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Tue.

闇のなか、白き夢魔と 5  

(・・・。依頼人を裏切ることになっちまったな)

 それだけではない、これが盗賊ギルドにばれることになれば、エディンはただでは済まない。
 なのに、何故助けてしまったのか――。
 彼の目の前には、裏口から運び込んだ暗殺者の姿があった。白い肌に幾重にも巻かれた包帯が痛々しい。

「二、三週間ほどで日常生活には支障がなくなる。――アウロラはそう言ってた」
「・・・・・・・・・・・・」
「お前の世話については、この宿の娘さんに頼んである」

 まあ養生するこった、と言い捨てたエディンに、暗殺者は声をかけた。

「・・・待って」

 頬に、愉快げな笑みを浮かべている。

「どうして、私を助けたの?お優しい冒険者様の、憐みの心?それとも、単なるご酔狂かしら?」
「・・・・・・・・・・・・」
「どうして、私が――」
「・・・よせ」
「・・・・・・・・・・・・」

 エディンは腕組みをして”白き夢魔”を見下ろした。

夢魔14

「いずれにしても、冒険者エディンは、お前なんぞに殺せはしねェ」
「・・・・・・・・・・・・」
「いつでもまた襲って来やがれ。返り討ちにしてやるよ・・・必ず、な」
「・・・ふん」

 そのまま階下へと降りていく。
 ・・・エディンには分かっていた。
 冒険者になる前の己の技量では、イーノック村でこの娘に出会った時に死んでいたのは、自分のほうであったろう事を。
 つまり――幹部から、イーノック村で”白き夢魔”のいる一族殲滅を命じられていた時点で、彼は捨て駒であったのだ。
 それが偶然により生き延びてしまった・・・・・・。
 幹部にとって今すぐ消さなければ都合が悪いわけではなかったが、予想外のことであった。そこで幹部は、例の老人夫婦に「追加依頼」を出すようにした。
 その「追加依頼」の形跡に気づけば、すぐ”白き夢魔”は彼を見つけ殺しに行くであろう・・・そう考えていた幹部にとって誤算だったのは、他の幹部からエディンが盗賊ギルドのメンバーの探索を命じられたことである。
 おかげで盗賊ギルドの”黒鼠”は姿を消し、冒険者エディンという名の男が≪狼の隠れ家≫に住み着くようになった。
 それでも、”白き夢魔”はエディンを見つけて襲い掛かってきた。

(誤算だらけだったってえわけだ、あの人は。)

 ――実は三ヶ月ほど前、エディンを捨て駒にしようと目論んでいた幹部は、ギルド内の勢力争いを上手く泳ぎきることができずに殺されている。
 つまり。
 今現在、エディンがあのイーノック村での仕事を引き受けた詳細は、もう他に知る者がいないのだ。
 ウイスキーの杯を煽りながら、エディンは一人考え続けていた。
 生かせば、娘は必ず毒刃となる。
 それは分かりきったことであった。
 ではどうして、かような非合理きわまる行動を取ったのか・・・?

「・・・・・・・・・・・・」

 ――単純に、娘に同情したのだろうか。家族をすべて失い、死に掛けて息も絶え絶えにしていたのが、惻隠の情を招いたのか?
 ――それとも、魅了されたか?娘の銀髪と、その美貌に?

夢魔15

「・・・アホらしい」

 そのどれでもなかった。
 彼は知っていた――もう道化師として踊らなくていいことを。だからこそ、もう一人の道化師――いや、この場合は夢魔か――を連れて、演技の必要がない舞台を降りたのだ。

「・・・あら、エディンさん。こんなところにいたの」

 宿の娘さんが声をかけてくる。

「悪ぃな、娘さん。厄介ごとを押しつけちまって」
「ううん、構わないわ。・・・それにしても、随分と綺麗な娘ね」
「・・・・・・そうかい?」

 エディンはすっとぼけて耳の穴をかっぽじった。

「・・・ねえ。あの娘っていったいなんなの?」

 娘さんは楽しそうな声音で追及してきた。

「単なる行きずり?エディンさんの新しい冒険者仲間?」
「・・・ただの行きずりだよ」
「道端で倒れてたのを、助けてあげたってことかしら?いい人ね、エディンさん」
「ヘイヘイ。最近の夜道は物騒だ。娘さんも気をつけてくれよ」
「はーい」

