聖域といわれた森 5
”金狼の牙”たちの出した結論に、しばしルイアールは眼を閉じた。
その赤い眼が再び開いた時、彼は天にも届くような咆哮で答えた。
「・・・よかろう。手は抜かぬ、いくぞ!」
せめてもの情けだと体についたかすり傷を癒してはもらったが、勝算はおぼつかなかった。
彼らの攻撃は確かにルイアールに当たっているものの、どういうわけかその神々しい毛皮に覆われた皮膚には傷一つすらつかないのである。
エディンが感心したように言った。
「なるほどな、幻獣より神に近いってえのは、本当だったわけだ・・・!」
「そんな事を言ってる場合なの!?ちょっと、大丈夫なんでしょうね!?」
再び【風刃の纏い】で【旋風の護り】を身に纏いながらも、ジーニは怒鳴り返した。
あの巨大な爪がこちらにおりてきたら、こんなものでは防ぎきれないかもしれない。彼女はずたずたに引き裂かれた自分の姿を想像して、ぶるりと身を震わせた。
間断なく攻撃は続けたが、一向にルイアールを倒すどころか、傷をつけることもできていない。
ミナスは立て続けにスネグーロチカを召喚し、ジーニはベルトポーチの薬瓶をありったけ投げつけた。
その絶望的な状況が変わったのは、分厚い毛皮に攻撃を弾かれ、ギルが腕を抱えた時だった。
「汝らの力、確かめさせてもらった。・・・命を助けるだけの価値のある者達だ」
突如としてファナス族の長が言い出した言葉に、一同は攻撃の手を休めて呆気に取られた。
脳裏に響く声は続く。
「汝らは見逃してやろう」
その短い台詞の真意に気づいたサラサールは、唾を飛ばして叫んだ。
「村の者は!村の者はどうなるんですか?」
「・・・人の過ちは、人の手で正さねばならぬ」
聖域と呼ばれる遺跡から神精族の監視する宝珠を奪ったのは、確かに村の者であった。彼はそのツケを等しく払わそうとしているのである。
エレンとサラサール、そして冒険者たちは、果敢にも(無謀でもあったが)ルイアールに立ち向かい、己の価値を示す事に成功した。
だが他の者は・・・・・・。
「さらばだ・・・」
それ以上のことを決して語らず、ルイアールは別れを口にした。
神聖な光が彼らを覆い、ふわりと身が軽くなるような感覚に襲われる。
・・・・・・気がつくと、彼らは≪聖域の森≫の入り口にいた・・・。
「ここは・・・?」
心許ないような顔で、エレンが辺りを見回す。
ハッと気づいたサラサールが、

「結界の外?」
と言ってエレンの側へ歩み寄った。
村がどうなったのか、ここからでは彼らには分からない。
ただひとつ、自分達が助かったのだという事だけは理解できた。
その後・・・。
”金狼の牙”たちは、エレンとサラサールを連れて真紅の都市ルアーナに向かった。
そこで聞いた話では、聖域の森の村は廃墟と化していたらしい。
いくら探しても、神精ファナス族の姿は見当たらなかったそうだ。
「・・・・・・というのが、今回の事件だったようです」
森林保護協会の事務所にて、冒険者たちは事の顛末を全てクラント会長に話した。
「そうでしたか・・・。いろいろとあったんですね。本当にお疲れ様です」
報酬の増額は出来ませんが、と断った上で彼は続けた。

「村の事は私たちにお任せください。これからすぐに救出活動を行ないますので」
クラント会長はそう約束すると、報酬の皮袋をこちらに手渡してくれた。
その報酬から宿代を払い、ルアーナに一泊する。
あくる日、今までの疲れをすっかり癒した一同は、一階の酒場で向かい合って座った。
「・・・皆さん、色々ありましたけど・・・ありがとうございました」
エレンがそう言ってぺこりと頭を下げる。
その頼りなさげな様子に、アレクはつい口を挟んだ。エレンの家で過ごした短い時間の中、最初は冷たい態度をしていたのに徐々に彼女に親身になっていたのは、この青年であった。
「・・・大丈夫かい?」
「・・・はい、大丈夫です。くよくよしても仕方ないですもの。それに・・・生きているんですから」
そう言って小さく微笑んだエレンの隣で、サラサールは切れ長の瞳をまっすぐこちらに向けて宣言した。
「・・・私たちは、これから旅に出るつもりだ。宝珠を奪った男を探す旅にな」
「そうか・・・。少し寂しくなるな」
「・・・縁があれば、また会う事もあるだろう」
今までとは違って、すっかり”金狼の牙”たちと打ち解けたサラサールを頼もしそうに見上げた後、エレンは胸元で輝くペンダントをおもむろに外し、卓上へそっと置いた。
「・・・あの、これ依頼の報酬です」
「毎度あり、ってね。貰っておくわ」
たちまち嬉しそうに相好を崩したジーニへ、周りの仲間が苦笑を漏らす。
しばらく同じように笑っていたエレンだったが、それを収めて立ち上がり・・・訝しげな様子の”金狼の牙”たちの中で、彼女はアレクの方へと近寄った。
「!?!?!?」
チュッ・・・という小さなリップ音が響く。

