月へ向かう船 5
一撃一撃が強力なクラージュ船長。
船長直伝の剣の連続技を持つモンシャ副長。
下っ端を一度に叱咤できる技の持ち主、兵長ティグレ。
幻惑の技を操る老シャメア。
砲手のフェーレース、操舵長のシャトンとのコンビ技が主体。
そして――。
「――シャっ、シャエランっ!?」
ファルの姉であるシャエラン。その6人が、”金蝙蝠海賊団”の一味だった。
ギルが鬨の声を上げる。
「行くぞ、みんなッ!」
――戦いは、冒険者に有利に進んでいた。
ジーニは相手を【閂の薬瓶】で呪縛し、【風刃の纏い】を張りながら【魔法の矢】を打ち続ける。
アウロラはミナスから護衛にと召喚してもらったファハンの援護を受けつつ、【光のつぶて】を放つ。
ミナスはフェーレースとシャトンのコンビ技に苦しめられながら、【雪精召喚】【渓流の激衝】で撃破。
シャエランのチャームに苦しんだエディンは【磔刑の剣】を3連続で放ち、そのまま彼女を気絶させた。
アレクは重傷まで追い込まれながらもアポカリプス・ソードの魔力が解放になり勝ちを拾う。

「人間ッ、よくもまァこんな処へ来たものだなッ。俺様はクラージュ!この名を貴様の脳裏に刻んで冥土の土産にしてやろうッ!」
「ギルバートだッ!お前こそ人間をナメるなよッ!」
クラージュの【蝙蝠剣】をギルの護光の戦斧が受けるが、勢いを殺しきれず肩を浅く傷つけられる。
「息が上がってきたようだなァ、人間!」
「抜かせっ!」
そのまま何合もギルの斧とクラージュ船長の剣が打ち合い続ける。
【飛爪】の技を転がって回避しようとするが、避けきれずに太ももの辺りをざっくり裂かれてしまった。
「くそ・・・ッ。なかなかやるな・・・!」
ギルは船長の爪あとからガロワの森に住む黒豹を思い出した。
――まったく、技の練習台を勤めてくれたあの恐ろしいヤツに比べれば、クラージュ船長の爪などにやっつけられている場合じゃない!
黒豹の主である剣士から教わった技――【風割り】で、ギルは着実に相手の体力を削った。
そろそろ辛くなってきたらしいクラージュが、一気に逆転しようと必殺技を放つ!
「【蝙蝠剣】ッ!」
「見切ったッ!」
「な・・・・・・何ぃッ!?」

出来た隙はそのままギルのチャンスだ。彼は思い切り戦斧を振りかぶり、スイングさせた。
「どうだ、クラージュ・・・・・・ッ!」
「まさか・・・・・・この俺様がッ。・・・・・・ギルバートと言ったな、貴様ッ。だがしかし、大事なことを忘れてねェかッ!?」
「なにッ?」
「戦いにかまけてた、ってコトだッ!」
「――ッ!」
ギルは慌ててオロール老と・・・・・・それを護るフォットの方を振り向いた。
「フォットーっ!」
「・・・・・・ッ、はッ・・・・・・問題、ない」
はたして、彼は無事だった。がっくりと膝はついているが、その周りには気絶させられたらしい”金蝙蝠海賊団”の下っ端たちがごろごろ転がっている。
”金狼の牙”の仲間は――と言えば。
「・・・はぁッ、はぁッ・・・」
気絶してもおかしくないほどの怪我を負ったアレクが、剣を杖に立ちながらギルに親指を立ててみせる。勝ったぞ、の証だ。
アウロラとミナスが急いで駆け寄り、彼に癒しの術を使った。チャームの術で未だに足元がふらついているエディンには、ジーニが渋々肩を貸してやっている。
「勝った・・・・・・ッ!」
「勝ったッ!!」
勝ち鬨に押されるようにして、”金蝙蝠海賊団”は自分達の乗ってきた船に乗り込み逃げていく。
勝利にしばらく浸っていた彼らがハッと気づいてファルと老猫を見ると、老はすっかり月と同じ色の光に包まれていた。
その、船の上の小さな光の塊が、ふわりと浮き上がる。
「あ――――」
