Wed.
葡萄酒運びの護衛 5 
エディンから怪我の有無を問われて、大丈夫と返したエレンだったが、はっと顔を上げると、「同行者だった若者の遺体を探してほしい」と、冒険者たちに頼んできた。
きっと、その若者とエレンが、親しい間柄であったろうことは、想像に難くない。
山賊たちの口ぶりからすれば、遺体はそう遠くないところにあるだろうと、ジーニが予測した通り、無残なそれはすぐ見つかった。
ごめんなさいと泪を流して謝るエレンを、アレクがそっと慰めた。
「私に力がなかったせいで・・・・・・。私が自分の身を守れたら、こんなことにはならなかった・・・・・・」
「エレンさん・・・・・・」
それ以上は、もう言葉にはできなかった。
それからは何事もなく山を越え、冒険者たちは無事にカラコ村へ葡萄酒を届けることが出来た。
エレンは村長に事のあらましを報告し、村では青年の死を弔う葬送が厳かに行われた。
そして翌日。
別れを惜しむエレンと、出立の用意を既に整えた冒険者たちの姿が、そこにあった。
「貧乏暇なしってやつさ」と嘯くギルに、エレンが寂しげに微笑んだ。
「残念です・・・・・・」
そして彼女は、約束の報酬の他に、特産品の織物を差し出して言った。
「私・・・・・・、剣を習ってみようと思うんです」
傷つけるためではなく、自分が誰かを守れるように、と語るエレンの顔は、泣いたせいで腫れぼったい目をしていたけれど、晴れ晴れとした様子だった。
来年も自分がリューンに買い付けに行くだろう、だからそれまでに・・・と語る彼女の決心は、なによりも堅いようだ。
剣の修行頑張れよ、また機会があったら会おう、と冒険者たちはエレンに呼びかけ、狼の隠れ家への帰途に着いたのだった。
※収入600sp、織物(売値300sp相当)※
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
2回目のお仕事は、でざーとわいんさんの葡萄酒運びの護衛です。
初めての護衛ということで、最後の決断がかっこいいエレンさんを、村まで送り届けさせてもらいました。
きっと、死んでしまった若者に対して、淡い恋心とか慕情とかあったんだろうな・・・と思うと、ちょっとやりきれない感じも致しますが、そういうほろ苦さも含めて、冒険者の仕事ということで。
たった三日間の同行ではありましたが、各々の心にも、何かが残ったことでしょう。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
きっと、その若者とエレンが、親しい間柄であったろうことは、想像に難くない。
山賊たちの口ぶりからすれば、遺体はそう遠くないところにあるだろうと、ジーニが予測した通り、無残なそれはすぐ見つかった。
ごめんなさいと泪を流して謝るエレンを、アレクがそっと慰めた。
「私に力がなかったせいで・・・・・・。私が自分の身を守れたら、こんなことにはならなかった・・・・・・」
「エレンさん・・・・・・」
それ以上は、もう言葉にはできなかった。
それからは何事もなく山を越え、冒険者たちは無事にカラコ村へ葡萄酒を届けることが出来た。
エレンは村長に事のあらましを報告し、村では青年の死を弔う葬送が厳かに行われた。
そして翌日。
別れを惜しむエレンと、出立の用意を既に整えた冒険者たちの姿が、そこにあった。
「貧乏暇なしってやつさ」と嘯くギルに、エレンが寂しげに微笑んだ。
「残念です・・・・・・」
そして彼女は、約束の報酬の他に、特産品の織物を差し出して言った。
「私・・・・・・、剣を習ってみようと思うんです」
傷つけるためではなく、自分が誰かを守れるように、と語るエレンの顔は、泣いたせいで腫れぼったい目をしていたけれど、晴れ晴れとした様子だった。
来年も自分がリューンに買い付けに行くだろう、だからそれまでに・・・と語る彼女の決心は、なによりも堅いようだ。
剣の修行頑張れよ、また機会があったら会おう、と冒険者たちはエレンに呼びかけ、狼の隠れ家への帰途に着いたのだった。
※収入600sp、織物(売値300sp相当)※
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■後書きまたは言い訳
2回目のお仕事は、でざーとわいんさんの葡萄酒運びの護衛です。
初めての護衛ということで、最後の決断がかっこいいエレンさんを、村まで送り届けさせてもらいました。
きっと、死んでしまった若者に対して、淡い恋心とか慕情とかあったんだろうな・・・と思うと、ちょっとやりきれない感じも致しますが、そういうほろ苦さも含めて、冒険者の仕事ということで。
たった三日間の同行ではありましたが、各々の心にも、何かが残ったことでしょう。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
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Wed.
