Sat.

娘と冒険者 5  

 ――ひゅおおおお・・・という風の音がして、辺りの草が揺れた。風の強い日だが、空気は固く重い。
 ”金狼の牙”たちは草むらに身をかがめつつ、遠くの四つの影を眺めている。

「ついにこの日が来たわね・・・」

 ぎゅっとジーニが杖を握り締めた。

「娘さん大丈夫かなあ・・・」
「あんだけ真剣に特訓したんだ。負けようがない」

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 ギルの心配そうな独白に、アレクがふわりと笑って答えた。
 支援魔法をかけておいたから、ある程度は素早く動けるはず――ジーニはそう呟くと、目を凝らして推移を見届けた。
 娘さんは少しの距離をおいて、3人の悪漢と対峙していた。
 娘さんの前髪がゆるやかな風に揺れる。

「おれたちを呼び出しといてどうするつもりだ?」

 蒼い髪の男が剣を構えて言った。
 年嵩らしい男が、そこでにやりと嫌な笑みを浮かべる。

「あのときのつづきをご所望かな?」
「ヒッヒッヒッ、俺たちも逃がした魚は大きいと思ってたんだ」

 追従するような男たちの笑みに、娘さんは静かに言い放った。

「辞世の句がそんなチンケじゃ、浮かばれないでしょうね」
「どういうことだ?」
「そのままの意味よ。あんたらをここで倒す!」

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 娘さんの人差し指は、真っ直ぐ悪漢たちに向けられていた。

「ショックで頭がイカレちまったのか?」
「ちげえねえ」
「減らず口はそこまでよ・・・・・・【魔法の矢】!」

 その指先から、本当の攻撃魔法――練り上げられた矢が放たれる!
 まだ未完成の魔法であるため、本当なら必中のはずの矢を辛うじて回避した悪漢の一人が舌打ちした。

「こ、こいつ・・・!」
「ぶっ殺してやる!ビーテ、そっち回れ!」
「ふふっ。か弱い娘に二人がかりとは・・・最低の男どもね」

 娘さんの台詞に「うるせえ!」と怒号した男が、ナイフを抜いた。
 この1週間の間に、血豆のつぶれた手がレイピアを鋭く抜き放つ。

「双狼牙!」

 切り上げた剣先が、凄まじい勢いで男のナイフを弾く。
 そんな彼女の背後に、黒いメッシュを入れた男が迫る。

(へっ、後ろががら空きだぜ!)

 ところが・・・。

「甘いわね」

 その台詞と共に、娘さんの体がひらりと宙を舞い、ビーテの後ろへと降り立つ。

「こっちよ」
「い、いつの間に!」

 たちまち一人を打ち倒し、泡を食った男の一人が、古代文明期の出土品である「銃」を構えたものの・・・。

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「うわあああぁぁ・・・」

 トリガーを引くよりも早く、娘さんの手から放たれた爆炎が男を黒焦げにして吹き飛ばす。
 辛うじて息はあるらしい。ぴくりぴくりと、虫の様にわなないている。

「残るはあなた一人のようね」
「ちっ、こうなったらこのベリアスが相手だ!」

 ”金狼の牙”たちは、娘さんの戦いに思わず身を乗り出してしまう気持ちを抑えつつ、見守っていた。
 一同が叩き込んだことは無駄ではなかったようだ。
 彼女は十分な成長のあかしを見せてくれた。
 ただ、ジーニの見たところ、先程の強力な魔法の使用でもう魔力の素のちからは残っていないようである。最後の相手は侮れないやつのようだが・・・。

「ねえ、ギル。やばいんじゃない?アイツの構え、素人じゃないよ?」
「あんだけド派手に魔法を使ったから、もう『魔力の素』の魔力は残ってないだろうし・・・」

 そう口々に言うミナスやジーニをちらりと見た後、ギルは、

「待て。娘さんを信じてやれないのか?」

と問うた。
 強い黒瞳の輝きに、アレクが「ギル・・・」と呟いた。

「彼女はこの日のためにつらい修行に耐えてきたんだ。俺たちもできるだけのことを教えた・・・」

 悔しさで悪夢に魘される娘さんの毎日――今、ギルたちが出て行ってあいつを倒しても、彼女ははたして満足できるのだろうか?魘されなくなるのだろうか?
 しばし考え込んでいたアレクは、ふっと柄にやっていた手を元に戻した。

