Mon.
最果ての魔女の後の双子星その2 
黒いローブと帽子に身を包んだ年若き魔女は、赤く沈んだ目を闖入者たちへ向けていた。
旗を掲げる爪と名乗りを上げた冒険者たちが武器を振り上げるのを、陶器のように白い手が魔力を発するたびに軌道を逸らし、あるいは床へ叩きつけている。
タンタ・トルク――金の髪に赤い瞳を持つ彼女は、じっと彼らを統率する娘を見つめた。
骸骨騎士に長剣を叩きつけながら、すかさず打ち込まれる反撃を鎧の肩パーツで最小限の被害に留めんと動いている。
旗を掲げる爪と名乗りを上げた冒険者たちが武器を振り上げるのを、陶器のように白い手が魔力を発するたびに軌道を逸らし、あるいは床へ叩きつけている。
タンタ・トルク――金の髪に赤い瞳を持つ彼女は、じっと彼らを統率する娘を見つめた。
骸骨騎士に長剣を叩きつけながら、すかさず打ち込まれる反撃を鎧の肩パーツで最小限の被害に留めんと動いている。
-- 続きを読む --
自分と対極の――いかにも健やかそうな、柳のようにしなやかな人間。
ギリ、と歯軋りをする。
(己が――忌まわしい太陽へ過敏に反応する体質でなかったら、あるいはあの娘のように、尋常な色をした眼球をもって生まれていれば――ただの人として、扱って貰えたのだろうか?)
いいや、と彼女は内心で否定した。
タンタ・トルク、他に並び立つものもない悪魔との契約を果たした偉大なる魔女は、たとえあのような姿で生まれてきたのだとしても、自身の抜きん出た才能が、凡百に埋もれることを許さなかったはずだ。
彼女は緑色の硝子製に見える魔女の軟膏が入った器を、聖職者が聖杯を掲げるかのごとく持ち上げた。
そこから立ち昇った濃厚な魔法の波動が、突風のように冒険者たちへ吹きつける。
波動を受けた途端、この部屋へ突入する前にかけたらしいタンタ・トルクの知らない術式の防護魔法が、鱗のように剥がれ落ちていった。
スコップを両手で振り回し骸骨騎士の肋骨を砕いた大男が、急に武器を持て余すように感じ、脱力していく身体の状態に気付く。
「くっそ、コノヤロウ……!」
「下がってください、ロンドさん!もう一度、魔法をかけ直します!」
大きな鍵という一風変わった形の発動体をかざし、若い女性が呪文を唱え始めた。
それを邪魔しようとタンタ・トルクの細く白い指が動く射線上に、すかさず氷の馬に騎乗したリビングメイルが、盾をかざして立ち塞がる。
「お退き、邪魔者!」
タンタ・トルクの指先から、死の気配を伴った光線が突き刺さる。
ナイトは辛うじてそれを防いだが、盾がなければ――本の中の搭を攻略している他のパーティから譲られた防具がなければ、恐らく魔法に抗しきれなかったろうと理解していた。
乱戦、とでも評すことの出来るこの状況を、冷静に見下ろしている視線があったが、タンタ・トルクがそれを悟ることはなかった。
通常であれば可愛がっている使い魔の鴉に、周囲の様子を見張らせているのだが、鴉は今や旗を掲げる爪との戦闘に積極的に参加している。
そのため、搭の外壁を伝って、外気を取り込むためにと開けられている小さな窓から覗き込むアンジェに、気付かれる気遣いはない。
(アレが姉ちゃんの言ってた軟膏だね……。)
先ほどまで魔女が掲げていた小さな瓶は、アンジェの視界内にしっかり映っていた。
仲間たちが魔女の魔法で傷つき、毒を喰らい、血を流している姿も捉えていたが、アンジェは自分に課せられた任務を放り出すほど子どもではなかった。
(姉ちゃんが勝機を掴むために考え出してくれた策だもの……。あたしが成功させないでどうするのさ。)
ウィルバーとミカが攻撃魔法を唱えては魔力を射出しているが、そのたびにタンタ・トルクに、拮抗して反発する魔力の霧――ジャミングによる妨害を受け、ろくにダメージを出せずにいる。
壊れかけた骸骨騎士が、ミカを庇ったウィルバーの腕を切りつけた。
