Thu.
真夜中のランプさんその4 
一際大きな卓のある食堂で麻袋を、一階から二階に続く白い手すりがまだ綺麗な階段でロープを見つけた一行は、暖炉のある書斎へと乗り込んでいった。
「火消し壺があるよ。持ってく?」
「うん。さっきの丸いのを、それに閉じ込められるかもしれないね……それにしても…」
「火消し壺があるよ。持ってく?」
「うん。さっきの丸いのを、それに閉じ込められるかもしれないね……それにしても…」
-- 続きを読む --
アンジェに肯定しながら、シシリーが小首を傾けた。
「妙に物が落ちてるのねぇ。さっきなんて、ぱっさぱさになったパンが落ちてたし」
「別荘というには、確かに片付いてるとは言えませんね」
「そうじゃのう。まあ、あの御仁が清掃業者を入れる前に、例の奴が出現するようになったのかもしれん」
年長者たちの真面目な意見を左から右に受け流しつつ、ロンドが無造作に、ホビットが開いていると保証した客室のドアを開く。
二階は玄関ホールにあった仕掛けが壊れているらしく、暗い中での捜索だったのだが…。
ウィルバーは急に明るくなってしまった視界に目を細めた。
「ん、ここだけやけに明るいですね……」
「変だよ、さっきはこんなんじゃ――」
アンジェが言い募って警戒を発しようとした刹那、部屋の一点を見つめた老婆が、
「あ」
と口を開けた。
……丸い、ぽわぽわした光を放つ謎の物体が浮いている。
低く据わった声でテーゼンが呟く。
「デた」
「……何だ、案外かわいいもんじゃないか」
仲があまり良いと言えないテーゼンへの対抗心か、ただ単に感性が他と違うだけなのか。
ロンドの感想に、よく分からないながらも謎の生物は微笑んだ――のかもしれない。
そんな彼の背中には、
「どアップ……どアップは駄目……」
と常になくガタガタ震えるシシリーの姿もあったのだが。
しばらく無言で『何か』を眺めて観察していたウィルバーは、軽く杖で床をついてから説明した。
「これは幽霊ではありませんね。精霊のようなものです」
「精霊?」
「ええ、テーゼン。実体が限りなく存在しない、光の要素が強すぎるものですが」
「なるほどな……」
道理で同族の気配が微塵も感じられなかったわけである。
実は内心、正体をばらされるかもしれないなと覚悟していたテーゼンは、人知れず安堵した。
状況を冷静に分析した魔術師は、厳然たる事実をリーダーに突きつける。
「この分じゃ退治は難しそうです。光に魔法も物理攻撃も効きませんから」
か細く震える声で返事が来た。
「……どうしましょう」
背中に捕まっていたシシリーを残し、ざかざか無造作に前へ進んだロンドが、試しに先ほど拾ったロープで精霊を捕まえようと試みるが――。
「駄目だ、すり抜けてしまう」
「そりゃそうじゃろ。お主、何を聞いておったんじゃ」
「頭悪いぞ、白髪男」
「お前に言われたかないぞ、黒蝙蝠!」
何やら一気に険悪な雰囲気になったテーゼンとロンドを放っておいて、しばらくうんうん腕を組んで唸っていたアンジェは、
「あ、そうだ」
と独り言を言って、荷物袋からさっさと火消し壺を取り出……そうとして、その重さに諦めざるを得なかった。
「なんだ、アン。こいつで捕まえるつもりか?」
「だって、こいつ光なんでしょ?光は暗闇に弱いんだから、閉じ込めたらいいと思って。火消し壺は隙間がないんだから、これでいけると思ったんだけど…」
極めて現実的な案である。
意図が何とか分かったロンドが、ロープをアンジェに手渡して代わりに火消し壺を構える。

その様子を察したらしき精霊は、さっと天井近くまで移動してしまった。
「……ん?」
「嫌がってるの?」
新たな疑問を持ったウィルバーに、もしかしてとシシリーが囁く。
旗を掲げる爪の目が、きらりと光った。
「今だよ、やっちゃえ!」
アンジェの号令と共に、精霊が逃げ出さないよう各自が散開して部屋の隙間をふさいだ。
ロンドの抱える壺の蓋を、アンジェがさっと持ち上げる。
「あいつが壺に入ったらこの蓋で閉じ込めちゃおう」

