Sun.

ネルカ城砦跡 6  

 ≪エア・ウォーカー≫で再び魔法の翼を生やした”金狼の牙”の面々は、ゆっくりと穴の下に降りていった。

「何ですか、すごく暗すぎません・・・?」
「確かに・・・まったき闇といえども、ここまで暗いのはおかしい」

 アレクがアウロラに同意する。
 2人に先行する形で先に下りていたギルは、小さく身を震わせた。
 何かとてつもないものが、この闇の向こうにいる気がする――。
 空中にいる時に襲われない用心のため、マントでランタンの灯りを隠していたエディンが、ばさっと一気に覆いを外した。

「――!?」

 あげた声なき叫びは誰のものだったのか。

ネルカ城砦17

「マダダ、マダ負ケテイナイ!」

 ぎしぎしと軋みをあげて大きな鎌を振り上げていた”それ”が口にしたのは、憤怒と悲痛に歪んでいる声であった。
 白く蠢くその様子は骨に間違いは無いのだが、その瘴気といい、漂う重圧といい、今までの遺跡の敵の比にはならない強敵であることを、全員悟らざるを得ない。
 ミナスが呻く。

「ネルカの石の力がこんなところにも・・・!」

 地下をコーティングしているネルカストーンの影響は、どうやらこの得体の知れない敵にも及んでいるようだ。
 振り上げられた鎌は、精霊が憑依したミナスの放つ氷霧やギルの【破邪の暴風】をものともせず、”金狼の牙”たちをなぎ払った。
 冒険者たちはバラバラに吹き飛ばされ、床に血反吐とともに叩きつけられる。

ネルカ城砦18

「ぐあっ・・・!」
「くっ・・・。【召雷弾】!」

 篭手の指先に宿った魔法の雷が、暗闇を引き裂いて頭蓋骨へと突き刺さる。
 瞬間だけ明るくなった軌跡を確認して、エディンが床を蹴った。
 【暗殺の一撃】によるレイピアの刺突と、それを軽減させようと動く鎌の動きは殆ど同時。
 エディンは返した武器で切り裂かれた腿を押さえつつ、くるりと宙返りをしてギルの傍に立った。

「あんまりダメージは食らってねえかな・・・。リーダーの技のほうがよく効いてそうだ」
「だとすれば、あれはアンデッドの分類に入ってるはずだ」

 床に叩きつけられた際に痛めた肩をさり気なく庇いつつ、彼は立ち上がる。
 その視線の先で、背中からモロに叩きつけられたはずのアウロラが背筋を無理矢理伸ばし、息を吸い込んでいた。

「主よ・・・!聖なる光を抱く天よ・・・!」

 瘴気漂う異様な空間の中で響き渡ったのは、今までにも何度か不死者に歌ってみせた【浄福の詠歌】である。
 だが、それまでより倍するような朗々とした歌声は、他の何者をも圧して、全てを優しく清らかに包み込んだ。
 痛みを忘れさせるほどの神々しさ、声に込められた慰撫と安らぎ。
 彼女の歌に敵すらも動きを止めた。
 そして・・・・・・。

「隕石・・・・・・。天ハ何故アノヨウナモノヲ・・・・・・」

 鎌を振りかざしたまま、それを下ろすことも出来ずに固まっていた不浄の敵は、そこまで呟くと輪郭から徐々に光の粒となって天へ昇っていく。
 怖気を奮う造形と白いぬめぬめとした質感を持った骨が、詠歌に見送られ姿を消す寸前。

「神ヨ・・・・・・、しんたらノ神ヨ・・・・・・、オ答エクダサイ・・・・・・」

ネルカ城砦19

という悲しげな台詞を残していった・・・。
 ジーニが柳眉を寄せる。

「シンタラの神?」
「彼らの信仰・・・なのでしょう。ここで負けたことが、よほどに心に掛かっていたのか・・・。はたまた、何かをそこまで守り抜きたかったのか・・・」

 今の自分では推察するしかできないが、とアウロラは付け加えた。
 暗闇の中を残りの敵がいないか念の為に歩き回ると、魔法陣が宙に浮かんでいるのを見つけた。
 茶褐色の瞳を輝かせたジーニがじっと見つめる。

