月下美人 1
某日、≪狼の隠れ家≫にて――。
深夜の事だった。
ギルとアレクは眠れず、二人で会話していた。
「戻って一番びっくりしたのは、ウェイトレスが増えてたことだよ。エセルだっけ?」
「だってよー。他に紹介できそうなとこがなかったんだもん。そういうアレクこそ、トールから話聞いたぜ?」
「大したことはしてないだろ?」
「なーにが大したことしてないだよ!死に掛けたって!?」
「あー・・・。うん、まあそうだな・・・」
「何やってんだよ、ほんと!?今酒飲んで大丈夫なのか?」
「平気だよ、魔法の品物のおかげでな。スケープドールっていうんだが・・・・・・」

今日あった事や、この間請けた依頼。
様々な話を肴に、二人は時間を潰していた。――しかし、話せば話すほど、話の種は尽きるもの。
二人は遂に無言になってしまった。
――――そんなとき、ギルがこう切り出した。
「――そうだ。折角だから、こんな話をしてみるかね」
何の事だ、とアレクが首をかしげていると、ギルは小さく笑って手の中の杯をカウンターに戻した。
「月下美人っつー、何とも綺麗で幻想的な花があるんだわ」
「ほう・・・・・・」
「その花は、ある一夜に咲いて、いい匂いを辺りに広げて・・・・・・ちぃと表現難しいが、とにかく綺麗な花なんだ」
「・・・ほぉ。そりゃ見てみたいものだな」
・・・と、ギルの目線に、一輪の白い花が目に入った。
「あ・・・。あの花だ。・・・なんでここにあるんだ・・・」
宿の親父さんか娘さんかが仕入れたのか、はたまた貰ったのか、その花は宿の片隅に飾られていた。
月光を浴び、ひときわ美しく、幻想的な光を放っており、暫しギルたちは魅入っていた。

「・・・コイツが月下美人だ」
「これが・・・。見事だな・・・」
二人は黙ってその月色の花を見守っていたが――。
「あっ」
途端、ギルが小さく叫んだ。
月下美人が、しぼんでしまった・・・・・・。
「しぼんじまった・・・」
「そんなに気を落とすなよ。・・・綺麗だったな」
「うん。・・・外の風にでも当たりに行くか。綺麗といえば、月も星も見えンぞ」
「・・・そうだな」
ギイィ・・・・・・と微かにドアへ軋みをあげさせて、二人は外に出た。
夜色の天幕に、恐ろしいほど冴え渡った星の光が瞬いている。
容赦ない夜風が、二人の体から体温を奪っていく。
「・・・はぁ」
ギルがため息を吐いた。
そのため息は、美しいものを見たときの感動のため息であろう。
職業柄、ゆっくりと星を見る機会が少ないギルたちにとっては、とても貴重な体験とも言えよう。
ふと、ギルの無邪気な黒瞳が空の一部を捕らえた。
「あっ・・・流れ星・・・」
アレクは流れ星の姿を確認するやいなや、二言三言、何か呟いた。
「・・・何か願い事でもしたのか?」

「・・・お前や仲間、みんな揃って冒険しつづけることだ・・・」
「・・・お前らしいな」
そんな事を言いながら、ギルはアレクの顔を見て微笑んだ。
それはひどく難しい事だった――とかく、冒険者のパーティにおいて問題となるのは年代差である。
老練な人材は、その分だけ年を重ねれば冒険の旅に体がついていかなくなるし、人間でない種族の中には、想像もつかないほど長い寿命の者もいる。
”金狼の牙”においてはミナスがそれに該当する。エルフは千年も、時には数万年も生きるものがいると噂される。
今でこそ、彼らは揃って冒険を続けていけるが、これが数十年も経てば・・・・・・それも承知していて、なおギルは微笑んだのである。
「・・・もう少し、見ておくか」
言葉少ななアレクであるが、ギルは正確に彼の言いたい事を汲んだ。
星を、であろう。
「そうだな・・・」

――――何時の間にか、太陽が顔を出していた・・・。
その姿をずっと見守っていたのは――宿の中にある、再び花びらを開かせた月下美人だけであった――。
※収入0sp※
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
38回目のお仕事は、水野鷹人さんのシナリオで月下美人です。このタイミングでなければ、幼馴染たちをしみじみ会話させるという事が出来そうになかったので選びました。
実は私、水野鷹人さんのシナリオをプレイしたのはこの作品が初めてでした。
月下美人の綺麗な背景と素敵なBGM、プレイヤーにも刹那的なその美が伝わるよう書かれた文章も素敵で・・・しかもこれ、親友同士設定と恋人設定の2種類から選べるんですね。
うちは当然、親友設定でした。(笑)
この方のSSも大変面白く、時間があるときに拝見させていただいてます。
次回は、シナリオ同士はクロスオーバーしていないのですが、この翌日にあたる時間軸から、最後(また状況によってはやるかもしれませんが)のソロプレイシナリオをやろうと思います。
主人公は・・・6レベルのまま置いてかれてるミナスです。レベルは低くても英明型だから、基本スペックは他の面子より高いんですけどね、彼。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
深夜の事だった。
ギルとアレクは眠れず、二人で会話していた。
「戻って一番びっくりしたのは、ウェイトレスが増えてたことだよ。エセルだっけ?」
「だってよー。他に紹介できそうなとこがなかったんだもん。そういうアレクこそ、トールから話聞いたぜ?」
「大したことはしてないだろ?」
「なーにが大したことしてないだよ!死に掛けたって!?」
「あー・・・。うん、まあそうだな・・・」
「何やってんだよ、ほんと!?今酒飲んで大丈夫なのか?」
「平気だよ、魔法の品物のおかげでな。スケープドールっていうんだが・・・・・・」

