Sun.

花を巡りて・・・ 6  

 一際広い異様な部屋の中にあったのは、今までに見たこともないような装置だった。
 中央の透明な筒状のモノの中にあった怪物は、今や”金狼の牙”たちの目の前に倒れている。
 3メートルを越える、深紅の巨躯に鋭い牙と鍵爪を持つ・・・・・・炎の悪鬼、バルログ。
 正体を看破したジーニなどは、見た瞬間に悲鳴を上げた。
 とはいえ、バルログが冷気に弱いことも承知していたので、一行はジーニの助言に従い、冷気属性の攻撃を主軸に戦ったのである。 

「ディーンのお母さんに、どう顔向けすればいいんだよ・・・」

 涙をこぼすミナスを慰めようと、ギルは亜麻色の頭を不器用に撫でながら言った。

「・・・お前一人が思いつめることではない。放置しておけばヤツはさらに成長し、手がつけられなくなっていただろう・・・」

 そして、成長したバルログはレピア村に牙を向いたかもしれない。それは極めて可能性の高い未来図だった。

「俺たちが倒したのはただの怪物だ。ディーンは今ごろリューンで頑張ってるんだ・・・そう考えようぜ」

 そして一行は、バルログのいた部屋のさらに奥へと進んだ。
 最後の部屋に入った”金狼の牙”たちは、瞬時に独特の空気を感じ取った。
 いつかと同じ、神秘的な・・・。

ScreenShot_20130116_153411281.png

「・・・フィロンラの花・・・あの時と、同じ・・・」

 ジーニが呆然とした様子で言う。
 彼らが見覚えのある花の筒に近付くと、不意にその筒が開き、花がこぼれ出てきた。

「おっとっと・・・・・・」

 ミナスが慌てて駆け寄り、それを拾い上げる。

「・・・これで、せめてレミラさんは喜んでくれるかな・・・」
「ああ・・・さあ、早く届けてやろうぜ」

 哀しそうに目を伏せたミナスを、アレクがそう言って慰める。
 一行は洞窟を後にし、レピアへ向かった・・・。

「・・・村長への報告は、後でも出来るだろう。今は一刻も早く、この花をレミラさんに届けようぜ」
「ええ・・・そうね」

 夕暮れ前に村にたどり着いた冒険者たちは、大人コンビの指示でレミラの家へと足を向ける。
 まずミナスがノックした。ところが返事が無い。

「・・・あれ?どこかへ出かけてるのかな?」
「まあ、じきに日が暮れれば帰ってくるでしょう。中で待たせてもらいますか?」
「そうだね・・・」

 失礼します、という言葉と共にドアを開けたミナスは、一瞬にして声を失った。
 レミラの母親が、床に突っ伏していたからだ。すぐさま助け起こす。

「ど、どうしたの!?大丈夫?しっかりして!」
「・・・ミナスさん・・・みなさん・・・大丈夫・・・いつもの事です・・・少し・・・休めば、すぐ・・・」

 顔をあげ、うつろな視線で見上げ、あえぐようにミナスに声をかける。アウロラが脈を計りながら彼女の様子を窺うが、症状は軽くないことが見て取れる。

「お、お母さん!しっかりして!!」

 そこにちょうど外から聞きつけたのか、レミラが慌てて入ってきた。
 冒険者たちの手助けを受け、慣れた手つきで迅速に介抱を進めていく・・・。
 ・・・ようやく落ち着きを取り戻したのは、1時間以上も経ってのことだった。それまで荒かった呼吸も、今では安らかな寝息に変わっている。

「レミラさん・・・」

 ギルが呼びかけると彼女は全員を外へと促し、澄んだ小川の土手まで移動した。強張った雰囲気を何とかしようと些細な話題から切り出すものの、ミナスが不安そうな顔で固まっているのを見て、レミラは決心したように口を開いた。