同時に、フェイントで精霊を追い詰めろと指示していたウィルバーが、慌てて彼女に付け加える。
「火消し壺に入ったら急いで蓋を閉めてください!もたもたしてたらやり直しですよ!」
「大丈夫、分かってるって!」
――以後、4分ほどバタバタ動いていたが――。
「よし、捕まえた!」
ロンドの高らかな凱歌が上がった。
それまでの消耗に疲れきったシシリーが窓の外を見てぼやく。
「ああ、もうすっかり朝ね……」
仲間が抱えた火消し壺を眺めながら、アンジェは肝心なことを尋ねた。
「さて、この子どうする?」
「依頼人に渡したところでどうにもならないと思います。つき返されるのがオチでしょうね」
ウィルバーの出した提案は二つだった。
連れて帰るか、賢者の搭に売るか――。
「売るのは可哀想だよ」
「だよなぁ、こんな可愛いツラしてるんだし」
「……うむ、害もないしのう」
何となく愛着を感じてきた三名は、すっかり連れ帰るつもりになっている。
まともに眼前でにらみ合った経験があるシシリーがしきりに首を横に振って否定しているが、テーゼンはあまり自分に近づけさせなければ気にするつもりはないし、ウィルバーは賢者の搭に連れて行っても二束三文にしかならないだろうことを分かっている。
…………結局。
「おお、お前達」
快く戻ってきた旗を掲げる爪を出迎えた宿の亭主だったが、
「ぎゃああああああああああああああああああああ」

と、火消し壺の蓋を開けたロンドの手元から出てきた見たこともない物体に、二階に宿泊している冒険者達が仰天するほどの悲鳴を上げた……。
後日、何もデないことを確認した依頼人から、無事に銀貨600枚が届いたそうだ。
なお『ランプさん』の命名は娘さんのものであり、旗を掲げる爪が宿で怠けている時は、酒場を浮遊して明るく照らしてくれているそうである。
※収入:報酬600sp、ランプさん(召喚獣:光の精霊)→シシリー所有
※支出:モノクローナム・カトル(しろねこ様)にて【盗賊の手】購入。
※春秋村道の駅様作、真夜中のランプさんクリア!
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
4回目のお仕事は、春秋村道の駅さんの真夜中のランプさんです。
春秋村道の駅さんのシナリオは、発想が面白かったりほっこりしているシナリオが多く、よくプレイさせていただいているのですが、中でもキャラクターたちの反応具合が笑えるこちらの作品を今回リプレイにさせて頂きました。
これはあくまで私の場合ですが、ある程度設定を練っていても、まだスタートしたてのキャラクターはなかなか反応が掴みづらいことがあります。
そんな中、こちらのシナリオをやらせて頂いたおかげで、各々の適切な反応というか、力関係的なものもなんとなくわかってきました。リーダー、結構支えられて生きてますね(笑)。
春秋村道の駅のお二方(こちら桜林囃子さんと酒月肴さんのチームです)には、篤くお礼を申し上げます。
あ、可愛いランプさんですが、あれだけ嫌がったにも関わらず、シシリーにくっつくことになりました(酷)。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
「妙に物が落ちてるのねぇ。さっきなんて、ぱっさぱさになったパンが落ちてたし」
「別荘というには、確かに片付いてるとは言えませんね」
「そうじゃのう。まあ、あの御仁が清掃業者を入れる前に、例の奴が出現するようになったのかもしれん」
年長者たちの真面目な意見を左から右に受け流しつつ、ロンドが無造作に、ホビットが開いていると保証した客室のドアを開く。
二階は玄関ホールにあった仕掛けが壊れているらしく、暗い中での捜索だったのだが…。
ウィルバーは急に明るくなってしまった視界に目を細めた。
「ん、ここだけやけに明るいですね……」
「変だよ、さっきはこんなんじゃ――」
アンジェが言い募って警戒を発しようとした刹那、部屋の一点を見つめた老婆が、
「あ」
と口を開けた。
……丸い、ぽわぽわした光を放つ謎の物体が浮いている。
低く据わった声でテーゼンが呟く。
「デた」
「……何だ、案外かわいいもんじゃないか」
仲があまり良いと言えないテーゼンへの対抗心か、ただ単に感性が他と違うだけなのか。
ロンドの感想に、よく分からないながらも謎の生物は微笑んだ――のかもしれない。
そんな彼の背中には、
「どアップ……どアップは駄目……」
と常になくガタガタ震えるシシリーの姿もあったのだが。
しばらく無言で『何か』を眺めて観察していたウィルバーは、軽く杖で床をついてから説明した。
「これは幽霊ではありませんね。精霊のようなものです」
「精霊?」
「ええ、テーゼン。実体が限りなく存在しない、光の要素が強すぎるものですが」
「なるほどな……」
道理で同族の気配が微塵も感じられなかったわけである。
実は内心、正体をばらされるかもしれないなと覚悟していたテーゼンは、人知れず安堵した。
状況を冷静に分析した魔術師は、厳然たる事実をリーダーに突きつける。
「この分じゃ退治は難しそうです。光に魔法も物理攻撃も効きませんから」
か細く震える声で返事が来た。
「……どうしましょう」
背中に捕まっていたシシリーを残し、ざかざか無造作に前へ進んだロンドが、試しに先ほど拾ったロープで精霊を捕まえようと試みるが――。
「駄目だ、すり抜けてしまう」
「そりゃそうじゃろ。お主、何を聞いておったんじゃ」
「頭悪いぞ、白髪男」
「お前に言われたかないぞ、黒蝙蝠!」
何やら一気に険悪な雰囲気になったテーゼンとロンドを放っておいて、しばらくうんうん腕を組んで唸っていたアンジェは、
「あ、そうだ」
と独り言を言って、荷物袋からさっさと火消し壺を取り出……そうとして、その重さに諦めざるを得なかった。
「なんだ、アン。こいつで捕まえるつもりか?」
「だって、こいつ光なんでしょ?光は暗闇に弱いんだから、閉じ込めたらいいと思って。火消し壺は隙間がないんだから、これでいけると思ったんだけど…」
極めて現実的な案である。
意図が何とか分かったロンドが、ロープをアンジェに手渡して代わりに火消し壺を構える。

