Sun.

紅き鷹への葬送曲 3  

「なんだ!テメーらァッ!!」

 首領らしき大男の横にいた盗賊が、一行に向かって叫ぶ。

「ようこそ・・・ってところかァ?招かれざる客さんよォ・・・・・・!」
「お前たちはやりすぎたのさ。出る杭を打ちに来た」
「大方、ギルドの連中の手先だろ?・・・・・・ギルドの面子丸つぶれだな。粛清を冒険者に任せちまうなんざ、今までねぇぜ?」

 ねちゃねちゃとした口調で言う紅き鷹旅団の首領に、エディンがひどく冷めた様子で言い放った。

「その面子も、ここでお前を始末すりゃ取り戻せる。とっとと死んでもらおうか」

 エディンのその台詞に迎合するように、ギルも言った。

「・・・お喋りはそのくらいにしておくんだな」

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「せっかちな連中じゃねぇか。いいぜ、かかって来いやァッ!!」

 前衛を務めるギルとアレクは、まず渾身の一撃を首領に向けた。
 ジーニは呪文を唱え、アウロラは他の者の怪我をすぐ癒せるよう、自分を防御して備える。
 ミナスはエディンに目配せされ、彼と同じように雑魚のひとりに斬りかかった。

「ぎょえっ!」

 【雪精召喚】によって現世に現れていたスネグローチカが、雑魚の梅雨払いをする。

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 その隙に、他の面子が首領へと攻撃を行い、ギルが受けた傷をアウロラがすぐさま癒した。
 首領が「バケモノだ」という幹部の話は本当らしく、ジーニの【魔法の矢】の呪文にも抵抗してみせた。

「くっ・・・・・・、手ごわいわね」
「・・・・・・!ジーニ、危ない・・・!」

 歯噛みしたジーニに体当たりするように、ミナスが動いた。
 驚くジーニの視界の中で、先ほど自分が放ったのとは違う【魔法の矢】が、ミナスの背中に突き刺さっている。

「・・・援護に来ましたよ、首領殿」

 紺色の薄汚れたローブに身を包んだその男こそ、”金狼の牙”が警戒していたモグリの魔術師に違いなかった。

「ミナス・・・っ!」

 慌てて回復呪文を唱え始めたアウロラを嘲るように、首領が余裕を含んだ笑みを浮かべる。

「ハッ、ようやく来たか!」

 その勢いを剣に乗せたかのような凄まじい威力の【居合い切り】が、アレクの体を袈裟懸けに切り刻む。

「く!!」
「アレク!くっそ、コノヤロウ!」

 ミナスの怪我と幼馴染の出血に激昂したギルが、剣を振り切った首領の懐に飛び込み、思い切り斧を下から上に振り上げた。
 斧の凶悪な刃は、首領の大きな体を存分に断ち割り、血しぶきを派手に上げた。

ScreenShot_20121107_051424218.png

「ぐォアッ!」

 首領がその場に倒れると、魔術師は、

「ぐっ・・・ここは退かねば・・・・・・」

と言って、すかさず【帰還の法】を唱えて転移した。
 それと同時に、他の部屋にいたらしい雑魚が首領部屋に入ってきた。
 冒険者たちが動く間もなく、雑魚は事の顛末に驚き、逃げ出していった。

「盗賊団をまとめていた首領が倒されれば後は勝手にバラバラになっていくでしょう」

 アウロラの静かな言葉に、一同は頷いた。
 アレクやミナスの怪我を【癒身の法】や【水淑女の守】で癒すと、”金狼の牙”たちは、誰もいなくなったアジトの残りの部屋を調べて廻った。
 ≪防護の指輪≫や≪魔法薬≫、【魔毒の矢】の魔法書など、中々高価な物を発見していく。
 報酬の値上げはなかったが、ここにあったものをどうするかは言及されていない。
 エディンに言わせると、「ささやかなボーナスさ。向こうさんも、俺らに仕事頼むなら承知の上だから遠慮しなくていい」ということである。

 あらかたの物を回収し終わって、一行は依頼人の”コウモリ”の元へと帰っていった。

「よし、よくやってくれた」

 彼らを出迎えた男の第一声は、まずそれだった。

「頭をやられた連中はもう終わりだ。後はこっちで狩り出してやる」
「よろしく頼むぜ」
「魔術師は逃がしたそうだが俺たちギルドからは逃げられないさ。すぐに奴は始末される」
「そう願いたいもんだね」

 エディンと幹部の会話に割り込むように、アレクが言った。

「ずいぶん信用してくれるな?」
「おいおい、馬鹿じゃないんだ。確認ぐらいはしてるさ。ともあれ、依頼は達成だ。こういう仕事はないだろうが・・・・・・、俺個人からの仕事を頼むかもな」
「その時はよろしくお願いする」

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 無愛想なアレクの返事に肩をすくめると、依頼人は金貨で1000spを払った。
 冒険者たちは盗賊ギルドを後にした。

※収入1000sp、≪金鉱石≫≪コカの葉≫≪葡萄酒≫≪魔法薬≫≪防護の指輪≫【魔毒の矢】入手※

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■後書きまたは言い訳
11回目のお仕事は、Wizさんのシナリオで紅き鷹への葬送曲です。
”金狼の牙”を名乗り始めてからの初仕事、ということで、重みのあるシリアスシナリオで戦闘があるものがいいと思い、こちらを選びました。
作者様は「全く新しいことはやっていない」とおっしゃっておられますが、盗賊ギルドからの依頼であることや、戦闘の途中で逃げた魔術師が、実は違うシナリオの伏線になっていることなど、中々面白いと思います。
因縁のある相手と決着を着ける・・・というのは、ファンタジーに限らずカッコイイですよね。

それにしても、今回のエディンは珍しく真っ黒だったなあ・・・・・・(笑)。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。 使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2012/11/18 19:57 [edit]

category: 紅き鷹への葬送曲

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Sun.

紅き鷹への葬送曲 2  

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 入り口前にいた注意力散漫な見張りを、ジーニの【眠りの雲】で眠らせて処理すると、一行は一気にアジト内へと足を進めた。
 アジトは、元は国で作った砦が不要になり放棄されたものを、勝手に紅き鷹旅団が使っているらしい。 
 隊列を組み、一番前をエディンが進む。

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 途中の壁にあった矢の飛ぶ仕掛けを無事解除し、初めに現れた扉に聞き耳をすると、どうもひとりだけ部屋の中で動いているらしい。

「多分、この向こうは倉庫だな」
「・・・・・・情報源は欲しいところだな。首領さえ片付けられれば、雑魚をいちいち相手にしないで済む」

と、アレクが言う。
 ひとりであれば苦もなく取り押さえられるだろうと、首領の部屋の位置を聞き出すため、一行は奇襲に出た。
 ギルが躊躇なく中にいた男を殴りつけ、大人しくさせる。
 必要な情報を聞き出すだけ聞き出すと、あっという間にアレクと二人がかりで気絶させた。

「ねえ、ギル。これ」

 ミナスが指さしたのは、小さな宝箱だった。
 そう時間もかからず解除できそうだと、毒針の罠を短時間で外して中を改めたエディンの目に、金色の鈍い輝きが映った。

「金鉱石か・・・」

 一番ポピュラーな鉱石で、通常出回っている金とは違い、とても加工が難しいとされる。
 引き取り価格はとても安いとされているが、幸い、”金狼の牙”たちには、こういった鉱石を高く買い取ってくれる心当たりがあった。
 他に、この部屋で目に付くような物はない。

 気絶させた男の情報によると、首領と魔術師は、普段別々の部屋にいるのだという。
 下手に歩き回って見つかってしまうと、もぐりだという魔術師を、首領と一緒に相手取らなくてはならないので、彼らは目的である首領の部屋へ一気に行こうということになった。

 部屋の前まで静かに移動し、お馴染みとなってきた補助魔法と召喚魔法を小声で唱える。
 エディンは、ここに来る前に緊急で仕込まれた【暗殺の一撃】のやり方を、脳内でシミュレートしていた。
 できれば首領をあの技でしとめておきたい。そうすれば、魔術師に襲撃を気づかれることもないだろう。
 しかし、【暗殺の一撃】は、このところめきめきと実力の上がってきたエディンにも、難しい技であった。上手くタイミングがつかめるとは到底思えないので、もし技を出す隙があれば僥倖であろうということは、本人にも痛いほど分かっていた。

「よし、みんな。覚悟はいいか?」

 エディンの思惑をよそにしたギルの呼びかけに、他の一同が頷く。

「じゃ、いくぞ・・・・・・」

 エディンがそっとドアを開けた。

2012/11/18 19:46 [edit]

category: 紅き鷹への葬送曲

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Sun.

紅き鷹への葬送曲 1  

 無事にパーティ名も決定し、ゴーレム研究を続けているであろうルーシーのことを考えながら、”金狼の牙”たちがカウンターでぐうたらしていると、小柄な男がひとり、静かに店へと入ってきた。
 その男を見た途端、だらけきっていたエディンが素早く起き上がる。
 小柄な男は、盗賊ギルドの使い走りである。以前に、エディンが盗賊の身ごなしやリューン市内の情報の集め方のノウハウなどを、この男に仕込んだことがあった。

「よう。久しぶり」
「あんたも元気にしてたかい、エディン。冒険者なんかになっちまってから、あんまり顔を見ないじゃねえか」
「今日はまた、どういう風の吹き回しでここに来た?」
「あんたに・・・いや、あんた方に依頼したいことがある、と”コウモリ”からお達しがあってね」

 エディンは黒い目を細めた。
 ”コウモリ”は盗賊ギルドの幹部であり、リューン市内におけるギルドにとっての治安維持を担当している男のひとりである。
 ギルド内での地位はさほど高くはないし、盗賊としての実力も高いわけではないのだが、そこからの依頼となると、荒事か、暗殺関係か・・・。いずれにしても、少々危ない仕事になりそうなのは確かだった。

「リーダー、どうする。俺自身は義理があるから断れない仕事だが・・・」
「色んな依頼人がいたけど、ギルドからは初めてだな」

 若々しい顔を皮肉気に歪めてギルは言った。

「訊いたら断れない仕事だろうけど、エディンひとりを行かせるのは気が進まない。全員で行こう」

 鶴の一声とでもいうべきか、それぞれ、何らかのきな臭さを感じてはいたものの、仲間たちは全員が盗賊ギルドへと向かった。

「・・・来たか」

 初老にさしかかろうかという年齢の男が、暗い中にひとり座っている。
 ギルが、

「あんたが依頼人か?」

と問うと、肯定の返事があった。当然のように引き受けてくれるのだろう、という態度を取る依頼人に対して、幾分か緊張の色が濃いミナスが水を差す。

「話も聞かないで決められないよ」
「・・・・・・いいだろう。だが聞いたことは他言無用だ」

 依頼内容について最初に訊いてみると、なんと頼みたい仕事というのは盗賊退治だという。

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「あんたらに潰してもらう盗賊団は紅き鷹旅団を名乗る連中だ」

 幹部が言うには、ギルドの掟を破っているモグリの盗賊団は、粛清の対象になる。それの代行を頼みたい・・・という話なのだが、盗賊ギルドをよく知るエディンがそこで何故と問うた。
 普通であれば、ギルドの面子がかかっているのである。当然、ギルド内で人員を派遣して、始末するべき問題なのだ。
 粛清の代行を部外者に、それも冒険者にやらせるという意図がどこにあるのか。

「あいつらの中には魔術師がいた。それでも善戦はしたんだがね・・・・・・。首領がバケモノだったのさ」
「バケモノ?」
「人外というわけじゃない。それくらい強い・・・ということさ。そういうわけで気に入らねぇがこれ以上、連中をほっとくわけにいかなくなったワケだ」
「ふむ・・・・・・紅き鷹旅団について、もう少し詳しく教えてくれ」
「最近勢力を伸ばしてる盗賊団だ。ここらじゃ、結構やばい連中だな。ギルドに金払ってる連中も襲撃してやがるふざけた連中だ」
「・・・どうあっても見過ごせない相手だな」

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 盗賊ギルドの収入の一部には、商人や貴族などの有力な者たちからの上納金がある。
 もちろん、それには見返りがあり、ギルドの保護を受けることで、ギルドに属する盗賊たちは彼らを襲うことを禁じられるのであるが、紅き鷹旅団は、そのルールを真っ向から喰い破ったというわけだ。

「魔術師がいるのを確認したが・・・・・・、ありゃもぐりの魔術師だな」
「それは厄介ね・・・・・・。相手の実力のほどが分からないのは」
「ちょいとあんたらには荷が重いかね?」

 ”コウモリ”が小ばかにしたように言うのへ、ジーニがむっとした顔を向けた。とかく、この女性はプライドが高く、人から侮られることをよしとはしない傾向がある。
 それをエディンが上手く押さえて、報酬を”コウモリ”に尋ねた。

「報酬は銀貨で1000枚。いっとくが口止め料込みだぜ。うちも結構厳しくてな。悪いがこれ以上はだせねぇぞ」
「はっ、こないだ西の”蔓薔薇”から”いろいろ”いい物を貰ったと聞いてるがね」

 エディンが小さく鼻で笑った。
 パーティの仲間達には何のことか分からなかったが、指摘された”コウモリ”は舌打ちでもしそうな顔でエディンを見やる。
 盗賊同士の隠語で、エディンは”蔓薔薇”の紋章を持つ貴族から、この幹部へ個人的な上納金が来ていることを指摘したのだ。
 しかし、エディンもこれ以上報酬を吊り上げるつもりはない。
 1000spで引き受けるならそれで構わないが、先ほど「荷が重い」と馬鹿にされたことへの意趣返しと、言い値で仕事をしてやろうという恩を売りつけたのである。
 せいぜい自分達を高く売った”金狼の牙”たちは、依頼を受けて紅き鷹旅団のアジトへと向かった。

2012/11/18 19:44 [edit]

category: 紅き鷹への葬送曲

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Sat.

