Fri.

コデルモリアの英雄 6  

 裏口から、ラクーンの遺体をマントに来るんで運び出した一行の前に、山賊の残党が一人現れた。
 目は血走り、口から泡を吹きながら喚いている。

「ち、畜生っ!本当に頭領も若頭もみんなやられちまったってのか!?」
「・・・そのとおりです。あなたも早く投降を・・・」

 冷静なアウロラの言葉を耳に入れる余裕は、既に残党の心にはない。
 彼は掲げていた松明を殊更見せ付けるように高く上げると、「こうなりゃヤケクソだ!」と怒鳴り始めた。

「森に火をつけて村もアジトも全部焼き払ってやる!」
「何ですって!?」

 咄嗟に止めようと思ったアウロラや他の冒険者たちだったが、その挙動が一歩遅れたのは、皮肉にもラクーンの遺体を抱えていたからこそであった。
 それに早く気づいたミナスが、もうダメだと目を瞑ったときに誰しも予想しなかったことが起こった。

コデルモリア14

「そんなことさせるか!」

 ルースターが腰に佩いていた小剣を真っ直ぐに突き出し、目の前の残党の腹へと突き入れたのだ。

「危ないよ、ルースター!」
「きゃいんっ!?」
「ざまぁみろってんだ。ん??」

 息絶えた残党の手放した松明から、ルースターの服に引火している・・・!
 赤々と燃えるそれをどうにか消そうと、マントを脱いだエディンが必死に布を叩きつけ消火しようとするも、今までの暮らしで燃えやすい物でも染み込んでいたのか、たちまちルースターが火だるまになっていく。

「スネグーロチカ、お願い消火して!」
「動くな、ルースター!動かれると雪の精がお前さんに近寄れない!」
「あちいっ!火が!火がーっ!」

 エディンの腕を振り切り走り去っていくルースターを、誰も止める事はできなかった。
 そして池の淵で、ルースターはほとんど黒焦げの状態で倒れていた。

「へへっ・・・・・・。ちょっといいところを見せてやろうと思ったらこの有様だぜ」
「・・・・・・お前さん、立派だったよ。おかげで森も村も助かった」
「俺みたいな・・・人間の・・・クズ・・・でも少し・・・は人の役に立てるもんだな・・・・・・」

コデルモリア15

 それがルースターの最期の言葉だった。

 村に戻ると、大勢の村人たちが総出で不安そうな顔をしつつも冒険者たちを出迎え、質問攻めにした。
 山賊はどうなったのか?
 3人組はどこへ行ったのか?
 どの村人たちも聞きたがっていることは共通していた。

「まず、聞いてほしい。山賊はもう襲ってこない。・・・・・・俺たち”金狼の牙”と、英雄3人が・・・山賊のアジトを潰したからだ」

 ギルの説明で山賊の脅威がなくなったことを聞くと、皆一様に安堵したような顔に変わった。
 その日の昼ごろには村の年寄りが集まって寄合が始まった。
 今回の件の事後処理についてだ。
 最大の争点は、国に今回の事件を報告するべきか否かだった。
 政府以外の第三者――この場合は冒険者たち――の力を借りて武力組織を制圧したとあらば、国がこの村に警戒心を持ち、最悪の場合、村が危険因子と認定されるかもしれない。
 そう穏健派は主張しているのだ。
 ちょうど、国も戦争に必死になっていて山奥の山賊の消息までには構っていられない状態であり、事件を有耶無耶にして、歴史から抹消してしまうには好条件が揃っていた。

「・・・とはいえ、隠ぺい工作がばれると国の不信を買いますからね。騎士が不信を抱いたカナナン村のように」
「話し合いの決着は、まだまだ先ってところかな」

 アウロラとアレクがそう言って顔を見合わせた。
 村の寄合の議題に、自分達のことが出たことも二人は知っていた。
 村の用心棒として雇ってみるか、そのまま帰ってもらうか・・・・・・。
 過激な者は口封じのために毒殺すべきだとまで言ったそうだが、もし彼らが”金狼の牙”の正体をちゃんと知ったら、そんなことはつゆほども思わなかったろう。
 彼らは、数少ない本物の『英雄』たちであった。
 最終的には、山賊討伐の報酬800spと旧時代の金貨4枚を支払って帰ってもらう・・・ということで決着したようである。

