Tue.

死人の宴 5  

 床には哀れな老人の死体だけが残されている。懐を探ると、赤い宝石の嵌め込まれた古い首飾りが見つかった。
 恐らくこれが奪われた≪クドラの涙≫だろう。
 頷いたギルが仲間の顔を見渡して言った。

「これで良し・・・それじゃあ、あの婆さんのところに戻るとしよう」

 クドラの集落跡に着いた”金狼の牙”は、司祭である女性の家を訪ねた。

「おや、あんた達。≪クドラの涙≫は取り戻せたのかい?」
「ああ、ちゃんと死人使いを倒して、宝石を取り返してきたぞ」

 ギルが掲げ持った首飾りを見て、司祭は目を細めた。

「・・・そうかい。よくやってくれたね。死んだ村の皆に代わって、お礼を言うよ」
「ところで、宝石に掛けられた呪いを解いて貰いたいんだが・・・」
「ああ、約束だからね。ちゃんと解いてあげるよ。家の中にお入り」

 招かれて見覚えのある家の中に入り、ギルはテーブルの上に≪クドラの涙≫を置いた。
 司祭は何か白い粉を振りかけながら呪文を唱える――すると、”金狼の牙”たちの目の前で白い粉が蒸発するように消えてしまった。

「・・・これで大丈夫。宝石を森に縛り付けていた呪いは解けたよ。さあ、持ってお行き」
「・・・・・・お婆さん、お世話になりました。私の迷いや、クドラ教の実情を教えてくださって、感謝いたします」

 頭を下げたアウロラに、彼女は皺を深めるように笑った。
 この時、不意にギルの脳内へ、エディンが教えてくれたオットーの裏事情が思い浮かんだ。

(確か、オットーの商会は経営が傾きつつあるんだったな)

 す、とギルの手が動き・・・彼は首飾りを再び司祭の手に乗せていた。

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「・・・やっぱり、止めとくよ。これは、婆さんが持っていてくれ」
「どういう事だい?これを手に入れるために、あんた達はリューンから来たんだろう?」
「この宝石は、クドラ教の秘儀『死者復活の儀式』に使う祭具らしいじゃないか。もしかして、婆さんなら村の人を生き返らせる事ができるんじゃないかと思ってさ」
「・・・良く知ってるね」

 司祭は目を瞠った。

「そう、あんた達の言うとおり、≪クドラの涙≫は秘儀に使う祭具さ。そして、私はそれを行う事ができる最後の司祭だよ」

 彼女は戸惑いながら、”金狼の牙”へ秘儀について説明する。

「でも、いいのかい?秘儀に使うと、宝石は力を失ってしまって、ただの石ころになっちまう。儀式の後で持って帰っても、意味は無いんだよ?」
「構わないさ。それより、クドラ教の秘儀とやらをこの目で確かめる方に興味があるんだ」
「・・・ありがとうよ」

 司祭はそっと礼を述べた。
 ・・・こうして、”金狼の牙”はクドラ教の秘儀『死者復活の儀式』を見届けることになった。
 司祭の案内で、集落の奥にある村人達の墓地にやって来た。
 しっかりとした古い墓の他に、粗末な新しい墓が数多く見られる。恐らく、後者の方が死人使いの犠牲者達だろう。

「・・・儀式の前に、これをあんた達に渡しておくよ。きっと何かの役に立つだろうさ」

 司祭が差し出したのは、ずいぶんと古びた呪文書であった。それぞれの表面には掠れた文字で【陽春の息吹】、【雪夜の静寂】と名前が書いてある。
 アレクが驚いたように言った。

「これは・・・クドラ教徒が使う呪法じゃないのか?」
「なに、田舎のオババから教わった呪いとでも言っておけば、聖北の坊主共もとやかく言うまいよ。上手く使っておくれ」

 しゃんと背筋を伸ばすと、司祭は打って変わって張り詰めたような声で言った。

「・・・それじゃあ、『死者復活の儀式』を始めるよ。あんた達は、離れた所で見ていておくれ」

 そう言うと、司祭は新しい墓の1つに近づき、祈りの文句を唱え始めた。
 その胸には、妖しい輝きを放つ≪クドラの涙≫が飾られている。
 やがて祈りが最高潮に達したその時・・・突如、司祭の手にナイフが閃いたかと思うと、一息でその胸に突き立てられた!

「なっ・・・!」

 あまりのことに、ジーニが声をあげる。
 次の瞬間、司祭の身体が閃光とともに消え去ると、後には一組の若い男女が地面に横たわっていた。
 繋がれた2人の手には、≪クドラの涙≫だと思われる黒ずんだ物体が握られている。

「・・・・・・命をもって命を蘇らせたのですか。なんという・・・」

 アウロラの目から、ひと筋の涙が零れていた。
 一晩だけとは言え――忌み嫌われているだけと思っていたクドラ教の司祭から、彼女が受けた恩は大きかった。
 その恩人が躊躇いなく命を捨てた事は、自分たちが手を貸したも同然なのだ。
 無言で自分を責めようとするアウロラの肩を、ぽんとギルが叩いた。

「とにかく、この2人を起こそう」

 そして事情を説明し、彼らの未来を見送る――それこそが最期に彼女が頼んでいった事に他ならないと、ギルは分かっていたのである。
 地面に横たわった男女を助け起こすと、2人はすぐに目を覚ました。
 状況が分からず戸惑っている2人に経緯を説明し、集落の様子を見せると、かなりショックを受けている様ではあったが、少しずつ話をしてくれるようになった。