その様子を察したらしき精霊は、さっと天井近くまで移動してしまった。
「……ん?」
「嫌がってるの?」
新たな疑問を持ったウィルバーに、もしかしてとシシリーが囁く。
旗を掲げる爪の目が、きらりと光った。
「今だよ、やっちゃえ!」
アンジェの号令と共に、精霊が逃げ出さないよう各自が散開して部屋の隙間をふさいだ。
ロンドの抱える壺の蓋を、アンジェがさっと持ち上げる。
「あいつが壺に入ったらこの蓋で閉じ込めちゃおう」

同時に、フェイントで精霊を追い詰めろと指示していたウィルバーが、慌てて彼女に付け加える。
「火消し壺に入ったら急いで蓋を閉めてください!もたもたしてたらやり直しですよ!」
「大丈夫、分かってるって!」
――以後、4分ほどバタバタ動いていたが――。
「よし、捕まえた!」
ロンドの高らかな凱歌が上がった。
それまでの消耗に疲れきったシシリーが窓の外を見てぼやく。
「ああ、もうすっかり朝ね……」
仲間が抱えた火消し壺を眺めながら、アンジェは肝心なことを尋ねた。
「さて、この子どうする?」
「依頼人に渡したところでどうにもならないと思います。つき返されるのがオチでしょうね」
ウィルバーの出した提案は二つだった。
連れて帰るか、賢者の搭に売るか――。
「売るのは可哀想だよ」
「だよなぁ、こんな可愛いツラしてるんだし」
「……うむ、害もないしのう」
何となく愛着を感じてきた三名は、すっかり連れ帰るつもりになっている。
まともに眼前でにらみ合った経験があるシシリーがしきりに首を横に振って否定しているが、テーゼンはあまり自分に近づけさせなければ気にするつもりはないし、ウィルバーは賢者の搭に連れて行っても二束三文にしかならないだろうことを分かっている。
…………結局。
「おお、お前達」
快く戻ってきた旗を掲げる爪を出迎えた宿の亭主だったが、
「ぎゃああああああああああああああああああああ」

と、火消し壺の蓋を開けたロンドの手元から出てきた見たこともない物体に、二階に宿泊している冒険者達が仰天するほどの悲鳴を上げた……。
後日、何もデないことを確認した依頼人から、無事に銀貨600枚が届いたそうだ。
なお『ランプさん』の命名は娘さんのものであり、旗を掲げる爪が宿で怠けている時は、酒場を浮遊して明るく照らしてくれているそうである。
※収入:報酬600sp、ランプさん(召喚獣:光の精霊)→シシリー所有
※支出:モノクローナム・カトル(しろねこ様)にて【盗賊の手】購入。
※春秋村道の駅様作、真夜中のランプさんクリア!
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
4回目のお仕事は、春秋村道の駅さんの真夜中のランプさんです。
春秋村道の駅さんのシナリオは、発想が面白かったりほっこりしているシナリオが多く、よくプレイさせていただいているのですが、中でもキャラクターたちの反応具合が笑えるこちらの作品を今回リプレイにさせて頂きました。
これはあくまで私の場合ですが、ある程度設定を練っていても、まだスタートしたてのキャラクターはなかなか反応が掴みづらいことがあります。
そんな中、こちらのシナリオをやらせて頂いたおかげで、各々の適切な反応というか、力関係的なものもなんとなくわかってきました。リーダー、結構支えられて生きてますね(笑)。
春秋村道の駅のお二方(こちら桜林囃子さんと酒月肴さんのチームです)には、篤くお礼を申し上げます。
あ、可愛いランプさんですが、あれだけ嫌がったにも関わらず、シシリーにくっつくことになりました(酷)。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
2016/02/11 11:34 [edit]
category: 真夜中のランプさん
tb: -- cm: 0
Thu.
真夜中のランプさんその3 
-- 続きを読む --
「目が、目があって……目が合った……」
彫像は辞めても、意味のある言語を紡ぐことのまだ出来ないリーダーを見て、テアが可哀想にとでも言いたげな手つきで、彼女の頭を撫でてやった。
「至近距離で見てしまったからのう、シシリー殿……」
「あ、そういえば」
ロンドがそう呟いた後、ウィルバーの肩を叩いて荷物袋を指差した。
はて、と彼が首を傾げていると、そのままコップを持ち上げるような仕草をしている。
「ああ」
と魔術師は思い当たった――葡萄酒だ。
さっそく荷物袋から取り出して栓を開ける。
「大人しく飲んでください。その為の葡萄酒ですよ」
旅をする者に愛用されている木製のコップに葡萄酒を注ぎ、それに手を添えてシシリーに持たせる。
ゆっくり彼女が飲めるように傾けてやると、最初こそ噎せていたものの、徐々に口の中に注ぎ込まれていくアルコールに正気づき、3口目からは自分でコップを掲げて飲めるようになった。
「あ、ありがとう……」
「それで、何があったの姉ちゃん」
今までの支離滅裂な言葉ではさっぱり理解できなかったアンジェが、改めてシシリーに問いかける。
「何か、丸くて、ぼーっと光るものが目の前でにっこり笑ってた」

