Mon.

翡翠の海 4  

「――ミナクア様ぁッ!」

 振り下ろされた剣の一撃を遮り、ペリエが腰を抜かしたミナクアとの間に割って入る。

「う・・・きゅ~・・・・・・」
「――ペリエ!・・・ひどい・・・こんなッ・・・・・・!」

 ジーニがかねてより気にしていた妖魔の襲撃は、なんと陽動であった。
 リザードマンという上級妖魔たちが、ミナクアとペリエの前に現れたのである。
 彼らは守人である冒険者たちの実力を知り、ミナクアが一人になる機会を窺ってこそこそ襲撃を仕掛けてきたのであった。
 精霊は常ならば普通の武器で傷つくことは無い。
 しかし、ペリエのように精霊としての格が低く、むしろ分類として妖精に近いような存在になると、このように半端にダメージが通ってしまうのである。
 とりわけオレンジのモヒカンが際立つリザードマンの首領格が、わざとらしい表情でペリエを覗き込んだ。

「これはこれは・・・・・・。身代わりとは、美しい忠誠心だねえぇ・・・・・・俺様、感動のあまり、涙がでちまったぜ」

 嘘泣きだけどな!とリザードロードは言って、ゲラゲラと下品な笑い声を上げた。
 そんな相手を他所にミナクアはペリエを抱き上げようとするが、彼女はその手を振り払い――。

「ミナクア様・・・逃げ・・・て・・・・・・。ここは、アタイが・・・・・・」

 ペリエは立ち上がり、敵とミナクアの間を遮断する様にふらふらと飛び回った。

(逃げ・・・る・・・・・・?ペリエを置いて・・・・・・?)

 ミナクアの頭に、今まで思い浮かびもしなかった考えだった。
 確かに、希少な大精霊であるミナクアがここで害されれば、この辺り一帯の被害は大きなものに発展するだろう。しかし――。

「そんなに死にたいなら、まず貴様から殺してやるわッ!」
「や、やれるもんなら、やってみなさいよ・・・・・・。下っ端だって、やるときゃやるんだから・・・・・・!」

(ここで逃げていいの、私・・・・・・?守られてばっかりで、本当にそれでいいの・・・・・・?)

 ミナクアの足は・・・・・・。

(いや、違う・・・・・・っ!)

 しっかりと大地を踏みしめてその場に留まった。

(・・・守らなきゃ。みんなを守るんだ。できるかどうかじゃない。やりたいからっ・・・・・・!)

 張り裂けそうな胸に空気を送り、歯を食いしばって姿勢を正す。

(水面の輝きを、木々の囁きを、草の揺らめきを――大好きな風景を、大好きな人たちを)
「だって、私は大精霊・・・・・・私がこの地の主なのだから!」
(守るんだ!)

 ミナクアの小さな身体が清浄な光に包まれ、そこから生まれた蒼い線が複雑な紋様を形成する。

「け、結界・・・だとッ!?馬鹿な・・・・・・、土壇場で再構築しやがった!?・・・このクソガキがッ!この期におよんで往生際が悪ィッッ!」
「・・・おいおい。それは、どちらかというと此方の台詞だろう?」
「――何ぃッ!?」

 湖畔の中でもとりわけ太い木の陰から現れたのは、ギルであった。

「まったく、こんな時間にまで出張ってくるなんて、最後まで諦めが悪い・・・・・・」
「わざわざ連敗記録を更新しにくるなんて、随分と律儀な連中じゃねえか」

 木の枝からしなやかな動作で降りてきたエディンが言う。
 彼の降り立った横に、他の仲間たちも集まってくる。

「・・・まぁ、いいんじゃない?ちょっと暴れ足りない感じはしていたし・・・・・・」
「・・・せ、先生ッ!?」
「・・・念の為に、何時も襲撃される方向の反対側を調査して侵入の痕跡を辿っていたのだけど――」

 ふふん、と鼻で笑ってジーニが杖の髑髏をリザードマンたちの方へ突きつけた。

「よりによって、精鋭部隊で暗殺とはね。中々知恵の回る連中じゃない」
「そういうわけだ。・・・悪いな、ミナクア。少しばかり遅くなってしまった」
「――本当だよぅ!も、もう少しで乙女のピンチだったんだから!」

 チャキ、とリザードロードが幅の広い曲刀をかざして構えた。

「くそっ、厄介な守人が戻ってきやがったか・・・・・・!」
「お戯れが過ぎましたな、御屋形様・・・・・・」

 リザードマンたちが武器を構えたのに、”金狼の牙”たちも反応して散会する。

ScreenShot_20130119_124914937.png

「ミナクア、下がっていろ。ここから先は此方の仕事だ。・・・カタギには少し過激すぎる」
「・・・いいえ、先生!私も戦います。私にも戦わせてくださいッ!」
「いや、しかし――」
「私、気づいたんです。先生達だって、いつまでもここにいてくれるわけじゃないんだって」

 ミナクアは小さな拳を胸に押し付けて、哀しげな――だけれども、決意に満ちた顔で言った。 

「これからは、私がこの森を守らなきゃいけないんです。たとえ、手が汚れようとも・・・・・・。だから、私も覚悟を決めます」
「・・・フッ、なんだか知らんが、とにかくよし!!そこまで言うなら、行くぞ、ミナクア!」
(いいんですか?かなりギルの悪い影響受けてますよ)
(・・・・・・あっれー?ギルにはミナクアの身の回りの世話だけはさせてねえんだがな)

 こっそり後ろで話し合うアウロラとエディンを他所に、リザードマンたちの士気は上がっていた。

「・・・おのれ、許さんぞ!こうなれば、刺し違えてでも、貴様等だけは殺す!」
「来い、碧鱗の民よ!冒険者ギルバート、――推して参る!」

 ノリノリで叫んだギルの声を合図に、最後の血なまぐさい授業が始まった。

 現在のリザードマンたちは、運が良い事にミナクアの結界の影響下でまともに動けない。
 このチャンスを逃す手はなかった。
 ギルの【薙ぎ倒し】が、アレクの【飛礫の斧】が、ミナスの【渓流の激衝】が、縦横無尽に戦場を駆け巡る。
 アウロラは【祝福】で仲間たちを援護し、ジーニは【魔法の矢】をロードに撃った後、すかさず【眠りの雲】で彼らを無力化した。
 そしてあっという間に・・・・・・。

ScreenShot_20130119_130046093.png

「馬鹿な・・・この俺が、人間如き劣等種族に・・・・・・」
「・・・感謝するぞ。お前のお陰でいい授業になった・・・・・・」
「・・・なん・・・だとッ!?」
「良いショック療法になったと言っているんだ。ご苦労だったな、――反面教師ッ!」

 ギルは思い切り振り上げた斧を、”碧鱗”のボルヴィックと呼ばれたリザードロードの首に落とした。
 その瞬間、嫌な空気を全て掃き捨てる様に一陣の風が湖畔を駆け抜けた。
 ・・・そして、それが木の葉を揺らしながら天空に上っていった頃には、辺りにはもう静寂しか残されていなかった・・・・・・。

 ――戦いの翌日。
 ”金狼の牙”たちは昼前には出発の準備を終え、彼女達に別れの挨拶をしていた。
 7日間を過ごしたこの地とも今日でお別れとなる。彼らは少し名残惜しそうに透き通った湖の水面を見つめた。

「皆様には本当にお世話になりました。何とお礼を申し上げて良いやら・・・・・・ほら、ペリエ。先生達に今回の報酬を!」
「――はいはいっと!こちらが報酬の宝石でござ~い」

 ペリエは重たそうに宝石の入った皮袋を運んでくると、”金狼の牙”たちにそれを受け渡した。
 皮袋には、青く輝く翡翠の塊と血を固めた様な鉱石までもが入っている。

「ありがとうございます、ペリエもどうか御達者で」
「へへんっ、当たり前よ!アタイは元気だけが取り得だかんね!」
「――ああ、知ってる」

 乾いた声でエディンが即答した。どうも、罠を張っている最中に騒がしかったのを根に持ってるらしい。
 不満顔でピョンピョンと飛び上がるペリエを余所に、冒険者達とミナクアの間に笑い声が響いた。

※≪宝石(400sp相当)≫×2、≪紅曜石≫、【玉泉の祝福】※

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■後書きまたは言い訳
28回目のお仕事は、タナカケイタさんのシナリオで翡翠の海です。精霊使いクーポン対応美味しいですへへ。こちら、未だテストプレイ中の作品となっておりますので、閲覧される方はお気をつけ下さいませ。また、テストプレイ中ということで、掲載についてご本人様に許可は頂いております。出来る範囲で画像の著作権についても確認はしてありますが、万が一の時は下記の通りにお願いします。
防衛&育成シナリオという説明どおり、大精霊というNPCを守り育て上げるのがこのシナリオの醍醐味です。
やった感じでは、全員が何か全く別の分野に特化しているパーティだと、ちょっと大変かな?と思いました。うちはアウロラが知力と精神高め、あと意外なことにギルが罠作成に貢献(こいつ器用高いのか・・・?)してくれたので、日々の担当決めが少し楽になりました。
とにかく、ミナクア&ペリエ可愛い。50質問にも書きましたが、特にペリエ。なんて好み・・・。
【玉泉の祝福】は付帯能力です。非戦闘時は制限がかかるそうですが、それにしてもありがたい対毒防御。

えー、実は前回の「賢者の選択」時点で、すでに全員6レベルに達しております。それでも、こちらのシナリオを終えるまでは・・・!とレベル据え置きでやり続けておりました。なので、次回からは全員が急に6レベルからスタートですのでご了承ください。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/21 12:34 [edit]

category: 翡翠の海

tb: --   cm: 2

Mon.

