Sat.

雷雲と神風 5  

 【鷹の構え】によって意識を集中し始めたギルの横を、アレクが駆け抜ける。
 たちまち、聖雷教会の者たちの中へと飛び込み、その場で剣舞を放った。超高速の【風切り】である。

「・・・・・・風よ!」

 先ほど吹き荒れた突風の一部を刀身に纏い、アレクの体が熟練の踊り子のように舞った。
 その姿に口笛を吹いたエディンが、死角からエリック司教をレイピアの刺突と短剣の斬撃で傷つける。

「ぬう!」
「悪いな・・・!こっちも、ちったあ本気ださねえとやばそうだからな」
「いくよ、皆!」
「こちらもいきますよ!」

 ミナスとアウロラが、ほぼ同時に【蛙の迷彩】と【祝福】を唱えた。二人の声が辺りに美しい合唱のように溶ける。
 その後、ミナスが呼び出したイフリートの吐息の一部とギルの斧技で聖雷教会の人間たちは吹き飛ばされ、或いは気絶したものの・・・。

「神様ねえ」
「一応は神様・・・みたいなものなんでしょうね」

 額から血を流しているアウロラが銀灰色に煌く装甲を睨み上げつつ、少し肩を痛めたらしいジーニの横でそう返した。
 薄い肩には雪精トールが乗っかり、必死でその打ち身を冷やしている。

「でも神を名乗らせたくはありませんね。あんな人形に」

 その指に神聖な光が宿り、たちまち密度を濃くしていく。【光のつぶて】の呪文である。

雷と風13

「ジーニの≪エメラダ≫で動きを止められている、今がチャンスです。ギルやアレクも分かってると思いますが・・・」
「大丈夫だよ、仲間だもの」

 ミナスがアウロラの前に立ち、小さな体で一所懸命に庇いつつ笑う。
 そのさらに前方では、無闇と大きな敵を相手に前衛たちの打ち合わせが行われていた。

「いいかい、リーダー。俺とアレクでちょっと時間を稼ぐ。その隙に飛び込んできてくれ」
「おっけー。二人とも気をつけろよ!」
「誰に言っている」
「年上に任せろよ」

 そう言い捨てると、二人はギルが【風割り】の体勢に変わったのを見届けて走り出した。
 まずはエディンがジグザグにステップを踏んで、雷神の左足首の辺りにわずかな傷を作る。
 そこへ鳥のように跳躍したアレクが、思い切り剣を振りかぶって叩きつけた。

「まだか!硬いな」
「とおおりゃあああ!」

 すかさず、非実体をも断ち割る斧が大きめのひびを作る。――あと少しだ!
 同じ箇所に当たるよう、角度を変えてジーニとアウロラもそれぞれの魔法を放った。
 その後も波状攻撃を繰り返し・・・・・。

「これで・・・終わりだ!」

雷と風14

「ガ・・・」

 アレクが対魔法生物への技として習得をした、絶対命中の剣・・・【緋色の翼】が、赤い魔力の軌跡を空に残して太い雷神の足を打ち砕いた。

「や・・・。やりましたぞ!勇者様!」
「・・・あ、はい、どうも・・・」

 枯れ枝のようなグラム司教から抱きつかれ、アレクは複雑な面持ちになった。やっぱり、こういうシチュエーションは女性の方がありがたい。

「邪教は今、ここで朽ちました!」
「ハイハイ。良かったわね」
「こんなにめでたい事がこうも続こうとは・・・!」

 追加報酬なしで戦ったことがよほどに精神に堪えたのか、勝ってもふてくされているジーニの機嫌が直る様子はない。
 それに気づいていてか、はたまた他者のテンションはどうでもよかったのか。