「そうだな。まだ、娘さんが負けると決まったわけじゃないしな」
「俺たちにできることは祈ることだけだ」

 そうしている間にも、娘さんとベリアスの戦いは続いていた。
 ベリアスが放った【居合い斬り】を、辛うじて細剣で受け止めたかのように見えた娘さんだったが・・・。

「甘い!」
「くっ!」

 男の気合声と共に、彼女のレイピアが放物線を描いて後方へと飛んでしまう。

「とどめだっ」

 その追撃を、娘さんは見事な後方宙返りで回避してみせる。
 すらりとした肢体が降り立った先は――自らが落としてしまった武器の横だった。

「うりゃあ!」

 斬りかかってきた長剣を、何とか娘さんは受けることができた。

「へへッ・・・」

 自らの優勢を信じきったベリアスが、笑い声をを漏らす。
 それと共に、段々かみ合った武器たちが・・・・・・娘さんの方へと寄っていく。

「むむむ・・・」
「力は俺のほうが上だっ!」

 ベリアスが剣に力を込めた時の一瞬の隙を娘さんは見逃さなかった。

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「隙あり!必殺!【百花繚乱】!」

 次の刹那、【穿鋼の突き】の何倍もの手数で、細剣が突き出される・・・・・・!
 到底、その素早さに追いつけないまま、長剣だけで防ぎきる事すらできず、ベリアスのがら空きである肩や腹、腕を容赦なく剣先がえぐった。

「・・・な、なんて非現実的な技なんだ・・・」

と言って、ベリアスは倒れた。

「・・・・・・オイ、あんな技、いつ教えた・・・?」
「いや、ロスウェルでほら。【焔割り】教えてもらったろ?娘さんにその話をしておいたんだよ」

 エディンが震える指先で娘さんの方を指すのに、けろっとした顔でギルが答えた。
 恐ろしいことに娘さん、未知の剣術書をヒントに自分の技を開発したらしい・・・。
 そんな外野の声を尻目に、ベリアスは息をついて負けを認めた。

「トドメをさせ・・・」
「・・・・・・」

 ところが・・・。
 ふらっ・・・と娘さんの体が傾いだ。
 軽い音を立てて、地に伏せる。
 見守っていた”金狼の牙”たちが飛び出して、まずギルがその体を抱え起こした。
 大きな外傷は見られないようである。
 きっと、精神力を使い果たして、緊張の糸が切れてしまったのだろうと思われた。

「大丈夫?」
「・・・ん・・・んん・・・」

 額から血を流しているベリアスが、その赤いマントに包まれた背中を見て声をかけた。

「お、おまえは”金狼の牙”のギルバート・・・」
「お前、相手が娘さんでよかったな。俺のパーティーは血の気の多いやつばかりだからな」
「まったくです」

 そう呟いたアウロラが、【活力の法】を渋い顔でかけた。

「た、助けてくれるのか?なぜ?」
「勘違いしないで。娘さんを犯罪者にしたくないだけよ」
「あの2人を連れてどこへなりとも行くがいい」

 冷たく言い放った後、ギルは「ただし!」と続けた。

「今度俺の家族に手え出しやがったら容赦しねえからな」

 ・・・・・・その後。
 最近、娘さんがにこやかと不思議がる親父さん相手に、

「さあね?でも、華やかな娘さんが一番だね」

と返すギルがいた。
 真紅の都ルアーナで春の新作が出たと喜んでいる娘さん・・・・・・あの決闘が嘘のような姿に、彼は微笑んだ。
 その後ろで、こっそりエディンとミナスが話をしている。

「オイ、知ってるか?ここ最近、女性相手に暴力を振るおうとした奴らが、謎の軽戦士によって退治されてるらしいぞ」
「へえ・・・。すごい剣士さんが来てるのかな?」
「それがな。なんでも女だって話なんだが・・・・・・」

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「え・・・・・・まさか・・・」
「まさか・・・・・・だよな」

 一緒に午後から買い物に行こうと、女性陣と話し合っている娘さんへ2人は目を向けたのだった。

※【百花繚乱】、≪着火≫×4取得※

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■後書きまたは言い訳
49回目のお仕事は、寝る前サクッとカードワースフォルダより、きちょうじさんのシナリオで娘と冒険者でした。あんまり公式のAskシナリオとか寝る前サクッとをやっていないので、このレベルでできるものを探してみたら、6-8レベルの短編としてこの楽しいシナリオがありました。
プレイされるか、あるいはリプレイをご覧になればお分かりのとおり、コミカルで娘さん推しなシナリオでございます。
急に娘さんに剣や魔法を教える経緯はともかく、それをOKしちゃう冒険者の姿にはちょっと承服しかねることもあったのですが、本文中で書かせていただいたとおり、「娘さんの笑顔が見たいから」というよりは、「普段、苦楽を共にしてる仲間が無邪気に笑っているのが嬉しいから」という理由で、娘さんに教えることを黙認と言う形をとりました。
ギルの場合、一般人だと分かっている相手に対して、自分が守るんだからお前は物騒なもの覚えなくていい位のスタンスでいますので、今回はちょっとそこをシナリオに合わせられずにこんなリプレイとなってしまいましたが、きちょうじさんの狙いと全然違う感じになってしまっていたらすいません。
それから、ちょっと試しにやってみたら、ところどころに別のシナリオを絡められそうだったので、あっちこっちを繋げてリプレイを作成してみました。

繋げた所その1は、冒頭でロムシフさん(現ラ・フランスさん)の悪魔たちの挽歌です。これはどういうシナリオかというと、某13魔女みたいな戦闘シナリオと申し上げれば一番分かりやすいでしょうか。対象レベルでクリアをすると、悪魔召喚の呪文をクリア後に覚えられる特典がついてます・・・適性は恐らくジーニと合いませんが。
まあやってみるのが楽しいので。(笑)