「これは・・・音に反応するって書いてあるわね。大事な品を隠すための陣みたいだけど」
「音・・・」

 ハッとなったアウロラが、ポケットから羊皮紙の切れ端を出す。

「ジーニの忠告に従って正解でしたね」
「あの老婆の言葉か」

 アレクが覗き込んだ。
 城砦に入る前に街で聞き込んだ際、さる老婆が城砦に纏わる呪文だと教えてくれた言葉の書付である。
 ただ、最後の一言がわからないと老婆は申し訳なさそうに身を縮めていたはずだ。

「大丈夫なのか、最後までわからなくて」
「先ほど、ヒントを頂いていたでしょう?」
「ヒント?」

 珍しく悪戯っぽく微笑んだアウロラの様子に、アレクが首を傾げる。

「私自身が申し上げたではないですか。彼が守り抜きたかったもの、それがこの魔法陣なのです」

 そこまで説明したアウロラは魔法陣に向き直り、堂々と魔法陣を解除する言葉を発した。

「エルレ・ピレ・シンタラ!」

 先ほど骸骨が呟いていた神の名を最後に唱えると、隠されていた宝箱が出現した。
 たちまち仲間たちは感心した声をあげる。
 鉄製の箱をエディンが調べると、罠が仕掛けられている。
 慎重にそれを外すと、彼は滑らかな動きで開錠し、蓋を開いた。

「槍だ。真っ白だな」
「これは・・・ネルカストーン製ね!これだけで結構なお宝じゃないの!」

 杖の≪カード≫をかざして鑑定したジーニから歓声が漏れる。
 どうやら、苦労してここに降りてきた甲斐は(少なくとも彼女の基準では)あったらしい。
 一同は互いの検討を称えながら、外に出るための魔法陣を発見してその上に乗った・・・・・・。

※≪万象の司≫≪石化治療薬≫≪大きな宝石≫≪解毒剤≫≪ネルカの槍≫≪ネルカの護符≫≪ネルカの石≫×8※
--------------------------------------------------------

■後書きまたは言い訳

63回目のお仕事は、SARUOさんのシナリオでネルカ城砦跡でした。
シナリオ公開からリプレイにするまでが早すぎるかなあ、とは思ったのですが、一応1ヵ月くらいは間を置いたので勘弁してやっていただければ幸いです。
特に依頼を受けるシーンなどが開始時になかったので、前回の小話と繋げられるよう、地図作製組合のクレーマーさんから情報を貰ったことにしてみました。本編にはありません。
地図作製組合が再始動なさった暁には、ぜひこちらのダンジョンも入れて欲しいものです。

主目的はダンジョンアタックなわけですが、入り口を探し当てるのに【魔力感知】が必要だったり、そこから潜り込むのに【魔法を解除】のキーコードが必要だったり、最後のボスのところは【飛行】キーコードがあった方が有利だったりと、なかなかテクニカルな魔法の使い方が求められる辺りが、高レベルダンジョンの高レベルたるゆえんなのではないかと私は思っております。
うちは全て自前で賄いましたが、もしこれらのキーコードを持たないパーティでも安全安心設計、街中でスクロールが購入可能です。ただ、翼の呪文については向こう岸に飛び越すのと、穴から下に降りるのに2つ必要になるのではと思いますが・・・。
まあ、ネルカストーンがあるからと開き直ってそのまま降りるのも、一つの方法ではあります。私はあまりお勧めいたしませんが。

