Sun.

聖域といわれた森 5  

 ”金狼の牙”たちの出した結論に、しばしルイアールは眼を閉じた。
 その赤い眼が再び開いた時、彼は天にも届くような咆哮で答えた。

「・・・よかろう。手は抜かぬ、いくぞ!」

 せめてもの情けだと体についたかすり傷を癒してはもらったが、勝算はおぼつかなかった。
 彼らの攻撃は確かにルイアールに当たっているものの、どういうわけかその神々しい毛皮に覆われた皮膚には傷一つすらつかないのである。
 エディンが感心したように言った。

「なるほどな、幻獣より神に近いってえのは、本当だったわけだ・・・!」
「そんな事を言ってる場合なの!?ちょっと、大丈夫なんでしょうね!?」

 再び【風刃の纏い】で【旋風の護り】を身に纏いながらも、ジーニは怒鳴り返した。
 あの巨大な爪がこちらにおりてきたら、こんなものでは防ぎきれないかもしれない。彼女はずたずたに引き裂かれた自分の姿を想像して、ぶるりと身を震わせた。
 間断なく攻撃は続けたが、一向にルイアールを倒すどころか、傷をつけることもできていない。
 ミナスは立て続けにスネグーロチカを召喚し、ジーニはベルトポーチの薬瓶をありったけ投げつけた。
 その絶望的な状況が変わったのは、分厚い毛皮に攻撃を弾かれ、ギルが腕を抱えた時だった。

「汝らの力、確かめさせてもらった。・・・命を助けるだけの価値のある者達だ」

 突如としてファナス族の長が言い出した言葉に、一同は攻撃の手を休めて呆気に取られた。
 脳裏に響く声は続く。

「汝らは見逃してやろう」

 その短い台詞の真意に気づいたサラサールは、唾を飛ばして叫んだ。

「村の者は!村の者はどうなるんですか?」
「・・・人の過ちは、人の手で正さねばならぬ」

 聖域と呼ばれる遺跡から神精族の監視する宝珠を奪ったのは、確かに村の者であった。彼はそのツケを等しく払わそうとしているのである。
 エレンとサラサール、そして冒険者たちは、果敢にも(無謀でもあったが)ルイアールに立ち向かい、己の価値を示す事に成功した。
 だが他の者は・・・・・・。

「さらばだ・・・」

 それ以上のことを決して語らず、ルイアールは別れを口にした。
 神聖な光が彼らを覆い、ふわりと身が軽くなるような感覚に襲われる。
 ・・・・・・気がつくと、彼らは≪聖域の森≫の入り口にいた・・・。

「ここは・・・?」

 心許ないような顔で、エレンが辺りを見回す。
 ハッと気づいたサラサールが、

17聖域

「結界の外?」

と言ってエレンの側へ歩み寄った。
 村がどうなったのか、ここからでは彼らには分からない。
 ただひとつ、自分達が助かったのだという事だけは理解できた。
 その後・・・。
 ”金狼の牙”たちは、エレンとサラサールを連れて真紅の都市ルアーナに向かった。
 そこで聞いた話では、聖域の森の村は廃墟と化していたらしい。
 いくら探しても、神精ファナス族の姿は見当たらなかったそうだ。

「・・・・・・というのが、今回の事件だったようです」

 森林保護協会の事務所にて、冒険者たちは事の顛末を全てクラント会長に話した。

「そうでしたか・・・。いろいろとあったんですね。本当にお疲れ様です」

 報酬の増額は出来ませんが、と断った上で彼は続けた。

18聖域

「村の事は私たちにお任せください。これからすぐに救出活動を行ないますので」

 クラント会長はそう約束すると、報酬の皮袋をこちらに手渡してくれた。
 その報酬から宿代を払い、ルアーナに一泊する。
 あくる日、今までの疲れをすっかり癒した一同は、一階の酒場で向かい合って座った。

「・・・皆さん、色々ありましたけど・・・ありがとうございました」

 エレンがそう言ってぺこりと頭を下げる。
 その頼りなさげな様子に、アレクはつい口を挟んだ。エレンの家で過ごした短い時間の中、最初は冷たい態度をしていたのに徐々に彼女に親身になっていたのは、この青年であった。

