、ルースターはほとんど黒焦げの状態で倒れていた。

「へへっ・・・・・・。ちょっといいところを見せてやろうと思ったらこの有様だぜ」
「・・・・・・お前さん、立派だったよ。おかげで森も村も助かった」
「俺みたいな・・・人間の・・・クズ・・・でも少し・・・は人の役に立てるもんだな・・・・・・」

コデルモリア15

 それがルースターの最期の言葉だった。

 村に戻ると、大勢の村人たちが総出で不安そうな顔をしつつも冒険者たちを出迎え、質問攻めにした。
 山賊はどうなったのか?
 3人組はどこへ行ったのか?
 どの村人たちも聞きたがっていることは共通していた。

「まず、聞いてほしい。山賊はもう襲ってこない。・・・・・・俺たち”金狼の牙”と、英雄3人が・・・山賊のアジトを潰したからだ」

 ギルの説明で山賊の脅威がなくなったことを聞くと、皆一様に安堵したような顔に変わった。
 その日の昼ごろには村の年寄りが集まって寄合が始まった。
 今回の件の事後処理についてだ。
 最大の争点は、国に今回の事件を報告するべきか否かだった。
 政府以外の第三者――この場合は冒険者たち――の力を借りて武力組織を制圧したとあらば、国がこの村に警戒心を持ち、最悪の場合、村が危険因子と認定されるかもしれない。
 そう穏健派は主張しているのだ。
 ちょうど、国も戦争に必死になっていて山奥の山賊の消息までには構っていられない状態であり、事件を有耶無耶にして、歴史から抹消してしまうには好条件が揃っていた。

「・・・とはいえ、隠ぺい工作がばれると国の不信を買いますからね。騎士が不信を抱いたカナナン村のように」
「話し合いの決着は、まだまだ先ってところかな」

 アウロラとアレクがそう言って顔を見合わせた。
 村の寄合の議題に、自分達のことが出たことも二人は知っていた。
 村の用心棒として雇ってみるか、そのまま帰ってもらうか・・・・・・。
 過激な者は口封じのために毒殺すべきだとまで言ったそうだが、もし彼らが”金狼の牙”の正体をちゃんと知ったら、そんなことはつゆほども思わなかったろう。
 彼らは、数少ない本物の『英雄』たちであった。
 最終的には、山賊討伐の報酬800spと旧時代の金貨4枚を支払って帰ってもらう・・・ということで決着したようである。

「・・・・・・で、あいつら山賊のお墓も掘るの手伝ってやったんだって?エディ、お疲れ様」
「ああ。ま、悪党の名は残す必要なしとか、隠ぺい工作の邪魔になるとか、いろんな意見が出てたらしいがね」
「墓石は用意して、墓標は刻まないで落ち着いたんだっけ?議論長かったわねー」
「3人組ににも墓石を用意するな、て意見もあったがな」

 ジーニは旧金貨を手の平に乗せて鑑定しながら、エディンと話をしていた。
 あの3人については、ギルとミナスが頑張って口添えし、墓石に名前だけ刻むことが決定したのである。
 自分達の去就と報酬も定まり、彼らの墓が作られたのも見届ければ、もうこの村に用はない。
 近くにあったベニマリソウをアレクが供えて、出発の合図となった。
 清清しいまでの快晴で、季節の鳥が朗らかにさえずっている。

「待ってー!」

 女の子が息を切らしながら、冒険者たちの後を追ってくる。

「冒険者さんたちに最後にもう一度だけ聞いておきたいと思って。ぜえ・・・ぜえ・・・」
「大丈夫?」

 ミナスが覗き込むのに頷き、呼吸を整えると彼女は再び口を開いた。

「村の大人たちは英雄さんたちのことを悪く言うけれど、悪い人たちだとは思えないの。冒険者さんたちはあの人たちをどう思ってるの?」
「3人は間違いなくこの村を救った英雄だ。彼らが居なければ、この村はダメだったかもしれない」

 しゃがみ込んだギルが、真っ直ぐ女の子の瞳を見つめながら言った。
 嘘偽りのない気持ちである。事実、彼らは彼らにしか出来ないことをやってのけて、それで命を落としたのだ。
 己の役割を果たして命を落としたことのない者に、それを否定されるいわれはなかった。
 女の子はにっこりと微笑んだ。

「聞いてよかったわ。ありがとう。あたし、大人になってもずっとお墓参りし続けるわ」

コデルモリア16

※800sp、≪旧金貨≫×4※
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■後書きまたは言い訳

56回目のお仕事は、たこおどりさんのシナリオでコデルモリアの英雄です。
4レベルから9レベルまで対象と言う、討伐シナリオとしてはかなり幅広い感じの作品で、某庵謹製のキーコードを使うと若干有利にはなりますが、ないからといって詰むこともないというありがたさ。
作者様が「今回は戦闘などよりストーリーを重視」とリードミーにお書きになったように、なんともいえない切なさや後味の悪さが、消えない染みのように心に残ります。(褒めてます)

今回、魔光都市ルーンディア(ロキさん作)で仕事を引き受けたことにしておりますが、本編はクロスオーバーなさっていません。≪フォレスアス≫は、後ほどポートリオンで売り払うために自分で購入しております。・・・物語的には、その≪フォレスアス≫でフォックスの精神を正常化できれば格好よかったんですが、さすがに無理でした。あれー?(笑)
また本来であれば、男の子に起こされて正体を突き止めに行くことになるのですが、ああみえみえの挑発されたんじゃ「見張ってください」と言ってるも同然だったので、自主的に監視したことにしました。

そしてこっそり、宿屋【星の道標】の噂をここで披露してみたり。アレクの言う大げさな詩を歌う吟遊詩人はセアルさんです。・・・もっとも、ありがちな見栄で詩を大げさにしてるんじゃなくて、手に余る仕事が来ないよう仲間たちの保身のために・・・という意味合いが含まれてらっしゃるようですが。
これ、環菜様に許可取ってないんだけど・・・後で謝るというか今ここで謝ろう。
変な噂でクロスオーバーしてすいませんでした!

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/29 05:45 [edit]

category: コデルモリアの英雄

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Fri.

コデルモリアの英雄 5  

 屋内に潜む山賊の手下たちを、地の利が向こうにあるために少々手こずりながら進んできた”金狼の牙”たちは、とうとう頭領の前までやってきていた。

「くそっ・・・!ここまでやってきたとは信じられん!」
「覚悟して貰おうか。いくぜ」

 そう言って戦おうとしたギルだったが、部屋が狭いために相手の攻撃を回避するのが難しい。
 もっとも、それは敵側にとっても同じ事だったようで、アレクやエディンが手下たちへ容易に攻撃を当てている。
 それに気をよくして、【獅子の咆哮】で広範囲に攻撃を仕掛けると・・・。

「何!?絶対命中だぞ、何でだ!?」
「俺は身かわしのプロだぜ。そんなへっぽこ攻撃当たるものか!」

コデルモリア11

 後ろから見守っていたルースターが、半ば悲鳴のように叫ぶ。

「こんなのどうやったら倒せるんだ!?鑑定でもすれば分かりそうだが・・・」
「そんなことしてる暇はねえな。こういう時は・・・・・・こうすんのさ!」

 エディンは二刀を構えると、まずレイピアで頭領の右肩を突き刺そうとした。
 それに気づいて嘲った頭領が余裕で回避しようとする位置に、すかさず≪スワローナイフ≫の青い刀身が突き出される。
 それも何とか避けた頭領だったが、いつの間にか右肩の位置から移ったレイピアが右耳の傍を掠めた。

「うおっと!」

コデルモリア12

 頭領はフェイントにびっくりして体勢を少し崩した。
 だがジーニには、その少しで充分過ぎた。

「なるほどね・・・。お行き、あたしの風よ!なぎ払え!」

 ・・・・・・頭領の大きな身体が、部屋の隅に置かれていた棚に叩きつけられる。

「なぜなんだ・・・・・・利口なやつならたいていあのまま金を受け取って村を立ち去るはずなのに・・・・・・」
「俺たちがお前らより強くて、お前らが気に食わなかったからだ」

 ギルが止めを刺したのを見届けた山賊の生き残りは、慌てて持っていたナイフを捨てて投降した。

「あわわわ・・・・・・降伏するので命だけはお助けくださーい」

 この生き残りは、意外と重要な情報を持っていた。
 酒棚の下の段に入っている白旗を屋上のポールに掲げると、敵に本拠地を明け渡したということで、山賊団が解散する仕組みになっていたと言うのである。

「そうすれば、あなたがたを生き残りの仲間たちが襲ったり、ましてや村を襲撃することはないでしょう・・・・・・」
「どうする?信じる?」
「信じていいと思いますよ。・・・あれだけの実力者だったんです。自分が死んだ後の解散も、ちゃんと計算に入れていたと見ていいでしょう」

 ジーニの問いに、アウロラはギルの怪我を癒しながら答えた。
 戦いに倦んでいたであろうラクーンが、仲間たち以外動く者の居なくなった部屋に入り込み、酒棚の下の段を探っている。

「これが山賊が言ってた白旗ですね。私が早速これをつけてきましょう」
「僕も一緒に行こうか?」
「いえ、君は他の方の治療がおありでしょう。一刻も早くこれ以上争いが続くのを阻止しなければ!」

 ミナスの申し出を断った彼は、奥の扉から出て行く。
 結局戦った自分たちへの皮肉にも見えるそれに、やれやれと息をついていたところ、ラクーンの悲鳴が聞こえた。

「え!?ラクーンさんの声?」
「早く上に行くぞ!」

 驚いた様子のミナスを抱えるようにして、ギルが走り出す。
 他の仲間も急いで奥の扉を潜ると、ラクーンが必死に叫んでいる声が耳に届いた。

「争いは終わったんです。その剣を収めてください!」
「上にまだ一味がいたのか!」

 一行は目の前の階段を駆け上がったが、一歩遅かった。
 屋上へと上がった冒険者達がまず目にしたのは、高らかになびく白旗。
 その傍らで血を流して倒れているラクーン。そして、血のついたナイフを持った山賊だった。

「ラクーン!!」

 ルースターが駆け寄るも、もう事切れていることは明らかだった。
 山賊の手下が、狂ったように弁護をしている。

「ち、違うんだ!これは手違いだったんだ!誤解なんだ!」
「手違いですって!?どこがよ!」
「頭領がもうあんたらにやられていると知ってたら刺したりしなかったのに!」

 自分は悪くないと必死に弁護を繰り返していた山賊が後ずさる。

「危ない!」

コデルモリア13

 ギルが手を伸ばしたが、端っこにあった山賊の身体は既に落下していた。
 ・・・・・・白旗は強風に煽られてなびいている。
 辺りを見渡すと、散り散りに逃げていく山賊たちの姿が見える。先に戦った者達の遺体を見て呆然としている者もいた。

「・・・・・・ギル。もう、行こう。ラクーンさんを連れて行ってやらねば」
「・・・・・・うん」

2013/03/29 05:44 [edit]

category: コデルモリアの英雄

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Fri.

コデルモリアの英雄 4  

コデルモリア8

「危ない!」

 いちはやく殺気を感知していたエディンだったが、その言葉は遅かった。
 なんとなれば、遠くから飛んできた矢はすでにフォックスの眉間を貫いていたからである。
 ボウガンを構えて潜んでいた、山賊の一味の仕業であった。
 ギルのひと睨みでボウガンを放り投げ逃げ出した山賊には構わず、アウロラとミナスが必死に手当てを施そうとする。

「ダメだ・・・眉間に矢が当たったんじゃ、もう・・・」
「ミナス、ちょっと待って下さい。精神を回復する方法さえあれば、一時的にですが気が戻るかもしれません」

 アウロラはそう言うと荷物袋から≪紅の果実酒≫を取り出し、フォックスの口に上手く飲み込ませた。
 ≪紅の果実酒≫はポートリオンで販売されている、紅果という果実によって作られた酒である。精神状態を落ち着かせるほか、わずかだが体力も回復してくれる品だ。
 果たして、気絶していたフォックスは目を覚まし、

「ああ・・・・・・めまいがする」

コデルモリア9

と、震え声で言った。
 もう長くないことを自分でも悟ったのであろう、ルースターに大丈夫かと問われた彼は、最期にと山賊のアジトの合言葉を言い残した。

「『アドケラヒ』だ。この合言葉を言えば盗賊ギルドの裏口の扉は開く・・・・・・盗賊から、盗み聞いた・・・・・・」
「フォックス・・・」
「ルースター・・・・・・ラクーン・・・・・・死ぬなよ・・・・・・」
「フォックス・・・・・・?フォーーックス!!」

 ルースターが必死にフォックスの肩を掴んで揺さぶったが、既にその身体の魂は失われている。

「待ってろよ。フォックス。仇を討って後で墓を作ってやるからな」
「・・・・・・フォックスが示していたのはこっちの道だ。行こう」

 非常に利己的な小悪党でしかないと思っていたのだが、意外と仲間思いだったのか。
 それとも異常事態のせいで、自分でもそう意図していないのに熱くなってしまったのか。
 どちらとも取れるような気炎を上げるルースターをよそに、エディンは先へ進む方向を指した。
 一行は山道を抜けて大きな道に出た。
 近くに滝でもあるのか、水の流れる音が聞こえる。
 辺りは少し明るくなり始めている――下手したら、盗賊たちが村へと出発するかもしれないと、気ばかりが焦った。
 ラクーンが、汗をふきふき言う。

「今さらこんなこと言っても手遅れかもしれませんが、盗賊たちに頭を下げて村を襲わないように頼んでいただけませんか?」
「俺たちが、頭を下げる?」
「平和的な解決法もあるはずです。私は、これ以上死人が出るのを見たくはないんだ・・・・・・」

 ひたすら仇を討とうと熱望するルースターと対照的な彼の言葉は、しみじみと冒険者たちの心に響く。戦場で多くの死をラクーンは見届けたのだろう。
 しかし。

「問題は、奴らにそのつもりがあるのかどうかだと思うがね。・・・窮鼠猫を噛むってのは、注意しなきゃならんぜ」

 一同の少し先を先行することになったエディンが、そう言って聞き耳や辺りの様子を探りながら返した。
 集団で待ち伏せている気配があるのだ。殺気も感知している。・・・・・・ラクーンの言葉は重いが、彼らのほうから仕掛けるつもりは満々なのだからぶつからないわけにはいかないだろう。
 支援魔法をかけた”金狼の牙”たちが先に進むと、そこには待っていたと言わんばかりに盗賊が3名、そしてそのリーダー格らしき人間が1名待ち構えていた。

「おやおや。誰かと思えば自称英雄の腰抜けたちではないか。・・・物騒なのが数名ついてきているようだが」

コデルモリア10

 リーダー格の男は、ちらりと”金狼の牙”たちを見てから言った。

「一応聞こう。一体何の用だ?」
「村への攻撃をやめてくれ。受け取った1000spは返すし、それに加えて2500spも支払おう」

 ラクーンの嘆願は、しかしリーダー格の男によって否定される。

「一度、頭領が決めたことは覆さないのが山賊の掟だ」
「・・・・・・ま、そう言うと思ったね」
「むしろ分かりやすいな」

 ギルとアレクがすらりと得物を抜き払った。たちまち剣戟が響く。
 リーダー格の男は、それでもギルやアレクと同じくらいの実力は持っているようであった。
 こんな片田舎で山賊にさせておくにはもったいない腕だ、と思いつつも、エディンは冷酷に彼の胸をレイピアで突き刺した。

「うちの頭領と本気でやりあおうってのか。後悔するぞ・・・・・・」
「やって後悔する方が、やらないで後悔するよりマシだと思う性質でね」

 エディンはリーダー格の男の身体を乱暴に蹴飛ばし、レイピアを引き抜いた。

「お前さんも、もう少しついていく相手を選ぶべきだったな――いい腕してたのに、もったいない」

 アジトの表口には用心棒が番を張っている。一同は裏口に回ってアジトへ侵入することにした。
 必要な合言葉は、フォックスの遺言で貰っている。
 聞きなれない声だが正解を言い当てたために、ノコノコ裏口を開け放った見張りを手際よく気絶させると、彼らは静かに屋内へ忍び込んだ。

2013/03/29 05:43 [edit]

category: コデルモリアの英雄

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Fri.

コデルモリアの英雄 3  

 その夜は食料が少ないのを埋め合わせるかのごとく、村人たちが派手に民族楽器を鳴らし、歌い、踊り、普段のストレスを発散させていた。
 だから、宴が無事終わった今となっては誰もが深い眠りに入っているはずだ――と考えていたのだろう。
 コデルモリアの英雄が泊まっている家の近くでは、人影が蠢いている。大八車にたくさんの食料と寝具を積んでいるようだ。
 例の英雄三人組であった。
 冒険者たちと広場で出会った男の子(人間のひそひそした話し声で起きてしまったそうだ)は、風車小屋の影に隠れながら、3人の様子を観察している。

「これで荷物は全部かな」

 鼻の下の髭を撫でつつ、ラクーンが言った。
 ルースターと宴で自己紹介していた無精ひげの青年が肩をすくめる。

「さっさとここからずらかろうぜ。村人に見つかると面倒だ」
「これだけ食料を持っていけば、あと半月は食うに困らないだろう。町まで悠々自適な旅ができる」

コデルモリア5

 狐目の男はフォックスと言う名前なのだが、名前に相応しい目を細め、武器の胼胝もない手をこすり合わせている。
 どう見ても夜逃げの算段にしか見えない。
 もうしばらく何か喋らないか、”金狼の牙”たちは様子を見ていようとしたが、男の子が遂にしびれを切らせて飛び出していった。

「待てえっ!あんたら村から逃げるつもりなのか!?」
「やべえっ!村のガキだ!逃げるぞ!」

 三人組は逃げる気満々だったようだが、”金狼の牙”たちが3方向から彼らを取り囲んでいるのに気づくと、観念したのかその場に全員座した。
 ルースターが舌打ちするのに激昂した男の子が、石を投げつけようとしたがアウロラに制される。

「まずは、今までの経緯を聞きだすほうが先決ですよ。・・・・・・さて、当然話していただけますよね?」

 声を荒げたわけではない。いたって物柔らかな声音であったが、そこに含まれている迫力にびくりと3人とも肩を震わせる。
 一番人懐こい様子をしたラクーンが、まず口を開いた。

「見ての通り、私たちは英雄などではありません。戦争から逃げてきたしがないただの敗残兵ですよ」

 彼の言によると、この村はたまたま逃げてきた先に運良く見つけたものだったらしい。命からがら逃げている三人組は、とにかく安全と飯にありつきたかったのだ。
 初めは、村人たちを騙すつもりなんてなかった――と、彼は語る。

「私たちの姿を見た村人たちが、英雄様ではないか、いや英雄様に違いないと勝手に早合点してあれよあれよと祭り上げられてしまいました」

コデルモリア6

「それに気をよくして自らも英雄であるかのように振舞った。そういうわけだな」

 アレクが厳しい口調で訊ねるのに、ラクーンは首を縦に振った。

「しかし、山賊退治なんておっかねえ真似は我々には無理だ。だから夜逃げしようと・・・・・・」
「全く救いようのない大人たちだぜ。明日の朝になったら父ちゃんや村長に土下座して謝ってもらうからな」

 男の子が腕を組んで言うのに苦笑するかと思ったのだが、意外に真面目な顔のままフォックスが釘を刺した。

「ところが、明日の朝にどうするかなんて悠長な事を言ってられる事態ではないのだよ」
「・・・どういうことだ?」
「明け方にここに山賊がやってくる」

 アレクの質問に間髪いれず答えが返ってきた。

「いつものような強奪目的じゃない。村人の皆殺しをしに来るんだ」
「な、何だって!?」

 男の子が動揺して声をあげるのに、ミナスがそっと手で口をふさいだ。
 山賊たちもまた、村人が英雄を雇って山賊狩りをさせようとしているという情報をどこからか仕入れていた。
 彼ら山賊たちは、今度は自分達が脅かされる立場になるのはたまらないと、女子供も含めた村人全員を殺し、火を放って証拠隠滅をする計画を目論んでいるのだそうだ。
 何故フォックスがそれを知っているのかというと、フォックス自身が山賊の一人と交渉をしたから・・・だと言う。

「山賊にも頭の切れる人間が居て、私に1000spを手渡したんですよ。これで村と山賊の争いには一切関与しないでくれってね」

 その金を持って今夜中に村から出て行くこと。それが、フォックスと山賊の取り決めであった。
 ルースターがひどいと喚く男の子を鼻で笑い、冒険者たちに向き直る。

「あんたらが取るべき道は2つだ。この村に残って犬死するか。俺たちと一緒に逃げるか」
「取るべき道はもう一つある」

コデルモリア7

 ギルがそこでやっと口を開いた。

「なん・・・・・・だと・・・・・・」
「あんたたちを道案内にして、明け方までに盗賊を一掃する」
「何を言い出すかと思えば・・・・・・。とち狂ったとしか思えねぇな。村人に大した恩義があるわけでもないくせに」

 ルースターは”金狼の牙”たちを翻意させようと、相手がゲリラ戦のプロであると熱弁していたが、そこをフォックスに軽い咳払いで制された。

「まあ、仮にあなたたちに彼らを掃討するだけの明確な動機と根拠と絶対的な自信があったとしましょう。だとしても、私たちがあなたがたを裏切らないとは限らないのですよ」

 自分は山賊からお金を貰ったから加担する理由はある、しかし冒険者たちに協力する理由はない――そう明言したフォックスに、ギルはむしろあどけない笑みで言った。

「やりたいこと、やるべきことをしないまま後悔するのは御免だからさ」
「正義感がお強いのですね。仕事でお金を届けただけの村なのにも関わらず」
「正義?・・・・・・そんないいもんじゃない。ただ、今度は救いたいだけだ」

 ギルの脳裏に、麻薬の原料を栽培していた村が思い浮かんだ。自分がこの手で村人たちを皆殺しにした、小さな村だ・・・。
 皮肉な話だと思いつつも、たまにはこういうことがあってもいいだろうと、ギルはフォックスに笑いかけた。

「人はどこかで壁にぶつかって妥協を覚えていくものです。そのまっすぐさがうらやましい」
「そうかい。で、どうするんだ?」
「分かりました。あなたがたに付き合いましょう」

 ただし、とフォックスは続けた。

「あなたがたが山賊に勝ち目がないと判断したら、すぐに見殺しにしますからね」
「万に一つもないな、そんなこと」

 何せ彼らは一応、竜や死天使、キーレの蛮族たちと渡り合ってきた身である。山賊に後れを取るつもりはなかった。
 しきりについて行くと主張する男の子を宥め、村人たちにこの事態を知らせるよう説得した一行は、フォックスの案内で道なき道を歩いていった。

2013/03/29 05:42 [edit]

category: コデルモリアの英雄

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Fri.

