Thu.
パーティ名会議後の魔女の依頼その3 
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花を受け取った際、骨が躊躇いがちに、
「…彼女もそれを思い出してくれると嬉しいがね!」
と付け加えた様子に、テアはもしかしたらと考えることがあったのだが、他の面子は何も追求することはなく、骨の元気過ぎる挨拶に応えて手を振っただけであった。
一瞬の後に、何かの物音がして振り返ると、すでにその場所に骨の姿はなかったのだが……。
「あれは……」
森での探索を続けていると、シシリーの視界の端に気になるものがあった。
彼女が草むらを探ってみると、その手にフーカ草のレースのような葉が触れた。
「シシリー。あれ」
テーゼンが示した指の先には、さらに薬の材料となるサネアの実のオレンジがちらついている。
かなり高いところにあるそれを、するすると木に登ったアンジェが採取し、テーゼン目がけて落とした。
これで無事に依頼の品を入手したことになる。
さて依頼人の所に戻ろうか……と、踵を返し始めた一行だったが、ふとシシリーが皆を止めた。
「あれは獣道じゃないかしら?」
藪に隠れていた細く連なる道を少し行くと、依頼人との話にも出てこなかった洞窟が現れる。
シシリーが目を凝らすと、洞窟の入り口傍の木に、ひっそり隠れていたゴブリンの影を見つけた。
そういえば、と一同は宿の亭主の話を思い返す。
最初のゴブリン退治をした洞窟の近くに魔女の家があった、と。
ならば、あれだけ苦労をして妖魔を追い出したにも関わらず、また違う洞窟へ逃げた、あの時のゴブリンたちが住み着いたということである。
「まだ、こちらには気がついていないわね」
シシリーの合図で、一同はもう一度ゴブリンたちを退治することにした。
何しろ、前の依頼ではすっかり自分たちが仕事を完了したと報告してしまっている。
それなのに生き残りが懲りずにまたこの辺りを徘徊するようなことがあっては、自分たちの仕事振りを疑われてしまう一因となりかねない――これからの評判の為、排除するしかないだろう。
再びテアの子守唄【まどろみの花】で見張りを眠らせ止めを刺した一行は、さっさと洞窟へ乗り込んでいった。
前の洞窟とは違ってすぐ行き止まりになっており、名も知れぬ鉱石がうっすらと光を放っている。
複数のゴブリンがその中でうずくまって何かを夢中で食べており、冒険者たちの足音に気づいた様子はなかった。
一瞬で決心したシシリーは、仲間達に突撃の合図を送った。
――今度は要領を掴んだからか、はたまたゴブリンシャーマンがいなかったせいか、あっという間に旗を掲げる爪は彼らを掃討した。
スコップを地面に突き立てると、片手でぼんのくぼを叩きながらロンドが零す。
「結局ゴブリン退治しちゃったな」

「まあ、良いのではないですか。これで前の依頼人である農夫たちに、胸を張ってちゃんと片付けたと言えるのですから」
ウィルバーがそう言いながらロンドを労っていると、シシリーがしゃがみ込んで蒼銀色の実を拾い上げた。
「……これは」
ゴブリンたちが齧っていたらしいこの実は、ひんやりとした上品な甘い香りを放っている。
中々貴重なもののようなので、一つだけ齧られていない実を採取した彼女はそれを布にくるみ、荷物袋へそっと収めた。
ほの暗い洞窟のせいでつまづき怪我をしたテアを、シシリーが新たに習得した法術で癒し、一行は今度こそ魔女の家へと戻ることにした。
待ちかねていたらしい依頼人に、まずアンジェが骨から手に入れた花を差し出す。
「この、花は…あなた方、これをどこで?」
「うーん…それについてですが…」
心底不思議そうな問いに対して答えに給したウィルバーだったが、魔女は不意に自分でその発言を取り消した。
「…いいえ。つかぬことを伺いました」
彼女のその様子に、テアは内心で思考していたことが当たったことに気づいたが、仲間の誰にもそれを漏らすことはなかった。
依頼人の説明によると、この白い花は解毒と精神の正常化に役立つのだという。
今はもう亡き彼女の夫が、よく摘んできてくれた好きな花を、魔女は飽かずにためつすがめつ眺めていた。
「…ありがとう。私は、花を眺める余裕をなくしていたのかもしれませんね」

「ほら、今回の依頼はそれだけがお届けものじゃないだろ。こっちも貰ってくれねえか?」
