Tue.

最後の最後に笑う者 7  

 外に出たとたん、謎の感覚の正体が分かった。
 来た時とは逆に、景色が上へと昇っていく。
 つまり、宝物庫が落ちているのだ!

「な、何て事だ・・・。そうだ、悪魔は!?」

 エディンが素早く視線を走らせる。

「我はここにいる」

 声がする方を振り向くと遠くに悪魔の姿が見えた。

「何をしてるんだ!落ちそうなんだぞ!また、背中に乗せろよ!」
「断る」

 焦った調子のエディンの台詞を、ばっさりと悪魔が切った。

「確か、てめぇは俺達の命は保障する、と言ったはずだろ?てめぇの名に賭けて誓っただろ?約束を違えるのかよ?」
「約束は違えてはいない。思い出すがいい。我との約束を」

ScreenShot_20130224_023307281.png

 エディンの脳裏に浮かぶ、悪魔との約束・・・・・・。

『我が名ヴィンディバックスに賭けて主らを無事に宝物庫へ運ぶ事を誓おう』

「あ・・・まさか・・・」
「我は約束通り、主らを宝物庫に送り届けた。その後は与り知らぬ事よ」
「この野郎・・・・・・」
「落ち着きなさいってば、エディ。悪魔なんだからこれくらいは当たり前でしょ」
「その通りだ。ハハハハ!」

 悪魔が黒い目を細め、牙をむき出しにたりと笑う。人の希望と勇気を喰らう、悪魔の笑いだ。

「その緋色の髪の娘だけは、殺すには惜しいが・・・・・・。どうだ、仲間を裏切り我の手下にならんか?」
「それこそ、お断りです」

 きっぱりとアウロラが言った。

「変に紳士的にされたので手を出しづらかったですが、ここにきて裏切ったとなれば重畳。大義名分を掲げてあなたを退治することが出来ます」
「ふん・・・。所詮は神の捨て駒か」

 そう言い放つと、悪魔は冒険者達の攻撃が届かない距離を置いて、落ち続ける様を楽しそうに観察し始めた。

「このままでは島に衝突してバラバラになってしまいます!」
「空を飛んで逃げるか。宝物庫の中の宝にその手の道具があるかを探してみるか・・・・・・どの道、悪魔は俺達をそのまま逃がしちゃくれねぇ」

 平静さを取り戻したエディンが指摘する。

「奴と闘う事は避けられねぇぞ」
「ともかく急ごう。この宝物庫が落ちるまでがリミットだ!」

 アレクの声に、”金狼の牙”たちは一斉に散開し、支援魔法や召喚魔法を唱えた。

「ん・・・・・・?」

 訝しげな顔をした悪魔に向かって、ジーニはにやりと笑って見せた。

「時代遅れの悪魔さん!今の時代はね、こういうお薬も・・・・・・存在するのよ!」

 いつものベルトポーチから彼女が取り出して見せたのは、以前に『蟲竜』と戦った時に作っておいた≪特濃浮遊薬≫だった。

ScreenShot_20130224_024340343.png

「さあ、これで私達とあなたは五分と五分。決着をつけてあげましょう!」

 いつになく勇ましく叫んだアウロラに、悪魔は目を細めて喜んだ。

「ほう、空を飛べたとは。人間にしては上出来、上出来。しかし、空において我に抗うとは愚の骨頂」

 悪魔の翼が力強く羽ばたく。

「味わわせてやろう!ウィンディバックスの二つ名の真の意味を!」

 そう言って牙をむいた悪魔は、目にも留まらぬ素早さでアレクの体を噛み砕いた。

「うあああ!」
「アレク!!く、スネグーロチカ!」

 雪の娘が再び舞い踊り、エディンがスネグーロチカの作った隙を突いて、【磔刑の剣】による拘束を成功させる。
 狙いは翼、磔を行なうは――宝物庫の扉だ!

「どうだい、悪魔さん?」
「小癪な真似を・・・!!」

 エディンの魔力によって穿ち、突かれた翼は一瞬ではあったが確実に悪魔の動きを止めていた。
 その巨体にギルが【風割り】を、アレクが怪我をものともせずに【炎の鞘】を放つ。
 怪力で持って無理やり魔力による拘束を外そうとするのを、ジーニの風が邪魔をして防いだ。

「ヌオオオオオオ!」
「どうよ、風の味は?こうやって傷つけられるのは初めてかしら?」
「舐めるなああああ!」

 拘束から逃れた悪魔の太い腕が、アウロラの体を掠めて彼女を吹き飛ばした。
 すかさずその場にいたギルが助け起こす。

「大丈夫、かすり傷ですよ・・・」
「無理はしてくれるなよ。お前が倒れたら、誰も防護の魔法なんてできないんだから」
「分かってます」

 痺れた足を叱咤して起き上がると、アウロラは効果が消えないうちにと再度【信守の障壁】を張った。
 その防護を打ち破るかのような強烈な波動が、悪魔の翼から放たれる。
 ”金狼の牙”たちの体が一瞬動きを止められ、かまいたち作用による切り傷が出来た。

「我の風の味はどうだ・・・?もう許さんぞ、人間どもよ!」
「アレクはん、他の皆さんもしっかりしてやー!!」

 トールが忙しく駆け回る。

「あと一撃・・・一撃でいいんだ」

 アレクがトールの氷の魔力に傷を塞がれつつ、立ち上がった。
 その近くにジーニが立ち止まる。

「時間さえ稼いでくれれば、どうにかするわよ。まだとっておきの薬瓶があるからね」
「・・・よし、ジーニ。頼むぞ・・・」

 悪魔はと言えば、守りの要になっているアウロラに噛み付き、その華奢な体を地面に叩きつけたところだった。
 こちらに完全に背を向けている。

「・・・・・・・・・!!」

 アレクがその背中を駆け上がり、剣を突き刺す。

「ウオオオ!!」
「くっ、この・・・・・・!ジーニ、今だ!」
「いけ、【災いの薬瓶】!汝の奔流を浴びせよ!」

 ジーニの手から放たれたオレンジ色の薬瓶が悪魔の表皮で割れ、辺り一面を覆う電撃を発生させる。

ScreenShot_20130224_030004031.png

「グ、グワァァァァ!!わ、我が人ごときにぃ!?」
「幾多の人の絶望をすすりし悪魔よ、地獄へ舞い戻れ!」

 ギルが最後の止めとばかりに額に斧を打ち込んだ。
 悪魔の体は、ポロポロと崩れ破片を巻き散らかしながら、火山口へと墜落していった。
 そのとたん、空から落ちた宝物庫の島が火山口にすっぽりとはまる。
 火山と島がお互いに破壊してゆく様は、遠くから見るとスローがかったようで現実味を感じられない。
 地響きが鳴り止んだ頃、”金狼の牙”たちは島に降りることにした。
 島は意外と静まり返っている。
 直前の大異変で生きとし生けるものが全て脅えきってしまったのだろうか。
 辺りを見回したギルの視界に、ふとフタをされた火山が目に入った。