葡萄酒運びの護衛 4 
2日目から御者がエレンに変わった。
街道を外れるとあまりのでこぼこ道に、慎重に馬車を操る必要があったので、村で一番の腕前だと自負する彼女が、手綱をギルから取ったのだった。
馬車はその後、順調に進み、その晩は山のふもとで野宿となった。
3日目、冒険者たちは山に入った。
その途端、エレンが急にそわそわし始めた。
怯えた表情で何度も周囲を見回している。
そういえば、この山は山賊が出ると宿の亭主が言っていた。
ギルがさり気なくエレンの隣に移動し、いつでも得物を抜けるように体勢を整える。
アウロラが護身用のナイフを、ミナスがポケットの中の礫を軽く握った。
ジーニがじっとエレンを見つめる中、アレクとエディンは周囲の様子をじっと探っていた。
「心配するな」
と、ギルが柄に手を乗せたままエレンに言った。
「え?」
「山賊が出るんでしょう?警戒は私たちに任せて、エレンさんは運転に専念してくださいな」
「あ、そうですよね・・・・・・。ごめんなさい、私ったらつい・・・・・・」
ギルが軽くエレンの方を叩いた。力を入れすぎていては、馬にその緊張が伝わってしまう。
その仕草をどうとったのか、エレンは、
「何だか怖いです・・・・・・。でもこの山を越えないと、村には帰れない・・・・・・」
と、心なしか青白い顔で呟いた。
それまで、山賊や野生動物が襲ってくる気配を探っていたエディンとアレクが口を開いた。
「恐らく戦闘になるぜ。覚悟を決めて進むしかないな」
「人数までは、はっきり掴めないが・・・これは待ち伏せてるな」
「ミナス」
ギルが呼ぶと、ミナスは初の冒険で得た呪文を唱え始めた。【蛙の迷彩】だ。
これは、魔法の結界で、周囲の風景と味方全員を同化させる効果があり、敵の攻撃を一時的に回避しやすくなる。
ミナスの気力は随分と奪われたが、その結界は心強い。
一行は馬車を進めるよう、エレンに進言した。
「ねえ、1つ気になっていたことがあるんだけど・・・・・・」
それまでエレンを見つめて黙っていたジーニが、口を開く。
「何だ?」
「この山には山賊が出るんでしょ?エレンさんは来た時もこの道を通ったの?」
「・・・・・・そ、そうですけど・・・・・・」
「何が言いたいのですか?」
「アレクもアウロラもさあ、思わない?不自然じゃない?エレンさんは1人で宿にいた」
エレンの顔色がドンドン悪くなっていくのを見ながら、なおもジーニは続けた。
「行きがけの護衛はどうしたの?」
「・・・・・・」
「言われてみれば・・・・・・そうだな。他の村人と一緒に来たのなら、その人がいないのはおかしい・・・・・・」
エディンの台詞に、アウロラがはっと気付いたように言った。
「それに、護衛がいたのなら帰りだけ私達に頼む必要もないですしね」
「そ、それは・・・・・・」
その時、木の上から矢の雨が降ってきた。
得物を持った者達全員で、それを弾いた後、だみ声が上がった。
「へへへっ・・・・・・。やるじゃねえか」
「今度はプロの冒険者を雇ったみてえだな」
「『今度は』?」
山賊たちの言葉に、ミナスは首を傾げた。
山賊は、ニヤニヤとした薄ら笑いを浮かべたまま、エレンを行きがけに襲い、彼女をかばった連れの若者を、エレンが置いて逃げたことを告げた。
「私は最低の女です・・・・・・」
そう言って嘆く依頼人の姿に、山賊へたいして憤った冒険者たちは得物を向けた。
たちまち始まる剣戟だったが、ミナスの唱えた魔法効果がよく効いている。
山賊のショートソードが、山の景色に溶け込んだ冒険者たちの姿を、なかなか捉えることができないでいる。
そして、冒険者側はギル一人が負傷する程度で、山賊のリーダーを仕留めることができた。
ギルやエディン、アレクが少しずつかすり傷を負わせ、山賊のリーダーが避けきったと油断した所を、アウロラのナイフが急所を抉ったのだ。

リーダーを失った山賊たちは、冒険者たちの目論見どおり、一斉に逃げ出した。
恐らく、もうこの山に戻って来ることはないだろう・・・・・・。
