Mon.

廃教会の地下 5  

 ジーニは荷物袋からヒヨス草とは違う薬草を取り出した。
 魔獣の角を取りに行った時、森で採取したものである。
 木苺にも似た外見のそれをよくすり潰し、アウロラとアレクの口に無理やり含ませて嚥下させた。

「まっず!うげえ・・・」
「・・・・・・すごく青臭いし、苦いですね」
「文句言わないでよ。死ぬよりましでしょ」

 それよりも早く二人の癒しを使ってくれと促されて、二人は慌てて周りに伏したままの面子を見渡した。
 アレクが懐から飛び出していた雪精トールを呼ぶ。

「トール、おい、トール!大丈夫か?」
「アレクはん、大丈夫でっせ。どうにか最後の光線は避けましたさかい」
「悪いが、アウロラと一緒にみんなの傷を癒してくれ。俺は最後でいいから」
「ではトール、私が癒し切れなかった方をお願いしますね」

 そう言うと、アウロラは【癒身の結界】を唱えた。
 彼女の体から微かに金色がかった法力が発せられ、円陣となって仲間や自分を覆う。
 たまに失敗する事もあるこの法術は、ほぼ大方の傷を癒し終わっていたが、ミナスだけがその円陣から漏れていたらしく、目ざとく見つけたトールが魔力で治した。

「ん・・・・・・。ありがとう、トール・・・あとは自分で出来るよ・・・」

 気絶から立ち直ったミナスが、水の精霊の霊験で残りの傷を塞いだ。
 その様子をじっと見守っていたギルが、終わった頃を見計らって声を出す。

「・・・上に戻ろう。報告する奴がいるだろ」

 一同は重い足取りでゼンを横たえておいた教会のスペースへと戻っていった・・・。

「良かった。無事だったんですね」

ScreenShot_20130215_164725953.png

「ゼン・・・」

 エディンが続ける。

「あの怪物について何か知っているんだろ。教えてくれ・・・」
「バウルに会ったんですか」

 冒険者は首を縦に振った。

「僕やバウルは戦争で帰る場所を失くした孤児です」

 リューンは戦争をしているわけではないが、その周辺諸国では珍しくもない話だった。
 そうした孤児たちを、聖北教会の関係者が集めて面倒を見ることも。
 しかし・・・神父が孤児を養っていた本当の目的、それは人体実験の贄にするためであった。
 異教徒の勢力は未だ衰えず、ここ数十年に強い聖者と呼べる者は一人も出てきていない。
 神父はこれを聖北の危機と考えた。

『聖者が居ないのなら作り出せば良い』

 後は・・・、語るまでもない。

「バウルは神父様を殺して僕を救ってくれました。でも、彼の体はもう手遅れで、心は今も蝕まれている。そして、バウルは死ぬ事さえ許されなかった」

 ゼンの目は、乾いていた。
 ただ、僅かに震える唇の動きが、その激情を物語っている。

「何度刺しても、何処を切っても死なないんだ!」
「・・・・・・弱点は?」

 我ながら非情な声だな、とジーニは思った。ゼンの嘆きももっともかもしれないが、彼女はそれにかまってはいない。

「それが分かっていれば、テスカさんも死なずに済んだかもしれない・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

 目を閉じたアウロラは、十字を切ってテスカや最初に調査に訪れた者たちと――バウルの冥福を祈った。
 バウルは恐らく喜ばないだろう。それでも、彼女には他にバウルのためにしてやれることはない。

(まだ諦めるには早いな)
(もう一度、地下を調べてみよう。見落としがあるかも知れない)

 そう考えたギルは、ゼンに「そこにいろ」とだけ言い捨てて、他の仲間を再び地下へと促した。

「何をするつもりだ?依頼は完遂したんだぜ、リーダー?」
「依頼はな。・・・でも、そこで終わりにするのはちょっと、納得いかないのさ」
「・・・ギルの言うとおりかも。あたしたち、地下で他の部屋調べてないわ」
「うん?」

