Sat.

男爵の密かな楽しみ 3  

 二つ宝箱がある部屋では、致死性の毒を持つ蜂が片方から飛び出してきたが、それをエディンとギルで蹴散らすと、宝箱からまた四行詩の紙片が出てきた。

「これで三つ目ですね」
「そうね。『悪魔は悲しみの涙をすすり、憎しみを喰らい、その飢えを満たす』・・・か。ろくな詩じゃないわね」
「エディン、こっちの部屋には入らないのか?」

 ギルが、宝箱のある部屋の近くにあったドアを思い出し、親指でくいっとそちらを指した。

「ありゃ、閉じ込める為の部屋だ。鍵穴がないって言ったろ?」
「ああ、うん」
「そういうときはな。たいてい、部屋に皆が入ると天井から針が出るか、壁が迫ってきて、ドアの鍵が閉まってるって寸法なんだ」
「うげげ・・・」

 ギルが気色悪そうに舌を出す。
 アレクとエディンが額をつき合わせて相談している。

「四行詩なら、あと一枚どっかに紙片があるな・・・」
「隅々まで探してみよう。あのクソ男爵も、脱出路について嘘は言ってないはずなんだ。あの喋る石をわざわざ設置したってことは、奴はこの迷宮に降りてきたことがあるってことさ」
「そういえば、俺たちがテレポーターに引っかかった部屋があったな」
「おっと、そういやそこは調べる暇も無かったな。ちょっと引き返そう」

 そしてアレクの指摘したとおり、最後の紙片はその部屋にあった。

「悪魔の四行詩四行目か・・・」

 そのとき、部屋に声が響いた。

『矢の雨が降る場所・・・隣合う道は鏡写し、日出の地から日没の地を結ぶ場所にて悪魔の詩を捧げよ。されば道は開かれん』
「・・・あの石板にあった言葉、だよね?」
「多分悪魔の四行詩のことだな。つまりどこかでこれを読めってことだろうが・・・」

 ミナスが首を傾げるのに、エディンが頷く。
 ”金狼の牙”たちは、車座になって考え始めた。
 やがて、アウロラが両手を頬に当てて考えていた姿勢のまま、ゆっくり口を開いた。

「日出と日没は東と西・・・・・・つまり、東と西の通路が同じ形状になっているところ、それを繋ぐ通路のことではないでしょうか?」
「そこでこの悪魔の詩を読み上げろってことか?」

 エディンは今まで集めた紙片を懐から出して言った。

「そう言う場所なら、ここじゃないかなあ?」

 今まで真面目にマッピングをしていたミナスが、羊皮紙を床に広げてある一点を指さす。

「地図が確かなら・・・そうだな、ここのようだな」
「確かだよ、僕ちゃんとマッピングしたんだから!」

 抗議するミナスの頭を撫でながら、ギルが他の仲間を見回す。
 言葉は要らなかった。全員が目で頷いたのだ。
 ・・・・・・やがてやってきた場所で、エディンが詩を読み上げる。

「神に愛された娘は欲望のために悪魔にささげられ」
「悪魔との交わりでその娘の心は壊れ神を呪い、悪魔を憎んだ」
「悪魔は悲しみの涙をすすり、憎しみを喰らい、その飢えを満たす」
「今こそ我らの手で悪魔の飢えを満たせ、されば我ら闇の加護を受けるだろう」

ScreenShot_20130124_174305968.png

 ゴゴゴ・・・・・・・・・という音がして、壁の一部がせりあがる。
 その向こうに階段が現れたのを見て、”金狼の牙”たちはほっと安堵の息をついた。
 この階段を上がってしまえば、恐らく事の顛末を見守っていた男爵との戦いが待っていることだろう。
 あれだけ多くの死体が地下迷宮に残されていれば、男爵の悪事の証拠はばっちりなのだから、これ以上彼らが遠慮する必要は無かった。
 事前に補助魔法を掛けて傷を癒し、召喚を終えた”金狼の牙”たちは一気に階段を駆け上がった。