 さる出来事で、軽戦士(フェンサー)と名乗れるほどの技を取得した娘さんが、親父さんに隠れてリューンの暴漢たちを夜中懲らしめていることを、エディンは感づいていた。

夢魔16

「・・・さて、仕事しなきゃ仕事」

 彼女が明るく言って走り去るのを、エディンは止めずにただ杯を空けた。もうそろそろ、街に東雲が訪れる。

※収入2000sp※
--------------------------------------------------------

■後書きまたは言い訳

53回目のお仕事は、テンさんのシナリオで闇のなか、白き夢魔とです。読み物系CWシナリオと謳っていらっしゃいますが、「隠者の庵」(Fuckin'S2002さん作)対応のキーコード反応が色々ついていて、ちょっとしたゲーム性も持ち合わせてらっしゃると思います。また、本編上の古風な描写表現は、すべてこのシナリオ作者様がお書きになった文章で・・・久々に見た形容詞などが面白かったです。漢字変換が大変でしたが。
善人とも悪人とも言い切れない、淡白な熟練冒険者対応シナリオとありまして・・・これはエディンじゃないかと。
ただ、本シナリオでは、キャラクターがイーノック村を壊滅させたのは、3ヶ月前の出来事だったりします。
冒険者になってからだと、かえってエディンはこういった依頼を受けなさそうで、盗賊ギルド時代の話に変更。ついでにあっちこっち改変したら、エディンが幹部に疎まれていた設定になってました・・・おやあ?(笑)
最後にエディンが”白き夢魔”を助けたのは、本人が口に出したように死体をうっかり作ると後始末が面倒なのと、自分のやらかした事ながら盗賊と暗殺者のいざこざが冒険者となった今では馬鹿らしい、という理由から来るものです。勝手なオトナですね。
そうそう。スティープルチェイスに出場したのは、もしかしたら”白き夢魔”を誘き出せるかも・・・という思惑が無意識に絡んでいたのかもしれません。ハセオに悪いので、エディンはあえて気づかないようにしてますが。

最初のところで仲間をお見舞いするのも、当然ながら本編にはございません。本編のハードボイルド成分を知っていて、どうしてもここで「いつものお父さんエディン」らしさを書きたくなり付け加えました。ギル、どこまで脱がされちゃったんでしょうね?
ミナスがアッシュやシエテと共に向かったのは、手前味噌ですが私のシナリオの「防具『静屋』」です。・・・本当は、「きつねのパン屋さん」(星色さん作)やメレンダ街(作者さん色々)に向かいたかったんですが、あれってリューン市内ではないんですよね・・・。ミナスが案内する以上、リューンから出て云々ってことはなさそうなので、やむを得ず使ってみました。でもダウンロードしてくれるととても嬉しいです。(何)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

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2013/03/19 08:24 [edit]

category: 闇のなか、白き夢魔と

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Tue.