「・・・・・・で、あいつら山賊のお墓も掘るの手伝ってやったんだって?エディ、お疲れ様」
「ああ。ま、悪党の名は残す必要なしとか、隠ぺい工作の邪魔になるとか、いろんな意見が出てたらしいがね」
「墓石は用意して、墓標は刻まないで落ち着いたんだっけ?議論長かったわねー」
「3人組ににも墓石を用意するな、て意見もあったがな」

 ジーニは旧金貨を手の平に乗せて鑑定しながら、エディンと話をしていた。
 あの3人については、ギルとミナスが頑張って口添えし、墓石に名前だけ刻むことが決定したのである。
 自分達の去就と報酬も定まり、彼らの墓が作られたのも見届ければ、もうこの村に用はない。
 近くにあったベニマリソウをアレクが供えて、出発の合図となった。
 清清しいまでの快晴で、季節の鳥が朗らかにさえずっている。

「待ってー!」

 女の子が息を切らしながら、冒険者たちの後を追ってくる。

「冒険者さんたちに最後にもう一度だけ聞いておきたいと思って。ぜえ・・・ぜえ・・・」
「大丈夫?」

 ミナスが覗き込むのに頷き、呼吸を整えると彼女は再び口を開いた。

「村の大人たちは英雄さんたちのことを悪く言うけれど、悪い人たちだとは思えないの。冒険者さんたちはあの人たちをどう思ってるの?」
「3人は間違いなくこの村を救った英雄だ。彼らが居なければ、この村はダメだったかもしれない」

 しゃがみ込んだギルが、真っ直ぐ女の子の瞳を見つめながら言った。
 嘘偽りのない気持ちである。事実、彼らは彼らにしか出来ないことをやってのけて、それで命を落としたのだ。
 己の役割を果たして命を落としたことのない者に、それを否定されるいわれはなかった。
 女の子はにっこりと微笑んだ。

「聞いてよかったわ。ありがとう。あたし、大人になってもずっとお墓参りし続けるわ」

コデルモリア16

※800sp、≪旧金貨≫×4※
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■後書きまたは言い訳

56回目のお仕事は、たこおどりさんのシナリオでコデルモリアの英雄です。
4レベルから9レベルまで対象と言う、討伐シナリオとしてはかなり幅広い感じの作品で、某庵謹製のキーコードを使うと若干有利にはなりますが、ないからといって詰むこともないというありがたさ。
作者様が「今回は戦闘などよりストーリーを重視」とリードミーにお書きになったように、なんともいえない切なさや後味の悪さが、消えない染みのように心に残ります。(褒めてます)

今回、魔光都市ルーンディア(ロキさん作)で仕事を引き受けたことにしておりますが、本編はクロスオーバーなさっていません。≪フォレスアス≫は、後ほどポートリオンで売り払うために自分で購入しております。・・・物語的には、その≪フォレスアス≫でフォックスの精神を正常化できれば格好よかったんですが、さすがに無理でした。あれー?(笑)
また本来であれば、男の子に起こされて正体を突き止めに行くことになるのですが、ああみえみえの挑発されたんじゃ「見張ってください」と言ってるも同然だったので、自主的に監視したことにしました。

そしてこっそり、宿屋【星の道標】の噂をここで披露してみたり。アレクの言う大げさな詩を歌う吟遊詩人はセアルさんです。・・・もっとも、ありがちな見栄で詩を大げさにしてるんじゃなくて、手に余る仕事が来ないよう仲間たちの保身のために・・・という意味合いが含まれてらっしゃるようですが。
これ、環菜様に許可取ってないんだけど・・・後で謝るというか今ここで謝ろう。
変な噂でクロスオーバーしてすいませんでした!

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/29 05:45 [edit]

category: コデルモリアの英雄

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Fri.