コデルモリアの英雄 2  

 コルデモリアの英雄を探すために住民へ話しかけていた”金狼の牙”たちだったが、村人たち自身も英雄の真偽について半信半疑といったところらしい。

コデルモリア2

 それでも中の一人が、

「英雄様なら子供たちと遊んでるのを2時間くらい前に見たぜ」

という証言をした。
 目的地は川辺ということだったので、荒れた道をのんびりと歩く。

「随分と荒れてるわね」
「多分さ、洗濯をしに人が歩いてるうちに道になったんだと思うぜ」
「あ、なーるほど」

 冒険者としての仕事でない限り、こういった小村に縁のないジーニが不思議そうに言うと、ギルが肩をすくめて教えた。
 ギルの生まれ育った村も、またこういう荒れた土地にあったらしい・・・・・・本人はあまり詳しい事を話そうとはしないのだが。
 遠めに見ても人がいない道を見て、「違うところに行ったかなあ」とミナスが小首を傾げた。
 その頭にぽんと手を置いて、エディンが優しく提案する。

「広場にいってみよう」
「そっか、そっちにいるかもしれないね」

 しかし、昼頃はまばらに居た村人たちも、夕暮れ時になるとほとんど姿がない。
 広場といっても家々とは離れたところにあるので、祭でもない限り用はないのだろう。
 閑散としているがゆえに、小さな2つの人影がぽつんとあるのが目立つ。恐らく村の子供だろうと思われた。
 何やら言い争っているのが耳に入る。
 最初は何を言っているのか分からなかったが、よくよく話を聞いていると男の子がコデルモリアの英雄が偽者であると主張し、女の子が本物だと反論しているのだった。

「だいたい英雄譚ってやつはそこらの素人が作った武勇伝に、お調子者が尾ひれをつけて大げさになっていくものさ」

 男の子の台詞を聞いて、アレクが一理あるなと感心したように頷いた。
 たしかに冒険者の世界でも、取るに足らない人間が過大な評価を受けたり、あるいはその逆の評価を受けることも珍しくなかった。

(そういえば、≪星の道標≫という冒険者の店にも、大げさな表現で歌う吟遊詩人がいるって話だな・・・。あそこは中々腕のいい冒険者がいると親父さんが言っていたが、さて前者なのか後者なのか。)

等と、アレクが風の噂で聞いたことを思い出していると、男の子はさらに年不相応な目つきで、女の子を諭すように言い募っていた。

「蓋を開けてみれば何てことはないありふれた出来事だった、なんてことはざらにあることだぜ」
「違うわ!だって、あの人たちはとても優しい目をしているもの。嘘なんてつくはずがないわ」
「へっ。おめぇはまだガキだから男を見る目がないんだよ。あれはただのやさぐれ者だ」

 その台詞を耳にしたアウロラは、男の子の口調が大人の物真似らしいと見当がついた。
 きっと、父親辺りがそういった意見を発しているのを目撃したのだろう。
 2人はさほど年が離れているようにも思えなかったが、数ヶ月単位でしか年上でない関係なのだとしても、大人ぶりたい年頃なのだろう・・・特に、異性の前では。
 ただ、そんな微笑ましく思っている”金狼の牙”たちをよそに、女の子はもはや泣きそうな顔になって怒鳴っている。

コデルモリア3

「何よ!あんたも子供のくせに!」

 そのまま言い争いから掴みかかりそうになっていたが、男の子が先にこちらに気づいたらしい。
 ばつが悪そうな顔をして去っていった。
 あっかんべーをして男の子に悪態をついていた女の子だったが、こちらも少々ばつが悪くなったものらしく、英雄の行き先を訊ねるとすぐに答えてくれた。

「さっきまでは、ここで私に冒険のお話を聞かせてくれていたんだけど、あいつがやってきたのと入れ替えにどこかに行ってしまったわ」

 村の倉庫について聞かれたからそちらに移動したのかもしれない、と女の子が言うので、ギルの眉間に皺が寄った。
 こういった小さな村という共同体において、村中の食料を備蓄している倉庫は非常に大切な場所である。
 少なくとも、村長や村の有力者に聞かず、年端もいかない子供を捕まえて場所を聞き出そうとする辺りに、良くない予感がしている。
 踵を返して、急いで来た道を戻ろうとする”金狼の牙”を、女の子が呼び止めた。

「あの英雄様たちは本物よね?あいつが偽者だって言ってたのはデタラメよね?」
「・・・・・・俺たちはまだ会ってないからな。どういう人か分からなきゃ、答えようもないさ」
「そうだったわ。冒険者さんはまだ会ってないのよね・・・ごめんなさい。変なこと聞いて」
「いや、いいさ。教えてくれてありがとうな」

 ひらりと手を振って歩き出したギルを、他の仲間たちが追う。
 ほどなく、彼らは村の離れへと到着した。倉庫がぽつんと立っている。
 普通は見張りの一人も立っていそうなものだが閑散としているのは、山賊に既にめぼしいものを取られていたからだろうか。
 中では冴えない風貌の三人組が、保存食の干し肉やピクルスにかぶりつきながら酒を呷っていた。
 どうやら、この者達が村人の言うコデルモリアの英雄らしい。
 髭を鼻の下に蓄えている男が、びくびくとした様子で言う。

「そろそろやめましょうよ。村の子供たちだってお腹をすかせているでしょうしね」

 それに対して、顎に無精ひげの目立つ青年が干し肉をつまみあげて答えた。

「何を言ってやがる。3日ぶりに飯にありつけたんだぜ。食わなきゃソンソン」
「だが、そろそろやめておこう。村人たちがなにやら今夜はご馳走してくれるようだから」

 周りにろくに注意も払わずに、三人でお喋りに夢中になっているだようだったが、しばらくすると冒険者が彼ら
を見ていることに気がついた。

コデルモリア4

「はて?あんた方はどちらさんだね?ここの村人ではないようだが」
「ああ、そうだ。ここの村人じゃあねぇよ」

 エディンのからかうような調子の返事に、無精ひげの青年が口の端を歪めて笑う。

「おおかた俺たちへの報酬を持ってきてくれた冒険者だろ。村長が今日あたりに2500sp準備できるって言ってたぜ」
「ほう。そうかい。ぱっと見の第一印象では物分りの良さそうな人たちだ」
「・・・・・・さあて、どうだろうねェ」

 物分り云々を言い出した、狐のような目の男が三人組のリーダーらしい。
 ギルが無言を貫いているので、心得たエディンが対応を続けていたが、その懐に狐目の男が200spほど潜り込ませてきた。

「ねえ、ダンナたちも我々と同じ宿無しの旅人だろう?この金で今のことは見逃してくれないかね?」
「アホらしい。あんたらと一緒にされるのは不愉快だぜ」

 無断で飲食していたことについて村人に告げ口しないでくれという懇願を、エディンは銀貨ごと突っ返した。

「おやおや。ずいぶんと潔癖症なんだね。そんな調子じゃ今までの人生の半分は損してるぜ」
「冒険者は信用で成り立つ商売だ。そいつを疎かにする三流以下や紛い物と、俺たちを一緒にされたくねえんだよ。分かったら失せな」

 ”金狼の牙”の最年長者の辛辣な言葉は、そのまま他の仲間たちの総意でもあった。
 今まで、全くの奇麗事だけで冒険を続けてきたわけでもない。
 一輪しかないフィロンラの花を依頼主に届けなかったこともあれば、クドラ司祭の儀式を見たいと熱望したあまり、一つの生命を終わらせてしまったことだってある。
 しかし、それらは全て自分達の自由意志で行なったのである。
 この金を受け取る事は、自由であるという”金狼の牙”の誇りを傷つけることになる――到底同調できるものではなかった。
 一触即発の雰囲気ではあったが、三人組がそろそろ村長の家に戻る時間だと先に去っていったので、彼らも倉庫から出た。

「・・・・・・どうする、ギル。今見たこと村長に言うのか?」
「人の悪口言って時間減らすよりは、倉庫の見張り番してた方が収穫はありそうだな」
「・・・同意見だ」

 幼馴染コンビは顔を見合わせてにやりと笑った。
 残りの面子が、その様子を眺めながら口々に言う。

「あーあ。じゃあ今日は徹夜ね」
「寝ててもいいですよ。あのだらしのない様子なら、ジーニの魔法なしでも捕まえられますから」
「じゃ、俺はちょうど良さそうな見張り場所見つけておくわ」
「エディン、いってらっしゃーい」

 ミナスが小さく手を振った。夜の見張りが寒いようなら大人たちは酒を飲むだろうが、自分もおこぼれを貰えるだろうかと考えながら。

2013/03/29 05:41 [edit]

category: コデルモリアの英雄

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Fri.

コデルモリアの英雄 1  

 山麓に位置する人口30名ほどの村があり、そこでは農業を生業としていた。
 ここ50年ほどは大きな問題もなく村人たちは質素に暮らしていたのだが、2年前に状況は一転した。  
 近隣の国同士が戦争を始めたのに伴い、その国境付近にあるこの村の治安が悪化した。
 戦争が長期化するにしたがって、ゲリラ兵が山賊化し、村の近くの山に居座るようになったのだ。 

 冒険者たち――”金狼の牙”はそんなことも知らず、魔女アニエスの討伐後に魔光都市ルーンディアで少々道草をした際、この農村への仕事にありついた。

ココア護衛

 以前、町商人のココア嬢が村の人間から野菜を大量に仕入れた時の未払い金があるとかで、そのお金を届ける役割を頼まれたのだ。
 通常であれば、そんな依頼を彼らほどの実力者が受けることはあり得ないに近いのだが、その商人の振舞ってくれた酒の美味さに、思わず「YES」と答えてしまったのだ。
 事実、ギルは≪フォレスアス≫という銘柄の酒の味を、村長の話をほぼ夢現に聞きながら反芻していた。

「――領収証を発行しましょう。これで・・・このお金さえあればコデルモリアの英雄たちに給料を支払うことができるというもの」
「コデルモリアの英雄?」

 ぼんやりとギルは聞きとがめた。 
 コデルモリアの英雄の話は、冒険者たちも多少は耳にしたことがあった。
 コデルモリアの英雄――それは、七つ頭の竜を倒したことで知られる豪傑たちだ。 
 常に三人で行動し、各地でどことなく現れては住民たちを困らせている怪物たちを颯爽と倒し、名も名乗らずに去っていくという。
 講談師が作った創作だという者もあれば、この目で見たという者もいる。
 真偽の程は定かではないのだが、自分たち以外の竜殺しの有名人がこの村に来ているというのが信じられなくて、エディンは何かあったのかと訊ねた。

「実は・・・・・・」

 それまで寡黙だった村長だったが、話題が変わると雄弁に語りだした。

 村が山賊の言いなりになっていることや、食料をほとんど持っていかれたこと。

コデルモリア1

 そして、そんな村が危機のところにコデルモリアの英雄と名乗る三人組が現れたこと。
 彼らに村の窮状を話すと山賊退治を2500spで請け負ったこと。

「わだしは英雄様が来たと聞いて歓喜しただ。竜殺しの英雄様にかかれば山賊など目じゃねぇ」

 実は村長の前にいる彼ら”金狼の牙”も、かつてランプトン領にて原始的なまでの生命力を持つ蟲竜・ワイアームを退治した功績があるのだが、流石に局地的過ぎたのか、この農村にまで彼らの噂は届いていないようだ。

「・・・・・・」

 エディンは村長の話に若干の違和感を覚えたが、口に出すことを控えた。
 コデルモリアの英雄と言えば、無報酬で怪物退治をする風来坊だ。
 お金を貰って山賊退治だなんて俗なエピソードは全く聞いた事がなかった。
 ほっとした表情で話をしていた村長が、我に帰って慌て始める。

「おっと、ついつい長話してしまっただ。そろそろ夕飯時だ」
「ああ、もうそんな時刻か」

 アレクは窓の外から見える黄昏を眺めつつ応じた。

「ちょっと申し訳ないが、食事に英雄殿を呼んできてくれんぞな?村のどこかに居ると思うだに」

 遠慮がちな村長の申し出に、アウロラは微笑んで首肯した。

「かまいませんよ。お引き受けいたしましょう」

2013/03/29 05:40 [edit]

category: コデルモリアの英雄

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Mon.

魔女の館 4  

 毒の刃をもつ骸骨戦士や今までに出てきた魔法生物たちと、魔女が次々に手下を召喚したために熾烈を極めた戦いであった。

「うろちょろうろちょろ、手下出しておいて自分は高みの見物かっ」
「うふふ。私の作品、お気に召しますかしら?」

 歯噛みをするギルの顔を楽しみながら、魔女アニエスは麗しく微笑んだ。
 す、と斧を水平に構えたギルの横から、アレクが飛び出して凄まじい勢いの突きをゴーレムに放つ。
 竜の牙をも砕くその一撃に、流石の鋼鉄の巨人も体勢を崩した。
 すかさず、飛び込んだエディンがアレクと同じ箇所へレイピアを突き刺すも、あまりの固さに顔をしかめた。

魔女の館11

「・・・俺向きの相手じゃねえな。そっちの姐さんなら大歓迎なんだが」
「くっだらないこと言ってないで!神の携えし槍よ、我が敵を貫け!」

 ジーニのかざした手から青く輝く魔力の槍が出現し、魔女の胸を射抜こうとする。
 その思ったよりも大きな勢いに目を細めつつ、アニエスは魔力を高めてその貫通を防いだ。

「思ったよりも乱暴なお客様ね・・・。いいわよゴーレム、思い切りやってしまいなさい!」

 ゴーレムが放った重い一撃は、エディンの身体を辛うじて掠めた。

「あっぶねえ!」
「あらあら、残念・・・」

 からかうような口調の魔女に対して、二人の声と攻撃が揃って飛ぶ。

「光よ!あの魔女にぶつかれ!」
「竜巻よ、いけええええ!」

 アウロラの【光のつぶて】と、ギルの【暴風の轟刃】である。
 宙に浮かぶ目玉型魔法生物の時には上手く出せなかった技だが、今度はギルも隙を窺って放つことに成功したらしい。たちまち、魔女の身体を闘気の刃が引き裂いた。

「ち・・・・・・!」

 彼女は呪文を素早く唱えて【闇の紋章】をギルに撃つも、彼の身体が完全魔法防御の結界に包まれていることに気づき、目をむいた。

「なんですって・・・!?」

 この【闇の紋章】が人体に刻み込まれれば、我を失い混乱した末、身につけた秘技や魔法を繰り出す気力を失う――という恐ろしい結果になったはずなのだが、それを防がれてしまってはどうしようもない。
 動揺して魔法に掛かりやすくなったところを見計らい、ジーニが再び【神槍の一撃】を魔女へと放つ。

「神の携えし槍よ、魔女を穿て!」

 青い輝きは吸い込まれるようにアニエスの華奢な身体へ突き刺さった。

「なんで・・・・・・この私が・・・・・・?」

魔女の館12

 それと共に鋼のゴーレムは石と化し、残っていた霞人形もミナスの雪精スネグーロチカやギルの≪護光の戦斧≫によって破壊される。

「違う・・・・・・こんなのはおかしい・・・・・・。私は何も間違っていない・・・・・・」

 口から血の泡を溢れさせ咳き込みつつ、アニエスは最期の言葉を紡いでいた。

「私は、魔法の大いなる可能性を模索したかっただけなのに・・・・・・」
「たとえそうだったとしても、公のルールに反すれば裁きを受ける」

魔女の館13

 静かにアレクは言い、彼女の近くに立った。

「・・・・・・これで終わりだ」

 苦しむ魔女の喉を≪黙示録の剣≫で貫くと、あっけなく彼女は事切れる。
 ・・・・・・こうして、黒魔導師アニエスは討伐され、長年進展のなかった1つの難事件が解決された。
 その後、残っていた魔法人形も賢者の搭の討伐隊によって駆除され、館は跡形もなく解体された。
 彼女は賢者の搭でも最高峰の実力者でありながら、どこで道を踏み外してしまったのだろうか――ジーニはそれを考え、人知れずため息をついた。
 そんな仲間に、最年少のメンバーが跳ねるような足取りで近づき、声をかける。

「ジーニ?ギルが呼んでるよ、そろそろ行こうって」
「はいはい。今行きますよーっと」

 そう、それでも”金狼の牙”たちは依頼を遂行した。それで十分だろう。 
 ジーニは振り返ることなくその場を歩き去った。

※収入1400sp※
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■後書きまたは言い訳

55回目のお仕事は、たてやんさんのシナリオで魔女の館です。
作者様の意図は「魔法合戦」ということで、某庵謹製のキーコードを持っていないとクリア出来なかったり、ラスボスが遠距離攻撃でないとダメージを受けてくれなかったりという色んなギミックが盛り込まれています。
もしキーコードがない!という人でも安心安全設計、露店で売ってるアイテムでどうにかなるようにはなってるのですが・・・。私はこのシナリオを久々にやったのですが、【魔法の鍵】のキーコードが必要な事をすっかり忘れていたので、途中で【眠りの雲】と【閂の薬瓶】を取替えて、アイテムで精神力全快しました。・・・いいんです、どうせアウロラの【氷姫の歌】も【絶対の防壁】と取り替えておかなきゃならなかったし・・・。(涙)

今回、かなりカードの引きが悪くて2回ほど全滅してしまいましたが、魔女アニエスのいやらしい魔法の使い方はとても好みです。精神力を空っぽにさせる魔法、毒刃つきの召喚獣を呼び出す魔法、混乱と毒を埋め込む魔法・・・これでもか!という感じで設定されている黒魔法に、「ジーニに持たせてやりたい・・・」と思ったのは秘密です。
短時間のシナリオではありましたが、リドル(謎かけ)・戦闘ともに、じっくり楽しませてもらいました。

次回はシナリオリプレイの更新か、50質問の続きをやってしまうか・・・。現在考え中です。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/25 20:33 [edit]

category: 魔女の館

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Mon.

魔女の館 3  

「これでいいと思うんだけど・・・」

 鍵の掛かっていた扉の先、土のような黄土色の玉に触れたジーニはそっと感覚を研ぎ澄ませた。
 ヒュイィィィ・・・・・・という何か魔法的な反応を示す音が部屋に響き、

「な、なんだ?」

魔女の館7

とギルが辺りを見回した。

「さしずめ【魔法の鍵】を大掛かりにしたもの、といったところかしら」

 ジーニはこれで先に進める筈だと言う。

「いよいよ、魔女とご対面ということか・・・」
「さっき、魔力が集中していた箇所に戻りましょ。あそこに変化があるでしょうから」

 急いで一同が最初のT字路に戻ると、彼女の予見したとおり、今まで無かったはずの扉がそこに現れていた。

魔女の館8

「こんな所に扉が・・・」
「今まで遮蔽魔術で扉が隠されていたようね。それがあの仕掛けを解いたから現れたのよ」

 ミナスが呟くのへ、ジーニが解説を行った。

「罠はないし鍵もかかっていない・・・。この先すぐに何か潜んでるな」
「では補助魔法をここでかけていきましょう。ミナス、いいですか?」
「うん!」

 アウロラとミナスがそれぞれ支援のための魔法をかける。
 その間に、アレクが≪天翼の短剣≫で擬似的な魔法の翼を生やした。

「・・・あ、そうだ。相手、魔法使いなんだよな?」
「リーダー、話聞いてただろ。何を今更」
「いやいやいや、それが大事なんだって!俺の鎧!」
「あ」

 そう、ギルの鎧は完全魔法防御の結界を作る鎧なのである。
 味方からの回復魔法も意味がなくなってしまう諸刃の剣ではあるが、雪精トールの癒しはその状態でも通用することは判明しているので、ギルは仲間たちの同意を得て≪冷界の魔鎧≫の能力を解放した。

「・・・・・・これでよしっ。どこからでもこい!」
「・・・じゃ、開けるぜ」

 距離的には館の中央あたりだろうか。
 冒険者達が扉をくぐると、目の前には広大な空間が広がっていた。
 その広大な部屋を見渡すと、一人の黒髪の女性がたたずんでいることに気がつく。
 整った顔立ち、華奢な身体、優雅な立ち居振る舞いとは裏腹に恐ろしく人間離れしたオーラが感じられる女性であった。

「・・・・・・いたな」

 彼女は、武装した突然の来訪者の呟きに臆する事もなく声をかけてきた。

魔女の館9

「あら、お客様かしら。一般の方は入れないようにしてあったはずだけど・・・・・・」
「あいにくと、俺らは一般からは遠いらしくてね」

 ギルの返答に、女性は酷薄そうな唇を歪ませて嘲笑した。

「まぁいいわ。パーティへようこそ。私は貴方たちを歓迎するわ」

 そして優雅に胸をそらし、甘い蕩けるような声音で話した。

「私はこの館の主アニエス。よろしければ皆さんのお名前も教えてくださるかしら」
「その手は食わねぇよ、姐さん。悪ぃがな」

 エディンが鼻で笑って一蹴する。彼はちゃんと、事前に館に入る前の注意事項を覚えていた。
 いわく――もし魔女に名前を聞かれても絶対に教えてはダメだ。魔女に名前を知られたら恐ろしい目に遭う――と。

「あら、匿名希望ですこと?まぁ構いませんが――って、あら?もうやる気満々なわけ?」
「御託は結構です」
「うふふ、せっかちさんなのね。それじゃあ早速始めましょうか」

 魔女はほうきに乗ると天井近くまで軽やかに舞い上がった。
 そしてほっそりとした腕を振るう。

「まずは、このコでお相手するわ」

 床から、何やら途轍もなく重いものを引きずるような音がする。
 前衛たちが身構えたその瞬間、彼らの前に身の丈10m以上あろうかという鋼のゴーレムが姿を現した。

「さァ、パーティを始めましょう!ここ100年ばかり、お客さんがめっきり減って少々退屈していたのよ」

 魔女は言う。だから退屈させないように、遊び相手を次々に出してあげようと。

「結構よ、間に合ってるわ!」

 ジーニはそう言うと、≪エメラダ≫を掲げて鋼鉄のゴーレムの足を止めた。
 途端にアニエスの顔が歪む。

「生意気な!地獄に燃え盛る業火よ!」

 魔女のたおやかな指先から、ミナスの魔法の倍はあろうかという巨大な火の塊が迸る。
 ギル以外の”金狼の牙”たちは、たちまち軽い火傷を負った。

「っつう・・・・・・。アウロラの防護様様だな。やばかったぜ、これは」
「早めに片をつけるに越したことはないな」

 エディンのぼやきに、アレクが頷いて言った。

「まずはあの魔女をどうにかしないとな・・・」

2013/03/25 20:32 [edit]

category: 魔女の館

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Mon.

魔女の館 2  

 灰色の石で造られた館は禍々しい妖気を放っており、人を寄せ付けない異様な雰囲気が漂っている。
 勘の良い者ならば、この先に危険な相手が潜んでいることは容易に理解できるであろう。
 アレクがその入口を眉をしかめて睨みつける。
 独特の歩調から盗賊の動きに変わったエディンが、まずドアを調べた。

「鍵は開いてるぜ。すぐ入れる・・・罠はねえよ」
「行こう」

 エディンとギルを戦闘に、アレク・ジーニ・ミナス・アウロラの順で開いた扉を通り抜けていく。
 館は広く、外観よりはいささか淡い色合いの灰色の石による柱が整然と立ち並んでいた。
 入って少し進むと、すぐT字路に行き当たる。

「どっちにいったもんかねぇ。気になる跡とかは別にねえんだが」
「右手の法則でも使うか。・・・・・・魔法による永久回廊とかでなければいいが」

 アレクの言葉に、ジーニはじっと辺りを見まわし魔力を集中した。
 その厳しい顔つきに、思わずギルが声をかける。

「・・・・・・」
「どうした、ジーニ?」
「しっ。・・・ちょっと【魔力感知】を使ってみるわ」

 そう言うと、彼女は≪蒼石の指輪≫をベルトポーチから取り出し、合言葉を唱えた。
 ジーニの紫に染まった視界の中で、ある一点にオーラが集中している事が分かる。

魔女の館4

「4箇所からここへ魔力が流れ込んでいるわ。ここに仕掛けの元があるのだろうか・・・・・・?」
「・・・それは、4箇所にある仕掛けを解くことで、その元とやらが解除されるということでしょうか?」
「多分ね。面白い、解いてやろうじゃないの」

 ジーニは軽く腕まくりをした。
 その横でずっと奥のほうを睨むようにしていたミナスが、エディンのマントを引っ張る。

「どうした?」
「・・・・・・生き物の気配とは違うんだけど。何か嫌な予感がするんだ。戦闘の用意をした方がいいかもしれない」

 ミナスの精霊術師としての知覚は、かなり鋭敏である。もしそれに館の何かが反応しているのだとしたら、確かに前準備をした方がベターであろう。
 エディンはアウロラに目配せした。ミナスもそれに気づき、【蛙の迷彩】の呪文を唱え始める。

「神よ、我が仲間たちに十全なる援護と、防護のお力を与えたまえ・・・」
「周りに溶け込む蛙の皮膚よ、我らが結界となって覆え!」

 魔法による支援を纏った一行は、アレクの提案通りに右回りに館を捜索することにした。
 途中、また枝分かれした通路に入り込む。
 すると、霞の人型をした「何か」が天井から染み出してきた。通路奥からは、魔法人形らしい空ろな目のゴーレムが襲い掛からんとしている。

「やれやれ。ミナスの勘は大当たりだな」
「暢気に言っている場合ではないですよ、アレク」
「実体の無いモンスターに普通の攻撃は無意味よ。気をつけて!」

 ジーニのアドバイスに短く首肯すると、アレクは魔法人形の一つに駆け寄っていつの間にか焔に包まれた刀身を振り下ろした。【炎の鞘】の技である。
 霞人形はそれにやや怯む様子を見せたが、気を取り直しでもしたのか、杖を構えて詠唱に集中し始めたミナスに指を突き出す。
 途端に、ぞわりと小さなエルフの身体が振るえ、額から脂汗を滲ませ始めた。

「・・・やばい、今の呪文は【病魔の呪詛】だわ!アウロラ、あの子お願い!」
「分かりました!」
「まったく・・・人形の癖に生意気なのよ!」

 ジーニがかざした≪エメラダ≫に気を取られ、魔法人形のうち3体の動きが止まる。
 その隙に、ギルが渾身の力を込めた一撃を繰り出した。たちまち、1体が崩れる。

「僕の・・・・・・ことは、心配、しないでっ」

 ミナスは気丈にも、身体の奥底から満ち始めた呪詛の悪寒に耐えつつ、イフリートを呼び出した。

「お前の息吹をここに!業火の精霊よ!」

 小さな手の平から信じがたいほどの炎が渦巻き、たちまち敵全体を覆った。
 ・・・・・・呪文が終わった後、残っていたのは魔法人形一体のみである。

魔女の館5

 人形は指先から炎の弾丸を打ち出し、エディンの左腿に少し火傷を与えたものの抵抗はそこまで、後はエディンが最小の動きで突き出したレイピアによって破壊されたのであった。
 戦闘を終えた一同はミナスの呪詛を治すと、通路の突き当たりにあった部屋の前まで移動してきた。

「魔法の鍵が掛かっている。魔法を解除しないと開かない」
「はいはい、あたしの出番ってわけね」

 ジーニは進み出ると、≪閂の薬瓶≫をベルトポーチから取り出し、目の前の扉へと振り撒いた。

「・・・よし、これでいいわよ」
「お疲れさん。じゃあ開けるぞ」

 そうして入室した”金狼の牙”たちを出迎えたのは・・・。

「宝玉?なのかな?」
「みたいですね・・・」

 渦巻く風のような緑色の玉であった。

魔女の館6

 ジーニがポケットから、青年より貰ったメモを取り出す。

「・・・なあるほど。こいつが『風』ね。ちょっと皆、下がってて」
「・・・何をするんだ?」
「つまりね。この玉は、あたしたちが再三口に出している『仕掛け』って奴だと思うのよ」

 ジーニはアレクの質問に、人差し指を一本立てて答えた。

「風には魔の力を。・・・つまり、この玉に魔法を何でもいいからかけてみろってことよ」

 そう言うと、彼女はおもむろに【魔法の矢】の呪文を唱え始めた。

「万能なるマナよ・・・。魔の矢となりて敵を穿て!」

 彼女の言うとおりの仕掛けは確かにあったらしい。妙に響く音を残して、玉の輝きが失せた。

「やっぱりね・・・。さ、他にもこういう『仕掛け』があるはずよ。さくさく行きましょう」
「その代わり、きっと他にも敵が出てくると思いますけどね・・・」

 アウロラがため息をつく。
 そしてその懸念は当たり、”金狼の牙”たちは次々と現れる敵たちに戦いを挑まれていた。

「空飛ぶ目玉とか卑怯くせえ!」
「ギルも一応、遠距離攻撃はもってるでしょう?」
「【暴風の轟刃】を撃つ前に、アレクに【召雷弾】撃たれたから機嫌わりぃーんだろ」
「おまけに、≪天翼の短剣≫で飛んでいったから、接近戦まで取られてたもんね・・・」

 ギルの憤慨に、アウロラとエディン、ジーニが突っ込んだ。
 すでに『仕掛け』は三つまでを解除しており、後は地の玉だけとなっている。彼らはむしろのんびりとした足取りで、最後の部屋に向かった。

2013/03/25 20:31 [edit]

category: 魔女の館

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Mon.