「・・・大丈夫かい?」
「・・・はい、大丈夫です。くよくよしても仕方ないですもの。それに・・・生きているんですから」

 そう言って小さく微笑んだエレンの隣で、サラサールは切れ長の瞳をまっすぐこちらに向けて宣言した。

「・・・私たちは、これから旅に出るつもりだ。宝珠を奪った男を探す旅にな」
「そうか・・・。少し寂しくなるな」
「・・・縁があれば、また会う事もあるだろう」

 今までとは違って、すっかり”金狼の牙”たちと打ち解けたサラサールを頼もしそうに見上げた後、エレンは胸元で輝くペンダントをおもむろに外し、卓上へそっと置いた。

「・・・あの、これ依頼の報酬です」
「毎度あり、ってね。貰っておくわ」

 たちまち嬉しそうに相好を崩したジーニへ、周りの仲間が苦笑を漏らす。
 しばらく同じように笑っていたエレンだったが、それを収めて立ち上がり・・・訝しげな様子の”金狼の牙”たちの中で、彼女はアレクの方へと近寄った。

「!?!?!?」

 チュッ・・・という小さなリップ音が響く。

19聖域

「なっ・・・・・・なっ、何をするんだ、エレン!?」
「・・・また、逢えるといいな」

 それまでのお守り、と言って彼女は微笑んだ。

※収入500sp、【ヴァンの曲】≪縁の首飾り≫※
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■後書きまたは言い訳

58回目のお仕事は、OKNさんのシナリオで聖域といわれた森でした。真紅の都市リアーナものの一つです。別名「アレクにもたまには女の子と縁を作ろうか」回ともいう。
1~8という幅広いレベル対象の中、「2がベストかな?」とシナリオ作者さんが言っておられるのを無視して、思い切り上限の8レベルで挑んだりしたのですが、やっぱりルイアール様は強かった・・・。
というか強制戦闘で強制敗北というのは、私は正直に申し上げるとあまり面白くないです。PCたちもそれなりの体験を経て強くなっているものを、一方的に負かされるのは・・・ただ、こちらの作品においてエレンのその後のフォローだとか、サラサールのテンプレートのようなツンデレ具合とかが可愛らしかったので、まあいいや~と。(笑)

こちらのシナリオ、エディタで覗いた方はご存知でしょうが、特別クーポンを手に入れるためのステップとフラグがわけ分からんことになってます。自分でこないだ依頼シナリオ作ったから思うのですが、よくこれを完成にまでこぎつけたなあ・・・とクリア後に感心しておりました。私なら途中で投げ出すかもしれない・・・・・・。
いただいた【ヴァンの曲】は、二回ドッグフードをあげて懐いたヴァンを召喚して使うことが出来る呪歌スキルです。適性が器用/正直なので少しアウロラには合わないのですが、魔法的物理属性をレベル比10ダメージというとんでもない強力スキル。ちなみにこの適性、ミナスだと綺麗な緑色の○になります。しかし、これから取得する召喚スキルとの兼ね合いもありアウロラにいきました。

そうそう、途中で寄った冒険者の宿において、「ルアーナで売ってる【催眠術】があれば戦闘が楽になるかもしれないよ」と忠告をしてもらってたのですが、このシナリオのためだけに買うのもな・・・と思い、ジーニに【眠りの雲】で頑張って貰いました。
成功率からすると、エディンの【暗殺の一撃】の方が良かったです。
が、最近あまり使ってなかったので。ただジーニ、すぐ飽きるんですよね。(笑)

さて、今回のシナリオでいよいよ全員が9レベルに達しました。
そろそろ小話でスキルを揃える様子を書いていこうかと思います。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/04/14 17:04 [edit]

category: 聖域といわれた森

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Sun.

聖域といわれた森 4  

「なにぃっ!?・・・自警団!何をやっている!あいつらを止めるんだ!」

 自警団のうち、何名かが物陰からの【魔法の矢】によって戦闘不能となり倒れるのを見て、ガラードは焦りながら指示を出した。

「遅い遅い。そんなんじゃ、あたしたちは止めらないってね」

 急いで冒険者を止めようと立ち塞がる自警団に、用意周到な”金狼の牙”の攻撃が降り注ぐ。
 ベンヌの神聖なる炎やイフリートの吐息にたたらを踏んだ彼らに、アウロラの【氷姫の歌】が炸裂する。
 異形の美貌を讃える歌に恐慌状態となったところへ、前衛たちが飛び込んで武器を縦横に振るった。フラフラになりながらも残っていた敵も、ジーニの【旋風の護り】によって吹き散らされていく。

