Tue.

雪山の巨人 4  

 火の粉の爆ぜる音がする・・・・・・・・・。
 暖かさに包まれている――火花の散る心地よいリズム音を目覚ましにアレクは目を開いた。

「う・・・うん・・・???」
「良かった。もう大丈夫そうだね」

 軽く頭を振り、現状の把握を始めるアレクの背中をミナスが支えた。

「ここは?」
「精霊たちによると、ヒララギ山中にある大洞窟の中・・・みたい」

 なるほど、凍てつく風も入って来ない。洞窟の中、焚き火が明々と燃えている。

「アレクが守ってくれたお陰で、僕が一番初めに気が付いたんだよ」
「他の皆は?」
「そこに並んでるよ。まだ気を失ってるけれど、致命傷はないっぽい。そのうち目を覚ますんじゃないかな」

 ミナスは悪戯っぽく微笑んで、一点を指さした。

「ダレイドさんもこのとおりさ」

 皆、傷は癒えていない様子ではあるが重体というわけでもなさそうだ。
 ミナスによるとリース達も生きており、縄で縛り付けておいたらしい。
 あの雪崩の中を揃って生き延びるとはなんという悪運。いや生き運か。刹那、安堵したものの・・・。

「っ、後ろ!」

 フロスト・ジャイアントの見覚えある姿がミナスの背後に現れ、アレクは即座に抜刀して構えた。
 しかしミナスは警戒することなく立ち振る舞っている。

「ああ、薪を取って来てくれたんだよ」

 むしろ勝手しったる仲とでも言えそうな・・・これはどういうことだろう?
 ミナスは静かに語り始めた。
 雪に埋もれた冒険者達を掘り出し、洞窟まで運んでくれたのはこのフロストだったのだ。

「目が覚めたらフロストに抱えられていたの。ビックリしたけど、温厚な奴で助かったよ」

 恐るべきは子どもの順応性といったところか、けらけらとミナスは笑った。

「そうか。言葉は通じないだろうが・・・ありがとう」
「うぉー。うぉうぉうぉっ、うぉうぉうぉうぉ」
「ん?喜んでるみたい」
「言葉が解るのか?」
「ううん、せいぜい身振り手振りで簡単なことが通じるだけ。それでもなんとなく言いたい事は分かるから、こいつ賢いよ」

 2人の会話が興味深いらしい。顔を見比べては楽しそうに身体を揺する。

「フロストは、しきりに何かを伝えたがっているんだ。でも細かい話らしくて、さっぱり分かんない」

 しきりにダレイドを指差している、とミナスが説明し、アレクは首を傾げた。
 ダレイドの父親はフロストが殺したと聞いているが、この温厚なフロストがそんな凶事を起こすようには見えない。
 誤解ではないだろうかと二人が結論を出し、頭を捻ってるうちに――。
 フロストは洞窟の奥へせっせと歩いて行ってしまったが、すぐさま何かを握りしめてせかせかと戻ってきた。
 彼あるいは彼女が持ってきたのは、古ぼけた一通の手紙だった。

ScreenShot_20130126_035740171.png

 躊躇う様子も無くミナスが受け取り、それを広げる。

「何と書いてあるんだ?」
「ええと・・・」

 インクが滲んでただの染みになっていた箇所もいくつかあったが、何とか前後の文脈から類推して当てはめ読んでいく。
 それによると、この手紙を書き記したのはレベイド――ダレイドの父らしい人物だった。
 癒し手である彼は、薬草採集の際にリース一味に尾行され、貴重なオルウェン草の苗を取られてしまうこととなった。
 それに憤慨して抗議した彼は、逆上した一味から瀕死の重傷を負わされ、フロストに辛うじて救われたらしい。
 そしてこのフロストが温厚で賢い事に賭け、自分をあの雪崩が起きた峠――オルウェン村の近くまで運ぶよう頼んだというのだ。

『今、私は深手を負っている。』
『洞窟から出て、果たしてどこまで体力が持つかは疑問だ。しかしこのフロストに賭けるしかない。』
『もう一度会いたい、ダレイド、レベッカ』

 記述は、そこで終わっていた。

「フロストはこの手紙を・・・届けようとして、下山する間中ついてきていたのだろうな」

 アレクはふっと微笑む。
 二人が手紙から読み取った事で盛り上がっている中、ダレイドが目を覚ました。

「ううっ・・・私は雪崩に飲まれて・・・ここは・・・一体?」

 目を覚ました彼が最初に見たものは・・・フロストであった。
 暖かい焚き火が火の粉を爆ぜる。しかし、空気は凍りつく。
 アレクとミナスは、そこで漸く彼らの依頼人が目を覚ましたことに気付いた。

「こいつ・・・っ!!!」

 今やダレイドにはフロストの姿しか目に入らないようだ。
 あろうことか彼は腰に差していた鉈に手を伸ばし、フロストに斬りかかって行った!

「いけない・・・っっ!!!」

 アレクが叫んで、鋭く≪黙示録の剣≫でもって鉈の柄を撃ち、跳ね飛ばす。
 唯一の武器がなくなった事に衝撃を受けるダレイド。だがしかし、それにより若干周囲を見回す余裕が出来た様だ。

「こっ・・・この状況は一体・・・!?皆さんも何をしているのですか!」

 ミナスが手紙を読ませようと宥めるも、それに激昂した彼はフロストに指を突きつけて叫ぶ。

「目の前にフロストがいるのに、何の話があるというのだ!依頼人として君らに命ずる!こいつをぶちのめせ!!」
「いいえ、梃子でも動きません。その願いが、向ける相手を違えている限り」
「何だと!?」

 彼は素手のままフロストに飛び掛った。
 だが圧倒的な体格差の前、自身がぶつかった反動だけで勝手にダレイドが転んでしまった。

「うわっ!」
「うぉぉー・・・ん・・・」

 フロストはただ、悲しそうな声をあげるばかりである。哀れんだミナスが近寄り、彼の足を撫でた。

「何故だ・・・なぜ反撃しないんだ!そんな目で私を見るな!!お前は父の仇なんだろう・・・父の・・・」

 そこから先は声にならず、ダレイドは嗚咽とともに崩れ落ちる。彼が平静を取り戻すまでもう暫く時間が必要だった。
 それほどまでに彼の悲しみは深く、家族を思う気持ちも深かったのだろう。
 慟哭を終わらせ、何もかもを受け入れる表情になったダレイドに、アレクとミナスは明らかになった事情を説明した。
 驚く依頼人にインクの滲んだ手紙を握らせると、彼は貪るように何度も手紙を読み返した。
 彼はただ一粒の涙を零した。

「ん・・・?手紙を結んでいる紐に何か巻きつけてある・・・」

 それは茶色く硬い、小さな種子であった。

「これは・・・!去年から採れなくなっていたオルウェン草の種子じゃないか!」
「良かったね、ダレイドさん!!」

 ミナスが種子を握り締めるダレイドの手に、自分の小さな手を重ねて喜んだ。

 翌日。
 冒険者達とダレイドは、洞窟のフロストに別れを告げ下山した。
 ダレイドはすっかり穏やかな顔つきになってフロストを見上げ、謝罪と別れを口にした。
 リース一味はエディンがギルド式にきつく縛り、武器で脅しながら歩かせた。
 連れ帰ったリース達は、ダレイドの父レベイドの遺した手紙からその悪事が明るみとなり、村の懲罰房に押し込められることとなる。
 幾日かすれば、彼らは街の治安隊によって留置所へ護送されることだろう。

「やれやれ、今回はちょーっとハードだったわね」
「まさか雪崩に飲まれるとはな」
「ほんと、大自然は凄いよなあ。あっはっは」
「「ギルは何でそんなに元気なままなの(なんだ)」」

 筋肉痛で軋む身体をゆっくり動かしながら、大人コンビが恨めしげにギルを睨んだ。
 ここはダレイドの家。
 家主は、冒険者達への依頼料を出しに奥へ行ったところだった。
 本当の父の仇をとり、妹を救う為の薬草も確保、そして稀少なオルウェンの種子まで手にしたダレイドは、これからきっと大忙しになるのであろう。村の癒し手は彼だけだというから。
 700spの約束だった報酬を1000spにして差し出してきたダレイドの顔は、しかしかなり晴れやかである。

「私の感謝の気持ちです。受け取って下さい」
「少し・・・予定より多いんじゃない?」
「どうか、何も言わずに受け取ってやってください」

 小さな身体で懸命にフロストを庇っていた少年に、ダレイドは微笑みかけた。

「今回は皆さんに依頼できてよかったと思っています。・・・ありがとうございました」

 依頼の途中で意見を異にしたこともあったが、彼はやはり親父さんのお墨付きをもらうだけの人物であった。
 きっと、彼の父親にも勝る立派な癒し手になってくれるだろう・・・・・・”金狼の牙”たちはそう確信している。
 数日後、妹のレベッカの病が癒えたのを機に、冒険者達はリューンへの帰途についた。
 馬車の幌から顔を出して、すでに遠くなりつつあるヒララギ山を見やるミナスの口には、ダレイドと同じ微笑が刻まれていた。

※収入1000sp、【雪精トール】※

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■後書きまたは言い訳
31回目のお仕事は、原案:ヒラメさん、原作とシナリオ制作:ハチミツさん、シナリオ演出と脚色:小柴さんのお三方でお作りになった雪山の巨人です。ウィルダネスとはちょっと違いますが、雪の野山を駆け回る冒険者たちの物語。

今回やりたかった事は、「アレクに精霊との縁を作ろう」でした。以前にも、階下に潜むモノ翡翠の海などで精霊との接触がありましたので、そろそろ精霊使いに対するコンプレックス(=父へのコンプレックス)を昇華できるのではないだろうか、と思っていたのです。しかし、いい加減な作者の特徴づけのせいで、アレクに中々適正のある精霊がいません・・・こりゃダメかなあと諦めかけた時。
ありました・・・適正:筋力/大胆の精霊が。それがこちらに出てきた雪精トールでした。ともすれば特徴通り地味~で発言が埋もれがちなアレクに、快活でぴったりな相棒ができて嬉しい限り。

このシナリオ、どのように台詞分岐を当てられているのかエディタを見ていないのですが、こちらが意図していた設定にぴたりと当てはまる事が多くて、プレイしていてとても爽快でした。
上記の雪精トールは、アレクに対してやり取りをして憑いてきてくれたり。密かに雪国出身の設定があるギルが、フロスト・ジャイアントについて詳しかったり。果ては一番怒らせちゃいけないアウロラがぷっつん切れたりして、プレイヤー非常に楽しかったです。(笑)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/29 00:39 [edit]

category: 雪山の巨人

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Tue.

雪山の巨人 3  

 ざっくざっくざっく・・・。
 一行は下山の途中である――背後にフロストを引き連れて。
 ギルが引きつった顔で幼馴染に囁いた。

(なあ、アレク。あいつまだついてきてる・・・)
(おい、トール。足止めしろ)
(あんさん、何薄情なこと言ってまんねん!無理ですがな!

 銀盤の上に突如現れた青い絨毯――その幻想的な風景から無事レドシラ草を採取し、さて下山しようとした時にそいつは現れたのだ。
 あくまで退治を主張する依頼主に、アウロラとジーニが口を揃えてレドシラ草を村に持ち帰るのが先だと説得したが、彼はなかなか頷こうとはしなかった。挙句の果てに妹を一人にするのかとジーニに責められ、ようやく退治を断念したのである。
 フロストを刺激しない様に気をつけつつ進むものの、あのフロストはとっくにこちらに気づいているとジーニは指摘する。
 見やれば、確かにフロストの雰囲気が現れた時とは違っているようだ。

 ざっくざっくざっく。

 一同は無言で降りて行く。
 それは来た道を降りて行くだけだが、登山家は下山する時の方が遭難率が高いのだと言う。
 気の弛みが、時に洒落にならない事態を引き起こすのだそうだ。

(まだ追いかけてくる・・・)

 つう、とジーニの背筋を冷や汗が伝った。
 だが、しかし。いつまでたってもフロストは攻撃を仕掛ける素振りを見せなかった。

「・・・ねえ」
「ああ。気付いたか。あのフロスト、こちらに危害を加える気は無いようだな」

 職業柄、人一倍殺意に敏いエディンがジーニに返した。
 それどころか、好意的な眼差しすら感じられる。何かやきもきした挙動を見て取り、ジーニは首を傾げた。

「どういう事なの?」
「機嫌が良いのかも」
「ご冗談!」

 半ば以上本気で言ったミナスの意見を切って捨てたジーニは、ひたすら慣れないかんじきに苦労しつつ、村へと急いだ。
 やがて、下方にオルウェンの村の灯が見えて来た。
 それだけでも一同は安心する。
 ほっと息をついた時、いつの間にかフロストの姿が消えている事にエディンとギルが気付いた。

「アレクはん、あれなんでっしゃろか?」

 雪精トールの指摘に顔を上げると、そこには奴らが待ち受けていた。、

「へっへっへ」
「おいおい、待ち草臥れたぜェ」
「お前達、さっきはよくもやってくれたな」
「全く・・・。ニ、三日は安静にせねばならない程度に痛めつけてあげたつもりだったのですが」

ScreenShot_20130126_030937250.png

 冷厳としたアウロラの台詞に、仲間たちはぎくりと肩を強張らせた。

(怒ってる・・・・・・めっちゃ怒ってる・・・・・・!)

 単にチンピラ達が気に食わないのか、先程までフロスト・ジャイアントという脅威に緊張していたからか、疲れきって早く帰りたいところを邪魔されたからか。普段はむしろお人よしとまで評価される娘の目は、確実に凍りついていた。

「な、なんでェこのアマ・・・!」

 リース達が一歩踏み出したのを見て、仲間たちも各々の得物を構える。

「身ぐるみ剥いでやるぜェ!」
「やれるものならやってご覧なさいまし」
「今度は一筋縄じゃいかねェ!覚悟しやがれィ」

 しかし、ミナスがナパイアスで押し流して動きが止まったところを、上手く前衛たちが攻撃していくのに、リースの手下たちはまたもやあっという間に倒れていく。

ScreenShot_20130126_032005046.png

「強い・・・ちょっと・・・快感かも・・・」
「ちょ、ちょっと・・・っ!変な方向に目覚めないでよッ!!」

 ジーニの【魔法の矢】に貫かれた男が恍惚と呟くのを聞き、彼女は珍しく慌てた。

「・・・ポッ」(ばたり)
「・・・このまま埋めてやりましょうか、この男」
「アウロラが怖い・・・」

 ミナスは≪森羅の杖≫で魔力を集中させながら慄いた。
 その脇を、かんじきを履いているとは思えないスムーズさですり抜けたエディンが、新調したミスリル製レイピアで攻撃する。

「ぐえっ」

 最後にリースが倒れる。リースの横に、気絶から回復したらしい手下が近寄り、”金狼の牙”たちを睨み付けた。

「糞ッ、やってくれたな・・・!だが今回、こっちにはとっておきのアイテムがあるんだ。前の様にはいかないぜ!!」
「下手な脅しは通じません。観念なさい」
「ヒヒヒ、そうかなァ・・・?おい、二人とも、アレを出せ」

 リース達が取り出した呪符は・・・。

「げっ。あれ、火精の紋だよ!」
「なっ」
「くっくっく!!驚きで声も出ねェようだな。やっちまえィ!」

 田舎のチンピラどもと思い油断したのが致命的だった。またたく間にコマンドワードを読みあげていく・・・!
 迂闊と吐き捨てたアレクが真っ先にミナスを抱え込み、受身の体勢を取る。仲間たちもそれに倣った。
 サラマンダーの力の開放による局地的爆発が起き、大爆音とともに眼前の地面が抉れる。
 吹き飛ばされた雪が眩しく輝くと同時に、”金狼の牙”たちは思わぬ深手を負った。

「へっ、俺たちを甘く見たのが運のツキだぜっ!!」
「なぶり殺しにしてやるよォ!!覚悟しな!!!」
「こ、この馬鹿ども・・・・・・。なんつーことを・・・」

 重傷を負いながらも、ギルは必死に斧を杖にして立ち上がろうとした。こんなところで爆発を起こしたら・・・。

「ん・・・?あの音は何だ?」

 チンピラの一人が呟くのに、”その音”が何か分かってしまったギルが身を強張らせる。他の仲間たちも、状況を察した様子だ。
 山頂から鈍い音が木霊していた――それはゴゴゴゴゴと形容するに相応しい。

「お前達・・・」

 心底あきれ果てたと言った態で、アレクが言った。

「何をしたか分かってないな?雪崩を起こしたんだぞ」
「な」
「何だってーっ!?」
「に、逃げるぞォーーー!!!」

 それはまさに白く重たい波だった。
 轟音とともに、腹を空かせた鮫の如く牙を剥いて襲い掛かってくる!!!

「エディン、ジーニを!アレクはミナス頼む!」

 ギルは必死にそれだけは叫ぶと、がっしと間近にあったアウロラとダレイドの身体をしっかり抱えた。
 そして冒険者達とチンピラ達は、全員雪に飲まれた。
 ”金狼の牙”の冒険はここで幕を閉じた――。

2013/01/29 00:12 [edit]

category: 雪山の巨人

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Tue.

雪山の巨人 2  

 病を得たレベッカを行きがけにお見舞いした一行は、村の出入り口の辺りで3人のチンピラ風の男たちに行き会った。
 行く手を塞いでいる彼らに呼び止められ、”金狼の牙”たちはこれが例のチンピラかと見当をつけた。

「何人か見慣れねェ顔が居るな?悪いことは言わねェよ。俺たちに任せてもらおうか、な?」
「兄貴の言うとおりだ。酷いじゃないか。よそ者を信用するのかい、ダレイドさんよ!」

 藪にらみで睨みつけられたダレイドは、きっとした顔で言い返した。

「お前達だって、まだ村に住むようになって1年も経っていないじゃないか」
「なあんだ。よそ者はそっちも変わらないな、ははっ」

 笑ったギルを、リースと呼ばれた男が殺意を込めた目で見やる。
 お前達ではフロストに適わないと主張したダレイドを、さり気なく前に出たエディンが庇った。

「そういうことだ。絵に描いた様なチンピラだな。邪魔するなら容赦はしない」
「チンピラぁ?!雇われ冒険者風情が何を!俺達の実力を見くびるな!」
「そんじょそこらの冒険者より、俺達の方が強いって事を見せてやるぜェ」
(・・・弱い奴ほどよく吼える)

 チンピラ達が各々の得物を構え戦闘開始となったが、決着が付くのは早かった。
 冒険者達は詠唱に集中し過ぎていたアウロラが怪我をおった程度で、後はミナスの新しく契約したイフリートや前衛たちの連携攻撃で、あっけなく敗北した。

「口ほどにもない」

 ひゅんっと、≪黙示録の剣≫についた血のりを払いながらアレクが鼻で笑う。
 一行はまた雪山へと向かった。

「痛たたたた、くっそう、あいつら。覚えてやがれー!」

 チンピラの一人がそう叫ぶも、一顧だにせず”金狼の牙”たちは進む。
 足に装着したかんじきでしっかり雪を踏みしめ、前へ、前へ。
 あまりの寒さを紛らわせようとしたか、ジーニはダレイドに話しかけた。少し気にかかることがあったからだ。

「ダレイドさん。チンピラ達・・・ええと、リース一味だっけ?に言ってましたよね。『お前達ではフロストは倒せない』と・・・」
「ええ。だってそうでしょう?彼等はきっとフロストの姿を見ただけで逃げ出しますよ」
「否定する要素がないわね。でも、戦うつもりなのです?その、フロストと・・・」
「あくまで「そうなった」場合・・・の話ですよ」

 ジーニはフロスト・ジャイアントについて詳しくはないが、ギルの話からすれば、決して侮っていい相手ではないはずだ。
 戦闘はできるだけ避けたいと口にするジーニに、ダレイドが刺々しく応えた。

「随分と慎重な意見をおっしゃる・・・冒険者とはもっと・・・好戦的な方々だとばかり思っていましたよ」
「そんな人オンリーだったら、早死にする率がもっと高くなると思いますね」
「私には、奴が・・・。奴が許せません・・・。私の父は・・・、フロストに殺されたのです!」
「えっ?」

 冒険者達は意外な言葉に足を止め、それぞれダレイドを見つめた。
 悲壮な顔をした依頼人は、ぽつりぽつりと事情を話し始める。

 ――1年前、雪山に薬草を採りに行ったダレイドの父は、瀕死の重傷を負って帰って来たと。ダレイド自身はその場に居合わせなかったものの、村人から聞いた話によれば、彼はダレイドとレベッカの名を呼んだ後に『フロスト』と叫んで倒れたという。
 鬼気迫るダレイドの感情が、ギルを包む感じがした。それほどまでに憎い怪物――かける言葉も見つけられず、目を伏せた。

「過ぎた事です。でも機会があれば仇をとりたい。・・・そう思ってきました。ただ、私にはその力はない」
「だから・・・冒険者を雇った。という訳ですか?」

ScreenShot_20130126_022307218.png

 薬草の採取にかこつけて。
 口には出さなかったものの、ジーニの目は雄弁にそう付け加えていた。それに対する応えはない。
 復讐心。冒険者達は危険なものを感じとる。
 こそっとミナスがギルに近寄って囁いた。

(ねえ、フロストってどのくらい強いの?)
(大きな身体に似合わず、敏捷な動きを見せるはず。それに雪山は、フロストのいわばホームグラウンド・・・)
(そっかあ・・・)
(加えて俺はともかく皆は、慣れない雪上行軍を強いられている。戦うならば、かなりきつい戦闘を覚悟しなければならないだろうな)
(そんなの相手に、銀貨700枚で命賭けさせられるのはごめんだね)

 二人の内緒話を聞きつけたエディンも、こっそり参加する。
 この依頼は、あくまで薬草レドシラを採取して帰還するまでの護衛に過ぎない。
 しかし、ダレイドは機会があれば嬉々として冒険者達にフロストを殺せと命ずるだろう。いや。そうに違いなかった。
 依頼主には聞こえないように舌打ちすると、ギルは先に立ってまた歩き始めた。
 木々の間を目を凝らして見ると、1頭の白銀の毛並みを持ったウルフがこちらの様子を窺っていた。

(あれがヒララギウルフか・・・縄張りに踏み込んだようだな。注意して進まねば)

 冷たい風が頬を打つ――。
 後ろを振り返ったがもう村は見えなくなっていた。
 その時、遠吠えと同時に木々の間からウルフが次々と飛び出し、彼等は群れに取り囲まれてしまった。

「グルルルル・・・」

 ウルフ達は円陣を組み、しつこく攻撃を仕掛けてくる。
 群れ単位で襲ってきているらしく、いったんリーダー格を倒しても、また別の群れが襲い掛かってくるので、アレクやエディンはほとほと辟易した。

(統率を失えば暫くは現れまい・・・)

 三つ目の群れを追い払うと、ウルフ達は遠吠えを残しながらも波のように引いていった。
 怪我を癒して傾斜を登ると、次第にきつくなってきた。
 まもなく頂上へ辿りつくのだろうか?

「あんさん・・・ あんさん・・・」
「ん?誰か何か言ったか?」

 アレクが反応して周りを見渡すと、その小さな声は陽気に指示をした。

「ちゃうちゃう・・・、ここですねん」

 なんと現れたのは体長15cm程の精霊であった。

「いやぁ~。ウルフどもに住処を追われてまして困ってましたん。どうもおおきにー」
「そりゃよかったな。じゃあな」

 硬質の美貌に1グラムほどの動揺もなくアレクがそのまま通り過ぎようとするのを、精霊は慌てて呼び止める。

「ああっと、雪国だからってそんなサブイこと言わんといてな。あんさんの腕っ節に惚れたんや」
「お前、どこかで聞いたような方言で何言ってるんだ」
「そういうわけで憑いていくことにしたで。断っても無駄やからな」

 そう言うと精霊はアレクシスの懐に潜り込んでしまった・・・。

「なんなんだ、こいつは!?」
「俺の名前はトール。なぁに、役には立つから安心してぇな。あと雪の精霊やさかい火気厳禁な」
「はぁ・・・仕方ないな・・・」

 ミナスによると、トールは彼が契約を結んでいるスネグーロチカとはまた違う種類の雪の精霊で、傷口を凍結させて精霊の力で癒してくれるものらしい。
 それは便利だと言ったアレクが、先程のウルフに傷つけられたギルとジーニを癒すよう、さっそく頼んでみる。

「・・・・・・た、確かに、傷口は塞がったけどもさ・・・・・・」
「ちょ、寒いんだけどお。すごく体温下がる・・・」

 二人は唇を青くしながら、がちがちと歯の根が合わぬ様子で抗議した。

「・・・・・・すまん。早計だった」
「次は私が癒しますから・・・」

 アウロラが苦笑いして、二人に前以って親父さんが入れてくれたウォッカを渡し、飲むように促した。

2013/01/29 00:07 [edit]

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Tue.