テーゼンから薬の材料を渡すと、
「ああ…本当にありがとうございました。これで娘は助かります」
と言った彼女が安堵のあまりか頬へ微かに血の色を昇らせ、報酬の入った皮袋を差し出した。
森の奥にいた妖魔について言及すると、魔女はそのことには気づいていたという。
だが、獣道の向こうにあるため、冒険者達がそこまで足を伸ばすとも思えず、また、更なる報酬を払うこともできなかっために、とりあえずあとで自分で対処しようと黙っていたそうだ。
依頼人は律儀なのか、出せる報酬がないことをしばらくウンウン唸っていたが、ポンと手を打って嬉しげに声をあげた。
「…そうだ、これを差し上げます。手製で申し訳ないのですが」
立ち上がって竃から出してきたパンを断るわけにもいかず、それと共にウィルバーの交渉によって付けてもらったボーナス――彼女特製の万能薬――を受け取った。
旗を掲げる爪が依頼人宅を出たとき、沈みゆく日に照らされた魔女の……いや、カトレアの顔は、とても娘がいるようには見えない若い女性のものであった。
この何日か後に、カトレアから≪狼の隠れ家≫へ手紙が届いた。
それによると、旗を掲げる爪の取ってきた薬の材料のおかげで、マーガレットというあの少女は病から立ち直ったらしい。
シシリーが目を閉じると、脳裏ではすっかり元気になった娘が、母と仲睦まじくあの白い花を眺めている絵が浮かんだ。
※収入:報酬600sp、≪銀の実≫≪パン≫≪万能薬≫≪一輪の花≫
※支出:武闘都市エラン(飛魚様)にて【薙ぎ払い】を購入。
※タビビト様作、パーティ名会議・りり様作、魔女の依頼クリア!
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
2回目のお仕事は合わせ技で、タビビトさんのパーティ名会議でパーティ名を決めて、りりさんの魔女の依頼をプレイしました。
魔女の依頼のほうは寝る前サクッとのフォルダで遊ばれた方も多いのではないかと思います。
優しげな、ほんわかした背景と魔女さんの律儀な人柄が素敵な作品で、お土産に貰える品々も彼女たちらしいというか、この依頼らしいというか。
パーティ名会議のほうは、今月アップされたばかりの100KB祭りの作品です。
本来であれば出たばかりの新シナリオ、ネタバレは控えて一ヶ月ほど間を置いているのですが…このシナリオに限っては、今回書いたところ以外にも色々楽しい雑談があるので、安心して遊んでください。
また、今回採用したパーティ名≪旗を掲げる爪≫ですが、これは本当にプレイ中にシシリーから出てきた名前です。
なかなかかっこいい名前であったこと、前のパーティと被らないこと、それでいて統一感はあること。
以上三点からそのまま使わせていただきました。タビビトさん、ありがとうございました。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
「…彼女もそれを思い出してくれると嬉しいがね!」
と付け加えた様子に、テアはもしかしたらと考えることがあったのだが、他の面子は何も追求することはなく、骨の元気過ぎる挨拶に応えて手を振っただけであった。
一瞬の後に、何かの物音がして振り返ると、すでにその場所に骨の姿はなかったのだが……。
「あれは……」
森での探索を続けていると、シシリーの視界の端に気になるものがあった。
彼女が草むらを探ってみると、その手にフーカ草のレースのような葉が触れた。
「シシリー。あれ」
テーゼンが示した指の先には、さらに薬の材料となるサネアの実のオレンジがちらついている。
かなり高いところにあるそれを、するすると木に登ったアンジェが採取し、テーゼン目がけて落とした。
これで無事に依頼の品を入手したことになる。
さて依頼人の所に戻ろうか……と、踵を返し始めた一行だったが、ふとシシリーが皆を止めた。
「あれは獣道じゃないかしら?」
藪に隠れていた細く連なる道を少し行くと、依頼人との話にも出てこなかった洞窟が現れる。
シシリーが目を凝らすと、洞窟の入り口傍の木に、ひっそり隠れていたゴブリンの影を見つけた。
そういえば、と一同は宿の亭主の話を思い返す。
最初のゴブリン退治をした洞窟の近くに魔女の家があった、と。
ならば、あれだけ苦労をして妖魔を追い出したにも関わらず、また違う洞窟へ逃げた、あの時のゴブリンたちが住み着いたということである。