「・・・クゥ・・・!役に立たん奴等だ!」
「どうする、残りはそちらさんだけのようだがね?」

 エディンの挑発に激昂したガラードは得物を構えて突進してきた。

13聖域

「・・・俺が片をつけてやる!」
「ふふーん。理想的な布陣、まさに飛んで火にいる夏の虫ってとこね」
「油断したら危ないよ、ジーニ」

 鼻歌交じりに≪エメラダ≫を構え始めた賢者へ、ミナスが釘を刺した。

「だーいじょうぶ。あいつら、回復は傷薬頼りみたいだからね・・・そんなんじゃあ、あたしたちは止めらないわよ」

 そして彼女の予測どおり、冒険者たちが大した怪我を負う事もなく、ガラード含む最後の自警団の勢力はあっという間に取り押さえられた。

14聖域

「ここで失敗するとは・・・・・・」
「なにを考えているかは知らないが、もう諦めるんだな」

 颯爽と言い放ったサラサールの顔を睨みつけつつ、ガラードが呻く。

「・・・負けるわけには・・・いかない!」

 怪我を押して立ち上がろうとする彼を、エレンが慌てて止めた。

「ガラード!もうやめて!もう勝負はついたはずよ」
「あの方に宝珠を渡すまでは・・・」
「・・・・・・あの方?」

 不審そうに顔を歪めたギルが問いただそうとした瞬間。
 ガラードの体に眩いばかりの魔力光が突き刺さった!

「ぐぁ・・・・・・!」
「見苦しい奴だ・・・。お前の役目は終わったのだよ」

 どこから現れたのか、男が一人・・・遺跡の中央に立っていた。
 事切れたガラードに悲しげな視線を向けてから、エレンは震える声で訊ねる。

「・・・なに?あなたは・・・誰?」
「・・・お前達に名乗る必要はない。邪魔者は消えるがいい!」

 謎の男の腕がまっすぐ伸びて、ガラードを殺した時以上の魔力が収束していく・・・・・・。
 だがしかし、その魔法が放たれることはなかった。

「・・・チッ!・・・気づかれたか」

15聖域

 横目で森のほうをちらりと睨んだ後、男はガラードの懐から何かを奪い・・・転移呪文を唱えると、一瞬の間に男は去っていた・・・。
 呆然とした様子で、サラサールが呟く。

「・・・どうなってるの?」
「それはこっちの台詞だ。いったい、なんだってあんな強そうなのが・・・・・・」

 エディンは言葉を切った。
 凄まじい速さで、こちらに近づいてくる存在がある・・・!
 目配せで再び戦闘状態の構えをした一行の前に、森の中から風の如く神精族が現れた。
 先頭には、見覚えのある大きな狼・・・・・・ファナス続の長の姿がある。
 長は脳裏に直接響く声で言った。

「・・・一足、遅かったようだな」
「・・・・・・誰かと思いきや、あんたか。さっきの奴はそれで逃げたんだな」

 ギルが斧の構えを解くと、その隣にエレンが立って呼びかける。

「ルイアール様?」
「巫女のエレンか・・・」
「どうなっているんですか・・・? 先ほどの者は・・・?」

 ルイアール、と真名を呼ばれた長はしばらく黙り込んでいたが、なにを決意したのか、こちらへ再び向き直った。

「・・・汝らに話せる事は2つ・・・。あの者が、この遺跡に封印されていた宝珠を持って行ったという事」

 そして、と長は厳しくも悲しげな目をして続けた。

16聖域

「・・・我らの役目が終わったという事。宝珠を監視するという役目がな」
「・・・私たちは・・・どうなるんですか?」

 エレンの問いに、一瞬の間があった。

「本来なら、この村ごと滅びる定め。しかし汝らにはチャンスをやろう」
「チャンス・・・だと?」

 ファナス族の世話をする巫女も、巫女を戴く村も、彼ら神精族の役目がなければ不要だというのである。
 それを覆す何を提案するのかと、アレクは体を強張らせた。

「そうだ。1時間以内に結界の外へ逃げ出すか、いまこの場で我を倒すか・・・」
「・・・・・・」

 ”金狼の牙”たちは眉を顰めた。
 相手は、自分達が手も足も出ないうちにこちらを打ち倒してきた化け物である。
 冒険者としての保身を考えれば、当然だが逃げる方法を選ぶべきであろう。
 しかし、それでは村に残っている人間たちが生き延びる術がない。
 進退窮まったとはこのことだろう。
 知らないうちに、ギルの背中に脂汗が滲んできていた・・・・・・。

2013/04/14 17:02 [edit]

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Sun.

