Fri.

満腹食堂の大戦 6  

 早く行け逃げろと叫ぶウルシュを横目に、”金狼の牙”たちはおのおのの得物を構えて散開した。
 大きなわざとらしいため息をついたエディンが、モルヴァンへと呼びかける。

ScreenShot_20130301_034925671.png

「おっさん、報酬は3倍だ!」
「・・・!よかろう!承知したぞ!ごうつくばりどもがッ!」

 彼らの意図に気づいたウルシュが叫ぶ。

「馬鹿な真似はよしなさい!」
「まーまー、魔女さん。しっかりその綺麗な眼でやっこさんを見てみなよ」
「え・・・・・・」

 エディンは、ウルシュにナウネルの癒えていない傷を無言で指し示した。
 ウルシュの翡翠の双眸が理解に細まる。
 それを見ていたモルヴァンもゆっくり首肯した。
 身構えると、ナウネルの水色の目が輝き、小さな唇が喜悦を湛えてきゅっと上がる。

「何を愚かに勘違いしているのか知らんが、その愚かな勇気は誉めてやろう・・・」
「知ってるかい?人間の常識じゃ、吠える犬は噛まないんだよ!」
「来るぞ!」

 ナウネルに言い返したエディンににモルヴァンは合図した。

「再戦、受けてたってやる。ナウネル!」

 ナウネルの周りを、火精霊サラマンダーが取り囲む。
 ウルシュの【魔法の矢】の援護を貰いながら、ギル・アレク・エディンが切り込んでいった。

「サラマンダーが厄介ですね・・・!」

 ≪カナンの鎧≫と引き換えに貰った≪静謐の繭≫に取りすがる火トカゲたちを払いのけて、アウロラが支援魔法を再び張る。

「そっちはあたしの領分ね。ま、当たればの話だけど・・・」

 ジーニがポーチから取り出した緑の薬瓶には、破魔の成分が宿っている。
 それにいち早く気づいたアレクが、指先に電撃を集めてナウネルの足元を狙った。

「姑息な!こんなもの・・・!」
「スネグーロチカ、奴に冷気の戒めを!」
『サラマンダーになんか、負けないんだから!』

 ミナスの召喚に応じた雪娘たちが、ナウネルの召喚獣の囲いをものともせずに攻撃を仕掛ける。
 防戦に追いやられたところを、ギルの【暴風の轟刃】による竜巻がまた叩いた。

「いけ、ジーニ!」
「そーれ!」

 エディンの合図に励まされて、ジーニの腕が弧を描く。
 見事にぶち当たった薬瓶により、せっかく呼び出していたサラマンダーたちは精霊界へと強制送還されてしまった。
 狼狽しつつも、再び攻撃をと体勢を立て直そうしたナウネルの目に、エディンの長身の影が映った。

「一番愚かなのは、お前さんだよ」
「ガアアアアアアアアアアアアア!」
「封印を!」

ScreenShot_20130301_035722453.png

 ミスリルレイピアに貫かれた魔族を見てギルがウルシュに言うと、彼女は「言われなくても!」と怒鳴り返して封印の札を貼った。

「おのれ・・・憶えておくぞ・・・」

 この屈辱は忘れないと歯軋りする魔族ナウネルに、フンとギルが鼻で笑った。

「忘れっぽいんでね。いちいち覚えてられないな」

 するするとベージュ色だった札が錆びた鉄のような色に変わり、それに比例してナウネルの体も徐々に霧のように薄れていく。
 ぱさ、と札が床に落ちた。
 モルヴァンが恐る恐るといった態でウルシュに訊ねる。

「・・・やったか?」
「ウルシュ、どうなのよ!」

 焦れたジーニも呼びかけると、はたして彼女はにやりと笑って頷いた。
 意味を解したモルヴァンが、大口を開けて快哉を叫ぶ。

「ざまぁみやがれ!はっはぁ!」
「今度はもっときちんと封印してよね~」

 疲れて肩を回すジーニに、ウルシュはやれやれと言ってから応えた。

「参ったわよ、封印されながら力を蓄えていたなんてね!あなたたちの馬鹿がなかったら、フルポテンシャルのあいつに寝首をかかれていた。恩には着ようじゃない」
「うけけけけ。結果オーライですよ、ウルシュ様!」
「お黙りなさい、インプ。部屋の隅で焦げてたのを見ましたよ」