「なっ・・・・・・なっ、何をするんだ、エレン!?」
「・・・また、逢えるといいな」
それまでのお守り、と言って彼女は微笑んだ。
※収入500sp、【ヴァンの曲】≪縁の首飾り≫※
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
58回目のお仕事は、OKNさんのシナリオで聖域といわれた森でした。真紅の都市リアーナものの一つです。別名「アレクにもたまには女の子と縁を作ろうか」回ともいう。
1~8という幅広いレベル対象の中、「2がベストかな?」とシナリオ作者さんが言っておられるのを無視して、思い切り上限の8レベルで挑んだりしたのですが、やっぱりルイアール様は強かった・・・。
というか強制戦闘で強制敗北というのは、私は正直に申し上げるとあまり面白くないです。PCたちもそれなりの体験を経て強くなっているものを、一方的に負かされるのは・・・ただ、こちらの作品においてエレンのその後のフォローだとか、サラサールのテンプレートのようなツンデレ具合とかが可愛らしかったので、まあいいや~と。(笑)
こちらのシナリオ、エディタで覗いた方はご存知でしょうが、特別クーポンを手に入れるためのステップとフラグがわけ分からんことになってます。自分でこないだ依頼シナリオ作ったから思うのですが、よくこれを完成にまでこぎつけたなあ・・・とクリア後に感心しておりました。私なら途中で投げ出すかもしれない・・・・・・。
いただいた【ヴァンの曲】は、二回ドッグフードをあげて懐いたヴァンを召喚して使うことが出来る呪歌スキルです。適性が器用/正直なので少しアウロラには合わないのですが、魔法的物理属性をレベル比10ダメージというとんでもない強力スキル。ちなみにこの適性、ミナスだと綺麗な緑色の○になります。しかし、これから取得する召喚スキルとの兼ね合いもありアウロラにいきました。
そうそう、途中で寄った冒険者の宿において、「ルアーナで売ってる【催眠術】があれば戦闘が楽になるかもしれないよ」と忠告をしてもらってたのですが、このシナリオのためだけに買うのもな・・・と思い、ジーニに【眠りの雲】で頑張って貰いました。
成功率からすると、エディンの【暗殺の一撃】の方が良かったです。
が、最近あまり使ってなかったので。ただジーニ、すぐ飽きるんですよね。(笑)
さて、今回のシナリオでいよいよ全員が9レベルに達しました。
そろそろ小話でスキルを揃える様子を書いていこうかと思います。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
その赤い眼が再び開いた時、彼は天にも届くような咆哮で答えた。
「・・・よかろう。手は抜かぬ、いくぞ!」
せめてもの情けだと体についたかすり傷を癒してはもらったが、勝算はおぼつかなかった。
彼らの攻撃は確かにルイアールに当たっているものの、どういうわけかその神々しい毛皮に覆われた皮膚には傷一つすらつかないのである。
エディンが感心したように言った。
「なるほどな、幻獣より神に近いってえのは、本当だったわけだ・・・!」
「そんな事を言ってる場合なの!?ちょっと、大丈夫なんでしょうね!?」
再び【風刃の纏い】で【旋風の護り】を身に纏いながらも、ジーニは怒鳴り返した。
あの巨大な爪がこちらにおりてきたら、こんなものでは防ぎきれないかもしれない。彼女はずたずたに引き裂かれた自分の姿を想像して、ぶるりと身を震わせた。
間断なく攻撃は続けたが、一向にルイアールを倒すどころか、傷をつけることもできていない。
ミナスは立て続けにスネグーロチカを召喚し、ジーニはベルトポーチの薬瓶をありったけ投げつけた。
その絶望的な状況が変わったのは、分厚い毛皮に攻撃を弾かれ、ギルが腕を抱えた時だった。
「汝らの力、確かめさせてもらった。・・・命を助けるだけの価値のある者達だ」
突如としてファナス族の長が言い出した言葉に、一同は攻撃の手を休めて呆気に取られた。
脳裏に響く声は続く。
「汝らは見逃してやろう」
その短い台詞の真意に気づいたサラサールは、唾を飛ばして叫んだ。
「村の者は!村の者はどうなるんですか?」
「・・・人の過ちは、人の手で正さねばならぬ」
聖域と呼ばれる遺跡から神精族の監視する宝珠を奪ったのは、確かに村の者であった。彼はそのツケを等しく払わそうとしているのである。
エレンとサラサール、そして冒険者たちは、果敢にも(無謀でもあったが)ルイアールに立ち向かい、己の価値を示す事に成功した。
だが他の者は・・・・・・。
「さらばだ・・・」
それ以上のことを決して語らず、ルイアールは別れを口にした。
神聖な光が彼らを覆い、ふわりと身が軽くなるような感覚に襲われる。
・・・・・・気がつくと、彼らは≪聖域の森≫の入り口にいた・・・。
「ここは・・・?」
心許ないような顔で、エレンが辺りを見回す。
ハッと気づいたサラサールが、