闇のなか、白き夢魔と 4  

 突風が空の黒雲を運んで行き、ほろほろと青い月光が下りてきた。

夢魔10

「・・・く・・・」

 ――月に輝くその銀髪。
 ――深い蒼碧のその瞳。
 月が照らし出すその姿はあまりに美しく、ただ、娘は今満身創痍。白皙の美貌が、憎悪と苦痛に歪んでいる。

「・・・うっ・・・く・・・」

 ――やがて娘の瞳が、碧い炎のような怒りを湛えて冒険者を睨み据えた。

「・・・私の・・・負けよ。さっさと・・・殺せ・・・」

 娘は、息も絶え絶えにそう言った。一言一語を吐くごとに、その口端から鮮血があふれ出る。
 エディンは得物を収めた。――娘の眼が、驚きに見開かれる。

「・・・な・・・ぜ・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」

 エディンは答えない。ただ、凝然と娘を見つめている。
 娘の唇の端が歪んだ。ふ、ふ、と幽けき声を漏らす――冒険者を嗤笑しているのだ。

「達成・・・を・・・目の前に・・・依頼を・・・反故にする・・・の・・・?」

 娘の声は弱々しい。

「・・・それ・・・とも。私がこれを恩義に感じて・・・お前を狙わなくなるとでも・・・?」
「たわけ。こんなとこに死体作ったら、追求がめんどくせえんだよ」

 エディンには、命ある限り、娘が延々と自分の命を狙い続けるであろうことは分かっていた。

 ――なにしろ、イーノック村で、エディンが娘の一族を皆殺しにしたのだから。
 それは、彼が冒険者となる少し前のこと。
 朝に見た夢の中、四人の肉親を屠り、一人残された少年を見つめる刺客は、誰あろう、エディンであった。
 盗賊ギルドから、ギルドの敵対組織が資金援助を行なっている暗殺者集団を潰すよう要請があった。以前から存在は認知されていたものの、アジトが分からずに放置されていた矢先の話である。
 彼の目の前にいるのは、年の頃、十一、二歳ほどか。いとけない瞳は虚ろで、なんの感情も映してはいない。

夢魔11

「悪いな、坊主。――死んでもらうぜ」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・てめえらだって、相当な数の命を、その手で奪ってきたんだからな」

 少年は黙して答えない。聞いちゃいないのか、と判断したエディンが鋭い得物を構える。
 ――少年の一族は、ここイーノック村の山奥に居を構え、先祖代々、暗殺者として生きていた。イーノック村の人々からは、一族は”妖鬼”の血を引いていると噂され、畏怖嫌厭の情を抱かれていた。

「――!」
「・・・・・・ちっ!」

 急に動いた少年の投擲した暗器を、間一髪で弾き飛ばし、次いでエディンは少年の首を撃ち落とした。

(放心したフリをして、スキを窺ってやがったのか・・・ガキといえども、流石に暗殺者だな)

 そのあとで、エディンは首尾を伝えるようにと幹部から通達され、ギルドに対して一族を密告した夫妻を訪ねた。
 山小屋に五人しかいなかったことと、小屋にいたものの特徴を聞くや、老人夫婦は一様に顔をしかめ、首を振った。

「・・・”白の夢魔”が、どこぞに生き残っておるようだな」
「・・・そのようだね、お爺さん」

 ”白き夢魔”が、一味でも最強であること。外部から来る暗殺依頼のため、イーノックを離れることが多いこと。
 ――そして、やがて”白き夢魔”により自分達が殺されるだろう事を、老いたる夫婦は語った。
 手練れの暗殺者。必ず、闇に生きる者特有の嗅覚でもって、裏に老人夫妻が在ることを突き止めよう。自分達夫妻が死んだ後は、エディンに殺される順番が回ってくると老夫婦は指摘した。

「・・・ま、実行犯だしな」
「そこで頼みがあるんだよ」

 そう言うと、老婆は懐から銀貨の詰まった袋を取り出した。
 自分たちが死ぬのは構わない。だが、死んだ後、”白き夢魔”がのうのうと世に生きるかと思うと、それだけが心残りなのだと。
 必ずエディンの前に暗殺者は姿を見せるだろう――その時に、確実に”白き夢魔”を”誅殺”してほしい。

夢魔13

「そん時、あんた等はくたばってる。俺が、確実に依頼を実行するって保証があんのか?」
「・・・”担保”はある」

 だからこそ、今回の案件を盗賊ギルドに依頼したのだと。
 もし依頼を実行しなかった場合、エディンは必然的にギルドから目をつけられることになる――盗賊として長く生きてきたこの男が、それを許容できようはずもない。

「・・・。追加依頼は受けてやるよ。どうせうちの幹部も知ってるんだろうだからな」

 エディンは銀貨の袋を受け取った・・・・・・。

2013/03/19 08:04 [edit]

category: 闇のなか、白き夢魔と

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Tue.