翡翠の海 3  

「おはようございます。今日は最終日ですね。最期まで気を引き締めていきましょう!」

 ミナクアは元気よく挨拶した。その頭上を、くるくると寂しそうな顔でペリエが飛んでいく。

「・・・今日で最後、かぁ。キミ達ともお別れなんだね・・・・・・」

 自分らしくないとでも思い直したのか、一際大きく円を描いて”金狼の牙”たちの目線まで降りてくると、彼女は小さな拳を突き上げて宣言した。

「――よしっ、頑張ろう”それで、全部終わったら、みんなでパーティーしましょ?」
「・・・いやいや。死亡フラグだから、それ。しかも、こっち側の・・・・・・」

 眉を八の字にしてアウロラが言う。

「――あのっ、先生!」

 かの大精霊(やっぱりそうとは見えない)に先生と呼ばれるのにも、すっかり慣れてきた。
 ギルが一同を代表して彼女に訊く。

「・・・どうした、ミナクア」
「――あ、いえ。なんでもありません。・・・今日も頑張ってくださいね」
「・・・・・・?あ、ああ・・・・・・」

 彼女の様子は気にかかるものの、冒険者たちもまだそれなりに忙しい。彼らは、急いで配置についたのだった。
 最終日のお勉強は、アウロラとジーニ二人がかりでの教育である。

ScreenShot_20130119_114616437.png

「・・・気を静めて、力の流れに集中しなさい。霊力を身体に循環させて――」
「・・・・・・」

 言われたとおりにミナクアは気を静めた。自分の中に流れる、”それ”が体中を駆け巡るのを感じる・・・・・・。

「・・・・・・Zz」

 ・・・前にうたた寝していた。
 シュバ!っと素早く杖の先の髑髏がミナクアの脳天に振り下ろされる。

「――あぅっ!」
「・・・そこ、寝ないように」
「ごめんなさ~い」

 一度教えると決めたからには、とことんまで厳しいのであった。まあ、この1週間ですっかり情が移ったせいか、多少の苦笑交じりで済んでいるわけだが。
 その様子を、もう一人の教師役であるアウロラは微笑ましく見守っている。
 ミナクアは水の化身だけあって、純粋で優しい心の持ち主だと思っている。きっと、彼女が成長を無事果たせば、立派な大精霊としてこの地を守っていくことだろう。アウロラは、「まあまあ」と取り成して、授業の続きを始めた。
 そして。
 最後の夜ともなれば、流石にそろそろ罠の効果も――。

「――だあああっ!何でこんなに残ってるんだ!くそ、もうウンディーネの援護ねえぞ!」

 ――ちょっと手を抜いたせいか、ギルは数の暴力によりちょっと苦境に立たされていた。

ScreenShot_20130119_115218062.png

 それでもどうにか退治を終えることはできたのであった。
 そんな戦いの少し後、翡翠の海の湖畔にて――。

「ミナクア様ぁー!やりましたよ、本日も撃退に成功です!」

 ”金狼の牙”たちが最後の夜襲を撃退した後、ペリエが結果を報告する為に一足先に湖畔へと飛ぶと――。

「・・・・・・?ああ、ペリエ・・・・・・。ごめんなさい、ぼうっとしていました」

 ――そこにはたった一人で湖畔に腰掛け、足先で水面を弄ぶミナクアがいた。

「・・・そう。先生達は勝ったのですね。後は私の仕事・・・・・・」

 ミナクアは何処か呆けた様な表情で呟くと、再び視線を落として俯いた。

「・・・おや?ところで、ミナクア様。こっち側にいた冒険者はどうしました?」
「残ってらした方々には、警備の方を迎えに行く様、私がお願いしました。少し――、ほんの少しだけ、一人になりたかったから・・・・・・」
「ありゃりゃ・・・・・・。それは失礼しました!それじゃあ、アタイもどこかで時間を潰してきまーす」
「――あっ、ううん、いいの。気にしないで頂戴」

 背を向けて飛び立とうとするペリエを制止した。
 ちょっと考え事をしていただけだから、とミナクアは言う。その姿を人間が見れば、こう言うだろう――まるで親に置いていかれた子どものようだ、と。
 ミナクアは微笑を浮かべたまま再び湖面に視線を落とした。
 天上には満月が光り輝いており、その円光を写し取った水面も青々と鏡面のように映えている。

 ――静かな、とても幻想的な夜だった。

 水の色・・・・・・木々の鼓動・・・・・・草の香り・・・・・・この地に生きる命たち。
 力が戻ってきているのを感じる、と彼女は言った。

「よかったじゃないですか、ミナクア様。・・・でも、それにしては妙に浮かない顔ですね・・・・・・」
「うん・・・でもそうするとね。急に不安になってきちゃって・・・」

 自分は本当にこの結界を――みんなを、ペリエを、守っていけるのか。
 その不安は、1週間ずっとミナクアについて回っていたものだった。勉強をし、身の回りを世話されて霊力を高めつつも、本当にこれで十分なのか、これからやっていけるのだろうか・・・・・・と。 
 ペリエはふわり、と跳ねる様に飛んでミナクアの傍らに着地し、彼女の横に座って空を見上げた。

「・・・でもさ、そんなに難しく考えなくても良いんじゃないかなぁ?」
「・・・えっ!?」
「だって、上手くいくかどうかなんて、やってみなくちゃ分からないじゃないですか」

 ペリエは小さな人差し指を一本立て(水のように揺らいでいるが)て、口を開く。

「どんな事だって、最終的には出来るだけの事をやるしかないわけですし、始める前からグダグダ考えてたって無駄でしょう?」
「・・・・・・」
「・・・それに、ミナクア様は一週間、その為の準備をされてきたじゃないですか」

 なら信じましょうよ、と小妖精は笑った。

「頑張ってきたミナクア様を。それから、修行をつけてきたあの冒険者達の事を、ね?」
「信じる・・・。自分を――、先生達を――?」

 虚をつかれた顔でペリエを見つめていたミナクアは、そのまま満月を暫く見つめていた。

「・・・うんっ、そうね。私、信じます。先生達が教えてくれたんだもの。きっと、なんとかできる・・・・・・」

 気分が楽になったと礼を言ったミナクアは、そう言ってすっと立ち上がり、にっこり笑ってから両目を閉じて瞑想を開始した・・・・・・。

2013/01/21 12:06 [edit]

category: 翡翠の海

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Mon.

翡翠の海 2  

「――では、先生っ!今日から1週間、よろしくお願いします!」

 大精霊に見えないお下げの少女は、しゅびっと敬礼をして元気よく言った。
 ”清流の飛沫”ペリエのアドバイスによると、1~3日頃は罠が薄いので罠設置と警備/巡回を多めにし、それ以降は罠を維持しつつ、結界強化に力を注ぐのがいいらしい。
 ただ、罠だけで敵を止められるとは限らないので、最低でも常に1人は警備/巡回を選んで欲しいようだ。
 6~7日にもなれば罠がかなり効き始めるはずだ。そうなれば、罠と警備人員はほどほどで良くなる――。

「なるほどねー。その分の人員を他に回せばいいわけね」
「そそっ。警備/巡回の担当者はいつもに増して少人数で戦うことになるから、最適な装備で挑んでよね」

 警備/巡回は妖魔たちとの直接戦闘、罠設置は森に罠を仕掛けて敵減少、勉強は魔術や常識を教える、お世話は身の回りの世話等で成長を促す・・・・・・。
 それぞれに大切な役目である。いい加減に選ぶわけにはいかないだろう。

 1日目。
 ギル、アウロラが警備/巡回、アレクとエディンが罠設置、ジーニがお勉強、ミナスがお世話。

「・・・そういうわけで、今日の授業を担当するジーニよ。短い間だけど、よろしく」
「授業を担当されるミナクアです。よろしくお願いします!」

ScreenShot_20130119_105252421.png

 社交性にはやや問題がある(と宿の誰もが思っている)ジーニだが、意外と先生役に向いているのか、颯爽とした口調で魔術の成り立ちからミナクアに教授している。
 彼女たちの後ろでは、ミナスが二人のためにお茶を淹れている。
 最近になってアウロラの料理の手伝いをしているためか、手際はやけにいい。

「ねぇ、ミナス。今日は何するの?アタイも手伝うよっ!ガッツ、ガッツ!」
「・・・手伝い?・・・君が?・・・ふぅん?」

 からかうようなミナスの声音に、ペリエがたちまち「酷いっ!」と言って辺りを飛び回った。賑やかである。
 ――夜。
 妖魔の襲撃により、森の外縁がにわかに騒がしくなる・・・・・・!

