Thu.

異国の華 5  

「ここが・・・・・・」

 そう言ったきり絶句したエディンは、辺りの街の様子を彼らしからぬ落ち着きのなさで眺めやった。リューンでは見たこともない樹木が赤い葉を揺らし、その下を往く人々は奇妙な衣服を身に纏っている。
 いつも頼りになる最年長者の呆れるような姿に、ギルは背中を叩いて水を差した。

15異国の華

「おいおい・・・感動してる暇なんてないだろ?ドレスを探そう!」
「あ、ギル。あの人に聞いてみようよ」

 ミナスが示したのは、かつて屏風の怪物退治を依頼してきたサトウ氏と同じ、地味な色彩の服を纏った見慣れぬ髪型の青年であった。
 柔らかな微笑みを浮かべてアウロラが「すいませーん」と声をかけると、ワコクではあまり見ない色彩の髪と瞳を目にした青年がびくついて彼女を見やったが、自分たちの目的を何とか告げると、

「あーあ。それならあの店だよ」

と言って赤い布――のれん、と言うらしい―ーを飾っている質素な店を指した。
 のれんを潜ると、そこには美しい色彩のワコクのドレスが置いてあった。
 奥から現れた若い女性は、「いらっしゃいませー」と言って珍しい来訪者を見つめていたが、ふとその視線がアレクの上で止まった。
 神々しいに近い白皙の美貌を見て、頬を染める。

16異国の華

「・・・・・・??」

 まったく意味が通じていないアレクの背後で、ギルとミナスがこっそり話をしていた。

「全然女っ気がないんじゃないと思うんだよな、アレクの場合」
「あれって、天然で気づいてないよねきっと。」
「なまじ顔が桁外れに綺麗なだけに、厄介ごとばっかりやってくるんだろうな」

 その向こうでは、「はっ!!すいません!」と己を取り戻したらしい店員が直立不動となっている。

「あの・・・なにかお探しでしょうか?」
「買い物を頼まれてね、どれがいいかと思って」
「それでしたら!当店自慢の商品があるんです」

 彼女は意気揚々と紙の貼られた扉の向こうから出してきた衣服を、「これです!!」と言って一行の目の前に広げてみせた。

「お客様なら、ぜっったい!似合うと思いますよ!!」

17異国の華

「・・・・・・え?」

 間の抜けたアレクの返答である。
 それはそうだ、ここに並べてある衣服はドレス――つまり、婦人用のものだという認識であり、依頼主の話からもそれは間違ってはいない。
 なにをどう考えたら、ドレスを自分用に買い求めに来たことになるのかと、アレクは珍しく目を吊り上げて抗議しようとしたが、あっさりとその口はジーニの杖の髑髏によって封じられた。

「アンタはちょっと黙ってなさい。・・・ねえ、店員さん。これってどんな品物なわけ?」
「あ、はい!桜という植物で染めた着物です」

 彼女によると、沈黙を癒すという特殊な効果があるらしい。代価は銀貨で1000枚だというが、他の着物に比べればこれが段違いに上等な品であることは見れば知れた。

「異国の衣服展示、見るのは上流のご婦人たち・・・だもんね。やっぱりこれかな、どう思うアウロラ?」
「その・・・正直、これを見てしまうと他の品は・・・」
「そうよねえ・・・ちょっと店員さん。この服、一着包んでくれる?」
「はい!毎度ありがとうございます!」

 ・・・・・・こうして無事、ワコクのドレスというものを手に入れた”金狼の牙”は、その後にエディンが勝手に入っていた賭博屋で稼いだり(ちなみに賭博は17回やった)、道具屋で売っているものを≪狼の隠れ家≫へのお土産に買ったりして時間を過ごした。
 そして。

18異国の華

「すごい!!さすがだわ!!本当にワコクのドレスを用意してくれるなんて!!」

 タリサの顔つきは、まさに天にも昇る気持ちといった按配であった。

「冒険者として当然だよ」

と言って、エディンが片目を瞑る。
 小さくふふっと笑い声を上げたタリサだったが、ふとその目が寂しさと――郷愁に翳った。肩書きに相応しい小さく敏捷な仕事をこなす手が、そっと薄紅色の布地を撫でる。