アンジェはすぐにでも駆けつけたい衝動をこらえて、じっと機会を窺っている。
黒魔術が仲間たちを蹂躙し――血を流しすぎた誰かが膝をついた頃、茶色いどんぐり眼が鋭い光を放った。

「今だっ!」
窓の縁を魔法の靴で蹴りつけ――白い翼を畳むようにして、凄まじいスピードで魔女の真上から落ちる。
視界が翳ったことに怪訝な顔をしたタンタ・トルクは、さすがに視線を彷徨わせたが――もう遅い。
「!?」
「いただきっ!」
地面すれすれで翼を広げたアンジェが、神業の手捌きで魔女の至近をすり抜ける直前、小さな瓶の軟膏をタンタ・トルクから掏り取った。
掏った後に落下の勢いがつき過ぎて、ごろごろと着地がてら床を転がって行ったが、幸いにして翼によるクッションが効いて、アンジェは怪我らしい怪我もしていない。
四つんばいになって立ち上がろうとしている仲間に、目の前の出来事を待ち構えていたロンドが、人の悪い笑いを浮かべる。
「大した追剥ぎだぜ、アン!」
「人聞き悪いよ、兄ちゃん!」
「おのれ……おのれええぇえっ!」
怒りの言葉と共に放出された魔法の力が、容赦なく冒険者たちの体に突き刺さる。
だが、この戦いの終わりも近い――そう感じたのは、間違いではなかった。
何度も攻撃魔法を食らったものの、大柄な身体から流れる血をものともせず、強い意志の力で次なる魔女の一撃をこらえたロンドは、猛牛すらも凌ぐほどの勢いでタンタ・トルクへと走り寄る。
自分の防御も捨てた、燃え盛るスコップに全体重を乗せた一撃――これが最果ての魔女を貫き、断末魔が部屋一面に木霊した。

「やったか!」
「アアアアーーー!!!」
人とも思えぬ強力でスコップに串刺しにされた彼女の身体は、スコップの魔法の炎で半ば以上が炭化しており、助かる見込みがない事が当人にも分かっていた。
暗い床の上で仰向けになった魔女は、恨めしそうな目でロンドを見上げている。
2人は無言で視線を交し合った。
「……」
「……」
彼が腰の曲刀を引き抜くと、端から血の流れる唇を動かして魔女は言った。
「私は……生きるために必要なことを、した、だけ、よ。あなただって……他人から排斥さ、れた、こと、あるんでしょう……?」
厳つい体躯や強面に、年に似合わぬ白髪という出で立ちのロンドである。
リューンなどの大都市であればともかく、ちょっとした迷信がまだ色濃く残る地方では忌避されるべき対象にされるはずだと、顔を合わせた最初から彼女には検討がついていた。
「笑い種、だわ……排斥、される、者が、同士を、殺す、なんて……」
「一緒にするな」
「………」
「確かに、俺を追い出した奴はいたさ。だが、ちゃんとその後で、俺を受け入れてくれる奴もいたんだ」
同士だと思った男の身体に隠れるようにして、例の金髪の娘が佇んでいる。
魔女は澄明な碧眼と視線を合わせることで、娘が彼を受け入れた輩だと察した――同じ金の髪を持ちながら、健やかな身体から信頼できる仲間を作る心まで、自分とは対極にあるのだろう娘――だとすれば、すでに語るべき言葉はタンタ・トルクにない。
ロンドは、目の前に力なく四肢を投げ出す魔女の首筋に、サンブレードの刃を当てると……それを一気に引き切った。
魔女の首を塩漬けにして依頼主から預かっていた器に保管し、居室から残っていた呪文書を回収すると、彼らは静かに最果ての搭から引き上げた。
そして、その日の夜――次の人里に辿り着くには距離があり過ぎるだろうと、冒険者たちは山の中腹にある小屋に泊まった。
元は木こりか薬草取りの家だったのだろうが、今は住む者もおらず空き家となっているのを、旅人たちが勝手に使っているのである。
往路にも小屋に泊まり、冒険者たちで掃除をしておいたため、埃などもひどい状態ではなく、シシリーとロンドが暖炉にくべる枯れ木を集めて、彼らは暖を取った。