繋げた所その2は、途中、周摩さんの深緑都市ロスウェルで【焔割り】を剣士・エルバートから貰っている事にしていますが、これは娘と冒険者クリア後に実際プレイさせていただいてます。
偶然、同時期に「剣の突き技」が絡んできたものですから、シナリオにはありませんでしたが、【焔割り】の剣術書を読んだ娘さんが、【百花繚乱】を閃いた感じにしてみました。
ただ残念な事に、【百花繚乱】はあいにくと女性専用技で器用/好戦の適性となっておりますので、クリア後に売却いたしました。・・・この技使える冒険者、違う宿で作ろうかなあ。

追記:親父さんの台詞に出てくるエイブラハム氏は、MoonNight-Waltz.に出てくる冒険者の宿≪大いなる日輪亭≫のマスターです。懐の広い、鷹揚な感じの亭主ですよ。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/09 00:10 [edit]

category: 娘と冒険者

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Sat.

娘と冒険者 4  

 その後、おまわりさんは事件のあらまし――娘さんが遅くなったために近道をしようと裏通りを行ったこと、そこで柄の悪い男たちに囲まれ襲われかけたところを彼が助けたこと――を話した後、帰っていった。

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 娘さんは意識を取り戻したものの、ひどく怯えていて、顔は青白く唇は真っ青である。
 冒険者たちは彼女をそっとしておこうと、世話をエセルに頼もうとしたが、娘さんの方が彼らに話しかけてきた。
 ギルが優しく声をかけると、最初は掠れていた声も、徐々にその感情を吐露するようになった。

「ずびぃ、ずびぃ、えぐぅ・・・怖かったよう・・・」
「かわいそうに・・・」
「・・・だんで(何で)?」

 娘は回らぬ舌で一所懸命に言い募る。

「だんでげんもばほうも、おじえられたとおりにやっだのに・・・」

 それを正確に変換したジーニとアレク――魔法と剣の師匠――は、所在なげに俯いてしまった。
 代わりにギルがため息をついてから口を開いた。

「あれはね。俺らが、娘さんが誰かを傷つけるのを見たくなかったから・・・」
「ぞれで、うぞの剣とばほうをおじえだのね・・・」
「・・・すまなかった」

 ”金狼の牙”のリーダーはギルである。彼は一同を制して、潔く頭を下げた。
 そして優しく娘さんの肩に手を伸ばそうとしたが、無情にもその手は振り払われた。

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「ギルざんなんて、だいぎらい!」
「・・・・・・」

 娘さんが自分の部屋へといなくなり、同室のエセルが慌てて彼女を追った後――妙な静寂が店内を包んだ。
 アレクとジーニ、そしてアウロラやエディンもギルに謝り始める。

「・・・・・・すまない。お前だけに泥を被せて・・・」
「あたしも悪かったわ。ごめん」
「・・・私もいけなかったのです。つい、調子に乗ってしまって・・・」
「年長者として、もっと気を配るべきだった。すまん、リーダー」

 片づけを済ませた親父さんが少し疲れた顔をしながら、カウンターの席へ腰をおろした。
 
「おい、ギル。どういうことだ?」

 ギルは、親父さんの知らないところで娘さんに冗談半分の剣と魔法を教えていたことを説明した。

「悪かったと思ってるよ。こんなことになるなんて・・・」
「いや、お前が謝ることはない。わしは真剣に教えてくれなかったことをむしろ感謝しとるよ」
「えっ?」
「わしだって、娘が人を傷つけるところなんて見たいとは思わん」

 親父さんはゆっくりと首を横に振って言った。

「しかも、聞いた話じゃ、たいした目的もなく、興味半分で始めたそうじゃないか」
「・・・・・・ああ」
「そんな生ぬるい決心で剣や魔法が身につくはずはない」

 ごつい――つい数時間前まで油樽を投げつけていた手が、がしりとギルの肩を包んだ。

「今度のことも、あいつが夜の街をうろついていたのが悪い。お前らは何も気にする必要ない」
「親父さん・・・」

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「お前らも本当は、娘のことを大事に想ってやってるんだろ・・・」
「当たり前だろ」

 照れたように視線を逸らすギルに、親父さんはふっと笑った。

「あいつの喜んだときの笑顔はみんなを陽気にさせるもんな」
「娘さんの笑顔か・・・」

 アレクが片目を瞑って言った。

「さっきのポーカーの勝ち分で、娘さんに何か買ってあげるとするよ。300spもあれば、きっと娘さんが喜ぶものを買えるんじゃないかな?」
「そしたら、またあの笑顔が戻ってくる・・・といいよな」