「それにこの柄・・・きっと・・・これが桜なのね・・・・・・」
「知ってるのか?」

 エディンは年の功だけあって、一応ワコクでしか咲かない「桜」という存在があることを知っていた。
 この話し方であれば、恐らくタリサもエディンと同程度しか知らないのだろうが――リューンでは見ることのないその樹木のつける花を、見たことはなくとも知っているということだけで驚きに値する。
 彼女によると、彼女の父親がよく話をしていたのだと言う。ワコクに咲く、もっとも美しいと彼が思う花のことを・・・。

「私は実物を見たことないけど、きれいな花・・・。このドレスを見ればそれがどんなにきれいかわかる・・・」

 まるで目の前で咲いているかのように、と言って眼を閉じたタリサの脳裏には、確かに「桜」が咲き誇っていた。

「・・・・・・私には半分ワコクの血が流れているの」
「ああ。気づいてたよ。なんとなく向こうの人と顔が似てるんだ」

19異国の華

 エディンの肯定に、依頼主は顔を綻ばせた。

「そっか。うれしいな。父は本名浦部勝郎(ウラベカツロウ)っていって・・・れっきとしたワコクの人間よ。桜の花は・・・父の好きな花なのよ・・・」

 彼女の脳裏に咲く桜を垣間見たような気がして、ミナスが無言で彼女の顔を見つめた。
 精霊使いはえして感応力が強く、それによって自然界に溶け込んでいる精霊たちの力を借り受けることができるのだが、この時のミナスはそれを懐旧に浸るタリサとのリンクに使ったようだ。
 つぶらな濃藍色の視線をどう捉えたか、タリサは小さく彼に微笑んだ。

「ごめんなさい。脈絡もなくて面白くない話聞かせちゃって。報酬渡さないとね」

 そう言ったタリサは、なんと1800spもの大金を入れた皮袋をこちらに寄越してきた。
 ぎょっとした顔になったアレクが口を出す。

「多くないか!?」
「気持ちよ。あと・・・」

 事も無げに答えた後に、タリサは全員の顔を眺めやって付け加えた。

「よかったらあなた達も展示会に来る?あなたたちなら大歓迎よ!!」

 行く!と間髪いれずに答えた冒険者たちに、タリサは今度こそ満面の笑みを返したのであった。

※収入1800sp+1360sp、≪ビボ酒≫×2≪魔法薬≫×6≪梅酒≫≪彼岸花の薬瓶≫≪桜の着物≫※
--------------------------------------------------------

■後書きまたは言い訳

60回目のお仕事は、annさんのシナリオで異国の華でした。構想から制作まで一ヶ月ほどだったというこちらのシナリオ、1~10レベル対象なわけは途中にあった「ワコクのドレスを手に入れる方法」での分岐だったりします。
”金狼の牙”はワコクに行きたいのとレベル対象に合わせて、結局戦闘コースに進んでいってしまったわけですが、サルベージとかやっても面白かったでしょうね。それから今回の選択肢には出てこなかったのですが、判定に成功すると裏通りの店で手に入れるというやり方も出てきます。ただ失敗は多そうですが・・・。

リプレイの流れとしてここで終わらせるのがすっきりしたので書きませんでしたが、シナリオではこの後、タリサの仕切る展示会での冒険者の様子というのもあります。ジーニは東西を問わぬ化粧の歴史に興味を持ちアウロラを実験台にしようと企んだり、金ぴかで豪華な着物を見てギルが東国の将軍とかの着物かな凄いな~、と言ってる横でそれは女性用寝巻きだと関係のない人に突っ込まれたり、なかなか落ち着かない鑑賞でした。(笑)
とりあえず、依頼人に父親の故国であるワコクの桜を見せられて満足です。

≪桜の着物≫は後日、宿に送り返されてプレゼントされます。沈黙を癒す効果があるのならジーニにと思いましたが、データよく見ると「沈黙時に使えない」着物なんですよね・・・沈黙を癒すのに沈黙時使えないとは、これいかに。仕方ないので売る予定です。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/04/25 12:25 [edit]

category: 異国の華

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Thu.