「光だ・・・!」

 エディンが呟く。
 そして・・・・・・。

「外だ、出られたんだ!」

 ギルの歓喜の声と共に、予想通りトラップ男爵の苦々しい声も響いた。

「いいや、お前たちはここで死ぬ」
「男爵・・・よくもやってくれたな・・・!」

 ギルが≪護光の戦斧≫を構えると、それを合図に他の面子が散開した。

「ふん、誰一人死なないとは・・・迷宮にも改良の余地があるようだ」
「そうらしいな」
「まさか脱出するとは。おめでとう、そしてありがとう」
「何?」

 エディンが新調した細剣を引き抜きながら眉をひそめた。

「なかなか愉快だったぞ。くくく・・・」
「てめえ・・・・・・」

 エディンにとって仇討ちなど性に合わないものでしかなかったが、今この瞬間だけは、あの部屋で見つけた弟子のために戦ってもいいと思った。ハンカチに包んだ遺髪の存在を、熱く感じずにはいられなかった。

「さて・・・ゲームも終わりだ。ここからはエンディングとなる。ここで死ね」
「そんなことだろうと思ったよ」

ScreenShot_20130124_175301796.png

「このままお前たちを逃がせば事が露見するからな」
「当たり前だろ。あの迷宮の死体を、これ見よがしに置いたのはあんたの失態さ!」
「やはり死んでもらったほうがいい。そうだな、罪状は男爵暗殺未遂。判決は・・・死刑!!」

 男爵の叫びと共に、機甲の兵士が2体、壁に掛けられていた鎧に紛れていたのが動き出す。

「げげっ。この野郎、こんなものまで用意してやがったのか!」
「地下で死んでいればよかったものを・・・」
「そいつはどうかな!?」
「ギル。悪いが、この男俺にくれ」

 エディンが珍しく強い調子で言う。
 ギルはしげしげと信頼する盗賊の顔を見つめていたが、「おう!存分にいけ!」と言って、機甲の兵士の一体に【風割り】を浴びせた。
 あっけなくそいつが崩れるのを見て、今まで余裕綽々だったトラップ男爵の顔に焦りが初めて浮かんだ。

「なに・・・」

 それでも手元のスクロールを素早く広げ、眠りの雲を発生させる。

「これで形勢を逆転させてやる!」

 眠りの呪文は気合の入った冒険者たちには効きづらく、結局膝をついたのはアレク一人で済んだ。

「なぜ・・・なぜこうなる!?」
「スネグーロチカ、エディンの援護を!」

 そして、冷気が男爵の身体を容赦なく削り取っていく。
 美しく無慈悲な精霊が走ったのと同じ軌跡で、エディンが素早く男爵に駆け寄った。
 男爵は慌てて腰の剣を抜こうとしたが、それよりも一瞬早く、彗星のように細剣が喉に突き刺さる。

「ぐふっ・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・・・・よくも・・・」

 男爵は白目を剥いた。
 静かにエディンが細剣を引き抜くと、彼は喉から勢いよく血を噴出しながら倒れる。機甲の兵士が動きを止めた。

「・・・・・・」

 アウロラは血の跡を避けるように男爵に近づき、その目を閉じてやった。
 男爵との戦いの音を聞きつけた衛兵が、遅まきながら部屋に入ってきて惨状に叫んだ。
 ――――その後。
 冒険者たちは男爵殺害の罪で逮捕された。
 血の付いた武器、その他もろもろが証拠となったからだが、3日が過ぎた後に釈放となる。
 男爵の地下迷宮について情報を流したのは無駄ではなかったらしい。3日も時間がかかったのは、男爵邸の捜索許可の手続きが必要だったからに過ぎない。
 無数の死体、罠、ゴーレムなどの物証。そして何より男爵の地下の観察記録・・・。
 ある使用人の男爵の所業の告白もあり、トラップ男爵は恐ろしい殺人者とされた。