「・・・そうでしたか。私は村の司祭の息子でヤンと言います。こちらは妻のヤドヴィカです」

 どことなくお人よしそうな笑みを持つ青年は、あの逝ってしまった司祭の面影の濃い仕草で、冒険者たちへ自分の思いを打ち明けた。

「一度死んだ自分達が、母の秘儀で生き返ったと言う話は、正直、まだ良く理解できません・・・ただ、村の様子と≪クドラの涙≫の状態を見る限り、信じるしかないようです」

 そう言って俯いた彼に、アレクはこれからどうするのかと訊ねる。
 息子夫婦はしばらく顔を見合わせた後、おもむろに口を開いた。

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「残念ですが、私達だけではこの村を再建するのは無理でしょう。恐らく、森を出て町で暮らす事になると思います」
「幸い、私の実家が近くの町にあるので、まずはそこを頼ろうと思います。心細いですが、義母の気持ちに報いるためにも、お腹の子を無事に産まなくてはいけませんから・・・」
「えっ・・・お腹の子?」

 びっくりしたミナスがヤドヴィカを良く見ると、確かにお腹が少し膨らんでいるような気がする。

「村の再興は無理かもしれませんが、クドラ神への信仰と我が家の血は絶やさないよう、生き抜くつもりです」
「そうか・・・頑張ってくれよ」
「無理はなさらず、健やかな赤ちゃんを産んでくださいね」

 ギルとアウロラに言われ、夫婦は照れくさそうに微笑んだ。
 その後、森を出て近くの町まで2人を送り届けると、”金狼の牙”は懐かしいリューンへの帰路に着いた。
 依頼人のオットーには睨まれるだろうが、先の危うい商人とのコネなど無用の長物だ。
 そんなものより、クドラ教の秘儀に立ち会えたという経験の方が、遥かに価値がある。
 久しぶりの充実感を味わいながら、冒険者たちは≪狼の隠れ家≫のエールに思いを馳せるのだった。

※収入0sp、≪女神の尖兵≫≪鏡≫≪年代物の酒≫×2【熱病の呪い】【陽春の息吹】【雪夜の静寂】※

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■後書きまたは言い訳
50回目のお仕事は、大地の子さんのシナリオで死人の宴です。依頼が二種類あり、それぞれで分岐があったりするのですが、討伐ルートをアウロラの夢落ちにして済み印をつけず、本当の依頼を探索ルートとして引き受けてみました。いかがだったでしょうか?
このシナリオを行うのであれば、同氏の「異教徒狩り(4-5レベル対象)」を事前にプレイしてからの方が面白かったりするのですが・・・まあ、今さら言っても仕方ないですね。(笑)

今までクドラ教の秘儀目撃EDだけやったことが無かったので、こちらのエンドを目標に動いてみました。
とは言え、8000spもの大金に繋がる≪クドラの涙≫を、特にこれといった理由もなしに司祭の老婆へ渡すこともできかねたので、途中でシナリオにないアウロラとクドラ司祭の問答(っぽいもの)を挟んでおります。2人の立場の違いを少々強調する為に、地の文で「老婆」となっていたクドラのお婆ちゃんは一貫して司祭と表記させてもらっています。
これによって、アウロラの教会や神様に対するスタンスや、クドラへの考えと言うものも絡めてみました。助祭扱いの時にミナスを助けるため教会から出奔した彼女は、一見するとそこらにいる真面目なシスターだけど中身はちょっと違う・・・という感じです。異教徒判定されかねない法術(秘蹟)への考え方ですが、「魔法は魔法。神への信仰は信仰」として別個に考えているということです。
アウロラはまだ少女の頃に騎士である親をなくし、財産争いで散々苦労した後に司祭の養女となった人ですので、それなりに冷めた部分(冷静沈着持ち)があるのではないかな、それが法術への考え方じゃないかな、と書いていて思いました。
上手く表現できていればいいのですが。

それからちょろっと何気なく書いてますが、エディンはSIGさん作の「鼠の行路」で技能を教える側の人という設定です。駆け出しの時に、【盗賊の目】【盗賊の手】の両技能を「鼠の行路」で購入していたのは、それが理由だったりします。
当時の二つ名は、髪の色と担当場所にちなんで黒鼠。
・・・・・・すいません、全然その手のネーミングセンスは持ち合わせておりません。
シナリオでは盗賊ギルドの幹部さんの性別は明記されておらず、口調からすると男性かもしれない・・・と思っていたのですが、情報屋の女性とエディンの絡みの方がビジュアル的に面白かったので、女性とさせていただきました。もし違っていたら申し訳ございません。

さて、汚名クーポンこそつきませんでしたが、”金狼の牙”は依頼を初失敗という事になります。オットーの依頼は完遂してませんからね。
それがこれからの布石になったりするのですが・・・さてどうなりますやら。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/12 19:35 [edit]

category: 死人の宴

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Tue.

死人の宴 4  

 古城の中はガラクタや食器の残骸、木片などが散らかっている状態だった。
 裏口のすぐ近くにあった地下への階段を降りると、そこは食料庫だったらしく、酒樽だったものや空き瓶が転がっている。
 エディンが酒びん用の棚の残骸をよく調べると、まだ中身の入っている瓶が1本見つかった。蓋を開けて匂いを確かめると、上等な蒸留酒の様だ。

「へへ、良い拾い物をしたぜ」

 エディンは年代物の酒をそっと荷物袋に入れた。

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 さらに城を歩き回り、武器庫らしき部屋や殺風景な小部屋などを確かめるも、これといった収穫は無いし誰かがいる様子も無い。
 正面玄関のほうには死人使いの罠があるかもしれないと、一行は先に二階を調べることにした。
 入ってすぐの扉をエディンが調べるために触れた瞬間、指先に弱い痛みが走った。
 罠かと思って確かめるが、特に異常はないようだ。 

「何でぇ、今のは・・・・・・?」

 首をかしげながらも扉を開けると、そこはいくつもの本棚が置かれた縦長の部屋であった。
 本棚に分厚い本が何冊も収納されているところを見ると、ここは死人使いの書斎らしい。