異国の華 4  

 猛々しい開戦の合図が上がり、まるで黒雲に見える人の塊――軍隊が、ときの声をあげてぶつかり合う。
 眼前で繰り広げられるそれを見て、ミナスが小さい声で唸った。

「うう・・・絶対敵のほうが多いよ!!」

 追加報酬の件を頭の片隅にがっちりホールドしてあるジーニが、不安げに瞳を揺らすエルフに発破をかけた。

11異国の華

「どうやら始まったようね。行くしかないのよ!!」
「・・・お前さん、ホント頼りになるわあ・・・」

 はは、と力ない笑いを発したエディンは、気を取り直して装備の確認をした。ミスリル製レイピアも名匠のナイフも、手入れを怠っていないおかげで新品同様に美しい姿を保っている。これからそれらがどれほどの血を吸うことかと思うと、自然気が重くなった。

「・・・・・・まあ、確かに行くしかないだろ。リーダー、合図頼むわ」
「あいよ。じゃあ皆、行くぞ。食い破れ!」

 ギルがさっと左手を下ろし、彼らはいっせいに駆け出した。
 すぐに敵の部隊と交戦が始まるものの、今まで培ってきた経験からなる臨機応変の戦闘に、敵の兵士たちは抗う術を持たない。

「な、なんなんだ、こいつら・・・」
「気をつけろ、魔法を使う奴がいる!」
「こっちは魔法剣だ!くそ!」

 これまでの戦争になかった攻撃に、敵は浮き足立っている様子である。頃合を見計らい風で相手を薙ぎ倒したジーニが、「さあ、進むわよ!」と元気な声をあげた。
 その彼女の肩を、エディンが掴んだ。

「何よ、エディ?」
「ちょいまち。どうやら敵の親玉さんは・・・あっちみたいだ」

 これまでの進路であった北ではなく、彼の長い指は西の方角を指し示していた。
 たちまち顔を見合わせた一行の中で、一番にギルが言う。

「ちょうどいい、ワコクにこのまま行っても文句が出ないよう、片付けておこうぜ」
「・・・まあ、このまま消えたら契約違反になるもんね」

 肩をすくめてみせたミナスの頭を、そっとアレクが撫でた。

「そういうことだ。もう少しだけ頑張ろうな」
「よし、支援魔法をかけなおしたら一気にいこう。いいな?」
「おう!」

 リーダーの決定に全員が頷く。
 ・・・ほぼゲリラ戦闘のように襲い掛かってきた冒険者相手に、すぐさま本営の陣を厚くすることもできず、敵将は舌打ちをしながら抜刀した。
 敵軍の将はさすがにずば抜けた攻撃力を持っていたが、そのほかの敵兵は大した使い手ではない。
 そのことにいち早く気づいたギルが、雑魚の間を縫って斧の刃の一点に集中した気を斬撃とともに叩き込んだ。

12異国の華

「ぐふっ!?ば、ばかな・・・・・・」
「悪いけど、早く仕事終わらせたいんでな」

 残りの敵兵をアレクやエディン、アウロラやミナスの召喚した者達が蹴散らしていく。敵将を倒した勢いをそのままに、”金狼の牙”はひたすら戦場をワコクの方角へと駆け抜けていった。

「はあ・・・はあ・・・。ここまで来れば・・・ワコクは・・・もう・・・すぐ・・・」

 戦闘の連続で息を切らせたミナスが呟く頃には、すでに夜の帳が下りていた。
 同じように息をハアハア切らせていたアレクが、しばらく黙り込んだ後に「ん?」と首を傾げる。気づいた幼馴染が「どうした?」と声をかけた。

「いや・・・ここまで来たら、追加の報酬は受け取れないんじゃないか?」
「・・・・・・あーー!!」

 彼の言葉の意味に気づいたギルが大声を上げ、ジーニがショックを受けた顔つきになった。ちなみにアウロラとエディンはそれにちゃんと気づいていたらしく、困ったように微笑んでいるばかりである。
 何しろ、報酬を受け取るべきベラスの陣営は、先ほどまで彼らが駆け抜けてきた敵軍のさらに向こう側にある。今から引き返して行けば、報酬を受け取ることもできるだろうが・・・。