季節としては春なのだが、さすがに標高の高い土地にいるため、夜はかなり冷える。
赤く燃える暖炉の火で、アンジェとナイトで捕まえてきたウサギや椋鳥を捌いて炙り、腹を満たした。
そのまま、毛布を敷布団に、マントを掛け布団代わりに設えた仲間たちが、眠りの国への門を潜る間に――ミカは、何となく回収した呪文書を捲っていた。
それから、どれほどの時間が経っていたのだろう――。
パチリ。

暖炉の火が爆ぜる音が聞こえて、ふとミカは読んでいた書物から目線を上げた。
静かな夜である。
それは大都市を遠く離れた場所が今宵の宿である、ということもあったろうが、今日のように難しい戦いを勝ち抜いて生き残った夜は、殊更静けさが身に染みる。
「――おや?」
睡眠を取る必要のない、ミカの従者の姿がない。
どこへ行ったのだろうと訝しく思いながら、上げた目線をフラフラ彷徨わせていると、外に佇む鎧の姿と明かりが映った。
「……」
ミカは他の仲間たちを起こさぬよう、音を立てないように身を起こすと、そっと扉を開いてナイトのいる外へ出て行った。
夜風がふわりとミカの赤毛を嬲る。
鎧はまるで陳列された品のように、不動のままそこに立っている。
「何してるんです、ナイト」
「主殿。空だ」
「空……?」
「ここは星が鮮明に見える。リューンとは、違うな」
確かに、頭上には満点の星空が広がっていた。
リューンではまず、お目にかかれない光景だろう。
「特にこの季節は、双子星が一際輝く」
ナイトが指差した方向の星に、ミカも見覚えがあった。
「……よく、あなたがご存知でしたね」
「昔、コランダムが……星をモチーフにした魔法の仕掛けを使っていたことがあった」
まだナイトが冒険者となる前に、ウィルバーが虜囚と言うよりはむしろ実験台として敵に捕まっていた時のことである。
苦い思いも含んだ記憶であったが、ナイトは淡々と説明したに留まった。
キメラの開発に勤しんでいた魔術師は、黄道十二星座のカードが貼り付けられた魔道書を、扉の開閉のトリガーとして用いていた。
彼が示したのは、その書の中にもあった双子星――ジェミニである。
御伽噺にも出てくる有名な星だ。
それぞれの星には双子の童子が住み、夜ごとに笛を奏でるという。
ミカはゆっくり常緑樹の瞳を閉じて、双子星の神話を暗誦した。
「仲睦まじい双子は、海に落とされた時も抱き合い、同じ場所へ行こうとした――」
「うむ。主殿こそ、よく覚えていたな」
星たちはただ、静かにそこに瞬いている。
二人並んで双子星を眺めていると、しばらくしてポツリとナイトが呟いた。
「自分も……」
「え?」

「……いや、なんでもない」
仲睦まじい、というのは違うのだろうが。
従者である自分も、もしミカが窮地に立たされることがあれば。
決して傍を離れることはするまいと、彼は口にすることなく決意していた。
それは、あの孤独な魔女の最期を看取ったからこそ、浮かんだ考えであり――魔法生物の身でありながら、人と同じように自我を持ったナイトの、誇りを持った誓いであった。
「そろそろ帰る。この身は寒暖の影響を受けないが、夜露に濡れるのは嬉しいものではない」
歩き出そうとした鎧の身体が、珍しいことにぐらりと傾いた。
「……っとと」
草むらに隠れていた木の根に躓いたらしいナイトに、ミカはそっと手を差し出した。
人ではないのに人よりも気遣ってくれる、優しい己の従者に微笑みかける。
「一緒に帰りましょう」
数瞬の躊躇いの後、ナイトは、ミカの手を砕かぬよう細心の注意を払い、おずおずと握った。
並んだ二つのランタンが、暗い夜道を進んでいく。
天上から見れば、それもまた、星のようだったかもしれない。
※収入:報酬2000sp、【死者の法】【追剥】
※支出:
※ニョロ様作、最果ての魔女&たとい様作、双子星クリア!
