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Mon.

丘の上の洋館前編 3  

 ふと、とある教会に足を向ける。
 彼が向かったのは教会とは言うものの聖北教会とは違うところで、聖北のモデルとなった、もっと古い宗教のものである。
 聖北以外の宗教はえして「異教」、悪ければ「邪教」として弾圧されることが多い中、この教会だけは独自の形を保ったまま、忘れられたように存在している。
 近くまで来ると、月姫の祭のために、教会のまわりに装飾が施されているのが見えた。
 古いながらもよく手入れされたドアを開けると、そこには一人の牧師見習い以外誰もいなかった。

「ふうん、相変わらず静かだな」
「あ、ギルバートさん。こんにちは」
「リグレット、久しぶり」

 ギルは同年代と思われる銀髪の牧師見習いに、気軽に挨拶した。
 この青年とは、とある些細な事件が元で知り合ったのだが、その時と同じ気弱そうな顔のままであった。

「あれ、それ娘さんですか?長旅に出ると、子どもの一人二人出来ちゃうもんなんですねえ」
「ちがうってば」

 傍らの少女はと見ると、笑顔を浮かべてステンドグラスを見ている。
 ステンドグラスから差し込む光が、少女の金髪を虹色に輝かせた。
 リグレットはにこやかにそれを眺めた後、

「今日は『月姫の祭』なのであんなものを供えてみました」

と、祭壇の上を示した。
 ギルの目に狂いがなければ――それは熊のぬいぐるみである。

「・・・・・・なぜに、くま?」
「伝説によれば、月姫は幼かったのでぬいぐるみや人形が好きだったらしいんですよ」

 えへへ、と若干リグレットは照れたように頭を掻いた。

「こうやって飾っておけば、月姫も天界で喜んでくれるかなあと思いまして」
「お前らしい発想と言うかなんというか・・・・・・」
「ダメですかねえ」

ScreenShot_20130302_021936625.png

 否定はしないよ、とギルは肩をすくめた。
 実際、空の上にいる存在に何が喜ばれて何が嫌われるのか――そんなことは不心得者であるギルには想像しきれない。
 ふと、ステンドグラスを見るのに飽きたらしい少女が、今度は祭壇のぬいぐるみを見つけたらしくかなり興奮して指差した。

「っ!・・・・・・!」
「やっぱりこの年頃の子はぬいぐるみとか好きなんですかね」
「たぶんな。さっきも人形ねだられてあげたところだよ」
「へえ」

 リグレットはギルの意外な一面を見つけたとでも言うように感心すると、「ところでこの子はどこの子なんです?」と訊ねてきた。
 この辺りでは見ない顔だと言う。

「それがわからないんだ。俺に懐いたのかついて来ちゃってさ。・・・今祭だろ。だから、それを見に来て親とはぐれたんじゃないかと」
「その可能性は高いですね。この子、名前は何ていうんです?」
「それが口が利けないみたいなんだ」

 悪い事を聞いてしまった、とでもいうようにリグレットの顔が翳った。

「そうなんですか」
「・・・・・・・・・」

 少女はリグレットを怒るでもなく、ただ真摯に見つめている。

「もし子どもを捜してる親が来たら、≪狼の隠れ家≫にいるって伝言頼めるかな?」
「はい、任せてください。今日は一日中ここにいる予定なので」
「ありがとう、リグレット。俺は、しょうがないからこの子連れて宿に戻るよ」

 「ほら、行くぞ」とギルは少女に声をかけた。

「ギルバートさん、また今度!」
「ああ、じゃあな、リグレット!」

 ギルはマントを翻して少女と≪狼の隠れ家≫に戻った。

「ただいまー」
「おかえりなさい」

と、ギルの声を聞きつけた娘さんが振り返る。

「結構時間かかったわね?」
「ふー。重たかったよ。はい、≪月姫の酒≫」

 親父さんへカゴを差し出すと、彼はにやりとギルに笑いかける。

ScreenShot_20130304_023700125.png

「ほら、一本取れ」
「え?もらっていいの?」
「・・・・・・今日は祭だからな」
「サンキュー!親父っ」

 美しい赤の瓶を手に取る。
 それを光に透かすようにして堪能するギルへ、親父さんは腕組みをして言った。

「しかしこんなに時間掛かるなんて、どうせ道草でも食ってたんだろ」
「俺だって、食いたくて食ったわけじゃないよ。実はさあ・・・・・・」
「・・・・・・」

 無言のまま、少女がギルのマントの端から姿を現した。
 娘さんが目を丸くして驚く。

「ん?だあれ?この子」
「お前、ついにかどわかしたか・・・・・・」

 親父さんの言葉に、ギルは目をむいて否定する。

「違うっつうの!迷子だよ、迷子」
「あら、可哀想に・・・・・・」

 娘さんは少女と同じ目線までしゃがみ込んで微笑み、年と名前を聞いたが、少女からの応えは――当然、ない。
 ギルが少女がしゃべれない旨を説明すると、親父さんが依頼を書いてもらうための羊皮紙を一枚、カウンター下から取り出した。

