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Thu.

月へ向かう船 5  

 一撃一撃が強力なクラージュ船長。
 船長直伝の剣の連続技を持つモンシャ副長。
 下っ端を一度に叱咤できる技の持ち主、兵長ティグレ。 
 幻惑の技を操る老シャメア。
 砲手のフェーレース、操舵長のシャトンとのコンビ技が主体。
 そして――。

「――シャっ、シャエランっ!?」

 ファルの姉であるシャエラン。その6人が、”金蝙蝠海賊団”の一味だった。
 ギルが鬨の声を上げる。

「行くぞ、みんなッ!」

 ――戦いは、冒険者に有利に進んでいた。
 ジーニは相手を【閂の薬瓶】で呪縛し、【風刃の纏い】を張りながら【魔法の矢】を打ち続ける。
 アウロラはミナスから護衛にと召喚してもらったファハンの援護を受けつつ、【光のつぶて】を放つ。
 ミナスはフェーレースとシャトンのコンビ技に苦しめられながら、【雪精召喚】【渓流の激衝】で撃破。
 シャエランのチャームに苦しんだエディンは【磔刑の剣】を3連続で放ち、そのまま彼女を気絶させた。
 アレクは重傷まで追い込まれながらもアポカリプス・ソードの魔力が解放になり勝ちを拾う。

ScreenShot_20130109_222453890.png

「人間ッ、よくもまァこんな処へ来たものだなッ。俺様はクラージュ!この名を貴様の脳裏に刻んで冥土の土産にしてやろうッ!」
「ギルバートだッ!お前こそ人間をナメるなよッ!」

 クラージュの【蝙蝠剣】をギルの護光の戦斧が受けるが、勢いを殺しきれず肩を浅く傷つけられる。

「息が上がってきたようだなァ、人間!」
「抜かせっ!」

 そのまま何合もギルの斧とクラージュ船長の剣が打ち合い続ける。
 【飛爪】の技を転がって回避しようとするが、避けきれずに太ももの辺りをざっくり裂かれてしまった。

「くそ・・・ッ。なかなかやるな・・・!」

 ギルは船長の爪あとからガロワの森に住む黒豹を思い出した。
 ――まったく、技の練習台を勤めてくれたあの恐ろしいヤツに比べれば、クラージュ船長の爪などにやっつけられている場合じゃない!
 黒豹の主である剣士から教わった技――【風割り】で、ギルは着実に相手の体力を削った。
 そろそろ辛くなってきたらしいクラージュが、一気に逆転しようと必殺技を放つ!

「【蝙蝠剣】ッ!」
「見切ったッ!」
「な・・・・・・何ぃッ!?」

ScreenShot_20130109_223220437.png

 出来た隙はそのままギルのチャンスだ。彼は思い切り戦斧を振りかぶり、スイングさせた。

「どうだ、クラージュ・・・・・・ッ!」
「まさか・・・・・・この俺様がッ。・・・・・・ギルバートと言ったな、貴様ッ。だがしかし、大事なことを忘れてねェかッ!?」
「なにッ?」
「戦いにかまけてた、ってコトだッ!」
「――ッ!」

 ギルは慌ててオロール老と・・・・・・それを護るフォットの方を振り向いた。

「フォットーっ!」
「・・・・・・ッ、はッ・・・・・・問題、ない」

 はたして、彼は無事だった。がっくりと膝はついているが、その周りには気絶させられたらしい”金蝙蝠海賊団”の下っ端たちがごろごろ転がっている。
 ”金狼の牙”の仲間は――と言えば。

「・・・はぁッ、はぁッ・・・」

 気絶してもおかしくないほどの怪我を負ったアレクが、剣を杖に立ちながらギルに親指を立ててみせる。勝ったぞ、の証だ。
 アウロラとミナスが急いで駆け寄り、彼に癒しの術を使った。チャームの術で未だに足元がふらついているエディンには、ジーニが渋々肩を貸してやっている。

「勝った・・・・・・ッ!」
「勝ったッ!!」

 勝ち鬨に押されるようにして、”金蝙蝠海賊団”は自分達の乗ってきた船に乗り込み逃げていく。
 勝利にしばらく浸っていた彼らがハッと気づいてファルと老猫を見ると、老はすっかり月と同じ色の光に包まれていた。
 その、船の上の小さな光の塊が、ふわりと浮き上がる。

