Tue.

少年老いず瞳ばかりが 2  

 痛みに耐えるような表情をしていない青年に、ゆっくりとミナスは歩み寄った。

「・・・君は、誰?」
「呼ぶ必要があるならば、シエテ(7番目)。他には、何もない。何もないというが存在する、つまり非存在の一端に過ぎない・・・」

ScreenShot_20130201_192751125.png

 ミナスは静かに青年の紫陽花色の瞳を見つめ返した。そこには、本当に苦痛というものが見られない。
 冒険者として見れば少し頼りない体格をしており、至って普通の容姿である。
 返り血を体内に残っているナパイアスの水で洗った時、青年の乾いた口が動いた。

「あなたは、子供のまま・・・」

 見慣れているものなのに、白いシャツにべっとりと跳ねかかった血液がいやに目に付いて仕方なかった。
 ・・・いや、血に満ちた日々だからこそ、夢の中でくらいは潔癖でいたいのかも知れない。
 ミナスはナパイアスが生み出した水をシエテにもかける。
 白いシャツにはねた血液は少し滲んだが、頬についた返り血はいくら擦っても落ちない。
 頬を擦るミナスの手を、緩慢な動作でシエテが掴んだ。
 その時、じゃらりと音がした。

(鎖・・・・・・?)

 彼の左手首からだけではない、ミナス自身の右手首からも繊細な鎖が伸びている。
 鎖の先は、歩けども歩けども辿り着くことのない霧の彼方へと続いている。

「あなたの手は、熱い」
「シエテ。もしかして、君はあの城からついてきた亡霊の――」

 言いかけて、ミナスは口を閉じた。まずはこの不愉快な鎖を断つほうが先だ。
 大事な≪森羅の杖≫を鎖を千切るのに使っては、どれほど硬い古木で出来ているとはいえ折れてしまうかもしれない。
 ミナスはスネグーロチカを呼び出し鎖を断つように頼んでみたが、とても繊細そうに見えるシエテの鎖は、鋭い氷片をもってしても傷もつかない。
 精霊の力で冷え切った小さな手を暖めるように、温度のないシエテの両手が包んだ。
 ミナスは自分の右腕から伸びる無骨な鎖を見る。普通に考えれば、到底不可能なことだが・・・・・・。

 ぐぎゃり。

 ミナスの鎖は、見事にシエテの鎖を断った。
 隠れ里を出る前、最後にオオバコ相撲をしたのはいつのことだったろうか。ミナスは故郷が焼かれる前の日々に思いをはせた。

「あ・・・」

 シエテはどうすべきか解らないと言わんばかりにミナスを見た。

「一緒に行こう。君は一度、あの城の地下で死んだ。でも、今度は大丈夫。僕の仲間たちは君を傷つけない!」

 ミナスは彼の手を引いて、目覚める・・・・・・!!

 ・・・目が覚めた。
 場所はもちろん眠った場所、自分の部屋だ。まだ日は昇っていない。
 ミナスはふと、右手に何か絡んでいることに気づいた。
 温度がないからまるで物のように感じたが・・・。
 自分よりひとまわり大きい・・・しかし不均衡な手で、その先には当然だが身体が繋がっている。
 今度は返り血のついていないシエテが、隣で消え入りそうなくらいささやかな寝息を立てていた。

「ほ、本当に連れて来れたんだ・・・!」
「ん。・・・ん」

ScreenShot_20130201_200805390.png

「・・・おはよう。気分はどう?」
「・・・悪くは、ないです。でも、何だか身体が重い・・・」
「あんな無茶な剣の使い方をするからさ」
「・・・そう、ですね」

 シエテは自分の左手首を見た。そこに鎖はない。
 もっとも、切れていないはずのミナスの鎖もここでは見えないのだが。
 そんなシエテの様子を見ていたミナスは、そっと優しく抱きしめた。
 怯えられた様子がないのを確かめてから、ゆっくりその胸に耳を当てる。
 控えめな心音をどうにか聞きあてて、少し安心した。