「名前を書いてもらったらどうだ?」
「お。珍しく冴えてるな、親父」

 羽ペンとインクのセットを、依頼書を貼る掲示板近くのテーブルから持ってきた娘さんは、「はい」とそれを差し出して名前を書くよう催促した。
 すると少女は、ぎこちない手つきで名前を書いていく。上手く書けたようで、羽ペンをインク壷に戻した後、笑顔になっている。

「どれどれ・・・え   あ   り」
「(こくり)」

 少女――エアリは、あどけない笑顔のままこっくりと頷いた。
 ふむ、と髭に手をやった親父さんが唸る。

「エアリか。珍しい響きだな」
「最近の子はおしゃれで珍しい名前なのよ」
「外に貼り紙でも貼っておくか。そうすれば親も見つけやすいだろ」

 親父さんと娘さんの会話を聞いて、ギルは自分が貼り紙を作ると言い出した。
 しばし彼の顔に目を留めていた親父さんは、やがてふっと小さく笑った後に、「それと、この子のお守りも頼んだぞ」と軽くギルの肩を叩く。

「え~~~!?」
「こっちは今日の晩餐の準備で手一杯なんだよ。まかせたぞ」
「はいはい・・・・・・」

 ちらり、とギルは横目でエアリを確認する。
 困ったような顔をしている――きっと一人ぼっちで不安なのだ。

「早く親がくるといいな。今日一日よろしく、エアリ。俺はギルバート」

 エアリはすぐに笑顔になった。
 二人は握手をする――ギルの無骨な硬い手に比べ、少女の手は小さくて、柔らかい。
 この二人の邂逅が、この後、あんな事件に発展するとは――まだ、誰も思いもしなかった。

※収入0sp、≪月姫の酒≫≪エメラダ≫≪キルギルの葉≫≪太陽の雫≫≪天使の香水≫※

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■後書きまたは言い訳
46回目のお仕事は、NINAさんのシナリオで丘の上の洋館前編です。
はい、後編があります。・・・・・・また長編シナリオに手を出してます。長いリプレイを読むのがお嫌いな方は本当すいません。
ただ、この前編はエアリの可愛さを堪能しながら、普段の冒険者の日常も垣間見えるというほんわかしたいい作品なのですよ~。その分、後編はハードですが。(ぼそっと)

冒頭の会話では、本来とある令嬢の護衛を二週間やらされた後にこの物語が始まるのですが、前に出てきたモルヴァンのインパクトがあまりに強かったので、満腹食堂の大戦のすぐ後ということに改変させていただいてます。
絶対奢ってもらってるはずだし、あの調子だと。(笑)

今回の収入はありませんが、お買い物した四つの品は高価なだけあって、非常に役立つアイテムです。
・太陽の雫・・・レベル3比回復、行動力上昇、勇猛状態
・エメラダ・・・敵全体に束縛・暴露効果、成功率上昇修正
・天使の香水・・・魔法無効化
・キルギルの葉・・・全属性の精神正常化

エメラダ辺り、かなりのチートアイテムです。でも、このシナリオでしか手に入らないアイテムですので、財布に余裕がまだある内に買っておきたかった品でした。天使の香水についてはリプレイ上、ギルからウェイトレスのエセルにプレゼント予定なので、恐らくパーティで使うことはしませんが、これらのアイテムを使ってギミック戦闘シナリオに挑むリプレイとか読んでみたいです。私以外の。
・・・頭悪いので、そういう限定的なアイテムの使い方、苦手なのです・・・。(笑)

では後編をお楽しみに。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

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2013/03/04 06:25 [edit]

category: 丘の上の洋館前編

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Mon.