「ふー。大したもんだぜ」

 フタをされた火山は、まるで地獄の門が閉じたかのように何人も這い出せまいとがっしりとそびえたっている。

「やっと終わったのね」
「まだだ。まだ、冠を無事に届ける仕事が残ってる」

 ギルは迎えの船に合図を出し。
 ”金狼の牙”たちは海賊王の孤島を後にした――。
 ケノダインの家に到着すると、彼は大喜びで迎えてくれた。

「いやいや、皆さん。ご苦労様でした。さすが≪狼の隠れ家≫の冒険者の方々です。こんなに早く見つけてくれるとは皆さんこそ真の冒険者ですね!」
「・・・なんで俺たちが冠を持って帰った事が分かったんだ?」

ScreenShot_20130224_031008375.png

 ギルは一際冷静な声で訊ねた。

「ん?ああ。それはですね・・・」
「俺が報告したのさ」

 冒険者の問いにケノダインが言いよどんでいると、物陰からジョーンズがひょっこり現れた。
 ミナスが濃藍色の双眸を瞠る。

「ジョーンズ?なぜ?」
「お前はアロヴァの雇った冒険者じゃなかったのか?」

 ギルの問いに、ジョーンズはいつものようなにやついた顔を崩さずにケノダインに向かって目配せする。
 ケノダインがこくりとうなずくとジョーンズは説明を始めた。
 ジョーンズの本当の依頼人はケノダインであったこと。
 影から”金狼の牙”の仕事のフォローをする役目であったこと。

「つまり、俺達の事を信用していなかった、と言うわけか?」
「正体を隠してアロヴァの冒険者に紛れてたのは悪かったよ。敵をだますにはまず味方から、と言うしねぇ」
「結局、自分の手を煩わせずに楽して冠を手に入れようと考えたわけだよな」

 激昂せず淡々と語るギルの言葉に、アレクは激情を隠さない目で依頼人とジョーンズを睨みつけた。
 もし彼の肩に、ジーニがそっと手を置いていなかったら、きっとアレクは二人に詰め寄っていただろう。

「万が一、俺達がアロヴァの冒険者に負けてもこっそりかっさらおうと思ってたんだろ?」
「さすが≪狼の隠れ家≫の冒険者。鋭い読みだねぇ」

 否定も肯定もせずにただ笑っている二人。だが、その雰囲気からは肯定の意味が受け取られる。

(つまり、俺たちは捨て駒だったってわけだ。その命がなくなったとしても、彼らにとっては大した意味ではなかった・・・。)

 アレクの奥歯がギリ、と鳴った。

「ともかく、こうして君達は冠を持ってきてくれたわけです。感謝しますよ。さあ、私にその冠を渡してくれませんか?」

 ケノダインがそう言った時、”金狼の牙”の面々はお互いの顔を一瞬だけさりげなく見回した。
 だが、その一瞬だけで意味は十分に通じたようであった。

「今は渡さないよ、ケノダインさん」
「え?それはどういう事ですか?」
「今、あなたに渡すとエムルリスさんに見せる前に盗まれるかも知れないだろ?」

 だから、自分たちがエムルリス氏のもとへケノダインが駆けつけるまで冠を守ってあげよう――ギルはそう申し出たのである。

「おお!さすがです!フォローがキメ細やかだ!では、今から行きましょう!」

 ケノダインと”金狼の牙”たちはエムルリスの家へとそのまま向かった。

 金の装飾、精緻な彫刻、華美でありながら決して優雅さを失わないその佇まい――エムルリス氏の屋敷の応接間は見事の一言に尽きた。
 ケノダインが連絡を取り、遺産相続に関する人物が集められている。

「さて」

と、ケノダインが切り出した。

「今日はとてもよい知らせがあります。私の雇った冒険者達が海賊王の孤島から父の思い出の冠を取ってきてくれたのです!」

ScreenShot_20130224_032306671.png

 応接室の中がざわめきたつ。

「ここで皆さんに集まっていただいたのは他でもない。冠を取り戻し、父に渡した真の遺産相続者の姿を皆さんに確認してもらうためです」

 「自慢かよ」という言葉がかすかに聞こえる。
 ケノダインはその言葉を黙殺し、「さあ」とギルに向かって両手を広げて差し出した。
 このデモンストレーションは、この屋敷に来るまでの間に打ち合わせしておいたものだ。
 冒険者達はこの場面で手に持つ冠をケノダインに渡し、その後、彼が直接エムルリスに渡す手はずになっている。

「さあ!」

 ケノダインはもう一度、ギルに向かって手を伸ばした。
 ギルは取り出した銀のティアラを――近くのアイトリーにぽん、と無造作に渡した。

「ギルバートさん!?」

 ケノダインは狼狽した様子でギルに呼びかける。

「悪いねえ、ケノダインさん。命を賭ける冒険者を騙して使い捨てにするような依頼人は、依頼人とは呼べないんだよ」

 そしてギルはアイトリーに片目をつぶっておどけてみせた。

ScreenShot_20130224_032805687.png

「これを本当に持つべき者は君だよ。アイトリー」
「な、何を言うのですか?」
「お前だけが、このじいさんのためにこの冠を探していた。大人でも恐怖する秘境にも臆せず、果敢に身を投じてまで」

 ここでギルは、応接間に集まった人間たちに滔々と述べた。

「俺がもしエムルリスの立場なら、遺産の相続人は他の誰でもなくこの少年を選ぶだろう」
「い、依頼放棄だ!契約違反だ!」
「あんたは冒険者の何たるかを全然分かっていない」