コデルモリアの英雄 5  

 屋内に潜む山賊の手下たちを、地の利が向こうにあるために少々手こずりながら進んできた”金狼の牙”たちは、とうとう頭領の前までやってきていた。

「くそっ・・・!ここまでやってきたとは信じられん!」
「覚悟して貰おうか。いくぜ」

 そう言って戦おうとしたギルだったが、部屋が狭いために相手の攻撃を回避するのが難しい。
 もっとも、それは敵側にとっても同じ事だったようで、アレクやエディンが手下たちへ容易に攻撃を当てている。
 それに気をよくして、【獅子の咆哮】で広範囲に攻撃を仕掛けると・・・。

「何!?絶対命中だぞ、何でだ!?」
「俺は身かわしのプロだぜ。そんなへっぽこ攻撃当たるものか!」

コデルモリア11

 後ろから見守っていたルースターが、半ば悲鳴のように叫ぶ。

「こんなのどうやったら倒せるんだ!?鑑定でもすれば分かりそうだが・・・」
「そんなことしてる暇はねえな。こういう時は・・・・・・こうすんのさ!」

 エディンは二刀を構えると、まずレイピアで頭領の右肩を突き刺そうとした。
 それに気づいて嘲った頭領が余裕で回避しようとする位置に、すかさず≪スワローナイフ≫の青い刀身が突き出される。
 それも何とか避けた頭領だったが、いつの間にか右肩の位置から移ったレイピアが右耳の傍を掠めた。

「うおっと!」

コデルモリア12

 頭領はフェイントにびっくりして体勢を少し崩した。
 だがジーニには、その少しで充分過ぎた。

「なるほどね・・・。お行き、あたしの風よ!なぎ払え!」

 ・・・・・・頭領の大きな身体が、部屋の隅に置かれていた棚に叩きつけられる。

「なぜなんだ・・・・・・利口なやつならたいていあのまま金を受け取って村を立ち去るはずなのに・・・・・・」
「俺たちがお前らより強くて、お前らが気に食わなかったからだ」

 ギルが止めを刺したのを見届けた山賊の生き残りは、慌てて持っていたナイフを捨てて投降した。

「あわわわ・・・・・・降伏するので命だけはお助けくださーい」

 この生き残りは、意外と重要な情報を持っていた。
 酒棚の下の段に入っている白旗を屋上のポールに掲げると、敵に本拠地を明け渡したということで、山賊団が解散する仕組みになっていたと言うのである。

「そうすれば、あなたがたを生き残りの仲間たちが襲ったり、ましてや村を襲撃することはないでしょう・・・・・・」
「どうする?信じる?」
「信じていいと思いますよ。・・・あれだけの実力者だったんです。自分が死んだ後の解散も、ちゃんと計算に入れていたと見ていいでしょう」

 ジーニの問いに、アウロラはギルの怪我を癒しながら答えた。
 戦いに倦んでいたであろうラクーンが、仲間たち以外動く者の居なくなった部屋に入り込み、酒棚の下の段を探っている。

「これが山賊が言ってた白旗ですね。私が早速これをつけてきましょう」
「僕も一緒に行こうか?」
「いえ、君は他の方の治療がおありでしょう。一刻も早くこれ以上争いが続くのを阻止しなければ!」

 ミナスの申し出を断った彼は、奥の扉から出て行く。
 結局戦った自分たちへの皮肉にも見えるそれに、やれやれと息をついていたところ、ラクーンの悲鳴が聞こえた。

「え!?ラクーンさんの声?」
「早く上に行くぞ!」

 驚いた様子のミナスを抱えるようにして、ギルが走り出す。
 他の仲間も急いで奥の扉を潜ると、ラクーンが必死に叫んでいる声が耳に届いた。

「争いは終わったんです。その剣を収めてください!」
「上にまだ一味がいたのか!」

 一行は目の前の階段を駆け上がったが、一歩遅かった。
 屋上へと上がった冒険者達がまず目にしたのは、高らかになびく白旗。
 その傍らで血を流して倒れているラクーン。そして、血のついたナイフを持った山賊だった。

「ラクーン!!」

 ルースターが駆け寄るも、もう事切れていることは明らかだった。
 山賊の手下が、狂ったように弁護をしている。

「ち、違うんだ!これは手違いだったんだ!誤解なんだ!」
「手違いですって!?どこがよ!」
「頭領がもうあんたらにやられていると知ってたら刺したりしなかったのに!」

 自分は悪くないと必死に弁護を繰り返していた山賊が後ずさる。

「危ない!」

コデルモリア13

 ギルが手を伸ばしたが、端っこにあった山賊の身体は既に落下していた。
 ・・・・・・白旗は強風に煽られてなびいている。
 辺りを見渡すと、散り散りに逃げていく山賊たちの姿が見える。先に戦った者達の遺体を見て呆然としている者もいた。

「・・・・・・ギル。もう、行こう。ラクーンさんを連れて行ってやらねば」
「・・・・・・うん」

2013/03/29 05:44 [edit]

category: コデルモリアの英雄

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Fri.

