Thu.

ファレンの騎士 8  

「それをやって帰ってきたの?」

と問いかけたのはジーニだった。
 ミナスが狼の隠れ家に帰ってきた時、親父の顔はズタボロ。ギルとアレクの顔も右に同じくだった。
 ミナス一人に依頼を勝手に受けさせたと言うので、買い物やバイトから帰ってきたメンバーが激怒し、親父さんとドンパチしたのだと言う。

「みんなあなたを心配してたのですよ。無事に帰ってくれて良かった」

 変わりない様子に微笑んだアウロラから事の顛末を聞いて、ミナスは二人に呆れながらも嬉しくなった。
 エディンはライラックの街の事をよく知ってるらしく、別の意味でミナスを心配していたのだが、彼が花の街の出来事をほとんど全て語り終えた後で、「無事だったか・・・」と脱力したようにカウンターに突っ伏していた。

「うん。人が人を助けるのがライラックの神様らしいから、それに倣ってきたよ」

ScreenShot_20130105_211351109.png

 ミナスは結局、テニオスを殺すことなく帰ってきた。
 帰る際、「聖北教会の神様が必要ないのは、この街の人間が何ものにも頼らず生きようとしている意志表示」だとミリアが言ったのだ。

ScreenShot_20130105_204614515.png

「そういやあのテニオスさん、ライラックに教会を作るそうだ。聖北教会にも新しい風か・・・」
「多分、その方も自分の神を見出したのでしょうね。これからが大変でしょうけど・・・」

 十字を切るアウロラの横で、ミナスは不意にあることを思い出して親父さんに声をかけた。

「あっ・・・そういえば、ミリアさんのところに忘れ物したんだって?」
「まあ!お父さんたらいつの間にあの街へ行って来たの?」

と娘さんが膨れる。娘さんの両側にギルとアレクが立ち、興味津々な顔で親父さんを覗き込んだ。

「い、いや、わしはかれこれ20年近く行った覚えは・・・」
「ああ、親父さんの現役時代ということか」
「どんな忘れ物なんだ、ミナス?」
「なんでも、過去の忘れ物なんだって。えーと」

 「剣の誓いを覚えてる?」というミリアの伝言を耳にした親父さんは、変形した顔中を真っ赤に染めていた。
 その顔を見て、まるでオーガーの首を取ったかのように騒ぎ立てるギルとアレクを、親父さんが木刀で追い掛け回し始める。
 たちまち大騒ぎとなった店内で、ミナスはこっそりアウロラに話しかけた。
 まるで姉を通り越して母のように世話を焼いてくれるアウロラに、成長した自分を見せ付けたくなったのだ。
 それは、どこまでも純粋な気持ちだったけれど――。

「あのね、僕はテニオスさんたちみたいにならないよう強くなるからね」
「え?」
「ギルもアレクも大事にしないなら、僕がアウロラ大事にするから」
「え?それってどういう・・・」

 チュ、と軽いリップ音をアウロラの頬にさせて、ミナスは「疲れたから休むねー」と2階へ上がっていった。

「・・・・・・」
「・・・・・・ほー。こりゃ面白い」
「やっぱり変なこと教わったのかーっ!ちくしょー、親父めー!」
「わしのせいじゃないわい!!」

 アウロラは親父さんよりも真っ赤になって絶句し、全てを眺めていたジーニはニヤニヤと笑いを浮かべ、エディンは大騒ぎしてギルたちに混ざり、幼馴染コンビは依然として子供のように親父さんとどつきあい・・・。