 氷のようなアウロラの言に、騒々しく飛び回っていたインプはぴたりと口をつぐむ。
 モルヴァンがザマを見ろと言いたげな表情になった。

「まったく、口だけは達者な奴だ!」
「モルヴァン、あなたが騙されやすすぎるのよ!」
「ほんとだよ、危なかったんだから反省してよね!」

 今度はモルヴァンをジーニとミナスが叱りつける。
 あわただしくも賑やかなその様に、ウルシュはこらえ切れずに笑い声をあげた。

「世話になったわ。蛇じゃないとっておきの食材もあるから、食べていって頂戴。私からのせめてのお礼よ」
「そいつぁいいな。ご馳走になるとしよう」
「もう、ドジは踏まないわ。私はここを離れられないけど、何かあったら力を貸す。いつでも来れば?」
「・・・必要があれば、そうさせてもらうさ」

 エディンが小さく彼女に微笑んだ。
 ウルシュに酒と食事を振舞われた一行は、翌日に洞窟を後にした。
 ≪狼の隠れ家≫に帰る途中の夜営にて。
 ふと何かを思い出したモルヴァンが、揺れる焚き火の影を顔に受けながら静かに切り出した。

ScreenShot_20130301_041509062.png

「同じ名前の女魔術師の噂を、昔、聞いた事がある」
「・・・・・・?」

 首を傾げるミナスの頭を撫でて、彼は続けた。

「その魔術師と恋人の魔術師は、まあ二人とも、善人でも悪人でもなかった。だが、男の方は少々無謀だった。魔族を呼び出してしまい、そいつに殺されたんだ」
「・・・確かに聞いた事があるわ」

 ぽつりとジーニが言う。

「ずいぶん昔のことだったと思うのだけど・・・」
「うむ・・・。その女魔術師は、魔族をかろうじて封印した。今でもどこかで、魔族の封印を監視しながら日々を送っている・・・らしい」
「・・・そう・・・」

 ジーニは夜気に身を震わせたのか、その話に身を震わせたのか――ローブのフードを被って、焚き火に手をかざした。

「なに、ただの古い噂だ。そういや、古い話といえば、こんなのがある。俺がインプの依頼を受けた話はしたよな?」

 モルヴァンが焚き火に燃えさしを放った。

「まあ、つまりやつらの言う事を真に受けると、ろくなことがない、ってことなんだが、よ・・・」

 その後。
 ≪狼の隠れ家≫のカウンターで「軽く、世界を救ってきたぜ」と言い放ったモルヴァンに、娘さんが素っ頓狂な声を上げ、親父さんが冒険者の言う事は話半分に聞くよう忠告したのだが――。
 モルヴァンの言葉を信じた冒険者が、”金狼の牙”たち以外にまだいるのかどうか。
 それは定かではない・・・・・・。

※収入600sp※

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■後書きまたは言い訳
45回目のお仕事は、平江 明さんのシナリオで満腹食堂の大戦でした。
シナリオ対象レベルの割に、個性的なキャラクターやギャグっぽい依頼目的で終始明るい作品・・・かと思いきや、最後に語られるモルヴァンの話でちょっぴりビターテイストな余韻もあります。
以前にプレイした同氏の「氷室の囚人」に比べると、ちょっと会話のテンポやシナリオの進み方が今ひとつという気が拭えません。
しかし、構造そのものはシンプルかつ短時間でプレイ可能ですので、寝る前サクッとに入っていても違和感のないシナリオではないでしょうか。

今回のMVPはミナスとエディンですかね。ミナスのおかげでウルシュ戦は雑魚を1ラウンドで一掃できた(【業火の嵐】が最初に手札にきてた)し、エディンのレイピアはびしびしナウネルに当たっていましたので。

そうそう、ギルに≪カナンの鎧≫着せてると、その重量に喘いでいて疲労するイメージが強くちょっと防具を変えることにしました。
シナリオの冒頭でRiverさんの工房「無謬の天秤」から≪鉄の鎧≫を、_銀貨こそ命さんのAsk互換アイテムから≪静謐の繭≫を手に入れています。順番的にはこっちが済んでからフォーチュン=ベルの依頼をやったのですが、物語のテンポとしてこのタイミングで入手したことにさせていただきました。
両シナリオ作者様には深くお礼申し上げます。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/03/01 22:24 [edit]