コデルモリアの英雄 4  

コデルモリア8

「危ない!」

 いちはやく殺気を感知していたエディンだったが、その言葉は遅かった。
 なんとなれば、遠くから飛んできた矢はすでにフォックスの眉間を貫いていたからである。
 ボウガンを構えて潜んでいた、山賊の一味の仕業であった。
 ギルのひと睨みでボウガンを放り投げ逃げ出した山賊には構わず、アウロラとミナスが必死に手当てを施そうとする。

「ダメだ・・・眉間に矢が当たったんじゃ、もう・・・」
「ミナス、ちょっと待って下さい。精神を回復する方法さえあれば、一時的にですが気が戻るかもしれません」

 アウロラはそう言うと荷物袋から≪紅の果実酒≫を取り出し、フォックスの口に上手く飲み込ませた。
 ≪紅の果実酒≫はポートリオンで販売されている、紅果という果実によって作られた酒である。精神状態を落ち着かせるほか、わずかだが体力も回復してくれる品だ。
 果たして、気絶していたフォックスは目を覚まし、

「ああ・・・・・・めまいがする」

コデルモリア9

と、震え声で言った。
 もう長くないことを自分でも悟ったのであろう、ルースターに大丈夫かと問われた彼は、最期にと山賊のアジトの合言葉を言い残した。

「『アドケラヒ』だ。この合言葉を言えば盗賊ギルドの裏口の扉は開く・・・・・・盗賊から、盗み聞いた・・・・・・」
「フォックス・・・」
「ルースター・・・・・・ラクーン・・・・・・死ぬなよ・・・・・・」
「フォックス・・・・・・?フォーーックス!!」

 ルースターが必死にフォックスの肩を掴んで揺さぶったが、既にその身体の魂は失われている。

「待ってろよ。フォックス。仇を討って後で墓を作ってやるからな」
「・・・・・・フォックスが示していたのはこっちの道だ。行こう」

 非常に利己的な小悪党でしかないと思っていたのだが、意外と仲間思いだったのか。
 それとも異常事態のせいで、自分でもそう意図していないのに熱くなってしまったのか。
 どちらとも取れるような気炎を上げるルースターをよそに、エディンは先へ進む方向を指した。
 一行は山道を抜けて大きな道に出た。
 近くに滝でもあるのか、水の流れる音が聞こえる。
 辺りは少し明るくなり始めている――下手したら、盗賊たちが村へと出発するかもしれないと、気ばかりが焦った。
 ラクーンが、汗をふきふき言う。

「今さらこんなこと言っても手遅れかもしれませんが、盗賊たちに頭を下げて村を襲わないように頼んでいただけませんか?」
「俺たちが、頭を下げる?」
「平和的な解決法もあるはずです。私は、これ以上死人が出るのを見たくはないんだ・・・・・・」

 ひたすら仇を討とうと熱望するルースターと対照的な彼の言葉は、しみじみと冒険者たちの心に響く。戦場で多くの死をラクーンは見届けたのだろう。
 しかし。

「問題は、奴らにそのつもりがあるのかどうかだと思うがね。・・・窮鼠猫を噛むってのは、注意しなきゃならんぜ」

 一同の少し先を先行することになったエディンが、そう言って聞き耳や辺りの様子を探りながら返した。
 集団で待ち伏せている気配があるのだ。殺気も感知している。・・・・・・ラクーンの言葉は重いが、彼らのほうから仕掛けるつもりは満々なのだからぶつからないわけにはいかないだろう。
 支援魔法をかけた”金狼の牙”たちが先に進むと、そこには待っていたと言わんばかりに盗賊が3名、そしてそのリーダー格らしき人間が1名待ち構えていた。