「怖い」
何を想像したものか、人並みよりはるか優れた容貌をあからさまに歪めてテーゼンが呻いたが、その横でテアがぱたぱたと手を横の方向に振って否定する。
「いや、見た目には……まあ、間抜けと言うか、怖くはなかったぞ」
「本当に出るなんてねぇ」
現実主義のアンジェが嘆息する。
彼女は依頼人の勘違いや見間違いだと思っていたのだが――。
今まで口を噤んでいたロンドが、ぼんのくぼを叩きながら言った。
「出たものは仕方ない。早速調査しよう」
旗を掲げる爪は、自分たちが寝袋を引いていた玄関から探索を開始することにした。
とりあえず今までいたところには、怪しいものも使えそうな道具もない。
続いてホールに続く道を行く。
広大なメインホールには玄関のところにあったものに、勝るとも劣らない豪華なシャンデリアが複数ぶら下がっており、階段に続くドアの近くには、青銅製らしい彫像が杖を片手に立っている。
「使えそうなものはないや」
首を竦めるアンジェによると左手側が客室ドア、右手のカーテンが食堂、正面右のドアが階段へとそれぞれ繋がっているそうである。
見取り図と変わってしまった箇所がないか確認をしながら、一同はゆっくりと探索を続けた。
彫像は辞めても、意味のある言語を紡ぐことのまだ出来ないリーダーを見て、テアが可哀想にとでも言いたげな手つきで、彼女の頭を撫でてやった。
「至近距離で見てしまったからのう、シシリー殿……」
「あ、そういえば」
ロンドがそう呟いた後、ウィルバーの肩を叩いて荷物袋を指差した。
はて、と彼が首を傾げていると、そのままコップを持ち上げるような仕草をしている。
「ああ」
と魔術師は思い当たった――葡萄酒だ。
さっそく荷物袋から取り出して栓を開ける。
「大人しく飲んでください。その為の葡萄酒ですよ」
旅をする者に愛用されている木製のコップに葡萄酒を注ぎ、それに手を添えてシシリーに持たせる。
ゆっくり彼女が飲めるように傾けてやると、最初こそ噎せていたものの、徐々に口の中に注ぎ込まれていくアルコールに正気づき、3口目からは自分でコップを掲げて飲めるようになった。
「あ、ありがとう……」
「それで、何があったの姉ちゃん」
今までの支離滅裂な言葉ではさっぱり理解できなかったアンジェが、改めてシシリーに問いかける。
「何か、丸くて、ぼーっと光るものが目の前でにっこり笑ってた」

