Mon.

翡翠の海 4  

「――ミナクア様ぁッ!」

 振り下ろされた剣の一撃を遮り、ペリエが腰を抜かしたミナクアとの間に割って入る。

「う・・・きゅ~・・・・・・」
「――ペリエ!・・・ひどい・・・こんなッ・・・・・・!」

 ジーニがかねてより気にしていた妖魔の襲撃は、なんと陽動であった。
 リザードマンという上級妖魔たちが、ミナクアとペリエの前に現れたのである。
 彼らは守人である冒険者たちの実力を知り、ミナクアが一人になる機会を窺ってこそこそ襲撃を仕掛けてきたのであった。
 精霊は常ならば普通の武器で傷つくことは無い。
 しかし、ペリエのように精霊としての格が低く、むしろ分類として妖精に近いような存在になると、このように半端にダメージが通ってしまうのである。
 とりわけオレンジのモヒカンが際立つリザードマンの首領格が、わざとらしい表情でペリエを覗き込んだ。

「これはこれは・・・・・・。身代わりとは、美しい忠誠心だねえぇ・・・・・・俺様、感動のあまり、涙がでちまったぜ」

 嘘泣きだけどな!とリザードロードは言って、ゲラゲラと下品な笑い声を上げた。
 そんな相手を他所にミナクアはペリエを抱き上げようとするが、彼女はその手を振り払い――。

「ミナクア様・・・逃げ・・・て・・・・・・。ここは、アタイが・・・・・・」

 ペリエは立ち上がり、敵とミナクアの間を遮断する様にふらふらと飛び回った。

(逃げ・・・る・・・・・・?ペリエを置いて・・・・・・?)

 ミナクアの頭に、今まで思い浮かびもしなかった考えだった。
 確かに、希少な大精霊であるミナクアがここで害されれば、この辺り一帯の被害は大きなものに発展するだろう。しかし――。

「そんなに死にたいなら、まず貴様から殺してやるわッ!」
「や、やれるもんなら、やってみなさいよ・・・・・・。下っ端だって、やるときゃやるんだから・・・・・・!」

(ここで逃げていいの、私・・・・・・?守られてばっかりで、本当にそれでいいの・・・・・・?)

 ミナクアの足は・・・・・・。

(いや、違う・・・・・・っ!)

 しっかりと大地を踏みしめてその場に留まった。

(・・・守らなきゃ。みんなを守るんだ。できるかどうかじゃない。やりたいからっ・・・・・・!)

 張り裂けそうな胸に空気を送り、歯を食いしばって姿勢を正す。

(水面の輝きを、木々の囁きを、草の揺らめきを――大好きな風景を、大好きな人たちを)
「だって、私は大精霊・・・・・・私がこの地の主なのだから!」
(守るんだ!)

 ミナクアの小さな身体が清浄な光に包まれ、そこから生まれた蒼い線が複雑な紋様を形成する。

「け、結界・・・だとッ!?馬鹿な・・・・・・、土壇場で再構築しやがった!?・・・このクソガキがッ!この期におよんで往生際が悪ィッッ!」
「・・・おいおい。それは、どちらかというと此方の台詞だろう?」
「――何ぃッ!?」

 湖畔の中でもとりわけ太い木の陰から現れたのは、ギルであった。

「まったく、こんな時間にまで出張ってくるなんて、最後まで諦めが悪い・・・・・・」
「わざわざ連敗記録を更新しにくるなんて、随分と律儀な連中じゃねえか」

 木の枝からしなやかな動作で降りてきたエディンが言う。
 彼の降り立った横に、他の仲間たちも集まってくる。

「・・・まぁ、いいんじゃない?ちょっと暴れ足りない感じはしていたし・・・・・・」
「・・・せ、先生ッ!?」
「・・・念の為に、何時も襲撃される方向の反対側を調査して侵入の痕跡を辿っていたのだけど――」

 ふふん、と鼻で笑ってジーニが杖の髑髏をリザードマンたちの方へ突きつけた。

「よりによって、精鋭部隊で暗殺とはね。中々知恵の回る連中じゃない」
「そういうわけだ。・・・悪いな、ミナクア。少しばかり遅くなってしまった」
「――本当だよぅ!も、もう少しで乙女のピンチだったんだから!」

