Fri.

In the moonlight・・・ 7  

 月獣と化し襲い掛かってきたイリスは、その鋭い爪でジーニの肩を切り裂いた。
 幸い浅手で、それによって正気づいた自分達の魔法使いを、ミナスとアレクがそっと後ろにかばう。

「・・・ウウウ・・・」

 かつてイリスだった獣は叫ぶ。

ScreenShot_20130107_060158343.png
 
「ああっ!」

 その叫び声に呼応するようにジーニの体が震え。
 
「・・・ジーニ・・・手が・・・爪が・・・」

 白い手が獣のように獣毛が生え始め、桜色に塗られたはずの爪が不自然なほど鋭く尖り始める。
 形容しがたいその衝動に耐えるように杖を振ると、髑髏の先から【魔法の矢】が飛び出した。

「ガアアアアア!」
「神よ、我らに大いなる祝福を!」

 アウロラの【祝福】が仲間たちを覆う。
 秘蹟による加護に包まれたエディンの身体が、とんとん、とその場に跳ねていた状態から急に消えた。

「!?」
「こっちだよ」

 跳び上がった肢体が月影に紛れるように現われると、彼の握っていた細剣が容赦なく延髄を狙う。 
 しかし、とっさに獣が身をよじったために狙いは逸れ、背中を突き破るにとどまった。その体勢のまま、エディンも獣の反撃を食らって地面に叩きつけられる。

「つうっ・・・・・・」
「おい、お前の相手はこっちだ!」

 戦斧を両手で握り締めたギルが、それ以上の追撃をさせまいと叫ぶ。
 一足飛びで距離を詰めてきた暴れる獣の爪を、斧でがっきと受け止めるが・・・堪えきれずに膝を突いた。
 これはまずいかも、と思ったギルの視界に、更に変異した腕に苦しめられながら呪文を唱え始めるジーニの姿が映る。

「仲間を・・・お前になんて渡せるかよ!!」

 火事場の馬鹿力とでも言うべきだろうか、ギルは喉を狙って更に突き出してきた爪を柄で跳ね上げ、隙が出来たところを【暁光断ち】という新しい斧技で振りぬいた。神聖な力を宿す刃が、夜明けのように辺りを照らした・・・・・・。
 疲れ果ててへたり込む”金狼の牙”たちを無言でフォットは見つめていたが、

「・・・イリスは大丈夫なのか?」

とアレクに尋ねられて、「多分な・・・」と頷いた。

「・・・結局、イスタンは死んでいた訳ね」
「ああ。奴は魔力を失って・・・あとはお決まりの道だ・・・。下町のエサ漁り・・・そして病気にかかる・・・」
「ここで拾われはしたけれど・・・」
「その主人も持病の発作であっさり逝ってしまった・・・」

 ジーニの台詞をフォットが繋いだ。
 彼は赤い帽子を被り直すと、冒険者たちに向き直った。

「・・・さて・・・イリスを運ぶのを手伝ってくれないか?」

 そしてフォットに協力しようと彼らが立ち上がった瞬間だった。またもや、ジーニの腕が変異を起こし始めたのである。

「うっ!また・・・腕が・・・」
「・・・シンデイナイ・・・」
「満月がそこまで力を与えるはずが・・・。イスタンのせいか・・・」

 魔力にも勝る妄執が彼女を突き動かしているのだ。

「ウググ・・・はぁ・・・う・・・」
「まずい・・・ジーニはイリスに共感している・・・このままでは取り込まれるぞ。何か一撃必殺の武器がないと・・・」
「・・・一撃必殺・・・!フォット、ハイオートンを貸せッ!」

 アレクが叫んだ。

ScreenShot_20130107_063315562.png

 魔剣をアレクに差し出しつつ、確実にイリスへ止めをさすよう示唆するフォットに、一度イリスが助かると聞いていた冒険者たちは逡巡するが――。

「あたしに・・・あたしに渡せ!理性が・・・力が・・・コントロールできるうちに!」

と怒鳴ったジーニが、横から魔剣を奪い取る。
 この状態ではもう呪文を唱えられない。だが、肥大化しつつある獣の腕なら――鋼のようになったイリスの身体へダメージを与えることが出来るはずだ。

