Sat.

老賢者 5  

「・・・くそっ!またこの夢か・・・!!」

 ギルは呻いた。
 何度目になるだろう、またもや響いてきた鈴の音に向かってギルは吠える。

「止めてくれよ、俺はお前なんか信じちゃいないんだ!!・・・来るな、出るな!!」

 畜生、と弱々しい声が漏れる。
 老人はギルの願いも空しく、そこにいたからだ。

「おい、頼む・・・。教えてくれ!答えろ!!あんた何者なんだ!!」
「私は、フィレモンだ」

老賢者10

「畜生!!・・・俺には分かってるんだ。あんた、神様なんだろう!?頼む、そう言ってくれよ!!」

 不心得者であるはずのギルにとって、かの老人はそうとしか思えなかった。
 何もかも見通し、何もかも知っているくせに、思わせぶりにしか真実を伝えない。
 信者とやらの祈りは届いているかどうかあやふやなのに、悪い事があればそれを「神様の罰」だと唱える教会関係者。
 都合の悪い部分は伏せ、ひたすらに神の御名を口にして人々を教化しようとする者達――。
 ぞわりと鳥肌が立つ。
 ギルの中で、何か黒いものが弾けてしまいそうだった。

「お前の仮説は、誤っている。私は忠告する。お前は、お前が真に知りたいことを私に問うべきである」
「・・・くそ・・・」

 ギルは必死にそれを押さえ込んだ。
 老人が淡々と自分を神ではないと否定してくれなければ、それはとうに弾けていただろう。
 奥歯を噛み締め、己の内部とどのくらい戦っていただろう――――。

「・・・聞いてくれフィレモン」

 ギルは顔を上げた。

「俺はもう、こんな所はウンザリなんだよ。地上に・・・出たいんだ!」

 心からの懇願だった。

「答えを言えよ、フィレモン!お前は知ってるんだろう!?なぜ誰も助けに来ないのか!!俺は生き延びられるのか!!」

 アウロラ、アレク、エディン、ジーニ、ミナス――仲間たちの顔を見たい、一緒にいて笑い合いたい、こんな所で孤独に死んでいきたくない――!
 例え死すべき時が来るのだとしても、それは今ここで一人で、ではない・・・!
 老人は答える。

「・・・救いは、常に予想外の方向からやって来る。お前は、待つことを知らぬ」
「待つって!?これ以上何をどう待てと!?何日間俺が待ってると思ってるんだ!!もう、限界なんだよ!!」
「さらばだ、ギルバート」
「畜生~っ!!」

 ・・・・・・そして四度目の覚醒。
 暗い坑道の天井が、またギルの視界に入った。

「待て、とはな・・・。待ってたってどうなるってんだ、あの爺さんは・・・」

(神ではない、と言っていた。なら・・・悪魔か?)

 ギルはそう思いつつ、近くの岩壁に耳を当てた。
 助けが来るとしたら、その方向からだろうと見当がついている。だが、耳を当てても物音1つ聞こえてはこない。
 ジーニの練成はまだ終わっていないのか、リューンにまだギルの手紙がついていないのか、ひょっとしたら――。
 ギルは静かに首を横に振った。それだけは、リーダーとして考えてはいけない。
 彼らを信じている。だが、信じるだけではなく、自分で自分を救う手立ても探すのが己のやり方だろう――ギルは背筋を伸ばして歩き始めた。

老賢者11

「・・・・・・?今、何か聞こえたような・・・」

 ギルは首をぐるっとめぐらせ、何かの音がした方へ足を向けた。
 そう、それは・・・以前にロープを垂らした、あの地底湖の方向だ!
 ギルは急いでロープを掴み、下へと降りていった。
 下にたどり着くと同時に、彼の耳に救いの声が届く。

「ギルバート~!!生きてる~っ!?」
「あの声は!!」

 ジーニの声である。”金狼の牙”で、彼をギルという愛称で呼ばないのは、彼女だけだ。
 慌てて奥の抜け穴を潜ると、そこには地底湖をボートで漕いできたらしい仲間たちがいた。