 チャキ、とリザードロードが幅の広い曲刀をかざして構えた。

「くそっ、厄介な守人が戻ってきやがったか・・・・・・!」
「お戯れが過ぎましたな、御屋形様・・・・・・」

 リザードマンたちが武器を構えたのに、”金狼の牙”たちも反応して散会する。

ScreenShot_20130119_124914937.png

「ミナクア、下がっていろ。ここから先は此方の仕事だ。・・・カタギには少し過激すぎる」
「・・・いいえ、先生!私も戦います。私にも戦わせてくださいッ!」
「いや、しかし――」
「私、気づいたんです。先生達だって、いつまでもここにいてくれるわけじゃないんだって」

 ミナクアは小さな拳を胸に押し付けて、哀しげな――だけれども、決意に満ちた顔で言った。 

「これからは、私がこの森を守らなきゃいけないんです。たとえ、手が汚れようとも・・・・・・。だから、私も覚悟を決めます」
「・・・フッ、なんだか知らんが、とにかくよし!!そこまで言うなら、行くぞ、ミナクア!」
(いいんですか?かなりギルの悪い影響受けてますよ)
(・・・・・・あっれー?ギルにはミナクアの身の回りの世話だけはさせてねえんだがな)

 こっそり後ろで話し合うアウロラとエディンを他所に、リザードマンたちの士気は上がっていた。

「・・・おのれ、許さんぞ!こうなれば、刺し違えてでも、貴様等だけは殺す!」
「来い、碧鱗の民よ!冒険者ギルバート、――推して参る!」

 ノリノリで叫んだギルの声を合図に、最後の血なまぐさい授業が始まった。

 現在のリザードマンたちは、運が良い事にミナクアの結界の影響下でまともに動けない。
 このチャンスを逃す手はなかった。
 ギルの【薙ぎ倒し】が、アレクの【飛礫の斧】が、ミナスの【渓流の激衝】が、縦横無尽に戦場を駆け巡る。
 アウロラは【祝福】で仲間たちを援護し、ジーニは【魔法の矢】をロードに撃った後、すかさず【眠りの雲】で彼らを無力化した。
 そしてあっという間に・・・・・・。

ScreenShot_20130119_130046093.png

「馬鹿な・・・この俺が、人間如き劣等種族に・・・・・・」
「・・・感謝するぞ。お前のお陰でいい授業になった・・・・・・」
「・・・なん・・・だとッ!?」
「良いショック療法になったと言っているんだ。ご苦労だったな、――反面教師ッ!」

 ギルは思い切り振り上げた斧を、”碧鱗”のボルヴィックと呼ばれたリザードロードの首に落とした。
 その瞬間、嫌な空気を全て掃き捨てる様に一陣の風が湖畔を駆け抜けた。
 ・・・そして、それが木の葉を揺らしながら天空に上っていった頃には、辺りにはもう静寂しか残されていなかった・・・・・・。

 ――戦いの翌日。
 ”金狼の牙”たちは昼前には出発の準備を終え、彼女達に別れの挨拶をしていた。
 7日間を過ごしたこの地とも今日でお別れとなる。彼らは少し名残惜しそうに透き通った湖の水面を見つめた。

「皆様には本当にお世話になりました。何とお礼を申し上げて良いやら・・・・・・ほら、ペリエ。先生達に今回の報酬を!」
「――はいはいっと!こちらが報酬の宝石でござ~い」

 ペリエは重たそうに宝石の入った皮袋を運んでくると、”金狼の牙”たちにそれを受け渡した。
 皮袋には、青く輝く翡翠の塊と血を固めた様な鉱石までもが入っている。

「ありがとうございます、ペリエもどうか御達者で」
「へへんっ、当たり前よ!アタイは元気だけが取り得だかんね!」
「――ああ、知ってる」

 乾いた声でエディンが即答した。どうも、罠を張っている最中に騒がしかったのを根に持ってるらしい。
 不満顔でピョンピョンと飛び上がるペリエを余所に、冒険者達とミナクアの間に笑い声が響いた。