「まだ、こちらには気がついていないわね」
シシリーの合図で、一同はもう一度ゴブリンたちを退治することにした。
何しろ、前の依頼ではすっかり自分たちが仕事を完了したと報告してしまっている。
それなのに生き残りが懲りずにまたこの辺りを徘徊するようなことがあっては、自分たちの仕事振りを疑われてしまう一因となりかねない――これからの評判の為、排除するしかないだろう。
再びテアの子守唄【まどろみの花】で見張りを眠らせ止めを刺した一行は、さっさと洞窟へ乗り込んでいった。
前の洞窟とは違ってすぐ行き止まりになっており、名も知れぬ鉱石がうっすらと光を放っている。
複数のゴブリンがその中でうずくまって何かを夢中で食べており、冒険者たちの足音に気づいた様子はなかった。
一瞬で決心したシシリーは、仲間達に突撃の合図を送った。
――今度は要領を掴んだからか、はたまたゴブリンシャーマンがいなかったせいか、あっという間に旗を掲げる爪は彼らを掃討した。
スコップを地面に突き立てると、片手でぼんのくぼを叩きながらロンドが零す。
「結局ゴブリン退治しちゃったな」

「まあ、良いのではないですか。これで前の依頼人である農夫たちに、胸を張ってちゃんと片付けたと言えるのですから」
ウィルバーがそう言いながらロンドを労っていると、シシリーがしゃがみ込んで蒼銀色の実を拾い上げた。
「……これは」
ゴブリンたちが齧っていたらしいこの実は、ひんやりとした上品な甘い香りを放っている。
中々貴重なもののようなので、一つだけ齧られていない実を採取した彼女はそれを布にくるみ、荷物袋へそっと収めた。
ほの暗い洞窟のせいでつまづき怪我をしたテアを、シシリーが新たに習得した法術で癒し、一行は今度こそ魔女の家へと戻ることにした。
待ちかねていたらしい依頼人に、まずアンジェが骨から手に入れた花を差し出す。
「この、花は…あなた方、これをどこで?」
「うーん…それについてですが…」
心底不思議そうな問いに対して答えに給したウィルバーだったが、魔女は不意に自分でその発言を取り消した。
「…いいえ。つかぬことを伺いました」
彼女のその様子に、テアは内心で思考していたことが当たったことに気づいたが、仲間の誰にもそれを漏らすことはなかった。
依頼人の説明によると、この白い花は解毒と精神の正常化に役立つのだという。
今はもう亡き彼女の夫が、よく摘んできてくれた好きな花を、魔女は飽かずにためつすがめつ眺めていた。
「…ありがとう。私は、花を眺める余裕をなくしていたのかもしれませんね」

「ほら、今回の依頼はそれだけがお届けものじゃないだろ。こっちも貰ってくれねえか?」
テーゼンから薬の材料を渡すと、
「ああ…本当にありがとうございました。これで娘は助かります」
と言った彼女が安堵のあまりか頬へ微かに血の色を昇らせ、報酬の入った皮袋を差し出した。
森の奥にいた妖魔について言及すると、魔女はそのことには気づいていたという。
だが、獣道の向こうにあるため、冒険者達がそこまで足を伸ばすとも思えず、また、更なる報酬を払うこともできなかっために、とりあえずあとで自分で対処しようと黙っていたそうだ。
依頼人は律儀なのか、出せる報酬がないことをしばらくウンウン唸っていたが、ポンと手を打って嬉しげに声をあげた。
「…そうだ、これを差し上げます。手製で申し訳ないのですが」
立ち上がって竃から出してきたパンを断るわけにもいかず、それと共にウィルバーの交渉によって付けてもらったボーナス――彼女特製の万能薬――を受け取った。
旗を掲げる爪が依頼人宅を出たとき、沈みゆく日に照らされた魔女の……いや、カトレアの顔は、とても娘がいるようには見えない若い女性のものであった。
この何日か後に、カトレアから≪狼の隠れ家≫へ手紙が届いた。
それによると、旗を掲げる爪の取ってきた薬の材料のおかげで、マーガレットというあの少女は病から立ち直ったらしい。
シシリーが目を閉じると、脳裏ではすっかり元気になった娘が、母と仲睦まじくあの白い花を眺めている絵が浮かんだ。
※収入:報酬600sp、≪銀の実≫≪パン≫≪万能薬≫≪一輪の花≫
※支出:武闘都市エラン(飛魚様)にて【薙ぎ払い】を購入。
※タビビト様作、パーティ名会議・りり様作、魔女の依頼クリア!