「・・・よし。俺たちで時間を稼ぐ。隙を見つけて確実にいけよ」
「分かったわ、ギル」

 仲間たちは頷き合い、イリスへ切り込んでいく。
 尖った爪から放たれた【眠りの雲】にギルとエディンが倒れこむが、その横で続けざまにアレクが雷の弾を相手へ叩き込む。
 アウロラとミナスも呪文を放つが、イリスの硬化した身体に阻まれ全く効果を示さない。

「まだかっ!ジーニ!」
「まダ・・・隙ガ出来てイナい・・・」

 アレクが放った【飛礫の斧】の流れ弾で目を覚ましたギルも参戦し、必死にジーニのために隙を作ろうとする。斧による【風割り】の技を受け止めた時、とっさにイリスの体勢が崩れた。
 ジーニはハイオートンを脇に抱え込む。そして――・・・。

「ヤアアああっ!」

 ――イリスとジーニは屋上から地上へと落ちていった。

「・・・・・・・・・」

 ひどくゆっくりと感じた落下の時間。ジーニの脳裏にはイリスの記憶、イリスの悲しみ、イリスの思考が流れ込んでいた。膨大な量のそれらは脳をかき乱し、負の感情を呼び寄せる。そして見える、虚ろな穴。

「やめて・・・・・・やめて!」

 イリスの目を入り口に、ジーニはハイオートンを彼女の脳髄まで突き刺した。
 ――全てが終わった後、フォットはイリスの死体を背中に乗せ・・・ヨタヨタと何処へともなく歩いていった。
 悲しみか憎しみか、それすら分からず涙を流し続けるジーニの頭を、アウロラがそっと抱きかかえる。

「なんで・・・・・・なんでっ・・・イリス・・・」

 それ以上は言葉にならない彼女を慰めるようにして、冒険者たちは狼の隠れ家へと歩みだした・・・。

※収入0sp※

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■後書きまたは言い訳
21回目のお仕事は、天かける翼さんのIn the moonlight…です。6~8レベル用シナリオなのですが、後ほどにやる予定のシナリオのために前倒しでプレイしました。勘の良い方なら何を狙っているかバレバレじゃないかと思いますが、哀れなLeeffesのために黙っておいてやってください・・・。(笑)

イリスと言うキャラクター。弟を愛しすぎ、他猫を罠に嵌めることも人間を利用して殺すことも厭わない彼女ですが、なかなか嫌いになれませんでした。こう言うと天かける翼さんにご迷惑かもしれませんが、ジーニもまた、仲間のために誰かを罠に嵌めることも利用することも辞さないキャラで、イリスに良く似ています。
会ったばかりの頃から口げんかしてたけど、相手の気持ちを少し判って憎みきれなかったろうし、憎みきれない自分自身への嫌悪も感じているのかもしれません。珍しくジーニが鬱々としておりますが、浮上させるシナリオもありますのでご安心を。すぐにはやりませんが。

5レベルを超えた辺りから、シナリオの雰囲気が精神的に追い詰められたりするようなものが多くなる気がします。(或いはそういうシナリオばかりDLしてるのでしょうが)

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。

2013/01/11 17:59 [edit]

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Fri.

In the moonlight・・・ 6  

 ハイオートンの魔力に引きずられて力を使い切ったフォットに、もう戦う力はほぼ残っていない。剣を下げるように苦笑する猫族に、アレクはなぜここに来たかを問うた。

「イスタンが魔力を取り戻せない場合・・・イスタンを葬る使命とイリスを殺すためだ」

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 猫族は魔力を失った猫を追いかけてはいけない、という掟を口にするフォットに、かねてからそれを疑問に思っていたアウロラが理由を訊いてみた。すると、一つの単語がフォットの口から洩れた。

 月獣化。
 猫族は満月の時、非常に不安定な生き物となる。
 その時・・・一つの負の感情、確執・・・それらに捕らわれた者は獣と化す。

「イスタンがもし死んでいると、イリスが月獣化を起こすからここにいるのか?・・・フォット」
「それとも――娘を殺されたという妄執でここにいるの?」

 ギルとジーニの質問に、フォットは肩をすくめた。すでに彼は、この部屋におけるスーニの最期の一端を見ている。
 フォット自身にも、月獣化は起こってもおかしくはないらしい。すべてを忘れての暴走を羨む黒猫に、ギルは他にもイリスを追いかける理由があるのではないかと詰め寄った。