※≪宝石(400sp相当)≫×2、≪紅曜石≫、【玉泉の祝福】※

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■後書きまたは言い訳
28回目のお仕事は、タナカケイタさんのシナリオで翡翠の海です。精霊使いクーポン対応美味しいですへへ。こちら、未だテストプレイ中の作品となっておりますので、閲覧される方はお気をつけ下さいませ。また、テストプレイ中ということで、掲載についてご本人様に許可は頂いております。出来る範囲で画像の著作権についても確認はしてありますが、万が一の時は下記の通りにお願いします。
防衛&育成シナリオという説明どおり、大精霊というNPCを守り育て上げるのがこのシナリオの醍醐味です。
やった感じでは、全員が何か全く別の分野に特化しているパーティだと、ちょっと大変かな?と思いました。うちはアウロラが知力と精神高め、あと意外なことにギルが罠作成に貢献(こいつ器用高いのか・・・?)してくれたので、日々の担当決めが少し楽になりました。
とにかく、ミナクア&ペリエ可愛い。50質問にも書きましたが、特にペリエ。なんて好み・・・。
【玉泉の祝福】は付帯能力です。非戦闘時は制限がかかるそうですが、それにしてもありがたい対毒防御。

えー、実は前回の「賢者の選択」時点で、すでに全員6レベルに達しております。それでも、こちらのシナリオを終えるまでは・・・!とレベル据え置きでやり続けておりました。なので、次回からは全員が急に6レベルからスタートですのでご了承ください。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/21 12:34 [edit]

category: 翡翠の海

tb: --   cm: 2

Mon.

翡翠の海 3  

「おはようございます。今日は最終日ですね。最期まで気を引き締めていきましょう!」

 ミナクアは元気よく挨拶した。その頭上を、くるくると寂しそうな顔でペリエが飛んでいく。

「・・・今日で最後、かぁ。キミ達ともお別れなんだね・・・・・・」

 自分らしくないとでも思い直したのか、一際大きく円を描いて”金狼の牙”たちの目線まで降りてくると、彼女は小さな拳を突き上げて宣言した。

「――よしっ、頑張ろう”それで、全部終わったら、みんなでパーティーしましょ?」
「・・・いやいや。死亡フラグだから、それ。しかも、こっち側の・・・・・・」

 眉を八の字にしてアウロラが言う。

「――あのっ、先生!」

 かの大精霊(やっぱりそうとは見えない)に先生と呼ばれるのにも、すっかり慣れてきた。
 ギルが一同を代表して彼女に訊く。

「・・・どうした、ミナクア」
「――あ、いえ。なんでもありません。・・・今日も頑張ってくださいね」
「・・・・・・?あ、ああ・・・・・・」

 彼女の様子は気にかかるものの、冒険者たちもまだそれなりに忙しい。彼らは、急いで配置についたのだった。
 最終日のお勉強は、アウロラとジーニ二人がかりでの教育である。

ScreenShot_20130119_114616437.png

「・・・気を静めて、力の流れに集中しなさい。霊力を身体に循環させて――」
「・・・・・・」

 言われたとおりにミナクアは気を静めた。自分の中に流れる、”それ”が体中を駆け巡るのを感じる・・・・・・。

「・・・・・・Zz」

 ・・・前にうたた寝していた。
 シュバ!っと素早く杖の先の髑髏がミナクアの脳天に振り下ろされる。

「――あぅっ!」
「・・・そこ、寝ないように」
「ごめんなさ~い」

 一度教えると決めたからには、とことんまで厳しいのであった。まあ、この1週間ですっかり情が移ったせいか、多少の苦笑交じりで済んでいるわけだが。
 その様子を、もう一人の教師役であるアウロラは微笑ましく見守っている。
 ミナクアは水の化身だけあって、純粋で優しい心の持ち主だと思っている。きっと、彼女が成長を無事果たせば、立派な大精霊としてこの地を守っていくことだろう。アウロラは、「まあまあ」と取り成して、授業の続きを始めた。
 そして。
 最後の夜ともなれば、流石にそろそろ罠の効果も――。

「――だあああっ!何でこんなに残ってるんだ!くそ、もうウンディーネの援護ねえぞ!」

 ――ちょっと手を抜いたせいか、ギルは数の暴力によりちょっと苦境に立たされていた。

ScreenShot_20130119_115218062.png

 それでもどうにか退治を終えることはできたのであった。
 そんな戦いの少し後、翡翠の海の湖畔にて――。

「ミナクア様ぁー!やりましたよ、本日も撃退に成功です!」

 ”金狼の牙”たちが最後の夜襲を撃退した後、ペリエが結果を報告する為に一足先に湖畔へと飛ぶと――。

「・・・・・・?ああ、ペリエ・・・・・・。ごめんなさい、ぼうっとしていました」

 ――そこにはたった一人で湖畔に腰掛け、足先で水面を弄ぶミナクアがいた。

「・・・そう。先生達は勝ったのですね。後は私の仕事・・・・・・」

 ミナクアは何処か呆けた様な表情で呟くと、再び視線を落として俯いた。

「・・・おや?ところで、ミナクア様。こっち側にいた冒険者はどうしました?」
「残ってらした方々には、警備の方を迎えに行く様、私がお願いしました。少し――、ほんの少しだけ、一人になりたかったから・・・・・・」
「ありゃりゃ・・・・・・。それは失礼しました!それじゃあ、アタイもどこかで時間を潰してきまーす」
「――あっ、ううん、いいの。気にしないで頂戴」