「僕は、ミナス。呼ぶ必要があるならミナスだよ・・・」
「・・・ミナス」

 貧しい小村から子供を黒魔術の生贄に捧げていた領主がいた。
 その子供の亡霊とは城の中で一戦を交えていたが、ミナスたちは強制的に存在を消去してしまった。
 アウロラはその際に言っていたではないか・・・・・・そういう魂は上手く成仏できないのだと。
 シエテは恐らく7番目の子供。夢の中の住人という一種の非存在になった彼を、この現実に呼び込んでしまったのは、ジーニやエディン辺りが聞いたら「甘い!」と叱られそうな感情の為だったが。
 身分も何もない、ミナスしか寄る辺のないシエテはおそらく冒険者になるだろう。・・・それもまた幸福だろうか?

「生きていく術・・・全部教えてあげるね」

 ミナスとて、寄る辺ない立場になってから冒険者となり、かけがえない仲間を得ることが出来た。そして彼らから生きる術を学んだ。
 シエテにそれが出来ないなんて、誰が言えるだろう?

※収入0sp※

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■後書きまたは言い訳
35回目のお仕事は、基 終一さんのシナリオで少年老いず瞳ばかりがです。
先に謝ります。柚子さん、基 終一さんすいませんでした。

えー、今回のシナリオですが、全く「子供狩り」とは関係ありません。
じゃ、どうしてこんなリプレイになったのかというと・・・。先のシナリオにおいて、【亡霊の哀哭】というスキルがもらえました。・・・これ、もらえたという事は、どう考えても子供の亡霊、成仏してませんよね・・・?”金狼の牙”としては、ものすごく心に引っかかる出来事だと思います。まず、これをどこかで不完全でもいいから昇華させたかった。

それから・・・プレイしておいてなんなんですが、私、この「少年老いず瞳ばかりが」の物語がさっぱり分からなかったのですね。
シエテがスペイン語で7を示すのはわかったけど、何の順番?そもそも、この子どうして子供PCの夢に出てこようと思ったの?攻撃しておいて、反撃されたら無抵抗っていいの?とか色々腑に落ちない・・・。この作品をおつくりになられた作者さんのHPは既にないので、全て想像するしかありませんでした。

で、この二つの要素を抱えたまま悶々としていたら・・・「あれ?これ、私がちょっと頑張って繋いだら繋がっちゃうんじゃね?子供狩りで成仏できなかった子供が結局憑いてきてて、心を持たない青年として夢に出てきて暴れるんだけど、結局ミナスが救っちゃう話とかにできるんじゃね?」と思ったのです。
そんなわけで、今回のリプレイに相成りました。二つのシナリオの作者さんや、シナリオをプレイされたご経験がある方でご不快に思われた方がいたらすいません。
だって繋げられちゃったんだもん。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/02/05 20:07 [edit]

category: 少年老いず瞳ばかりが

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Tue.

少年老いず瞳ばかりが 1  

 ふとミナスは昔の事を思い出した。
 冒険者を始めたばかりの頃――そう、エルフの隠れ里が対立していたダークエルフの手によって焼き討ちに遭い、命からがら逃げてリューンまで辿り着いたとき――あれに比べれば、ずいぶん余裕ができたものだ。
 あの日のミナスは、まだ幼い子供だった。

 しかし今のミナスもまた・・・子供であった。

 ミナスは不思議な空間に立っていた。
 ・・・とは言っても、不思議なくらいが自然だ。
 ミナスは眠っていて、ここは夢の中なのだから。

 足元は浅いが、ずっと同じ場所に立っていたらどこまでも沈みこんでしまいそうな沼。
 ミナスの左足のすぐ横には・・・息絶えたウィードが浮かんでいる。
 まだあまり時間は経っていないようだ。

「・・・どうしてこんな所に、ウィードが・・・?」

 小首を傾げながら周囲を見渡してみると、死体はひとつではない。
 ゴブリンや、オーガや、何故かバジリスクのものまである。生態系などまるで無視だ。
 ・・・ミナスの深層心理だろうか?