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 どれも見たことの無い不気味な皮の装丁がされている。

「杖はこれだけど、死霊術には興味ないんだけどなあ・・・」

 やる気がなさそうにしていたジーニの手が、とあるところでぴたりと止まった。
 不審げにアレクが名を呼ぶ。

「ジーニ?」
「・・・中々嫌な物を見つけたわ。これは、賢者の塔では絶対に教えてくれない強力な術よ」

 彼女が見つけたのは、【熱病の呪い】と呼ばれる術であった。敵1体に呪いをかけて死に至る熱病を発症させる術であるらしい。
 賢者の塔が禁呪に指定しているその高位魔術の魔術書を、彼女は嫌そうに摘み取った。

「これは塔に持っていって、封印指定して貰わないと・・・こんな所に放り出して、誰かが持っていったら大事になるわ」
「ジーニは使わねえの?」

 ギルのきょとんとした顔に、ジーニは噛み付くような様子で応える。

「冗談はやめて。禁呪なんてあたしの身体に収める予定はないわ!」
「落ち着けってば・・・・・・聞いてみただけだって」

 その剣幕に驚いたアレクがギルに代わって宥めると、ジーニは咳払いをひとつして「とにかく」と続ける。

「いい?禁呪の類は使うと、少なからず術者に滅びの原因となる『何か』をもたらすの。高位の術者はそういうのを防ぐ術も心得てるけど、今そう言うのを完璧に行なえるって人は滅多にいないし、失敗したら周りに被害がいくのよ」

 だから自分は使わないのだと、彼女は語った。
 塔に持っていけば礼金くらいはくれるだろうと言われ、ギルはジーニに任せるよと笑った。

「だから許してくれよ。ジーニが仲間思いだってのは理解したからさ」
「余計な事は言わなくて宜しい」

 こつんと杖の髑髏でギルの頭を叩いたジーニは、すっきりした様子で微笑む。
 そんなやり取りを、先行して次の扉を調べに行っていたエディンが中断させた。

「オイ、ご歓談中申し訳ねえが・・・多分、次が本命の潜んでる部屋で間違いなさそうだ。罠や鍵はねえが、人の気配はするし死体の匂いがしてたぜ」
「・・・扉を開けたらいきなり魔法が飛んでくるとか、ないだろうな」
「そう思うなら、支援魔法かけちゃって行こうよ」

 そう言って、ミナスは早速手慣れた様子で【蛙の迷彩】を唱え始めた。
 たちまち、”金狼の牙”たち全員の姿が周りの風景と同化していく。

「・・・そうですね。用心して入るくらいしかできませんでしょう」

 アウロラも小さなエルフに同意して、【祝福】と【信守の障壁】を唱えた。

「主よ、我らの力を十全に引き出し、またその身を不可視の力で護りたまえ・・・」

 すっかり準備の整った一行は、意を決して扉を開けた。
 そこは――書斎と同じ縦長の部屋であった。
 床にはいくつもの死体が転がっており、部屋の奥には祭壇か何かのような石の台座がある。

「む・・・・・・」

 アレクが唸る。台座の奥には険しい表情の老人がこちら側を向いて立っていたからだ。
 その手に掲げられた三つ目の頭蓋骨は、明らかに”金狼の牙”に向けられている・・・!

「卑しいネズミ共め!炎の玉で燃え尽きるが良いわ!」

 老人の手から発せられた凄まじい勢いの炎が、冒険者達の視界を塞いだ。
 やがて・・・紅蓮が収まった時、勝利を確信していた死人使いの顔色が変わる。

「なんと!?」

 彼らは立っていた。――かすり傷で。
 ギルが吠える。

「やっぱりこんなこったろうと思ったよ!」
「ち・・・!」

 死人使いが頭蓋骨を掲げると、床に転がっていた死体や人骨が動き出すとともに、死霊が部屋に呼び出された。
 どうやら、死人使いに対する攻撃を骸骨の戦士が阻む布陣らしい。

「まず、護衛をどうにかしないと!」

 召喚していたスネグーロチカの冷気を防がれたミナスが、焦りの声をあげた。
 髑髏のついた杖を掲げていたジーニの手が動く。

「こういう時は焦っちゃダメよ」

 杖を持っていた右手の中指には――翠色の美しい鉱石がはめ込まれた指輪があった。
 その魅力的な輝きに、束の間、死人使いの気が逸れた。

「今よ!」

 ジーニの合図で、ギルとエディンが並んで走る。
 彼らの狙いは――骸骨の戦士!

「おらあ!」
「そらよ!」

 それぞれ、不浄な者によく効果を発揮する【磔刑の剣】と【破邪の暴風】でもって、大ダメージを相手に与える。
 その合間を縫うように、

「雷よ!」

と言って、アレクの指先から生まれた小さな稲妻が真中に陣取っている骸骨へとぶつかった。
 一体が崩れるのを見て、にやりとジーニが口の端を上げる。

「いらっしゃい、風よ!さあ、こいつらを吹き飛ばしなさい!」

 ジーニの導きにより、わらわらといる屍人形・・・ゾンビたちがその腐肉を削られていく。
 それでも、普通のゾンビより強化されているらしく、しばらく抵抗を見せたものの、誰一人傷つく前に、ミナスが呼び出したイフリートの吐息に焼き払われた。
 その炎ですっきりした部屋の中を、前衛の3人が縦横無尽に暴れる。
 エディンがレイピアで突いた骸骨をアレクが叩き壊し、ギルは【風割り】で相手を粉々に砕いてしまった。
 アウロラの長い聖句が終わると、その華奢な肢体が白く輝いて仲間たちを包み込み、たちまち【炎の玉】による火傷を癒す。

「・・・・・・はっ!?」

 すべてはあっという間の出来事で、死人使いが≪エメラダ≫の呪縛から我に返ると、すでにほとんどの死霊や死人が動けなくなっていた。
 ミナスの誘導したスネグーロチカが、ついに邪魔者のいなくなった死人使いを抱きしめる。