聖域といわれた森 3  

 最近この村では、一部の村人たちが森にある聖域を荒らしているという。
 聖域とは、この村の近くにある遺跡の事で、神精族から「近づいてはいけない!」と言われていたそうだ。
 彼らの巫女であるエレンは、当然のごとく神精族の怒りを買う前に止めようとしたが、それをなし得る事はできなかった。
 森林保護協会の人間が森に立ち入ってる事を知っていたので、その力を借りようと思ったそうだが、力量を確かめるべく作り出した幻の魔物だけで逃げ出してしまい、彼らの協力を得ることを諦めた・・・というのが、今回の魔物出現の真相らしい。
 ジーニは呆れかえってため息をついた。

「なんとも本末転倒ね。あんた達の幻のせいで、ここに調査以外の人間は入らないようにされたのに」
「・・・・・・協力者を得るにしては、少々やり方が稚拙過ぎないか?」

 アレクもぼそりと付け加えるのに、サラサールが「エレン様が、お一人で一所懸命考えた策に文句を言うな!」と噛み付く。
 その場の雰囲気が一気に険悪になったのに、アウロラが宥めに入った。

「まあまあ。・・・それでエレンさん。私たちが訪れた時に、あの幻影を解いたのですよね?」
「はい、そうです。幻影を見破ったので、この村の結界を一時的に解いて、村へお誘いしました」
「それが、どういうわけでファナス族の長から私たちが攻撃されることに?」
「す、すいません!それが予想外でして・・・」

 エレンたちが”金狼の牙”を出迎える前に、巫女から何も聞かされずじまいだった長が侵入者と勘違いし、攻撃をしたということである。
 そんな凡ミスによって、危うくあの世へ直行するところだった冒険者たちは、今度こそ呆れたため息を漏らした。
 だが、すぐに一部の村人たちも侵入者に気づいて”金狼の牙”を殺そうと動いていたそうだ。そこでエレンは彼らの身柄を預かった・・・・・・。
 ギルは今までの会話をどうにかまとめて、肝心の部分を訊いた。

「ようは、聖域って名前の遺跡を荒らす村人を止めて欲しい・・・ってことでいいよな?」
「はい、そのとおりです。報酬はこの首飾りで代わりにならないでしょうか・・・?」

 エレンはその首にかけていた金色のペンダントを外し、卓上へと置いた。澄んだ輝きを放つそれは、≪縁の首飾り≫というマジックアイテムだという。
 ジーニが杖の≪カード≫を片手に、その価値をじっくり鑑定する。

「・・・・・・価値があり過ぎて、うかつに売れないんじゃないかと思うんだけど。高いものだっていうのは確かよ」
「・・・どうですか?私たちに協力していただけますか?」

8聖域

「ふーん。・・・・・・まあ、ここまで来て知らん振りもあれだし」
「また深く考えないで返事をする」

 アレクが幼馴染の答えに嘆息すると、彼は赤くなりながらも抗弁した。

「だっ、だってエレンは俺達を助けてくれたんだろ!?なら、恩返しくらいはしてもいいじゃないか・・・」
「俺たちがいきなり重傷に追い込まれたのも、彼女のせいだけどな」

 とは言うものの、ちゃんとした報酬を用意してまでの頼みであれば無碍にもできない。
 ”金狼の牙”は若干心に引っかかるものがありながらも、エレンの願いを聞き入れることにした。

「じゃあ、行動は夜になってからということで、今は家の中で寛いでいてください」
「ああ」
「あと、昼間はこの家から出るなよ」

 サラサールが横から助言した。

「村の者に見つかると厄介だからな」
「そういうことか、了解した」

 そして彼らは、一緒に食事をしたり、失くしたという指輪を探してあげたりしながら、夜までの時間をエレンの家で過ごした・・・・・・。
 焼き魚を中心とした夕飯を終え、いよいよ時間になると、エレンは真剣な顔になりこちらを向いた。