「・・・ギルバート!!」
「生きていたか!!」

 アレクが喜色満面に叫んだ。その頭上では、トールがぴょんぴょん飛び跳ねている。

「・・・お・・・・・・」

 本当は、お前たちと叫んで抱きついてやりたい。だというのに、今の彼の身体にはそんな力も入らないのだ。
 エディンが慌てて手を振って、彼を抱きとめた。

「おお、いい、いい。喋るな。・・・痩せたなぁ」
「どう、船に乗れる?」

 ミナスが心配そうにギルの顔を覗き込み、アウロラが無言のままそっとギルの手を取った。
 ぎこちなく彼は首肯した。

「あ、ああ・・・・・・」

 ――こうして、ギルは無事に≪狼の隠れ家≫に帰ってきた。
 話を聞くと、ジーニの練成は当初の予定よりもやや遅く終了し、ギルの予想から1日ずれて定宿に到着していたらしい。
 そこで親父さんからギルの手紙を受け取ったが、到着予定日に彼が来ない。
 不審を抱きながらも、様子見のために1日だけ彼らは待機していたという。
 そしていよいよギルが帰って来ないと見るや、仲間たちは親父さんにギルが戻ってきたら待つよう伝言を頼みつつ、さっさと手紙にあった小村に向かい――坑道の落盤を知ったのだ。
 落石をどうやっても除ける事ができないと判断すると、ジーニは村の古老から辺りの地形のことを聞き出し、ミナスの精霊たちやアレクの雪精トールによって、恐らくあるであろうと予測した地底湖を見つけ出した。
 一方、エディンとアウロラはジーニの考えを聞き、急いで川を利用した物売りから、ボートを借り受けられるよう説得した。
 全てが揃ってから、彼らは精霊・ナパイアスの助けを借りつつ、どうにか地底湖を漕いで救助にきた・・・というわけである。

「ただいま・・・」

老賢者12

 そう言って、痩せこけたギルが≪狼の隠れ家≫に姿を現すと、心配していたらしいエセルが奥から走ってやってきた。
 そして、彼の顔を見てワンワンと泣き出してしまい――ギルは宥めるのに必死になった。
 彼の後ろでは、仲間たちが自分たちを心配させた罰だと、にやにや笑いながらその光景を眺めている。
 ・・・・・・その日の夜。
 また、氷の鈴の音が響いた。

「また会えた、フィレモン・・・」

 ・・・ギルは、炭坑に閉じ込められていた間の夢の事を、誰にも話さなかった。なぜなら・・・。

「フィレモン・・・。俺には、あんたが何なのか、うっすらと分かった気がする・・・」
「・・・・・・・・・」
「あんたしきりに、俺があんたのことを知ってると言ったな。そして、こうも言った」

『お前が知っていることは、私が知っていることの全てだ』

 ギルには、それでやっと老人・・・フィレモンが誰なのか理解できたのだ。

「なあ、フィレモン・・・。・・・あんた、『俺』なんだろ?」
「お前の仮説は、誤っている。が、正解でもある」

 フィレモンは語る。ギルの中の、ギルではないギル・・・それが自分なのだと。

「そうか・・・。成る程ね。あんたの忠告は全て、『俺が思い出さない知識』から生まれていたのか・・・」

 洞窟においては、水はしばしば下方に流れて溜まること。じめじめした土にはよくキノコなどが生えていること。坑道はあくまで地形を利用した人間の道であり、それがどこに繋がっているのかは分からない場合もあること。
 それらは、全て冒険者であった母や、義理の姉から聞いた知識であった。・・・・・・このようにフィレモンから言われるまで、思い出すこともなかったのだが・・・。