魔女の館 1  

 かつて禁を犯した魔法使いがいた。
 彼女の名は、黒魔導師アニエス。人智の及ばぬ才覚を秘めた黒髪の美女であった。
 彼女は200年以上の時を経た今も人の命を糧に生き続けているという。 
 自警団と教会と賢者の塔は、もう幾度となく魔女の捕縛を試みたがことごとく返り討ちにあった。
 魔女討伐の依頼が出されたが誰の手にも負えず、未解決のまま放置された。
 そんないわくつきの依頼が、長い年月を経てはるか西方たるリューンにまで流れてきたという訳だ。
 そして今、誰もが諦めかけた魔女の討伐に挑む者達がいる――。

魔女の館1

「俺としては、他に大した依頼もないからとりあえずこれ宛がっておけっていう、親父さんの思惑かと思ってたがねぇ」
「そんな厳しい関係だったっけ、俺らと親父さん」
「あの、エディンもギルも、これが難儀な依頼だってことは分かってますよね?」

 ちょっと、いやかなり、緊張感に欠ける会話ではあったが。
 彼らこそ、≪狼の隠れ家≫というボロ宿を根城とする冒険者たちである。
 依頼内容は、黒魔導師アニエスの討伐。

「報酬は1400spかー。生死は問わないって条件で助かったわね」
「生きたまま捕まえる方が、教会とか賢者の塔も困るんじゃないのかな?」
「・・・・・・ミナスの言うとおりかもしれんな」

 アレクはそう言うと、館からそう遠くない位置にあるこの街の様子を見渡した。
 見たところ、そう退廃しているような感じも見受けられず、露店には一応店が並んでいるし、宿も通常通り営業されている。
 ただ、どこか住民たちの表情は暗く、それが長年に渡って魔女に苦しめられてきた街である事を物語っていた。

「どこから行くの、ギルバート?」
「そりゃ、相手の情報から・・・だろうな」

 ギルの台詞に他の者たちも頷いた。
 早速、アウロラやエディンが街の者たちにそっと声をかけていく。
 その結果分かったのは、次のようなものであった――。

「魔女は人の精気を吸い取って200年以上も若い身体を保っている」
「館には多くの魔法人形が徘徊している。彼らは特異な能力を持っており、普通の武器では苦戦するだろう」
「魔法の仕掛けが施されており、並みの者は奥へ進む事もできない」
「あんた達、魔女を退治してくれるのか・・・・・・?なら、気をつけた方がいい。もし魔女に名前を聞かれても絶対に教えてはダメだ。魔女に名前を知られたら恐ろしい目に遭う」
「魔女は黒魔術の達人だ。彼女は空を飛び、なおかつ遠距離から攻撃する手段を持っている」

 このような様々な情報を貰った後、街はずれにある大きな木の下で”金狼の牙”が休憩を取っていると、不意にこちらへ話しかけてくる人影があった。木の作る陰に遮られ、細かい顔の造作が見えない。

「あんた達、年は若いがかなりの手練だな?」
「おうよ。分かるかい?」

 エディンがにやりと笑う。人影はゆっくりと頷いた。

「やはりそうか。オーラが違うからな」

 一歩進み出てきた人影の顔が露になる。
 この街の住民の一人である男のものだった。
 深い皺は魔女の支配による重圧によるものか、さほどジーニから年上とも見られないはずの顔を老けさせている。

魔女の館2

「そうだ、これをやろう。あんた達なら魔女を倒せそうな気がするよ」

 男はアレクの拳ほどの大きさもある、紅色の石を差し出してきた。
 すっと手を出したミナスが受け取り、ジーニがまじまじとそれを鑑定した。

「≪紅き魔石≫じゃないの?魔法生物を引きつける力があるわね」
「ああ、その通りだ。よく知っていたな」
「へえ・・・こんな綺麗なのにね」

 ミナスは日に透かすようにして、その変わった石の輝きを楽しんだ。
 子供のあどけない仕草にしか見えなかった男は、目を細めてそれを見守った。

「それを持っていれば、館にいる魔法人形どもの注意を引きつけることができるだろう」
「随分と高そうなものだが・・・いいのかい?」

 ギルが躊躇する。男自身は決していい生活をしているように見えない。
 しかし、男は小さく苦笑するだけであった。

「前に魔女打倒を目指した奴が持ち込んだ物だ。そいつはもう諦めたがな」

 なんでも、館に施されていた魔法の仕掛けとやらがどうしても解けず、男に悪夢のような館の思い出の篭る≪紅き魔石≫を預け、逃げるようにこの街を去ったらしい。
 無理もない、と男はため息のように言った。

「その石が魔女を倒すのに役立ってくれれば嬉しい限りだ」
「・・・ああ、あんたの志は確かに貰ったよ」

 ギルはミナスから魔石を受け取ると、それをぎゅっと握り締める。

「こいつは俺が預かるよ。・・・ありがとう」

 そして≪紅き魔石≫を預けた男が去ると、もう一人若い青年がこちらに寄ってくるのが見えた。
 彼もまた、魔女による支配をよしとしない人物なのであろう。
 かつて魔女に挑もうとした者が館で見つけたというメモを、こちらに差し出してきた。
 その小さな羊皮紙には、古代文字による書付がある。
 ジーニがメモを覗きこんで、それを読み上げた。

魔女の館3

「火には破壊、水には癒し、地には接触、風には魔の力を」
「一体何の事かな?僕にはよくわかんないや」
「・・・館に施されてるっていう、仕掛けに関係してそうね。これはあたしが預かるわ」

 ジーニは首を傾げる仲間たちを余所に、そのメモをポケットに突っ込んだ。
 その後、”金狼の牙”たちは通りに面している露店を覗き込んでみた。
 様々な魔法の品が販売されているものの、≪解毒の秘薬≫や≪破魔の杖≫などを買う必要があるとは思えず、そのまま通り過ぎた。
 時刻はそろそろ夕方――逢魔が刻である。

2013/03/25 20:30 [edit]

category: 魔女の館

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登場人物に捧げる50の質問(夢都様作成)


Q01
本名と通称(あれば)をどうぞ。
ギルバート、通称ギルだ。
Q02
性別、年齢を教えてください。
男だぜ。19歳。
Q03
自分の見た目や印象はどうですか? よく言われることはありますか?
んー。脳筋そうとかお人よしぽいとか?
Q04
好きな、またはよくしている服装、髪型、アクセサリなどは。
赤いマントを愛用してるんだ。髪型は・・・癖が強くて、どうしても立っちゃうんだよな。
Q05
家族構成を教えてください。
親父の顔って知らない。母親と、血の繋がらない義理の姉が一人いる。
Q06
家族にはどんな思い出がありますか?
・・・・・・。(青ざめて震え始めている:深刻な意味ではない)
Q07
自分はどんな性格だと思いますか?
単純・・・いやこれじゃ良くないな。純粋!意外と黒いって言われるけど何でだ?
Q08
ご職業は?
冒険者やってるよ。戦士なんだ。
Q09
ご趣味は?
体を鍛えること!・・・でも筋肉つけすぎてあんま身長が伸びなかったんだよな・・・。
Q10
特技、得意なことはなんですか?
斧で戦うこと。あとは穴掘りも得意なんだ。
Q11
逆に苦手なものは?
魔法のこと、さっぱりわかんねえ。
Q12
好きなものは?
”金狼の牙”の仲間や、≪狼の隠れ家≫の皆のことは好きだぜ。それから揚げじゃが!
Q13
嫌いなものは?
偉そうに難しいこと言って得意になってる奴。なめくじ。
Q14
くせはありますか?
困った時に頭掻く癖があるらしい。
Q15
どんな夢や目標がありますか?
未知の場所や出来事を、自由気ままに探索すること。
Q16
秘密にしていることはなんですか?
ある村の住民を、俺が皆殺しにしたこと。エセルに口止めしてるんだ。
Q17
やっていて楽しいこと、または日頃の楽しみといえば?
冒険でいろんなもの見つけるのって、楽しいぜ?
Q18
食事の好みを教えてください。
揚げ物好き。特に親父さんかエセルが作った揚げじゃが最高。
Q19
お酒はどうですか?
次の日が難しい依頼とかじゃなきゃ、結構飲む。エールが多いかな。
Q20
睡眠時間はどのくらいですか? 夢は見ますか?
8時間くらいかなあ。夢は結構見るよ。
Q21
暇なときはどうしていますか?
カードゲームしてる。
Q22
時間や約束は守る方ですか?
ごめん、時間にはルーズなんだよな。
Q23
周囲の環境について思うことは。
後輩が結構入ってきたなあって。
Q24
友人にはどんな方がいますか?
アレクのことか?昔っから一緒なんだぜ!
Q25
気になる人の名前と理由を教えてください。
内緒。
Q26
好みのタイプは。
昔はお下げだった可愛い子。
Q27
こういうタイプはダメ!
ジーニだな。仲間ならいいんだけどさ、もし付き合うなら怖いから。あ、これ内緒。
Q28
プライバシーということについて一言。
冒険者に守秘義務以外のプライバシーなんてあんの?
Q29
いつも持ち歩いているものは。
武具かな、他には特にない。
Q30
宝物はなんですか?
見てくれ、この≪冷界の魔鎧≫を!手に入れるの滅茶苦茶大変だったんだぜ!
Q31
守りたいものはありますか?
仲間とエセルと≪狼の隠れ家≫かな。
Q32
欲しいものを手に入れるためには……
何でもやってみればいいんじゃねえの?
Q33
こういうことは許せない!
子供に対する家庭内暴力。
Q34
体は丈夫な方ですか?
もちろん!
Q35
元気を取り戻すために何をしますか?
美味いもの食べる。皆とワイワイ遊ぶ。ジナイータとじゃれる。
Q36
家事はしますか?
繕いものとかできるぜ。料理は、焼くくらいしかできないけどな。
Q37
気が付くとしている姿勢はありますか?
テーブルに肘ついて顎乗せる体勢かな。
Q38
普段やることはなんですか?
体鍛えるー。
Q39
体を洗うときはどこから洗いますか?
喉。
Q40
暑さと寒さはどちらがいいですか?
寒いの。俺、寒冷地出身なの。
Q41
勉強、学習について一言。
あんま好きじゃないな。
Q42
お金、社会的地位について一言。
あれば便利だろうけど、俺には似合わない。
Q43
芸術に対する姿勢を教えてください。
芸術って食える?
Q44
古いものと新しいもの、どちらが好きですか?
新しいの!あったりまえじゃん!
Q45
何か問題が起きたらどうしていますか?
どうしていますかって、どうにかするだろ?好きなように。
Q46
仲間内ではどんな役回りですか?
エディンがやれって言ってからリーダーやらされてる。
Q47
人が倒れているとします。そこに通りがかったあなたはどうしますか?
傷薬口に突っ込んでみる。
Q48
昔のあなたに言いたい事は。
今でもやっぱり冒険してるぞ!安心しろ!
Q49
至福のときはどんなとき?
ううん・・・子供たちや動物と遊んでる時、美味いもの食べた時、強い奴と戦って勝った時・・・かな?
Q50
自分の作者に一言どうぞ。
何か、俺が一人で動く時って、シリアスだったりハードだったりすること多いんだけど何で!?
Q51
(おまけです。ここは作者に回答してもらってください)このキャラクターのコンセプトは何ですか?
作った当初はありがちな熱血青年役を想定してたんですが・・・。
とあるユーティリティで精神適性数値判定したら狡猾が一番だったので、直情と狡猾の二面性を無自覚で持ち合わせてるリーダー。
別名、クリー○混ざりきれてません。

2013/03/24 17:02 [edit]

category: 登場人物に捧げる50のお題

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登場人物に捧げる50の質問(夢都様作成)


Q01
本名と通称(あれば)をどうぞ。
エディン。昔は一応黒鼠ってぇ名前だったがな。
Q02
性別、年齢を教えてください。
男で35歳・・・だと思う、多分。
Q03
自分の見た目や印象はどうですか? よく言われることはありますか?
あ~、何か眠たそうな顔してるって言われるなァ。おかげさんで、動揺しても分かりづらくていいんだが。
Q04
好きな、またはよくしている服装、髪型、アクセサリなどは。
黒っぽい服で動きやすいのが基本。盗賊だからどうしてもな。
Q05
家族構成を教えてください。
いない。ま、そこら辺は詮索しない方がいいぜ。
Q06
家族にはどんな思い出がありますか?
ねぇな。
Q07
自分はどんな性格だと思いますか?
結構いい加減だぜ?まあ年食ってる分、下の面倒は見なきゃなーとは思ってるが。
Q08
ご職業は?
盗賊。プライド持ってるんだから、厭な顔すんなよ?
Q09
ご趣味は?
昼寝。
Q10
特技、得意なことはなんですか?
手先使うこと全般。器用さなら、まあいいとこいくんじゃねえの。後は交渉くらいかねえ。
Q11
逆に苦手なものは?
魔法喰らうこと。抵抗しづれえのよ。(苦笑)
Q12
好きなものは?
お宝。錠前。何かを教えること。
Q13
嫌いなものは?
・・・・・・煮ても焼いても食えないヤツ、かな。
Q14
くせはありますか?
髭がちょっと伸びてると、つい弄っちまう。
Q15
どんな夢や目標がありますか?
こんな商売やってるから、寝床の上で死ねたら御の字だろうよ。ま、無理だろうけどな。
Q16
秘密にしていることはなんですか?
盗賊ギルドで色々やらされてた時代の話かねー。
Q17
やっていて楽しいこと、または日頃の楽しみといえば?
酒。しみじみ飲む方が好みだが、賑やかなところで飲むのも悪くねぇ。
Q18
食事の好みを教えてください。
甘いモンが好きだな。逆に辛いモンはちょっと苦手。
Q19
お酒はどうですか?
さっき答えたろ?
Q20
睡眠時間はどのくらいですか? 夢は見ますか?
ああ、あんまり夢は見ないほうだな。見ると大概悪夢だし。・・・そんなに長く寝ることねぇわ。
Q21
暇なときはどうしていますか?
頼まれれば、後輩の指導したりしてるけど。後は仲間の暇つぶしに付き合ったり。
Q22
時間や約束は守る方ですか?
そりゃ守るさ。不条理な約束させられてるんじゃなけりゃな。
Q23
周囲の環境について思うことは。
悪くねえよ。
Q24
友人にはどんな方がいますか?
盗賊に友人と言われてもな・・・。(苦笑)
Q25
気になる人の名前と理由を教えてください。
”白き夢魔”がいつ俺の寝首掻きに来るか、気にするようにはしてる。
Q26
好みのタイプは。
出るとこ出てる体してると、つい目はいく。
Q27
こういうタイプはダメ!
わがままな奴は付き合いきれねえかもな。一応面倒は見るけどよ。(笑)
Q28
プライバシーということについて一言。
そこを探るのが盗賊の仕事のひとつかもな。
Q29
いつも持ち歩いているものは。
武具以外ってことなら、盗賊の七つ道具かね。無いと商売上がったりだから。
Q30
宝物はなんですか?
・・・・・・さあて、何だろうね?(笑) 盗賊がそう簡単にお宝ばらしたりしねーよ。
Q31
守りたいものはありますか?
仲間は守るもんだろ。
Q32
欲しいものを手に入れるためには……
盗む。
Q33
こういうことは許せない!
許せない、ねえ・・・・・・契約違反とかかねぇ。
Q34
体は丈夫な方ですか?
いやー、か弱いよ?おっさんだもの。
Q35
元気を取り戻すために何をしますか?
ジーニと酒飲んだり、ミナスの面倒見たり、親父さんの新メニュー食ってみたりってあたり。
Q36
家事はしますか?
いやあ、やればできるけどやらねぇわ。
Q37
気が付くとしている姿勢はありますか?
腕組んだりしてることあるなァ。
Q38
普段やることはなんですか?
普段?ぐーたらしてるだけだって。(笑)
Q39
体を洗うときはどこから洗いますか?
腕かね。
Q40
暑さと寒さはどちらがいいですか?
どっちもそんな好きじゃねえわ。・・・強いて言うなら暑さかね。
Q41
勉強、学習について一言。
うーん。若いもんは今のうちに学んどけよ?
Q42
お金、社会的地位について一言。
一定の金額や地位は自由を保障してくれるもんだぜ?
Q43
芸術に対する姿勢を教えてください。
どんだけ価値があるモンなのか、まず見て考えちまう。習い性だな、こりゃ。
Q44
古いものと新しいもの、どちらが好きですか?
どっちもそれぞれいい所があるさ。
Q45
何か問題が起きたらどうしていますか?
全体像見て、裏側見て、どこ押さえればいいのか考える。
Q46
仲間内ではどんな役回りですか?
主な交渉役と、ギルとジーニ相手の抑えってとこかね。
Q47
人が倒れているとします。そこに通りがかったあなたはどうしますか?
知り合いとか、依頼のキーパーソンじゃないならほっとく。
Q48
昔のあなたに言いたい事は。
・・・・・・ま、とりあえず生きてみとけって。
Q49
至福のときはどんなとき?
すげえ美味い甘いモン食う時かな。
Q50
自分の作者に一言どうぞ。
報われる依頼なるべく選んでくれよ。精神的ダメージ残る奴は、フォロー回るの大変なんだからよ。
Q51
(おまけです。ここは作者に回答してもらってください)このキャラクターのコンセプトは何ですか?
最初は飄々とした大人の予定でした。
今は大人組みのジーニが暴走キャラと化したので、そこら辺をフォローできる面倒見のいい人に。
”金狼の牙”の実質的なお父さん。

2013/03/24 17:01 [edit]

category: 登場人物に捧げる50のお題

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登場人物に捧げる50の質問より(夢都様作成)


Q01
本名と通称(あれば)をどうぞ。
アウロラ・チャーチルと申します。・・・誰ですか氷の女史とか呼んでるの。返事しませんよ。
Q02
性別、年齢を教えてください。
女性です。20歳になります。
Q03
自分の見た目や印象はどうですか? よく言われることはありますか?
髪の色と目の色が緋色なものですから、変に目立つんですよね。冷静すぎるって言われるのがどうにも解せませんが。
Q04
好きな、またはよくしている服装、髪型、アクセサリなどは。
普段の冒険だと髪はそのままですが、たまに三つ編みにしてますよ。赤いブローチは母の形見なのでいつも身につけます。
Q05
家族構成を教えてください。
騎士の家の一人娘でしたが、両親が亡くなった後は父の友人の家に引き取られました。
今は、養父養母義理の弟が二人、です。
Q06
家族にはどんな思い出がありますか?
父も母も、厳格ながら優しい人たちでしたよ。今のおうちの家族は、皆私に甘いというか・・・。(苦笑)
Q07
自分はどんな性格だと思いますか?
自分の性格なんて、自分で分かるものではないですよ。
Q08
ご職業は?
ええと、僧侶兼吟遊詩人・・・でいいでしょうか。
Q09
ご趣味は?
本を読むのは好きですよ。吟遊詩人の仕事に絡んで、歴史や伝承についても学んでいます。
Q10
特技、得意なことはなんですか?
料理ですね。器用さはそんなに高くありませんが、作るのは好きなので。後は歌です。
Q11
逆に苦手なものは?
前に出て戦う事ですかね。出来なくないですが、苦手です。
Q12
好きなものは?
義理の弟たちができたせいか、子供の相手をするのは好きです。
Q13
嫌いなものは?
自分のノリを、合わない相手に無理矢理押し付ける人。
Q14
くせはありますか?
考え事をする時は頬に手を当てることが多いかもしれません。
Q15
どんな夢や目標がありますか?
いつか、自分達が行なってきた冒険を、ひとつの物語としてまとめる事ができたらいいと思います。
Q16
秘密にしていることはなんですか?
特にございません。
Q17
やっていて楽しいこと、または日頃の楽しみといえば?
他愛ない日常ですかね。冒険でも、料理作って皆で賑やかに食べてくれる時とか。
Q18
食事の好みを教えてください。
基本、好き嫌いはないのです。じゃないと、ミナスに好き嫌いを失くすよう言えないでしょう?
Q19
お酒はどうですか?
たまに飲みますけど飲んだらすぐ眠たくなるので、他の人の介抱に回る方が多いです。
Q20
睡眠時間はどのくらいですか? 夢は見ますか?
5~6時間くらい・・・?夢はたまに見ます。
Q21
暇なときはどうしていますか?
読み書きや算術を子供の冒険者に教えています。
Q22
時間や約束は守る方ですか?
守ります、マナーですから。
Q23
周囲の環境について思うことは。
養父には申し訳ないのですが、教会で地位を得るため戻るよりは、このまま困っている方の手助けをする方が性にあってる気がします。
Q24
友人にはどんな方がいますか?
そういえば、割と同時期に教会に出入りしていたルナさんも、冒険者になったと伺っております・・・私が教会出たせいで、連絡取ってないんですけどね。
Q25
気になる人の名前と理由を教えてください。
うーん、トミテさんがどうして吟遊詩人になったのかを知りたいですね・・・。
Q26
好みのタイプは。
責任感が強くて優しい、私の思考を見抜いてフォローできる人。
Q27
こういうタイプはダメ!
自分本位で何でも茶化してしまう人。
Q28
プライバシーということについて一言。
生みの親の家については、あまり触れないでいただけると助かります。
Q29
いつも持ち歩いているものは。
≪ミューズの涙≫のことですか?あれがあると、声が上手く出せる気がするものですから。
Q30
宝物はなんですか?
母の形見ですかね。後は仲間。
Q31
守りたいものはありますか?
それは仲間でしょう。だって、防護の呪文唱えられるの私だけですもの。
Q32
欲しいものを手に入れるためには……
時と場合によります。してはならないことであれば、静観が利口ですから。
Q33
こういうことは許せない!
弱者あるいは死者を虐げる事。
Q34
体は丈夫な方ですか?
それなりに健康ですよ。
Q35
元気を取り戻すために何をしますか?
簡単なお菓子作りとか。クッキーやマフィンは、比較的簡単に作れますものね。
Q36
家事はしますか?
一番好きなのは料理ですが、一通りはできますよ。
Q37
気が付くとしている姿勢はありますか?
特にはありません。
Q38
普段やることはなんですか?
発声練習とか、歴史や伝承の勉強です。
Q39
体を洗うときはどこから洗いますか?
左腕です。
Q40
暑さと寒さはどちらがいいですか?
うーん。寒さのほうがましですかね。暑いとみんなの食欲が失せますから。
Q41
勉強、学習について一言。
いくつになっても、学べるうちに学ぶに越したことはないです。
Q42
お金、社会的地位について一言。
困窮しない程度にあれば、後は欲張らない方がいいもの・・・ですかね。
Q43
芸術に対する姿勢を教えてください。
後世に残すべき文化の一つだと思いますよ。
Q44
古いものと新しいもの、どちらが好きですか?
どちらも、それなりに見るべきところはあると思います。
Q45
何か問題が起きたらどうしていますか?
じっくりと事情を伺ってみて、納得できるまで調べます。
Q46
仲間内ではどんな役回りですか?
回復役です。後は、仲間たちが一つの結論に雪崩ようとする時に、とりあえず反対意見を投下してみる役でもあります。
Q47
人が倒れているとします。そこに通りがかったあなたはどうしますか?
【活力の法】で助けます。
Q48
昔のあなたに言いたい事は。
世界は広いです。実地で見なければ分からないことが多いですよ。
Q49
至福のときはどんなとき?
皆と一緒にいる日々ですよ。
Q50
自分の作者に一言どうぞ。
これからもどうぞよろしくお願いしますね。
Q51
(おまけです。ここは作者に回答してもらってください)このキャラクターのコンセプトは何ですか?
ただの温厚な回復役・・・が、何故こうも冷静なキャラになってしまったのか。
氷の淑女を地でいってる人になりつつあります。どこで道を踏み外したのカナー?