ギルが見上げるそこにはやはり、満月が静かに佇んでいる。
ゆらり、ゆらり――はじめはゆっくり、ふらふらと、次第に速度を増し、進路を定め、白く薄い軌跡を残し、船から月に向かって光が昇っていく。
ガートの傍では大きく見えたその魂も、離れてゆけばほんの小さな、点のような粒にしか見えない。
「老――」
離れていく魂の名前を、寂しげにファルが呟く。
やがて――――。
星がひとつ、月のすぐ近くにほつりと灯った。
「誰かが覚えてる限り、魂は死ぬことはない、って。――俺が覚えてるから」
ガートが新たに生まれたその星へ優しく呼びかけた声を、”金狼の牙”たちは一生忘れないだろう。
「それじゃ――」
「ああ」
・・・・・・船がまた森の小屋に戻った頃には、木々の間から爽やかな朝の陽光が降りそそいでいた。
「無事に、送ることができたのも君たちのお蔭だよ。本当に、ありがとう」
「さて――私はそろそろ、去るとするよ。もしも縁があったら、また遇うこともあるかも知れないが――」
フォットは小さな荷物袋を担ぎ、帽子のつばにちょっと爪を触れさせて言った。
「そうか。達者でな、フォット」
「・・・・・・また今度、時間の出来た時にあのスーニの絵を見に行くよ」
「そうだな。じゃあ、失礼――」
「・・・・・・行っちゃった。相変わらず愛想のないこと」
ファルが呟くのに、ジーニがちょっと笑った。
「エディン、そろそろ帰ろうよ」
夜通しがんばっていたからだろう、怪我は完治しているが眠気で頭を揺らすミナスに、エディンは頷いた。
「――そうだな」
「もう行くのか?」
「ああ。まぁ、またどこかでな」
「ありがとう。あなたたちと会えてよかった」
「ファル、俺の目に狂いはなかっただろう?」
「ホント、そうね」
ガートとファルが、”金狼の牙”たちを見つめて微笑む。
成功報酬の蒼い宝石を受け取ったエディンは、
「それとこいつも持って帰ってくれないか?連中が落としていった魔術書らしいけど、やっぱり俺たちには不要だからな」
と言って、差し出されたいくつかの魔術書も受け取った。
「それじゃあな」
「ああ、世話になったよ」
短い挨拶を残し、彼らは狼の隠れ家へと帰っていった。
※≪宝石(1200sp相当)≫、【癒身の結界】【友情パワー】【ファイト一発】【相棒召喚】×3入手※
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■後書きまたは言い訳
24回目のお仕事は、あきらつかささんのシナリオ・月へ向かう船です。プレイ済みである同氏の「月光に踊る長靴」、及び天かける翼さんの「In the moonlight…」との繋がりが楽しい作品。私としてはジーニ吹っ切れ回(何)ともなっております。
次々に出てくる猫キャラクターの可愛らしさ、ふてぶてしさ、お茶目さに楽しませて貰えるシナリオです。期せずして”金狼”と”金蝙蝠”の対決となりましたが、これはただの偶然でした。でもその偶然がとても楽しい。(笑)
”金蝙蝠海賊団”との戦闘では、タイマンにするか集団戦闘をするかで最終的にもらえるスキルが変化。最初にプレイした時は集団戦闘を選んでいたので、2回目にタイマンを選んでびっくりした想い出があります。今回タイマンを選んだのは、スキル【癒身の結界】で全体回復(絶対成功ではないのですが・・・)を得る為でした。
そうそう、文中にあるギル戦闘時の黒豹は、Martさんの焔紡ぎに出てくるジナイータです。ギルは動物全般が好きなので、ジナイータとも友達になり技の練習をさせてもらっています。・・・憑いてる人とは面識はありませんが。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