「あ――――」

 ギルが見上げるそこにはやはり、満月が静かに佇んでいる。
 ゆらり、ゆらり――はじめはゆっくり、ふらふらと、次第に速度を増し、進路を定め、白く薄い軌跡を残し、船から月に向かって光が昇っていく。
 ガートの傍では大きく見えたその魂も、離れてゆけばほんの小さな、点のような粒にしか見えない。

「老――」

 離れていく魂の名前を、寂しげにファルが呟く。
 やがて――――。
 星がひとつ、月のすぐ近くにほつりと灯った。

「誰かが覚えてる限り、魂は死ぬことはない、って。――俺が覚えてるから」

 ガートが新たに生まれたその星へ優しく呼びかけた声を、”金狼の牙”たちは一生忘れないだろう。

「それじゃ――」
「ああ」

 ・・・・・・船がまた森の小屋に戻った頃には、木々の間から爽やかな朝の陽光が降りそそいでいた。

「無事に、送ることができたのも君たちのお蔭だよ。本当に、ありがとう」
「さて――私はそろそろ、去るとするよ。もしも縁があったら、また遇うこともあるかも知れないが――」

 フォットは小さな荷物袋を担ぎ、帽子のつばにちょっと爪を触れさせて言った。

「そうか。達者でな、フォット」
「・・・・・・また今度、時間の出来た時にあのスーニの絵を見に行くよ」
「そうだな。じゃあ、失礼――」
「・・・・・・行っちゃった。相変わらず愛想のないこと」

 ファルが呟くのに、ジーニがちょっと笑った。

「エディン、そろそろ帰ろうよ」

 夜通しがんばっていたからだろう、怪我は完治しているが眠気で頭を揺らすミナスに、エディンは頷いた。

「――そうだな」
「もう行くのか?」
「ああ。まぁ、またどこかでな」
「ありがとう。あなたたちと会えてよかった」
「ファル、俺の目に狂いはなかっただろう?」
「ホント、そうね」

 ガートとファルが、”金狼の牙”たちを見つめて微笑む。
 成功報酬の蒼い宝石を受け取ったエディンは、

「それとこいつも持って帰ってくれないか?連中が落としていった魔術書らしいけど、やっぱり俺たちには不要だからな」

と言って、差し出されたいくつかの魔術書も受け取った。

「それじゃあな」
「ああ、世話になったよ」

 短い挨拶を残し、彼らは狼の隠れ家へと帰っていった。

※≪宝石(1200sp相当)≫、【癒身の結界】【友情パワー】【ファイト一発】【相棒召喚】×3入手※

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■後書きまたは言い訳
24回目のお仕事は、あきらつかささんのシナリオ・月へ向かう船です。プレイ済みである同氏の「月光に踊る長靴」、及び天かける翼さんの「In the moonlight…」との繋がりが楽しい作品。私としてはジーニ吹っ切れ回(何)ともなっております。

次々に出てくる猫キャラクターの可愛らしさ、ふてぶてしさ、お茶目さに楽しませて貰えるシナリオです。期せずして”金狼”と”金蝙蝠”の対決となりましたが、これはただの偶然でした。でもその偶然がとても楽しい。(笑)

”金蝙蝠海賊団”との戦闘では、タイマンにするか集団戦闘をするかで最終的にもらえるスキルが変化。最初にプレイした時は集団戦闘を選んでいたので、2回目にタイマンを選んでびっくりした想い出があります。今回タイマンを選んだのは、スキル【癒身の結界】で全体回復(絶対成功ではないのですが・・・)を得る為でした。
そうそう、文中にあるギル戦闘時の黒豹は、Martさんの焔紡ぎに出てくるジナイータです。ギルは動物全般が好きなので、ジナイータとも友達になり技の練習をさせてもらっています。・・・憑いてる人とは面識はありませんが。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

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2013/01/17 19:25 [edit]

category: 月へ向かう船

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Thu.