「・・・ごめんなさい。私、みなさんに隠していたことがあります。実は、お母さんは・・・あの病気にかかっているんです」
「・・・!!まさか・・・」

 一番先に反応したのはエディンだった。

「・・・そうです。不治の病・・・現段階でどうしても治らない病気・・・フィロンラの花を除いて」
「・・・なんてこった・・・」
「もしかして、レミラさんが医術研究の道を志したのは・・・」
「・・・ええ、そうです。全ては母の病を治すため・・・」

 レミラの話では、すでに母親は半年くらい前から発作を起こしているという。
 幼い頃に違う病気で父を亡くしたレミラは、今度こそ何かを為そうと医術研究の道へ進んだ。
 彼女は続ける。

「・・・フィロンラの花があるという情報が入り、私が同行すると決まった時・・・なにがなんでも手に入れて、お母さんを治してあげようと、最初は思ってました・・・でも」

 そこで顔を伏せる。

「先生が必死に探して、やっとの思いで見つけたフィロンラの花・・・それに・・・みなさんが、ボロボロになって私をここまで連れてきてくれて、花を取ってきてくれたと思うと・・・」
「・・・・・・・・・」
「胸が痛くて・・・どうしたらいいのか分からなくて・・・」

 レミラは涙を流していた。
 今までずっと悩んできたのだろう。支えが外れたように、涙があふれ出てくる。

「おかしい、ですよね・・・フィロンラの花を手に入れるつもりでなら、こんなこと話さないで・・・黙って・・・私が皆さんから受け取って、先生には私から嘘の報告すればいいのに・・・」

 答えの出ない彼女は、ついに言った。「その花をどうするか・・・みなさんで決めて下さい」と。
 議論は白熱した。ミナスはレミラの母を救うべきだと主張し、ジーニは特効薬のためにヴィアーシーに渡すべきだと反論する。
 レミラの母が特効薬の完成までもつという保証は無く、花は一輪しかない。
 全員がギルの決定に従うと頷いた時、ギルは迷わずに言った。

「フィロンラの花は・・・・・・」

ScreenShot_20130116_162540750.png

 ――その後、彼らはリューンに戻ってきた。
 彼らはヴィアーシーのもとを訪れ、報告と調査結果として日誌を渡してきた。・・・レミラは同行していなかった。
 彼女は、一行に報酬の1500spと、ヴィアーシーからの預かり物を託し、レピアに留まったのだ。
 預かっていた物をヴィアーシーに返し、偽りの理由を話した。
 ・・・彼は、気づいていたのかもしれない。だが、彼は何も尋ねず、一行が返そうとした前金も受け取ろうとはしなかった。

「・・・・・・本当にこれで良かったのかしらね、エディ」
「さてねえ。正解なんてものはないからな」

 ジーニとエディンは他の面子が部屋に入って休むのを横目に、一階で酒を酌み交わしていた。

「ただ、リーダーなりに感じ取ったんだろうよ。レミラさんが医術研究家としての道を閉ざす覚悟もしてたってこと。大勢の患者を捨ててまで母親救っちゃ、もう胸張って研究を続けられねえ」

 ぐびりとエールを煽る。

「それでも、たった一人の母親失くすよりゃマシだって思ったんじゃねえか?あいつも母子家庭だからな」
「辛い思いするでしょうね、レミラさん。後ろ指さされるって言うのは嫌なものよ」
「あの人なら、逃げずに受け止めるさ。俺らは精々、彼女のおっかさんが長生きしてくれることを祈ろうぜ」

 杯を掲げたエディンをしばらく見やり、やがてジーニも自分の持つワイングラスを捧げて祈った。

※収入2000sp、≪宝石(400sp相当)≫≪コカの葉≫入手※

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■後書きまたは言い訳
26回目のお仕事は、がじろーさんのシナリオで花を巡りて・・・です。Askさん作「遺跡に咲く花」とのクロスオーバーなので、前述のシナリオをやってから開始すると色々感慨深いですね。あと、こちらは同氏の「護衛求む」や、ブイヨンスウプさん作「竜殺しの墓」にも対応している台詞があるので、プレイされた方はにやりとされるかもしれません。
「竜殺しの墓」から今作をやるのは、一度レベル上げてからドレインしないとちょっと辛いですけれども。(笑)