「その通りだ。・・・自我というものは、自分の全てを表すものではない」

老賢者13

 ある病を患うと、自分の意志に反して勝手に手が動くという。腕は自分のものだが、自分に意志に反し、別の『自分』に従う。

「俺では気づき得ないことを、側面からあんたが教えてくれたんだよな・・・」
「もうすぐ、お前は目覚める」
「そうか・・・」
「・・・さらばだ、ギルバート」

 その声には幾分か、別れを惜しむような色があった気がする。
 ギルもまた、別れを口にした。それが、老賢者とギルの邂逅の終わりであった。

※収入0sp※
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■後書きまたは言い訳

51回目のお仕事は、サクッと寝る前カードワースフォルダより、風坊さんのシナリオで老賢者でございました。ギルのソロプレイです。・・・えー、ご覧いただけると分かりますように、以前キーレに出かける前に、彼がエセルにさんざっぱら振りまいたフラグは、実はキーレではなくここのことだったりします。炭坑に生き埋め、危うく餓死か乾き死に。
回避できて良かったね!

単独行をしていて落盤させてしまったとリプレイで書きましたが、本編では仲間と仕事中にはぐれたことになっております。ただ、今回の目標である「フラグはやっぱり回収したい」と、「ギルの内面もう少し何かで見れないかな」という辺りでこちらのシナリオを選択させていただきました。
不心得者であること、混沌派であること、仲間たちへの想い――そういうものを表現したつもりでいましたが、上手くいったかなあ。

さて、危うく死に掛けたギルのせいで、”金狼の牙”は少しの間、ソロで動きます。
ギルの看護でアウロラとミナスが動けないので、後三名。
・・・・・・ジーニが脆くて独特の動き方したがるんで、この人のソロが一番厄介だったりするんですが。どこに放り込んだものやら。
それでは次回をお楽しみに。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/16 11:57 [edit]

category: 老賢者

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Sat.

老賢者 4  

 ただただ白い中を、ギルは進んでいる。

「フィレモン?・・・いるのか、フィレモン?」

 氷の鈴のような馴染みの音――そして、ギルの前にあの白と黒の入り混じった空間。
 老人は変わらずそこにいた。

老賢者7

「フィレモン・・・あんたは、誰なんだ・・・?何故、水の在処を知っていた?」
「私は、フィレモンだ」
「違う!!俺は・・・あんたの名前なんか聞いてるんじゃないんだ!!」
「私が何者であるかは、お前が既に知っていることだ。お前は、お前が真に知りたいことを私に問うべきである」

 ギルの思わず激昂した言葉にも、老人は動じることなく言った。
 カッとなったギルは、拳を握り締めて怒鳴った。

「俺があんたを知ってるって!?何を知ってるって言うんだ!!俺が知ってるのは・・・」
「お前は、私に何を問う?」

 ギルはしばし、老人の顔を見つめ続けた。
 何もかも知っているような老賢者――しかし、その真意は見えない。
 急に自分が愚かに思えてきたギルは、拗ねた子供の口調で問うた。

「・・・食料が尽きた。何か、食べたいんだが」
「神は土からアダムを造り、アダムは肋骨からイブを造った」
「はぁ?」

 ギルが間抜けた声を発する。老人の言葉、それはとある一宗教の神話だった。

「土はすなわち肉なり」

老賢者8

「待てよ・・・。土を・・・食えってのか!?」

 老人は黙して答えない。
 頭を思い切り振って自分を奮い立たせたギルは、彼に噛み付くように言った。

「あんた・・・どうかしてるぜ。本当におかしいぜ。何者なんだ!!何故俺のことを、水の在処を、食べ物の在処を知っている!?」
「お前も知っていることだ」
「・・・っ!俺が!?俺が何を知っていると・・・」
「お前が知っていることは、私が知っていることの全てだ」

 老人は淡々と台詞を吐く。

「何だって・・・?」
「さらばだ、ギルバート」

 空間が白く輝き、ギルは目を覚ました。
 土はすなわち肉なり、老人の助言はギルの頭にしっかりこびりついている。
 食えるわけがない――ギルは首を横に振った。
 自分を納得させようと、今までのことを無理矢理まとめようとする。

