Fri.

駆け抜ける風 7  

 宿の扉が唐突に開いたかと思うと、一人の女性が飛び込む様にして入ってきた。
 年の頃は二十歳前後――。
 長い髪を後ろでアップにした秀麗な女性であった。

「・・・・・・」

 その女性は入ってくるなり左から右へと視線を移して室内を一望すると、すぐに冒険者たちの方へ目を留めた。
 そして、此方を見据えたまま、つかつかと真っ直ぐに歩み寄ってくる。
 見覚えのない姿に不審を覚えたアウロラが首を傾げていると、

「――か、カレン!?」

 対面に座っていた依頼人が素っ頓狂な声を上げる。
 ・・・どうやら、彼女は彼の知り合いの様だ。

ScreenShot_20121230_121001984.png

「・・・・・・もしかして、この人が婚約者の?」
「・・・え、ええ。彼女が婚約者のカレンです」

 ジーニの疑問にキャトラクトがそう紹介する。
 女性――カレンは冒険者たちにお辞儀をしながら軽い挨拶をする。
 そして、すぐに依頼人の方へ向き直ると、その顔をキッと睨み付けた。

「・・・・・・」
「ひっ・・・・・・。か、カレン、どうして君が此処に!?」
「貴方が二人の結婚指輪をグリフォンに盗られて冒険者の宿に出入りしてるって女中のメアリさんから聞いてね」
(あらま、この依頼人口止めしておかなかったのね・・・。)
「宿の名前から場所を割り出して追いかけてきたの」
(全部バレてる、いや、バラされてる。駄目すぎでしょ、この人)
「いや、あの、その・・・・・・お、怒ってらっしゃる、よね?」

 秘密裏に指輪を取り戻そうとしていた男である。すべてがばれたその狼狽振りは、見るに耐えないと言っても良かった。

「――うん」
「――ひ、ひえ~。ご、ごめんよ、カレン。僕ったら、いつもこんな情けなくて・・・・・・」
「キャトラクト!貴方、何も分かってない!私が怒ってるのはそんな事じゃないわ!」
「・・・・・・え?」

 依頼人と共に、”金狼の牙”たちも首を傾げる。

「貴方が情けなくて、頼りがいがなくて、隠し事のできないバカ正直な人間だなんて、婚約者の私が一番良く知ってる」
「うわー・・・・・・容赦ねえ」
「はっきり物言う人だなあ」

 無自覚な暴言に、ギルとエディンが茶々を入れる。
 しかし、それに構わずカレンは続けた。

「――そんな事で今更怒ったりなんてするわけないじゃない!・・・私が怒ってるのは、そんな大変な事になっているのに、貴方が私に何も言ってくれなかった事よ!」
「・・・・・・ほへ?」

 どうやら、キャトラクトにはまったく予想外の答えだったらしい。
 あまりの女性の剣幕に怯えアレクの後ろに隠れていたミナスが見上げると、アレクは女性の気持ちが理解できたらしく、「ああ、なんだ」と小さく頷いている。

「あのね、キャトラクト。私達、結婚するの。夫婦になるのよ?これから大変な事が沢山あると思う――」

 カレンの言葉に、キャトラクトはどう反応していいか分からず、壊れたマリオネットのように頷くばかり。

「でも、それを二人で乗り越えていこうって決めたから、私は貴方との結婚を決意したのよ?」
「あ・・・・・・」
「・・・それなのに、最初から早々に一人で抱え込んでしまうなんて、そんなの酷いじゃない!」
「カレン・・・・・・」
「貴方みたいな人と結婚するんだもの。このくらいの間抜けな失敗談、とうに覚悟の上だわ」
「それって、こういうレベルの失敗が日常茶飯事って事・・・・・・?」