「怖い」
何を想像したものか、人並みよりはるか優れた容貌をあからさまに歪めてテーゼンが呻いたが、その横でテアがぱたぱたと手を横の方向に振って否定する。
「いや、見た目には……まあ、間抜けと言うか、怖くはなかったぞ」
「本当に出るなんてねぇ」
現実主義のアンジェが嘆息する。
彼女は依頼人の勘違いや見間違いだと思っていたのだが――。
今まで口を噤んでいたロンドが、ぼんのくぼを叩きながら言った。
「出たものは仕方ない。早速調査しよう」
旗を掲げる爪は、自分たちが寝袋を引いていた玄関から探索を開始することにした。
とりあえず今までいたところには、怪しいものも使えそうな道具もない。
続いてホールに続く道を行く。
広大なメインホールには玄関のところにあったものに、勝るとも劣らない豪華なシャンデリアが複数ぶら下がっており、階段に続くドアの近くには、青銅製らしい彫像が杖を片手に立っている。
「使えそうなものはないや」
首を竦めるアンジェによると左手側が客室ドア、右手のカーテンが食堂、正面右のドアが階段へとそれぞれ繋がっているそうである。
見取り図と変わってしまった箇所がないか確認をしながら、一同はゆっくりと探索を続けた。
2016/02/11 11:32 [edit]
category: 真夜中のランプさん
tb: -- cm: 0
Thu.
真夜中のランプさんその2 
-- 続きを読む --
この大きさの建物を調べるとなったら、なかなか時間がかかるだろう。
ましてや、本当に幽霊などではなかった場合、原因を見つけるのに一晩中かけてしまうかもしれない。
段々不安要因が積み重なっていくロンドとは裏腹に、シシリーは預かった鍵を取り出して別荘の扉を開けた。
ちょっとした軋みをあげて開くと、窓に覆いでもしているのか、中に日は差し込んでいない。
テーゼンはため息をついて頭を横に振った。
「……真っ暗じゃねぇか。今、灯りを――」
「待ってください」
手探りで荷物袋のいつもの場所からランタンを取り出そうとした青年を、ウィルバーが言葉で止めた。
何かあったのかと問いかけようとしたテーゼンが、不意に口を噤む。
――ぱっと。
まるで舞台において、役者が出る抜群のタイミングで照明係が灯りを用意するかのように、一瞬で辺りが明るくなったのだ。
「な、なにこれ?魔法……?」
何者の気配も感じなかったのに、とやや及び腰に変わったアンジェが囁く。
しばし天井のシャンデリアを睨んでいたウィルバーが、
「生物に反応して明るくなるようです」

と応じた。
彼の視線の先には、誰かが通過した場合に反応できるよう細工をしたものか、微かに天井の一部に赤い線が引かれた部分がある。
とんだ酔狂に、翼を揺らしてテーゼンが言った。
「はぁ……どれだけ金がかかってんだよこれ」
「……つまり、今『ここ』には生物は居なかったということです」
彼らしい冷静な推測である。
「……そういえば、いつデるのかしら?」
シシリーの疑問に、テーゼンが肩をすくめる。
「夜じゃねぇのか?お約束的に」
彼自身はアンデッドではないものの、一応闇に属するもの――悪魔である。
アンデッドにしろ悪魔にしろその他の魔族にしろ、まず闇に属する陣営に、太陽の光というものは、太古の昔より優しくなかった。
死に近い状態となる睡眠状態、闇の中で行なわれる秘め事、暗い中で初めて目を覚ます化け物……陽光は、容赦のないエネルギーでそれらの意味を失わせてしまう。
もし本当にこの屋敷に依頼人の恐れるものが現れるなら、それは夜に活動を始めるはずなのだ。
端的に言えば――光る何かに気づくのなら、闇の中でなければ見えづらくて気づかなかったろうし。
テーゼンがした説明は最後の部分だけだったが、それに納得したシシリー(ちなみにまだ彼のことをただの有翼種だと思っている)は、見張りを交代で立てて休もうと提案した。
しかし、左の拳をぶんぶか振り上げつつ、アンジェが強硬に主張する。
「折角見取り図があるし、あたしはちょっと中を見てくるよ!」
「一人では行かないで。複数で行動するようにね」
「分かってるよ!無理しない」
彼女の言葉に微笑んだウィルバーは、「では」と切り出した。
「班分けをしましょう――」
布のきれっぱしに番号を書き、それをくじ引きして決めた班分けに従い、彼らは休憩に入った。
数時間後。
ぶるり、と身を震わせた老婆が誰ともなく呟く。
「陽が完全に落ちたのう……」
自分の次の見張り要員でありながら、徹夜にまだ慣れてないためすっかり眠り込んでいるシシリーの肩に触れる。
「シシリー殿、そろそろ起き――」
ふと、揺すろうとしたその手を止めた。
今ここにいるのは――自分たちだけではない。
「……?」
ローブの袖に包まれた腕に、何かが掠める。
ぎょっとして身を思い切り引いたテアをあざ笑うかのように、その『何か』はぶつかるかと思った壁を垂直に上昇し、見事な螺旋構造を宙に描きながら天井まで上がっていった。
まるで相手の正体が分からず、いつでも竪琴をかき鳴らせるようにと構えていたテアだったが、シャンデリアの辺りで動きを止めたその物体に、顎が外れんばかりに驚いた。
「な、な、な、何じゃこれはああああああ!!」