2013/03/24 17:00 [edit]

category: 登場人物に捧げる50のお題

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Sat.

雷雲と神風 5  

 【鷹の構え】によって意識を集中し始めたギルの横を、アレクが駆け抜ける。
 たちまち、聖雷教会の者たちの中へと飛び込み、その場で剣舞を放った。超高速の【風切り】である。

「・・・・・・風よ!」

 先ほど吹き荒れた突風の一部を刀身に纏い、アレクの体が熟練の踊り子のように舞った。
 その姿に口笛を吹いたエディンが、死角からエリック司教をレイピアの刺突と短剣の斬撃で傷つける。

「ぬう!」
「悪いな・・・!こっちも、ちったあ本気ださねえとやばそうだからな」
「いくよ、皆!」
「こちらもいきますよ!」

 ミナスとアウロラが、ほぼ同時に【蛙の迷彩】と【祝福】を唱えた。二人の声が辺りに美しい合唱のように溶ける。
 その後、ミナスが呼び出したイフリートの吐息の一部とギルの斧技で聖雷教会の人間たちは吹き飛ばされ、或いは気絶したものの・・・。

「神様ねえ」
「一応は神様・・・みたいなものなんでしょうね」

 額から血を流しているアウロラが銀灰色に煌く装甲を睨み上げつつ、少し肩を痛めたらしいジーニの横でそう返した。
 薄い肩には雪精トールが乗っかり、必死でその打ち身を冷やしている。

「でも神を名乗らせたくはありませんね。あんな人形に」

 その指に神聖な光が宿り、たちまち密度を濃くしていく。【光のつぶて】の呪文である。

雷と風13

「ジーニの≪エメラダ≫で動きを止められている、今がチャンスです。ギルやアレクも分かってると思いますが・・・」
「大丈夫だよ、仲間だもの」

 ミナスがアウロラの前に立ち、小さな体で一所懸命に庇いつつ笑う。
 そのさらに前方では、無闇と大きな敵を相手に前衛たちの打ち合わせが行われていた。

「いいかい、リーダー。俺とアレクでちょっと時間を稼ぐ。その隙に飛び込んできてくれ」
「おっけー。二人とも気をつけろよ!」
「誰に言っている」
「年上に任せろよ」

 そう言い捨てると、二人はギルが【風割り】の体勢に変わったのを見届けて走り出した。
 まずはエディンがジグザグにステップを踏んで、雷神の左足首の辺りにわずかな傷を作る。
 そこへ鳥のように跳躍したアレクが、思い切り剣を振りかぶって叩きつけた。

「まだか!硬いな」
「とおおりゃあああ!」

 すかさず、非実体をも断ち割る斧が大きめのひびを作る。――あと少しだ!
 同じ箇所に当たるよう、角度を変えてジーニとアウロラもそれぞれの魔法を放った。
 その後も波状攻撃を繰り返し・・・・・。

「これで・・・終わりだ!」

雷と風14

「ガ・・・」

 アレクが対魔法生物への技として習得をした、絶対命中の剣・・・【緋色の翼】が、赤い魔力の軌跡を空に残して太い雷神の足を打ち砕いた。

「や・・・。やりましたぞ!勇者様!」
「・・・あ、はい、どうも・・・」

 枯れ枝のようなグラム司教から抱きつかれ、アレクは複雑な面持ちになった。やっぱり、こういうシチュエーションは女性の方がありがたい。

「邪教は今、ここで朽ちました!」
「ハイハイ。良かったわね」
「こんなにめでたい事がこうも続こうとは・・・!」

 追加報酬なしで戦ったことがよほどに精神に堪えたのか、勝ってもふてくされているジーニの機嫌が直る様子はない。
 それに気づいていてか、はたまた他者のテンションはどうでもよかったのか。

「さあ、今宵は祝宴です!飲み明かしましょう!」

と誘うグラム司教を断るだけの元気は、とてもじゃないが彼らには残って・・・。

「あのう・・・」
「はい、勇者様。何でございましょうか?」
「お気持ちは嬉しいのですが、宿の者も心配していますので・・・」

雷と風15

 ・・・・・・意外と残っていた。
 冷水を浴びせるようなアウロラの台詞に、ようやっと周りの様子を見る余裕が出来たらしいグラム司教は、

「そうですか・・・。それは申し訳ない」

と謝罪をする。
 800spの入った皮袋を報酬として手渡し、「雷神めを倒していただいた報酬」と、司祭の一人に目配せして奥から取ってこさせた呪文書を手渡してきた。

「いや、無理してくれなくても・・・」
「つまらぬ物ですが、お納めください」

 ミナスが固辞しようとしたのを、途中でジーニが遮り受け取る。
 やり取りが済み、暇乞いを告げると司教はにこりと笑った。

「お待ちください。少し、外に出て頂けますか?」
「はい」

 不思議に思いながらも頷いたアレク以下がそれに従うと、司教は他の教徒や司祭を下がらせた。

「皆様方の名は聖風神話に組み込み、無理矢理にでも後世に伝えましょう」

 何やらとんでもないことをさらっと言って、彼は一心不乱に何かの呪文を唱え始めた。

「まさか・・・」

 その呪文の術式に何か思い当たったらしいジーニが声を上げるも、時は既に遅かった。

「偉大なる風神よ、その御姿を現したもう!」
「ああああ・・・」

 グラム司教の皺くちゃな手の平から溢れた驚くほど大量の風が、”金狼の牙”たちを包み込む。

「今こそ我の願いを聞き届け、この地に風を起こしたまえ!」
「冗談・・・だよね?」
「いや、奴さんは本気だぜ?」
「つまりどういうことだよ、エディン」
「・・・この司教さん、私たちを風でリューンに送り届けるつもりよ!」

 ミナスとエディンが顔を見合わせ、一人分かった様子のないギルへジーニが叫ぶと同時。

「神風よ!この者どもを空へ!」
「ヒィィィィィィィィッ!」

 途中までは、空に巻き上げられ悲鳴を上げていた”金狼の牙”だったが、蒼穹の下、体勢が安定し周りを見る余裕が出来ると。

「・・・これは、凄いぜ・・・」

 感に堪えぬようなギルの声である。
 ≪エア・ウォーカー≫を使うよりも遥かに空高く、彼らは確かに飛んでいた。

「もしかしてあの小さいの・・・、リューンですか!?」
「どうもそうらしいな」
「リューンが私の親指よりも、ずっと小さく見えますよ!」
「それならあれは・・・もしかしてカルバチア!?」

雷と風16

 滅多に見られない光景に興奮し、口々に騒いでいた”金狼の牙”たちだったが・・・・・・大事なことを一点、忘れている。
 ギルが見慣れた建物を示す。

「・・・おい、見てくれよ!あれ、≪狼の隠れ家≫だぜ!」
「・・・本当です!」
「おおおおおおおおおいい!親父いいいいいいいいい!俺たちいいいいいいいい!飛んでるぜええええええええ!」
「・・・あのさ、ギル」
「どうした、ミナス?」
「僕、ずっと不思議だったんだけど・・・これどうやって降りるの?」
「・・・・・・あ」

 ちょうどその時、風が止んだ。
 そして・・・・・・”金狼の牙”一行は、美味い飯を作ってやろうと鍋の中身をかき回していた親父の眼前に、屋根を突き破って帰ってきたという・・・。

※収入800sp、【風の刃】※
--------------------------------------------------------

■後書きまたは言い訳

54回目のお仕事は、タチモリさんのシナリオで雷雲と神風です。レベルの割に、ご覧頂いたように軽いテンポのギャグ風味が多いシナリオとなっております。1人旅でちょっとシリアス続いていたので、流れを変えようかとこちらの作品を選択しました。しかし、いくら明るいノリとは言え、さすがに対雷神戦闘は長引きました。神風の援護がなかったらちょっと辛かったですね。
魔王を倒したら瘴気が出てきてしまう、という設定は中々見られないものですから面白かったです。どうしてそういうことになるのか、そういった伝承が後から分かりやすくPC側に出てきたらもっと楽しいのかな・・・と思いましたが、そうするとプレイ時間が長くなっちゃうのですね。一長一短です。
途中途中でプレイヤーが思わずツッコミ(花の魔王って何!?雷神と風神はこの扱いでいいのか!?)を入れたくなりました、ありがとうございました。(笑)

最初の方に出てきている他の魔王の噂ですが、一つ目は寝る前サクッとカードワースに収録の「勇者と魔王と聖剣と(ほしみさん作)」です。中堅クラスへの貼り紙と書きましたが、1~5レベル対象のシナリオですので、低レベルの冒険者の方にもぜひ挑戦して貰いたいシナリオ。
二つ目は「聖剣強奪(てつしさん作)」です。とある傭兵兄妹たちと同行するシリーズの一つなのですが、”金狼の牙”たちでこのシリーズをやると、あっという間にキャラが食われてしまうので断念しました。すごい魅力的なNPCなんですけどねー。(笑)
もしも、高レベル向け戦闘がばっちり入っていて軽いタッチのシナリオを、濃いNPCと一緒にやりたい・・・という方がいらっしゃいましたら、ぜひオススメさせていただきます。「傭兵の兄妹(同氏作)」から始まりますので、そこだけご注意を。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/23 01:42 [edit]

category: 雷雲と神風

tb: --   cm: 4

Sat.

雷雲と神風 4  

 グラム司教はたいそう喜び、早速、村長の家に使者を送ると意気込んでいる。
 さっそく宴会を開こうとまで言い出し始めた。
 その気持ちは有り難いのだが、何と言うか釈然としないことばかりで、今回の依頼に深く関わるのは止めた方がいい気がしてきた”金狼の牙”たちが望んでいるのは、速やかな帰還であった。
 そのためギルが報酬を催促し、受け取ろうとしたその時。
 森で起きた轟音の倍はあろうかという轟きが、彼らのいる聖風教会の建物を揺らした。
 ごとり、と梁の一つが落ちてくる。

雷と風10

「な・・・!何だ!?」

 その声に、必死に腰を下ろしている椅子にしがみつきながら、辺りを支配する音に負けぬように司教が怒鳴った。

「せ、聖雷教会の奴らです!」
「どういう事だ?」

 ギルはついに椅子と共にひっくり返った司教を助け起こしながら訊いた。
 村長の・・・ひいてはシリス村の決め事については、すでに決着がついている。これが覆ることはない。
 たとえ聖北教会の神そのものではなくとも、各々の面子をかけて行われた魔王討伐なのである。
 襲撃を仕掛ければ、そのこと自体が聖雷教会による不正があったことを周知する結果になるはずだ。
 逞しい腕に支えられつつ、グラム司教は必死に言い募る。

「とりあえず、ここは危険です!外に逃げましょう!」

 すでに天井からぱらぱらと木材と石が落ちてきている。
 迷ってる場合ではないと判断し、アレクを先頭に、司教をかばい守りつつ冒険者たちは外に出た。
 すると、確かにそこには森で出会った司祭や信徒たちの法衣などが立ち並んでいて――その奥に、眼鏡をかけた偉そうな老人の姿がある。
 老人は喉の奥を上機嫌の猫が鳴らすようにして笑った。

雷と風11

「ククク・・・。久しぶりだなグラム」
「お前は・・・、エリック!聖雷司教が今更何の用事じゃ!」
「・・・あれが聖雷教会の司教か」

 アレクはそっと剣を引き抜いた。
 彼らの殺気を感じ取り、口だけでこの場が収まらない事をいち早く察したのである。
 エリック司教とやらは、聖職者にあるまじき卑屈な笑いを顔に浮かべて言った。

「ヒヒヒ・・・、今日は君にお礼が言いたくてね。君達が森の瘴気を元に戻してくれたお陰で、完成したんだよ」
「・・・・・・確かに、魔王倒したら瘴気が吹き出たっぽい印象はあったけどね」
「・・・っていうか、聖職者が瘴気利用していいのか?」

 大人組みがこっそり話し合っているのを気にもせず、グラム司教とエリック司教の話し合いは続いていた。
 なんでも依代が完成したとか・・・・・・何の事かと首を傾げるアウロラの前に立つグラム司教が、

「ハッタリに決まっておる!」

と声を張り上げている。

「ホラ、御覧・・・。これが雷神様だよ」

 エリック司教の合図と共に、天空から舞い降りてきたのは・・・・・・ドラゴンもかくやという常識外れの大きさをした、人形であった。
 敬虔さも、威厳も、神々しさも、とかく「神」という存在にあると思われる要素は何処にも見られない。
 それでも気にすることなく得意満面となっている司教にいらっとしたアウロラが、つい冷たい声で言った。

「あれが雷神?脳みそが不自由なんでしょうか」
「・・・・・アンタ、結構言うわね・・・」

 ジーニが引きつった笑いを発した。

「今この時、雷神様は我らが依代へと憑依なさった!これで世界征服も思うがままああああ!」

 エリック司教の野望宣言に腹を立てたらしいグラム司教から、こちらも依り代を・・・とかいう不吉な単語も漏れ聞こえた気がしたが、やはり突っ込んでは負けであろうと思い、”金狼の牙”たちは戦闘態勢をとった。

「ちょっとちょっと、契約外よ!」

と主張するジーニを残して・・・。

「だって戦わないとこっちがやられちゃうよ!・・・って、あれ?風が・・・」

 ミナスが精霊とは違う風の動きに首を傾げている。

雷と風12

「な・・・!まさか・・・!」

 エリック司教が愕然とした表情に変わったと同時に、人を吹き飛ばすような強烈な突風がその場に吹き荒れた。
 敵教徒の一人が、その風によってどこかへさらわれていく。

「しめた!風神様が来たぞ!」
「・・・・・・今日の戦闘はシュールだなあ」

 もはや何かを悟った表情になったギルであった。

2013/03/23 01:34 [edit]

category: 雷雲と神風

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Sat.

雷雲と神風 3  

 聖雷教会には雷神の守護が、聖風教会には風神の守護があるという。
 それはもう聖北教会関係ないのでは、とアウロラなどは思っているが、つっこんだら負けだと思って黙っていた。

「ここが闇の森か。気持ちいい風だな」
「見てよ。あそこに栗鼠がいるわ」

 アレクとジーニがのんびりとした会話をし、ギルまでも「引退したら、こんな場所に住みたいな」などと言い出す。
 とっとと片をつけてしまいたくなったアウロラは、

雷と風6

「それより早く、魔王を探しましょう」

と促した。
 辺りに人間の姿は見当たらない――モンスターの不意打ちを警戒したため、ミナスとジーニで召喚魔法を使った後で、探索が始まった。
 闇の森。
 そういう名前に反して綺麗な花が咲き乱れている様子に、早く仕事を片付けたいと思う者も、つかの間目を細める。
 ややのんびりとした空気が流れた、その刹那に爆音が森に響いた。

「な・・・何ですか!?」

 呆気に取られたようなアウロラの声に、応える者がいた。

「フッフッフッフッ・・・」

 妙な含み笑いと共に現れたのは、赤いカソックらしき服装に大きな帽子をした髭の男と、聖風教会と違い緑色の法衣姿の男が二人。

雷と風7

「我らがいる限り、この世に悪は栄えない」
「もう春なんだな・・・」
「いや、しっかりしてくれリーダー。現実から逃げても勝てんぞ。あれは・・・」
「我らは神聖なる聖雷教会の正義の味方!」
「あなたたち、さては極悪非道たる聖風教会の手先ですね?」

 エディンの言をさえぎって彼らが正体を暴露してくる。

「我々の魔王討伐を邪魔しようと、そう企んでおるのだな」
「そいつが一応仕事なんでねェ」

 思い込みの激しそうな髭の男の口調に、エディンは誤魔化す事の愚を悟りあっさり認めることにした。・・・正直、こんな所で時間を使いたくない。

「笑止!者ども、かかれ!」

 そして髭の男が天に祈る。

「雷神様!我に力を貸さん!そこのちんくしゃに、神罰を!」
「失礼な爺だな」

雷と風8

 エディンは舌打ちした。

 「天誅!」と己に酔ったまま男がジーニを指差すと、たちまち天から雷が降り注ぐ。
 どおおおん・・・!という腹に響く轟音の中、ジーニは多少の傷を負いながらも必死で【旋風の護り】を維持し続けていた。

「・・・ゲ。ちょっと削られたわね。お返し!」
「スネグーロチカ、ジーニの援護を!」

 ジーニの手から放たれた風とミナスの雪精が、たちまち男達を追い詰めていく。
 アレクも【風切り】による円陣からかまいたちを生み出し、彼らの身を削っていった。

「まだまだ!」
「じゃあ、こいつでどうだい」

 もう一度腕を振り上げ、「天誅!」と叫ぼうとしたに違いない男の体を、エディンのレイピアが近くの木に縫いとめる。
 そして動けなくなったところで、おもむろにアウロラが歌い始める。

「汝が見るは麗しく冷たき相貌、その目に焼きつけよ、凍れる姫のかんばせを・・・!」

 エルフの歌の一族より伝え聞いた【氷姫の歌】である。
 伝説上の氷の姫の美貌を称える呪歌によって、狂信的な聖雷教会の一同の心にも精神的なダメージが与えられる。
 ばたりと倒れた聖雷教会の一行・・・だったはずだが。
 ギルが縛ろうと前に出ると、あっさりと立ち上がる。

「まだまだ!倒れるわけにはいかん!愛と平和と雷神様のために!」
「しつこいな」
「・・・宗教家ってそんなもんなんだろ」

 ギルがもう半眼になっている。
 ・・・・・・元々、人数で劣っていた聖雷教会の面々は何度か”金狼の牙”に倒されるも、不屈の精神で立ち上がってきたため、面倒になったアウロラが逃走を提案した。

「風を倒せと俺を呼ぶ!」

という、司祭だったらしい髭男の声をその場に残し、一同は違う場所へと移動した。

「ふう・・・。逃げ切れたみたいね・・・」

 すでに息が上がっているジーニがそうつぶやいた時、目の前に白い帽子を被った娘が立っているのに気づいた。
 続いて気づいたアレクもそちらを示す。

「・・・ん?あそこに誰かいるぞ」
「・・・まさかとは思いますが・・・」
「・・・もしもし」

 充分に警戒しつつもエディンが進み出て、まるで迷子にするかのように声をかけてみる。

「はい。ナンパでしょうか?」
「この森は危険だ。電撃馬鹿と魔王が潜んでいる」
「ああ、ご心配なく。私魔王ですから」
「ああ、それなら安心ですね・・・っていうか、やっぱりそうですか・・・」

 嫌な予感が的中したことへ肩を落としたアウロラに、魔王を名乗る娘は聖雷教会の者かと確認してきた。

「いいえ・・・、私たちは聖風教会の・・・」
「まあ!聖風教会のばかちんですか!突風が吹くと木々が痛むって何度言うたらわかるんですか!」
「存じませんよ、そんなこと!何で教会に行って抗議しないんです!?」
「今日という今日は許しませんよ、お仕置きですからね!」

 アウロラの心底からの叫びも無視して、魔王はこちらに戦いを挑んできた――。
 その数分後。

「わあああああん。グレてやるう」

雷と風9

 魔王は鼻水と涙を垂れ流しつつ、闇の森を走り去っていく。

「あ・・・!逃げちゃいましたね」
「追わなくていいのか?」

 ギルが斧を担ぎ直して言うと、アウロラは頬に手を当ててしばらく考え込んでいたものの、

「まあ・・・、よくないですか?」

といたって投げやりになって答えた。
 相当に、本日の仕事のやる気ゲージがダウンしているらしい。
 とにもかくにも、一応は聖風教会の依頼である「魔王」は森から追い出すことに成功している。
 シリス村に帰ろうと促す仲間の声に頷くと、”金狼の牙”は依頼終了の報告をしに司教の元へと向かった。

2013/03/23 01:32 [edit]

category: 雷雲と神風

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Sat.

雷雲と神風 2  

「お待たせいたした」

 司教と呼ばれるだけあり、その老人は質素な茶のローブ姿でありながら、ある種の厳格さを漂わせている・・・ように見えた。
 教会の応接間は白い石を多用しており、天井は高く、細長い窓が2階くらいの高さのところにぽつんぽつんと存在している。
 採光という面からしても暖房という面からしても、あまり合理的とは言えない作りだが、聖風教会の司教はしゃんと背筋を伸ばして冒険者たちを見つめていた。

「これはこれは、遠路ご苦労様です。わしはこの教会の司教を務めているグラムと申す」
「はじめまして。ギルバートと言います」

 一同を代表してギルが手を差し出すと、グラム司教はこだわる様子もなくその手を握り返した。
 その気さくな様子に安心した一同は、それぞれ自己紹介をする。

「・・・それで、依頼のことなんだが。魔王を倒せば、いいんだよな?」

 さっそくアレクが用件を切り出すと、司教は重々しく頷いた。

「違いありません・・・。皆様方には、村外れの闇の森に住み着いた、魔王を討伐して頂きたいのです」
「闇の森・・・。ここから見えるあの森の事かしら?」

 ジーニの言葉にグラム司教が首肯し、申し訳なさそうな表情に変わった。

「何分蓄えも少ないので、報酬は800spほどしか払えるあてがないのですが・・・」

 どうか引き受けて頂けるだろうか、と問われて、ギルは小さく笑った。

「困ってるんだろ?ならいいよ、それで」
「おお!有り難う存じます!」
「困ったときの冒険者よ」

 その代わり、何かあった時は後ろ盾になってよね~とジーニは気楽な口調でいい、横で聞いていたエディンは苦笑しつつ口を開く。

「その・・・魔王とやらだが。どんな形をしている?能力なんかも知りたいんだが・・・」
「人の娘と同じ姿でありながら、尋常ではない魔力を秘めております」

 なんでも、森にある植物たちをその魔力で操るのだとか・・・・・・。
 闇の森という名称はしていても、この村における森の重要性は高い。名高いアダン村やロスウェルほどじゃないにしても、質のいい薬草などが採取可能だからだ。

「それじゃあ、日が暮れる前に魔王退治にでも行ってくるぜ」
「お気をつけください・・・。既に闇の森は、悪の尖兵で埋もれております」
「ふぅん?さっき言った魔王の僕かしら、腕が鳴るわね」

 そう言って不敵に微笑んだジーニに、グラム司教がさりげない口調で爆弾を落とした。

「いいえ。聖雷教会の奴らです」
「・・・ほえ?」

雷と風5

 司教は思わず間の抜けた返事をしてしまったジーニへ、不思議そうに口を開いた。

「・・・お話、しませんでしたか?」
「微塵も聞いていませんね」

 言葉もない仲間の代わりに、ばっさりとアウロラが言い捨てる。

「実は、聖雷教会の奴らが、我々の魔王退治を妨害しようとするのです」
「・・・何でだよ?」

 理解できないと言うように首を振るギルに、

「・・・それも、お話していませんでしたか・・・」

と司教が肩を落とした。

「我が村には教会が二箇所存在するのはご存知でしょうか?」
「ええ。先程拝見しました」
「神聖なる聖風教会と、あの邪なる聖雷教会めです」
「・・・嫌な予感がするな」

 ギルの眉間に皺が寄る。これは――ひょっとして、教会同士の派閥争いなのではないだろうか?
 案の定、グラム司教は聖風教会が聖雷教会と村の寄付を巡って対立しているのだという話を始めた。
 邪教と司教は呼んでいるが、あの聖雷教会も聖北教会の流れを汲んでいるのは間違いないらしい・・・。

「左手と右手が争うってやつか」
「どちらにしろ村人は可哀想だな。どっちに寄付するんだって、結局は金を取られてるんだから」

 こっそりとアレクとギルが耳打ちするのにかまわず、段々と司教の様子はエスカレートしてきている。

「そんな折に闇の森に魔王が住み着いたのです!そして村長は決断しました・・・今後我が村は、魔王を追い払いし教会のみに、寄付を収めると!」
「それで私たちに、魔王をですか・・・」

 話を聞いてがっくりと脱力したアウロラに、司教はまたもや重々しく言った。

「これは忌々しき事態です。下手を打てば善良なる村民が、邪教に囚われてしまいます」
「もう依頼を、受けちまったからな」

 諦め気味のギルは、一同へ「早いとこ片付けて、寝るとするか」と提案したのだった・・・。

2013/03/23 01:31 [edit]

category: 雷雲と神風

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Sat.

