satan 13

ギルの一撃で見事中央突破を成功させた冒険者たちは、号令一下、大広間へと突入を果たした。
「ヴ・・・・・・・・・」
その視線の先には、ザンダンカルの魔王が佇んでいる。
すぐに冒険者に気づいたようだ。両脇には体を低くし、前傾に構えた魔物が2体残っている。
魔王の前に、赤い玉が出現した。
先ほど教会を吹き飛ばした玉と、全く同じ形状をしている。
「ク・・・・・・ジーニ、これは・・・!」
エディンが焦った声を出した。冒険者の後方には、倒しきらなかった魔物の大群が詰め寄せてきている。
突っ込んで魔法を打たせるなと指示しようとしたギルを制し、ジーニは打たせろと叫んだ。

「皆、四方に散って!固まるな!1人でも多く直撃を避けて!!」
「! そういうことか!」
彼女の意図に気づいたアレクが、いち早くトールを逃がしつつ大広間の端のほうへと体を投げ出す。
戸惑ったようなラングの体を、委細構わずギルが体当たりで吹き飛ばした。
魔王がゆっくりと手を上げていく。
「散れぇーーーっ!!」
他の仲間たちも、ジーニのその叫びが終わらぬ内に四方八方へと体を投げ出していった。
「ヴオオォーーーーーーーー!!」
・・・・・・魔王の呪文による爆炎が辺り一帯を包む。
凄まじい量の熱と煙がようやく晴れた時、”金狼の牙”で立ち上がれたのはアレク・エディン・ミナスの3名だけだった。
アレクが声をかけると、ギルによってちょうど上手い具合に死角となる場所へ吹き飛ばされていたラングも、そこから這い出してくる。

「ク・・・・・・大丈夫か、ラング・・・・・・」
「は・・・・・・・・・はい、何とか・・・・・・・・・」
魔王が放った赤い玉は、広間の入り口付近を直撃した。その近くにいたジーニたちが巻き込まれ倒れている。
だがそれ以上に、多くの魔物が爆発に巻き込まれており、無数の体の破片が飛び散っていた。
天井から大小問わず多くの瓦礫が崩れ落ち、その下敷きになっている魔物もいる。
「なるほど・・・・・・な。王は魔物を気にせず魔法を放つ。四方に散った俺たちの方が被害が少ない・・・・・・か」
「そして、生き残った者が・・・・・・王を討つ・・・・・・と・・・・・・」
アレクの感心した呟きに、エディンが応じて双剣を抜き放つ。
「・・・・・・ったく、随分な賭けだな・・・・・・」
呆れたように頭を振ると、エディンは敵の戦力を観察した。王以外に魔物は2体、後方で正常に動ける魔物は、せいぜい数体程度といったところだろう。
王自身も正常に立つ事が出来ていない。すっかり杖代わりと化した剣は左右に大きくぶれており、直立する事すら辛そうに見える。
「行くぞ、ラング!」
ここが好機と、アレクは気合の篭った声で呼ばわった。
「は、はい!」
「雑魚は僕に任せて、皆は王に集中して!」
ミナスはそう言い放つと、≪森羅の杖≫に魔力を集中し始めた。
主の意を受けて、スネグーロチカが冷気を振り撒きながら魔物へと取り付く。更にはミナスの足元から奔流が迸り、ナパイアスが敵を押し流していく。
エディンは立ちはだかろうとする魔物を精妙なステップで振り切り、王のローブを魔力による杭で奥の壁にはりつけた。
「今だ、アレク!」
「おう!」
動けずにいる魔王へ、アレクが続けざまに何度も斬撃を放つ。
「こいつで・・・・・・どうだ!」
「ヴ・・・・・・・・・ヴヴヴヴォーーー!!」
渾身の力が篭った戦士の一撃が、魔王の頭を砕いた。
杖代わりにしていた剣が前方に転がる。