「さあ、今宵は祝宴です!飲み明かしましょう!」

と誘うグラム司教を断るだけの元気は、とてもじゃないが彼らには残って・・・。

「あのう・・・」
「はい、勇者様。何でございましょうか?」
「お気持ちは嬉しいのですが、宿の者も心配していますので・・・」

雷と風15

 ・・・・・・意外と残っていた。
 冷水を浴びせるようなアウロラの台詞に、ようやっと周りの様子を見る余裕が出来たらしいグラム司教は、

「そうですか・・・。それは申し訳ない」

と謝罪をする。
 800spの入った皮袋を報酬として手渡し、「雷神めを倒していただいた報酬」と、司祭の一人に目配せして奥から取ってこさせた呪文書を手渡してきた。

「いや、無理してくれなくても・・・」
「つまらぬ物ですが、お納めください」

 ミナスが固辞しようとしたのを、途中でジーニが遮り受け取る。
 やり取りが済み、暇乞いを告げると司教はにこりと笑った。

「お待ちください。少し、外に出て頂けますか?」
「はい」

 不思議に思いながらも頷いたアレク以下がそれに従うと、司教は他の教徒や司祭を下がらせた。

「皆様方の名は聖風神話に組み込み、無理矢理にでも後世に伝えましょう」

 何やらとんでもないことをさらっと言って、彼は一心不乱に何かの呪文を唱え始めた。

「まさか・・・」

 その呪文の術式に何か思い当たったらしいジーニが声を上げるも、時は既に遅かった。

「偉大なる風神よ、その御姿を現したもう!」
「ああああ・・・」

 グラム司教の皺くちゃな手の平から溢れた驚くほど大量の風が、”金狼の牙”たちを包み込む。

「今こそ我の願いを聞き届け、この地に風を起こしたまえ!」
「冗談・・・だよね?」
「いや、奴さんは本気だぜ?」
「つまりどういうことだよ、エディン」
「・・・この司教さん、私たちを風でリューンに送り届けるつもりよ!」

 ミナスとエディンが顔を見合わせ、一人分かった様子のないギルへジーニが叫ぶと同時。

「神風よ!この者どもを空へ!」
「ヒィィィィィィィィッ!」

 途中までは、空に巻き上げられ悲鳴を上げていた”金狼の牙”だったが、蒼穹の下、体勢が安定し周りを見る余裕が出来ると。

「・・・これは、凄いぜ・・・」

 感に堪えぬようなギルの声である。
 ≪エア・ウォーカー≫を使うよりも遥かに空高く、彼らは確かに飛んでいた。

「もしかしてあの小さいの・・・、リューンですか!?」
「どうもそうらしいな」
「リューンが私の親指よりも、ずっと小さく見えますよ!」
「それならあれは・・・もしかしてカルバチア!?」

雷と風16

 滅多に見られない光景に興奮し、口々に騒いでいた”金狼の牙”たちだったが・・・・・・大事なことを一点、忘れている。
 ギルが見慣れた建物を示す。

「・・・おい、見てくれよ!あれ、≪狼の隠れ家≫だぜ!」
「・・・本当です!」
「おおおおおおおおおいい!親父いいいいいいいいい!俺たちいいいいいいいい!飛んでるぜええええええええ!」
「・・・あのさ、ギル」
「どうした、ミナス?」
「僕、ずっと不思議だったんだけど・・・これどうやって降りるの?」
「・・・・・・あ」

 ちょうどその時、風が止んだ。
 そして・・・・・・”金狼の牙”一行は、美味い飯を作ってやろうと鍋の中身をかき回していた親父の眼前に、屋根を突き破って帰ってきたという・・・。

※収入800sp、【風の刃】※
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■後書きまたは言い訳

54回目のお仕事は、タチモリさんのシナリオで雷雲と神風です。レベルの割に、ご覧頂いたように軽いテンポのギャグ風味が多いシナリオとなっております。1人旅でちょっとシリアス続いていたので、流れを変えようかとこちらの作品を選択しました。しかし、いくら明るいノリとは言え、さすがに対雷神戦闘は長引きました。神風の援護がなかったらちょっと辛かったですね。
魔王を倒したら瘴気が出てきてしまう、という設定は中々見られないものですから面白かったです。どうしてそういうことになるのか、そういった伝承が後から分かりやすくPC側に出てきたらもっと楽しいのかな・・・と思いましたが、そうするとプレイ時間が長くなっちゃうのですね。一長一短です。
途中途中でプレイヤーが思わずツッコミ(花の魔王って何!?雷神と風神はこの扱いでいいのか!?)を入れたくなりました、ありがとうございました。(笑)

最初の方に出てきている他の魔王の噂ですが、一つ目は寝る前サクッとカードワースに収録の「勇者と魔王と聖剣と(ほしみさん作)」です。中堅クラスへの貼り紙と書きましたが、1~5レベル対象のシナリオですので、低レベルの冒険者の方にもぜひ挑戦して貰いたいシナリオ。
二つ目は「聖剣強奪(てつしさん作)」です。とある傭兵兄妹たちと同行するシリーズの一つなのですが、”金狼の牙”たちでこのシリーズをやると、あっという間にキャラが食われてしまうので断念しました。すごい魅力的なNPCなんですけどねー。(笑)
もしも、高レベル向け戦闘がばっちり入っていて軽いタッチのシナリオを、濃いNPCと一緒にやりたい・・・という方がいらっしゃいましたら、ぜひオススメさせていただきます。「傭兵の兄妹(同氏作)」から始まりますので、そこだけご注意を。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/23 01:42 [edit]

category: 雷雲と神風

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Sat.