 エディンはジーニを見つめた。

「真相をはっきりさせられる証拠。それがあれば、教会に責任を追及するくらいはできるんじゃない?」
「・・・なるほど。聖北教会を絞るつもりか」

 眠たげな瞳が気遣わしげに聖職者を見やったが、彼女は我が意を得たとばかりに頷いていた。

「ご存分にお願いします。私に気兼ねなさる必要はありませんよ」
「ってことで。頼んだわよ、エディ」
「ヘイヘイ」

 こうして彼らは、まだ開けていなかった部屋たちを細かく調べ始めた。
 神父が使っていたらしい部屋の本棚には、「不死の怪物」や「再生機能をもつ怪物」についての記述がある本が並んでいる。

「こっちは吸血鬼・・・これはオーガ。こっちの緑の背表紙はドラゴンか」
「・・・・・・なんですか、このゴキブリーチェって」
「徹底的に調べました、ってとこね。・・・人が人道から外れる力を人為的に身につけた結果が、ここよ」

 気に食わないわ、とジーニは言った。
 こっちの部屋はなんだろう、とアレクの手を引いて向かい側のスペースに向かったミナスは目を瞠った。
 壁一面を埋め尽くす巨大な薬品棚と、大きな寝台が目に映る。
 ここは他の部屋とは違うようだ。
 ふと、アレクが床に目をやると・・・寝台の横に神父らしきものの死体があった。

「エディン。来てくれないか」
「うん?・・・・・・おやおや、問題の神父様かい」

ScreenShot_20130215_171036156.png

 右手にナイフを握り締めたまま、胸元には大きな穴が空いている。
 お人よしそうな、むしろ間の抜けた感じの髭を見て、エディンはケッとだけ言って手を動かした。
 その途中で、神父の左手に目が留まる。
 手には黒い輝きを発する不気味な十字架が握られていた。

「これは・・・・・・」
「・・・この形自体はよくある聖印と一緒です。ですが、何らかの魔力が込められているようですね」
「不吉の徴、ってやつか?まあ、こいつがあれば告発くらいは出来るかな」
「はい。前にご依頼をいただいた司祭様を通じて、ちょっとお話させてもらいましょう」

 ごく穏やかな普段どおりのアウロラの声だったが、内側に何か燃えるものがあるのは明白だった。
 ゼンにはそれ以上声をかけることもなく、ただテスカが残した遺品を引き取って、”金狼の牙”たちは依頼人への報告にいった。

「ありがとうございます。これで死んだ村人たちも報われる事でしょう」

 素直なパリスの礼は、あの陰鬱な地下から抜け出てきた冒険者たちには甘く響いた。
 やっと、「人間」のいるところに帰ってこれた気がする。
 彼女の手から報酬を得た後、”金狼の牙”は今回の件をネタに聖北教会を――有体に言って脅しつけ、幾ばくかの口止め料を受け取った。

「銀貨1500枚か・・・もうちょっと吹っかけてやれば良かったかねぇ」
「いえいえ、見事な交渉でしたよ。さすがエディンです」
「でもあれ、ちょっとテスカのまねしてたでしょ。僕分かったよ」
「よく見抜いたなあ。ま、こいつで一杯やって、テスカに献杯するつもりさ。付き合えよ、お前ら」
「それにしても、今回ちょっと危なかったなあ。リーダーとして反省してるよ。ジーニだけでよく勝ってくれた」
「そうでしょ?大変だったんだからね、もっと褒めなさい」
「・・・ジーニは、それが無ければいい奴なんだがな・・・」

 苦笑するアレクの懐で、トールが同感というように頷いた。

※収入2500sp※

--------------------------------------------------------

■後書きまたは言い訳
41回目のお仕事は、SARUOさんのシナリオで廃教会の地下です。マットさんの密売組織シリーズや平江さんの氷室の囚人、そして前回の不思議な博物店と、ふと振り返るとけっこう聖北教会関係のお仕事も片付けているようなので、その噂を聞いた人に依頼されそうな事件を探して、今回のシナリオとなりました。