「おやおや。誰かと思えば自称英雄の腰抜けたちではないか。・・・物騒なのが数名ついてきているようだが」

コデルモリア10

 リーダー格の男は、ちらりと”金狼の牙”たちを見てから言った。

「一応聞こう。一体何の用だ?」
「村への攻撃をやめてくれ。受け取った1000spは返すし、それに加えて2500spも支払おう」

 ラクーンの嘆願は、しかしリーダー格の男によって否定される。

「一度、頭領が決めたことは覆さないのが山賊の掟だ」
「・・・・・・ま、そう言うと思ったね」
「むしろ分かりやすいな」

 ギルとアレクがすらりと得物を抜き払った。たちまち剣戟が響く。
 リーダー格の男は、それでもギルやアレクと同じくらいの実力は持っているようであった。
 こんな片田舎で山賊にさせておくにはもったいない腕だ、と思いつつも、エディンは冷酷に彼の胸をレイピアで突き刺した。

「うちの頭領と本気でやりあおうってのか。後悔するぞ・・・・・・」
「やって後悔する方が、やらないで後悔するよりマシだと思う性質でね」

 エディンはリーダー格の男の身体を乱暴に蹴飛ばし、レイピアを引き抜いた。

「お前さんも、もう少しついていく相手を選ぶべきだったな――いい腕してたのに、もったいない」

 アジトの表口には用心棒が番を張っている。一同は裏口に回ってアジトへ侵入することにした。
 必要な合言葉は、フォックスの遺言で貰っている。
 聞きなれない声だが正解を言い当てたために、ノコノコ裏口を開け放った見張りを手際よく気絶させると、彼らは静かに屋内へ忍び込んだ。

2013/03/29 05:43 [edit]

category: コデルモリアの英雄

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Fri.

コデルモリアの英雄 3  

 その夜は食料が少ないのを埋め合わせるかのごとく、村人たちが派手に民族楽器を鳴らし、歌い、踊り、普段のストレスを発散させていた。
 だから、宴が無事終わった今となっては誰もが深い眠りに入っているはずだ――と考えていたのだろう。
 コデルモリアの英雄が泊まっている家の近くでは、人影が蠢いている。大八車にたくさんの食料と寝具を積んでいるようだ。
 例の英雄三人組であった。
 冒険者たちと広場で出会った男の子(人間のひそひそした話し声で起きてしまったそうだ)は、風車小屋の影に隠れながら、3人の様子を観察している。

「これで荷物は全部かな」

 鼻の下の髭を撫でつつ、ラクーンが言った。
 ルースターと宴で自己紹介していた無精ひげの青年が肩をすくめる。

「さっさとここからずらかろうぜ。村人に見つかると面倒だ」
「これだけ食料を持っていけば、あと半月は食うに困らないだろう。町まで悠々自適な旅ができる」

コデルモリア5

 狐目の男はフォックスと言う名前なのだが、名前に相応しい目を細め、武器の胼胝もない手をこすり合わせている。
 どう見ても夜逃げの算段にしか見えない。
 もうしばらく何か喋らないか、”金狼の牙”たちは様子を見ていようとしたが、男の子が遂にしびれを切らせて飛び出していった。

「待てえっ!あんたら村から逃げるつもりなのか!?」
「やべえっ!村のガキだ!逃げるぞ!」

 三人組は逃げる気満々だったようだが、”金狼の牙”たちが3方向から彼らを取り囲んでいるのに気づくと、観念したのかその場に全員座した。
 ルースターが舌打ちするのに激昂した男の子が、石を投げつけようとしたがアウロラに制される。

「まずは、今までの経緯を聞きだすほうが先決ですよ。・・・・・・さて、当然話していただけますよね?」

 声を荒げたわけではない。いたって物柔らかな声音であったが、そこに含まれている迫力にびくりと3人とも肩を震わせる。
 一番人懐こい様子をしたラクーンが、まず口を開いた。

「見ての通り、私たちは英雄などではありません。戦争から逃げてきたしがないただの敗残兵ですよ」

 彼の言によると、この村はたまたま逃げてきた先に運良く見つけたものだったらしい。命からがら逃げている三人組は、とにかく安全と飯にありつきたかったのだ。
 初めは、村人たちを騙すつもりなんてなかった――と、彼は語る。