「3000sp・・・でも冒険者として依頼を投げ捨てていいものか・・・」

 腕組みをしているアレクだったが、ギルが断腸の思いで「俺たちには、依頼を果たす責任がある!」と意見を通したために、一行は先へ進むこととなった。

「そうだな、しかたないか。先に進もう」

14異国の華

「しかたないかって・・・アンタよく淡白に割り切れるわね!?」
「今さらぐだぐだ言った所で、戻るのはまずいだろう?」
「まあね。確かにね!・・・あたしが怒ってるのは、エディもアウロラも気づいた事に、なんであたしが気づかなかったのかって事だけよ!」

 ほぼヤケクソ気味に叫んだジーニを宥めつつ、一行はとある民家にて足を止め、一晩の宿と置いた馬つきの馬車を買う事ができた。
 銀貨500枚を代金に置いて行った時には、軽くなった財布を睨んだジーニがため息をつき通しだったという・・・。

2013/04/25 12:23 [edit]

category: 異国の華

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Thu.

異国の華 3  

「・・・・・・で、出た結論が傭兵登録か。結局リーダーの発案に乗ったんだよな、俺たちは」
「恨みっこいいっこなしよ。仕方ないわよ、結局は一番現実的だったもの」

 大人コンビがしみじみと述懐しながら、ベラスの街の様子へ目を走らせた。ワコクへ行く途中の経路で戦争を起こしている国の主要都市である。
 さすがに戦時中だけあり、大通りにすら人通りが少ない。
 その中を巡回している若い兵士に、走り寄ったミナスが「傭兵募集の張り紙を見たのだけど・・・」と声をかける。

7異国の華

 兵士は最初、あまりに若すぎるその希望者に何の冗談だと叱りかけたが、後ろからゆったりと追いついてきた彼の仲間たちを見て口を噤んだ。
 只者じゃないということは分かったのであろう、存外丁寧に審査会場である城のとある一角まで案内をしてくれた。
 傭兵登録はすぐできるわけではなく、一応戦闘能力がどれほどあるかを擬似的な魔法生物との模擬戦で示してから、契約の価値があるかを審査するのだが――。

「ベンヌ、スネグーロチカ!奴の足止めを!」
「いいぞ、ミナス。・・・・・・ほらよっ、【双翼の剣】!」

 最年少の精霊術師と、最年長の戦闘型盗賊が大活躍したおかげで、至極あっさりと終了してしまった。

「合格だ!!君たちを傭兵として認めよう!!」

 興奮した審査員が、”金狼の牙”たちに忙しげに握手しながら結果を報告する。その強い力にほとほと辟易したアレクは、

「やれやれ・・・で、俺たちは何をすればいいんだ?」

8異国の華

と問うた。

「宿を用意してある。本日はそこで休まれるがいいだろう。しかし、わが国は現在戦力が不足しているため、おそらく明日からでも働いてもらうこととなろう」

 にっこりと微笑んだ審査員の回答は、ある程度までジーニやアウロラが予測していたものと同じであった。
 わざと戦力が不足しているほうに参加したのは、傭兵登録のテストを受かりやすくするため。そして、一刻も早くワコクへ向かう船に乗るためでもある。
 契約書へのサインを勧められ、ギルが代表して書いた羊皮紙を満足げに眺めた審査員は、宿の地図を一行に渡して明日の朝またここに来るよう告げた。
 城を出た彼らは、ふと道具屋や魔道書が置いてある店の看板に目を留めた。リューンからちょっと離れたベラスの街であれば、何か珍しい物を置いているかもしれない。

「やっぱりここは・・・・・・」
「見るわよね?」

 ギルとジーニが仲間を振り返ると、もうすでに予想していたであろう他の4人は、苦笑を浮かべつつも首を縦に振った。
 最初に寄った道具屋では、リューンの下水道で会ったあの怖い魔法生物を象った瓶の酒が置いてあり、冒険者たちの度肝を抜いた。

9異国の華

 やややつれた感じのある女性店員の説明によると、アルコール濃度が高く、独特な味わいが得られるという。飲めば闘志が湧く、という話もあるようで、さっそく好奇心旺盛なギルがこれを購入していた。
 気軽な様子にエディンがすかさず釘を刺す。