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満腹食堂の大戦 5  

 最初のターンで、ウルシュによる【眠りの雲】でアレクとジーニが眠り込んでしまったものの、ミナスの召喚したイフリートの息吹は、並み居るオークたちをまとめて吹き飛ばした。

ScreenShot_20130301_031611500.png

「なんですって!?」

 【炎の玉】に迫る勢いの火炎に、ウルシュが動揺の声をあげる。

「ハイハイ、余所見は危ないぜ・・・?」
「あいにくだったなあ!焼かれるのはそっちだよッ!」
「くぅ!」

 エディンのレイピアがインプの胴体を貫き、ギルの斧がウルシュの体を凪ぐ。
 白いローブに血が滲んでいくのにかまわず、ウルシュは宣言どおりに【炎の玉】の呪文を紡いでいく。

「熱の暴威、漲る地獄の業火をここに・・・!」
「させません!」

 アウロラの【信守の障壁】が、ウルシュの詠唱よりも一瞬早く仲間たちを覆っていく。
 はたしてウルシュの手から放たれた焔が鎮まった時、そこにはかすり傷を負っただけの冒険者達が立っていた。

「なんて奴ら・・・!インプの馬鹿たれ、話が違うじゃないの!」
「よくも騙したな!」

 モルヴァンの怒りの一撃が、倒れ掛かった魔女に決まった。

「ウルシュ様・・・お使いついでに薮蛇でした・・・」
「馬鹿インプ・・・」

 倒れ伏している魔女と使い魔を見下ろしつつ、モルヴァンは暢気な台詞を吐いた。

「報酬は2倍かぁ。まあ、とりあえず回復を・・・ん・・・?」
「? この気配は!?あぶないッ!」

ScreenShot_20130301_032517546.png

 ミナスのあげた声に反応したのは、エディンが一番早かった。
 倒れているウルシュをとっさに抱え込む。
 その背中を、奥の部屋から飛び出してきた炎の弾丸が焼き焦がした。
 モルヴァンが駆け寄る。

「サラマンダーの吐息!大丈夫か!?」

 いつも眠たげな顔に苦痛を紛らわせながら、エディンは返事をした。

「つう~・・・・・・。アウロラの援護魔法が掛かりっぱなしで、助かったぜ」
「!? 私を庇って??」

 エディンの意外と広い背中に出来た火傷を、ウルシュの手が気遣わしげに這った。
 男が片目を瞑ってからかうように言う。

「仕方ねえだろ、体が動いたモンはよ。一応、いい女庇うのは男の役割だからな」
「ウルシュ様、奴です!」

 インプが転げるように魔女の膝へ移動し、泡を食ったように叫ぶ。ウルシュが呻いた。

「魔族、ナウネル・・・」

 小さな妖精のような体を持ちながら、その全身を覆うのは酷く冷たく黒々とした悪意。
 しわがれた聞き覚えのある声が、その場に響いた。 

「くくく、ふはははははははは。再び礼を言わねばならん、愚かなる人間の愚者の中でも取り立てて愚かな愚かなる冒険者どもよ!!」
「お前、それ愚か言い過ぎてゲシュタルト崩壊起こしてるぞ」

 ギルはツッコミを入れつつも、油断なく敵に対していた。
 魔族の台詞に、ウルシュがエディンを見上げてかすり傷であることを確認すると、かつて己が封じた存在へ顔を向けた。

「再び・・・?チッ、流れ弾で封印が壊れたのね。でも大丈夫。封印は二重よ。片方が壊れただけなら、私が押さえこめる」
「ところが頼みのスペアは、ここへ来る途中に派手に砕け散ったんだよな・・・」

ScreenShot_20130301_033722093.png

 エディンの言葉に、ウルシュがさー・・・っと青褪めていく。

「・・・嘘・・・嘘よね・・・こいつの力は一国を滅ぼせるのよ・・・」
「ハハハハハッ、愚かなるウルシュ!我を封印せし愚かなる過ちの償いを今、愚かにも受けるがいいッ!愚かなるウルシュを前菜に愚かな貴様ら全員の愚かなる生き血をすすってくれようぞ!」