ビボルダーが護符、アンデッド連中が【浄福の詠歌】で軒並み対処できたので楽でした。【亡者退散】を持ってる僧侶がいるのなら、そう苦労はなさらないのではというのがプレイした感想です。
ただし、あまりにも全体攻撃の火力が少ないと、護符を取る前のプチデーモンやビボルダーたちに散々苦しめられることになると思いますので、その分のフォローは各自パーティに潜ませておくべきかもしれませんね。

さてこちらのシナリオで、とうとうレベル10冒険者が生まれました。
アウロラ、アレク、ジーニの三名です。
地図作製組合によるポイントでクーポン貰ってた影響がモロに出ましたね。
恐らくこの分で行くと、ギル・エディン・ミナスも一つ高レベルシナリオこなせば10に到達するのではないかと推察されます。現在、次回にやるシナリオを三つほど検討中なのですが、どれにしたものか・・・。
戦闘がとにかくメインのシナリオとなると、とたんに私の文章力は落ちます(戦闘描写がとにかく下手っぴ)ので、それ以外にもストーリーが見えるやつがいいのですが。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/05/05 05:29 [edit]

category: ネルカ城砦跡

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Sun.

ネルカ城砦跡 5  

 目の前に開いた巨大な穴を、恐々と”金狼の牙”たちは覗き込んだ。
 底は見えない。
 穴が深すぎてロープがあっても安全に降りることは出来ない。

ネルカ城砦15

「持ってて良かったよね、この腕輪」

 ミナスが腕を振って元気よく合言葉を唱えると、その背中からうっすらと輝く翼が伸びた。
 代わる代わる、≪エア・ウォーカー≫と呼ばれる魔法の腕輪の効果で翼を作った彼らは、穴を跳び越して向こう岸へと到着する。
 床や壁、天井に仕掛けられた罠が無いかを警戒しつつ進むと、5個目の宝箱に行き当たる。
 鮮やかな手並みでエディンが取り出したのは、宝石つきの杖であった。

「≪万象の司≫ね・・・。回数制限はあるけど、≪賢者の杖≫やあたしの使ってる≪死霊術士の杖≫よりも強力な魔法の媒体よ」
「魔法詠唱を助ける道具か・・・」
「ええ、そう。優れた宝石回路がついててね、これが使用者の集中力を何倍も高めてくれるって寸法よ」
「大した魔法文明の遺産だな・・・。誰も今まで手をつけてないのが不思議なくらいだぜ」

 ギルが肩をすくめてみせたのを見て、ジーニは顔色も変えずに部屋の一方を指差した。

「それはね。ああいうことだと思うわよ」

 彼女の優美な指が示すのは、すっかり石化したらしい冒険者の姿であった。
 原因なのであろうビボルダーが2体、後ろでふよふよ漂っていたのだが、それはミナスの護符による光で動きを止められる。
 古代王国期の遺跡に希に出没する最悪の生物兵器がもう動かない様子を確認した”金狼の牙”たちは、揃って石像のほうへと近寄った。
 灰色の石と化した顔は意外なほど若く、整った顔立ちの女性であった。
 石の体に欠けた様子が無いことを素早く確認したアウロラが、

「石化さえ解ければ助かるかもしれません」

とギルを振り仰ぐ。
 彼が浅くはあったものの首を縦に振ったので、アウロラはかつて海賊王の秘宝が隠された孤島で使った、≪水銀華茶≫というお茶を石像に注ぎかけた。
 コルクの栓が外された口から緑色のお茶が滑り落ち、たちまち灰色の体がかつての色彩を取り戻して、石の硬い質感を失っていく。