SARUOさんのお作りになるダンジョンは、独特の休憩ポイントやトラップ、敵の弱点などがあって非常におもしろい、ある意味TRPGにちょっと近い感じかと。・・・そう思ってるの私だけか。
その中でも、この廃教会の地下は10分と想定プレイ時間は短いのですが、後味の悪さにかけては群を抜いており、エンディング前のやるせなさ、ベストのないベターの解決が後を引きます。(褒めてます)
・・・そういうシリアス作品なのに、がっちり笑える要素も実は本棚に詰まってたり。なんですか本当に駆動少女フェラールって。(笑)
戦闘では画像の通り、新品の盾と風で防護してたジーニ以外が斃れるという全滅寸前まで追い込まれました。
いやあ、危なかった。死んでもやり直ししようとは思っていましたが、ここで勝ったからこそジーニとも言えそうで、正直私は頭が痛いです。きっとこの人、ずーっとこれいい続けそう・・・。(笑)

あ、追記。冒頭の会話はシナリオにはありません。
順に、
要港都市ベルサレッジ(あんもないとさん作)
希望の都フォーチュン=ベル(Djinnさん作)
カナンの鎧(Askさん作)
となっております。トールについて知りたい方は、このリプレイの中の雪山の巨人を読んで下さい。

次回は打って変わって野外に出ようと思います。熱いスカっとするシナリオにするぜ!

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/02/18 00:00 [edit]

category: 廃教会の地下

tb: --   cm: 2

Sun.

廃教会の地下 4  

 ジーニは眼前に現れた『バウル』を見て、恐れを振り払うように杖を突きつけた。

「悪いわね。アンタには、ちょっとこのまま斃れてもらうわよ」

 おどろおどろしい、という形容がこれほどまでに似合う怪物も珍しかった。
 リザードマンのような腕、噂に聞くクラーケンのような触手、青白く発光する何か、翼竜のような翼、そして――理性を宿している、蛇のような一つ目。

ScreenShot_20130215_155625875.png

 何よりも恐ろしいのは、『バウル』は他人を傷つけたがらない意思の通じる存在であることだ。

(こんな姿に・・・・・・誰がしたの!?)

 彼女は奥歯をギリリと噛み締めると、【閂の薬瓶】をベルトポーチから取り出して投げる機会を窺う。
 周りに張っていた旋風の護りが怪物の体を削っていくも、傷ついた表皮が泡立ったかと思うと見る見るうちに再生していく。

「こいつ再生もちか!」

 叫んだギルが、金色の斧に夜明けのような輝きを集めて振り抜く。
 ミナスの周りを飛び交っていたスネグーロチカが再生を阻もうとしていた部分が、その攻撃によってごっそりと削られた。
 エディンが様子を見て、反対側に回り込んで【暗殺の一撃】を繰り出した。

「――――――!!!」

 声にならない言葉を放ち、『バウル』が身もだえする。

「わりぃな・・・終わりにしようぜ」
「!?皆、あれ!!」

 エディンが呼び出したスネグーロチカを舞わせながら、怪物の上方を指した。
 理性を宿していた一つ目が怪しく瞬き、凄まじいほどの殺気を凝縮し始める。

「あそこに攻撃を集中させるぞ」
「了解した」

 ギルの指示に、まずアレクが走った。
 剣先を床に打ち込み、飛礫を飛ばす。
 しかし、その飛礫が突き刺さると同時にうねっていた触手が”金狼の牙”たちを薙ぎ倒していく。
 全員が避けられずに吹き飛ばされるが、幸いに重傷を負ったものはいなかった。アウロラは一番防護の少ないエディンに向かい、次の攻撃が来る前にと【活力の法】を唱える。
 ジーニとミナスの召喚した魔法が飛び、風と氷の吹きすさぶ中心へ、飛び上がったギルが攻撃を叩き込みながら叫んだ。

「あと少しだ!」
「【信守の障壁】も、あと少しで切れてしまいますよ!」
「アウロラも攻撃に移ってくれ!」
「・・・・・・仕方ないですね」

 アウロラの右手の人差し指から、聖なる光の弾がまっすぐ打ち出される。
 そのすぐ後に怪物の目から迸る【破壊光線】が放出され、補助魔法の切れた”金狼の牙”が劣勢に立たされた。

「しまった、戦法間違えたか・・・!」

 ギルのその叫びの後、一同の中で立っていたのは風の障壁で自分を護っていたジーニだけだった。

「ふーう。この≪ロマンス盾≫がなきゃ、あたしも斃れてたわね」

 そして不敵な表情で、ぎゅっと手の中の薬瓶を握りこんだ。不思議なワンド(杖)のカードの魔力で、敵の残りの生命力は大体分かっている。

ScreenShot_20130215_162051078.png

「こいつで仕留められなきゃ・・・”金狼の牙”はおしまいね」

 思い切り、詠唱を唱えてから振りかぶった。

2013/02/17 23:41 [edit]

category: 廃教会の地下

tb: --   cm: 0

Sun.