一際大きな声で叫ぶ。
さすが吟遊詩人、若い頃は酒場の花として鳴らしただけはあって、彼女の叫び声はすっかり眠り込んでいた仲間を起こすに足りた。
半眼になったまま、寝癖も直さずに身を起こしたリーダーが声を上げる。
「何、いったい――」
恐らくは、その後に「どうしたの」とでも続けようとしたのだろう。
シシリーはしかし、シャンデリアからまるで移動の魔法でも使ったように素早く降りてきた『何か』が眼前に迫ってきたのに、セリフを胃の腑の底まで飲み込んだ。
「……!!?」
我知らず硬直する。
きょとん、としたそいつの目は、つぶらで見方によっては可愛らしいとでも言えただろうが――起き抜けの回らない頭で正面から向き合ったシシリーには、そこまで評価するのは無理だった。
吸血鬼に襲われた女性もかくや、という悲鳴が屋敷をつんざいたのは、実にこの5秒後である。
テアの声でも起きなかった他の仲間達も、これにはさすがに度肝を抜かれて起き出してきたが、彼らが見つけたのは毛布を抱いたままカチカチに固まったシシリーと、地団駄を踏みながら「どこいった!?」と湯気を立てて怒っているテアであった…。
ましてや、本当に幽霊などではなかった場合、原因を見つけるのに一晩中かけてしまうかもしれない。
段々不安要因が積み重なっていくロンドとは裏腹に、シシリーは預かった鍵を取り出して別荘の扉を開けた。
ちょっとした軋みをあげて開くと、窓に覆いでもしているのか、中に日は差し込んでいない。
テーゼンはため息をついて頭を横に振った。
「……真っ暗じゃねぇか。今、灯りを――」
「待ってください」
手探りで荷物袋のいつもの場所からランタンを取り出そうとした青年を、ウィルバーが言葉で止めた。
何かあったのかと問いかけようとしたテーゼンが、不意に口を噤む。
――ぱっと。
まるで舞台において、役者が出る抜群のタイミングで照明係が灯りを用意するかのように、一瞬で辺りが明るくなったのだ。
「な、なにこれ?魔法……?」
何者の気配も感じなかったのに、とやや及び腰に変わったアンジェが囁く。
しばし天井のシャンデリアを睨んでいたウィルバーが、
「生物に反応して明るくなるようです」

と応じた。
彼の視線の先には、誰かが通過した場合に反応できるよう細工をしたものか、微かに天井の一部に赤い線が引かれた部分がある。
とんだ酔狂に、翼を揺らしてテーゼンが言った。
「はぁ……どれだけ金がかかってんだよこれ」
「……つまり、今『ここ』には生物は居なかったということです」
彼らしい冷静な推測である。
「……そういえば、いつデるのかしら?」
シシリーの疑問に、テーゼンが肩をすくめる。
「夜じゃねぇのか?お約束的に」
彼自身はアンデッドではないものの、一応闇に属するもの――悪魔である。
アンデッドにしろ悪魔にしろその他の魔族にしろ、まず闇に属する陣営に、太陽の光というものは、太古の昔より優しくなかった。
死に近い状態となる睡眠状態、闇の中で行なわれる秘め事、暗い中で初めて目を覚ます化け物……陽光は、容赦のないエネルギーでそれらの意味を失わせてしまう。
もし本当にこの屋敷に依頼人の恐れるものが現れるなら、それは夜に活動を始めるはずなのだ。
端的に言えば――光る何かに気づくのなら、闇の中でなければ見えづらくて気づかなかったろうし。
テーゼンがした説明は最後の部分だけだったが、それに納得したシシリー(ちなみにまだ彼のことをただの有翼種だと思っている)は、見張りを交代で立てて休もうと提案した。
しかし、左の拳をぶんぶか振り上げつつ、アンジェが強硬に主張する。
「折角見取り図があるし、あたしはちょっと中を見てくるよ!」
「一人では行かないで。複数で行動するようにね」
「分かってるよ!無理しない」
彼女の言葉に微笑んだウィルバーは、「では」と切り出した。
「班分けをしましょう――」
布のきれっぱしに番号を書き、それをくじ引きして決めた班分けに従い、彼らは休憩に入った。
数時間後。
ぶるり、と身を震わせた老婆が誰ともなく呟く。
「陽が完全に落ちたのう……」
自分の次の見張り要員でありながら、徹夜にまだ慣れてないためすっかり眠り込んでいるシシリーの肩に触れる。
「シシリー殿、そろそろ起き――」
ふと、揺すろうとしたその手を止めた。
今ここにいるのは――自分たちだけではない。
「……?」
ローブの袖に包まれた腕に、何かが掠める。
ぎょっとして身を思い切り引いたテアをあざ笑うかのように、その『何か』はぶつかるかと思った壁を垂直に上昇し、見事な螺旋構造を宙に描きながら天井まで上がっていった。
まるで相手の正体が分からず、いつでも竪琴をかき鳴らせるようにと構えていたテアだったが、シャンデリアの辺りで動きを止めたその物体に、顎が外れんばかりに驚いた。
「な、な、な、何じゃこれはああああああ!!」