機械仕掛けの番犬 4  

「先ほどは失礼しました。娘が皆さんにご迷惑をおかけしたようで・・・申し訳ありません。父としてお詫びいたします」
「え、いや、こっちは仕事として引き受けただけで、別に迷惑なんか・・・」

 頭を下げた男の姿に驚き、恐縮したギルが、忙しなく手を振りながら頭を上げるよう彼に伝える。
 ルーシェランことルーシーによると、父の名前を拝借したのは、そうしないと誰も相手にしないと思ったから・・・ということらしい。
 酒場に出した覚えがない広告が、自分の名で張り出されていたことに驚いたため、ファラン氏は慌てて帰宅したそうで、

「そもそも私は、お前を魔導師にした覚えはないし、なってくれと頼んだ覚えもない」

と、娘を叱り始めた。

「女は子を産み、育て、次の世代を作るのが勤めだ」

 どうも、ファラン氏は徹底した男尊女卑主義者らしい。その台詞を聞いたアウロラとジーニが、それぞれ違った表情で彼を睨みつけ始めるのを、仲間達は冷や冷やしながら見守った。

「外の世界で仕事をする必要などない」
「・・・その考え方が、おかしいのよ」
「・・・何?」

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 娘を睨み返すファラン氏を、視線で針のむしろにしつつ、ジーニも口を出した。

「まったくだわ。女性を侮るのも、いい加減にして欲しいわね」
「ちょ、ちょっとジーニ・・・」
「アンタは黙ってらっしゃい」

 ジーニの冷たい声音に、ギルが強制的に黙らせられる。
 その尻馬に乗ったように、ルーシーが口を開いた。

「女だとか、男だとか、そんなの関係ないわよ。やりたい事をしているだけなのに、どうして我慢しなくちゃいけないの?」
「まだそんな事をいうのか。いいか、魔導師というのは、世間では疎んじられる存在なのだ。自然の摂理を曲げ、世界の均衡を崩すもの、それが魔法だ」

 次いで、ファラン氏は魔導師が社会からの蔑視に晒される職業であることを必死に娘に説明したのだが、ルーシーもまったく諦めるつもりはなく、父へ食って掛かった。
 その後ろでは、ルーシーを応援するようにアウロラが頷いている。

「ゴーレムを真に操るにはそれ相応の資質と努力がいる」
「だから修行してるんでしょ!大体ね、お父さんが古代文明の研究に没頭して、家族をほったらかしにするから、母さんに逃げられるのよ!!」
「むっ・・・」

 ファラン氏は至極痛いところをつかれたらしく、その厳つい顔が赤に変わったかと思うと、たちまち青にも変化した。客人の前で、そういったプライベートな事情を暴かれたのが、よほどに悔しかったらしい。

(あー・・・盗賊ギルドでちょろっとだけ聞いた時、もう少し家庭環境について聞いときゃ良かったかな・・・。そうすりゃ、こんなホームドラマを眼前で見なくて済んだんだろうか。)

 エディンが遠くを見やりながら、心中で呟く。
 盗賊ギルドで情報を得る時には、どうしても金が必要になるので、彼は必要最低限と思われる情報をピックアップして行ったのだが、拾い忘れというものは常にある。
 ルーシーが、若々しい顔を興奮の赤に染めながら、自分の主張を叫んで部屋から出て行った。

「ルーシー!!・・・・・・まったく、あの娘は」

 ファラン氏はため息をついた。

「私も女で、しかも冒険者なんて職業に就いていますから?彼女の言い分ももっともだと思いますけどー」
「ジーニ」

 さすがに、仕事は済んでいて娘から報酬は得ているとはいえ、今度またディトニクス家の伝手で、仕事が来るとも限らない。無用な諍いを起こして、新たなしこりを生むのは得策ではないと、アレクが短く彼女の名を呼ばわって目で諌めた。
 そんな冒険者たちのやり取りを見て、ファラン氏も決まり悪くなったものらしい。

「いや、お見苦しいところをお見せしました。・・・では、私もこれで。気をつけてお帰りください」

 これ以上は踏み込まないでくれ、ということである。
 追い立てられるように、一行はファラン氏に玄関まで見送られ、屋敷を出ることとなった。

 宿屋に戻り、いつもの席につくと、酒場の親父が声をかけてきた。

「おう、おかえり。どうだった、首尾は?」
「なんというか、ある意味騙された・・・かな?」
「何?」

 ギルの答えに親父さんが顔色を変えたのを見て、慌ててエディンが要領よく説明してやった。

「・・・へぇ。どうりでねぇ。本当の依頼者は、ファラン氏じゃなく、娘さんだったわけだ」
「ま、そういうことよ」
「んー。あの人、お父さんと仲良くなれたらいいのにねえ」

 ミナスには、まだ男尊女卑の考え方が理解できなかったらしく、結局、ファラン氏の態度も「親としてすごい心配してるんだな」というくらいにしか思っていない。可愛らしく小首をかしげたエルフの少年を見やりつつ、親父が言う。

「ま、報酬はもらえたんだし、よかったじゃねぇか。後は、その娘さんが、お父さんと話し合って決めることだからな」
「その話し合いが、穏便に済めばいいのですけども・・・」
「ルーシーの夢が叶えば、さすがにあの頑固親父も、彼女を認めないわけにはいかないでしょ。かくなるうえは、あのスチームゴーレム相手の私たちの戦闘が、実を結んでくれることを祈るしかないわ」
「じゃ、今日は娘さんの夢に、乾杯だな」

 そういいながら親父さんは、人数分のカップにエール酒を注いだ。

「あ、そうだ。ねえ、ギル。僕らのパーティ名、どうするの?」
「おう、そうだ。どうするんだよ、リーダー」

 ミナスとエディンが、カップを利き手に掲げながら訊いた。
 アレクやアウロラ、ジーニも、ギルのほうを見やる。

「ああ、それなんだが・・・・・・あのウーノを見てて、思いついたのがあって」
「どんなの?」

 ワクワクしながらミナスが促すと、ギルはにやりと笑った。

「”金狼の牙(きんろうのきば)”って名前はどうだろう」
「きんろう・・・?イイね!僕それがいい!」
「いったい、どこから考え出したんだ?」

 アレクが尋ねると、幼馴染は鼻の下をこすりながら言った。

「あのスチームドッグ、綺麗な金の目をしていたろ?でも犬じゃ弱すぎる、せめて狼くらい強くないととか思ってたら、”金狼”って言葉を不意に思いついたんだ。そういう強い生き物になろうって願いを込めてね」

 しかし、ただの”金狼”では面白くないので”牙”をつけたのだと言う。
 はたして、仲間たちは「なんかちょっと恥ずかしい」「名前負けしないといいが」と文句をつけつつも、案外とすんなりその名前を受け入れた。

「よし、じゃあめでたく名前もリーダーによって決まったところで」
「乾杯よぉ!」
「え、ちょっと!なんでジーニが乾杯の音頭取るんだよ!?」

 ギルの叫びを横に置いて、一行はカップを合わせた。酒場の夜は更けていく・・・。

※収入1000sp、パーティ名決定※

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■後書きまたは言い訳
10回目のお仕事は、GroupAskさんの公式シナリオ・機械仕掛けの番犬です。
想定は1~3レベルの依頼らしいですが、はっきり言って3レベル↑じゃないと辛いと思います。
何しろ、最後のスチームゴーレムは7レベルだったりしますので・・・。

男女差別甚だしいファラン氏の発言ですが、可愛い娘を守りたくて一所懸命になってると考えると、またちょっと彼への見方が変わってくるかもしれません。いわゆる、お父さんは心配性。
これ、Askさんから続編は出てないけど、readmeに「序章」って書いてあるんだよな・・・。
一応、ルーシーのその後のシナリオを、有志の方がおつくりになってるものがございます。余力があれば、そっちも片付けていきたいと思います。

さて、今まで無名のパーティだった彼らも、いよいよ名前がついてきました。
”金狼の牙”という名は先に考えてあったもので、「いつ付けたことにしようかな~。由来どうしよう?」などとこのシナリオをプレイしていた時に、ふっとウーノの絵を見て思いつきました。ありがとう、ウーノ!

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。


2012/11/17 05:11 [edit]

category: 機械仕掛けの番犬

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Sat.

機械仕掛けの番犬 3  

ScreenShot_20121107_011554203.png 

 最初のスチームドッグ3体は苦もなく退けた一行だったが、2回目のスチームゴブリンから少々手こずり始めた。
 しかし、アウロラやジーニの後方支援たちが怪我を負いつつも、4ラウンド目には残り2体にまで数を減らし、その後も順調に攻撃を繰り返すことで勝利する。

 ゆっくり休憩をとった一行が最後の実験に赴くと、そこに現れたのは・・・。

「この子はスチームサイクロプス。武器のこん棒はセットしてないけど、そのパワーは強烈よ。充分気をつけてね」

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 妙に誇らしげなファランの言葉に応じるように、口から蒸気を吹き出し、背丈が2mをゆうに超えるスチームゴーレムが現れた。

「それじゃ、第三回目、いってみましょう!」

 初っ端に鎧の薄いジーニが負傷を強いられたものの、運良くアウロラの法術を事なきを得、ミナスの放つ【雪精召喚】がスチームサイクロプスの行動力を激減させる。
 熱せられた金属の体に、魔法のすさまじい冷気が功を奏したらしい。
 さらに畳み掛けるように土の野人・ファハンが敵の足止めを行い、ギルが斧を振りぬいて放った【暴風の轟刃】が、トドメとばかりに叩き込まれた。
 遠距離から斧で放たれた闘気交じりの竜巻が堅い体に大きな亀裂を作り、そこから一気に蒸気と魔法力が漏れた。

『グワシャ!! ガスン!!』

 スチームサイクロプスは、しりもちをついて仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。
 ファランが、心底感心したように口を開く。

「・・・すごいわ。未完成とはいえ、スチームサイクロプスを倒すなんて。貴重なデータが取れたわ。・・・ありがとう」

 客室で休憩をとった一行のもとに、地下室の後片付けを行なったファランがやってきた。

「ご苦労様。実験はこれでおしまい。でも本当にすごいわ。私が言うのもなんだけど、スチームサイクロプスは並みの人じゃ倒せないわよ」
「なーに、こっちには、優秀な精霊使いがついててくれたからな」

と言って、ギルが得意そうに胸を張ったミナスの頭を撫でる。
 ジーニがじろっとそれを横目で見やり、杖の髑髏の部分でギルの背中を突付いた。

「ああら、ろくな防具も持たない仲間を守ってくれたのは、誰の魔法だっけー?」
「いてて!も、もちろん、ジーニ様の【魔法の障壁】ですって!感謝してるって!」

 その様子を見て弾かれたようにファランが笑い声を上げ、他の仲間達も苦笑交じりに笑った。
 なんとか笑いを治めたファランが、報酬のことを口にした。

「1000、払わせてちょうだい。あなた達のファイトには敬服したわ。データを取るのが大変だったけどね」

 一行は報酬を受け取った。
 その時、玄関の扉が開き、誰かが歩いてくる音が聞こえた。
 ファランが露骨に嫌な顔をした。

「げ・・・。なんで今日、帰ってくるの?!まっずぅ・・・」
「え。どうかしたの、ファラン?仲の悪い兄弟か何か?」
「それとも、無心に来た親戚とかですか?必要なら、私たちも同席しますけども」

 どこか慌てた雰囲気の依頼人に、すっかり打ち解けた様子でジーニとアウロラが女性同士の連携とばかりに声をかける。

「いえ、そういうんじゃ・・・」
「ルーシー!ルーシー!!」

 男の声が聞こえた。・・・足音が段々近づいてくる。

(ははあん。さては・・・・・・。)

 その短いやり取りである程度の事情を察したエディンは、ただ静かにその時を待つことにした。
 緑色のローブをまとったがっしりした体の男性は、エディンの予想通り「本物の」ファラン・ディトニクスだった。
 今まで一行と接していた若い依頼人は、ルーシェランという名の彼の娘だという。
 一行は客室から屋敷の応接室へと通されていた。

2012/11/17 05:05 [edit]

category: 機械仕掛けの番犬

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Sat.

機械仕掛けの番犬 2  

 メイドのような格好をしたその少女は、16、7歳といったところだろう。
 平凡な顔立ちながら、そばかすの浮いたかんばせは生き生きとしていて、非常に朗らかな印象を与えてくる。
 依頼について話すと、少女は、

「じゃあ、あなた達が実験の手伝いをしてくれるのね。ありがとう。それじゃ、さっそく中に入って」

と言う。自己紹介によると、どうやら、彼女が依頼を出した人らしい。

(妙だな・・・?)

と、エディンは思った。
 宿の親父さんの話からすると、ファラン・ディトニクスは、リューンの街中まで使いが出来る年頃の娘がいるはずだ。とても、若い彼女にそんな大きな子供がいるようには思えない。
 すると、その戸惑いを見透かしたように依頼人が言った。

「あら、意外だった?古代文明を研究する魔導師がこんな小娘で。これでも10年くらいは研究活動をしているのよ」

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 ジーニがこっそりとエディンに言う。

(魔導師に、外見の年齢は当てはめない方が良いわよ。中には、幻覚の魔法で若く見せるようにしたり、変身の魔法で自分の青春時代に変わってる魔導師だっているんだから。)
(なるほどな。彼女がそれに該当するなら、外見は関係ないってことか。)

 なんでも、今回の研究はゴーレムについてのものらしい。
 ゴーレムについて問われた一行は、ジーニからその注釈を受けた。

「ゴーレムはね。木とか金属で作られたお人形さんに、魔術で擬似生命を与えたものよ。古代遺跡なんかのガーディアンには最適ね。なにせ、エサがいらないんだから」
「よく知ってるわね、そのとおりよ」

 ターコイズに似た輝きの瞳を瞠って、依頼人がジーニの説明に頷いた。

「今までのゴーレムっていうのは、術者の命令にしか従わないものだったの。でも私が今作っているゴーレムたちは、簡単な言葉で命令を受け付けるものなの。魔法を知らなくても、命令できるのよ」

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 先ほど一行に対して威嚇した金属の犬も、彼女が作成したスチームゴーレムだという。動力源が魔法力と水蒸気と聞いて、ジーニが「へえ。斬新な試みね」と感心したような声をあげた。
 研究はほぼ完成しているが、実際に警備用スチームゴーレムが役立つかどうか、戦闘によるテストを冒険者相手にしたかったらしい。
 報酬は最低500sp、他にもボーナスの提示があった。そういうことなら、とギルが承知して、一行は屋敷の地下の奥、大部屋へと案内された。
 入り口の向こう側に、大きな鉄製の扉がある。
 その扉の横にガラス窓があり、ぼんやりと向こう側が見えている・・・ガラスの向こうが実験室のようだ。

「さ、この部屋へ入ってちょうだい。今から対戦の準備をするから、ちょっと待ってね」

 ファランはそういって、大部屋からいったん外に出た。
 しばらくすると、向こう側のガラス窓越しに、ファランが忙しそうに手元を動かしながら話しかけてきた。BGMは元気のいい蒸気の音や機械音である。

「・・・おまたせ。準備できたわ」

 ギルたちも、それに合わせて戦闘の準備を行い、補助魔法や召喚魔法をかけていく。
 ガラスの向こうへ「準備万端」の合図を送ると、ファランは嬉しそうに何かの呪文を唱えた。
 一行の目の前の扉が開いていく・・・。

2012/11/17 04:59 [edit]

category: 機械仕掛けの番犬

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Sat.

機械仕掛けの番犬 1  

「お前さんたちも、組んでから結構長く仕事してるなあ」

 宿の親父さんが、丁寧に拭き終わった食器たちを片付けながら言った。
 ごつい親父さんの手が、可愛らしい苺の柄がついた皿を棚に戻すのを眺めつつ、のんびりとミナスとアレクが同意する。

「うん、僕もそう思う」
「・・・確かにそうだな。願わくばこのまま、減ることなしでいきたいものだ」
「どうだ。お前さんたち、そろそろ固有のパーティ名をつけないか?」
「ふむ」

 アレクは頬杖をついて、親父さんの提案を吟味した。
 その都度メンバーを変更するのではなく、固定面子で仕事をしている冒険者なら、パーティ名はつけたほうが無難だ。
 仕事の際も、「○○のパーティを」という指名がしやすくなるし、もし何か冒険で名を上げるようなことがあれば、人々が口の端に上らせやすい。
 親父さん自身、かつては”光輝の狼”という名で知られた元冒険者で、その通り名がそのままパーティ名になったとアレクたちは聞いている。
 そんな親父さんの偉業にあやかって、「狼」の名がついたパーティ名を考える者達がこの宿には多かった。

「ギルや他のみんなと相談してみるか・・・」
「僕、かっこいいのがいいな!」

 アレクはさほど面倒見がいい性格をしているわけではないが、ミナスは明朗で素直な少年なので、つい溺愛している弟を構うような感じになる。
 この時もそうで、アレクは秀麗過ぎて人間味の少ない美貌に、滅多にない柔らかな笑みを浮かべながら、ミナスの頭をゆっくりと撫でた。

「・・・・・・というわけなんだけどさ」
「ふーん、パーティ名か。そろそろ考えても良い頃だよな」

 数時間後、エディンが見つけた貼り紙の依頼に行く途中で、ミナスがギルに固有のパーティ名を考えようと持ちかけた。
 エディンが見つけたのは木の葉通り3丁目に済む魔導師ファラン・ディトニクスの、実験データ収集の補助というものだった。
 こういった依頼は、うっかりすると非合法な研究の実験台など何かと不安が多いものだが、エディンが調べられた限りでは、このファランという魔導師の周りで、そういった非道な実験をやっている様子や、近頃トラブルに巻き込まれたという事実はなかった。
 親父さんからも、この魔導師の専門は古代文明の研究で、黒魔術などに凝ってるようなことはない、とお墨付きを貰っている。なんでも、ファランの娘が店に直接来たらしい。

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 他に目ぼしい依頼があるわけでもないので、一行はこの仕事を引き受けることにしたのだった。

 宿屋の亭主から渡された地図のとおりに進むと、町外れの屋敷にやってきた。
 ・・・辺りには特に人影もない。まさに魔導師の館と呼ぶにふさわしい建物だ。

「じゃあ、今回の依頼が終わったら、ちょっとみんなで考えてみるか!」
「うん!」
「パーティ名ですか・・・」
「ちゃんと覚えやすくて言いやすいのがいいわねー」

 雑談をしながら一行が屋敷の門をくぐり、玄関へ向かったその時。

『バウ!! バウ!!』

ScreenShot_20121107_004615062.png

 なんと、全身を金属で作られた犬のようなものが現れた!
 腹部の横のパイプからは、時折ガスを噴出している。

「な、なんだこりゃ!?」

 驚いたギルの様子を尻目に、その犬のようなものは、ガチャガチャと金属音をさせながら、一行をトパーズのような双眸でじっと見据えている。・・・威嚇しているようだ。

「ウーノ?どうしたの」

 その時、屋敷の方から女性の声がした。
 犬のようなものはくるりと向きを変え、玄関の方へ向かって走っていった。
 行く先に目をやると、ひとりの少女が立っているのが見える。

 一行も、玄関へと足を進めた。

2012/11/17 04:54 [edit]

category: 機械仕掛けの番犬

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Mon.