 はずだった。

 結論を言えば男爵の恐るべき所業は世に出ることはなかった。
 噂ではとある”大物”が手を回したとも・・・。
 冒険者たちを含めた関係者はそれなりの金を支払われ、事件に関して他言しないように言われた。
 口止めの理由も、威力も、”金狼の牙”は理解できていた。

「ちっ。結局こうなっちまったか」
「でも、ちゃんと釈放はされました。これからはもう少しマシな領主がくるらしいですから、よしとしましょう」
「終わりよければ、って奴さ。ま、俺は気が済んだからな」

 ”金狼の牙”たちは、懐かしいリューンの道を歩きながら話をしていた。

「・・・・・・お、お前ら無事だったか!?」

 ≪狼の隠れ家≫にたどり着くと、親父さんが慌ててカウンターから出てくる。

「なんでもバルツでトラップ男爵が死んだとか聞いたんで何か事件に巻き込まれたんじゃないかと心配していたんだ」
「はは、この通り無事だよ」
「・・・ちょっとハードだったが、な」
「・・・・・・」

 幼馴染コンビの台詞を聞いた親父さんが、何事かを察したように少し黙った。

「・・・・・・今日はもう休め。疲れただろう」

※収入1000sp、≪毒針≫×3、≪黄金の像≫※

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■後書きまたは言い訳
30回目のお仕事は、Wizさんのシナリオで男爵の密かな楽しみです。PC死亡可能性がある高難易度のトラップダンジョンということで、今までで一番手を出しづらかった作品でした。しかし、やらねばならぬ訳がありまして・・・。

シナリオをやった方ならご存知でしょうが、途中でグールが出てくる部屋で盗賊の後輩が死んでいる・・・というエピソードは、本来存在しません。ですが、エディンが”金狼の牙”に参加する理由となった「行方不明の後輩探し」を、冒険のモチベーションがグダグダにならない為にも、どこかで目標達成させる必要があったのです。
それに一番向いているシナリオこそが、今回のこれでした。領主自身が手を下しているために犯行が盗賊ギルドにも伝わりづらい、よって手駒が亡くなっていても掴めないだろう・・・ということです。
お陰で最終戦にてエディンが珍しくリーダーではなくギル、と呼ぶほどに頭に来てましたが、気付いた方はおられたでしょうか・・・。まあ、どうでもいいと言えばいいこだわりですが、たまにはこういう事があってもいいと思います。何しろ、普段は大人コンビのもう片方が暴走気味ですからね。(笑)

次回は気分を変えて、ダンジョンから野外にしようと思います。スカッとするシナリオ選ぼう。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/26 15:52 [edit]

category: 男爵の密かな楽しみ

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Sat.

男爵の密かな楽しみ 2  

「おい、起きろよ」

 どうにか受身を取ったり、風の障壁でダメージを和らげたりした一行は、暗い中で謎の声に呼びかけられていた。

「だ、誰だ・・・?」
「ここは・・・?」
「地獄の入り口さ」

 エディンやジーニの声にそう応えたのは、石で出来た彫像・・・・・・のように見えた。
 驚いて息を呑むアウロラや、どうなってるのか興味津々のジーニを余所に、彫像は「ただの石じゃねえ」と言う。

「ひどい奴に石にされたかわいそうな喋る石さ」
「・・・・・・・・・」

 あまりのショックに黙り込んでギルの外套に隠れたミナスに気づき、男はさらに話し続けた。

「そう身構えるなよ。あんたらも前に来たやつらと同じく男爵にここに落とされたんだろ?」
「一体何の目的で・・・」

ScreenShot_20130124_162115531.png

「殺すことさ。しかも飛び切り苦しめて足掻かせた挙句に殺すんだそうだ」
「冗談じゃねえ!」

 息巻くギルの横で、ふんっとジーニが鼻を鳴らす。

「悪趣味ねー」
「悪趣味だろ?奴は今も見てるぜ。それにそろそろ・・・」

 部屋にトラップ男爵の声が響いてきた。

「フフフ・・・ようこそ私のアトラクションへ」
「どういうつもりですか・・・!」
「この石ころめが言っただろう。君たちを殺す。それも飛び切り苦しめて」
「これだから貴族って奴は・・・趣味が悪いぜ」