闇のなか、白き夢魔と 3  

 ふと。
 背後に剣呑な気配を感じた。
 冒険者は振り向けど、見やった先は、夜闇の玄色に呑まれるばかり。夜の無言があたりを領し、何が聞こえてくるでもない。

「・・・・・・・・・・・・」

 気の迷いと断じて歩き出すが――――ふたたびエディンは歩みを止め、振り返って後方の闇を見やった。
 依然、後方に奇異なところは見られない。――併し、冒険者としての直感は、近くに”死”が迫っていると警告する。
 闇が黒洞々と口を開けたさまは、さながら異界の狂獣が、暗いあぎとを貪食的に開いているようだった。

「・・・・・・・・・」

 仲間を巻き込まないために、彼はあえて外をうろついていた。その甲斐は・・・・・・何とかあったらしい。
 エディンはポケットの中にジーニから借り受けていた魔法の指輪を握りこむと、そっとコマンドワードを唱えた。

「生あるものを碧に染めよ」

夢魔4

 それは、術者の視界内に存在する生命力を感知するための魔法である。生命が発しているオーラは、この魔法の影響下に限り術者に視認可能と化すのだ。
 夜闇の中に、エディンの視界内において、碧に染まった異質なオーラをしっかりと捉えた。

「・・・姿を見せろ」

 静かな口調である。
 しかし、既に彼の両手は剣の柄に掛かっている――右手が≪クリスベイル≫、左手が≪スワローナイフ≫。
 ――暫時の間があって、暗闇の中からいらえが返ってきた。

「・・・反則じゃない?魔術を使うなんて」

 微かな衣擦れは、盗賊や暗殺者の類でなければ聞き取れなかったであろう――それほどこの娘は、闇の中に溶け込んでいた。

夢魔5

「・・・いずれにしても、気取られてしまった以上、奇襲は失敗ね・・・」
「そうかい」
「・・・やるじゃない?冒険者エディンさん?」
「・・・・・・スティープルチェイスで知ったか」

 暑さのまだまだ引かない林檎の実る季節に、リューン市内でとあるレースが行なわれたことがある。
 寡婦である八百屋から、夫の代わりに出場して欲しいと依頼を受けた”金狼の牙”たちは、優勝を目指してレースの傾向や周りの地形を調べ上げ、騎手となったエディンを入賞させようと頑張った。
 そしてエディンは見事にその期待に応え、2位に入賞したのである。

「あんま目立つのはまずいかとも思ったが、断りきれる雰囲気じゃあなかったからな・・・」

 エディンはそう言って話を逸らしつつ、密かにマント裏に括りつけたあの時の銀メダルを握り締め、とある切り札をマントに隠して用意した。
 濃密な闇の中から、流麗な動作でするりと一つの影が抜け出てくる。
 暗闇で有利なのは圧倒的に相手の方であった。

(・・・暗殺者相手に暗闇での勝負は、愚の骨頂・・・)

 だからエディンは――。

夢魔8

「・・・。闇を、消したか」

 闇の中に杳としていた暗殺者の姿を、エディンが切り札として隠し持っていたランタンの光が露にした。

「・・・これで、勝負は五分と五分だ」
「・・・。暗殺者の特質を知悉しているというわけ・・・」

 その夭夭たる姿態。暗殺者の正体は、うら若き娘であった。

「お前の同胞(ハラカラ)は、俺が殺したぜ。・・・一人残らず、な」

夢魔6

「・・・知っている。だから、私はここに来たの」
「・・・・・・・・・・・・全部、予定通りだな」」
「・・・。どういうこと?」
「依頼人達は予測していたんだ。俺がそうしたことで、手前らがお前さんに殺されると」

