Tue.

雪山の巨人 4  

 火の粉の爆ぜる音がする・・・・・・・・・。
 暖かさに包まれている――火花の散る心地よいリズム音を目覚ましにアレクは目を開いた。

「う・・・うん・・・???」
「良かった。もう大丈夫そうだね」

 軽く頭を振り、現状の把握を始めるアレクの背中をミナスが支えた。

「ここは?」
「精霊たちによると、ヒララギ山中にある大洞窟の中・・・みたい」

 なるほど、凍てつく風も入って来ない。洞窟の中、焚き火が明々と燃えている。

「アレクが守ってくれたお陰で、僕が一番初めに気が付いたんだよ」
「他の皆は?」
「そこに並んでるよ。まだ気を失ってるけれど、致命傷はないっぽい。そのうち目を覚ますんじゃないかな」

 ミナスは悪戯っぽく微笑んで、一点を指さした。

「ダレイドさんもこのとおりさ」

 皆、傷は癒えていない様子ではあるが重体というわけでもなさそうだ。
 ミナスによるとリース達も生きており、縄で縛り付けておいたらしい。
 あの雪崩の中を揃って生き延びるとはなんという悪運。いや生き運か。刹那、安堵したものの・・・。

「っ、後ろ!」

 フロスト・ジャイアントの見覚えある姿がミナスの背後に現れ、アレクは即座に抜刀して構えた。
 しかしミナスは警戒することなく立ち振る舞っている。

「ああ、薪を取って来てくれたんだよ」

 むしろ勝手しったる仲とでも言えそうな・・・これはどういうことだろう?
 ミナスは静かに語り始めた。
 雪に埋もれた冒険者達を掘り出し、洞窟まで運んでくれたのはこのフロストだったのだ。

「目が覚めたらフロストに抱えられていたの。ビックリしたけど、温厚な奴で助かったよ」

 恐るべきは子どもの順応性といったところか、けらけらとミナスは笑った。

「そうか。言葉は通じないだろうが・・・ありがとう」
「うぉー。うぉうぉうぉっ、うぉうぉうぉうぉ」
「ん?喜んでるみたい」
「言葉が解るのか?」
「ううん、せいぜい身振り手振りで簡単なことが通じるだけ。それでもなんとなく言いたい事は分かるから、こいつ賢いよ」

 2人の会話が興味深いらしい。顔を見比べては楽しそうに身体を揺する。

「フロストは、しきりに何かを伝えたがっているんだ。でも細かい話らしくて、さっぱり分かんない」

 しきりにダレイドを指差している、とミナスが説明し、アレクは首を傾げた。
 ダレイドの父親はフロストが殺したと聞いているが、この温厚なフロストがそんな凶事を起こすようには見えない。
 誤解ではないだろうかと二人が結論を出し、頭を捻ってるうちに――。
 フロストは洞窟の奥へせっせと歩いて行ってしまったが、すぐさま何かを握りしめてせかせかと戻ってきた。
 彼あるいは彼女が持ってきたのは、古ぼけた一通の手紙だった。

ScreenShot_20130126_035740171.png

 躊躇う様子も無くミナスが受け取り、それを広げる。

「何と書いてあるんだ?」
「ええと・・・」

 インクが滲んでただの染みになっていた箇所もいくつかあったが、何とか前後の文脈から類推して当てはめ読んでいく。
 それによると、この手紙を書き記したのはレベイド――ダレイドの父らしい人物だった。
 癒し手である彼は、薬草採集の際にリース一味に尾行され、貴重なオルウェン草の苗を取られてしまうこととなった。
 それに憤慨して抗議した彼は、逆上した一味から瀕死の重傷を負わされ、フロストに辛うじて救われたらしい。
 そしてこのフロストが温厚で賢い事に賭け、自分をあの雪崩が起きた峠――オルウェン村の近くまで運ぶよう頼んだというのだ。

『今、私は深手を負っている。』
『洞窟から出て、果たしてどこまで体力が持つかは疑問だ。しかしこのフロストに賭けるしかない。』
『もう一度会いたい、ダレイド、レベッカ』

 記述は、そこで終わっていた。

「フロストはこの手紙を・・・届けようとして、下山する間中ついてきていたのだろうな」

 アレクはふっと微笑む。
 二人が手紙から読み取った事で盛り上がっている中、ダレイドが目を覚ました。

「ううっ・・・私は雪崩に飲まれて・・・ここは・・・一体?」

 目を覚ました彼が最初に見たものは・・・フロストであった。
 暖かい焚き火が火の粉を爆ぜる。しかし、空気は凍りつく。
 アレクとミナスは、そこで漸く彼らの依頼人が目を覚ましたことに気付いた。

「こいつ・・・っ!!!」

 今やダレイドにはフロストの姿しか目に入らないようだ。
 あろうことか彼は腰に差していた鉈に手を伸ばし、フロストに斬りかかって行った!