一際大きな声で叫ぶ。
さすが吟遊詩人、若い頃は酒場の花として鳴らしただけはあって、彼女の叫び声はすっかり眠り込んでいた仲間を起こすに足りた。
半眼になったまま、寝癖も直さずに身を起こしたリーダーが声を上げる。
「何、いったい――」
恐らくは、その後に「どうしたの」とでも続けようとしたのだろう。
シシリーはしかし、シャンデリアからまるで移動の魔法でも使ったように素早く降りてきた『何か』が眼前に迫ってきたのに、セリフを胃の腑の底まで飲み込んだ。
「……!!?」
我知らず硬直する。
きょとん、としたそいつの目は、つぶらで見方によっては可愛らしいとでも言えただろうが――起き抜けの回らない頭で正面から向き合ったシシリーには、そこまで評価するのは無理だった。
吸血鬼に襲われた女性もかくや、という悲鳴が屋敷をつんざいたのは、実にこの5秒後である。
テアの声でも起きなかった他の仲間達も、これにはさすがに度肝を抜かれて起き出してきたが、彼らが見つけたのは毛布を抱いたままカチカチに固まったシシリーと、地団駄を踏みながら「どこいった!?」と湯気を立てて怒っているテアであった…。
2016/02/11 11:30 [edit]
category: 真夜中のランプさん
tb: -- cm: 0
Thu.
真夜中のランプさんその1 
-- 続きを読む --
ちび呼ばわりされても怒ることなく(何しろ相手は大分年上である)、アンジェはずずっとテアの目前まで剥がした羊皮紙を突きつけた。
「これ。なんかさ、とっても急いでるぽいの」
「ほほう、なんじゃ…『期限:今すぐに!』じゃと…?」
内容は別荘の調査であった。
別荘の何についての調査なのか、それ以上詳しいことについては直接聞いてくれ、ということだろう。
そこまではいい。
問題はそのあとに書いてある期限や報酬に、しきりと「今すぐ!」「急いで!」の二つの単語が付け加えられている点である。
銀貨600枚の報酬が安いとは言わないが、どういう理由でこんなに急かされているのだろうか?
それは、旗を掲げる爪が宿の亭主に貼り紙の件について口に出した途端、ぱっと走り出して依頼人を自分たちのテーブルに連れてきた数分後に判明した。
「ワタクシ、お金持ちですの。それもう貴方達の生活からは考えられないほどの」
「は、はあ…」
自分の名前やら何やらより、まず経済状態の自慢から入ってくると思わなかったアンジェは、やや引き気味に返事をした。
依頼人がそれに気づいた様子はなく、マイペースに自分の話を続けている。
「それでワタクシ、主人にお願いして、自分だけの別荘を買って貰いましたの」
ところが――である。
「デる、らしいのよ」
「デ、デる?」
イマイチ話の意図が分からず首を捻ったロンドに、依頼人は噛み付くように叫んだ。
ついでに、ダンっ!!と机を叩く。
「そうなの!デるのよ!!真夜中に!!ぼーっと光るの、何かが!」
冒険者は怖いもの知らずなんだから、それくらい退治するか、どうにか処置できるだろう――というのが彼女の主張もとい依頼であった。
報酬は銀貨600枚、ボーナスはなし。
おまけに、ぼーっと光る『何か』とやらの正体は果たして不明なままである。
あまり状況の分からない依頼に、さすがにテアとウィルバーは眉根を寄せたものの、シシリーやロンドの持ち前の好奇心には何やら火がついたようである。
二人とも拳を握り、ワクワクしたような表情に変わってしまった。
おまけに、先ほどからずっと黙りっぱなしのテーゼンまで、目線で受けろ受けろと合図をしている。
お前もか悪魔、とテアは内心でぼやいた。
引き受ける旨を依頼人に話すと、彼女はさっそく行ってこいと命令をした。

「ワタクシはお屋敷で待ってますからね。さっさと済ませるように!」
そのまま、ばたばたと首を落とされた鶏のような勢いの足音を立てて、冒険者の店を出て行く。
呆れたように首を振った宿の亭主が、
「やれやれ、騒がしい依頼人だ」
と言いつつ、シシリーへ預かった別荘の鍵を手渡す。
簡単な別荘の見取り図もあるということなので、そちらはアンジェに渡して貰った。
続いて取り出してきた思いがけない道具に、ウィルバーが目を丸くして呟いた。
「葡萄酒?」
「ああ……デるんだろ?やばかったら飲め。葡萄酒ってのはそういうもんだ」」
「はあ。そういうもんですか」
特に逆らうこともせず、ウィルバーは宿の亭主から餞別に葡萄酒を貰った。
住所を確認すると、リューン郊外にあるらしい。
ちょっと急げば往復しても半日ほどで戻ってこれるはずだ。
そのことを確かめつつ、ウィルバーは顎に手をやって息を吐いた。
「しかし、デる、ですか……レイスかバンシーか、とにかく油断しないようにしないと」
「そうね、私もやっと【癒身の法】の奇跡は会得したけれど、【亡者退散】のように亡霊たちすら退ける対アンデッド用の法術は覚えてないし」
「その辺はどうにかなるだろ、シリー。俺もお前も、幽霊も殴れる武器を貸して貰ってるんだから」
孤児院出身の年長組みの話を聞きながら、リアリストなアンジェが口を挟んだ。
「というか、本物なの?見間違いもよく聞くよね」