雪山の巨人 1  

 厳しすぎる寒風の中で、アウロラのくしゃみが響く。

「ハ、ハ、ハクチョン!」
「大丈夫かあ?」

 何度目か分からないクシャミに、ギルは心配そうな顔を向けた。
 頷いてマフラーを巻き直すアウロラの横で、ジーニも冷える冷えると地団駄を踏んでいる。
 冒険者達は今、とある小さな村に向かっていた。
 ヒララギ山の麓にある村、オルウェン。そこが彼らの目的地だった。

 ――始まりは、宿屋の掲示板のコルクボードに貼られた一枚の張り紙からだった。
 オルウェン村のダレイドという依頼人から、雪の中に咲く薬草採取のための護衛依頼。
 防寒具等は依頼人持ちで報酬が700sp。
 全然聞いたことがない村の名前だと、ギルが依頼書をはがして首を傾げていると、≪狼の隠れ家≫の親父さんは丁寧に場所やその辺りで稀少な薬草が多く群生していることを教えてくれた。
 オルウェンが馬車で二週間もかかる北方の小村とあっては、古株の多いこの宿で引き受ける者もなかなかいなかったらしい。
 特に村の名前の由来になるほどの稀少な薬草が、去年から品切れ続きと聞いて、”金狼の牙”たちは遺跡に咲くフィロンラの花や、その探索を依頼してきた医術研究家たちのことを思い出した。
 きっと、手に入らずに困っている一般人もいることだろう。

「ふーん。親父のお墨付きか・・・」

 前の依頼で冒険者になった原因が解消されてしまったエディンは、腕組みして唸る。
 彼がギルドから呼び戻されパーティを抜けるのではと、仲間たちは戦々恐々していたのだが、紅い鷹旅団退治で恩を売った”コウモリ”の小細工で、まだしばらくは冒険者生活を続けていけるらしい。
 エディンの物問いたげな目を見て、親父さんは笑いながら言った。

「依頼人のダレイドさんは、まだ若いがちゃんとした男だよ。仕事さえきちんとすれば、報酬は間違いなく支払ってくれる」
「リーダー、どうする?」
「ちょっと報酬は安いかもしれないが、道具は向こうで用意してくれると言うし・・・やってみないか?」

 他の面子も、ここのところ憂鬱になっていたために、そろそろ新しい依頼でもやって気を晴らしたい・・・と考えていたところだった。

ScreenShot_20130126_010115359.png

「面白そうじゃないか。この依頼、引き受けた!」
「雪山かあ。そこに住む怪物相手じゃ、スネグーロチカは置いていった方がいいのかな?」
「そうだ、ミナス。新しい精霊契約をしたって言ってなかったっけ?」

 たちまちワイワイと賑やかになってきた”金狼の牙”たちへ、親父さんがオルウェンまでの地図を寄越してくれる。
 寒いから準備はしっかりしろと助言をもらい、冒険者達は枯れ葉通りの馬車停留所から、はるばるここまでやってきたのだった。
 オルウェン村に到着したのは、早朝のことである。
 小規模の民家が立ち並ぶ平凡な寒村という印象で、ギルはデジャヴに目を細めた。

「俺がいたところみたいだなあ」
「あら、ギルはこんな寒い地方の生まれなの?」
「うん、似たようなもんだよ。お袋と同居する前には叔母さん家で世話になってたんだけど、雪の積もる小さな村にいたんだ」

 ギルの母は、≪狼の隠れ家≫でもトップクラスの腕前のファイターである。組んでいた仲間と別れた後、田舎に預けていたギルをリューンへ呼び、短期間の依頼をこなしながら、彼を鍛えて育て上げた女傑であった。
 聞いて回るうちに分かった依頼人宅のドアを叩くと、

「どなたですか?」

と応えがある。
 張り紙を見てやってきた冒険者であることを明かすと、慌てて鍵を開ける音の後、若い健康的な男性がドアを開いた。
 年はまだ10代後半といったところか。
 そのあどけなさの残る容姿とは裏腹に、はきはきとした口調や立ち振る舞いは極めて利発そうで大人びて見えた。

「それは・・・!お寒い中ありがとうございます。私が依頼人のダレイドです」

 彼はニ、三歩家の中に下がると、手で奥を指し示した。

「長い旅路でしたでしょう?どうぞお入りください」

 暖炉に手をかざすと指先の収縮した血管が膨張し、びりびりと痺れた。
 自己紹介を改めて終えると、雑談もそこそこに依頼についての話となった。

「我家は代々薬草の扱いに長け、村の癒し手として貢献してきました。私も父より薬草の見分け方を伝授されております」
「若いのに大したものなんだな」

 エディンが顎を撫でて感心する様子に微笑みながら、ダレイドは再び口を開いた。

「ときに皆さんは・・・レドシラという草をご存知ですか?」
「ううん。それが張り紙にあった薬草なの?」
「はい。そのレドシラ草が、どうしても欲しいのです」

 理由としては、ダレイドの妹・レベッカが厄介な病に掛かってしまったから。
 癒し手であるダレイドですら知らない症状ばかり、もうお手上げかと思っていた時に、たまたま家まで薬を取りに来ていた村人が精霊術に精通していたらしく、レベッカを一目見るなり「咳をすると、それと一緒に光る結晶も吐き出すだろう?それは風の精霊の悪戯だよ」と言ってくれたらしい。

「非常に珍しい事らしいのですが。風精霊が咽につき、その跡が結晶となって悪さを働くらしいのです」
「へえ~。そんな病気があるのね」
「ミナス、お前分かる?」
「ん・・・厄介だね。その結晶が咽に残っている限り、体力を蝕まれ続ける・・・」

 ギルから話をふられたミナスは、自信なさげに続けた。

「症状は分かるけど、その原理などは解明されていない。治療法があるのは知っているよ」
「それが幸い、私の家に伝わる薬の調合法の中に、風の精霊に関する病の特効薬の作り方が伝わっておりまして」
「へえ、ラッキーだったね!」
「それでレベッカを病気から救うために、特効薬の材料であるレドシラ草がどうしても必要になるのです」
「で、そのレドシラ草がヒララギ山に・・・・・・」

 察したギルがそう言うと、ダレイドは頷いた。
 黙って話に聞き入っていたアレクが疑問を質す。

「その植物を求めて山に登るのは良いとしても、この季節に群生地を探すのは難しくないだろうか?」
「いえ、もう既に群生地は把握してあるのです。この山には癒し手の一族のみに入ることが許される区域があって、そこにレドシラ草が群生しているのですよ」
「ああ、なら安心だな」
「昔、父に――」
「・・・?」
「いえ・・・父に、群生地を教わったことがあります。雪が積もると花が咲くかなり変わった植物ですから・・・」

 今の季節なら最適だと説明するダレイドに、さっきミナスが感じた一瞬の躊躇いの影は見られない。
 ミナスは気を取り直して、どうして冒険者を雇うつもりになったのかを聞く事にした。
 群生地が分かっていて、尚且つ熊などは冬眠する季節なのだから、ダレイド一人でも行けないことはないのではないか。

「それが、そうもいかないのです」

 ダレイドはため息をついた。

「雪をものともしない狼族・・・ヒララギウルフの活動が、村の近辺で活発になっているという噂があります」
「雪に耐性のある狼・・・厄介ですね」
「それに・・・」

 ここでダレイドは言葉を区切って、苦々しそうに言う。

「皆さんは・・・。フロスト・ジャイアントという生き物の名前をお聞きになった事は?」
「フロスト・ジャイアント・・・?」

 パーティ1の博識が首を捻る。こういう地方の特殊モンスターには疎いらしい。
 寒冷地出身のギルが、やれやれといった態で説明を始めた。

ScreenShot_20130126_014359921.png

「フロスト・ジャイアントは、雪山の洞窟に住む亜人の一種だ。フロストと呼ばれるのが一般的だな」
「へえ・・・さすがリーダー、よく知ってるわね」
「長い体毛で被われた巨大な身体の持ち主だ。性格には個体差があるらしいがな。温厚なものが居れば、凶暴なものも居るというぜ」
「温厚なものも・・・ですか。とにかく出るのですよ。このヒララギ山にも、そいつがね」

 ダレイドの様子に違和感を覚えながらも、アレクはフロストと遭遇する確率を訊いてみた。

「ええ。恐らく・・・出会ってしまうでしょうね。だから、私がレドシラ草を必要としていると知った村のチンピラ達は、自分達を雇えと言ってきましたよ」
「彼等の腕が立つならそれも・・・」
「とんでもない!確かに力はあるでしょうが彼等は粗暴なだけです」
「いるんだよなあ、どこにでもそういう自信過剰な奴」

 ギルは呆れたように頭をかいた。フロスト・ジャイアントはチンピラの手に負えるようなモンスターではない。その太い腕から繰り出される攻撃は、生半可な戦士の比ではないのだ。
 事情を全て話し終えたダレイドは、そわそわした様子ですぐ出かけたいから準備をして欲しい、と切り出した。

2013/01/29 00:05 [edit]

category: 雪山の巨人

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Sat.

男爵の密かな楽しみ 3  

 二つ宝箱がある部屋では、致死性の毒を持つ蜂が片方から飛び出してきたが、それをエディンとギルで蹴散らすと、宝箱からまた四行詩の紙片が出てきた。

「これで三つ目ですね」
「そうね。『悪魔は悲しみの涙をすすり、憎しみを喰らい、その飢えを満たす』・・・か。ろくな詩じゃないわね」
「エディン、こっちの部屋には入らないのか?」

 ギルが、宝箱のある部屋の近くにあったドアを思い出し、親指でくいっとそちらを指した。

「ありゃ、閉じ込める為の部屋だ。鍵穴がないって言ったろ?」
「ああ、うん」
「そういうときはな。たいてい、部屋に皆が入ると天井から針が出るか、壁が迫ってきて、ドアの鍵が閉まってるって寸法なんだ」
「うげげ・・・」

 ギルが気色悪そうに舌を出す。
 アレクとエディンが額をつき合わせて相談している。

「四行詩なら、あと一枚どっかに紙片があるな・・・」
「隅々まで探してみよう。あのクソ男爵も、脱出路について嘘は言ってないはずなんだ。あの喋る石をわざわざ設置したってことは、奴はこの迷宮に降りてきたことがあるってことさ」
「そういえば、俺たちがテレポーターに引っかかった部屋があったな」
「おっと、そういやそこは調べる暇も無かったな。ちょっと引き返そう」

 そしてアレクの指摘したとおり、最後の紙片はその部屋にあった。

「悪魔の四行詩四行目か・・・」

 そのとき、部屋に声が響いた。

『矢の雨が降る場所・・・隣合う道は鏡写し、日出の地から日没の地を結ぶ場所にて悪魔の詩を捧げよ。されば道は開かれん』
「・・・あの石板にあった言葉、だよね?」
「多分悪魔の四行詩のことだな。つまりどこかでこれを読めってことだろうが・・・」

 ミナスが首を傾げるのに、エディンが頷く。
 ”金狼の牙”たちは、車座になって考え始めた。
 やがて、アウロラが両手を頬に当てて考えていた姿勢のまま、ゆっくり口を開いた。

「日出と日没は東と西・・・・・・つまり、東と西の通路が同じ形状になっているところ、それを繋ぐ通路のことではないでしょうか?」
「そこでこの悪魔の詩を読み上げろってことか?」

 エディンは今まで集めた紙片を懐から出して言った。

「そう言う場所なら、ここじゃないかなあ?」

 今まで真面目にマッピングをしていたミナスが、羊皮紙を床に広げてある一点を指さす。

「地図が確かなら・・・そうだな、ここのようだな」
「確かだよ、僕ちゃんとマッピングしたんだから!」

 抗議するミナスの頭を撫でながら、ギルが他の仲間を見回す。
 言葉は要らなかった。全員が目で頷いたのだ。
 ・・・・・・やがてやってきた場所で、エディンが詩を読み上げる。

「神に愛された娘は欲望のために悪魔にささげられ」
「悪魔との交わりでその娘の心は壊れ神を呪い、悪魔を憎んだ」
「悪魔は悲しみの涙をすすり、憎しみを喰らい、その飢えを満たす」
「今こそ我らの手で悪魔の飢えを満たせ、されば我ら闇の加護を受けるだろう」

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 ゴゴゴ・・・・・・・・・という音がして、壁の一部がせりあがる。
 その向こうに階段が現れたのを見て、”金狼の牙”たちはほっと安堵の息をついた。
 この階段を上がってしまえば、恐らく事の顛末を見守っていた男爵との戦いが待っていることだろう。
 あれだけ多くの死体が地下迷宮に残されていれば、男爵の悪事の証拠はばっちりなのだから、これ以上彼らが遠慮する必要は無かった。
 事前に補助魔法を掛けて傷を癒し、召喚を終えた”金狼の牙”たちは一気に階段を駆け上がった。

「光だ・・・!」

 エディンが呟く。
 そして・・・・・・。

「外だ、出られたんだ!」

 ギルの歓喜の声と共に、予想通りトラップ男爵の苦々しい声も響いた。

「いいや、お前たちはここで死ぬ」
「男爵・・・よくもやってくれたな・・・!」

 ギルが≪護光の戦斧≫を構えると、それを合図に他の面子が散開した。

「ふん、誰一人死なないとは・・・迷宮にも改良の余地があるようだ」
「そうらしいな」
「まさか脱出するとは。おめでとう、そしてありがとう」
「何?」

 エディンが新調した細剣を引き抜きながら眉をひそめた。

「なかなか愉快だったぞ。くくく・・・」
「てめえ・・・・・・」

 エディンにとって仇討ちなど性に合わないものでしかなかったが、今この瞬間だけは、あの部屋で見つけた弟子のために戦ってもいいと思った。ハンカチに包んだ遺髪の存在を、熱く感じずにはいられなかった。

「さて・・・ゲームも終わりだ。ここからはエンディングとなる。ここで死ね」
「そんなことだろうと思ったよ」

ScreenShot_20130124_175301796.png

「このままお前たちを逃がせば事が露見するからな」
「当たり前だろ。あの迷宮の死体を、これ見よがしに置いたのはあんたの失態さ!」
「やはり死んでもらったほうがいい。そうだな、罪状は男爵暗殺未遂。判決は・・・死刑!!」

 男爵の叫びと共に、機甲の兵士が2体、壁に掛けられていた鎧に紛れていたのが動き出す。

「げげっ。この野郎、こんなものまで用意してやがったのか!」
「地下で死んでいればよかったものを・・・」
「そいつはどうかな!?」
「ギル。悪いが、この男俺にくれ」

 エディンが珍しく強い調子で言う。
 ギルはしげしげと信頼する盗賊の顔を見つめていたが、「おう!存分にいけ!」と言って、機甲の兵士の一体に【風割り】を浴びせた。
 あっけなくそいつが崩れるのを見て、今まで余裕綽々だったトラップ男爵の顔に焦りが初めて浮かんだ。

「なに・・・」

 それでも手元のスクロールを素早く広げ、眠りの雲を発生させる。

「これで形勢を逆転させてやる!」

 眠りの呪文は気合の入った冒険者たちには効きづらく、結局膝をついたのはアレク一人で済んだ。

「なぜ・・・なぜこうなる!?」
「スネグーロチカ、エディンの援護を!」

 そして、冷気が男爵の身体を容赦なく削り取っていく。
 美しく無慈悲な精霊が走ったのと同じ軌跡で、エディンが素早く男爵に駆け寄った。
 男爵は慌てて腰の剣を抜こうとしたが、それよりも一瞬早く、彗星のように細剣が喉に突き刺さる。

「ぐふっ・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・・・・よくも・・・」

 男爵は白目を剥いた。
 静かにエディンが細剣を引き抜くと、彼は喉から勢いよく血を噴出しながら倒れる。機甲の兵士が動きを止めた。

「・・・・・・」

 アウロラは血の跡を避けるように男爵に近づき、その目を閉じてやった。
 男爵との戦いの音を聞きつけた衛兵が、遅まきながら部屋に入ってきて惨状に叫んだ。
 ――――その後。
 冒険者たちは男爵殺害の罪で逮捕された。
 血の付いた武器、その他もろもろが証拠となったからだが、3日が過ぎた後に釈放となる。
 男爵の地下迷宮について情報を流したのは無駄ではなかったらしい。3日も時間がかかったのは、男爵邸の捜索許可の手続きが必要だったからに過ぎない。
 無数の死体、罠、ゴーレムなどの物証。そして何より男爵の地下の観察記録・・・。
 ある使用人の男爵の所業の告白もあり、トラップ男爵は恐ろしい殺人者とされた。

 はずだった。

 結論を言えば男爵の恐るべき所業は世に出ることはなかった。
 噂ではとある”大物”が手を回したとも・・・。
 冒険者たちを含めた関係者はそれなりの金を支払われ、事件に関して他言しないように言われた。
 口止めの理由も、威力も、”金狼の牙”は理解できていた。

「ちっ。結局こうなっちまったか」
「でも、ちゃんと釈放はされました。これからはもう少しマシな領主がくるらしいですから、よしとしましょう」
「終わりよければ、って奴さ。ま、俺は気が済んだからな」

 ”金狼の牙”たちは、懐かしいリューンの道を歩きながら話をしていた。

「・・・・・・お、お前ら無事だったか!?」

 ≪狼の隠れ家≫にたどり着くと、親父さんが慌ててカウンターから出てくる。

「なんでもバルツでトラップ男爵が死んだとか聞いたんで何か事件に巻き込まれたんじゃないかと心配していたんだ」
「はは、この通り無事だよ」
「・・・ちょっとハードだったが、な」
「・・・・・・」

 幼馴染コンビの台詞を聞いた親父さんが、何事かを察したように少し黙った。

「・・・・・・今日はもう休め。疲れただろう」

※収入1000sp、≪毒針≫×3、≪黄金の像≫※

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■後書きまたは言い訳
30回目のお仕事は、Wizさんのシナリオで男爵の密かな楽しみです。PC死亡可能性がある高難易度のトラップダンジョンということで、今までで一番手を出しづらかった作品でした。しかし、やらねばならぬ訳がありまして・・・。

シナリオをやった方ならご存知でしょうが、途中でグールが出てくる部屋で盗賊の後輩が死んでいる・・・というエピソードは、本来存在しません。ですが、エディンが”金狼の牙”に参加する理由となった「行方不明の後輩探し」を、冒険のモチベーションがグダグダにならない為にも、どこかで目標達成させる必要があったのです。
それに一番向いているシナリオこそが、今回のこれでした。領主自身が手を下しているために犯行が盗賊ギルドにも伝わりづらい、よって手駒が亡くなっていても掴めないだろう・・・ということです。
お陰で最終戦にてエディンが珍しくリーダーではなくギル、と呼ぶほどに頭に来てましたが、気付いた方はおられたでしょうか・・・。まあ、どうでもいいと言えばいいこだわりですが、たまにはこういう事があってもいいと思います。何しろ、普段は大人コンビのもう片方が暴走気味ですからね。(笑)

次回は気分を変えて、ダンジョンから野外にしようと思います。スカッとするシナリオ選ぼう。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/26 15:52 [edit]

category: 男爵の密かな楽しみ

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Sat.

男爵の密かな楽しみ 2  

「おい、起きろよ」

 どうにか受身を取ったり、風の障壁でダメージを和らげたりした一行は、暗い中で謎の声に呼びかけられていた。

「だ、誰だ・・・?」
「ここは・・・?」
「地獄の入り口さ」

 エディンやジーニの声にそう応えたのは、石で出来た彫像・・・・・・のように見えた。
 驚いて息を呑むアウロラや、どうなってるのか興味津々のジーニを余所に、彫像は「ただの石じゃねえ」と言う。

「ひどい奴に石にされたかわいそうな喋る石さ」
「・・・・・・・・・」

 あまりのショックに黙り込んでギルの外套に隠れたミナスに気づき、男はさらに話し続けた。

「そう身構えるなよ。あんたらも前に来たやつらと同じく男爵にここに落とされたんだろ?」
「一体何の目的で・・・」

ScreenShot_20130124_162115531.png

「殺すことさ。しかも飛び切り苦しめて足掻かせた挙句に殺すんだそうだ」
「冗談じゃねえ!」

 息巻くギルの横で、ふんっとジーニが鼻を鳴らす。

「悪趣味ねー」
「悪趣味だろ?奴は今も見てるぜ。それにそろそろ・・・」

 部屋にトラップ男爵の声が響いてきた。

「フフフ・・・ようこそ私のアトラクションへ」
「どういうつもりですか・・・!」
「この石ころめが言っただろう。君たちを殺す。それも飛び切り苦しめて」
「これだから貴族って奴は・・・趣味が悪いぜ」

 エディンが肩をすくめる。

「くくく・・・怒れ怒れ。その怒りも私の悦楽となる。子供もいるのか。切り刻むのが楽しみだ」

 男爵は、この地下のどこかに脱出路があると言い残して哂った。足掻いて死に行く姿を見るのが、よほどに好きらしい。

「あのやろう、生かしちゃおけねえな」
「待て、ギル。領主殺しは重罪だ」
「このまま泣き寝入りしろっていうのか、アレク!」
「そうじゃない。・・・やるのなら、あいつを始末してもいいくらいの、証拠を探しておかないと」

 アレクは言う。この喋る石ももちろん、他にも色々悪事の証拠は残っているだろう、と。

「そいつを探し出して、俺たちの手で提出できるようにするんだ」
「男爵が調子に乗って言っただろう、脱出路があるとな。とっとと探してやろうぜ、リーダー」
「もちろんだ!」

 喋る石に話を訊くと、「自分はゲームの道具で迷宮について教える事は出来るが、嘘や真実を織り交ぜて言うことになってる」というので、”金狼の牙”は何度か質問して情報を集めることにした。

「時として無駄もある、か。安全確保して休むなら魔法の鍵とか、重要そうなワードがいくつか出たな」
「僕、ちゃんとメモしたよ!」
「幸いといってはなんですが、重傷の方はいません。このまま、迷宮を探索してみましょうか?」
「そうだな。よし、エディン頼む」
「あいよ」

 迷宮は、喋る石が忠告したように意地が悪いほどトラップが満載だった。
 一つの場所に一つのトラップとは限らず、二重になっている場合もある。
 初めて見つけた扉の罠と鍵を解除し、一同は中に入った。

「なに・・・これ・・・」

 臓物、骨、脳漿、血、肉・・・人間だったものが散らばっている。見るに耐えない光景だ・・・。
 ミナスが怯えたように首をすくめた。エディンとアレクが答える。

「死体置き場か・・・。多分今までここに来た連中のな」
「おそらくこう言いたいんだな。お前たちもああなるぞと・・・」

ScreenShot_20130124_164210953.png

「ひどい・・・」

 震えるミナスをアウロラがそっと抱きしめて後ろに庇った。
 死臭が立ち込める中、エディンが手近な死体を丁寧にひっくり返している。

「どうしたの、エディ?」

 ジーニや、他の仲間の呼びかけにも構わず、彼はひたすら死体をひっくり返して・・・・・・ふと、手を止めた。

「ああ・・・・・・」

 嘆息した彼を他のものが注視する。

「お前、いたのか。ここに」

 格好からすると、まだギルやアウロラと同じくらいの歳だろう。柔らかな皮鎧は血と膿に汚れ、顔は皮膚が剥がされた挙句にずたずたに刻まれているのだが、それでもエディンには誰か分かったらしい。

「エディン。誰だ、それは」
「弟子だ。俺が最初に罠の外し方や鍵開けを教えた。・・・探してたんだ」

 エディンはアレクから剣を借りると、静かに彼の遺髪を切り取り、懐に入れた。
 問題の死体は、エディンが冒険者稼業に身を投じる一因となった男だった。なかなかいい稼ぎをしていて、今度まとまった額の上納金をギルドへ献上する予定だったのが、リューンの北西に向ったのを最後に消息が途絶えていた。
 上納金を取りまとめる担当の幹部が、その行方を追うようにエディンに命じていたのだが・・・。

「こんなになっちまうなんてなあ。腕は悪くなかったのに・・・」

 肩を落とすエディンに、ミナスがまだ青ざめたままタックルをかました。
 なんと物陰からグールが襲い掛かってきたのだ!
 グールの麻痺毒を含んだ爪は、危うくエディンの肩当をかすっただけに留まった。
 油断さえしなければ怖い相手ではないのであっという間にグールを倒すと、その懐になにやらメモが挟まっている。

「悪魔の四行詩・・・?」

 紙片には、”神に愛された娘は欲望のために悪魔にささげられ”とある。

「何かのコマンドワードかもしれないわね」
「一応、持って行きましょう」

 冒険者たちはまた移動することにした。
 しばらく歩くと大きな扉の前に出た。部屋に入ると、古代語で書かれた石板が真ん中にある。
 ジーニが解読する。

「『矢の雨が降る場所・・・隣合う道は鏡写し、日出の地から日没の地を結ぶ場所にて悪魔の詩を捧げよ。されば道は開かれん』」
「矢の雨か。トラップのことじゃねえか?」
「もしかしたらね。日出の地と日没の地ってのが、よく分からないけど・・・」
「他に目に付くものはねえな」

 ”金狼の牙”は、またエディンに罠を見てもらいながらしばらく歩き始めた。
 悪魔の四行詩の紙片は、その後も出てきた。
 歩き回って分かったことは、この地下迷宮はかなりの広さがあること、トラップの数が尋常ではないこと、妙な魔法生物がうろついていることだった。

「以前に経験した魔術師の墓の洞窟より、手が込んでるな・・・」
「しかも数段、根性の悪い手の込みようね」
「火晶石持ってる木製の兵士だの、毒ガスを充満させて扉の鍵を閉める罠だの・・・よくまあ、考え出しますこと」

 喋り方は普段とかわらず丁寧なものの、アウロラの言葉の端々に棘があるのは明らかだった。彼女の回復の法術も、さっきから頻繁に使用することになっている。
 エディンが言うように、以前経験した洞窟にあったようなパズルもあったのだが、不正解どころか一回ボタンを押すごとに電流が走るなど、非常に厄介な仕掛けが施されていた。
 それでも、そこで手に入れた石の像を、暗闇の部屋の黄金の像と取り替えて報酬を確保できそうだったが・・・。

「呪われてるからねえ、この像。まあ、金銭価値は高いから、我慢して荷物袋に入れておきましょう」

 ジーニが言うように、報酬になりそうなそれは、邪悪な気を放って冒険者たちにプレッシャーを与えていた。


2013/01/26 15:23 [edit]

category: 男爵の密かな楽しみ

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Sat.