「くっ・・・!生意気なエルフの小僧め!」

 それでも自分には禁呪がある――不敵に微笑んだ死人使いは短い呪文を終えると、自らの魔力を叩きつけるかのようにアウロラを指差した。

「あの小娘の身体に呪いを!熱く癒える事なき病を!」
「主よ・・・汝が使徒の身を護りたまえ!」

 アウロラの祈りは通じ、彼女は死人使いの魔法に上手く抵抗してのけた。

「夢であなたと戦う自分の姿を見ました。――その呪いは通用しません」
「な、なんてことだ!」

 狼狽し、転移の術を使うために距離を取らねばと後退した死人使いの背後から、

「悪ぃが。・・・あんたの負けだ」

という声がした。
 慌てて振り返った彼の視界に、いつの間にか傍に寄っていたエディンが≪スワローナイフ≫を構えているのが入る。
 蒼い美しい刀身が、黒い衣装のど真ん中――心臓の位置を突き刺した。 
 倒れた死人使いが、それでもしわがれた声で呪いを紡ごうとする。

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「ば、馬鹿な、『大魔道』であるワシがこんな雑魚共に敗れるとは・・・」
「フン、雑魚はお前だ!覚悟!」

 ギルが斧を振りかざし、死人使いの首を刎ねた。
 それと同時に、周りにあったゾンビの身体が崩れていった。

2013/03/12 19:34 [edit]

category: 死人の宴

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Tue.

死人の宴 3  

 尖兵長ホルストを、後から追いついてきたミナスによる【黄金色の鳥】で打ち倒し、ギルが沼の中央にあった棒を沼から引き抜く。
 その先端には銀色の巨大な刃が付いていた。
 不思議な事に刃は全く錆びておらず、その表面には美しい女性の横顔が彫刻されている。

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「・・・これは、なかなかのお宝かもしれないな」

 ギルが引っこ抜いたそれを、ジーニが杖の≪カード≫を片手にじっくりと鑑定した。

「・・・・・・これは≪女神の尖兵≫ね。魔法とは少し違う、不思議な力が宿っているわ。恐らく実体のない相手でも叩き切る事が可能よ」
「呪いは?」
「かかってないわよ。そもそも、この横顔がクドラ女神の元の姿だったんじゃないかしら。・・・それを判別できる人は少ないでしょうけどね」
「じゃあ、こいつは取っておこう」

 鑑定の済んだ一行はギルとアウロラの怪我を癒した後、今度は南西のエリアを詳しく捜索し始めた。
 霧はなくなり、深い森のエリアへと辺りの景色が変わる。
 そんな薄暗い森を歩いていると、古ぼけた小屋が何軒か集まっている場所に辿り着いた。 
 きょとりと大きな濃藍色の目を瞠り、ミナスが辺りを窺った。

「ここがクドラの隠れ里?それにしては静か過ぎない・・・?」
「人がいないか探してみよう。警戒は怠るなよ」

 ギルの言に頷いた一行は、念のためと集落の中を慎重に歩いて回った。
 しかし、どの小屋にも人の気配というものが感じ取れない。もしや、この集落は放棄されてしまったのか・・・?と、一同が諦めかけた時。

「・・・こんな廃墟を漁っても、何も見つかりゃせんよ。死霊に食われる前に、さっさと帰るんだね」

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「・・・!?」

 赤い帽子を被った初老の女性が、ぼろぼろの小屋の1つから現れて、”金狼の牙”へ声をかけていた。
 驚いたジーニは、思わず飛び退る。
 それと対照的にギルが一歩前に進んで言った。

「廃墟だって・・・?ここは、クドラ教徒の隠れ里じゃないのか?」
「あんた達が何者か知らないけど、見てのとおり、ここはただの廃墟さ。クドラ教徒の村なら滅んじまったよ」
「村が滅んだ!?一体、何があったというの?」

 勢い込んだジーニの疑問に、女性はゆったりと口を開いた。

「森の奥に住み着いた死人使いが、突然攻めて来たんだよ。生き残ったのはこの年寄り1人・・・これでこの村も終いさ」

 そして彼女は小首を傾げて言った。

「ところで、あんた達は一体何者なんだい?なぜクドラの村に関心があるのかね?」

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「俺たちは、”金狼の牙”というリューンの冒険者だ。っこでなら、≪クドラの涙≫の事が分かるんじゃないかと思って来たんだが・・・」
「・・・残念だったね。あの宝石は、もうここには無いよ。死人使いに奪われちまったのさ」

 ここじゃなんだから、と女性によって家に招き入れられた冒険者たちは、各々が藁を編んだ円座に座り込んでとりあえず寛いでいた。
 女性の話にあった死人使いについてギルが訊ねると、それにはこう答えがあった。

「奴は死霊やゾンビを操って村を襲うと、≪クドラの涙≫を奪ったんだよ。・・・私の息子夫婦や、他の村人達を殺してね」
「やれやれ・・・つまり、≪クドラの涙≫を手に入れるためには死人使いって奴を倒さなきゃならんのか」
「・・・あんた達が奴を倒せるなら、あの宝石を譲ってあげるよ。ただし、あれには呪いが掛かってるから、一度私の所に持って来ておくれ」

 森の外に持ち出すことのできない呪いというものが、≪クドラの涙≫にはかかっているのだと言う。
 女性が自分はクドラの司祭である旨を明かすと、アウロラは唇をやや震わせてから問うた。

「なぜ・・・そこまでしてくださるのですか?私のことにもお気づきなのでしょう?」

 アウロラは、格好こそ≪氷心の指輪≫や≪静謐の繭≫という賢者や魔術師の好むようなアイテムを身につけ、あえて僧侶らしくない姿になっているものの、この女性がそれに騙されている様子はないと考えていた。
 つまり、クドラ司祭である女性にとっての敵――聖北教会の者である事。
 すると女性は、ククッと小さくのどの奥で笑ってから言った。