「いけない・・・っっ!!!」

 アレクが叫んで、鋭く≪黙示録の剣≫でもって鉈の柄を撃ち、跳ね飛ばす。
 唯一の武器がなくなった事に衝撃を受けるダレイド。だがしかし、それにより若干周囲を見回す余裕が出来た様だ。

「こっ・・・この状況は一体・・・!?皆さんも何をしているのですか!」

 ミナスが手紙を読ませようと宥めるも、それに激昂した彼はフロストに指を突きつけて叫ぶ。

「目の前にフロストがいるのに、何の話があるというのだ!依頼人として君らに命ずる!こいつをぶちのめせ!!」
「いいえ、梃子でも動きません。その願いが、向ける相手を違えている限り」
「何だと!?」

 彼は素手のままフロストに飛び掛った。
 だが圧倒的な体格差の前、自身がぶつかった反動だけで勝手にダレイドが転んでしまった。

「うわっ!」
「うぉぉー・・・ん・・・」

 フロストはただ、悲しそうな声をあげるばかりである。哀れんだミナスが近寄り、彼の足を撫でた。

「何故だ・・・なぜ反撃しないんだ!そんな目で私を見るな!!お前は父の仇なんだろう・・・父の・・・」

 そこから先は声にならず、ダレイドは嗚咽とともに崩れ落ちる。彼が平静を取り戻すまでもう暫く時間が必要だった。
 それほどまでに彼の悲しみは深く、家族を思う気持ちも深かったのだろう。
 慟哭を終わらせ、何もかもを受け入れる表情になったダレイドに、アレクとミナスは明らかになった事情を説明した。
 驚く依頼人にインクの滲んだ手紙を握らせると、彼は貪るように何度も手紙を読み返した。
 彼はただ一粒の涙を零した。

「ん・・・?手紙を結んでいる紐に何か巻きつけてある・・・」

 それは茶色く硬い、小さな種子であった。

「これは・・・!去年から採れなくなっていたオルウェン草の種子じゃないか!」
「良かったね、ダレイドさん!!」

 ミナスが種子を握り締めるダレイドの手に、自分の小さな手を重ねて喜んだ。

 翌日。
 冒険者達とダレイドは、洞窟のフロストに別れを告げ下山した。
 ダレイドはすっかり穏やかな顔つきになってフロストを見上げ、謝罪と別れを口にした。
 リース一味はエディンがギルド式にきつく縛り、武器で脅しながら歩かせた。
 連れ帰ったリース達は、ダレイドの父レベイドの遺した手紙からその悪事が明るみとなり、村の懲罰房に押し込められることとなる。
 幾日かすれば、彼らは街の治安隊によって留置所へ護送されることだろう。

「やれやれ、今回はちょーっとハードだったわね」
「まさか雪崩に飲まれるとはな」
「ほんと、大自然は凄いよなあ。あっはっは」
「「ギルは何でそんなに元気なままなの(なんだ)」」

 筋肉痛で軋む身体をゆっくり動かしながら、大人コンビが恨めしげにギルを睨んだ。
 ここはダレイドの家。
 家主は、冒険者達への依頼料を出しに奥へ行ったところだった。
 本当の父の仇をとり、妹を救う為の薬草も確保、そして稀少なオルウェンの種子まで手にしたダレイドは、これからきっと大忙しになるのであろう。村の癒し手は彼だけだというから。
 700spの約束だった報酬を1000spにして差し出してきたダレイドの顔は、しかしかなり晴れやかである。