--------------------------------------------------------
62回目のお仕事は、ニョロ様作の最果ての魔女と、たとい様の双子星でした。
本当は最果ての魔女が7-8レベル対象のシナリオなので、レベルオーバーだったんですが……いや、私、リューン準拠の対象レベル内で、このシナリオをクリアしたことなかったんですよね……。
それくらい私の戦闘の仕方が下手だ、ということもあるのでしょうが、今が一番個人的に適性だと思える範囲内だったので、思い切ってやらせて貰いました。
結果として、技能を獲得し、タンタ・トルクにトドメを刺すまで20ラウンドもかかっておりますので、私の下手加減ではちょうど良かったんではないかなと思います(笑)。
最果ての魔女自体はクロスオーバーが無いのですが、今までの経歴からまた勝手にクロスしております。
≪赤い一夜≫団の討伐依頼=flying_corpse様の赤い一夜
元・御堂騎士の勇士といざこざがあった=大地の子様の死こそ我が喜び
天使信仰の司教によって教会を強制的に利用=塵芥式ネン様の芋虫男と墓場の犬
お尋ね者とされていた魔女に会った=比呂由希様の魔術師からの脅迫状
また、最果ての搭がある場所についてシナリオ中では言及されていなかったのですが、後でやる双子星のために(このリプレイ内限定で)決定してあります。
「ヴィスマール北方に位置するデロゥキア山地の端」という一文で分かる人も多くはないと思いますが、これはブイヨンスウプ様の『竜殺しの墓』に出てくる地名です。
最近作っている街シナリオで、色々と竜に関わる地を調べていたのですが、何となく最果ての搭のまさしく幻想的な背景画像に、この辺りが相応しいように思えて……あの綺麗な背景画像を竜が飛んでいくのを見たい(どうもすいません)。
タンタ・トルクは、本編で全く自分のことを語っていないのですが、ビルダーで覗き見た限りで表示されている彼女の半生を考えると、少しは冒険者に何らかの感想を抱いたり、文句言ったり愚痴言ったりしたくなるのではと、義母に疎まれたロンドに絡めて、最期にちょっと喋っていただきました。
ニョロ様のシナリオの意図と違っていたら、真に申し訳ございません。
後半の双子星は、「一週間で、一日一つシナリオを作ろう!」というたとい様のチャレンジ企画の作品です。

こんな少ない画面展開で、滔々と2人の関係を作り上げてしまうたとい様すごい。
それで、たまたまナイトを連れ込んだひなた様の『赤い花は三度咲く』と、同じ星のカード絵を使っていらっしゃったので、その時のこともちょっとだけ出しながらのお話にしてみました。
今度は必ず死ぬまでお供しようと決意するナイトと、その決意を何となく察しているけど口には出さないミカさんの一夜を作ってみたかったのです。
使われているBGMがシナリオにぴったり合ってて、ずっと画面を見ながら聞いていたくなります。
本来は草原の夜の話なんですが、今回は山地でやらせていただきました。
ニョロ様、たとい様、面白いシナリオをありがとうございました!
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
ギリ、と歯軋りをする。
(己が――忌まわしい太陽へ過敏に反応する体質でなかったら、あるいはあの娘のように、尋常な色をした眼球をもって生まれていれば――ただの人として、扱って貰えたのだろうか?)