「そりゃ、聖北教会は嫌いだがね。あんたはここで教化を進めようとする奴らみたいな、濁った目はしていない。自分に間違いは無いって疑わない奴とはね」
「それは・・・・・・」

 アウロラが教会の一部に感じている迷いを当てられ、微かに身じろぐ。
 簡単な法術は、信仰に乏しい一部の信者たちにすら扱える。
 彼女は、それは法術というものが、聖北教会が崇める唯一神が自分の信者たちの行いを正しいと思って力を授けているわけではないからだ、と感じていた。
 法術も魔術師たちが操る魔法と同じで、ただルーンなどに代表される呪文ではなく、聖句に端を発するが為に違うものと思われているのではないか――それがアウロラの抱く考えである。
 実際はどうかは彼女は知らない――ただ、これを他者に主張する事は異端と思われかねないことを、アウロラはよく承知していた。
 第一、法術が神から授けられていようがいまいが、彼女の信仰心そのものについては揺らぐ事は無いのだ。
 そう思い、だからこそ秘していたのだが・・・・・・。

「おまけに、あんた達の仲間には異種族であるエルフがいる。聖北の僧侶に他者への寛容さが無けりゃ、一緒にここまで旅なんてできないだろう?」
「えっ、僕?」

 ミナスが細い指で自分を指した。

「そう、坊やさ。・・・・・・この子を連れてるなら、クドラのことを打ち明けても酷い事にはならないと思ってね」

 リューンで知られるようなクドラ教徒はそもそも、クドラを崇める人々の一部でしかない。クドラ教徒の中にも穏健派はいるし、そうではない一派については穏健派も困らされているのだという話もした。
 貴重な話を色々と聞いた”金狼の牙”たちは、ここなら死霊も入り込まないと保障してくれたクドラ司祭の家に一晩泊り込んだ翌朝、最後にと忠告をもらった。

「死人使いの居場所はよく分からないけど、多分、森の中央部にある古城にでも住んでいるんだろうから、よく探してみるんだね」
「・・・・・・ご忠告感謝する」

 アレクが腰を折って礼を述べると、女性は小さく首を縦に振って別れの挨拶をした。
 教えられた死者の森の中央部へ移動すると、またもや霧が立ち込めてきた。
 ミルク色の靄の中に、不意に大きな影を見て驚いたミナスが、ぎゅっとギルのマントを掴む。

「どうした、ミナス?」
「ギル、あれ・・・・・・」
「ん?・・・・・・・・・これは・・・」

 霧に包まれた丘の上に、何やら建物があるようだ。
 視界を確保しようとジーニが召喚した風をコントロールし、辺りの霧を一時的に払うと、崩れかけた小さな城が建っているのが見えた。
 外壁は蔦と苔に覆われており、この城が放棄されてからの年月を物語っている。
 あのクドラ司祭の女性が言っていた事が正しければ、ここが死人使いの居城だろう。

「ちょっと待ってろ。・・・・・・こいつが領主の住居じゃなく、防衛用の砦なんだとしたら・・・」

 エディンは仲間を制して辺りを捜索した。
 城の外壁沿いを彼が調べてみると、正面入り口以外にもう1つ、小さな入り口があるのを見つけた。
 防衛用の砦ならば、伝令用に必ず人目につきづらいところに裏口を設けているはずだ――そう考えたエディンの勘は大当たりだったわけである。
 鍵が掛かっていないことを確かめると、”金狼の牙”たちは≪クドラの涙≫を取り戻すべく、死人使いの城へ乗り込んで行った。

2013/03/12 19:33 [edit]

category: 死人の宴

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Tue.

死人の宴 2  

 情報通に教えてもらったから、とエディンが皆を案内した呪い師の庵は、薬草の匂いが充満し、羊皮紙がうず高く積み上げられていた。
 よくよく目を凝らすと、羊皮紙と薬草束に混じって、酒瓶が何本も床に転がっている。この老婆、かなりの酒好きらしい。

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 老婆は一行の顔ぶれの中にエディンのしかめっ面を見出すと、

「ヒッヒッヒ・・・しばらく見ないから、どこかで野垂れ死にでもしたのかと思ってたよ。今日は何の用だい?」

と、しわしわの歯抜けた口を開いた。

「ベルルース地方の事さ」
「ベルルース地方かい?ずいぶん遠くまで行くんだねぇ。まあ、気を付けて行くんだね」

 当たり障りのない言葉だけを口にする老婆に、エディンからいささか詳細を教えてもらっていたギルが焦れた。

「なあ、婆さん。あんたはベルルース地方の、それも死者の森の近くの出身らしいじゃないか。あの森について、何か教えてくれないか?」
「・・・さあねぇ。そんな昔の事は、とっくに忘れちまったよ」

 そう言って引き下がろうとする老婆の面前に、公には製造や売買が禁止されているはずの密造酒が突き出された。特殊な薬草を蒸留酒に漬け込んでおり、麻薬成分が含まれている。
 突き出した腕の持ち主はアウロラだった。
 驚いたギルが訊ねる。

「アウロラ。その酒、いつの間に・・・?」
「さあて・・・夢の中で回収したと思ってたんですが、いつの間にか荷物に紛れてまして。失礼ですが、こちらでお代にはなりませんか?」
「ヒッヒッヒ・・・さすが冒険者、よく分かっておるようじゃ。よかろう。このババが知っておる事を、全て教えてやろう」

 そうして老婆は様々な情報を口にした。
 死者の森を彷徨うクドラの亡霊の中でも、特に強力なのが狂戦士ウクスルの亡霊と、尖兵長ホルストの亡霊である事。
 狂戦士ウクスルはミスリルの鎧に憑依し、霧の濃いところから急に現れる事。
 尖兵長ホルストは最期の場所となった沼地に潜んでいる事。
 ついでにと、老婆は≪クドラの涙≫についても教授してくれた。