雷雲と神風 1  

 露すら降りそうにない、そんな清んだ空の朝のことであった。
 壁の貼り紙を見ている”金狼の牙”たちに、朝食の食器を片付けていた親父さんが声をかける。

「お前たち、その依頼に興味があるのか?」
「まあな」
「その依頼はだな、シリス村の坊さんからの依頼だ」

 アレクが相槌を打つのに親父さんはそう返答すると、最後の皿を棚に戻してから言葉を続けた。

雷と風1

「確か聖風教会の坊さんだ。聞いたこともない宗派だがな」
「アウロラ、知ってる?」

 ジーニから尋ねられた僧侶兼吟遊詩人の娘は、首を横に振った。

「さっぱりです。一体、どこの分派なのやら」
「ねえねえ、親父さん。この魔王が栄え、邪教が蔓延る現世を救うとか何のこと?」
「近所の森に魔王が住み着いて、かなり困っているらしい」
「また魔王退治ですか・・・。最近そういう依頼が多いですね」

と、アウロラが首を傾げる。
 こないだも中堅クラス向けの貼り紙で、「『魔王』を名乗る不審人物による営業妨害を受けている」と、とある商店からの依頼が来ていた。
 他の店でも、自分たちと同じくらいの実力のパーティが片付けた依頼において、「聖なる剣の探索に赴いたら魔王が出てきた」とかいう噂も聞いている。

「まあお前たちの実力なら、なんてことない依頼だろ。キーレの英雄様なんだし」
「・・・何だかねえ。それ自体は本当なんだけど」

と言って、ジーニは杖の髑髏で肩を叩く。
 いくら褒め称えられても、自分たちのことだと実感が湧きづらいものらしい。

「報酬は800spだ。受けてみないか?」
「うーん、報酬は相場より低めかな?」
「ミナスの言うとおりだが・・・。リーダーのリハビリで受けるには、ちょうどいいかも知れないな」
「魔王が?まあいいや、親父さん。引き受けるよ」

 ギルの返事に、親父さんは安堵した様子であった。

「シリス村なら、半日もしないで着くだろう」
「それじゃあ、行ってくるわね」

 気楽にジーニが手を振って歩き出し、他の仲間たちも三々五々挨拶をして、宿を出立した。
 親父さんの言葉どおり、半日と経たずシリス村に到着する。

「ここがシリス村か。綺麗な場所だな」

 ギルは辺りを見回した。
 極めて裕福そうというわけでもないが、ちゃんとした造りの家々が蒼い空の下に立ち並んでいる。
 近くには緑豊かな森が広がっていた。

雷と風2

「早めに仕事を終わらせて、日向ぼっこと洒落こむか」
「またまた、何を暢気なこと言ってるのよ。それより、雇い主を探すのが先じゃないの?」

 ”金狼の牙”たちは手分けして教会を探し出した。ほどなく、ギルが一つの建物を指差して仲間に問う。

「依頼主の教会って、あれじゃないか?」
「・・・らしいわね」

 ジーニは素早くその建物に視線を走らせた。
 村の規模と比べればやけに豪勢なつくりである。
 真ん中が膨らんだ独特の柱の形、重厚そうな扉の様子。流石にリューンのそれとは比べようもないが、宗教との縁が薄いカルバチアの教会よりは立派かもしれない。

「行きましょう」

 杖を気楽に振り回しながら歩む彼女に促され、一同はそちらへと歩む。鼻歌交じりにジーニがドアをノックしてみるが・・・。

「ごめんください。・・・ごめんくだ・・・」

雷と風3

「・・・待ってください」

 彼女の繊手をアウロラがそっと止めた。

「何よ?」
「依頼主の教会は、確か聖風教会でしたよね?」
「・・・そうだけど?」

 何を今さら、と不満そうに口を尖らせるジーニにアウロラは言った。

「ここは聖雷教会ですよ」

 ほらそちらに看板が、とアウロラが≪薔薇の指輪≫のついた指で示したのは、確かに”聖雷教会”と彫られた重厚な白い石の看板だった。

「・・・紛らわしいわね」
「それなら、あの教会じゃないかな?」

 ギルがこの教会の向かい側へ顎をしゃくると、そこには確かにこれも教会らしい、十字のついた建物が見えた。
 どうやら村には二種類の教会が存在するらしい。
 もしかすると他にも存在するのかも知れないが、見渡した限りでは人家や農耕地などばかりである。
 石の階段を降りたアウロラが駆け寄り、建物の前に立てられた看板を読む。

「間違いありません。聖風教会ですね」
「それじゃあ・・・」

 こっちでいいの?と首を傾げたミナスを、アレクが抱き上げてもう一つの教会へと歩み寄る。
 そしてそのままノックをするよう促したので、先程からノッカーを叩いてみたくて仕方なかったミナスが、ぱっと顔を輝かせた。
 聖雷教会の建物前にいた他の面子も揃い、ミナスはどきどきしつつノッカーを叩いて声をあげた。

「・・・ごめんください」
「・・・はい。どちら様でしょうか・・・」

 青い法衣に身を包んだ、金髪の女性がドアを開いた。
 武装をした”金狼の牙”の姿に、不審そうに眉を顰める。
 アウロラが一歩進み出て彼女に名乗り出た。

「≪狼の隠れ家≫の者です。魔王退治の依頼を受けてきたのですけども・・・」
「ああ。確かに承っております」

 女性はほっとした様子に変わり、

「司教様をお呼びいたしますので、中で少々お待ちください」

と言って彼ら一行を通した。

2013/03/23 01:30 [edit]

category: 雷雲と神風

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Tue.

闇のなか、白き夢魔と 5  

(・・・。依頼人を裏切ることになっちまったな)

 それだけではない、これが盗賊ギルドにばれることになれば、エディンはただでは済まない。
 なのに、何故助けてしまったのか――。
 彼の目の前には、裏口から運び込んだ暗殺者の姿があった。白い肌に幾重にも巻かれた包帯が痛々しい。

「二、三週間ほどで日常生活には支障がなくなる。――アウロラはそう言ってた」
「・・・・・・・・・・・・」
「お前の世話については、この宿の娘さんに頼んである」

 まあ養生するこった、と言い捨てたエディンに、暗殺者は声をかけた。

「・・・待って」

 頬に、愉快げな笑みを浮かべている。

「どうして、私を助けたの?お優しい冒険者様の、憐みの心?それとも、単なるご酔狂かしら?」
「・・・・・・・・・・・・」
「どうして、私が――」
「・・・よせ」
「・・・・・・・・・・・・」

 エディンは腕組みをして”白き夢魔”を見下ろした。

夢魔14

「いずれにしても、冒険者エディンは、お前なんぞに殺せはしねェ」
「・・・・・・・・・・・・」
「いつでもまた襲って来やがれ。返り討ちにしてやるよ・・・必ず、な」
「・・・ふん」

 そのまま階下へと降りていく。
 ・・・エディンには分かっていた。
 冒険者になる前の己の技量では、イーノック村でこの娘に出会った時に死んでいたのは、自分のほうであったろう事を。
 つまり――幹部から、イーノック村で”白き夢魔”のいる一族殲滅を命じられていた時点で、彼は捨て駒であったのだ。
 それが偶然により生き延びてしまった・・・・・・。
 幹部にとって今すぐ消さなければ都合が悪いわけではなかったが、予想外のことであった。そこで幹部は、例の老人夫婦に「追加依頼」を出すようにした。
 その「追加依頼」の形跡に気づけば、すぐ”白き夢魔”は彼を見つけ殺しに行くであろう・・・そう考えていた幹部にとって誤算だったのは、他の幹部からエディンが盗賊ギルドのメンバーの探索を命じられたことである。
 おかげで盗賊ギルドの”黒鼠”は姿を消し、冒険者エディンという名の男が≪狼の隠れ家≫に住み着くようになった。
 それでも、”白き夢魔”はエディンを見つけて襲い掛かってきた。

(誤算だらけだったってえわけだ、あの人は。)

 ――実は三ヶ月ほど前、エディンを捨て駒にしようと目論んでいた幹部は、ギルド内の勢力争いを上手く泳ぎきることができずに殺されている。
 つまり。
 今現在、エディンがあのイーノック村での仕事を引き受けた詳細は、もう他に知る者がいないのだ。
 ウイスキーの杯を煽りながら、エディンは一人考え続けていた。
 生かせば、娘は必ず毒刃となる。
 それは分かりきったことであった。
 ではどうして、かような非合理きわまる行動を取ったのか・・・?

「・・・・・・・・・・・・」

 ――単純に、娘に同情したのだろうか。家族をすべて失い、死に掛けて息も絶え絶えにしていたのが、惻隠の情を招いたのか?
 ――それとも、魅了されたか?娘の銀髪と、その美貌に?

夢魔15

「・・・アホらしい」

 そのどれでもなかった。
 彼は知っていた――もう道化師として踊らなくていいことを。だからこそ、もう一人の道化師――いや、この場合は夢魔か――を連れて、演技の必要がない舞台を降りたのだ。

「・・・あら、エディンさん。こんなところにいたの」

 宿の娘さんが声をかけてくる。

「悪ぃな、娘さん。厄介ごとを押しつけちまって」
「ううん、構わないわ。・・・それにしても、随分と綺麗な娘ね」
「・・・・・・そうかい?」

 エディンはすっとぼけて耳の穴をかっぽじった。

「・・・ねえ。あの娘っていったいなんなの?」

 娘さんは楽しそうな声音で追及してきた。

「単なる行きずり?エディンさんの新しい冒険者仲間?」
「・・・ただの行きずりだよ」
「道端で倒れてたのを、助けてあげたってことかしら?いい人ね、エディンさん」
「ヘイヘイ。最近の夜道は物騒だ。娘さんも気をつけてくれよ」
「はーい」

 さる出来事で、軽戦士(フェンサー)と名乗れるほどの技を取得した娘さんが、親父さんに隠れてリューンの暴漢たちを夜中懲らしめていることを、エディンは感づいていた。

夢魔16

「・・・さて、仕事しなきゃ仕事」

 彼女が明るく言って走り去るのを、エディンは止めずにただ杯を空けた。もうそろそろ、街に東雲が訪れる。

※収入2000sp※
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■後書きまたは言い訳

53回目のお仕事は、テンさんのシナリオで闇のなか、白き夢魔とです。読み物系CWシナリオと謳っていらっしゃいますが、「隠者の庵」(Fuckin'S2002さん作)対応のキーコード反応が色々ついていて、ちょっとしたゲーム性も持ち合わせてらっしゃると思います。また、本編上の古風な描写表現は、すべてこのシナリオ作者様がお書きになった文章で・・・久々に見た形容詞などが面白かったです。漢字変換が大変でしたが。
善人とも悪人とも言い切れない、淡白な熟練冒険者対応シナリオとありまして・・・これはエディンじゃないかと。
ただ、本シナリオでは、キャラクターがイーノック村を壊滅させたのは、3ヶ月前の出来事だったりします。
冒険者になってからだと、かえってエディンはこういった依頼を受けなさそうで、盗賊ギルド時代の話に変更。ついでにあっちこっち改変したら、エディンが幹部に疎まれていた設定になってました・・・おやあ?(笑)
最後にエディンが”白き夢魔”を助けたのは、本人が口に出したように死体をうっかり作ると後始末が面倒なのと、自分のやらかした事ながら盗賊と暗殺者のいざこざが冒険者となった今では馬鹿らしい、という理由から来るものです。勝手なオトナですね。
そうそう。スティープルチェイスに出場したのは、もしかしたら”白き夢魔”を誘き出せるかも・・・という思惑が無意識に絡んでいたのかもしれません。ハセオに悪いので、エディンはあえて気づかないようにしてますが。

最初のところで仲間をお見舞いするのも、当然ながら本編にはございません。本編のハードボイルド成分を知っていて、どうしてもここで「いつものお父さんエディン」らしさを書きたくなり付け加えました。ギル、どこまで脱がされちゃったんでしょうね?
ミナスがアッシュやシエテと共に向かったのは、手前味噌ですが私のシナリオの「防具『静屋』」です。・・・本当は、「きつねのパン屋さん」(星色さん作)やメレンダ街(作者さん色々)に向かいたかったんですが、あれってリューン市内ではないんですよね・・・。ミナスが案内する以上、リューンから出て云々ってことはなさそうなので、やむを得ず使ってみました。でもダウンロードしてくれるととても嬉しいです。(何)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/19 08:24 [edit]

category: 闇のなか、白き夢魔と

tb: --   cm: 2

Tue.

闇のなか、白き夢魔と 4  

 突風が空の黒雲を運んで行き、ほろほろと青い月光が下りてきた。

夢魔10

「・・・く・・・」

 ――月に輝くその銀髪。
 ――深い蒼碧のその瞳。
 月が照らし出すその姿はあまりに美しく、ただ、娘は今満身創痍。白皙の美貌が、憎悪と苦痛に歪んでいる。

「・・・うっ・・・く・・・」

 ――やがて娘の瞳が、碧い炎のような怒りを湛えて冒険者を睨み据えた。

「・・・私の・・・負けよ。さっさと・・・殺せ・・・」

 娘は、息も絶え絶えにそう言った。一言一語を吐くごとに、その口端から鮮血があふれ出る。
 エディンは得物を収めた。――娘の眼が、驚きに見開かれる。

「・・・な・・・ぜ・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」

 エディンは答えない。ただ、凝然と娘を見つめている。
 娘の唇の端が歪んだ。ふ、ふ、と幽けき声を漏らす――冒険者を嗤笑しているのだ。

「達成・・・を・・・目の前に・・・依頼を・・・反故にする・・・の・・・?」

 娘の声は弱々しい。

「・・・それ・・・とも。私がこれを恩義に感じて・・・お前を狙わなくなるとでも・・・?」
「たわけ。こんなとこに死体作ったら、追求がめんどくせえんだよ」

 エディンには、命ある限り、娘が延々と自分の命を狙い続けるであろうことは分かっていた。

 ――なにしろ、イーノック村で、エディンが娘の一族を皆殺しにしたのだから。
 それは、彼が冒険者となる少し前のこと。
 朝に見た夢の中、四人の肉親を屠り、一人残された少年を見つめる刺客は、誰あろう、エディンであった。
 盗賊ギルドから、ギルドの敵対組織が資金援助を行なっている暗殺者集団を潰すよう要請があった。以前から存在は認知されていたものの、アジトが分からずに放置されていた矢先の話である。
 彼の目の前にいるのは、年の頃、十一、二歳ほどか。いとけない瞳は虚ろで、なんの感情も映してはいない。

夢魔11

「悪いな、坊主。――死んでもらうぜ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・てめえらだって、相当な数の命を、その手で奪ってきたんだからな」

 少年は黙して答えない。聞いちゃいないのか、と判断したエディンが鋭い得物を構える。
 ――少年の一族は、ここイーノック村の山奥に居を構え、先祖代々、暗殺者として生きていた。イーノック村の人々からは、一族は”妖鬼”の血を引いていると噂され、畏怖嫌厭の情を抱かれていた。

「――!」
「・・・・・・ちっ!」

 急に動いた少年の投擲した暗器を、間一髪で弾き飛ばし、次いでエディンは少年の首を撃ち落とした。

(放心したフリをして、スキを窺ってやがったのか・・・ガキといえども、流石に暗殺者だな)

 そのあとで、エディンは首尾を伝えるようにと幹部から通達され、ギルドに対して一族を密告した夫妻を訪ねた。
 山小屋に五人しかいなかったことと、小屋にいたものの特徴を聞くや、老人夫婦は一様に顔をしかめ、首を振った。

「・・・”白の夢魔”が、どこぞに生き残っておるようだな」
「・・・そのようだね、お爺さん」

 ”白き夢魔”が、一味でも最強であること。外部から来る暗殺依頼のため、イーノックを離れることが多いこと。
 ――そして、やがて”白き夢魔”により自分達が殺されるだろう事を、老いたる夫婦は語った。
 手練れの暗殺者。必ず、闇に生きる者特有の嗅覚でもって、裏に老人夫妻が在ることを突き止めよう。自分達夫妻が死んだ後は、エディンに殺される順番が回ってくると老夫婦は指摘した。

「・・・ま、実行犯だしな」
「そこで頼みがあるんだよ」

 そう言うと、老婆は懐から銀貨の詰まった袋を取り出した。
 自分たちが死ぬのは構わない。だが、死んだ後、”白き夢魔”がのうのうと世に生きるかと思うと、それだけが心残りなのだと。
 必ずエディンの前に暗殺者は姿を見せるだろう――その時に、確実に”白き夢魔”を”誅殺”してほしい。

夢魔13

「そん時、あんた等はくたばってる。俺が、確実に依頼を実行するって保証があんのか?」
「・・・”担保”はある」

 だからこそ、今回の案件を盗賊ギルドに依頼したのだと。
 もし依頼を実行しなかった場合、エディンは必然的にギルドから目をつけられることになる――盗賊として長く生きてきたこの男が、それを許容できようはずもない。

「・・・。追加依頼は受けてやるよ。どうせうちの幹部も知ってるんだろうだからな」

 エディンは銀貨の袋を受け取った・・・・・・。

2013/03/19 08:04 [edit]

category: 闇のなか、白き夢魔と

tb: --   cm: 0

Tue.

闇のなか、白き夢魔と 3  

 ふと。
 背後に剣呑な気配を感じた。
 冒険者は振り向けど、見やった先は、夜闇の玄色に呑まれるばかり。夜の無言があたりを領し、何が聞こえてくるでもない。

「・・・・・・・・・・・・」

 気の迷いと断じて歩き出すが――――ふたたびエディンは歩みを止め、振り返って後方の闇を見やった。
 依然、後方に奇異なところは見られない。――併し、冒険者としての直感は、近くに”死”が迫っていると警告する。
 闇が黒洞々と口を開けたさまは、さながら異界の狂獣が、暗いあぎとを貪食的に開いているようだった。

「・・・・・・・・・」

 仲間を巻き込まないために、彼はあえて外をうろついていた。その甲斐は・・・・・・何とかあったらしい。
 エディンはポケットの中にジーニから借り受けていた魔法の指輪を握りこむと、そっとコマンドワードを唱えた。

「生あるものを碧に染めよ」

夢魔4

 それは、術者の視界内に存在する生命力を感知するための魔法である。生命が発しているオーラは、この魔法の影響下に限り術者に視認可能と化すのだ。
 夜闇の中に、エディンの視界内において、碧に染まった異質なオーラをしっかりと捉えた。

「・・・姿を見せろ」

 静かな口調である。
 しかし、既に彼の両手は剣の柄に掛かっている――右手が≪クリスベイル≫、左手が≪スワローナイフ≫。
 ――暫時の間があって、暗闇の中からいらえが返ってきた。

「・・・反則じゃない?魔術を使うなんて」

 微かな衣擦れは、盗賊や暗殺者の類でなければ聞き取れなかったであろう――それほどこの娘は、闇の中に溶け込んでいた。

夢魔5

「・・・いずれにしても、気取られてしまった以上、奇襲は失敗ね・・・」
「そうかい」
「・・・やるじゃない?冒険者エディンさん?」
「・・・・・・スティープルチェイスで知ったか」

 暑さのまだまだ引かない林檎の実る季節に、リューン市内でとあるレースが行なわれたことがある。
 寡婦である八百屋から、夫の代わりに出場して欲しいと依頼を受けた”金狼の牙”たちは、優勝を目指してレースの傾向や周りの地形を調べ上げ、騎手となったエディンを入賞させようと頑張った。
 そしてエディンは見事にその期待に応え、2位に入賞したのである。

「あんま目立つのはまずいかとも思ったが、断りきれる雰囲気じゃあなかったからな・・・」

 エディンはそう言って話を逸らしつつ、密かにマント裏に括りつけたあの時の銀メダルを握り締め、とある切り札をマントに隠して用意した。
 濃密な闇の中から、流麗な動作でするりと一つの影が抜け出てくる。
 暗闇で有利なのは圧倒的に相手の方であった。

(・・・暗殺者相手に暗闇での勝負は、愚の骨頂・・・)

 だからエディンは――。

夢魔8

「・・・。闇を、消したか」

 闇の中に杳としていた暗殺者の姿を、エディンが切り札として隠し持っていたランタンの光が露にした。

「・・・これで、勝負は五分と五分だ」
「・・・。暗殺者の特質を知悉しているというわけ・・・」

 その夭夭たる姿態。暗殺者の正体は、うら若き娘であった。

「お前の同胞(ハラカラ)は、俺が殺したぜ。・・・一人残らず、な」

夢魔6

「・・・知っている。だから、私はここに来たの」
「・・・・・・・・・・・・全部、予定通りだな」」
「・・・。どういうこと?」
「依頼人達は予測していたんだ。俺がそうしたことで、手前らがお前さんに殺されると」

 暗殺者は動く気配がない。

「だが、アイツらは、てめえの命を犠牲にしても、お前達を倒そうとしていた」

 自分達が死んだ後、あの暗殺者はエディンをも倒しに来る――依頼人は、そうも言っていた。

「・・・俺は、彼らの”切り札”なんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「全ては予定の内だ。てめえが依頼人達を殺したのも、ここに俺を殺しに来たのも」

 ちゃきり、とエディンは剣を抜いた。

「お前はついに現れた。・・・ここで、すべてが終わる」
「・・・知っているでしょう?私は”白き夢魔”。一族で最強の暗殺者よ」

 娘の口元が淡々と言葉を紡ぐのが見える・・・。

「そう易々と、貴方にやられたりはしない・・・」
「・・・ほう」
「・・・その首、貰い受ける」

 ――飄忽として、その姿が消えた。次いで、猛然たる白刃の閃舞――。

「――っ!」

 辛うじて勘だけで反応したエディンは、その長剣の刃を≪スワローナイフ≫の護拳部分で叩き落し、軌道を逸らす。

(長時間の戦闘は、こちらがいたずらに消耗するばかり・・・)
(確実に当たる技で、早々に決着をつけるべきだ)

 所詮は一冒険者と侮ったか、来るであろう反撃を、余裕で見切ろうとした暗殺者の目の前で――。
 エディンの長身が、消えた。

「えっ!?」

 ”白き夢魔”は初めて虚をつかれたような表情で短剣を構えなおすが、その防御を縫うように刺し込まれたエディンのレイピアが、彼女の肺の辺りを突き刺した。

「――うぁっ!?」

夢魔9

「・・・・・・なぁ、嬢ちゃん。俺ァ、確かにロートルもいいとこだが・・・おかげさんで暗殺者の戦い方くらいは、ちゃあんと分かってるんだよ。自分で使えるくらいには、な」

 鼠の行路と揶揄される下水道の一角で、エディンが磨き上げた技――【暗殺の一撃】は、確かに夢魔を打ち払ったのであった。

2013/03/19 08:03 [edit]

category: 闇のなか、白き夢魔と

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Tue.