「あ・・・・・・」

 石化の解けた唇が戦慄いた。
 しばし待つと、石像は亜麻色の髪の少女に戻っていた。
 ふらりとよろめいたところをアレクに抱えられる。

「貴方達が助けてくれたの?」
「ああ。解ける手段があって良かった」
「ありがとう。何かお礼をしないといけないわよね・・・・・・」

 間近にある白皙の美貌に、半ばうっとりとした目つきに変わった少女の背中を、ジーニは杖についた髑髏でノックした。

「ね、アンタさ。ここの採石するための工具持ってない?」
「・・・工具ですか?それでしたら・・・」

 彼女は腿に固定していたナイフを外し、鞘ごとジーニへと渡した。

ネルカ城砦16

「そのナイフを使えば、この辺りの壁からネルカの石を採取できるの」

 ジャンナと名乗った彼女は元々、それで一山当てようと来ていたのだと言う。
 しかし、ここの魔物はジャンナには強力すぎた。

「だから、貴方達に譲る。それじゃあね。バイバイ」
「ばいばい、じゃあね」

 望みの工具を手に入れた”金狼の牙”は、ジャンナを出口の近くまで見送ると、さっそくそれで近くの石を掘り出し始めた。

「なるほど、さくさく石が切れるな。・・・でも、これはいつまでも持つものじゃないぜ。精々、八回が限度ってとこだ」
「とりあえず、それで切り出せるだけ切り出しちゃう?」
「ちょっと待ってください」

 大人組みにアウロラが異を唱えた。

「先ほどの大きく裂けた穴ですが・・・何となく放置しておかないほうがいい気がするんです」
「アウロラの予感か。当たるからな・・・」

 ギルが頭を掻く。
 それを見つめつつジーニが言った。

「でも、もしそっちに何かの仕掛けなり敵なりがいるんなら、ここの石は持っておいたほうがいいんじゃない?回復と強化できるんでしょ?」
「・・・確かにな。エディン、取れるだけ取ってしまってくれ。その後であそこも調べてみよう」

 ギルの決定に一同は頷いた。

2013/05/05 05:28 [edit]

category: ネルカ城砦跡

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Sun.

ネルカ城砦跡 4  

「・・・っく、ビボルダーまで出てくるとはなあ」
「雑魚のスケルトンはアウロラの歌のおかげですぐ終わったけど・・・厄介だったね」

 【活力の法】で麻痺の効果から体をほぐしたギルにミナスが駆け寄り、残った怪我が無いかを確かめつつため息をついた。
 アレクの心配は的中し、”金狼の牙”たちは普段であれば何でもないクラスの敵に手こずらされている。

ネルカ城砦11

 へにょんと破裂した風船のようになったビボルダーの亡骸を蹴飛ばし、エディンは奥へ続く暗闇を照らした。

「・・・なんか落ちてやがんな」

 宝箱にすら入っていないそれを怪しみ、何かの仕掛けが部屋に施されていないか警戒したエディンだったが、あいにくと不審な点は見当たらなかった。
 問題ないだろうと拾い上げると、それはかつてリューンの下水道において拾い上げた護符にそっくりな形状をしている。

ネルカ城砦12

 ただ違うのは、側面にルーンらしきものが刻まれている点であった。

「アレク、ジーニ。読めるか・・・?」
「どれだ・・・?」
「ん?どうしたの?」

 ルーン文字を修めている2人が覗き込むも、その効果は分からない。
 ジーニが唇をやや尖らせるようにして言った。

「宝箱にも入れてない、ってことは、誰かが直接これを使ってたんじゃないかな。何かのコントローラーとか・・・」
「詳細は分からないが、確かにルーンの綴りの中にはそういう意味も含まれているな」

 現在、装備として違う首飾りをアウロラとアレクが身につけている。
 誰がつけるべきかとやや悩んでいると、ミナスが頂戴という形に手を伸ばした。

「僕つけてみたい!」
「え・・・えー・・・?」

 具体的な効果が不明なままだったのでエディンは躊躇ったが、ジーニが「やらせてあげなさいよ」と口を出したため、エルフの少年は嬉々としてそれを首にかけた。
 フェニックスの装飾がされた腕輪に、純金製の指輪。そして六芒星の描かれた首飾り――。
 ジャラジャラと装飾品だらけになってしまったミナスを見て、うーんとアウロラが唸った。