 ぞっとしない等とジーニは思うのだが、カレンにとっては大切な男性なのだろう。
 うっとりとした目つきで、中々辛らつな台詞を吐いている。

「・・・私は貴方のドジで間抜けでバカ正直な――。そんな所が大好きなの」
「・・・う、うん!約束するよ、カレン。これからはどんな困難も二人で向き合っていこう!」

 二人はミュージカル宜しく、店の真ん中でうっとり抱き合っている。
 目を閉じて互いの唇を重ねようと――。

「――はいはい、お二人さん。ご馳走様、ご馳走様っ!」
「・・・いちゃついている所を邪魔する様で悪いのですがね。報酬の方、忘れないで下さいね?」

ScreenShot_20121230_123250718.png

 エディンとアウロラのツッコミに、慌てて二人は身を引き剥がした。
 謝罪後に差し出してきた銀貨600枚は、確かにいい重さをしていたのだが――。

「・・・ああ、そうだ。よかったら、これから家に来て二人の馴れ初め話でも――」
「誰が聞くかっ!」
「ねえねえ、アレク。エディン、何で怒ってるの?さっき、どうして僕の目を手で見えないようにしたの?」
「・・・・・・お前にはまだちょっと早い」

 色々と精神面で疲れる依頼であった・・・・・・。

※収入1400sp、【駆け抜ける風】入手※

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■後書きまたは言い訳
18回目のお仕事は、タナカケイタさんの駆け抜ける風です。
”金狼の牙”が一番初めに受けたお仕事「泥沼の主」と同じ作者さんの、短めな遺跡探索シナリオで、この方の文章力やキャラクターが本当面白くて好きです。敵のワールウインドすら素敵。
リンクを貼らせていただいている宿屋【星の道標】様(環菜様HP)においても選ばれており、魔法使いをリーダーとした魅力的なPCたちのやり取りが楽しいリプレイが載っているので、避けようかなあと思ったんですが・・・どうしても”金狼の牙”で遊んでみたかった。環菜様、シナリオ被りお許しくださいませ。

さて、このシナリオで大人コンビ(エディン&ジーニ)とアウロラが5レベルにアップしました。そろそろ、中堅と名乗っていい頃合になってきましたね。
spもそこそこ貯まってきたので、ちょっと装備を整えていきたいと思います。

当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。



2013/01/04 05:27 [edit]

category: 駆け抜ける風

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Fri.

駆け抜ける風 6  

 戦闘に入る直前、ジーニが誰か1人宝の山の探索にまわしたらと提案したが、それは一蹴された。
 財宝を探る者がもしグリフォンに狙われたら、恐らく命はない。
 冒険者たちは瓦礫を飛び越え得物を構えて室内に踊りこむと、目の前の巨大な魔獣に立ち向かうべく素早く陣を整えた!

「――総員、全力を以って目前の敵を排除する!・・・人間をなめるな化け物め、来い、戦ってやる!」

 アレクの号令で戦いの火蓋が切られた。
 エディンやアレク、ミナスが呼び出したファハンの攻撃は避けられ、あまつさえエディンは軽く反撃をくらったものの、ジーニやアウロラの呪文、何よりギルの【荒縄捕縛】がワールウインドの巨体に刻み込まれていく。

ScreenShot_20121230_112827203.png

「捕まえたぜ!いけ、アレク、エディン!」

 動きを強制的に止められ恐慌状態になったグリフォンに、戦士たちが渾身の攻撃を繰り出す。

「おらよ!」
「悪いが・・・好機は逃せん!!」

 二人が武器を叩き付けた場所にアウロラの聖なる光が弾け、ワールウインドが一際大きな咆哮を上げる。
 それが火事場の馬鹿力を呼び込んだものか、青い羽毛に食い込んでいた荒縄が引きちぎれる。
 左手に剣を握ったままのアレクが、魔法による雷を人差し指の先に集め始めた。
 【召雷弾】は追尾性があるので、武器の攻撃と違って避けられない。
 女性二人が魔法の媒体を構える後ろで、ミナスも野人ファハンの再召喚を始めたが、その隙を見透かしたようにワールウインドが突進した。
 大きな鉤爪が、とっさにかざした柔らかい両腕を引き裂いて血を流す。