 哄笑する魔族を前に、エディンはぺろりと唇を舐めた。

「・・・こいつ、言うだけの力はあるな・・・」
「・・・・・・、ここは俺が食い止める。お前たちは各国の王に警戒を求めて散れ!」

 モルヴァンが己の得物を構え直しながら言った。
 青褪めたままではあったが、こくりと小さくウルシュも頷く。

「そうね・・・それが正解よ。わたしが食い止めるから、愚かな食い意地じじいもさっさと逃げなさい」

 ナウネルの魔力と、魔族が召喚した火精の吐息が吹き付ける中、ウルシュは険しい足取りで起きあがった。

「フッ、今度は愚かなる庇いあいか。まあいい。愚かに逃走しろ。これから長きに渡る大殺戮の中に、逃げ延びたお前たちの愚かな死も必ずや含まれるだろうがな・・・」
「形容詞が一個しかないようなアッタマ悪い魔族に、負けてられるわけないでしょ」

 ジーニは、ナウネルの言動に疑いを持った。
 魔族にしては冗長過ぎないだろうか?影とはいえ、倒された傷がまだ癒えていないのではないか?
 ならば、望みがある。

2013/03/01 22:06 [edit]

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満腹食堂の大戦 4  

 その後も、出てくるモンスターを大した被害なく退けて進んでいくと・・・・・・。

「あ、あれは!?」

 叫んだモルヴァンが指す。
 倒したガーゴイルの影から、明かりが漏れているのだ。
 呆れたような顔でエディンが前髪をかきあげる。

「本当にあったのか・・・」
「スライド式の隠し扉か。見ろ!店名が彫ってある!」

ScreenShot_20130301_024153062.png

 看板と思しき真っ赤なワインのボトルと小さなグラスの絵の下に、店名がある。

「『満腹食堂』、確かに。しかし、粗末な書き方だな」

 エディンは書かれている文字を読み上げて言った。
 文字の粗末さも気になるところながら、何より看板がそう古いものではないことがエディンの気に入らない。
 盗賊ギルドの狐連中(詐欺師たちの隠語)だって、もうちょっとまともな装飾を凝らすだろうと彼は思った。
 一応、先に進み出て罠や鍵の様子を調べるも、そこに仕掛けはない様子に見える。
 勝手に感じ入って、「まさに穴場だ」と鼻を膨らませるモルヴァンを尻目に、ギルが仲間達に大した怪我のないことを確認してから口を開く。

「まあ、今更、引き返してもしかたがない。熟練の勘を信じるさ」
「アンタがそう言うんじゃ、仕方ないわね。ただ用心は忘れないでよ」
「うむ、甘美と幻惑の世界へいざゆかん!」
「・・・・・・あたしの話聞いてないでしょう、アンタ」

 ジト目になったジーニが杖の髑髏でモルヴァンの鉄のすね当てを叩いたが、彼に堪えた様子はない。
 十分に用心してスライドドアをずらすと、そこにはオークたちが食べ物を食い荒らす現場があった。
 辺りには蛇らしい肉、茸、腐りかけの牛肉の塊などがある。

「・・・ここが?」

 眉根を寄せて麗貌をしかめるアレクの後ろから覗き込んだモルヴァンが、

「・・・イメージと違うな」

と口をへの字に曲げている。
 そして、さらに呆気にとられることに、中央に座っているオークロードへとずかずか突き進んでいく。

「え、え!?ちょっとモルヴァン?」
「(むしゃむしゃ)むぅ~、ぶひひ」
「・・・食事中だな。ん?俺たちも遠慮せず食べろ?」
「・・・わかるのか?」

 まさかと思ってアレクが訊ねてみると、モルヴァンはこともなげに言った。

ScreenShot_20130301_025354703.png

「昔、ちょっと、オークの集落をだな・・・」
「・・・もういい」

 聞いた自分が馬鹿だったと、アレクはがっくり肩を落とした。
 そんなわけの分からない会話を交わしている大人たちを放置して、ミナスは奥にある扉がひたすら気になっていた。
 鍵が掛かっている様子はないものの、その向こうに誰かがいる気配がさっきからしているのである。
 しかし、その扉に視線を向けていると、モルヴァンと話しているのと別のオークたちが、ミナスの一挙手一投足を注視していることに気づいた。
 この扉に手をかければ――。

(襲ってくるってことかな。・・・でもこの向こうにいるのって、何か・・・。)

 その時、扉から、美しい女性とインプが現れた!