廃教会の地下 3  

 廊下はさらに地下へ続いていた。
 そうして調べるうち、奥のほうから――なにやら、今まで聞いた事もない咆哮が轟く。

ScreenShot_20130215_151753359.png

「夜毎に響く怪物の唸り声、か・・・」
「ただ事じゃないのは確かですね。ここは・・・、異常です」

 手の中の書物を、ぎゅっと彼女は握り締めた。
 古くてかび臭いそれは、所有者の未来の物語が記されているという。
 決して開く事の出来ない本をアウロラは開けたくて仕方なかった。この先に何があるのだろう?

「さらに下の階がある・・・。ずいぶんと手の込んだ造りしてるな」

 ランタンを掲げて先を示したエディンに、ミナスはぎゅっと眉根を寄せる。
 杖に宿ってついてきているファハンやナパイアスが、彼に警告を発していた。

「・・・気をつけてって言ってるよ」
「こっちもだ」

 短く返したアレクの懐で暴れている気配がある。
 足音をいっそう殺した彼らは、数ある扉を無視して一気に最下層へと降りていった。 

「ゼン・・・?」

 最下層の奥にある扉、その向こうから声が聞こえてくる。
 こちらの気配を察しているらしい。敏い奴だ、とエディンは舌打ちしたくなった。

ScreenShot_20130215_152744890.png

「もう、オレには関わるな。お前は自由だ、ゼン・・・」
「!?」

 声もない大人たちに代わって、ミナスは真っ直ぐに扉の向こうの存在へ問いかけた。

「君は誰?」
「・・・ぁぁ・・・、そうか・・・、また・・・、来たのか・・・」
「また、だよ」
「オレはバウル・・・、お前達の言うところの、教会の・・・、怪物・・・」

 怪物に知性があり、名前があり、こちらと意志を通じることが出来るというのは意外だった。
 階上で聞いた方向からすると、とてもそんな風には思えなかったからだ。
 一同はじっと扉を見つめる。

「だが・・・、倒そうなどと・・・、思わないことだ・・・。それで、既に、何人もの、・・・が、死んでいる・・・」
「どうして話が出来るのに、他の人を殺しちゃったの?」
「まだ・・・、月は出ていない・・・。まだ・・・、理性を保てる・・・」

 声は苦しげに喉を鳴らしながら、呟いた。

「今のうちに・・・、消えろ」

ScreenShot_20130215_153626015.png

「・・・・・・・・・・・・」

 ミナスはその台詞に対して悲しげに顔を歪めて、近くのギルを振り仰いだ。

「ねえ。どうしたらいい?」
「何が正解って奴でもないさ。だけどここで戦うのが俺らの仕事だ」
(そしてこれ以上、バウルって奴に罪を重ねさせないようにするのも)

 ギルが口にしなかった事を、心中でアレクは続けた。
 しばし口を閉じて推移を見守っていた女性陣は、ギルやアレクの顔を眺めてため息をついてから、魔法を唱え始める。

「本気なの、皆・・・?名前があるんだよ?逃がしてくれるって言ったんだよ?」
「ミナス。月が出てやっこさんの理性が保てなくなれば、ゼンが殺される可能性もあるんだぞ」
「あっ・・・・・・」

 エディンが囁いた言葉に、ミナスは愕然となった。

「・・・相手を思いやる気持ちは大事だ。だがリーダーも言ったろう。仕事にベターはあっても、ベストなんてもんは滅多に起こるもんじゃねえんだ」
「他の誰かのために背負うって時も、あるのよ。度し難いものね」

 あまり彼の世話をし慣れていない繊手が、波打つ亜麻色の髪を撫でる。

「それともアンタ、ここで冒険者辞める?」
「・・・・・・そんなの、絶対嫌だ。僕は僕の出来る事をするよ」

2013/02/17 23:38 [edit]

category: 廃教会の地下

tb: --   cm: 0

Sun.