「私たちの姿を見た村人たちが、英雄様ではないか、いや英雄様に違いないと勝手に早合点してあれよあれよと祭り上げられてしまいました」

コデルモリア6

「それに気をよくして自らも英雄であるかのように振舞った。そういうわけだな」

 アレクが厳しい口調で訊ねるのに、ラクーンは首を縦に振った。

「しかし、山賊退治なんておっかねえ真似は我々には無理だ。だから夜逃げしようと・・・・・・」
「全く救いようのない大人たちだぜ。明日の朝になったら父ちゃんや村長に土下座して謝ってもらうからな」

 男の子が腕を組んで言うのに苦笑するかと思ったのだが、意外に真面目な顔のままフォックスが釘を刺した。

「ところが、明日の朝にどうするかなんて悠長な事を言ってられる事態ではないのだよ」
「・・・どういうことだ?」
「明け方にここに山賊がやってくる」

 アレクの質問に間髪いれず答えが返ってきた。

「いつものような強奪目的じゃない。村人の皆殺しをしに来るんだ」
「な、何だって!?」

 男の子が動揺して声をあげるのに、ミナスがそっと手で口をふさいだ。
 山賊たちもまた、村人が英雄を雇って山賊狩りをさせようとしているという情報をどこからか仕入れていた。
 彼ら山賊たちは、今度は自分達が脅かされる立場になるのはたまらないと、女子供も含めた村人全員を殺し、火を放って証拠隠滅をする計画を目論んでいるのだそうだ。
 何故フォックスがそれを知っているのかというと、フォックス自身が山賊の一人と交渉をしたから・・・だと言う。

「山賊にも頭の切れる人間が居て、私に1000spを手渡したんですよ。これで村と山賊の争いには一切関与しないでくれってね」

 その金を持って今夜中に村から出て行くこと。それが、フォックスと山賊の取り決めであった。
 ルースターがひどいと喚く男の子を鼻で笑い、冒険者たちに向き直る。

「あんたらが取るべき道は2つだ。この村に残って犬死するか。俺たちと一緒に逃げるか」
「取るべき道はもう一つある」

コデルモリア7

 ギルがそこでやっと口を開いた。

「なん・・・・・・だと・・・・・・」
「あんたたちを道案内にして、明け方までに盗賊を一掃する」
「何を言い出すかと思えば・・・・・・。とち狂ったとしか思えねぇな。村人に大した恩義があるわけでもないくせに」

 ルースターは”金狼の牙”たちを翻意させようと、相手がゲリラ戦のプロであると熱弁していたが、そこをフォックスに軽い咳払いで制された。

「まあ、仮にあなたたちに彼らを掃討するだけの明確な動機と根拠と絶対的な自信があったとしましょう。だとしても、私たちがあなたがたを裏切らないとは限らないのですよ」

 自分は山賊からお金を貰ったから加担する理由はある、しかし冒険者たちに協力する理由はない――そう明言したフォックスに、ギルはむしろあどけない笑みで言った。

「やりたいこと、やるべきことをしないまま後悔するのは御免だからさ」
「正義感がお強いのですね。仕事でお金を届けただけの村なのにも関わらず」
「正義?・・・・・・そんないいもんじゃない。ただ、今度は救いたいだけだ」

 ギルの脳裏に、麻薬の原料を栽培していた村が思い浮かんだ。自分がこの手で村人たちを皆殺しにした、小さな村だ・・・。
 皮肉な話だと思いつつも、たまにはこういうことがあってもいいだろうと、ギルはフォックスに笑いかけた。

「人はどこかで壁にぶつかって妥協を覚えていくものです。そのまっすぐさがうらやましい」
「そうかい。で、どうするんだ?」
「分かりました。あなたがたに付き合いましょう」

 ただし、とフォックスは続けた。

「あなたがたが山賊に勝ち目がないと判断したら、すぐに見殺しにしますからね」
「万に一つもないな、そんなこと」

 何せ彼らは一応、竜や死天使、キーレの蛮族たちと渡り合ってきた身である。山賊に後れを取るつもりはなかった。
 しきりについて行くと主張する男の子を宥め、村人たちにこの事態を知らせるよう説得した一行は、フォックスの案内で道なき道を歩いていった。

2013/03/29 05:42 [edit]

category: コデルモリアの英雄

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Fri.