 アレクとギルの台詞に、親父さんも頷いた。

「そうだといいな」

 隣室でベッドに横たわっていた娘は、扉の隙間からこぼれてくる優しさに先程とは違う色の涙を流していた。
 数日が経過し、プレゼントの効果もあってか、娘さんにも笑顔が見えるようになった。
 はじめはギクシャクしていた”金狼の牙”たちとの仲も、次第にもとのようになっていった。
 だがギルは、娘さんの笑顔が、時折まるで作り笑いであるかのように見えることや、エセルからまだ彼女が夢で魘されているらしいことを聴いて、心の傷が癒されていない事を知っていた・・・。
 そんなある日。

「あら、お父さん。これからどこか行くの?」
「すまんが、これから寄り合いなんだ」
「また行くのか、親父さん」

 そう言ったギルのほうに、親父さんは笑いかけて言った。

「ああ、エイブラハムや他の宿の亭主の話が面白くてな。留守を頼んだぞ」

 そして娘さんと一緒に”金狼の牙”たちも彼を見送ったのだが・・・。

「ねえ、ギルさん」

 娘さんが振り返った。

「なんだい?」
「まえの日の夜の事、覚えてるでしょ」
「酷い目にあった日のこと?」
「あたし、あいつらを見返してやりたいの・・・」

 すわ娘さんからの依頼かと、姿勢を正した一同に、娘さんは予想外の提案を行なった。
 曰く――もう一度、今度は本当の剣と魔法を教えてくれと。

「あたし、本気でがんばるわ。どんなつらい練習も耐えてみせる!」
「復讐からは何も生まれないぜ。親父さんも大反対だろうな」

 もっともに聞こえるギルの台詞を、娘さんはフンと鼻で笑った。

「それは一般論でしょ。あたしはアウロラさんやジーニさんが同じ目に遭ったら、どう思うかを聞いてるの」
「それは・・・・・・まあ、【災いの薬瓶】で動き鈍らせてから、一人ずつ【魔法の矢】でしとめるわね」
「・・・【氷姫の歌】歌って混乱させてから気絶させます」

 女性冒険者の忌憚ない意見。性的な危機に対する怯えは、まず女性でなければ分からない。
 それに渋い顔で黙り込んだギルに対し、あのね、と言って娘さんはお盆を握り締めた。

「あの日から悔しくて、あいつらに乱暴される夢ばかり見るのよ。だからお願い、もう一度チャンスを・・・」
「娘さんにお願いされちゃあ、しょうがないな。ただし次の3つは守ってくれ」

 みなまで台詞を言わせることなく、ギルは約束事項を口にした。
 1つ目。期間は一週間。それ以上は費やせないし、芽が出なかったらそれまで。
 2つ目。途中で投げ出さない。やるからには最後までやること。
 3つ目。命を大切にすること。他人の命も、自分の命をも。

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「わかった?」
「はい、分かりました。ギル先生!」

 娘さんはまっすぐな眼差しをギルに向けた――その瞳には、少しの揺れもなかった。
 その日から血の滲むような特訓が始まった。

2013/03/09 00:02 [edit]

category: 娘と冒険者

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Sat.

娘と冒険者 3  

 そして一週間後。
 深緑都市ロスウェルに出かけ、そこで依頼をこなしてきた”金狼の牙”たちがふらりと帰ってきた。

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「親父さんただいま」
「あ・・・ああ、お前さんたちか・・・仕事の方はどうだった?」
「なに、簡単なものだったよ」

 それ以上は依頼人との守秘義務により詳しく話せなかったものの、ギルは親父さんを心配させまいと微笑むに留めた。――実際には、剣士とのとんでもない死闘があったのだけど――。

「依頼料の他に手に入れた技もあったし、いうことなしだね」
「そうかい」

 エセルから笑顔と共にワインを貰ったギルが、ふと気づいたように訊ねる。

「そういえば、娘さんは?」
「それがなあ・・・まだ帰ってないんだ・・・」

 親父さんが唸るように答える。

「お友達の家に遊びに行くって言ってたんですが・・・」

 もう一人のウェイトレスであるエセルも、困ったように頬に手を寄せて言った。
 親父さんが深くため息をつく。

「やれやれ、どこをほっつき歩いてるんだか」
「心配?」

 からかうようにギルが言う。

「何を言うか。いや、わしはだな・・・」

 しかし、その台詞をアレクの余計な一言が遮った。

「娘さんも、もう年頃だしね。ややもすると・・・」
「おい、アレク。今なんて言った?」
「? いや、娘さんももう子どもじゃないって・・・」
「まさか・・・」

 親父さんがぶるぶる震え始めたのを見て、ギルが顔色を変える。
 慌てて華奢な背中を押して誘導した。

「あ、これまずい。エセル、2階に逃げてろ」
「え?ギルさん?えっ、えっ?」
「早く!後で説明するから逃げろ!」

 その間も親父さんのヒートアップは続き・・・・・・。

「まさか・・・まさか・・・許さん!わしは絶対に許さんぞ!!!」

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「アレク!なんでそんなこと言っちゃったんですか!?」
「す、すまない。他意はなかったんだが・・・」
「オイオイ、親父さんが本気モードだぞ・・・」