「私の感謝の気持ちです。受け取って下さい」
「少し・・・予定より多いんじゃない?」
「どうか、何も言わずに受け取ってやってください」

 小さな身体で懸命にフロストを庇っていた少年に、ダレイドは微笑みかけた。

「今回は皆さんに依頼できてよかったと思っています。・・・ありがとうございました」

 依頼の途中で意見を異にしたこともあったが、彼はやはり親父さんのお墨付きをもらうだけの人物であった。
 きっと、彼の父親にも勝る立派な癒し手になってくれるだろう・・・・・・”金狼の牙”たちはそう確信している。
 数日後、妹のレベッカの病が癒えたのを機に、冒険者達はリューンへの帰途についた。
 馬車の幌から顔を出して、すでに遠くなりつつあるヒララギ山を見やるミナスの口には、ダレイドと同じ微笑が刻まれていた。

※収入1000sp、【雪精トール】※

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■後書きまたは言い訳
31回目のお仕事は、原案:ヒラメさん、原作とシナリオ制作:ハチミツさん、シナリオ演出と脚色:小柴さんのお三方でお作りになった雪山の巨人です。ウィルダネスとはちょっと違いますが、雪の野山を駆け回る冒険者たちの物語。

今回やりたかった事は、「アレクに精霊との縁を作ろう」でした。以前にも、階下に潜むモノ翡翠の海などで精霊との接触がありましたので、そろそろ精霊使いに対するコンプレックス(=父へのコンプレックス)を昇華できるのではないだろうか、と思っていたのです。しかし、いい加減な作者の特徴づけのせいで、アレクに中々適正のある精霊がいません・・・こりゃダメかなあと諦めかけた時。
ありました・・・適正:筋力/大胆の精霊が。それがこちらに出てきた雪精トールでした。ともすれば特徴通り地味~で発言が埋もれがちなアレクに、快活でぴったりな相棒ができて嬉しい限り。

このシナリオ、どのように台詞分岐を当てられているのかエディタを見ていないのですが、こちらが意図していた設定にぴたりと当てはまる事が多くて、プレイしていてとても爽快でした。
上記の雪精トールは、アレクに対してやり取りをして憑いてきてくれたり。密かに雪国出身の設定があるギルが、フロスト・ジャイアントについて詳しかったり。果ては一番怒らせちゃいけないアウロラがぷっつん切れたりして、プレイヤー非常に楽しかったです。(笑)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/29 00:39 [edit]

category: 雪山の巨人

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Tue.

雪山の巨人 3  

 ざっくざっくざっく・・・。
 一行は下山の途中である――背後にフロストを引き連れて。
 ギルが引きつった顔で幼馴染に囁いた。

(なあ、アレク。あいつまだついてきてる・・・)
(おい、トール。足止めしろ)
(あんさん、何薄情なこと言ってまんねん!無理ですがな!

 銀盤の上に突如現れた青い絨毯――その幻想的な風景から無事レドシラ草を採取し、さて下山しようとした時にそいつは現れたのだ。
 あくまで退治を主張する依頼主に、アウロラとジーニが口を揃えてレドシラ草を村に持ち帰るのが先だと説得したが、彼はなかなか頷こうとはしなかった。挙句の果てに妹を一人にするのかとジーニに責められ、ようやく退治を断念したのである。
 フロストを刺激しない様に気をつけつつ進むものの、あのフロストはとっくにこちらに気づいているとジーニは指摘する。
 見やれば、確かにフロストの雰囲気が現れた時とは違っているようだ。

 ざっくざっくざっく。

 一同は無言で降りて行く。
 それは来た道を降りて行くだけだが、登山家は下山する時の方が遭難率が高いのだと言う。
 気の弛みが、時に洒落にならない事態を引き起こすのだそうだ。

(まだ追いかけてくる・・・)

 つう、とジーニの背筋を冷や汗が伝った。
 だが、しかし。いつまでたってもフロストは攻撃を仕掛ける素振りを見せなかった。

「・・・ねえ」
「ああ。気付いたか。あのフロスト、こちらに危害を加える気は無いようだな」

 職業柄、人一倍殺意に敏いエディンがジーニに返した。
 それどころか、好意的な眼差しすら感じられる。何かやきもきした挙動を見て取り、ジーニは首を傾げた。

「どういう事なの?」
「機嫌が良いのかも」
「ご冗談!」

 半ば以上本気で言ったミナスの意見を切って捨てたジーニは、ひたすら慣れないかんじきに苦労しつつ、村へと急いだ。
 やがて、下方にオルウェンの村の灯が見えて来た。
 それだけでも一同は安心する。
 ほっと息をついた時、いつの間にかフロストの姿が消えている事にエディンとギルが気付いた。

「アレクはん、あれなんでっしゃろか?」

 雪精トールの指摘に顔を上げると、そこには奴らが待ち受けていた。、

「へっへっへ」
「おいおい、待ち草臥れたぜェ」
「お前達、さっきはよくもやってくれたな」
「全く・・・。ニ、三日は安静にせねばならない程度に痛めつけてあげたつもりだったのですが」

ScreenShot_20130126_030937250.png

 冷厳としたアウロラの台詞に、仲間たちはぎくりと肩を強張らせた。

(怒ってる・・・・・・めっちゃ怒ってる・・・・・・!)