いいや、と彼女は内心で否定した。
タンタ・トルク、他に並び立つものもない悪魔との契約を果たした偉大なる魔女は、たとえあのような姿で生まれてきたのだとしても、自身の抜きん出た才能が、凡百に埋もれることを許さなかったはずだ。
彼女は緑色の硝子製に見える魔女の軟膏が入った器を、聖職者が聖杯を掲げるかのごとく持ち上げた。
そこから立ち昇った濃厚な魔法の波動が、突風のように冒険者たちへ吹きつける。
波動を受けた途端、この部屋へ突入する前にかけたらしいタンタ・トルクの知らない術式の防護魔法が、鱗のように剥がれ落ちていった。
スコップを両手で振り回し骸骨騎士の肋骨を砕いた大男が、急に武器を持て余すように感じ、脱力していく身体の状態に気付く。
「くっそ、コノヤロウ……!」
「下がってください、ロンドさん!もう一度、魔法をかけ直します!」
大きな鍵という一風変わった形の発動体をかざし、若い女性が呪文を唱え始めた。
それを邪魔しようとタンタ・トルクの細く白い指が動く射線上に、すかさず氷の馬に騎乗したリビングメイルが、盾をかざして立ち塞がる。
「お退き、邪魔者!」
タンタ・トルクの指先から、死の気配を伴った光線が突き刺さる。
ナイトは辛うじてそれを防いだが、盾がなければ――本の中の搭を攻略している他のパーティから譲られた防具がなければ、恐らく魔法に抗しきれなかったろうと理解していた。
乱戦、とでも評すことの出来るこの状況を、冷静に見下ろしている視線があったが、タンタ・トルクがそれを悟ることはなかった。
通常であれば可愛がっている使い魔の鴉に、周囲の様子を見張らせているのだが、鴉は今や旗を掲げる爪との戦闘に積極的に参加している。
そのため、搭の外壁を伝って、外気を取り込むためにと開けられている小さな窓から覗き込むアンジェに、気付かれる気遣いはない。
(アレが姉ちゃんの言ってた軟膏だね……。)
先ほどまで魔女が掲げていた小さな瓶は、アンジェの視界内にしっかり映っていた。
仲間たちが魔女の魔法で傷つき、毒を喰らい、血を流している姿も捉えていたが、アンジェは自分に課せられた任務を放り出すほど子どもではなかった。
(姉ちゃんが勝機を掴むために考え出してくれた策だもの……。あたしが成功させないでどうするのさ。)
ウィルバーとミカが攻撃魔法を唱えては魔力を射出しているが、そのたびにタンタ・トルクに、拮抗して反発する魔力の霧――ジャミングによる妨害を受け、ろくにダメージを出せずにいる。
壊れかけた骸骨騎士が、ミカを庇ったウィルバーの腕を切りつけた。
アンジェはすぐにでも駆けつけたい衝動をこらえて、じっと機会を窺っている。
黒魔術が仲間たちを蹂躙し――血を流しすぎた誰かが膝をついた頃、茶色いどんぐり眼が鋭い光を放った。

「今だっ!」
窓の縁を魔法の靴で蹴りつけ――白い翼を畳むようにして、凄まじいスピードで魔女の真上から落ちる。
視界が翳ったことに怪訝な顔をしたタンタ・トルクは、さすがに視線を彷徨わせたが――もう遅い。
「!?」
「いただきっ!」
地面すれすれで翼を広げたアンジェが、神業の手捌きで魔女の至近をすり抜ける直前、小さな瓶の軟膏をタンタ・トルクから掏り取った。
掏った後に落下の勢いがつき過ぎて、ごろごろと着地がてら床を転がって行ったが、幸いにして翼によるクッションが効いて、アンジェは怪我らしい怪我もしていない。
四つんばいになって立ち上がろうとしている仲間に、目の前の出来事を待ち構えていたロンドが、人の悪い笑いを浮かべる。
「大した追剥ぎだぜ、アン!」
「人聞き悪いよ、兄ちゃん!」
「おのれ……おのれええぇえっ!」
怒りの言葉と共に放出された魔法の力が、容赦なく冒険者たちの体に突き刺さる。
だが、この戦いの終わりも近い――そう感じたのは、間違いではなかった。
何度も攻撃魔法を食らったものの、大柄な身体から流れる血をものともせず、強い意志の力で次なる魔女の一撃をこらえたロンドは、猛牛すらも凌ぐほどの勢いでタンタ・トルクへと走り寄る。
自分の防御も捨てた、燃え盛るスコップに全体重を乗せた一撃――これが最果ての魔女を貫き、断末魔が部屋一面に木霊した。

「やったか!」
「アアアアーーー!!!」
人とも思えぬ強力でスコップに串刺しにされた彼女の身体は、スコップの魔法の炎で半ば以上が炭化しており、助かる見込みがない事が当人にも分かっていた。
暗い床の上で仰向けになった魔女は、恨めしそうな目でロンドを見上げている。