「・・・魔力復活の儀式がいけないのだ」
「なぜ?魔力を復活させればそれで終わるじゃない?」
「やはり教えなかったのか・・・話せば協力して頂けるかね?」
「話の内容によっては・・・」

 頷いたフォットは、赤く輝く目を閉じて語り始めた。
 猫族の魔力復活には他種族の魂の源が必要なこと。それは人間の魂であれば人間の心臓を必要とすること。
 誰も心臓なんか上げないわ――と首を静かに振るジーニに、フォットは続けた。
 猫族の血は、他種族にはすばらしい生命力を与える反面――血を与えた者へ服従する作用があるのだと。

「血を分け与える機会など殆どない・・・実際には気をつける必要はないと思うが・・・」
「・・・血・・・たしか・・・下の階で・・・」
「・・・まさか・・・」

 ジーニの言葉に仲間たち・・・そしてフォットも一様に青ざめていた。

「・・・もう一つだけ・・・聞きたい・・・」
「なんだ?」
「あなたの娘スーニは・・・本当にイリスが奴隷商人に売ったの?」
「売った。――間違いない」

 返答は明晰で、だからこそ救いがなかった。ここでスーニが死んだ後に、ここの主人から事の次第を書き記した私信をフォットが受け取っていたのだ。そこにはイスタンの魔力も復活させると書かれていた・・・。

「・・・・・・・・・」
「お・・・おい?ジーニ、どうした?」

 よろよろとさっきの館の主人のように揺れ動いたジーニが、唐突に奥の・・・イリスがいるであろう扉に駆け出した。
 驚いたアレクが彼女の名前を呼び、無言で近づいたエディンがとっさに肩を掴むものの、「邪魔・・・」と杖の先でみぞおちを突かれ振り払われる。

「ぐっ・・・おい、やめろ馬鹿ッ!」
「呼んでいる・・・」

 切羽詰ったアレクは止める方法をフォットに聞くが、

「イリスにやめさせるか・・・それとも」
「殺すか、か」

と目の色で察したアレクが返した。
 ジーニとイリスの口げんかに呆れはしたが、あの二人がお互いを曝け出しぶつかっていたのは事実だ。イリスを殺すことを・・・・・・ジーニは承知するだろうか。
 「くそっ!」と叫んで後を追うアレクにギルやミナスが続く。アウロラがエディンを助け起こし、フォットと共に扉を潜った。

「・・・・・・・・・」
「さぁ、こっちにきて。ジーニ・・・イスタンに魂を捧げるのよ」

 もう何も隠すことのなくなったイリスが、不気味に笑ってから冒険者たちに視線を移した。フォットと一緒に出てきたのを認めて、彼女はもう一度笑った。イリスとイスタンの両親は人間が殺したのだという・・・。そのために人間を好いていたスーニを罠にはめたイリスを、彼らは憎み、だが憎みきれないでいた。

「ねぇ。人間さん。私は殺さないの?・・・でも、できないわよねぇ・・・お仲間が捕まってるもんね」
「イリス・・・やめろ。貴様の勘違いにはもう飽きた」
「勘違い?イスタンを助けるために人間を犠牲にすることが勘違いなの?」

 しかし、フォットだけは冷静な目でイリスを見つめる。

「・・・彼らは何も関係が無い。貴様の両親の様に不幸な事を起こした人間ではない」
「でも、他の人間は私たちを捕まえるわ。殺すわ。奴隷にするわ・・・!それと私の行っていることの何が違うの?」
「イリス・・・もう、やめて!」

 アウロラの悲鳴も、白い耳には届かない。

「別にいいじゃない・・・人が一人死ぬだけよ」

 フォットが赤い帽子の位置を直しつつ、前に一歩進んだ。

「私がなぜここに来たと思う?・・・・・・イスタンは死んでいる。そこにあるのは魂の器だ」
「嘘に決まってるわ」
「・・・死期を悟ったイスタンは、お前が追いかけてくるであろう事を予想していた」

 だからこそ、魔力を復活させて帰ろうとした。だが魔力回復に失敗した。
 この屋敷はここの住人が死ぬ寸前の出来事を永久に繰り返す。・・・・・・イスタンとて例外ではない。

「ニャーア・・・」
「ほらっ!私の声に答えてくれたじゃない」
「ニャーア・・・」
「・・・・・・」

 イスタンは同じ発音、同じ言葉を・・・永久に繰り返していた。それに気づいたイリスは、狂ったように・・・いや、狂って頭をかきむしり叫び始める。

「死んでいない・・・死んでいないのよっ!」

2013/01/11 17:37 [edit]

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Fri.