月へ向かう船 4  

 襲撃の決着が着くのは早かった。
 取り巻きたちからミナスやギルへ怪我を負わせられたものの、伸ばした指先から迸る雷を放ったアレクが、兵長・ティグレを一撃で仕留めてみせたからからである。

ScreenShot_20130109_185450921.png

 怪我した腕をアウロラに治療されながら、ギルが安堵の息をついた。

「・・・・・・何とか、撃退したな」
「ええ、でもまた来るんじゃないかしら。そんな気がする」
「・・・・・・だろうな。だが、もうすぐ目的地だ。奴らが再び来る前に、月光葬を済ませられれば――」
「月光葬?」
「そう言うの。――月の光を呼び集め、星に上げる妖精の葬儀のこと」

 音もなく忍び寄ってきたフォットが会話に加わる。

「警戒は怠るべきじゃないな」
「それはもっともだ」

 エディンは頷いた。横でミナスが自分で水精を呼んでいる。
 その様子を眺めつつ、ファルがやや震える声で言った。

「でも、エディンさんたちがいなかったら今頃どうなってたか・・・・・・本当、ありがとう」

 ファルはカルバチアの図書館司書の家を出て以来、オロール老と共に暮らしてきたそうである。
 本当の祖父と孫娘のように仲睦まじく生きてきた彼女が老のためにがんばる姿は、なんとなく弟を取り戻そうとする姉――イリス――を連想させ、ジーニは切なくなった。
 もちろん、ファルはオロール老のために心臓を取ろうとしているわけでも、なんとしても彼を取り戻そうとしているわけではない。
 ただ、あの時に救えなかったものをここで救えるのかもしれないと思った。

「あの黒いの――」
「あれが船長のクラージュ。他にもまだ、幹部はいるわ」
「あれが船長なのね。――他のクルーについては知っているの、ファル?」
「・・・・・・ええ、だいたいは」

 あとで説明すると言ってファルは席を外した。そろそろ、オロール老が危ないらしい。
 ガートは船の操作を、フォットはオロール老とファルの護衛に入ったため、”金狼の牙”たちは休憩後、巡回をすることにした。戦力を整える必要もある。

「・・・・・・ふぅ。あの海賊、また来ると思います?」
「ああ。彼らがああ言ってるんだし、来る確率は高いんだろうな」

 手元の細剣を磨きながらエディンが応じた。

「警戒にこしたことはない、か――」

 宿で親父さんに言われた台詞を、ジーニが口に上らせる。
 そうしてどのくらい経ったのか――ふっ、と周囲の明るさをジーニは覚えました。
 見事に丸い満月が、すぐ近くにあった。静かに空を滑っていた船は到着したのだろう、そこで止まる。

「着いた。ここで――行う」

 ガートがこちらへと歩み寄ってきたのに気づき、ジーニが声をかける。

「オロール老は?」
「・・・・・・ついさっき、逝ったよ。ファルと少し、話してたようだったけどね。とっとと始めないと、魂が散り消えちまう。だから――」
「ああ、やっててくれ。警戒はしている」

 護光の戦斧を肩に担いだギルが頷いた。

「あぁ、ありがとう。・・・・・・・・・月よ――」

 ガートが、船室の上で立っていた。
 そばには、動くことなく横たわるオロール老と、寄り添うファルがいる。
 ただ静かに煌々と、月明かりが妖精たちと人間たちを照らしていた・・・・・・。
 大きくはないが通った声でガートが唱える。

「――月よ、その光の欠片をこの小さき魂に――」

 ――――ふ、と。月が揺らいだ。
 小さな小さな、それは目を凝らしてやっと判るほどの細かな粒たちがゆっくりと、ゆうっくりと、物言わず眠る老猫に降りてきている。
 凛然とした佇まいの月より――。

「――星となりて吾等の導と――」

 不意に変わった夜風に気づいたのは、アレクとジーニだった。

「――!?」
「あれは!!みんな、来たわ!」

ScreenShot_20130109_215025671.png

 月に映る影は、鳥のようであり、また鳥の如くではなかった。
 ギルがいらただしげに舌打ちする。 

「奴らだ!よりにもよってこんな時に!!」
「さっきは不覚をとったがなァ!今度はそうはいかねェぞ、人間どもがッ!」

 先程の、船長らしい黒帽子が月を背に立っていた。

「かかれッ!」
「おうッ!」

と、一斉に現われた海賊たちの声がわんっ、と唱和した。その人数にジーニが眼をむく。

「6人!?くい止めないとッ!」
「こんな狭い船で固まってたらマズいよ!離れて戦おうよ!」

 ミナスの叫びに、各々が顔を見合わせ・・・頷く!