「おいおい、リーダー。それ600spするんだからな?」
「分かってるって。でも俺達の今の財政からすれば、二つくらい買っても大丈夫だろ?」

 ため息混じりにアウロラが応えた。

「・・・・・・まあ、確かにそうなんですよね。っと、ギル、エディン!こちらの≪魔法薬≫の値段・・・」
「へ?」
「・・・・・・えーっ!?」

 アウロラの示した値段表を二人が覗き込むと、なんとリューンでの売値の半額――500spと書いてあるではないか。
 慌てたジーニが鑑定をするが、どうやらリューンで売っているものと遜色のない品で間違いないようである。

「これはすごいお買い得ですよ、エディン・・・・・・」
「確かになあ。・・・先々のことを考えると、買占めとはいかなくともそれなりの本数を購入した方が良さそうだ」

 ≪魔法薬≫はそもそも、物理的な技や魔法などを繰り出す気力が尽きた時に、それを賦活させるための薬品である。
 精製困難とされているために、普通の道具屋でお目にかかれるものではないというのに、戦争の影響かこの街には呆れるほどたくさん在庫があった。
 同じ作用を持つ、希望の都フォーチュン=ベルで作った≪知恵の果実≫が後4つも残っているとは言え、備えあれば憂いなしとは≪狼の隠れ家≫の先輩連中がしょっちゅう彼らに言っていることでもあり、彼らたちも後輩に伝えていることだ。決心したエディンが店員へ声をかけた。

「買える内に買っておこう。お姉さん、これ6つ包んでもらえる?」
「かしこまりました!」

 たちまち線の細い顔に赤みが差し、女性店員は瞬く間に目当ての品を包装してくれた。
 その後入った魔道書の店でも、当然ジーニが購入欲を爆発させるのだろうと思っていたのだが、これは予想が外れた。
 大きな目を瞠ってミナスが訊ねる。

「ねえ、ジーニ。本当にいらないの?」
「んー。妖魔を呼ぶ風の魔法と、混乱と毒を与える胞子の魔法。どっちも面白いっちゃ面白いんだけど・・・」
「なんだ。詠唱がしづらいのか?」

 アレクが首を傾げると、ジーニはぱたぱたと顔の前で手を振って否定した。

「いや、今あたしが持ってる魔道書のストックで、大体事足りてるかなあって。毒もねえ。使うときの風向きとか大変だから」
「・・・結構、いろいろ考えてるんだな」
「アレク。それはちょっと、ジーニ相手でも言ったらダメなんじゃ・・・・・・」
「あのね、アンタたち・・・」

 余計な一言を言わずにいられない年少組みを、ジーニがねめつける。
 こんな風に、”金狼の牙”は猶予期間を過ごした。
 そして翌日。

「そろったようだな」

 夫が戦地から帰って来ない若い妻や、びっこを引いているために兵役から外れた市民などに見守られながら、”金狼の牙”たちは待ち合わせ場所に到着した。
 すでに壇上には審査員役を務めた将校が、長剣を片手に作戦の説明を始めている。

「では、作戦の説明をする。諸君も知っていると思うが、現在我々の本陣はベネル平原にて敵と対峙した状態にある」

10異国の華

 こちらは4500人に対し、敵軍は6000人。数の多いほうが勝つと言うのは、戦の常道だと言える。
 奇策を用いて勝つ例を挙げる者もいるが、そう言うのはよほどの戦略と戦術の達人に状況が合致して、初めて実現できるものだ。そんな軍師がいるのなら、そもそもこの国は戦争を始めたりしなかったであろう。
 将校は自分とともにそこへ赴き戦って欲しいと口にした後、

「ちなみに、敵将を討ち取ったものには3000spの追加報酬を約束する」

と付け加えた。
 その言葉にぎょっとしたアレクとエディンが視線を一点に注ぐ。
 ・・・・・・案の定、約一名の目が爛々と輝いていた。

「なんと言いましょうか・・・確かに現実的なんですが・・・」
「アウロラ、しっかりして。ジーニだもの、仕方ないんだよ・・・」
「敵将かあ。どのくらい強い奴かな」
「あなたもあなたで、何に期待してるんです!」

 わくわくを押さえきれないギルに、アウロラがつっこんだ。

2013/04/25 12:22 [edit]

category: 異国の華

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Thu.