In the moonlight・・・ 5  

 乾いて乾燥した動物の糞、空になった皿・・・二階に来て最初に入った部屋にあったのは、そんなものだった。
 そして部屋を出ると、またあの使用人が立っていたのである。
 彼は「開けますぞ~」と暢気な声と共にまだ入っていない扉を開け・・・。目をカッと見開き驚愕した表情を見せた後、姿を消した。 

「え!?な、なんだ、今の顔!?」
「・・・・・・何かに驚いたようでしたけど。エディン?」
「ん。罠はねえ、鍵もねえ」

 エディンはひょいっとノブを掴んで開けた。その先は、他の部屋より明るい場所だった。

「ああ、壁全体に穴が開いてるのか。ワールウインドの遺跡みてえだな」
「しかし・・・これでは風が吹き込む。ミナス、このマフラーを使え」
「ありがと、アレク」

 何かあるかとしばらく部屋を探索したが、何も得るものはない。
 あきらめて、一度彼らは部屋から出ることにした。

「・・・一応この館の部屋は調べたわ・・・」
「一体どうなってるの・・・この館は」

 呟くジーニとイリスだったが、同時にはっと階段の大扉の方を見やった。使用人の声がしたのだ。

ScreenShot_20130107_045010968.png

「ほーい・・・猫ちゃんよ~い。どこへ行ってしまったかのぉ・・・また月見台へ月を見に行ったのかのぉ」

 「御主人様は実験に忙しいようで・・・」とぶつぶつ愚痴るその幽霊は、またもや一行の前で扉を開けてみせる。
 ・・・・・・・・・そして、また消えていった・・・。
 そしてまた、同じ事を愚痴る使用人が現われ・・・・・・。

「・・・繰り返されて――」

 目前の現象に気づいたジーニが、全員に「まだ使用人が来てないうちに、部屋に入るのよ!」と促す。
 何かの魔法装置で歪んだ空間があるとしたら、それに影響された幽霊が同じ時間をループしている可能性がある。
 そう、今までジーニは頭がぼうっとして気づかなかったが、それと気づいて警戒してみれば、この館は大掛かりな魔力の残り香のようなものに包まれていた。まるで、魔方陣のある導師の研究部屋のようだ。
 手の届く仲間を引っつかみながら、ジーニは幽霊が来る前に扉を開けた。

 一人の・・・60歳前後の男が椅子に座っていた。
 そして・・・一つの紫色のクリスタル・・・・・・誰かの肖像画がこの部屋に見えた。

「女の・・・人・・・?」
「いや、猫族だ。耳がある」

 ミナスの独り言にアレクが素早く言った。

 しかし、肖像画の右耳はイリスのように三角に尖っているものの、左耳は何かの事故にあったのか・・・痛々しい傷跡が残っている。
 男は・・・力なく呟いた。

「・・・これで完成のはずだ・・・イスタンの魔力を回復させることができるはずだ・・・猫族の秘密の儀式を行わずとも・・・」

 男は誰かの肖像画に顔を向け・・・。

「・・・スーニ・・・スーニ・マクヴァール・・・君との約束を果たすことが出来たのだろうか・・・」
「!?」

 たちまち顔色が青くなったイリスをよそに、男は肖像画に呟き続ける・・・。

「・・・君は・・・片耳を無くして・・・奴隷市場に売られていた。今は逝ってしまった妻に似ていた君を・・・」
「フォットの娘さん、か。ずっとこの男が匿っていたのね・・・」
「・・・君には約束したはずの耳を・・・猫の魔力を取り戻させることができなかった」
「・・・・・・無表情だね。あの肖像画・・・」
「ああ。だが、この男にとってみれば――」

 家族同然だったのだろうとアレクは思った。
 たとえ妻と同じ存在ではないと分かっていたとしても、肖像画を眺める男の目は愛情に満ちていた。

「イスタン・・・といったかな・・・君の死んだ後に来た猫がいてね・・・その子もまた・・・猫の魔力を取り戻したい、と言っていた」
「・・・・・・・・・」

 クリスタルが魔力復活の装置であることは、ジーニならずとも冒険者達には明らかだった。秘密の儀式に頼らないとなると、その魔力量は莫大なものなのだろう、自然儀式は時間のかかるものになったはずだ。
 そして難度の高いその技は、恐らく最後の仕上げに・・・・・・。