 単にチンピラ達が気に食わないのか、先程までフロスト・ジャイアントという脅威に緊張していたからか、疲れきって早く帰りたいところを邪魔されたからか。普段はむしろお人よしとまで評価される娘の目は、確実に凍りついていた。

「な、なんでェこのアマ・・・!」

 リース達が一歩踏み出したのを見て、仲間たちも各々の得物を構える。

「身ぐるみ剥いでやるぜェ!」
「やれるものならやってご覧なさいまし」
「今度は一筋縄じゃいかねェ!覚悟しやがれィ」

 しかし、ミナスがナパイアスで押し流して動きが止まったところを、上手く前衛たちが攻撃していくのに、リースの手下たちはまたもやあっという間に倒れていく。

ScreenShot_20130126_032005046.png

「強い・・・ちょっと・・・快感かも・・・」
「ちょ、ちょっと・・・っ!変な方向に目覚めないでよッ!!」

 ジーニの【魔法の矢】に貫かれた男が恍惚と呟くのを聞き、彼女は珍しく慌てた。

「・・・ポッ」(ばたり)
「・・・このまま埋めてやりましょうか、この男」
「アウロラが怖い・・・」

 ミナスは≪森羅の杖≫で魔力を集中させながら慄いた。
 その脇を、かんじきを履いているとは思えないスムーズさですり抜けたエディンが、新調したミスリル製レイピアで攻撃する。

「ぐえっ」

 最後にリースが倒れる。リースの横に、気絶から回復したらしい手下が近寄り、”金狼の牙”たちを睨み付けた。

「糞ッ、やってくれたな・・・!だが今回、こっちにはとっておきのアイテムがあるんだ。前の様にはいかないぜ!!」
「下手な脅しは通じません。観念なさい」
「ヒヒヒ、そうかなァ・・・?おい、二人とも、アレを出せ」

 リース達が取り出した呪符は・・・。

「げっ。あれ、火精の紋だよ!」
「なっ」
「くっくっく!!驚きで声も出ねェようだな。やっちまえィ!」

 田舎のチンピラどもと思い油断したのが致命的だった。またたく間にコマンドワードを読みあげていく・・・!
 迂闊と吐き捨てたアレクが真っ先にミナスを抱え込み、受身の体勢を取る。仲間たちもそれに倣った。
 サラマンダーの力の開放による局地的爆発が起き、大爆音とともに眼前の地面が抉れる。
 吹き飛ばされた雪が眩しく輝くと同時に、”金狼の牙”たちは思わぬ深手を負った。

「へっ、俺たちを甘く見たのが運のツキだぜっ!!」
「なぶり殺しにしてやるよォ!!覚悟しな!!!」
「こ、この馬鹿ども・・・・・・。なんつーことを・・・」

 重傷を負いながらも、ギルは必死に斧を杖にして立ち上がろうとした。こんなところで爆発を起こしたら・・・。

「ん・・・?あの音は何だ?」

 チンピラの一人が呟くのに、”その音”が何か分かってしまったギルが身を強張らせる。他の仲間たちも、状況を察した様子だ。
 山頂から鈍い音が木霊していた――それはゴゴゴゴゴと形容するに相応しい。

「お前達・・・」

 心底あきれ果てたと言った態で、アレクが言った。

「何をしたか分かってないな?雪崩を起こしたんだぞ」
「な」
「何だってーっ!?」
「に、逃げるぞォーーー!!!」

 それはまさに白く重たい波だった。
 轟音とともに、腹を空かせた鮫の如く牙を剥いて襲い掛かってくる!!!