「ふんッ、小癪なマネをッ!タイマン張って勝てるつもりかッ!」

2013/01/17 19:04 [edit]

category: 月へ向かう船

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Thu.

月へ向かう船 3  

「そろそろ時間だ――来てくれ」

 小屋から出てきたガートはそう言って、一行を促した。

「こっちだ」

 そこに、その”船”はあった。
 確かに船としか言いようのない形である。真っ白な帆が誇らしげに広がっていた。
 ”船”のそばではフォットが、皆を待っていた。

「来たか」
「ああ、待たせたね。じゃ、準備よかったら船に乗り込んでくれ」

 ガートに言われ、その船に乗り込む前にアレクはもう一度その”船”を眺めた。はたはたと帆を遊ばせ、静かに佇む――薄い光に覆われているのは、ファルが言っていた魔力を使っているからだろうか。

「上々の――船出だな」

 木々が、ざわざわと騒いでいた。葉という葉を精一杯に掻き摺り合わせ、森が歌っている。
 風はいっそう、力を込めてつむじを巻き、楕円の軌跡を描いて船に集まり囲みだした。
 それでも船は不安げに揺れることなく、大地の唄と空の息吹を一心に集めるべく、帆を張り――月へ向かう――その時を待っていた。
 ふっ、と――――。
 葉擦れも、風音も、すべてが消えた。そして――。

「!浮いた・・・・・・ッ!」
「ホントに――飛んでるわ・・・・・・ッ!」

 年長組が、年甲斐もなくはしゃいだ声を上げる。
 ”船”はふわりと、空へ飛び立った。木々を遥か見下ろし、雲間を抜け、ダークブルーの空を望む。
 ガートが言う。

「ここまで出れば一安心だ。襲撃に備えつつ、ゆっくりしててくれ」

 そのまま船室に引っ込もうとしていたガートを、ミナスが呼び止めた。

「あ、そうだ、ガート。どうして人間に依頼しようと思ったの?」
「んっ・・・・・・?」
「無理に聞くつもりはないんだけど・・・」
「・・・・・・何でもない理由だよ。前に、人間に助けてもらったことがあって、人間の中にも話せるヤツがいる、って解ってただけさ」
「・・・そうなんだ」
「それで、ファルからじィちゃんのことを聞いた時、真っ先に思いついたんだよ。冒険者、ってのに頼んでみよう――そう、ね」

 ギルがそこでにやっと笑う。

「ああ、任せておけよ。俺たちに頼んで良かったって、嫌でも言わせてみせるからな」

 ふてぶてしい顔で笑みを返し、ガートは今度こそ船室へと引っ込んだ。
 青に彩られた世界を見て、ミナスが深呼吸する。

「――なんて言うか、すごい景色・・・・・・」
「ああ、雲を見下ろすなんてな」

ScreenShot_20130109_184431078.png

「ほら、見てみて。――綺麗な月だ」

 ミナスの指さした方――船の進んでいる正面にぽっかりと、月が浮かんでいた。
 それはそれは見事に丸い満月が、煌々と辺りに陽の光を映し照らしていた。
 りん、と静まった中、空を切って進む船のしゅうっ、という滑るような小さな音だけが彼らの鼓膜を震わせている。