男爵の密かな楽しみ 1  

「・・・そいつはバルツの街に住んでる貴族からの依頼でね。ネズミが屋敷に出ているから退治してほしいそうだ」
「バルツ、ねぇ・・・・・・」

 依頼書を持ってあれこれ相談している仲間たちを余所に、エディンは自分の顎を撫でた。

「おや、お前さん知ってるのかい?」
「・・・・・・いや、噂話でちょっと聞いたことがある街ってだけさ」

 エディンはいつもと変わらない仕草で持っていた杯をカウンターに戻した。
 その後ろから、ギルが親父さんに声をかける。

「やってみるよ。ネズミ退治程度なら、すぐ帰ってこれるだろうし」
「そうか、受けるか。まあ、がんばって来い」

 男爵の邸宅はリューンの北西にあるバルツの街中で、道中に危険は無いという。
 地図と紹介状を親父さんから受け取ったギルは、「何だい親父さん、変な顔してるぜ?」と首をかしげた。

「・・・実はバルツの街で何組か冒険者が行方不明になっているんだ」

 寝耳に水の情報だった。たちまち、”金狼の牙”たちに緊張が走る。

「そこの自警団も冒険者ってだけにどこかに行ったんだろうとまともに捜査していないみたいなんだ」
「・・・なんだかきな臭い話だな」
「お前らも気をつけた方がいいぞ」

と親父さんに見送られた彼らだったが、大した苦もなくバルツの街に到着することとなった。

ScreenShot_20130123_224124328.png

「真っ直ぐ男爵邸へ向う前に、ちょっと冒険者の店に寄ろう。行方不明って話を確認しておきたい」
「・・・その後、少し教会にも寄ってみませんか?領主ともなれば、大体は聖北教会とのつながりもあるでしょうし」
「そうね。案外、男爵のこと分かるかもしれない」
「分かった。じゃ、店行った後に教会も回ろうか」

 ギルの決定に仲間たちは頷いた。
 とはいっても、詳細な情報が入ったわけではない。
 男爵はいい人だ、素晴らしい人材だと誉める一方で、男爵の邸宅に招かれた冒険者が誰も帰ってこないため、よくない噂も広まりつつあるらしい。ある人などは、男爵が別人のようになって使用人を虐めている・・・と不安になることを言っている。

「昔は熱心だったけど、最近は礼拝に来なくなったとか司祭様も仰ってましたね」
「・・・・・・このまま、何の措置も取らずに行くのは危険そうだな。どうする、ギル」

 アレクが幼馴染を見やった。

「う~ん・・・・・・」

 ギルはさっきチンピラから取り上げた50spを手中で弄びながら唸る。

「虎穴に入らないと、虎の子は手に入らないって言うからな。ただ、注意はしておこう」

 冒険者たちは嫌な予感を抱えつつも、トラップ男爵の邸宅へ向った。
 門にいた衛兵に名乗り、取次ぎを頼むとすぐ男爵の元へと案内される。

「よくきてくれた。私がバルツの領主、そして君たちに依頼を出したトラップ男爵だ」

 なかなか豪華な椅子に腰掛けていた壮年の男が、こちらを振り返った。
 口ひげを蓄えた男爵は、「まあ、楽にしてくれたまえ」と、思っていたより気さくな態度で接してくれる。
 依頼内容を詳しく聞きだすと、ネズミ退治に600sp。できれば、その後で冒険の話なども聞かせて欲しいという。
 そういった申し出を受けたのは初めてではないので、ギルはあっさり頷いた。

「ああ、分かった。この依頼を受けさせてもらう」
「そうかでは今すぐ頼むよ。できる限り早いほうがいい」

 男爵は即座に立ち上がり、「ついてきてくれ」と短く言うとさっそく先頭に立って歩き出した。
 慌てて”金狼の牙”たちも後を追う。
 案内された廊下は暗く、灯火が見当たらない。かろうじて、細長い窓から入る光で輪郭が分かる程度である。
 男爵の足がとある部屋の前でぴたりと止まった。

「この部屋なのだがどうにもねずみがいるような気がしてだね」
「はあ・・・・・・」

 ギルはぽりぽり頭をかいた。小動物の気配がドアの向こうにしているようには思えないのだが・・・。

「ここに閉じ込めてあるから全て始末してくれ」
「まあ、ネズミくらいならあたしが風を張っておくわよ」
「うん。僕もナパイアス呼び出せばすぐ終わるね」
「ああ、扉は閉めてくれ。ねずみが屋敷に入ると困るのでね」

と男爵が言うのに、一同は頷いた。
 早く早くと急かされ、エディンは眉間に皺を寄せた。

(この男、なぜこれほどまでに興奮してるんだ・・・。ちょっと警戒して入ったほうが良さそうだな))

 一同が扉を潜ると、そこはまったき闇であった。

「暗くてよく分からねえな。おい、明かりをくれ」

 ガチャリ、と鍵の掛かる音。
 エディンのふてぶてしい声に、男爵はこう答えた。

「最高のショーを見せてくれ」
「なんだと・・・!?」
「床がっ!?」

 大人コンビが、自分達の踏みしめていた床がなくなった事に真っ先に気づく。
 ≪エア・ウォーカー≫で魔法の翼を出す暇も無く、”金狼の牙”たちは落ちていった。

2013/01/26 15:18 [edit]

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Thu.

アルク・トゥルスピカ 4  

 洞穴が行き止まりになったため、一行は森へと引き返してきていた。
 相変わらず鬱蒼とした風景が続く。
 かなり時間をかけて森を抜けると、辺りには殺風景な岩場が広がっていた。
 びゅう、と風が吹いた。寒気を感じる。

「これは・・・・・・」

 ミナスがアウロラの服のすそを掴んだ。
 寒気。
 風で体が冷えたのではない。
 全身が寒気を感じるのは、”金狼の牙”たちの眼前にいる”それ”が異常なまでのさっきをこちらに放っているからだ。
 森から毒蜘蛛が二匹飛び出してきている。どうやら魔獣に加勢するつもりらしい。

「さっきの歌に出てきた、夫の・・・・・・?」
「呆けるな!あいつが依頼の二本角の魔獣だ!!」

 アレクの叫びにアウロラははっと思いなおして呪文に集中したが、遅かった。
 魔獣の丸太のような棍棒が、唸りを上げてアウロラに振り下ろされる。、

「きゃああああっ!」

 がつり、と頭に強烈な衝撃を感じて彼女は倒れた。額から血が流れる感触を、意識の途切れる寸前に感じた。

「アウロラ!くそ!」

 エディンが必死に魔獣の腕に得物を叩きつけるも、敵はそれを跳ね返し、今度はアレクを気絶させる。
 舌打ちしたギルが見やると、なんと、魔獣についた傷が盛り上がって塞がっていく・・・!

「こいつ、再生もちか!」
「ギル、二人は僕に任せて!水の精を呼ぶから!」

 ミナスの手から現出したウンディーネが、回復の力と共にアウロラを、アレクを抱きしめる。
 気絶から復帰したアウロラが、すぐさま【癒身の結界】で全員を癒しにかかった。
 しかし効果が薄い。

「・・・・・・く!上手く集中・・・できないっ。アレク、ごめんなさい!」
「いや・・・大丈夫だ」
「そうそう、ようは時間を稼げばいいんでしょ?お姉さんに任せなさいって」

 ジーニがベルトポーチから出した薬瓶を、振りかぶって投げた。狙い過たず、魔獣に命中する。

ScreenShot_20130120_070756906.png

「束縛かかった!今のうちよ!」
「はい!【癒身の結界】!」

 今度は上手く魔法がかかり、ほとんどの傷が塞がっていった。

「よし、もらったあああ!【破邪の暴風】!」

 ギルがすかさず、出来た隙を逃さずに攻撃を叩き込んだ。
 どおおぉおぉん・・・。
 魔獣の巨躯が地に沈む。辺りは先程までの激闘が嘘のように静かになった。

「はあ・・・・・・ちょっと今回の依頼はやばかったなあ」

 ぼやきながら、ギルは斧を振りかぶって角を切り落とした。これが依頼の品である。
 村に戻り、医者が角を材料に薬を処方して、一晩寝ると子どもはすっかり快復した。
 母親は何度も頭を下げ、涙を流して感謝した。
 わずかばかり、と謝辞をしながら差し出された報酬も受け取り、”金狼の牙”たちは村を発つ。

「・・・・・・・・・」

 エディンはそっと晴れ上がった空を見つめて言った。

「生まれ変わっても、またヒトになって・・・・・・皆で冒険できるもんかね?」
「出来るに決まってるでしょ!」
「・・・あら。じゃあ、私は昨日みたいにならないよう、剣士にでもなりましょうか?」
「俺、魔法使ってみてー!!そんでリーダーは別のやつな」
「・・・・・・精霊、は興味がある・・・」
「なんでもいいけど、僕が大人になってからにしてよね!」

 ――高山の町は風が強い。舞い上がった砂が眼に入り・・・・・・涙が出た。

※収入700sp+300sp、≪精霊銀の指輪≫≪煌びやかな剣≫≪名も無き指輪≫≪名も無き薬草≫×3≪金鉱石≫×3≪碧曜石≫×3※

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■後書きまたは言い訳
29回目のお仕事は、蟹さんのシナリオでアルク・トゥルスピカです。探索及び戦闘メインということでしたが、密かに【魔法感知】が大事なシナリオだったりもします。ちゃんとアイテムでキーコードを補完してくれているところに、シナリオ作者さんの心配りを感じます。ありがとうございます・・・!
そして短い間に鉱石ざくざく掘り出す。緑曜石が出てこなかったのは残念ですが、量としては非常に充分じゃないかと。余は満足じゃ。

戦闘では、初っ端でアウロラが沈められてびびりました。あの子、それなりに頑丈なはずなのですが・・・・・・ミナスが【水淑女の守】持ってなかったら、回復なしで大変な事になっていたでしょう。
リプレイの途中でギルとアレクが防具を欲しがっていますが、あれは私の心の声の代弁です。(笑)
鎧は出来るだけ、シナリオで手に入れたいんだけどなあ・・・・・・。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/24 19:31 [edit]

category: アルク・トゥルスピカ

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Thu.

アルク・トゥルスピカ 3  

「おおおお!すげー!」
「ちょ、ギル、先行しすぎですよ・・・・・・って、確かにこれは凄い・・・」

 空気はひんやりとして、滝の生み出す轟音が絶え間なく続くが不思議と静謐を感じさせた。
 器用に魔物を避けて飛行する妖精を見失わぬよう、”金狼の牙”たちは洞穴を進む。
 途中、壁に鉱石が埋まっているのを発見し、うまく削り出して荷物袋の中へ入れるということが数回あった。
 ギルが金の混じった石と碧に輝く石をそれぞれの手に持ち、幼馴染に問いかけた。

「金鉱石と碧曜石か・・・前の依頼でも鉱石もらったし、縁があんのかな?」
「さて・・・俺には分からん。それにしても、なんだってこんなに・・・」
「貴重ではあるけど、一般の市場で欲しがる品物とは違うから、あまり採掘されてないんでしょうね」

 それに、とジーニが続ける。

「こんな辺鄙な場所に来る物好きは、さっきのグリズリーにやられちゃってるんじゃない?」
「・・・なるほど」

 アレクがその説明に頷くうち、一同はぽっかりと開けた場所に出た。
 遥か頭上に巨大な空洞、陽の射す広い空間。
 地底湖の水面は光を湛え、辺りには草花が咲いている。
 なんとも幻想的な光景に、冒険者たちは安らぎを覚えた。
 そうして探索を続けるうち、ミナスの笹の葉のような耳に愛らしい歌がかすかに届いた。

「あ、さっきの子だ。きっとこっちだよ!」

 彼の先導する方向へ歩き出すと、やがて妖精たちの歌が聞こえる・・・・・・。 
 妖精たちは流麗に言葉を紡ぐ。


 むかしむかし、あるところ、一組夫婦が住んでいた。
 妻は大好き、指輪や宝石。夫はちょっぴり乱暴で。
 でもふたりはケンカもするけれど、たいそうなかよしだったとさ。
 たまにガラにもないけれど、星を見たりしたんだと。

「あの星は?」
 人に尋ねてみたところ、夫婦星という星らしく。ふたりはその星気に入った。
「生まれ変わっても一緒だよ」
 ふたりは約束交わしたの。

 巡り廻って幾十年。ふたりは生まれ変わったの。産声上げる、ふたりして。
 けれども、無常は世の常か。
 輪廻の先に得た体。ヒトの形をしておらぬ。

 妻の体は毛むくじゃら。肉食熊に成り果てた。
 夫の体は緑色。二本角の怪物に。
 いつしかふたりは離れたよ。同じ森にはいるけれど。

 けものの習性なのかしら。襲いそうになるからね。殺して食ってしまおうと。
 それを悟って離れるは、かつて愛したひとのこと、心が覚えていたからか?
 けれども相手が誰なのか、お互いわかっていないのだ。


「・・・・・・哀しい歌ですね・・・」

 アウロラが愁いを帯びた声で言った。もしこの妖精の歌が本当のことなら、あのグリズリーは・・・・・・。
 妖精たちはまだ歌い続ける。


 ふたりは夜空に星を見る。毎日、毎日星を見る。
 夫婦星を見つけたよ。なんだか悲しくなってくる。
 ふたりは夜空に星を見る。毎日、毎日星を見る。
 ふたりは夜空に星を見る・・・・・・毎日、毎日星を見る・・・・・・。
(人間だ!)

 妖精たちは”金狼の牙”たちの姿を認めると魔法のように消え去った。
 地面に紙切れが置いてある。

ScreenShot_20130120_063718531.png

『た すけ  て く  れて あり が とう』

・・・と汚い字で書いてある。きっと、小さな体で懸命にしたために違いない。
 ミナスはその手紙をそうっとポケットにしまおうとして、紙切れのそばに指輪が落ちているのを見つけた。

「ジーニ、これ見て。綺麗な銀の指輪」
「あら?この金属・・・・・・」

 エルフから手渡された不思議な輝きの指輪を、ジーニはそっと裏返したり青い宝石を覗き込んだりして鑑定した。
 やがて、感嘆のため息をつくと、「これは精霊銀ね」と結果を報告した。

「精霊銀?たしか、ミスリル・・・だったか?」
「ええ、アレクの言うとおりよ。精霊の住まう異界に存在する幻の銀。身につけた者に邪念や煩悩を打ち払う、強い心を授けてくれると伝承にはあるわね」
「そんなにすごいものなの?」

 きょとんとした表情の少年に、ジーニは笑って首を横に振った。

「そこまで凄い魔力は篭ってないけど・・・ただ、この指輪に意識を集中すれば、きっと強固な抵抗力を得ることでしょうね」
「魔法に対するお守りか。いいなあ」

 そう呟いた後で、ギルがぱあっと明るい顔になった。

「そうだ、アレクがこれ使えよ」
「し、しかし・・・」
「そうね、いいかもしれない。ギルは≪護光の戦斧≫の効果が少しはあるから、貴方が持ちなさいよ」

 仲間たちからしきりに薦められ、アレクは右手の指へ精霊銀の指輪を嵌めてみた。
 さすがに中指や人差し指にはむりだったが、小指にどうにかおさまる。
 心なしか、薄い波動のようなものが全身を包んだような気がした。

2013/01/24 19:12 [edit]

category: アルク・トゥルスピカ

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Thu.

アルク・トゥルスピカ 2  

 しばらくすると行く手に滝が見える。さらに奥へ進むと・・・・・・。
 エディンがまたもや手で仲間を遮った。
 目を凝らして見てみると滝壺のそばの穴倉から、熊が顔を覗かせている。
 しかしエディンは同時にある事に気づいた。
 穴倉の奥のほうで何かがキラリと光ったのだ。

(金銀財宝を蒐集する野獣か・・・・・・)
(前に風車の遺跡で倒したグリフォンみたいねー。ワールウインドだっけ?)
(・・・・・・あの時はいい金になったな)

 全員がばっとアレクを見つめた。まさかそう言う意見がこの男から出ると思わなかったからである。

(な、なんだよ)
(・・・・・・いえ、あなたでもそういうことを気にするのかと思いまして・・・)
(違う、皆。アレクは最近、防具が欲しくなってきたんだ)

 俺もだけど、とギルが呟いた。
 その推測は当たっていたようで、アレクは羞恥からか白皙へかすかに血の色をのぼらせていた。

(最近、肉弾戦の応酬が激しいものねー)
(・・・そういうことなら仕方ない、もっと近づいてみるか)

 僅かに歩を進めた瞬間・・・・・・。

「グオオオオオン!!」

 熊が穴倉から勢いよく飛び出してきた!
 どうやら初めから”金狼の牙”に気づいていたらしい。

「あぶねっ!」

 咄嗟の判断で、エディンはそのグリズリーの太い足を【磔刑の剣】で岩場に釘付けにした。

ScreenShot_20130120_054243578.png

 反射的に【信守の障壁】を唱えたアウロラの手から、法術による魔法のベールが全員に降りかかる。

「よし、よく二人ともなーいす!もらったあああ!」

 ギルが勢いよく【暁光断ち】を放ったが・・・・・・。

「げ、まだ倒れない!今の結構必殺技だぜ!?」
「野生の獣の体力を甘くみるんじゃねえ、リーダー!」

 折角束縛していた細剣も怪力に引き抜かれ、敵は傷の痛みにますます猛り狂っている。
 慌ててギルやアレク、エディンが波状攻撃を繰り出すも、致命傷にはなっていない。

「仕方ないわね~。やっぱりここは・・・」
「魔法攻撃、だよね。出でよスネグーロチカ!」
「旋風の護りよ!」

 それぞれの魔法の媒体である杖をかざし、ジーニとミナスが魔法を唱えた。
 現れた雪の精霊と風の刃による障壁が、グリズリーに襲い掛かる。
 後一歩のところまで追い詰めたからか、油断したアレクとエディンが岩に足を取られて体勢を崩し、僅かに熊の爪で怪我を負ったものの、その後どうにか仕留めることができた。
 やれやれと息をつき、穴倉の中を調べる。
 すると、一振りの剣・魔道具らしき指輪・いくらかの銀貨を発見することが出来た。

「こっちの剣は普通の武器ね。でも、指輪は【魔力感知】の魔法が込められているわ」

 ジーニの鑑定で価値の高いものと分かった。どうやらこの場所に訪れた無謀な者を殺して蓄えたものらしい。
 ”金狼の牙”たちは亡くなった者への冥福を祈りながら、それらを頂戴することにした。

「・・・・・・・・・?」

 ジーニは周囲に微弱な魔力の波動を感じた。
 先程手に入れたばかりの指輪を使って、波動の元を探る。

「・・・・・・そこね」

 穴倉の奥深く、人骨か獣の骨か分からぬものの山に小瓶が埋もれていた。
 土で汚れて中身が見えないからと、ギルが小瓶を開けてみる。
 ぽん、と軽い音がして小さな影が飛び出してくる。それは、先の冒険の時に会ったのと違う種類の妖精だった。
 そうして皆が驚いて呆気に取られていると、常緑樹の髪をしたその小さな妖精は滝へ向い・・・忽然と姿を消してしまった。
 不思議に思って後を追ってみると、滝の裏には洞穴への入り口があった。

2013/01/24 19:09 [edit]

category: アルク・トゥルスピカ

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Thu.

アルク・トゥルスピカ 1  

 さて、彼らは翡翠の海における依頼が済んで帰る途中であった。
 立ち寄った高山の村において見知らぬ女性に「息子を助けてください」と呼び止められたのは、或いはあの心優しき大精霊の采配だったのかもしれない。
 女性の息子はとある病毒に冒されており、通常の解毒が効かない。ただ、≪魔獣の角≫というアイテムがあれば回復するらしい。
 実在するのか定かではないそれを、わざわざ取りに行こうと引き受けたのは、有体に言って暇だったからだ。

「うわあ・・・・・・」

 ギルはぽっかり口を開けて目の前の断崖絶壁を見上げる。

ScreenShot_20130120_050943250.png

 これは登るのに骨が折れそうだと考えていると、その横でミナスが小さくコマンドワードを呟いている。

「ん?・・・あ、そっか!飛行すりゃいいんだ!」
「そういうこと!僕が使い終わったら、皆に貸してあげるからね・・・はい、ギルからどうぞ」

 フェニックスの装飾がされた≪エア・ウォーカー≫は、ただ美しいだけの腕輪ではなく、魔法の翼を現出させるアイテムである。
 以前にバザーで交換を持ちかけられた際、これは便利だと喜んで買い求めたのだが・・・。
 エディンががりがりと頭を掻いて言った。

「いやいや、助かった。こいつで順繰りに翼を生やせばどうにかなるな」
「どれどれ・・・・・・おおお!見てくれよ、アレク!ほら、飛んでるぜ!」
「分かった、分かったから腕輪を早く回せ!」

 こうして白い魔法の翼を背から生やした6人は、そろって崖の出っ張りを蹴飛ばしては上昇していく。
 崖はかなりの高さだったのだが、”金狼の牙”たちはあっという間に断崖を越え、鬱蒼とした森へと入った。
 エディンがしゃがみ込み、辺りの様子を確かめる。

「森は本職じゃねえんだがなあ。ま、足跡くらいは見分けられるさ」

 エディンは巧みな観察眼で、落ち葉の重なる土の上の痕跡を見分けた。

「こっちだな。静かに・・・つっても限度はあるだろうが、ついてこいよ」

 たまに名も無い薬草などを採取しながら進む。

「待った・・・・・・」
 
 エディンが手振りで頭を下げるように指示する。彼の視線の先に、野生の獣の群れがいたのだ。まだ気づかれないうちに、パーティを別の道へと先導する。
 森を歩くとき、生存のために最も重要なこと。
 道に迷わぬこと。そしてこのような野獣の棲む森では、同時に危険察知も怠れない。
 一瞬の判断の遅れが命運を分ける事もある。
 森は絶えずざわつき、四方八方獣のにおいがする。
 足元に転がる獣の小骨を踏み砕き、エディンは神経を尖らせた。

「エディン、大丈夫。危なそうな大きい生命の気配は感じられないよ」

 ミナスが微笑みを浮かべてエディンに声をかけた。

「そうか・・・そういや、お前は森生まれか」
「流石に、何かを探したりなんだりする技術は、まだ習わなかったけどね」

 それよりも、と彼はある一方を指した。

「向こうね。なんか水の気配がする・・・」
「なんだってえ?」

 小さな指の指摘に、エディンはその場にしゃがみ込んで聞き耳を立てた。
 言われてみると、確かにそちらのほうからかすかな轟音が聞こえる・・・・・・。

「リーダー、滝か何かあるかもしれない。どうする?」
「そうだなあ・・・」
「水場の確保は重要ですよ。水筒の水、ここに来るまでに結構消費してますからね」

 ちゃぽん、と水筒を縦に振ってアウロラが意見を出した。

「あたしもアウロラに賛成。・・・・・・水場があるなら、顔と手くらい拭きたいわ」
「分かった分かった。でも、油断するなよ。水場には動物が集まるもんなんだから。・・・エディン、頼む」
「あいよ」

 一行はエディンを先頭に轟音のほうへと進路を定めた。

2013/01/24 19:06 [edit]

category: アルク・トゥルスピカ

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Mon.

翡翠の海 4  

「――ミナクア様ぁッ!」

 振り下ろされた剣の一撃を遮り、ペリエが腰を抜かしたミナクアとの間に割って入る。

「う・・・きゅ~・・・・・・」
「――ペリエ!・・・ひどい・・・こんなッ・・・・・・!」

 ジーニがかねてより気にしていた妖魔の襲撃は、なんと陽動であった。
 リザードマンという上級妖魔たちが、ミナクアとペリエの前に現れたのである。
 彼らは守人である冒険者たちの実力を知り、ミナクアが一人になる機会を窺ってこそこそ襲撃を仕掛けてきたのであった。
 精霊は常ならば普通の武器で傷つくことは無い。
 しかし、ペリエのように精霊としての格が低く、むしろ分類として妖精に近いような存在になると、このように半端にダメージが通ってしまうのである。
 とりわけオレンジのモヒカンが際立つリザードマンの首領格が、わざとらしい表情でペリエを覗き込んだ。

「これはこれは・・・・・・。身代わりとは、美しい忠誠心だねえぇ・・・・・・俺様、感動のあまり、涙がでちまったぜ」

 嘘泣きだけどな!とリザードロードは言って、ゲラゲラと下品な笑い声を上げた。
 そんな相手を他所にミナクアはペリエを抱き上げようとするが、彼女はその手を振り払い――。

「ミナクア様・・・逃げ・・・て・・・・・・。ここは、アタイが・・・・・・」

 ペリエは立ち上がり、敵とミナクアの間を遮断する様にふらふらと飛び回った。

(逃げ・・・る・・・・・・?ペリエを置いて・・・・・・?)