 背を向けて飛び立とうとするペリエを制止した。
 ちょっと考え事をしていただけだから、とミナクアは言う。その姿を人間が見れば、こう言うだろう――まるで親に置いていかれた子どものようだ、と。
 ミナクアは微笑を浮かべたまま再び湖面に視線を落とした。
 天上には満月が光り輝いており、その円光を写し取った水面も青々と鏡面のように映えている。

 ――静かな、とても幻想的な夜だった。

 水の色・・・・・・木々の鼓動・・・・・・草の香り・・・・・・この地に生きる命たち。
 力が戻ってきているのを感じる、と彼女は言った。

「よかったじゃないですか、ミナクア様。・・・でも、それにしては妙に浮かない顔ですね・・・・・・」
「うん・・・でもそうするとね。急に不安になってきちゃって・・・」

 自分は本当にこの結界を――みんなを、ペリエを、守っていけるのか。
 その不安は、1週間ずっとミナクアについて回っていたものだった。勉強をし、身の回りを世話されて霊力を高めつつも、本当にこれで十分なのか、これからやっていけるのだろうか・・・・・・と。 
 ペリエはふわり、と跳ねる様に飛んでミナクアの傍らに着地し、彼女の横に座って空を見上げた。

「・・・でもさ、そんなに難しく考えなくても良いんじゃないかなぁ?」
「・・・えっ!?」
「だって、上手くいくかどうかなんて、やってみなくちゃ分からないじゃないですか」

 ペリエは小さな人差し指を一本立て(水のように揺らいでいるが)て、口を開く。

「どんな事だって、最終的には出来るだけの事をやるしかないわけですし、始める前からグダグダ考えてたって無駄でしょう?」
「・・・・・・」
「・・・それに、ミナクア様は一週間、その為の準備をされてきたじゃないですか」

 なら信じましょうよ、と小妖精は笑った。

「頑張ってきたミナクア様を。それから、修行をつけてきたあの冒険者達の事を、ね?」
「信じる・・・。自分を――、先生達を――?」

 虚をつかれた顔でペリエを見つめていたミナクアは、そのまま満月を暫く見つめていた。

「・・・うんっ、そうね。私、信じます。先生達が教えてくれたんだもの。きっと、なんとかできる・・・・・・」

 気分が楽になったと礼を言ったミナクアは、そう言ってすっと立ち上がり、にっこり笑ってから両目を閉じて瞑想を開始した・・・・・・。

2013/01/21 12:06 [edit]

category: 翡翠の海

tb: --   cm: 0

Mon.

翡翠の海 2  

「――では、先生っ!今日から1週間、よろしくお願いします!」

 大精霊に見えないお下げの少女は、しゅびっと敬礼をして元気よく言った。
 ”清流の飛沫”ペリエのアドバイスによると、1~3日頃は罠が薄いので罠設置と警備/巡回を多めにし、それ以降は罠を維持しつつ、結界強化に力を注ぐのがいいらしい。
 ただ、罠だけで敵を止められるとは限らないので、最低でも常に1人は警備/巡回を選んで欲しいようだ。
 6~7日にもなれば罠がかなり効き始めるはずだ。そうなれば、罠と警備人員はほどほどで良くなる――。

「なるほどねー。その分の人員を他に回せばいいわけね」
「そそっ。警備/巡回の担当者はいつもに増して少人数で戦うことになるから、最適な装備で挑んでよね」

 警備/巡回は妖魔たちとの直接戦闘、罠設置は森に罠を仕掛けて敵減少、勉強は魔術や常識を教える、お世話は身の回りの世話等で成長を促す・・・・・・。
 それぞれに大切な役目である。いい加減に選ぶわけにはいかないだろう。