コデルモリアの英雄 2  

 コルデモリアの英雄を探すために住民へ話しかけていた”金狼の牙”たちだったが、村人たち自身も英雄の真偽について半信半疑といったところらしい。

コデルモリア2

 それでも中の一人が、

「英雄様なら子供たちと遊んでるのを2時間くらい前に見たぜ」

という証言をした。
 目的地は川辺ということだったので、荒れた道をのんびりと歩く。

「随分と荒れてるわね」
「多分さ、洗濯をしに人が歩いてるうちに道になったんだと思うぜ」
「あ、なーるほど」

 冒険者としての仕事でない限り、こういった小村に縁のないジーニが不思議そうに言うと、ギルが肩をすくめて教えた。
 ギルの生まれ育った村も、またこういう荒れた土地にあったらしい・・・・・・本人はあまり詳しい事を話そうとはしないのだが。
 遠めに見ても人がいない道を見て、「違うところに行ったかなあ」とミナスが小首を傾げた。
 その頭にぽんと手を置いて、エディンが優しく提案する。

「広場にいってみよう」
「そっか、そっちにいるかもしれないね」

 しかし、昼頃はまばらに居た村人たちも、夕暮れ時になるとほとんど姿がない。
 広場といっても家々とは離れたところにあるので、祭でもない限り用はないのだろう。
 閑散としているがゆえに、小さな2つの人影がぽつんとあるのが目立つ。恐らく村の子供だろうと思われた。
 何やら言い争っているのが耳に入る。
 最初は何を言っているのか分からなかったが、よくよく話を聞いていると男の子がコデルモリアの英雄が偽者であると主張し、女の子が本物だと反論しているのだった。

「だいたい英雄譚ってやつはそこらの素人が作った武勇伝に、お調子者が尾ひれをつけて大げさになっていくものさ」

 男の子の台詞を聞いて、アレクが一理あるなと感心したように頷いた。
 たしかに冒険者の世界でも、取るに足らない人間が過大な評価を受けたり、あるいはその逆の評価を受けることも珍しくなかった。

(そういえば、≪星の道標≫という冒険者の店にも、大げさな表現で歌う吟遊詩人がいるって話だな・・・。あそこは中々腕のいい冒険者がいると親父さんが言っていたが、さて前者なのか後者なのか。)

等と、アレクが風の噂で聞いたことを思い出していると、男の子はさらに年不相応な目つきで、女の子を諭すように言い募っていた。

「蓋を開けてみれば何てことはないありふれた出来事だった、なんてことはざらにあることだぜ」
「違うわ!だって、あの人たちはとても優しい目をしているもの。嘘なんてつくはずがないわ」
「へっ。おめぇはまだガキだから男を見る目がないんだよ。あれはただのやさぐれ者だ」

 その台詞を耳にしたアウロラは、男の子の口調が大人の物真似らしいと見当がついた。
 きっと、父親辺りがそういった意見を発しているのを目撃したのだろう。
 2人はさほど年が離れているようにも思えなかったが、数ヶ月単位でしか年上でない関係なのだとしても、大人ぶりたい年頃なのだろう・・・特に、異性の前では。
 ただ、そんな微笑ましく思っている”金狼の牙”たちをよそに、女の子はもはや泣きそうな顔になって怒鳴っている。

コデルモリア3

「何よ!あんたも子供のくせに!」

 そのまま言い争いから掴みかかりそうになっていたが、男の子が先にこちらに気づいたらしい。
 ばつが悪そうな顔をして去っていった。
 あっかんべーをして男の子に悪態をついていた女の子だったが、こちらも少々ばつが悪くなったものらしく、英雄の行き先を訊ねるとすぐに答えてくれた。

「さっきまでは、ここで私に冒険のお話を聞かせてくれていたんだけど、あいつがやってきたのと入れ替えにどこかに行ってしまったわ」

 村の倉庫について聞かれたからそちらに移動したのかもしれない、と女の子が言うので、ギルの眉間に皺が寄った。
 こういった小さな村という共同体において、村中の食料を備蓄している倉庫は非常に大切な場所である。
 少なくとも、村長や村の有力者に聞かず、年端もいかない子供を捕まえて場所を聞き出そうとする辺りに、良くない予感がしている。
 踵を返して、急いで来た道を戻ろうとする”金狼の牙”を、女の子が呼び止めた。

「あの英雄様たちは本物よね?あいつが偽者だって言ってたのはデタラメよね?」
「・・・・・・俺たちはまだ会ってないからな。どういう人か分からなきゃ、答えようもないさ」
「そうだったわ。冒険者さんはまだ会ってないのよね・・・ごめんなさい。変なこと聞いて」
「いや、いいさ。教えてくれてありがとうな」