闇のなか、白き夢魔と 2  

 その日の夜のこと。
 エディンの隣にはいつもの飲み仲間ではなく、細い体に釣り上がった三白眼が特徴的な男が座っていた。
 提示された条件に、フンとエディンが鼻を鳴らす。

「銀貨500枚だぁ?冗談は顔だけにしとけ。エール一杯で手を打て」
「・・・エール一杯?おいおい、そっちこそ冗談だろ。こっちは商売なんだぜ?」

 ≪狼の隠れ家≫に属する冒険者の中でも、”イタチ”はちょっと特殊な男だった。
 盗賊ギルドと強い繋がりを持っており、たまさかギルドから情報を仕入れては、宿の親父さんや冒険者たちに売りつけている。
 しかも、情報を売る先というのを間違えることが無い――確かな目利きと情報収集力を持つ人材であった。惜しむらくは、金銭に至極貪欲なことぐらいだろう。
 ”イタチ”は長い髪を揺らしてエディンの顔を覗きこんだ。

「それに、この情報がないと、大変なことになるのは間違いなくアンタだぜ?」
「・・・ポーカーの負け分は、まだ払ってもらってねえぜ。イタチさんよ?」
「・・・ああ。そんなモンがあったっけ?昔のことだ、忘れちまったよ」

 形勢不利と感じたか、ふいと”イタチ”が視線を逸らした。

「ふざけた野郎だ。たった一ヶ月前のことだぜ?だがまあ、そいつはチャラだ。なかったことにしてやるよ」

 銀貨を数枚カウンターに放り出すと、娘さんにエールを一杯注文する。

夢魔3

「ついでにエールを一杯くれてやる。それで充分だろうがよ」

 聞いた男は、降参するように諸手をあげ、笑い出した。

「あっはっはっは・・・仕方ないね。エールを二杯にしてくれたら手を打つよ」
「・・・まったくふざけた野郎だぜ」

 エディンの恫喝交じりの台詞もなんのその、男はにやりと口の端を上げた。

「命を狙われてるよ、あんた」

 エールを続けざまに二杯干すと、さらりと”イタチ”はそう言った。

「・・・へっ。そいつは物騒だな」

 蕪と兎のクリーム煮の残りをつつきながら、エディンは口を開いた。

「どこのどいつが狙ってるんだ?恨みを買う覚えは――まあ、なくはねェがな」
「あんたが昔に一人で受けた仕事があったろう。冒険者になるちょい前、小さい村のことだ」
「・・・。イーノック村での仕事か」
「そうだ。その仕事だよ。そいつに関わりがあるらしい」

 ぐさりと兎肉を突き刺し、その端っこを齧りつつエディンは心中で呟いた。

(・・・なるほど・・・。そういうことか。いや、正夢ってやつかねえ。)

 急に静かになった男を訝しく思った”イタチ”が、「・・・ん、どうした、エディン?」と聞いてきた。

「・・・なんでもねェよ。それより、話を続けろ」
「その仕事の依頼人だがな。一家もろともに、奴に殺されちまったそうだよ」
「あの連中が殺されちまったか。恐ろしい話だな」
「ああ。誰も生きてはいないよ」

 ここで”イタチ”は声を潜める。

「・・・殺ったのは、”白き夢魔”と呼ばれる名の知れた殺し屋だ。両刀使いでな。短剣を右手、長剣を左手に戦う」
「へー。俺のちょうど逆か」
「そして、異常に夜目が利く。夜行性の獣のようにな。夜闇は、奴ら暗殺者の”庭”だ」

 ”イタチ”は水平に伸ばした左手をぴたりと自分の喉笛に当てた。

「奴は、暗がりから忍び寄り、あんたの喉笛を掻き切ろうとするだろう」
「いよいよもって、おっかねェな」
「・・・。奴は、あんたの仕事に直接関わった者を、全員始末する腹積もりらしい」
「・・・・・・・・・」
「依頼人一家はもう死んじまった。残ってるのはあんた一人だ」

 音も無く席を立つ情報屋に、エディンは一瞥をくれただけでまた蕪と兎の制覇に戻った。

「奴は最近リューンに入ったらしい。せいぜい、気をつけるこったな」
「・・・もう、リューンに来てやがるのか」
「・・・・・・・・・」
「・・・わかった。貴重な情報をありがとうよ」

 ひらひらと手を振るエディンに背を向けた”イタチ”だったが、芝居っけたっぷりに振り返る。

「・・・ああ、最後にもうひとつ」
「――なんだよ?」

 ”イタチ”は下卑た笑みを満面に浮かべた。

「誑かされるなよ?”白き夢魔”の正体は、すこぶる美しい娘だそうだ」

2013/03/19 08:01 [edit]

category: 闇のなか、白き夢魔と

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Tue.

闇のなか、白き夢魔と 1  

 ・・・・・・それはかなり昔のこと。
 刺客の血塗れた白刃を前に、幼いその少年は、じっと部屋の中央に座り込んでいた。
 そのいとけない瞳は、何の感情も映していない。
 茫然自失・精神恍惚の態である。

夢魔1

 部屋のそこかしこに転がっている骸は、少年の肉親のものであった。
 祖父と祖母、父と母。肉親四人の死肉と血海に囲まれて、少年は踞座していた。
 そして、肉親の命を奪った忌わしい刃は、今、少年自身に向けられていた。

(・・・・・・二度と見たかねえと思ってたが・・・ずいぶん昔の記憶をほじくりかえしてくれるじゃねぇか・・・。)

 申し訳ないけど、死んで貰う――そんなようなことを、刺客は言う。
 遂に、無慈悲な一剣が、幼い命の上に振り下ろされた。
 ふたたび刃が血煙を呼び、少年の首ががっくりと落ち、すべてはここに収束するところとなった。
 ――否。まだ、終わっておらぬ。
 生命のともし火がひとつ、まだ吹き消されぬまま残っておる――。

「・・・・・・っち。久々に夢を見たと思いきや、昔のこととはね」

 忌々しげに舌打ちをしながら、エディンは腹筋を使って半身を起こした。
 既に日は昼前近くの位置にまで昇っている。
 同室のミナスは起床してギルの看護に行ってるらしく、寝床はきちんと整理されて空になっていた。
 少し寝癖のついてしまった頭髪をがりがりと掻く。

「あーあ。・・・・・・何か嫌な一日になりそうだ」

 わざとらしいため息をついてから、エディンは服を着替え始めた。
 ――ギルが衰弱して帰ってきてから、3日。
 ”金狼の牙”の仲間であるアレクは、依頼で知り合ったと言う中年の男に、護身術や冒険者の心得などを教え込んでいる。
 確か――サリマンという名前だったか。
 ジーニはといえば、どこぞの伯爵の依頼を請けるため、迎えの馬車に乗って出かけていた。
 独特の歩調で廊下を歩き、ギルの部屋を覗く。

「おう、どうだいリーダー。調子は」
「エディン~、そろそろ俺一人で体ぐらい洗えるって、アウロラとエセルに言ってくれ~!」
「いけませんよ。ついこないだ死に掛けたのに、何言ってるんです。ちゃんと養生なさい」
「アウロラさんの言うとおりですよ!ちゃんと寝てないと!」

 ギルの枕元の右側に手ぬぐいを持ったアウロラが、その後ろにエセルが水差しを抱えて立っている。
 左側で彼のために絵本を朗読していたミナスは、目を丸くしてその様子を眺めていた。

「・・・いやいやいや、なにこれ。どういうこと?」
「どういうも、何も。体を拭かないと不衛生だからと言ってるのに、嫌がるんです。あなたからも何とか言ってやって下さいよ」

 エディンの疑問にアウロラが堂々と答えているが、さすがに年頃の男が寄ってたかって妙齢の女性二人に体を拭かれるというのは・・・。

「・・・本人がいいっつってるんだから、許してやれば?」
「ダメですよ、この人面倒くさがりなんですから!」

 エセルが抗議した。

「見てないところで手を抜きますよ、きっと」
「すごい、エセル、ギルのことよく分かってるぅ」

 ミナスが思わずそう言って拍手する。
 それにギルが「暢気にいってる場合か!?拭くだけならお前だけでいいだろ!?」と噛み付いた。

「あ、それ無理。僕、静屋さんまでアッシュとシエテ連れて遊びに行く約束なの」
「なにぃいいぃ!?」

 ≪クドラの涙≫の探索依頼失敗後に行ったロスウェルで、色々な縁があり≪狼の隠れ家≫へ冒険者として登録をすることになったアッシュは、若い女性の盗賊である。
 まだリューンの地理に慣れていないということで、暇がある時に、誰かしら彼女を案内することにしている。
 ミナスはシエテと一緒にいることが多いから、同道して遊びに行くことにしたのだろう。
 防具「静屋」は、防具と銘打っている割に装飾品ばかり置いている一風変わった店である。
 店主の老婆は昔冒険者をやっていたとかで、その手の冒険談を現役から聞くのを好み、その際には必ずお茶を振舞ってくれるというのだ。
 アッシュもシエテも、まだ実入りのいい冒険をやっているわけではないが、どんなアイテムがあるのか確認くらいしておきたいのだろう。
 打つ手なしと判断したエディンは、静かに最終通告を放った。

「・・・・・・もう覚悟決めちゃえよ、リーダー。諦めろ」

 手をひらひら動かし、その場を退散することにした。
 彼の後を追うようにギルの声が響く。

「あ、ちょ、エディン待って待って・・・・・・って、やめろー!!くすぐったいからそこ触るなあああ、触らないでー!きゃー!?」
「・・・・・・・・リーダーは犠牲となったのだ」

 エディンはこっそり手を合わせて彼の成仏を祈った。
 全然神を信仰してはいなかったが、形式美というやつである。

2013/03/19 08:00 [edit]

category: 闇のなか、白き夢魔と

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Mon.

聖なる遺産 1  

 ヴェルヌー伯イザベル、と言う人は一種の傑物だった。
 先代フェルナン伯爵の一人娘にして、父親の事跡を後世に伝えることを至上の喜びとしている・・・・・・らしい。
 正直、ジーニにはそれのどこが喜びなのかは理解できないし、するつもりもなかった。
 ただ、ジーニがそのヴェルヌー伯からの依頼を引き受けたのは、貼り紙の最後に「相応の名誉と報酬を期待してよい」とあったからだ。
 ・・・・・・ギルの養生で実は少々物入りになったのだが、先にアレクが一人で受けた依頼では少し追いつかないかもしれない。
 ここらで少しは稼いでおこう、というのが彼女の考えであった。
 ぴらり、と剥がしてきた貼り紙を見る。

「先日のヴィルロワ公会議によってイグノティウス師の列聖がなされ、我が父の形見たる首飾りが聖遺物に認定された・・・」

 当地の慣習法に従えば、俗人が聖遺物を相続することはできない。
 しかし、ヴェルヌー伯は大切な形見を手放したくない一心で、教会側と交渉を持とうというのだ。
 ・・・ついては、首飾りを教会へ渡さずに事態を収拾するための人材が欲しい、と。それがかの伯爵の望みらしい。

「聖遺物、ねえ・・・・・・」

 よく手入れした爪の目立つ手で、あまり日に焼けていない羊皮紙をぴらぴらと弄びながらジーニは呟いた。
 生前にすばらしい徳を為した聖者の、遺体なり縁の深い品々なりを≪聖遺物≫と呼ぶ。
 それは信心深い人々からの崇拝の対象となり得るもので、えしてそういった聖者の縁の物は、人知では計り知れない大いなる力を秘めていることがある。
 当然のことながら、そういった力を自分のものにと望む権力者や富裕な商人たち、或いは――表舞台には出ないものの、組織力では先の者達を上回りかねない秘密結社などが争奪戦を繰り広げる事が多い。
 
「死体切り刻まれてお守り~とか、冗談じゃないわよね。・・・まったく、亡くなったイグノティウス師とやらもそんなこと想像しなかったでしょうに」

 少しでも想像がついていれば、後日にヴェルヌー伯が冒険者を雇う必要のある事態は起こしていなかったであろう。
 聖者の列聖などは好きにすればいいが、それを元に個人の形見まで取り上げるというのは、さすがにやりすぎと言うもの――ひょっとしたら御堂騎士団なんて絡んでないでしょうね、とジーニは危惧した。
 御堂騎士団。
 聖南教会から聖地エシュルンを取り戻した猛者である。
 強烈な信仰心を背景とした――ぶっちゃけて言えば狂信的な聖北教会の戦闘集団であり、異教徒や人ではない種族の者達、或いは精霊信仰や錬金術などの異端者に対し、極めて厳しい対処を行なう。
 秘密主義であり、聖遺物の収集に力を入れているため、聖央修道院との癒着があると噂されるが、決定的な証拠は無い。
 近年、穏健派と過激派の対立が激しく、確かロストックとかいう土地にいた高名な司祭にまつわる事件に、御堂騎士団が絡んでいたという話も聞いているのだが・・・。

「くっだらね。どうして、もうちょっと頭やわらかーくして生きていけないのかしらね。・・・いや、出来ないから神様に寄りかかってるのか」

 馬を留める老練らしい御者の声、小さく嘶く馬、そしてジーニが体を預けていた馬車ががくんと止まり。ガチャ、とドアが開いた。

「お待たせいたしました。我が主の屋敷に到着いたしました」
「はい、ご苦労様。・・・・・・・・・うわーお。おっきい」

 多少白々しい調子も混じっていたが、ジーニの感嘆は本物であった。
 ヴェルヌー伯の邸宅は、さすが伯爵位に恥じることの無い規模をしており、馬車の止まった場所から精妙な細工の施された玄関口の鉄柵までがまた呆れるように遠かったのだ。
 邸宅のドアのところまで馬車を着けてくれたからさして困ることもないのだが、

「・・・・・・自分の家だったら大変だわ、これ」

 迎えに出てきた執事に案内されながら、ジーニはため息を一つついた。
 ・・・・・・案内された部屋は、伯爵の私的な用事を行なうための書斎らしい。
 昼前にも関わらず室内は薄暗く、日の光の代わりに灯火が陰影を刻んでいる。決して豪奢ではないものの、落ち着いたインテリアで統一がなされていた。

「よく来てくれた」

 上流階級らしい華やかな絹のヴェールを被った女伯は、しゃらしゃらとパールの装飾を鳴らしながら、ジーニへ貼り紙に載せた事項の確認を行なった。

「・・・要するに、そなたにはリスクブレイカーを請け負ってほしいのじゃ」

 依頼主はジーニを値踏みするように見回した。

「まずは、そう、懸案の首飾りをそなたに見せるとしよう」

聖なる遺産1

 それは、所々磨り減ったいかにも質朴な首飾りだった。
 聖イグノティウスが生前愛用した十字架である。

「父はイグノティウス師の俗世における協力者であり、かつ唯一の親友であった」

 ジーニは黙って首肯した。
 先代のフェルナン伯爵がイグノティウス師と本当に親しく交際していたということは、ここに来る前に調査が済んでいる。

「我は父の晩年の娘ゆえ、師が在りし日の姿を知らぬ。が、聞けばゼーゲ十字軍が父と師の親交の始まりという」

 僻地で連絡を絶たれた師の軍営に対し、蛮族の軍団による十重二十重の包囲網が作られたことがあった。
 それを主によって遣わされたのが他ならぬフェルナン伯爵であったという。
 戦術に長けていたフェルナン伯爵は、わずかの手勢で囲いを破り奇跡的にイグノティウス師の救出に成功。それを師は痛く感激し、首飾りをそのしるしに送った・・・・・・。

「・・・わかるな?これは父と師の友情の証、容易には手放せぬのじゃ」
「よーく分かります、はい」

 女伯は万感を込めて長くため息を吐くと、十字架を胸に抱きしめて動かなくなった。
 ジーニはしばらくそれを眺めていたが、沈黙を破る役目が自分にあることを悟った。

「えーと、すいません。ヴェルヌーの慣習法にある教会側の要求の根拠とは・・・?」

 ジーニは遠慮がちに――彼女に出来得る範囲ではあったが――尋ねた。

「・・・うむ、その話か。慣習法は先々代に成文化され、相続の規定も記載されておる」
「なるほど。問題の箇所は?」
「その413条、すなわち聖遺物の相続に関する項が教会側の根拠とする所じゃ」

 女伯は一枚の羊皮紙を広げ、ジーニに条文を見せた。

「413条、もしある人が聖遺物を所有し、それを遺産として残す場合、しかるべき人物に遺贈される」

 ジーニは歯切れのいい口調で最後まで読み上げる。

「しかるべき人物とは、土地の小教区を統括する聖職者である。主に奉仕すべく存在する物は俗人の手に留まるべきではない」
「・・・師の列聖によってこの首飾りも聖遺物となり、教会は法文を盾に我に譲与を求めてきた」

 苦々しげな女伯の声である。これから察するに、一体どんな内容の譲与とやらを要求してきたのか、想像に余りあった。

「我は首飾りにまつわる当家と師の浅からぬ因縁を諄々と説いたが、それに対する教会の返答は恐喝以外の何ものでもなかった」
「神様に仕えてるのに、人同士の機微には疎いんですねー」
「”期日までに譲渡が行なわれねば、法の権威に基づき強制的に行為は行なわねばならない”と」
「しかし、教会はなぜそれほどに強硬な主張をするのです?」

 ジーニはずっと気になっていた点を口に出した。何といっても相手は伯爵、教会といえどもそこまで高圧的に出れる相手ではないはずなのだ。

「どうやら御堂騎士団が裏で事を操っておるらしい」

 女伯は忌々しげに答えたが、ジーニの目は遠かった。

「ああ・・・御堂騎士団・・・」
「今回の話は我が土地の司祭殿から最初に耳にしたのじゃが、司教殿が司祭殿に通達する折、彼奴等に言が及んだそうじゃ」

 どす!という音を立てて、女伯の拳は近くの銀糸を使ったクッションに突き刺さっている。

「教会は御堂騎士団に脅され、今回の事を強要されておるのよ。彼奴等の横暴は有名じゃからな」
「ん?すると、宿に逗留している連中は・・・」

 ジーニは御者伝手に聞いた村民の言を思い出した。

「うむ、御堂騎士団じゃ。大方、強制執行のために圧力をかけに来たのじゃろう」
「・・・とはいえ、直接そっちに働きかけるのは難しいでしょうね」
「強制執行は止められぬ。彼奴等に手を出すこともできぬ」

 悔しげな女伯の声は、鬱々と部屋に響いた。

「法の根拠を持つ御堂騎士団には我と雖も抗する術は無いのじゃ」
「ふうむ・・・」
「そなたには何らかの方法でこの状況を打開してほしい。・・・期日は明後日に迫っておる」
「報酬の確認をしたいんですが」
「ふむ、報酬じゃな?成功した暁には1000spを報酬として支払い、我との面識を有効に活用する権利を授けることとする」

聖なる遺産2

 報酬はまあまあ。おまけに貴族とのコネが出来るということであれば、一人で請け負う仕事としては万々歳だろう。

「状況は把握しました。”金狼の牙”の頭脳にお任せを、閣下」

 ジーニはにこりと笑い、再び慣習法を見せてもらった。

「該当法文は413条だけど・・・・・・」

 ぴらり、と気になる条文の項目を確認し、傍らにいる女伯が驚くほどの速さで羊皮紙を捲っていく。
 その手が――美しく手入れされた爪が、361条のところで止まった。

 ――361条。
 本章では各種の遺言について、それぞれどのように行なわれるかをひとつひとつ述べることとする。
 また、いかなる遺言が有効か、或いは無効であるかを示す。
 これは遺言が執行される際に効力を発するものである。

「・・・・・・・・・」

 ジーニは違和感を感じた。
 もう一度、じっくりと羊皮紙に書かれた文章を読み下す。

聖なる遺産5

「・・・・・・また、いかなる遺言が有効か、或いは無効であるかを示す。これは遺言が執行される際に効力を発するものである・・・」
「・・・どうしたのじゃ、何か見つかったのか?」

 女伯は訝し気に振り向いた。
 ジーニはにやにやと笑い出したくなる興奮を抑えつつ、違和感の正体を女伯に告げた。
 これによって教会側の論理は崩壊したと言ってよい。
 つまり。
 この遺書に関する章は全て執行の際に有効か否かを判断するものに過ぎないのだ。
 教会が後で何と言おうとそれは法的根拠を持たない・・・。

「おおっ、よくやった!法的根拠さえなければ御堂騎士団にも対抗できる」

 女伯の興奮はうなぎのぼりだ。

「まずは強制執行を阻止し、法王庁に訴えかけ・・・」

 自分の世界に入りかけているのに、自分でちゃんと気づいたものらしい。
 「・・・あっ」という小さな声を上げると、女伯はこちらへ向き直った。

「すまぬ、そなたへの労いがまだじゃな。これが報酬の1000spじゃ」

 女伯が水晶で出来たベルを二つ鳴らすと、金貨の詰まった袋を盆に載せた執事が部屋に入ってきた。
 それをそのまま、恭しく差し出してくる。
 盆から皮袋を摘みあげたジーニは、短く「どーも」とだけ言った。

「そなたの仕事はここまでじゃ、後は我が処理する。・・・誠によくやってくれた」
「いえいえ。教会への対抗策が、短時間で見つかって何よりだわ」
「好きな時にまた我が屋敷に来るがよい。我との面識を有効に活用せよ」

 ジーニは1時間ほど前に降りたばかりの馬車にもう一度揺られ、≪狼の隠れ家≫への帰途についた・・・。
 その後、ジーニは風の噂に、法王庁がヴェルヌー伯の訴えを受け入れ、御堂騎士団による聖遺物強制徴収未遂事件を不当なものとする見解を示したと聞いた。

聖なる遺産8

 女伯はさぞ喜んでいるだろう。

「・・・ま、変わったヴェール使っていたけど、割と気の合う感じの人だったし。女だてらにとか言われても頑張って欲しいとこね」

 ジーニは簡単な旅支度を整え、ぶらりと≪狼の隠れ家≫を出ると、身の赴くまま道を歩き始めた。
 そう、今日は――リューンの片隅に、ただでココアを振舞ってくれる、ちょっと変わった店があるとアッシュから聞いている。そこに行く途中で、郵便配達屋に寄る余裕くらいはある。
 一言祝辞でも述べるつもりだった。

※収入1000sp※
--------------------------------------------------------

■後書きまたは言い訳

52回目のお仕事は、クエストさんのシナリオで聖なる遺産です。色んな依頼達成へのルートがありまして、時間制限もきっちりあり、御堂騎士団や聖遺物、リスクブレイカーの出てくる作品をプレイされたご経験がある方なら、にやりとしてしまうシリアスなショートシナリオです。・・・シリアス成分に耐え切れず、余計な動作を女伯にさせちゃってますが。原作者様本当すいません。
私の場合、大抵は森に行って帽子のお兄さんと交渉するルートをとります。しかし今回、交渉下手で怠惰なジーニということで、館から一歩も外に出ないやり方で解決してみました。彼女なら御堂騎士を脅迫ルートもやりそうなんですけど、一人旅だと肉壁(酷)もいませんからね。そういうリスクは犯さない気がします。
御堂騎士団及び聖遺物に対する説明は、当シナリオの他に「エルム司祭の護衛」(MNSさん作)からも幾つか文章をお借りしています。ついでに、どこか他の宿でこの事件が片付いたような書き方をしてみる。

最後の方にある変なお店は、次回明らかに。というか手前味噌なんで少し恥ずかしいですが。
ラストの一人旅はエディンですが、なんか筆がうっかり滑ってシナリオストーリーに余計なことを書き加えちゃっています。大丈夫かな・・・。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/18 00:13 [edit]

category: 聖なる遺産

tb: --   cm: 2

Sun.