「・・・おや、出番ですか」

 アウロラは外套をそっと脱いで、魔力を≪氷心の指輪≫に集中し始めた。
 のんびり立ち上がったギルが、重い響きを立てて戦斧を地につける。

「遅かったじゃないか。・・・ちょっと、待ちくたびれたな」

 目視できる距離にきた妖魔たちは、下級妖魔のゴブリンと亜種のホブゴブリンだった。ゴブリンは槍を持って武装している。
 そのほかにコボルトとウルフも一緒に来ているが、戦い慣れた相手であった。

「予想外の切り札くらいは持っているかもしれません。・・・油断は禁物ですよ」
「はいはいっと!」

 アウロラの助言に軽く答えると、ギルは身体と斧を回転させて敵の集団へ切り込んでいった。【薙ぎ払い】である。

ScreenShot_20130119_110216781.png

 たちまち意識不明にさせられていく妖魔側は、すでに立っているのが2匹のみという悲惨なことになっていた。
 斧の刃を翻してホブゴブリンへ向うギルに、アウロラがため息をつきつつも【光のつぶて】の呪文を唱えた。光弾に、あっさりとコボルトが撃ち抜かれる。
 ・・・・・・1日目は、あっという間に終わった。

「おはようございます、先生。昨夜はよく眠れましたか?」

 翌朝、足りないものがあったら遠慮なく言って欲しい、というミナクアの可愛らしさに、”金狼の牙”たちは目を細めた。

 2日目の昼は、特筆すべきことも無く過ぎた。
 夜になればやはり妖魔が襲撃を掛けてきたのだが、せっせと仕掛けている罠で敵の数は減っている。
 アレクは≪黙示録の剣≫を静かに引き抜いた。今夜の彼の仲間は、この剣とお世話をアウロラに代わってもらったミナスである。

「――武器を抜いたからには、覚悟してもらおう」
「渓流の精霊よ。君の水圧で撃ち払って!」

 今夜の襲撃にはゴブリンシャーマンが紛れていたので、呪文を警戒したミナスは【渓流の激衝】を使った。この呪文は、激流で敵を吹き飛ばすことで沈黙させることができるからだ。――ただ、ナパイアスの激流は強すぎて、必ずしも狙った相手にいくわけでもないのだが。
 猛々しい中位精霊は、あっという間にその水流で敵を文字通り押し流していった。

「・・・・・・」
「・・・ジーニ。何か心配事でも?随分と険しい顔をなさってますが・・・・・・」
「・・・いえ、大したことじゃないわ。まだ確信のもてる話じゃない」

 杖の先についた灰色の髑髏を顎に当てつつ、彼女は呟いた。

「ただ、どうして妖魔達はいつも決まった時間にほぼ同じ方向から攻めてくるのか――それが、少し気になっただけ」
「・・・・・・」

 その横では、罠を作成し終わったエディンも所在無げに小石を放り投げながら、ミナクアの眠る湖のほうを見ている。

 3日目、4日目、5日目・・・と大過なく日々は過ぎていった。
 相変わらず、妖魔達の夜の襲撃は止むことを知らないかのようである。

「さぁ、それでは、授業を始めよう。最初のキーワードは・・・・・・」

 ジーニはミナクアに知識を授けながら、いつかの夜に巡回している以外の仲間たちと話していた事項を思い浮かべていた。

「――定刻どおりの襲撃。同方向からの襲撃。同規模の部隊での襲撃」
「・・・ジーニ。前に言ってたこと、当たってるかもしれないね」
「・・・どういう事?」
「・・・妖精達に妙な話を聞いたんだ」

と言って、ミナスは居住まいを正した。

「あの妖魔達、日中には森の外縁で何かを探っているらしい」
「もうすぐ満月だ。ミナクアの転生も完了する。その前に何かを仕掛けてくるかもしれねえな」

 エディンは、細剣の柄の感触を確かめるように撫でている。
 彼の手を眺めながら、ジーニは自分の懸念が当たらなければいいのにと、ため息をついた。

2013/01/21 12:03 [edit]

category: 翡翠の海

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Mon.

翡翠の海 1  

1.周辺地区は結界で平和。
2.結界はミナクア様が管理。
3.ミナクア様の転生で結界消滅。
4.妖魔が祭り状態←いまここ

「・・・――というわけで、これは大変なピンチなのよ」

 彼らをこの地に誘った小妖精は、腕を組んでうんうんと唸りながらそう言った。
 偶然にもある旅の帰りにこの地を訪れた”金狼の牙”たちが、この小妖精に近隣の宿場町で叩き起こされてから既に1刻となる――。

「ああ・・・もうそろそろ、夜が明けますね」

 しみじみとアウロラが呟いた。出発時にはまだ暗かったのだが、もうそんな時刻らしい。

「・・・ええと。それで、そちらにいらっしゃるのが――?」

 アウロラは重い瞼を持ち上げ、あくびをかみ殺しながら訊ねた。

「――あ、はいっ。お話に上りました大精霊ミナクアです!」

 ”金狼の牙”たちが視線を向けると、今まで湖岸に腰掛けてジャブジャブと水面を足で掻き混ぜていた少女が、すっと立ち上がってお辞儀した。
 大精霊などという大仰な肩書きとは裏腹に、その姿は歳が二桁になるかならないか程度のなんとも幼いものである。歳より小柄なミナスといい勝負だろう。大精霊は何百年かに一度転生を果たすそうだが、とても”玉泉水”の二つ名が付くようには見えない。

「・・・ミナクア様はさっき起きたばかりなのよー。お姿も随分と可愛らしくなってしまって・・・・・・」
「結界の事なんて、きれいサッパリです!」

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 大精霊はお下げ髪を弄りながら恥ずかしそうにそう言うと、ペロっと舌を出して照れ笑いをする。

(大精霊といえば、精霊王に次ぐ程の強大な存在――ってお母さん言ってたっけ。その大精霊がこんな状態じゃあ、この周辺地域の安全は・・・・・・)

 ミナスは心中で慌てていた。
 そんなたいそうな存在に出会う機会は滅多にないはずだが、実際に出会った上、転生に立ち会うようなことになるとは想像の外だからである。
 一方、その余りに緊張感の無い仕草に他の冒険者たちは揃ってため息をつく。
 ギルは”清流の飛沫”ペリエ――自分達の顔に濡れ布巾を被せるという危険な方法で叩き起こしてくれた――に目を向けた。彼女はミナクアに仕える下級妖精だと言う。
 青みがかった透き通る姿は確かに清流の名に相応しいが、口調はかなりフレンドリーである。

「依頼内容は道中に説明した通り、7日間の森の警備と、ミナクア様の特訓よ!」
「特訓・・・・・・ねえ」
「お姉さまの話では、ミナクア様がお力を取り戻すまで丁度一週間かかるらしいわ。・・・なんか、月齢の関係みたい」

 森の警備とはなんだ、と聞いたのはエディンである。
 目をこすりつつだから、彼の目が眠たげなのは本当に眠いからなのだろう。

「結界が弱まったのをこれ幸いって、毎日夜になると南方の魔軍から魔物の刺客が来るのよぉ」

 ウザくってウザくって、とペリエの口調はのんびりしているが、それは結構な大事なのではないだろうか。

「だから、森を巡回したり罠を設置したりして連中を撃退してほしいの」
「・・・なるほど。そんじゃ、もう一つの”特訓”というのは?」
「ミナクア様の霊力を高めるお手伝い。具体的には、勉強の手伝いと周辺のお世話系のお仕事ね」

 一週間も経てば、大精霊ミナクアの力は結界の維持に十分な程には回復するのだと言う。
 しかし、本当のことを言えばそれだけでは少し心許ないらしい。ジーニが確認する。

「・・・心許ない?」
「一週間後のミナクア様が張れる程度の結界では、ゴブリンなんかの低級の妖魔なら完全に無力化できるんだけど――」
「問題は上級妖魔ってこと?」
「行動に支障を与えるのがやっとの話でね・・・・・・」

 それで”金狼の牙”達がいる内に、出来る限りの力をつけて欲しい――というのが彼女の意向であった。
 ミナクアの頭がしゅんと下がる。

「・・・あぅ、力不足でごめんなさい」
「――あっ、いえ、違うのっ!お気になさらないで!つ、つまり、アレよ」
「どれよ」
「修行をつけて欲しいんだってお姉さまが言ってたわ。・・・折角、精霊の扱いにお詳しい方もいるみたいだし」

 仲間たちの視線がミナスに突き刺さる。この小さなエルフは優秀な精霊使いで、水や氷に親和性が高い。

「日頃、手助けしてるんだから、こういう時はしっかり、ね?」
「・・・うん、いつもお疲れ様。キミ達には感謝してるよ」

 でも・・・と、頼られて嬉しいのが半分、困惑してるのが半分といった表情でミナスが続ける。

「あんまり期待しないでね。こういうのは専門外だから・・・・・・」
「そういうわけで、ミナクア様。この冒険者たちの言う事をちゃんと聞いて、しっかり勉強してくださいね!」
「はいっ、前向きに善処します!」
「えっ、善処だけじゃダメじゃね?」