「鎧を身につけるよりはいいかもしれませんけど・・・」
「なんかなあ。段々エルフのイメージと離れてきたな」

 ギルがつんつんと立っている黒髪を掻いた。
 とりあえず拾った装飾品には即効性の効果は無いようなので、”金狼の牙”たちは警戒しつつ北へと進むことにした。
 途中、返り血で染まったのか赤くなったスケルトンのようなアンデッドが現れるも、【浄福の詠歌】で魂を天へと導かれる。
 喉を押さえてアウロラが呟く。

「・・・・・・ふぅ。ずいぶんと死に切れなかった者が多いようですね」
「お疲れさん。≪魔法薬≫とかあるからな。辛かったら言ってくれよ」

 ギルが軽く彼女の肩を叩いて労った。
 ランタンをかざしたエディンが「お!」と声をあげて足を進める。
 彼の視線の先には、鉄製の宝箱があった。
 エナジードレインという魔法的仕掛けの罠を見抜いたエディンは、ひときわ細く硬い針金を取り出し、蓋の一部に差し込んだ。

ネルカ城砦13

 微細な動きを繰り返すと、がちゃりと罠の外れる音がする。

「お、でかい宝石」

 エディンが手に乗せた宝石をジーニが鑑定する。

「綺麗なアクアマリンじゃないの。特別な効果はないけど、売ったら結構高いわよ」
「さて行こうか・・・・・・っ!?」

 エディンが素早く≪スワローナイフ≫を抜き放ち、ジーニの横へと投げつけた。
 死角から襲い掛かろうとしていたスケルトンのうち、一体を仕留める。
 だがもう一体は、ゆらゆらとした動きで暗闇の向こうへと消えていこうとしている。
 スケルトンは雑魚だが、この城砦地下でうろつかれるのはあまり嬉しい事ではない。
 咄嗟にそのまま追いかけると、ビボルダーやもう一体出てきたスケルトンが待ち構えていた。

「ちっ!」

 鋭く舌打ちしたギルが斧を構えた、その瞬間。
 一行の後ろのほうにいたミナスの胸元から、真っ白な光がビボルダーへと突き刺さる。

「わっ!?」

ネルカ城砦14

 驚きの声をあげるミナスをよそに、ネルカの護符から溢れた光を受けたビボルダーは、その奇怪にくねる動きを止めた。

「なーるほど、そういう物だったのか」

 ギルが感心した声をあげる。
 仲間が首から提げた護符は、魔法生物のコントローラーだった・・・ということである。
 残ったスケルトンを苦もなく破壊すると、彼らは残りの場所の探索にかかった。

2013/05/05 05:27 [edit]

category: ネルカ城砦跡

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Sun.

ネルカ城砦跡 3  

 まずは街から程近い城砦の南部に足を踏み入れた。
 そのほとんどが崩れ、瓦礫の山となっている。

ネルカ城砦07

 油断するとすぐ足を滑らしかねない場所を警戒し、”金狼の牙”たちはお互いに補助をしながらその場所に下りていった。

「・・・・・・どんな栄光も、時の前には空しいもんね」

 辺りを見回したジーニが、ぽつんと呟いた。
 伝承では魔法石で覆われた美しい外壁があったとされている。
 しかし、その殆どは削り取られ、遠い日の威光は見る影も無かった。

ネルカ城砦08

 時折、エディンが立ち止まっては残っている外壁を軽く叩いたり、ひびの入った辺りを指でなぞって調べたりしていたが、機械的な罠や仕掛けは見当たらない。

「こりゃ、本命は北部のほうかもしれないな」
「・・・そうかしら。ここまで来るとかえって怪しい気がするわ」

 ジーニはとある外壁の前まで来ると、首を傾げてそれを見上げた。

「これ・・・何だか怪しいのよね。ちょっと試してみてもいいかしら?」
「魔法か?」
「かもしれない。いずれにしろ調べてみなきゃ確かなことは・・・っと、この指輪もそろそろ力を使い切りそうね」