そこから 5  

「・・・遺跡でもね。あなたにロープで支えて貰っている時・・・本当は嫌な想像をしてました」

 ぽつり、ぽつりと。
 まるで一枚ずつ薄皮を剥ぐように、サリマンは続ける。

「このロープが、何かのはずみで切れたら?あなたが、ロープを握る手を、ちょっと滑らせてしまったら?」
「・・・・・・」
「何を馬鹿な事をと、笑われるかもしれませんね」

 それでもサリマンは、あの岩に取りつきながら、何かの拍子で滑り落ちるという妄想を止めることが出来ずにいた。
 無数の錆付いた槍が、ずぶずぶと肉を貫通していく――――。
 アレクは驚いてなかなか返事をすることが出来ずにいた。
 平気だと思っていた。ロープを使う様子、躊躇い無く落とし穴へと降りていき、着いた途端に声を上げるだけの配慮。
 なのに、それを押し殺してサリマンは下に行ったというのだ。

「滑稽です、われながら。でもどうしてもそうなんです。ああ」

 彼はまくし立て始めたかと思うと、いきなり膝に顔を埋めて嘆くのだった。どうも酔っているらしい。
 こういう酔っ払いを相手にした経験は、あいにくとアレクに不足していた。
 どうしたものかと首を捻っていると、

「・・・ですけどね!」

と突然声が上がった。

「とにかく私は決めたんです。何をと言って、こういう自分を否定しない事をね」
「・・・ほう」
「嫌な想像をしてしまうのは、最悪を予想して『用心が出来る』・・・って事だと思うんです」
「・・・まあ、そうだろうな。そういう予想も出来ない奴は、冒険者には向かないだろう」
「今回の旅だって、そう決めて、自分なりに腹括って臨みましたよ。こんな有様ですけどね」

 誰でも、最初から動じずに何でもこなせる訳ではない――そう言おうとして、アレクは止めた。
 似たような意味の呟きを、サリマンはずっと自分に唱え続けているので。
 やがて、ふと顔を上げた彼は、

「・・・・・・えーと。・・・・・・・・・・・・あれ?・・・・・・何で私、こんなに語ってるんだったっけ」

と、頼りなげに言った。

「そう言われてもなあ」

 アレクは苦笑するしかなかった。

そこから17

「・・・あのー。もしかして私今、かなり恥ずかしい事を口走ったりしていましたかね?」
「まあな」
「あの。すみませんでした。酔っ払ってますね。水飲みます」

 サリマンは傍らの皮水筒を引っ掴むと、今にもむせそうな勢いで、中の水をがぶがぶ煽り始めた。
 それも済むと、今度はうな垂れ始めてしまう。どうやらさっきの独壇場は、彼にとって堪えるものだったらしい。
 さすがに見かねて、アレクはそろそろ見張りを交代しようと申し出た。

「・・・うん。今夜はよく寝られそうだ」

 うーんと伸びをして、骨ばった体をパキパキ鳴らし終わったサリマンは、

「おやすみアレクシス。それでは交代お願いします」

そこから18

と言い、残った酒は飲んでしまって構わないと告げると、使い込んでいる毛布に包まって丸くなった。
 アレクは一人、ちらちらと舞う炎が小さなおき火になっていくのを、じっと見つめている。
 やがて小さないびきが聞こえてくるのを確かめると、トールが懐から出てきて、アレクの肩の上に移動した。

「なんでっか、こちらの兄さん。ずいぶんとお悩みみたいでしたな」
「・・・冒険者になりたい、と決意してるそうだから、何か内に抱えてるんだと思うんだが・・・」
「せやかて、冒険者なんてしょせんはアウトロー。今とりあえず職に就いてはるんなら、無理に転職せんでもええでしょうに」

 トールの言い分はもっともだった。根無し草に近い冒険者の暮らしは、決して楽なものとはいえない。
 時には依頼人の心の痛みを分かち合い、時には理不尽な出来事に憤り、それでも冒険を止められないのは、すっかりそれに魅せられているからだろうとアレクは思っている。

「つまりこの人は、今の仕事に魅せられていないんだろうな」
「それでやらはるのが冒険者・・・・・・うーん、大丈夫でっしゃろか」
「素質は十分すぎるほどだと思うよ。戦いが冒険の全てじゃない」

 むしろ、そうじゃない部分を上手くやるのが大変なのだと、アレクは嘆息する。
 戦闘に慣れないのはまずいかもしれないが、最低限の護身を身につけ、後は他の者に前衛を任せて援護に徹するほうが、サリマンには向いてそうである。
 ただ、≪狼の隠れ家≫には向いてないかもしれない――アレクはそこを懸念していた。
 老舗だけあって、幾分か保守的な面もある宿だ。一応、自分との面識はあるとは言え、酒場や食堂で他の者と話し込んだりした経験がない彼では辛いだろうと思った。

「だったらどないするんです?」
「違う宿を紹介する」

 トールの質問にきっぱり答えた。
 度量の広い宿の亭主を慕って、人間以外の色々な種族が多く集う宿がある事をアレクは知っていた。
 有翼人やハーフエルフ、獣人たちが賑やかに過ごす所である。
 そこの冒険者たちなら、話題の豊富なサリマンのことを温かく迎えてくれるはずだ。宿の名前は・・・・・・≪くもつ亭≫という。

「護身やその他の基礎的なところをうちで教えてから、そっちの宿を紹介する。・・・・・・それなら彼も、自分の力でやっていけるだろう」

 ――後日。
 年季の入った宿のドアを開けて入ってきたサリマンに、宿の親父さんが声をかける。

「ああ、お前さんか。今日からだったな。まぁ、まずはこっちに座ってくれ」

 親父さんが奥のテーブル席へ視線を向ける。
 一番部屋を見渡せるその場所で、先輩冒険者――アレクが、肘をつきながらずっとこちらの様子を窺っていた様だった。
 そっと彼はサリマンに近づき、

「これからよろしく」

と手を差し出した。
 そこからサリマンが、≪くもつ亭≫の即戦力となり、リューンに名だたる冒険者の一人となるのは――ちょっと先の話である。

※収入600sp、≪ベニマリソウ≫※
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■後書きまたは言い訳

51回目のお仕事は、バルドラさんのシナリオでそこからでございました。
ちゃっかりくもつ亭さんとクロスオーバーなんかしちゃったりして!途中でサリマンさんがアレクに夢を聞く場面がありまして。実はアレク、夢称号はまったくつけてないのですが、くもつ亭さんのサリマンの台詞がなんかそれっぽかったので、アレクが持っているであろう夢(ギルとの約束)を語らせてみました。
アレクから特訓を受けた後、サリマンさんはくもつ亭さんへお嫁に行きます・・・というか、もう行ってます。(笑)
突然のクロスオーバー要望にご許可をいただき、まことにありがとうございました!

アレクと雪精トールの会話がちょくちょく(特に最後のほうとか)出ておりますが、当然のごとくこれは本編にはございません。・・・今まで一般人で過ごしてきた人に、いきなり精霊見せて宜しくーって言うのは・・・うん、可愛かったり美人だったりならともかく、トール顔だけ見ると厳ついからな・・・。(笑)
まだ十代後半のわりに、少し冷静な視点で人の素質を見ていたりしますが、これは昔から冒険者になろうと色々やって来たアレク独特の視点ということで一つお願いします。若いけど、若いなりに色々彼にもあるんだよってことで。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/17 03:45 [edit]

category: そこから

tb: --   cm: 3

Sun.

そこから 4  

 遺跡を後にして外に出ると、ちょうど夕方に差し掛かろうとしていた。
 すぐ野営の準備に取り掛かる。サリマンが水汲みに行っている間に、アレクはトールを懐から出して、手際よく乾いた枝を2人で集めた。
 旅慣れた冒険者の身だ。太陽がもったりとした体を地に沈める前に、余裕を持って野営の支度を整える事が出来た。

「お疲れ、トール。・・・・・・これを」
「チーズと干し肉でっか。まあ旅の空ですからな、仕方あらしまへん」
「すまない。ちゃんと紹介しようと思ってたんだが・・・」
「気にせんといて、アレクはん。あんたが口下手なんは、わてもよう知ってますさかい」

 トールはにやっと笑った。
 貰った食料を口に放り込み咀嚼すると、彼はまた見つからないうちにとアレクの懐に潜り込んだ。
 やがてサリマンが戻ってきたので、アレクは彼と共に支度を進めた。

「すみませんね、野宿で」
「いや。慣れている」
「でも季節と天気さえ良ければ、遠い宿場まで足を運ぶよりもここでさっと野宿する方が快適なんですよね」

 おまけに安上がりだと、サリマンは言った。
 焚き火を囲んで、各々持参した携帯食料の晩餐を取る。
 サリマンが使い込んだ小鍋で細かく千切った干し肉のスープを拵え、アレクに振舞った。
 この手の小鍋を使ったスープや煮込みはアウロラが得意でよく作るのだが、ベニマリソウが入っていたかどうか、彼の記憶には定かではなかった。

そこから13

「どうぞ。ただの塩スープですが、外で飲むとお腹がほっとしますよ」
「ああ・・・・・・そうだな」
「昼に採ったベニマリソウも放り込んでみました。お口に合うといいんですけど」

 受け取った木製の皿からじんわりと熱が伝わり、思ったより体が冷えていた事を意識させられる。
 塩味のいたって質素な汁だったが、ベニマリソウのほのかな香味と干し肉の旨みも少し出ていて、素朴な味わいがあった。

(・・・アウロラなら、これに何を加えるだろうな?)

 旅の途中で仕留めた動物を手際よくさばいていた姿を思い出しつつ、アレクが内心で首をかしげていると、サリマンが不意に口を開いた。

「親父がね」

 アレクの視線は、その言葉を受けて自然と隅にある麻袋へと動いた。

「・・・ええ、そこの袋に入ってる私の父がね。なけなしの稼ぎを見境なく研究につぎ込むもんだから、私がまともに働けるまで極貧もいい所だったんですが」
「・・・・・・ほう。そんなことがあったのか」
「母親が愛想尽かして逃げた後、二人でよく摘んだんです。これ。もう何十年も前の話ですけどね」

 サリマンは皿に直接口をつけて、ずずっとスープを啜る。
 富裕な商人の血を引くアレクの家では、そういった貧しさを経験した覚えが無かった。冒険者となった新米の頃に、ようやくそういう飢えを体験したくらいである。
 自然、わずかに居心地の悪さを感じ、彼は身じろいだ。
 夕方の端っこと夜が混ざり合い、茜を帯びたちぎれ雲が少しずつ輝きを落としていく。
 そのうつろいを眺めながら、アレクとサリマンは黙々と口を動かした。

「・・・ああ、そうだ。見張りは交代で結構ですからね」
「あなたは依頼人だ。護衛である俺の仕事だと思うんだが・・・」
「なに、これまでもそうしてやって来ましたから」

 事も無げにサリマンは言う。
 食べ終わった後の食器を少しの水で拭いながら軽く打ち合わせ、サリマンが先に見張りをすることになった。

「おやすみなさい。大丈夫、もしも何かあったらすぐに起こしますから」

 もしもの事がある場合はサリマンよりも先に、恐らく懐のトールが反応するであろう――しかし、その事は口に出さず、アレクはただ頷くに留めた。
 近くの木の根元に厚手の毛布を敷いてごろんと横になる。
 腹は程よく満たされており、一日体を動かした心地良い疲労は、アレクを容易く眠りへと誘い込んでいった・・・・・・。

「・・・・・・・・・ん」

 ふと目を覚ますと、サリマンは先程のスープ皿でちびちびと晩酌をしている。
 アレクが起きたことに気づくと、彼はその場から動かずに声をかけた。

そこから14

「もう眠くないのでしたら、良ければ一杯どうですか。安酒だけど、温まりますよ」
「ああ。頂こう」
「さすが冒険者。いけるくちだと思いました」

 さっきの干し肉の残りもあるという。
 受け取った自分の皿を相手に軽く掲げてから、アレクとサリマンはさしで飲み始めた。

「一年前までは、たまに調査で近場へ赴いては、一緒に来て貰った冒険者とこうして焚き火を囲んでいました」
「・・・それで野宿に慣れているのか」
「ええ。そのときに聞かせてもらう話が、私はとても楽しみでした。・・・知らないことばかりで」

 こうやって、話し相手のある酒は久しぶりだとサリマンは皿をまた口に運んだ。
 一人暮らしだとなかなかご飯を作るのも面倒だから、食堂やたまに酒場にも行くのだと言う・・・ただ、誰かと話し込むと言うことは皆無だと。
 アレクは意外な気がして目をわずかに瞬かせた。中々饒舌で、相手を飽きさせない話術も心得ているような男である。

そこから15

「まあ気楽と言えば気楽ですから、特に何とも思いませんけどね。何事にも、良い面悪い面はあります」
「・・・・・・そうだな」

 アレクの脳裏に、大蛇に出くわした時に使ったゴーレムと、その開発者であるディトニクス家の令嬢の姿が浮かぶ。
 彼女からの二度目の依頼を引き受けた際、あまりにも意外な真実が出てきたために、このままゴーレム開発を続けていいのかと悩んでいた。
 だが、物事には二面性って奴があるんだと彼女を諭したのは最年長者のエディンだった。
 「いいこというじゃない」と笑って立ち直った彼女――ルーシーは、やがてきちんとスチームゴーレムを改良し、自分たちにあんなプレゼントを贈るまでに腕を上げていたのである。
 そんな過去を思い出しながら、しみじみアレクが頷いていると、ふとサリマンの目に真剣な光がちらついた。

「ねえ。月並みな質問ですが、冒険者って楽しいですか」
「・・・・・・ん?」
「明日の事も分からない冒険者稼業でしょう。いや、ただの興味なんですが」
「・・・そうだな。人にもよるんだろうが・・・俺は、友達と昔約束をしたんだ」

 首を傾げるサリマンに、アレクは自由と冒険を追い求める幼馴染がいて、彼の近くで同じ夢を見るのだと誓ったことを話した。

「自由と冒険・・・何者にも縛られない生活、か」
「ああ」

 それは父と母がかつて通った道でもある。
 アレクの話にじいっと耳を傾けていたサリマンは、焚き火の炎を見詰めながらポツリと呟いた。

「私の憧れている冒険者像そのままなんですね。あなたは。なんて屈託のない夢だろう」
「子供のときに約束した夢だからな。でも・・・・・・ちゃんと叶ったし、叶え続けたい」
「・・・私も、そうありたいな」

 会話が途切れても、焚き火があると不思議に居心地は悪くない。
 何となく炎に見入りながら黙って杯を重ねる。
 夜空を見上げると、大きく輝く赤い竜の星が、西の森の端に姿を消そうとしていた。アレクの瞳に、よく似た色の星だった。
 今の季節、ちょうど真夜中に沈むこの星を、見張り交代の目安にしようかと打ち合わせていたのだったが・・・どうせ厳密な取り決めではないし、聖北教会の加護のせいか、今夜は何事も起こりそうに無い。
 サリマンを見やると、気分よく飲んでいる様子である。もう少し放っておいても良いだろうと、アレクは判断した。
 そしてどのくらい杯を重ねたか。
 ふと見れば、サリマンは膝を抱え、ボンヤリと自分の震える片手を覗き込んでいる。

そこから16

「思い出していたんです。・・・昼間の事、あの蛇の事」
「あれか」
「・・・大きな蛇でしたね。ああいうの、よく相手にされるんですか」 

 新米時代にも退治したが、リューンの地下にある元遺跡の下水道などでも見かけた覚えのあるアレクは、こっくりと首を縦に振った。

「そうですよね。あなた、堂々としていました。さすが冒険者です」

 でも、と弱々しくサリマンは続けた。

「・・・もしあれを、自分が相手にしていたらと思うと。・・・はは。この様です」

 サリマンは揺れる焚き火とアレクを交互に見詰めながら、のろのろと吐露し始めた。

2013/03/17 03:33 [edit]

category: そこから

tb: --   cm: 0

Sun.

そこから 3  

 切り立った崖の下にバーセリック墓地遺跡の入口はあった。
 周囲は明らかに人の手で刈り込まれ、日差しが下生えまで良く差し込んでいた。気持ちのいい風も通っている。
 そのおかげか、佇まいは静謐だがおどろおどろしい印象は少しも無かった。入口は、鉄柵で封印されているようだ。

「相変わらずのどかだなあ、ここは。今晩はここに野営しますので、そのつもりでお願いしますね」
「わかった」
「水場も近いし、いざとなったら遺跡内で雨露もしのげるんですよね。流石にそれはぞっとしないですが」

 遺跡とは言っても、「墓地」遺跡である。それは確かにぞっとしないだろうと、アレクにも思われた。
 遺跡での作業は夕刻までには十分終わる見込みがあるそうだ。
 野営の準備はそれからということになり、彼らはまず昼休憩をとることにした。
 柔らかい下生えに腰を下ろし、乾いた携帯食料を齧る。水で流し込み、手短に支度を整えた。

「では、そろそろ潜りますか」

 サリマンはよし、と頷いて、上着の内ポケットから銀色の小さな鍵を引っ張り出した。
 アレクが無言のまま視線で問うと、

そこから7

「遺跡が悪用されない様にとね。魔よけの意味もあるらしくて。潜るにも教会の許可が要るんです」

と、鍵を差し込みながら彼は答えた。

「その割に立会人もないし、体裁の意味が強い気もしますけど」

 こんな小さな遺跡にいちいち構ってられないのが本音だろうかと、サリマンは肩をすくめた。
 かちり、と鍵の開いた音が鳴り、アレクは予め灯しておいたカンテラを掲げる。
 依頼人を後ろに遺跡へ足を踏み入れた途端、洞窟特有のじっとりと冷えた空気がアレクの身体を取り巻いた。

「相変わらずですね。ここも」
「一年ぶり・・・だったか?」
「ええ。・・・ここの壁画も、昔、全部写し取ったんだったな。・・・懐かしい」

 サリマンはカンテラに照らされた壁をそっとなぞりながら、独り言のように呟いた。

「・・・ああすみません。こちらですよ。まぁ、迷いようもありませんけどね」

 道は一本だけ、真っ直ぐに伸びていた。暗いが、よく舗装されているので足さばきは楽だった。

(これなら戦闘が起こっても大丈夫だな・・・。)

 いささか物騒な安堵をアレクはした。
 下げているカンテラに照らされて、じわりじわりと闇が染み出してくるように行く手が現れる。
 壁や柱に丁寧に掘り込まれている独特で繊細な陰影が、その暖かな灯りの動きに合わせて、静かに揺らいではまた闇に溶けていった。
 ほどなく、サリマンが足を止めた。
 カンテラを貸して欲しいと言うので、落として割らないよう注意して渡す。
 すると、サリマンが真っ直ぐに腕を伸ばした。
 カンテラで先を照らしているが、その先の道が不自然に黒い。

そこから8

「ここです。この落とし穴です」

 彼は屈んで闇の先を照らしながら、底をじっと見つめた。アレクもその後ろから一緒に窺うと、そこそこの深さがあることが分かった。
 底にびっしりと立てられた槍が、ボンヤリとその姿を晒している。
 なるほど、もし落ちたなら助かりそうにはない。昔はさぞ侵入者の血を吸ったのだろう。

「相変わらず骨が散らばってぞっとしないなあ。浄化済みとはいえ・・・」
「どれがお父上か分かるか?」
「お、いたいた。あれです」

 サリマンは父親を見つけたようだ。

「暴かれてから久しい罠だし、何でこんな分かりやすい穴に足滑らせたんですかね・・・ホント」
「・・・・・・お父上じゃなければ、分からないさ」

とアレクは呟いたが、それはあまりに小さすぎてサリマンの耳には届かなかった。

「さて、じゃあ回収しますか。技術に長けた人が上にいた方が安心だから、私が下に降りますね」

 上からロープで確保していて欲しいと言われ、アレクは首肯した。
 サリマンも基本的な技術くらいなら身につけているので、ちゃんと支えて貰えれば下に降りることは造作も無いという。
 アレクは長い命綱の束を解き、からまりは無いか、万一の劣化は無いか、点検を始めた。
 その間にサリマンは、もう1つのカンテラを取り出して灯りを移し、新しいほうを別のロープに結び付けて穴の底へと下ろしていた。
 闇に隠されていた陰鬱な世界がぼうっと浮かび上がる。

「こちらは大丈夫だ」

 アレクが用意したロープを渡すと、サリマンは慣れた手つきでそれを股から肩に回し、脇腹に押さえ込んだ。冒険者もよく使う、肩がらみという方法だ。

そこから9

「じゃあ、行きます。よろしくお願いします」
「ああ。気をつけて」

 サリマンはするすると縁の向こうに消えた。

「くっ・・・・・・」

 アレクは腰を沈めてしっかりと足を踏ん張りながら、ロープにずっしりと掛かる機微を読み取る事に集中した。
 どのくらい時間が経ったのだろう・・・・・・しばらくして、掛かっていた負荷がふっと軽くなった。

「着きました!」

 すぐにサリマンの声が地の底から響いた。アレクは緊張を緩める。
 縁から下を覗き込むとまだ暗い様子だったので、カンテラを掲げて、底への光源を増やしてやった。
 ぼろぼろに朽ちた無数の槍と、散らばった骨の間を縫って、サリマンは底に屈んでいる。手巾でマスクをしているようだった。

(遺跡でのこういうところの振る舞いも身についている。・・・・・・死体に取り乱す様子もない。これは中々強いな。)

 アレクはサリマンの様子をそのように評価した。
 冒険者といえば、とかく荒事に縁がある。そればかりと言うわけでもないのだが、普通に生きている市民と比べると、圧倒的に死体を目に入れる機会が多かった。
 血に弱かったり、死体に弱かったりなどすると、極端に依頼の種類を絞る必要が出てくる。それは冒険者として実際的ではなかった。
 サリマンは下ろしたリュックから大きな麻袋を引っ張り出すと、目当ての遺体をそこにごそごそと詰め込み始めた。
 「それ」がまだ衣服の残骸をまとい、十分に原型を留めている事が上から覗き込んでいても分かったが、サリマンは手際よく折り曲げたり、こびりついた何かを剥ぎ取ったりして、せっせと器用に作業を続けている。

そこから10

 その甲斐もあってか、作業は何の滞りもなく終わり、アレクは口を固く縛った麻袋をサリマンの合図と共にロープで引き上げた。
 麻袋の、軽くも重くも無い手ごたえが両の手に掛かる。
 ――――ずりっ、ずりっ、ずりっ。

「・・・・・・ふう」

 思わずアレクは息をつく。十分に気をつけて引き上げたが、麻袋は時折岩にこすれてしまい、硬くてくぐもった音を立てた。
 引き上げた麻袋のロープを解き、もう一度穴に下ろして底を照らすと、やはりカンテラを掲げたサリマンがこちらを見上げている。
 彼は、光が直接目に入らないように腕で顔を庇いながら、大きな目をいつまでもこらしていた。

「・・・・・・サリマン?」

 油がじりじりと燃える特有の臭いが立ち込める中、アレクはじっと返答を待った。

「・・・ああ、すみません。天井を見ていて」

 おもむろに彼は口を開く。

「あなたも、よければ見上げてごらんなさい。足元には気をつけて」

 サリマンに変わった様子が見られないのを確認すると、彼の言葉につられてアレクは顔を上げた。
 よくよく気をつけて見れば、天井の少し窪んだ部分、またたき揺れる暖かい光の中に、美しいモザイク壁画が浮かび上がった。
 ごくさりげなく、小さな造作だったが、色とりどりの石片をちりばめて、羽と角の生えた不思議な生き物が丁寧な意匠で表現されていた。

「・・・これは?」
「昔むかしに信仰されていた神様の壁画ですね。現世にさまよっている魂を、次の生に導くのだとか」
「神、か」
「・・・恐らく、ここに落ちた者が死後この場を荒らさぬようにと、魂が正しく導かれるようにと、描かれたものではないでしょうか」

 サリマンの推測は根拠のあるものではなかったが、それは確かな説得力を持っていた。
 鑑定眼も確かなようで、「ここから見ても、かなり状態がいいみたいです」という声が聞こえる。
 ふとサリマンが言った。

「・・・父はもしかしたらこれをたまたま発見して、興奮してつい、足を滑らせたのかもしれませんね」
「そういうことをしそうな人だったのか?」
「・・・違うかもしれないけど。でもあの人らしいです」

 それからサリマンはしばらく口を閉ざし、穴の底からじっとその壁画を眺めていた。

2013/03/17 03:32 [edit]

category: そこから

tb: --   cm: 0

Sun.