「・・・・・・ああ、なんていうかいつもどおり」

 娘さんがため息をついた。

※収入2400sp、≪ナシ≫≪弓(偽)≫≪マスク≫※

--------------------------------------------------------

■後書きまたは言い訳
21回目のお仕事は、レシェさんのファレンの騎士です。少年用一人シナリオでした。
いっぱい書くことあるんですが・・・ええと。
ミナスは【精霊術師の徴】(ちなみにうちは風繰り嶺でつけてもらいました)があるため、ギルやアレクよりももっと成長が遅かったのです。そこを調整したく、色々な一人旅シナリオを調べていたのですが、精神的な成長が望めて今のレベルで行ける、尚且つ文章の素晴らしい・・・と考えると、このファレンの騎士が一番でした。
出てくるキャラクターたちの光と影、4通りのエンディングにたどり着くまでの過程の楽しさ、じっくりと引き込まれる文章・・・・・・ただリプレイに起こす必要上、どうしても削ってしまう文章があったのが悔やみどころ。

なお、8話目の全員が出迎えるところはアドリブです。シナリオにこういう演出はないのですが、ミナスを動かしているうちに「アウロラ一番好き→ちゅーする」の流れを思いついて、書きなぐってしまいました。ご不快に思われた方がいらっしゃいましたらすいません。
ミナスの気持ちはまだ恋愛というより憧憬とか親愛のようなものですが、これが数年後発展するかどうかは・・・キャラクター次第ということで。

あと、途中で出てきたルイゼさんの香水についても、シナリオには具体的に出てきておりません。メレンダ街の色硝子の窓(匈歌ハトリさん作)にルイゼさんに似合うような香水瓶がありましたので、それを出してみました。
本当に魅力的な商品が置いてありますので、メレンダ街を訪れた冒険者は、ぜひ木苺通りの古い小さな塔にも足を運んでみてください。

さて、次回ですが・・・一人用シナリオではないのですが、ジーニに焦点が当たります。毒舌・高慢・見栄っぱりと言うとんでもない彼女にどんな試練があるのか、お楽しみに。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。


2013/01/10 01:48 [edit]

category: ファレンの騎士

tb: --   cm: 0

Thu.

ファレンの騎士 7  

「・・・久しぶりだわ、ここへ来るの・・・近いはずなのにね・・・」

 すでに空はばら色から濃紺へと姿を変えようとしていた。ミリアは静かに海を眺めている・・・。

「・・・・・・ここは・・・きょこうなの?」
「いいえ。そんなことないわ」
「それじゃどうして・・・」
「貧しい家に生まれた女にとって、ここはありがたい勤め先だもの。・・・私の母も、そうだった」
「・・・・・・」

 潮風が心地よいと目を細める美女は、どこか物憂げな様子で夕陽色に染まっていた。

「わたし、ここがとても好きだわ」
「・・・」
「出航する船を見送りながら、夜までずっとこうしていたっけ」

 ひょっとしたら、とミナスは思う。
 この女性もまた、ウネのように待っている人がいるのだろうか。港から出発した誰かを待っていたりするんだろうか。

「一緒に連れてって、なんて泣いたこともあったけど」

 今はこうしているのもいいかしらって思うのよ、と彼女は綺麗に微笑んだ。

「・・・どうしてわたしがお店を開いたかわかる?」
「・・・・・・?」
「昔、好きな人がいた。彼は酔っ払って、私に言ったの。いつか大物になって迎えに来る」
「・・・プロポーズ?」
「酔っ払いの言うことなんてたいてい嘘や見栄が多いの。下心なんて女はお見通しよ」

 からかうように、ちょんと額をつつかれる。

「・・・でもそのときは。誰かの将来に、たとえ夢でも自分がいるかもしれないって、それだけで嬉しかった」
「・・・女心って難しい・・・」

 彼女は言う。誰もが酒場では、昼と違う自分を演じたいのだと。

「酒に酔うなら家でもできるわ。家庭なら、愛する奥さんがいて、かわいい子供がいて・・・でも、それでもお店に来るのは」
「来るのは?」
「酔って自分を演じることで、夢をそっとかたちにするの。いつか真実になるかもしれない。夜の夢は、夜だから美しい」
「夜の・・・だから宵の夢亭なんだね」
「・・・だからときどきこう思うの。たとえ誰かに蔑まれても、誰かを癒してるかもしれないって」
「・・・」
「自分を支える糧になることもあるから」
「・・・でも・・・それじゃ、ミリアさんが・・・かわいそう」