丘の上の洋館前編 2  

 奇妙な少女だった。
 人品卑しからぬという形容を使うほど彼女は年を取っていないはずなのだが、妙にそれがマッチしている。
 長身とは言えずとも、それなりに鍛えた体を持つギル相手にまったく臆する様子はない。
 じっとこちらを見つめてくるのに閉口したギルは、しゃがんで少女と視線を合わせることにした。

ScreenShot_20130302_010126781.png

「えーと。お買い物かな?」
「・・・・・・」

 少女からの応えはない。
 子どもは苦手ではなく、むしろ「かまってー!」と寄ってくる子と一緒に遊んでやるのが上手だったりするギルなのだが、反応がまったくない相手というのは困ってしまう。
 今までにいないタイプだった。

「・・・・・・んーと。弱ったな」
「・・・・・・」
「もうちょっとしたら、店のおばちゃん戻ってくるからな」
「・・・・・・っ!」

 突然、少女は瞳を輝かせて何かを指差した。

「ん?なに?」

 彼女が指差した先には、小さな人形が棚の上で壁に寄りかかって座っていた。
 金色の巻き毛に、上等なベルベットの赤い服を着ている。

「!」

 少女は飛び跳ねた――どうやら、人形が欲しいらしい。
 子供狩りの被害にあった少女といい、やっぱり女の子はこういうお人形さんが好きなのだな・・・と思いつつ、ギルは小首を傾げた。

(しゃべれないのか?親は一緒じゃないのかな)

 そうしていると、キリルが奥の倉庫から「ああ、重かった」と言いながら戻ってくる。
 カウンターに縄で結ったカゴが置かれた。中に瓶が五本入っている。

「ありがとう、キリル」
「しめて、5000spになります」
「くう・・・・・・この5000sp、財布に入れられたらどんなに幸せか・・・・・・」
「馬鹿なこと言ってないで。・・・・・・そんなに前の依頼、実入りがなかったの?」
「・・・・・・魔族と戦って600spぽっち」

 あらあら、と気の毒そうに言ってくれたキリルに渋々代金を支払うと、ギルは横目で少女をうかがった。
 彼女はまだ人形を見つめている。
 ギルは彼女を驚かさないよう、できるだけそっと呼びかけてみた。

「・・・・・・あれ、欲しいの?」
「・・・・・・は?」
「いや、キリルじゃないよ。この子」

 訝しげな声のキリルにそう答えたギルは、傍らの少女を示した。

「・・・・・・あら、小さい子。カウンターに隠れてちっとも見えなかったわ。・・・・・・ついにできちゃったのね。」

ScreenShot_20130302_011100218.png

 衝撃の言葉をキリルは発する。

「母親はジーニとアウロラどっち?それとも、新しいウェイトレスの子?」
「ちがうっつーの!お前の客だよ!」
「あら、残念。まあ、あんたに似てなくて可愛いからね」

 ギルは「何が残念だ・・・・・・」と脱力してぼやきながらも、人形が売り物かどうかをキリルへ確認した。
 キリルは首を横に振った。
 昔の縁日の射的で当てて、可愛いから飾っているだけだという。

「こんど、何か奢ってやるから、その人形くれないかな。この子が欲しがってるみたいなんだ」
「いいわよ。はい」

 キリルは背伸びして人形を掴むと、それをギルに手渡す。
 「さんきゅ」と短く礼を言ったギルは、少女へ人形をそのまま差し出した。

「・・・・・・!」

 少女は驚いて目を見開く。
 仲間のミナスより幼いその反応を微笑ましく思い、ギルはふっと笑った。

「今日は、お祭りだからな。大サービスだ」
「すごく嬉しそうね、この子。でも、声出さないのね」
「ああ。しゃべれないみたいだ。じゃあ、俺は宿に戻るわ。ありがとうな、キリル」
「ええ、また来てね」

 手を振って≪プラの樹≫からギルが出て行くと、キリルは優しげな笑みを浮かべて少女に話しかけてみた。

「さて、あなたは何のお使いかしら。でもこの辺じゃ見ない顔ね。引っ越ししてきたの?」
「・・・・・・・・・―――」

 少女はすこし口を動かそうとしていたが、すぐにそれをやめてスカートを翻し、店から出て行った。
 しばし呆気に取られていたキリルだったが、ぼそりと独り言をつぶやく。

「・・・・・・行っちゃった。せっかちな子ね。何の用だったのかしら」

 ギルは瓶を割らないよう、細心の注意を払って荷物を持ち直した。

「しかし、この酒は五本で5000spってことは一本で1000spなんだろ?」

 昨日の”金狼の牙”の打ち上げで飲んだ酒を思い出す。
 一本せいぜい100spの葡萄酒になったのは、収入が少なかったというちょっとしょっぱい事情もあるが、元々安物の方が酔えるというのが彼の持論だからであった。