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■後書きまたは言い訳
2回目のお仕事は合わせ技で、タビビトさんのパーティ名会議でパーティ名を決めて、りりさんの魔女の依頼をプレイしました。
魔女の依頼のほうは寝る前サクッとのフォルダで遊ばれた方も多いのではないかと思います。
優しげな、ほんわかした背景と魔女さんの律儀な人柄が素敵な作品で、お土産に貰える品々も彼女たちらしいというか、この依頼らしいというか。
パーティ名会議のほうは、今月アップされたばかりの100KB祭りの作品です。
本来であれば出たばかりの新シナリオ、ネタバレは控えて一ヶ月ほど間を置いているのですが…このシナリオに限っては、今回書いたところ以外にも色々楽しい雑談があるので、安心して遊んでください。
また、今回採用したパーティ名≪旗を掲げる爪≫ですが、これは本当にプレイ中にシシリーから出てきた名前です。
なかなかかっこいい名前であったこと、前のパーティと被らないこと、それでいて統一感はあること。
以上三点からそのまま使わせていただきました。タビビトさん、ありがとうございました。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
2016/02/04 13:49 [edit]
category: パーティ名会議後の魔女の依頼
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Thu.
パーティ名会議後の魔女の依頼その2 
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依頼人である魔女は、年齢を感じさせない整った顔に儚げな笑みを浮かべ、
「ようこそいらしてくださいました」
と出迎えた。
依頼について詳しい話をしたい、とアンジェが促すと、依頼人は頷いて傍らのベッドで起き上がっている娘の、蜂蜜色の髪を愛しげに撫でながら説明し始めた。
治療薬の材料がある森は、この家の裏側にあること。
野生の狼や蜂が出ることはあるが、さほど広くはないので迷う心配だけはないこと。
目的の植物は、【サネアの実】という植物の実と『フーカ草』という薬草の一種であること。
話の途中で、ウィルバーが出来れば報酬に色をつけて欲しいと交渉を始める。
家の中を見ていた仲間たちは、これ以上の金を依頼人は出せないだろうということを家の質実な様子から理解していたので、やや非難の色を含んだ目を彼に向けていたのだが、ウィルバーはそれにめげることなく言葉を続けた。
「いえ、現金でなくていいのです。あなたはよく効く薬を作ると宿の亭主に伺っております。もし、冒険の役に立つような薬があれば、それを支障のない量だけ分けていただければ…」
「なるほど……分かりました。銀貨600枚の報酬に加えて、私の作った万能薬を一つ、差し上げます。それでどうかご勘弁下さい」
「ああ、願ってもないボーナスですよ。無理を言って申し訳ない」
「いえ……薬があなた方のお役に立つとは思いませんでした。さて、話すべきことを続けましょう」
――娘の病は急性のものであり、進行が早いためになるたけ急いで材料を集めてほしい。
ベッドにいる少女は声が聞こえる方向へ可愛らしい微笑を向けてはいるが、依頼人は実はかなり苦しんでいるはずだと述べた。
問題の材料について依頼人から特徴を記した羊皮紙を貰った一同は、健気な娘のために時間を無駄にしないよう森へ移動した。
「あまり深い森ではねえようだが、道から外れるのは剣呑だな」
野外に慣れているテーゼンが、ざっと辺りを確かめて仲間に告げる。
彼はすぐ二股に分かれている道のうち、右手の道を指し示した。
「怪しい足跡なんかがあるわけじゃないが、なんかこっちから変な気配が漂ってる」
「変な気配だって?」
すわモンスターか、と意気込んでいるロンドの機先を制すように、テーゼンはおっとりと付け加えた。
「こちらに敵意がある感じではねーよ。ただなあ……生き物だろうか、これ?」
「あン?」
彼の言によると、獣や虫の気配とはまったく違うそうである。
正体は分からないものの、気になるものがあるのなら、薬草採取の邪魔をされないうちに確かめておこうと一行は右手に伸びた道を進むことにした。
ありふれた小鳥や花を森で見かける中、依頼人から注意されていた狼たちの出現もなく、彼らはとある突き当たりで足を止めた。
ぼそりとロンドが口を開いた。
「骨が気になるな」

彼の視線の先には、時間が経ってやや灰色がかった上に白い花まで絡んだ人間の骨が座っている。