 ミナクアの頭に、今まで思い浮かびもしなかった考えだった。
 確かに、希少な大精霊であるミナクアがここで害されれば、この辺り一帯の被害は大きなものに発展するだろう。しかし――。

「そんなに死にたいなら、まず貴様から殺してやるわッ!」
「や、やれるもんなら、やってみなさいよ・・・・・・。下っ端だって、やるときゃやるんだから・・・・・・!」

(ここで逃げていいの、私・・・・・・?守られてばっかりで、本当にそれでいいの・・・・・・?)

 ミナクアの足は・・・・・・。

(いや、違う・・・・・・っ!)

 しっかりと大地を踏みしめてその場に留まった。

(・・・守らなきゃ。みんなを守るんだ。できるかどうかじゃない。やりたいからっ・・・・・・!)

 張り裂けそうな胸に空気を送り、歯を食いしばって姿勢を正す。

(水面の輝きを、木々の囁きを、草の揺らめきを――大好きな風景を、大好きな人たちを)
「だって、私は大精霊・・・・・・私がこの地の主なのだから!」
(守るんだ!)

 ミナクアの小さな身体が清浄な光に包まれ、そこから生まれた蒼い線が複雑な紋様を形成する。

「け、結界・・・だとッ!?馬鹿な・・・・・・、土壇場で再構築しやがった!?・・・このクソガキがッ!この期におよんで往生際が悪ィッッ!」
「・・・おいおい。それは、どちらかというと此方の台詞だろう?」
「――何ぃッ!?」

 湖畔の中でもとりわけ太い木の陰から現れたのは、ギルであった。

「まったく、こんな時間にまで出張ってくるなんて、最後まで諦めが悪い・・・・・・」
「わざわざ連敗記録を更新しにくるなんて、随分と律儀な連中じゃねえか」

 木の枝からしなやかな動作で降りてきたエディンが言う。
 彼の降り立った横に、他の仲間たちも集まってくる。

「・・・まぁ、いいんじゃない?ちょっと暴れ足りない感じはしていたし・・・・・・」
「・・・せ、先生ッ!?」
「・・・念の為に、何時も襲撃される方向の反対側を調査して侵入の痕跡を辿っていたのだけど――」

 ふふん、と鼻で笑ってジーニが杖の髑髏をリザードマンたちの方へ突きつけた。

「よりによって、精鋭部隊で暗殺とはね。中々知恵の回る連中じゃない」
「そういうわけだ。・・・悪いな、ミナクア。少しばかり遅くなってしまった」
「――本当だよぅ!も、もう少しで乙女のピンチだったんだから!」

 チャキ、とリザードロードが幅の広い曲刀をかざして構えた。

「くそっ、厄介な守人が戻ってきやがったか・・・・・・!」
「お戯れが過ぎましたな、御屋形様・・・・・・」

 リザードマンたちが武器を構えたのに、”金狼の牙”たちも反応して散会する。

ScreenShot_20130119_124914937.png

「ミナクア、下がっていろ。ここから先は此方の仕事だ。・・・カタギには少し過激すぎる」
「・・・いいえ、先生!私も戦います。私にも戦わせてくださいッ!」
「いや、しかし――」
「私、気づいたんです。先生達だって、いつまでもここにいてくれるわけじゃないんだって」

 ミナクアは小さな拳を胸に押し付けて、哀しげな――だけれども、決意に満ちた顔で言った。 

「これからは、私がこの森を守らなきゃいけないんです。たとえ、手が汚れようとも・・・・・・。だから、私も覚悟を決めます」
「・・・フッ、なんだか知らんが、とにかくよし!!そこまで言うなら、行くぞ、ミナクア!」
(いいんですか?かなりギルの悪い影響受けてますよ)
(・・・・・・あっれー?ギルにはミナクアの身の回りの世話だけはさせてねえんだがな)

 こっそり後ろで話し合うアウロラとエディンを他所に、リザードマンたちの士気は上がっていた。

「・・・おのれ、許さんぞ!こうなれば、刺し違えてでも、貴様等だけは殺す!」
「来い、碧鱗の民よ!冒険者ギルバート、――推して参る!」

 ノリノリで叫んだギルの声を合図に、最後の血なまぐさい授業が始まった。

 現在のリザードマンたちは、運が良い事にミナクアの結界の影響下でまともに動けない。
 このチャンスを逃す手はなかった。
 ギルの【薙ぎ倒し】が、アレクの【飛礫の斧】が、ミナスの【渓流の激衝】が、縦横無尽に戦場を駆け巡る。
 アウロラは【祝福】で仲間たちを援護し、ジーニは【魔法の矢】をロードに撃った後、すかさず【眠りの雲】で彼らを無力化した。
 そしてあっという間に・・・・・・。

ScreenShot_20130119_130046093.png

「馬鹿な・・・この俺が、人間如き劣等種族に・・・・・・」
「・・・感謝するぞ。お前のお陰でいい授業になった・・・・・・」
「・・・なん・・・だとッ!?」
「良いショック療法になったと言っているんだ。ご苦労だったな、――反面教師ッ!」

 ギルは思い切り振り上げた斧を、”碧鱗”のボルヴィックと呼ばれたリザードロードの首に落とした。
 その瞬間、嫌な空気を全て掃き捨てる様に一陣の風が湖畔を駆け抜けた。
 ・・・そして、それが木の葉を揺らしながら天空に上っていった頃には、辺りにはもう静寂しか残されていなかった・・・・・・。

 ――戦いの翌日。
 ”金狼の牙”たちは昼前には出発の準備を終え、彼女達に別れの挨拶をしていた。
 7日間を過ごしたこの地とも今日でお別れとなる。彼らは少し名残惜しそうに透き通った湖の水面を見つめた。

「皆様には本当にお世話になりました。何とお礼を申し上げて良いやら・・・・・・ほら、ペリエ。先生達に今回の報酬を!」
「――はいはいっと!こちらが報酬の宝石でござ~い」

 ペリエは重たそうに宝石の入った皮袋を運んでくると、”金狼の牙”たちにそれを受け渡した。
 皮袋には、青く輝く翡翠の塊と血を固めた様な鉱石までもが入っている。

「ありがとうございます、ペリエもどうか御達者で」
「へへんっ、当たり前よ!アタイは元気だけが取り得だかんね!」
「――ああ、知ってる」

 乾いた声でエディンが即答した。どうも、罠を張っている最中に騒がしかったのを根に持ってるらしい。
 不満顔でピョンピョンと飛び上がるペリエを余所に、冒険者達とミナクアの間に笑い声が響いた。

※≪宝石(400sp相当)≫×2、≪紅曜石≫、【玉泉の祝福】※

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■後書きまたは言い訳
28回目のお仕事は、タナカケイタさんのシナリオで翡翠の海です。精霊使いクーポン対応美味しいですへへ。こちら、未だテストプレイ中の作品となっておりますので、閲覧される方はお気をつけ下さいませ。また、テストプレイ中ということで、掲載についてご本人様に許可は頂いております。出来る範囲で画像の著作権についても確認はしてありますが、万が一の時は下記の通りにお願いします。
防衛&育成シナリオという説明どおり、大精霊というNPCを守り育て上げるのがこのシナリオの醍醐味です。
やった感じでは、全員が何か全く別の分野に特化しているパーティだと、ちょっと大変かな?と思いました。うちはアウロラが知力と精神高め、あと意外なことにギルが罠作成に貢献(こいつ器用高いのか・・・?)してくれたので、日々の担当決めが少し楽になりました。
とにかく、ミナクア&ペリエ可愛い。50質問にも書きましたが、特にペリエ。なんて好み・・・。
【玉泉の祝福】は付帯能力です。非戦闘時は制限がかかるそうですが、それにしてもありがたい対毒防御。

えー、実は前回の「賢者の選択」時点で、すでに全員6レベルに達しております。それでも、こちらのシナリオを終えるまでは・・・!とレベル据え置きでやり続けておりました。なので、次回からは全員が急に6レベルからスタートですのでご了承ください。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/21 12:34 [edit]

category: 翡翠の海

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Mon.

翡翠の海 3  

「おはようございます。今日は最終日ですね。最期まで気を引き締めていきましょう!」

 ミナクアは元気よく挨拶した。その頭上を、くるくると寂しそうな顔でペリエが飛んでいく。

「・・・今日で最後、かぁ。キミ達ともお別れなんだね・・・・・・」

 自分らしくないとでも思い直したのか、一際大きく円を描いて”金狼の牙”たちの目線まで降りてくると、彼女は小さな拳を突き上げて宣言した。

「――よしっ、頑張ろう”それで、全部終わったら、みんなでパーティーしましょ?」
「・・・いやいや。死亡フラグだから、それ。しかも、こっち側の・・・・・・」

 眉を八の字にしてアウロラが言う。

「――あのっ、先生!」

 かの大精霊(やっぱりそうとは見えない)に先生と呼ばれるのにも、すっかり慣れてきた。
 ギルが一同を代表して彼女に訊く。

「・・・どうした、ミナクア」
「――あ、いえ。なんでもありません。・・・今日も頑張ってくださいね」
「・・・・・・?あ、ああ・・・・・・」

 彼女の様子は気にかかるものの、冒険者たちもまだそれなりに忙しい。彼らは、急いで配置についたのだった。
 最終日のお勉強は、アウロラとジーニ二人がかりでの教育である。

ScreenShot_20130119_114616437.png

「・・・気を静めて、力の流れに集中しなさい。霊力を身体に循環させて――」
「・・・・・・」

 言われたとおりにミナクアは気を静めた。自分の中に流れる、”それ”が体中を駆け巡るのを感じる・・・・・・。

「・・・・・・Zz」

 ・・・前にうたた寝していた。
 シュバ!っと素早く杖の先の髑髏がミナクアの脳天に振り下ろされる。

「――あぅっ!」
「・・・そこ、寝ないように」
「ごめんなさ~い」

 一度教えると決めたからには、とことんまで厳しいのであった。まあ、この1週間ですっかり情が移ったせいか、多少の苦笑交じりで済んでいるわけだが。
 その様子を、もう一人の教師役であるアウロラは微笑ましく見守っている。
 ミナクアは水の化身だけあって、純粋で優しい心の持ち主だと思っている。きっと、彼女が成長を無事果たせば、立派な大精霊としてこの地を守っていくことだろう。アウロラは、「まあまあ」と取り成して、授業の続きを始めた。
 そして。
 最後の夜ともなれば、流石にそろそろ罠の効果も――。

「――だあああっ!何でこんなに残ってるんだ!くそ、もうウンディーネの援護ねえぞ!」

 ――ちょっと手を抜いたせいか、ギルは数の暴力によりちょっと苦境に立たされていた。

ScreenShot_20130119_115218062.png

 それでもどうにか退治を終えることはできたのであった。
 そんな戦いの少し後、翡翠の海の湖畔にて――。

「ミナクア様ぁー!やりましたよ、本日も撃退に成功です!」

 ”金狼の牙”たちが最後の夜襲を撃退した後、ペリエが結果を報告する為に一足先に湖畔へと飛ぶと――。

「・・・・・・?ああ、ペリエ・・・・・・。ごめんなさい、ぼうっとしていました」

 ――そこにはたった一人で湖畔に腰掛け、足先で水面を弄ぶミナクアがいた。

「・・・そう。先生達は勝ったのですね。後は私の仕事・・・・・・」

 ミナクアは何処か呆けた様な表情で呟くと、再び視線を落として俯いた。

「・・・おや?ところで、ミナクア様。こっち側にいた冒険者はどうしました?」
「残ってらした方々には、警備の方を迎えに行く様、私がお願いしました。少し――、ほんの少しだけ、一人になりたかったから・・・・・・」
「ありゃりゃ・・・・・・。それは失礼しました!それじゃあ、アタイもどこかで時間を潰してきまーす」
「――あっ、ううん、いいの。気にしないで頂戴」

 背を向けて飛び立とうとするペリエを制止した。
 ちょっと考え事をしていただけだから、とミナクアは言う。その姿を人間が見れば、こう言うだろう――まるで親に置いていかれた子どものようだ、と。
 ミナクアは微笑を浮かべたまま再び湖面に視線を落とした。
 天上には満月が光り輝いており、その円光を写し取った水面も青々と鏡面のように映えている。

 ――静かな、とても幻想的な夜だった。

 水の色・・・・・・木々の鼓動・・・・・・草の香り・・・・・・この地に生きる命たち。
 力が戻ってきているのを感じる、と彼女は言った。

「よかったじゃないですか、ミナクア様。・・・でも、それにしては妙に浮かない顔ですね・・・・・・」
「うん・・・でもそうするとね。急に不安になってきちゃって・・・」

 自分は本当にこの結界を――みんなを、ペリエを、守っていけるのか。
 その不安は、1週間ずっとミナクアについて回っていたものだった。勉強をし、身の回りを世話されて霊力を高めつつも、本当にこれで十分なのか、これからやっていけるのだろうか・・・・・・と。 
 ペリエはふわり、と跳ねる様に飛んでミナクアの傍らに着地し、彼女の横に座って空を見上げた。

「・・・でもさ、そんなに難しく考えなくても良いんじゃないかなぁ?」
「・・・えっ!?」
「だって、上手くいくかどうかなんて、やってみなくちゃ分からないじゃないですか」

 ペリエは小さな人差し指を一本立て(水のように揺らいでいるが)て、口を開く。

「どんな事だって、最終的には出来るだけの事をやるしかないわけですし、始める前からグダグダ考えてたって無駄でしょう?」
「・・・・・・」
「・・・それに、ミナクア様は一週間、その為の準備をされてきたじゃないですか」

 なら信じましょうよ、と小妖精は笑った。

「頑張ってきたミナクア様を。それから、修行をつけてきたあの冒険者達の事を、ね?」
「信じる・・・。自分を――、先生達を――?」

 虚をつかれた顔でペリエを見つめていたミナクアは、そのまま満月を暫く見つめていた。

「・・・うんっ、そうね。私、信じます。先生達が教えてくれたんだもの。きっと、なんとかできる・・・・・・」

 気分が楽になったと礼を言ったミナクアは、そう言ってすっと立ち上がり、にっこり笑ってから両目を閉じて瞑想を開始した・・・・・・。

2013/01/21 12:06 [edit]

category: 翡翠の海

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Mon.

翡翠の海 2  

「――では、先生っ!今日から1週間、よろしくお願いします!」

 大精霊に見えないお下げの少女は、しゅびっと敬礼をして元気よく言った。
 ”清流の飛沫”ペリエのアドバイスによると、1~3日頃は罠が薄いので罠設置と警備/巡回を多めにし、それ以降は罠を維持しつつ、結界強化に力を注ぐのがいいらしい。
 ただ、罠だけで敵を止められるとは限らないので、最低でも常に1人は警備/巡回を選んで欲しいようだ。
 6~7日にもなれば罠がかなり効き始めるはずだ。そうなれば、罠と警備人員はほどほどで良くなる――。

「なるほどねー。その分の人員を他に回せばいいわけね」
「そそっ。警備/巡回の担当者はいつもに増して少人数で戦うことになるから、最適な装備で挑んでよね」

 警備/巡回は妖魔たちとの直接戦闘、罠設置は森に罠を仕掛けて敵減少、勉強は魔術や常識を教える、お世話は身の回りの世話等で成長を促す・・・・・・。
 それぞれに大切な役目である。いい加減に選ぶわけにはいかないだろう。

 1日目。
 ギル、アウロラが警備/巡回、アレクとエディンが罠設置、ジーニがお勉強、ミナスがお世話。

「・・・そういうわけで、今日の授業を担当するジーニよ。短い間だけど、よろしく」
「授業を担当されるミナクアです。よろしくお願いします!」

ScreenShot_20130119_105252421.png

 社交性にはやや問題がある(と宿の誰もが思っている)ジーニだが、意外と先生役に向いているのか、颯爽とした口調で魔術の成り立ちからミナクアに教授している。
 彼女たちの後ろでは、ミナスが二人のためにお茶を淹れている。
 最近になってアウロラの料理の手伝いをしているためか、手際はやけにいい。

「ねぇ、ミナス。今日は何するの?アタイも手伝うよっ!ガッツ、ガッツ!」
「・・・手伝い?・・・君が?・・・ふぅん?」

 からかうようなミナスの声音に、ペリエがたちまち「酷いっ!」と言って辺りを飛び回った。賑やかである。
 ――夜。
 妖魔の襲撃により、森の外縁がにわかに騒がしくなる・・・・・・!

「・・・おや、出番ですか」

 アウロラは外套をそっと脱いで、魔力を≪氷心の指輪≫に集中し始めた。
 のんびり立ち上がったギルが、重い響きを立てて戦斧を地につける。

「遅かったじゃないか。・・・ちょっと、待ちくたびれたな」

 目視できる距離にきた妖魔たちは、下級妖魔のゴブリンと亜種のホブゴブリンだった。ゴブリンは槍を持って武装している。
 そのほかにコボルトとウルフも一緒に来ているが、戦い慣れた相手であった。

「予想外の切り札くらいは持っているかもしれません。・・・油断は禁物ですよ」
「はいはいっと!」

 アウロラの助言に軽く答えると、ギルは身体と斧を回転させて敵の集団へ切り込んでいった。【薙ぎ払い】である。

ScreenShot_20130119_110216781.png

 たちまち意識不明にさせられていく妖魔側は、すでに立っているのが2匹のみという悲惨なことになっていた。
 斧の刃を翻してホブゴブリンへ向うギルに、アウロラがため息をつきつつも【光のつぶて】の呪文を唱えた。光弾に、あっさりとコボルトが撃ち抜かれる。
 ・・・・・・1日目は、あっという間に終わった。

「おはようございます、先生。昨夜はよく眠れましたか?」

 翌朝、足りないものがあったら遠慮なく言って欲しい、というミナクアの可愛らしさに、”金狼の牙”たちは目を細めた。

 2日目の昼は、特筆すべきことも無く過ぎた。
 夜になればやはり妖魔が襲撃を掛けてきたのだが、せっせと仕掛けている罠で敵の数は減っている。
 アレクは≪黙示録の剣≫を静かに引き抜いた。今夜の彼の仲間は、この剣とお世話をアウロラに代わってもらったミナスである。

「――武器を抜いたからには、覚悟してもらおう」
「渓流の精霊よ。君の水圧で撃ち払って!」

 今夜の襲撃にはゴブリンシャーマンが紛れていたので、呪文を警戒したミナスは【渓流の激衝】を使った。この呪文は、激流で敵を吹き飛ばすことで沈黙させることができるからだ。――ただ、ナパイアスの激流は強すぎて、必ずしも狙った相手にいくわけでもないのだが。
 猛々しい中位精霊は、あっという間にその水流で敵を文字通り押し流していった。

「・・・・・・」
「・・・ジーニ。何か心配事でも?随分と険しい顔をなさってますが・・・・・・」
「・・・いえ、大したことじゃないわ。まだ確信のもてる話じゃない」

 杖の先についた灰色の髑髏を顎に当てつつ、彼女は呟いた。

「ただ、どうして妖魔達はいつも決まった時間にほぼ同じ方向から攻めてくるのか――それが、少し気になっただけ」
「・・・・・・」

 その横では、罠を作成し終わったエディンも所在無げに小石を放り投げながら、ミナクアの眠る湖のほうを見ている。

 3日目、4日目、5日目・・・と大過なく日々は過ぎていった。
 相変わらず、妖魔達の夜の襲撃は止むことを知らないかのようである。

「さぁ、それでは、授業を始めよう。最初のキーワードは・・・・・・」

 ジーニはミナクアに知識を授けながら、いつかの夜に巡回している以外の仲間たちと話していた事項を思い浮かべていた。

「――定刻どおりの襲撃。同方向からの襲撃。同規模の部隊での襲撃」
「・・・ジーニ。前に言ってたこと、当たってるかもしれないね」
「・・・どういう事?」
「・・・妖精達に妙な話を聞いたんだ」

と言って、ミナスは居住まいを正した。

「あの妖魔達、日中には森の外縁で何かを探っているらしい」
「もうすぐ満月だ。ミナクアの転生も完了する。その前に何かを仕掛けてくるかもしれねえな」

 エディンは、細剣の柄の感触を確かめるように撫でている。
 彼の手を眺めながら、ジーニは自分の懸念が当たらなければいいのにと、ため息をついた。

2013/01/21 12:03 [edit]

category: 翡翠の海

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Mon.

翡翠の海 1  

1.周辺地区は結界で平和。
2.結界はミナクア様が管理。
3.ミナクア様の転生で結界消滅。
4.妖魔が祭り状態←いまここ

「・・・――というわけで、これは大変なピンチなのよ」

 彼らをこの地に誘った小妖精は、腕を組んでうんうんと唸りながらそう言った。
 偶然にもある旅の帰りにこの地を訪れた”金狼の牙”たちが、この小妖精に近隣の宿場町で叩き起こされてから既に1刻となる――。

「ああ・・・もうそろそろ、夜が明けますね」

 しみじみとアウロラが呟いた。出発時にはまだ暗かったのだが、もうそんな時刻らしい。

「・・・ええと。それで、そちらにいらっしゃるのが――?」

 アウロラは重い瞼を持ち上げ、あくびをかみ殺しながら訊ねた。

「――あ、はいっ。お話に上りました大精霊ミナクアです!」

 ”金狼の牙”たちが視線を向けると、今まで湖岸に腰掛けてジャブジャブと水面を足で掻き混ぜていた少女が、すっと立ち上がってお辞儀した。
 大精霊などという大仰な肩書きとは裏腹に、その姿は歳が二桁になるかならないか程度のなんとも幼いものである。歳より小柄なミナスといい勝負だろう。大精霊は何百年かに一度転生を果たすそうだが、とても”玉泉水”の二つ名が付くようには見えない。

「・・・ミナクア様はさっき起きたばかりなのよー。お姿も随分と可愛らしくなってしまって・・・・・・」
「結界の事なんて、きれいサッパリです!」

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 大精霊はお下げ髪を弄りながら恥ずかしそうにそう言うと、ペロっと舌を出して照れ笑いをする。

(大精霊といえば、精霊王に次ぐ程の強大な存在――ってお母さん言ってたっけ。その大精霊がこんな状態じゃあ、この周辺地域の安全は・・・・・・)

 ミナスは心中で慌てていた。
 そんなたいそうな存在に出会う機会は滅多にないはずだが、実際に出会った上、転生に立ち会うようなことになるとは想像の外だからである。
 一方、その余りに緊張感の無い仕草に他の冒険者たちは揃ってため息をつく。
 ギルは”清流の飛沫”ペリエ――自分達の顔に濡れ布巾を被せるという危険な方法で叩き起こしてくれた――に目を向けた。彼女はミナクアに仕える下級妖精だと言う。
 青みがかった透き通る姿は確かに清流の名に相応しいが、口調はかなりフレンドリーである。

「依頼内容は道中に説明した通り、7日間の森の警備と、ミナクア様の特訓よ!」
「特訓・・・・・・ねえ」
「お姉さまの話では、ミナクア様がお力を取り戻すまで丁度一週間かかるらしいわ。・・・なんか、月齢の関係みたい」

 森の警備とはなんだ、と聞いたのはエディンである。
 目をこすりつつだから、彼の目が眠たげなのは本当に眠いからなのだろう。

「結界が弱まったのをこれ幸いって、毎日夜になると南方の魔軍から魔物の刺客が来るのよぉ」

 ウザくってウザくって、とペリエの口調はのんびりしているが、それは結構な大事なのではないだろうか。

「だから、森を巡回したり罠を設置したりして連中を撃退してほしいの」
「・・・なるほど。そんじゃ、もう一つの”特訓”というのは?」
「ミナクア様の霊力を高めるお手伝い。具体的には、勉強の手伝いと周辺のお世話系のお仕事ね」

 一週間も経てば、大精霊ミナクアの力は結界の維持に十分な程には回復するのだと言う。
 しかし、本当のことを言えばそれだけでは少し心許ないらしい。ジーニが確認する。

「・・・心許ない?」
「一週間後のミナクア様が張れる程度の結界では、ゴブリンなんかの低級の妖魔なら完全に無力化できるんだけど――」
「問題は上級妖魔ってこと?」
「行動に支障を与えるのがやっとの話でね・・・・・・」

 それで”金狼の牙”達がいる内に、出来る限りの力をつけて欲しい――というのが彼女の意向であった。
 ミナクアの頭がしゅんと下がる。

「・・・あぅ、力不足でごめんなさい」
「――あっ、いえ、違うのっ!お気になさらないで!つ、つまり、アレよ」
「どれよ」
「修行をつけて欲しいんだってお姉さまが言ってたわ。・・・折角、精霊の扱いにお詳しい方もいるみたいだし」

 仲間たちの視線がミナスに突き刺さる。この小さなエルフは優秀な精霊使いで、水や氷に親和性が高い。

「日頃、手助けしてるんだから、こういう時はしっかり、ね?」
「・・・うん、いつもお疲れ様。キミ達には感謝してるよ」

 でも・・・と、頼られて嬉しいのが半分、困惑してるのが半分といった表情でミナスが続ける。

「あんまり期待しないでね。こういうのは専門外だから・・・・・・」
「そういうわけで、ミナクア様。この冒険者たちの言う事をちゃんと聞いて、しっかり勉強してくださいね!」
「はいっ、前向きに善処します!」
「えっ、善処だけじゃダメじゃね?」

 ぼそっとギルが言ったが、その発言は黙殺された。
 何でも質問していいとペリエが言うので、ミナスは小首を傾げて訊ねる。

「君は下級精霊の中でも下位、いわば下っ端の存在でしょう?もっと上位の精霊は、一体、何をやってるのさ?」
「――下、下言うなッ!アタイは雑魚じゃない!足軽なめんな!投石すんぞ!」

 ペリエは背負った天秤から飛沫をぴちゃぴちゃとミナスの上に降らせてから、頬を膨らませ答える。

「本当は直接のお世話は姉さま達がするんだけど、今は結界の維持と転生の儀に出向いてて、アタイしか手が空いてないのよ!」
「お姉さま――。中位の精霊や妖精、例えば、ウンディーネ達か・・・・・・」

 精霊使いの脳裏に澄んだ水から顕現する乙女達の姿が浮かんだ。

「翡翠の海のミナクアといえば、精霊使いの間では、それなりに有名な存在なんだよ」
「そうなのですか?」
「・・・・・・俺には、残念ながらただの子どもにしか見えん」

 アレクは唸った。
 かつて古き神殿で出会った海精はもっと神秘的な佇まいをしていたのだが、同じ眷属に見えない。

(俺が精霊使いとしての素養に欠けてるからだろうか・・・)

 唸る仲間に構わず、ミナスは説明を続けた。

「この周辺の土地が綺麗で豊富な水に恵まれて、農作物の生産が安定しているのも、彼女の存在による所が大きいんだ」
「そそ、ミナクア様はえらいんだからね!あがめたてまつれ」

 小さな羽根を懸命に動かして宙返りをしたペリエが強調する。

「――でも、彼女の転生に関する資料なんて、この辺りの精霊宮では目にしたことが一度もないよ?」
「毎回、転生のときは魔物に狙われるらしいけど、ドゥルイドとかエルフの協力で何とかしてたんだって」
「あー・・・・・・」

 まさか、自分の血族――とりわけ母なども関わったことがあるのではないだろうか。
 小さなエルフはたらーりと一筋の汗を流した。
 そんな彼を他所に、ペリエは「服に十字をつけた人」を見るようになってから、そういう守人を見ることは無くなったと語った。

「人間は慌しいからね。セカセカしてるというか、カサカサしてるというか。・・・人の世は無常だわ」
「・・・そこっ。人間をゴキブリみたいに言わない」

 アレクが顔をしかめる。
 報酬を確かめると、宝石で800sp相当を支払うつもりらしい。ジーニはなにやら不満げだが、ミナスはすっかりやる気になっているようだし、精霊使いとして貴重な経験になるのであれば、仲間として協力するのにやぶさかではない。
 ペリエに巡回や勉強等の役割分担について詳細を聞き、一行は早速仕事に取り掛かることにした。

2013/01/21 12:00 [edit]

category: 翡翠の海

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Mon.