「高級品ってのはどうも体に合わないんだよなあ」

 そうぽつりともらした時、彼の後ろからタッタッタ・・・という軽い足音が聞こえてくる。
 おや、と思う間もなく、見覚えのある姿が彼に飛びついた。

「!」
「ぬおっ!?」

 いつものギルなら、がっしりとそれを受け止めることも出来ただろう――しかし、タイミングがちょっとばかり悪すぎた。
 小さな回想に耽っていた報いなのか、小さな体の衝突に耐え切れず、彼は尻餅をつく。

「い、いってぇ・・・・・・バカヤロ!ちくしょう、酒が割れたらどうしてくれるんだよ!」

 小さな手が、気遣わしげに彼の額へと伸びた。

「あ、あれ、君はさっきの・・・・・・」
「・・・・・・」

 人形をあげた少女が、ギルを追ってきたものだったらしい。
 走ってきたようで息を切らしている。
 怪我がないことを見て取ったのか、おもむろに少女はギルの赤いマントを掴んだ。

「こ、このシチュエーションは一体どうしたらいいんだ・・・・・・」

 改めて少女を見やる。
 恐らく年はミナスの2~3歳は下のように思えた。
 質素だが質はいい身なりは、この少女が職人や小さな商店の子どもとはちがうことを示している。
 困り果てていると、よく店に酒だけを楽しみに来る役人のジェイクが通りかかり、声をかけてきた。

「ん?どうしたその子は」
「迷子だと思う。服っつーかマント離してくれないんだけど・・・・・・」
「気に入られたんじゃないのか?男前さん」
「弱ったなあ・・・・・・。そうだ、ジェイク役所に勤めてるんだろ?職場でそれらしい親見かけたら、宿に来るように言っといて」

ScreenShot_20130302_014015046.png

「了解」
「よし、じゃあ行こうか」

 ギルが少女の手を取り≪狼の隠れ家≫に戻ろうとすると、彼女は首を横に振りだした。
 どうやら、宿には行きたくないらしい。

「えー。どうすんだよ・・・遊びたいの?」

 そう問いかけると、少女は無言のまま喜色もあらわに頷いた。

「なるほど。仕方ないな。ちょっと連れて行ってやるか」

 そうだ、とギルは思った。≪プラの樹≫ではお使いは果たしたものの、自分や仲間が飲む分の≪月姫の酒≫を購入していない。
 前回の実入りは少なかったとはいえ、一応それなりの貯蓄は残っている。ギルは、自分に回されている分の財布を握り締めると、さっき出て行ったばかりの≪プラの樹≫に入り直した。

「いらっしゃい、ギル。戻ってきたの?何か買っていく?」
「ああ、商品を見せてくれ」
「いいわよ」

 ≪月姫の酒≫はもう在庫が切れていたのだが、他にもいくつかの酒や、調味料代わりになる薬草の瓶詰めなどがある。
 とりわけギルの興味を引いたのは、四つの品であった。

「こっちは香水、魔道研究会の試作品。瓶のデザイン可愛いから仕入れてみたの。そっちのお酒は≪太陽の酒≫って言って、気付けにもなるうち特製の品よ」
「こっちの指輪は?エメラルドみたいに綺麗だけど」
「これ?外見は似てるけど、エメラダって鉱石で出来た指輪よ。冒険でも使えるらしいわ」

 敵に見せ付けることで上手くいくと束縛状態にできる――そんな説明を聞いたギルは、「ジーニがすんげえ喜んで使いそうだな」と思った。
 ギルはしばし迷ったものの、≪太陽の雫≫を買うことにした。そのほか、≪キルギルの葉≫をアウロラの、≪エメラダ≫をジーニのお土産にしようと思いつく。
 そして――。

「・・・お守り代わりくらいには、なるかな?」

と言って、香水も一本カウンターに置いた。

「毎度どうも~」

 しめて4300spの買い物である。キリルは商品が売れたことこそ嬉しかったが、「・・・ギルだけでこんな使ってていいのかしら」とヒヤヒヤしながら会計をした。
 店を出ると、ちょうど一緒にいる少女と同じくらいの年の娘が泣いているのに行き逢った。
 ペットがいなくなったの、と嘆き悲しむ娘に、ギルは出来るだけ物柔らかにどんな子なのかを質問してみた。

「ウサギなの・・・・・・」
「うさぎかあ・・・・・・。わかった、お兄さんが探してあげるよ」
「ありがとう、おじさん」
「おじっ・・・・・・!?」

ScreenShot_20130302_020509265.png

 ショックを隠しきれないギルは、肩を落としながら少女と一緒に街中を歩いた。

2013/03/04 06:20 [edit]

category: 丘の上の洋館前編

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Mon.