 急いで”金狼の牙”たちは得物を構えた。
 親父さんの逞しい腕が、カウンター下に強盗対策で潜めている木刀を取り出し――≪狼の隠れ家≫はしっちゃかめっちゃかになった。

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「何あの地獄めぐりって技・・・格闘のくせに睡眠とか・・・」
「油の入った樽投げて着火とか、店が全焼したらどうすんだよ、ったく・・・」

 がくり、と大人コンビが膝をつく。
 ”金狼の牙”たちは、隙あらば油を引っかぶった自分たちに火をつけようとする親父さんに苦戦を強いられながらも、どうにか勝ちを拾い、正気に戻す事に成功した。

「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
「お、親父さん落ち着いて」

 アレクがさっきのは軽い冗談だからと必死で宥めると、親父さんもようやく気分が収まったようで、

「そうだよな・・・うん、あいつはまだ子どもさ」

とカウンターの定位置に戻った。
 暴れまわった店内を、アウロラと、2階から降りてきたエセルや他の後輩冒険者達が片付けはじめる。

(でも、それにしても遅いよな娘さん・・・)

 ギルが気遣わしげな顔になって、窓から外を見た。
 そこには夜闇が広がっているだけである。
 彼の懸念は当たり――――数時間後。
 疲れきって眠ってしまったミナスを部屋に寝かせ、残りの面子で親父さんを交えポーカーをしたところ、アレクが一人勝ちをし、

「それに比べて、親父さんはぼろぼろ・・・」
「娘さんが心配でポーカーどころじゃなかったんだろう・・・」

と幼馴染たちが話している最中に、先程の戦闘の余波でぼろぼろになってきた扉が開いた。
 すわ娘さんか?と振り向いた一同(親父さん含む)の目に映ったのは、褐色の髪をした長身の男が、眠っているらしい娘さんを横抱きにして入ってきた図だった。
 男が耳障りのいい声を発する。

「失礼しますが・・・ここは狼の隠れ家ですよね」

 親父さんの顔色がまた変わった。

「・・・・・・き・・・き・・・」
「あ」
「ちょっとまたなの!?」

 一足先に気づいたエディンとジーニが呻くが、親父さんと――何より、この店に初めて立ち寄った男にはその意味が分からない。

「きさまか!うちの娘をたぶらかしおって!」
「?」

 きょとんとした様子の男に、親父さんはまたもやカウンター裏にあった油樽を投げつけ始めた。

「成敗してくれるわ!!」
「おわっと!」

 ひらりと避ける男を見て、ギルが言う。

「おい、そろそろ止めた方がいいんじゃないか。あの男、R・C・S・D(リューン市警備機関)で見たことあるぞ」
「でも今日の親父さんは強いから・・・あたしはごめんだわ」
「なまじ伊達男なだけに気の毒に・・・・・・こういうときは・・・」

 そう言って、アレクは入り口の辺りにそっと横たえられた娘さんに声をかけた。

「起きろっ!菊枝っ!」
「なんですって!あたしの名前は、フランソワーズよ!!!」

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 ――名前に反応して一時的に目を覚ました娘さんの手によって、事態は収束した。親父さんは気絶している・・・。

2013/03/09 00:01 [edit]

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Sat.

娘と冒険者 2  

 目を瞑って精神を集中していた後、簡易詠唱で刃に火炎を纏わせた剣が、ひゅん!と唸りを上げて仮想の敵を打ち払う。
 続けて、炎が消えると同時にアレクの体が沈み、円を描くような剣舞を始めた。

「お、【炎の鞘】からの【風切り】か!」

 感心したようにエディンが腕組みをして頷いている。
 アレクの周りを、唸りを上げたつむじ風が取り巻いている。
 純粋な剣技のみ――それでここまで練り上げた実力は、決してこけおどしに留まるものではない。
 すぱん、と近くの細木がいい音を立てて割れ――目に見えぬ刃で、その後も切り裂かれていく。

「たあっ!」

 超神速の剣は大気さえ両断する真空を宿し、敵対する者たちを深く切り裂く――驚異的な命中率を誇る、アレクお得意の剣舞であった。

「・・・・・・す・・・すごーい!!!」

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 娘さんの顔がすっかり興奮で朱に染まっている。
 キン、と音を立てて剣を鞘に収めたアレクが、滅多にないことだが微笑んだ。

「ざっと、こんなものだ」
「アレクさん、お手本ありがとう。次はあたしもやってみるわ」

 好奇心に溢れた笑顔で、娘さんはアレクに渡された練習用の長剣の柄へ手をかけた。
 美しい剣舞を見せられて、自分でもできるのではないかと思っているのだろう。素人があそこまでの水準に達するまでには幾年月の修練が必要であるのだが・・・。

「うーん・・・」

 やはりというか、重量がありすぎたらしい。

「重くて持ち上がらないわ・・・」

 ここでピコーン、とジーニが何かを考え付いた。

「がんばれ、杉代さん!」

 一刹那・・・・・・長剣が宙を舞い、見事ジーニの脳天を剣の腹が打ち据えたように見えたのだが。

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「エカテリーナ他の剣がいい」
(めっ、目の錯覚!?しかも名前また変わってる!?)