 ぼそっとギルが言ったが、その発言は黙殺された。
 何でも質問していいとペリエが言うので、ミナスは小首を傾げて訊ねる。

「君は下級精霊の中でも下位、いわば下っ端の存在でしょう?もっと上位の精霊は、一体、何をやってるのさ?」
「――下、下言うなッ!アタイは雑魚じゃない!足軽なめんな!投石すんぞ!」

 ペリエは背負った天秤から飛沫をぴちゃぴちゃとミナスの上に降らせてから、頬を膨らませ答える。

「本当は直接のお世話は姉さま達がするんだけど、今は結界の維持と転生の儀に出向いてて、アタイしか手が空いてないのよ!」
「お姉さま――。中位の精霊や妖精、例えば、ウンディーネ達か・・・・・・」

 精霊使いの脳裏に澄んだ水から顕現する乙女達の姿が浮かんだ。

「翡翠の海のミナクアといえば、精霊使いの間では、それなりに有名な存在なんだよ」
「そうなのですか?」
「・・・・・・俺には、残念ながらただの子どもにしか見えん」

 アレクは唸った。
 かつて古き神殿で出会った海精はもっと神秘的な佇まいをしていたのだが、同じ眷属に見えない。

(俺が精霊使いとしての素養に欠けてるからだろうか・・・)

 唸る仲間に構わず、ミナスは説明を続けた。

「この周辺の土地が綺麗で豊富な水に恵まれて、農作物の生産が安定しているのも、彼女の存在による所が大きいんだ」
「そそ、ミナクア様はえらいんだからね!あがめたてまつれ」

 小さな羽根を懸命に動かして宙返りをしたペリエが強調する。

「――でも、彼女の転生に関する資料なんて、この辺りの精霊宮では目にしたことが一度もないよ?」
「毎回、転生のときは魔物に狙われるらしいけど、ドゥルイドとかエルフの協力で何とかしてたんだって」
「あー・・・・・・」

 まさか、自分の血族――とりわけ母なども関わったことがあるのではないだろうか。
 小さなエルフはたらーりと一筋の汗を流した。
 そんな彼を他所に、ペリエは「服に十字をつけた人」を見るようになってから、そういう守人を見ることは無くなったと語った。

「人間は慌しいからね。セカセカしてるというか、カサカサしてるというか。・・・人の世は無常だわ」
「・・・そこっ。人間をゴキブリみたいに言わない」

 アレクが顔をしかめる。
 報酬を確かめると、宝石で800sp相当を支払うつもりらしい。ジーニはなにやら不満げだが、ミナスはすっかりやる気になっているようだし、精霊使いとして貴重な経験になるのであれば、仲間として協力するのにやぶさかではない。
 ペリエに巡回や勉強等の役割分担について詳細を聞き、一行は早速仕事に取り掛かることにした。

2013/01/21 12:00 [edit]

category: 翡翠の海

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Mon.

賢者の選択 5  

 ディマデュオは部屋の床にある敷物の下に、何か陣を置いていたらしい。魔法使いたちが魔法を抑えられた事に気付き、驚きの声を上げる。しかし、すぐに気を取り直して接近戦を挑むことに決めた。

「小賢しい・・・っ!」

 彼の手から発せられた【炎の玉】の直撃を受けて、ジーニが倒れる、かろうじて防御体勢を取っていたミナスとアウロラは軽傷だが、エディンは重傷に近い。そして、肉弾戦の主力であるギルとアレクは――。

「なんだと!?無傷!?」
「残念だったなあ!お前の魔法より、古代の魔術師が作った結界のが上だったんだよッ!」

 前の依頼で入った暗き洞窟にあった、【絶対の防壁】。難しい呪文だけにわずか数回しか唱えられないのを、呪術士相手だからとアウロラが事前にギルとアレクへ使ってくれたのだ。
 この絶好の隙を逃すわけにはいかない。ギルの斧とアレクの剣がざっくりとディマデュオの胸を断ち割ると、さらにエディンが素早く駆け寄って、その喉を掻き切った。

「がはっ・・・」

 ディマデュオの手から杖が落ちた・・・彼はよろめき、背後のテーブルにもたれかかる。
 口元を押さえた掌の隙間から大量の血が溢れ出した。
 朱色に染まった自分の掌を、ディマデュオは呆然と見つめ、そして憎悪に血走った目を冒険者たちに向けた・・・。

「馬鹿者どもが・・・後悔する事に・・・なるぞ・・・」
「口先だけは立派だな。すぐにあの老人も同じとこへ送ってやるさ」

 エディンがにやりと笑うと、ディマデュオは崩れ落ちるように床に倒れた。
 彼の死によってだろう、既に魔法封じの陣は解かれている。アウロラはすぐに法術を使い、全員の傷を癒した。

「さて・・・と。ここからが本番だぞ。アレク、用意はできてるか?」
「ああ。大丈夫だ」

 幼馴染コンビが頷く向こうで、かつての紅き鷹旅団退治の時に取得した≪防護の指輪≫を、アウロラ・エディン・ジーニ・ミナスの順で使っている。何しろ、今回上級の術を身体に収めるので【信守の障壁】が使えなかったのだ。
 指輪の魔法は発動が不安定らしく、ジーニだけあいにく防護の魔法がかからなかったものの、

「いいわよ、あたしには旋風の護りがあるからね」

と言って、彼女は再び【風刃の纏い】を唱えた。
 回復用の髭天狗茸も持ち、一行は墓所へ向おうと廊下に出た。

「灯りが消えてる・・・?」

 エディンの呟きと同時に、背後に気配を感じた”金狼の牙”たちは振り返った。
 そこには地下墓所の老人・・・・・・ソドム王国最期の王、カナンがいた。

「重畳、重畳・・・ようやく自由を取り戻す事が出来たわ・・・」

 何処なりと立ち去るが良い、もう用は無いという老人に、ギルは無言で斧を向けた。老人は苛立たしげに眉をしかめる。

「・・・何をしとるんじゃ。まだ何か用でもあるのか?死にたくなければさっさと消えろ・・・」
「じい様。悪いけど、もっかい眠ってくれや」
「なんと!わしと戦おうと言うのか?」
「その通りだよ」
「・・・多少は見所があると思っておったが、所詮は猿か」

 さも残念そうに老人は首を横に振った。

「身の程もわきまえずこのわしに刃を向けようとは・・・思い直すなら今の内じゃ。今すぐ立ち去れば、許してやる。よくよく考える事じゃな」
「わざわざ起こして放置した村人も悪いけど、十人も殺したじい様も良くない。ここで倒されてくれ」
「正直に言うと、俺はあの村人達がどうなろうと知ったことじゃないんだが・・・」

 ギルの横で、エディンがぽりぽりと頬をかく。

「まあ、浮世の義理というか成り行きだ」

 老人はしばらく呆れたように黙り込んでいたが、やがて重々しく口を開いた。

「よかろう・・・かくなる上はお前達を殺し、今宵の宴の余興とするまでじゃ・・・!」

 老人の身体が宙に浮く・・・皮膚がぼろぼろと崩れ落ちていく・・・!
 たちまち、髑髏に変わった顔を向けて彼は言った。

「愚かさの報いじゃ・・・この場で朽ち果て、哀れなる屍を晒すがよい!」

ScreenShot_20130118_125422546.png

 その言葉を聞きながら、アレクはずっと後ろに置いてあった”秘密兵器”を取り出した。天頂部に取っ手の付いた大きな金属製の箱。
 アレクを狙った左腕をギルが受け止め膝をついた時に、アレクは引き金を引いていた。

「さらばだ、カナン王・・・!!」

 会心の一撃・・・!
 黒衣が揺れ、おぞましい髑髏の姿から見慣れた老人の姿へと変わる。足首の辺りが徐々に灰色に染まり、崩れ落ちていく。
 その様子を老人はまるで他人事のように眺めた・・・。

「見事じゃ・・・よもや、このわしがここまで追い詰められようとはな」
「俺たち自身の力、ってわけでもないがな」

 重たい金属製の箱を下ろし、アレクは述懐した。
 彼が撃ったのは、かつてリューンの下水道で見つけた旧文明の兵器だった。まさか一撃でリッチを退ける威力とは知らず、ただあの両腕さえ封じられれば勝てるだろうと思っていたのだが・・・結果オーライということだろうか。

「お前達の勇戦に敬意を表し、ここは退くとしよう。もはやこの村の猿どもの事などどうでもよい・・・」
「あ、いいの?」

 あくまで軽いギルの声音に、老人は穏やかな笑みを浮かべていた。
 老人の身体は、既に首の辺りまで灰と化している。ばさりと乾いた音を立てて、右肩が崩れ落ちた。

「わしは間もなく消える。だが忘れるな・・・わしは不死なる者。あるいは再び会い見えるときも訪れよう・・・」
「分かったよ、じい様。その時までに鍛えておくさ!!」
「ええええええええ!?」
「ちょ、ちょっとギルバート!?何あほなこと約束してんの!?」
「その日まで・・・しばしの別れじゃ・・・では・・・さら・・・ば・・・だ・・・」