「このまま何事もなく済めば――」

 ミナスがそう呟いた時、急に顔に触れる冷たい風が巻き上がり乱れた。

「!?」
「――こっちだ!」

 驚くアウロラにエディンが呼びかける。

「あれは――ッ!?」

 それは、船というにはあまりに逸したシルエットであった。
 鳥のような頭と翼がどこか優雅にゆらゆらと、しかししっかりと、一行の船に近寄ってきている。

「がァ~ッはっはっはァ!来たぞ来たぞぉ、ノコノコとカモがなァ!」
「あれが海賊ッ!?」

 緊張に身を震わせたアウロラの後ろでドアが開き、ガートの灰色の身体がまろび出てきた。

「もう来たのか!?」

 その船はするりと滑るように一行に近寄ってきた。
 ひときわ目立つ場所から、大きな黒帽の黒猫が嬉々と続ける。

「よぉ~っし。かかれ!兵長ッ!」
「よしきたッ!」

 兵長、と呼ばれたベストを着た猫の号令一下、ばらばらっととんがり帽が現われた。

「くッ――みんなっ!」

 ミナスが呼びかけると、仲間たちはすでに各々の得物を構えていた。

「ああ!・・・・・・行くぞ!」

 アレクの叫びが風に乗った。

2013/01/17 19:02 [edit]

category: 月へ向かう船

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Thu.

月へ向かう船 2  

 小屋に入ってまず見えたのは、襟の詰まったワンピースに身を包む、茶色いトラ縞の猫だった。
 金色の綺麗な目をしている。彼女はこちらを見て驚きの声を上げた。

「!?あっ・・・・・・」
「ファル・・・・・・オロール老は?」
「ええ、今は起きてる。――ガート、お帰り」

 ガートは張り切って冒険者たちと新たに現われた猫に互いを紹介した。

「紹介するよ。彼女はファル。ファル、頼んで、来てもらった冒険者だ」」
「そうだったの。ちょっと、びっくりしたわ」

 澄んだ鈴のような爽やかな声だった。
 ファルと紹介された彼女は、上目遣いに”金狼の牙”たちを見上げてふわりと微笑む。

「よろしくね、えっと――」
「ミナス」

 誘われるような笑みで応えたのは、メンバーの最年少だった。自分より背の低い猫妖精に手を差し出し握手している。
 ――この小屋は、もともと樵の休憩所にでも使われていたものなのだろうか。数人の人間が適度に憩えるだけの空間があった。
 一行はめいめいに腰を下ろし、森を歩き回ってきた体をほぐす。

「それで、とりあえずこいつを先に渡しておこう」

 ガートはテーブルの小箱から器用に取り出した宝石を示した。
 冬の青空のような、どこか冷ややかな透明感のある蒼い宝石だった。

「ただの宝石だよ、たぶんね。こいつが街で言ってた報酬さ」
「・・・・・・なるほど、確かにただの宝石のようだな」

 光に透かして鑑定した結果を言うと、エディンはゆっくりそれを小箱に戻した。

「しかし言ってただけの価値はある。リーダー、今受け取るのか?」
「いや、そいつは詳しい話を聞いてからにしよう。ガート、話してくれるな?」
「何から話せばいいものやら――」

とガートが言った時、奥の部屋から音もなくもう一人(一匹?)の猫が現われた。
 黒や茶の毛がわずかに混じった白猫だった。先ほど取り出した宝石よりも濃い青の眼をしている。

「誰かと、思ぅたら、ガートじゃないか。そちらの、あんたらは?」
「ろ――じィちゃんッ!」
「ふふっ。フォットの小僧も、おるしな。嬉しいことだて」

 温和そうなこの老猫が、たぶん、オロール老なのであろう。ゆったりとした口調が心地よく響く。

「そっちのあんたらは?」
「老。彼らは護衛に雇ったんだ」
「護衛?こりゃあまた、楽しい趣向だの」
「まぁね。クラージュの噂を聞いてるんだ。きっと来るだろう。もてなす準備をしてなきゃ、失礼ってもんだろ?」
「お前らしいの」

 ほほっと機嫌良さそうに笑って、オロール老は一行にゆっくりと、しっかり頭を下げた。

「迷惑をかけるが、まァ――できりゃあ、楽しんでやってくれ。この老いぼれの――最後の華になろうことだから、の」
「”金狼の牙”って冒険者のパーティだ。俺はギル、よろしく」

 他のメンバーも次々と自己紹介をする。
 いつしかすっかり陽は落ちておいた。空は群青に染まり、月と星が彩るのを今か今かと待ち構えている。
 改めてガートに話の続きを請うと、彼は悪戯っぽく笑った。