熊が来た! 2  

「あった、あれだね」

 冒険者一行は、ミナスが指摘したコルバおばさんの家の前に辿り着いた。
 アレクはここで全員の顔を見渡す。

「手順は大丈夫か?」
「できるだけの補助魔法を、僕らがかけるんだよね?それで・・・・・・」
「俺たちが頑張って、網を母熊と仔熊一頭に集中狙いすると」

 ミナスとギルが口々に言うのに、アレクが頷いた。
 熊は、必ずしも仕留める必要はないのを村人に確認済みである。頭数、とくに危険性の高い母熊さえ抑えられれば、戦闘はぐっと楽なものになるはずなのだ。

「よし、そろそろいこう。呪文頼むぜ」

 ギルの合図で、アウロラ・ジーニ・ミナスが【祝福】【魔法の障壁】【蛙の迷彩】の補助魔法を、次々に唱えていく。
 うっすらと魔力に包まれた冒険者たちは、勇ましく猟師の家に飛び込んだ。

 アレクの目論見は当たり、最初の投げ網でまず母熊を確実に捕らえた一行は、続けてジーニの【眠りの雲】に眠らされた仔熊をそのままに、もう一頭の呪文に抵抗した仔熊へ攻撃を集中させた。

ScreenShot_20121026_085625984.png

 それはあっけないほど見事に決まり、最後の【魔法の矢】でトドメをさした事で、身動きできない残りの熊を安全に捕らえることができたのだった。

「ありがとうございます。お約束の300spですじゃ」
「はいよ。また何かあれば、狼の隠れ家って宿まで・・・・・・ん?」
「ギル、あっちから誰か来るよ。精霊たちが騒いでる」

 ロベールがギルに報酬の入った袋を渡した瞬間、村がにわかにあわただしくなる。
 そよ風の精霊や森の精霊からの耳打ちを受けたミナスが、ギルの左ひじの辺りを掴み、森の方を指さして言い募ると、そこから獲物を担いだ領主一行が戻ってきた。
 きらびやかな狩装束の一団に、元村長であるトマ老人が向かって、留守中の出来事を説明してくれたらしい。
 それを聞いた伯爵らしき白髭の男性が、傍らにいる金髪碧眼の若者になにやら耳打ちをすると、若者が冒険者たちの方へやってきた。

「あれは伯爵の八男、フランソワさまですな。貴族の若様も、末の方になると大変なようで・・・・・・おっと」

 ロベールが小声で冒険者たちに教えてくれたが、当の本人がもう近くまで来たのを見て、慌てて口を噤んだ。

「これこれ、そなたたち。少々相談したいことがあるのだが。すまぬが、ちょっと向こうで・・・・・・」

 伯爵の子息に、少なくとも後ろめたい様子は見られない。
 ついていってもとりあえず大丈夫だろう、と判断したギルは、目線で仲間に頷いてみせてから、先頭に立って歩き出した。

「熊狩りに出た留守に村を熊に襲われたとあっては、物笑いの種。父の面目に関わる。そこでだ・・・・・・」

 納屋の陰まできてフランソワという子息が切り出した話は、熊退治の手柄に関してだった。

「あの熊は村を襲わなかったと考えてもらいたい。”何か分からないもの”に家を荒らされた気の毒な猟師には、いくらかの見舞金を遣わそう」
「・・・・・・・・・ふむ」
「へえ、”森の中で退治された熊”の亡骸さえ村に下げ渡していただければ・・・・・・われら、何の異存もございません」

 冒険者と同じ場所まで連れてこられたロベールが、フランソワの強調した台詞に感づいて、村としての条件を伯爵側・冒険者側に分かるように念押しする。
 熊の亡骸を村に下賜することは伯爵側も同意を示したので、後は冒険者側の問題である。
 伯爵がやった熊狩りの手伝いで、熊を退治したことにして報奨金を別途に貰うか。
 それとも、あくまで自分たちの手柄を主張して名声を得るか。
 伯爵子息・フランソワは冒険者たちにぐっと顔を近づけ、笑みを浮かべながら囁く。

「・・・・・・どうせ村人どもは大した額は払っておるまい。どうじゃ、悪い話ではなかろう?」

 追加で提示された”報奨金”は1000spだった。
 フランソワの笑みは気に入らなかったが、コルバおばさんの家にも見舞金が出るのだし、ある意味で領主に恩を売る機会でもある。
 結局、アレクが最後まで渋ったものの、”報奨金”をジーニが1200spまで出させて、冒険者たちは手柄を売ったのであった。

ScreenShot_20121026_092135312.png

「なんてえんだろうな、この気持ち。ものすごい挫折感がするぜ・・・・・・。ああ、パーッと呑んじまいたいなあ・・・・・・」
「まあまあ。終わり良ければすべて良しですよ」
「アウロラって、たまに本当に尊敬する・・・・・・」

 その日、サンカンシオン村で一泊し、宴で熊汁を堪能した冒険者一行は、リューンへの帰途に着いた。

※収入300sp+1200sp※

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■後書きまたは言い訳
9回目のお仕事は、竹庵さんのシナリオで熊が来た!です。

シナリオタイトルどおり、小村に出没した熊がいて、それをたまたま居合わせた冒険者たちが退治するという話の筋なのですが、この村の人たち(といっても、接するのは5人だけですが)が、妙にキャラが濃くて面白い。
竹庵さんは、ReadMeの中でクロスオーバー等は著作権の誤解のない限り歓迎する、とお書きになっておられるので、この面白い村がまた誰かの作品にちらっとでも出てきたらいいなあ、と思っています。

退治してやれやれ、と思ったら後になって出てくる伯爵親子とのやり取りもあり、「金を取るか名誉を取るか」と、結構考え込まされたシナリオでした。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2012/11/12 15:34 [edit]

category: 熊が来た!

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Mon.

熊が来た! 1  

 セランス東部、コセンソール地方。
 小高い山々が穏やかに連なる、のどかな土地である。

「いやー。ベルサレッジの盗賊団には、参ったよな」
「あんなに的確な指示を出せるなんて・・・彼も、真っ当な職にあれば、もっと素晴らしい人生だったでしょうにね」
「おい、リーダー。あれ」

 冒険者一行は、要港都市ベルサレッジで、盗賊退治の依頼を片付けた帰りだった。
 ギルとアウロラが依頼の感想を言い合っていると、先を歩いていたエディンが振り返って、山あいの小さな村を指差した。

「なんだ、あの騒ぎは」

ScreenShot_20121026_081444812.png

 ギルが呟くのも道理、村の教会堂の前の広場では、テーブルや長椅子がひっくり返り、村人たちが右往左往しながら騒いでいる。
 冒険者一行が得物に手を添えたその時、一人の少女が彼らの姿に気づき、駆け寄ってきた。
 年のころはまだ十代前半といったところか。波打つ褐色の髪を短くした、丸顔の賢そうな娘である。

「冒険者の方たちとお見受けします。ちょっとした厄介事が起きまして。とりあえず村の教会堂へお越し願えませんでしょうか」
「・・・いいぜ、厄介事は俺たちの飯の種だ」

 興奮した村人でごった返す教会堂の奥。
 説法壇の周りには、村の頭立った人々が集まっていた。
 この教会堂の主であるピコネリ司祭が、まず口火を切って説明を始める。

「この近在では、秋口から熊が頻々と人里に出没するようになりましてね・・・・・・」

 何でも、熊狩りを思いついた領主が村の若い連中を勢子として連れて行った留守に、親子連れの熊が村に現れたのだという。
 村に残っていた人々は、老人や病人や子供を連れて、どうにか教会堂まで避難してきたとのこと。
 熊は今、村の中央を流れる小川の向こう側の民家の一軒に上がりこんでいる。

「・・・・・・いやまったく、クマっているのです」

 司祭の言葉に、秋よりもむしろ冬にふさわしい冷たい空気が流れた。
 村人たちの反応を見るに、司祭は日頃からこの調子なのだろう。
 気を取り直したように、司祭の隣に座っていた、お団子頭のふくよかな女性が言った。

「熊が上がり込んだの、ウチなのよ。ホントに困るわ。あんたたち、冒険者なんだって?なんとかならないかい?」
「そりゃあ、一般の人が手を出すよりは確かだろうが」
「それを頼むのなら、仕事ってことにさせてもらうけどいいの?」

 エディンが苦笑しながら頭をかく横で、ジーニが報酬のことについて言及する。
 二人の冒険者の反応を見て、慌てて元村長という老人が、お団子頭の女性の言葉を撤回させようと自分の主張を始めた。

「いや待て、領主さまのお帰りを待ったほうがええ」
「あのタマ無し領主に熊をくれてやることはない。そもそもがあのお人は・・・・・・」

 それを機に、村人はてんでに喋りだして収拾がつかなくなった。
 領主の噂話で盛り上がるのは結構だが、熊の話はどこへ行ったのだ。
 司祭が人をまとめるのに慣れているせいか、とりあえず周りを落ち着かせ・・・ようとして、コネタを喋ろうと隙を狙う。
 大人たちの呆れた醜態を見かねたらしく、冒険者一行をここに連れてきた少女――ミシェルが、この場を仕切り始めた。

「ごめんなさい冒険者さん。質問は私が承ります」
「・・・・・・お前も、若いのに苦労してるんだな」

 ため息をひとつついたアレクが、要領よく村や領主、熊のことについて質問をまとめた。
 それによると、この村はサンカンシオン村といい、特に目覚しい産業があるわけでもない平凡な村らしい。
 普段なら大騒ぎにはならない熊の出現だが、司祭の言っていたような事情――ブルイエ城に住む領主は、温厚だが思いつきで行動することが多いようだ――があり、人手がまったくない状態なのだ。

「熊は三頭か・・・・・・」
「ウチの子が家の中に居なかったのが幸いだけどね。慌てて近くにあった鍋ひっつかんでガンガン叩きながら”熊が来た!”って触れて廻ったわけさ。もう大騒ぎだね。隣の婆さんなんてそりゃあすごい勢いで飛び出して」
「・・・・・・かいつまんで言うと、3頭のうち大きな1頭が母熊、あとの2頭は仔熊と思われます」

 猟師の女房だというコルバおばさんの長広舌を遮って、ミシェルが言う。
 普通のツキノワグマだというから、妙な妖魔を相手取るよりは楽かもしれないが、まだ新米の粋を出ない彼らにとっては油断できない。
 待っていれば騎士団の派遣もあるだろうが、村として貴重な熊の毛皮や肉を領主側に持って行かれるのは惜しい、という裏事情もあるが故の仕事の依頼だった。

「わが村はご覧のとおりの貧しい村・・・・・・逆立ちしても150sp程度しか報酬は出せんでの」
「えー・・・・・・それっぽちで熊退治をさせるつもり?昼寝しているほうがマシね」

 愛用の杖ごと腕組みをしたジーニが、鼻を鳴らしてぴしゃりと言うと、ミシェルの祖父ロベールが広い額に汗を滲ませつつ、報酬を値上げた。

「ジーニさんと見込んで特別ですじゃ。300spでどうか手を打ってくだされ。この通りですじゃ」
「最初の提示額の2倍か」
「ってことだけど、どう?ギル」

 エディンとジーニが、口の端を上げて自分たちのリーダーを振り返る。

「よし、その条件でやらせてもらうか」
「ありがとうございますじゃ。よろしくお頼み申しますでの」

 冒険者一行がその場に立ち上がると、コルバおばさんが「そうだ、網を見つけたんだけど」と、熊退治に貸与を申し出てくれたので、ありがたく網を借用することにした。

2012/11/12 15:17 [edit]

category: 熊が来た!

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Sun.

東の妖獣 2  

「これが問題の屏風か」
「本当に怪物が出るのかしら?」

 商売上の興味から屏風を見つめるエディンの横で、ジーニが少女のように口を尖らせて言う。
 アレクはジーニ以外のメンバーを2交代制にして、屏風を見張ることを提案した。
 そうして数時間後・・・・・・。

「・・・・・・・・・?」

 「それ」に初めに気づいたのはギルだった。
 彼は、魔法関連に関してはまったく素養のない人間なのだが、傭兵のような戦いの勘とも言うべきものを持っている。
 見張りをしていた豪奢な屏風から、緑色に濁った煙が四隅から湧き出たかと思うと、たちまちそれは中央に集まりだして黒く形をとり始めた。その姿は、まさしく妖獣と呼ぶにふさわしい。

「みんな、起きろ!」

 でかい声で仲間を起こしつつ、ギルは武器の柄を短く持って構えた。
 室内での戦闘ということで、あまり長い間合いでは戦うことが出来ないので、腰を低く落としていつでも相手の懐に飛び込める用意をしている。

 アウロラ・ジーニが呪文集中の詠唱にかかり、他の4人が現れた怪物へと武器を持って向き直る。
 特にエディンは、怪物をまず足止めしようと【磔刑の剣】を繰り出す構えだ。
 詠唱のために魔力を集中していた状態のジーニが、声をあげた。

「こいつまだ完全に実体化してないみたいよ!」
「完全に実体化したら厄介です。今のうちに倒しますよ!」

 アウロラの激に、他の仲間が頷いた。
 戦闘が始まると実体化は完全ではないものの、怪物に物理的攻撃は有効らしく、エディンが腰のダガーを使って突き刺した技も、怪物の太い足を床に見事縫いとめていた。

ScreenShot_20120920_212045718.png

 しかし。

「こ、こいつ、無理やり足を引っこ抜きやがった!」
「傷が少し塞がってる。再生能力!?」

 正体不明の妖獣の動きに、エディンとアウロラが動揺する。
 恐ろしいことに、妖獣は自分の行動力と抵抗力を高めることができるらしく、呪文も唱えずパワーアップしたその様子に、パーティの一部が浮き足立った。

「ひるむな!これで終わりだ!」

 あくまで冷静さを保って攻撃のチャンスをうかがっていたアレクの、渾身の力を込めた一撃が、妖獣の首を叩き潰した。

ScreenShot_20120920_212101562.png

 黒い姿を、どうと大きな音を立てて沈めた怪物の姿に、しばらく一同は構えを解かないまま注意していたが、やがて完全に沈黙したことが分かるとほっと息をつく。

「どうやら終わったようですね」
「みたいだね」

 アウロラの言葉にミナスが頷く。
 その後、一同が妖獣と戦ってる間に熟睡していた依頼人から、約束の報酬を得た。
 その技能【投銭の一閃】は、誰も適性のないことが分かり売り払うことにしたが、初歩的な技能書であることもあり、大した金にならなかったため、アレクは身銭を切って仲間達にエールを奢る羽目になったのだった・・・。

※収入400sp+800sp(東の妖獣+要港都市ベルサレッジ)、【投銭の一閃】入手※

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■後書きまたは言い訳
8回目のお仕事は、Wizさんのシナリオ・東の妖獣です。
非常に短いシナリオで、リプレイの下書きも今までで一番ファイル容量が小さいという・・・しかし、シンプルな内容だけに、戦ってスカッとしたい方には最適のものだと思います。
もし、【投銭の一閃】に誰か適正を持ってたら使おうと思っていたのですが、みんな普通以下にしかなりませんでした。残念。

一箇所、スクリーンショットを起動させるタイミングを間違えて変な風になってますが、心優しい読者の方は、アレクのトドメは見なかったことにしてください(酷)。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。


2012/11/11 23:52 [edit]

category: 東の妖獣

tb: --   cm: 0

Sun.