異国の華 2  

 とりあえず今までの仕入れルートがどうなっているのか確認ということで、”金狼の牙”は船着場に訪れていた。
 ギルは近くにいた、手の空いていそうな船乗りに話し掛けた。

4異国の華

「ちょっといいかな?東方の国に行きたいんだが・・・ワコクっていう」

 人懐こい感じのする船乗りは、うーんと唸って腕組みをする。

「ワコクねぇ・・・そこに行くには一苦労だな。いい船使ったとしても、行くだけで2ヶ月くらいかかるぞ?」
「ええ!!」

 驚いた声を上げるギル。
 そんな事も知らないのかと、ため息混じりに船乗りは「あたりまえだ」と漏らした。
 彼に代わってアウロラが進み出る。

「困りましたねえ・・・何とかなりませんか?」
「こればっかりはなぁー。まぁ、航海図見て納得してくれよ」

 リューンの船乗りの大部分は、女性に甘い。
 しかも若くてそれなりに可愛らしいとあれば、その性向も大分に発揮されてしかるべきだろうが、人間できることとできないことというのは厳然として存在するのである。
 船乗りの広げた航海図を全員が覗き込むも、あいにくとその見方がよく分からず首を捻ることとなった。

「よくわからないな・・・」
「そういや、俺ら海洋冒険はやったことないもんなァ」

 アレクとエディンの会話を頭上に聞きながら、ミナスが「ありがとう、もういいよ」と礼を言って航海図を返却した。
 とりあえず船着場から離れ、リューンの街中に戻った一行はこれからの方針を相談し始める。

「困ったなぁ」

と呟いたミナスが、他の仲間の顔を振り仰いだ。

「とりあえずみんなの案は?」
「ないのなら作っちゃえばいいのよ」

5異国の華

 すごい発想を始めたのはジーニであった。自分でやらないこと前提だからか、手芸店の材料でもってワコクの服を作っては・・・と言うのだ。
 もしそうなれば自分がこき使われること必至であるアウロラは、「行く途中の戦争に参加しちゃえばいいのさ!」と主張をするギルを宥め、頬に手を当てて考え込み始めた。

「どうしたの、アウロラ?」
「・・・ワコクって言っても、船で飛ばせば何とか期日内にいけるんじゃないでしょうか」

 航海図の見方の詳細を知らないので断言はできないが、と断りを入れて、

「もう一度航海図をチェックしてみませんか?いい航路を発見できるかもしれません」

と言う意見に大人組みは顔を見合わせた。プロである船乗りが無理と断言したものだが、この娘であれば本当に見つけかねない。
 先ほどから黙り込んでいるアレクに濃藍色の瞳が視線を定めると、彼は無言で肩をすくめた。

「・・・・・・」

6異国の華

 特に思いつくものもなかったらしい。
 エディンの意見はとアウロラが話を振ると、彼はにやりと笑った。

「俺たちは・・・冒険者だ。宝探しは得意分野。元々、ワコクのドレスを失くした原因は海難事故だと依頼人は言ってただろ」
「ええ。・・・・・・って、まさか」
「ブツは海ン中って事だ。だったら探し出すまで」
「気は確かですか?ものは布ですよ?・・・腐らないわけないじゃないですか・・・」
「いや、それがそうとも言えねえのよ」

 脱力したアウロラにエディンが説明した。
 上流階級のサロンにとって価値のあるお宝なら、包装は厳重である。少なくとも、他の品物のように潮風に当たるに任せるわけにはいかない。
 そういう時、ほぼ完璧な密閉状態を作れるような特注のチェストを使って保存するのが通例だと言うのだ。

「かえって、金塊とかなら腐りも錆びもしないからな。ああいうのはむき出しだ。食料やそういう腐るお宝に関しての保存は、船乗りにゃ結構な課題なんだぜ?」
「なるほど・・・・・・。よくご存知ですこと」
「これもまあ、若いときに得た知識なんだがな。・・・っと、悪い。ミナスの意見を聞いてなかったな」