街道を外れるとあまりのでこぼこ道に、慎重に馬車を操る必要があったので、村で一番の腕前だと自負する彼女が、手綱をギルから取ったのだった。
馬車はその後、順調に進み、その晩は山のふもとで野宿となった。
3日目、冒険者たちは山に入った。
その途端、エレンが急にそわそわし始めた。
怯えた表情で何度も周囲を見回している。
そういえば、この山は山賊が出ると宿の亭主が言っていた。
ギルがさり気なくエレンの隣に移動し、いつでも得物を抜けるように体勢を整える。
アウロラが護身用のナイフを、ミナスがポケットの中の礫を軽く握った。
ジーニがじっとエレンを見つめる中、アレクとエディンは周囲の様子をじっと探っていた。
「心配するな」
と、ギルが柄に手を乗せたままエレンに言った。
「え?」
「山賊が出るんでしょう?警戒は私たちに任せて、エレンさんは運転に専念してくださいな」
「あ、そうですよね・・・・・・。ごめんなさい、私ったらつい・・・・・・」
ギルが軽くエレンの方を叩いた。力を入れすぎていては、馬にその緊張が伝わってしまう。
その仕草をどうとったのか、エレンは、
「何だか怖いです・・・・・・。でもこの山を越えないと、村には帰れない・・・・・・」
と、心なしか青白い顔で呟いた。
それまで、山賊や野生動物が襲ってくる気配を探っていたエディンとアレクが口を開いた。
「恐らく戦闘になるぜ。覚悟を決めて進むしかないな」
「人数までは、はっきり掴めないが・・・これは待ち伏せてるな」
「ミナス」
ギルが呼ぶと、ミナスは初の冒険で得た呪文を唱え始めた。【蛙の迷彩】だ。
これは、魔法の結界で、周囲の風景と味方全員を同化させる効果があり、敵の攻撃を一時的に回避しやすくなる。
ミナスの気力は随分と奪われたが、その結界は心強い。
一行は馬車を進めるよう、エレンに進言した。
「ねえ、1つ気になっていたことがあるんだけど・・・・・・」
それまでエレンを見つめて黙っていたジーニが、口を開く。
「何だ?」
「この山には山賊が出るんでしょ?エレンさんは来た時もこの道を通ったの?」
「・・・・・・そ、そうですけど・・・・・・」
「何が言いたいのですか?」
「アレクもアウロラもさあ、思わない?不自然じゃない?エレンさんは1人で宿にいた」
エレンの顔色がドンドン悪くなっていくのを見ながら、なおもジーニは続けた。
「行きがけの護衛はどうしたの?」
「・・・・・・」
「言われてみれば・・・・・・そうだな。他の村人と一緒に来たのなら、その人がいないのはおかしい・・・・・・」
エディンの台詞に、アウロラがはっと気付いたように言った。
「それに、護衛がいたのなら帰りだけ私達に頼む必要もないですしね」
「そ、それは・・・・・・」
その時、木の上から矢の雨が降ってきた。
得物を持った者達全員で、それを弾いた後、だみ声が上がった。
「へへへっ・・・・・・。やるじゃねえか」
「今度はプロの冒険者を雇ったみてえだな」
「『今度は』?」
山賊たちの言葉に、ミナスは首を傾げた。
山賊は、ニヤニヤとした薄ら笑いを浮かべたまま、エレンを行きがけに襲い、彼女をかばった連れの若者を、エレンが置いて逃げたことを告げた。
「私は最低の女です・・・・・・」
そう言って嘆く依頼人の姿に、山賊へたいして憤った冒険者たちは得物を向けた。
たちまち始まる剣戟だったが、ミナスの唱えた魔法効果がよく効いている。
山賊のショートソードが、山の景色に溶け込んだ冒険者たちの姿を、なかなか捉えることができないでいる。
そして、冒険者側はギル一人が負傷する程度で、山賊のリーダーを仕留めることができた。
ギルやエディン、アレクが少しずつかすり傷を負わせ、山賊のリーダーが避けきったと油断した所を、アウロラのナイフが急所を抉ったのだ。

リーダーを失った山賊たちは、冒険者たちの目論見どおり、一斉に逃げ出した。
恐らく、もうこの山に戻って来ることはないだろう・・・・・・。
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Wed.