賢者の選択 5  

 ディマデュオは部屋の床にある敷物の下に、何か陣を置いていたらしい。魔法使いたちが魔法を抑えられた事に気付き、驚きの声を上げる。しかし、すぐに気を取り直して接近戦を挑むことに決めた。

「小賢しい・・・っ!」

 彼の手から発せられた【炎の玉】の直撃を受けて、ジーニが倒れる、かろうじて防御体勢を取っていたミナスとアウロラは軽傷だが、エディンは重傷に近い。そして、肉弾戦の主力であるギルとアレクは――。

「なんだと!?無傷!?」
「残念だったなあ!お前の魔法より、古代の魔術師が作った結界のが上だったんだよッ!」

 前の依頼で入った暗き洞窟にあった、【絶対の防壁】。難しい呪文だけにわずか数回しか唱えられないのを、呪術士相手だからとアウロラが事前にギルとアレクへ使ってくれたのだ。
 この絶好の隙を逃すわけにはいかない。ギルの斧とアレクの剣がざっくりとディマデュオの胸を断ち割ると、さらにエディンが素早く駆け寄って、その喉を掻き切った。

「がはっ・・・」

 ディマデュオの手から杖が落ちた・・・彼はよろめき、背後のテーブルにもたれかかる。
 口元を押さえた掌の隙間から大量の血が溢れ出した。
 朱色に染まった自分の掌を、ディマデュオは呆然と見つめ、そして憎悪に血走った目を冒険者たちに向けた・・・。

「馬鹿者どもが・・・後悔する事に・・・なるぞ・・・」
「口先だけは立派だな。すぐにあの老人も同じとこへ送ってやるさ」

 エディンがにやりと笑うと、ディマデュオは崩れ落ちるように床に倒れた。
 彼の死によってだろう、既に魔法封じの陣は解かれている。アウロラはすぐに法術を使い、全員の傷を癒した。

「さて・・・と。ここからが本番だぞ。アレク、用意はできてるか?」
「ああ。大丈夫だ」

 幼馴染コンビが頷く向こうで、かつての紅き鷹旅団退治の時に取得した≪防護の指輪≫を、アウロラ・エディン・ジーニ・ミナスの順で使っている。何しろ、今回上級の術を身体に収めるので【信守の障壁】が使えなかったのだ。
 指輪の魔法は発動が不安定らしく、ジーニだけあいにく防護の魔法がかからなかったものの、

「いいわよ、あたしには旋風の護りがあるからね」

と言って、彼女は再び【風刃の纏い】を唱えた。
 回復用の髭天狗茸も持ち、一行は墓所へ向おうと廊下に出た。

「灯りが消えてる・・・?」

 エディンの呟きと同時に、背後に気配を感じた”金狼の牙”たちは振り返った。
 そこには地下墓所の老人・・・・・・ソドム王国最期の王、カナンがいた。

「重畳、重畳・・・ようやく自由を取り戻す事が出来たわ・・・」

 何処なりと立ち去るが良い、もう用は無いという老人に、ギルは無言で斧を向けた。老人は苛立たしげに眉をしかめる。

「・・・何をしとるんじゃ。まだ何か用でもあるのか?死にたくなければさっさと消えろ・・・」
「じい様。悪いけど、もっかい眠ってくれや」
「なんと!わしと戦おうと言うのか?」
「その通りだよ」
「・・・多少は見所があると思っておったが、所詮は猿か」

 さも残念そうに老人は首を横に振った。

「身の程もわきまえずこのわしに刃を向けようとは・・・思い直すなら今の内じゃ。今すぐ立ち去れば、許してやる。よくよく考える事じゃな」
「わざわざ起こして放置した村人も悪いけど、十人も殺したじい様も良くない。ここで倒されてくれ」
「正直に言うと、俺はあの村人達がどうなろうと知ったことじゃないんだが・・・」

 ギルの横で、エディンがぽりぽりと頬をかく。

「まあ、浮世の義理というか成り行きだ」

 老人はしばらく呆れたように黙り込んでいたが、やがて重々しく口を開いた。

「よかろう・・・かくなる上はお前達を殺し、今宵の宴の余興とするまでじゃ・・・!」

 老人の身体が宙に浮く・・・皮膚がぼろぼろと崩れ落ちていく・・・!
 たちまち、髑髏に変わった顔を向けて彼は言った。

「愚かさの報いじゃ・・・この場で朽ち果て、哀れなる屍を晒すがよい!」

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 その言葉を聞きながら、アレクはずっと後ろに置いてあった”秘密兵器”を取り出した。天頂部に取っ手の付いた大きな金属製の箱。
 アレクを狙った左腕をギルが受け止め膝をついた時に、アレクは引き金を引いていた。

「さらばだ、カナン王・・・!!」

 会心の一撃・・・!
 黒衣が揺れ、おぞましい髑髏の姿から見慣れた老人の姿へと変わる。足首の辺りが徐々に灰色に染まり、崩れ落ちていく。
 その様子を老人はまるで他人事のように眺めた・・・。

「見事じゃ・・・よもや、このわしがここまで追い詰められようとはな」
「俺たち自身の力、ってわけでもないがな」

 重たい金属製の箱を下ろし、アレクは述懐した。
 彼が撃ったのは、かつてリューンの下水道で見つけた旧文明の兵器だった。まさか一撃でリッチを退ける威力とは知らず、ただあの両腕さえ封じられれば勝てるだろうと思っていたのだが・・・結果オーライということだろうか。

「お前達の勇戦に敬意を表し、ここは退くとしよう。もはやこの村の猿どもの事などどうでもよい・・・」
「あ、いいの?」

 あくまで軽いギルの声音に、老人は穏やかな笑みを浮かべていた。
 老人の身体は、既に首の辺りまで灰と化している。ばさりと乾いた音を立てて、右肩が崩れ落ちた。

「わしは間もなく消える。だが忘れるな・・・わしは不死なる者。あるいは再び会い見えるときも訪れよう・・・」
「分かったよ、じい様。その時までに鍛えておくさ!!」
「ええええええええ!?」
「ちょ、ちょっとギルバート!?何あほなこと約束してんの!?」
「その日まで・・・しばしの別れじゃ・・・では・・・さら・・・ば・・・だ・・・」

 女性陣からとんでもないブーイングを食らいながらも、ギルは老人へ小さく手を振った。
 老人は完全な灰と化し、消えた・・・。
 半刻後。
 顔をしかめて村を出るよう薦める村長に、誰も一顧だにしていなかった。
 ただ、一応ディマデュオのみならず、かの老人による脅威も取り除いたことを伝えておこうと思っただけである。
 いくらかの事情があったとはいえ、リューンの騎士を殺し、テロリストを匿っていたこの村の未来が明るいとは思えない。
 だが、それ以上村長と言葉を交わそうとはしなかった。
 ”金狼の牙”たちは夜の明けぬ内に村を離れ、空が白み始める頃、中央公路へと辿り着いた。
 ヴィスマールの方角に半刻も歩けば、冒険の出発点ともなったあの宿・・・賢者の選択亭に行くことも出来たが、彼らはリューンへの道を選んだ。

「それに、ちゃーんと土産が届くだろうから大丈夫だって」
「土産?一体何をしたんだ、エディン?」

 さあさあと仲間の背中を押すエディンへ、アレクが問い掛ける。
 彼の白皙の美貌に顔を近づけて、こそっとエディンは囁いた。

「あの騎士のおっさんの遺髪と服の一部を持ってきた。後日、ギルド経由であの宿に送りつける」
「・・・・・・!?」
「朝には村長が村人に事情を説明すると言ってたし、どうせ俺らのやったことばれるなら、多少の意趣返しはしても構わんだろ?」
「・・・・・・まあ、一泡吹かせるくらいはしておきたいと思ってたが・・・そこまでやるか」
「俺はしつこいのが信条なの。いい盗賊はしつこいもんなの」

 すっとぼけた顔で、手をひらひらと動かしてエディンはリューンの城壁を示した。

「ほれ、麗しの我が家ってやつまであと少しだぜ」

※カナンの魔剣、カナンの鎧、隠者の杖入手※

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■後書きまたは言い訳
27回目のお仕事は、GroupAskさんの公式シナリオ・賢者の選択です。Askシナリオをやっていく中で、プレイヤーが初めて魔剣に出会ったり、ラストの選択に一番頭を悩ませたりする作品ではないかと思います。
ディマデュオとの決戦のために【絶対の防壁】をあの洞窟から取って挑んだわけですが、それでも【炎の玉】は痛かったです。そして本当はカナン様、聖水で倒せるらしいのですが、当てられる自信がなかったので鋼鉄の箱頼りで。まあ伝統技ですよね!
せっかくミナスに【黄金色の風】つけてたのに、プレイ中一度たりとも手札に回ってこなくて悲しかったです。

リプレイ中、妙にギルが軽かったりエディンが最後に真っ黒です。キャラクターに好きにやらせてみたらこんな感じになってました。ノリって怖い。
村長の詳細説明時にもっとパーティ側に葛藤があったり同情したりしてもいいのでは・・・とか考えたのですが、相手に殺意を向けられたのが明らかな時点で、”金狼の牙”の場合は仕返しに躊躇しなさそうです。「愛に生きる」キャラが一人もいない弊害ですかね?

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/21 10:14 [edit]

category: 賢者の選択

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Mon.

賢者の選択 4  

 古く粗末な納屋で休息を取った”金狼の牙”たちは、行き先にちらつく無数の小さな灯りに気付き、道端の草むらに隠れてそっと様子を伺った。
 十数個の揺らめく松明を持つ者たち・・・何かを話し合っているようにも見えるが、声は聞こえてこない。
 やがて、松明の灯りが数個ずつに分かれて、速やかに四方に散らばり始めた。

「あれは多分、カナナン村の人たちね。あたしたちがあの封印を解いたのがばれてるんだわ」
「こっちに向かってくる灯りはないな」

 素早く辺りの気配を伺ったエディンが、松明の集まっていた広場に下りた。東へ進む道を行けば、松明を持つ村人たちと出会うかもしれない。
 もう一つ、広場の隅には小さいが堅牢そうな一軒家がある。
 窓には木の雨戸がおろされていて中の様子は分からない。
 扉には鍵が掛けられておらず、聞き耳を立ててみても中からは何も聞こえなかった・・・。

「・・・入ってみよう」

 アレクの意見に頷いた一行は、建物に侵入した。
 玄関から続く薄暗い廊下・・・右手の部屋から灯りが漏れている。
 ”金狼の牙”たちが恐る恐る一歩を踏み出すと、部屋の中から声が掛けられた・・・!

「どなたです?私ならここです。どうぞお入りください・・・」
「・・・ディマデュオの声だ」

ScreenShot_20130118_111715781.png

 一行は一呼吸おくと、彼の待つ部屋へと入って行った。
 暖炉のはぜる音。レンガ造りの壁に囲まれた広い部屋だ。
 壁際には無数の本の詰まった本棚が立ち並び、テーブルの上にもたくさんの書物が積まれている。
 そのテーブルの向こう、こちらに背を向け安楽椅子に腰掛けた銀髪の男の姿が見える。
 どうやら本を読んでいるらしい。

「必要事項は既に伝えたはずですが・・・まだ何か疑問でもおありですか?」

 銀髪の男・・・ディマデュオは、本を閉じ流麗な動作で立ち上がった。振り返り、一行の姿を見て彼は目を瞬かせる。

「これは・・・これは、皆さん。お早いお付きで。もう少し時間がかかると思っていたんですがね・・・」
「・・・ディマデュオ!」
「いい具合に利害が一致したもんでね」

 杖をきつく握り締めたジーニを、エディンが背後にかばう。
 彼のセリフに眉をひそめながらも、呪術士は「遅かれ早かれ、お出でになる事はわかっていました」と言った。
 やはり彼が解かれた封印を察し、村人に捜索を頼んだらしい。

「それにしても・・・とうにグールの餌となって、骨も残らず食われてしまっただろうと思ってたんですが・・・」
「びっくりしたかい?」
「まさか、あれの協力を得て地下墳墓から脱出するとはね。少々、あなた方を見くびっていたようです」

 肩をすくめてみせてからディマデュオは一行に用件を訊いた。

「そのまま中央公路へと向えば逃げられたものを、わざわざ村に戻ってきたんだ。それなりの用事がおありなのでしょう?」

 呪術士は察しはつきますがね、とジーニやミナスの方を見て目を細めた。魔力ある人間ならば、彼らが既に【風刃の纏い】や【野人召喚】で呼び出したものを従えていることに気付くだろう。
 彼らは戦いを挑んだ。
 ディマデュオはすっと腕を空中に伸ばす。次の瞬間、彼の手に魔法の杖が現れる。

「では・・・始めましょうか」

 冒険者たちが、杖を手に詠唱を始めるディマデュオに飛び掛ろうとしたまさにその時・・・。

「お待ち下されっ!」

 横合いからかけられた静止の声に冒険者たちは振り返った。
 見れば開け放たれた扉の脇に酷く憔悴した老人が立っている。

「あら、おじいさん。アンタも加わるつもり?」

 ぞっと底冷えするような声でジーニが脅す。しかし、老人は身を震わせながらも懸命に叫んだ。

「・・・その方を殺してはいかん、いかんのだ。その方がいなくなればこの村は滅んでしまう・・・!」

 老人が身を呈してディマデュオを庇う。
 ジーニはまだ納得がいかないようだったが、ミナスとアウロラが取り成して彼らはようやく武器を降ろした。
 呪術士が小さく「村長・・・」と呟き、構えた杖をおろす。口元に意味ありげな微笑を湛えて。

「村が滅びるって・・・どういう事?」
「まずは・・・わしの話を聞いて下さらんか・・・」

 ミナスの問いに、老人――カナナン村の村長は静かに語り始めた。

 あの祠がいつ頃のものであるか、いつからそこにあるのか・・・知る者はいない。
 それはただ当たり前の風景としてそこにあった。
 村人の中には供え物をする者もいたが、大半は興味を覚える事もなく過ごしていた。
 始まりは些細な事だと、村長は言った。
 祠の周りで遊んでいた子供たちが、偶然に祠の扉を開ける仕掛けを発見し、動かしてしまったのである。

「祠の扉が開いた事は、間もなく村中に知れ渡った。若い衆の中には調べるべきだと訴える者もおったが・・・」

 しかし、たかだか古い祠の扉が開いただけの事だと、それを取り上げる意見はなかったらしい。
 その翌日の事。
 一人の黒いローブを着たみすぼらしい老人が村を訪れ、食堂に立ち寄ると、亭主にこう語ったという。
 「・・・我が安らかな眠りを妨げし下等な猿どもよ・・・お前達は報いを受けるであろう・・・」と。
 さらに、彼は今宵から毎夜、一人ずつ冥府の扉をくぐる事になると脅し、去っていったらしい。
 気の触れた老人の戯言だと思っておった、と説明する村長にジーニはいらいらとしていた。

「馬鹿じゃないの?その時点でちゃんと調べれば良かったのよ」
「その夜、村の若者が一人死んだ」

 容赦のない女のひと言に顔色も変えず、村長は続けた。
 それから夜毎一人ずつ村人が奇怪な死を遂げ、なすすべもなく神に祈っていたところ、偶然この村に現れたディマデュオが事の次第を聞いて単身祠に入ったのだそうだ。村の災厄を取り除いてくれた彼を、この村は恩人と崇めた・・・・・・彼が国家的犯罪者として指名手配されていることを知らずに。
 いや、或いは勘付いていたのだろう。しかし、呪術士の過去に触れる事で彼に去られては、この村がまた滅びの淵に立たされてしまう。

「・・・ここは引いてもらえんかね。ディマデュオ殿がいなくなれば、わしらは再び呪いに脅えて暮らさねばならん」
「騎士を殺しておいてか」

 厳しい表情でアレクが村長を睨みつけた。あの短い刃物による多くの傷は、村の者たちの手によるものだろうと見当がつく。
 アレクの視線に怯みながらも、村長は力なく言った。

「あんた達さえ、忘れて下さればこの村の者はこれからも平和に暮らしていけるんじゃ・・・」
「ご自分たちだけ、平和に。他の者を犠牲にするのを躊躇わず」

 アウロラの呟きは村長に届いていなかったが、仲間たちには十分聞こえていた。彼女もまた怒っているのだ。
 カナナン村の人たちの犯行を「他に手段が無かった」「自分たちのためだった」と抗弁する村長に、もはや冒険者たちは冷たい視線を投げかけるだけだった。村長の瞳に浮かぶ断固とした決意を見ても、彼らには何の感慨も起きなかった。
 それにいち早く気付いたらしいディマデュオは、自分に任せて引き取って欲しいと村長を帰し、彼は一行を見やる。

「・・・聞いての通りです。地下墓地の老人・・・そうあなたがたが力を借りたあの老人です」

 ディマデュオは自分の目的を語った。
 暗く危険に満ちた闇の世界から足を洗い、執拗な騎士団の追っ手を忘れ暮らすにはこの地図にも載らない辺境の小村は最適だった。

「地下墓地の老人が去り、脅威が無くなれば私がここにいる必要は無くなります。それでは意味がない」

 一致団結した村人が彼を匿い恩人として重宝するようになるには、あの老人の存在が不可欠なのである。

「あなたがたに残された選択は二つ・・・全て忘れてこの村を去るか、それとも村人達の犠牲の上に私を倒すか・・・?」
「・・・まだ他に選択の道はあるな」

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 小さな体に溢れるほどの勇敢さを秘めて、彼は言った。

「地下墓地の老人を倒し、お前を倒せば万事解決だ。村人達は犠牲を出す事なく、脅威から永遠に解放される・・・」

 ディマデュオは唖然とした表情で目を瞬かせた。そして彼はヒステリックに笑い始める。

「はは・・・は、はぁ・・・これは失礼・・・ははは・・・。彼を殺す?あなたたちが?ははは・・・」
「・・・何がおかしいの?」
「まだわからないのですか?彼はカナン、旧文明期に滅びたソドム最期の王・・・千年も生きている化物ですよ?」
「知っているわ」

 静かに返答するジーニを不審に思いながらも、呪術士は続けた。

「この私ですら、油断した彼を騙まし討ちで封印する事がやっとだったと言うのに、あなた達ごときが?」
「アンタ、何も分かっちゃいないのね」

 ジーニはやれやれ、と首を振った。

「あたしたちは勇猛な冒険者、逃亡生活に疲れきった呪術士ごときと一緒にしないで欲しいわ」
「勇猛というより、無謀です」
「旧文明の王が相手なら、こっちもこっちで手段があるの。目には目をってね・・・でも、それ以上は教えてあげない。アンタはここで、あたしたちに倒されなさい。そうそう、代わりに倒しておくから合言葉置いていきなさいよ」
「合言葉は”ディマデュオ”。私の名前です。ですが、はたして必要ですかな?」

 そして再び彼らは対峙した・・・・・・。

「・・・よろしいでしょう。それも一つの選択です・・・」

2013/01/21 09:47 [edit]

category: 賢者の選択

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Mon.