 エディンに急に「お前はどうしたらいいと思う?」と訊かれ、少し目を白黒させていたミナスだったが、彼は黙って首を横に振った。アレクと同様、特に思いつくことはなかったらしい。
 ギルはそこで意見をまとめた。

「えーっと、サルベージ船か、海図の見直しか、手芸店か、傭兵登録か・・・」
「アンタ、≪狼の隠れ家≫で最近戦闘ばっかりとか言ってたじゃない・・・」
「じゃあ傭兵は止めとくか?でも船の支度の心配とかは、これだと要らないんだぜ?」
「それなら手芸店だってそうよ?」
「ただ・・・それも問題でして・・・」

 ギルとジーニの言い争いの途中で、”金狼の牙”における家事のほとんどを引き受けるアウロラが、困惑を滲ませて口を開く。

「私はあいにくと、ワコクのドレスというものの形も作り方も存じません。まずはそこを調べてとなると、相当時間かかるかもしれませんよ」
「あ、そうか・・・アウロラもワコクのドレスなんて知らないわよね」
「ただ、海図の見直しとサルベージも問題がないわけじゃない」

 アレクがそこで口を挟んだ。

「沈んだドレスがどこの地点にあるか、はっきりと分からないと無駄足になる。一方、海図はプロである船乗りが無理と口に出していた。協力が得られるかどうか・・・」
「だよなあ・・・どうする、リーダー?」

 ブルネットを掻きつつ問いかけたエディンに、ギルは決心した答えを口にした。

2013/04/25 12:18 [edit]

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Thu.

異国の華 1  

 ある日の昼過ぎのことだった。
 昼食を食べ終わって何刻かは経っている冒険者たちが1階のテーブル席でうだうだとまどろんでいると、宿へ入ってきた上流階級風の女性が親父さんへ何事か話しかけ――。
 断る親父さんに業を煮やした彼女が、”金狼の牙”の一人であるアレクの腕を引っ掴んで話を聞いてくれと言い始めた。
 いきり立ってその手を離すように言ったギルを宥め、アウロラがどうしたのかと女性に問う。

「私はリューンで服飾に関する仕事をしている者なんだけど、今度私にとってはとても重要な企画を担当することになったの」 

1異国の華

 珍しくも≪狼の隠れ家≫の親父さんがしきりと「やめとけ」と口を出した依頼を、その女性は手際よく説明し始めた。

「今リューンではちょっとした異国文化のブームよね?そこで、異国の服やアクセサリーやらを集めた展覧会をやることにって・・・その担当者が私ってわけ」
「まあ、ブームといえばブームね。特に東の国の文化が、上流階級のサロンでもてはやされてるのは知ってるわよ」

 ジーニの言葉に、癖のない長い黒髪を持つ女性は頷いた。
 その様子をよそに、アレクは頭を抱えている。

「東国か・・・・・・」

 以前、”金狼の牙”が駆け出しだった頃に、東の国からリューンに移り住んだサトウという男の依頼を受けたことがある。
 屏風と呼ばれる特殊な家具に封じられたモンスターを退治せよという内容で、首尾よく依頼は果たしたものの、実入りが期待していたほどではなかった為に仲間へエールを奢らされたのだ。
 かつての苦い思い出を回想する羽目になった男を、ジーニはちろりと横目で見たが、変わらぬ口調で女性に続きを促した。

「それで?」
「一番の目玉だった東の国、ワコクのドレスが運搬中に海難事故にあって・・・」
「あら。異文化ブームの中でも東洋の人気は貴族の女性にとりわけ高い・・・それは厄介なことになったわね」
「そして、彼女たちは私の良いパトロンでもあるのよ」

 杖を抱きかかえて腕組みをしたジーニに同意するように、女性は困惑した顔で言う。
 事情がうっすらと飲み込めてきたアレクは、静かに推察を口にした。

2異国の華

「俺たちにそのドレスを何とかして手に入れてくれってわけか?」
「そのとおり!」

 ふむ、と顎に手を当てたアレクが気になった点を確かめる。

「だがな、それは商人とかに頼む仕事だろ?俺達の専門じゃない」

 依頼として頼まれれば下水道の探索まで行なうのが冒険者であるが、被服の仕入れについてはまったくの無力である。
 彼がそう代案を出すのも無理はなかった。
 しかし女性は眉を顰めて首を横に振る。