「・・・爺さんの夢なんて、ただの妄想だったんだよ・・・。水だって、偶然俺が見つけたにすぎないじゃないか・・・」

 何がフィレモンか、食料だって自力で探してみせると奮起したギルは、前よりもしっかりとした足取りで坑道を進む。
 そして――それは徒労に終わりそうだった。

「くそ・・・目が・・・回る・・・」

 坑道のあちこちを歩き、ギルが最後に向かったのは元々の入り口の方だった。
 だが――水分は補給できたが、まったく食料の入っていない空っぽの胃袋を抱えたままでは、力の入りようもない。
 眩暈を押し殺そうとしたが上手くいくわけもなく、ギルはその場で崩れ落ちた。
 視界が滲む。
 もうこれは本当にダメじゃないだろうか、そう思ったギルの手が――何かを掴んだ。

「・・・これは・・・!?」

 地面に、土くれとは違う感覚がある。
 はっと気が付いたギルは、手の中を見つめた。

「キノコ・・・か?・・・食えるのか?」

 逡巡したが、飢え死にするよりはとギルはキノコのかさの欠片をそっと口に含んでみた。
 痺れは特にない。
 幸いなことに毒は持っていないようである。
 とは言え、特に美味なわけでもなく、眉間に皺を寄せながらもギルはキノコを食した。
 それにしても・・・こう、地面に顔を擦り付けて食べてると、まるで・・・。

老賢者9

「まるで、土でも食ってるみたいじゃないか・・・・・・」

 ギルは自分の台詞がまたもやフィレモンの言うとおりだったことに、奇妙な笑いを止める事ができなかった。
 不健康な笑い声は、坑道に朗々と響いた。

2013/03/16 11:42 [edit]

category: 老賢者

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Sat.

老賢者 3  

 微かに身じろいでギルは目を覚ました。
 そこは紛れもなく――先程、湧き水を探して彷徨った坑道。
 半身を起こし、周りに異変が無いことを確かめてからギルはふうと息を吐いた。

「まただ・・・夢・・・」

 その声は、恐ろしいほど掠れていた。

「・・・喉が・・・くそっ」

 ふと、彼の脳裏にあの夢の老人の言ったことが浮かぶ。「水は、流れ落ちるもの」と・・・・・・。
 そしてもう1つ。

『お前は、前を見つめすぎているのだ。障害は、越えるべきだけのものではない』

 赤いマントを強張ったような手で何とか身につけてから、ギルは立ち上がった。

「・・・もう一度、もう一度だけ、探しに行こう・・・」

 ギルの足は、自然と前に見た亀裂へと向かった。
 あの時は、亀裂さえ≪エア・ウォーカー≫や≪天翼の短剣≫のようなアイテムで飛び越すことができれば、それでどうにかなるのではと思っていたのだが――。
 だが、老人の言葉。
 あれがもし、ギルの思惑と一致しているならば。

「『障害は、越えるべきだけのものではない』・・・か」

 深いらしい崖の様子に、ぶるりと身を震わせる。

「・・・このガケを降りろと?そう言うのか、フィレモン?」

 幸いな事に、ロープは確かに彼の手元にある。
 ロープを引っ掛けるためのフックも、壁に残っていた――そう、ここは元々炭坑なのだ。トロッコに石炭を積み上げ、その補助に色んな器具を用いた時の名残が、そこかしこに残っている。
 手袋をしたままではやりづらかったので、脱ぎ捨ててギルは作業を続けた。
 長いロープが崖下へと垂れ、フックから外れる様子が無いことを体重をかけて確認すると、ギルはゆっくりと伝い降りていった。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・」

 崖のそこにたどり着いたギルが気息を整え、顔を上げると――。

「奥に抜け穴がある・・・。気が付かなかったな・・・」

 もはや血の味が滲んできた喉を押さえながら、穴の奥へと歩を進めた。
 ふらり、と体が傾いだ。
 とっさに壁に手をついて自分を支えたギルの鼻に――渇望していた、微かな匂い。
 そう、これは水の匂い・・・。
 怪しげな足取りで急ぎながら、ギルは必死に前に進んだ。