「首謀者はガラードという人で、この人を捕らえれば、何とかなると思います。ただ、彼は自警団を率いているので気をつけてください」
「わかった」

 ギルは素直に首肯した。
 サラサールの話によると、遺跡への道は2通りとのことだ。

9聖域
10聖域

 ひとつはエレンの家から村の中央を突っ切って遺跡へ行く方法。この場合、自警団に見つかる恐れがあるが、短時間でいけるという。
 もうひとつは村の周りを迂回して遺跡に行く方法。当然時間はかかるが、自警団には見つかりにくい。
 ”金狼の牙”がそこまで話を聞いたときだった。

「あのぅ・・・、私もついて行きます!皆さんの力になりたいんです」
「エレン様!危険です!お止めください!」

 急に同行を申し出たエレンを、サラサールが慌てて押し留めようとするが、存外エレンは強情な性質だったらしく「もう決めた」と言ってきかない。
 挙句の果てには、「サラサールもついてきてくれない?」とけろっとした顔で言い出した。

「・・・・・・冒険の素人を連れ歩くのは危険ですが、万が一村で不測の事態があった場合、彼女たちの助勢は必要になるかもしれません」
「ってこたぁ、村を突っ切っていく方向か」

 エレンに根負けしたサラサールも同行を決めた後、アウロラとエディンはそう言ってルートを決定した。
 途中、エレンが予め忠告していたように、自警団がうろついているのに何度も遭遇したが、ジーニの【眠りの雲】を中心とした奇襲で、何事もなく切り抜けていく。

11聖域

 やがてジーニが「飽きたー。この呪文飽きたー」と文句を言い始めた頃、ようやく森にさしかった。
 向こうには遺跡らしき建物の影が見える。

「ここから先が、遺跡になります」

12聖域

 頷いた冒険者たちは小休憩を取ると、支援魔法や召喚魔法をかけられるだけかけて突入する事にした。

「主よ・・・・・・我が仲間に新たな力を与え、その身を護りたまえ・・・・・・!」
「おいで、スネグーロチカ。ベンヌ。ここから先、君たちに頑張ってもらうよ」

 そうして準備を整えた一行は、すり足で遺跡へと近づいていった。
 遠めにもかなりの数の自警団が、遺跡を詮索しているのが分かる。中央には、指示を出している大柄な男がいた。
 あれがガラードだろうと冒険者たちが思っていると、案の定、サラサールがそれを肯定した。

「あの中央にいる奴がガラードだ。アイツは自警団を率いるだけの力は持っている。気を抜くなよ」
「もとより」

 アレクはそっと≪黙示録の剣≫を握り締めると、懐から雪精トールを取り出した。

「なんですのん、アレクはん」
「お前は範囲魔法に巻き込まれないように、注意して俺達についてきてくれ」
「そういうことでっか。了解でっせ」
「な、なんだ今のは」

 驚いて目を瞠るサラサールと、おっとりとした表情でトールを見送るエレンに、アレクはふっと笑いかけた。

「俺の大事な相棒どのさ。雪の精霊だよ」
「それよりも。ガラードさんとやらのところまで距離がありますが、どう近づくんですか?」

 アウロラの疑問に、にやりと笑ったのはジーニであった。

「そりゃあもう、あれしかないでしょ。任せてよ」

2013/04/14 17:00 [edit]

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Sun.

聖域といわれた森 2  

 ぴちゃん。・・・・・・・・・ぴちゃん。
 水のはねる音に気づき、ミナスは宝石のような濃藍色の瞳を開いた。
 気が付くと、暗い部屋に閉じ込められている。

「・・・・・・ここ、どこ?」

 ミナスは必死に途切れている記憶を掘り起こす事に努めた。確か、エディンが幻影の向こうにあった村を発見し、彼の先導で進んでいったはずである。
 そして・・・・・・そこで、途轍もなく大きな狼に会ったことを、彼は思い出した。

5聖域

「この村に立ち入るとは・・・・・・」

 人の言葉ではない、直接脳へと訴えかけるような声であった。
 大きな狼相手に、”金狼の牙”たちともあろうものが手も足も出せず、魔力の波動のようなもので防御の暇すらなく打ち倒されたのである。
 完全に意識を失う寸前に、綺麗な女性の声を聞いたような気がしたのだが・・・・・・。
 とにかくこのままではいけないと、ミナスは軋む体を叱咤して他の仲間を起こした。