雷雲と神風 4  

 グラム司教はたいそう喜び、早速、村長の家に使者を送ると意気込んでいる。
 さっそく宴会を開こうとまで言い出し始めた。
 その気持ちは有り難いのだが、何と言うか釈然としないことばかりで、今回の依頼に深く関わるのは止めた方がいい気がしてきた”金狼の牙”たちが望んでいるのは、速やかな帰還であった。
 そのためギルが報酬を催促し、受け取ろうとしたその時。
 森で起きた轟音の倍はあろうかという轟きが、彼らのいる聖風教会の建物を揺らした。
 ごとり、と梁の一つが落ちてくる。

雷と風10

「な・・・!何だ!?」

 その声に、必死に腰を下ろしている椅子にしがみつきながら、辺りを支配する音に負けぬように司教が怒鳴った。

「せ、聖雷教会の奴らです!」
「どういう事だ?」

 ギルはついに椅子と共にひっくり返った司教を助け起こしながら訊いた。
 村長の・・・ひいてはシリス村の決め事については、すでに決着がついている。これが覆ることはない。
 たとえ聖北教会の神そのものではなくとも、各々の面子をかけて行われた魔王討伐なのである。
 襲撃を仕掛ければ、そのこと自体が聖雷教会による不正があったことを周知する結果になるはずだ。
 逞しい腕に支えられつつ、グラム司教は必死に言い募る。

「とりあえず、ここは危険です!外に逃げましょう!」

 すでに天井からぱらぱらと木材と石が落ちてきている。
 迷ってる場合ではないと判断し、アレクを先頭に、司教をかばい守りつつ冒険者たちは外に出た。
 すると、確かにそこには森で出会った司祭や信徒たちの法衣などが立ち並んでいて――その奥に、眼鏡をかけた偉そうな老人の姿がある。
 老人は喉の奥を上機嫌の猫が鳴らすようにして笑った。

雷と風11

「ククク・・・。久しぶりだなグラム」
「お前は・・・、エリック!聖雷司教が今更何の用事じゃ!」
「・・・あれが聖雷教会の司教か」

 アレクはそっと剣を引き抜いた。
 彼らの殺気を感じ取り、口だけでこの場が収まらない事をいち早く察したのである。
 エリック司教とやらは、聖職者にあるまじき卑屈な笑いを顔に浮かべて言った。

「ヒヒヒ・・・、今日は君にお礼が言いたくてね。君達が森の瘴気を元に戻してくれたお陰で、完成したんだよ」
「・・・・・・確かに、魔王倒したら瘴気が吹き出たっぽい印象はあったけどね」
「・・・っていうか、聖職者が瘴気利用していいのか?」

 大人組みがこっそり話し合っているのを気にもせず、グラム司教とエリック司教の話し合いは続いていた。
 なんでも依代が完成したとか・・・・・・何の事かと首を傾げるアウロラの前に立つグラム司教が、

「ハッタリに決まっておる!」

と声を張り上げている。

「ホラ、御覧・・・。これが雷神様だよ」

 エリック司教の合図と共に、天空から舞い降りてきたのは・・・・・・ドラゴンもかくやという常識外れの大きさをした、人形であった。
 敬虔さも、威厳も、神々しさも、とかく「神」という存在にあると思われる要素は何処にも見られない。
 それでも気にすることなく得意満面となっている司教にいらっとしたアウロラが、つい冷たい声で言った。

「あれが雷神?脳みそが不自由なんでしょうか」
「・・・・・アンタ、結構言うわね・・・」

 ジーニが引きつった笑いを発した。

「今この時、雷神様は我らが依代へと憑依なさった!これで世界征服も思うがままああああ!」

 エリック司教の野望宣言に腹を立てたらしいグラム司教から、こちらも依り代を・・・とかいう不吉な単語も漏れ聞こえた気がしたが、やはり突っ込んでは負けであろうと思い、”金狼の牙”たちは戦闘態勢をとった。