 くしゃりとミナスの顔が歪んだ。
 今までこらえてきた涙の全部が、目に集まってきたようだった。小さな頬に水晶のような滴が零れ落ちるのを拭いながら、ミリアはただ静かに「大丈夫。かわいい小さな紳士がそばにいるわ・・・」と言った。
 二人は手を繋いで店に戻った。もう開店の時間が近づいている。
 2回目の手伝いで、ミナスは不思議な再会を果たした。相手はライラックに着いたばかりの時、姉だと言って衛視を誤魔化してくれた女性である。ミリアと話し込んだあと放心していた彼女に、恩人の様子がどうしても気にかかったミナスは事情を聞きだした。

「・・・昔、父が親しい人をお招きして、ささやかな酒宴を催したことがございます」

 その酒宴の際、大金の入った財布を置いていった客人があり、彼女の父は濡れ衣であるにも関わらず、盗人の烙印を押されたまま亡くなったという。彼女は汚名を雪ぎたい一心で生きてきたと言うが・・・・・・。

「・・・今更、謝罪されたところで、私は・・・どうすれば・・・」

 そういってさめざめと泣く彼女――宵の夢亭に身を売ったルイゼに、すでに帰る場所はないのだ。
 自分の代わりにどうかその人を斬って欲しいと縋られ、剣を差し出されたミナスだったが、受け取ることはしなかった。
 裁くのは、自分の役割ではない。彼自身の神様が裁くことである。
 落胆したルイゼだったが、せめて手紙を届けて欲しいと頼まれてミナスは頷いた・・・・・・・・・。

「・・・・・・手紙は・・・ここで渡すのか」

 ライラックの外、道標のある道の途中でミナスは足を止めた。
 道の向こうから誰かがやってくる。

「ミナス殿・・・」
「あれ?修行はいいの?」

 現われたのはテニオスだった。ぎこちなく頷くテニオスに、ミナスは「そうだ」と切り出した。

「謝らなくちゃ。テニオスさんの依頼の途中なのに、ちょっと手紙を頼まれてさ」
「・・・・・・あ、いいえ・・・」
「すぐ終わるから待っててね。ここで待ち合わせのはずなんだ」
「・・・・・・」

 すると、程なく足音が聞こえてきた。
 ミナスが振り返ると、前髪を真ん中分けにした若い男性が、ピンクの花束を持って立っていた。
 男性はミナスを小さいと侮る様子もなく、慇懃に礼をして言う。

「お尋ねいたしますが、この宿への道をご存知でしょうか?」
「・・・なになに、宵の夢亭・・・って、もしかしてルイゼさんに用事があるの?」

 男性は、酒に弱くて相手の名前を忘れてしまったと苦い顔で頭をかく。
 あれ、おかしいぞとミナスは首を捻った。どうにも話がかみ合わない。

「一見の客を慕ってくれるとは・・・早く彼女にこの花を届けましょう」

 先を急ぐので失礼と去った男性を、ミナスはぽかんと口を開けて見送った。確か、一見の客を待ってると、ドレスを着て笑顔を作っていた女性がいる。

「・・・・・・人違い・・・か・・・」
「・・・ミナス殿・・・」
「ああ、ごめんね。違っちゃった。なかなか来ないね・・・」

 二人はじっとその道に佇んでいた。
 沈黙に耐え切れなくなったミナスが「どうしたの?」と問いかけると、テニオスは妙に白茶けた顔で口を開いた。

「・・・私はあなたに、話さねばならないことがあります・・・昔、犯した罪・・・」
「・・・それじゃ・・・もしかして、ルイゼさんに手紙を出したのは・・・」
「・・・ルイゼ殿にお聞きと言うことはすべてをご存知なのですね・・・」