「エディン、ジーニを!アレクはミナス頼む!」

 ギルは必死にそれだけは叫ぶと、がっしと間近にあったアウロラとダレイドの身体をしっかり抱えた。
 そして冒険者達とチンピラ達は、全員雪に飲まれた。
 ”金狼の牙”の冒険はここで幕を閉じた――。

2013/01/29 00:12 [edit]

category: 雪山の巨人

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Tue.

雪山の巨人 2  

 病を得たレベッカを行きがけにお見舞いした一行は、村の出入り口の辺りで3人のチンピラ風の男たちに行き会った。
 行く手を塞いでいる彼らに呼び止められ、”金狼の牙”たちはこれが例のチンピラかと見当をつけた。

「何人か見慣れねェ顔が居るな?悪いことは言わねェよ。俺たちに任せてもらおうか、な?」
「兄貴の言うとおりだ。酷いじゃないか。よそ者を信用するのかい、ダレイドさんよ!」

 藪にらみで睨みつけられたダレイドは、きっとした顔で言い返した。

「お前達だって、まだ村に住むようになって1年も経っていないじゃないか」
「なあんだ。よそ者はそっちも変わらないな、ははっ」

 笑ったギルを、リースと呼ばれた男が殺意を込めた目で見やる。
 お前達ではフロストに適わないと主張したダレイドを、さり気なく前に出たエディンが庇った。

「そういうことだ。絵に描いた様なチンピラだな。邪魔するなら容赦はしない」
「チンピラぁ?!雇われ冒険者風情が何を!俺達の実力を見くびるな!」
「そんじょそこらの冒険者より、俺達の方が強いって事を見せてやるぜェ」
(・・・弱い奴ほどよく吼える)

 チンピラ達が各々の得物を構え戦闘開始となったが、決着が付くのは早かった。
 冒険者達は詠唱に集中し過ぎていたアウロラが怪我をおった程度で、後はミナスの新しく契約したイフリートや前衛たちの連携攻撃で、あっけなく敗北した。

「口ほどにもない」

 ひゅんっと、≪黙示録の剣≫についた血のりを払いながらアレクが鼻で笑う。
 一行はまた雪山へと向かった。

「痛たたたた、くっそう、あいつら。覚えてやがれー!」

 チンピラの一人がそう叫ぶも、一顧だにせず”金狼の牙”たちは進む。
 足に装着したかんじきでしっかり雪を踏みしめ、前へ、前へ。
 あまりの寒さを紛らわせようとしたか、ジーニはダレイドに話しかけた。少し気にかかることがあったからだ。

「ダレイドさん。チンピラ達・・・ええと、リース一味だっけ?に言ってましたよね。『お前達ではフロストは倒せない』と・・・」
「ええ。だってそうでしょう?彼等はきっとフロストの姿を見ただけで逃げ出しますよ」
「否定する要素がないわね。でも、戦うつもりなのです?その、フロストと・・・」
「あくまで「そうなった」場合・・・の話ですよ」

 ジーニはフロスト・ジャイアントについて詳しくはないが、ギルの話からすれば、決して侮っていい相手ではないはずだ。
 戦闘はできるだけ避けたいと口にするジーニに、ダレイドが刺々しく応えた。

「随分と慎重な意見をおっしゃる・・・冒険者とはもっと・・・好戦的な方々だとばかり思っていましたよ」
「そんな人オンリーだったら、早死にする率がもっと高くなると思いますね」
「私には、奴が・・・。奴が許せません・・・。私の父は・・・、フロストに殺されたのです!」
「えっ?」

 冒険者達は意外な言葉に足を止め、それぞれダレイドを見つめた。
 悲壮な顔をした依頼人は、ぽつりぽつりと事情を話し始める。

 ――1年前、雪山に薬草を採りに行ったダレイドの父は、瀕死の重傷を負って帰って来たと。ダレイド自身はその場に居合わせなかったものの、村人から聞いた話によれば、彼はダレイドとレベッカの名を呼んだ後に『フロスト』と叫んで倒れたという。
 鬼気迫るダレイドの感情が、ギルを包む感じがした。それほどまでに憎い怪物――かける言葉も見つけられず、目を伏せた。

「過ぎた事です。でも機会があれば仇をとりたい。・・・そう思ってきました。ただ、私にはその力はない」
「だから・・・冒険者を雇った。という訳ですか?」

ScreenShot_20130126_022307218.png

 薬草の採取にかこつけて。
 口には出さなかったものの、ジーニの目は雄弁にそう付け加えていた。それに対する応えはない。
 復讐心。冒険者達は危険なものを感じとる。
 こそっとミナスがギルに近寄って囁いた。