 エディンが肩をすくめる。

「くくく・・・怒れ怒れ。その怒りも私の悦楽となる。子供もいるのか。切り刻むのが楽しみだ」

 男爵は、この地下のどこかに脱出路があると言い残して哂った。足掻いて死に行く姿を見るのが、よほどに好きらしい。

「あのやろう、生かしちゃおけねえな」
「待て、ギル。領主殺しは重罪だ」
「このまま泣き寝入りしろっていうのか、アレク!」
「そうじゃない。・・・やるのなら、あいつを始末してもいいくらいの、証拠を探しておかないと」

 アレクは言う。この喋る石ももちろん、他にも色々悪事の証拠は残っているだろう、と。

「そいつを探し出して、俺たちの手で提出できるようにするんだ」
「男爵が調子に乗って言っただろう、脱出路があるとな。とっとと探してやろうぜ、リーダー」
「もちろんだ!」

 喋る石に話を訊くと、「自分はゲームの道具で迷宮について教える事は出来るが、嘘や真実を織り交ぜて言うことになってる」というので、”金狼の牙”は何度か質問して情報を集めることにした。

「時として無駄もある、か。安全確保して休むなら魔法の鍵とか、重要そうなワードがいくつか出たな」
「僕、ちゃんとメモしたよ!」
「幸いといってはなんですが、重傷の方はいません。このまま、迷宮を探索してみましょうか?」
「そうだな。よし、エディン頼む」
「あいよ」

 迷宮は、喋る石が忠告したように意地が悪いほどトラップが満載だった。
 一つの場所に一つのトラップとは限らず、二重になっている場合もある。
 初めて見つけた扉の罠と鍵を解除し、一同は中に入った。

「なに・・・これ・・・」

 臓物、骨、脳漿、血、肉・・・人間だったものが散らばっている。見るに耐えない光景だ・・・。
 ミナスが怯えたように首をすくめた。エディンとアレクが答える。

「死体置き場か・・・。多分今までここに来た連中のな」
「おそらくこう言いたいんだな。お前たちもああなるぞと・・・」

ScreenShot_20130124_164210953.png

「ひどい・・・」

 震えるミナスをアウロラがそっと抱きしめて後ろに庇った。
 死臭が立ち込める中、エディンが手近な死体を丁寧にひっくり返している。

「どうしたの、エディ?」

 ジーニや、他の仲間の呼びかけにも構わず、彼はひたすら死体をひっくり返して・・・・・・ふと、手を止めた。

「ああ・・・・・・」

 嘆息した彼を他のものが注視する。

「お前、いたのか。ここに」

 格好からすると、まだギルやアウロラと同じくらいの歳だろう。柔らかな皮鎧は血と膿に汚れ、顔は皮膚が剥がされた挙句にずたずたに刻まれているのだが、それでもエディンには誰か分かったらしい。

「エディン。誰だ、それは」
「弟子だ。俺が最初に罠の外し方や鍵開けを教えた。・・・探してたんだ」

 エディンはアレクから剣を借りると、静かに彼の遺髪を切り取り、懐に入れた。
 問題の死体は、エディンが冒険者稼業に身を投じる一因となった男だった。なかなかいい稼ぎをしていて、今度まとまった額の上納金をギルドへ献上する予定だったのが、リューンの北西に向ったのを最後に消息が途絶えていた。
 上納金を取りまとめる担当の幹部が、その行方を追うようにエディンに命じていたのだが・・・。