「きゃああああ!」
「ミナス!・・・・・・畜生、アウロラ頼む!」
「お任せを!あなたは攻撃に集中してください、ギル!」

 雷をぶつけ終わったアレクが、視線を敵から外さず仲間に叫ぶ。

「後一撃だ!皆、もう少し踏ん張れ!」

 その時。
 ――グリフォンが空中に舞い上がった!
 敵が空中にいる限り、近距離攻撃を仕掛けることはできないだろう。

「しまった!?これじゃ剣が届かん・・・」
「ふん、それで逃げたつもり?」

 グリフォンを小さく嘲笑したジーニが、唱え終わっていた【眠りの雲】を放つ。
 甘い匂いのする魔法雲が優位に着いたはずの魔獣を包み込み、巨体はあっけなく落下してきた。

「ほら、あと少しなんでしょ。男どもしっかりしなさいよ!」

 もう一度、援護のために【眠りの雲】を唱えようとしたジーニに、グリフォンは仕返しのつもりか巨体をぶつけた。
 あっさりと細い体が柱にぶつかり、そのまま気絶する。
 溜飲が下がったワールウインドだったが、その背中を怒りに満ちたアウロラが【光のつぶて】で焼き、崩れた瓦礫を足場にしたアレクが駆け上がる。

「これで・・・・・・終わりだ!」
「――ッ!?」

 アレクの会心の一撃を受けたグリフォンは最後にもう一度大きく啼くと、その体勢のまま瓦礫の中に落下して粉塵を巻き上げながら沈んでしまった。
 ――そして、舞い上がった埃が再び地に下りても、二度とその体を動かすことはなかった・・・・・・。

 グリフォンの集めた財宝からも銀貨400枚相当の貴金属や宝石を発見した一行は、目的の指輪を入手後、すぐに狼の隠れ家に帰還し、依頼人にミッションの成功を報告した。

ScreenShot_20121230_115512937.png

「・・・ほれ、これが例の結婚指輪だ」

 アレクが一つの指輪ケースをテーブルの上に載せ、その口をパカっと開く。
 すると、その中では一対の指輪が美しく外の光を反射していた。

「おおっ!まさにこれこそグリフォンに奪われた僕の指輪っ!・・・ありがとう、本当にありがとう」

 指輪を見た依頼人キャトラクト=フォールズはそのケースを両手で受け取ると、自らの頬に摺り寄せて再会を喜んだ。
 その様子を眺めたミナスが、小さくため息をつく。

(・・・・・・一々、大げさな人だなぁ)

 やっぱり人間は分からない、等と思われているとは夢に思わず。
 くどくどとキャトラクトがお礼の言葉を続ける。

「・・・いやはや、本当にありがとうございました。皆さんには何と御礼を言っていいやら――」
「――”言う”御礼はいいので、”払う”御礼の方をお願いします」

 流石に聞き疲れたらしいアウロラが珍しく報酬を切り出すと、キャトラクトがうんざりした様子に気づいたのか、慌てて取り繕うに笑った。

「・・・はは、確かに。それでは、成功報酬として残りの――」

 キャトラクトがそこまで言いかけた時である。


2013/01/04 05:05 [edit]

category: 駆け抜ける風

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Fri.

駆け抜ける風 5  

 その後、推測通りにレバーを動かすことで回転扇の仕掛けを動かしたパーティは、再び大扉の前に立っていた。
 罠も鍵もないことを確認し、ギルが扉を開ける。

「ほほう」

 見渡すと、部屋の中には何も置かれていないが壁には綺麗な彫刻が施されている。
 その視界の中をひょこひょこと横切ったエディンが、北の壁にある扉を調べ始めた。

ScreenShot_20121230_110436796.png

「・・・鍵が掛かっている。罠も・・・仕掛けられているぜ」

 ちょっと時間くれ、といったエディンがどっかりそこに腰をすえ、七つ道具を取り出して解除にかかる。
 他の仲間はやや焦れてきた。村人によると、ワールウインドなる名前がついたグリフォンは、夕刻に巣穴に帰ってゆく姿が何度も目撃されているのだ。