船長直伝の剣の連続技を持つモンシャ副長。
下っ端を一度に叱咤できる技の持ち主、兵長ティグレ。
幻惑の技を操る老シャメア。
砲手のフェーレース、操舵長のシャトンとのコンビ技が主体。
そして――。
「――シャっ、シャエランっ!?」
ファルの姉であるシャエラン。その6人が、”金蝙蝠海賊団”の一味だった。
ギルが鬨の声を上げる。
「行くぞ、みんなッ!」
――戦いは、冒険者に有利に進んでいた。
ジーニは相手を【閂の薬瓶】で呪縛し、【風刃の纏い】を張りながら【魔法の矢】を打ち続ける。
アウロラはミナスから護衛にと召喚してもらったファハンの援護を受けつつ、【光のつぶて】を放つ。
ミナスはフェーレースとシャトンのコンビ技に苦しめられながら、【雪精召喚】【渓流の激衝】で撃破。
シャエランのチャームに苦しんだエディンは【磔刑の剣】を3連続で放ち、そのまま彼女を気絶させた。
アレクは重傷まで追い込まれながらもアポカリプス・ソードの魔力が解放になり勝ちを拾う。

「人間ッ、よくもまァこんな処へ来たものだなッ。俺様はクラージュ!この名を貴様の脳裏に刻んで冥土の土産にしてやろうッ!」
「ギルバートだッ!お前こそ人間をナメるなよッ!」
クラージュの【蝙蝠剣】をギルの護光の戦斧が受けるが、勢いを殺しきれず肩を浅く傷つけられる。
「息が上がってきたようだなァ、人間!」
「抜かせっ!」
そのまま何合もギルの斧とクラージュ船長の剣が打ち合い続ける。
【飛爪】の技を転がって回避しようとするが、避けきれずに太ももの辺りをざっくり裂かれてしまった。
「くそ・・・ッ。なかなかやるな・・・!」
ギルは船長の爪あとからガロワの森に住む黒豹を思い出した。
――まったく、技の練習台を勤めてくれたあの恐ろしいヤツに比べれば、クラージュ船長の爪などにやっつけられている場合じゃない!
黒豹の主である剣士から教わった技――【風割り】で、ギルは着実に相手の体力を削った。
そろそろ辛くなってきたらしいクラージュが、一気に逆転しようと必殺技を放つ!
「【蝙蝠剣】ッ!」
「見切ったッ!」
「な・・・・・・何ぃッ!?」

出来た隙はそのままギルのチャンスだ。彼は思い切り戦斧を振りかぶり、スイングさせた。
「どうだ、クラージュ・・・・・・ッ!」
「まさか・・・・・・この俺様がッ。・・・・・・ギルバートと言ったな、貴様ッ。だがしかし、大事なことを忘れてねェかッ!?」
「なにッ?」
「戦いにかまけてた、ってコトだッ!」
「――ッ!」
ギルは慌ててオロール老と・・・・・・それを護るフォットの方を振り向いた。
「フォットーっ!」
「・・・・・・ッ、はッ・・・・・・問題、ない」
はたして、彼は無事だった。がっくりと膝はついているが、その周りには気絶させられたらしい”金蝙蝠海賊団”の下っ端たちがごろごろ転がっている。
”金狼の牙”の仲間は――と言えば。
「・・・はぁッ、はぁッ・・・」
気絶してもおかしくないほどの怪我を負ったアレクが、剣を杖に立ちながらギルに親指を立ててみせる。勝ったぞ、の証だ。
アウロラとミナスが急いで駆け寄り、彼に癒しの術を使った。チャームの術で未だに足元がふらついているエディンには、ジーニが渋々肩を貸してやっている。
「勝った・・・・・・ッ!」
「勝ったッ!!」
勝ち鬨に押されるようにして、”金蝙蝠海賊団”は自分達の乗ってきた船に乗り込み逃げていく。
勝利にしばらく浸っていた彼らがハッと気づいてファルと老猫を見ると、老はすっかり月と同じ色の光に包まれていた。
その、船の上の小さな光の塊が、ふわりと浮き上がる。
「あ――――」
ギルが見上げるそこにはやはり、満月が静かに佇んでいる。