葡萄酒運びの護衛 3 
冒険者たちは日が沈むまで街道を進み、その晩は街道沿いの宿場町で宿をとった。
「この宿なら馬車ごと泊まれそうですね」
そういってエレンが選んだのは、宿場町でも比較的大き目の宿だった。
狼の隠れ家と比べても明らかに大きい。
野宿が当たり前の冒険者たちにとっては、このような宿に泊まるのはかなり珍しいことだ。
部屋に通された後、冒険者たちは宿で準備された食事をとった。それなりに豪華なメニューだったが、味の方は狼の隠れ家の料理と比べると物足りない。
鹿肉と根菜のシチューや川魚のグリルを口に入れ、塩気とハーブが足りないと、小さく眉間に皺を寄せてエディンが唸る。
その顔を見ながら、ミナスが、
「やっぱり親父の味が一番だな」
と笑った。
そんなに狼の隠れ家の料理は美味しいのかと、エレンが首を傾げる。
ジーニは、手元のライスプディングをつつきながら返した。
「エレンさんの口に合うかは分からないけどね。結局、食べなれた味が一番よ」
「確かに、そうかもしれませんね」
食事が終わり、彼らは部屋に戻って打ち合わせをした。
明日は街道から外れ、カラコ村に続く山へ向かう予定だ。
村に続く山道は一本しかないので、迷うことはない。
村までの行程を再度確かめた後、ギルが不意に尋ねた。
「ところで、こんな大きな宿に泊まって、宿代は大丈夫なのか?」
それは、パーティ全員が、なんとなく抱いていた意見だった。
「宿代は村から出ますので、心配なさらなくても大丈夫ですよ」
「へえ。結構裕福な村なのね」
「本当はそんなに贅沢できるお金はないんですけど、安宿に泊まって馬車を盗まれたら困りますから・・・・・・」
アレクが頷く。
「確かに、今は葡萄酒も積んでるし、用心に越したことはないな」
「エレンさん、リューンに来るのが初めてって言ってたけど、意外にしっかりしてるんだな」
ギルの失礼な発言に慌てたのは、礼儀にうるさいアウロラと、交渉役のエディンだ。
二人でギルの口を塞いだが、出てしまった発言は元に戻らない。
無理やりギルの頭を下げさせるエディンと、代わりに頭を下げるアウロラの様子を見て、エレンが困ったように笑う。
「去年まで使いを担当してた人に旅の心得を教わったんです。うちの村は代々そうやって使いのものを育ててきたんですよ」
「へえ、いい先輩がいるんだな」
「もちろん、旅の心得って言っても付け焼刃ですけど・・・・・・。実際外の世界に出てみて、びっくりすることばかりですよ」
その後、エレンに今までの旅の話をして欲しいとせがまれ、眠るまでにまだ少し時間があるからと、こないだの泥沼の大蛇退治について、口々に話をした。
エディンが、俺たちも駆け出しだから、大した話は出来ないぞと前置きしてたのだが、彼女はそれでも真剣に聞き入り、大いに興奮していた。
「この宿なら馬車ごと泊まれそうですね」
そういってエレンが選んだのは、宿場町でも比較的大き目の宿だった。
狼の隠れ家と比べても明らかに大きい。
野宿が当たり前の冒険者たちにとっては、このような宿に泊まるのはかなり珍しいことだ。
部屋に通された後、冒険者たちは宿で準備された食事をとった。それなりに豪華なメニューだったが、味の方は狼の隠れ家の料理と比べると物足りない。
鹿肉と根菜のシチューや川魚のグリルを口に入れ、塩気とハーブが足りないと、小さく眉間に皺を寄せてエディンが唸る。
その顔を見ながら、ミナスが、
「やっぱり親父の味が一番だな」
と笑った。
そんなに狼の隠れ家の料理は美味しいのかと、エレンが首を傾げる。
ジーニは、手元のライスプディングをつつきながら返した。
「エレンさんの口に合うかは分からないけどね。結局、食べなれた味が一番よ」
「確かに、そうかもしれませんね」
食事が終わり、彼らは部屋に戻って打ち合わせをした。