廃教会の地下 2  

「はい、森の奥にある廃教会です」

 翌日に宣言どおり教会を出発した一行は、貼り紙を出した主のいる村へと辿り着いていた。
 パリス・ワイメールという名前の依頼人は、若く美しい金髪碧眼の女性である。
 何でも父親が一代で財を成した成り上がりで、元々は冒険者だったという話だ。
 彼女は席に着いた”金狼の牙”たちを労わってから、おもむろに口を開いた。

「いつの頃からか、夜毎に教会の方角から怪物の唸り声が響くようになりまして・・・」
「実際の被害の程度はどんなもんで?」
「最初は村の男達を調査に向かわせましたが、誰一人帰ってきませんでした」

 ふむ、とエディンが唸る。

「次は貴方達の宿から来たテスカという方が調査に向かいましたが、やはり音沙汰がなく・・・」
「・・・・・・こういう村の依頼なら、テスカは断ったりしないでしょうしね」

 杖の髑髏を人差し指でなで上げながら、ジーニが口を出した。
 そこでパリスは、テスカのいた≪狼の隠れ家≫で多くの活躍――特に、教会関係の依頼を何度か成功させている――”金狼の牙”へ依頼をお願いすることにしたという。
 他に質問はないかというパリスの気遣いに、一同は色々と問いかけることにした。
 情報収集を疎かにしては、仕事の成功もおぼつかない。
 問題の廃教会は2年ほど前には神父が住んでいる、真っ当な聖北教会だったらしいが、場所が場所だけにいつの間にか無人になっていたという。

ScreenShot_20130215_143541484.png

「神父様が健在の頃は孤児院も兼ねていて、多くの子供達が居ました。今はどうしているのでしょう・・・」

 澄んだ湖のような目が、つかの間、哀れな子供達を思いやって潤んだのが印象的だった・・・・・・。

「珍しく、報酬上げてって言わなかったね」

 話合いが終わり、館から外に出て弾むような足取りをしていたミナスが、振り返って仲間に問いかけた。

「・・・なんか、バカにされそうな予感しかしなかったのよ。成り上がりの割に、生粋のお嬢様って感じしてたもの」
「ジーニのプライドの問題でしたか・・・。人助けが出来るのなら、私はかまいませんけどね」

 ギルが頭の後ろで手を組みながら言った。

「まあ、引き受けた依頼だ。上手くやろうぜ」

 ――そういう訳で、彼らは例の廃教会へと取って返した。
 ゼンは相変わらずそこにいた。
 宿無しだと名乗った割にこの教会には馴染んでいるようで、慣れた様子で家事を行っていたところを呼び止めると、青年は悲しそうな、しかし覚悟を決めていた顔で一同に向き直った。
 そうして地下に続くであろう撥ね上げ扉の前に陣取り、立ち憚っている。

ScreenShot_20130215_144819546.png

「地下室の鍵は僕が持っています。後は分かりますね?」

 自分をどうにかしなければ、絶対に地下には入れない――青年の頑なな主張に、エディンはむしろ面倒そうに息を吐いた。

「ジーニ、やれ」
「言うと思ったわよ」

 ジーニは杖を振り上げ、ごく初歩の呪文を唱えた。

「万能なる魔法の力よ、眠りを齎す雲を与えよ」
「――!?」

 ゼンが崩れ落ちるのを、そっとアレクが支えて寝かせてやった。

「・・・ずいぶんと乱暴だな、今回は。何か策があるのか?」
「策というかねえ。盗賊の勘っつっちゃいけねえだろうが・・・なんか嫌な予感がするんだよ」

 器用な長い指が、アレクの横たえた人物を探り鍵を取り出す。

「後味わりぃ依頼かもしれねえ。放棄するなら今のうちだが・・・どうするんだ、リーダー?」
「行かないで後悔するより、行って後悔する方が俺にとっちゃマシだね」
「なるほど、そう言う意見もあらぁな。アウロラ、ランタンは点いたか?」
「ええ、今できましたよ。どうぞ」

 渡されたランタンを掲げ、エディンが滑り込むように地下へ潜る。続けて、後の面子も順繰りに降りていった。
 潜った先は妙に長い廊下が続いている。
 途中で何度か折れ曲がったその廊下は、侵入者を排斥するようであった。