「≪クドラの涙≫ってのは、四季と大地の女神クドラを信仰する奴らの祭具さ。噂じゃ死者復活の秘儀に必要な祭具だって話だよ」
「そういう代物でしたか・・・・・・」

 アウロラが眉をひそめたのを見て、エディンがにやりと笑った。

「ちょうど良いじゃねえか。クドラの関係者の手に渡るよりは、無関係で護衛を雇える奴の手に入る方が、妙な事に使われねえだろ?」
「もっとも、死者復活の秘儀なんて眉唾物だし、単なる噂に過ぎないとは思うがね」

 エディンの台詞をからかうように、老婆は付け足す。

「まあ、本気で探すか、探したフリをして適当な宝石を買って帰るかは、あんた達次第さ。好きにするがええ」
「それにしても婆さん。思っていた以上に死者の森について詳しいんだな、なんで?」
「ヒッヒッヒ・・・何しろ、あの2人とは長い間、男と女の関係じゃったからのぅ。あの森の事に詳しくなっても当然じゃ」
「・・・・・・・・・」

 聞き出したギルが、うわあと言う顔になって黙り込んだ。柄にもなく後悔しているらしい。
 この台詞から老婆がクドラ教徒であることは明白だったが、アウロラは教会に対して彼女の事を黙っているようエディンから依頼されているため、余計な事は口に出さなかった。
 これで大体聞くべき事は聞いただろう、と彼らはリューンの街の入り口である北の城門に向かった。
 そこにはオットーが用意した馬車が待っており、彼らは自分達の荷物――ちなみに、アウロラとミナスは死者の森対策に呪歌や魔法を整えた――を整理し直して、ベルルース地方・死者の森へと出発した。

 住み慣れたリューンを離れ、異郷の地を旅すること20日。
 ”金狼の牙”はついに死者の森に到着した。

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「ここが死者の森か・・・名前のとおり薄気味悪い所だぜ」
「まずはクドラの隠れ里を探すのが先決か・・・・・・?」

 アレクのつぶやきにエディンは頷いた。

「だな。いつもの通り、俺が先頭に立つ。後ろへの警戒はお前さんに任せたぞ」

 こうして冒険者たちは、エディンを筆頭に森の奥へと入っていった。
 霧が立ち込める丘の上に、崩れかけた石造りの壁がある。周囲を歩いて調べてみるが、変わった物は見つからない。

「大昔の砦か何かの跡のようだな。おそらく、この丘の下に死人がたくさん眠ってるんだろうよ」
「・・・・・・ねえ、エディン。あれ」

 比較的損傷の少ない壁の上から辺りを睥睨していたミナスが、北のほうを指差した。

「ただの霧じゃないよ。何か変なの」
「・・・・・・呪い師の婆さんが言ってた奴か?」
「アンデッドの気配じゃない、他の気配がする。ジーニなら分かる?」
「流石にここからじゃねえ。近づいて見ないことには分からないわ」

 ギルが頭を掻いて言った。

「隠れ里って言うぐらいだ、そういう霧で隠してるのかもしれない。行ってみよう」

 そしてミナスが指した霧のほうへと向かったのだが・・・・・・。
 確かにその霧は異常だった。特に濃い場所のようで、ただ単に周りが見えないだけではなく、声も通りにくいような感じがする。

「ちょっと待ってよ、これって・・・」

 ジーニが素早くポーチから≪蒼石の指輪≫を取り出し、コマンドワードを唱える。

「魔力を捕らえ我が目に映せ!」

 それは【魔力感知】の呪文であった。術者の視界内に存在する魔力を感知するその力は、本来不可視である魔力のオーラを術者に視認させる。
 はたして反応はあった。この辺りを漂う霧から、強力な魔力をジーニは感じる。
 ギルの推測どおり、何かを隠す為に魔法で作られた物のようだ。
 ジーニは特に強い反応を示す枯れた木を見上げると、その根元へベルトポーチから取り出した薬瓶の中身を振り撒いた。
 たちまち強い魔法の反応があり、驚いたエディンが声を上げた。

「わっ・・・・・・なんだ、何やったジーニ!?」
「【破魔の薬瓶】で魔法を破ったのよ。ほら、何か出てくるわよ・・・!」

 周囲を覆っていた濃い霧が急速に晴れていく。
 突如、彼らの眼前に大きな塚とその入り口が現れた。

20130312_06.png

 ここがクドラ教徒の隠れ里かと、”金狼の牙”たちが洞窟の奥へ進んでいくと、やがて小部屋の様な空間に行き当たった。
 頭蓋骨に囲まれたその部屋の奥には、少し大きな鏡の置かれた祭壇がある。

「なんだこりゃ?」

 エディンはしげしげと鏡を見つめた。
 縁に金の装飾が施された大き目の鏡は、表面が徹底的に磨き上げられており、全く曇りと言うものがない。なぜ、こんな物が洞窟の祭壇などに祀り上げられているのかと訝しく思っていると。
 同じように鑑定していたジーニが、ひょっとしたら魔法の品かもしれないと言った。

「呪いだとか、そっち系統じゃないとは思うんだけど・・・。これにも魔力を感じるのよ」
「・・・・・・どうする、ギル。俺はあまりこれは好かんのだが」

 アレクは幼馴染に判断を委ねた。

「即効性の罠とかじゃないんだろ?持っていこう。クドラ教徒との取引に使えるかもしれないし」
「・・・・・・お前さん、意外と狡猾だね」

 エディンは祭壇における罠がないことを確かめると、そっと鏡を外して自分の毛布で包んだ。
 そしてまた、”金狼の牙”たちはクドラ教徒の隠れ里を目指して歩き続ける。
 ・・・やがて、霧の奥に広がる沼地へとたどり着いた。
 どうやらここが森の端のようだ。