 沈黙したジーニを見て、ギルの背中に冷や汗が流れた。
 しかしこのままではいけないと、彼は口を開く。

「娘さんじゃ、剣は扱えないよ。親父さんも反対しているし、今日はもう帰ろう」
「・・・・・・」

 娘さんが不満そうな顔で口をへの字に結んでいるのを見て、気の毒に思ったのだろうアウロラが、

「これを使ってみたら?」

と細剣を取り出した。

「レイピアなら軽いから、娘さんでもきっと大丈夫ですよ」

 ギルは内心で(余計な事を・・・)と舌打ちするが、娘さんはアウロラから手渡されたレイピアを軽々と振り回し、にっこりと笑った。

「あら、これならあたしでも扱えそう」
「じゃあ、この岩を突いてみて」

 アウロラが指差したのは、等身大ほどの岩であった。
 実は彼女が荷物袋から取り出し平地にすえたのを、ミナスやエディンだけは気づいている。

「じゃあ、行くわよ・・・はああ!」

 娘さんが気合と共に思い切りよくレイピアを突き刺す。

「必殺!穿鋼の突き!!!」

 すると――いくらなんでもそれは無茶だろう、と案じていたギルをよそに、その岩はあっけなく砕け散ったのである。
 えっ!?と自分でも驚く娘の足元に、砕けた岩の欠片が転がった。

「すごいですね、娘さん剣の才能あるんじゃないですか?」
「えへへへ。そうかなあ・・・」

 照れたように笑う娘に気づかれないよう、こっそりとギルが質問する。

(おい、一体どういうことなんだ?)
(ふふふ、あの石はちょっとの衝撃で崩れる材質でできてるのです)
(娘さんを騙したのか!?)
(嘘も方便と申します。喜んでくれてるからいいじゃないですか)

 なんとなく納得できず憮然となってしまったギルだったが、娘さんはそんなことにかまうはずもなく、今度はジーニに魔法をせがんでいる。
 黙って彼女を見つめていたジーニは、おもむろに口を開いた。

「その前に、魔法を使うには魔力がなかったらだめなの」
「えっ、そうなの?」

 驚く娘さんに、人差し指を立ててジーニは説明した。

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「人間が魔力を持つためには、エルフや魔族の血筋を受け継いでなければいけないのよ。ほかにも契約とか同化って手段はあるんだけどね」

 血筋を受け継いでいない素人がいくら詠唱を紡ごうとも、魔力を練ることはできない。
 では契約や同化とはどのように成すべきものか――というと、その答えがジーニの持つ≪死霊術士の杖≫だったり、一般的な魔術師が扱う≪賢者の杖≫なのだ。
 魔法の触媒を持つことで、己の中に眠っているが扱われる事のない魔力をコントロールし、魔法を使えるようにするわけである。
 賢者の塔を創立した者たちが見出した無理のない魔力の引き出し方法は、当時、画期的な大発見として爆発的に世界に広まったのだった。

「娘さんからは魔力を感じないから、純人間だと思うわ」
「よく分かんないけど、あたしは魔法を使えないのね」
「そこで・・・」

 傍らに置かれていた荷物袋から、ジーニは赤い宝石を2、3個取り出した。

「きゃあ、綺麗なルビー!」
「これは触媒・・・・・・つっても分かんないか。まあ、ようは魔力の素。魔力が込められた宝石なの」

 元々は後輩冒険者相手に、魔力の引き出しをするためとってあった品である。
 白い繊手が、娘さんの手の上にそれをそっと置いた。

「持ってるだけで魔力得ることができるから、これなら娘さんでも・・・使い捨てだけど貸してあげる」
「えっ、あたしにくれるの?全部?やったー!」

 娘さんは大喜びだったが、続いて出てきた台詞にジーニは愕然とした。

「ブローチにしようかしら」
「え・・・・・・」

 使い捨てって言ったじゃない!というツッコミに、ごめんごめんと娘さんは謝った。

「魔力の素も持ったし、じゃあ始めましょ」
「どんな魔法を教えてほしいの?」

 ミナスが娘さんに尋ねると、間髪いれず「炎の玉!」という返事が返ってきた。
 ジーニがそれを使ったのは見たことがなかったので、ギルは大丈夫なのかと心配になるが、当の本人は「まかせなさいっ!」と無駄に張った胸を叩く。
 そして荷物袋から出したわけではない、裏山に元からあった岩壁を顎でしゃくった。

「じゃあ、指をあの岩に向けて」
「ええっと・・・こうかしら」

 普段、冒険者たち相手に食事や飲みものを運んでくれる指が、すっと岩壁に突き出される。

「いいわよ、センスがありそう」

 そう褒めるジーニの言葉に、ますますギルの眉間に皺がよった。

「集中して炎の玉って叫ぶのよ」
「じゃあ、集中するわよ!」

 そう言って娘さんは両目を固く閉じた。
 言われたとおり集中している娘さんを尻目に、ジーニはなにやら小声でつぶやき始めた。

(・・・誇り高き炎の精霊サラマンダーよ・・・汝、我が紡ぎし言霊にその身を預け・・・いっとき我が力とならん・・・)
(・・・天界を羽ばたきし光の精霊フォウよ・・・汝、我の紡ぎし言霊にその身をささげ・・・いっときこの闇の世を我が聖なる光で満たさん・・・)