「私も最初はそう思って、彼らに片っ端から当たってみたわ。でもね・・・」

 声のトーンを落として続ける。

「東国にいくための通過点にいくつか国があるのだけど・・・今その国同士で戦争が起きてるの・・・」

 そのため、商人たちは一様に「そんな危ない仕事はごめんだ」と断ってきたのだという。おまけに、できたとしても完全に予定している期間中には届かないのでは・・・という意見すらあった。
 命がけの仕事になる上、仕事の期限を守れない可能性が大分にある――それは、一般的な商人であれば尻込みするもしようというものである。
 しかし。

「・・・でも・・・なんで冒険者?」

3異国の華

とギルに首を傾げられるのも、また当然というべきだった。
 女性は早口になり、手を忙しく上下に動かして理由を説明した。

「冒険者はいろいろな国や土地に旅するから、ひょっとしたら商人達も知らないようなルートを知っているとか・・・可能にするような手段を知っているかも・・・と思って」
「手段・・・ルートねえ・・・・・・」

 うーむと唸り声を上げたエディンに代わり、ギルが頭を掻いて質問する。

「前と同じルートじゃだめなのか?」
「これも完全に期日オーバーよ。展示会まで後3ヶ月しかないの。あなた達の今までの冒険者としての力が必要なのよ」

 リューンの”金狼の牙”と言えば、黒魔導師アニエスの討伐やザンダンカルの魔王退治、キーレで戦争に参加し蛮族の長の首級を上げたこと等でも知られている。
 確かに有名と言えば有名だが、それと商品の新ルート開拓は話が違うんじゃないかなあと、ミナスは心中で思った。
 女性は白い手を胸の前で組み合わせて懇願した。

「報酬として900sp、内前払い分として500sp払うわよ。やってくれる?」

 本来の仕事とは大分違うし、親父さんは一度ならず諦めるよう促している。
 そういう依頼は受けないのが”金狼の牙”のスタンスなのだ、が・・・。

「とは言え、ここんとこ戦ってばっかりだったからなあ」
「血なまぐさいのもねえ。続くのは気が滅入るわ」

という意見がギルとジーニから出れば、

「異国かあ・・・僕、そんな遠い国まで行ったことないな」
「東はここと大分文化が違うらしいからなァ」
「季節もどのくらい違うものなんでしょうね?想像もつきません・・・」

という、なんとものんびりした会話がミナス・エディン・アウロラから発せられる。
 そんな様子の仲間たちを見て、アレクが苦笑しつつ言った。

「なんだ。皆、結構興味があるんじゃないか。受けてみるか?」
「お前ら・・・アホだろ・・・」

 カウンターの向こうで親父さんが呆れ返っていたものの、好奇心に負けた”金狼の牙”たちは女性に依頼承諾の返事をして、彼女から名刺と前金を受け取ったのであった。

「東国のドレス・・・その・・・ワコクっていう国のものじゃないとダメなんですか?」

 アウロラの質問に女性――異国文化展の担当者であるタリサ・コクラン嬢はゆったりと否定の意を表した。

「いえ・・・そうではないのだけど・・・ただちょっとこだわりがあって」

 煮え切らない言い方に、ジーニとアウロラは顔を見合わせた。女同士の勘というやつだろうか、彼女にはなにやら事情があるらしい。

「・・・できたらワコクのドレスをお願いしたいわ」
「ふーん」

 一方で鈍感というか大雑把というべきか。
 ギルは気の抜けるような返事をして「ま、なんでもいいいさ」と前金の皮袋を卓上からひょいっと取り上げた。

「よ、よろしくね」
「ああ。出来得る限り頑張る」
「それじゃ、さっそくいってきまーす」

 タリサの縋るような眼差しに真顔で首肯するアレクの横で、暢気な調子のミナスが手を振る。親父さんはもう何も言うまいと、無言で彼に手を振りかえした。

2013/04/25 12:16 [edit]

category: 異国の華

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