 女性陣からとんでもないブーイングを食らいながらも、ギルは老人へ小さく手を振った。
 老人は完全な灰と化し、消えた・・・。
 半刻後。
 顔をしかめて村を出るよう薦める村長に、誰も一顧だにしていなかった。
 ただ、一応ディマデュオのみならず、かの老人による脅威も取り除いたことを伝えておこうと思っただけである。
 いくらかの事情があったとはいえ、リューンの騎士を殺し、テロリストを匿っていたこの村の未来が明るいとは思えない。
 だが、それ以上村長と言葉を交わそうとはしなかった。
 ”金狼の牙”たちは夜の明けぬ内に村を離れ、空が白み始める頃、中央公路へと辿り着いた。
 ヴィスマールの方角に半刻も歩けば、冒険の出発点ともなったあの宿・・・賢者の選択亭に行くことも出来たが、彼らはリューンへの道を選んだ。

「それに、ちゃーんと土産が届くだろうから大丈夫だって」
「土産?一体何をしたんだ、エディン?」

 さあさあと仲間の背中を押すエディンへ、アレクが問い掛ける。
 彼の白皙の美貌に顔を近づけて、こそっとエディンは囁いた。

「あの騎士のおっさんの遺髪と服の一部を持ってきた。後日、ギルド経由であの宿に送りつける」
「・・・・・・!?」
「朝には村長が村人に事情を説明すると言ってたし、どうせ俺らのやったことばれるなら、多少の意趣返しはしても構わんだろ?」
「・・・・・・まあ、一泡吹かせるくらいはしておきたいと思ってたが・・・そこまでやるか」
「俺はしつこいのが信条なの。いい盗賊はしつこいもんなの」

 すっとぼけた顔で、手をひらひらと動かしてエディンはリューンの城壁を示した。

「ほれ、麗しの我が家ってやつまであと少しだぜ」

※カナンの魔剣、カナンの鎧、隠者の杖入手※

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■後書きまたは言い訳
27回目のお仕事は、GroupAskさんの公式シナリオ・賢者の選択です。Askシナリオをやっていく中で、プレイヤーが初めて魔剣に出会ったり、ラストの選択に一番頭を悩ませたりする作品ではないかと思います。
ディマデュオとの決戦のために【絶対の防壁】をあの洞窟から取って挑んだわけですが、それでも【炎の玉】は痛かったです。そして本当はカナン様、聖水で倒せるらしいのですが、当てられる自信がなかったので鋼鉄の箱頼りで。まあ伝統技ですよね!
せっかくミナスに【黄金色の風】つけてたのに、プレイ中一度たりとも手札に回ってこなくて悲しかったです。

リプレイ中、妙にギルが軽かったりエディンが最後に真っ黒です。キャラクターに好きにやらせてみたらこんな感じになってました。ノリって怖い。
村長の詳細説明時にもっとパーティ側に葛藤があったり同情したりしてもいいのでは・・・とか考えたのですが、相手に殺意を向けられたのが明らかな時点で、”金狼の牙”の場合は仕返しに躊躇しなさそうです。「愛に生きる」キャラが一人もいない弊害ですかね?

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/21 10:14 [edit]

category: 賢者の選択

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Mon.

賢者の選択 4  

 古く粗末な納屋で休息を取った”金狼の牙”たちは、行き先にちらつく無数の小さな灯りに気付き、道端の草むらに隠れてそっと様子を伺った。
 十数個の揺らめく松明を持つ者たち・・・何かを話し合っているようにも見えるが、声は聞こえてこない。
 やがて、松明の灯りが数個ずつに分かれて、速やかに四方に散らばり始めた。

「あれは多分、カナナン村の人たちね。あたしたちがあの封印を解いたのがばれてるんだわ」
「こっちに向かってくる灯りはないな」

 素早く辺りの気配を伺ったエディンが、松明の集まっていた広場に下りた。東へ進む道を行けば、松明を持つ村人たちと出会うかもしれない。
 もう一つ、広場の隅には小さいが堅牢そうな一軒家がある。
 窓には木の雨戸がおろされていて中の様子は分からない。
 扉には鍵が掛けられておらず、聞き耳を立ててみても中からは何も聞こえなかった・・・。

「・・・入ってみよう」

 アレクの意見に頷いた一行は、建物に侵入した。
 玄関から続く薄暗い廊下・・・右手の部屋から灯りが漏れている。
 ”金狼の牙”たちが恐る恐る一歩を踏み出すと、部屋の中から声が掛けられた・・・!

「どなたです?私ならここです。どうぞお入りください・・・」
「・・・ディマデュオの声だ」

ScreenShot_20130118_111715781.png

 一行は一呼吸おくと、彼の待つ部屋へと入って行った。
 暖炉のはぜる音。レンガ造りの壁に囲まれた広い部屋だ。
 壁際には無数の本の詰まった本棚が立ち並び、テーブルの上にもたくさんの書物が積まれている。
 そのテーブルの向こう、こちらに背を向け安楽椅子に腰掛けた銀髪の男の姿が見える。
 どうやら本を読んでいるらしい。

「必要事項は既に伝えたはずですが・・・まだ何か疑問でもおありですか?」

 銀髪の男・・・ディマデュオは、本を閉じ流麗な動作で立ち上がった。振り返り、一行の姿を見て彼は目を瞬かせる。

「これは・・・これは、皆さん。お早いお付きで。もう少し時間がかかると思っていたんですがね・・・」
「・・・ディマデュオ!」
「いい具合に利害が一致したもんでね」

 杖をきつく握り締めたジーニを、エディンが背後にかばう。
 彼のセリフに眉をひそめながらも、呪術士は「遅かれ早かれ、お出でになる事はわかっていました」と言った。
 やはり彼が解かれた封印を察し、村人に捜索を頼んだらしい。

「それにしても・・・とうにグールの餌となって、骨も残らず食われてしまっただろうと思ってたんですが・・・」
「びっくりしたかい?」
「まさか、あれの協力を得て地下墳墓から脱出するとはね。少々、あなた方を見くびっていたようです」

 肩をすくめてみせてからディマデュオは一行に用件を訊いた。

「そのまま中央公路へと向えば逃げられたものを、わざわざ村に戻ってきたんだ。それなりの用事がおありなのでしょう?」

 呪術士は察しはつきますがね、とジーニやミナスの方を見て目を細めた。魔力ある人間ならば、彼らが既に【風刃の纏い】や【野人召喚】で呼び出したものを従えていることに気付くだろう。
 彼らは戦いを挑んだ。
 ディマデュオはすっと腕を空中に伸ばす。次の瞬間、彼の手に魔法の杖が現れる。

「では・・・始めましょうか」

 冒険者たちが、杖を手に詠唱を始めるディマデュオに飛び掛ろうとしたまさにその時・・・。

「お待ち下されっ!」

 横合いからかけられた静止の声に冒険者たちは振り返った。
 見れば開け放たれた扉の脇に酷く憔悴した老人が立っている。

「あら、おじいさん。アンタも加わるつもり?」

 ぞっと底冷えするような声でジーニが脅す。しかし、老人は身を震わせながらも懸命に叫んだ。

「・・・その方を殺してはいかん、いかんのだ。その方がいなくなればこの村は滅んでしまう・・・!」

 老人が身を呈してディマデュオを庇う。
 ジーニはまだ納得がいかないようだったが、ミナスとアウロラが取り成して彼らはようやく武器を降ろした。
 呪術士が小さく「村長・・・」と呟き、構えた杖をおろす。口元に意味ありげな微笑を湛えて。

「村が滅びるって・・・どういう事?」
「まずは・・・わしの話を聞いて下さらんか・・・」

 ミナスの問いに、老人――カナナン村の村長は静かに語り始めた。

 あの祠がいつ頃のものであるか、いつからそこにあるのか・・・知る者はいない。
 それはただ当たり前の風景としてそこにあった。
 村人の中には供え物をする者もいたが、大半は興味を覚える事もなく過ごしていた。
 始まりは些細な事だと、村長は言った。
 祠の周りで遊んでいた子供たちが、偶然に祠の扉を開ける仕掛けを発見し、動かしてしまったのである。

「祠の扉が開いた事は、間もなく村中に知れ渡った。若い衆の中には調べるべきだと訴える者もおったが・・・」

 しかし、たかだか古い祠の扉が開いただけの事だと、それを取り上げる意見はなかったらしい。
 その翌日の事。
 一人の黒いローブを着たみすぼらしい老人が村を訪れ、食堂に立ち寄ると、亭主にこう語ったという。
 「・・・我が安らかな眠りを妨げし下等な猿どもよ・・・お前達は報いを受けるであろう・・・」と。
 さらに、彼は今宵から毎夜、一人ずつ冥府の扉をくぐる事になると脅し、去っていったらしい。
 気の触れた老人の戯言だと思っておった、と説明する村長にジーニはいらいらとしていた。