2人は無言で視線を交し合った。
「……」
「……」
彼が腰の曲刀を引き抜くと、端から血の流れる唇を動かして魔女は言った。
「私は……生きるために必要なことを、した、だけ、よ。あなただって……他人から排斥さ、れた、こと、あるんでしょう……?」
厳つい体躯や強面に、年に似合わぬ白髪という出で立ちのロンドである。
リューンなどの大都市であればともかく、ちょっとした迷信がまだ色濃く残る地方では忌避されるべき対象にされるはずだと、顔を合わせた最初から彼女には検討がついていた。
「笑い種、だわ……排斥、される、者が、同士を、殺す、なんて……」
「一緒にするな」
「………」
「確かに、俺を追い出した奴はいたさ。だが、ちゃんとその後で、俺を受け入れてくれる奴もいたんだ」
同士だと思った男の身体に隠れるようにして、例の金髪の娘が佇んでいる。
魔女は澄明な碧眼と視線を合わせることで、娘が彼を受け入れた輩だと察した――同じ金の髪を持ちながら、健やかな身体から信頼できる仲間を作る心まで、自分とは対極にあるのだろう娘――だとすれば、すでに語るべき言葉はタンタ・トルクにない。
ロンドは、目の前に力なく四肢を投げ出す魔女の首筋に、サンブレードの刃を当てると……それを一気に引き切った。
魔女の首を塩漬けにして依頼主から預かっていた器に保管し、居室から残っていた呪文書を回収すると、彼らは静かに最果ての搭から引き上げた。
そして、その日の夜――次の人里に辿り着くには距離があり過ぎるだろうと、冒険者たちは山の中腹にある小屋に泊まった。
元は木こりか薬草取りの家だったのだろうが、今は住む者もおらず空き家となっているのを、旅人たちが勝手に使っているのである。
往路にも小屋に泊まり、冒険者たちで掃除をしておいたため、埃などもひどい状態ではなく、シシリーとロンドが暖炉にくべる枯れ木を集めて、彼らは暖を取った。
季節としては春なのだが、さすがに標高の高い土地にいるため、夜はかなり冷える。
赤く燃える暖炉の火で、アンジェとナイトで捕まえてきたウサギや椋鳥を捌いて炙り、腹を満たした。
そのまま、毛布を敷布団に、マントを掛け布団代わりに設えた仲間たちが、眠りの国への門を潜る間に――ミカは、何となく回収した呪文書を捲っていた。
それから、どれほどの時間が経っていたのだろう――。
パチリ。

暖炉の火が爆ぜる音が聞こえて、ふとミカは読んでいた書物から目線を上げた。
静かな夜である。
それは大都市を遠く離れた場所が今宵の宿である、ということもあったろうが、今日のように難しい戦いを勝ち抜いて生き残った夜は、殊更静けさが身に染みる。
「――おや?」
睡眠を取る必要のない、ミカの従者の姿がない。
どこへ行ったのだろうと訝しく思いながら、上げた目線をフラフラ彷徨わせていると、外に佇む鎧の姿と明かりが映った。
「……」
ミカは他の仲間たちを起こさぬよう、音を立てないように身を起こすと、そっと扉を開いてナイトのいる外へ出て行った。
夜風がふわりとミカの赤毛を嬲る。
鎧はまるで陳列された品のように、不動のままそこに立っている。
「何してるんです、ナイト」
「主殿。空だ」
「空……?」
「ここは星が鮮明に見える。リューンとは、違うな」
確かに、頭上には満点の星空が広がっていた。
リューンではまず、お目にかかれない光景だろう。
「特にこの季節は、双子星が一際輝く」
ナイトが指差した方向の星に、ミカも見覚えがあった。
「……よく、あなたがご存知でしたね」
「昔、コランダムが……星をモチーフにした魔法の仕掛けを使っていたことがあった」
まだナイトが冒険者となる前に、ウィルバーが虜囚と言うよりはむしろ実験台として敵に捕まっていた時のことである。
苦い思いも含んだ記憶であったが、ナイトは淡々と説明したに留まった。
キメラの開発に勤しんでいた魔術師は、黄道十二星座のカードが貼り付けられた魔道書を、扉の開閉のトリガーとして用いていた。
彼が示したのは、その書の中にもあった双子星――ジェミニである。
御伽噺にも出てくる有名な星だ。
それぞれの星には双子の童子が住み、夜ごとに笛を奏でるという。
ミカはゆっくり常緑樹の瞳を閉じて、双子星の神話を暗誦した。
「仲睦まじい双子は、海に落とされた時も抱き合い、同じ場所へ行こうとした――」
「うむ。主殿こそ、よく覚えていたな」
星たちはただ、静かにそこに瞬いている。