東の妖獣 1  

「冒険者募集・・・奇妙な怪物?」
「ふーん、怪物退治か。銀貨400枚はちょっと安くね?」

 壁の張り紙をはがして読み始めたアレクの手元を、ギルが覗き込んでいる。

「相場より安いが、他にお礼でもらえるものがあるだろ」
「そういやそうだな。東方で仕入れた技能書、か・・・」
「サトウ・イチロウか・・・東の名前だな」
「おや、あんたたちその張り紙に興味があるのかい?」

 童心に返ったかのように賑やかな二人に、宿の親父さんが声を掛けた。

「そいつは東方から来た商人からの依頼でね。何でも家に化け物が出るらしいんだ」
「商人からの依頼が多いな、ここのところ」

 苦笑して張り紙をカウンターへ差し出したアレクとギルに、親父さんは温めていたコーンスープを差し出した。
 階段を軽やかに下りてくる音がして、エディンが階下に顔を出す。

 エディンは盗賊だ。無論、音をまったく立てずに階段を下りることも出来るのだが、普段からそんなことをしていては、たちまち正体がばれてしまうので、必要のないところでは普通に足音を出すようにしているらしい。
 しかし、聞き耳の良さは相変わらずで、違和感なくカウンターに寄り集まっている3人の会話に飛び込んできた。

「だからそいつを退治してくれ、と」
「そういうことだ。依頼人の家はリューンの郊外にある。長くはかからんだろうし、話を聞くだけでも行ってみたらどうかね?」

 エディンが頷く。

「その技能書とやらも気になる。ああ、行ってみるぜ」
「よし、じゃあ依頼人の家までの地図を渡しておくぞ。詳しい話は向こうで聞いてくれ」

 コーンスープを飲み干したギルが、弾むような足取りで2階に向かい、残りの仲間に依頼のことを伝えに行く。
 報酬が安いと文句をたれながらも集まった冒険者たちは、そのまま依頼人宅へ向かった。

 地図の通りに進み依頼人宅へ訪れた冒険者たちは、要件を告げると客間に通され、しばらく待つように告げられた。
 これが東方の建築様式で建てられた家らしい。普段目にする家とはずいぶん違って見える。
 紙や木を使った引き戸、初めて見る壁の材質などを観察していると、この家の主人、すなわち依頼人がやってきた。

「待たせてしまって申し訳ない。私が依頼を出したイチロウです」

 東方から来たというイチロウは、変わった髪形と服装をしている。
 口を開くと、やや母音を強調するような発音が気になったものの、概ね意思疎通に問題のないこちらの言語が飛び出した。

「えー、私どもももう大変困っておりましてね」
「胸中お察しします」
「どうやらこの家に化け物が出るようなのですよ」

 からかってるのか真面目なのか、よく分からないギルの言葉には眉も上げず、依頼人は話し続けた。
 アレクが必要と思われる質問をしてみる。

ScreenShot_20120920_204638156.png

「その化け物ってどんな奴なんだ?」
「私は怪物には詳しくないのですが、鹿に似ていて13尺ほどの大きさで、顔は狼に似ていたそうです」
「あなたが目撃なさったわけではない・・・?」
「ええ」

 頷いた依頼人を見て、ふむとアレクが唸った。
 伝聞による怪物像というのは、えして情報不足だったりすることもあるので、注意が必要である。
 そんなことを知ってか知らずか、依頼人はまた口を開いた。

「何でも目撃した使用人が言うには、怪物はある屏風から飛び出した、とか言っておりました」

 屏風というのは、リューンの東方趣味の収集家の間でも流行っている、部屋を一時的に仕切るための衝立のようなものらしい。
 屏風の表面には大抵絵が描いてあるものだが、それが高名な画家の手によるものだと値段がたちまち跳ね上がるという依頼人の説明を聞きながら、ギルが首を捻った。

「それを捨てればいいんじゃ・・・」
「そんな勿体無いことがどうしてできましょうかっ!」
(あ、高い奴なんだな)
「あれは銀貨に換算すると4000枚もするんですよ!それを捨てるなんて勿体無い!」
(人死にが出てからじゃ、高いとも言ってられないと思うけどね・・・)

 後ろでこっそりとエディンとジーニが話し合っているのに気づかず、イチロウは屏風の貴重性を拳を振り上げて力説していた。

「と、とにかく屏風から現れた怪物を倒してくだされば報酬は払います」
「・・・・・・・・・」

 ギルは困ったように頭を掻いた。あまり、この手の商人が好きではないのだ。
 しかし、一度仕事を請け負ったからには、ここで下りるとは言えない。
 アレクはギルの代わりに質問をした。

「それで怪物はいつ出るんだ?」
「分かりません」
「・・・・・・・・・」

 ジーニが明らかに顔を歪めた。めんどくさい、の6文字が書かれているのが仲間には分かった。

「だから皆さんにはずっと屏風を見張ってもらうことになります」
「・・・・・・ちょっと、アレクシス?」
「・・・・・・分かった、俺が悪かった」

 冷え冷えとしたジーニの声に、アレクは敗北を悟った。
 ジーニには、化け物が出るまで休憩しててもらうのが一番良さそうだ。

「その化け物を退治してくれれば、銀貨400枚と東方より仕入れました技能書をお渡しいたします」
「・・・・・・・・・」

 黙り込んだエディンは、もうその技能書とやらがいい品であることを祈るばかりだった。

2012/11/11 23:36 [edit]

category: 東の妖獣

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Wed.

護衛求む 5  

「・・・・・・・・・来る!」

 ギルの叫びと、森の精霊たちが襲い掛かったのはほとんど同時だった。
 自分への攻撃と、ローンへの攻撃を同時に庇ったギルが体力を半分以上削られるが、上手く詠唱を繋いだジーニが、植物モンスターの苦手な【火炎の壁】の魔法を繰り出す。
 敵の数が多いと瞬時にとって見たアレクは、武闘都市エランで覚えたばかりの【飛礫の斧】という技を二回使い、四方から襲いかかる雑魚の掃討をした。
 ミナスは精霊語で雪精に呼びかけるが、エントの有様に心を痛めているためか、上手く呪文に集中できない。
 補助魔法もないまま、不利な条件で彼らは戦ったのだが、ギリギリでアウロラが放った【光のつぶて】が、炎の攻撃で弱っていたエントに止めを刺した。

ScreenShot_20120920_060846890.png

「グッ・・・・・・」
「ごめん・・・エント、こんなやり方しか出来なくて、ごめん・・・」

 泣きじゃくるミナスの頭を抱え込むように撫でたアレクが、ぽつりと呟く。

「・・・精霊・・・」

 昔、精霊剣士として名を馳せていた父がここにいたら、自分とは違う結末を彼らに与えられただろうか、とアレクは考え込んだ。
 父と同じ道を歩むつもりは毛頭なく、今まで魔法剣のみを習い覚えていたアレクだったが、初めて父と同じ道に興味を覚えた。
 
「野盗・・・いや、我々人間の行いにずっと怒りを抱いていたんですね・・・」

 哀しげに聖北の印を切るアウロラの横で、ローン氏が放心したように言った。

「・・・すいません。私達はもっと・・・考えなければならないのですね・・・」

 その時、木々が揺れた。ローン氏の言葉に呼応するかのように。
 ローン氏が、野盗の骸をどうするか一行に聞いてきた。

「埋葬してやろうぜ・・・」

 そう答えたリーダーに否やを唱えるメンバーは、いなかった。

 数時間後、彼らの姿は無事、リューン市内へと移っていた。
 ローン氏が一行の苦労を労う。

「みなさん、今回は本当にご苦労様でした」
「いえいえ、ローンさんも疲れたでしょう」
「そうですね・・・。ですが、みなさんのおかげで無事に帰ってこられました」

 頭に巻いた白い布に手を当てつつ、ローン氏は続ける。

「もし護衛してくれたのがみなさんでなかったら、私は今ごろ、ここにいなかったかもしれません・・・本当にありがとうございました」
「いや、そんな・・・改まって言われると、照れちゃうじゃない」

 上品ぶって口に手を当てて笑うジーニに、仲間が苦笑する。
 そんな彼らと同じ表情をしていたローン氏が、姿勢を正して一同に言った。

「では、そろそろお別れですね。こちらが約束の報酬です」
「あれ?多いわよ?」
「・・・感謝の気持ちですよ」

 本当にいいのかという面持ちになったジーニの背中を、エディンが軽く叩いてローン氏に頭を下げた。

「分かりました。ではありがたくもらっておきますね」
「・・・よかったら、また護衛を引き受けていただけますか?」
「ええ、いつでも張り紙を出して下さい」
「お願いします。それでは・・・・・・」

 これまでずっと同じ道を歩んできた行商人が、リューンの雑踏の中に消えたのを見届けて、アレクが言う。

「・・・俺達も帰るか」
「そうね・・・」

 うーん、と髑髏のついた杖を持ったまま伸びをしたジーニが、颯爽と宿の方へと歩き出すのに、慌ててミナスとアウロラがついていく。
 その様子を後ろから眺めながら、ギル、アレク、エディンも、子どものように互いを小突きながら歩き出すのだった。

※収入500sp+1500sp(護衛求む+要港都市ベルサレッジ)※

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■後書きまたは言い訳
7回目のお仕事は、寝る前サクッとカードワースフォルダから、がじろーさんの護衛求むのシナリオです。
隣町までの行商人の護衛という、ともすればありがちな依頼になりかねない仕事を、「隠者の庵」キーコードに反応するようにしたり、森の中に様々な罠を作ったりして飽きさせない手腕は、さすがカードワース内の大ベテランさんだなあと、始終感心させられました。

今回のひそかなお気に入りは、ぷちっと切れたアウロラと、精霊使いとしてのプライドを見せたミナスだったりします。

アウロラは、怒らせると一番怖い人。ドンドン毒舌の鋭くなるジーニと違って、冷静にぷつっと切れるので余計怖い。
ミナスは、いつもは戦闘で攻撃に支援にと縦横に活躍してくれるのですが、このシナリオでの戦闘ではまるで良いところがなく、きっとエントの姿に動揺したに違いない、と私は考えました。
当然、シナリオにこちらの勝手な設定が入ってくるわけではないのですが、ゲーム上の偶然でこちらの思惑に当てはまった瞬間というのは、リプレイ書きにとって何より嬉しい物だと思います。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。


2012/11/07 03:22 [edit]

category: 護衛求む

tb: --   cm: 0

Wed.

護衛求む 4  

 2日目。
 朝食を宿で片付け、さっそく出発した一行だったが、その目は昨日以上に鋭く辺りを睥睨していた。
 あの盗賊の首領が只者ではないだろうとは、昨夜の雑談の時に話が出ている。
 慎重に進むしかなかった。
 
 昨日と同じ射撃の罠、と思いきや爆弾と二重の罠だったり、ウィードの群れに行く手を遮られたりしながらも、一行は小川の休憩地点へと進んでいった。

「ひどいことするなあ・・・動物の居ない森になったら、どうするんだよ」

 エルフ族であるミナスにとって、森は友達に等しい。爆弾の罠も、どうしても外せないから爆発させると言うエディンに、最後までどうにかできないのかと食い下がったのは彼である。
 こんな風に森を傷つける野盗に、怒りがおさまらないのは当然だった。
 悔し涙を浮かべるミナスをアウロラが宥めるも、腹が立っているのは彼女も同じだった。
 やりきれない気持ちを抱えつつも、一行は倒れこむように小川まで辿り着いた。

「とりあえず、少しでも長く休もうぜ・・・・・・」

 白皙の頬についた傷から血を滲ませながら、アレクは仲間に提案した。
 どっかりと腰を下ろし、武器の具合を確かめ始める。
 その様子を眺めたギルも、背中合わせにアレクと同じ岩に座り込み、自分のブーツの紐を結び直し出した。
 他の者も、思い思いに休み始める。
 そしてどうにか、完全とは言えずとも、一行は体力を回復した。

「・・・・・・ふう。生き返ったぜ」
「・・・お疲れ」

 思わず呟いたエディンの肩を、がっしりとしたギルの手が叩いた。
 
「おいおい、よせよ。まだ終わってないんだぜ」

 苦笑したエディンが、続けて「気を引き締めて・・・」と言おうとすると、恐怖と苦痛に満ちた叫び声が森の奥から上がった。

「な、何!?」

 珍しく動揺しきったジーニの隣で、耳を澄ませていたエディンはある方向を指差した。

「そんなに遠くないぞ!あの声は・・・まさか!」
「待って下さい!罠かも・・・!」
「いや・・・それはない。あれは・・・演技じゃない!」

 全員が、ギルのほうを見た。

「・・・行くぞ!」

 そして走り出した一行を出迎えたのは、あの野盗の首領と・・・それを抱きかかえるようにした、エントの姿だった。
 エントがゆっくり力を込めると、べきべきと骨の砕ける嫌な音が響いた。

「・・・・・・!」

 ミナスが嫌悪感に顔を歪めつつも、周りを見渡す。
 辺りには、野盗の仲間が転がっていた。すでにピクリとも動きを見せる様子はない。
 やがて、体中の骨が砕けた首領を、エントが飽きた人形を捨てるように投げた。

「がはっ!!」
「マダ居タカ、人間メ・・・・・・」

 他の仲間が驚き、立ちすくむ中、ミナスの小さな体が前に進んだ。
 彼は精一杯の声を張り上げて、精霊語で呼びかける。

「エント、森の精霊よ。君達の怒りは、僕にはよく分かる・・・。でも、こんなことしちゃいけないんだ!君たちまで血に汚れちゃダメなんだよ!」
「傲慢ナ人間ドモメ・・・我ラ精霊ハコレ以上、オ前達ノフルマイヲ許スワケニハイカナイ・・・」
「エント、お願い僕の話を聞いて!」
「無駄だ、下がれミナス!」

 アレクがミナスの肩を掴んで、後方へと押しやる。ギルが依頼人に向かって叫んだ。

「ローンさん、俺から離れないで!」
「は、はい!」

2012/11/07 03:20 [edit]

category: 護衛求む

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Wed.

護衛求む 3  

 やがて、出来るだけ声を落として、エディンは仲間達やローン氏へ言った。

(落ち着いて聞いてくれ・・・・・・尾行されている。)
(・・・・・・え?)

 濃藍の目を瞠ったのはミナスだ。その横で、依頼主のローンは声も出ない様子でびっくりしている。
 落ち着いた歩き方のまま、アレクはエディンに問うた。

(・・・一体、どこに・・・?)
(右前方の茂みの中・・・わずかに気配がある。おそらく野盗だろう。数は・・・・・・分からない。)
(どうして襲ってこないんだ?)

 気の短いギルが囁く。

(仲間を待っているか、隙を伺っているのか・・・・・・。それとも何か策があるのか。)

 歩きながら、一行は考えを巡らせて行く。

(・・・・・・どうするの?)

 不適に微笑んだジーニが言った。もしアレクが火事を警戒して止めていなければ、この高慢な女性は、躊躇いもせず火炎の術を使っていただろう。

(まだ距離がある。馬車を置き去りにして先制攻撃をかけるのは不可能だな・・・・・・。このまま気づいていないフリをして行こう・・・。)

 消極的な案に、ギルやジーニは不満そうだったが、アウロラが睨むと渋々頷いた。
 歩き続けた一行の視界左手に、大きな沼が入った。
 森の切れ目も近いらしく、それほど遠くない位置に建物らしきものも見られる。

「もうすぐだね・・・」
「ええ、あとひと頑張りです」

 ミナスの緊張した呟きに、わざと陽気にローン氏が応じる。
 何もなければ・・・と願う一行をあざ笑うように、先頭を歩いていたエディンが足を止めた。

「・・・・・・・・・これは!」
「この地面って・・・・・・」

 エディンと、目聡いジーニが見つけたのは、かなり大掛かりな落とし穴だった。
 驚く依頼人に、エディンが野盗の狙いは多分これだったのだろう、と説明する。
 腰のダガーに手をやりながら、エディンが仲間を見渡す。

「・・・・・・さて、ここでケリをつけるか。幸い、後ろは沼地だ。馬車と奴らの間に立てば、後ろは気にせず戦えるだろ」
「・・・・・・なるほどね」

 その言葉に頷いたジーニが、さり気なく杖を利き手に持ち替えた。
 そして一行は、沼と馬車を背負うように隊列を組み直す。
 ミナスは遠距離攻撃よる先制を提案したが、敵の場所がはっきり分からないとまず成功しない、とエディンが嗜めた。

「敵の居場所が分かれば・・・」
「あら、エディン。あれをお忘れ?」

 にやりと笑ったジーニが懐から取り出したのは、青く輝くオーブ―――”生命の瞳”だった。
 これは生命オーラを視認できるマジックアイテムなのだ。
 彼女のやろうとしていることを理解したエディンが、陽気にぱちりと指を鳴らした。

「そいつがあったか!」
「後はお任せあれ、ってね・・・」

(1・・・2・・・3・・・4人ね。人数はこちらの方が多い。先手を取れば、かなり有利な状況を築けるわね・・・)

 続けざまに、ジーニは呪文を唱えて印を組むと、杖から魔法の矢を飛ばしてオーラを視認した場所に飛ばした。

「・・・魔法の矢!」
「ぐはあっ!」

 ジーニが手ごたえを感じるとともに、次の瞬間、数人の男がいきり立って飛び出してきた!