 暗殺者は動く気配がない。

「だが、アイツらは、てめえの命を犠牲にしても、お前達を倒そうとしていた」

 自分達が死んだ後、あの暗殺者はエディンをも倒しに来る――依頼人は、そうも言っていた。

「・・・俺は、彼らの”切り札”なんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「全ては予定の内だ。てめえが依頼人達を殺したのも、ここに俺を殺しに来たのも」

 ちゃきり、とエディンは剣を抜いた。

「お前はついに現れた。・・・ここで、すべてが終わる」
「・・・知っているでしょう?私は”白き夢魔”。一族で最強の暗殺者よ」

 娘の口元が淡々と言葉を紡ぐのが見える・・・。

「そう易々と、貴方にやられたりはしない・・・」
「・・・ほう」
「・・・その首、貰い受ける」

 ――飄忽として、その姿が消えた。次いで、猛然たる白刃の閃舞――。

「――っ!」

 辛うじて勘だけで反応したエディンは、その長剣の刃を≪スワローナイフ≫の護拳部分で叩き落し、軌道を逸らす。

(長時間の戦闘は、こちらがいたずらに消耗するばかり・・・)
(確実に当たる技で、早々に決着をつけるべきだ)

 所詮は一冒険者と侮ったか、来るであろう反撃を、余裕で見切ろうとした暗殺者の目の前で――。
 エディンの長身が、消えた。

「えっ!?」

 ”白き夢魔”は初めて虚をつかれたような表情で短剣を構えなおすが、その防御を縫うように刺し込まれたエディンのレイピアが、彼女の肺の辺りを突き刺した。

「――うぁっ!?」

夢魔9

「・・・・・・なぁ、嬢ちゃん。俺ァ、確かにロートルもいいとこだが・・・おかげさんで暗殺者の戦い方くらいは、ちゃあんと分かってるんだよ。自分で使えるくらいには、な」

 鼠の行路と揶揄される下水道の一角で、エディンが磨き上げた技――【暗殺の一撃】は、確かに夢魔を打ち払ったのであった。

2013/03/19 08:03 [edit]

category: 闇のなか、白き夢魔と

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Tue.

闇のなか、白き夢魔と 2  

 その日の夜のこと。
 エディンの隣にはいつもの飲み仲間ではなく、細い体に釣り上がった三白眼が特徴的な男が座っていた。
 提示された条件に、フンとエディンが鼻を鳴らす。

「銀貨500枚だぁ?冗談は顔だけにしとけ。エール一杯で手を打て」
「・・・エール一杯?おいおい、そっちこそ冗談だろ。こっちは商売なんだぜ?」

 ≪狼の隠れ家≫に属する冒険者の中でも、”イタチ”はちょっと特殊な男だった。
 盗賊ギルドと強い繋がりを持っており、たまさかギルドから情報を仕入れては、宿の親父さんや冒険者たちに売りつけている。
 しかも、情報を売る先というのを間違えることが無い――確かな目利きと情報収集力を持つ人材であった。惜しむらくは、金銭に至極貪欲なことぐらいだろう。
 ”イタチ”は長い髪を揺らしてエディンの顔を覗きこんだ。

「それに、この情報がないと、大変なことになるのは間違いなくアンタだぜ?」
「・・・ポーカーの負け分は、まだ払ってもらってねえぜ。イタチさんよ?」
「・・・ああ。そんなモンがあったっけ?昔のことだ、忘れちまったよ」