 ひらりと手を振って歩き出したギルを、他の仲間たちが追う。
 ほどなく、彼らは村の離れへと到着した。倉庫がぽつんと立っている。
 普通は見張りの一人も立っていそうなものだが閑散としているのは、山賊に既にめぼしいものを取られていたからだろうか。
 中では冴えない風貌の三人組が、保存食の干し肉やピクルスにかぶりつきながら酒を呷っていた。
 どうやら、この者達が村人の言うコデルモリアの英雄らしい。
 髭を鼻の下に蓄えている男が、びくびくとした様子で言う。

「そろそろやめましょうよ。村の子供たちだってお腹をすかせているでしょうしね」

 それに対して、顎に無精ひげの目立つ青年が干し肉をつまみあげて答えた。

「何を言ってやがる。3日ぶりに飯にありつけたんだぜ。食わなきゃソンソン」
「だが、そろそろやめておこう。村人たちがなにやら今夜はご馳走してくれるようだから」

 周りにろくに注意も払わずに、三人でお喋りに夢中になっているだようだったが、しばらくすると冒険者が彼ら
を見ていることに気がついた。

コデルモリア4

「はて?あんた方はどちらさんだね?ここの村人ではないようだが」
「ああ、そうだ。ここの村人じゃあねぇよ」

 エディンのからかうような調子の返事に、無精ひげの青年が口の端を歪めて笑う。

「おおかた俺たちへの報酬を持ってきてくれた冒険者だろ。村長が今日あたりに2500sp準備できるって言ってたぜ」
「ほう。そうかい。ぱっと見の第一印象では物分りの良さそうな人たちだ」
「・・・・・・さあて、どうだろうねェ」

 物分り云々を言い出した、狐のような目の男が三人組のリーダーらしい。
 ギルが無言を貫いているので、心得たエディンが対応を続けていたが、その懐に狐目の男が200spほど潜り込ませてきた。

「ねえ、ダンナたちも我々と同じ宿無しの旅人だろう?この金で今のことは見逃してくれないかね?」
「アホらしい。あんたらと一緒にされるのは不愉快だぜ」

 無断で飲食していたことについて村人に告げ口しないでくれという懇願を、エディンは銀貨ごと突っ返した。

「おやおや。ずいぶんと潔癖症なんだね。そんな調子じゃ今までの人生の半分は損してるぜ」
「冒険者は信用で成り立つ商売だ。そいつを疎かにする三流以下や紛い物と、俺たちを一緒にされたくねえんだよ。分かったら失せな」

 ”金狼の牙”の最年長者の辛辣な言葉は、そのまま他の仲間たちの総意でもあった。
 今まで、全くの奇麗事だけで冒険を続けてきたわけでもない。
 一輪しかないフィロンラの花を依頼主に届けなかったこともあれば、クドラ司祭の儀式を見たいと熱望したあまり、一つの生命を終わらせてしまったことだってある。
 しかし、それらは全て自分達の自由意志で行なったのである。
 この金を受け取る事は、自由であるという”金狼の牙”の誇りを傷つけることになる――到底同調できるものではなかった。
 一触即発の雰囲気ではあったが、三人組がそろそろ村長の家に戻る時間だと先に去っていったので、彼らも倉庫から出た。

「・・・・・・どうする、ギル。今見たこと村長に言うのか?」
「人の悪口言って時間減らすよりは、倉庫の見張り番してた方が収穫はありそうだな」
「・・・同意見だ」

 幼馴染コンビは顔を見合わせてにやりと笑った。
 残りの面子が、その様子を眺めながら口々に言う。

「あーあ。じゃあ今日は徹夜ね」
「寝ててもいいですよ。あのだらしのない様子なら、ジーニの魔法なしでも捕まえられますから」
「じゃ、俺はちょうど良さそうな見張り場所見つけておくわ」
「エディン、いってらっしゃーい」

 ミナスが小さく手を振った。夜の見張りが寒いようなら大人たちは酒を飲むだろうが、自分もおこぼれを貰えるだろうかと考えながら。

2013/03/29 05:41 [edit]

category: コデルモリアの英雄

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