ましてやあの依頼人なのだから――と言いたげなアンジェに、シシリーも頷いた。
その後で、「でも」と付け加える。
「それならそれで、悪くない仕事でしょう。ちゃんと原因を発見さえすれば、もう光る何かになんて怯えなくてもいいんだから」
「ま、そりゃそうね。じゃあ行こうか、皆」
アンジェは気軽な様子で仲間達に声をかけた。
「これ。なんかさ、とっても急いでるぽいの」
「ほほう、なんじゃ…『期限:今すぐに!』じゃと…?」
内容は別荘の調査であった。
別荘の何についての調査なのか、それ以上詳しいことについては直接聞いてくれ、ということだろう。
そこまではいい。
問題はそのあとに書いてある期限や報酬に、しきりと「今すぐ!」「急いで!」の二つの単語が付け加えられている点である。
銀貨600枚の報酬が安いとは言わないが、どういう理由でこんなに急かされているのだろうか?
それは、旗を掲げる爪が宿の亭主に貼り紙の件について口に出した途端、ぱっと走り出して依頼人を自分たちのテーブルに連れてきた数分後に判明した。
「ワタクシ、お金持ちですの。それもう貴方達の生活からは考えられないほどの」
「は、はあ…」
自分の名前やら何やらより、まず経済状態の自慢から入ってくると思わなかったアンジェは、やや引き気味に返事をした。
依頼人がそれに気づいた様子はなく、マイペースに自分の話を続けている。
「それでワタクシ、主人にお願いして、自分だけの別荘を買って貰いましたの」
ところが――である。
「デる、らしいのよ」
「デ、デる?」
イマイチ話の意図が分からず首を捻ったロンドに、依頼人は噛み付くように叫んだ。
ついでに、ダンっ!!と机を叩く。
「そうなの!デるのよ!!真夜中に!!ぼーっと光るの、何かが!」
冒険者は怖いもの知らずなんだから、それくらい退治するか、どうにか処置できるだろう――というのが彼女の主張もとい依頼であった。
報酬は銀貨600枚、ボーナスはなし。
おまけに、ぼーっと光る『何か』とやらの正体は果たして不明なままである。
あまり状況の分からない依頼に、さすがにテアとウィルバーは眉根を寄せたものの、シシリーやロンドの持ち前の好奇心には何やら火がついたようである。
二人とも拳を握り、ワクワクしたような表情に変わってしまった。
おまけに、先ほどからずっと黙りっぱなしのテーゼンまで、目線で受けろ受けろと合図をしている。
お前もか悪魔、とテアは内心でぼやいた。
引き受ける旨を依頼人に話すと、彼女はさっそく行ってこいと命令をした。

「ワタクシはお屋敷で待ってますからね。さっさと済ませるように!」
そのまま、ばたばたと首を落とされた鶏のような勢いの足音を立てて、冒険者の店を出て行く。
呆れたように首を振った宿の亭主が、
「やれやれ、騒がしい依頼人だ」
と言いつつ、シシリーへ預かった別荘の鍵を手渡す。
簡単な別荘の見取り図もあるということなので、そちらはアンジェに渡して貰った。
続いて取り出してきた思いがけない道具に、ウィルバーが目を丸くして呟いた。
「葡萄酒?」
「ああ……デるんだろ?やばかったら飲め。葡萄酒ってのはそういうもんだ」」
「はあ。そういうもんですか」
特に逆らうこともせず、ウィルバーは宿の亭主から餞別に葡萄酒を貰った。
住所を確認すると、リューン郊外にあるらしい。
ちょっと急げば往復しても半日ほどで戻ってこれるはずだ。
そのことを確かめつつ、ウィルバーは顎に手をやって息を吐いた。
「しかし、デる、ですか……レイスかバンシーか、とにかく油断しないようにしないと」
「そうね、私もやっと【癒身の法】の奇跡は会得したけれど、【亡者退散】のように亡霊たちすら退ける対アンデッド用の法術は覚えてないし」
「その辺はどうにかなるだろ、シリー。俺もお前も、幽霊も殴れる武器を貸して貰ってるんだから」
孤児院出身の年長組みの話を聞きながら、リアリストなアンジェが口を挟んだ。
「というか、本物なの?見間違いもよく聞くよね」

ましてやあの依頼人なのだから――と言いたげなアンジェに、シシリーも頷いた。
その後で、「でも」と付け加える。
「それならそれで、悪くない仕事でしょう。ちゃんと原因を発見さえすれば、もう光る何かになんて怯えなくてもいいんだから」
「ま、そりゃそうね。じゃあ行こうか、皆」
アンジェは気軽な様子で仲間達に声をかけた。
2016/02/11 11:26 [edit]
category: 真夜中のランプさん
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