賢者の選択 3  

 その後、スケルトンやゾンビに出会ったものの、大過なく退けることに成功した”金狼の牙”たちは、とある扉を開けて後悔していたところだった。
 巨大な石棺の蓋を開けたところで上方に気配を感じ、見上げると女の亡霊がいたのである。

「女の・・・・・・亡霊?」

 やや呆然と呟いたアレクを他所に、彼女はゆらゆらと漂い、何の感情も読み取れない顔で冒険者たちを見下ろしていた。
 しかし、次の瞬間――。

「――――――!!!!」

 女が絶叫した。亡霊は、嘆きの声で人を惑わせ体力を奪う、バンシーという種類のアンデッドだったのだ。

「ぎゃあああ!!」

ScreenShot_20130118_095622781.png

 ほとんどの者がその強烈な悲鳴に精神を冒される中、アレクだけが静かな眼差しをひたと亡霊に向け、詠唱を紡いだ。
 固い指先にバチッ、バチッと小型の雷が呼び寄せられる。その雷は狙い過たず、亡霊の胸を貫いた。
 バンシーは跡形もなく消滅してしまった・・・。

「うー・・・僕まだ耳がツーンてする。痛いよー・・・」
「な・・・なんでアレクシスだけ平気だったのよ・・・」
「これがあれか・・・イケメンの特殊能力ってヤツなのか」

 アウロラの【癒身の結界】で傷を癒されながら馬鹿なことを口にするエディンに、半ば本気で頷いていたギルが言った。

「・・・ん、奥の方に何かある・・・」

 石棺の奥をまさぐっていた彼の手が、棒状の何かを掴む。取り出してカンテラの灯りにかざしてみると、ミイラ化した腕だった。

「うげっ!気持ちわるっ」
「捨てんな、リーダー!それがじじいの左腕だ」

 諭されたギルは、涙目になりながらも変色したそれを荷物袋に納めた。
 もうこんな所に長居は無用と、一行は前に通ったのとは違う通路を通って、老人のいた部屋へ戻ろうとする。
 その途中あった西壁の扉の前で、ふとジーニが足を止めた。

「どうかしましたか?」
「ここ、何か杖が反応するのよね。エディ、ちょっと見てくれる?」
「ん?」

 鍵や罠はないと断言され、ジーニは静かに扉を開けた。
 その向こうは大きな部屋だった。四方を囲む壁に美しい装飾が施されている。天井もずいぶんと高い。
 部屋の奥に大きな石棺が置かれている。

「おいおい、またかよ・・・」

 及び腰になるギルを放って、ジーニは棺に近づいた。
 表面には美しい紋様が彫り込まれている。かなりの年代物に違いない。側面に刻まれた旧文明期の文字を、彼女はゆっくり読み上げた。

「『麗しの都・・・ソドムの王・・・偉大なるカナン・・・』?」
「どうやら、この棺はカナンと呼ばれる人物のものらしいですね。ここはその人の墓所のようです」

 アウロラが言うのに、ギルが首をかしげた。

「随分と身分が高かった人みたいだけど・・・その割には質素な造りだな」

 石棺に蓋は乗せられていない。”金狼の牙”たちは中を覗き込んだが、空だった。
 何も無かったことにいっそうのうそ寒さを感じ、首をすくめると彼らは部屋を出て、今度こそ老人の待つ部屋へと向かった。
 刻み付けられた古代文字と見つけた魔法の武具、そして村の名前に何かを考え込んだジーニを促して。

「・・・腕を持ってきたのかね?」
「ああ。ほら」

 エディンが荷物袋から目的のものを取り出すと、老人に渡した。

「おぉ、二本とも持ってきたか。重畳、重畳・・・」

 干からびた腕を受け取った老人は、無造作に腕の付け根を合わせる。
 やがて、合わせ目の辺りが黄色く輝き始めた・・・。
 光がおさまった頃、腕はまるで何事もなかったかのように繋がっていた。緑色だった皮膚も血色のいい肌色に変貌している。

「うむ、これでようやく元通り、力が使えるようになったわ。後は・・・」

 その時、扉が乱暴に開けられ、数名の人影が室内に入り込んできた。咄嗟に、冒険者たちが己の得物を構える。
 見覚えある姿にアレクが「ワ、ワイト!?」と声を上げるが、老人は落ち着いたままだった。

「慌てるな、馬鹿ども・・・そやつらはわしの忠実な下僕じゃ」
「・・・下僕!?」

 アウロラが柳眉をひそめる。

「腕が戻り、ようやく我が支配下に取り戻す事ができたわ。全く、不自由な事よの・・・」

 老人はワイトの前に進み出た。その姿には、この世ならざる威厳が感じられる。

「・・・下僕達よ、わしの寝所をうろつく汚らわしいゾンビやグールどもを早々に片付けるんじゃ」

 老人がさらに崩れている廊下の修復をも命じると、空ろな目をしたワイトたちは無言で頷き、身を翻した。

「さて・・・次はお前達の始末じゃな」
「・・・・・・」

 用心深く眠たげな目をもっと細めたエディンに、ふっと老人は笑った。嫌な笑い方だった。

「案ずるな。約束じゃ。ちゃんと表に出してやるとも・・・お前達にはまだやってもらわんとならん事があるでな」
「やってもらう事・・・?」
「わしはまだ表に出る事が出来ん。呪術士の若造が張りおった結界は存外に強力じゃ」

 わしの力を持ってしても破る事はできん、という老人に、ギルは無遠慮に言った。

「なんだ、じい様でもダメなのか」
「ギ、ギル・・・」

 慌てて幼馴染が彼の口を手で塞いだ。代わりに老人へ続きを促す。

「しかし・・・生あるお前達であれば、呪法は及ぶまい。我が魔法により、表へ飛ばす事も可能なはずじゃ」
「・・・ただではないだろう」
「もうわかるな?表に出してやる代償としてお前達にはあの呪術士の若造を殺してもらう」

 依頼ではない、命令だと念を押した老人は、かすかに頷いたアレクに満足そうに笑い、目を閉じるよう言った。
 老人の声に底知れぬ力が感じられる。冒険者たちは逆らう意志すらなく、素直に老人の言葉に従った。

「・・・闇夜をさまようものよ・・・我、ここに死者と不死者の王として命ずる・・・」

 しばしの別れじゃ・・・そう、老人は詠唱の最後に呟いたようだったが、判然としない。

「・・・・・・ここは・・・」

 次に目を開けた時、彼らの姿は小高い丘の上にあった。
 アレクが現状を把握しようと振り返ると、彼らの背後に古い石造りの祠がある。
 丘から見下ろした先には、カナナンの村があった。

「随分とあの墓所で時間を食ったみたいだ。どっかで休もうぜ」
「リーダー・・・本当に、あのじじいの言うこときくのか?」
「じい様は関係ないよ。俺がそうしたいからするのさ」

 金に輝く戦斧を肩に担いだギルの顔を見直して、エディンは小さく息をついた。

「・・・まあ、俺もあの野郎には仕返ししたいからな」
「ミューゼル卿の仇くらいはとってあげたい、と最初に申しましたし」
「ギルを放っておくとろくなことにならんのは、昔から知ってる」
「皆が行くなら、僕はどこまでも一緒だよ!」
「ジーニは?」

 ギルに意見を促された魔法使いは、じっと杖の髑髏を見つめてから顔をあげて言った。

「分かってるの?あの老人、恐らくは死霊術の比類ない使い手なのよ?多分、ソドム王国の・・・」
「やばいヤツなら、約束守らないと余計やばいんじゃね?」
「・・・・・・・・・あー、もう!分かったわよ、確かにギルの言うとおりだしね!」

 王だろうが死霊だろうがテロリストだろうが、来るなら来いと息巻くジーニに、仲間たちは笑った。

2013/01/21 09:42 [edit]

category: 賢者の選択

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Mon.

賢者の選択 2  

 老人は言った。
 自分は魔術の心得がある、あの呪術士がこの地下墓地の何処かに隠した老人の腕を取り戻してくれたら、報酬の代わりにここから脱出させてやろうと・・・。

「あのじじい、年老いた魔術師だ以上のことは言わなかったな。盗賊としちゃ、金になる報酬も欲しいとこだが」
「それで十分だろうとあしらわれましたからね」

 通路の暗がりから現われたゾンビたちをあっけなく退けながら、一行は先程の老人について話し合っていた。

「それにしても・・・っと、この扉はどうだ?えーと・・・鍵が掛かってるな・・・」

 墓地には名工の手による錠がかかった扉が複数あり、エディンはさっきから苦戦を強いられていた。
 これの前には、武器庫らしき様々な種類の武器が飾られた部屋で、奥の壁に掛けられていた両手持ちの大剣を手に入れていた。
 大剣はまるで打ち立てのような鈍い光を放っており、刀身がうっすらと青白く光っているように見えたのである。

ScreenShot_20130118_085953796.png

 アレクが剣の柄に触れると指先に軽い痛みが走ったのは、氷の様に冷たいからだった。
 持っているだけで指先が凍傷になる、とぼやきながらも、彼は今それを背に負っている。

「・・・開いた!」

 エディンが小さな歓声を上げて扉を開いた。ミナスとジーニは、すでにそれぞれ召喚魔法を準備してある。
 そこもまた、大きな部屋だった。何の装飾もされていない。
 ・・・部屋の奥に何か青白く輝く物体がある。

「これは・・・」

 アレクが呟いた。精巧に作られたその金属鎧は、彼の背負っている剣と対になるもののように思える。
 石造りの鎧立てからそれを取リ外すと、やはり氷の様に冷たい。

「この鎧、旧文明期の王国ソドムの様式で作られているわね。・・・強力な魔力が秘められているから、魔法への抵抗力も増大させてくれるはずよ」

 鎧をしげしげと見つめたジーニが鑑定結果を口にすると、ギルは困ったように首を横に振った。

「いや、残念だがこいつは俺やアレクとは体型がちょっと合わない。ベルトを調節し直せば、なんとか着られるかもしれないが・・・」
「とりあえず持っていくだけにしとくか。今回、どこからも報酬は出ないんだからな」

 エディンの意見に全員が賛同した。
 ・・・やがて彼らは、ある北壁の扉を開けて中に入った。
 その部屋は今までと同じ中央に石棺のある部屋だったが、石棺の中身が違っていた。

「穴が開いてるね!」
「この大きさなら、全員通る事は可能よ」
「垂直に折れ曲がった後、北の方へとのびてるようだが・・・リーダー?」
「行こう。他に行くところもないしな」

 冒険者たちは穴に潜り込み、先へと進んだ・・・。
 細い通路は行き止まりとなるが、上へと続く穴がある。”金狼の牙”たちはゆっくりと立ち上がった。

「これ、石板ですね」
「どいてくれ、アウロラ。ギル、手伝え」
「はいよっと」

 メインウェポン二人が力を合わせて石板を手で押してみると、動く。
 どうやらそれは石棺の蓋だったらしい・・・彼らが穴から這い上がると、穴の入り口となった部屋と似たような感じの部屋に出た。
 扉がひとつあり、内側の錠を外して通路に出る。
 床を調べても通路に違いがなかったので、一行はギルの勘にしたがって西に進むことにした。

「む・・・これはさっきのと同じ呪法の札か・・・」

 突き当たりの扉を調べていたエディンが唸った。老人を閉じ込めた札ということは、腕はここに封じているのかもしれない。
 仲間たちの同意を見て取ると、彼は静かに札を破きながら扉を開けた。
 ”金狼の牙”たちが周りを見渡すと、部屋の中には四つの大きな石棺が整然と並べられていた。

「何かしら、あれ?」

ScreenShot_20130118_092506890.png

 細い指が示したのは、奥の壁に鎖で吊り下げられた棒のようなもの――ミイラ化した右腕だった。
 エディンが静かな足取りで石棺の間を通り、その腕を手に入れる。
 完全に干からびたそれは、皮膚の色が緑色に変色している。エディンは若干の吐き気をこらえながら、それをバックパックに詰めた。

 ぴたん・・・ぴたん・・・。

「・・・水?」

 ジーニの首筋に冷たい滴が落ちる。首筋に手をやり、何気なく天井を見上げると・・・。

「ひっ」

 天井に皮鎧を着た人間が張り付いている!
 土色の肌の周りを取り巻く黄色い光を見て、エディンが叫んだ。

「ワ・・・ワイト!?」

 彼ら四体のワイトは、天井に張り付いたままこちらの様子を伺っているようだ。
 エディンは迷った。体勢を整えるべきか、刺激しないよう逃げるべきか・・・。
 結果、彼は逃走を選択する事にした。目でそっと合図をして、仲間たちから先に通路へと逃がすようにする。
 殿についたエディンは、ワイトの動向を見守りながらゆっくりと扉に近づいた・・・。

「あと少し・・・」

 つう、と冷や汗が焦りを呟いたギルのこめかみを伝った。
 すると、まるでそれに呼応するかのように、突然ワイトの一匹が奇声を発した!

「やばい!エディン、急げ!」
「だめだ・・・逃げ切れない!!」

 エディンは腰の細剣を引き抜いて、天井から落下してきたワイトに向き直った。
 アレクとギルは踵を返し、彼の隣に立つ。「こいつら・・・確か・・・」と洩らしたアレクに、エディンが反応した。

「ああ、ゾンビパウダーの密売組織との戦いで出てきただろ。ワイトは人間の精神力を吸い取る能力を持ってる」
「・・・ずいぶんと詳しく覚えてるのだな」
「若い頃にも、ちょっとな」

 それぞれ、対複数への技として【花散里】と【風切り】を準備していた二人は、言葉を交わしながらワイトの爪を武器で防いだ。
 エディンが口にした能力がある以上、後ろの魔法使いたちにワイトの攻撃を通すわけにはいかない。
 しかし、心配は杞憂だったようである。ギルの【風割り】でまず一体が仕留められた。二体のワイトもエディン&アレクの波状攻撃と、召喚された旋風や野人に攻撃され、その動きを止める。
 残った一体も、再生はしたもののジーニの【魔法の矢】に射抜かれ、戦闘が終わってみるとアレクがかすり傷を負っただけだった。
 アウロラがその傷を法術で癒す。

「この石棺、ワイトのだったんだな」

 保証するエディンの向こうで、不心得者なギルがつま先で棺を蹴った。
 罰当たりな仕草にアウロラが眉をしかめたのを見て、慌てて足を引いた。休火山をわざわざ目覚めさせることはない。
 反省する様子を見せたリーダーに軽くため息をつくと、アウロラは「終わりましたよ」と癒した腕をぽんと叩いた。

2013/01/21 09:38 [edit]

category: 賢者の選択

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Mon.

賢者の選択 1  

 ぴちゃん、と水滴の音が響いた。
 暗い石造りの部屋の中、かび臭い空気に眉をしかめて呼吸しながら、”金狼の牙”たちは車座になっていた。
 傍らには、立派な鎧に白い胸当てをつけた騎士の死体が横たわっている。
 おもむろにギルが口を開いた。

「えー、では頭の悪い俺のために、分かりやすい現状説明を頼む」
「あんたねえ・・・ま、いいわ。あたしたちはミナスの母親がもしかしたら隠れ里近くの都市に潜んでいるんじゃないかと考え、行商人の護衛がてらヴィスマールへ行ってみた」
「結局、お母さんは見つからなかったからリューンに帰ることにしたんだけど、野宿が多くてうんざりしてたんだよね」
「そうそう。んでリーダーが、『揚げじゃがの匂いがする!』つって、賢者の選択亭ってとこに走っていったんだろうがよ」
「・・・・・・俺たちが温かい食事にひと段落つくと、騎士が宿に入ってきた。彼の名はミューゼル卿、中央公路沿いの村々を視察しているリューン騎士だと言っていた」
「ミューゼル卿はカナナンの村というところで村人の挙動に不審を抱き、ひそかに監視するうち、国家的犯罪者である呪術士ディマデュオの姿を発見したのです。卿は村を大人しく去ると見せかけ、呪術士を捕らえるための人手を探しました」
「それで僕たち、近くに騎士団や治安隊がいないからってミューゼルさんに雇われて、村の監視をすることになったんだよ。宿の主人に、リューンへお使い頼んでからね」
「・・・だよな?それがどうして、俺たちこんな所にいんの?」
「・・・覚えてないんですか?」

 しきりに首を傾げるギルへアウロラが尋ねるが、本当に彼は覚えていないらしく、ため息混じりにやれやれと説明を始めた。

「村の監視を始めた途端、ディマデュオに先手を打たれて眠らされたんですよ。賢者の選択亭のご主人が、村への内通者だったんです」
「あっ・・・・・・!」

 ギルの脳裏に、やっと白い霧のような【眠りの雲】のガスと、その向こうに立つ人物が浮かんだ。深緑のローブに身を包んだ40歳がらみの男と、自分たちに冷たいエールや熱々の料理を運んでくれたはずの固い表情をした宿の主人。その後ろにいる数多くの人影・・・。

「思い出したな?・・・まあ、そう言うわけだ。ミューゼル卿はナイフのようなもので滅多刺しにされてる。血の量からすると、別の場所で刺されてから俺たちと一緒に放り込まれたらしい。くそっ!!」

 エディンが声を荒げて床に拳を打ちつけた。滅多にないことだけに、びくりとミナスが身をすくませる。

「俺としたことが、あんなしょぼくれた中年の正体を見抜けないとはな・・・。宿屋で気づかなかったのが苛立つぜ・・・!」
「済んだ事をあれこれ言っても仕方ないわよ、エディ」
「ミューゼル卿は、私たちのような冒険者にまで礼儀正しい方でした。彼の仇くらいは取ってあげたいですね」
「・・・俺としちゃあ、個人的な恨みのほうが強いけどな。まあ、気持ち切り替えていくか」

 大声を出したことである程度は気も晴れたのだろう・・・エディンは仇発言には苦笑で返しながらも、立ち上がって頑丈そうな扉を仔細に調べ始めた。
 扉の向かいにある石造りの門の道は、途中で巨大な岩盤にふさがれていたのを確認済みである。人間の力では除去する事は不可能だ。

「古い扉だ・・・鍵や罠は見当たらない」

 蝶番が軋みをあげる音を響かせながら扉が開く。その向こうは、真っ暗な通路が続いていた。
 少し進むと、北壁に扉が一つある。

「開けるぞ・・・」

 素早く調査を終えたエディンがそっと扉を押すと、そこは小さな石造りの部屋だった。
 部屋の中央に大きな石棺が置かれている。その周りの床の上には石の破片が無数に散らばっている・・・。
 そこまでを見て取ったアウロラの顔が青ざめたのを見て、ギルが声をかけた。

「どうした?大丈夫か?」
「ええ・・・。部屋の様式からすると、私たちが閉じ込められているのはどうやら、旧文明時代の地下墓地・・・のようです」

 アウロラの言葉を裏付けるかのように、アレクとエディンが無造作に開いた石棺の中には、人間のものらしき遺体が納められていた。半ば朽ちた衣装は確かに旧文明期のものだろう。
 ジーニが静かにそれを観察して言う。

「・・・死体の首が鋭利な刃物か何かで胴体から切り離されているわ。いったい誰がこんな事を・・・?」
「ろくでもない予感しかしない。とりあえず、墓だと分かったんだしここから離れよう」

 ”金狼の牙”たちがしばらく進むと再び北壁に扉を見つけたが、恐らくさっきと似たような部屋だろうとアウロラの意見があり、入ることはやめておいた。
 さらに歩を進めると、今度は東壁に扉がある。

「罠とかはないが・・・この札、古代文字か?」
「どれ?ふーん、呪法に使用する札のようね」

 エディンの疑問に、札を覗き込んだジーニがそう判断する。
 急にしっ、と人差し指を口の前で立てた盗賊が、そっと床に耳を当てた。

「・・・かすかだが、がちゃがちゃと金属が触れ合う音が聞こえてくる」

 じっと話を聞いていたギルが言った。

「ジーニ。これって、剥がしたら呪われるとかそういう奴?」
「いいえ。文字の綴りからすると、中の存在を封じるための何かっぽいわね・・・この魔力、どっか別のとこと繋がってるくさいなー」
「ディマデュオかな?」
「多分ね」
「そうか。んじゃ」

 ギルは扉を躊躇なく開けた。札は音もなく破れ、地面へと舞い落ちた・・・。

「ええええええ」

 あまりの迷いの無さに、アウロラが間の抜けた抗議の声を上げる。
 アレクが「おい」と言って肩を掴むのに、ギルが不思議そうに返した。

「札がディマデュオの作ったものなら、あの気に入らない男の邪魔が出来るチャンスってことじゃん」
「・・・お前、この向こうにあるのが、俺たちの手に負えない何かだったらどうするんだ。あいつが封じてたんだぞ?」
「封じてたってことは、呪術士の敵だろ。敵の敵はとりあえずの味方・・・かもしれないし」

 彼はぐっとノブを引いた。
 ・・・中は広い部屋だが、他の部屋同様、床や壁は全て石造りだった。
 部屋の奥には、黒いビロードのローブをまとった老人が、頑丈な鎖で壁に縛り付けられている。

ScreenShot_20130118_082721140.png

「・・・誰じゃ?」
「・・・あなたはいったい・・・?」

 アレクの問いに、老人はしばらく無言を貫いていたが、不意にくっと口の端を持ち上げてみせた。

「・・・なるほど、村の者ではないんじゃな。村の呪術士にこの地下墓地に閉じ込められた・・・そんなところか?」
「・・・・・・」

 ミナスが黙ったまま、正体を訝って老人を見つめた。

「・・・わしかね?わしはこの墓地の主じゃ。あの若造にしてやられてな、この有様じゃよ」
「じい様も、あの野郎にやられたのか」
「その様子では出口を探しておるのだろう。気の毒じゃがな・・・この地下墓地に出口はない」
「なんだって!?」

 気色ばむアレクに、老人はぼそぼそと応える。

「・・・ある事はあるが、巨大な岩盤とあの忌々しい呪術士の魔法で封じられておるわ」
「なるほど。じゃ、あの札と繋がってた魔力は石造りの門の・・・」

 老人の説明に納得しかけていたジーニが、ふと口を噤んだ。
 彼女の持つ≪死霊術士の杖≫が、かすかではあるが小刻みな波動を繊手に伝えている。
 それには気づいていないのか、老人は諦めてグールにでも食われてしまうんじゃな、と続けた。
 しかし、そこでミナスがアレクの背中にしがみ付いたまま、哀しげな声を上げた。

「・・・この地下墓地から抜け出す手段はないの?」
「・・・・・・」

 老人はゆっくりと小さなエルフを見つめた・・・。

2013/01/21 09:35 [edit]

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Sun.

花を巡りて・・・ 6  

 一際広い異様な部屋の中にあったのは、今までに見たこともないような装置だった。
 中央の透明な筒状のモノの中にあった怪物は、今や”金狼の牙”たちの目の前に倒れている。
 3メートルを越える、深紅の巨躯に鋭い牙と鍵爪を持つ・・・・・・炎の悪鬼、バルログ。
 正体を看破したジーニなどは、見た瞬間に悲鳴を上げた。
 とはいえ、バルログが冷気に弱いことも承知していたので、一行はジーニの助言に従い、冷気属性の攻撃を主軸に戦ったのである。 

「ディーンのお母さんに、どう顔向けすればいいんだよ・・・」

 涙をこぼすミナスを慰めようと、ギルは亜麻色の頭を不器用に撫でながら言った。

「・・・お前一人が思いつめることではない。放置しておけばヤツはさらに成長し、手がつけられなくなっていただろう・・・」

 そして、成長したバルログはレピア村に牙を向いたかもしれない。それは極めて可能性の高い未来図だった。

「俺たちが倒したのはただの怪物だ。ディーンは今ごろリューンで頑張ってるんだ・・・そう考えようぜ」

 そして一行は、バルログのいた部屋のさらに奥へと進んだ。
 最後の部屋に入った”金狼の牙”たちは、瞬時に独特の空気を感じ取った。
 いつかと同じ、神秘的な・・・。

ScreenShot_20130116_153411281.png

「・・・フィロンラの花・・・あの時と、同じ・・・」

 ジーニが呆然とした様子で言う。
 彼らが見覚えのある花の筒に近付くと、不意にその筒が開き、花がこぼれ出てきた。

「おっとっと・・・・・・」

 ミナスが慌てて駆け寄り、それを拾い上げる。

「・・・これで、せめてレミラさんは喜んでくれるかな・・・」
「ああ・・・さあ、早く届けてやろうぜ」

 哀しそうに目を伏せたミナスを、アレクがそう言って慰める。
 一行は洞窟を後にし、レピアへ向かった・・・。

「・・・村長への報告は、後でも出来るだろう。今は一刻も早く、この花をレミラさんに届けようぜ」
「ええ・・・そうね」

 夕暮れ前に村にたどり着いた冒険者たちは、大人コンビの指示でレミラの家へと足を向ける。
 まずミナスがノックした。ところが返事が無い。

「・・・あれ?どこかへ出かけてるのかな?」
「まあ、じきに日が暮れれば帰ってくるでしょう。中で待たせてもらいますか?」
「そうだね・・・」

 失礼します、という言葉と共にドアを開けたミナスは、一瞬にして声を失った。
 レミラの母親が、床に突っ伏していたからだ。すぐさま助け起こす。

「ど、どうしたの!?大丈夫?しっかりして!」
「・・・ミナスさん・・・みなさん・・・大丈夫・・・いつもの事です・・・少し・・・休めば、すぐ・・・」

 顔をあげ、うつろな視線で見上げ、あえぐようにミナスに声をかける。アウロラが脈を計りながら彼女の様子を窺うが、症状は軽くないことが見て取れる。

「お、お母さん!しっかりして!!」

 そこにちょうど外から聞きつけたのか、レミラが慌てて入ってきた。
 冒険者たちの手助けを受け、慣れた手つきで迅速に介抱を進めていく・・・。
 ・・・ようやく落ち着きを取り戻したのは、1時間以上も経ってのことだった。それまで荒かった呼吸も、今では安らかな寝息に変わっている。

「レミラさん・・・」

 ギルが呼びかけると彼女は全員を外へと促し、澄んだ小川の土手まで移動した。強張った雰囲気を何とかしようと些細な話題から切り出すものの、ミナスが不安そうな顔で固まっているのを見て、レミラは決心したように口を開いた。

「・・・ごめんなさい。私、みなさんに隠していたことがあります。実は、お母さんは・・・あの病気にかかっているんです」
「・・・!!まさか・・・」

 一番先に反応したのはエディンだった。

「・・・そうです。不治の病・・・現段階でどうしても治らない病気・・・フィロンラの花を除いて」
「・・・なんてこった・・・」
「もしかして、レミラさんが医術研究の道を志したのは・・・」
「・・・ええ、そうです。全ては母の病を治すため・・・」

 レミラの話では、すでに母親は半年くらい前から発作を起こしているという。
 幼い頃に違う病気で父を亡くしたレミラは、今度こそ何かを為そうと医術研究の道へ進んだ。
 彼女は続ける。

「・・・フィロンラの花があるという情報が入り、私が同行すると決まった時・・・なにがなんでも手に入れて、お母さんを治してあげようと、最初は思ってました・・・でも」

 そこで顔を伏せる。

「先生が必死に探して、やっとの思いで見つけたフィロンラの花・・・それに・・・みなさんが、ボロボロになって私をここまで連れてきてくれて、花を取ってきてくれたと思うと・・・」
「・・・・・・・・・」
「胸が痛くて・・・どうしたらいいのか分からなくて・・・」

 レミラは涙を流していた。
 今までずっと悩んできたのだろう。支えが外れたように、涙があふれ出てくる。

「おかしい、ですよね・・・フィロンラの花を手に入れるつもりでなら、こんなこと話さないで・・・黙って・・・私が皆さんから受け取って、先生には私から嘘の報告すればいいのに・・・」

 答えの出ない彼女は、ついに言った。「その花をどうするか・・・みなさんで決めて下さい」と。
 議論は白熱した。ミナスはレミラの母を救うべきだと主張し、ジーニは特効薬のためにヴィアーシーに渡すべきだと反論する。
 レミラの母が特効薬の完成までもつという保証は無く、花は一輪しかない。
 全員がギルの決定に従うと頷いた時、ギルは迷わずに言った。

「フィロンラの花は・・・・・・」

ScreenShot_20130116_162540750.png

 ――その後、彼らはリューンに戻ってきた。
 彼らはヴィアーシーのもとを訪れ、報告と調査結果として日誌を渡してきた。・・・レミラは同行していなかった。
 彼女は、一行に報酬の1500spと、ヴィアーシーからの預かり物を託し、レピアに留まったのだ。
 預かっていた物をヴィアーシーに返し、偽りの理由を話した。
 ・・・彼は、気づいていたのかもしれない。だが、彼は何も尋ねず、一行が返そうとした前金も受け取ろうとはしなかった。

「・・・・・・本当にこれで良かったのかしらね、エディ」
「さてねえ。正解なんてものはないからな」

 ジーニとエディンは他の面子が部屋に入って休むのを横目に、一階で酒を酌み交わしていた。

「ただ、リーダーなりに感じ取ったんだろうよ。レミラさんが医術研究家としての道を閉ざす覚悟もしてたってこと。大勢の患者を捨ててまで母親救っちゃ、もう胸張って研究を続けられねえ」

 ぐびりとエールを煽る。

「それでも、たった一人の母親失くすよりゃマシだって思ったんじゃねえか?あいつも母子家庭だからな」
「辛い思いするでしょうね、レミラさん。後ろ指さされるって言うのは嫌なものよ」
「あの人なら、逃げずに受け止めるさ。俺らは精々、彼女のおっかさんが長生きしてくれることを祈ろうぜ」

 杯を掲げたエディンをしばらく見やり、やがてジーニも自分の持つワイングラスを捧げて祈った。

※収入2000sp、≪宝石(400sp相当)≫≪コカの葉≫入手※

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■後書きまたは言い訳
26回目のお仕事は、がじろーさんのシナリオで花を巡りて・・・です。Askさん作「遺跡に咲く花」とのクロスオーバーなので、前述のシナリオをやってから開始すると色々感慨深いですね。あと、こちらは同氏の「護衛求む」や、ブイヨンスウプさん作「竜殺しの墓」にも対応している台詞があるので、プレイされた方はにやりとされるかもしれません。
「竜殺しの墓」から今作をやるのは、一度レベル上げてからドレインしないとちょっと辛いですけれども。(笑)

最後のエディンとジーニのシーンはオリジナルです。
蛇足かなとは思ったのですが、リーダーであるギルがその選択を行った理由を、一歩離れた位置から推測させたかったので、このような書き方となりました。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/20 17:13 [edit]

category: 花を巡りて・・・

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Sun.