(ねえ、フロストってどのくらい強いの?)
(大きな身体に似合わず、敏捷な動きを見せるはず。それに雪山は、フロストのいわばホームグラウンド・・・)
(そっかあ・・・)
(加えて俺はともかく皆は、慣れない雪上行軍を強いられている。戦うならば、かなりきつい戦闘を覚悟しなければならないだろうな)
(そんなの相手に、銀貨700枚で命賭けさせられるのはごめんだね)

 二人の内緒話を聞きつけたエディンも、こっそり参加する。
 この依頼は、あくまで薬草レドシラを採取して帰還するまでの護衛に過ぎない。
 しかし、ダレイドは機会があれば嬉々として冒険者達にフロストを殺せと命ずるだろう。いや。そうに違いなかった。
 依頼主には聞こえないように舌打ちすると、ギルは先に立ってまた歩き始めた。
 木々の間を目を凝らして見ると、1頭の白銀の毛並みを持ったウルフがこちらの様子を窺っていた。

(あれがヒララギウルフか・・・縄張りに踏み込んだようだな。注意して進まねば)

 冷たい風が頬を打つ――。
 後ろを振り返ったがもう村は見えなくなっていた。
 その時、遠吠えと同時に木々の間からウルフが次々と飛び出し、彼等は群れに取り囲まれてしまった。

「グルルルル・・・」

 ウルフ達は円陣を組み、しつこく攻撃を仕掛けてくる。
 群れ単位で襲ってきているらしく、いったんリーダー格を倒しても、また別の群れが襲い掛かってくるので、アレクやエディンはほとほと辟易した。

(統率を失えば暫くは現れまい・・・)

 三つ目の群れを追い払うと、ウルフ達は遠吠えを残しながらも波のように引いていった。
 怪我を癒して傾斜を登ると、次第にきつくなってきた。
 まもなく頂上へ辿りつくのだろうか?

「あんさん・・・ あんさん・・・」
「ん?誰か何か言ったか?」

 アレクが反応して周りを見渡すと、その小さな声は陽気に指示をした。

「ちゃうちゃう・・・、ここですねん」

 なんと現れたのは体長15cm程の精霊であった。

「いやぁ~。ウルフどもに住処を追われてまして困ってましたん。どうもおおきにー」
「そりゃよかったな。じゃあな」

 硬質の美貌に1グラムほどの動揺もなくアレクがそのまま通り過ぎようとするのを、精霊は慌てて呼び止める。

「ああっと、雪国だからってそんなサブイこと言わんといてな。あんさんの腕っ節に惚れたんや」
「お前、どこかで聞いたような方言で何言ってるんだ」
「そういうわけで憑いていくことにしたで。断っても無駄やからな」

 そう言うと精霊はアレクシスの懐に潜り込んでしまった・・・。

「なんなんだ、こいつは!?」
「俺の名前はトール。なぁに、役には立つから安心してぇな。あと雪の精霊やさかい火気厳禁な」
「はぁ・・・仕方ないな・・・」

 ミナスによると、トールは彼が契約を結んでいるスネグーロチカとはまた違う種類の雪の精霊で、傷口を凍結させて精霊の力で癒してくれるものらしい。
 それは便利だと言ったアレクが、先程のウルフに傷つけられたギルとジーニを癒すよう、さっそく頼んでみる。

「・・・・・・た、確かに、傷口は塞がったけどもさ・・・・・・」
「ちょ、寒いんだけどお。すごく体温下がる・・・」

 二人は唇を青くしながら、がちがちと歯の根が合わぬ様子で抗議した。

「・・・・・・すまん。早計だった」
「次は私が癒しますから・・・」

 アウロラが苦笑いして、二人に前以って親父さんが入れてくれたウォッカを渡し、飲むように促した。

2013/01/29 00:07 [edit]

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Tue.