「あれってなんだろう?」

 ミナスが呟いて指差す方を他のメンバーがよく見ると、沼の中から長い棒の様な物が突き出ている。枯れ木とは少し違うようだが・・・。

「よし・・・俺が確かめに行くぞ」
「ギル、わざわざ危ないと分かっているところに・・・」

 アウロラの咎めるような声に、ギルは首肯して言った。

「ああ、婆さんの忠告を忘れたわけじゃないさ。だから先に支援魔法を頼む」
「もう・・・すぐには駆けつけられないんですからね?」

 アウロラとミナスが、ギルの身を守るための魔法をかけていく。

20130312_07.png

(もし、呪い師の婆さんから聞いた事が本当なら・・・)

 足の半ば以上を濁水に取られつつ、彼はゆっくりと進む。
 そしてギルが沼の中央付近まで来たその時、咆哮と共に無数の死体と強烈な瘴気を放つ亡霊が現れた。

「出たな、尖兵長ホルスト!」

 かちゃり、と斧が鳴った。

2013/03/12 19:32 [edit]

category: 死人の宴

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Tue.

死人の宴 1  

「なんかすごいリアルな夢を見ました・・・・・・」

 そう言って起き上がってきたアウロラへ、ジーニは水に濡らした手ぬぐいを差し出して「へえ」とだけ言った。
 まだ夢の残滓を振り落としきれていない者特有の表情で、彼女はぼんやりと口を開いた。

「聖北教会退魔庁の司教から仕事を貰って、大魔道って位の死霊術士を退治するんです・・・」

20130310_01.png
20130310_03.png

「ずいぶんと細かい設定ねえ。大魔道って言えば、賢者の塔の最高位よ?」
「夢の中でも、塔の所属の方がそんなこと言ってました。・・・・・・すごい生々しくて正夢かと・・・」
「残念、仕事はあるにはあるんだけどね。商人からの依頼よ」
「商人・・・ですか?」

 ジーニの差し入れで顔を拭き終わったアウロラは、きょとんとして杖を持つ仲間の顔を見る。

「大商人オットーからの探索依頼よ。目的は≪クドラの涙≫という宝石を持ち帰って彼に渡す事」 
「・・・・・・クドラですか?」

 アウロラは柳眉をひそめた。
 クドラ教は、聖北教会の信仰が浸透する以前に存在した土着の呪術系信仰の末裔で、主神クドラを崇めており、一般的には死霊術使いとして知られている。
 灰色の法衣を纏う彼らはえして狂信的であり、見つかれば聖北教会の異端裁判所などで裁かれる。
 当然、助祭扱いの時に聖北教会から出奔してはいるものの、アウロラ自身にとってあまりいい関係を築けるような相手ではないはずだ。

「そんな顔しなさんな。後輩が色々入ってきてるんだから、今さらゴブリン退治なんて受けてられないでしょ?エディだってハイリスク・ハイリターンの依頼で、良さそうなの探してたし」
「それはそうでしょうが・・・・・・他には無かったんですか?」
「ないことはないけど、報酬が銀貨8000枚よ。他に渡すなんてできたと思う?」
「はあ・・・・・・。分かりました。では、その≪クドラの涙≫とやらについて、教えてもらえますか?」

 ジーニはにやりと笑って説明を開始した。
 ≪クドラの涙≫は、ベルルース地方の伝承に出てくる宝石だ。
 この地方では数百年前までクドラ教が信仰されており、聖北教会との戦いの際には、死者の森と呼ばれる森林地帯にアジトを構えていたそうだ。地方の商人たちに言わせると、今でも彼らの隠れ里が存在するとか。
 なんでも血のように赤い石で、見る者を虜にする怪しい美しさに加え、所有者には不老長寿をもたらすと言われている・・・・・・らしい。
 依頼主当人は、不老長寿云々については御伽噺だろうと一笑に付していたが、宝石のコレクターとしてどうしても手に入れたく依頼を出したというのが、事の顛末である。
 彼の考えではクドラ教徒の隠れ里こそが、≪クドラの涙≫が眠る場所だという。

「・・・・・・で、今はその裏づけをしようかって言ってるとこ」
「俺は買い物に行きたいんだけどなあ」

 ギルは頬を掻きながら、ジーニと共に一階へ下りてきたアウロラに笑ってみせた。

「買い物も結構だが、情報収集も忘れちゃいけねえぜ」

20130312_01.png

 ぎゅ、と荷物袋の紐を締めたエディンが忠告する。
 ギルが小さく頷き、

「とりあえず、≪クドラの涙≫について調べてみるか。あとは、ベルルース地方と死者の森についても、調べた方が良いかもな」

と言った。

「念のため、依頼人の事も調べておきましょうか。変な事で難癖を付けられて、報酬を踏み倒されたら大変よ」
「ジーニ、報酬を値上げしてくれなかったのまだ怒ってたの?」

 目を瞬かせてミナスが訊くと、彼女はふんと鼻を鳴らした。

「何言ってるの。大商人なんて持ち上げられてる連中ほど、妙な事が控えているもんよ」
「北方諸国との繋がりがある大貿易商からの依頼だって、親父さんが張り切ってるけどな」

 だからそれ以上詳しい事を親父さんは調べていないと思う、とアレクは付け足した。
 ミナスが分かったような顔で頷き、一行は腰を上げた。
 親父さんや娘さんによると、ベルルース地方は北氷海に面した寒くて貧しい土地だが、良質の琥珀が取れることで有名なのだという。
 今日は市場の休業日だが、はたして目当ての人物は酒場にいた。
 やや長めの襟足を垂らした、二十代後半くらいのはしっこそうな男性である。