 ギルは胸を張って言う。

「冒険者は第一に自由であるべき。俺は俺の感じたとおりに行動するぜ」
「まあ、毎回それじゃ困りますけどね」
「・・・・・・契約違反というなら、あなたも一緒だ。ケノダインさん。俺ら以外の冒険者を雇うなんてこと、一言も契約にはなかった」
「あたしたち、そういうウソの事情で使われるのは我慢ならないわけ」

 アウロラ、アレク、ジーニがそう言ってリーダーの肩を「よくやった」とでも言うように叩くのを、ケノダインは口を大きく開けたまま愕然と膝を折って見つめるしかない。

「さあ、アイトリー。じいさんに冠を渡してあげな」
「は、はい!」

 アイトリーは周りを気にしながら冠を冒険者から受け取って、エムルリスの待つ扉の奥へ入っていった。

「これで全て終わったな。さあ、帰ろうか。懐かしの狼の隠れ家へ」
「そうそう、ケノダインさん。お前さんからの依頼は受けないよう、親父さんに伝えとくよ」

 エディンが軽く手を振ったのを合図に、一行は言葉にならない罵声を浴びせるケノダインたちを尻目にその場を去る事にした。

 それから数ヵ月後。
 冒険者達の耳に流れてきた風の噂では、アイトリーは受け継いだ遺産を全て聖北教会に寄付したらしい。
 そして今回亡くなった人達を盛大に弔ったそうだ。

「ま、あそこにいたモンスターの珍しい角やら石やらで、赤字はなんとか回避できたし。良かったわねー」
「銀貨2400枚の儲けだ。なかなかだったなァ」
「それにしてもアイトリーさん、ずいぶんと思い切りましたね。全額寄付するとは思いませんでした」
「死者に敬意も表さず、私利私欲のために遺産を使うよりましだな」

 少し、間が空いた後、ギルたちは目を見合わせると手にしたジョッキを掲げて小さく乾杯をした。

※収入0sp、≪狂牛の角≫≪緋色の魂玉≫×6※

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■後書きまたは言い訳
44回目のお仕事は、Dr.タカミネさんのシナリオで最後の最後に笑う者です。
けっこう長丁場のシナリオですが、探索・戦闘・謎解き、すべての点において他人にオススメできる作品の一つだと思っています。シビアなタイムテーブルもございますので、こんなタイプのシナリオが好きな方はぜひ挑戦を!

本当は塔すべての古代語を読み取って、悪魔を押さえ込む呪文を獲得しようと思っていたんですが、どうにも最後の一つが見つからず呪文なしで戦闘。結果論だけどいい戦闘バランスでした。・・・・・・そうそう、宝物を必死に漁れば飛行用のアイテムもあるんですが、せっかく残っていたので暴虐の具現者の浮遊薬をここで消費してみました。奥の手みたいでかっこよかったので。

台詞がとにかくキャラクターに合っていて、ほとんどしゃべり方を直す必要もありませんでした。ジーニが敵ドワーフに啖呵切ったところとか、悪魔相手に一歩も引かないアウロラとか、まさにああいう台詞を吐く筈です。
そんないい反応をしてくれたので、オリジナルで悪魔が妙にアウロラを気に入った様子になりました。
実際問題、頭に血が上って反抗してきた相手の後であれば、ああいう聡い反応をする人間ってきっと気に入ってしまうと思うんですよね。

この作品がけっこうシビアでシリアスだったので、次回はもうちょっとライトな感覚のシナリオをやってみようかな・・・。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/02/26 21:17 [edit]

category: 最後の最後に笑う者

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Tue.

最後の最後に笑う者 6  

 魔器を手に入れた冒険者達は、噴煙止まぬ火山のふもとへ再び足を運んだ。
 辺りには特に生物の影も気配も見受けられない。
 が――――。

「いるんだろ?出てきなよ」

ScreenShot_20130224_014524375.png

 溶岩で荒れ果てた山にギルの声がこだまする。

「よく私達の居場所が分かったものだな」

 初めて見る男がジョーンズやドワーフ達を連れて物陰から現れた。

「・・・・・・お前は?」
「お初にお目にかかる。私の名はシュイウン。ジョーンズやオリストデルのまとめ役だ」
「つまり、敵という事だな」
「その通りだ」

 シュイウンは目をつぶって口元を笑いに歪ませる。
 しばし、無言の時が支配する。
 衣擦れの音、得物をいじる音、地面に足を滑らす音、汗が体中を伝う音。
 その直後、重圧をはねのけるように、お互いが吠える!

「いくぞ!!」
「ゆくぞ!!」

ScreenShot_20130224_014814453.png

 白いひげを蓄えた老人がエディンにあっという間に距離を詰め、その体を吹き飛ばす。

「うごっ!!」
「スネグーロチカ、ナパイアス!エディンを助けて!」

 戦場を雪娘が舞い踊り、その後をナパイアスの激流が押し流す。
 エディンを倒した体勢のままだった老人は、受身を取る暇も与えられず気絶した。
 さらにその冷気が覚めやらぬ中を、ギルが斧を振り回し駆け抜ける。

「うおおおおおおお!!!」

 ギルの一撃を受けてジョーンズは苦悶の表情を浮かべる。

ScreenShot_20130224_015056000.png

「こら、ヤバいわ。シュイウンさんよ、悪ぃが、俺ァ抜けるぜ」

 言うが否や、ジョーンズは手にはめている指輪に念を送り、視界から消えうせた。
 動揺を隠せない毒師・アンサティを、アウロラが【光のつぶて】で打ち据えて気絶させる。
 一番後ろに控えていたジーニが大きく手を広げ、≪死霊術士の杖≫でもって己の周りに張っている風の護りを攻撃に転じさせる。
 その猛々しいかまいたちに、リーダーであるシュイウンもぼろぼろになって吹き飛ばされた。