「む、あのインプは!」
「きひひひ、満腹食堂へようこそ!」

 モルヴァンに対していやらしげな笑みを向けたインプは、そう言い放った。
 インプを肩に乗せてる女性は、見た目20代前半といったとこだろうか――。しかし、年不相応の怜悧さと狡猾さが、その翡翠のような目に潜んでいる事に”金狼の牙”たちは気づいている。
 彼女はしみじみといった口調で、「普通、来ないよね・・・」と洩らした。
 エディンが進み出て訊ねる。

「・・・あんた、誰だい?ただもんじゃないのは、俺にもわかるがね」
「ふむ・・・じゃあ、ここで種明かしとしましょうか」

 女は真相を語り始めた。
 半月ほど前・・・。

『じゃあ、ウルシュ様、行ってまいります』
『ん。触媒買ったら、道草せずに帰ってくるように』
『はい。・・・でも、今回、魔道書などは、本当によろしいのですか?』

 心配そうなインプに、ウルシュという名の魔女は先立つものがないと残念そうに手を広げて言った。
 最近では、すでにこの洞窟に迷い込んでくる冒険者も少なくなってきている。
 魔道書を置くような店は、えして魔法による警報などで護られており、インプが黙って盗み出す、なんて真似は決して出来ない為、ウルシュといえども真っ当に代価を払って買い上げる以外に、本を手に入れる道はないのだ。
 そんな女主人に対して、インプは自分に考えがあると打ち明けたという。
 インプ仲間から聞き出した、とあるちょっと間抜けた感じの冒険者の話を・・・・・・。
 数日後、インプは戻ってきた。

『うけけけけ、上手くいきました。かくかくしかじか・・・』

「おのれ、そういうことかッ!」
「はあ、なるほど。モルヴァンの助けたインプから彼のことを聞いて、御礼と称し、人の寄り付かなくなったこの洞窟にまんまと招待したと」
「食堂は全くのデマ。ついでに、モルヴァンが連れてきた護衛や仲間でもいれば、奪う金品が多くなるってえ目論見か」

 アウロラとエディンが据わった目で解説をするのに頷きつつ、ウルシュは妙に感心した声で言った。

「・・・それでも、普通、やっぱり、来ないわよね・・・」
「確かに・・・」

 ギルが同意する。
 拍子抜けしたようなウルシュは、やりづらいわねえと零しつつも、

「・・・まあいいか。炎の玉でこんがり焼いて、オークたちのエサにしてあげる」

とのたまった。
 歓声を上げる魔物たち。

「炎の玉って・・・、ハイリスク・ローリターン・・・モルヴァンッッッ!!」

 ジーニは自分よりもはるかに強い魔力を感じて、モルヴァンの名前をやけくそ気味に叫んだ。

「・・・良かろう!報酬は二倍だッッッ!!」

 涙を流しつつモルヴァンが応じると、魔女はインプとオークを従えて襲い掛かってきた。

2013/03/01 22:02 [edit]

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Fri.

満腹食堂の大戦 3  

「ふうぅぅぅ」
「な、なにあれ!?」

 黒い影・・・・・・のようなものが、砕け散った祭壇の残骸の上にわだかまり、徐々に形を作っていく。
 あまりに禍々しい影の気配に、ミナスが鳥肌を立てながら≪森羅の杖≫を構えた。
 それを庇うように、ギルが赤いマントをばっと広げて舌打ちする。

「く、不安定な封印だったのか」

 その台詞に反応し、肥大化した右腕をこれ見よがしに振りかざした影が、しわがれた声で嘲る。

「独力では、後数年を要した。開放の手助け・・・礼を言う。愚かな人間族の愚者よ!」
「・・・・・・・・・俺が起こした不始末だ。ここでお前を討って尻拭いするさ」

 アレクが静かに剣を引き抜き、影が天井に飛んだ。

「くそッ!来るぞッ!」

 モルヴァンの声を合図としたかのように、影の両隣からバンシーの透き通った体が滲み出てくる。
 刀身に赤い魔力をチャージし始めたアレクのやや後方で、ギルが斧を振りかざす。