雪山の巨人 1  

 厳しすぎる寒風の中で、アウロラのくしゃみが響く。

「ハ、ハ、ハクチョン!」
「大丈夫かあ?」

 何度目か分からないクシャミに、ギルは心配そうな顔を向けた。
 頷いてマフラーを巻き直すアウロラの横で、ジーニも冷える冷えると地団駄を踏んでいる。
 冒険者達は今、とある小さな村に向かっていた。
 ヒララギ山の麓にある村、オルウェン。そこが彼らの目的地だった。

 ――始まりは、宿屋の掲示板のコルクボードに貼られた一枚の張り紙からだった。
 オルウェン村のダレイドという依頼人から、雪の中に咲く薬草採取のための護衛依頼。
 防寒具等は依頼人持ちで報酬が700sp。
 全然聞いたことがない村の名前だと、ギルが依頼書をはがして首を傾げていると、≪狼の隠れ家≫の親父さんは丁寧に場所やその辺りで稀少な薬草が多く群生していることを教えてくれた。
 オルウェンが馬車で二週間もかかる北方の小村とあっては、古株の多いこの宿で引き受ける者もなかなかいなかったらしい。
 特に村の名前の由来になるほどの稀少な薬草が、去年から品切れ続きと聞いて、”金狼の牙”たちは遺跡に咲くフィロンラの花や、その探索を依頼してきた医術研究家たちのことを思い出した。
 きっと、手に入らずに困っている一般人もいることだろう。

「ふーん。親父のお墨付きか・・・」

 前の依頼で冒険者になった原因が解消されてしまったエディンは、腕組みして唸る。
 彼がギルドから呼び戻されパーティを抜けるのではと、仲間たちは戦々恐々していたのだが、紅い鷹旅団退治で恩を売った”コウモリ”の小細工で、まだしばらくは冒険者生活を続けていけるらしい。
 エディンの物問いたげな目を見て、親父さんは笑いながら言った。

「依頼人のダレイドさんは、まだ若いがちゃんとした男だよ。仕事さえきちんとすれば、報酬は間違いなく支払ってくれる」
「リーダー、どうする?」
「ちょっと報酬は安いかもしれないが、道具は向こうで用意してくれると言うし・・・やってみないか?」

 他の面子も、ここのところ憂鬱になっていたために、そろそろ新しい依頼でもやって気を晴らしたい・・・と考えていたところだった。

ScreenShot_20130126_010115359.png

「面白そうじゃないか。この依頼、引き受けた!」
「雪山かあ。そこに住む怪物相手じゃ、スネグーロチカは置いていった方がいいのかな?」
「そうだ、ミナス。新しい精霊契約をしたって言ってなかったっけ?」

 たちまちワイワイと賑やかになってきた”金狼の牙”たちへ、親父さんがオルウェンまでの地図を寄越してくれる。
 寒いから準備はしっかりしろと助言をもらい、冒険者達は枯れ葉通りの馬車停留所から、はるばるここまでやってきたのだった。
 オルウェン村に到着したのは、早朝のことである。
 小規模の民家が立ち並ぶ平凡な寒村という印象で、ギルはデジャヴに目を細めた。

「俺がいたところみたいだなあ」
「あら、ギルはこんな寒い地方の生まれなの?」
「うん、似たようなもんだよ。お袋と同居する前には叔母さん家で世話になってたんだけど、雪の積もる小さな村にいたんだ」

 ギルの母は、≪狼の隠れ家≫でもトップクラスの腕前のファイターである。組んでいた仲間と別れた後、田舎に預けていたギルをリューンへ呼び、短期間の依頼をこなしながら、彼を鍛えて育て上げた女傑であった。
 聞いて回るうちに分かった依頼人宅のドアを叩くと、

「どなたですか?」

と応えがある。
 張り紙を見てやってきた冒険者であることを明かすと、慌てて鍵を開ける音の後、若い健康的な男性がドアを開いた。
 年はまだ10代後半といったところか。
 そのあどけなさの残る容姿とは裏腹に、はきはきとした口調や立ち振る舞いは極めて利発そうで大人びて見えた。

「それは・・・!お寒い中ありがとうございます。私が依頼人のダレイドです」

 彼はニ、三歩家の中に下がると、手で奥を指し示した。

「長い旅路でしたでしょう?どうぞお入りください」

 暖炉に手をかざすと指先の収縮した血管が膨張し、びりびりと痺れた。
 自己紹介を改めて終えると、雑談もそこそこに依頼についての話となった。

「我家は代々薬草の扱いに長け、村の癒し手として貢献してきました。私も父より薬草の見分け方を伝授されております」
「若いのに大したものなんだな」

 エディンが顎を撫でて感心する様子に微笑みながら、ダレイドは再び口を開いた。

「ときに皆さんは・・・レドシラという草をご存知ですか?」
「ううん。それが張り紙にあった薬草なの?」
「はい。そのレドシラ草が、どうしても欲しいのです」

 理由としては、ダレイドの妹・レベッカが厄介な病に掛かってしまったから。
 癒し手であるダレイドですら知らない症状ばかり、もうお手上げかと思っていた時に、たまたま家まで薬を取りに来ていた村人が精霊術に精通していたらしく、レベッカを一目見るなり「咳をすると、それと一緒に光る結晶も吐き出すだろう?それは風の精霊の悪戯だよ」と言ってくれたらしい。