 テニオスは静かに語り始めた。ルイゼの父・バレンに招かれ、そこで寄付金の袋を紛失したこと。己の責任の重さに耐えかね、ついバレンにあらぬ疑いをかけたこと。

「・・・その後、バレン殿の家庭がどうなったか、改めて言いますまい」

 ミナスは預かった手紙をまるでナイフのようにテニオスの腹部に押し付けた。
 それを素早く読んだテニオスは嘆息した、忌まわしい仕事を続けているのか・・・と。

「忌まわしい仕事?」
「ええ、神に背く卑しい仕事です・・・」
「それ・・・まさか・・・本気で言ってるの?」
「当然ではありませんか。清らかな乙女を毒沼に突き落とすに等しい行為です」

 ミナスの噛み締めた歯がギリ、と鳴った。心に今まで抑えた感情が迸る。
 光の当たる場所に憧れながらも、誰かに蔑まれても誰かを癒せるのだと、己の神様に祈る女たち。

ScreenShot_20130105_210548359.png

「テニオスさん、僕はあなたを許せそうにない」
「・・・・・・」
「しばらく街にいて、僕はいろんな女性を見てきたよ。どうして、この街に入らないの?タブーだから?穢れるから?」
「・・・ミナス殿・・・・・・」
「蔑みを受ける人の祈りは届かないの?僕、分からないよ」

 しばらく二人は黙ったまま見詰め合っていた。

「・・・私も・・・自分の罪に終止符を・・・。どうか、私を斬ってください」

 一つの家庭を崩壊させた罪深さに、テニオスは怯えて苦しんでいた。
 死による償いを望みながらも、聖北教会の教えで自殺は禁じられている。最期まで神に仕える者として死にたいのだと、テニオスは告白した。
 ミナスは決断した。

2013/01/10 01:21 [edit]

category: ファレンの騎士

tb: --   cm: 0

Thu.

ファレンの騎士 6  

 重い荷物を抱えた礼に夕飯につれて来られたお店は、和やかな空気に包まれている。
 ルーシアはちょっと教会へ祈りに行くと席を外したが、ミナスはすぐ、奥のほうにかけるウネを見つけた。
 知り合いに出会えて喜んだミナスは、彼女に話しかけ・・・そしてウネが人を待つわけを知ってしまったのである。

「・・・一回会ったきりの人を待つのか・・・」

 また来ると言ったその人は店の場所を忘れてしまっただけかもしれない、だから自分は綺麗なドレス姿で笑顔で彼を待つのだと。・・・そう言って店を出たウネの顔はとても綺麗で、悲しかった。
 ミナスはもし好きな人ができたら相手にそんな顔をさせたくないと思いながら、ゆっくりと店内を見た。まだ客はまばらにしかいない。
 店内を見回すと一つの視線とぶつかった。こちらの様子を窺っていたと見える若者が、おもむろに近づいてきた。

「あんた、さっきの女の連れかい?」
「・・・・・・何か用?」
「へえ、パトロンにしてはチビだな」

 あからさまな敵意に一瞬たじろいだが、ぐっとこらえて睨みつけた。

「・・・・・・どういう意味?」
「こりゃおもしれえ。もう一回言わなきゃわからねえウスノロときてるぜ」
「ケンカを売りたいなら・・・」

 ミナスの影の中から、護衛をしているファハンが顕現したがる「感覚」が分かった。精霊使いではなければ反応できないそれは、小さな主の怒りに合わせて震えているようである。

「やめて、お兄ちゃん」

 割り込んできた茶色い髪の少女は、懸命にミナスへ頭を下げた。

「ごめんなさい。兄は少し気が立ってるの、どうか聞き流して」
「お前はひっこんでな」
「でも・・・」
「なあ、あんた。この街の女をどう思う?」
「どうって・・・」

 ミナスの脳内に浮かぶのは、華やかで綺麗で軽やかに笑い、その影で悲しげに微笑む女性たちだった。
 化粧をしながら自嘲していたレア、ケガを労わってくれたジュリア、買い物の途中で笑顔の凍りついたルーシア。今、笑顔で待っているのだと語っていたウネ。

