酒蔵の妖魔退治その３

　杖を持った小鬼――ゴブリンシャーマンが、てかてか緑色に照る顔で呪文らしき言語を唱え、その周りにいる数匹のゴブリンたちが、ボスの言葉に合わせるかのごとく、謎の踊りを踊っている。

「キキーッ！」
「ギャギャーッ!！」
「……何してんだあいつら」

　半目になって眺めていたフレッドが呟くのも無理はない。

酒蔵の妖魔退治その２

　冒険者たちが目的の洞窟に着いた頃には、日が傾き始めていた。
　案内人をそっと見送ったのち、洞窟の入り口を物陰から観察してみると、見張りと思しきゴブリンが一匹立っている。
　フレッドが小声でカノンに意見を求める。

「あのゴブリン、見張りだよな？」
「ああ」
「何かおかしくねえか。フラフラしてるし、皮膚の緑がいやにてっかてかなんだが」

酒蔵の妖魔退治その１

　長閑な午前特有の空気と、輝かしい日の光が満ちた道を、２人の冒険者が歩いている。
　１人は年の頃なら１６～１７歳くらい、長い黒髪を馬の尻尾のように括っている聡明そうな娘で、卵や幾つかの薬草が入った紙袋を、しっかりした手つきで抱えている。
　身のこなしが律動的できびきびしているためか、リューン特有の石畳をただ歩くだけの姿でも、まるで半分は空を駆けるように見える。