 ジーニが普段、高レベル攻撃魔法を使わずに薬瓶を応用しているのは、このように正式な詠唱が長いから、という理由がある。
 技量の高い術者はルーン文字を駆使して詠唱を短くできるよう工夫するのだが、その工夫が彼女にとっては苦痛らしい。
 しかし、今はただの練習と割り切ってジーニはちゃんと詠唱を唱えた。
 二人の目が、同時にカッと開いた。

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(炎の玉!)
「炎の玉!」

 一瞬まぶしい光がすべてを包む。
 その後、凄まじい爆炎が岩壁に着弾し、辺りが土煙でいっぱいとなった。

「ゴホッ、ゴホッ」

 ギルが煙にむせながら岩壁の方を見やると、さっきの爆発で岩壁は粉々に吹き飛んでいた。

「あたしってば、すごーい!」

 娘さんは有頂天となっている。
 その横で、ジーニもギルのようにむせながらちょっと反省をしていた。

(ちょっとリキ入れすぎたかな・・・)

 ガッ!と娘さんはジーニの両手を取った。

「今の見た!?ジーニさん!」
「ええ、すばらしい腕前ね。いや、さすが娘さん。光輝の狼の血は伊達じゃあないわね」
「えへへへ・・・」
(サ、サギだ・・・)

 なんともいえないペテンに、ギルは一人しゃがみ込んで頭を抱えた。
 その横でミナスがよしよしと頭を撫でている。

「やっぱり魔法はすごいわね。他の魔法も教えて」

 調子に乗った娘さんと、滅多にないことに他人から喜んでもらえて気分が良くなってしまったジーニは、次もいんちき紛いの魔法を次々に特訓した・・・。
 こうして親父さんの知らないところで、それからも”金狼の牙”たちは――どれも冗談半分なものばかりではあるが――彼女に剣と魔法を教えた。
 はじめは、「剣と魔法を覚える事」がどんな意味を持つかよく知っていたために、乗り気ではなかったギルも、他の面子が教える技能が大したことのないものばかりだということが分かると、次第に黙認するようになっていた。
 仲間たちが娘さんの喜ぶ顔を見て微笑む、その様子が嬉しくて止められなかったのである。

2013/03/09 00:00 [edit]

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Fri.

娘と冒険者 1  

「あー、クソ。地下四階までは行けたのになあ」
「まあまあ。一気に攻略しなくてもいいって親父さんが言ってたし、実力が上がるまでのんびりやろうよ」
「ミナスの言うとおりだぜ、リーダー。呪いの水晶だか何だか知らねえが、7匹のうち4匹までは退治したんだから大したもんだよ」

 禍々しい紫色に輝く水晶球を前に、”金狼の牙”たちが騒いでいる。

20130307_01.png

 水晶は「悪魔たちの挽歌」という名前で呪いがかけられており、中に住まう悪魔たちを退治しなければ呪いが解けないのだ。
 一切の魔法による肉体強化や気功の術などは嫌われ、戦闘の前準備にかける事が出来ない。 
 そんな悪条件ながらも、この間手に入れた≪エメラダ≫を上手く使い、どうにか地下四階の悪魔までは退治できたのである。

20130307_02.png

「退治したら、新しい術を教わる機会が増えるらしいから頑張らないと!諦めないんだから!」
「・・・どうしても呪いを解いてみたいんですね、ジーニ・・・。この手の呪いが掛かったアイテムは案外多くて、本の形のものもあるそうですが、私たちは今のでイッパイイッパイですよねえ・・・」
「・・・・・・まあ、いい鍛錬にはなる。今度また挑戦しよう」

 ・・・そんないつもの≪狼の隠れ家≫の昼下がり。
 当然と言うか、こんなに”金狼の牙”が騒がしいのは、店内の客がまばらなせいだ。
 それでも親父さんは忙しそうに働いている。
 娘さんはいつもの満面の笑みを浮かべながら、お客さんと他愛もない話をしている。

「あ、ギルさんたち。おかえりなさい」

20130308_03.png

 水晶から帰ってきた一行に気づいた娘さんは、

「ちょっとそこに座って待っててね。すぐにお茶でも用意するわ」

と言って、厨房へと足を運んだ。
 ”金狼の牙”たちは思い思いに腰掛け、しばらく店内を眺めていたが、そのうち客はみんないなくなってしまった。
 彼らにホットミルクや紅茶を運んできた娘さんは、それらを卓上に置くと、すこし口篭ったようになってからおもむろに切り出した。