最後のエディンとジーニのシーンはオリジナルです。
蛇足かなとは思ったのですが、リーダーであるギルがその選択を行った理由を、一歩離れた位置から推測させたかったので、このような書き方となりました。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/20 17:13 [edit]

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Sun.

花を巡りて・・・ 5  

 見つけた洞窟の内部は明るかった。光ゴケ、あるいは魔法で壁や天井から発光させているのかもしれない。
 明らかに自然の洞窟ではなく、人の手がしっかり入っていた。
 無限回廊の罠に嵌まり、慌てて引き返したところをムカデ型のゴーレムと一戦交える羽目に陥った一行は、鍵の掛かる小部屋で身体を休めていた。
 これほど消耗しているのは、以前出会った大ムカデと一緒で頭が弱点だと思っていたのが、ゴーレムの特性で別の場所に埋め込まれた「核」が弱点だったためである。

ScreenShot_20130116_143419171.png

 小休憩を終えると、一行はエディンが無限回廊の近くにあると睨んだ場所の所まで引き返した。

「・・・あったぜ。本物の通路だ」

 壁の凹みに紛れるようにしてあったスイッチを押すと、一部がスライドして隠し扉が現われた。
 扉を潜ると、さらに長い通路が続いていた。途中で二手に分かれており、”金狼の牙”たちは真っ直ぐ進んだ。だが、行き当たりの扉は特殊な鍵が必要なようで、エディンの技術では開かないという。
 仕方なく一行は分かれ道まで引き返し、もう一つの扉の方へと向かった。

「・・・ここは書斎のようだな」

 呟いたエディンが辺りを探索すると、一冊の本が目に付いた。どうやら、研究の進み具合が日記形式で綴られているようだ。
 ジーニが手渡された本を手早く捲り、関係のありそうな項目をざっと洗い出した。

「いくわよー。『私の思った通り、この遺跡は幻の花「フィロンラ」を人工的に培養するための施設だった。そのための設備や資料もわずかながら残っていたのは幸いだった』・・・ふーん」
「あ、やっぱりここって、フィロンラの花に関わりあるところなんだね!」
「『これがうまく行けば、世界では難病と言われているあの病気が全て、いとも簡単に治ってしまうのだ。なんという素晴らしいことか・・・・・・』面白くないなあ」
「え、何が?」
「いや、真っ当すぎて何か癇に障るわあ」
「ジーニ・・・・・・」

 呆れたようにアレクが言う。「冗談よ、冗談」と流すと、ジーニはその先を続けた。
 5月1日まで設備を四苦八苦しながら作っていく様子が書かれており、3つのポットまでを復元して培養を始めることにしたとある。
 フィロンラの研究がひと段落した日記の主は、遺跡に残っていた他の書物を漁ってみたらしい。
 星の研究から、物の運動。当時の文学から人工生命体まで・・・・・・。

「ここから、どういうわけか日付が飛んでるのよね。『私は大きな勘違いをしていた。この遺跡でのフィロンラの研究は、2次的なものに過ぎなかった』」
「へっ!?だって、それが目的でここに来たんじゃ・・・」
「ところがどっこい、『本当の研究は、人工生命体に関してだったのだ』とか書いてるわよ。強力な生命体を作れるかもとか・・・こいつ、なんかに取り憑かれてたんじゃないかなあ」
「・・・考えられるのは、人工生命体を作成していた古代魔術師の妄執、か?」
「もしかしたらね~。しばらく生命体の研究データが続いてるわ。あたしに詳細はわかんないけども・・・お、最後に正気を取り戻したっぽい・・・」