花を巡りて・・・ 5  

 見つけた洞窟の内部は明るかった。光ゴケ、あるいは魔法で壁や天井から発光させているのかもしれない。
 明らかに自然の洞窟ではなく、人の手がしっかり入っていた。
 無限回廊の罠に嵌まり、慌てて引き返したところをムカデ型のゴーレムと一戦交える羽目に陥った一行は、鍵の掛かる小部屋で身体を休めていた。
 これほど消耗しているのは、以前出会った大ムカデと一緒で頭が弱点だと思っていたのが、ゴーレムの特性で別の場所に埋め込まれた「核」が弱点だったためである。

ScreenShot_20130116_143419171.png

 小休憩を終えると、一行はエディンが無限回廊の近くにあると睨んだ場所の所まで引き返した。

「・・・あったぜ。本物の通路だ」

 壁の凹みに紛れるようにしてあったスイッチを押すと、一部がスライドして隠し扉が現われた。
 扉を潜ると、さらに長い通路が続いていた。途中で二手に分かれており、”金狼の牙”たちは真っ直ぐ進んだ。だが、行き当たりの扉は特殊な鍵が必要なようで、エディンの技術では開かないという。
 仕方なく一行は分かれ道まで引き返し、もう一つの扉の方へと向かった。

「・・・ここは書斎のようだな」

 呟いたエディンが辺りを探索すると、一冊の本が目に付いた。どうやら、研究の進み具合が日記形式で綴られているようだ。
 ジーニが手渡された本を手早く捲り、関係のありそうな項目をざっと洗い出した。

「いくわよー。『私の思った通り、この遺跡は幻の花「フィロンラ」を人工的に培養するための施設だった。そのための設備や資料もわずかながら残っていたのは幸いだった』・・・ふーん」
「あ、やっぱりここって、フィロンラの花に関わりあるところなんだね!」
「『これがうまく行けば、世界では難病と言われているあの病気が全て、いとも簡単に治ってしまうのだ。なんという素晴らしいことか・・・・・・』面白くないなあ」
「え、何が?」
「いや、真っ当すぎて何か癇に障るわあ」
「ジーニ・・・・・・」

 呆れたようにアレクが言う。「冗談よ、冗談」と流すと、ジーニはその先を続けた。
 5月1日まで設備を四苦八苦しながら作っていく様子が書かれており、3つのポットまでを復元して培養を始めることにしたとある。
 フィロンラの研究がひと段落した日記の主は、遺跡に残っていた他の書物を漁ってみたらしい。
 星の研究から、物の運動。当時の文学から人工生命体まで・・・・・・。

「ここから、どういうわけか日付が飛んでるのよね。『私は大きな勘違いをしていた。この遺跡でのフィロンラの研究は、2次的なものに過ぎなかった』」
「へっ!?だって、それが目的でここに来たんじゃ・・・」
「ところがどっこい、『本当の研究は、人工生命体に関してだったのだ』とか書いてるわよ。強力な生命体を作れるかもとか・・・こいつ、なんかに取り憑かれてたんじゃないかなあ」
「・・・考えられるのは、人工生命体を作成していた古代魔術師の妄執、か?」
「もしかしたらね~。しばらく生命体の研究データが続いてるわ。あたしに詳細はわかんないけども・・・お、最後に正気を取り戻したっぽい・・・」

 唐突にジーニが鼻に皺を寄せて唸った。エディンが「どうした?」と訊くと、本当にこれ以上続けていいのかと聞き返される。
 わざわざそれを口にするということは、ろくでもない内容に違いない。ギルはしばらく上を見て考えていたが、ジーニに頷いてみせた。

「覚悟してよね。『操られていたとはいえ、人間の手で・・・強力なモンスターを作るなどと・・・神を冒涜するような行為だ。あまつさえ、私の作った生命体が不安定であるため、村の青年を一人拉致し、融合させるということまでしてしまったようだ。何と言うことを、私は・・・』」
「・・・・・・!まさか・・・」
「『いずれ、ヤツは完全な姿になり、世に災厄をもたらすだろう。これを見た者がいれば、何とかあの装置を破壊してほしい』って。自分でその生命体とやらを始末するつもりで、果たせなかったくさい」

 眉をひそめて呟いたエディンに構わず朗読を続けたジーニは、そこでハーッとわざとらしく大きなため息をついて肩をすくめた。

「好奇心に負けて得体の知れない書物を荒らし、何かに取り憑かれて魔法生物作った挙句、それを始末もせずに他力本願するってどういうことだろ。これだから、禁呪に手を出すようなヤツは信用ならないのよね」
「・・・日付からすると、ディーンがいなくなった期間とちょうど合うな」
「成長過程としては充分・・・か」
「この本は持ち帰ったほうが良いでしょう。ヴィアーシーに渡せば役に立つかもしれないしね」

 同意したギルが、ジーニの手にある日誌に小さな鍵がくっついているのに気づいた。
 一見しただけでも、特殊なつくりをした鍵だと分かる。

「・・・隠蔽魔法で隠してたのかしら?」

 指摘されたジーニが鍵を手にする。

ScreenShot_20130116_151339250.png

「俺たちに託すって意味かもな」

 ギルがそう言ってため息をついた。
 今までの朗読に間違いが無ければ、彼らが向かう先にいるのは「ディーンだった」者である。気も重くなろうというものだった。

2013/01/20 16:54 [edit]

category: 花を巡りて・・・

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Sun.

花を巡りて・・・ 4  

 レピア村には夕刻前に着くことが出来た。
 実はこの前に、”金狼の牙”たちは興奮して見境無く暴れる――コカを大量に齧ったのか、それとも何者かが落とした麻薬を服用したのか――ミノタウロスを退治してきたところだった。

「お疲れ様でした。ここがレピア村です」

とレミラに言われた時は、思わず全員が息をついたものである。
 彼女の案内で村長に面通しした一行は、温和そうな村長から歓迎の言葉を受けた。

「・・・ところで、しばらくここに滞在するということですが、何か目的があるのですか?」
「ええ、実は・・・」

 ギルが手短に事情を説明すると、確かに魔道師とおぼしき人物がこの村に居住しているそうだ。
 村人からの情報収集がスムーズになるよう、村長から手を回しておくと言われ、冒険者たちは礼を述べた。

「では村長さん。今日中にやりたいこともあるので失礼させていただきます」
「・・・ああ。皆さん、少々お待ち願えますか?」
「・・・・・・?」

 ドアノブに手をかけていたギルが振り返ると、村長は苦渋の表情で話を切り出した。

「いえ・・・実は少々頼みたいことがあるのですが。みなさんのお仕事の片手間でけっこうですので・・・」
「・・・頼みたいこと?」

 席に戻ったミナスが聞き返すと、村長は、

「ええ、実は・・・最近、この村で行方不明者が一人出たのです」

と言った。
 のどかな村にしては物騒な話題だと、冒険者たちはすっかり聴く体勢になっている。
 失踪したのは湖のそばにある家の三男で、ディーンという青年。彼の都会に憧れていた日々の言動からすれば、家出してリューンに向かったなども考えられた。すでに彼が行方不明になってから一ヶ月も経つらしい。
 見つけろとは言わない、調査した考えを伺うだけで結構だと言う話に、先走ったミナスが出来る限りの協力をすると約束してしまった。

(まあ、これくらいなら構わないか)

 とかく楽観的なギルは、それをとがめることはしなかった。
 村長の家を出た後、レミラを気遣って実家に返した一行は、ディーンと言う青年の行方について少し話し合った。

「行方不明者、か・・・どう思います、ジーニ?」
「家出・・・盗賊団などによる拉致・・・薬草などを探して帰れなくなったというセンも・・・」
「ふむ・・・」
「とりあえず、魔術師の住処と一緒に、情報を集めてから判断するしかないわね」
「・・・よし、日が暮れる前にできるだけ多くの情報を集めるぞ」

 リーダーの言葉に頷くと、”金狼の牙”は急いで聞き込みを行った。

ScreenShot_20130116_134110843.png

「魔術師は人を治す薬の開発に来たと言ってた、か・・・・・・主張はまともだな」
「子どももいいおじさんだったと証言しています。でもここ一ヶ月くらい見ないって、嫌な符号ですね」
「最後に見た時、足元がおぼつかなかったって話も出たね」
「森の左手にある古い洞窟に住んでるかも知れないんだな。それにしても、森のほうから聞こえた咆哮ってなんだろうなあ・・・」
「ディーンの方の手がかりはほとんどねぇよな」
「ただ、いなくなる前に何の兆候も無かったと言うのは、少々妙ね。魔術師との接点はなかったようだけど」

 順に、アレク・アウロラ・ミナス・ギル・エディン・ジーニである。
 普段森に出入りしていなかったという母親の証言からしても、ディーンの失踪は魔術師とは無関係なように思われるが・・・。
 考えをまとめて明日洞窟に向かおうと決めた一行を、ふとアレクが呼び止めた。

「・・・・・・待て。宿ってどこだ?」
「あ」

 全員が気が付いた。この小さな村に宿などは見られない。

(野宿、人里に来て野宿なのか・・・・・・・・・?)

 一行に沈黙が流れる。疲れきったミナスが、腕組みするジーニに寄りかかりながら嘆いた。

「・・・勘弁してよ」
「・・・まだ諦めるのは早いわ。村長に相談してみましょう」
「そうだな・・・・・・ん?」

 エディンが軽やかな足音の方向を見やると、ちょうどレミラがこちらに走り寄ってくるところだった。

「ごめんなさい、私・・・みなさんに言い忘れていたことがあって・・・」

 レミラはレピア村に宿は無いので、自分の家に泊まらないかと誘った。
 遠慮をしないでほしいと薦めてくれる彼女を拒む理由は無く、冒険者たちは渡りに船だとレミラの実家に向かった。
 招かれた家では、物腰の柔らかく落ち着いた女性が、たくさんの料理の向こうで座っていた。レミラの母親だという。
 なんでも、材料は依頼料代わりと言うことで、村長が用意してくれたらしい。まったく、村の大きさの割に大した傑物だった。
 家の雰囲気も、素朴ではあるが心安らぐものであり、ギルたちは久しぶりにくつろいだ時間を過ごしていた。

「・・・お料理は、ご満足いただけましたか?」
「ええ、それはもう!」

 アウロラは熱心に頷いた。実は、”金狼の牙”で料理を担当するのはほとんどアウロラで、やっと最近ミナスが手伝うようになったところだった。彼女がこっそり珍しい調味料や調理法を研究しているのを、仲間たちは皆知っている。
 身体が弱いために久々の料理だったと聞き、一行は驚いた。そんな様子は今までまったく無かったのである。

「難儀ですね・・・・・・」

と感想を述べたジーニに、なんでもないようにレミラの母はころころ笑った。
 それよりもレミラと”金狼の牙”が体験したことを話してほしいと頼まれ、このたびの出来事、考えたことなどを語り合い、聞かせた。
 レミラの母は、彼らの話に聞き入っていた。彼らの体験を、ゆっくりかみしめるように。
 ・・・話が終わると、彼女はジーニたちに改めて、礼を述べていた・・・。

2013/01/20 16:52 [edit]

category: 花を巡りて・・・

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Sun.

花を巡りて・・・ 3  

 あまりのオニカバネの臭気に、それを持つギルはますます顔をしかめた。

「・・・・・・くさい」
「我慢してくれ、リーダー。あとちょっとだろうが」
「このにおい、ちゃんと取れんのかなあ」
「花を捨てればどうにかなるさ。くじ引きで負けたアンタが悪いんだから、文句言うな」

 ギルとエディンのやり取りに忍び笑いをしつつも、ミナスが歎息する。

「それにしても、この近所にエルフの隠れ里かあ。僕、久々に同族に会ったよ」
「空間の歪曲とは、エルフたちもかなり大掛かりな術を使うんだな」
「うん。外から気づかれないようにするのが一番大事だからね。僕の里でも、多分似たようなことやってたんだと思うよ」

 ミナスが言う同族とは、この街道の入り口と中間地点を繋いだ空間に隠れ里を作るエルフだった。

ScreenShot_20130116_112129984.png

 エルフが隠れ住むのには色々と理由がある。彼らも訳ありらしく、入り口の仕掛けを対立勢力が破ってゴブリンをけしかけられたというので、街道を立て札で封鎖していたそうだ。
 このまま進んでも出口が塞がっており、”金狼の牙”たちが目的地のレピア村へ進むには入り口の仕掛けを直して転移してもらうしかない・・・・・・しかし、入り口の仕掛けを直してしまったら、ゴブリンまで同じ空間に閉じ込められてしまうので八方塞がりだと嘆くエルフの女性に、ゴブリン狩りを提案したのはギルだった。
 レミラさんをエルフに預け、ゴブリンが好むオニカバネの花に魔法をかけてゴブリンを誘き出すことになったのだが・・・。
 その花から発せられる腐臭が、半端なレベルではなかったのだ。
 途中、スリングによる遠距離攻撃をしてくるゴブリンなどに悩まされつつも、一行は無事に行動部隊を片付け、ゴブリンの残党が潜むアジトへやってきていた。

「・・・難しいわね。ここは比較的開けた土地で、見張りまではかなりの距離があるわ・・・」

 地形を確かめたジーニが戦法について注意を発する。

「【魔法の矢】などの魔法攻撃は届かないわね。遠距離攻撃は・・・よほどの腕が必要になるでしょうね」
「この距離じゃあ、忍び寄って仕留めるのもまず無理か。何かで隠れられれば、また違うんだろうが」

 それぞれの専門化である大人コンビが言うのに、他の面子も一所懸命考え込む。
 そのうち、アレクがぼそっと「空でも飛べれば・・・」と呟くのを、ミナスが聞きとがめた。

「空?行けるよ、僕なら」
「あ、そうか≪エア・ウォーカー≫がっ」
「でもミナス一人が先行することになります。危険ではないですか?」

 思慮深くアウロラが懸念を口にするが、今のところそれ以上いい方法はないように思える。
 結局、かけられるだけの補助魔法をかけて、空からミナスがスネグーロチカを見張りにけしかけることになった。
 ミナスが慎重に近づき、雪精は空恐ろしいほどの冷気でゴブリンを永久の眠りにつかせる。

「よし、行くぞ」

 リーダーの合図で、他の者たちは洞窟の前まで近付いた。・・・と、その時。

「何か、妙じゃない?」
「どうかしたのか、ジーニ?」
「いや・・・洞窟内が騒がしいような気がするんだけど・・・」

 ジーニの言うとおり、何やら向かう穴の中から騒音が聞こえる。
 どこか興奮したような、そして彼ら”金狼の牙”たちには聞き覚えのあるような声をあげて・・・。
 それが何かに思い当たったギルは、「・・・あ!」と言って自分の頭を叩いた。

「この声は、さっきオニカバネを持って探索していた時に、引き寄せられたゴブリンがあげていた声だ!」
「まさか・・・オニカバネの残り香にゴブリンどもが引き寄せられているっていうこと!?」

 上空に待機したままのミナスが、ギルのセリフにぎょっとした顔になった。
 洞窟内の怒号は、やがて足音となりこちらへ近付いてくる。

「まずい、先手を取るなら今しかないわよ!」
「布陣を組め!ゴブリンを迎え撃つぞ!」

 咄嗟の判断で叫んだギルに従い、各々が迎撃の態勢を整える。

「・・・行くぞ!」

 ばらばらと足並み揃わぬまま駆けてきた集団の中に、一際立派な体躯を持った影がある。

「親玉のご登場ですよ!」

 アウロラが示したのはホブゴブリンのことであった。ゴブリンより一回り以上大きな妖魔は、時に信じられない膂力を持って冒険者を攻撃してくることがある。
 アレクの【風切り】、ジーニの【火炎の壁】でほとんどの雑魚を片付けた一行だったが、まだ気は抜けなかった。

ScreenShot_20130116_122538437.png

 エディンが銀の細剣から花に似た氷の欠片を飛ばしつつ、

「ダメだ、届きにくい!先にこの護衛を倒した方が良さそうだぜ!」

と、ホブゴブリンの両隣に控えているゴブリンについて看破する。
 ミナスが「任せて!」と叫び、立ちふさがる護衛にスネグーロチカを誘導し、ジーニが詠唱していた【眠りの雲】を飛ばして親玉を眠らせた。その親玉にアレクが駆け寄る。≪黙示録の剣≫の刀身がまばゆく光り、魔力が切っ先から真空波となってあふれ出す!

「とりゃあああああ!」
「ゴブゥ!?」

 魔力を取り込んだ刀身によって重傷を負ったホブゴブリン。
 最期に彼が見たのは、ジーニから奔った風の刃だった・・・。

「か、勝った・・・」

 やれやれと一息ついた一行は、一応洞窟の内部も点検し、残党がいないかどうかを確認した。
 どうやら全滅させたらしいと分かると、”金狼の牙”たちは待ち合わせた場所へ移動し、エルフやレミラと再会した。

「・・・ありがとう。本当に助かったわ」

 金髪のエルフの女性は礼を言うと、「約束の宝石よ」と報酬を差し出して、一行に先程見た立て札の前に移動するよう指示した。装置を動かして空間の閉鎖を解いてくれるそうである。
 言われた場所で待っていると、彼らの見つめる前で視界が歪み、たわんでいく。

「滝だ・・・」

 呆然と言うアレクの言葉どおり、一瞬にして視界が元に戻ると、そこにはしぶきをあげる滝が現われていた。

「・・・そうです。確かにこの街道は、滝の見える場所があった・・・」
「やっと正しいルートに戻ったみたいだな」

 レミラの証言にエディンはにやりと笑った。

2013/01/20 16:48 [edit]

category: 花を巡りて・・・

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Sun.

花を巡りて・・・ 2  

 一行は、ヴィアーシーの研究所で彼の代わりに助手、レミラを加えてレピア村へと向かっていた。
 レミラは、先程からジーニと医術研究所に志望した理由について話している。

「医術研究はまだ新しい部類の学問で、人々には比較的馴染みのない物では・・・?」
「ええ・・・・・・でも、新薬の調合とかってけっこう楽しいですよ?それに結果が出れば、本当に多くの人を救えると思っていますし・・・根本的な所は変わりませんよ」

 ふーん・・・と感心したように相槌を打つアレクに手を引かれつつ、ミナスは珍しく仏頂面のままだった。
 ひょこ、とジーニがその顔を覗き込む。

「やけにおとなしいわね、ミナス。まださっきのことを気にしているのかしら?」
「・・・・・・別に」
「・・・どうかしたんですか?」

 戸惑っているレミラに狼の隠れ家でのやり取りを伝えると、彼女は深々と頭を下げて謝った。

「いや、別にあなたが悪いわけじゃないんです」

 慌ててアウロラがフォローを入れ、ふうっと息をついたギルがミナスの頭を撫でて言う。

「・・・本当に冒険者を信用していないなら、そもそもこんな依頼自体出さないぜ」
「・・・・・・」

 ミナスもその理屈は分かるのだが、感情が納得しないのだ。

「お前が彼の話に納得がいかないのは分かる。でも、彼の言い方はともかく、話は正論だ」
「うー・・・」
「スタンスが違うだけで、志自体は医者・・・それに俺たちと変わらない。もちろんレミラも・・・な」
「・・・分かってるよ」

 そこでレミラが「あの・・・」と口を挟んだ。

「先生、根っからの研究者っていう所があるし、自分の信念は絶対に曲げない人だから・・・・・・。でも、医術に関しては本当に誠実な人なんです」

 それだけはと続けようとしたレミラのセリフを最後まで言わせず、ミナスは「分かってる」とだけぶっきらぼうに言って、アレクの手を引いたまま歩調を速めた。
 ミナスは一人で冒険に出た経験もある。精一杯、目の前の人を助けてきたつもりだし、多数のために少数が犠牲になることを認めたくなかった。それは、あの日聖北教会から見放された女たちの悲しみを知り、そのために強くあろうと決心した自分を、否定することだから。
 ・・・結局、その日は何事もなく、目標の地点までゆうに着くことが出来たのだが、翌日の昼前に・・・。

「・・・前の依頼の時みたいに、ウィードが群生してたり、物騒な罠が仕掛けられたりしてなきゃいいがな・・・」

 エディンが前に商人を護衛した時のことを呟きながら辺りを調査する。
 少し歩き始めた頃・・・。
 「ん?」と呟いたジーニがふと足を止める。

「どうかしたか?」
「いえ・・・・・・何か、妙じゃない?」
「・・・・・・さあ?」
「うまく言えないんだけど・・・妙な違和感がね・・・」

 彼女に返事をしていたエディンやアレクが、そう促されて辺りを警戒するものの、特におかしなものは見つからない。
 一行は用心しつつ再び歩き始めた。
 少し経つと、白い柵と森の続く小道に出たのだが、そこで案内役であるレミラが首を捻る。

「・・・どうかしたか、レミラさん?」
「いえ・・・この風景。なぜか見覚えが無いような・・・」

ScreenShot_20130116_110906562.png

 彼女の言うには、いつもこの道を通ってリューンとレピアを往復していると言う。
 道を間違えたわけでもないらしいので、エディンが示す立て札のせいではないかと皆で覗き込んでみた。物騒なことが書いてある。

「命が惜しいもの、立ち入るべからず・・・・・・」
「・・・この街道を通るな、ってこと?」

 顔を見合わせた大人コンビが不審な様子で言葉を交わした。盗賊の視点で確認したところ、この立て札はごく最近にできたもの・・・どうも、レピアへ向かう道に最近何か異変があったとしか思えない。
 レミラさんに全力で守ると約束し、一行は一抹の不安を抱えながらも先へ入ることにした。

「・・・待った」

 しばらくするとエディンが仲間を手で制し、前方を見据えた。
 ゴブリンの小集団が、粗末な武器を手に歩いている。その集団はすぐに木々の向こう側へ消えていったのだが、「一戦交えることになるかもしれないな」というギルの言葉に皆がそれぞれの得物を握り直した。
 しかし、その心配はどうも杞憂だったらしく、陽に暖められた風に顔を撫でられつつ、一行は森を歩んでいく。

2013/01/20 16:44 [edit]

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Sun.