「残りは二人!!」

 そう叫んで投げつけた薬瓶は、【災いの薬瓶】。――ほとんど動けなくなった残りの二人に、またもやミナスの雪娘たちが襲い掛かり、最後にギルの【暴風の轟刃】が飛んだ。

「止めを刺しておくか、リーダー?」
「――刺す」

 今までの彼らの所業は、ギルにとって到底許せなかった。
 毒を持って同じ冒険者を襲い、その上前をはねる。そして口を塞ぐ――彼らの行ないは、同じ冒険者を名乗るものとしてあるまじき事だったのである。
 ギルの目配せでアウロラがミナスの目を塞ぐ。
 それを確かめたギルとエディンは、得物を頭上に振りかざし――シュイウン達はピクリとも動かなくなった。

「これでライバルは蹴散らした。さあ、ここからが正念場だ」

 頬についた赤を無造作に手の甲で拭ったギルがそう言うのを、硬い表情ながらも、ミナスは信頼を失っていない目で見つめた。
 エディンが亜麻色の頭を撫ぜる。

「悪魔と俺ら人間との命の駆け引きだ。ぞくぞくしてくるぜ」
「勝てるのかな?僕達に」
「向こうは囚人とは言え、仮にも悪魔だ。一筋縄じゃ行かねぇだろ。だがな、俺らだって幾度となく死線を乗り越えてきた熟練冒険者だ!」

 はっとした顔になったミナスが、エディンの顔を見やると、彼は果たして滅多に見せない不敵な表情で微笑んでいた。

「いつもの通り、最後には勝ってみせるぜ」
「そうですね。最後に笑うのは私達です」

 そして彼らは悪魔の元へと向かった・・・・・・。

「おお!ついに我の一部を見つけ出したのだな!」

 アウロラの持つ彼の目・牙・翼を感知したものか、果たして洞窟に入るなり悪魔が喜びの声を上げた。

「さあ、早く我をこの忌々しき鎖から解き放ってくれ!」

 アウロラがそれを捧げもつと、まず不気味に広がっている一対の翼が、悪魔のごつごつした背中にふわりとくっついていった。
 闇よりも暗い目は、悪魔の顔のくぼんだ部分にするりと入っていった。
 剣の形をしたそれは、暗い光を発しつつ、粘土のように形を変え、猛獣のような牙になり悪魔の口の裂け目に入り込んでいった。
 魔力、いや瘴気と言うべきか。
 ともかく、圧倒的な力の奔流が辺りに渦巻いた。
 その中心にいるのは、いましがた封印を解いた悪魔。

「フ、フ、フ・・・・・・。フハハハ・・・・・・。フハハハハハ!!!」

 唾を飲む音さえもがこだまするかのように静まり返った洞窟内で、悪魔が吼える。

「10年!10年だ!長かった、長かったぞ!!」

 悪魔は腹の中の憤りを噴出するかのように自由を謳歌する。
 周りの事は全く見えていないようだ。

「・・・と、済まんな。主らの事を忘れていたわけではないのだ」

 ひとしきり笑い続けた後、ぴたりと笑うのを止め、悪魔はアウロラや仲間たちの方を向いた。

「では、宝物庫へ主らを運ぶ事にするか。その前にこの牢獄から出ねばならんな。しばし待て」
「その巨体を出すにはここに入り口は狭すぎますね。どうやって・・・・・・」

 アウロラがそう言いかけた時、悪魔の気が満ちたかと思うと、次の瞬間には洞窟が消し飛んでいた。周りは何かにえぐられたような跡が残っているだけ。

「なんて乱暴な・・・・・・」

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「まだ力の入れ加減が上手くいかないようだ。主らには障壁を張っておいたが怪我は無いか?」
「はい・・・・・・」

 妙に紳士的な悪魔の台詞に首をかしげながらも、返事をしないのは礼に反するためアウロラは頷いた。

「驚かせて済まんな。では、行くか。天空の宝島へ」

 冒険者達は悪魔の広い背中に乗り、空へと飛び立った。
 悪魔はただ上へ上へ、雲を突っ切り飛んでゆく。
 流れる雲が高速で下に落ちているのに全然息苦しく感じないのは、悪魔が障壁を張ってくれているからだろうか。
 高速ゆえに時間の感覚が掴めず、どれほど時が過ぎたのか分からない。
 悪魔に掴まる腕が痺れてきた頃。

「ん・・・あれは・・・?」

 辺りの閉塞感が途切れ、目の前には立派な建物がそびえ立っていた。
 建物の周りの地面はレンガか何かで覆われており、普通に足で立つ事が出来そうだ。

「ついたぞ。ここが海賊王の宝物庫だ」
「ここが・・・・・・」

 背中から降りたアウロラに、そっと悪魔が爪の先を差し伸べて降りるのを補助した。

「そら、そこが扉だ。中では迷う事もなかろう。早く目当ての宝を探すがいい」
「アウロラー、待ってー」

 ミナスが彼女を呼びとめ、他の仲間たちもぞろぞろと降りてくる。
 金属製の扉は立派で、ジーニの鑑定したところ海賊王の活躍するずっと前の時代に流行っていた装飾だという。
 罠や鍵のかかった様子はない。
 冒険者達は扉を押し開け、宝物庫の中へ入っていった。
 決して大きくはない宝物庫の中は、所狭しと貴重品や宝箱が詰め込まれていた。
 感に堪えぬ表情でエディンがつぶやく。

「すげぇ・・・・・・。さすがは海賊王シェクザの隠し財宝だぜ。珍しいものが多いな。ほら、あの彫刻とか・・・・・・」

ScreenShot_20130224_022516765.png

 さすがに盗賊根性が出たものか、品定めを始めようとするエディンをギルが制した。

「まずは目的の冠を探してからだ。品定めはその後でじっくりな」
「おおっと、すまねぇ。つい興奮しちまった」
「無理ないわよ、エディ。あたしも今すぐ鑑定したいところだけど・・・・・・」
「おーい、探してくれってば」

 大人組みはギルの懇願に肩をすくめると、真剣な表情に変わって辺りを調査し始めた。
 程なく、エディンが目的の冠を取り出す。

「あったぜ。これだな」

 ズ・・・・・・・・・ズオオオオオン!!

 突然、地面が揺らいだかと思うと、冒険者達の体に高い所から落ちた時の浮揚感と落下感が湧き上がった!