「スマートなやり方だったろう?依頼をしたのは俺なんだ。そこのファルと相談してね。――あそこの椅子にあったのはただの人形なんだ」
「なあガート、リューンでの依頼はどういうことだったんだ?」

ScreenShot_20130109_171745125.png

「喋っていたのはあくまで、俺だったんだよ。護衛してほしい、ってのはこのオロール老と彼女、ファルだけだ」
「ふむ」
「君らの目にはオロール老はピンピンしてるように見えてるのかも知れないが、実際のところ――迫っているんだ。その――避けられない

死期、ってヤツがさ・・・・・・」
「そうだったのですか・・・・・・」

 アウロラが嘆息した。神が定めたもうた寿命に異を唱えることはしたくないが、去り行くものを惜しいと思う気持ちは自然なものだ。

「俺たち猫妖精――ケット・シーの魂は、死んで一定期間の内に月の光をできるだけ間近で与えることで、星になる、と伝えられている」
「猫族と猫妖精って違うものなの?」
「ああ。だが交流がないわけじゃないし、どちらも月に影響を受ける点では似たようなところがある」
「ええと、すいません。月の間近と言いますと・・・?」
「月へ向かう船はここにあるんだ。そいつで今夜、天空へ向かおうと思ってる」

 月へ向かう船とはまるで幼子のための絵本のようだが、ミナスが身につけているマジックアイテムの腕輪――エア・ウォーカーは魔法の翼を合言葉で発動させるのだから、妖精の儀式のためにそういう船があるとしてもおかしくはない。
 ギルがふてぶてしいガートの顔を見据えて言った。

「それを護衛してくれ、ってことか?」
「そうなんだ。船には人6人くらいなら、何とか乗れる余裕がある」

 クラージュのヤツが老の魂を狙っていると続けたガートに、エディンが「クラージュ?」と聞きとがめる。

「――ひと言で言えば、海賊さ」
「ケット・シーの海賊か!」
「だから、クラージュ一味、っていうべきかな。それともクラージュ一家、か」
「”金蝙蝠海賊団”よ。そう名乗ってるわ」

 鈴の音色のようにファルの声音が響いた。

「”金狼”対”金蝙蝠”か、こいつは負けられないな」
「ちょっと、ギル!楽しんでる場合じゃないですよ。ファルさん、お話の続きをどうぞ」

 アウロラに促され彼女は続ける。

「妖精の魂には強い魔力があるわ。それが天に昇って拡散する前に、何かに捕らえるだけで手に入れることができるの」
「何かに・・・ですか?」
「封印の壺でも、水晶球でも何でもいいのよ。だから簡単だし、その割に行くところへいけば高く売れる。格好の機会だものね、こんなの。狙ってこない理由はないわ」
「ふーん、海賊か・・・・・・厄介だな。出発はいつごろだ?」
「月が出てから、その月に向かって飛ぶんだ」
「”月向船”と私たちは呼んでるわ。魔力を糧に、空を飛ぶことができるの。まぁ――ホントに月にまでは行けないんだけどね」
「あと、ほんの小刻、待ってくれ。その間に準備するから」
「・・・だそうだが、リーダーどうする?」

 エディンが振り返ってギルに尋ねると、彼はぐいっと親指で小屋の入り口を指し示した。

「もう夜だろうが、ちょっと外に出ていいか?あたりの様子も見ておきたい」
「分かった。この宝石は――?」
「成功報酬ってヤツにしといてくれ。今もらっても仕方ない。ちゃんと老を見送ったらもらうよ」

 ギルは肩をすくめて言った。

「そうね。ちょっと外の空気も吸ってきたいし」
「決まりだな。準備できたら呼んでくれ」
「ああ。解ったよ」

 ドアを開けると、湿り気のある涼やかな空気がふわりと冒険者たちを包んだ。
 藍の空は山の端の白じみを残してじわじわと夜を呼び起こしている。
 シルエットになった木々が、襲い掛かってくるように一行を囲み、虫がぢーぢーと小さな存在を主張していた。そんな、何でもないただ穏やかな雰囲気の――誰そ彼どきであった。
 一行はめいめいに腰を下ろし、夜気の訪れつつある空気を吸い込んだ。

2013/01/17 18:57 [edit]

category: 月へ向かう船

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Thu.