 唐突にジーニが鼻に皺を寄せて唸った。エディンが「どうした?」と訊くと、本当にこれ以上続けていいのかと聞き返される。
 わざわざそれを口にするということは、ろくでもない内容に違いない。ギルはしばらく上を見て考えていたが、ジーニに頷いてみせた。

「覚悟してよね。『操られていたとはいえ、人間の手で・・・強力なモンスターを作るなどと・・・神を冒涜するような行為だ。あまつさえ、私の作った生命体が不安定であるため、村の青年を一人拉致し、融合させるということまでしてしまったようだ。何と言うことを、私は・・・』」
「・・・・・・!まさか・・・」
「『いずれ、ヤツは完全な姿になり、世に災厄をもたらすだろう。これを見た者がいれば、何とかあの装置を破壊してほしい』って。自分でその生命体とやらを始末するつもりで、果たせなかったくさい」

 眉をひそめて呟いたエディンに構わず朗読を続けたジーニは、そこでハーッとわざとらしく大きなため息をついて肩をすくめた。

「好奇心に負けて得体の知れない書物を荒らし、何かに取り憑かれて魔法生物作った挙句、それを始末もせずに他力本願するってどういうことだろ。これだから、禁呪に手を出すようなヤツは信用ならないのよね」
「・・・日付からすると、ディーンがいなくなった期間とちょうど合うな」
「成長過程としては充分・・・か」
「この本は持ち帰ったほうが良いでしょう。ヴィアーシーに渡せば役に立つかもしれないしね」

 同意したギルが、ジーニの手にある日誌に小さな鍵がくっついているのに気づいた。
 一見しただけでも、特殊なつくりをした鍵だと分かる。

「・・・隠蔽魔法で隠してたのかしら?」

 指摘されたジーニが鍵を手にする。

ScreenShot_20130116_151339250.png

「俺たちに託すって意味かもな」

 ギルがそう言ってため息をついた。
 今までの朗読に間違いが無ければ、彼らが向かう先にいるのは「ディーンだった」者である。気も重くなろうというものだった。

2013/01/20 16:54 [edit]

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Sun.

花を巡りて・・・ 4  

 レピア村には夕刻前に着くことが出来た。
 実はこの前に、”金狼の牙”たちは興奮して見境無く暴れる――コカを大量に齧ったのか、それとも何者かが落とした麻薬を服用したのか――ミノタウロスを退治してきたところだった。

「お疲れ様でした。ここがレピア村です」

とレミラに言われた時は、思わず全員が息をついたものである。
 彼女の案内で村長に面通しした一行は、温和そうな村長から歓迎の言葉を受けた。

「・・・ところで、しばらくここに滞在するということですが、何か目的があるのですか?」
「ええ、実は・・・」

 ギルが手短に事情を説明すると、確かに魔道師とおぼしき人物がこの村に居住しているそうだ。
 村人からの情報収集がスムーズになるよう、村長から手を回しておくと言われ、冒険者たちは礼を述べた。

「では村長さん。今日中にやりたいこともあるので失礼させていただきます」
「・・・ああ。皆さん、少々お待ち願えますか?」
「・・・・・・?」

 ドアノブに手をかけていたギルが振り返ると、村長は苦渋の表情で話を切り出した。

「いえ・・・実は少々頼みたいことがあるのですが。みなさんのお仕事の片手間でけっこうですので・・・」
「・・・頼みたいこと?」

 席に戻ったミナスが聞き返すと、村長は、

「ええ、実は・・・最近、この村で行方不明者が一人出たのです」

と言った。
 のどかな村にしては物騒な話題だと、冒険者たちはすっかり聴く体勢になっている。
 失踪したのは湖のそばにある家の三男で、ディーンという青年。彼の都会に憧れていた日々の言動からすれば、家出してリューンに向かったなども考えられた。すでに彼が行方不明になってから一ヶ月も経つらしい。
 見つけろとは言わない、調査した考えを伺うだけで結構だと言う話に、先走ったミナスが出来る限りの協力をすると約束してしまった。