 1日目。
 ギル、アウロラが警備/巡回、アレクとエディンが罠設置、ジーニがお勉強、ミナスがお世話。

「・・・そういうわけで、今日の授業を担当するジーニよ。短い間だけど、よろしく」
「授業を担当されるミナクアです。よろしくお願いします!」

ScreenShot_20130119_105252421.png

 社交性にはやや問題がある(と宿の誰もが思っている)ジーニだが、意外と先生役に向いているのか、颯爽とした口調で魔術の成り立ちからミナクアに教授している。
 彼女たちの後ろでは、ミナスが二人のためにお茶を淹れている。
 最近になってアウロラの料理の手伝いをしているためか、手際はやけにいい。

「ねぇ、ミナス。今日は何するの?アタイも手伝うよっ!ガッツ、ガッツ!」
「・・・手伝い?・・・君が?・・・ふぅん?」

 からかうようなミナスの声音に、ペリエがたちまち「酷いっ!」と言って辺りを飛び回った。賑やかである。
 ――夜。
 妖魔の襲撃により、森の外縁がにわかに騒がしくなる・・・・・・!

「・・・おや、出番ですか」

 アウロラは外套をそっと脱いで、魔力を≪氷心の指輪≫に集中し始めた。
 のんびり立ち上がったギルが、重い響きを立てて戦斧を地につける。

「遅かったじゃないか。・・・ちょっと、待ちくたびれたな」

 目視できる距離にきた妖魔たちは、下級妖魔のゴブリンと亜種のホブゴブリンだった。ゴブリンは槍を持って武装している。
 そのほかにコボルトとウルフも一緒に来ているが、戦い慣れた相手であった。

「予想外の切り札くらいは持っているかもしれません。・・・油断は禁物ですよ」
「はいはいっと!」

 アウロラの助言に軽く答えると、ギルは身体と斧を回転させて敵の集団へ切り込んでいった。【薙ぎ払い】である。

ScreenShot_20130119_110216781.png

 たちまち意識不明にさせられていく妖魔側は、すでに立っているのが2匹のみという悲惨なことになっていた。
 斧の刃を翻してホブゴブリンへ向うギルに、アウロラがため息をつきつつも【光のつぶて】の呪文を唱えた。光弾に、あっさりとコボルトが撃ち抜かれる。
 ・・・・・・1日目は、あっという間に終わった。

「おはようございます、先生。昨夜はよく眠れましたか?」

 翌朝、足りないものがあったら遠慮なく言って欲しい、というミナクアの可愛らしさに、”金狼の牙”たちは目を細めた。

 2日目の昼は、特筆すべきことも無く過ぎた。
 夜になればやはり妖魔が襲撃を掛けてきたのだが、せっせと仕掛けている罠で敵の数は減っている。
 アレクは≪黙示録の剣≫を静かに引き抜いた。今夜の彼の仲間は、この剣とお世話をアウロラに代わってもらったミナスである。

「――武器を抜いたからには、覚悟してもらおう」
「渓流の精霊よ。君の水圧で撃ち払って!」

 今夜の襲撃にはゴブリンシャーマンが紛れていたので、呪文を警戒したミナスは【渓流の激衝】を使った。この呪文は、激流で敵を吹き飛ばすことで沈黙させることができるからだ。――ただ、ナパイアスの激流は強すぎて、必ずしも狙った相手にいくわけでもないのだが。
 猛々しい中位精霊は、あっという間にその水流で敵を文字通り押し流していった。

「・・・・・・」
「・・・ジーニ。何か心配事でも?随分と険しい顔をなさってますが・・・・・・」
「・・・いえ、大したことじゃないわ。まだ確信のもてる話じゃない」

 杖の先についた灰色の髑髏を顎に当てつつ、彼女は呟いた。

「ただ、どうして妖魔達はいつも決まった時間にほぼ同じ方向から攻めてくるのか――それが、少し気になっただけ」
「・・・・・・」

 その横では、罠を作成し終わったエディンも所在無げに小石を放り投げながら、ミナクアの眠る湖のほうを見ている。

 3日目、4日目、5日目・・・と大過なく日々は過ぎていった。
 相変わらず、妖魔達の夜の襲撃は止むことを知らないかのようである。

「さぁ、それでは、授業を始めよう。最初のキーワードは・・・・・・」

 ジーニはミナクアに知識を授けながら、いつかの夜に巡回している以外の仲間たちと話していた事項を思い浮かべていた。

「――定刻どおりの襲撃。同方向からの襲撃。同規模の部隊での襲撃」
「・・・ジーニ。前に言ってたこと、当たってるかもしれないね」
「・・・どういう事?」
「・・・妖精達に妙な話を聞いたんだ」