二人並んで双子星を眺めていると、しばらくしてポツリとナイトが呟いた。
「自分も……」
「え?」

「……いや、なんでもない」
仲睦まじい、というのは違うのだろうが。
従者である自分も、もしミカが窮地に立たされることがあれば。
決して傍を離れることはするまいと、彼は口にすることなく決意していた。
それは、あの孤独な魔女の最期を看取ったからこそ、浮かんだ考えであり――魔法生物の身でありながら、人と同じように自我を持ったナイトの、誇りを持った誓いであった。
「そろそろ帰る。この身は寒暖の影響を受けないが、夜露に濡れるのは嬉しいものではない」
歩き出そうとした鎧の身体が、珍しいことにぐらりと傾いた。
「……っとと」
草むらに隠れていた木の根に躓いたらしいナイトに、ミカはそっと手を差し出した。
人ではないのに人よりも気遣ってくれる、優しい己の従者に微笑みかける。
「一緒に帰りましょう」
数瞬の躊躇いの後、ナイトは、ミカの手を砕かぬよう細心の注意を払い、おずおずと握った。
並んだ二つのランタンが、暗い夜道を進んでいく。
天上から見れば、それもまた、星のようだったかもしれない。
※収入:報酬2000sp、【死者の法】【追剥】
※支出:
※ニョロ様作、最果ての魔女&たとい様作、双子星クリア!
--------------------------------------------------------
62回目のお仕事は、ニョロ様作の最果ての魔女と、たとい様の双子星でした。
本当は最果ての魔女が7-8レベル対象のシナリオなので、レベルオーバーだったんですが……いや、私、リューン準拠の対象レベル内で、このシナリオをクリアしたことなかったんですよね……。
それくらい私の戦闘の仕方が下手だ、ということもあるのでしょうが、今が一番個人的に適性だと思える範囲内だったので、思い切ってやらせて貰いました。
結果として、技能を獲得し、タンタ・トルクにトドメを刺すまで20ラウンドもかかっておりますので、私の下手加減ではちょうど良かったんではないかなと思います(笑)。
最果ての魔女自体はクロスオーバーが無いのですが、今までの経歴からまた勝手にクロスしております。
≪赤い一夜≫団の討伐依頼=flying_corpse様の赤い一夜
元・御堂騎士の勇士といざこざがあった=大地の子様の死こそ我が喜び
天使信仰の司教によって教会を強制的に利用=塵芥式ネン様の芋虫男と墓場の犬
お尋ね者とされていた魔女に会った=比呂由希様の魔術師からの脅迫状
また、最果ての搭がある場所についてシナリオ中では言及されていなかったのですが、後でやる双子星のために(このリプレイ内限定で)決定してあります。
「ヴィスマール北方に位置するデロゥキア山地の端」という一文で分かる人も多くはないと思いますが、これはブイヨンスウプ様の『竜殺しの墓』に出てくる地名です。
最近作っている街シナリオで、色々と竜に関わる地を調べていたのですが、何となく最果ての搭のまさしく幻想的な背景画像に、この辺りが相応しいように思えて……あの綺麗な背景画像を竜が飛んでいくのを見たい(どうもすいません)。
タンタ・トルクは、本編で全く自分のことを語っていないのですが、ビルダーで覗き見た限りで表示されている彼女の半生を考えると、少しは冒険者に何らかの感想を抱いたり、文句言ったり愚痴言ったりしたくなるのではと、義母に疎まれたロンドに絡めて、最期にちょっと喋っていただきました。
ニョロ様のシナリオの意図と違っていたら、真に申し訳ございません。
後半の双子星は、「一週間で、一日一つシナリオを作ろう!」というたとい様のチャレンジ企画の作品です。

こんな少ない画面展開で、滔々と2人の関係を作り上げてしまうたとい様すごい。
それで、たまたまナイトを連れ込んだひなた様の『赤い花は三度咲く』と、同じ星のカード絵を使っていらっしゃったので、その時のこともちょっとだけ出しながらのお話にしてみました。
今度は必ず死ぬまでお供しようと決意するナイトと、その決意を何となく察しているけど口には出さないミカさんの一夜を作ってみたかったのです。
使われているBGMがシナリオにぴったり合ってて、ずっと画面を見ながら聞いていたくなります。
本来は草原の夜の話なんですが、今回は山地でやらせていただきました。
ニョロ様、たとい様、面白いシナリオをありがとうございました!