ゆらり、ゆらり――はじめはゆっくり、ふらふらと、次第に速度を増し、進路を定め、白く薄い軌跡を残し、船から月に向かって光が昇っていく。
ガートの傍では大きく見えたその魂も、離れてゆけばほんの小さな、点のような粒にしか見えない。
「老――」
離れていく魂の名前を、寂しげにファルが呟く。
やがて――――。
星がひとつ、月のすぐ近くにほつりと灯った。
「誰かが覚えてる限り、魂は死ぬことはない、って。――俺が覚えてるから」
ガートが新たに生まれたその星へ優しく呼びかけた声を、”金狼の牙”たちは一生忘れないだろう。
「それじゃ――」
「ああ」
・・・・・・船がまた森の小屋に戻った頃には、木々の間から爽やかな朝の陽光が降りそそいでいた。
「無事に、送ることができたのも君たちのお蔭だよ。本当に、ありがとう」
「さて――私はそろそろ、去るとするよ。もしも縁があったら、また遇うこともあるかも知れないが――」
フォットは小さな荷物袋を担ぎ、帽子のつばにちょっと爪を触れさせて言った。
「そうか。達者でな、フォット」
「・・・・・・また今度、時間の出来た時にあのスーニの絵を見に行くよ」
「そうだな。じゃあ、失礼――」
「・・・・・・行っちゃった。相変わらず愛想のないこと」
ファルが呟くのに、ジーニがちょっと笑った。
「エディン、そろそろ帰ろうよ」
夜通しがんばっていたからだろう、怪我は完治しているが眠気で頭を揺らすミナスに、エディンは頷いた。
「――そうだな」
「もう行くのか?」
「ああ。まぁ、またどこかでな」
「ありがとう。あなたたちと会えてよかった」
「ファル、俺の目に狂いはなかっただろう?」
「ホント、そうね」
ガートとファルが、”金狼の牙”たちを見つめて微笑む。
成功報酬の蒼い宝石を受け取ったエディンは、
「それとこいつも持って帰ってくれないか?連中が落としていった魔術書らしいけど、やっぱり俺たちには不要だからな」
と言って、差し出されたいくつかの魔術書も受け取った。
「それじゃあな」
「ああ、世話になったよ」
短い挨拶を残し、彼らは狼の隠れ家へと帰っていった。
※≪宝石(1200sp相当)≫、【癒身の結界】【友情パワー】【ファイト一発】【相棒召喚】×3入手※
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■後書きまたは言い訳
24回目のお仕事は、あきらつかささんのシナリオ・月へ向かう船です。プレイ済みである同氏の「月光に踊る長靴」、及び天かける翼さんの「In the moonlight…」との繋がりが楽しい作品。私としてはジーニ吹っ切れ回(何)ともなっております。
次々に出てくる猫キャラクターの可愛らしさ、ふてぶてしさ、お茶目さに楽しませて貰えるシナリオです。期せずして”金狼”と”金蝙蝠”の対決となりましたが、これはただの偶然でした。でもその偶然がとても楽しい。(笑)
”金蝙蝠海賊団”との戦闘では、タイマンにするか集団戦闘をするかで最終的にもらえるスキルが変化。最初にプレイした時は集団戦闘を選んでいたので、2回目にタイマンを選んでびっくりした想い出があります。今回タイマンを選んだのは、スキル【癒身の結界】で全体回復(絶対成功ではないのですが・・・)を得る為でした。
そうそう、文中にあるギル戦闘時の黒豹は、Martさんの焔紡ぎに出てくるジナイータです。ギルは動物全般が好きなので、ジナイータとも友達になり技の練習をさせてもらっています。・・・憑いてる人とは面識はありませんが。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。