「結界の外?」
と言ってエレンの側へ歩み寄った。
村がどうなったのか、ここからでは彼らには分からない。
ただひとつ、自分達が助かったのだという事だけは理解できた。
その後・・・。
”金狼の牙”たちは、エレンとサラサールを連れて真紅の都市ルアーナに向かった。
そこで聞いた話では、聖域の森の村は廃墟と化していたらしい。
いくら探しても、神精ファナス族の姿は見当たらなかったそうだ。
「・・・・・・というのが、今回の事件だったようです」
森林保護協会の事務所にて、冒険者たちは事の顛末を全てクラント会長に話した。
「そうでしたか・・・。いろいろとあったんですね。本当にお疲れ様です」
報酬の増額は出来ませんが、と断った上で彼は続けた。

「村の事は私たちにお任せください。これからすぐに救出活動を行ないますので」
クラント会長はそう約束すると、報酬の皮袋をこちらに手渡してくれた。
その報酬から宿代を払い、ルアーナに一泊する。
あくる日、今までの疲れをすっかり癒した一同は、一階の酒場で向かい合って座った。
「・・・皆さん、色々ありましたけど・・・ありがとうございました」
エレンがそう言ってぺこりと頭を下げる。
その頼りなさげな様子に、アレクはつい口を挟んだ。エレンの家で過ごした短い時間の中、最初は冷たい態度をしていたのに徐々に彼女に親身になっていたのは、この青年であった。
「・・・大丈夫かい?」
「・・・はい、大丈夫です。くよくよしても仕方ないですもの。それに・・・生きているんですから」
そう言って小さく微笑んだエレンの隣で、サラサールは切れ長の瞳をまっすぐこちらに向けて宣言した。
「・・・私たちは、これから旅に出るつもりだ。宝珠を奪った男を探す旅にな」
「そうか・・・。少し寂しくなるな」
「・・・縁があれば、また会う事もあるだろう」
今までとは違って、すっかり”金狼の牙”たちと打ち解けたサラサールを頼もしそうに見上げた後、エレンは胸元で輝くペンダントをおもむろに外し、卓上へそっと置いた。
「・・・あの、これ依頼の報酬です」
「毎度あり、ってね。貰っておくわ」
たちまち嬉しそうに相好を崩したジーニへ、周りの仲間が苦笑を漏らす。
しばらく同じように笑っていたエレンだったが、それを収めて立ち上がり・・・訝しげな様子の”金狼の牙”たちの中で、彼女はアレクの方へと近寄った。
「!?!?!?」
チュッ・・・という小さなリップ音が響く。

「なっ・・・・・・なっ、何をするんだ、エレン!?」
「・・・また、逢えるといいな」
それまでのお守り、と言って彼女は微笑んだ。
※収入500sp、【ヴァンの曲】≪縁の首飾り≫※
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
58回目のお仕事は、OKNさんのシナリオで聖域といわれた森でした。真紅の都市リアーナものの一つです。別名「アレクにもたまには女の子と縁を作ろうか」回ともいう。
1~8という幅広いレベル対象の中、「2がベストかな?」とシナリオ作者さんが言っておられるのを無視して、思い切り上限の8レベルで挑んだりしたのですが、やっぱりルイアール様は強かった・・・。
というか強制戦闘で強制敗北というのは、私は正直に申し上げるとあまり面白くないです。PCたちもそれなりの体験を経て強くなっているものを、一方的に負かされるのは・・・ただ、こちらの作品においてエレンのその後のフォローだとか、サラサールのテンプレートのようなツンデレ具合とかが可愛らしかったので、まあいいや~と。(笑)
こちらのシナリオ、エディタで覗いた方はご存知でしょうが、特別クーポンを手に入れるためのステップとフラグがわけ分からんことになってます。自分でこないだ依頼シナリオ作ったから思うのですが、よくこれを完成にまでこぎつけたなあ・・・とクリア後に感心しておりました。私なら途中で投げ出すかもしれない・・・・・・。
いただいた【ヴァンの曲】は、二回ドッグフードをあげて懐いたヴァンを召喚して使うことが出来る呪歌スキルです。適性が器用/正直なので少しアウロラには合わないのですが、魔法的物理属性をレベル比10ダメージというとんでもない強力スキル。ちなみにこの適性、ミナスだと綺麗な緑色の○になります。しかし、これから取得する召喚スキルとの兼ね合いもありアウロラにいきました。
そうそう、途中で寄った冒険者の宿において、「ルアーナで売ってる【催眠術】があれば戦闘が楽になるかもしれないよ」と忠告をしてもらってたのですが、このシナリオのためだけに買うのもな・・・と思い、ジーニに【眠りの雲】で頑張って貰いました。
成功率からすると、エディンの【暗殺の一撃】の方が良かったです。
が、最近あまり使ってなかったので。ただジーニ、すぐ飽きるんですよね。(笑)
さて、今回のシナリオでいよいよ全員が9レベルに達しました。
そろそろ小話でスキルを揃える様子を書いていこうかと思います。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。