 彼女が優美な指で摘み上げたのは、蒼い輝きを見せる宝石の嵌まった指輪であった。
 貰った当初はスターサファイアのように誇らしげに輝いていたそれは、度重なる使用に魔力をすり減らし、5分の1ほどに光を失っている。
 ジーニはゆっくりとコマンドワードを唱えた。

『魔力を捕らえ我が目に映せ・・・!』

 たちまち、術者であるジーニの視界内が紫色に染まっていく。
 その中で、本来不可視であるはずの魔力のオーラが、外壁の一点から発せられているのが分かった。

ネルカ城砦09

「やっぱり・・・!」
「まさか幻覚ですか?」

 アウロラの指摘に彼女は首肯した。

「それも実体を伴った高度な術よ。でも正体さえ分かれば・・・!破魔の術をかけるわ」

 すんなりとした手がベルトポーチから翡翠色の瓶を引っ張り出した。
 栓を捻り、中の薬液をオーラの出ている場所に注ぎ込むと、たちまち幻覚の術は解除される。
 ギルが目を瞠った。

「階段が・・・」
「そういうこと!さって、ココから先はあなたの領分だからね、エディ」
「あいよ、任せてもらおうか」

 ランタンを掲げたエディンが、開いた入り口に長身を滑り込ませる。
 しばらくして、「いいぞ」という彼の声が返ってきたので、一同はアレク・アウロラ・ジーニ・ミナス・ギルの順で一人ずつゆっくりと降りていった。
 タン、と着地した足元よりも、アレクはまず周りの様子に呆気に取られた。

「これは・・・・・・ネルカの魔法石?」

 地下の壁はネルカの魔法石、すなわちネルカストーンと呼ばれる物体で覆い尽くされている。

ネルカ城砦10

 この魔法石の影響下にあるものは常に再生し続けることとなるわけで、それが不滅城砦と恐れられたこの場所の秘密だったのだろう。
 むき出しの石は敵味方の区別無く影響を及ぼす。
 こんな状況では、弱い敵であっても長期戦を強いられることは想像に難くない。

「ちょいとすごいだろう。・・・っと、アウロラ。お前さん、肥えたんじゃないか?」
「失敬な!」
「抱き心地が良くなったと褒めたのに・・・」
「全然褒めてませんよ!ジーニも何とか言ってやってください!」

 緊張感を欠くにも程がある仲間たちの様子である。
 自分の体を否応無く包み込む強化の力とは裏腹に、たちまちアレクは不安に包まれた。

2013/05/05 05:26 [edit]

category: ネルカ城砦跡

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Sun.

ネルカ城砦跡 2  

 ネルカ城砦跡のある街の近くまで訪れた”金狼の牙”たちは、さっそくマッピングをしながら進むことにした。
 薄い雲の浮かぶ晴天をギルが仰ぐ。

「いーい天気だな」
「全くだな。・・・で、どっちに向かえばいいんだ?」
「このまま東にひたすら歩いていけば城砦があるはずだけど・・・。ただ、途中にある街に寄ってみない?何か情報があるかもよ」

 エディンの疑問にジーニが答える。北東へ、という指示通りに彼らは隊列を組んで歩き始めた。
 するとほどなく、フィネルカの街並みが見えてくる。
 ミナスが赤褐色の屋根を持つ家々を指差した。

ネルカ城砦06

「あの大きな街?」
「そうよ。東国の大都市として知られたフィネルカ――」

 かつての大都市は、現在観光都市となっており、そこかしこに見目の良い昔ながらの建築物が並んでいる。
 一同はまず聞き込みを行うことにした。
 すると意外なことに、高度な魔法文明が栄えていた場所だというのに、現在の魔法の普及率が非常に低いことが判明した。
 雑貨屋にあるスクロールも、あれは実用品とは言えず骨董品と同じ扱いを受けているのだという。