「・・・そろそろ帰ってきてもおかしくない。この先に奴がいるなら、前もって補助魔法をかけておこうぜ」

 ギルの囁きに頷いた面子が、それぞれ小声で詠唱を始める。
 魔力の輝きに包まれた一行が、「終わった」と言うエディンの手引きで奥へと進むと、通路の先から外の光が差し込んでいることに気づいた。
 その先に何か大きな生物の気配があることも。

「・・・いるよな」
「ああ」

 幼馴染コンビのやり取りを合図に、彼らは一気に北へ進んだ。

 遺跡の最深部はドーム上のホールになっていた。
 しかし、その天井は崩れ、瓦礫に埋もれた床には外の光が差している。
 天井を見上げればその先には丸く切り取られた青い空が広がっており、差し込んだ光が部屋の中央に丸い陽だまりを作り、石造りの女性像を幻想的に照らしていた。
 女性像をちらと眺めたジーニが、アレクに囁く。

「普通なら、ゆっくり見て回りたいとこだけども・・・・・・」
「ああ、あいつがいたんじゃな」

 そして、そのホールの壁際――。
 冒険者たちの入ってきた通路から丁度反対側に位置する場所にグリフォンが一頭、横たわっていた。

「・・・青い羽根のグリフォン――。あれが噂のワールウインド・・・・・・」

 アウロラの感心したような台詞にかぶせるように、エディンが武器を構えて言う。

「・・・あいつはここの崩れた天井から出入りしてやがったんだな。道理で遺跡の通路が封鎖されたままなわけだぜ」

 冒険者のその言葉が聞こえたのか、グリフォンは体を横たえたまま首だけをさっと持ち上げると澄んだ瞳でじっと此方を見つめてきた。
 その体は通常の個体よりも一回り大きく羽根は青く光を反射して、どこか畏敬の念すら覚えてしまいそうな不思議な存在感を示していた。
 アウロラが、何かに気づいてそっと注意を促した。

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「皆さん、見て下さい。あいつの後ろ――」

 壁が僅かに凹んで横穴になった場所に一行の視線が集中する。
 するとそこには、グリフォンが集めたのであろう、金銀に輝く財宝が山積みにされていた。

「・・・指輪があるとすれば、あの山の中に違いあるまい」
「・・・・・・でも、はいどうぞ、とは渡してくれそうにないけどなぁ」

 暢気な幼馴染コンビのやり取りが気に障ったのか、冒険者たちの視線が自らの宝に集まっている事を察してか。
 グリフォンは颯爽と立ち上がり、自身の財宝を守らんと身構える。

「――来るぞっ!」

 グリフォンは一度大きく翼をはばたかせて突風と共に空中に舞い上がると、大きく一声を上げてからこちらに襲い掛かってきた!

2013/01/04 05:01 [edit]

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Fri.

駆け抜ける風 4  

 南の通路のほうを少し進むと、南北と西に続くT字路に着いた。
 東側の壁に風車の回転扇の様な物がしっかりと設置されている。だが、回転扇は回っていない。
 エディンが仕掛けのないことを確かめると、一行はまた南へ移動を始めた。

「・・・随分と古い物のようね」

 石壁の所々に小さな亀裂が走っているのを目視しながら、ジーニが言う。
 南の通路は北と同じ袋小路になっており、あちらと同じようなレバーと穴があった。
 それをじっと見つめていたミナスが、小さく「あ」と声を上げた。

「どうした?」
「ギル、そこの穴、シルフの力がかすかに感じられるよ」
「穴の中に?」

 エディンが調査した穴をギルが覗き込むが、暗いだけで何も分からない。
 壁面にもう一度手を走らせていたエディンが、「さっきの回転扇・・・ひょっとして・・・」と呟いた。

「リーダー、ちょっとどいてくれるか」
「ん、分かった」

 身を引いたギルを確かめたエディンは、がこんとレバーを下に動かした。
 先が外と繋がっているのだろうか?周囲の空気が僅かに穴へと吸い込まれていくのが感じられた。

「思ったとおりだ・・・反対側に急いで戻るぞ!」

 エディンの指示で、一行は慌てて歩いた道を戻っていく。
 そして北の袋小路に着くと、エディンはためらいなくそのレバーを下ろした。
 今度は、穴から勢いよく風が吹き出してきた。