明日は街道から外れ、カラコ村に続く山へ向かう予定だ。
村に続く山道は一本しかないので、迷うことはない。
村までの行程を再度確かめた後、ギルが不意に尋ねた。
「ところで、こんな大きな宿に泊まって、宿代は大丈夫なのか?」
それは、パーティ全員が、なんとなく抱いていた意見だった。
「宿代は村から出ますので、心配なさらなくても大丈夫ですよ」
「へえ。結構裕福な村なのね」
「本当はそんなに贅沢できるお金はないんですけど、安宿に泊まって馬車を盗まれたら困りますから・・・・・・」
アレクが頷く。
「確かに、今は葡萄酒も積んでるし、用心に越したことはないな」
「エレンさん、リューンに来るのが初めてって言ってたけど、意外にしっかりしてるんだな」
ギルの失礼な発言に慌てたのは、礼儀にうるさいアウロラと、交渉役のエディンだ。
二人でギルの口を塞いだが、出てしまった発言は元に戻らない。
無理やりギルの頭を下げさせるエディンと、代わりに頭を下げるアウロラの様子を見て、エレンが困ったように笑う。
「去年まで使いを担当してた人に旅の心得を教わったんです。うちの村は代々そうやって使いのものを育ててきたんですよ」
「へえ、いい先輩がいるんだな」
「もちろん、旅の心得って言っても付け焼刃ですけど・・・・・・。実際外の世界に出てみて、びっくりすることばかりですよ」
その後、エレンに今までの旅の話をして欲しいとせがまれ、眠るまでにまだ少し時間があるからと、こないだの泥沼の大蛇退治について、口々に話をした。
エディンが、俺たちも駆け出しだから、大した話は出来ないぞと前置きしてたのだが、彼女はそれでも真剣に聞き入り、大いに興奮していた。
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Wed.
葡萄酒運びの護衛 2 
はじめの1日は整備された街道を進んだ。
「平和だよねー」
街道沿いの景色を眺めながら、ミナスが言う。
それに同意したのはギルで、彼は手綱を握っていた。
こういった道中の退屈には、彼ら冒険者もそろそろ慣れてきていた。もっとも、そういう油断が危ないとは、先輩からよく戒められていたけども・・・・・・。
退屈に耐えられなくなったのか、エレンの方から話しかけてきた。
「実は私、リューンに来たのって今回が初めてなんです」
「地元から出たことないのか?今時珍しいな」
アレクはリューン出身で、冒険者の父と母がいる。
そのせいで、武器の扱いにも長けており、よく幼馴染のギルとリューン郊外に出かけては、親からお小言と拳骨を貰っていた。
「うちの村は山の向こうにあることもあって、リューンとあまり交流がなくて・・・・・・」
遠くを見るような目で、短く揃えた茶髪を暖かい風になびかせながら、エレンは言葉を続けた。
「年に1度、こうやって葡萄酒を買出しに来るぐらいですね。普段の買い物は近くにある小さな街で済ませてるんです」
「退屈じゃないか?」
と、ギルは手綱を持ったまま言った。
「確かにリューンと違って娯楽はありませんね・・・・・・。もっとも、退屈はしませんよ。仕事が忙しいですから」
「ああ、農作業の手伝いとかね?」
「それもありますけど、女は機織(はたおり)が主な仕事なんですよ。村の織物をリューンで売って、そのお金で葡萄酒を買うんです」
へえ、とジーニとミナスが感心したような声を上げる。
ギルとアレクがアウトドア派なら、今までの人生でインドア派代表だったのがこの二人だ。
ジーニは賢者の塔という特殊機関で、ミナスはエルフの隠れ里という環境にずっといた為、なかなかそういう農村の生活というものが分かっていない。
エレンの説明に、今まで間遠だった村の様子というものが見えてきて、
「なるほどね」