「俺とアレクで影は片付ける。後の雑魚は任せたぞ!」
「おうよ、リーダー!」
「ま、仕方ないわね。ちゃっちゃっと終わらせよう」

 バンシーに狙いを定めた大人コンビの傍らで、それぞれアウロラとミナスが自分の魔法の触媒に魔力を込めて詠唱を始めた。
 高い位置から鋭い爪をとんでもない膂力で振り下ろしてきた影の攻撃は、【緋色の翼】を放たんとしていたアレクの腕を抉った。
 血の花を咲かせながらも、苦鳴すら上げずに剣士は魔力を溜め続け、自分に突き刺さる爪で相手の動きを封じたまま神速の二連撃を刻む。
 影が爪を折られ、宙を舞う。

「生意気な・・・!」
「さあて、いくぞー!!」

 一際大きな声を上げてギルが放ったのは、闘気による竜巻である。
 空中にいる影を見事に捕らえ、竜巻はそのまま敵を壁にめり込ませる。
 呻き声を上げながら壁から影が脱出を果たした時には、せっかく呼んでいたバンシーたちは、エディンとジーニによる波状攻撃ですでにその姿を空気に溶け込ませていた。

「なんだ・・・っ!!?なんだこの人間族は!?」
「ふふーん、古い魔族ごときが調子に乗らないことね」
「こないだ、大きな依頼であなたの同族を倒しました。今の私たちが、あなたに負けるはずありません!」

 アウロラは、だらりと爪の刺さった腕を垂らしたアレクに【活力の法】を施そうとしたが、彼の懐から飛び出てきた雪精トールが傷を魔力で塞ぐのを見て、待機の態勢になる。
 その間も影を狙って、ミナスの指示によりスネグーロチカとファハンが攻撃を繰り出す。
 スネグーロチカの攻撃まではともかく、ファハンの石つぶてはいまいち精度に欠けるため、敵は悠々とそれをかわしてみせた。
 続けてエディンとギルがそれぞれ違う方向から渾身の攻撃を仕掛けるも、中途で折れたとはいえまだ半ば以上残る硬い爪で、斧とレイピアが止められてしまう。
 並外れた魔族の強力に、二人がかりでもじりじりと圧し戻されようとしていた。

「ふ・・・・・・ふふ・・・その程度、か・・・?」
「・・・・・・お前、一個忘れてんだよ」
「!?」

 にやりと不敵に笑んだギルの顔が、束の間翳る。
 影が視線を僅か上にずらすと――――ぎりぎりまで跳び上がったアレクが、負傷したはずの腕を振り抜きながら、【風切り】の風圧を放ったところだった。

ScreenShot_20130301_022054281.png

「く、実体が戻らん・・・封印は二重か・・・ぬかったわ・・・」

 ぶつぶつと愚痴るような言葉を残して、その場から影が消えていく。

「まだ封印がどこかにあったか。ふぅ。不幸中の幸いだ」

 そう言ったアレクの頭を、がしぃ!とエディンが片手で掴んだ。
 そのままギリギリと締め上げていく。

「い、痛い痛い痛い!」
「お、ま、え、は~。何で調べる前に触れるんだ!新米じゃないんだぞ!」
「す、すまない!時間経過による劣化がないのが、つい気になってしまって・・・!」

 かなりエキサイトしている仲間をよそに、アウロラはごく冷静にギルへまだ探索を続けるのかと訊ねた。

「そりゃあ、怪しすぎるけど。こんな危ないところ放って帰るほうが、かえってまずいんじゃないか?」
「・・・・・・それもそうですね」

 魔族にバンシー、グールに魔術師が生み出した腐肉。危ないものてんこもりの洞窟である。
 何も知らない旅人が迷い込むようなことがあったり、先程のアレクのような失態をして良くない事態を引き起こすのは、アウロラにとっても避けたいところである。
 もしも裏で糸を引いている者がいるとして、何かの目的により彼らをここに招き入れたのなら・・・。
 遠からず、その目的を自分で明かしてくれるだろうと、アウロラは依頼続行を主張するギルに頷いてみせることにした。

2013/03/01 22:00 [edit]

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満腹食堂の大戦 2  

 ――さて2日の旅が終わり、準備を整えた冒険者たちは、指定の場所にある洞窟へと入った。
 周りの壁こそ自然洞窟剥き出しのままであったが、床は古い石材が整然と並んでいる。
 ただ気になるのは、食堂があると銘打っている割に、全くそれらしい料理の芳香はおろか、客のいる気配そのものがないことだった。