丘の上の洋館前編 1  

 とある日の≪狼の隠れ家≫にて――。

「今日はずいぶんと外が賑やかだと思わない?」

 看板娘がお盆を抱えたまま振り返り、宿の親父さんに訊ねる。

「そりゃ、お前。今日が何の日かわかっての質問だろうな?」
「ああ、そっか!今日は・・・」

 自分で答えを思い出した娘さんの台詞は、無骨なブーツの音にかき消された。
 目じりに眠気による涙を残したまま、ギルが現れる。

ScreenShot_20130302_001414843.png

「ふぁー・・・・・・よく寝た。親父、娘さん。おはよう」
「おはよう、ギル」
「何が、おはようだ。今何時だと思ってる。もう昼はとっくに過ぎてるぞ」
「いいじゃん、たまには昼寝しても。俺たち、昨日やっとリューンに帰ってきたんだぜ?」

 ギルをリーダーとする”金狼の牙”たちは、先の依頼――元冒険者のモルヴァンがもたらした、満腹食堂への護衛を無事済ませて帰ってきたばかりであった。

「本当にとんでもなく大変な依頼だったんだから。親父には想像できないくらいな」

 何しろ、インプに騙された挙句に、国一つを滅ぼす力のある魔族と戦って帰ってきたのである。

「帰ってきて、店の酒を半分以上タダ飲みしといてずいぶんと偉い口をたたけるな、お前」
「だってモルヴァンのおごりだったし」
「ち・・・。残りのやつらは二階で、二日酔いってところだろ」
「まあね。アウロラとミナスにまで無理やりジーニが飲ませてたからな」

 親父さんはしばらく腕組みをして考え込んでいたが、「なら」と切り出してきた。

「さっそく仕事を頼みたい」
「仕事?・・・・・・待ってよ、親父さん。俺、疲れてるんだけど」
「なるほど、いい度胸だ。昨日の酒代はモルヴァン請求じゃなく、ツケにざっと足して・・・」
「うおおおお、何てこと言うんだ!鬼か親父さん!」
「さあ、大人しくお使いに行ってきてもらおうか」

 ツケの件を持ち出されると非常に弱い。ギルはうつむいて「・・・・・・はい」と受け入れるしかなかった。
 さすがに気の毒に思ったらしい娘さんが、

「ごくろうさま、ギル」

と声をかけて朝食を置いてくれる。
 くるみ入りパンと野菜の細切りの入ったスープをさっそく腹に収めて満足したギルは、改めて親父さんの顔を見た。

「それで、仕事ってのは?」
「隣の≪プラの樹≫まで行って≪月姫の酒≫を買って来てくれ」

ScreenShot_20130302_002554875.png

「『ツキヒメのサケ』?」
「そう。今日は『月姫の祭』だからな」
「あのさ・・・『月姫』って、誰?」

 ギルはさっぱり分からないという顔である。
 親父さんの説明によると、『月姫の祭』とは今から百年ほど前にリューンで起こった事件が発端らしい。
 恐ろしい魔物に襲われたリューンを救うため、月姫と呼ばれる女性が戦い、勝利を収めたのだという。
 その偉業を称えて行なわれるのが、今日の『月姫の祭』ということである。

「へえー、へえー、へえー。まあ、あんまり役に立つ知識じゃないわな」

 親父さんの拳骨がギルの脳天に飛び、かなりいい音を立てた。
 ・・・・・・彼が現役を離れてどのくらい経つのか、正確に知る者は皆無に近いが、おさおさ今の冒険者達に劣らぬ素早い拳である。

「いてぇ!!・・・・・・何しやがるこのクソ親父!」
「さっさと行って来い。≪月姫の酒≫を五本だぞ。そら、代金だ」

 なんと銀貨5000枚の入った重たい皮袋を寄越してきた。
 皮袋をわざわざ開けて確かめたギルが目を瞠り、驚きの声を出す。

「5000sp・・・・・・!?超高級品じゃん!」
「そうだ。もし割ったらどうなるかわかるな?」
「・・・・・・わかったよ」

 文句を諦めたギルは椅子から立ち上がると、その皮袋を抱え込んで出入り口に向かった。
 「いってらっしゃい」と食器を片付けてくれる娘さんから挨拶を貰い、ギルは賑やかな通りへと出る。
 常にない華やかで明るい音楽に満ちている。どこか近くの通りで、楽団が演奏しながら行進しているらしい。