「野郎、ふざけやがって!」
「おあいにくさま、野郎じゃないのよ。悔しかったら・・・・・・」
「やめろ!状況を見極めるんだ!」

 かかってらっしゃい、というジーニの挑発は喉の奥に消えた。
 首領らしき男が出てきて一喝すると、彼はジーニたちに向き直った。

「ここは退こう。だが貴様らの顔は覚えた。生きてここを通って帰れると思うなよ!」
「ほーっほほほほ!負け犬の遠吠えなんか、いちいち覚えてられないわよ!」

 野盗たちはジーニの叫び声を背負いながら、冒険者たちが来た方向へ走り去った。

「・・・・・・・・・」

 ローンは心もとない顔をしていた。野盗を怒らせてしまったのが原因だろう。
 それを見たジーニが、ふん、と胸を張って言う。

「不安になる必要はないです。私たちがついている限り、依頼人は必ず守りますから」
「・・・・・・はい」

(そう言われても不安だろうなあ、ジーニが思い切り挑発したもんなあ。)

 胸中で呟きつつ、エディンは急ごうぜ、と声をあげて一行を村へ導いた。

2012/11/07 03:19 [edit]

category: 護衛求む

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Wed.

護衛求む 2  

 ローン・イリーガ、というその依頼人は小柄な中年の男性だった。
 やや頼りなげなその風貌とは別に、語り口ははっきりとしていて、解りやすい言葉を選んでくれている。
 彼は、その口調で道行について説明してくれた。
 平坦ではっきりした道が続いているトレセガ街道は、途中で森に繋がっており、狼や野盗が出るという。
 全員がエディンの方を向いたのは、言うまでもない。

「はいはい。ちゃんとお仕事しますよー」

 その台詞が合図だったかのように、ローンが馬車を引き、一行はその周りを警護して歩き出した・・・。

ScreenShot_20120920_042529750.png

 途中、狼達をジーニの【眠りの雲】で眠らせ、ウィードを問題なく倒した一行は、休憩地点の小川でゆっくりと心身の疲れを癒した。
 森を無事抜けて、もう一息だと声を掛け合ったところで、依頼人から意外なことを言われる。

「・・・・・・狼の隠れ家のマスターには既にお願いしてあったんですが、ご存知ないでしょうか?」
「キイテマセン」

 ギルが思わず変な調子で返す。
 ローン氏は、「荷物を持ってください」と、さも当たり前のように彼らへ言ったのだ。

(あ、あのくそ親父~~~~!帰ったら見ときなさいよッ!)

 肉体労働の苦手なジーニが、思わず心中で復讐を誓っている最中も、依頼人の説明は続いた。
 上り坂が続くので、馬車に荷物を置いたままでは難しい、そのために馬の負担を減らすので荷物を持って欲しいと。
 しかし、これも仕事であることは間違いない。一行は諦めて重い荷を担いだ。
 ローン氏には聞こえない最前列で、ギルとアウロラがこっそりと囁きあう。

「なあ・・・・・・俺たちって・・・冒険者だよな?」
「そうですね」
「冒険者の仕事って・・・こんなものなのかよ」
「・・・・・・・・・」
「俺たちは・・・野盗や狼から依頼人を守るためにここにいるんじゃなかったのか・・・」
「・・・・・・・・・」

 ぶち。

(げげ!)

 聞こえるはずもないのだが、アウロラの堪忍袋の尾が切れたような音が、すぐ後ろのエディンには聞こえた気がした。
 エディンは、慌てて前のギルへ無駄口をやめるよう、アイコンタクトを必死で出した。
 何しろ、アウロラは普段は優しいのだが、怒りが頂点に達した時の恐ろしさは半端ではない。
 この娘を怒らせるのは、決して得策ではないのだ―――だが、哀しいかな、我らがリーダーにその目配せは見えていなかった。

「冒険者の仕事って―――」
「・・・分かりましたよ。理不尽な荷物運びを急に押し付けられたのは分かりますが、そんなことをグチっても仕方ないでしょう」
「う・・・・・・」
「目の前の仕事をキチっとやりとげるのも、冒険者の仕事でしょう」
「・・・・・・・・・」
「行きましょう。無駄口を叩いて無駄に体力消費する必要はないです」
「・・・・・・ハイ」

 まさしく氷の女王と見紛うばかりの視線で睨みつけられ、ギルは口を紡ぐしかなかった・・・。

「ん。罠がある」
「・・・いつも、ここを通るときはこんな様子なんですか、ローンさん」

 無事荷物を下ろし、また森のエリアに入った一行の足を止めたのは、エディンのそんな一言だった。
 人為的な罠であることはエディンの様子でよく分かる。
 ギルが、ローンに普段の街道について聞いた。このローン氏も、以前のように盗賊の下へ冒険者たちを案内するつもりなのだろうか?
 しかし、彼は思い当たることなどないらしく、眉をひそめて答えた。

「いえ、もっと平和できれいな森だったのですが・・・やはり、野盗などが森を荒らしているのでしょうね・・・悲しいことです」
「人間のエゴ・・・・・・か」

 アウロラが哀しげに瞳を揺らして言った。
 その後ろで、黙って指を動かしていたエディンが、終わったとばかりに立ち上がって一行を促した。
 一同は、しばらく言葉すくなに歩き始めた。

2012/11/07 03:18 [edit]

category: 護衛求む

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Wed.

護衛求む 1  

 いつもと変わらぬ、狼の隠れ家・・・・・・。
 それを見つけたのは、一行の癒し役であるアウロラだった。

「あら」

 彼女は壁に貼ってある張り紙をはがして、カウンターまで持っていった。

「親父さん、この依頼なんですけど」
「ああ、それか・・・見たとおり、護衛の依頼だよ」
「ん、新しい仕事?」

 不意に可愛らしい声があがり、アウロラが周りを見ると、仲間たちが後ろから張り紙を覗き込んでいた。
 質問をしたのは、幼いエルフであるミナスだろう。すっかり旅に出るものだと思い込み、目をキラキラさせている。
 その様子に苦笑した親父さんは、ゆったりと話を続けた。

「その依頼は、ある行商人からのものだ。村まで行商に行きたいから、行きと帰りで護衛してほしいらしい」

ScreenShot_20120920_040433671.png

「護衛か・・・よくある依頼ね」

 ジーニが呟く。
 よくある、という割りに口調が苦いのは、以前に、葡萄酒運びの護衛で山賊とやりあった経験があるからだろう。行商人の道行きの危険性はよく分かっていた。

「まあ、そうだな。どうだ、手ごろな依頼だと思わないか?」
「その依頼人が、またこっちに何かを黙ってたりしなきゃな」

 一行の荷物の中身を思い出しながら、エディンが笑った。
 前の経験を引きずるのも先入観があっていけないが、何の警戒もしないのも良くない。
 エディンと顔を見合わせたジーニはまず報酬を、濃藍の瞳を輝かせたままのミナスは道のりを、それぞれ宿の親父さんに聞いた。

「400spか。少なめよね~」
「ただし宿代は向こうもち、か」
「トレセガ街道って、僕初めて聞いたよ!どんなとこだろう!」
「ま、目的地のフォーン村までは丸一日って言うし、手ごろじゃねーか?」
「街道に出るのは野生動物や盗賊・・・・・・。まあ、確かに私たちなら何とかなりそうですね」

 ワイワイと円陣を作って騒ぐ仲間達を横目に、エディンが出発日時と依頼人について尋ねる。
 依頼人は堅実な商人で何度かこの宿でも依頼を受けていること、明日の朝に出発予定であることを確認すると、エディンは荷物に不備はないことを加えて、リーダーに報告した。

「やるよ。別に変な仕事じゃないみたいだしな!」

 ギルはにやりと笑って、アウロラから手渡された張り紙を振り回した。

2012/11/07 03:12 [edit]

category: 護衛求む

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Tue.

月光に踊る長靴 7  

 ギルが骸骨戦士の攻撃を引き受けすぎて最初に倒れてしまったものの、概ね戦いは、冒険者に有利に進んでいた。

ScreenShot_20120920_030333640.png

 魔法の厄介なインプと老コボルトを早めに片付け、気絶したギル以外に【魔法の障壁】がかかる。
 ミナスが【水淑女の守】でギルの傷を癒す。

 このまま、力で押し切れると思った矢先に・・・・・・。

「プルクラ!?何でここに!」

 なんと、コーシカの飼い主であるプルクラが、森の奥から現れてしまったではないか。

「あっ・・・・・・ジュビアさんに聞いたの。あなたたちが森に行くって。それで、居ても立ってもいられなくなって・・・・・・」
「仕方ないくらい優しい子ね、プルクラって。隠れてなさい、こっち!」

 ジーニがすかさず、自分の後ろへと少女の華奢な体を押しやる。これで、魔法の目標にはならないはずだ。
 少女を逃がしてしまったダークエルフは、用意した【縛鎖の法】でエディンを麻痺状態にするが、その倒れていく脇から走り寄ったギルの刃先に胸板を裂かれた。

「ぐはっ!まさか・・・・・・この俺が人間に・・・・・・ッ!」

 ダークエルフが倒れた時、彼の懐から何かが飛び出し、満月の森の奥に消えていった。
 アウロラが細い声で呟く。

「・・・・・・妖精たち?」
「そのようだね。捕まってたのか。無事で何よりだ」

 アイルーロスがほっとした様子で言った。
 戦い終わってみると、辺りはすっかり静まり返っていた。
 踊り騒いでいた妖精たちもどこかへと消え、ただ満月だけがぽっかりと、そこを照らしていた。

「ありがとう。君達のおかげで勝てたよ」
「なに、大したことはしてないさ」

 荒い息をつくアイルーロスに向かって、ギルは笑顔を見せた。本当は、彼自身も【癒身の法】が必要な怪我であったけれども・・・・・・。

「さてと―――プルクラはどこに隠れたんだ?」

 治療を受けつつ少女を探し始めたギルを見て、ガートや他の”ケット・シー”も、妙なことにならぬうちにと去っていく。
 大きな木の洞に隠れていたプルクラが、スカートについた木の葉を払いつつ出てきた。

「コーシカ?・・・・・・コーシカっ!」

 少女に呼ばれ、白猫―――コーシカはプルクラの腕の中に飛び込んだ。
 アイルーロスが、そんな1人と一匹の前に進み出る。

「やあ、キミがプルクラさんだね」
「え・・・・・・え、あ―――ええぇっ!?」

 すっかり動転してしまったプルクラに、黙って成り行きを見守っていた冒険者たちは、耐え切れず大声で笑い出した。
 そして、コーシカの失踪とこれからのことについて、アイルーロスとプルクラは話をし終わった。
 プルクラは、アイルーロスとコーシカの好き合ってる様子を見て、2人を分かつことを諦めたらしい。
 時々会いにきてね、と言ってコーシカを見送った少女の背中を、アレクはよくやったと軽く叩いて誉めた。


※収入1600sp+2200sp(フォーチュン=ベル+月光に踊る長靴)※

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■後書きまたは言い訳
6回目のお仕事は、あきらつかささんのシナリオで月光に踊る長靴です。
愛らしい妖精のケット・シーがたくさん出てくるこのシナリオですが、実は続編がございます。
Leeffesも適正レベルに入り次第、その続編をプレイする予定でおりますので、ケット・シーファンの皆さまはもう少しだけお待ちくださいね。
強いモンスターを相手に命を賭ける冒険も、もちろんカッコイイのですが、低レベルの間はこういうほのぼのした冒険もゆっくりし楽しんでいきたいと思います。
アイルーロスとコーシカが、末永く幸せでありますように。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2012/11/06 05:24 [edit]

category: 月光に踊る長靴

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Tue.

月光に踊る長靴 6  

「そろそろ陽が落ちるな」

と言ったエディンの言葉を裏付けるかのように、あっという間に森が暗くなっていく。
 そんな中現れたキジトラ―――”ケット・シー”のアイルーロスに、一行は改めて自己紹介を済ませ、ダークエルフのことについて注意を促そうとした。
 しかし、いかな”ケット・シー”とは言え、大勢の前での結婚に浮き足立っているらしく、冒険者たちを妖精の広場へと案内し終わって、すぐ姿を眩ませてしまった。

(状況くらい聞けよな)

と思ったアレクの後ろから、灰色の毛並みのガートという”ケット・シー”が現れた。

「おっ、来たね」
「こんばんは。お邪魔するわよ」

 様々な小動物―――に見えるが、ガートに言わせるとみな妖精らしい。小さな広場を囲むように集まってきている。

「そろそろだな」
「あ、ほらあそこ」

 尻尾まで緊張させたトラ猫の”ケット・シー”の呟きに、ギルが広場の奥の闇から現れた姿を指差した。アイルーロスとコーシカの入場である。
 サテュロスの少年が角笛を鳴らし、満月の祭が始まった。
 幻想的な光景だった。
 長靴を履いた猫が踊り、違う妖精が蝶のような紋様の羽根を蠱惑的に羽ばたかせる。
 踊りの伴奏を担うのは、一見不気味な一本足。器用にリズムを取っている。
 青白く浮かび上がる森の中、皆一様に楽しそうだ。

「ねえ。さっきのダークエルフ・・・・・・」
「ああ、そうだな。俺たちだけでも警戒しておこうか」

 ミナスがアレクの袖を引くと、そう答えが返ってきた。
 変わらぬ仲間の反応に、ほっとしたミナスが精霊たちの力の動きを感知してみた。もし、ダークエルフが不自然な精霊の働きをさせていれば、これですぐわかるはずだ。
 ふと、ミナスは双子のように立ち並んだ木の一角に注目した。そこから妖精たちは出入りしてるようだ。

(ねえ、あれ―――。)
(ああ。あれが妖精界の門か・・・・・・。)

 アレクが頷くと同時、ふ、と楽の音が止まった。
 輪の中心―――焚き火はないが、皆が円を描いているその中に、コーシカを伴ったアイルーロスがすっくと後脚で立っていた。

「さて、お集まりのみなさん。さぞ人間をからかい、遊び、あるいは親交を深めていることと思うけど」

 アイルーロスは、照れたように左の足を掻いてから言った。

「人間にはこんな習性があるのを知っているかい?それは『結婚』っていうんだ」

 アイルーロスの話を聞いているものも、聞いていないものも、茶々を入れるものもいるが、構わず彼は話を続ける。

「僕は―――」

 コーシカがつ、と彼を見上げ、気持ち良さそうににゃあと鳴いた。

「僕は今夜、人間のその素敵な風習に倣おうと思う。―――僕は彼女が大好きだ。人間的に言うなら、愛してる」

 そう愛を宣言したアイルーロスは、コーシカとの結婚を口に出そうとして―――。

「ビンゴっ!」
(さっきの・・・・・・!うかつだった、ずっと【精霊感知】を続けていればもっと早く気づいたのに―――!)

 悔しそうにこちらをねめつけるミナスをにやりと見やり、ダークエルフは言った。

「やはり居やがったか、人間ども」
「現れたか。アイルーロス、こいつはさっき俺たちに揺さぶりかけてきたんだ」
「何故それを言わなかった―――」
「言う前に、ここに駆け出したのでね」

 アレクは苦笑しつつ、抜刀してアイルーロスに答えた。
 親友の構えを横に、ギルが己を奮い立たせるかのように笑って言った。

「友人を守るのが、今日の務め―――。用意はいいな、みんな!?」
「おう!!!」

 ギルの掛け声に、全員が応じる。
 たちまち、広場は剣戟の音に満ちた。

2012/11/06 05:16 [edit]

category: 月光に踊る長靴

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Tue.