「なんだこりゃ・・・?本当に教会なのか?」

 ギルが珍しそうに見渡して言うのに、アウロラが首をすくめて言った。

「・・・たまにこういう造りの教会もあります。懲罰房や精神鍛錬部屋と称した地下室を作り、都合の悪い者を押し込めるわけです」
「教会の負の面、ってことか」
「・・・・・・孤児院を営むような教会だと聞いてたのですが、妙にそぐいませんね・・・」

 アウロラの脳裏に、ふと違う国で出会った子供狩りの領主の館が思い浮かんだ。
 あの、絶対中を覗くなとエディンが厳命した大きな釜のある部屋――ここは少し、あの重苦しい雰囲気に似ている。

「アウロラの話の通りだとすると、ここにある扉は懲罰房ってことか。どうする、開けてみるか?」
「・・・ひとつだけ開けてみない、エディン?怪物の手がかりとかがあるかも」

 それまで雰囲気に圧されて黙り込んでいたミナスが、意を決したように言う。
 エディンはその群を抜いた美貌をしげしげと見つめた後に、「後悔すんなよ」とだけ返してドアの罠と鍵を調べて開けた。
 覗きこんで彼は鼻を鳴らした。

「あー・・・。やっぱ開けなきゃ良かったかも」
「人骨・・・か?」

 アレクの言うとおり、人骨のようなものが鎖に繋がれている。動き出す気配はない。

ScreenShot_20130215_151147046.png
 
「場所が場所でなければ囚人に見えなくもないが・・・」

 エディンは危険はなさそうだと判断し、一同を先へと促した。

2013/02/17 23:33 [edit]

category: 廃教会の地下

tb: --   cm: 0

Sun.

廃教会の地下 1  

 依頼人は寂れた村に隠居する貴族。
 依頼の内容は森の奥深くにある廃教会の調査。
 報酬は銀貨1000枚。

 簡単な依頼のように見えるが、前にこの依頼を受けた冒険者は消息を絶っている。宿の親父さんは考えた末、2ヶ月前にも教会関係の仕事を成功させた”金狼の牙”を依頼人に推薦した。

「前に依頼を受けたのって誰だ?」

 のんびりと依頼の張り紙を見つめていたギルが、親父さんに質問した。
 二人をよそに、他の面子はこないだ要港都市ベルサレッジで請けていた依頼がいかに厳しかったかを思い出して騒いでいる。

「まだ駆け出しだった頃にもフォーチュン=ベルで海賊退治はやったけどよ。ベルサレッジのやつら、滅茶苦茶強かったな」
「回復役を叩こうとして聖職者らしき人を集中砲火したら、吟遊詩人が回復メインとか・・・。詐欺です」
「口を塞ごうと思ってナパイアス呼んだけど、なかなかルーンマスター(魔法を扱う者)に飛ばなくて。制御しきれなくてごめんね」
「その依頼の次は火竜退治だったな。・・・・・・正直、カナンの鎧とミナスのセンスオーラがないとやばかった」
「アンタの懐で、トール溶けかけてたじゃないの。可愛そうに」
「時々、荷物袋であの魔剣に触らせてやってたぞ?」
「・・・・・・いや、俺今思ったんだけど。アレクがあの剣で戦った方が早かったんじゃねえ?」

 ワイワイがやがやと話題が尽きる事のないような彼らを背景に、親父さんの太い眉がぎゅっと八の字に窄まり、ギルの質問に答えた。

「・・・・・・テスカだ」

 実力は”金狼の牙”と同等か、少し下くらい。
 一攫千金の甘い夢よりも地道に稼ごう――そういう人だったので、普通の冒険者がなかなか見向きもしないような調査依頼でも丁寧に応対することで、依頼人からの評判はすこぶる良い。
 事実、新米の中の何人かは、テスカの持つ交渉力に色々と学ばせて貰った者も多い。
 ただ、そういった細やかな性格をしている人物なので、消息を絶ったまま依頼人にも宿にも何の連絡も寄越さないというのが、どれだけ異常な事態かは明らかだった。