『今・・・汝らの力とならん・・・今死すべき運命を再び越え・・・』
「フォットとの戦いの後に聴こえた呪文です!」
『大気よ・・・全てを曲げる盾を作り・・・この卑小な者を守り賜え』

 アウロラが囁くとほぼ同時、男の呪文は紡ぎ終っていた。続けて魔力を注ぎ込もうとした男は、不意に顔を大きく歪めてよろめく。
 今見ているものが過去の投影であると頭で分かっていながら、思わずアウロラは駆け寄ろうとした。
 しかし、ギルがその腕を捕らえ首を横に振る。

「ぐ・・・・・・」
「御主人様~開けますぞ~」

 ドオオオオオオオオオン!と大きな轟音と共に、視界の全てが真っ白に染まり・・・・・・過去の投影は、全て消えていた。

 この館の不思議は、全て男の心臓発作から起こった魔力の暴走・・・・・・その結論に達した冒険者たちは、魔力復活の儀式をイスタンに施そうと最後の扉を飛び出したイリスを見送った。しかし、今の暴走の結果が過去本当にあったことだとしたら・・・イスタンの生死は絶望的なのではないだろうか?
 いつも憎まれ口を叩いているジーニが「・・・生きてるといいわね」と呟いた、その時。
 軋みを上げる入り口から入ってきたのは、フォットだった。

2013/01/11 17:34 [edit]

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Fri.

In the moonlight・・・ 4  

「・・・ハイオートンで撃たれた人を見せて」

 人化したイリスは、館の中でそう冒険者たちに促した。
 フォットの持っていた見慣れない魔剣が放つ光は、ジーニに真っ直ぐ飛んだのである。
 それは、すでに張ってあった風の障壁すら貫き、彼女を意識不明の重体に陥らせていた。

ScreenShot_20130107_035618281.png

「お願いだから、そんなに怒らないで」

 事情を説明されないことにむっとしているアレクを宥め、ミナスからナイフを借り受けると、イリスはそれを右の手のひらに2cmほど食い込ませた。

「痛・・・っ」

 右手から流れ出る血を振りかけると見る見る間に・・・なんと、傷が癒えていった。

「・・・ん・・・」
「気が付いた?」

 そうっと起き上がって「え~と・・・」と呟いているジーニに、仲間たちは安堵した。

「大丈夫?体調悪いところはない?」
「イリス・・・?」

 自分を助け起こしてくれた少女の姿をジーニはしばし見つめていたが、大丈夫だと弱弱しい声音ながら呟いた。
 幼馴染に負けず劣らずイライラしていた様子のギルは、その返事を聞くと、待ち構えていたように切り出す。

「イリス――一体、どうなってるんだ」
「・・・始まりはね・・・イスタンが魔力を得て、種族の仲間入りをするための儀式があったことから始まるの――」

 その年は口減らしが必要だった程に、作物が不作だった。
 だから猫族の仲間入りをするのを少なくしたかった・・・そこで、”死の踊り”という儀式が行われたという。二匹の猫が、死ぬまで戦い合う・・・そして生き残った一匹が猫族の仲間になれる。イリスの弟のイスタンと、フォットとの会話に出てきたスーニ。その二人が死の踊りに挑む――はずだった。

「・・・でも、スーニは死の踊りには来なかった。・・・途中で、人間の奴隷商人に捕まったのよ」
「そんな・・・主よ・・・」
「・・・一度、死の踊りを拒否したものは二度と仲間になることができない・・・」

 こうして、イスタンが猫族の仲間になった。フォットは、スーニの父親なのだとイリスは語る。

「フォットはスーニの行方を狂ったように探し・・・。そして――その行方が分からなくなった。フォットは、私を憎んだ」
「なんでだ・・・」
「一緒にマタタビの香りを嗅ぐ家族が彼にはもういないから。二度と娘が毛繕いする姿を見ることがないから。私にはイスタンという家族が残ったから」

 エディンの疑問に、すらすらとイリスは答えた。それは硬質で、まるで氷の棺のように冷たく滑らかな声だった。
 それからスーニという同族殺しの疑いがかけられるようになった、と結んだ。
 納得して黙りこんでしまった冒険者たちを見やり、イリスは気分を変えるように微笑む。