「ちょっとちょっと、契約外よ!」

と主張するジーニを残して・・・。

「だって戦わないとこっちがやられちゃうよ!・・・って、あれ?風が・・・」

 ミナスが精霊とは違う風の動きに首を傾げている。

雷と風12

「な・・・!まさか・・・!」

 エリック司教が愕然とした表情に変わったと同時に、人を吹き飛ばすような強烈な突風がその場に吹き荒れた。
 敵教徒の一人が、その風によってどこかへさらわれていく。

「しめた!風神様が来たぞ!」
「・・・・・・今日の戦闘はシュールだなあ」

 もはや何かを悟った表情になったギルであった。

2013/03/23 01:34 [edit]

category: 雷雲と神風

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Sat.

雷雲と神風 3  

 聖雷教会には雷神の守護が、聖風教会には風神の守護があるという。
 それはもう聖北教会関係ないのでは、とアウロラなどは思っているが、つっこんだら負けだと思って黙っていた。

「ここが闇の森か。気持ちいい風だな」
「見てよ。あそこに栗鼠がいるわ」

 アレクとジーニがのんびりとした会話をし、ギルまでも「引退したら、こんな場所に住みたいな」などと言い出す。
 とっとと片をつけてしまいたくなったアウロラは、

雷と風6

「それより早く、魔王を探しましょう」

と促した。
 辺りに人間の姿は見当たらない――モンスターの不意打ちを警戒したため、ミナスとジーニで召喚魔法を使った後で、探索が始まった。
 闇の森。
 そういう名前に反して綺麗な花が咲き乱れている様子に、早く仕事を片付けたいと思う者も、つかの間目を細める。
 ややのんびりとした空気が流れた、その刹那に爆音が森に響いた。

「な・・・何ですか!?」

 呆気に取られたようなアウロラの声に、応える者がいた。

「フッフッフッフッ・・・」

 妙な含み笑いと共に現れたのは、赤いカソックらしき服装に大きな帽子をした髭の男と、聖風教会と違い緑色の法衣姿の男が二人。

雷と風7

「我らがいる限り、この世に悪は栄えない」
「もう春なんだな・・・」
「いや、しっかりしてくれリーダー。現実から逃げても勝てんぞ。あれは・・・」
「我らは神聖なる聖雷教会の正義の味方!」
「あなたたち、さては極悪非道たる聖風教会の手先ですね?」

 エディンの言をさえぎって彼らが正体を暴露してくる。

「我々の魔王討伐を邪魔しようと、そう企んでおるのだな」
「そいつが一応仕事なんでねェ」

 思い込みの激しそうな髭の男の口調に、エディンは誤魔化す事の愚を悟りあっさり認めることにした。・・・正直、こんな所で時間を使いたくない。

「笑止!者ども、かかれ!」

 そして髭の男が天に祈る。

「雷神様!我に力を貸さん!そこのちんくしゃに、神罰を!」
「失礼な爺だな」

雷と風8

 エディンは舌打ちした。

 「天誅!」と己に酔ったまま男がジーニを指差すと、たちまち天から雷が降り注ぐ。
 どおおおん・・・!という腹に響く轟音の中、ジーニは多少の傷を負いながらも必死で【旋風の護り】を維持し続けていた。

「・・・ゲ。ちょっと削られたわね。お返し!」
「スネグーロチカ、ジーニの援護を!」

 ジーニの手から放たれた風とミナスの雪精が、たちまち男達を追い詰めていく。
 アレクも【風切り】による円陣からかまいたちを生み出し、彼らの身を削っていった。

「まだまだ!」
「じゃあ、こいつでどうだい」

 もう一度腕を振り上げ、「天誅!」と叫ぼうとしたに違いない男の体を、エディンのレイピアが近くの木に縫いとめる。
 そして動けなくなったところで、おもむろにアウロラが歌い始める。

「汝が見るは麗しく冷たき相貌、その目に焼きつけよ、凍れる姫のかんばせを・・・!」

 エルフの歌の一族より伝え聞いた【氷姫の歌】である。
 伝説上の氷の姫の美貌を称える呪歌によって、狂信的な聖雷教会の一同の心にも精神的なダメージが与えられる。
 ばたりと倒れた聖雷教会の一行・・・だったはずだが。
 ギルが縛ろうと前に出ると、あっさりと立ち上がる。