(まあ、これくらいなら構わないか)

 とかく楽観的なギルは、それをとがめることはしなかった。
 村長の家を出た後、レミラを気遣って実家に返した一行は、ディーンと言う青年の行方について少し話し合った。

「行方不明者、か・・・どう思います、ジーニ?」
「家出・・・盗賊団などによる拉致・・・薬草などを探して帰れなくなったというセンも・・・」
「ふむ・・・」
「とりあえず、魔術師の住処と一緒に、情報を集めてから判断するしかないわね」
「・・・よし、日が暮れる前にできるだけ多くの情報を集めるぞ」

 リーダーの言葉に頷くと、”金狼の牙”は急いで聞き込みを行った。

ScreenShot_20130116_134110843.png

「魔術師は人を治す薬の開発に来たと言ってた、か・・・・・・主張はまともだな」
「子どももいいおじさんだったと証言しています。でもここ一ヶ月くらい見ないって、嫌な符号ですね」
「最後に見た時、足元がおぼつかなかったって話も出たね」
「森の左手にある古い洞窟に住んでるかも知れないんだな。それにしても、森のほうから聞こえた咆哮ってなんだろうなあ・・・」
「ディーンの方の手がかりはほとんどねぇよな」
「ただ、いなくなる前に何の兆候も無かったと言うのは、少々妙ね。魔術師との接点はなかったようだけど」

 順に、アレク・アウロラ・ミナス・ギル・エディン・ジーニである。
 普段森に出入りしていなかったという母親の証言からしても、ディーンの失踪は魔術師とは無関係なように思われるが・・・。
 考えをまとめて明日洞窟に向かおうと決めた一行を、ふとアレクが呼び止めた。

「・・・・・・待て。宿ってどこだ?」
「あ」

 全員が気が付いた。この小さな村に宿などは見られない。

(野宿、人里に来て野宿なのか・・・・・・・・・?)

 一行に沈黙が流れる。疲れきったミナスが、腕組みするジーニに寄りかかりながら嘆いた。

「・・・勘弁してよ」
「・・・まだ諦めるのは早いわ。村長に相談してみましょう」
「そうだな・・・・・・ん?」

 エディンが軽やかな足音の方向を見やると、ちょうどレミラがこちらに走り寄ってくるところだった。

「ごめんなさい、私・・・みなさんに言い忘れていたことがあって・・・」

 レミラはレピア村に宿は無いので、自分の家に泊まらないかと誘った。
 遠慮をしないでほしいと薦めてくれる彼女を拒む理由は無く、冒険者たちは渡りに船だとレミラの実家に向かった。
 招かれた家では、物腰の柔らかく落ち着いた女性が、たくさんの料理の向こうで座っていた。レミラの母親だという。
 なんでも、材料は依頼料代わりと言うことで、村長が用意してくれたらしい。まったく、村の大きさの割に大した傑物だった。
 家の雰囲気も、素朴ではあるが心安らぐものであり、ギルたちは久しぶりにくつろいだ時間を過ごしていた。

「・・・お料理は、ご満足いただけましたか?」
「ええ、それはもう!」

 アウロラは熱心に頷いた。実は、”金狼の牙”で料理を担当するのはほとんどアウロラで、やっと最近ミナスが手伝うようになったところだった。彼女がこっそり珍しい調味料や調理法を研究しているのを、仲間たちは皆知っている。
 身体が弱いために久々の料理だったと聞き、一行は驚いた。そんな様子は今までまったく無かったのである。

「難儀ですね・・・・・・」

と感想を述べたジーニに、なんでもないようにレミラの母はころころ笑った。
 それよりもレミラと”金狼の牙”が体験したことを話してほしいと頼まれ、このたびの出来事、考えたことなどを語り合い、聞かせた。
 レミラの母は、彼らの話に聞き入っていた。彼らの体験を、ゆっくりかみしめるように。
 ・・・話が終わると、彼女はジーニたちに改めて、礼を述べていた・・・。

2013/01/20 16:52 [edit]

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Sun.