月へ向かう船 1  

 蒼白い月明かりがリューンの街を照らす中、”金狼の牙”たちは貼り紙に従って、依頼主の家へと来ていた。

(・・・こういう夜は、イリスのことを思い出すから好きじゃないわ)

 話を聞いているジーニの顔に、懐かしさと苦さが浮かび上がった。
 その隣では、アウロラが熱心に依頼主の話に相槌を打っている。

「・・・・・・と、云うことなのです」
「その、家に行けば”彼ら”がいらっしゃるのですね?」
「ええ――どうぞ、よろしくお願いします」

 依頼はこんなものだった。
 森の中の家に、ある者がいて、その彼ら――複数形らしい――がある場所へ行く護衛をして欲しい、と。
 依頼主の姿はシルエットのみが確認できた。彼がカラバなる人物なのだろうか。
 その膝には1匹の猫――らしき灰色の固まりが浮かび上がっている。
 ジーニは鼻の頭に皺を寄せた。想い出にするにはまだ生々しい冒険の記憶が鮮やかで、猫はあまり好かない。

「報酬については、向こうで受け取ってください。こういう相場はよく知りませんが、銀貨で1200枚程度にはなる宝石を用意しています」

 報酬も冒険者側には丁度いいくらいだった。
 護衛する人物や行く予定の場所について明かされないのには閉口したが、貴族を名乗っている相手にはそういう依頼もあるのだと、先輩たちから聞かされている。
 ”金狼の牙”たちは、この依頼を受けることにした。
 依頼主が礼を言う声はやはりどこか、若いようで年をとっていそうで、年齢の判別のつかないものだった。
 明日にでも出発して欲しい、と頼む依頼主に頷き暇乞いをすると、彼の礼を真似てか、膝の上の猫が一声にゃあと鳴いた。

 ――翌朝。
 珍しく早く起きだした一行に、宿の親父さんが朝食と発破の言葉を用意している。

「気をつけてな。わざわざ護衛を雇うくらいなんだ、何か危険を予測しているんだろう」
「そうね、せいぜい出来る注意はしておくわ」

 用心に越したことはないぞと念を押したあと、一行が引き受けた依頼の紙を見て親父さんが自分の顎を撫でた。

「――カラバ侯、ってのが聞いたことのない名なんだ、それがちょっと気にかかってな。まぁ耳タコかもしれなん、すまなかったな」
「いや、忠告はありがたいさ。ごちそうさん、そろそろ出かけるよ」
「お皿そのままでいいですよ、ギルさん。行ってらっしゃい」

 まだ少し眠そうな娘さんに見送られ、”金狼の牙”たちは宿を出た。
 特筆すべきこともなく数時間後、まだ日の高いうちに目的地についた。
 森が鬱蒼と茂り、一行を歓迎しているのか否か――涼しげな息吹をひょう、となげかけてくる。
 ”彼ら”がいるという家が、この森の奥まったところにある、とは依頼主の言である。
 ギルが一行を促す。

「・・・・・・行くか」

 思ったよりも規模の大きな森に気後れしていた他の面々も、覚悟を決めたように歩き出した。
 だが行けども行けども、目的の家が出てくる様子がない。途中で一度休憩を挟み、昼食をとった。
 茂みの一部から強引に突っ切ってみたものの、歩いていける範囲でそれらしい建物は一切見かけず、せいぜいコカの葉を見つけたくらいであった。そのうち、ミナスが通り過ぎた茂みのほうを指さして言った。