「馬鹿じゃないの?その時点でちゃんと調べれば良かったのよ」
「その夜、村の若者が一人死んだ」

 容赦のない女のひと言に顔色も変えず、村長は続けた。
 それから夜毎一人ずつ村人が奇怪な死を遂げ、なすすべもなく神に祈っていたところ、偶然この村に現れたディマデュオが事の次第を聞いて単身祠に入ったのだそうだ。村の災厄を取り除いてくれた彼を、この村は恩人と崇めた・・・・・・彼が国家的犯罪者として指名手配されていることを知らずに。
 いや、或いは勘付いていたのだろう。しかし、呪術士の過去に触れる事で彼に去られては、この村がまた滅びの淵に立たされてしまう。

「・・・ここは引いてもらえんかね。ディマデュオ殿がいなくなれば、わしらは再び呪いに脅えて暮らさねばならん」
「騎士を殺しておいてか」

 厳しい表情でアレクが村長を睨みつけた。あの短い刃物による多くの傷は、村の者たちの手によるものだろうと見当がつく。
 アレクの視線に怯みながらも、村長は力なく言った。

「あんた達さえ、忘れて下さればこの村の者はこれからも平和に暮らしていけるんじゃ・・・」
「ご自分たちだけ、平和に。他の者を犠牲にするのを躊躇わず」

 アウロラの呟きは村長に届いていなかったが、仲間たちには十分聞こえていた。彼女もまた怒っているのだ。
 カナナン村の人たちの犯行を「他に手段が無かった」「自分たちのためだった」と抗弁する村長に、もはや冒険者たちは冷たい視線を投げかけるだけだった。村長の瞳に浮かぶ断固とした決意を見ても、彼らには何の感慨も起きなかった。
 それにいち早く気付いたらしいディマデュオは、自分に任せて引き取って欲しいと村長を帰し、彼は一行を見やる。

「・・・聞いての通りです。地下墓地の老人・・・そうあなたがたが力を借りたあの老人です」

 ディマデュオは自分の目的を語った。
 暗く危険に満ちた闇の世界から足を洗い、執拗な騎士団の追っ手を忘れ暮らすにはこの地図にも載らない辺境の小村は最適だった。

「地下墓地の老人が去り、脅威が無くなれば私がここにいる必要は無くなります。それでは意味がない」

 一致団結した村人が彼を匿い恩人として重宝するようになるには、あの老人の存在が不可欠なのである。

「あなたがたに残された選択は二つ・・・全て忘れてこの村を去るか、それとも村人達の犠牲の上に私を倒すか・・・?」
「・・・まだ他に選択の道はあるな」

ScreenShot_20130118_120739718.png

 小さな体に溢れるほどの勇敢さを秘めて、彼は言った。

「地下墓地の老人を倒し、お前を倒せば万事解決だ。村人達は犠牲を出す事なく、脅威から永遠に解放される・・・」

 ディマデュオは唖然とした表情で目を瞬かせた。そして彼はヒステリックに笑い始める。

「はは・・・は、はぁ・・・これは失礼・・・ははは・・・。彼を殺す?あなたたちが?ははは・・・」
「・・・何がおかしいの?」
「まだわからないのですか?彼はカナン、旧文明期に滅びたソドム最期の王・・・千年も生きている化物ですよ?」
「知っているわ」

 静かに返答するジーニを不審に思いながらも、呪術士は続けた。

「この私ですら、油断した彼を騙まし討ちで封印する事がやっとだったと言うのに、あなた達ごときが?」
「アンタ、何も分かっちゃいないのね」

 ジーニはやれやれ、と首を振った。

「あたしたちは勇猛な冒険者、逃亡生活に疲れきった呪術士ごときと一緒にしないで欲しいわ」
「勇猛というより、無謀です」
「旧文明の王が相手なら、こっちもこっちで手段があるの。目には目をってね・・・でも、それ以上は教えてあげない。アンタはここで、あたしたちに倒されなさい。そうそう、代わりに倒しておくから合言葉置いていきなさいよ」
「合言葉は”ディマデュオ”。私の名前です。ですが、はたして必要ですかな?」

 そして再び彼らは対峙した・・・・・・。

「・・・よろしいでしょう。それも一つの選択です・・・」

2013/01/21 09:47 [edit]

category: 賢者の選択

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Mon.

賢者の選択 3  

 その後、スケルトンやゾンビに出会ったものの、大過なく退けることに成功した”金狼の牙”たちは、とある扉を開けて後悔していたところだった。
 巨大な石棺の蓋を開けたところで上方に気配を感じ、見上げると女の亡霊がいたのである。

「女の・・・・・・亡霊?」

 やや呆然と呟いたアレクを他所に、彼女はゆらゆらと漂い、何の感情も読み取れない顔で冒険者たちを見下ろしていた。
 しかし、次の瞬間――。

「――――――!!!!」

 女が絶叫した。亡霊は、嘆きの声で人を惑わせ体力を奪う、バンシーという種類のアンデッドだったのだ。

「ぎゃあああ!!」

ScreenShot_20130118_095622781.png

 ほとんどの者がその強烈な悲鳴に精神を冒される中、アレクだけが静かな眼差しをひたと亡霊に向け、詠唱を紡いだ。
 固い指先にバチッ、バチッと小型の雷が呼び寄せられる。その雷は狙い過たず、亡霊の胸を貫いた。
 バンシーは跡形もなく消滅してしまった・・・。

「うー・・・僕まだ耳がツーンてする。痛いよー・・・」
「な・・・なんでアレクシスだけ平気だったのよ・・・」
「これがあれか・・・イケメンの特殊能力ってヤツなのか」

 アウロラの【癒身の結界】で傷を癒されながら馬鹿なことを口にするエディンに、半ば本気で頷いていたギルが言った。

「・・・ん、奥の方に何かある・・・」

 石棺の奥をまさぐっていた彼の手が、棒状の何かを掴む。取り出してカンテラの灯りにかざしてみると、ミイラ化した腕だった。

「うげっ!気持ちわるっ」
「捨てんな、リーダー!それがじじいの左腕だ」

 諭されたギルは、涙目になりながらも変色したそれを荷物袋に納めた。
 もうこんな所に長居は無用と、一行は前に通ったのとは違う通路を通って、老人のいた部屋へ戻ろうとする。
 その途中あった西壁の扉の前で、ふとジーニが足を止めた。

「どうかしましたか?」
「ここ、何か杖が反応するのよね。エディ、ちょっと見てくれる?」
「ん?」

 鍵や罠はないと断言され、ジーニは静かに扉を開けた。
 その向こうは大きな部屋だった。四方を囲む壁に美しい装飾が施されている。天井もずいぶんと高い。
 部屋の奥に大きな石棺が置かれている。

「おいおい、またかよ・・・」

 及び腰になるギルを放って、ジーニは棺に近づいた。
 表面には美しい紋様が彫り込まれている。かなりの年代物に違いない。側面に刻まれた旧文明期の文字を、彼女はゆっくり読み上げた。

「『麗しの都・・・ソドムの王・・・偉大なるカナン・・・』?」
「どうやら、この棺はカナンと呼ばれる人物のものらしいですね。ここはその人の墓所のようです」

 アウロラが言うのに、ギルが首をかしげた。

「随分と身分が高かった人みたいだけど・・・その割には質素な造りだな」

 石棺に蓋は乗せられていない。”金狼の牙”たちは中を覗き込んだが、空だった。
 何も無かったことにいっそうのうそ寒さを感じ、首をすくめると彼らは部屋を出て、今度こそ老人の待つ部屋へと向かった。
 刻み付けられた古代文字と見つけた魔法の武具、そして村の名前に何かを考え込んだジーニを促して。

「・・・腕を持ってきたのかね?」
「ああ。ほら」

 エディンが荷物袋から目的のものを取り出すと、老人に渡した。

「おぉ、二本とも持ってきたか。重畳、重畳・・・」

 干からびた腕を受け取った老人は、無造作に腕の付け根を合わせる。
 やがて、合わせ目の辺りが黄色く輝き始めた・・・。
 光がおさまった頃、腕はまるで何事もなかったかのように繋がっていた。緑色だった皮膚も血色のいい肌色に変貌している。

「うむ、これでようやく元通り、力が使えるようになったわ。後は・・・」

 その時、扉が乱暴に開けられ、数名の人影が室内に入り込んできた。咄嗟に、冒険者たちが己の得物を構える。
 見覚えある姿にアレクが「ワ、ワイト!?」と声を上げるが、老人は落ち着いたままだった。

「慌てるな、馬鹿ども・・・そやつらはわしの忠実な下僕じゃ」
「・・・下僕!?」

 アウロラが柳眉をひそめる。

「腕が戻り、ようやく我が支配下に取り戻す事ができたわ。全く、不自由な事よの・・・」

 老人はワイトの前に進み出た。その姿には、この世ならざる威厳が感じられる。

「・・・下僕達よ、わしの寝所をうろつく汚らわしいゾンビやグールどもを早々に片付けるんじゃ」

 老人がさらに崩れている廊下の修復をも命じると、空ろな目をしたワイトたちは無言で頷き、身を翻した。

「さて・・・次はお前達の始末じゃな」
「・・・・・・」

 用心深く眠たげな目をもっと細めたエディンに、ふっと老人は笑った。嫌な笑い方だった。

「案ずるな。約束じゃ。ちゃんと表に出してやるとも・・・お前達にはまだやってもらわんとならん事があるでな」
「やってもらう事・・・?」
「わしはまだ表に出る事が出来ん。呪術士の若造が張りおった結界は存外に強力じゃ」