「・・・あんまり、食堂があるって雰囲気じゃないようなんだが・・・」
「だよなあ」

 アレクのつぶやきにギルも頷く。
 首をめぐらすと、一応は明かりを確保してくれているらしく、燭台がぽつりぽつりと設置されて頼りない灯火を揺らしている。
 ミナスが不安げにモルヴァンを見上げた。

「ねえ、モルヴァンさん。本当に大丈夫なの?」

 モルヴァンが「まあまあ、こういうのは奥のほうにあるものだ」と笑って、二手に分かれた道のうち、無作為に東の通路を選ぶ。

「・・・・・・!避けろ!」

 エディンの叫びに全員が飛びのく。
 そのまま進んでいれば、間違いなく頭に覆いかぶさっていたであろう位置に落ちてきたのは、なんとも不快な臭いを放つ腐肉の塊だった。

「げー。なんじゃこら!」

ScreenShot_20130301_014420750.png

「こいつは魔術師の召喚実験の失敗から生まれる化け物だ!」

 ≪護光の戦斧≫で払いながらグロテスクな外見に慄くギルの疑問に、間髪いれずモルヴァンが答えた。
 アウロラが【信守の障壁】を張りながら眉をひそめる。

「近くに魔術師がいる?」

 多分な、と首肯したモルヴァンが更に声を張り上げた。

「強力な回復能力のある奴だ。動きが止まっても油断するな!」
「了解っ!」

 速攻でしとめるが吉と考えたジーニが、そのアドバイスを受けて、よく手入れされたベルトポーチから【災いの薬瓶】をつかみ出す。
 滑るように進み出て斬撃を浴びせたモルヴァンが、酸を含んだ触手の攻撃を避けながら己の経験談を続けた。

「俺は、こいつらを切りつづけて、筋肉痛で3日間起きられなくなったことがある!」
「・・・おいおい」

 冗談じゃない、とジーニは背中に冷や汗を掻いた。
 そんなに戦い続けるスタミナは、あいにくと彼女自身にはない。ぜひとも勘弁していただきたい。
 しかしその心配は杞憂だったらしい。
 ナパイアスの激流で壁に押し付けられた敵を、他の仲間たちが渾身の力を込めて斬りつけ、あるいは魔法を浴びせる。
 最後に、ミスリルレイピアによって床に縫いとめられた敵をジーニの【魔法の矢】が貫いて、化け物たちが駆逐された。
 絡まっている腐肉を、ぶん!!と刀身を振り下ろして取り除いたアレクが、

「ぜったい、魔術師の罠・・・」

とぼそりとつぶやいた。
 横に立ったモルヴァンが唸りながら口ひげを捻る。

「妙な事になりそうだな」
(というか、この依頼自体がもうすでに妙だったんですが・・・。)

 アウロラは口に出すことはしなかったものの、小さくため息をつかずにはいられなかった。
 その後、バンシーとグールがうろつく通路を突破しつつ進むと、彼らは黒檀の古い扉の前に出た。
 敵のバックアタックをアレクとミナスに警戒させ、扉の前の床や壁、扉自体の様子を念入りにエディンが調べ上げる。

「罠はねえな。開けるからちょっとどいてろよ・・・」

 軋みを上げた扉を開くと、そこは驚くほど広い部屋であった。
 部屋の一番隅には、金の十字架を掲げた祭壇が設けられている。

ScreenShot_20130301_015737875.png

 祭壇は部屋に比べて古くないな、とジーニは推察した。
 魔法のような気配は感じられるがごく僅かなものであり、脅威となり得るもののようには思えない。
 その結果を伝えられてから、部屋そのものにも罠がないことを確認し、彼らはぞろぞろと祭壇へ近づいていった。
 アウロラがじっと祭壇を観察する。

「思ったより痛んでいませんね」
「ああ。しかし、これは一体なんだ・・・?」

 龍鱗鎧に包まれたアレクの腕が、そっと祭壇のシンボルに触れる。

 ――ドクン。
 ―――ドクン。
 ――――ドクン!!

「え・・・・・・?」
「どうした、アレク?」

 脈打つ気配に小さく声をあげた幼馴染に、ギルが心配して声をかけたその時。
 金の十字架は何の前触れもなく砕け散った。

2013/03/01 21:57 [edit]

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