花を巡りて・・・ 3  

 あまりのオニカバネの臭気に、それを持つギルはますます顔をしかめた。

「・・・・・・くさい」
「我慢してくれ、リーダー。あとちょっとだろうが」
「このにおい、ちゃんと取れんのかなあ」
「花を捨てればどうにかなるさ。くじ引きで負けたアンタが悪いんだから、文句言うな」

 ギルとエディンのやり取りに忍び笑いをしつつも、ミナスが歎息する。

「それにしても、この近所にエルフの隠れ里かあ。僕、久々に同族に会ったよ」
「空間の歪曲とは、エルフたちもかなり大掛かりな術を使うんだな」
「うん。外から気づかれないようにするのが一番大事だからね。僕の里でも、多分似たようなことやってたんだと思うよ」

 ミナスが言う同族とは、この街道の入り口と中間地点を繋いだ空間に隠れ里を作るエルフだった。

ScreenShot_20130116_112129984.png

 エルフが隠れ住むのには色々と理由がある。彼らも訳ありらしく、入り口の仕掛けを対立勢力が破ってゴブリンをけしかけられたというので、街道を立て札で封鎖していたそうだ。
 このまま進んでも出口が塞がっており、”金狼の牙”たちが目的地のレピア村へ進むには入り口の仕掛けを直して転移してもらうしかない・・・・・・しかし、入り口の仕掛けを直してしまったら、ゴブリンまで同じ空間に閉じ込められてしまうので八方塞がりだと嘆くエルフの女性に、ゴブリン狩りを提案したのはギルだった。
 レミラさんをエルフに預け、ゴブリンが好むオニカバネの花に魔法をかけてゴブリンを誘き出すことになったのだが・・・。
 その花から発せられる腐臭が、半端なレベルではなかったのだ。
 途中、スリングによる遠距離攻撃をしてくるゴブリンなどに悩まされつつも、一行は無事に行動部隊を片付け、ゴブリンの残党が潜むアジトへやってきていた。

「・・・難しいわね。ここは比較的開けた土地で、見張りまではかなりの距離があるわ・・・」

 地形を確かめたジーニが戦法について注意を発する。

「【魔法の矢】などの魔法攻撃は届かないわね。遠距離攻撃は・・・よほどの腕が必要になるでしょうね」
「この距離じゃあ、忍び寄って仕留めるのもまず無理か。何かで隠れられれば、また違うんだろうが」

 それぞれの専門化である大人コンビが言うのに、他の面子も一所懸命考え込む。
 そのうち、アレクがぼそっと「空でも飛べれば・・・」と呟くのを、ミナスが聞きとがめた。

「空?行けるよ、僕なら」
「あ、そうか≪エア・ウォーカー≫がっ」
「でもミナス一人が先行することになります。危険ではないですか?」

 思慮深くアウロラが懸念を口にするが、今のところそれ以上いい方法はないように思える。
 結局、かけられるだけの補助魔法をかけて、空からミナスがスネグーロチカを見張りにけしかけることになった。
 ミナスが慎重に近づき、雪精は空恐ろしいほどの冷気でゴブリンを永久の眠りにつかせる。

「よし、行くぞ」

 リーダーの合図で、他の者たちは洞窟の前まで近付いた。・・・と、その時。

「何か、妙じゃない?」
「どうかしたのか、ジーニ?」
「いや・・・洞窟内が騒がしいような気がするんだけど・・・」

 ジーニの言うとおり、何やら向かう穴の中から騒音が聞こえる。
 どこか興奮したような、そして彼ら”金狼の牙”たちには聞き覚えのあるような声をあげて・・・。
 それが何かに思い当たったギルは、「・・・あ!」と言って自分の頭を叩いた。