「こんなになっちまうなんてなあ。腕は悪くなかったのに・・・」

 肩を落とすエディンに、ミナスがまだ青ざめたままタックルをかました。
 なんと物陰からグールが襲い掛かってきたのだ!
 グールの麻痺毒を含んだ爪は、危うくエディンの肩当をかすっただけに留まった。
 油断さえしなければ怖い相手ではないのであっという間にグールを倒すと、その懐になにやらメモが挟まっている。

「悪魔の四行詩・・・?」

 紙片には、”神に愛された娘は欲望のために悪魔にささげられ”とある。

「何かのコマンドワードかもしれないわね」
「一応、持って行きましょう」

 冒険者たちはまた移動することにした。
 しばらく歩くと大きな扉の前に出た。部屋に入ると、古代語で書かれた石板が真ん中にある。
 ジーニが解読する。

「『矢の雨が降る場所・・・隣合う道は鏡写し、日出の地から日没の地を結ぶ場所にて悪魔の詩を捧げよ。されば道は開かれん』」
「矢の雨か。トラップのことじゃねえか?」
「もしかしたらね。日出の地と日没の地ってのが、よく分からないけど・・・」
「他に目に付くものはねえな」

 ”金狼の牙”は、またエディンに罠を見てもらいながらしばらく歩き始めた。
 悪魔の四行詩の紙片は、その後も出てきた。
 歩き回って分かったことは、この地下迷宮はかなりの広さがあること、トラップの数が尋常ではないこと、妙な魔法生物がうろついていることだった。

「以前に経験した魔術師の墓の洞窟より、手が込んでるな・・・」
「しかも数段、根性の悪い手の込みようね」
「火晶石持ってる木製の兵士だの、毒ガスを充満させて扉の鍵を閉める罠だの・・・よくまあ、考え出しますこと」

 喋り方は普段とかわらず丁寧なものの、アウロラの言葉の端々に棘があるのは明らかだった。彼女の回復の法術も、さっきから頻繁に使用することになっている。
 エディンが言うように、以前経験した洞窟にあったようなパズルもあったのだが、不正解どころか一回ボタンを押すごとに電流が走るなど、非常に厄介な仕掛けが施されていた。
 それでも、そこで手に入れた石の像を、暗闇の部屋の黄金の像と取り替えて報酬を確保できそうだったが・・・。

「呪われてるからねえ、この像。まあ、金銭価値は高いから、我慢して荷物袋に入れておきましょう」

 ジーニが言うように、報酬になりそうなそれは、邪悪な気を放って冒険者たちにプレッシャーを与えていた。


2013/01/26 15:23 [edit]

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Sat.

男爵の密かな楽しみ 1  

「・・・そいつはバルツの街に住んでる貴族からの依頼でね。ネズミが屋敷に出ているから退治してほしいそうだ」
「バルツ、ねぇ・・・・・・」

 依頼書を持ってあれこれ相談している仲間たちを余所に、エディンは自分の顎を撫でた。

「おや、お前さん知ってるのかい?」
「・・・・・・いや、噂話でちょっと聞いたことがある街ってだけさ」

 エディンはいつもと変わらない仕草で持っていた杯をカウンターに戻した。
 その後ろから、ギルが親父さんに声をかける。

「やってみるよ。ネズミ退治程度なら、すぐ帰ってこれるだろうし」
「そうか、受けるか。まあ、がんばって来い」

 男爵の邸宅はリューンの北西にあるバルツの街中で、道中に危険は無いという。
 地図と紹介状を親父さんから受け取ったギルは、「何だい親父さん、変な顔してるぜ?」と首をかしげた。

「・・・実はバルツの街で何組か冒険者が行方不明になっているんだ」

 寝耳に水の情報だった。たちまち、”金狼の牙”たちに緊張が走る。

「そこの自警団も冒険者ってだけにどこかに行ったんだろうとまともに捜査していないみたいなんだ」
「・・・なんだかきな臭い話だな」
「お前らも気をつけた方がいいぞ」

と親父さんに見送られた彼らだったが、大した苦もなくバルツの街に到着することとなった。

ScreenShot_20130123_224124328.png

「真っ直ぐ男爵邸へ向う前に、ちょっと冒険者の店に寄ろう。行方不明って話を確認しておきたい」
「・・・その後、少し教会にも寄ってみませんか?領主ともなれば、大体は聖北教会とのつながりもあるでしょうし」
「そうね。案外、男爵のこと分かるかもしれない」
「分かった。じゃ、店行った後に教会も回ろうか」