 形勢不利と感じたか、ふいと”イタチ”が視線を逸らした。

「ふざけた野郎だ。たった一ヶ月前のことだぜ?だがまあ、そいつはチャラだ。なかったことにしてやるよ」

 銀貨を数枚カウンターに放り出すと、娘さんにエールを一杯注文する。

夢魔3

「ついでにエールを一杯くれてやる。それで充分だろうがよ」

 聞いた男は、降参するように諸手をあげ、笑い出した。

「あっはっはっは・・・仕方ないね。エールを二杯にしてくれたら手を打つよ」
「・・・まったくふざけた野郎だぜ」

 エディンの恫喝交じりの台詞もなんのその、男はにやりと口の端を上げた。

「命を狙われてるよ、あんた」

 エールを続けざまに二杯干すと、さらりと”イタチ”はそう言った。

「・・・へっ。そいつは物騒だな」

 蕪と兎のクリーム煮の残りをつつきながら、エディンは口を開いた。

「どこのどいつが狙ってるんだ?恨みを買う覚えは――まあ、なくはねェがな」
「あんたが昔に一人で受けた仕事があったろう。冒険者になるちょい前、小さい村のことだ」
「・・・。イーノック村での仕事か」
「そうだ。その仕事だよ。そいつに関わりがあるらしい」

 ぐさりと兎肉を突き刺し、その端っこを齧りつつエディンは心中で呟いた。

(・・・なるほど・・・。そういうことか。いや、正夢ってやつかねえ。)

 急に静かになった男を訝しく思った”イタチ”が、「・・・ん、どうした、エディン?」と聞いてきた。

「・・・なんでもねェよ。それより、話を続けろ」
「その仕事の依頼人だがな。一家もろともに、奴に殺されちまったそうだよ」
「あの連中が殺されちまったか。恐ろしい話だな」
「ああ。誰も生きてはいないよ」

 ここで”イタチ”は声を潜める。

「・・・殺ったのは、”白き夢魔”と呼ばれる名の知れた殺し屋だ。両刀使いでな。短剣を右手、長剣を左手に戦う」
「へー。俺のちょうど逆か」
「そして、異常に夜目が利く。夜行性の獣のようにな。夜闇は、奴ら暗殺者の”庭”だ」

 ”イタチ”は水平に伸ばした左手をぴたりと自分の喉笛に当てた。

「奴は、暗がりから忍び寄り、あんたの喉笛を掻き切ろうとするだろう」
「いよいよもって、おっかねェな」
「・・・。奴は、あんたの仕事に直接関わった者を、全員始末する腹積もりらしい」
「・・・・・・・・・」
「依頼人一家はもう死んじまった。残ってるのはあんた一人だ」

 音も無く席を立つ情報屋に、エディンは一瞥をくれただけでまた蕪と兎の制覇に戻った。

「奴は最近リューンに入ったらしい。せいぜい、気をつけるこったな」
「・・・もう、リューンに来てやがるのか」
「・・・・・・・・・」
「・・・わかった。貴重な情報をありがとうよ」

 ひらひらと手を振るエディンに背を向けた”イタチ”だったが、芝居っけたっぷりに振り返る。

「・・・ああ、最後にもうひとつ」
「――なんだよ?」

 ”イタチ”は下卑た笑みを満面に浮かべた。

「誑かされるなよ?”白き夢魔”の正体は、すこぶる美しい娘だそうだ」

2013/03/19 08:01 [edit]

category: 闇のなか、白き夢魔と

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Tue.

闇のなか、白き夢魔と 1  

 ・・・・・・それはかなり昔のこと。
 刺客の血塗れた白刃を前に、幼いその少年は、じっと部屋の中央に座り込んでいた。
 そのいとけない瞳は、何の感情も映していない。
 茫然自失・精神恍惚の態である。

夢魔1

 部屋のそこかしこに転がっている骸は、少年の肉親のものであった。
 祖父と祖母、父と母。肉親四人の死肉と血海に囲まれて、少年は踞座していた。
 そして、肉親の命を奪った忌わしい刃は、今、少年自身に向けられていた。

(・・・・・・二度と見たかねえと思ってたが・・・ずいぶん昔の記憶をほじくりかえしてくれるじゃねぇか・・・。)

 申し訳ないけど、死んで貰う――そんなようなことを、刺客は言う。
 遂に、無慈悲な一剣が、幼い命の上に振り下ろされた。
 ふたたび刃が血煙を呼び、少年の首ががっくりと落ち、すべてはここに収束するところとなった。
 ――否。まだ、終わっておらぬ。
 生命のともし火がひとつ、まだ吹き消されぬまま残っておる――。