「この声は、さっきオニカバネを持って探索していた時に、引き寄せられたゴブリンがあげていた声だ!」
「まさか・・・オニカバネの残り香にゴブリンどもが引き寄せられているっていうこと!?」

 上空に待機したままのミナスが、ギルのセリフにぎょっとした顔になった。
 洞窟内の怒号は、やがて足音となりこちらへ近付いてくる。

「まずい、先手を取るなら今しかないわよ!」
「布陣を組め!ゴブリンを迎え撃つぞ!」

 咄嗟の判断で叫んだギルに従い、各々が迎撃の態勢を整える。

「・・・行くぞ!」

 ばらばらと足並み揃わぬまま駆けてきた集団の中に、一際立派な体躯を持った影がある。

「親玉のご登場ですよ!」

 アウロラが示したのはホブゴブリンのことであった。ゴブリンより一回り以上大きな妖魔は、時に信じられない膂力を持って冒険者を攻撃してくることがある。
 アレクの【風切り】、ジーニの【火炎の壁】でほとんどの雑魚を片付けた一行だったが、まだ気は抜けなかった。

ScreenShot_20130116_122538437.png

 エディンが銀の細剣から花に似た氷の欠片を飛ばしつつ、

「ダメだ、届きにくい!先にこの護衛を倒した方が良さそうだぜ!」

と、ホブゴブリンの両隣に控えているゴブリンについて看破する。
 ミナスが「任せて!」と叫び、立ちふさがる護衛にスネグーロチカを誘導し、ジーニが詠唱していた【眠りの雲】を飛ばして親玉を眠らせた。その親玉にアレクが駆け寄る。≪黙示録の剣≫の刀身がまばゆく光り、魔力が切っ先から真空波となってあふれ出す!

「とりゃあああああ!」
「ゴブゥ!?」

 魔力を取り込んだ刀身によって重傷を負ったホブゴブリン。
 最期に彼が見たのは、ジーニから奔った風の刃だった・・・。

「か、勝った・・・」

 やれやれと一息ついた一行は、一応洞窟の内部も点検し、残党がいないかどうかを確認した。
 どうやら全滅させたらしいと分かると、”金狼の牙”たちは待ち合わせた場所へ移動し、エルフやレミラと再会した。

「・・・ありがとう。本当に助かったわ」

 金髪のエルフの女性は礼を言うと、「約束の宝石よ」と報酬を差し出して、一行に先程見た立て札の前に移動するよう指示した。装置を動かして空間の閉鎖を解いてくれるそうである。
 言われた場所で待っていると、彼らの見つめる前で視界が歪み、たわんでいく。

「滝だ・・・」

 呆然と言うアレクの言葉どおり、一瞬にして視界が元に戻ると、そこにはしぶきをあげる滝が現われていた。

「・・・そうです。確かにこの街道は、滝の見える場所があった・・・」
「やっと正しいルートに戻ったみたいだな」

 レミラの証言にエディンはにやりと笑った。

2013/01/20 16:48 [edit]

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Sun.

花を巡りて・・・ 2  

 一行は、ヴィアーシーの研究所で彼の代わりに助手、レミラを加えてレピア村へと向かっていた。
 レミラは、先程からジーニと医術研究所に志望した理由について話している。

「医術研究はまだ新しい部類の学問で、人々には比較的馴染みのない物では・・・?」
「ええ・・・・・・でも、新薬の調合とかってけっこう楽しいですよ?それに結果が出れば、本当に多くの人を救えると思っていますし・・・根本的な所は変わりませんよ」