と、ジーニは頷くことしきりだった。
「さあ、行きましょう」
「平和だよねー」
街道沿いの景色を眺めながら、ミナスが言う。
それに同意したのはギルで、彼は手綱を握っていた。
こういった道中の退屈には、彼ら冒険者もそろそろ慣れてきていた。もっとも、そういう油断が危ないとは、先輩からよく戒められていたけども・・・・・・。
退屈に耐えられなくなったのか、エレンの方から話しかけてきた。
「実は私、リューンに来たのって今回が初めてなんです」
「地元から出たことないのか?今時珍しいな」
アレクはリューン出身で、冒険者の父と母がいる。
そのせいで、武器の扱いにも長けており、よく幼馴染のギルとリューン郊外に出かけては、親からお小言と拳骨を貰っていた。
「うちの村は山の向こうにあることもあって、リューンとあまり交流がなくて・・・・・・」
遠くを見るような目で、短く揃えた茶髪を暖かい風になびかせながら、エレンは言葉を続けた。
「年に1度、こうやって葡萄酒を買出しに来るぐらいですね。普段の買い物は近くにある小さな街で済ませてるんです」
「退屈じゃないか?」
と、ギルは手綱を持ったまま言った。
「確かにリューンと違って娯楽はありませんね・・・・・・。もっとも、退屈はしませんよ。仕事が忙しいですから」
「ああ、農作業の手伝いとかね?」
「それもありますけど、女は機織(はたおり)が主な仕事なんですよ。村の織物をリューンで売って、そのお金で葡萄酒を買うんです」
へえ、とジーニとミナスが感心したような声を上げる。
ギルとアレクがアウトドア派なら、今までの人生でインドア派代表だったのがこの二人だ。
ジーニは賢者の塔という特殊機関で、ミナスはエルフの隠れ里という環境にずっといた為、なかなかそういう農村の生活というものが分かっていない。
エレンの説明に、今まで間遠だった村の様子というものが見えてきて、
「なるほどね」
と、ジーニは頷くことしきりだった。
「さあ、行きましょう」
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Wed.
葡萄酒運びの護衛 1 
「なかなか、いい依頼がないね・・・」
綺麗な爪のついた指で、羊皮紙をぺらぺらめくりつつ、ジーニがため息をついた。
「せっかくミナスが補助魔法覚えたんだから、また退治物やってもいいんじゃねえ?」
「いや、よく考えろリーダー。俺らの所持金を」
「何しろ、自由都市グラードの破魔の呪符を、何かに使えるかもと、宿の先輩から買ったばかりだからな。30spだったとは言え、金がないことに変わりはない」
エディンとアレクが口々にギルを諌めるのを横に、ジーニが「あ」と小さな声を上げて、一枚の依頼書をギルに見せた。
「これとかどう?」
「あ?葡萄酒運びの依頼?」
どんな依頼?とギルから声をかけられた宿の親父が言うには、西の山向こうのカラコ村からの依頼らしい。
「収穫祭で使う葡萄酒を運ぶのに護衛が欲しいそうだ」
「それで報酬が600spとか・・・前の依頼の約二倍!」
「ま、当然のごとく、それだけ危険も上がる可能性だってあるんだろうけど」
ジーニの突っ込みに、アレクが苦笑いした。
「それは聞けば分かる。親父さん、村までの日数と危険度を知りたいな」
「村までは馬車で片道3日ほどだ。街道が通ってるが、途中、山賊の出る山道も通る必要がある」
親父の説明に、全員が何となく顔を見合わせた。
危険度も日数も前より上がるが、正直、葡萄酒目当て程度の山賊ならば、今の自分たちでも何とかできるのではないだろうか。
親父が、絶妙のタイミングで依頼を受けるか聞いてきた。依頼人がこの宿にいて、返事を待っているらしい。
彼らの答えは、もう決まっていた。
親父に呼ばれてやってきたのは、若い女性だった。