「悪いがあんたたちの会話を聞いちまった。教会だって?馬鹿馬鹿しい」

 若者は鼻で笑った。

「この街の女は男に夢を無くし、金に縋って生きるしかない」
「でも・・・」
「それでも希望を捨てきれない奴は、街のものが持ち寄って作った教会で祈りをささげるしかない」
「信仰を持つのは大切だと思うよ」
「そんなことをして何になるんだか・・・」

 ミナスは覚えている。

(神様は、もしかしたら各人の心の中にいるのかもしれません。同じように、悪魔も。私が神様に捧げる祈りは助けを求めるのではなく、祈ることで自分の意思をくじけないようにしているのですよ。)

 頼るだけは神は力を貸さない、だから人は精一杯努力しなきゃいけないのだと、アウロラは初めて祈りを見たミナスの疑問に答えた。
 宵の夢亭の娘たちも同じなのだと思い、筋力で適わないはずの若者の腕をぐっと掴んで睨み上げる。

「何にもならないなんて、ない」
「この街を何も知らないようだな。・・・ここは・・・」
「花の街ライラック。リューンより豪華で、きれいで、とても栄えた街・・・」
「そりゃあ表向きはそうさ」

 若者は別の呼び名を知っているか、と問う。
 ミナスが首を振るよりも早く、若者はタブーの街だと明かした。かつて権力者ファレンが己の欲を満たすために作った虚構の街だと。
 この街の女は何をしているかという質問に夢のお手伝いだと答えたミナスを、若者は力なく笑って振りほどいた。

「・・・そんな子供騙しにひっかかるとはな・・・・・・ククッ・・・夢だと?」
「何がおかしいんだよ、みんな一生懸命生きてる、すてきな人たちだよ!」

ScreenShot_20130105_190351906.png

 ミナスの怒鳴り声はびりびりと響き、その瞳は炎のように燃え上がった。
 夢の手伝いを否定することは、宵の夢亭で働く皆を否定することだと思った。
 何より、最初からあきらめたかのような顔をしたこの若者に、一所懸命生きる女性たちを汚されたくなんてない。
 その時、軽やかなベルの音がレストランに響いた。

「・・・・・・」
「・・・・・・ミリアさん」

 ミリアに気を取られたミナスを放って、若者は店を出た。
 泣きそうな顔を強張らせたミナスに少女はもう一度謝り、「待って」と自分の兄を追いたそうにしている。
 
「・・・ここの支払いなら任せて・・・追いかけてあげて・・・」
「・・・すいません」

 ミリアの申し出にまた頭を下げると、少女は急いで出て行った。
 ミナスや兄妹の食事代を払うと、ミリアは「場所を変えましょう」と小さなエルフを港へと連れて行った。

2013/01/10 01:17 [edit]

category: ファレンの騎士

tb: --   cm: 0

Thu.

ファレンの騎士 5  

「・・・なんだかリューンを出て何年も経つような気がする・・・」

 ミナスはまだ二日目だというのにと小さくため息をついた。

「ふう・・・お酒を飲ませるなんて楽かと思ったけど大変だね。宿の娘さんて偉いんだなー」

と言って、狼の隠れ家の看板娘を思い浮かべる。
 彼女はどんな時も笑顔を絶やさない。その笑顔こそが、店に集う冒険者たちに力を与えていると知っているのだ。

「・・・・・・今は朝?お昼・・・?」

 ミナスは不意にリューンとの違いに気づいた。

「なんだか物足りないと思ったら、ここって鐘が鳴らないんだ・・・」

 ライラックという街についてあまり情報を得ていない彼にとって、それは不思議なことであった。
 大抵、栄えている街と言うのは聖北教会があり、鐘楼がついている。それがここにはない。
 リューンと違ってほとんどの住民が夜更かしだから就寝の鐘に意味はない、と言うことは分かるのだが・・・そのほかにも朝の鐘やミサの鐘というのが教会にはある。
 ミナス自身は聖北教徒ではないのだが、僧侶であるアウロラが鐘にあわせて祈りを捧げているのは見た。
 