「うわあ、シルフがすごい喜んでる!」

 何もないはずの空間を、ミナスがきょろきょろと見渡して感嘆した。
 それを和やかな目で眺めつつ、エディンが他の仲間に説明する。

「村人が、何らかの仕掛けがあって奥の鉄扉より先には進めない、って言ってたろ?」
「ああ」
「その仕掛けは、多分遺跡を駆け巡る風によって解かれるんじゃないか、と思うんだ。さっきの回転扇さ」
「扉と回転扇が、連動してるということですか?」
「おそらくはな」

 説明をしながら風車の位置まで進むと、先ほどまでまったく動いていなかった回転扇が、南北に走る風によってくるくると回転している。

「やっぱりな。よし、西の通路に入ろう。これで何処かの仕掛けが動いているはずだ」

 エディンが促し入った通路は、石造りの壁面が灯火によって照らされている。
 暫く進むと、北の壁面に村人が言っていた鉄製の大扉、南の壁面に同じ素材らしい扉がある。
 北の大扉はまだ開かないものの、南の扉は開くようで、エディンは罠を外す為にしばらく針金を微細に動かしていたが、頭を上げて、

ScreenShot_20121230_103145203.png

「・・・よし、罠の解除に成功したぜ」

と報告した。
 続けて鍵を開ける間、ミナスが用心のためにファハンを召喚する。
 静かに扉を開けると、そこは石造りの小さな個室だった。
 入ってきた扉以外に出入り口らしきものは見当たらない。奥には、風化した箱や樽などが乱雑に積まれている。

「あ、あれは無事のようですね?」

 アウロラが指差したのは、風化してない2つの箱だった。
 そっと近づいたエディンが、嫌な予感にとらわれ、触らないようじっと2つの箱を観察する。

「こっちの箱はミミックだ。近寄らないほうがいいぜ」

 そう看破すると、もう一つの方の箱に近寄った。
 罠と鍵を外すと、宝箱の中には魔術書が入っていた。
 無言のエディンからそれを受け取ったジーニがぱらぱらとページをめくる。それは【駆け抜ける風】という遺失魔術らしい。

「周囲の空気を瞬間的に圧縮し、即座に敵単体に発射して転倒させるのね・・・。敏捷性に優れた術者ならともかく、あたしじゃちょっと宝の持ち腐れだわ」
「なら、こいつは臨時収入ってことだな」

 魔術師の報告に頷いたギルは、西の通路の先に皆を促した。
 すると途中にまた、回転扇が設置されている。

「さっきの大扉、多分、こいつに連動してるんだろうな・・・」
「そういうことなら、この先にレバーと穴がまたあるはずよね」
「ああ。しかし、その前に向こうの扉もちょっと見てみよう」

 回転扇の少し離れたところにある鉄扉は、罠がないものの鍵がかけられていた。
 外して中に入ると、最初に入った部屋よりももっと小さく、奥の壁にレバーが備えられている。
 罠がないことを確かめた上で、エディンがレバーをまた動かした。・・・見た感じ、何かが変わったようには思えない。

「これ、なんなんだろ?」

 首を傾げるミナスの横で、ジーニが顎に人差し指を当てたまま言った。

「今まで見たのと同じ素材のレバー・・・・・・多分、他の部屋の仕掛けと連動してるんじゃない?回転扇だけじゃ、ちょっと足りない気がするもの」
「2つ目の回転扇を動かすなら、南側のレバーは元に戻さなきゃならん。それだけでも、結構面倒なんだから十分だと思うんだがなあ」

 理解しがたいと頭を振るギルを、杖の髑髏でジーニがつつく。

「きっとあんたより凝り性だったんでしょうよ。ほら、先に行きましょ」

2013/01/04 04:56 [edit]

category: 駆け抜ける風

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Fri.