月光に踊る長靴 5  


 翌日、ジュビアや村人に真相を漏らさぬまま、冒険者たちはまた森へと入った。
 途中で見つけた”ケット・シー”の仲間達に、昨日のキジトラの名前が「アイルーロス」ということや、まだ森では怪しいものを発見していない、ということを聞いていく。

(ねえ・・・・・・。不穏な気配って、昨日のダークエルフじゃないの?)
(かもしれん。アイルーロスに、そっと耳打ちしておくか。)

 ジーニとエディンが密かに話をしていると、前を歩いていたギルがぴたりと立ち止まって言った。

「何か鳴った?」
「・・・・・・気のせい―――?」

 話をしていたせいで、何もわからなかったジーニがそう答えると、また前日のように小石を手にしたアレクが、思い切りよく木の陰へと投げつけた。

「おいッ、姿を見せろ!」
「・・・・・・さすがは冒険者だ」

 それはあの時見つけたダークエルフだった。
 無闇に敵対するつもりはない、と嘯くダークエルフに、一行は構えを解かないままだった。
 ダークエルフは極めて賢い、邪悪な種族である。
 邪神を信仰する者も多く、その加護を得た者は魔法に対する親和性が高いために、攻撃の魔法がかかりづらいという特性を持っている。
 そのため、敵対しないという相手の口約束を簡単に信じるわけにはいかなかった。

「あんたら、アレだろ?あの猫どもに会ったんだろう?」

 ”ケット・シー”を見下したかのようなその物言いに、ギルやアレクはカチンと来た。
 アイルーロス―――冒険者たちにとって、すでに彼は対等の友人だった。

「お前には関係ないだろう」
「そういうなよ。昨晩、見てたんだからな」

 武器を持つ腕に力を込めたアレクに、ダークエルフは小ばかにしたように語り掛けた。
 しかし、いかに言を左右にしようとも、一行がダークエルフの喋ることに耳を傾けるつもりはない。

「誰がダークエルフの話なんかに乗れるかっ!」

 そう叫んだエディンの横を、無言でアレクは走り抜けた。剣はすでに鞘から抜いている。
 交渉の失敗を悟ったダークエルフは舌打ちして、また姿消しの呪文を唱え捨て台詞を吐いた。

「せいぜい長生きしろよ」
「・・・・・・なんでしょう、あれ!」
「さあな。しかし、一応襲撃を警戒したほうが良さそうだ」

 柳眉を逆立てたアウロラに、エディンが腰のダガーを確かめつつ応じた。


2012/11/06 05:15 [edit]

category: 月光に踊る長靴

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Tue.

月光に踊る長靴 4  

 夕飯をお屋敷で補給した一行は、再び森へと踏み出していた。
 雲のせいか木々のせいか、月光はほとんど見えない。
 ぼうっと周りが伺えるくらいだ。

「・・・・・・行くか」

 アレクが一行を促し、彼らは用心深い足取りで夜の森を進んでいく。
 枯れた小枝を踏んだ微かな音に、ギルが振り向く。

「―――あっ!」

 ギルの大声に驚いたのか、雪のように真っ白な毛並みの猫が一行の視界に飛び込んできた。
 夜闇の中、浮かび上がっているようにも見える。
 エディンがそろそろと、盗賊特有の足取りで猫に近づき捕獲しようとしたが、

「にゃ・・・・・・ぁ」

 コーシカはそれを素早く察知したのか、きびすを返し森の奥へと逃げてしまう。

「あ、待って!」
「あそこ!」

 どうしても運動の苦手なジーニが仲間に遅れまいと必死で走り、その手を引っ張っていたアウロラが、コーシカの毛並みを見つけて周りに呼びかける。
 今度こそ失敗は許されまいと、エディンがさらに気配を殺して猫に近づいた。
 すると・・・・・・。

「ふうぅっ・・・・・・」
「わっ。何だこの猫―――」

 白猫を守るように、そのキジトラ模様の猫は一行の前に現れた。
 毛を逆立てて唸る猫の様子に、まずは宥めないとと思ったミナスが、キジトラの正面に回りこんで、穏やかな優しい声で話しかけた。
 それは精霊使いがよくやる、精霊語の語り掛けに似ていた。
 精霊の力を感じ取ることのできる者は、徐々に精霊たちの話し声を「聞き」取ることが出来るようになる。
 そうしてその内、己も同じ言葉で会話を交わせるようになるのだ。

「ねえ、おまえの後ろにいるのはコーシカ、って名前だよね?」
「・・・・・・・・・・・・」

 唸り声が静かになったのに勇気付けられたか、ミナスが話を続ける。

「実はさ―――」

 ミナスはキジトラに向かって、依頼されてコーシカという白い猫を探していることを話した。

「それで、できたら穏便にそこのコーシカを飼い主の元に戻してやりたいんだよ」
「・・・・・・ふぅ」
「え?」

 エルフの子どもの懸命な説明に、キジトラがため息をついた―――ように見えた。

「君らの言い分は解ったよ。確かに、彼女はコーシカだ」
「!?」

 猫が人語を話す、という事態に追いつけなくなったアウロラが、声も出せずに動揺した顔になった。

「驚かせた?僕は只の猫じゃない」

 キジトラは、自分は”ケット・シー”と呼ばれる妖精族であると話した。
 コーシカは只の猫なのだが、その美しい姿に魅了された彼が、自分と一緒に来ないかと誘ったために起きたのが、今回のコーシカの失踪事件の真相らしい。
 種族が違うだろうに、と思ったアレクが、

「どうして・・・・・・?」

と問うた。

「野暮なこと訊かないでくれ。僕は彼女に惚れてるんだ。好きなんだ」

 ストレートすぎる愛の宣言に、他人(猫?)事ながら思わず頬を赤らめたアウロラの顔を、おやおやと言いたげな顔つきでエディンが観察した。人間とは思考の形が違うためか、この妖精は極めて素直に感情を発露している。

「確かに、彼女の元の飼い主には悪いかも、って思う。けどコーシカだってもう大人だ」
「ふーむ。なるほどねえ・・・・・・」

 エディンが見るところ、コーシカもこの妖精の傍にいることを好んでいるらしい。
 遅かれ早かれ、猫には求愛の時期が来るのが普通で、それがたまたま”ケット・シー”だった、という話だ。
 エディンは、それならそれでもいいじゃないか、と思っていた。獣が本能で選んだ相手なら、人間のようにごちゃごちゃ理屈をつけて一緒になるよりは、幸せになるだろうと。
 この若い”ケット・シー”は、明日の満月の晩に、仲間に対してコーシカと「結婚する」と宣言をするつもりでいる、と一行に説明した。
 それを訊いたアウロラは、小首をかしげて妖精に言った。

「ね、あなた自分でプルクラ―――コーシカの飼い主に説明しに行ったらどうかしら?」
「えっ―――?」
「お嫁さんにもらうんだから、それが筋ってもんじゃないか?」

 ギルがアウロラの後押しをするように言葉を重ねた。
 
「ああ、うん。それが正しい筋だっていうのはわかってるんだ・・・・・・」
「じゃあどうして、行ってないの?」
「言い訳にしかならないんだけど・・・・・・森が―――騒いでるんだ」
「森が?」

 妖精の言葉に、ギルが森を見上げる。しかし、彼には精霊使いとしての資質は備わっていないので、よく分からない。
 その不穏な気配のせいで、うかつに森を出られないという”ケット・シー”に、

「仕方ないなあ。じゃあ明日の晩まで待ってやるよ」

と、困ったようにギルは頭を掻いて言った。
 ”ケット・シー”は感激したような面持ちで、ありがとう、すまない、と一行に繰り返す。
 冒険者たちは、滞在が伸びることを覚悟で、最後まで彼ら猫に付き合うことにした。

2012/11/06 05:14 [edit]

category: 月光に踊る長靴

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Tue.

月光に踊る長靴 3  

 爽やかで涼しい空気を胸いっぱいに吸った一行は、これから入る森を見やった。
 数件の家々と畑の向こうに、森を望める。
 この村の景観の一翼を担っているのは確かだが、決して迷いそうなほど広大な森には見えない。

「とりあえずは聞き込みか」
「―――あ、あそこに」

 アレクがとりあえずの方針を打ち出すと、きょろきょろしていたアウロラが、ちょうど村人らしい人影を森の近くに見つけた。
 寡黙そうな中年の男性と、鮮やかな赤毛の娘だった。
 コーシカのことは彼らも知っているらしく、探している事情を打ち明けるといろいろ話してはくれたのだが、これといった情報はなかった。

 プルクラはこの森を「変な森」と言っていたが、村人によると、森には妖精がいるという昔話があるらしい。
 一行は用心しながら、森へと入っていった。

 森は、青々と繁っていたが、けっして暗くはなかった。
 葉擦れの音、鳥の唄、どれも自然に一行を包み、手荒くもない。
 幾度かの冒険をくぐり抜け、いつしか備わっている所謂”勘”ともいえる感覚からも、差し迫る危機などなさそうに思える。
 
「お?」

 微かな音に反応したアレクが見ると、木の股から猫が一行を見ていた。
 グレイの毛並みをしたその猫は、ただじっと、冷ややかともとれる眼差しを向けている。
 ミナスがそのふてぶてしい態度を面白がって近づくと、猫はまったく彼を無視して、森の奥へと去ってしまった。

「ああん。な~んだぁ、可愛くないヤツ」
「苛められると思ったんじゃないのか?」

 ギルがミナスをからかうと、真っ赤になったミナスは小さな拳を固めて、彼の腹の辺りをぶった。

「こら、リーダーもミナスも、少しは真面目にやれ」

 エディンはそう2人を叱ると、周りの探索の続きに入った。仲間も似たような仕草で周りを探す。
 平穏だが何も手がかりのない森の様子に、一行が失望のため息をつくと、ジーニが「あら」と声をあげた。

「ねえ、また猫よ」

 先ほどあったのとはまた違う猫が、一行に視線を投げていた。
 興味があるのかないのかわからないが、泰然としている。

「ギル兄ちゃん。僕より上手く友達になれるんでしょ。お手本見せてよ」
「言ったな?よーし、見てろよ・・・」

 ミナスが仕返し代わりにそう切り出すと、ギルがその言に乗って猫に近づいた。
 しかし、「来い」というギルの声が気に入らなかったのか、そのトラ猫もふいっと奥へ去っていく。

「あ~ぁ・・・」
「ほら、ギル兄ちゃんもダメじゃないか」

 諦めて、他の場所を探そうとし始めた仲間達に、妙に顔をこわばらせたアレクが言う。

「なあ・・・・・・。今、何かいなかったか?」
「何かって・・・・・・何でしょう?」

 アウロラは気づかないらしく、不審げな視線をアレクに向けるだけだ。
 アレクの父が持っていた精霊使いとしての血に、引っかかるモノがある・・・そういえば、プルクラ嬢もここを「変な森」だと言っていなかっただろうか?


「・・・・・・・・・。そこだッ!」

 いつの間に拾っていたのか、小石を手にしたアレクが茂みに思い切り投げつけると、そこから黒い肌に尖った耳を持つ男が躍り出た。

「!!!」

 とっさに武器を構えたギルの横で、ジーニが驚いた声をあげる。

「ダークエルフ!」
「・・・・・・ちっ。聡い連中だ。残念だがお前らの相手してる暇はないんだ」
「待てこら、逃がすかよ!」

 舌打ちするダークエルフを睨みつけ、ギルが間合いを詰めようと走り出すも、

「じゃあな」

と言って、妖魔は姿を消してしまった。

「畜生、せっかく手がかりっぽいヤツを見つけたのに・・・!」
「・・・・・・コーシカは、あのダークエルフに捕まっているのか、ダークエルフを避けるために隠れているのかしら?」
「無関係とは思えんな」

 地団駄を踏むリーダーを落ち着かせつつ、ジーニとエディンが言葉を交わす。
 アレクが静かに言った。

「夜、だな。あの妖魔は夜目が利く。何かするつもりがあるなら、暗いうちにやるかもしれん」
「なら、暗くなったら再戦だ!」

2012/11/06 05:13 [edit]

category: 月光に踊る長靴

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Tue.

月光に踊る長靴 2  

「こちらです、ご主人様」

 一行を一室に待たせたジュビアが案内してきたのは、中年も後半に差し掛かってきた風貌の男性である。
 どこか控えめに、先ほどの少女も付いてきている。

「皆様、こちらはカファール候グルナード様でございます」
「ああ、よろしく」

 鷹揚に挨拶したその男の身分を聞いて、ジーニとエディンは驚いた。
 カファール候と言えば、領地の堅実な治め方で有名な侯爵である。
 文弱そうだが、それは見かけだけなのだということが、候の意志の強い瞳を見ると理解できた。

「君達のことは、そこのジュビアから聞いたよ。旅路の途中、引き留めてすまない」

 一行は別に構わない、と返事をして、さっそく少女―――カファール候の令嬢プルクラの依頼内容について聞き出した。
 なんでも、数日前から彼女の飼い猫がいなくなってしまったという。
 雪のように真っ白なその猫は名前をコーシカといい、村中を探し回ったが、まだ見つかっていないらしい。
 たかが猫とは、候やプルクラの真剣な眼差しを見ると、言うことはできなかった。

ScreenShot_20120920_001647531.png

 ジーニが報酬を確認すると、なんと銀貨2000枚を出すという。
 猫探しとは厄介だが、リスクの小さそうな依頼で銀貨2000枚。相当美味しい仕事と言える。

「わかりました。お手伝いしましょう」

 エディンが力強く請合うのを見て、ギルとアレクが苦笑した。
 ジュビアが配った飲み物を手に候の話を聞いてみると、この村には避暑の時にしか訪れないそうだ。
 コーシカを拾ったのは2年ほど前で、プルクラが見つけたという。
 すっかり衰弱していたのを必死で看病し、育てたというのだから、いなくなってどれほど心配か、想像に難くない。

「ところが2、3日前のことだ。ふい、とコーシカがどこかへ消えてしまったのだ。屋敷中どこを探しても見当たらない」

 候は深くため息をついた。

「あれだけ娘になついていたのが、どこかへ去ってしまうとは考え難い。何か事件に巻き込まれたか、と娘は心配の極みで村中を今も探し回っている」
「妹や弟のように思っていたなら、そうでしょうな」

 ギルが頷くのを、驚いたようにアウロラが見やる。
 この猪突猛進なリーダーが、プルクラ嬢や候の繊細な気持ちに理解を示すとは意外だった。
 実は、ギルは内気で人見知りだったために、アレクという親友が出来るまで、身近な小動物たちを可愛がっていた過去があるのだが、それを知る者は少ない。

「なるほど。事情は概ね解りました」

と頷いたエディンが、候やプルクラ、ジュビアから事件に関係するかもしれない事柄を、順序良く聞いていく。
 コーシカではないとは言え、村の近くの森で他の猫を見かけた、というプルクラの証言を得た一行は、村ではなく森を重点的に探してみようということになった。

 そして一夜が明ける・・・・・・。

2012/11/06 05:12 [edit]

category: 月光に踊る長靴

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Tue.