「!」
エディンは≪クリスベイル≫を落として素早く魔王の剣を拾い上げ、目前の胸に突き刺した。
「終わりだ」
王の全身の力が抜けていくのが分かる。
「オォォォォ・・・・・・」
悲しげな咆哮を上げると、魔物も活動を停止し始めた。王の方を向き、力なくただ立っている。
ラングが信じられないものを見た、といった態で「やった・・・・・・」と呟いている。
次の瞬間、建物全体が揺れ始めた。
アレクが慌てて辺りを見回す。
「何だ!?」
「あー・・・こりゃ、さっきの大魔法で建物が逝っちまったんじゃねえ?崩れるぞ」
「早く脱出した方が良さそうだな」
エディンの言葉を受け、天井に隠れていたトールがようやく下りてきたのを懐に収めたアレクは、ギルの体を背負い始めた。
倒れている仲間たちは大小の傷はあるものの、しっかり息をしており、充分な休養と回復魔法を施せば大丈夫な様子である。
顎でジーニを担当するようラングに合図をして、エディンはミナスにギルの斧とジーニの杖を持たせた。
自分はアウロラの体を担ぎ上げ、やれやれと息をつく。
「長居は無用だな」
アレクが淡々と言った。
「街で新たにさらわれた子供もいるかもしれない。注意して行こう」
「大丈夫、生命の気配があれば僕に分かるから!任せて!」
小さなエルフが自分の胸を叩いたが、彼らが調査しながら帰る途中の道に新たな子供の姿はなかった。
轟音と共に、徐々に瓦礫が降り注いでいく。
王の上にも瓦礫は落ち、その体は少しずつ埋まっていった。
やがて、ひときわ大きな瓦礫が落下し、王の姿は完全に見えなくなった・・・・・・。
教会の地下から崩落音が鳴り響き、やがて静まり返ると、誰にとも無くアレクは独白した。
「終わった・・・・・・・・・な・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・ああ」
エディンが頷く後ろで、すっかり汚れてしまった顔を拭いもせず、ラングは問いかけた。
「本当に・・・・・・本当に終わったんですか?アレクシスさん・・・・・・」
「ああ」
ゆっくりとラングがしゃがみ込む。張り詰めていたものが一気に切れたようで、抱えていた荷物をミナスがそっと下に置き、彼の背中を撫でた。
ヴァニラは言っていた。王は封印こそできても、死ぬ事は無いのだと。
またもし、王を蘇らせるヴァニラのような人間が出現したら・・・・・・。
「僕は・・・・・・多くの人たちの役に立ちたい。そう思って冒険者になりました」
ラングがゆっくりと呟く。
騎士の守護の無い田舎の地方では、まだまだ多くの者達が妖魔に苦しめられている。ラングは、そんな弱者たちを助けたいとずっと思っていた。
しかし、このザンダンカルにおいては・・・・・・人が人を殺した。
「生きるために人を襲う。そんな人は、今まで何度も見てきました・・・・・・」
だが、今回は違っている。自分の欲望のためだけに人を犠牲にした者がいる。
アレクはゆっくりと胸のうちを吐露した。
「・・・・・・・・・ラング。冒険者としての経験・・・・・・それをお前に教える事は出来る」
ただし、と彼は付け加える。
「冒険者としての目的、それをお前に授ける事は出来ない。それはお前が自分で答えを見つけるものだからだ」
「・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・」
ラングは思った。これからどんな困難な事が待ち構えていようと、今日と言う日を決して忘れまいと。ラングは、この後にアレクにこう聞いたのだ。

「道に迷ったら・・・・・・・・・付いていってもいいですか?」
「・・・・・・それも、お前が決める事だ」
否定もせず、肯定もせず、アレクはただ静かにひたと血色に見える双眸を、後輩に向けていた。
※収入2500sp※
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■後書きまたは言い訳
57回目のお仕事は、leaderさんのシナリオでsatanです。
いやはや、長いのなんのって・・・っ!今まで一番長いのはDr.タカミネ様作の「最後の最後に笑う者」46KBだったのですが、今回のリプレイ原稿見たらぶっちぎりの72KB。
手ごたえのある、さすが高レベルらしい依頼と敵とキャラクターたちの立ち回り具合だったのですが、圧倒的に体力取られました。その分だけ見ごたえのあるリプレイになったんだといいのですが・・・。
途中でちょこちょこと今までに受けた依頼のことが出てきておりますが、本編では特に出てきておりません。ただ、魔王の正体について、魔法使いがあれはリッチーに近いものだ、と看破する前から「この画像はカナン様に似てるよなあ・・・。」と思ってはいたんですが。(笑)
盗賊役だったり、後輩の世話役だったり、リーダーだったり、参謀だったりを選ぶ事が出来るシナリオで、”金狼の牙”の場合はこれしかないなーという感じで、すぐ決定できました。
なるべく台詞は本編のままを書くようにしてるのですが、ほぼ直す必要がなかったです。
一応大きく違うところとしては、ザンダンカルの宿亭主から情報収集する様子はかなりアレンジをさせてもらっています。アウロラがきな臭いと言ってますが、あの段階でそこまで疑っていないんですよね。ただ、彼女なら少し疑わしく感じるんじゃないかなと思い、そこは改変させてもらいました。
今回、ジーニが元貴族脅したり、後輩からかったり、治安局の人叱ったりしているのはシナリオのとおりそのままなんですが、この人ものすごく生き生きしてるなあ・・・と、作者が思ってしまいました。(笑)
次回はもうちょっと短いシナリオにしよう・・・。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。