駆け抜ける風 3  

 翌朝。
 彼らの姿は、すでに宿の外にあった。

「――さて、それでは行動開始です。何とかして時間までに指輪を取り戻してあげませんとね」

 アウロラが小さな手を握り締め、自分に活を入れている。教会の信徒らしく、結婚の儀になにやら特別な思い入れがあるらしい。
 山岳地帯に到着すると、辺りは木々に覆われた森になっており、その先に、森に段差を作る様にして高い崖が南北に走っているのが見える。
 崖の断面は硬い岩肌になっており、所々に虚(うろ)が覗えた。
 だが、斜面は垂直に近く、専用の道具も無しに登る事は出来そうにない。

 冒険者たちが村人から得た情報通りに崖の断面を捜索すると、岩陰に隠れる様にぽっかりと空いた一つの横穴を発見することができた。

「ここ、だな」
「のようね」

 ・・・傍まで寄ってみると中から僅かに風が吹きぬけているらしく、ひんやりとした空気が頬を掠める。
 そして、その空気に乗る様にして、ぐぉぉぉ、という呻き声の様な音が暗闇の先から低く響いてきた。

ScreenShot_20121230_095115109.png

「この先に遺跡が・・・・・・?それにしても、暗いわね。さて、蛇が出るか鬼が出るか・・・・・・」
「出てくるのは、グリフォンじゃなきゃ不味いんじゃない?余計な時間はないわけだし」
「言葉の文よ!下らない冗談言ってないで、さっさと先に進むわよ!時間はないわけだからね!」

 魔法使いとエルフの、どこか間抜けたやり取りをよそに、エディンが素早くフォーチュン=ベルで購入したランタンに火をつける。
 それを掲げると、黒豹のようなしなやかな動作で先に立って歩き出した。
 その後ろをギル、アウロラが続き、ジーニとミナスを挟んでアレクが殿につく。
 崖の横穴を暫く進むとすぐに人工的な内装に到達した。
 どうやらここからが件の遺跡になっている様だ。
 
「・・・思ったより、かび臭くありませんね」

 壁面は石を組んで舗装されており、そこに簡素なレリーフが施されている。
 内部には僅かに風が吹き抜けており、遺跡内にしては澄んだ空気が保たれていた。

ScreenShot_20121230_095850578.png

「・・・昔に設置された罠の類がまだ残っているかもしれない。十分に警戒しながら進むぞ」
「ああ、任せとけ」

 アレクの発言に応えた後、たちまちその小さな人好きする笑いを消して、エディンが慎重に進んで行った。
 途中、壁面に耳をつける。
 通路の壁から呻き声が聞こえることに気づいたエディンは、ハッとして手を壁につけた。

「――そうか!これは呻き声じゃなくて壁の中を走る風の音なんだ」
「・・・壁の中を風が走ってる、の?」
「ああ、外でも見た通り、ここの岩盤には小さな穴がいくつも通ってるんだよ」

 エディンは、この横穴に進む前に岩盤のチェックもさりげなく行っていた。
 その時は、空いている小さな穴の意味が分からず、スルーしてきていたのだが・・・。

「そして山岳にぶつかった風がその穴を通って遺跡の周りを走ってるんだ。その時にこの音が出るのさ」

 小さなエルフが首を傾げるのに、敏感な手で壁の向こうの風を感じながらエディンが説明した。
 しばらく一行が進むと、南北に分岐したT字路に行き当たった。
 南北の通路は東のそれに比べて、壁面が乾き風化の度合いが大きい様に見える。

「何もねえな」

というエディンの申告に、ギルは暫く考えていたが「北へ」とだけ小さく指示した。
 指示通り進むと、北の通路は袋小路になっていた。
 北の壁面に小さな穴の様なものが空いている。

「なんだこれ?」

 エディンはそれに近寄り、罠が無いかを調べた。穴の傍には金属製のレバーが備え付けられている。

「・・・気になる様な所はない。レバーと穴の正体は、今は分からんな」
「いじらずに置いておこう。必要なら戻ってくればいい」

 アレクの進言に皆が頷き、また来た道を引き返した。

2013/01/04 04:55 [edit]

category: 駆け抜ける風

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