「まだまだ!倒れるわけにはいかん!愛と平和と雷神様のために!」
「しつこいな」
「・・・宗教家ってそんなもんなんだろ」

 ギルがもう半眼になっている。
 ・・・・・・元々、人数で劣っていた聖雷教会の面々は何度か”金狼の牙”に倒されるも、不屈の精神で立ち上がってきたため、面倒になったアウロラが逃走を提案した。

「風を倒せと俺を呼ぶ!」

という、司祭だったらしい髭男の声をその場に残し、一同は違う場所へと移動した。

「ふう・・・。逃げ切れたみたいね・・・」

 すでに息が上がっているジーニがそうつぶやいた時、目の前に白い帽子を被った娘が立っているのに気づいた。
 続いて気づいたアレクもそちらを示す。

「・・・ん?あそこに誰かいるぞ」
「・・・まさかとは思いますが・・・」
「・・・もしもし」

 充分に警戒しつつもエディンが進み出て、まるで迷子にするかのように声をかけてみる。

「はい。ナンパでしょうか?」
「この森は危険だ。電撃馬鹿と魔王が潜んでいる」
「ああ、ご心配なく。私魔王ですから」
「ああ、それなら安心ですね・・・っていうか、やっぱりそうですか・・・」

 嫌な予感が的中したことへ肩を落としたアウロラに、魔王を名乗る娘は聖雷教会の者かと確認してきた。

「いいえ・・・、私たちは聖風教会の・・・」
「まあ!聖風教会のばかちんですか!突風が吹くと木々が痛むって何度言うたらわかるんですか!」
「存じませんよ、そんなこと!何で教会に行って抗議しないんです!?」
「今日という今日は許しませんよ、お仕置きですからね!」

 アウロラの心底からの叫びも無視して、魔王はこちらに戦いを挑んできた――。
 その数分後。

「わあああああん。グレてやるう」

雷と風9

 魔王は鼻水と涙を垂れ流しつつ、闇の森を走り去っていく。

「あ・・・!逃げちゃいましたね」
「追わなくていいのか?」

 ギルが斧を担ぎ直して言うと、アウロラは頬に手を当ててしばらく考え込んでいたものの、

「まあ・・・、よくないですか?」

といたって投げやりになって答えた。
 相当に、本日の仕事のやる気ゲージがダウンしているらしい。
 とにもかくにも、一応は聖風教会の依頼である「魔王」は森から追い出すことに成功している。
 シリス村に帰ろうと促す仲間の声に頷くと、”金狼の牙”は依頼終了の報告をしに司教の元へと向かった。

2013/03/23 01:32 [edit]

category: 雷雲と神風

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Sat.

雷雲と神風 2  

「お待たせいたした」

 司教と呼ばれるだけあり、その老人は質素な茶のローブ姿でありながら、ある種の厳格さを漂わせている・・・ように見えた。
 教会の応接間は白い石を多用しており、天井は高く、細長い窓が2階くらいの高さのところにぽつんぽつんと存在している。
 採光という面からしても暖房という面からしても、あまり合理的とは言えない作りだが、聖風教会の司教はしゃんと背筋を伸ばして冒険者たちを見つめていた。