と言って、ミナスは居住まいを正した。

「あの妖魔達、日中には森の外縁で何かを探っているらしい」
「もうすぐ満月だ。ミナクアの転生も完了する。その前に何かを仕掛けてくるかもしれねえな」

 エディンは、細剣の柄の感触を確かめるように撫でている。
 彼の手を眺めながら、ジーニは自分の懸念が当たらなければいいのにと、ため息をついた。

2013/01/21 12:03 [edit]

category: 翡翠の海

tb: --   cm: 0

Mon.

翡翠の海 1  

1.周辺地区は結界で平和。
2.結界はミナクア様が管理。
3.ミナクア様の転生で結界消滅。
4.妖魔が祭り状態←いまここ

「・・・――というわけで、これは大変なピンチなのよ」

 彼らをこの地に誘った小妖精は、腕を組んでうんうんと唸りながらそう言った。
 偶然にもある旅の帰りにこの地を訪れた”金狼の牙”たちが、この小妖精に近隣の宿場町で叩き起こされてから既に1刻となる――。

「ああ・・・もうそろそろ、夜が明けますね」

 しみじみとアウロラが呟いた。出発時にはまだ暗かったのだが、もうそんな時刻らしい。

「・・・ええと。それで、そちらにいらっしゃるのが――?」

 アウロラは重い瞼を持ち上げ、あくびをかみ殺しながら訊ねた。

「――あ、はいっ。お話に上りました大精霊ミナクアです!」

 ”金狼の牙”たちが視線を向けると、今まで湖岸に腰掛けてジャブジャブと水面を足で掻き混ぜていた少女が、すっと立ち上がってお辞儀した。
 大精霊などという大仰な肩書きとは裏腹に、その姿は歳が二桁になるかならないか程度のなんとも幼いものである。歳より小柄なミナスといい勝負だろう。大精霊は何百年かに一度転生を果たすそうだが、とても”玉泉水”の二つ名が付くようには見えない。

「・・・ミナクア様はさっき起きたばかりなのよー。お姿も随分と可愛らしくなってしまって・・・・・・」
「結界の事なんて、きれいサッパリです!」

ScreenShot_20130119_094614812.png

 大精霊はお下げ髪を弄りながら恥ずかしそうにそう言うと、ペロっと舌を出して照れ笑いをする。

(大精霊といえば、精霊王に次ぐ程の強大な存在――ってお母さん言ってたっけ。その大精霊がこんな状態じゃあ、この周辺地域の安全は・・・・・・)

 ミナスは心中で慌てていた。
 そんなたいそうな存在に出会う機会は滅多にないはずだが、実際に出会った上、転生に立ち会うようなことになるとは想像の外だからである。
 一方、その余りに緊張感の無い仕草に他の冒険者たちは揃ってため息をつく。
 ギルは”清流の飛沫”ペリエ――自分達の顔に濡れ布巾を被せるという危険な方法で叩き起こしてくれた――に目を向けた。彼女はミナクアに仕える下級妖精だと言う。
 青みがかった透き通る姿は確かに清流の名に相応しいが、口調はかなりフレンドリーである。

「依頼内容は道中に説明した通り、7日間の森の警備と、ミナクア様の特訓よ!」
「特訓・・・・・・ねえ」
「お姉さまの話では、ミナクア様がお力を取り戻すまで丁度一週間かかるらしいわ。・・・なんか、月齢の関係みたい」

 森の警備とはなんだ、と聞いたのはエディンである。
 目をこすりつつだから、彼の目が眠たげなのは本当に眠いからなのだろう。

「結界が弱まったのをこれ幸いって、毎日夜になると南方の魔軍から魔物の刺客が来るのよぉ」

 ウザくってウザくって、とペリエの口調はのんびりしているが、それは結構な大事なのではないだろうか。

「だから、森を巡回したり罠を設置したりして連中を撃退してほしいの」
「・・・なるほど。そんじゃ、もう一つの”特訓”というのは?」
「ミナクア様の霊力を高めるお手伝い。具体的には、勉強の手伝いと周辺のお世話系のお仕事ね」