「な、何だぁ?」
「とにかく、外へ!」

 ミナスの誘導で”金狼の牙”たちは宝物庫の外へ飛び出した。

2013/02/26 20:52 [edit]

category: 最後の最後に笑う者

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Tue.

最後の最後に笑う者 5  

 闘いは鮮烈を極めたが、ジョーンズの放ってきた火晶石の爆発をどうにかこらえると、ギルとアレクはそれぞれ対多数用の技を放ちつつ、合間を見て一番動きの鈍いオリストデルに攻撃を繰り返した。

「スネグーロチカ、ナパイアス!あの片目の男にぶつかって!」
『任せて!』
『お返ししてやるよ!!』

 雪と水の吹きすさぶ中を、エディンがジーニの援護を受けながら毒師の女へレイピアを突き立てる。
 毒師も抵抗するものの、持っていた短剣を≪スワローナイフ≫の護拳の部分で叩き落されてしまった。

「ジョーンズ、オリストデルが・・・・・・!あう!」
「何ィ!?」
「グ・・・・・・ぬかった、わ・・・」

 オリストデルの鎧に包まれた体が地に落ち、その向こうに斧を構えたギルが立っていた。

「【暴風の轟刃】の味はどうだ、クソジジイ。あの世で後悔しやがれってんだ!」
「皆さん、一気に癒しますよ・・・・・・!」

 アウロラによる【癒身の結界】が”金狼の牙”たちを包み込み、圧倒的不利だったはずのギルたちがたちまち優勢を取り戻す。
 最後に、スネグーロチカによって吹き飛ばされる前にジョーンズが放った傷薬で、再びオリストデルが目を覚ましたものの、彼が体勢を整えないうちに、躍り込んだアレクの≪黙示録の剣≫がその体を横薙ぎにして吹き飛ばした。

ScreenShot_20130224_010456609.png

「へ、へへ・・・、強い、ねぇ・・・」
「あの世に行く覚悟は出来たか」

 一歩、ギルが足を踏み出そうとするのをエディンが止めるのと、ジョーンズが「奥の手だ」と言って何かを取り出したのは同時であった。
 その手にあるのが何かの呪文書(スクロール)と見るや、彼は既に合言葉を唱えている。

「帰還の法!!!」

 煙がごとく消えうせた3人のいたあとを見つめながら、ミナスがつぶやいた。

「まさかあいつも帰還の法を使えるとはね・・・・・・」
「まあ、逃げられはしたが、勝者は魔器を手に入れた俺達で間違いねぇよ」
「うん・・・。これで後一つだね」

 一行は森を抜け、もう一つの目的である北へと向かった。
 しかし、どうしても塔らしきものが見つからない。

「しまったわね・・・あんまり時間をかけるとボーナスに差し障りも出てくるわよ」
「うーん・・・先に飛行樹を退治するか」

 島の西南には、悪魔の翼をつけて飛び回っている樹のモンスターがいる。一度遠くから発見した時は、見つからないようそっと離れて事なきを得たが、いつかは戦わなくてはならない相手である。
 幸い、途中でアイトリー一行から飛行樹と戦う時のヒントを得ている。
 アレクが遠距離攻撃である【飛礫の斧】を、ジーニが指摘した翼のある背中の辺りを狙って放った。

「上手いこといってる・・・!」
「本当にあれがエントとか、信じられないなあ・・・」

 スネグーロチカをぶつけながらミナスがぼやく。彼の知る森の樹は、もっと優しい存在であった。
 空飛ぶ樹は、エディンのとどめの一撃を受け、大地へまっさかさまに落ちた。

「ようやく全部揃えたな。後はあの悪魔に渡すだけだ」
「アロヴァさんの冒険者達の動向は気になる所だけどね」

 ギルが息をついたのに、ミナスが被せるように言った。
 小さくギルが頷く。

「奴らの事だ。どこかで必ず魔器を狙ってくるに違いない。そこが好機だ。返り討ちにしてとどめを刺す!」

ScreenShot_20130224_013101968.png

 ギルは右手の握りこぶしを左の手の平に勢いよく叩きつけた。

「塔の呪文が未完成かもしれない可能性が高いのは気になりますが・・・」
「そうだな。しかし、あまりもたもたしてるとミナスの言うアロヴァの冒険者達も、何かを仕掛ける時間が増えるということだ」

 アレクがそう言うと、渋々アウロラは頷いた。

「行こうか。悪魔が俺達を待っている」

 冒険者たちは半日の休憩を取って体と心を癒した。そして自らの心を奮い立たせ、悪魔の棲む摩天楼へと向かう事にした。

「・・・・・・しっ」

 急に前を歩いていたエディンがしゃがみこみ、自分たちも踏み荒らした記憶の新しい、碁盤の目の洞窟の床を調べ始める。
 訝しげにジーニが彼の名を呼ぶと、エディンはいつになく厳しい目で前方を睨み付けた。

「・・・誰かがあの騒ぎの後にここに来た。ジョーンズの奴らかもしれねえ。まったく見慣れない足跡だ」
「ってことは、悪魔の洞窟の前に陣取ってるってこかしら?」
「その可能性はある。リーダー、ここから先はちゃんと準備してからの方が良さそうだぜ」
「ありがとうエディン。ミナス、アウロラ、魔法頼む」
「うん」
「分かりました」

 アウロラの【祝福】による光のベールが冒険者達の士気を上げ、更に放たれた【信守の障壁】が不可視のシールドを形成する。
 すっかりお馴染みになったミナスの【蛙の迷彩】が一行の姿を周囲の風景と同化させた。

「ギルバート、こっちも風の召喚魔法は唱え終わったわ」
「よし、みんな。気合入れてくぞ!」
「おう!!」

 冒険者たちは歯を噛み締め、下腹に力を入れつつ洞窟の出口をくぐり、山に向かっていった。

2013/02/26 20:46 [edit]

category: 最後の最後に笑う者

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Tue.