月光に踊る長靴 1  

「んー・・・短期の依頼、立て続けに引き受けたから疲れたわねえ」
「だよなあ。みんな、今日は野宿じゃなくて村で宿でも取ろうか?」
「あら、ギル。この先に村があるんですの?」
「あるある。親父さんから聞いた話が確かなら、この辺で見えてくるはずだぜ」
「あ!ねねっ、ギル。もしかしてあれ?」

 それは、一行がフォーチュン=ベルの依頼を終えたばかりの話。
 ゴブリンや海賊を退治した彼らは、リューンへの道中、ミナスが発見した小さな村の宿でその晩を過ごすことにして、就寝前の一服、と洒落込んでいた。

「あの・・・・・・」

 そこに声をかけたのは、まだ年端もゆかぬ少女だった。
 簡素だが上物の服装が、興味をそそる。

(デザインはシンプルだけど、この桃色は珍しい染料ね。よほどの金持ちじゃなきゃ、こんな布使わないわよ・・・。)

 ジーニの鑑定眼が密かに光る。
 横に座る魔法使いの思惑には気づかず、まず少女にエディンが応えた。

「どうしたんだい、お嬢ちゃん」
「あの・・・・・・。みなさんは、冒険者の方々・・・・・・ですよねっ」

 手の中の酒杯をゆっくり置いたアレクが、少女の勢い込んだ口ぶりに何を感じたのか、眉をひそめる。

「そう、だけど。何か?」
「あの、みなさんにお願いしたいことがあって・・・・・・」
「・・・・・・お願い?」

 この依頼はもしかしたら金になるかもしれん、と判断したエディンが用件を反復する。
 アウロラとミナスは、エディンの後ろで甘い菓子を分け合いながら、事の推移を見守っていた。
 リーダーであるギルは、珍しく押し黙っている。

「ええ。報酬がお要りならわたし―――」

 少女は持っていた可愛らしい、大事にしているのであろう陶製の貯金箱をかちゃかちゃと鳴らした。
 ずっと貯めているのだろうか、それなりに量があるように貯金箱の銀貨は唄う。
 金貨の澄んだ独特の音ではないことに気づいたエディンとジーニが、心持ちがっかりした顔になる。
 代わりに、少女の真剣さに心を打たれたらしいアレクが、身を乗り出して少女を促した。

「こんなので果たしてみなさんの報酬に足るかはわかりませんけど、でもどうしてもお願いしたいんです」
「真剣なんだな」

 すかさず頷く少女に、エディンがうーんと腕を組んで唸った。
 少女はさらに声を高めて言い募る。
 必死、というより何か大切なものへの愛情で瞳が潤んでいる。

「不足なら、将来必ずお渡ししますからっ―――」
「―――話を聞こう」

 それまで黙っていたギルが、とうとう口を開いた。
 少女の態度に、何か思い当たる節があったらしい。
 ギルの発言に頷いたアレクが、自分の隣の席から椅子を一脚拝借し、少女に勧めた。

「詳しく聞こうかな。まぁまず、座って落ち着いて・・・」
「お嬢様!こんなところにいらしたのですか!」

と、話に割って入ってきたのは真面目そうな青年だった。
 どうやら少女を知っているようだ。

「お父様が心配しておいでです、帰りましょう。コーシカもいなくなってその上、お嬢様まで、など・・・・・・」

(コーシカ?)

 初めて出てきた名前に興味をそそられたらしいジーニの横で、青年と少女の話しは続く。

「ジュビアさん・・・・・・。ごめんなさい。わたし、そんなことも考えられなくって・・・・・・」
「まあ、こんな夜遅くだしね」

 ミナスが、肩をすくめて言う。
 ジュビアと呼ばれた青年が、それに同意するように頷いて言った。

「いいですよ。謝るならお父様に言ってあげて下さい」

 そして姿勢を正して、一行に向き直った。

「貴方がたにもご迷惑をおかけして申し訳ございません」

 そうジュビアは一行に深々と頭を下げ、この場を去ろうとしている。
 少女も一行にぺこりとお辞儀をしてから、大人しくジュビアに従う。
 事情をもっと知りたいと思った一行は、2人を引き留めた。
 良家の子弟然とした態度で、アレクがジュビアに声を掛ける。

ScreenShot_20120919_235845703.png

「それは構いませんよ。ところで、お嬢さんに何があったのです?差し支えなければお教え下さい」
「・・・・・・・・え?」

 そのアレクの肩に、ひょいとギルが左ひじを乗せて、戸惑った態のジュビアに笑いかけた。

「俺たちはこれでも、何でも屋稼業の端くれさ。もし、俺たちで力になれることがあるんなら協力する」
「・・・・・・もちろん、それなりに戴くものは貰うけどな」

 ギルの宣言にぽそりとアレクが付け足すと、周りの仲間が笑った。
 彼らの快活な様子に、すっかり毒気を抜かれたジュビアは、

「あ―――ありがとうございます」

と言った。

「そう、ですね。それではどうぞ、ご案内いたします。詳しい話は、お屋敷でいたしましょう」

2012/11/06 05:10 [edit]

category: 月光に踊る長靴

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Sat.

家宝の鎧 3  

 結論から言うと、ギルが家宝の鎧を傷つけることはなかった。
 後ろで精霊を呼んでいたミナスが、「鎧を脱がせればいいんでしょ!?」と、ノミの入った瓶をオークロードへと投げつけたのである。当然、ガラス瓶はオークの鎧に当たって砕け散った。
 同時に黒い小さな粒が四方八方に飛び散る。

 突如、オークロードは悶え苦しみ始める・・・それはそうだろう、瓶には相当な数のノミがいたのだから。
 体中をかきむしろうとするが、鎧が邪魔でできないと見るや、オークロードは即座に鎧を脱ぎ捨てた。

「ぶひぃ~♪」
「・・・うーん、これで攻撃はできるけど、素っ裸のオークとか俺いやだな」
「リーダー、そんなこと言ってる場合かよ」

 オークたちは、弱い個体だと認識しているのか、女性たちばかり攻撃してくる。
 だが、その痛みに耐えて詠唱を終えたジーニが、杖を大きく振り回して、指先から甘い匂いの【眠りの雲】を発射した。
 たちまち眠り込んでしまったオーク達の隙を、見逃す彼らではない。
 ギルやアレクの重い一撃の後で、素早く詠唱したジーニの【火炎の壁】が決め手となり、オークロードは情けない断末魔をあげて倒れた。

「ぶひひぃ~ん・・・」
「よし、やったぜジーニ!」
「新しい呪文は、好調らしいな」
「ふふふ・・・無理して呪文書を買った甲斐があったってものね」

 酷い火傷を負わされた手下のオークたちも、これはやばいと我先に逃げ出していく。
 後は追わなくてもいい、と依頼人から言われた冒険者達は、武器を収めて一息ついたのだった。

「うぅぅ、爺様の霊になんとお詫びしてよいやら・・・。よもや、形見の鎧を豚なんぞに着させてしまうとはっ!」
「いやぁ。それは不可抗力ってことで、ご先祖様も許してくれるんじゃない、かな・・・?」

 ギルはたはは、と困ったように笑って言った。
 何はともあれ、屋敷に巣くったオークはこれで全部片付いたようだ・・・。

 宿への帰途に着いた一行だったが、リヒャルト卿のため息が止む事はなかった。
 ドアを開けて入ってきた彼らを、宿の親父さんも温かく迎えてくれたのだが、

「はぁ・・・」

という依頼人のため息に、ぎょっとして冒険者達の方を向いた。

「おい、なんか酷く落ち込んでるようだが・・・しくじったのか?」
「いや、成功したんだけどね。実は・・・」

と、瓶を投げた功労者であるミナスが、笑いを堪えきれない様子で親父さんに説明した。

「ありゃま、オークが家宝の鎧を?そいつは気の毒になぁ・・・」

 しばらく落ち込んでいたリヒャルト卿だったが、やがて何とか立ち上がると、皮袋を懐から出して、そっとカウンターに置いた。
 銀貨のジャラジャラという音が響く。

「・・・諸君、ご苦労じゃったな。これが約束の報酬じゃ。それじゃ、吾輩は失礼させてもらうよ・・・はぁ」

 オークロードのせいで薄汚れた家宝の鎧を、大事そうに抱えてリヒャルト卿は狼の隠れ家を出ていった。

「なんかお気の毒ですよね・・・」
「でも、俺達言われたとおり、鎧は傷つけなかったし。鎧だって、またちゃんと手入れしてやればいいんだからさ」
「そうだな、ギルの言うとおりだ。大体、家宝なんだから、リヒャルト卿が着るということもそうないだろう」

 アウロラが、頬に手を当てながら言うのに、ギルとアレクが応じた。
 一番端のカウンター席に座ったジーニが、持って帰ってきた【氷柱の槍】の呪文書を読み始め、ミナスが横からそれを覗き込む。
 仲間のそんな様子を見たエディンが、やれやれという顔をして鼻を鳴らした。

「すべて世はこともなし、か?」

※収入800sp、【氷柱の槍】入手※

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■後書きまたは言い訳
5回目のお仕事は、GroupAskさんの公式シナリオ・家宝の鎧です。
これがどれだけ良シナリオか、というのは私が申し上げずとも、皆さまご存知でらっしゃると思います。コミカルなリヒャルト卿のファンの方も多いのではないでしょうか?
このシナリオに出てくるガラス瓶、私は最初意図が分からず、荷物袋の肥やしにしておりました・・・(笑)。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2012/11/03 16:52 [edit]

category: 家宝の鎧

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Sat.

家宝の鎧 2  

 屋敷のホールから、まず右手にある部屋に入った一行は、鉄の箱を見つけた。
 まるで宝箱のようなそれは、リヒャルト卿にも覚えのない品だったらしい。
 もしや、妖魔たちが宝を集めて入れたのでは・・・と、期待に胸を膨らませて、エディンが開錠したのだが。

「空のガラス瓶・・・?」
「なんじゃ、その瓶は? なんか黒い小さなもんがたくさん入っとるぞ?」
「え・・・?」

 アウロラが、もっと目を凝らして瓶に近づくと、突然悲鳴を上げて飛びのいた。

「きゃあああ!」
「ほれ、動いたっ!」
「・・・ああ、これ、ノミですよ、リヒャルト卿。まったく、こんなもん、大切にとっといて何に使うつもりだったんだ」

 どことなく平坦な口調のエディンだったが、ミナスが嬉しそうに手を差し出すので、「間違っても、俺らに投げるなよイタズラするなよ」と、念を押した上で渡してやった。
 空き瓶に入った黒いノミに、ミナスは興味津々である。
 鉄の箱に、それ以上何も入っていないことを確かめると、一行は反対側にあった部屋へと向かった。

 もう一方の部屋には、驚くほど大きな本棚があった。
 年代物らしい、様々な本が並んでいる。
 別におかしなところはないだろう、とリヒャルト卿は通り過ぎようとしたのだが・・・。

「あら」

という、ジーニの声に足を止めた。

「何かしら・・・本の間に呪文書が挟まっているわ」
「なんじゃ、魔法の呪文か? ふむ、爺様の遺品じゃろう。晩年の爺様は魔法に凝っておったからな・・・」
「魔法剣士目指したのかしら。何々、【氷柱の槍】・・・?」
「わしには不要の品じゃ、持って行って構わんぞ。報酬の足しにでもするとよかろう」
「さすがリヒャルト卿、太っ腹!ありがとうございます」

 新しい呪文書を得たことが嬉しかったのか、ジーニは目の色を変えてリヒャルト卿に礼を言った。
 その後ろで、こっそりアウロラとギルが、

「聞きました?今の・・・」
「2オクターブくらい、声が跳ね上がったな」

等と、仲間の現金具合を話していた。

 屋敷は広く、北にある奥の扉からようやく二階へと上がる。
 すると、長い廊下と部屋が続いていた。
 途中でオーク三匹と交戦したものの、あっという間にそれらを切り捨てると、一行はさらに用心をしながら奥へと進んだ。

 やがて、大きなの樫の扉の前まで出た。
 エディンが、罠がないか調べようと、軽くドアノブに手をかけると・・・なんと、この部屋だけ山荘の管理人が油をよく差していたのか、そのままドアが開いてしまった。

「ぶひっ!?」
「あらら、こりゃいかん」

 呑気な声とは裏腹に、エディンは目を鋭くさせて体勢を整える。
 扉の向こうに現れたのはオークの一団だった。
 仲間たちが装備を構えるのを横目に、ギルがリヒャルト卿に用心するよう、声を掛けようとした時だった。

「ぶ、ぶ、ぶぶぶ・・・」
「・・・リヒャルト卿?」

ScreenShot_20120730_010957484.png

「豚が爺様の鎧を着とる!!」
「はぁ?」

ScreenShot_20120730_011000859.png

 ぽかんと口を開けたリーダーに、アウロラが冷静に指摘した。

「オークの頭が着てる鎧、あれは恐らく家宝の鎧です。間違っても、攻撃しちゃいけません」
「え、え!? だって、攻撃しなかったら、どうやってやっつけりゃいいんだよ!?」

 大混乱になってしまったギルを見て、ここぞとばかりにオーク達が襲い掛かってきた!

「ぶひぃっ!」
「げえええ!おい、来るなって!」

2012/11/03 16:46 [edit]

category: 家宝の鎧

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Sat.

家宝の鎧 1  

 うっとりとした笑みを浮かべながら杖を磨いているジーニの姿を見て、ギルが呆れたように言った。

「機嫌いいのはいいんだけどさ。磨いてる対象が”あれ”じゃなきゃ」
「仕方ないだろ、もうジーニのお気に入りになったみたいだぜ?」

 エディンがちびちびと干し肉を齧りつつ、それに答えた。
 ジーニの白い手に握られているのは、灰色の髑髏がついた杖だった。
 以前、ゾンビの出る洞窟で、魔力によって隠されていた部屋から見つけた、死霊術士の魔法の媒体である。
 詠唱に集中する手助けに、よくルーンマスター(魔法を扱う者)は指輪や杖を選ぶのだが、数ある中で、どうしてああいうデザインの物を好むのか、女性はギルにとって永遠の謎である。
 干し肉をエールで流し込んだ後、エディンが何かを思い出したように、自分の懐を探った。

「おっと、そうだリーダー。さっきから依頼書を選んでたんだが、こんなのどうだい?」
「なんだい?・・・求む、勇敢な戦士・・・?」
「親父さんによると、リヒャルト卿って騎士さんからの依頼なんだと。なんでも、長く使ってなかった山荘の大掃除を手伝って欲しいって」
「・・・大掃除ぃ?冒険者の仕事じゃないだろ、それは」
「いやいや、依頼書がこういう書き方ってことは、俺が思うに、ただの大掃除じゃないだろう。リヒャルト卿っていや、一応羽振りは悪くない筈だしさ。近所に家があるらしいし、行ってみないか?」

 結局、彼らは騎士リヒャルト卿の家へと向かうことにした。
 宿の親父さんからは、「相手はプライドの高い騎士さんだ。くれぐれも粗相のないようにな」と釘を刺されている。
 刺されているが、自分たちのリーダーに失言が多いのも事実だ。
 どうか、何事もなく終わって欲しいと、アウロラは祈らずにいられなかった。

 徒歩10分も歩いた先に、その目的の場所はあった。
 ノックで出てきた中年男性に、事のあらましを説明すると、中に入るよう促される。
 どうやら、彼が依頼人のリヒャルト卿だったらしい。

 通された応接室は、古ぼけてはいるが、品のいいデザインの家具が多かった。
 大きな窓からは、リューン市内の一部が見える。

「じゃ、早速じゃが仕事の話をさせてもらおう」

と言って、一人がけのソファに腰を下ろしているリヒャルト卿は、今回の依頼の詳細を説明し始めた。

 リヒャルト卿は、なくなった祖父から譲られた山荘を、北の山に持っている。
 王宮勤めの身では、そうそう足を運ぶわけにもいかないので、人を雇って管理しているそうだ。ここまでは、よくある話なのだが・・・。

 ところが、最近になって、その山荘に下等妖魔が住み着いてしまったらしい。
 管理人の職務怠慢としか言いようがないが、いまさらそれを言っても仕方ないので、退治に行くことに決めた。
 が、私用では部下を使うこともできない。
 そこで、ギルたち冒険者を雇った、というのが彼の話だった。

 報酬は800ガメル。今の実力からすれば、相場より少し高めである。
 ギルは、ただの大掃除ではなく、妖魔との一戦が待っていることを予想して、嬉しそうな顔になった。もとより、他の面子に否やはない。
 依頼を引き受けることになった。

 翌日の正午、リューンを出発した一行は、大した障害もなく、問題の山荘に到着した。
 さっそくドアへと一歩踏み出した彼らへ、「こほん」と咳払いをしたリヒャルト卿が声を掛ける。

「作戦遂行に当たり、まず諸君らに言っておかねばならん事がある。心して聞いて欲しい」

 はてなんだろう?と首をかしげたのはミナス、なぜ昨日のうちに言わないのかと、憮然とした顔になったのがアレクである。
 それに気付いているのかいないのか、リヒャルト卿は言葉を続けた。

「屋敷にすくっておるのは卑劣極まりない妖魔どもじゃ。戦うとなれば建物を傷つけてしまう事もあるじゃろう。それはそれで一向に構わんが・・・」
「構わないんかい!」
「いやいや、それじゃリヒャルト卿、何が問題なんです?」

 ギルが思わず突っ込むと、その後ろでエディンがブルネットの髪をかきあげるようにして言った。

「ただし・・・ただしじゃ。二階に安置されている鎧だけは、間違いなく回収して欲しい」
「・・・鎧?」

 エディンがそう言って眉をひそめる。

「さよう、鎧じゃ。高名な騎士であった我が亡き祖父の愛用の鎧でな。時の国王陛下より賜った大切な家宝の鎧じゃ」
「家宝ねえ・・・」

 頬をぽりぽりと掻いて、アレクが呟く。
 国王からの下賜だのなんだのは、正直、貴族でもない彼らに実感は沸かないが、祖父の愛用の品だったというのであれば、何となく大事にしたい気持ちは分かる。
 最善を尽くす、という返答を口々に言う冒険者たちに、リヒャルト卿は満足そうに頷いた。

「話は以上じゃ。では、そろそろ参ろう。覚悟はよいな?」

2012/11/03 16:43 [edit]

category: 家宝の鎧

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Fri.