 一週間も経てば、大精霊ミナクアの力は結界の維持に十分な程には回復するのだと言う。
 しかし、本当のことを言えばそれだけでは少し心許ないらしい。ジーニが確認する。

「・・・心許ない?」
「一週間後のミナクア様が張れる程度の結界では、ゴブリンなんかの低級の妖魔なら完全に無力化できるんだけど――」
「問題は上級妖魔ってこと?」
「行動に支障を与えるのがやっとの話でね・・・・・・」

 それで”金狼の牙”達がいる内に、出来る限りの力をつけて欲しい――というのが彼女の意向であった。
 ミナクアの頭がしゅんと下がる。

「・・・あぅ、力不足でごめんなさい」
「――あっ、いえ、違うのっ!お気になさらないで!つ、つまり、アレよ」
「どれよ」
「修行をつけて欲しいんだってお姉さまが言ってたわ。・・・折角、精霊の扱いにお詳しい方もいるみたいだし」

 仲間たちの視線がミナスに突き刺さる。この小さなエルフは優秀な精霊使いで、水や氷に親和性が高い。

「日頃、手助けしてるんだから、こういう時はしっかり、ね?」
「・・・うん、いつもお疲れ様。キミ達には感謝してるよ」

 でも・・・と、頼られて嬉しいのが半分、困惑してるのが半分といった表情でミナスが続ける。

「あんまり期待しないでね。こういうのは専門外だから・・・・・・」
「そういうわけで、ミナクア様。この冒険者たちの言う事をちゃんと聞いて、しっかり勉強してくださいね!」
「はいっ、前向きに善処します!」
「えっ、善処だけじゃダメじゃね?」

 ぼそっとギルが言ったが、その発言は黙殺された。
 何でも質問していいとペリエが言うので、ミナスは小首を傾げて訊ねる。

「君は下級精霊の中でも下位、いわば下っ端の存在でしょう?もっと上位の精霊は、一体、何をやってるのさ?」
「――下、下言うなッ!アタイは雑魚じゃない!足軽なめんな!投石すんぞ!」

 ペリエは背負った天秤から飛沫をぴちゃぴちゃとミナスの上に降らせてから、頬を膨らませ答える。

「本当は直接のお世話は姉さま達がするんだけど、今は結界の維持と転生の儀に出向いてて、アタイしか手が空いてないのよ!」
「お姉さま――。中位の精霊や妖精、例えば、ウンディーネ達か・・・・・・」

 精霊使いの脳裏に澄んだ水から顕現する乙女達の姿が浮かんだ。

「翡翠の海のミナクアといえば、精霊使いの間では、それなりに有名な存在なんだよ」
「そうなのですか?」
「・・・・・・俺には、残念ながらただの子どもにしか見えん」

 アレクは唸った。
 かつて古き神殿で出会った海精はもっと神秘的な佇まいをしていたのだが、同じ眷属に見えない。

(俺が精霊使いとしての素養に欠けてるからだろうか・・・)

 唸る仲間に構わず、ミナスは説明を続けた。

「この周辺の土地が綺麗で豊富な水に恵まれて、農作物の生産が安定しているのも、彼女の存在による所が大きいんだ」
「そそ、ミナクア様はえらいんだからね!あがめたてまつれ」

 小さな羽根を懸命に動かして宙返りをしたペリエが強調する。

「――でも、彼女の転生に関する資料なんて、この辺りの精霊宮では目にしたことが一度もないよ?」
「毎回、転生のときは魔物に狙われるらしいけど、ドゥルイドとかエルフの協力で何とかしてたんだって」
「あー・・・・・・」

 まさか、自分の血族――とりわけ母なども関わったことがあるのではないだろうか。
 小さなエルフはたらーりと一筋の汗を流した。
 そんな彼を他所に、ペリエは「服に十字をつけた人」を見るようになってから、そういう守人を見ることは無くなったと語った。

「人間は慌しいからね。セカセカしてるというか、カサカサしてるというか。・・・人の世は無常だわ」
「・・・そこっ。人間をゴキブリみたいに言わない」

 アレクが顔をしかめる。
 報酬を確かめると、宝石で800sp相当を支払うつもりらしい。ジーニはなにやら不満げだが、ミナスはすっかりやる気になっているようだし、精霊使いとして貴重な経験になるのであれば、仲間として協力するのにやぶさかではない。
 ペリエに巡回や勉強等の役割分担について詳細を聞き、一行は早速仕事に取り掛かることにした。

2013/01/21 12:00 [edit]

category: 翡翠の海

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