最後の最後に笑う者 4  

 悪魔の目は漆黒。見たもの全てを虜にする魔眼。
 悪魔の牙は白。何物も・・・それこそ魔力をも断つ事の出来る牙。
 悪魔の翼は手の進化した物。一振りで木っ端な存在を消し飛ばす威力。 
 それらは使うごとに魔力を消耗するため、人間のように魔力が弱いものなら体力を代わりに吸い取るだろう・・・とヴィンディバックスは説明した。

「まず悪魔の目玉は見つけたからいいものの・・・・・・。猿が持ってるってどうだよ、オイ」
「けだもののくせに人様に逆らおうと言うの?追うわよ、エディ!」

 悪魔の漆黒の目を首からペンダントのようにかけている猿の身ごなしは、驚くほど早い。
 ”金狼の牙”で一番素早いはずのミナスが本気で走っても、到底追いつけないのだ。
 鎧の重さに振り回されているギルが叫ぶ。

「待てコラ猿もどき!止まらないと鍋の具にすんぞ!!」
「・・・ねえ。落ち着いて考えてみるとさあ。逃げ場の多いこの洞窟ですばしこい猿を捕まえるのは難しいんじゃないの?」
「だけど、捕まえなくては話にならないよ」

 ミナスのもっともな意見に、ジーニは楕円を描くように杖を振り回しながら言った。

「やみくもに追うのではなく通路に誰かが待ち伏せして追い詰めるようにするのよ」
「なるほど・・・・・・」

 感心したようにエディンが頷く。

「さっきも言ったでしょ?この洞窟はちょうど碁盤の目のようになってるの。それを踏まえて要所にあたしたちの誰かが待ち伏せすればいいのよ」
「いい案だな。ただ、最後に猿を追い詰める奴には、接近戦のできる奴じゃないと取り押さえられそうにない」
「そこはほら。前衛に任せるって事で」
「だと思ったよ。ヘイヘイ、やりますよ」

 ”金狼の牙”たちは途中でアイトリー一行とも合流し、彼らに手伝ってもらって無事に猿を追い詰めた。
 そして、この間の依頼で依頼主から貰ったスチームドッグ≪スチーノ≫の呪縛によって体の動きを奪われた猿はバランスを崩し、地面に倒れこんだのであった。

ScreenShot_20130224_000001390.png

 その拍子に猿の胸元で鈍く光っていた悪魔の目玉が足元に転がり込んできたのを、近くで見張っていたジーニがそっと拾い上げる。

「ま、あたしにかかればこんな仕事は赤子の手をひねるようなものね」
「お前さん、いい性格してるよマジで」
「これであと二つだね!」

 アイトリーたちが複雑そうな表情でこちらを眺めるのに、シュタッとジーニが手を挙げた。

「一応お礼は言っておくわ。ありがとう」
「それほど大した事もしていませんよ。それに皆さんに協力すれば、より早く祖父の宝も手に入るわけですから」

 アイトリーはそこで話を切り、いったん洞窟の出口の方面を向いた後、再び話しかけた。

「それでは僕たちはこれで別行動に移ります。お互い頑張りましょう」
「・・・・・・本当に、いい子ですよねえ」
「ああ、俺たちの以下略」

 アウロラとアレクがしみじみといった調子で言うのに、ギルは苦笑いした。

「おいおい。まだまだ先は長いんだから頼むぜ」

 ――途中、またもや古代語の書かれた塔を見つけた一行は、少々腰を据えて考え始めた。

「なあ。あの悪魔が言ってたろ、海賊王が自分を封印したって」
「ああ、自縛の結界を張ったとか・・・言ってたな。それがどうしたんだ、ギル?」
「それってこれじゃねえの?」

 他の仲間たちはリーダーの言い出したことを脳内で咀嚼し、ばっと同時に塔を見やった。そこには、『今こそ風の海原、凪ぎ静まれ』と書いてある事を解読済みである。

「・・・そうだとすると、これと同じものがあと2つはあると見ていいわね。多くて4つかな?」
「どうして、ジーニ?」
「ええとね。こういう封印に関わる物体ってのは、大抵法則性を決めて設置してあるわけ。ある時は地鎮によく使われる東西南北、ある時は”安定”を示す六芒星だったりね」

 そういった魔道でよく扱われる象徴を結界に組み込むことにより、自分よりも大きい存在を封じることが出来ることがあるらしい。

「後は触媒が必要だったり、土地の持つ神聖性が必要だったりするけどね。ま、そんなとこよ」
「この狭くて歪な形の島に、六芒星を描くほどのスペースがあるとは思えんな」
「そうねー。東西南北であたりをつけても良いんじゃない?」
「じゃあ、塔を見つけつつ、悪魔のパーツも探すってことでいいよな、みんな?」

 ギルの決定に全員が頷いた。あの恐ろしい魔力を持った悪魔相手に、素のまま戦いを挑むのは分が悪すぎる。ならば、策を練るのは当然の事であった。
 そして崖を渡り、東の塔を見つけた一行は森に入った。北にあるはずの塔に向かうには、どうしてもここを通らねばならぬ。
 夜が明けて空が白んでいく中、森の中である地点を通りかかった時、妙に空気が重苦しく感じられ、肌に小さな針を刺すようなピリピリとした気を感じた。

「・・・ん?」

 ジーニは先程回収した悪魔の目を使い、周囲を【魔力感知】した。
 すると、所狭しと茂っている木々の間から溢れかえる魔力の光がジーニの目を焼く。

「この部分の木々は幻術よ!」
「なるほど、幻で悪魔のパーツを隠したのか・・・!」

 アレクがはっと気づいたのにジーニが同意する。

「この術さえ解ければ・・・」
「ん?あんた達。どうしたね?こんな所で立ち止まって」

ScreenShot_20130224_003404765.png

 右目は恐らく刃物で傷つけられたのであろう、残った左目をやぶ睨みにした男が、幻術の木々の向こうから細い体を現して言った。
 じろりとそっちを黙って見やったエディンだったが、その背中には冷や汗が流れていた。

(畜生、俺としたことが気配を感じなかっただと・・・・・・?)