「ねえ、ギルさんたち、今日は仕事ないの?」
「ああ、暇だけど・・・どうかしたの?」

 紅茶をふうふうと息を吹きかけ冷ましていたギルが、娘さんを見上げて首をかしげる。

「あたしお昼から仕事お休みなの。でね、その・・・」
「?」

 ジーニは目をぱちくりとさせた。そういう仕草をすると、この女は常よりも柔らかい印象になる。
 しばらく悩むようにしていた娘さんは、滝へ飛び込むような面持ちで口を開いた。

「あたしに剣と魔法を教えてくれない?」
「どうして急にそんなこと・・・」
「それに、剣や魔法なんて一朝一夕に身につくものじゃないぜ」

20130308_04.png

 ギルに重ねるようにアレクが言う。
 アレク自身も、幼い頃から剣や魔法の訓練をさせられていたために、その事はようく分かっている。
 だからこその忠告だった。

「前から、ちょっと興味はあったんだけど・・・ギルさんでもできるんだから、あたしにもできるかなと思って」
「おいおい、なめてもらっちゃ困るな」

 ギルは苦笑する。

「こうみえても俺は何年も・・・」
「おい、おまえら何を話してるんだ?」

 薄茶色のジャケットを身に纏った親父さんが口を出した。
 それは外出用の上等の上着である事を、”金狼の牙”たちは知っている。これから用事でもあるのだろうか。
 ぽりぽりと頬を掻いてから、エディンが仕方なげに、

「いやね、娘さんが剣と魔法を教えてくれって・・・」

と言いかけると、親父さんの顔色が即座に変わった。

「なんだと!」
「いやあねえ、お父さん。冗談よ冗談。おほほほ・・・」

 白々しい笑い声で娘さんが誤魔化している。

「菊枝、冒険者のまねごとなんて危ない事は許さんからな」
(名前は菊枝!?)
「お父さん!何度言ったらわかるの?あたしの名前はエリザベスよ!実の娘の名前なんだから間違わないでね」

 ぎょっとしたジーニだったが、そう言い張る娘さんに胸をなでおろした。
 ――実際、実は親父さんの本名も娘さんの本名も知らなかった。エリザベスだったのか・・・と妙な感慨に耽る”金狼の牙”たちをよそに、親父さんが必死に謝っている。

「じゃあ、わしは寄り合いに行ってくるからな」

 そういい残して親父さんは店を出る。
 しばしその様子を眺めやっていた娘さんが、ぐるんと体ごとまたこっちに向き直った。

「お父さんもいなくなったことだし、さあ行くわよ、みんな」
「行くって、どこに?」

 呆気にとられたようなギルの言葉に、娘さんは小さく笑った。

「裏山よ。あそこなら剣や魔法を使っても誰にも見つからないし、危ない事もないわ。さき行ってるわよ」

 そう言うと、娘さんはスキップで宿を出て行った。
 エディンが肩をすくめる。

「どうする?」
「ここは、冗談半分でいいから、ピクニック気分で教えてあげたらどうかな」

 ぐびり、と半ば冷めてしまった紅茶を一気に飲み干してから、ジーニが応えた。
 アレクが仕方ない、というようにため息をつく。

「そうだな」
「・・・・・・剣や魔法は人に教えるべきじゃねえと思うんだが」

 いつも楽観的なギルがそういう意見が出て、一同は驚いた。

「剣や魔法は人を傷つける道具だ。知らないほうが幸せさ」
「別に本気で教えなくていいさ。娘さん、ちょっと興味がわいただけだろ」

 アレクの視線が、ちらりとカウンターの隅に設置されている紫の水晶球へ走る。
 あれの呪いを解くためワイワイやってたのに、触発されただろうことは明らかだった。

「簡単なものを教えておけば、すぐ満足するだろう」
「・・・・・・そこまで言うならしょうがないな」

 ギルが折れた後、”金狼の牙”は裏山へと移動した。
 山といっても、森になっているわけではなく、丈の低い草木がところどころに見えるだけである。
 一行は、周りに障害物のない平坦な場所に陣取った。

「たまには仕事を離れて、自然に囲まれながらのんびりするのもいいな」
「ああ、依頼の途中だったら、辺りに注意を払わなくちゃいけねえからな」

 ギルの言にエディンが笑って首肯する。
 何しろ、いつもダンジョンや森の探索でまず周りを調査し、気配をうかがうのは彼の仕事である。

「緑を楽しむ暇なんてねえからなあ・・・」

 しみじみとつぶやいた。
 そんな風に彼らが一息ついていると、

「なにダラダラしてんのよ。さっそく始めるわよ」

という聞き覚えのある声がした。
 声のほうを見やると、娘さんが仁王立ちとなってこちらをねめつけている。
 どうも冒険者達が寛いでいるのを見て、少し怒っているようだ。
 とは言え、娘さんも動きやすい服に着替えることすらしていない。それを鑑みても、剣や魔法を覚えることに対する覚悟のなさが窺える。

「まずは剣からよ。アレクさん」
「では俺の剣さばきをお見せしようか」

 すらり、と≪黙示録の剣≫をアレクが抜き放った。

2013/03/08 23:59 [edit]

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