そこから 2  

 翌日。まだほの暗いうちに、アレクはトールを懐に突っ込んで宿を発った。
 雲は少し出ているけれども、空は十分に晴れている。

「ちょっと空気が湿ってまんな。ま、このくらいの寒さの方がわてにはありがたいですが」
「そうか、良かったな」

 ゆっくりと朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで吐き出すと、アレクは待ち合わせの場所へと足を向けた。
 依頼人の姿は、すでにそこにあった。

「おはようございます。晴れてくれて助かりましたよ。二人だし、身軽に動けます」

(本当は三人なんだがな)

と、アレクは思った。つい雪精トールのことをサリマンに言いそびれ、彼を紹介することができていない。
 そんな心中も知らず、サリマンはきびきびと言った。

「順調に行けば昼過ぎ頃には着くはずです。さ、それでは出発しますか」

 街道をひたすら北へ、北へ。
 まだ明け切っていない街道には、人の行き交いもまばらだ。荷でいっぱいの大籠を背負う者たちと幾たびかすれ違った。

「・・・久しぶりだなあ、この道を行くのも。用が無ければ、町の外なんてそんなに出ませんからね」

 少し感慨深そうにサリマンは口を開いた。

「ああでも、あなたは冒険者ですから、そんな事もないのかな?」
「そうだな・・・つい先ごろまでは、北の辺境や港町に滞在していた。町の外にはよく出ると言っていいと思う」

 ”金狼の牙”たちがキーレで成した出来事は、まだリューンに伝わってきていない。
 噂話は人の歩く速度と同じくらいというから、もう少ししたらサリマンもあの噂を耳にしたかもしれなかったが、今はまだ彼の知るところではなかった。
 それゆえに、質問者はのんびりと頷くに留まっている。

そこから4

「そうでしょうねえ。外の世界に実際に触れたら、きっと想像もつかない事だらけなんだろうな」
「それは間違いないな」
「残念ながら今回の行程はずいぶんと単調です。もし良ければ道すがら、いろいろ話を聞かせて下さい」

 今回の依頼人は、ずいぶん饒舌なようだった。
 アレクの冒険譚にはことに興味を惹かれている様子だったので、話下手ながらも一所懸命に、乞われるまま新米の頃に請けた大蛇退治や葡萄酒運びの護衛、フィロンラの花を採取した遺跡の話などをしてみた。
 しゃべりながら歩く街道は、リューンの主要なものなので整備も治安も申し分ない。
 ちょうど話が大海蛇退治の辺りに差し掛かった時、街道沿いの詰め所前で年のいった治安警備隊員が、焚き火にあたりながらまだ眠そうに歯を磨いていた。
 その焚き火の周りでは串に刺した丸いパンが幾つか炙られていて、香ばしい匂いを辺りに漂わせている。

「やあ、おはようございます。うまそうな朝食ですね」

 ごく自然な口調で如才ない様子に、アレクは心中で唸った。
 老人や警備隊等に所属している輩は、とかく頭の固い者が多い。口の利き方1つですぐ不快になることもある。
 しかし、そんなことを起こさせない彼の話しぶりに、アレクは(・・・もしかしたら、情報収集や交渉に長けるかも。)と評価をつけた。
 サリマンが声をかけると、老隊員は口にさした歯ブラシを引き抜いた。

「よかったら道すがら食べるかね。まだ余分もあるし、一個2spで分けてやるよ」
「お、いいですねえ。アレクシスも食べます?」

 黙って首肯しサリマンに2sp渡すと、彼は「それじゃあ2つ貰うよ」と老隊員に声をかける。

「おう、持ってきな。バターも使っていいぜ。そこの壷ん中だ」
「そいつは有りがたい」

 老隊員に4spを手渡して、彼は程よく炙られたパンを二つ、串から外した。
 それを真ん中からざっくりと割って、壷に入った真っ白なバターを中の木べらでたっぷり塗りつけた。

「あちち・・・・・・最近街道はどうです。何か変わった事は」
「ここ最近は平和なもんだよ。どこまで行くんだい」

そこから5

「バーセリックまで。明日には帰る予定なんですが」
「ふぅん。また辺鄙なとこに行きんなさるな。まぁ今のとこ、特に何も無いぜ」
「便りが無いのがいい知らせ、ってね。それは何よりの情報ですよ。じゃ、どうもありがとう」

 さり気なく街道の様子を聞きだし、相手の質問に過不足なく答えて自分の目的――遺体回収――については口にしていない。
 アレクはつくづく感心した。冒険者になりたいというサリマンは、結構向いているかもしれない。

 サリマンは親切な老隊員にパンを両手に握ったまま軽く手を挙げ、アレクの元に小走りで戻ってきた。

「どうぞ。熱いから気を付けて」
「ありがとう」

 炙りたての丸パンを受け取ると、小麦と溶けたバターの匂いがたちこめた。

「あっちち・・・はぐっ」

 必死に手の熱さを逃がしながらパンを頬張るサリマンの目を盗み、アレクは小さな欠片を冷ましてから懐に忍ばせた。
 小さな手でトールが受け取り咀嚼するのを感じつつ、アレクもまたパンにかぶりつく。

「・・・むぐむぐうまいむぐむぐですね、むぐ」
「・・・・・・・・・ああ」

 咀嚼を終えてからアレクが答えると、サリマンも大きな塊を飲み込んでから言った。

「・・・ここら辺の情報はあなたも詳しいんでしょうが、平和そうでよかった。むぐむぐ、予定通りの行程になりそうですね」

 熱々のパンを口いっぱいに頬張りながら、相槌を打った。
 視界は大きく開けており、昇り始めた日の光を受けて、彼方の山脈までようよう見渡せる。
 一泊の行程なので荷物もそれほど物々しくない。
 サリマンの言うとおり、とても身軽な旅だった。
 丘を超え、宿場を越え。その大きな街道をさらにしばらく進むと、細い脇道との分岐に辿り着いた。
 日に褪せた立て看板を確認してから、細い分岐に入る。この道を行けば遺跡があるとサリマンは言う。
 街道から離れた、少し緩やかな登り坂。
 その遥か奥に広がっている森までは、野の花がぽつぽつ咲く原っぱが続いていた。

「知ってます?ベニマリソウ。そこらによく生えてるから、珍しくも無いですけどね・・・」

 サリマンは、街道の脇に小さく群生していた野花を摘み取り差し出した。
 可愛らしいピンク色の丸い花に目を細めていると、

「野草の中でもアクが少なくて、ゆがくだけで美味しいんですよね。手間いらずで好きです」

などとサリマンが続けたので、思わずアレクは目を剥いてしまった。

(まさかそう来るとは・・・。でもまあ、確かに野草を食するのに抵抗がなく、知識もあると言うのは強みだろうな。)

 今晩の賑やかしにでも、とサリマンが水筒の水で少し湿らせた手巾に採集するのを、アレクは黙って見守った。
 周りに妖魔や動物の気配が無いことは、すでに確認済みである。

「・・・や、お待たせしました。夕食にスープくらい付けようと思ってたんですが、ちょうど良かった」

 では行こうと促され、再び二人は歩き始める。
 ・・・・・・どのくらい進んだだろうか。道は緩やかで、単調だ。アレクには少し退屈でもあった。
 街道を離れて久しいというのに、緑の濃い、明るい広葉樹林を縫ってつけられた道は、とてもよく手が入っていた。

「意外なくらい整っているでしょう?聖北教会が、遺跡を浄化するときに整備したんです」
「教会が?」
「何と言いますか、まあ有り難い話なんですけど・・・教会の力ってすごいですよね」

 そうだな、と相槌を打とうとしたアレクの機先を制するように、サリマンが小さく声を上げる。

「・・・あっ」

 その声に視線を走らせると、中々大きな蛇が道を塞ぐように横たわっていた。
 どうしようと困り果てているサリマンを下がらせて、アレクはそっと荷物袋から鋼鉄製の犬を取り出した。

「それは・・・?」
「スチームドッグという、蒸気で動く犬のゴーレムだ。前にやった仕事でゴーレム研究家から貰った」

 アレクが突撃しても構わないのだが、彼の傍を離れている間に、他の動物が襲ってくるとも限らない。
 これが一番安全策だろうと、アレクは犬のゴーレム――スチーノを起動させ、蛇にけしかけた。

そこから6

 スチーノが蛇に鋼の牙を突きたて拘束する間に、アレクは周りを確認してみるが、違う獣が潜んでいる様子は見られなかった。
 安心して進み出ると、≪黙示録の剣≫を蛇の頭部へと突き刺す。
 蛇は太い胴体を波打たせてしばらく暴れていたが・・・・・・やがて事切れると、ぐったりと丸太のようになった。
 スチーノのスイッチを切って、蛇の死体を道の脇の草むらに靴で押しやる。
 サリマンはその様子をじーっと見守っていた。

2013/03/17 03:31 [edit]

category: そこから

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Sun.

そこから 1  

 久しぶりにリューンへ帰ってきた”金狼の牙”たちだったが、リーダーであるギルの炭坑に閉じ込められるという事件により、しばらくは6人での活動を控える事となった。
 ギルの衰弱が酷かった為である。
 元々健康体であり、アウロラやミナス、そしてウェイトレス業の傍らエセルが彼の看護を交代でやっているので、程なく回復はするだろうが、今すぐというのは無理だった。
 その間、手の空いているアレク・エディン・ジーニは1人で請ける依頼を探していた。
 そして今日、親父さんが一枚の依頼書を手に、アレクに声をかけたのである。

そこから1

「・・・護衛の依頼という事だが、目的は遺体の回収らしい」

と親父さんは言った。
 遺体の回収とは物騒な話だとアレクは思ったが、詳しく聞いてみると、一年ほど前に事故で亡くなった身内の骨拾いということらしい。
 亡くなったのは市井の学者で、遺跡探索中に罠に掛かって命を落としたとか。依頼主は、その息子であるそうだ。

「・・・ああ、それとその依頼人な、うちの冒険者になるつもりでいるみたいなんだ」
「・・・・・・なんだって?」

 ≪狼の隠れ家≫は、店の規模にしてはけっこうな老舗である。
 まったくの新米がこの店を訪れることは、そう頻繁にあることではない。
 たいていが、この店出身の誰かの紹介だったり、冒険の途中でここを世話する羽目になったり・・・登録されている者の多くは、そういう経緯でこの店にいる。
 だから、その依頼人がこの店へ冒険者として登録したいということは、元から紹介状目当てだったのだろうか――アレクはそんな風に勘ぐった。
 親父さんがアレクの思考に気づき、ゆっくりと首を横に振った。

「いや、そうじゃない。そんな下心で依頼を出したわけじゃないよ、ただ――ついでに様子を見てほしいんだ」

 事前にどんな人物か情報を把握出来ると助かるしな、と親父さんが嘯いた。
 そういうことならとアレクが黙って頷くと、親父さんはほっとした様子になった。

「ああ、すまんがよろしく頼む。帰って来たら一杯奢らせてもらおう」
「トールの分も用意してやってくれ」
「ああ」

 親父さんはカウンターの下にある引き出しから、封筒を取り出した。

「ほら、こいつが紹介状だ。仕事があるから、夕刻の鐘以降に来て欲しいとさ。たのむぞ」

 ・・・・・・そしてアレクは今、依頼人宅の木戸をノックしていた。
 戸のつくりがごく薄い事が伺える。下町でも貧しい区画だ、そういう造りなのは仕方ないのだろうが――。
 ややすると、「・・・どちら様で?」という深みを帯びた男の声がした。
 アレクが名乗ると、

「・・・ああ、≪狼の隠れ家≫の。へえ、思ったより・・・」

 ドアを開けた人物は、「早かったですね」という言葉を飲み込んだ。
 依頼人であろう男の前に立っていたのは、若く、密やかな自信に満ちた美しい男だった。
 ほとんど白に近い銀の髪は癖なく形の良い頭部を覆っており、静かな赤褐色の眼が真摯にこちらを見つめている。
 半神の彫刻のような顔を息を忘れて見つめていると、その薄い唇が「入っても・・・?」と呟いた。 

「ああ・・・・・・入って、下さい」

 今日の名残の西日がまっすぐに差し込み、赤褐色だったはずの瞳が血色に変わる。
 その人は眩しそうに目を細めながら、アレクを迎え入れた。
 窓のあまり無い家の中は薄暗かった。
 埃の匂いがするが、意外に湿気はない。アレクは天井の明り取りから伸びる少しの光を頼りに、中を見渡した。
 狭い家のわりに、やけに空いた棚が大小ごたごたに並んでおり、そこから伸びた影が足元で交錯している。
 その様子にやっと人間らしさを感じた依頼人は、小さく苦笑して火の入った燭台を入口の側の棚に置き直した。

そこから2

「ちょっと暗いですよね。・・・日光や湿気って、発掘物や書物の類にあまり良くないもので」

 亡くなる前の父親の意向で、窓が開かないよう釘を打ってあるのだという。既に不要ではあるが、慣れてしまったからと彼は言った。

「そうか。・・・・・・こちらを。紹介状だ」

 アレクは今回の依頼人に携えていた封筒を渡すと、目を落とすその様子をじっと観察した。
 色黒で、目ばかり大きな小男だった。年は若くない。中年にさしかった頃か――眉間には深い皺が刻まれていて、ぱっと見気難しそうな印象を受ける。

(・・・しかし、受け答えやさっきのちょっとした仕草。物腰はやわらかくて丁寧な人だな。)

 ちゃんとアレクを気遣って灯りを移したことを思い、彼は一人頷いた。
 薄暗い部屋であるが、依頼人が紹介状に目を通す様子は物慣れている。

「はい、確かに。割印もぴったりですね。・・・それではまず、依頼の条件を提示するとしましょう」
「頼む」
「あなたに依頼したいのは、道中の私の護衛と、父の遺体を回収する手伝いです」
「ああ。親父さんから聞いているが・・・護衛がいるような道のり、あるいは事情があるのか?」

 依頼人は、ゆったりと首を横に振った。

「まあ護衛とは言っても念のための用心ですから、大した危険はないと思います」
「そうか」
「バーセリック遺跡はご存知ですか?」

 彼が口にしたのは、リューンの北東部にある小さな墓地遺跡の名前だった。
 遺体のある目的地はそこだという。
 ランタンの用意さえあれば十分な、小さい規模の遺跡だが、回収作業があるために多少のロープ技術は必要とのことで、アレクは黙って首肯した。

「行程は1泊2日。野宿になります。食事は持参、報酬は600sp」
「ああ」
「前金で、先に300spお支払いします。残りは依頼終了後に。上乗せは・・・」
「いらない、それで大丈夫だ」

 紹介状にあるここの住所を見た時から、依頼人が払える金額が親父さんから言われていた分で精いっぱいであろうことは、予測がついていた。
 そして家の外観や、中に入ってその予測は裏打ちされている。
 アレクはこれ以上、彼から何かを得ようというつもりはなかった。

「ありがとう。ではあらためて、私はサリマンと申します。よろしく」
「こちらこそ」

 差し出される骨ばった手を軽く握り、依頼の契約は成立した。

「ではもう少し具体的な事情などお話しましょうか」

 アレクはサリマンに勧められ、背もたれのない簡素な椅子に腰をおろした。
 少々長い話ではあったが、サリマンの話は分かりやすく簡潔で、アレクはあまり口を挟む必要はなかった。
 まず、目的地のバーセリック遺跡については、すでに探索され尽くしており、リューンからも近く、清められて魔物の脅威もほとんどない。
 そんな冒険者からすれば旨みのない遺跡ではあったが、サリマンの父の研究対象としてはまだまだ見るべきところがあり、立地も近場で格好だった。
 サリマン自身も何度か足を運んだそうだが、問題の事件があった日、彼は家で資料の整理を行なっていた。

「同道していた護衛の報告によれば、父は槍を仕込んだ穴に足を滑らせて命を落とした。一瞬の事だったそうです」
「・・・そうか、遺跡の罠に・・・」
「ええ。1人では遺体の回収もままならないとの事でしたので、私は彼を伴ってすぐに件の場所に向かいました」

 サリマンは穴の底まで降りて、それが父である事を確認した。・・・体中を緑青だらけの槍が貫通して、完全に事切れていたと言う。
 護衛とサリマンの二人がかりでも大の男を引っ張り上げる事は難しく、仕方なくサリマンは頭髪だけを持ち帰り、葬儀を済ませた。
 それがちょうど、一年ほど前のこと。
 時間経過で遺体の目方が少しは軽くなってるだろうこと、遺跡を管理している聖北教会からせっつかれていること、そして貪欲な学者の研究心もこの一年で満たされたであろうこと。
 以上の三点から、そろそろ父親の遺体を引き上げるつもりになったと言う。

「本当は、その時の護衛に依頼するつもりでしたが、今はもうリューンに居ないそうで。それで、名前をよく聞く≪狼の隠れ家≫へ依頼を出した次第です」
「大体の背景はわかった」
「ありがとうございます」
「ひとつ、伺いたいんだが・・・冒険者になるつもりなのか?」

 サリマンは大きな目を瞬かせると、「ああ」と何かに思い当たった。

「宿のご主人から聞きましたか。ええ。今回の件が片付いたら≪狼の隠れ家≫に、ご厄介になる事にしました」
「・・・失礼でなければ、どうしてか聞いても?」

 アレクの言葉に、彼はちょっと肩をすくめてから周りを見回した。

そこから3

「この家は、今の私にはちょっと広過ぎます。借家ですしね。それなら、どうせ身軽だし新しい空気を吸ってみようかとね」
「学者さんじゃないのか?」
「・・・ふーん。私の身上が気になります?」

 アレクが少し困ったような顔で頷くと、サリマンは手を振った。

「いえいえ、当然の事ですよ。私みたいなおっさんが何で今さら冒険者にと思いますよね」

 彼がおどけたように、「あなた方としても、変な奴に来られたら困るでしょう」と言うので、アレクはますます困ったような顔になった。
 気を取り直して依頼の話に戻り、いつ出発かを問うと明日の夜明けと共にと返事があった。

「・・・これ、前金です。明日から、よろしくお願いしますね」
「ああ」

 銀貨300枚の詰まった皮袋を左手で受け取り、アレクは首を縦に振った。

2013/03/17 03:30 [edit]

category: そこから

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Sat.

老賢者 5  

「・・・くそっ!またこの夢か・・・!!」

 ギルは呻いた。
 何度目になるだろう、またもや響いてきた鈴の音に向かってギルは吠える。

「止めてくれよ、俺はお前なんか信じちゃいないんだ!!・・・来るな、出るな!!」

 畜生、と弱々しい声が漏れる。
 老人はギルの願いも空しく、そこにいたからだ。

「おい、頼む・・・。教えてくれ!答えろ!!あんた何者なんだ!!」
「私は、フィレモンだ」

老賢者10

「畜生!!・・・俺には分かってるんだ。あんた、神様なんだろう!?頼む、そう言ってくれよ!!」

 不心得者であるはずのギルにとって、かの老人はそうとしか思えなかった。
 何もかも見通し、何もかも知っているくせに、思わせぶりにしか真実を伝えない。
 信者とやらの祈りは届いているかどうかあやふやなのに、悪い事があればそれを「神様の罰」だと唱える教会関係者。
 都合の悪い部分は伏せ、ひたすらに神の御名を口にして人々を教化しようとする者達――。
 ぞわりと鳥肌が立つ。
 ギルの中で、何か黒いものが弾けてしまいそうだった。

「お前の仮説は、誤っている。私は忠告する。お前は、お前が真に知りたいことを私に問うべきである」
「・・・くそ・・・」

 ギルは必死にそれを押さえ込んだ。
 老人が淡々と自分を神ではないと否定してくれなければ、それはとうに弾けていただろう。
 奥歯を噛み締め、己の内部とどのくらい戦っていただろう――――。

「・・・聞いてくれフィレモン」

 ギルは顔を上げた。

「俺はもう、こんな所はウンザリなんだよ。地上に・・・出たいんだ!」

 心からの懇願だった。

「答えを言えよ、フィレモン!お前は知ってるんだろう!?なぜ誰も助けに来ないのか!!俺は生き延びられるのか!!」

 アウロラ、アレク、エディン、ジーニ、ミナス――仲間たちの顔を見たい、一緒にいて笑い合いたい、こんな所で孤独に死んでいきたくない――!
 例え死すべき時が来るのだとしても、それは今ここで一人で、ではない・・・!
 老人は答える。

「・・・救いは、常に予想外の方向からやって来る。お前は、待つことを知らぬ」
「待つって!?これ以上何をどう待てと!?何日間俺が待ってると思ってるんだ!!もう、限界なんだよ!!」
「さらばだ、ギルバート」
「畜生~っ!!」

 ・・・・・・そして四度目の覚醒。
 暗い坑道の天井が、またギルの視界に入った。

「待て、とはな・・・。待ってたってどうなるってんだ、あの爺さんは・・・」

(神ではない、と言っていた。なら・・・悪魔か?)

 ギルはそう思いつつ、近くの岩壁に耳を当てた。
 助けが来るとしたら、その方向からだろうと見当がついている。だが、耳を当てても物音1つ聞こえてはこない。
 ジーニの練成はまだ終わっていないのか、リューンにまだギルの手紙がついていないのか、ひょっとしたら――。
 ギルは静かに首を横に振った。それだけは、リーダーとして考えてはいけない。
 彼らを信じている。だが、信じるだけではなく、自分で自分を救う手立ても探すのが己のやり方だろう――ギルは背筋を伸ばして歩き始めた。

老賢者11

「・・・・・・?今、何か聞こえたような・・・」

 ギルは首をぐるっとめぐらせ、何かの音がした方へ足を向けた。
 そう、それは・・・以前にロープを垂らした、あの地底湖の方向だ!
 ギルは急いでロープを掴み、下へと降りていった。
 下にたどり着くと同時に、彼の耳に救いの声が届く。

「ギルバート~!!生きてる~っ!?」
「あの声は!!」

 ジーニの声である。”金狼の牙”で、彼をギルという愛称で呼ばないのは、彼女だけだ。
 慌てて奥の抜け穴を潜ると、そこには地底湖をボートで漕いできたらしい仲間たちがいた。

「・・・ギルバート!!」
「生きていたか!!」

 アレクが喜色満面に叫んだ。その頭上では、トールがぴょんぴょん飛び跳ねている。

「・・・お・・・・・・」

 本当は、お前たちと叫んで抱きついてやりたい。だというのに、今の彼の身体にはそんな力も入らないのだ。
 エディンが慌てて手を振って、彼を抱きとめた。

「おお、いい、いい。喋るな。・・・痩せたなぁ」
「どう、船に乗れる?」

 ミナスが心配そうにギルの顔を覗き込み、アウロラが無言のままそっとギルの手を取った。
 ぎこちなく彼は首肯した。

「あ、ああ・・・・・・」

 ――こうして、ギルは無事に≪狼の隠れ家≫に帰ってきた。
 話を聞くと、ジーニの練成は当初の予定よりもやや遅く終了し、ギルの予想から1日ずれて定宿に到着していたらしい。
 そこで親父さんからギルの手紙を受け取ったが、到着予定日に彼が来ない。
 不審を抱きながらも、様子見のために1日だけ彼らは待機していたという。
 そしていよいよギルが帰って来ないと見るや、仲間たちは親父さんにギルが戻ってきたら待つよう伝言を頼みつつ、さっさと手紙にあった小村に向かい――坑道の落盤を知ったのだ。
 落石をどうやっても除ける事ができないと判断すると、ジーニは村の古老から辺りの地形のことを聞き出し、ミナスの精霊たちやアレクの雪精トールによって、恐らくあるであろうと予測した地底湖を見つけ出した。
 一方、エディンとアウロラはジーニの考えを聞き、急いで川を利用した物売りから、ボートを借り受けられるよう説得した。
 全てが揃ってから、彼らは精霊・ナパイアスの助けを借りつつ、どうにか地底湖を漕いで救助にきた・・・というわけである。

「ただいま・・・」

老賢者12

 そう言って、痩せこけたギルが≪狼の隠れ家≫に姿を現すと、心配していたらしいエセルが奥から走ってやってきた。
 そして、彼の顔を見てワンワンと泣き出してしまい――ギルは宥めるのに必死になった。
 彼の後ろでは、仲間たちが自分たちを心配させた罰だと、にやにや笑いながらその光景を眺めている。
 ・・・・・・その日の夜。
 また、氷の鈴の音が響いた。

「また会えた、フィレモン・・・」

 ・・・ギルは、炭坑に閉じ込められていた間の夢の事を、誰にも話さなかった。なぜなら・・・。

「フィレモン・・・。俺には、あんたが何なのか、うっすらと分かった気がする・・・」
「・・・・・・・・・」
「あんたしきりに、俺があんたのことを知ってると言ったな。そして、こうも言った」

『お前が知っていることは、私が知っていることの全てだ』

 ギルには、それでやっと老人・・・フィレモンが誰なのか理解できたのだ。

「なあ、フィレモン・・・。・・・あんた、『俺』なんだろ?」
「お前の仮説は、誤っている。が、正解でもある」

 フィレモンは語る。ギルの中の、ギルではないギル・・・それが自分なのだと。

「そうか・・・。成る程ね。あんたの忠告は全て、『俺が思い出さない知識』から生まれていたのか・・・」

 洞窟においては、水はしばしば下方に流れて溜まること。じめじめした土にはよくキノコなどが生えていること。坑道はあくまで地形を利用した人間の道であり、それがどこに繋がっているのかは分からない場合もあること。
 それらは、全て冒険者であった母や、義理の姉から聞いた知識であった。・・・・・・このようにフィレモンから言われるまで、思い出すこともなかったのだが・・・。

「その通りだ。・・・自我というものは、自分の全てを表すものではない」

老賢者13

 ある病を患うと、自分の意志に反して勝手に手が動くという。腕は自分のものだが、自分に意志に反し、別の『自分』に従う。

「俺では気づき得ないことを、側面からあんたが教えてくれたんだよな・・・」
「もうすぐ、お前は目覚める」
「そうか・・・」
「・・・さらばだ、ギルバート」

 その声には幾分か、別れを惜しむような色があった気がする。
 ギルもまた、別れを口にした。それが、老賢者とギルの邂逅の終わりであった。

※収入0sp※
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■後書きまたは言い訳

51回目のお仕事は、サクッと寝る前カードワースフォルダより、風坊さんのシナリオで老賢者でございました。ギルのソロプレイです。・・・えー、ご覧いただけると分かりますように、以前キーレに出かける前に、彼がエセルにさんざっぱら振りまいたフラグは、実はキーレではなくここのことだったりします。炭坑に生き埋め、危うく餓死か乾き死に。
回避できて良かったね!

単独行をしていて落盤させてしまったとリプレイで書きましたが、本編では仲間と仕事中にはぐれたことになっております。ただ、今回の目標である「フラグはやっぱり回収したい」と、「ギルの内面もう少し何かで見れないかな」という辺りでこちらのシナリオを選択させていただきました。
不心得者であること、混沌派であること、仲間たちへの想い――そういうものを表現したつもりでいましたが、上手くいったかなあ。

さて、危うく死に掛けたギルのせいで、”金狼の牙”は少しの間、ソロで動きます。
ギルの看護でアウロラとミナスが動けないので、後三名。
・・・・・・ジーニが脆くて独特の動き方したがるんで、この人のソロが一番厄介だったりするんですが。どこに放り込んだものやら。
それでは次回をお楽しみに。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/16 11:57 [edit]

category: 老賢者

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