どう見ても、骨だ。ただの死体である。
「……?」
調べていたテアが首を傾げると同時に、肋骨のあたりからはらりと地面に落ちたものがある。
肝の太いロンドは躊躇いなくそれを拾い上げ、読み上げた。
「なになに?『私は酒好きです。葡萄酒以外』……?」
「兄ちゃん……骨って、お酒、飲むの?」
アンジェが訝しげな顔になって問いかけた。
それにはさあと生返事したロンドだったが、
「酒か……依頼人にもらえないだろうか」
と、すっかり骨に酒を供える気になっている。
ロンドは、実は大酒飲みである。
リューンで普通に販売している葡萄酒はもちろん、北方で取引されているようなきつい度数の酒や、ドワーフが引っ掛けるような、凄まじいの一語に尽きる酒まで好んで口にする――もちろん、そんな資金がある時くらいだが。
もし自分が死んだあとも酒が欲しくなったら、そりゃあ供え物に注文もつけたくなるだろうと、彼は大真面目に骨に同情していた。
酒豪の様子にあきれ返った他の仲間たちも、ここに人骨があるということは依頼人から聞いてはいないため、それを確認するため彼女の家へ引き返すことには同意した。
疲れた冒険者たちを休ませるために部屋を整えていた魔女も、さすがに酒を求めるロンドの要求に目を丸くした。
「お酒…ですか?ちょうど葡萄酒がありますが」
面食らっている彼女に、テアが森の奥で見つけた骨と、その肋骨部分から落ちた紙面の文章について説明する。
依頼人は承服しかねるように首をひねっている。
彼女の知る限り、あの森で最近死んだ者はいないということである。
ただ、そう書き残すほどに酒好きな人間が亡くなっているというのは確かに哀れな話ではあるため、葡萄酒以外とあつかましくも注文を発したロンドに逆らうこともせず、彼女は薬効のない品だが、と注意をしたうえでマムシの入った酒瓶を手渡してきた。
それを見てごくりと喉を鳴らしたものの、ロンドは横取りはしなかった。
元の場所まで取って返し、さっそく瓶の口を開く。
「酒ぇ!!!酒さけサケだぁ!!!」
マムシ酒を骨に注いでやった途端、元気(?)な声を上げた骨に、アンジェは呆れたように
「まあ」
と呟いた。
アンデッドの一種なのだろうか?
しかし、それにしてはこちらに対する敵意もなければ、禍々しいオーラもない。
おまけに、髑髏だけに表情がよく分からないながらも感激した様子の骨は、酒の礼に冒険者の質問に何でも答えるといい始めた。
骨当人のことについて質問した一行だったが、あいにくとその記憶はないようだ。
あとは草を生やし化石となって、塵と化す予定のただの骨だと名乗っている。
すっかり警戒心も毒気も抜かれたついで、戯れにテーゼンは魔女について骨に問うてみた。
すると、驚くことに骨はちゃんとした返事を寄越したのである。
「魔女とは魔女、名前はカトレア、生まれは東、はるか東!趣味は園芸と昼寝、白い花が大好き!」
「……まさか知ってるとは思わなかったぜ」
「そしてそして、好きな食べ物はゴブリンの素揚げ!さて嘘か誠か、どちらと思うね!」
「それは嘘だ、ぜってー嘘だ」
骨を相手に漫才をやりだしたテーゼンに、仲間たちは頭を抱えるしかなかった。
「ようこそいらしてくださいました」
と出迎えた。
依頼について詳しい話をしたい、とアンジェが促すと、依頼人は頷いて傍らのベッドで起き上がっている娘の、蜂蜜色の髪を愛しげに撫でながら説明し始めた。
治療薬の材料がある森は、この家の裏側にあること。
野生の狼や蜂が出ることはあるが、さほど広くはないので迷う心配だけはないこと。
目的の植物は、【サネアの実】という植物の実と『フーカ草』という薬草の一種であること。
話の途中で、ウィルバーが出来れば報酬に色をつけて欲しいと交渉を始める。
家の中を見ていた仲間たちは、これ以上の金を依頼人は出せないだろうということを家の質実な様子から理解していたので、やや非難の色を含んだ目を彼に向けていたのだが、ウィルバーはそれにめげることなく言葉を続けた。
「いえ、現金でなくていいのです。あなたはよく効く薬を作ると宿の亭主に伺っております。もし、冒険の役に立つような薬があれば、それを支障のない量だけ分けていただければ…」
「なるほど……分かりました。銀貨600枚の報酬に加えて、私の作った万能薬を一つ、差し上げます。それでどうかご勘弁下さい」
「ああ、願ってもないボーナスですよ。無理を言って申し訳ない」
「いえ……薬があなた方のお役に立つとは思いませんでした。さて、話すべきことを続けましょう」
――娘の病は急性のものであり、進行が早いためになるたけ急いで材料を集めてほしい。