エレン、と自己紹介をした依頼人は、どこかおどおどとした印象が付き纏っている。

アレクが葡萄酒の場所を尋ねると、緊張した面持ちで、
「は、はい・・・・・・。リューンの酒問屋に取り置いてもらってます。後は馬車に荷物を積み入れるだけです・・・・・・」
と答えた。
妙におどおどしすぎる――と思ったのはジーニだった。
荒くれ者と変わらない冒険者に気後れしているのか、それとも何か他に理由があるのか。
しかし、一度引き受けると言ってしまった依頼である。あまり口は挟みたくなかった。
エレンの答えに、先ほどまでミナスと一緒に荷物整理をしていたアウロラが、彼女の台詞を聞いて軽く頷いた。
「それじゃ今日中に積み入れを済ませて、明日の朝出発しましょう」
酒は環境で味が変わりやすい。早めに運ぶに越したことはないだろう。
冒険者たちはエレンと共にリューンの酒問屋に赴き、大量の葡萄酒を馬車に積み込んだ。
翌日、冒険者たちはエレンの操る馬車に乗って宿を発った・・・・・・。
綺麗な爪のついた指で、羊皮紙をぺらぺらめくりつつ、ジーニがため息をついた。
「せっかくミナスが補助魔法覚えたんだから、また退治物やってもいいんじゃねえ?」
「いや、よく考えろリーダー。俺らの所持金を」
「何しろ、自由都市グラードの破魔の呪符を、何かに使えるかもと、宿の先輩から買ったばかりだからな。30spだったとは言え、金がないことに変わりはない」
エディンとアレクが口々にギルを諌めるのを横に、ジーニが「あ」と小さな声を上げて、一枚の依頼書をギルに見せた。
「これとかどう?」
「あ?葡萄酒運びの依頼?」
どんな依頼?とギルから声をかけられた宿の親父が言うには、西の山向こうのカラコ村からの依頼らしい。
「収穫祭で使う葡萄酒を運ぶのに護衛が欲しいそうだ」
「それで報酬が600spとか・・・前の依頼の約二倍!」
「ま、当然のごとく、それだけ危険も上がる可能性だってあるんだろうけど」
ジーニの突っ込みに、アレクが苦笑いした。
「それは聞けば分かる。親父さん、村までの日数と危険度を知りたいな」
「村までは馬車で片道3日ほどだ。街道が通ってるが、途中、山賊の出る山道も通る必要がある」
親父の説明に、全員が何となく顔を見合わせた。
危険度も日数も前より上がるが、正直、葡萄酒目当て程度の山賊ならば、今の自分たちでも何とかできるのではないだろうか。
親父が、絶妙のタイミングで依頼を受けるか聞いてきた。依頼人がこの宿にいて、返事を待っているらしい。
彼らの答えは、もう決まっていた。
親父に呼ばれてやってきたのは、若い女性だった。
エレン、と自己紹介をした依頼人は、どこかおどおどとした印象が付き纏っている。

アレクが葡萄酒の場所を尋ねると、緊張した面持ちで、
「は、はい・・・・・・。リューンの酒問屋に取り置いてもらってます。後は馬車に荷物を積み入れるだけです・・・・・・」
と答えた。
妙におどおどしすぎる――と思ったのはジーニだった。
荒くれ者と変わらない冒険者に気後れしているのか、それとも何か他に理由があるのか。
しかし、一度引き受けると言ってしまった依頼である。あまり口は挟みたくなかった。
エレンの答えに、先ほどまでミナスと一緒に荷物整理をしていたアウロラが、彼女の台詞を聞いて軽く頷いた。
「それじゃ今日中に積み入れを済ませて、明日の朝出発しましょう」
酒は環境で味が変わりやすい。早めに運ぶに越したことはないだろう。
冒険者たちはエレンと共にリューンの酒問屋に赴き、大量の葡萄酒を馬車に積み込んだ。
翌日、冒険者たちはエレンの操る馬車に乗って宿を発った・・・・・・。
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