「なんか変だなあ。あの一帯、精霊が妙にざわめいてる」 
「【魔力感知】してみる?」

 ジーニが辺境の集落でもらった蒼い石の指輪を手にするが、エディンが止めて言った。

「いや・・・・・・それより、ベルサレッジの遺跡で見つけた破魔矢を試そう」
「なるほどね。もしあそこに何か魔力が働いているなら、破魔矢で中和できるものね」

 エディンが弓矢を携え、ジーニとミナスの誘導に従って弓を放つ。
 彼の射た矢は誘導どおりの場所に突き刺さり、鏃に込められた魔法で辺り一帯の魔力を解除した。

「よし、解けたはずだ」

ScreenShot_20130109_162430296.png

 幻影なのかもっと大掛かりな術の核になっていたものか、はたしてそこにあったはずの茂みがなくなっていた。
 ここから他の道には行けないようなので、弓を片付けたエディンを先頭に入り口近くまで一度戻ることにする。
 そうしてまた歩き始めると、先ほどまでは行き止まりだったはずの場所に小さな家があった。
 森のその奥に、ただの置物のようにひっそりと。
 小屋の前には羽飾りの付いた帽子をかぶった1匹の黒猫が、さも番人のようにじっと座っていた。
 彼は”金狼の牙”たちをいかにも場違いな闖入者のように冷ややかな瞳で射抜き、それからややあって、2本の後足ですっくと立ち上がった。

「どうやってここを――?いや、そんなことより、ここは君ら人間の来る処じゃない。月が出る前にこの森を出て行ってもらいたい」

 それは、どこか焦っているような響きを残滓に引っ張った脅しであった。
 ともすればプライドの高い猫という生き物の、気概すら否定しかねない懇願――そうともとれるものである。
 ところが、アウロラが口を開きかけたその時――。

「待ってくれ!彼らは――」

 そう言って木陰から現われたのは、1匹の灰色猫だった。
 どこかで会っただろうか。その猫は、アウロラたちと黒猫との間に飛び込んできた。
 それから彼はちらりと、どこか愛嬌のある悪戯っ子のような視線をギルに投げかける。

「あれ?――お前、もしかしてあの時の・・・・・・?」
「えっ?あ――そうか!いつぞやの!あの時は助かったよ」

 読者は覚えておいでだろうか?
 煌く満月のもとで結婚式を挙げた猫妖精のことを。
 少女に愛され、若き妖精に恋い焦がれられた1匹の、雪のように真っ白な毛をした猫のことを――。

「あらためて、ガートだ。――”導きの剣”フォット、彼らは大丈夫だ」
「・・・・・・知り合い、か」

 まだ、いくぶんかの警戒を残してはいるようだったが、フォットと呼ばれた黒猫はちらりと帽子をつまんだ。

「失礼した」
「相変わらずねえ、あんた」

 ジーニはそんなフォットを軽く睨みつつ苦笑した。月光に囚われた悲しい姉弟、それを追った父と人を信じていた娘――。すでにあれから半年近くが過ぎていた。
 フォットは軽く息を呑むと、

「あぁ・・・・・・あの時の・・・・・・・・・・・・」

と、ひどくばつの悪そうな困ったような表情を眼の奥に宿して言った。

「満月を見ていると思い出すのよ――あの時のことを」
「・・・・・・・・・・・・。そう、あの絵、覚えているか?」

 辛そうな様子をなかなか消せないジーニに代わって、ギルが返事をする。

「ああ。――それが?」
「あれはあの家にまだある。――暇があったら、また、見に行ってやってくれ」

 ゆっくり頷いた一行と黒猫の会話を終わるまで待っていたガートが、フォットに向き直って言った。

「フォット。先の祭の噂は聞いてるか?アイルーロスの――」
「噂はな。それが?」
「あの時俺たちに協力してくれたのがこのギルバートたちだったんだ」
「ほう、それはそれは――」

 彼が、苦笑とも微笑ともとれる笑みを口の端に浮かべたように見えた。

「悪いが、ちょっと失礼するよ。――誰かがここに張っていた結界を解いたらしい。それの再構成をしてくる」
「ああ、悪いな。そりゃ俺たちだ」

 ギルが頭をかきながらすまなそうに謝る。

「聞いていた小屋が見えなくて、あれが怪しいと思ったもんだから」
「気にしないでくれ。ガート、それにギルバート――さんだったか、先に入っておいてくれ」
「ギルでいい」
「じゃあギル。ガート、オロール老にはまだ会ってないんだろう?」

 ガートがこれから”金狼の牙”と一緒に会いに行くよと返事をすると、フォットは「それじゃあ」と短く挨拶して去っていった。

「中に入ろう」

 ガートに促され、一行は”導きの剣”の結界に守られていた小屋へと入っていった。

2013/01/17 18:54 [edit]

category: 月へ向かう船

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