 ふーん・・・と感心したように相槌を打つアレクに手を引かれつつ、ミナスは珍しく仏頂面のままだった。
 ひょこ、とジーニがその顔を覗き込む。

「やけにおとなしいわね、ミナス。まださっきのことを気にしているのかしら?」
「・・・・・・別に」
「・・・どうかしたんですか?」

 戸惑っているレミラに狼の隠れ家でのやり取りを伝えると、彼女は深々と頭を下げて謝った。

「いや、別にあなたが悪いわけじゃないんです」

 慌ててアウロラがフォローを入れ、ふうっと息をついたギルがミナスの頭を撫でて言う。

「・・・本当に冒険者を信用していないなら、そもそもこんな依頼自体出さないぜ」
「・・・・・・」

 ミナスもその理屈は分かるのだが、感情が納得しないのだ。

「お前が彼の話に納得がいかないのは分かる。でも、彼の言い方はともかく、話は正論だ」
「うー・・・」
「スタンスが違うだけで、志自体は医者・・・それに俺たちと変わらない。もちろんレミラも・・・な」
「・・・分かってるよ」

 そこでレミラが「あの・・・」と口を挟んだ。

「先生、根っからの研究者っていう所があるし、自分の信念は絶対に曲げない人だから・・・・・・。でも、医術に関しては本当に誠実な人なんです」

 それだけはと続けようとしたレミラのセリフを最後まで言わせず、ミナスは「分かってる」とだけぶっきらぼうに言って、アレクの手を引いたまま歩調を速めた。
 ミナスは一人で冒険に出た経験もある。精一杯、目の前の人を助けてきたつもりだし、多数のために少数が犠牲になることを認めたくなかった。それは、あの日聖北教会から見放された女たちの悲しみを知り、そのために強くあろうと決心した自分を、否定することだから。
 ・・・結局、その日は何事もなく、目標の地点までゆうに着くことが出来たのだが、翌日の昼前に・・・。

「・・・前の依頼の時みたいに、ウィードが群生してたり、物騒な罠が仕掛けられたりしてなきゃいいがな・・・」

 エディンが前に商人を護衛した時のことを呟きながら辺りを調査する。
 少し歩き始めた頃・・・。
 「ん?」と呟いたジーニがふと足を止める。

「どうかしたか?」
「いえ・・・・・・何か、妙じゃない?」
「・・・・・・さあ?」
「うまく言えないんだけど・・・妙な違和感がね・・・」

 彼女に返事をしていたエディンやアレクが、そう促されて辺りを警戒するものの、特におかしなものは見つからない。
 一行は用心しつつ再び歩き始めた。
 少し経つと、白い柵と森の続く小道に出たのだが、そこで案内役であるレミラが首を捻る。

「・・・どうかしたか、レミラさん?」
「いえ・・・この風景。なぜか見覚えが無いような・・・」

ScreenShot_20130116_110906562.png

 彼女の言うには、いつもこの道を通ってリューンとレピアを往復していると言う。
 道を間違えたわけでもないらしいので、エディンが示す立て札のせいではないかと皆で覗き込んでみた。物騒なことが書いてある。

「命が惜しいもの、立ち入るべからず・・・・・・」
「・・・この街道を通るな、ってこと?」

 顔を見合わせた大人コンビが不審な様子で言葉を交わした。盗賊の視点で確認したところ、この立て札はごく最近にできたもの・・・どうも、レピアへ向かう道に最近何か異変があったとしか思えない。
 レミラさんに全力で守ると約束し、一行は一抹の不安を抱えながらも先へ入ることにした。

「・・・待った」

 しばらくするとエディンが仲間を手で制し、前方を見据えた。
 ゴブリンの小集団が、粗末な武器を手に歩いている。その集団はすぐに木々の向こう側へ消えていったのだが、「一戦交えることになるかもしれないな」というギルの言葉に皆がそれぞれの得物を握り直した。
 しかし、その心配はどうも杞憂だったらしく、陽に暖められた風に顔を撫でられつつ、一行は森を歩んでいく。

2013/01/20 16:44 [edit]

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