花を巡りて・・・ 1  

 夕刻、狼の隠れ家にて――。
 買い出しに出かけていた”金狼の牙”たちは、夕飯を作ってくれる親父さんを横目に、リューンで買ってきた物を整理し始めていた。
 ギルが依頼の張り紙に目をやる。朝は無かったものがあった。
 それに気づいたジーニが声をかけると、ギルが増えた張り紙を示す。

「え?チェックしとこうよ」

 ミナスの台詞に頷いたギルが、件の張り紙をはがしてテーブルに置いた。

「うーんと・・・『フィロンラの花』?」
「フィロンラの花と言えば、リィナさんの依頼で取りに行ったあの花ね」

 フィロンラの花は、古代文明期にある魔道師が作り出したもの・・・と言われている。ある奇病を治すには、どうしてもそれが必要になる・・・しかし、花自体が非常に希少価値が高いために、その病気を治すことは現在、ほぼ絶望視されていた。
 リィナの弟もまた、その奇病に罹患した一人だったのだ。

 治ったらまた会いに来ると言っていたリィナを懐かしみ、”金狼の牙”たちが思い出話に耽っていると、親父さんが難しい顔で「・・・その依頼か」と言いながら食事の載ったトレイを持ってきた。
 鹿肉のシチューや川魚の香草焼きを平らげた後、親父さんに食器を返しながら依頼について詳しく聞いてみる。
 依頼人の名前は医術研究家のヴィーアシー氏。聞きなれない職種に首を傾げる仲間には、ジーニが説明をした。

「医術研究家・・・薬草の調合から新種の特効薬の研究、栽培、改良・・・未知の病気の研究などを行う人ね」
「そうだ。まあ医者とちがって、直接患者を治すというわけではなく研究の成果で大勢の人を助けるような人間だな」
「ええ・・・それで、その方の個人的な情報はありますか?」

 アウロラの質問に親父さんは残念そうに首を振った。依頼人は初めての人物だったらしい。
 再びあの遺跡に行くのだろうかと思ったミナスが確認すると、今度の花の所在はレピア村というリューン郊外にある小村らしい。歩いて3日ほどかかるという。花の有無が確実でないため、苦い顔になったエディンが「規約違反で報酬なしってのは勘弁してもらいたいな」と言うと、そこは一応交渉しておくんだなと気のない返事があった。

ScreenShot_20130116_100232750.png

 それまでずっと黙っていたアレクが不意に口を開く。

「なぜ、この花をそこまで急いで手に入れる必要があるんだ?」
「うむ・・・とりあえず非常に貴重で、しかも脆いものらしい。一足違いでもう無かった、というのもやりきれないというのと・・・」
「それは前の経験で知ってはいるが・・・」
「どうも最近、リューンで例の奇病の症状がポツポツ見られるらしくてな・・・」

 親父さんが顔を曇らせる。まだ事態はそれほど深刻化していないようだが、症状が進行していく前にその花を手に入れて研究を進めておきたいのだろうということは、容易に察せられた。
 明日の朝、また依頼人のヴィアーシー氏が来る手はずになっており、話がまとまればそのまま出発という流れになるだろうと親父さんが言うので、ギルの提案で一行は早めに休むこととなった。

 翌日の早朝、親父さんの言うとおり食事後にヴィアーシー氏がやってきた。
 初老の男で、眉間の皺と片眼鏡が堅苦しい印象を与える人物である。
 職業柄だろうか、値踏みするような視線が落ち着かず、アウロラは思わず身じろぎした。

「ふむ・・・・・・では、さっそく依頼の話に移らせてもらいますかな」

 彼は同じテーブルに腰をおろすと、”金狼の牙”たちの反応を窺うこともせず、話し始めた。
 やはり、今の研究は花がなければほとんど進歩が見込まれない・・・というものになるようだ。レピア村に赴き、花があるかどうかの調査及び探索、もしくは交渉などで花を手に入れて欲しいというのが希望だと言う。
 報酬は前金で500sp、花を手に入れればさらに1500sp上乗せ。”金狼の牙”たちからすれば美味しい値だった。
 用心深く、アレクが尋ねる。

「・・・花を手に入れられなければ?」
「前金の500spのみ・・・だが、花はなくても研究に役立つものがあるなら、考慮対象にはしよう」
(考慮対象、ね・・・)

 明確な基準が分からない以上、やはり花自体を手に入れるのがベストと言わざるを得ない。アレクは思わず黙り込んだ。

「ああ、言うまでもないことだが、花があろうとなかろうと報告には来てほしい。ないとは思うが、前金持ち逃げされてはかなわんのでな」
「・・・・・・・・・・・・・・・分かってるよ」
「ふむ・・・ならば良い」

と依頼人は頷いたが、返事をしたエディン以外のメンバーは苦々しそうな顔つきのままだった。”金狼の牙”が、今までの依頼において持ち逃げなどと言う不名誉を起こしたことはない。疑われるのは心外である。
 まあ依頼人が特別用心深い性質なのかもしれない、と楽観的なギルは気を取り直し、交渉の際に使う資金はどうするのか訊いてみた。
 すると、驚くべきことに助手を同行させるので心配はないという。
 冒険のど素人を連れて歩くのは今までの護衛の経験上、大変な事が分かっているので、出来るならば断りたいところであったが、レピア村の出身者で道案内にもなるということなので、了承するしかない。
 ギルは依頼を引き受けることにした。

「・・・あの花がそんなに貴重だったなんてね・・・」

 前金をリーダーが受け取った後のミナスの呟きに、ヴィアーシーはじろりと視線を向けた。

「ふっ・・・・・・君はフィロンラの花を知っているのかね?どうせ・・・・・・」
「・・・よくは知らないけど、手に取ったことくらいならあるよ」

 鼻先で哂ったヴィアーシー氏の機先を制するようにミナスが言う。

「・・・何?」
「病気の弟を治したい、って人のためにフィロンラの花を取りに行ったことが・・・ね」
「そうか・・・君達が例の冒険者か。・・・もったいないことをしたものだ」
「・・・・・・!?」

 依頼主の口ぶりにむっとしたミナスが立ち上がるのを、エディンが慌てて止める。
 エルフの少年の剣幕には構うことなく、ヴィアーシー氏は言葉を続けた。

「ただ一人のためにフィロンラの花を使ってしまうとは・・・それさえあれば、今やあの病気は根絶やしに出来ていたかも知れぬのに・・・」
「何だよ、それ・・・」
「ミナス!」

 ギルも少年を呼ばわるが、ミナスの口は止まらなかった。

「ほっておけばすぐにでも死んでしまうような肉親がいる人に、あんたそんなセリフ言えるの!」
「・・・・・・・・・その花が研究に使われ、薬が作られれば結果的に多くの人が助かるのだ。それまでくらい持ちこたえて当然ではないかね?」
「・・・・・・何?!」

 気色ばんだ少年の気持ちを痛いほど分かりながら、ギルはリーダーとして諭すしかなかった。

「やめろ。依頼人と口論している場合じゃないんだ。出発するぞ」

 ミナスはこみあげる苛立ちを隠し切れず、ヴィアーシーを見据えた。
 ふと、アウロラはこの依頼人にも助けられなかった身内がいたのかもしれない・・・と思った。間に合わなかった人がいたのではないかと。
 さまざまな思惑を抱えながらも、一行は親父さんに挨拶して狼の隠れ家を出発した。

2013/01/20 16:43 [edit]

category: 花を巡りて・・・

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Sat.

深き闇への洞窟 4  

 続いて”金狼の牙”たちが立ち入ったのは、真四角の部屋だった。奥の壁に並んだスイッチをエディンがいち早く見つける。

「ジーニ、それ見てくれ」
「ん?・・・ああ、また古代文字ね」

 スイッチの右手に鎮座している石碑の文字を、ジーニが中腰になって覗き込み解読する。

「『道を開くには全てのスイッチを押せ。スイッチは押したスイッチに隣接するスイッチ全てを反転させる』」
「うえええ、パズルか・・・・・・」

ScreenShot_20130113_230440515.png

 ギルが解読されていく石碑の指示に頭を抱えた。
 猪突猛進で楽観的な彼は、決して頭は悪くない・・・というか勘がいいのに、こういうのは苦手にしているらしい。

「『また、一定の回数スイッチを押すたびに矢が飛んでくるであろう』・・・ありゃー、不正解でダメージ食らうって?」
「そいつはたまらんな」

 エディンが嘆息した。丈夫なギルやアレクならともかく、ジーニやミナスに刺さっては困る。
 壁に並んだ二つのスイッチを眺め、アウロラが人差し指を伸ばした。

「おいおい、分かるのかよ?」
「パズルなら得意ですよ。まずはここをこうして・・・」

 一度だけ、アウロラに飛んできた矢をアレクが盾となって受け止めた場面はあったものの、あとはすいすいと迷いも無く彼女の指がスイッチを押し、何かが動く音がした。
 見ると、今まで天井に隠されていたらしい階段が現われている。
 今までの階段と違って仕掛けを施されている、ということは他の階段とは何かが違うはずだとエディンが気づき、一人で少し先行することにした。
 その間に、アウロラは新しく覚えた法術【活力の法】を庇ってくれたアレクに施している。

「便利な技だな。毒霧の部屋じゃ【血清の法】のように解毒をしてくれたろう?」
「はい。同時に生命エネルギーを与え体力を回復させる術でもあります。迷いましたが、学んでおいて良かったですね」
「おい、ちょっと来てくれ」

 先に上の階を調査してきたエディンが、階段を半ばまで降りてきて言った。

「どうした?」
「敵はいない。その代わり、おそらく昔、人が住んでいたと思われる形跡がある」

 その言葉に生気を取り戻したのはジーニだった。

「魔術師の私室!?となれば、日記とかがあるのが常道よね!」
「あんたホントに凄いよたまに・・・」
「誉め言葉と受け取っておくわ、エディ」

 エディンががっくりと頭を下げた。降参、のしるしだ。
 ・・・・・・全員が一番奥の部屋に移動すると、ジーニはたちまち部屋で一番目に付く本棚へと駆け寄った。

「かなり傷んでるものが多いわね・・・」

 ぶつぶつと文句をつけながらも、マニキュアを塗った指が三回、たくさん並んでいる背表紙の途中で止まる。

「これとこれ。あと、こっちの日記。それ以外は駄目ね。虫が喰ってるから読めないわよ」
「日記じゃないのはなんだ?」
「技能書。多分、背表紙からすると天候に関わる魔術と、強力な結界の生成法だと思うけど、詳しく読むまでは確かなことは言えないわね。ギルバート、何から読む?」
「・・・・・・日記。技能書に何か仕込んでたら困るから」
「はいはいっと」

 ジーニが古代の日記を開くと、そこもまた石碑のような古代文字が並んでいたが、慣れたもので彼女は淀みなく朗読を始めた。

ScreenShot_20130113_233448718.png

「『この部屋まで到達できた人がいるかどうかは分からない、また、言語が違うかもしれないが私はこの日記に私の願いを残しておこう』か。個人で研究を続けていた人っぽいわねー。『私には金銀財宝等は無い』とかきっぱり書いてあるわよ」
「えー」

 ミナスががっくりと項垂れた。宝探しの冒険は、この年頃の少年にはひどく刺激的なのだ。目的の宝が無いというのは寂しすぎる。
 そんな少年を慰めるように、ジーニが微笑した。

「膨れなさんな。続きに、『だが私の研究の成果を持ち帰ってもよい』ってあるわよ」
「研究の成果?」
「そう。『死者には必要の無いものだ。だが、ここの存在は誰にも言わないでほしい。私は静かにここで眠りたい』・・・こう書かれているわ」
「・・・・・・となると、技能書には罠を張ってるとは思いにくいな」
「日記の中身見てると、淡白な性格の人っぽいわね。突破してきたなら、ご褒美くらいはあげないと悪いかってニュアンスにも読み取れるから、そっち持ち帰っても怒られはしないんじゃない?・・・・・・眠りを脅かさない限り」
「死者の眠りを無用に妨げる権利は、我々にはありませんよ」

 おどけるようなジーニの口調に、あくまで真面目にアウロラが応じる。
 アウロラの意見に、ギルは首を縦に振った。

「そうだな。依頼人には悪いが、ただの洞窟だった・・・・・・と報告することにしよう」
「嘘も方便、か」
「依頼人の好奇心を満足させた上で、ここの元の主の意見も尊重すると言ってくれ」

 幼馴染のツッコミにギルは笑って背中を叩いた。
 こうして、洞窟を脱出した”金狼の牙”たちは依頼主に「ただ危険が多いだけの洞窟だった」と嘘の報告をし、狼の隠れ家へと帰っていった。

※報酬500sp、【絶対の防壁】【嵐の創造】入手※

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■後書きまたは言い訳
25回目のお仕事は、ラッキーさんのシナリオで深き闇への洞窟です。こういう、広さはなくても仕掛けが満載で頭を捻るというショートダンジョンは、非常に私の好みだったりします。
しかもこのシナリオ、役に立つ呪文が二つも手に入ります。今回、残念ながら【嵐の創造】は売り払ってしまったのですが、いつもはスタメンでお世話になってます。相手の回避下げてくれる全体攻撃呪文の汎用性って、どうしてあんなに高いのでしょう・・・。
あ。もう一つの【絶対の防壁】は、4ラウンドだけですが防御力・抵抗力の最大値上昇と、魔法無効化状態になる呪文です。単体ですが、それが逆に便利に使える事も・・・。

さて、次回はとあるシナリオの続編となります。
どっちの選択肢を取っても後悔しない、そんな冒険者に私はなりたい。(何)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/19 14:06 [edit]

category: 深き闇への洞窟

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Sat.

深き闇への洞窟 3  

「この泉を通らなければいけない上に深いようです。これはどうしましょうか」
「そこは俺とミナスにお任せだな」

 肩に手を置いたエディンの意図が分からず、ミナスは最初怪訝そうにしていたが、「凍らせるんだよ、俺とお前で交互に」と言われてなるほどという顔に変わった。
 ミナスの召喚したスネグーロチカとエディンが細剣に這わせた冷気が、泉を臨時のスケートリンクに変えていく。
 このまま順調に氷の道を作り、確実に泉を渡れると思っていた一行だったが、あいにくと横槍が入った。
 ぶうううぅぅん・・・・・・という不吉な羽音が響いたのである。

「おい、これ・・・・・・」
「どこかで聞いた音だな」

ScreenShot_20130113_220427046.png

 アレクの呟きにギルが反応する。すると、彼の視界に鉄で出来た蜂たちが現われ、”金狼の牙”たちへ襲い掛かってきた。
 人工の蜂はフィロンラの花の遺跡で一度出会っている。すばしっこく攻撃を当てづらい敵ではあったが、たった3匹では当時より戦い慣れてきた一行に適うわけもない。
 【光のつぶて】や【風刃の纏い】によって地面に叩きつけられたところを、ギルやアレク、エディンたちが得物でトドメを刺した。

「よし、行こう」
「それにしても・・・・・・」

 リーダーに促されて歩き出したが、途中でアレクが首を捻る。
 それを不審に思ったジーニが「何よ?」と訊きだした。

「あ、いや。危険は多いものの、知恵を絞れば突破できる罠ばかりだったのが気になってな・・・」
「・・・そう言われるとそうね。あの石碑もずいぶん古い綴り方だった。よほどに古代文字を習得して無いと解読できなかったろうし・・・」
「妙なことはそれだけではありませんよ」

 二人の会話に今度はアウロラが口を挟んだ。

「先程の鉄の蜂は、他の魔法生物とともに出現することが多いモンスターです。あれで終わりだとは思えません」
「・・・つまり、この先に親玉がいるって事か?」
「或いは」

 アウロラの肯定に、会話を耳にしていた一行はそれぞれの装備を整える。
 十分に用心して上の部屋へ入った一行だったが、足を踏み入れた途端に緑色に濁った霧が発生し、それを吸い込んでしまった。
 ジーニとアウロラが怒鳴りあう。

「ちょっと、ケホ、ここまでやる!?毒じゃない!」
「ゲホッゲホッ、効果的な罠ですこと!」
「ゲホっ、二人とも、あの鉄の塊、何!?」

 ミナスが指さしたのは、部屋の中央に立っている鉄の塊だ。剣も鎧も中身も鉄でできたらしい兵士は、まず己を指さした小さな人影にいきなり攻撃を仕掛けてくる。
 かろうじて横からその一撃を防ぎきったアレクは、鉄の刃を剣で跳ね上げ後ろへ飛び退った。
 己の魔力を刀身に込める――魔力を爆発させ剣を加速する、神速の二連撃。武闘都市エランで習い覚えた【緋色の羽】という魔法剣の体勢である。それに気づいたギルと、ギルの目配せを受けたエディンが、機甲の兵士を奥に行かせまいと立ちふさがる。
 
「といっても、俺の細剣じゃあ分が悪いぜ、リーダー」
「アレクの時間が稼げればいい!」

 ガイィィン!と気合とともに兵士を叩いた斧が音を立てた。
 入れ替わり立ち代わり、二人の戦士と一体の兵士が己の武器をかみ合わせ、死のダンスを踊る。
 何しろ、機甲の兵士の動きは一流の戦士に勝るとも劣らない上、まったく疲れというものを知らない。おまけに【穿鋼の突き】という必殺技を持っている。一瞬たりとも気の抜ける相手ではなかった。
 毒霧を咳き込んでなかなか詠唱ができないアウロラたちは、手に汗を握りながら援護の隙をうかがっていた。
 刹那。

「・・・・・・二人ともどけっ!」

 アレクの叫びとともに仲間はそれぞれ反対方向へ横飛びし、彼の剣が兵士の身体へ2つの裂傷を刻んだ。
 魔力により赤い帯を引く刀身が毒々しくも美しい双翼を宙に描き、束の間、ギルはそれに見惚れた。
 いかなる存在でも必ず捉える、とエランにいた剣の師匠に言われた技は誇張ではなく、兵士はどっと倒れこんで動かなくなった。

「やれやれだ・・・本番で決まって良かったよ」
「皆さん、解毒しますのでこちらにどうぞ」
「僕も手伝う!ウンディーネ、傷を洗い清めて・・・」

 先程までの毒の霧が嘘のように晴れている。エディンが調べたところ、機甲の兵士自身から毒が吹き出ていたらしい。傷を癒し終わってから階段を上がると、そこは特に何も無い部屋だったので、当直を定めて一行は休憩をとることにした。

2013/01/19 13:44 [edit]

category: 深き闇への洞窟

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Sat.

深き闇への洞窟 2  

 5階では3階のように真っ暗になった。

「また?」

 アレクがややうんざりしたように言うが、調査を行っているエディンはそれどころではなかった。

「油のにおいはない。が、何か・・・変だぞ」

 その言葉を聞いて、たちまちルーンマスター(魔法を扱う者)たちが小声でそれぞれの詠唱を始める。
 手の空いていたギルが、ミナスが持っているのとは別の明かりを用意すると・・・。

「!?」

 なにやら妙な虫たちが群れをなして迫ってきているのを見て、ミナスがぎょっと立ちすくんだ。
 蜘蛛のようだが足は6本しかなく、その身体はアリなどの昆虫と違ってくびれというものが見当たらない。ジーニが下の階で蹴飛ばした小石のような質感を備えていた。

「なにこれ!?気持ち悪いっ」
「我慢してミナス。こいつら・・・岩石虫だわ」
「岩石虫~?なんだよそれ!」

 こちらに襲ってくる個体を斧でさばきながらギルが叫ぶ。

ScreenShot_20130113_213008359.png

「こういう、真っ暗な洞窟の奥に生息する虫よ。光に反応すると興奮して襲ってくるの・・・素早いし硬いし、火も氷も意味がない厄介な虫だわね」
「げっ」

 ジーニの台詞を聞いてエディンが細剣に溜めていた冷気を収める。
 彼が使う【花散里】は、本来は扇で空気中の水分を花弁に似せた鋭利な氷に結晶化して舞わせる技だが、彼は細剣の刀身に結晶化した氷を集めて敵へ振るう。しかし、相手が氷による凍傷がないとなれば、あまり有効な攻撃とは思えない。

「能力としては、【闇に隠れる】を使うくらいしかしないんだけど・・・」
「それは武器攻撃がスカになるってことか!?」

 あわてたギルが言う。彼には魔法攻撃の手段がない。

「しばらく戦ってりゃ、何匹かは向こうから逃げてくれるとは思う」
「逆に言えば、しばらくは戦わないと駄目ってことです?」
「土壇場のアンタの冷静さには頭が下がるわよ、アウロラ・・・」
「・・・仕方ない、やるか。【召雷弾】!」

 アレクの右手の人差し指に集まった稲妻が、真っ直ぐ虫に突き刺さる。
 ジーニとミナスの召喚した魔法も猛威を奮い、最後の一匹がジーニを護る【旋風の護り】に吹き飛ばされると、一行はやれやれと階段を上がることにした。幸い、怪我をした者はいない。

「ん・・・・・・?ちょっとギルバート、ここの部屋人工物よ?」
「えっ?」

 ジーニの指し示す壁を見ると、確かにあからさまに人工的に作られたものになっている。
 どうやら今までのような自然に出来た場所ではないようだ。
 アレクが一歩進み、辺りを興味津々に見渡す。
 部屋の中央には泉のようなものがあった。水は澄んでいて、何かが泳いでいる様子はない。

ScreenShot_20130113_214458750.png

「ここは一体・・・洞窟ではなかったというのか。ならばここは何だ」
「さあてねえ。下の階を見る限りは妙なモンスターのいる洞窟だと思ってたけど・・・」

 ジーニが入り口の近くにある何かの石碑に近づいた。

「そういうことね。書いてあることが分かったわ」
「もう解読できたの?」
「もちろんよ。あたしは鑑定人だからね・・・『ここより先は魔術の創造に生涯を費やした魔術師の墓である。我は静かに眠ることを望む。これより先の通行は禁ずる。なお、我が墓には金銀財宝等は存在せず。』だって。こう書かれているわ」

 一行は互いに顔を見合わせた。この石碑の言うことが本当なら、これ以上進んでも得るものはまったく無いといっていい。だが・・・。
 まずアウロラが口火を切った。

「これ以上進む場合、魔術師の墓だと言うのであれば、今まで以上に危険な罠が待ち受けていると予想できます」
「ただなあ。この石碑が全部本当のこと言ってるとはかぎらねえ」
「そうねー。何も無いなら、何でこんなもの作ったって話だし」

 大人コンビがアウロラらしい慎重論に水をさす。この二人は、他人の言を鵜呑みにする危険性を十分以上に心得ている。
 ギルはミナスを見やり、彼の意見を促した。

「・・・・・・こんな中途半端なとこで終わりにするのは、ちょっと面白くないよね」
「お前さん、冒険者らしくなったな。・・・アレクはどう思う?」
「ミナスに賛成だ。第一・・・」
「第一?」
「『らしく』と言うのであれば、お前らしくならどうなる?」 

 幼馴染の示唆に思い当たったらしく、ギルはにやりと小さく笑う。

「撤退は最後の手段だな。退路はまだある。泉の向こうには階段が続いてるし、墓であることを確認してから帰るのでも遅くはない」

 リーダーの決定に各々が頷き、泉をどうやって渡るかと話し合うことになった。

2013/01/19 13:41 [edit]

category: 深き闇への洞窟

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Sat.

深き闇への洞窟 1  

 一つの洞窟が発見された。
 中をのぞけば深く暗い闇が支配する静かな洞窟だ。好奇心に身を任せ、松明を手に中へ進めば自然が作り出した罠がある。暗い洞窟に適応した不思議な怪物がいる。
 発見者は悩んだ。

「何かありそうな洞窟だ。でも危なくて進めない」

 そこで出た結論は冒険者を雇って洞窟の探索を頼むことだった――。
 狼の隠れ家に貼ってあったその依頼を見つけたのは、アウロラだった。遺跡探索とは違って何かが見つかると言う保証もないのだが――
妙に彼女の心に引っかかった。
 親父さんから地図をもらって訪れた洞窟は暗く、入った途端に暗闇の支配する世界となった。

「松明はあるか・・・?」
「うん、あるよ」

 ミナスは松明に火をつけ、明かりを用意した。
 照らされたのはただ広いだけの部屋だった。
 部屋の中央には大きな穴があって奥の階段までの道のりが塞がっている。

「あの穴を対処しないと進めないな」

 部屋の探索を終えたエディンがそう言うと、横にある大きな石をちらっと見た。
 穴を塞ぐのにはちょうど良さそうだが、重さによる体力の消費は避けられそうにない。ギルという力持ちはいるが、まだ一階の序盤で彼が疲労するのは望ましいとは思えなかった。
 しばらく”金狼の牙”たちが唸っていると、「あ!」とミナスが大きな声を上げた。

「ね、僕の腕輪で翼を出して飛び越えたらいいんじゃない?」
「その手があったか」

 アレクは感心して手を打った。
 ミナスの腕輪――エア・ウォーカーは、以前に解放祭パランティアのバザーで手に入れたマジックアイテムである。コマンドワード(合言葉)さえ唱えれば、誰でも空を飛ぶことが出来るのだ。
 気配を探っても蝙蝠などが飛んでくる気配はないので、早速実行に移す。

「ちょっ、ギル!もっとしっかり掴まってよ!」
「だってお前小さいんだもん!下手に力込めたら、骨を折っちまいそうだし・・・」
「ギル、もうミナスに負ぶさるような感じで掴まったら安定するのではないですか?」
「あ、そっか」

 序盤から大騒ぎである。しかし、どうにか彼らは次の階へと歩を進めた。
 2階は植物以外に何もない部屋で、3階に上がると入ったとたんに風が吹き通り、松明の火を消していった。

「きゃっ・・・・・・!」
「落ち着けよ、アウロラ。松明を・・・」
「リーダー、待った」

 エディンは短く呼び止め、真っ暗の中、周囲をうかがった。

ScreenShot_20130113_211515171.png

(ここは別の場所とは違う変なにおいがするな。このにおい、油か?)

「火をつけたら・・・大変な目に遭う。注意してくれ」
「なんだって?」
「油だ。火だるまはごめんだぜ、リーダー」

 信頼できる盗賊の言葉に驚いたほかの仲間たちは、「敵の気配はないようだ」と言う彼の言葉を信じ、手探りで次の階段へと進んだ。
 次の階では・・・・・・。

「天井のほうにこちらに落ちてきそうな不安定な岩があるな」
「あれだね、エディン」
「ああ。進んでいるときに岩が落ちてきたら・・・注意しないといけないな」

 エルフの頭を撫でながらエディンが顎をこする。
 杖についた髑髏で肩を叩いていたジーニは、「あたしに任せなさいな」と言っておもむろに呪文を唱え始めた。

『万物の根源たるマナよ。鋭き矢となり敵を撃て!』

ScreenShot_20130113_211952234.png

 彼女の放った【魔法の矢】がエディンの見つけた部分に突き刺さり、大岩がごろごろと転がっていく。
 足元に転がってきた小さな石を蹴飛ばし、ジーニは得意そうに、

「危険なものは落としたから大丈夫だよね」

と言って笑った。

2013/01/19 13:39 [edit]

category: 深き闇への洞窟

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