「非常に珍しい事らしいのですが。風精霊が咽につき、その跡が結晶となって悪さを働くらしいのです」
「へえ~。そんな病気があるのね」
「ミナス、お前分かる?」
「ん・・・厄介だね。その結晶が咽に残っている限り、体力を蝕まれ続ける・・・」

 ギルから話をふられたミナスは、自信なさげに続けた。

「症状は分かるけど、その原理などは解明されていない。治療法があるのは知っているよ」
「それが幸い、私の家に伝わる薬の調合法の中に、風の精霊に関する病の特効薬の作り方が伝わっておりまして」
「へえ、ラッキーだったね!」
「それでレベッカを病気から救うために、特効薬の材料であるレドシラ草がどうしても必要になるのです」
「で、そのレドシラ草がヒララギ山に・・・・・・」

 察したギルがそう言うと、ダレイドは頷いた。
 黙って話に聞き入っていたアレクが疑問を質す。

「その植物を求めて山に登るのは良いとしても、この季節に群生地を探すのは難しくないだろうか?」
「いえ、もう既に群生地は把握してあるのです。この山には癒し手の一族のみに入ることが許される区域があって、そこにレドシラ草が群生しているのですよ」
「ああ、なら安心だな」
「昔、父に――」
「・・・?」
「いえ・・・父に、群生地を教わったことがあります。雪が積もると花が咲くかなり変わった植物ですから・・・」

 今の季節なら最適だと説明するダレイドに、さっきミナスが感じた一瞬の躊躇いの影は見られない。
 ミナスは気を取り直して、どうして冒険者を雇うつもりになったのかを聞く事にした。
 群生地が分かっていて、尚且つ熊などは冬眠する季節なのだから、ダレイド一人でも行けないことはないのではないか。

「それが、そうもいかないのです」

 ダレイドはため息をついた。

「雪をものともしない狼族・・・ヒララギウルフの活動が、村の近辺で活発になっているという噂があります」
「雪に耐性のある狼・・・厄介ですね」
「それに・・・」

 ここでダレイドは言葉を区切って、苦々しそうに言う。

「皆さんは・・・。フロスト・ジャイアントという生き物の名前をお聞きになった事は?」
「フロスト・ジャイアント・・・?」

 パーティ1の博識が首を捻る。こういう地方の特殊モンスターには疎いらしい。
 寒冷地出身のギルが、やれやれといった態で説明を始めた。

ScreenShot_20130126_014359921.png

「フロスト・ジャイアントは、雪山の洞窟に住む亜人の一種だ。フロストと呼ばれるのが一般的だな」
「へえ・・・さすがリーダー、よく知ってるわね」
「長い体毛で被われた巨大な身体の持ち主だ。性格には個体差があるらしいがな。温厚なものが居れば、凶暴なものも居るというぜ」
「温厚なものも・・・ですか。とにかく出るのですよ。このヒララギ山にも、そいつがね」

 ダレイドの様子に違和感を覚えながらも、アレクはフロストと遭遇する確率を訊いてみた。

「ええ。恐らく・・・出会ってしまうでしょうね。だから、私がレドシラ草を必要としていると知った村のチンピラ達は、自分達を雇えと言ってきましたよ」
「彼等の腕が立つならそれも・・・」
「とんでもない!確かに力はあるでしょうが彼等は粗暴なだけです」
「いるんだよなあ、どこにでもそういう自信過剰な奴」

 ギルは呆れたように頭をかいた。フロスト・ジャイアントはチンピラの手に負えるようなモンスターではない。その太い腕から繰り出される攻撃は、生半可な戦士の比ではないのだ。
 事情を全て話し終えたダレイドは、そわそわした様子ですぐ出かけたいから準備をして欲しい、と切り出した。

2013/01/29 00:05 [edit]

category: 雪山の巨人

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