「・・・・・・牢屋か」

 ぽつりとアレクが呟いた。
 体調が万全であれば、なんとしても鉄格子を壊し脱獄を試みるところであったが、戦士である彼自身も、他の仲間たちも、重傷を負ったままである。
 自分たちをここに閉じ込めたものが害意を持っていたとしても、気絶している合間に殺せたはずだ。
 それをしなかったのであれば、今すぐ自分達が殺されるということもないだろう・・・・・・そういう分析をアウロラが行なったので、ひとまず休んで精気を取り戻そう、というギルの提案に全員が頷いた。

6聖域

 冒険者たちは体を休めるため、また眠りについた・・・。
 そして丸一日が経過した。

「・・・・・・!足音がするぜ。軽いから多分女か子供だと思うがね」
「誰かがこっちに向かってるってことか」

 ミナスを支えるようにしながらギルが言う。
 ほどなく、一人の女性が鉄格子の向こうに現れた。黒い髪を短くした、健康そうな若い女性である。武装はまったくしていない。
 冒険者たちが目を開けている様子に気づくと、彼女は青い目を細めてにっこり笑った。

「・・・良かった!もう気がついたんですね!お体はもう大丈夫ですか?」

 その台詞自体よりも、そこに込められた本当の労りが垣間見えたような気がして、ギルやアレクは少し肩の力を抜いた。
 アウロラがそれに応える。

「もう大丈夫です。失礼ですが、あなたは・・・?」
「っあ、すいません。私は巫女をしているエレンといいます。事情があって、あなた達を牢でかくまう事にしたんです」
「かくまう?」

 鸚鵡返しに訊ねたが、女性はそれに気づくことなく早口で説明した。

「でも、もう大丈夫です。いま鉄格子の鍵を外しますので、ちょっとまっていただけますか」

 しかし、エレンという女性が通ってきた通路からもう一つ急いでこちらに駆けてくる足音がある。こちらはエレンとは違って、鎧の重々しい金属音が付き纏っていた。
 やって来たのは、エレンと同年代か、それよりもやや上のように見受けられる長い髪の女であった。
 騎士のような格好をしており、その茶色い切れ長の瞳には厳しさが覗いている。

「エレン様!お待ちください!」

 掠れたようなハスキーな声でエレンの行動を押し留めると、彼女は眦を上げて”金狼の牙”を睨みつけてきた。

「サラサール?どうして止めるの?」
「この者たち、我らの味方と決まったわけではありません。それに、突然襲ってくるかもしれません!」

7聖域

「怪我人を牢屋に放り込んでおいて、随分と勝手な事言ってくれるわねえ」

 ジーニが低い声で唸るように言ったのに気づき、慌ててエディンが彼女を抑えた。

(しっ。ここから脱出するのがまず先決だろ?)
(ああいう頭固そうな馬鹿女見ると、黙ってられないのよ!)
(いいからここは大人しくしておけって。お前さんの実力なら、いつでもあの女を取り押さえれるだろうがよ。)

 大人組みの内緒話をよそに、エレンとサラサールのやり取りも続いていたようだ。お人よしらしいエレンを心配しているサラサールが、何か言い募っている。

「・・・わかったわ。じゃぁこうしましょう。彼らが私たちに危害を加えないなら鍵を開ける。これなら問題はないでしょう?」
「・・・そういうことなら」
「あ、え?それでいいの?」

 思わずギルがつっこんだが、彼女たちはそれに構う様子はなく、危害を加える気があるか否かだけを問われた。
 当然、そんなつもりはないと答えると、「じゃあ、いま開けますね」と言って、あっさりとエレンは鍵を開いた。

「お前達!怪しげな動きでもしたら、即、私が斬るからな!」

 実力的に絶対無理だろう、とは思いつつも”金狼の牙”は大人しく従った。
 牢屋の鍵を開けてくれたエレンは、ここで話すのもなんだから場所を移そうと言って、先に立って案内をしてくれる。
 彼女が一行を連れてきてくれたのは、質素な居間であった。