老賢者6

「み・・・水だっ!!」

 ギルの眼前に現れたのは地底湖だった。
 よろめきつつも湖へと手を突っ込み、無心に水をすくい上げる。
 その手に残った少量の水を口に含むと、もう止まらなかった。
 顔を湖に直接つけ、犬のように這い蹲って水分を補給する。

「んぐっ、んぐっ・・・・・・」

 やがて喉の渇きが癒えたギルは、「ふぅ」と自分の口元を手の甲で拭った。
 ごろりとその場に寝転がり、天井を見ながら夢の老人の言葉に感心する。

「成る程ね、水は確かに流れ落ちるもの。低いところに溜まるのは当たり前じゃないか・・・」

 ギルは額に手を当てて、不意にこみ上げた笑いを坑道内に反響させた。

「ふ、ふふ、ははは・・・。これだけ水があれば、飲み干そうと思ったって飲み干せないぞ」

 そうして、5分も笑い転げていただろうか・・・額の手をぱたりと横に落とす。

「フィレモンは・・・夢の男は、何故水の在処を知っていたんだ・・・?」

 水分が供給されるようになれば、次にギルが覚えたのは空腹であった。
 飢えを体験した事が無いわけではない。
 ただ、これほど強制的に孤独な環境で飢えを経験したのは、久々のことであった。
 仲間さえいれば、愚痴をお互いに零しつつも、どうにか空腹を満たす算段でも言い合って誤魔化せるだろうが・・・。
 携帯食料は、とうの昔に空である。

「まさか、こんな炭坑に食料が落ちてる訳もないしな・・・」

 崖下の地底湖から焚き火の地点まで戻ってきたギルは、ひとりごちた。

「腹が・・・減った・・・・・・」

2013/03/16 11:39 [edit]

category: 老賢者

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Sat.

老賢者 2  

老賢者3

「う・・・・・・」

 ギルは辺りを見回した。
 自分が横たわっている目の前で、焚き火の炎が赤々と燃えている。
 その揺らぐ灯りに照らされているのは――崩れた洞穴と岩ばかり。
 ギルははっとなった。

「炭坑だ・・・。じゃあ、さっきのは夢・・・か」

 そしてため息をつく。どうして自分がこんな所で丸まって寝ていたのかを、思い出したのだ。

「・・・あ~あ。旧炭坑のモンスター駆除なんて、受けるんじゃなかったよ」

 そう、ガロワの森での特訓を終了し、真っ直ぐリューンへと向かっていたギルは、とある小さな村で炭坑に出るモンスターの駆除を依頼されたのである。
 話を聞く限りでは、そう強いモンスターではなかった為、斧と必要最小限の装備だけを背負ってここまでやって来たのだが・・・。
 思ったよりも深く入り組んだ炭坑での移動に手こずった上、ギルが思い切り放った技の影響で――落盤が起きてしまったのである。
 やれやれ、とギルはため息をついた。
 既に、閉じ込められてから2日が経過している。
 唯一、希望の光だと思えるのは、村での依頼を引き受けた際、リューンの≪狼の隠れ家≫宛に手紙を送ってあったことだ。
 短期間で終わらせるつもりはあったが、何かで遅れるような事があれば仲間が心配するだろうと、親父さんに事情を書いておいたのである。
 それを読んだ仲間が、はたしてどのくらいで自分の異変に気づくのか――ギルはいけないと思いつつ、焦燥を感じた。

「・・・喉が乾くな」

 それにしても、とギルは先程までの夢を思い返した。
 どうしても名乗らない変な老人――あれは一体誰なのか――?