ベッドにいる少女は声が聞こえる方向へ可愛らしい微笑を向けてはいるが、依頼人は実はかなり苦しんでいるはずだと述べた。
問題の材料について依頼人から特徴を記した羊皮紙を貰った一同は、健気な娘のために時間を無駄にしないよう森へ移動した。
「あまり深い森ではねえようだが、道から外れるのは剣呑だな」
野外に慣れているテーゼンが、ざっと辺りを確かめて仲間に告げる。
彼はすぐ二股に分かれている道のうち、右手の道を指し示した。
「怪しい足跡なんかがあるわけじゃないが、なんかこっちから変な気配が漂ってる」
「変な気配だって?」
すわモンスターか、と意気込んでいるロンドの機先を制すように、テーゼンはおっとりと付け加えた。
「こちらに敵意がある感じではねーよ。ただなあ……生き物だろうか、これ?」
「あン?」
彼の言によると、獣や虫の気配とはまったく違うそうである。
正体は分からないものの、気になるものがあるのなら、薬草採取の邪魔をされないうちに確かめておこうと一行は右手に伸びた道を進むことにした。
ありふれた小鳥や花を森で見かける中、依頼人から注意されていた狼たちの出現もなく、彼らはとある突き当たりで足を止めた。
ぼそりとロンドが口を開いた。
「骨が気になるな」

彼の視線の先には、時間が経ってやや灰色がかった上に白い花まで絡んだ人間の骨が座っている。
どう見ても、骨だ。ただの死体である。
「……?」
調べていたテアが首を傾げると同時に、肋骨のあたりからはらりと地面に落ちたものがある。
肝の太いロンドは躊躇いなくそれを拾い上げ、読み上げた。
「なになに?『私は酒好きです。葡萄酒以外』……?」
「兄ちゃん……骨って、お酒、飲むの?」
アンジェが訝しげな顔になって問いかけた。
それにはさあと生返事したロンドだったが、
「酒か……依頼人にもらえないだろうか」
と、すっかり骨に酒を供える気になっている。
ロンドは、実は大酒飲みである。
リューンで普通に販売している葡萄酒はもちろん、北方で取引されているようなきつい度数の酒や、ドワーフが引っ掛けるような、凄まじいの一語に尽きる酒まで好んで口にする――もちろん、そんな資金がある時くらいだが。
もし自分が死んだあとも酒が欲しくなったら、そりゃあ供え物に注文もつけたくなるだろうと、彼は大真面目に骨に同情していた。
酒豪の様子にあきれ返った他の仲間たちも、ここに人骨があるということは依頼人から聞いてはいないため、それを確認するため彼女の家へ引き返すことには同意した。
疲れた冒険者たちを休ませるために部屋を整えていた魔女も、さすがに酒を求めるロンドの要求に目を丸くした。
「お酒…ですか?ちょうど葡萄酒がありますが」
面食らっている彼女に、テアが森の奥で見つけた骨と、その肋骨部分から落ちた紙面の文章について説明する。
依頼人は承服しかねるように首をひねっている。
彼女の知る限り、あの森で最近死んだ者はいないということである。
ただ、そう書き残すほどに酒好きな人間が亡くなっているというのは確かに哀れな話ではあるため、葡萄酒以外とあつかましくも注文を発したロンドに逆らうこともせず、彼女は薬効のない品だが、と注意をしたうえでマムシの入った酒瓶を手渡してきた。
それを見てごくりと喉を鳴らしたものの、ロンドは横取りはしなかった。
元の場所まで取って返し、さっそく瓶の口を開く。
「酒ぇ!!!酒さけサケだぁ!!!」
マムシ酒を骨に注いでやった途端、元気(?)な声を上げた骨に、アンジェは呆れたように
「まあ」
と呟いた。
アンデッドの一種なのだろうか?
しかし、それにしてはこちらに対する敵意もなければ、禍々しいオーラもない。
おまけに、髑髏だけに表情がよく分からないながらも感激した様子の骨は、酒の礼に冒険者の質問に何でも答えるといい始めた。
骨当人のことについて質問した一行だったが、あいにくとその記憶はないようだ。
あとは草を生やし化石となって、塵と化す予定のただの骨だと名乗っている。
すっかり警戒心も毒気も抜かれたついで、戯れにテーゼンは魔女について骨に問うてみた。
すると、驚くことに骨はちゃんとした返事を寄越したのである。
「魔女とは魔女、名前はカトレア、生まれは東、はるか東!趣味は園芸と昼寝、白い花が大好き!」
「……まさか知ってるとは思わなかったぜ」
「そしてそして、好きな食べ物はゴブリンの素揚げ!さて嘘か誠か、どちらと思うね!」
「それは嘘だ、ぜってー嘘だ」
骨を相手に漫才をやりだしたテーゼンに、仲間たちは頭を抱えるしかなかった。
2016/02/04 13:40 [edit]
category: パーティ名会議後の魔女の依頼
tb: -- cm: 0
Thu.