「へえ・・・そんなことになってるなんてね。もったいないったら」
「こいつぁ、後で雑貨屋を覗いてみる必要があるな」
「なんで?」

 ぱちぱちと目を瞬かせるミナスに、エディンはそっと答えた。

「もし骨董品同然となりゃ、呪文書そのものの値段もリューンと比べて変動してる可能性が高い。目の玉を剥くほど高いか――ちり紙ほどに安いかだ」
「安かったら買っちゃおう、ってこと?」
「その方が良ければな。もっとも、売ってる物にもよるだろうが」

とエディンは付け加えた。
 ジーニが記憶している古文書によると、不滅城砦ネルカは一繋ぎの巨大な長城である。しかし、聞き込みによる現実のネルカ城砦跡は、ラーガリカ山を挟んで北部と南部に分かれている。
 この違いが確かならば、ネルカ城砦跡には何らかの仕掛けが――それも盗賊が見つけるのとは質の違う仕掛けがあると睨んだほうがいい。
 もし雑貨屋に置いてあるものでどうにかできるのなら、今のうちに唾をつけておくべきだと彼は自分の考えを述べた。
 眠たげな視線の先で、アレクとアウロラが、道端のベンチに座り込みながら編み棒を動かしていた老婆に話しかけている。
 アウロラがメモ用にとってある羊皮紙のきれっぱしを取り出し、何かを書き付けた。
 2人がこちらに戻ってきたのを見計らい、エディンが声をかける。

「よう。あの婆さんから何か教えてもらえたのかい?」
「エルレ・ピレ・なんとかという秘密の呪文があるそうなんです。城砦に纏わるものらしいのですが、それ以上はご存知ないようで・・・」

 やや頼りなげな顔でいうアウロラに、案外と神妙な顔つきになったジーニが言った。

「そういう土着の言い伝えってのは、結構ばかにできないもんよ。そのメモ、絶対に失くさないでね」
「それはもちろんです」
「それから・・・これも先ほどのお婆さんに教えてもらったんだが、ネルカの魔法石を採取するには、特殊な工具が必要らしいんだ」

 アレクが困惑した様子で言った。

「あん?工具を売ってる場所は聞いたのか?」
「石が採取されつくした現在じゃ、工具は作られていないんだそうだ」

 眉をひそめたエディンは、さっそく雑貨屋に向かい店内の様子を確かめてみたが、その工具とやらが置かれていることはなかった。
 呪文書についても思っていたほど値は安くなく、いずれの呪文についても備えのある自分たちが改めて買う必要は無いと、彼は残念そうに首を横に振った。

「ね、見て。これがネルカの魔法の石なんだって」

 ミナスが示したのは、不滅城砦ネルカの外壁から切り出したという魔法石だ。青白く滑らかな表面上に、ルーン文字に似た紋様が浮き彫られている。

ネルカ城砦05

 その傍らには、復元と強化の力を有し、味方全員の失われた体力を回復することができる、という注意書きが書いてある。
 ギルが唸った。

「ここに書かれたことが確かなら、貴重品もいいところだぜ」
「私の【癒身の結界】もアレクの【癒しの煌めき】も、そう簡単に手に入る呪文ではありませんでしたからね。ましてや、癒し手のいないパーティにはどれほど重要なアイテムか・・・」

 値段を覗き込むと、そこには銀貨2500枚とあった。
 ジーニがポン、と杖の髑髏で自分の肩を叩いた。

「そうだ。ココにはなくても、採掘に来てた冒険者なら持ってるんじゃない?工具」
「・・・俺は追いはぎは良くないと思うぞ」

 真面目な顔を崩さずに言ったアレクの額を、コツンと髑髏が軽く叩く。

「違うっ。交渉して得られないかってこと!中に入ったはいいけど、手に負えないから諦めたってやつに声をかけるのよ」
「あ、なるほど・・・」

 ジーニの意見に納得した一行は、城砦跡に行くことにした。

2013/05/05 05:25 [edit]

category: ネルカ城砦跡

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