「まずは椅子にお掛けください」

 木製の粗末な椅子に腰をおろすと、彼らの足元に二匹の動物がやって来た。ミナスが嬉しそうに目を細める一方で、ジーニがなんともいえない顔になる。
 片方は耳の垂れた犬、もう一方は空色の瞳をした黒猫に見える。
 犬のほうはパトラッシュという名前だとエレンが説明した。お利口さんだが少々臆病だという。

「こっちの子は・・・・・・」
「その子犬は神精族の子供なんです。私が巫女なので一時的に預かっているんです。名前はヴァンっていうの」
「・・・・・・え。犬なの?」

 はてしない違和感に襲われて、ミナスは目を忙しなく瞬かせた。なんでも、魔物の幻影を創ったり、村の結界を一時的に解除したのもヴァンがやったことらしい。

「へえ・・・・・・すごい子なんだねえ」
「?? ワン!」

 ミナスはヴァンの小さな頭を優しく撫でた。
 大人たちはその様子を微笑ましく思いながらも、エレンとサラサールから事情を聞きだすのに余念がない。
 村で”金狼の牙”を攻撃してきた大きな狼は、なんと伝承にある守り神にして神精ファナス族の長だという。しかし、伝承とは違って「森の」ではなく、「この村の」守り神らしい。
 冒険者たちを侵入者だと思い込み攻撃してきたそうで、「悪気はないんです、許してあげて下さい」とエレンが困ったように言うのに逆らう事も出来ず、渋々彼らは頷いた。

「・・・まぁ、神精族の攻撃を受け、生きていられただけ感謝するんだな」

 ぼそっとサラサールが言葉を漏らす。
 ギルは首を傾げた。

「神精族?・・・さっきもこっちの子犬のことでその単語聞いたけど、それって・・・?」

 不可思議な力を秘めた、幻獣より神に近い属性の獣のことを指すらしい。それ以上の説明をサラサールはしようとしなかった。
 諦めて話題を変え、この村自体について訪ねてみるが・・・・・・とたんにエレンとサラサールの顔が曇る。
 思いつめたような双眸をこちらにひたと向け、エレンは切迫した声でこちらに話しかけた。

「あなた方には私たちに協力をしていただきたいのです。そのためにあなた方を、この村に招いたんです」

2013/04/14 17:00 [edit]

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Sun.

聖域といわれた森 1  

「聖域と呼ばれてる森・・・・・・?」

 波打つ亜麻色の髪をジーニに弄ばれながら、少年はその貼り紙をじっくりと眺めた。
 親父さんが拭き終わった皿を置いて声をかける。

「お!その依頼に興味あるのか?」
「どんな依頼なの?」
「最近、遺跡発見で騒がしくしている真紅の都市を知っているだろ?」

 ミナスが背後のジーニを見上げると、はたして彼女は首を縦に振っていた。

「真紅の都市ルアーナでしょ。もちろん知ってるわよ」
「その近辺で≪聖域の森≫と言われているところがあるんだが・・・」

 その≪聖域の森≫は一切の魔物がいないと言われていて、平和で豊かな森だった。
 しかし、最近になってその森に魔物が現れたと噂が立ち、その調査の為の依頼が、≪狼の隠れ家≫に来たというわけである。

1聖域

「まぁ、おおかたは動物なんかを見間違えたんだろう。簡単な依頼だとおもうぞ。依頼料も500spだ」
「ちょっと安いわねー。でもま、ルアーナの近くっていうのなら、未発見の遺跡とかが森の中にあるかもしれないわね」
「ジーニ、興味あるの?」
「まあね。ギルバートに言って、この依頼引き受けてみない?」
「僕もダンジョン嫌いじゃないし、いいよ!」

 こうして、”金狼の牙”たちは真紅の都市にある森林保護協会へ向かったのであった。

 聖域の森。
 いつからそう呼ばれ始めたのかは誰も知らない。
 守り神が存在する森。魔物の姿もなく、緑豊かな動物たちの楽園・・・伝承によれば、≪聖域の森≫とはそれを指すと記されている。
 だがしかし、≪聖域の森≫で守り神を見たものはまだ誰もいない・・・。

 真紅の都市ルアーナに到着した一行は、さっそく森林保護協会の事務所へと足を運んだ。そばかすの浮いた顔の、少女めいた顔立ちをした受付の女性によって応接間に案内される。
 そのまま15分ほど経過しただろうか。ノックの後、くすんだ金髪の中年男性がドアを開けて入ってくる。