「うさんくさい奴ね。そっちこそ何してるのよ。こんな島で」

 エディンの横に立ったジーニが問いかけるのに、男がふっと笑った。

「俺の名はジョーンズてんだ。ここには隠し財宝があるってんで探してるのさ。ところであんたら。見たところ何かが足りなくて困ってるようだが」

 男は自分が持ってるものなら割安でゆずってやろうか、と取り引きを持ちかけてきた。
 すっと懐から出したのはよくある呪文書(スクロール)であった。

「破魔の巻物さ。通常価格なら500spだが、無人島特別価格で1000spだ」
「足元見られてるわ・・・それならいらないわ。アンタなんかには頼まないわよ!」
「まあ、それもアリだな。探し当てるのにいつまでかかるか分からんが」
「いーえ、アンタとの会話がヒントになったからね。必要ないって分かったの」

 ジーニはそう言うとベルトポーチから薬瓶を取り出し、先程幻だと見破った木々たちの方角へ投げつけた。破魔の力を込めた薬瓶である。
 ぶわっと幻術が破られるとき特有の光が放出される。

「うわっ・・・!」

 たまらずジョーンズという男までもが目を瞑り、再び開いた前には――一振りの剣があるじを待つかのごとく、木々に囲まれ、静かにたたずんでいた。
 震えるほどの魔力の放出。
 禍々しい異形の刀身。
 間違いなく、あの悪魔の持ち物だろう。
 冒険者達がその剣を手に入れようとしたその時、急に脱力感が襲ってきた。
 先ほど感じた空気の臭いが今では冒険者の体を支配し、ぴくりとでも動かす事すら困難になっている。

「ありがとう。礼を言うぞ。好敵手よ」
「ドワーフ・・・!?」

 奥の草むらから姿を現した背の低いごつい戦士を見て、ミナスが驚きの声を出す。
 土の妖精族とも言われるドワーフ、そしてその後ろに見知らぬ女が涙を流しながらよろりと立ち上がっている。

「相変わらずお主の毒はよく効くの。アンサティ」

 背中に異形の斧を担いだドワーフは冒険者達の状態を目で確認した後、かたわらの女性に賞賛の言葉を発した。

「・・・・・・。まずはジョーンズに解毒を施さないと」

 泣き顔を崩さない女性は、冒険者たちと同じように毒で倒れているジョーンズの傍らに座り、口移しに何かを飲ませた。
 ぐぎぎぎ、と音を立てるようにして顔を上げたジーニが唸る。

「ふ・・・、ふざけるんじゃないわよ。あんたら、なんなのよ・・・」
「そういえば、自己紹介がまだじゃったかの。わしの名はオリストデル。滅鉞の戦士じゃ。横の女は毒師アンサティ。そしてこのちんぴらジョーンズ・・・・・・は、知っておるかの」

ScreenShot_20130224_004706515.png

 ドワーフはにたりと笑った。

「主らにはアロヴァ側の冒険者達と言った方が分かりやすいかの」

 豊かに蓄えたひげの奥でクククと低く笑う。
 後をつけて封印を解かせ、その成果を奪う。力も削げて一石二鳥だと説明するドワーフに、ギリギリとジーニは歯軋りした。
 卑怯者と罵ると、心外だというようにドワーフが言った。

「ならばおぬしらに機会を与えよう。わしらと闘い、勝って見せよ。わしらに勝てればおとなしく引こうではないか」
「ハッ!相手を毒で罠に嵌めて勝って見せろ?ずいぶん勝手な言い草ね!」
「わしらとしてはこのまま剣を取って去っても良いのだがの」
「・・・・・・・・・言ったな、クソジジイ。その言葉、後悔するんじゃねえぞ」

 ごり、と金に輝く斧を杖にしてギルが立ち上がる。

「あんまり、俺の仲間たちを舐めるんじゃねえ・・・・・・!」
「まったくよ」

 ジーニも無理やり≪死霊術士の杖≫を支えに立つ。

「あたしをここまでこけにしてくれてただで済むと思ってるの?思い知らせてやるわ!」

ScreenShot_20130224_005600937.png

「それでいい。行くぞ、”金狼の牙”!」

2013/02/26 20:39 [edit]

category: 最後の最後に笑う者

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Tue.

最後の最後に笑う者 3  

 カディリンを石化させたらしい狂牛のような怪物を退治し、【癒身の結界】で怪我を治した一行はとある地点で足を止める。

「もし山に入る道があるとすれば、ここら辺が怪しいと思う。みんな、手分けして探してくれ」

 田舎育ちで厳しい自然に慣れたギルの指示で、冒険者たちはアイトリーの言ったことを思い出しながら辺りを探った。
 周りをゆっくりと見渡していた”金狼の牙”の中で、それを発見したのはアレクだった。

「誰か来てくれ。洞窟だ!」
「何?」

 足音を立てずに近づいたエディンが確かめると、若干だが人の手が入った跡が見られる。
 彼らは隊列を組み直し、そっと歩を進めた。
 途中には小さな社がある。両開きの扉は開かれており中には何も入っていない。 

「何もなし・・・か。ちょうど碁盤の目のような地形の洞窟なのね」
「迷わずには済むが・・・・・・何かありそうだな。警戒していこう」
「ん。ねえねえ、そっちからシルフィードの力が少し感じ取れるよ」

 エディンの深緑のマントを引っ張ったミナスが、洞窟の奥のほうを指差した。
 小さな指の導きに従って進むと、洞窟を抜ける事が出来た。ちょうど山腹らしい。
 調べると、山頂に向かうらしい洞窟がもう一つ口を開けていた。
 突如、地響きとともに、奥の方で何かが爆ぜる音と男の悲鳴が冒険者達の耳を貫いた!

「行ってみましょう!」

ScreenShot_20130223_230556093.png

 奥の広間らしき場所にたどり着いた冒険者達が見た光景は――――。
 一度こちらの行く手を妨害したリテルナの一行がそこにいた。
 しかし、立っているのは満身創痍の夫婦二人だけだ。
 部下の水夫達の姿が見当たらない。いったいどこへ――と辺りを見回してみた”金狼の牙”たちの視界に、それは衝撃的にねじこまれてきた。
 目をえぐられたような二つの穴を持つ顔。
 乾燥地帯を思わせるひびの入った身体。
 そして、その巨躯を絡め取っている鈍色の輝きを見せる紋様入りの鎖――その周りには水夫だったものが八つ裂きになり、あちこちに散らばっている。
 顔の下半分がパクリと開いたかと思うと、化け物はその牙の無い口から重く響く言葉を発した。