パーティ名会議後の魔女の依頼その1 
「パーティ名か……確かに考えてなかったわね」
ウィルバーの提案に、シシリーは飲んでいたホットミルクのカップを机上へそっと戻しながら頷いた。
今は仮に「シシリー一行」として宿に登録している彼らだったが、これからこの面子で依頼を受けるつもりがあるのならば、ちゃんとしたパーティ名をつけるに越したことはない。
評判が上がれば、必然的にパーティ名も人々の知るところとなる。
指名による依頼も増えていくだろう。

ウィルバーの提案に、シシリーは飲んでいたホットミルクのカップを机上へそっと戻しながら頷いた。
今は仮に「シシリー一行」として宿に登録している彼らだったが、これからこの面子で依頼を受けるつもりがあるのならば、ちゃんとしたパーティ名をつけるに越したことはない。
評判が上がれば、必然的にパーティ名も人々の知るところとなる。
指名による依頼も増えていくだろう。

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「私たちは今、シシリー一行と名乗っているけれど、他につけるとしたらどんな名前があるかしら?」

彼女の問いかけに、メンバーはそれぞれ自分の思う名前を挙げ始めた。
おふくろの豆、不死身の戦斧、確かなる卵、醒めた流れ者、指し示す道標、水も漏らさぬ詐欺師(?)等など…。
ふざけたものもあれば、真剣に考えたものもある。
ふと、シシリーが、
「旗を掲げる爪…」
と呟いた。
こてり、と首を傾げたアンジェが彼女に反復する。
「爪?」
「あ、いや、ここの宿の名前に狼がつくでしょう?そこから何となく連想したんだけど……ゴブリンに勝った時、勝利の旗でも掲げたような気分だったし」
本当にただの思いつきで喋っただけのつもりだったシシリーは、首をちぢ込ませるようにして皆からの視線をやり過ごそうとし、失敗して赤面した。
果たして、テアがポツリと零す。
「悪くない……悪くはないのぅ」
「そうだな、ばあ様。確かに悪くない」
有翼種であるテーゼンが、黒翼を揺らしながら同意する。
金髪のリーダーの横にそれぞれ陣取っているロンドとウィルバーも、目を見交わして首を縦に振った。
――10分後、彼らは自分のパーティ名を≪狼の隠れ家≫に登録した。
新たなリューンの冒険者、旗を掲げる爪のこれが正式な出発である。
やる気に満ち満ちた彼ら6人に、宿の亭主はさっそく入って来たばかりの依頼を彼らに見せた。

ほう、という短い歎息と共に、ウィルバーが呟く。
「『魔女』、ですか……」
すかさずリアリストであるアンジェが応じる。
「怪しいわね」
「魔法を使える奴なんてわんさかいるのに、わざわざ魔女を名乗るのは確かに怪しい」
彼女の訝しげな視線に、宿の亭主は大げさに肩をすくめてみせた。
「だがまあ、悪いやつじゃないんだ」
彼の親しげな様子に、「知り合いか?」とロンドが問うと、亭主は昔少々の交流があったことを明かした。
よく効く薬を作るのを生業にしているらしい。
それを何とはなしに聞きながら、テーゼンは羊皮紙の一文を確かめた。
魔女を名乗る依頼人の娘の患った病は、失明の危険性がある。
彼女の看病で身動きが取れない自分の代わりに、治療薬の材料を森で取ってきて欲しい…という内容であった。
報酬は銀貨600枚とある。
こないだ果たしたゴブリン退治と同じ金額で、薬草探しである。
悪くはないんじゃないか、と同意を求めるテーゼンへテアは慎重に返答した。
「採りに行こうというその材料とやらが、強力なモンスターの身体の一部だったりしなければ、確かにそうじゃろうがのう」
「そんな注意が必要な材料なら、ちゃんとこちらへ書いて寄越すと思うぞ」
宿の亭主は首を横に振りながら言った。
作った薬を使う対象は依頼人当人の娘である。
材料を手に入れるのに条件に合わない冒険者を派遣されても、薬を作る助けには到底ならないのだから、そんな危険性が高いはずはないのだ。
亭主のその説明に、一同は納得した。
「まあ、あいつの家はリューンの近郊にある。詳しい話を聞きたいのなら、あまり時間をかけずに行く事ができるだろう」