 わしの力を持ってしても破る事はできん、という老人に、ギルは無遠慮に言った。

「なんだ、じい様でもダメなのか」
「ギ、ギル・・・」

 慌てて幼馴染が彼の口を手で塞いだ。代わりに老人へ続きを促す。

「しかし・・・生あるお前達であれば、呪法は及ぶまい。我が魔法により、表へ飛ばす事も可能なはずじゃ」
「・・・ただではないだろう」
「もうわかるな?表に出してやる代償としてお前達にはあの呪術士の若造を殺してもらう」

 依頼ではない、命令だと念を押した老人は、かすかに頷いたアレクに満足そうに笑い、目を閉じるよう言った。
 老人の声に底知れぬ力が感じられる。冒険者たちは逆らう意志すらなく、素直に老人の言葉に従った。

「・・・闇夜をさまようものよ・・・我、ここに死者と不死者の王として命ずる・・・」

 しばしの別れじゃ・・・そう、老人は詠唱の最後に呟いたようだったが、判然としない。

「・・・・・・ここは・・・」

 次に目を開けた時、彼らの姿は小高い丘の上にあった。
 アレクが現状を把握しようと振り返ると、彼らの背後に古い石造りの祠がある。
 丘から見下ろした先には、カナナンの村があった。

「随分とあの墓所で時間を食ったみたいだ。どっかで休もうぜ」
「リーダー・・・本当に、あのじじいの言うこときくのか?」
「じい様は関係ないよ。俺がそうしたいからするのさ」

 金に輝く戦斧を肩に担いだギルの顔を見直して、エディンは小さく息をついた。

「・・・まあ、俺もあの野郎には仕返ししたいからな」
「ミューゼル卿の仇くらいはとってあげたい、と最初に申しましたし」
「ギルを放っておくとろくなことにならんのは、昔から知ってる」
「皆が行くなら、僕はどこまでも一緒だよ!」
「ジーニは?」

 ギルに意見を促された魔法使いは、じっと杖の髑髏を見つめてから顔をあげて言った。

「分かってるの?あの老人、恐らくは死霊術の比類ない使い手なのよ?多分、ソドム王国の・・・」
「やばいヤツなら、約束守らないと余計やばいんじゃね?」
「・・・・・・・・・あー、もう!分かったわよ、確かにギルの言うとおりだしね!」

 王だろうが死霊だろうがテロリストだろうが、来るなら来いと息巻くジーニに、仲間たちは笑った。

2013/01/21 09:42 [edit]

category: 賢者の選択

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Mon.

賢者の選択 2  

 老人は言った。
 自分は魔術の心得がある、あの呪術士がこの地下墓地の何処かに隠した老人の腕を取り戻してくれたら、報酬の代わりにここから脱出させてやろうと・・・。

「あのじじい、年老いた魔術師だ以上のことは言わなかったな。盗賊としちゃ、金になる報酬も欲しいとこだが」
「それで十分だろうとあしらわれましたからね」

 通路の暗がりから現われたゾンビたちをあっけなく退けながら、一行は先程の老人について話し合っていた。

「それにしても・・・っと、この扉はどうだ?えーと・・・鍵が掛かってるな・・・」

 墓地には名工の手による錠がかかった扉が複数あり、エディンはさっきから苦戦を強いられていた。
 これの前には、武器庫らしき様々な種類の武器が飾られた部屋で、奥の壁に掛けられていた両手持ちの大剣を手に入れていた。
 大剣はまるで打ち立てのような鈍い光を放っており、刀身がうっすらと青白く光っているように見えたのである。

ScreenShot_20130118_085953796.png

 アレクが剣の柄に触れると指先に軽い痛みが走ったのは、氷の様に冷たいからだった。
 持っているだけで指先が凍傷になる、とぼやきながらも、彼は今それを背に負っている。

「・・・開いた!」

 エディンが小さな歓声を上げて扉を開いた。ミナスとジーニは、すでにそれぞれ召喚魔法を準備してある。
 そこもまた、大きな部屋だった。何の装飾もされていない。
 ・・・部屋の奥に何か青白く輝く物体がある。

「これは・・・」

 アレクが呟いた。精巧に作られたその金属鎧は、彼の背負っている剣と対になるもののように思える。
 石造りの鎧立てからそれを取リ外すと、やはり氷の様に冷たい。

「この鎧、旧文明期の王国ソドムの様式で作られているわね。・・・強力な魔力が秘められているから、魔法への抵抗力も増大させてくれるはずよ」

 鎧をしげしげと見つめたジーニが鑑定結果を口にすると、ギルは困ったように首を横に振った。

「いや、残念だがこいつは俺やアレクとは体型がちょっと合わない。ベルトを調節し直せば、なんとか着られるかもしれないが・・・」
「とりあえず持っていくだけにしとくか。今回、どこからも報酬は出ないんだからな」

 エディンの意見に全員が賛同した。
 ・・・やがて彼らは、ある北壁の扉を開けて中に入った。
 その部屋は今までと同じ中央に石棺のある部屋だったが、石棺の中身が違っていた。

「穴が開いてるね!」
「この大きさなら、全員通る事は可能よ」
「垂直に折れ曲がった後、北の方へとのびてるようだが・・・リーダー?」
「行こう。他に行くところもないしな」

 冒険者たちは穴に潜り込み、先へと進んだ・・・。
 細い通路は行き止まりとなるが、上へと続く穴がある。”金狼の牙”たちはゆっくりと立ち上がった。

「これ、石板ですね」
「どいてくれ、アウロラ。ギル、手伝え」
「はいよっと」

 メインウェポン二人が力を合わせて石板を手で押してみると、動く。
 どうやらそれは石棺の蓋だったらしい・・・彼らが穴から這い上がると、穴の入り口となった部屋と似たような感じの部屋に出た。
 扉がひとつあり、内側の錠を外して通路に出る。
 床を調べても通路に違いがなかったので、一行はギルの勘にしたがって西に進むことにした。

「む・・・これはさっきのと同じ呪法の札か・・・」

 突き当たりの扉を調べていたエディンが唸った。老人を閉じ込めた札ということは、腕はここに封じているのかもしれない。
 仲間たちの同意を見て取ると、彼は静かに札を破きながら扉を開けた。
 ”金狼の牙”たちが周りを見渡すと、部屋の中には四つの大きな石棺が整然と並べられていた。

「何かしら、あれ?」

ScreenShot_20130118_092506890.png

 細い指が示したのは、奥の壁に鎖で吊り下げられた棒のようなもの――ミイラ化した右腕だった。
 エディンが静かな足取りで石棺の間を通り、その腕を手に入れる。
 完全に干からびたそれは、皮膚の色が緑色に変色している。エディンは若干の吐き気をこらえながら、それをバックパックに詰めた。

 ぴたん・・・ぴたん・・・。

「・・・水?」

 ジーニの首筋に冷たい滴が落ちる。首筋に手をやり、何気なく天井を見上げると・・・。

「ひっ」

 天井に皮鎧を着た人間が張り付いている!
 土色の肌の周りを取り巻く黄色い光を見て、エディンが叫んだ。

「ワ・・・ワイト!?」

 彼ら四体のワイトは、天井に張り付いたままこちらの様子を伺っているようだ。
 エディンは迷った。体勢を整えるべきか、刺激しないよう逃げるべきか・・・。
 結果、彼は逃走を選択する事にした。目でそっと合図をして、仲間たちから先に通路へと逃がすようにする。
 殿についたエディンは、ワイトの動向を見守りながらゆっくりと扉に近づいた・・・。

「あと少し・・・」

 つう、と冷や汗が焦りを呟いたギルのこめかみを伝った。
 すると、まるでそれに呼応するかのように、突然ワイトの一匹が奇声を発した!