「祈りの時間はどうするのかな?」

 あ、とミナスは思った。教会がないから鐘が鳴らないのだと。
 それに気づくと同時でノックもなしにドアが開き、ミナスは毛を逆立てた猫のようにびっくりした。
 開けたのはルーシアである。怖いパックを使っていた女性だ。

「よかったら朝食のあと買い物に行かない?街を案内するわ」
「・・・・・・うん、行くよ。それでさ、ノックをね」
「じゃ、またあとでね」
「・・・・・・ふぅ」

 彼女はまったく人の話を聞かずに出て行った。その様がどこか、ジーニに似てるような気がして苦笑してしまう。
 1時間後、朝食を取った二人が連れ立って街に出ると、外は快晴。
 「ムスメM」というスタミナドリンクの他は特に目的のものを決めずにいるのか、ルーシアは移り気な蝶のようにあちこちの商品を見て回った。
 結構な重さになった荷物に、ミナスが思わず呟く。

「ふぅふぅ・・・重い・・・」
「当たり前でしょ?紳士はこれくらい我慢しなさい?」
「そうだけど・・・これ、買いすぎじゃ・・・」
「・・・・・・・・・え?何か言った?」
「だから・・・」

 買いすぎって言ったの!!と叫ぼうとしたミナスの口を、見知らぬ女の言葉が見えない鎖となって縛った。

「まあ・・・!サロンの女よ・・・さ、行きましょ」

 その言葉の内容よりも台詞に含まれた悪意の針に、ミナスは悲しくなってしまった。

「・・・行きましょうか」
「うん・・・」

 そして暮れ始めた街の中を、宵の夢亭へ歩き始めた二人は、とある商人風の男とすれ違った。
 男の隣には若い女性が並んで歩いている。
 昨日来たお客さんだと気づいたミナスが声をかけようとすると、ルーシアに小声で「声をかけては駄目」と注意された。
 そのまま、路地へ逃げるように引っ張られたミナスは、我慢できずに問いかける。

「ねえ、どうして逃げるのさ?悪いことしてないじゃないか」
「それは光の当たる世界の言葉よ」
「・・・」
「・・・あら?」
「どうしたの?」
「空がきれいよ・・・」

 夢見る乙女のような表情で、ルーシアが黄昏の空を見上げた。

ScreenShot_20130105_182957375.png

「夕焼け雲か・・・」
「・・・・・・きっといいこと、あるわ」

 それはミナスに、というより、自分自身に言い聞かせるような言葉に思えた。

2013/01/10 01:15 [edit]

category: ファレンの騎士

tb: --   cm: 0

Thu.

ファレンの騎士 4  

 翌朝、早々に店のメンバーを紹介されたミナスは面食らっていた。
 昨夜たしなめられたルーシアのほかに、黒髪のレア、金髪のジュリアがミナスに群がってくる。

「きゃーかわいい。男の子よ」
「あとでお買い物行きましょうね」
「それよりお化粧もお手伝いしてもらわないと・・・」
「この子ゆうべ、わたしのパック姿見て腰抜かしたのよ。かわいいわ」

 そりゃそうだろう。リッチそっくりになるパックなど、何も知らない者が見たら心臓停止間違いなしである。

「その・・・頭なでるのは・・・やめ・・・」
「じゃあわたしのこんな姿も驚くんじゃない??」

 そう言って彼の前に姿を現したのは、モコモコのピンクの毛皮の衣装を纏ったウネだった。あっけらかんした笑顔の上方には、どこぞの小動物と同じ長い耳が揺れている。

ScreenShot_20130105_163343750.png

「・・・うさぎ?」
「無事に着いたのね、よかった。よろしくね」

 その後も、さんざっぱら頬やら耳やらを女性たちに撫で回されたミナスは、やっとのことで情報収集に入った。
 しかし、その最中ですら「お化粧するから手伝って」だの「それよりどんな女の子が好きなの?」だの、困る質問をされてしまう。
 結局、大したことも分からないまま、黒髪のレアの手伝いに回ることになった。