2聖域

「はじめまして、私が森林保護協会の会長を務めているクラントです」

 会長のクラントは仕事に忙殺されているのか、少しばかり憔悴しているようにも見えた。

「さて、依頼のことですが・・・貼り紙にあったように、聖域の森に現れた魔物を駆除していただきたいのです」
「どんな魔物ですか?」

 ギルのわくわくを押さえきれない声に気づいたクラントは、苦笑しながら説明を始めた。

「実は、まだ魔物の確認をとっていないのです。協会の者は、魔物を恐れて森には入らなく・・・。ですから今回の依頼は調査も含めてのことなのです」
「あら・・・・・・じゃ、本当に初めからの調査ってことね。他に分かっている事はないのかしら?」
「・・・ただ伝承によれば、あの森には守り神がいるとされています。もし森に魔物がいるとなれば、守り神をも凌ぐ強さでしょう」

 ジーニの質問に依頼主はそう答えてため息をついた。
 アウロラがやや俯くようにして「守り神を凌ぐ魔物、ですか・・・」と呟く。

「魔物がいるにせよ、いなかったにせよ、報酬は払います。ただし魔物がいた場合は、退治もお願いいたします」

3聖域

「報酬がこのままって事はないわよね?」

 クラントの台詞の一部に反応したジーニが黒い双眸を煌かせて彼に報酬の値上げを迫ったが、さすがやり手の会長と言うべきなのか、あっけなくそれは却下された。
 森林保護協会は国の援助を受けて運営しているのだが、その予算はあまり大きなものではないらしい。
 一行は森へ入る前に事務所での登録を済ませ、その場を後にした。
 エディンが口を開く。

「おい、あそこの店にちょっと寄っていこうぜ」
「ん?冒険者の店に?」

 首を傾げたリーダーに、エディンは何か≪聖域の森≫に関しての情報があるかもしれないだろ、と言って先頭に立った。
 扉を開くと、そこにはカウンターでグラスを磨く主人のほかに、三人の冒険者達がたむろしている。
 しかし芳しい情報はまったく得られず、失意の”金狼の牙”たちは森へ真っ直ぐ向かうことにした。

「・・・・・・魔物がいるとは思えないけどなあ」

 ≪聖域の森≫までの道程はさして困難なものではなく、その日の昼過ぎには問題の場所へと着いていた。
 とても緑豊かな森の様子を見て、ミナスが首を傾げる。
 青空が眩しい。アレクは目を細めて、辺りを探っているエディンが戻ってくるのを待った。

「・・・特に魔物がいるような痕跡はない。どっから行っても一緒だと思うが、リーダーどうする?」
「うーん・・・・・・。じゃあ西へ。太陽を追いかけて行こう」

 こうしてしばらく森をさ迷った≪金狼の牙≫だったが、たまさか狼や蛇などが茂みから飛び出すほかは、目ぼしいものも見当たらない。
 これは魔物とやらもただの噂だけかな、とアレクが心中でつぶやいた時、ふとエディンがある場所で足を止めた。

「・・・この周辺は妙な感じがするな」

 さっそく調べてみようと一歩踏み出すと、その途端に茂みから何かが飛び出してくる。
 どうせまた狼か蛇だろうと思ったギルが、ため息をつきつつ≪護光の戦斧≫を構えると・・・なんと、そこに立っていたのはミノタウロスであった。
 さすがに慌てた声をエディンが上げる。

「え!?嘘だろオイ!?」
「・・・・・・っ!エディン、構えろ!ミナス、アウロラ、頼む!」

 一行は今さらミノタウロスに遅れは取るまいと、連携の効いた攻撃を繰り出したのだが・・・。

「ちょっと、まったく効いてないじゃないの!?」
「これ、は・・・・・・よく見てください、幻影ですよ」

4聖域

 アウロラが魔物の正体に気づくと同時に、その姿は泡のように消えていった・・・。

「どういうことなの、一体・・・・・・」
「・・・それを知りたきゃ、もう一回調べろってこったな」

 そう言って盗賊が前に進むと、魔物が消えたその向こうに村らしきものが見える。
 ”金狼の牙”は確かめるように奥へと進んだ。

2013/04/14 16:57 [edit]

category: 聖域といわれた森

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