「まだ、続けるのか?」
「あ、当たり前よ!お宝を手に入れるまで諦めるわけないじゃない!」
「お、お前・・・これ以上は無理だ。大人しく奴の要望を飲もう」

 弱々しくリテルナの夫が説得を試みるも、「悪魔の取引に耳を貸す気はない」と主張したリテルナは素早く動いた。

「とっておきの火晶石を全部お見舞いするわ!!」
「――!!バッカヤロ、危ねえ、みんな伏せろー!!」

 リーダーの号令に、他の仲間たちは一斉に身を伏せる。
 エディンは近くにいたミナスを咄嗟にマントで包み、アレクはジーニの頭を抱え込んだ。
 次の瞬間、かつて雪山で起きた雪崩に勝るとも劣らない威力の轟音が辺りに満ちた。

「ビボルダーも一撃で消滅する威力よ。これなら――」

 勝ち誇ったリテルナの台詞は、だが途中で凍りつく。

ScreenShot_20130223_231428406.png

「!!」
「因果応報――我が身にかかりし大厄は仕掛けた主に返るべし!!」

 煙の中から現れた化け物が牙の無い口で何らかの呪を唱えると、魔力がリテルナに収束するのを感じる。
 火晶石の爆発による土煙が覚めやらぬ中を、一条の光線――いや、大砲にも等しい何かが走り抜けた。

「仕掛けた者に攻撃が跳ね返った!?」

 消し炭になったリテルナは音も無くその場に崩れ落ちた。
 しばしの時が経ち、辺りに再び静寂が戻ると、化け物は残された夫に再び声をかけた。

「まだ、続けるのか?」
「アア・・・アアア・・・ァァァァァ・・・・・・アビャビャビャビャ!!」

 リテルナの夫は入り口に立っていた”金狼の牙”たちを押しのけ、奇怪な声を発しつついずこかへ走り去っていった。
 凄惨な結末を迎えたにも関わらずあたかも日常のような素振りで、化け物は冒険者たちのほうにその太い首を向けた。

「さて・・・・・・今日は実に騒がしい事よ。主らで4度目になる。我に何用か?」
「・・・いったいあなたは何者ですか?なぜ、何のためにここにいるのですか?」

 一番先に平静を取り戻したアウロラが訊ねる。

「我が名はヴィンディバックス。人の言葉に直すなら黒翼の淵とでもなるか」

 クク、と小さい笑い声をあげた化け物は言葉を続ける。

「現世と隔離世の狭間よりこの地にまかりこした。我の事は人の言葉では悪魔と呼ぶらしいな」
「悪魔!?」

 悪魔、という絶対悪の印象を持つ言葉に周囲の空気が1℃ほど下がった。

「主らが何を思うたのかは分からぬが、今の我はただこの地に縛り付けられている卑小な存在。主らの期待に沿える存在ではない、という事は断言しておこう」
「私達はこの島にあるという宝をもとめて来ました。どこにあるか知りませんか?」
「アウロラ・・・っ」

 そんなこと聞いて大丈夫かというギルの目線に、アウロラはしっかりと頷いた。

「宝か・・・・・・」
「何がおかしいのですか?」
「失礼。人の求めるものはいつでも同じものよな。宝物庫は、そこだ」

 悪魔は縛られた身体を窮屈そうに動かし、あごで冒険者達の頭上を指した。

「この洞窟の上と言うと山の頂上ですか?」
「いや、更に上だ」
「更に上と言うと・・・・・・?」
「そう。人の辿りしえぬ空の上に海賊王の宝が眠っているのだ」
「お空の上・・・・・・」

 呆然とした様子でミナスがつぶやく。
 鋭くアウロラが問うた。

「そこに行く方法は?」
「主らが鳥のように飛べたとしてもなお届かぬ場所にある。しかし、我の翼なら蒼空の奥深くまで届く事が出来ような」
「翼・・・・・・?あなたにそんなものがついてるとは思えませんが」

ScreenShot_20130223_232926078.png

 度胸がいいというべきか、ふてぶてしいというべきか、あくまで冷静な彼女の疑問に悪魔は再び歯の無い口をパクリと開け、笑いに顔を歪ませる。

「肝の太い女だな・・・。我の翼は海賊王によりこの島に封印されている」

 悪魔は言う。翼のみならず、目、牙もこの地のいずこかに封印されているのだと。
 海賊王はそれら悪魔の力の源を封じた上で、自縛の結界を張り悪魔を永久の宝物庫の番人としてこの地に封印したという。

「つまり、翼、目、牙を探し、あなたの封印を解かない限り宝物庫への扉は開かないと」
「肝が太い上に察しのいいことよ!面白い女だ、気に入ったぞ!」

 悪魔は大声で笑った。
 リテルナたちは同じ取引を持ちかけられ、断った。
 そして封印されているのだからと悪魔を侮り、襲い掛かったのだが――結果は今見た通りだったわけだ。

「宝への道を開ける代わりに我の封印を解いてはくれまいか?もちろん、封印を解いたからとて我が約束を違える事はけしてない」

 悪魔は空ろの目を細めて、アウロラに――場合が場合でなければ、まるで睦言のように囁く。

「我が名ヴィンディバックスに賭けて主らを無事に宝物庫へ運ぶ事を誓おう。さあ、返答はいかに?」

 それを横から掻っ攫うかのように、ジーニが応えた。

「ま、いいでしょ。その条件でやってあげるわ」

 慌てたアレクがジーニの肩を掴んで揺さぶった。

「お、おい。いいのか?悪魔の取り引きに簡単に応じて」
「宝物庫が上空にあるのなら、こいつの手を借りなきゃならないだろうしね。奴の手の平で踊ってやろうじゃないの」

 そこでジーニが口の端を上げる。
 まるで、彼女の方がよっぽど性悪な女悪魔のような笑みである。

「途中までだけど」
「・・・・・・、揉め事かね?」
「こっちの話だから気にしないでよ。アンタの条件は飲んであげるから」

ScreenShot_20130223_234022468.png

「クック・・・・・・、そうかね。では、よろしく頼んだぞ」

 その話合いの隅っこで、ギルはミナスの服の埃を払ってやっているエディンに小声で言った。

「やっぱり、女ってこええ・・・」
「今回ばかりは俺も同意するぜ、リーダー・・・」

2013/02/26 20:34 [edit]

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