「よう、久しぶりだな」
「や、久しぶり」

 そう言って手を挙げたのはアレクである。
 彼はこないだ、娘さんがならず者に絡まれてトラウマを負った際に、ポーカーの勝ち代で彼から琥珀のイヤリングを購入し、プレゼントしたのだ。
 アレクが≪クドラの涙≫やベルルース地方について詳しい事を知りたいと打ち明けると、彼は快く教えてくれた。

「≪クドラの涙≫か?ああ、知ってるよ。ベルルース地方の伝承に出て来る宝石の事だろ?ベルルース地方っていうのは北方諸国の一部で、琥珀で有名な所さ・・・あそこは、土着宗教に由来する風習が今も残っていてな。噂じゃクドラ教徒の隠れ里まであるって話だ」
「確か、そこには死者の森って言うのがあるとか?」
「死者の森っていうのも、そんな噂のある場所の1つさ。何でも、異教徒が沢山死んだ古戦場で、今でも死霊が彷徨ってるそうだ。ま、あくまでも噂だがね」

 ジーニが横から口を出し、大商人オットーの評判を訊くと、彼は商魂逞しい人だとだけ答えた。恐らく彼自身も、オットーの息が掛かった所と取引をしているのだろう、それ以上は何も答えなかった。

「あんまり詳しくは分かんなかったわね」
「なら、情報通を尋ねてみるか」

 一行はエディンの案内でリューンの裏通りへと足を踏み入れた。
 一つの店を指差して言う。

「あそこで待ってろ。俺の知り合いの店だから、そう悪い扱いはしないだろう」
「いいけど、エディンはどこに行くの?」
「情報通の家。ミナスはちゃんとギル見張ってろよ。変なもの売りつけられないように」

 くしゃりと波打つ亜麻色の頭髪を撫でると、長い足を持て余すような独特の歩調でエディンは盗賊ギルドへと向かった。
 並みの盗賊には見つからない入り口を苦もなく探し当てると、

「早耳の蜥蜴」

と短く合言葉を口にした。
 彼が訪れたのは、盗賊ギルドの中でも、物乞いや各地に散らばるメンバーからの情報を集めている幹部の所であった。
 間違っても、無関係な仲間を連れてこれる場所ではない。
 見張りの一人が先に立ち、斜視気味の、顔に刺青をした若い女のところまで案内する。

「おう、久しぶりだな。今日はどんな情報が欲しいんだ?」
「ベルルース地方と死者の森ってのは、あんたの耳になんか来てるかい?」
「それなら銀貨200枚だ」

 エディンが小分けにした皮袋の一つを放ると、幹部は片手でそれを受け取った。

「ベルルース地方を含めた北氷海沿岸一帯は、数百年前までクドラ教が信仰されていた地域でもある。表向きは聖北の教化が進んでいる事になっているが、実際はそうでもないらしいな」
「そっちは聞いてるよ。他には?」
「そのベルルース地方の奥地、サルヌ川とクゥズ川に挟まれた森林地帯は、別名・死者の森と呼ばれている。湿地帯に接しているためか、森の奥は年中霧に包まれているらしい」

 その森こそが、約200年前にクドラ教徒が最後の抵抗を行なった古戦場・・・千人以上のクドラ教徒が殺され、亡霊となって今も彷徨っているそうだ。
 彼女の掴んだ話からすると、死者の森にクドラ教徒の隠れ里が存在するという噂は事実だろうとのことである。
 見慣れない人間が森の近くにある町で買い物をした後、森の奥に消えて行ったという目撃談が後を絶たないことが、その理由だ。

「もう1つ、サービスで教えておいてやろう。裏通りに住む呪い師の婆さんは、死者の森の近くの出身だ」
「・・・・・・あの婆さんが?」

 エディンの脳裏に、ぼろぼろのローブを着た皺くちゃの老婆が浮かんだ。

「詳しい話を聞きたければ、美味い酒でも手土産に持って行くんだな」
「サービスまで付けてくれてありがとよ」
「まあ”金狼の牙”と言えば、昔に紅い鷹旅団の件で世話になってるからな。・・・・・・鼠の行路にはもう帰んないのかい?」
「肉食獣があそこに帰っちゃ、かえって邪魔になるだけさ」

 パタパタと彼は手を振った。

「惜しいね。それだけいい腕してるのに」
「幹部様に褒めてもらえるたぁ、少しは自惚れていいのかね?・・・・・・お、そうだ。大商人オットーはここの保護だっけ?」

 もう1つの皮袋――銀貨100枚が入っている――をまた放ると、幹部はふっと笑って首を横に振った。

「北方貿易で財を成した大金持ちだがね――強欲な事でも知られていて、少しでも気に入らない点があると、強引に値引きをさせたりするらしい」
「ハハン、なるほど」

 ジーニに交渉させるんじゃなかったな、とエディンは思った。恐らくオットーは、彼女の高慢な振る舞いが気に入らなかったのであろう。

「その一方で、アレトゥーザなどを通じた南方貿易の波には、完全に乗り遅れてしまった状態だ。今から挽回するのは、事実上不可能だろう」
「あんまり肩入れすると良くなさそうだな」
「これまで北方貿易で儲けてきた事が足枷となったようだが、おかげで奴の商会は赤字続きだ。今はまだ良いが、この先どうなるかは分からないぜ」
「そうか。これだけ聞けりゃ十分さ、ありがとよ」

 暗い色の外套を翻しエディンが出て行くと、幹部はしばし目を閉じた後に独白した。

「新米の面倒見て終わるだけの男じゃないとは思っていたが・・・・・・英雄様の一人とはね。上手くやんなよ、黒鼠」

 幹部が口にしたのは、エディンがリューンの地下にある施設――盗賊ギルドが技を教えている場所にいた頃の、かつての二つ名だった。

2013/03/12 19:31 [edit]

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