「・・・・・・っち。久々に夢を見たと思いきや、昔のこととはね」

 忌々しげに舌打ちをしながら、エディンは腹筋を使って半身を起こした。
 既に日は昼前近くの位置にまで昇っている。
 同室のミナスは起床してギルの看護に行ってるらしく、寝床はきちんと整理されて空になっていた。
 少し寝癖のついてしまった頭髪をがりがりと掻く。

「あーあ。・・・・・・何か嫌な一日になりそうだ」

 わざとらしいため息をついてから、エディンは服を着替え始めた。
 ――ギルが衰弱して帰ってきてから、3日。
 ”金狼の牙”の仲間であるアレクは、依頼で知り合ったと言う中年の男に、護身術や冒険者の心得などを教え込んでいる。
 確か――サリマンという名前だったか。
 ジーニはといえば、どこぞの伯爵の依頼を請けるため、迎えの馬車に乗って出かけていた。
 独特の歩調で廊下を歩き、ギルの部屋を覗く。

「おう、どうだいリーダー。調子は」
「エディン~、そろそろ俺一人で体ぐらい洗えるって、アウロラとエセルに言ってくれ~!」
「いけませんよ。ついこないだ死に掛けたのに、何言ってるんです。ちゃんと養生なさい」
「アウロラさんの言うとおりですよ!ちゃんと寝てないと!」

 ギルの枕元の右側に手ぬぐいを持ったアウロラが、その後ろにエセルが水差しを抱えて立っている。
 左側で彼のために絵本を朗読していたミナスは、目を丸くしてその様子を眺めていた。

「・・・いやいやいや、なにこれ。どういうこと?」
「どういうも、何も。体を拭かないと不衛生だからと言ってるのに、嫌がるんです。あなたからも何とか言ってやって下さいよ」

 エディンの疑問にアウロラが堂々と答えているが、さすがに年頃の男が寄ってたかって妙齢の女性二人に体を拭かれるというのは・・・。

「・・・本人がいいっつってるんだから、許してやれば?」
「ダメですよ、この人面倒くさがりなんですから!」

 エセルが抗議した。

「見てないところで手を抜きますよ、きっと」
「すごい、エセル、ギルのことよく分かってるぅ」

 ミナスが思わずそう言って拍手する。
 それにギルが「暢気にいってる場合か!?拭くだけならお前だけでいいだろ!?」と噛み付いた。

「あ、それ無理。僕、静屋さんまでアッシュとシエテ連れて遊びに行く約束なの」
「なにぃいいぃ!?」

 ≪クドラの涙≫の探索依頼失敗後に行ったロスウェルで、色々な縁があり≪狼の隠れ家≫へ冒険者として登録をすることになったアッシュは、若い女性の盗賊である。
 まだリューンの地理に慣れていないということで、暇がある時に、誰かしら彼女を案内することにしている。
 ミナスはシエテと一緒にいることが多いから、同道して遊びに行くことにしたのだろう。
 防具「静屋」は、防具と銘打っている割に装飾品ばかり置いている一風変わった店である。
 店主の老婆は昔冒険者をやっていたとかで、その手の冒険談を現役から聞くのを好み、その際には必ずお茶を振舞ってくれるというのだ。
 アッシュもシエテも、まだ実入りのいい冒険をやっているわけではないが、どんなアイテムがあるのか確認くらいしておきたいのだろう。
 打つ手なしと判断したエディンは、静かに最終通告を放った。

「・・・・・・もう覚悟決めちゃえよ、リーダー。諦めろ」

 手をひらひら動かし、その場を退散することにした。
 彼の後を追うようにギルの声が響く。

「あ、ちょ、エディン待って待って・・・・・・って、やめろー!!くすぐったいからそこ触るなあああ、触らないでー!きゃー!?」
「・・・・・・・・リーダーは犠牲となったのだ」

 エディンはこっそり手を合わせて彼の成仏を祈った。
 全然神を信仰してはいなかったが、形式美というやつである。

2013/03/19 08:00 [edit]

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