「そっか。どうしよう皆、もう出かける?」
アンジェの言葉に被せるように、さらに亭主が言い募る。
「もし行くなら急いでやってくれ。病気っていうのは長引いただけ、辛いものだからな」
しみじみとした人情味のあるセリフに、旗を掲げる爪は依頼を受ける決心をした。
住所はゴブリン退治の依頼が出ていた洞窟に近い。
気をつけて行って来いという亭主に、一行は軽く頷いて出発した。

彼女の問いかけに、メンバーはそれぞれ自分の思う名前を挙げ始めた。
おふくろの豆、不死身の戦斧、確かなる卵、醒めた流れ者、指し示す道標、水も漏らさぬ詐欺師(?)等など…。
ふざけたものもあれば、真剣に考えたものもある。
ふと、シシリーが、
「旗を掲げる爪…」
と呟いた。
こてり、と首を傾げたアンジェが彼女に反復する。
「爪?」
「あ、いや、ここの宿の名前に狼がつくでしょう?そこから何となく連想したんだけど……ゴブリンに勝った時、勝利の旗でも掲げたような気分だったし」
本当にただの思いつきで喋っただけのつもりだったシシリーは、首をちぢ込ませるようにして皆からの視線をやり過ごそうとし、失敗して赤面した。
果たして、テアがポツリと零す。
「悪くない……悪くはないのぅ」
「そうだな、ばあ様。確かに悪くない」
有翼種であるテーゼンが、黒翼を揺らしながら同意する。
金髪のリーダーの横にそれぞれ陣取っているロンドとウィルバーも、目を見交わして首を縦に振った。
――10分後、彼らは自分のパーティ名を≪狼の隠れ家≫に登録した。
新たなリューンの冒険者、旗を掲げる爪のこれが正式な出発である。
やる気に満ち満ちた彼ら6人に、宿の亭主はさっそく入って来たばかりの依頼を彼らに見せた。

ほう、という短い歎息と共に、ウィルバーが呟く。
「『魔女』、ですか……」
すかさずリアリストであるアンジェが応じる。
「怪しいわね」
「魔法を使える奴なんてわんさかいるのに、わざわざ魔女を名乗るのは確かに怪しい」
彼女の訝しげな視線に、宿の亭主は大げさに肩をすくめてみせた。
「だがまあ、悪いやつじゃないんだ」
彼の親しげな様子に、「知り合いか?」とロンドが問うと、亭主は昔少々の交流があったことを明かした。
よく効く薬を作るのを生業にしているらしい。
それを何とはなしに聞きながら、テーゼンは羊皮紙の一文を確かめた。
魔女を名乗る依頼人の娘の患った病は、失明の危険性がある。
彼女の看病で身動きが取れない自分の代わりに、治療薬の材料を森で取ってきて欲しい…という内容であった。
報酬は銀貨600枚とある。
こないだ果たしたゴブリン退治と同じ金額で、薬草探しである。
悪くはないんじゃないか、と同意を求めるテーゼンへテアは慎重に返答した。
「採りに行こうというその材料とやらが、強力なモンスターの身体の一部だったりしなければ、確かにそうじゃろうがのう」
「そんな注意が必要な材料なら、ちゃんとこちらへ書いて寄越すと思うぞ」
宿の亭主は首を横に振りながら言った。
作った薬を使う対象は依頼人当人の娘である。
材料を手に入れるのに条件に合わない冒険者を派遣されても、薬を作る助けには到底ならないのだから、そんな危険性が高いはずはないのだ。
亭主のその説明に、一同は納得した。
「まあ、あいつの家はリューンの近郊にある。詳しい話を聞きたいのなら、あまり時間をかけずに行く事ができるだろう」
「そっか。どうしよう皆、もう出かける?」
アンジェの言葉に被せるように、さらに亭主が言い募る。
「もし行くなら急いでやってくれ。病気っていうのは長引いただけ、辛いものだからな」
しみじみとした人情味のあるセリフに、旗を掲げる爪は依頼を受ける決心をした。
住所はゴブリン退治の依頼が出ていた洞窟に近い。
気をつけて行って来いという亭主に、一行は軽く頷いて出発した。
2016/02/04 13:39 [edit]
category: パーティ名会議後の魔女の依頼
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