「やばい!エディン、急げ!」
「だめだ・・・逃げ切れない!!」

 エディンは腰の細剣を引き抜いて、天井から落下してきたワイトに向き直った。
 アレクとギルは踵を返し、彼の隣に立つ。「こいつら・・・確か・・・」と洩らしたアレクに、エディンが反応した。

「ああ、ゾンビパウダーの密売組織との戦いで出てきただろ。ワイトは人間の精神力を吸い取る能力を持ってる」
「・・・ずいぶんと詳しく覚えてるのだな」
「若い頃にも、ちょっとな」

 それぞれ、対複数への技として【花散里】と【風切り】を準備していた二人は、言葉を交わしながらワイトの爪を武器で防いだ。
 エディンが口にした能力がある以上、後ろの魔法使いたちにワイトの攻撃を通すわけにはいかない。
 しかし、心配は杞憂だったようである。ギルの【風割り】でまず一体が仕留められた。二体のワイトもエディン&アレクの波状攻撃と、召喚された旋風や野人に攻撃され、その動きを止める。
 残った一体も、再生はしたもののジーニの【魔法の矢】に射抜かれ、戦闘が終わってみるとアレクがかすり傷を負っただけだった。
 アウロラがその傷を法術で癒す。

「この石棺、ワイトのだったんだな」

 保証するエディンの向こうで、不心得者なギルがつま先で棺を蹴った。
 罰当たりな仕草にアウロラが眉をしかめたのを見て、慌てて足を引いた。休火山をわざわざ目覚めさせることはない。
 反省する様子を見せたリーダーに軽くため息をつくと、アウロラは「終わりましたよ」と癒した腕をぽんと叩いた。

2013/01/21 09:38 [edit]

category: 賢者の選択

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Mon.

賢者の選択 1  

 ぴちゃん、と水滴の音が響いた。
 暗い石造りの部屋の中、かび臭い空気に眉をしかめて呼吸しながら、”金狼の牙”たちは車座になっていた。
 傍らには、立派な鎧に白い胸当てをつけた騎士の死体が横たわっている。
 おもむろにギルが口を開いた。

「えー、では頭の悪い俺のために、分かりやすい現状説明を頼む」
「あんたねえ・・・ま、いいわ。あたしたちはミナスの母親がもしかしたら隠れ里近くの都市に潜んでいるんじゃないかと考え、行商人の護衛がてらヴィスマールへ行ってみた」
「結局、お母さんは見つからなかったからリューンに帰ることにしたんだけど、野宿が多くてうんざりしてたんだよね」
「そうそう。んでリーダーが、『揚げじゃがの匂いがする!』つって、賢者の選択亭ってとこに走っていったんだろうがよ」
「・・・・・・俺たちが温かい食事にひと段落つくと、騎士が宿に入ってきた。彼の名はミューゼル卿、中央公路沿いの村々を視察しているリューン騎士だと言っていた」
「ミューゼル卿はカナナンの村というところで村人の挙動に不審を抱き、ひそかに監視するうち、国家的犯罪者である呪術士ディマデュオの姿を発見したのです。卿は村を大人しく去ると見せかけ、呪術士を捕らえるための人手を探しました」
「それで僕たち、近くに騎士団や治安隊がいないからってミューゼルさんに雇われて、村の監視をすることになったんだよ。宿の主人に、リューンへお使い頼んでからね」
「・・・だよな?それがどうして、俺たちこんな所にいんの?」
「・・・覚えてないんですか?」

 しきりに首を傾げるギルへアウロラが尋ねるが、本当に彼は覚えていないらしく、ため息混じりにやれやれと説明を始めた。

「村の監視を始めた途端、ディマデュオに先手を打たれて眠らされたんですよ。賢者の選択亭のご主人が、村への内通者だったんです」
「あっ・・・・・・!」

 ギルの脳裏に、やっと白い霧のような【眠りの雲】のガスと、その向こうに立つ人物が浮かんだ。深緑のローブに身を包んだ40歳がらみの男と、自分たちに冷たいエールや熱々の料理を運んでくれたはずの固い表情をした宿の主人。その後ろにいる数多くの人影・・・。

「思い出したな?・・・まあ、そう言うわけだ。ミューゼル卿はナイフのようなもので滅多刺しにされてる。血の量からすると、別の場所で刺されてから俺たちと一緒に放り込まれたらしい。くそっ!!」

 エディンが声を荒げて床に拳を打ちつけた。滅多にないことだけに、びくりとミナスが身をすくませる。

「俺としたことが、あんなしょぼくれた中年の正体を見抜けないとはな・・・。宿屋で気づかなかったのが苛立つぜ・・・!」
「済んだ事をあれこれ言っても仕方ないわよ、エディ」
「ミューゼル卿は、私たちのような冒険者にまで礼儀正しい方でした。彼の仇くらいは取ってあげたいですね」
「・・・俺としちゃあ、個人的な恨みのほうが強いけどな。まあ、気持ち切り替えていくか」

 大声を出したことである程度は気も晴れたのだろう・・・エディンは仇発言には苦笑で返しながらも、立ち上がって頑丈そうな扉を仔細に調べ始めた。
 扉の向かいにある石造りの門の道は、途中で巨大な岩盤にふさがれていたのを確認済みである。人間の力では除去する事は不可能だ。

「古い扉だ・・・鍵や罠は見当たらない」

 蝶番が軋みをあげる音を響かせながら扉が開く。その向こうは、真っ暗な通路が続いていた。
 少し進むと、北壁に扉が一つある。

「開けるぞ・・・」

 素早く調査を終えたエディンがそっと扉を押すと、そこは小さな石造りの部屋だった。
 部屋の中央に大きな石棺が置かれている。その周りの床の上には石の破片が無数に散らばっている・・・。
 そこまでを見て取ったアウロラの顔が青ざめたのを見て、ギルが声をかけた。

「どうした?大丈夫か?」
「ええ・・・。部屋の様式からすると、私たちが閉じ込められているのはどうやら、旧文明時代の地下墓地・・・のようです」

 アウロラの言葉を裏付けるかのように、アレクとエディンが無造作に開いた石棺の中には、人間のものらしき遺体が納められていた。半ば朽ちた衣装は確かに旧文明期のものだろう。
 ジーニが静かにそれを観察して言う。

「・・・死体の首が鋭利な刃物か何かで胴体から切り離されているわ。いったい誰がこんな事を・・・?」
「ろくでもない予感しかしない。とりあえず、墓だと分かったんだしここから離れよう」

 ”金狼の牙”たちがしばらく進むと再び北壁に扉を見つけたが、恐らくさっきと似たような部屋だろうとアウロラの意見があり、入ることはやめておいた。
 さらに歩を進めると、今度は東壁に扉がある。

「罠とかはないが・・・この札、古代文字か?」
「どれ?ふーん、呪法に使用する札のようね」

 エディンの疑問に、札を覗き込んだジーニがそう判断する。
 急にしっ、と人差し指を口の前で立てた盗賊が、そっと床に耳を当てた。

「・・・かすかだが、がちゃがちゃと金属が触れ合う音が聞こえてくる」

 じっと話を聞いていたギルが言った。

「ジーニ。これって、剥がしたら呪われるとかそういう奴?」
「いいえ。文字の綴りからすると、中の存在を封じるための何かっぽいわね・・・この魔力、どっか別のとこと繋がってるくさいなー」
「ディマデュオかな?」
「多分ね」
「そうか。んじゃ」

 ギルは扉を躊躇なく開けた。札は音もなく破れ、地面へと舞い落ちた・・・。

「ええええええ」

 あまりの迷いの無さに、アウロラが間の抜けた抗議の声を上げる。
 アレクが「おい」と言って肩を掴むのに、ギルが不思議そうに返した。

「札がディマデュオの作ったものなら、あの気に入らない男の邪魔が出来るチャンスってことじゃん」
「・・・お前、この向こうにあるのが、俺たちの手に負えない何かだったらどうするんだ。あいつが封じてたんだぞ?」
「封じてたってことは、呪術士の敵だろ。敵の敵はとりあえずの味方・・・かもしれないし」

 彼はぐっとノブを引いた。
 ・・・中は広い部屋だが、他の部屋同様、床や壁は全て石造りだった。
 部屋の奥には、黒いビロードのローブをまとった老人が、頑丈な鎖で壁に縛り付けられている。

ScreenShot_20130118_082721140.png

「・・・誰じゃ?」
「・・・あなたはいったい・・・?」

 アレクの問いに、老人はしばらく無言を貫いていたが、不意にくっと口の端を持ち上げてみせた。

「・・・なるほど、村の者ではないんじゃな。村の呪術士にこの地下墓地に閉じ込められた・・・そんなところか?」
「・・・・・・」

 ミナスが黙ったまま、正体を訝って老人を見つめた。

「・・・わしかね?わしはこの墓地の主じゃ。あの若造にしてやられてな、この有様じゃよ」
「じい様も、あの野郎にやられたのか」
「その様子では出口を探しておるのだろう。気の毒じゃがな・・・この地下墓地に出口はない」
「なんだって!?」

 気色ばむアレクに、老人はぼそぼそと応える。

「・・・ある事はあるが、巨大な岩盤とあの忌々しい呪術士の魔法で封じられておるわ」
「なるほど。じゃ、あの札と繋がってた魔力は石造りの門の・・・」

 老人の説明に納得しかけていたジーニが、ふと口を噤んだ。
 彼女の持つ≪死霊術士の杖≫が、かすかではあるが小刻みな波動を繊手に伝えている。
 それには気づいていないのか、老人は諦めてグールにでも食われてしまうんじゃな、と続けた。
 しかし、そこでミナスがアレクの背中にしがみ付いたまま、哀しげな声を上げた。

「・・・この地下墓地から抜け出す手段はないの?」
「・・・・・・」

 老人はゆっくりと小さなエルフを見つめた・・・。

2013/01/21 09:35 [edit]

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