「これはこれは、遠路ご苦労様です。わしはこの教会の司教を務めているグラムと申す」
「はじめまして。ギルバートと言います」

 一同を代表してギルが手を差し出すと、グラム司教はこだわる様子もなくその手を握り返した。
 その気さくな様子に安心した一同は、それぞれ自己紹介をする。

「・・・それで、依頼のことなんだが。魔王を倒せば、いいんだよな?」

 さっそくアレクが用件を切り出すと、司教は重々しく頷いた。

「違いありません・・・。皆様方には、村外れの闇の森に住み着いた、魔王を討伐して頂きたいのです」
「闇の森・・・。ここから見えるあの森の事かしら?」

 ジーニの言葉にグラム司教が首肯し、申し訳なさそうな表情に変わった。

「何分蓄えも少ないので、報酬は800spほどしか払えるあてがないのですが・・・」

 どうか引き受けて頂けるだろうか、と問われて、ギルは小さく笑った。

「困ってるんだろ?ならいいよ、それで」
「おお!有り難う存じます!」
「困ったときの冒険者よ」

 その代わり、何かあった時は後ろ盾になってよね~とジーニは気楽な口調でいい、横で聞いていたエディンは苦笑しつつ口を開く。

「その・・・魔王とやらだが。どんな形をしている?能力なんかも知りたいんだが・・・」
「人の娘と同じ姿でありながら、尋常ではない魔力を秘めております」

 なんでも、森にある植物たちをその魔力で操るのだとか・・・・・・。
 闇の森という名称はしていても、この村における森の重要性は高い。名高いアダン村やロスウェルほどじゃないにしても、質のいい薬草などが採取可能だからだ。

「それじゃあ、日が暮れる前に魔王退治にでも行ってくるぜ」
「お気をつけください・・・。既に闇の森は、悪の尖兵で埋もれております」
「ふぅん?さっき言った魔王の僕かしら、腕が鳴るわね」

 そう言って不敵に微笑んだジーニに、グラム司教がさりげない口調で爆弾を落とした。

「いいえ。聖雷教会の奴らです」
「・・・ほえ?」

雷と風5

 司教は思わず間の抜けた返事をしてしまったジーニへ、不思議そうに口を開いた。

「・・・お話、しませんでしたか?」
「微塵も聞いていませんね」

 言葉もない仲間の代わりに、ばっさりとアウロラが言い捨てる。

「実は、聖雷教会の奴らが、我々の魔王退治を妨害しようとするのです」
「・・・何でだよ?」

 理解できないと言うように首を振るギルに、

「・・・それも、お話していませんでしたか・・・」

と司教が肩を落とした。

「我が村には教会が二箇所存在するのはご存知でしょうか?」
「ええ。先程拝見しました」
「神聖なる聖風教会と、あの邪なる聖雷教会めです」
「・・・嫌な予感がするな」

 ギルの眉間に皺が寄る。これは――ひょっとして、教会同士の派閥争いなのではないだろうか?
 案の定、グラム司教は聖風教会が聖雷教会と村の寄付を巡って対立しているのだという話を始めた。
 邪教と司教は呼んでいるが、あの聖雷教会も聖北教会の流れを汲んでいるのは間違いないらしい・・・。

「左手と右手が争うってやつか」
「どちらにしろ村人は可哀想だな。どっちに寄付するんだって、結局は金を取られてるんだから」

 こっそりとアレクとギルが耳打ちするのにかまわず、段々と司教の様子はエスカレートしてきている。

「そんな折に闇の森に魔王が住み着いたのです!そして村長は決断しました・・・今後我が村は、魔王を追い払いし教会のみに、寄付を収めると!」
「それで私たちに、魔王をですか・・・」

 話を聞いてがっくりと脱力したアウロラに、司教はまたもや重々しく言った。

「これは忌々しき事態です。下手を打てば善良なる村民が、邪教に囚われてしまいます」
「もう依頼を、受けちまったからな」

 諦め気味のギルは、一同へ「早いとこ片付けて、寝るとするか」と提案したのだった・・・。

2013/03/23 01:31 [edit]

category: 雷雲と神風

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Sat.

雷雲と神風 1  

 露すら降りそうにない、そんな清んだ空の朝のことであった。
 壁の貼り紙を見ている”金狼の牙”たちに、朝食の食器を片付けていた親父さんが声をかける。

「お前たち、その依頼に興味があるのか?」
「まあな」
「その依頼はだな、シリス村の坊さんからの依頼だ」

 アレクが相槌を打つのに親父さんはそう返答すると、最後の皿を棚に戻してから言葉を続けた。

雷と風1

「確か聖風教会の坊さんだ。聞いたこともない宗派だがな」
「アウロラ、知ってる?」

 ジーニから尋ねられた僧侶兼吟遊詩人の娘は、首を横に振った。

「さっぱりです。一体、どこの分派なのやら」
「ねえねえ、親父さん。この魔王が栄え、邪教が蔓延る現世を救うとか何のこと?」
「近所の森に魔王が住み着いて、かなり困っているらしい」
「また魔王退治ですか・・・。最近そういう依頼が多いですね」

と、アウロラが首を傾げる。
 こないだも中堅クラス向けの貼り紙で、「『魔王』を名乗る不審人物による営業妨害を受けている」と、とある商店からの依頼が来ていた。
 他の店でも、自分たちと同じくらいの実力のパーティが片付けた依頼において、「聖なる剣の探索に赴いたら魔王が出てきた」とかいう噂も聞いている。