 ギルの決定に仲間たちは頷いた。
 とはいっても、詳細な情報が入ったわけではない。
 男爵はいい人だ、素晴らしい人材だと誉める一方で、男爵の邸宅に招かれた冒険者が誰も帰ってこないため、よくない噂も広まりつつあるらしい。ある人などは、男爵が別人のようになって使用人を虐めている・・・と不安になることを言っている。

「昔は熱心だったけど、最近は礼拝に来なくなったとか司祭様も仰ってましたね」
「・・・・・・このまま、何の措置も取らずに行くのは危険そうだな。どうする、ギル」

 アレクが幼馴染を見やった。

「う~ん・・・・・・」

 ギルはさっきチンピラから取り上げた50spを手中で弄びながら唸る。

「虎穴に入らないと、虎の子は手に入らないって言うからな。ただ、注意はしておこう」

 冒険者たちは嫌な予感を抱えつつも、トラップ男爵の邸宅へ向った。
 門にいた衛兵に名乗り、取次ぎを頼むとすぐ男爵の元へと案内される。

「よくきてくれた。私がバルツの領主、そして君たちに依頼を出したトラップ男爵だ」

 なかなか豪華な椅子に腰掛けていた壮年の男が、こちらを振り返った。
 口ひげを蓄えた男爵は、「まあ、楽にしてくれたまえ」と、思っていたより気さくな態度で接してくれる。
 依頼内容を詳しく聞きだすと、ネズミ退治に600sp。できれば、その後で冒険の話なども聞かせて欲しいという。
 そういった申し出を受けたのは初めてではないので、ギルはあっさり頷いた。

「ああ、分かった。この依頼を受けさせてもらう」
「そうかでは今すぐ頼むよ。できる限り早いほうがいい」

 男爵は即座に立ち上がり、「ついてきてくれ」と短く言うとさっそく先頭に立って歩き出した。
 慌てて”金狼の牙”たちも後を追う。
 案内された廊下は暗く、灯火が見当たらない。かろうじて、細長い窓から入る光で輪郭が分かる程度である。
 男爵の足がとある部屋の前でぴたりと止まった。

「この部屋なのだがどうにもねずみがいるような気がしてだね」
「はあ・・・・・・」

 ギルはぽりぽり頭をかいた。小動物の気配がドアの向こうにしているようには思えないのだが・・・。

「ここに閉じ込めてあるから全て始末してくれ」
「まあ、ネズミくらいならあたしが風を張っておくわよ」
「うん。僕もナパイアス呼び出せばすぐ終わるね」
「ああ、扉は閉めてくれ。ねずみが屋敷に入ると困るのでね」

と男爵が言うのに、一同は頷いた。
 早く早くと急かされ、エディンは眉間に皺を寄せた。

(この男、なぜこれほどまでに興奮してるんだ・・・。ちょっと警戒して入ったほうが良さそうだな))

 一同が扉を潜ると、そこはまったき闇であった。

「暗くてよく分からねえな。おい、明かりをくれ」

 ガチャリ、と鍵の掛かる音。
 エディンのふてぶてしい声に、男爵はこう答えた。

「最高のショーを見せてくれ」
「なんだと・・・!?」
「床がっ!?」

 大人コンビが、自分達の踏みしめていた床がなくなった事に真っ先に気づく。
 ≪エア・ウォーカー≫で魔法の翼を出す暇も無く、”金狼の牙”たちは落ちていった。

2013/01/26 15:18 [edit]

category: 男爵の密かな楽しみ

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