「くそっ・・・だるくなってきたな。水が無いのが・・・痛いぜ・・・」

 今までさっぱり見つけられなかったものの、もしかしたらどこかに湧き水があるかもと、ギルは倦怠感の抜けない身体を立ち上がらせた。
 あてどなく、この2日間ですっかり構造を把握した炭坑の中を歩く。 

老賢者4

「亀裂が入ってる・・・。向こう側には行けないな」

 ここを越えられば、行動範囲も広がるだろうにな・・・と、ギルはため息をついた。
 炭坑の元々の入り口にも移動してみるが、分厚い岩たちで塞がれていて、その向こうをうかがい知ることはできない。
 収穫のまったく無いまま、ギルは焚き火を燃やしている所へと返ってきた。

「・・・やっぱり水はない。余計な体力を使ってもどうしようもないな・・・」

 ギルは早く仲間がこっちに来てくれないだろうかと思いつつ、また毛布を敷いた場所に横たわってマントを外し包まった。
 疲労を少しでも避けるため、すでに靴は脱いである。
 せめてオオバコでもあれば、足の裏に貼り付けて置けるのにと愚痴りながら、彼は暗い坑道の天井を見上げた。
 ――そうして。一体、どのくらいの時間が経ったのだろう。

「ここは・・・」

 彼の意識はまたもや、謎の空間に囚われていた。
 再び氷の鈴が鳴るような独特の音がして、ギルは思わず呟いた。

「・・・あの夢か・・・」

 す、と自然に彼の眼前へ人影が現れる。

「爺さん・・・また会ったな・・・」

 かの老人は、変わらぬ様子でギルをじっと見つめている。
 その視線の強さに、たまらずギルは言い募った。

「あんた・・・誰なんだ?どうして、俺の夢に出てくる?」
「・・・・・・・・・」
「いい加減にしてくれよ・・・!」

 老人の豊かな口髭が、発言につられてゆっくりと動く。

「お前は、私を知っている」
「んなこと言ったって・・・」

 ギルは子供のときのように口を尖らせ、老人をねめつけた。
 そしてまたもや、老人が消えていく気配がある。

「待て・・・フィレモン!」

 己の台詞にぎょっとしたギルは、手袋をしたままの手で自分の口元を押さえた。
 手が震えている。
 一体、自分はいつの間に老人の名前を知っていたのだろう――?
 しかし老人は、確かにギルの呼びかけに気づき、その場に留まっていた。

「そうなのか・・・?あんた、フィレモンって名前なんだな・・・?」
「我が名は、フィレモン」

 老人はゆっくりと頷いた。

「やっぱりだ・・・。だけど、どうして俺は・・・。アンタに会った事なんて一度だってないのに・・・」
「私は助言する。お前はお前が真に知りたいことを私に問うべきである」
「・・・真に知りたいこと、ね・・・。じゃあ聞くが、ここはどこだ?」
「そうではない。お前は自らを偽っている」

 ふと、老人が何を言いたいのかを何となく察したギルは、諦めて口を開いた。

「・・・分かったよ。あんたが頼りになるとは思えないんだが・・・水が、無いんだ」

 ギルは両手を広げた。
 その動作のまま、彼に尋ねる。

「どうすれば、手に入る?」
「・・・・・・・・・」
「おい、どうした。・・・答えられないのか?」

 まさかとギルが思った瞬間、老人の口が言葉を紡いだ。

老賢者5

「水は、流れ落ちるものだ」
「そんなことは知ってるさ。俺の希望と一緒でね。手の平からさらさらとこぼれ落ちるのさ」
「お前は、前を見つめすぎているのだ。障害は、越えるべきだけのものではない」

 ギルはぽかんと口を開いて相手を見つめた。

「・・・何言ってるんだ?」
「さらばだ、ギルバート」

 その言葉とともに、また謎の空間が白の領域に取って代わり、光が――!!

2013/03/16 11:36 [edit]

category: 老賢者

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Sat.