「イスタンを探すのを再開しましょう」

 館はこんな山中にあるにしては広く、そして荒れ果てていた。
 隙間風が吹き込む部屋などもあり、首をすくめてマントを締めなおすと、冒険者たちはエディンを先頭に歩き始めた。
 途中で年老いた使用人らしきものにも出会ったが、全くこちらに気づいた様子はなく、ただ愚痴のようなものを繰り返し続けているだけだった。
 狂人なのか、こりゃ関わらないほうがいい、と冒険者たちが踵を返そうとしたが――。

「そういえば・・・あの猫ちゃんはどうしたかの・・・」

という言葉に足を止めた。アレクが目を細める。

「イスタンのことか?」
「最近元気がなかったがの・・・。どれどれ・・・少し探してくるとするかの・・・」

 使用人を追ってすぐドアを潜ったが、すでにその姿はない。

「あれ?さっきのじいさんは?」
「・・・消えた?悪意や恨みは感じませんが、ゴーストなのでしょうか・・・・・・」

 その後、他の部屋にもその年老いた使用人の姿は出てきたのだが、またすっと玄関ホールへ出て行ってしまう。
 今度は消えないようにと慌てて追いかけると、二階へ続くらしい大扉の前で、

「フォフォッ・・・御主人様!御主人様!御主人様!お夕食でございます!お夕食でございます!お夕食でございます!」

と彼が大声で呼ばわると扉が開いた。
 その大扉は鍵穴もなく、一度調べた時には開かなかった筈のものである。
 もう一度、館の中を丹念に調査したほうがいい、というイリスの意見に頷き、一行は手分けしてあちこちの部屋を探索した。
 そのうち、客間らしいベッドの並んだ部屋で、エディンがとある本を見つけた。

「”扉の種類には幾つかあり・・・日常生活を楽しくしてくれる扉もある”・・・扉の種類の説明・・・の本かぁ」

 呆れたようにエディンが持ってきた分厚い本のページをめくり、ギルが呆れたように呟いた。
 本来ならジーニの役目のはずなのだが、あのフォットから受けた傷を治療して以来、どこかぼうっとしている彼女に無理はさせたくないと、朗読の役目を引き受けたのである。もっとも、中身がルーン文字だったらこうはいかなかったろうが・・・。

「ギル、それ。さっきの大扉のこと分かるんじゃないか?」
「・・・・・・!アレク冴えてる、それだ!」

 慌ててページをめくると、確かに該当するような項目があった。

「最後の項目だ・・・”魔法の扉”」

 三度用事を叫べば開くように、扉に魔法をかけておくのだという。書斎にあった大きな本棚といい、どうやらここの館の主は魔法の心得があるようだ。
 大扉の前に戻った一行は、そろってジーニを見つめた。無理はさせたくないものの、神の奇跡によらない魔法は彼女の領分である。
 しかし、よりにもよって「猫を出せっ!」と三度叫んだジーニとその頭を殴るイリスを見て、「・・・充分元気じゃないか」と思ったリーダーはやれやれと階段に足をかけた。

 同時刻。
 館の前でフォットは立ち尽くしていた。
 無効結界により比類ない魔剣ハイオートンを持つ彼は、この館に「弾かれて」しまったのである。
 この結界が解けない限り、ドアの向こう側へ入ることが出来ない。

「・・・どういうことなのだ・・・なぜ無効結界が・・・」

ScreenShot_20130107_044014328.png

 だが、不意に彼の目に明らかだった結界が月の光に溶けるように消えていく。

「・・・・・・・・・まぁいい・・・入るか」

 フォットが入ると同時に低く声が響く・・・。

『今・・・・・・らの・・・とな・・・ん・・・死すべき・・・・・・を再び越え・・・大・・・よ・・・全てを曲げる盾を作・・・・・・この・・・・・・を守り・・・え・・・』

 再び・・・無効結界が張り巡らされた・・・。

2013/01/11 17:30 [edit]

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Fri.