「生きてるなら、ヘッドロックかけながら連れて帰ってくるよ」
「ああ。頼んだぜ、ギル」

 あえて二人とも口にしなかったが、生きてなかった場合は――状況によるだろう。
 時間をかけていられないかもしれないと、さっそく彼らは宿を出発し、一路依頼人が居る村へと向かった。
 途中、とある山に差し掛かった頃、急に鈍色の雲が今まで燦々と日の光を降りそそいでいた空に登場し、広がり始める。

「まずい、降ってきたぞ!」
「ついていませんね!」

 リーダーが走り始めたのを追って、アウロラが応える。
 雨脚が強まる中、冒険者たちは雨を凌げる場所を求めて彷徨い続けた。そして・・・・・・。

「仮にも冒険者なら山の天気が崩れやすいのはよく知っているでしょうに」
「ええ、まあね」
「急ぎの用事なんですか?」

ScreenShot_20130215_134727859.png

 ゼン、と名乗った黒髪の青年は、濡れ鼠の”金狼の牙”たちに手ぬぐいを渡しながら訊ねる。
 古い暖炉には火が入っていた。

「急ぎの依頼ではありません。ただ・・・」

 アウロラはいささか口篭った。果たしてどこまでこの青年に伝えたものか。

「前にこの依頼を受けて帰ってこなくなった仲間が気になって仕方ないのです」
「依頼って・・・この無人の教会の調査ですか?」

 雨に濡れた白銀の前髪を鬱陶しそうに跳ね上げ、アレクは小さく同意した。

「依頼人には会ってないが、たぶんそうだと思う」
「断った方がいいですよ」

 青年の声は硬い。

「何故?」

 一同を代表してアレクが問う。

「前に同じ依頼を受けた冒険者が居ます。テスカさんという人で宿無しの僕にも親切にしてくれる良い方でした。でも、今は・・・」
「テスカを知ってるの!」

 鋭く鞭打つようなジーニの声音であった。
 ”金狼の牙”が結成される前に、2度ほどテスカに協力した事があるのだ。
 ゼンは黙って立ち上がると、冒険者たちを教会の裏手へ案内した。

「テスカ・・・」
「すみません。何分、お金のない身なのでこんな粗末な墓に・・・」

 細い枝を組み合わせた聖北の徴が、地面に深く突き刺さっている。
 降り止まない水滴が、その墓すら侵すようにじっとり色を変えていた。
 一同は変わり果てたテスカの姿に各々の祈りを捧げる。
 アウロラの旋律のような聖句が、雨音を縫うようにテスカの冥福を祈った。

「気持ちは変わらないと?」

 部屋に戻った一行をじっとゼンが見つめた。
 居心地悪そうにギルが肩をすくめる。

ScreenShot_20130215_140029031.png

「この教会の地下にどんな化け物がいるか知らないが、退く訳にはいかない」
「そうですか。でも、僕の気持ちも変わりませんよ」

 青年の凡庸といっていい顔が、並々ならぬ決意を込めて引き締まる。

「貴方達のような良い人がこんなところで死ぬべきじゃない。その時が来たら、全力で貴方達を止めます」
(こいつ・・・一体、何を隠してやがる?)

 エディンは眠たげな目を細めてゼンを見やった。明らかに彼は、化け物のことを知っている。
 拷問して吐かせるという手もあるが、同じ釜の飯を食べた仲間を弔ってくれた相手に、そこまで非道な真似に走るのも躊躇われる。
 もっとも、この青年がテスカを殺めたり、嵌めたのでなければの話だが。

ScreenShot_20130215_140346843.png

「・・・・・・・・・・・・」

 アレクは困ったような顔で仲間を見渡した。
 幾分か甘い気質のある彼では、これ以上はゼンを説得できないと助けを求めているのである。

「・・・・・・ま、何にしろ雨宿りさせてくれてありがとよ。今日は一晩ここで過ごして、明日の朝になったら俺らは目的地まで行く・・・それでいいな?」

 その場を取り繕うかのような大人のエディンの台詞に、どこか救われた顔で一同は頷いた。
 ゼンの鬼気迫るような雰囲気が、”金狼の牙”たちから常の無駄なまでの賑やかさを奪ってしまったかのようだった。

2013/02/17 23:29 [edit]

category: 廃教会の地下

tb: --   cm: 0

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top