今日あった事や、この間請けた依頼。
様々な話を肴に、二人は時間を潰していた。――しかし、話せば話すほど、話の種は尽きるもの。
二人は遂に無言になってしまった。
――――そんなとき、ギルがこう切り出した。
「――そうだ。折角だから、こんな話をしてみるかね」
何の事だ、とアレクが首をかしげていると、ギルは小さく笑って手の中の杯をカウンターに戻した。
「月下美人っつー、何とも綺麗で幻想的な花があるんだわ」
「ほう・・・・・・」
「その花は、ある一夜に咲いて、いい匂いを辺りに広げて・・・・・・ちぃと表現難しいが、とにかく綺麗な花なんだ」
「・・・ほぉ。そりゃ見てみたいものだな」
・・・と、ギルの目線に、一輪の白い花が目に入った。
「あ・・・。あの花だ。・・・なんでここにあるんだ・・・」
宿の親父さんか娘さんかが仕入れたのか、はたまた貰ったのか、その花は宿の片隅に飾られていた。
月光を浴び、ひときわ美しく、幻想的な光を放っており、暫しギルたちは魅入っていた。

「・・・コイツが月下美人だ」
「これが・・・。見事だな・・・」
二人は黙ってその月色の花を見守っていたが――。
「あっ」
途端、ギルが小さく叫んだ。
月下美人が、しぼんでしまった・・・・・・。
「しぼんじまった・・・」
「そんなに気を落とすなよ。・・・綺麗だったな」
「うん。・・・外の風にでも当たりに行くか。綺麗といえば、月も星も見えンぞ」
「・・・そうだな」
ギイィ・・・・・・と微かにドアへ軋みをあげさせて、二人は外に出た。
夜色の天幕に、恐ろしいほど冴え渡った星の光が瞬いている。
容赦ない夜風が、二人の体から体温を奪っていく。
「・・・はぁ」
ギルがため息を吐いた。
そのため息は、美しいものを見たときの感動のため息であろう。
職業柄、ゆっくりと星を見る機会が少ないギルたちにとっては、とても貴重な体験とも言えよう。
ふと、ギルの無邪気な黒瞳が空の一部を捕らえた。
「あっ・・・流れ星・・・」
アレクは流れ星の姿を確認するやいなや、二言三言、何か呟いた。
「・・・何か願い事でもしたのか?」

「・・・お前や仲間、みんな揃って冒険しつづけることだ・・・」
「・・・お前らしいな」
そんな事を言いながら、ギルはアレクの顔を見て微笑んだ。
それはひどく難しい事だった――とかく、冒険者のパーティにおいて問題となるのは年代差である。
老練な人材は、その分だけ年を重ねれば冒険の旅に体がついていかなくなるし、人間でない種族の中には、想像もつかないほど長い寿命の者もいる。
”金狼の牙”においてはミナスがそれに該当する。エルフは千年も、時には数万年も生きるものがいると噂される。
今でこそ、彼らは揃って冒険を続けていけるが、これが数十年も経てば・・・・・・それも承知していて、なおギルは微笑んだのである。
「・・・もう少し、見ておくか」
言葉少ななアレクであるが、ギルは正確に彼の言いたい事を汲んだ。
星を、であろう。
「そうだな・・・」

――――何時の間にか、太陽が顔を出していた・・・。
その姿をずっと見守っていたのは――宿の中にある、再び花びらを開かせた月下美人だけであった――。
※収入0sp※
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■後書きまたは言い訳
38回目のお仕事は、水野鷹人さんのシナリオで月下美人です。このタイミングでなければ、幼馴染たちをしみじみ会話させるという事が出来そうになかったので選びました。
実は私、水野鷹人さんのシナリオをプレイしたのはこの作品が初めてでした。
月下美人の綺麗な背景と素敵なBGM、プレイヤーにも刹那的なその美が伝わるよう書かれた文章も素敵で・・・しかもこれ、親友同士設定と恋人設定の2種類から選べるんですね。
うちは当然、親友設定でした。(笑)
この方のSSも大変面白く、時間があるときに拝見させていただいてます。
次回は、シナリオ同士はクロスオーバーしていないのですが、この翌日にあたる時間軸から、最後(また状況によってはやるかもしれませんが)のソロプレイシナリオをやろうと思います。
主人公は・・・6レベルのまま置いてかれてるミナスです。レベルは低くても英明型だから、基本スペックは他の面子より高いんですけどね、彼。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。