(これ・・・・・・違う、知らない所じゃない。ここは隠れ里の沼、ケルピーが宿っているから注意しろって言われたのに、僕が言うこときかないで遊んで溺れたところだ・・・)

 ミナスの視線が、不安げに揺れる。

(じゃあ、ここ・・・・・・隠れ里?戻ってきた?)

 周囲を見渡してみると・・・。
 数匹の召喚獣を従えた、返り血にまみれた青年がぽつんと立っていた。
 この囲われた世界の殺戮者がミナス自身ではなかったことに、少しだけ安堵を覚えている。

(・・・なんで僕、そんな理由でほっとしたの?)

 己の心理を掴みかねながらも、ミナスはじっと青年を観察した。

 それにしても、何てたどたどしい剣の持ち方をしているのだろう。
 あれでは、明日には腕が痛くなってしまう。
 ミナスの視線の行き先に気付いたのか、何もない紫陽花色の瞳がミナスを捉えた。

(・・・怖い)

 この辺りに落ちているものと、同じようにされるのだろうか?

 しかしここは夢の中。
 目が覚めて、昨日の宴会で疲労したミナスの身体を少し回復し損ねるくらいかも知れない。

 青年が不意にこちらへ一歩踏み出した。
 その、青年の影が不自然に歪んで――――。

(――!!影に精霊が潜んでる!!来る!)

 ミナスは華奢な腕で咄嗟に≪森羅の杖≫を構えた。
 精霊の加護を受けた古い樹木の杖・・・・・・。精霊使いとしてエルフとして、これほど頼りになる相棒はいない。
 その構えた杖ごと、ノームの力強い腕が叩く。
 重すぎる一撃に、思わずミナスは3mほど後ろにすっ飛ばされた。

「くっ・・・・・・!出でよ、渓流の魔精ナパイアス!」

 ミナスの身体をたちまち沼とは違う清水が覆い、青年へ鋭い水の槍が突き刺さる。
 青年は何も言わない、悲鳴も上げないという異様さで、自分の白い衣服に飛んだ赤い色を見つめている。

ScreenShot_20130201_192657968.png

 やがてそれに飽きたかのように、視線を上げるとまたノームを使役して、攻撃をこちらへと誘導してきた。

「がっ・・・!は・・・・・・」

 年よりも小柄な身体が、吹っ飛ばされて柔らかい沼の泥土に落ちる。
 ミナスの薄紅色の頬についてしまった泥を、召喚されたナパイアスが気の毒そうに撫でた。
 そして、そのまま青年をギラリと鋭く睨みつけ、一気に激流で彼を押しつぶそうとする。

『好かない小僧だ、ミナスやっちまいな!』
「イフリート、火の精霊王よ!汝が息吹の一部をここに!」

 ミナスの手から、【炎の玉】と見紛うばかりの大きな火球が飛び出す。
 赤々と燃える火球は、あっという間に青年の身体を押し包んだ。

 青年が、体の限界に達してがくんと膝をつく。彼に組していた召喚獣たちがばらばらと逃げていく・・・。

(どういうこと・・・?正式な契約でないの?)

 正式な【精霊術師の徴】を持つ者がいれば、よほど適正に相反するような精霊でなければ、黙っていても寄って来るのが普通だ。
 青年のように召喚した精霊たちが逃げ出す、なんてことはあり得ない。
 ましてや、ここは×××とはいえ、ほとんどの者が精霊を扱う隠れ里の一部なのだ。

(×××・・・・・・・・・そうだ、ここは、夢、の中・・・・・・)

 どうやら戦意は喪失したようだ・・・いや、元々そんなものは存在しなかったのかもしれない。
 意識と喋れるだけの体力を残して相手を伸すのは、あなたには――ミナスには、そう難しい芸当ではなかった。
 聞こえは悪いが、冒険者には必要なスキルだ。

 もちろん相手によっては止めをさしておかなければ危ないが、この青年は自分に対して殺意があるようには見えないのだ。
 手加減せず自分を殺そうとしていたのは間違いないが、しかし殺意はない。

 ・・・矛盾しているが所詮夢の中である。
 この青年はミナスの安眠を妨げたかっただけなのではないかとさえ、思える。

2013/02/05 19:41 [edit]

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