老賢者 1  

(ここは・・・何処だ?とても・・・暗い。)

 ギルの右手がぴくり、と動いた。
 かつてないほどの喉の渇きに、思わず彼は呻いた。

老賢者1

「あぁ・・・」

 キイィイィン・・・・・・。
 氷の鈴を鳴らすような、わずかな音が耳に届いた。

「・・・耳鳴りか・・・?」

 そしてギルは周りを・・・・・・見ようとして愕然とした。
 まったく見覚えの無い、そしてどこが上なのか下なのかすら判然としない白と黒交じり合った謎の空間・・・。

「・・・何なんだ、ここは・・・?」

 ギルは一所懸命に、自分が今まで何をしていたかを思い出そうとした。

ギル焔紡ぎへ

(・・・・・・そうだ。俺は確か、新技を習うためにガロワの森へワディムさんを尋ねに行ったんだ。)

 キーレにおける蛮族との戦いがひと段落し、その報告によって地図作製組合で鉱石を入手した”金狼の牙”たちは、とある宿の一室に寄ることとなった。
 鉱石を素に、ジーニが≪魔鋼の篭手≫なる防具を練成しようというのである。
 しかし、割と時間のかかる作業に焦れたギルバートが、以前からずっと目をつけていた斧の新技を早く習いに行きたいと言い・・・。
 ギルの熱意に折れたエディンが銀貨2000枚の入った皮袋を寄越して、リューンの定宿である≪狼の隠れ家≫で再会しようと、一人旅を許してくれたのである。
 喜んだギルは、早速記憶を頼りにガロワの森へ向かい、無事に【鷹の構え】という技を教わった・・・という辺りまでは思い出したのだが。

鷹の構え習得

「・・・!?」

 ギルは目の前でちらついた人影に驚き、身構えた。

「うわっ!!」

 音もなく彼の眼前に姿を現したのは、白い髯を豊かに蓄えた老人であった。
 ルーンマスター(魔法を使う者)とは違う、ごくありふれた灰色のローブ姿。
 その眼には諦観と・・・不思議なまでの親しみを感じさせる。

「あんたは・・・誰だ?」
「・・・・・・・・・」

 ギルの誰何に、老人は何も答えない。
 さては言葉が通じないのだろうかと、不安に思ったその時。

「そうではない」

 深く、しわがれた声が響いた。

「なんだよ・・・。で、誰なんだ、あんたは」
「・・・・・・・・・」
「・・・何故、答えない?」
「お前が既に答えを知っていることだからだ」

 老人の声は不思議とギルの苛立たしさを宥めるような力がある。
 しかし、彼の言う内容にまったく思い当たる節のないギルは、老人の台詞に対して微かな苦味を含んだ薄笑いで応じた。

「俺が?冗談じゃない。俺はあんたなんざ知らないぜ」
「それは違う」
「違わないね。あんた、何か勘違いしてるんじゃないのか?とにかく、あんた誰なんだ」

 頑なに自分の正体を明かそうとしない老人へ、ギルは詰め寄った・・・・・・つもりだった。
 足が動く様子がない――!?
 ギルはぎょっとして自分の足元を見つめた。
 無くなったわけでもなんでもない、いつもの足がそこにはある。にもかかわらず、ギルの意思と反してそれが動く気配はなかった。
 一体、この空間は何なのだろう――ギルは不気味になりつつも、更に老人へ呼びかけた。

「だから・・・黙るなって。答えてくれよ」
「お前が答えを望んでいない質問に対して、答えるつもりはない」
「おいおい爺さん・・・。俺は自分であんたの名前を聞いてるんだぜ。俺が望んでないなんてことがあるもんか」
「お前が今現在望んでいることは、私の名を聞くことではない」

老賢者2

 まるきり埒の明かないやり取りに、ギルは舌打ちした。

「おい、だから・・・」
「さらばだ、ギルバート」
「あ、おい!」

 老人の後ろに広がる、白と黒の入り混じる空間・・・・・・それが段々と白い領域のほうが広がっていったかと思うと、あっという間に真っ白へと変わり、輝き始める。
 どういうことなのか分からないながらも、ギルにはこれが問答の終了を意味する事だけは感じ取れた。

「待て、待ってくれ!まだ話があるんだ!!」
「・・・・・・・・・」
「待て・・・フィレモン!」

2013/03/16 11:33 [edit]

category: 老賢者

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