「まあお前たちの実力なら、なんてことない依頼だろ。キーレの英雄様なんだし」
「・・・何だかねえ。それ自体は本当なんだけど」

と言って、ジーニは杖の髑髏で肩を叩く。
 いくら褒め称えられても、自分たちのことだと実感が湧きづらいものらしい。

「報酬は800spだ。受けてみないか?」
「うーん、報酬は相場より低めかな?」
「ミナスの言うとおりだが・・・。リーダーのリハビリで受けるには、ちょうどいいかも知れないな」
「魔王が?まあいいや、親父さん。引き受けるよ」

 ギルの返事に、親父さんは安堵した様子であった。

「シリス村なら、半日もしないで着くだろう」
「それじゃあ、行ってくるわね」

 気楽にジーニが手を振って歩き出し、他の仲間たちも三々五々挨拶をして、宿を出立した。
 親父さんの言葉どおり、半日と経たずシリス村に到着する。

「ここがシリス村か。綺麗な場所だな」

 ギルは辺りを見回した。
 極めて裕福そうというわけでもないが、ちゃんとした造りの家々が蒼い空の下に立ち並んでいる。
 近くには緑豊かな森が広がっていた。

雷と風2

「早めに仕事を終わらせて、日向ぼっこと洒落こむか」
「またまた、何を暢気なこと言ってるのよ。それより、雇い主を探すのが先じゃないの?」

 ”金狼の牙”たちは手分けして教会を探し出した。ほどなく、ギルが一つの建物を指差して仲間に問う。

「依頼主の教会って、あれじゃないか?」
「・・・らしいわね」

 ジーニは素早くその建物に視線を走らせた。
 村の規模と比べればやけに豪勢なつくりである。
 真ん中が膨らんだ独特の柱の形、重厚そうな扉の様子。流石にリューンのそれとは比べようもないが、宗教との縁が薄いカルバチアの教会よりは立派かもしれない。

「行きましょう」

 杖を気楽に振り回しながら歩む彼女に促され、一同はそちらへと歩む。鼻歌交じりにジーニがドアをノックしてみるが・・・。

「ごめんください。・・・ごめんくだ・・・」

雷と風3

「・・・待ってください」

 彼女の繊手をアウロラがそっと止めた。

「何よ?」
「依頼主の教会は、確か聖風教会でしたよね?」
「・・・そうだけど?」

 何を今さら、と不満そうに口を尖らせるジーニにアウロラは言った。

「ここは聖雷教会ですよ」

 ほらそちらに看板が、とアウロラが≪薔薇の指輪≫のついた指で示したのは、確かに”聖雷教会”と彫られた重厚な白い石の看板だった。

「・・・紛らわしいわね」
「それなら、あの教会じゃないかな?」

 ギルがこの教会の向かい側へ顎をしゃくると、そこには確かにこれも教会らしい、十字のついた建物が見えた。
 どうやら村には二種類の教会が存在するらしい。
 もしかすると他にも存在するのかも知れないが、見渡した限りでは人家や農耕地などばかりである。
 石の階段を降りたアウロラが駆け寄り、建物の前に立てられた看板を読む。

「間違いありません。聖風教会ですね」
「それじゃあ・・・」

 こっちでいいの?と首を傾げたミナスを、アレクが抱き上げてもう一つの教会へと歩み寄る。
 そしてそのままノックをするよう促したので、先程からノッカーを叩いてみたくて仕方なかったミナスが、ぱっと顔を輝かせた。
 聖雷教会の建物前にいた他の面子も揃い、ミナスはどきどきしつつノッカーを叩いて声をあげた。

「・・・ごめんください」
「・・・はい。どちら様でしょうか・・・」

 青い法衣に身を包んだ、金髪の女性がドアを開いた。
 武装をした”金狼の牙”の姿に、不審そうに眉を顰める。
 アウロラが一歩進み出て彼女に名乗り出た。

「≪狼の隠れ家≫の者です。魔王退治の依頼を受けてきたのですけども・・・」
「ああ。確かに承っております」

 女性はほっとした様子に変わり、

「司教様をお呼びいたしますので、中で少々お待ちください」

と言って彼ら一行を通した。

2013/03/23 01:30 [edit]

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