In the moonlight・・・ 3  

 イリス(猫姿)をジーニの背負ったナップザックで運びつつ、冒険者たちはトーテム山を登っていた。
 山歩きに慣れているギルと視力の良いエディンが先頭に立ち、アウロラとジーニが真ん中、最後尾にミナスを手伝いつつアレクがつく。
 途中、コカの葉を見つけたミナスが荷物袋に入れているのを眺めながら、アウロラが顔だけ出している白猫に訊いた。

「そういえば・・・どうして、イスタンは魔力を失ったのです?」
「新しい年の最初の満月の光を浴びたからよ」

 前にも説明したじゃないと言う口調のイリスに、困ったアウロラの言を補うようギルが口を出した。

ScreenShot_20130107_032635593.png

「ああ・・・だからさ。新しい年の最初の満月の光を浴びると魔力を失うことを知っているんだろ?なのに、なぜ浴びたんだよ?」
「・・・さぁねぇ・・・よく分からないわ・・・」

 どこか口調に苦いものを含んだような顔で、イリスは言う。
 ――山の日が落ちるのは早いと、誰が言ったのだろう?2度狼に襲われたものの、ギルのかすり傷以外に大した被害はなく、ギルは採ったばかりのコカをしかめっ面で齧りながら「夕方か・・・」と唸った。
 辺りはすっかり黄昏に包まれている。
 その後も探索は続けられたが、やがて夕日は地面に、代わりに月が空高く昇り始めた。

「・・・綺麗、ですね」

 アウロラが見上げる夜空には雲一つなく、星がまだ肌寒い大気の中を瞬いている。
 月は・・・そんなことお構いなしに真円を描き、月光を地上に送っていた。
 冒険者たちは小休憩を取ったあと探索を再開した。

「ん・・・あれは・・・」
「館・・・」

 夜目がある程度利くエディンと月明かりで虹彩の少し広がったイリスが、同時にその建物を見つけていた。
 二人が促すほうへ視線を移した”金狼の牙”たちだったが、やがてジーニがあるものに気づく。

「ねえっ!あれを見てっ!」

 ジーニの見ているのは・・・館の屋上にいる一匹の猫らしい影だった。驚いたイリスが「ニャア!」と叫ぶ。
 微動だにしない猫のシルエットに、

「ニャッ!ニャアッ!」

とイリスは必死で呼びかけた。

「イリス・・・」
「・・・大丈夫。あの館に入りましょう」

 心配そうに呼びかけたジーニにイリスは微笑んだ(ように見えた)。
 大きな時計がついたその館に近づくと、エディンはなんとなく「慣れない」気配に気づいた。

「・・・なんだ・・・何かいるぞ・・・」
「誰だっ!」

 精霊の囁きに耳を傾けていたミナスがある方角に向かって怒鳴ると、館の入り口に立っていた柱の一つから、赤い帽子を被った黒猫が二足歩行で現われたところだった。

「・・・・・・人にしては勘が鋭いな・・・」
「あいにくと、人じゃなくてね」

 そう返したミナスの前に、ふわりとイリスがナップザックから降り立つ。

「フォット!?」
「フォット?」
「・・・・・・・・・同族を殺す始末人・・・」

 それを聞いた瞬間、ザッと”金狼の牙”たちは散開して距離をとった。

「・・・酷い誤解だな・・・」
「どこが違うっていうのよっ!」
「貴様には言われたくない。私宛ての手紙までを盗み読みまでして弟の居場所を勘ぐるような泥棒猫にはな・・・イリス?」
「あっ、あなたがここへ来た理由は分かってるわっ!」

 盗み読みという方法を明かされたことが恥ずかしいのか、やや口ごもりながらイリスが声を張り上げる。

「い、イスタンを殺すつもりでしょ!」
「・・・今回は例外なのだがな。ただ・・・場合によってはそうなる」

 その後も互いを弾劾するイリスとフォットの会話は続いたが、不意に「スーニ」という猫族の話になると、イリスがどういうわけかうろたえ始めた。
 イリスが、スーニという同族をフォットに売ったと言う――。ギルたちには、今まで弟を案じていたイリスの印象が強く、なかなか信じがたいことだった。

「君たちはどっちにつくかな?私かな・・・それとも彼女かな?」
「イリスを殺すんですか?フォットさん・・・とおっしゃいましたわね?」

 アウロラが氷心の指輪がついた手で、ぎゅっと胸元を握る。

「そのつもりだ」

 その一言で充分だった。少なくともこの瞬間――フォットは敵だ!

「・・・人間は分からぬ・・・」

 疲れたような哀切を帯びたフォットの呟きは、夜風にかき消されていった。

2013/01/11 17:27 [edit]

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