腐者の洞窟 4  

 すると、そこにはまだ残っていたらしいゾンビが5体いた。
 ため息をついて、ギルが剣を抜く。

「まだいたのかよ。魔法使いたち、援護は任せたぜ!」
「唱え終わるまで、あんたたち攻撃は避けなさいよ」
「が、がんばるよ・・・!」
「お任せください!」

 ルーンマスターが詠唱に入るのを横目に、最後の掃討が始まった。
 【魔法の矢】の詠唱の途中でジーニが怪我を負うものの、【水淑女の守】がそれを癒す。
 攻撃で詠唱を邪魔されたが、それでも放たれた【魔法の矢】で、ボロボロに崩れかけたゾンビにエディンが飛び掛り、首と足首を傷つけた。
 その向こうで、アウロラの新しい法術【光のつぶて】もゾンビを打つ。
 たちまち起こった戦いは、あっという間に終わりを告げた。

 ゾンビの群れは何かを守るような形で、この部屋にいた。
 てっきりエディンはこの部屋に何かあるのかと思ったが・・・。

「ふう・・・何もない、か」

 しかし辺りを見回しても何もない。
 一見すると何かありそうな気配はするが・・・?
 首を傾げる仲間に、ギルが言った。

「探し方の問題じゃねえの?ジーニ、さっき使ったオーブで何か分からないか?」
「んー・・・あ、そうだわ。生命のオーラじゃなく、魔力だとしたら・・・!」

 荷物袋から出したのは、オレンジ色の”魔彩のオーブ”。
 掲げてコマンドワードを唱えるジーニに、ギルが声を上げた。

「あ、それか!」
「多分ね・・・・・・・・・・・・あっ、魔力でできた壁がある!」

 部屋の何かを隠すように存在する魔力の壁は、見かけだけで通れるようだ。
 一行はジーニに手を引かれながら、目では視認できないあちら側へとすり抜けていく。
 そこには、奥のほうにオーブを納めていたのと同じ大きさの宝箱があった。

「魔法の鍵がかかってる。罠はない・・・」

 調べていたエディンは、ポケットの中の硬い感触を思い出した。
 あの鍵束は、これを開け閉めするためのものだったのではないだろうか?
 魔力の使いすぎで黒ずんだ鍵束をポケットから出すと、エディンは躊躇なくそれを宝箱へと差し込んだ。

ScreenShot_20120724_133515812.png

「よし、開いた」

 砕け散る鍵には目もくれず箱を開ける。
 すると、中から出てきたのは一本の杖だった。
 しかも、よく賢者の塔にいる魔法使いが使うような、青い宝玉のついた杖ではない。
 宝玉のつくべき部分には、灰色の小さな髑髏が鎮座しており、見るからに禍々しい印象を受ける。
 嫌な顔でそれを持って立ち上がった盗賊へ、ジーニが繊手を差し出して杖を取り上げた。

「これは死霊術士の杖ね。ネクロマンサーが魔法を使用する時、この髑髏に魔力が集中して詠唱を助けてくれるのよ」
「呪われたりとか・・・」

 ミナスが恐々と覗き込むのに、ジーニは微笑んで言った。

「魔力を操るだけの知力と、髑髏の負のエネルギーを制御する狡猾さがあれば、呪われたりなんてしないわよ。少なくとも、私なら平気ね。リーダー、これもらってもいい?」
「えー?そんな杖でいいのかというか、大丈夫なのか?」
「こけおどしにはちょうどいいじゃない。詠唱の助けになるなら、髑髏も宝玉も、私にとっては同じことよ」

 杖で自分の肩をたたきながら、ジーニが笑った。
 ネクロマンサー、と聞いて渋い顔をしていたアウロラも、ため息をついて応じる。

「まあ、私も氷心の指輪を購入させてもらいましたし・・・ジーニが杖の力で、悪の魔法使いの道を歩むわけでもないのなら、目を瞑ります」
「しないわよ、そんなこと。めんどくさい」

 一同の懸念を、めんどくさいの6文字で叩き切ったジーニは、意気揚々と帰りを促す。
 冒険者たちは、それぞれの笑みを浮かべながら、宿への帰路へとついて報酬を受け取った。

 数日後。
 あの洞窟で助けた男性が、狼の隠れ家にやってきた。
 宿の親父さんに呼ばれて、階下へと降りてきた冒険者たちは、その姿にあっと声を出す。
 男性は照れくさそうにお辞儀をして、自己紹介した。

「私は、ウィザニールという町で商人を営む、カンテラという者です。あのときのお礼です。どうぞこれをお受け取りください」

と言って、ハーブポーションと300spをギルに渡してくれた。
 ハーブポーションは、傷薬に解毒作用をもつハーブをブレンドした、珍しい品である。
 カンテラ氏は、元々商談でリューンに足を運んだらしく、礼が終わると慌しく立ち上がった。

「それでは私はこれで・・・もし機会があればウィザニールで会いましょう」

 そう言って宿から出て行く姿を、冒険者たちは手を振って見送った。

※収入600sp+300sp、生命の瞳、魔彩のオーブ、ハーブポーション、死霊術士の杖入手※

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■後書きまたは言い訳
4回目のお仕事は、iuoさんの腐者の洞窟というゾンビ退治シナリオです。
形としては非常にシンプルな洞窟探検(とモンスター退治)なのですが、その中に魔力感知や生命感知など、キーコードを持ってないと手も足も出ないギミックが盛り込まれており、短編だとは感じさせないよく考えられたシナリオだと思います。
最後の杖取得も、腐者の洞窟らしいいいデザインだなあと。

このシナリオ前に、一気にスキルをそろえ、とりあえず火や氷、実体のないものにも対応できるようになってきました。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2012/11/02 01:20 [edit]

category: 腐者の洞窟

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Fri.

腐者の洞窟 3  

「数が多い・・・・・・!」

 アウロラは、思っていた以上のゾンビの数を見て舌打ちした。常にないことである。
 普通のゾンビに守られるようにして、コボルトやコボルトリーダーのゾンビまでいたのだ。
 これに動揺したらしいギルが、初動で重傷寸前まで追い込まれたものの、アウロラが氷心の指輪の力で詠唱に成功し、傷を【癒身の法】で癒した。

「指輪、買っておいて良かったな!」
「店員が値引きつけてくれて、助かったぜ」

 アレクとエディンが、先見の明を誇るように叫びながら、同じ敵へ攻撃を繰り返していく。
 二人のコンビプレイの合間を縫うように、雪精スネグローチカが、部屋の隅っこで身を守るミナスの指示に従い、氷の腕でゾンビの身を削った。

ScreenShot_20120724_125034937.png

 結局、怪我らしい怪我は、初動のギルが負ったものだけで済んだ。
 ゾンビの中心的役割を果たしていたのは、コボルトリーダーのゾンビだったらしい。
 恐らく、ネクロマンサーがいなくても人間を組織的に攻撃したのは、彼の影響だろう。
 そのコボルトリーダーゾンビのポケットから、戦闘中、鍵束らしきものが落ちたのを、エディンは発見していた。それをつまみ上げ、ジーニに見せる。

「これ、普通の鍵じゃないぞ。魔法の品か?」
「どれ?・・・ああ、これは魔法の鍵を開けたり閉めたりできる物よ。でも、もう大分魔力は弱まってるわね」
「これもさっきのオーブと同じようなもんか」
「ええ」

 ジーニの見解に頷いたエディンは、とりあえず自分のポケットにそれを納めた。
 そして、ギルにまだ行ってない通路や部屋の捜索を提案する。

「一応、親玉は倒したから大丈夫だと思うんだが、掃討を命じられたからには、しっかり見たほうがいいだろう」
「そうだな。怪我も大したことないし、全部見てしまおう」

 そんな訳で移動した一行だったが、確かめたのはひどい現実だった。
 部屋の一面を覆うように、死体の山が積み上げられている。
 酷い腐臭を放ち、見るに堪えない光景だ・・・。

「うぅ・・・・・・」
「!!」
「どうした?」

 ジーニが、弾かれたように顔を上げるのに、ギルが問う。

「今、生きてる人の呻き声が聞こえたわ」

 死体の呻き声と生者の呻き声は、先ず誰でも聞き間違える事はない。
 ゾンビの呻き声は独特なのだ。

(調べるか?いや、しかし確証を得ないと近づくのは危険ね・・・死体の山から生命体を見つけるにはどうすれば?)

 ジーニは厚めの唇に人差し指を押し付けて考え込んだ。
 死体の量は尋常ではない。うっかり踏み込めば、武装してる者が助ける人を踏んで、骨折させてしまうかも知れない。

(そうだ、あれなら!)

 ジーニは荷物袋を下ろすと、”生命の瞳”を使った。
 海よりも青いオーブが一際輝き、ジーニの双眸に生命のオーラを映し出す。

「いた、やや手前側に一人生きてる人がいる」

 彼女の声に、慌ててエディンとギルが死体の山をかき分ける。

「うっ・・・うぅぅぅ・・・」
「気づいたみたいね」

 それは、壮年から初老に差し掛かる頃の男性だった。
 裕福な家庭の人らしく、着ている物は貴族とは言わないものの、それなりに上等である。

「・・・ぅ・・・ここは?そうか、私はネクロマンサーに襲われて・・・」

 どうやらリューン外の都市に住んでいる一般の人のようだ。
 ネクロマンサーに襲われ、運良く致命傷を避けたが、死体と共にここに連れて来られたらしい。
 一応、毒を警戒して、ミナスが【水淑女の守】をかけて傷を癒した。

「ウンディーネの力で傷も塞がったけど、念のため、帰ったら薬師とかに診てもらってね?」
「ありがとう・・・私は大丈夫だ。何とか自力で洞窟から出れそうだよ」

 そう言って遠慮する男性を、とりあえず洞窟の入り口まで送り、一行は最後の横穴へと歩を進めた。

2012/11/02 01:04 [edit]

category: 腐者の洞窟

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腐者の洞窟 2  

 洞窟の地図をもらった一行は、用心をしつつ、エディンを前にする隊列を組んで中へ入ったのだが、

「! さっそくか!」

 入って早々、ゾンビたちに強襲されていた。
 幸い、一体しかいなかったので、入り口付近では苦戦しなかったものの、その後も洞窟内の架け橋を渡りきったところで、腐った死者たちが、冒険者たちへと襲い掛かってくる。
 今までの戦いの経験が生かされたのか、誰一人怪我をすることもなく奥へ進むと、行き止まりに宝箱があった。
 早速、エディンが屈みこんで調べる。

「鍵がかかってる。それと毒ガスの罠がある」
「外せそうですか?」
「やってみるよ・・・仕掛けの構造は簡単だな」

 アウロラとやり取りをしてる合間にも、器用な彼の指はとどまることを知らず、

「もう開けても大丈夫だ」

と、あっという間に罠も鍵も解除してしまった。
 ギルがどれどれ、と取り出すと、中から二つのオーブが出てきた。
 それはどちらも林檎よりひとまわり大きいくらいのもので、片方が青、片方がオレンジ色をしていた。
 多分マジックアイテムだろうと思ったギルは、ジーニにそれを鑑定してもらう。

「あら!これは”生命の瞳”ね。こっちのは”魔彩のオーブ”だわ、珍しい」
「どんなアイテムなんだ?」

 興味深そうに覗き込むアレクに、ジーニは興奮で早くなってしまう口調を押さえつつ説明した。

「青い”生命の瞳”は、【生命感知】の魔力が宿ってるの。ようは、生物のオーラを視認できるようになるわけ。”魔彩のオーブ”は、それの魔力版ね。主に魔法の仕掛けを見破るのに使うことが出来るわ」
「なるほど。それは結構便利そうだな」
「でも、永続的なアイテムではないの。そうね・・・篭っている魔力の強さからすると、精々、使えて1~2回がいいところじゃないかしら」
「・・・・・・金になりそうってことは分かった」

 ジーニとアレクの会話を黙って聞いていたギルが、理解不能といった顔でぶすくれているのを、エディンは苦笑して頭を撫でた。
 いきなり発生したゾンビを、何か動かしているものがあるのかもしれない、という憶測に則って、奥へ奥へと進んできた一行だったが、北へ続く通路の向こうは、腐臭の他に、通常のゾンビではない咆哮が聞こえる。
 冒険者たちは、ボス級の敵がいると見て準備を始めた。
 まず、ミナスの【蛙の迷彩】。
 そして、ジーニがしっかりした防具を持たない仲間を心配して購入した、【魔力の障壁】という呪文を唱えた。
 洞窟内の風景に溶け込んだ冒険者たちを、今度は生成された魔法のフィールドが包み込む。
 不可視のこれは、肉体的な攻撃を半減する一方で、魔法に対する抵抗率を一時的に向上させるのだ。
 新たな補助魔法を唱え終わったジーニの向こう側で、今度はミナスがウージョのエルフから教わってきたという、雪精を召喚した。
 今の実力で何度も唱えられるものではないらしく、彼の周りで冷気を発しながら飛び回るスネグーロチカのように、顔が青白くなっている。

「これで、前よりは傷がつきにくくなったわよ。この先には只のゾンビじゃないやつもいそうだからね・・・戦士さんたちの準備は良い?」
「おう。みんな、突っ込むぞ!」

2012/11/02 01:02 [edit]

category: 腐者の洞窟

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腐者の洞窟 1  

 胡桃の入ったパンを齧りつつ、ギルはその依頼書の文章を読んだ。
 彼は本日、他の仲間より寝坊をしたので、一人で朝食をかき込んでいる。
 宿の娘さんが、無言で「早く片付けたい」と訴えているので、食べる速度はいつもの倍だ。

「ミミニャヒク、ヒチタイ・・・」
「ミミナ地区自治体、な。口の中のもの、飲み込んでから話せよ・・・」

 呆れたようにアレクが幼馴染へ言うのに、宿の親父さんが苦笑した。

「その依頼はリューンの外れにある地方団体からの依頼だ。ゾンビの巣になっている洞窟から、ゾンビを駆除して欲しい、とのことだ」
「ゾンビかあ。臭そうだなあ・・・」

 嫌そうに顔をしかめたのは、最年少のミナスだ。
 彼は精霊使いの才能があるのだが、それは盗賊は違う意味で、感覚が鋭くなることを意味している。
 周りの自然に溶け込んでいる精霊たちを感知し、使役すること。
 これが精霊使いの基本であり、極意でもある。アンデッドにも、負の生命の精霊というのが働いており、それは腐臭以上に、精霊使いであるミナスの神経を苛立たせるのだ。
 親父さんが、目線で催促するギルに、温めたミルクを差し出しながら言う。

「相手はアンデット系だが、聖水など意外と弱点が多い種族だからな。対策を立てれば、駆け出しの冒険者でも易々退治できるだろう」

ScreenShot_20120724_121732750.png

 その隣でアウロラが首をすくめた。

「私の新しく授かった法術もありますし、ジーニさんの魔法もあるでしょう?次に受ける仕事として、ふさわしいかと思って、親父さんに取っておいてもらったんですが・・・」

 エディンが、手元の銀の剣を手入れしながら言う。

「いや、お前さんが神官としてこの仕事をやりたい、というなら仕方ないだろう。幸い、エクソシストの剣もまだ使えるし、俺は構わんぞ」
「この依頼を受けるか?」

 親父さんの問いかけに、なみなみと注がれていたミルクを飲み干したギルが、ゆっくりと頷いた。

2012/11/02 01:00 [edit]

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