「まったく。祭だってのになんでお使いなんか・・・・・・」

 途中で近所の奥さん連や、宿の常連である役人とすれ違う。

「あら、ギルバート。おはよう、今日もいい天気ね。最高の祭日和だと思わない?」

 そう声をかけてくれたのは、最近結婚したばかりのシアンという若い女性だ。
 今日は旦那のためにご馳走を作るらしく、両手に荷物を抱えている。

「おはよう、シアン。随分たくさん荷物持ってるな」
「なんていったって、今日は月姫の命日100周年だもの。あなたもこれから買い物?」
「ああ。親父さんにパシられた」
「今日は、≪月姫の酒≫を飲まずに一日を過ごせないからね。必ず飲みなさいよ」

 彼女はそう念を押すと、しっかりとした足取りで近くにある自宅へと帰っていった。
 ギルは彼女と分かれると、隣にある≪プラの樹≫の扉を潜る。
 ≪プラの樹≫は雑貨屋で主に珍しい酒の販売をしており、≪狼の隠れ家≫との冒険者とも懇意にしている店である。
 店に入ると、他に誰も客はいなかった。
 カウンターの向こう側で、店員のキリルが帳簿を書いていた。

ScreenShot_20130302_004459187.png

「あら、ギルバート。いらっしゃい。ずいぶん久しぶりじゃない?」
「やあキリル、おはよう。リューンを離れてて、昨日帰ってきたばかりなんだ」
「まあ、そうだったの。見ない間にちょっとやつれたんじゃない?」

 そういって、キリルは心配そうに近くにたったギルの顔に手を伸ばした。

「そりゃ、あのクソ親父のせいだな」

 ぼそっといった言葉をキリルが聞き返すが、ギルは何でもないと誤魔化すと≪月姫の酒≫を買いに来たことを彼女に話した。

「在庫はあるかな?」
「ああ、うん。今日は一番売れてるわ。なにせ『月姫の祭』だもんね」

 ここでギルは首をかしげながら質問した。

「なあなあ、その月姫ってのはそんなに有名で偉いのか?」

 北方の小村から、母親との同居をきっかけにリューンに越してきて数年経つが、ギルの知識にはそんな祭や姫のことはなかった。初耳である。

「そりゃあ、偉大な人よ。月姫の話はリューンでもかなり有名な伝説なんだから」
「どういう話?俺、元々リューンの出身じゃねえんだよ」
「まあ、それじゃ知らないのも無理ないのかしらね」

 そう言って、キリルは帳簿を畳んでから説明を始めた。

「今から100年前のこと。リューンには強大な魔力を持った月姫っていう子がいたの。月姫は悪魔祓いや怪我の治療・・・・・・最高の神官として、リューンのために全力を注いでいたらしいわ」
「へえ・・・」

 ギルは感心の声をもらした。神官、ということならあるいはアウロラなら詳しく知っているのかもしれない。

「でもある日、恐ろしい赤い魔物がリューンにやって来てね。月姫はその魔物を倒してリューンを救ったらしいわ。――命と引き換えにね」

 今日は、先程もシアンが通りで言っていたように、命日からちょうど100年が経つ。それでこれだけの大騒ぎになっているのだという。

「≪月姫の酒≫は月姫の好きだった薔薇を入れたお酒なのよ。命日だけこのお酒を飲む習慣があるの」

 キリルはそこで悪戯っぽく舌を出して、「まあ実際は、めでたい事がある度によくのまれるんだけどね」と付け加えた。
 首肯したギルは、「なるほど、よくわかったよ」と礼を言って≪狼の隠れ家≫の注文を申し出た。

「五本だそうだ」
「わかったわ。ちょっと待ってて。取ってくるから」

 キリルは奥の倉庫に酒を取りに行った。
 あんな華奢な彼女に五本も持たせるのは気が引けるな、とギルはそわそわした。
 手伝いを申し出た方がいいのかもしれない――そう考えたギルがキリルを手伝おうと、倉庫の方に向かおうとした時だった。
 軽やかなベルの音が店内に響く。

「ん?客か?」

 振り返ると、幼い金髪の少女がこっちを向いて立っていた。

2013/03/04 06:15 [edit]

category: 丘の上の洋館前編

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