「ここは・・・武器庫??」
「ああ、それは武器をモチーフにしたコスメシリーズなの。冒険者気分が楽しめるの」
「そんな物騒なもので化粧を・・・」

 サロンで大流行だというそのコスメシリーズを、慣れない手つきでミナスはレアに手渡していった。
 ・・・・・・どうしてメイクをする時にカーテンの向こうに隠れてしまうのかは、よく分からなかったけども・・・。

「いいこと?ここは、華麗な女たちが美を競う街、ライラックよ?お化粧品も美容法も極秘なの」
「ふうん」

 そしてしばらくして。

ScreenShot_20130105_164703468.png

「どお?きれい?」

と現われたゴージャス美女を見て、ミナスは「女の人って神秘だ・・・」という感想を抱いたという。
 すっかり化粧の済んだレアに連れ添い店に戻ると、夕方から開店だという店はすでに賑わっていた。
 立派な髭を蓄えた老人や商人風の客、学者らしい男などが女性からの接待を受けている。

「様子を見ながらお客様にワインをお出ししてね」

 ミリアから仕事を与えられ赤ワインの瓶を手にしたミナスは、きょろきょろと辺りを見回した。
 とりあえずワインの量が減っている客にワインを勧めると、酔っ払った彼らはドンドンチップをミナスに渡してくる。
 中には「ワインよりエールを」という客もおり、倉庫と店の間を忙しく往復することもあった。
 やがて空になったグラスをさげていると、うっかりと一個テーブルの上から落としてしまった。

「割っちゃった・・・今、片付けるね」

 ワイングラスの欠片に手を伸ばすと、その一つがミナスの人差し指を傷つけた。

「あら・・・切ったのね・・・血が出てるわ」
「・・・・・・!!」

 気の毒そうに柳眉をひそめたミリアの向こう側で、まったく酒に酔うことなく接待を続けていたジュリアが、真っ青になっている。

「これくらい平気だよ」

とミナスは笑って見せた――実際、冒険中にもっと酷い怪我を負ったことがある――のだが、休憩しますと小さく一言残すと、ジュリアは奥に引っ込んでしまった。
 不審そうな顔をしたミナスに、ルーシアが白いハンカチで指先を押さえながら言う。

「ジュリア、血が苦手なのよ・・・」
「はい、これでもう痛くないよ」

 指にガラスが残っていないことを確認したウネが、手早くすり潰された薬草とガーゼで手当てした。

「ありがとう」

 どうにもジュリアが気になったミナスは、休憩にかこつけて彼女の様子を見に行くことにする。

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・ジュリアさん?」

 あくまでも無言のままこちらの瞳を見てくるジュリアに、ややたじろぎながらミナスが呼ぶ。

(話しづらいね・・・まずはこの気まずさを・・・)

 どうにかしなければと思った彼の笹の葉のような耳に、か細い声が聞こえてきた。

「・・・・・・・・・ケガは・・・へい・・・き?」
「うん。これくらい平気だよ」
「・・・・・・そう・・・」
「もっとひどいめにあったことだってあるよ。ゴブリン退治や、オーク退治」

 フォーチュン=ベルでの一戦や、家宝の鎧を着込んだオークロードのことをミナスは思い出していた。
 まったく、あんなのに比べればかすり傷としか言えない。

「いつもは仲間と一緒だけどさ、今回はひとりなんだ」
「・・・・・・」
「ひとりでも平気だって、仲間に見せたいんだ・・・」

 そういって悲しそうに目を伏せたミナスに、ジュリアは微笑みかけた。

「・・・・・・どうしてるかな、みんな」
「・・・おしゃべり」
「え?」
「楽しかった・・・命は大切に・・・ね」
「・・・うん」

2013/01/10 01:13 [edit]

category: ファレンの騎士

tb: --   cm: 0

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top