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
2017/03/13 12:40 [edit]
category: 最果ての魔女の後の双子星
tb: -- cm: 0
Mon.
最果ての魔女の後の双子星その1 
「最果ての魔女……ですって?」
そう呟いた彼女は、細い眉をしかめるようにして彼を見つめた。
狼の隠れ家、と呼ばれる老舗の冒険者の店でも、かなりの実力者と目されているパーティのリーダーは、聖北教会の依頼人としての全権を託された彼にとって、意外なほど若く、初めは本当に依頼に値する人物かと訝った。

そう呟いた彼女は、細い眉をしかめるようにして彼を見つめた。
狼の隠れ家、と呼ばれる老舗の冒険者の店でも、かなりの実力者と目されているパーティのリーダーは、聖北教会の依頼人としての全権を託された彼にとって、意外なほど若く、初めは本当に依頼に値する人物かと訝った。

-- 続きを読む --
しかし、対峙してみるとよく分かる。
聖北教会の聖印を首から提げた、癖のない金髪のこの娘は、恐らくは筋肉をこれ見よがしに誇示する戦士や、いかにも交渉に長けた様子のすれた感じを与える魔術師などよりも――実力が、上なのだ。
こちらをひたと見据える青い双眸は、光を湛えた海のごとき澄明さで話し相手を見透かすようにも思える。
(これは、よくよく腹を決めて話さねばならぬ。)
紺色の粗末なローブの中で、男は決意を固めて身じろぎした。
これから話す討伐対象について表裏なく語らねば、彼女は依頼を受けようともしないだろう。
まるで見えない後光でも差しているような、妙な威圧感を感じつつ、彼は再び口を開いた。
「聖北の教義に叛く、悪しき魔女。タンタ・トルク。悪魔と交わい得た力をもって人々を惑わし、作物を枯らす……と噂される魔女を、異端審問にかける予定だった」
「悪魔と交わって……ね」
微かな苦笑が、シシリーと名乗った娘の口元を過ぎった。
鉄格子の嵌まった明り取りの窓から、はらりと白い花びらが舞い込む。
ここは狼の隠れ家の中でも、内密にしたい依頼の話をする時などに使われる半地下――かつては≪赤い一夜≫団の討伐依頼について宿の亭主とやり取りをした一室である。
シシリーは、その頃にはまだ仲間であった黒い翼を思い出しつつ、表向きは依頼主へ質問を重ねた。
「予定だったということは……?」
「ああ。派遣された我が教会の御堂騎士を、十人以上殺害された」
「ご存知なのだろうと思っていたのですけど――旗を掲げる爪は、かつて元・御堂騎士の勇士といざこざがあったんですが、それでも私どもを雇いたいのかしら?」
彼女が匂わせたのは、ミカやナイトが途中加入する以前にあった仕事のことで、すでに聖北教会を退いたはずの老人からクドラの祭器を教団に渡さず回収するよう、頼まれた時のことだった。
モーゼル卿と言う名前の第1次聖墳墓戦役で勲功を挙げた老雄は、実は異教徒に対する常軌を逸した猟奇的な弾圧が問題になり、教会から内々に追放された人物である。
そんな人物が、よりにもよって今まで自分が弾圧してきたクドラの祭器を使って邪神を降臨し、我が身を若返らせようと企んでいたのであった。
はたして依頼人は、慌てたように掌をこちらに向け横に振った。
「あの御仁の話ならば、こちらも聞き及んでいる。彼はとうに教会とは関係のなき身であり、我々としてはその後に彼が何をしていたとしても関知はしない。当然、彼と諍いのあった冒険者だとしても、それは聖北教会にとって何ら意味を含むことはない」
「そうですか。では話を続けましょう。最果て、という異名には何か意味が?」
「かの魔女の居城なのだ」
男の話によると、ヴィスマール北方に位置するデロゥキア山地の端、天空を裂き聳え立つ塔に、タンタ・トルクが引き篭もっており、その搭の名前が、最果ての搭と御堂騎士の間で囁かれるようになったという。
派遣された教会勢力は、正面から搭へと立ち入って彼女を引きずり出し、教会へ移送しようとしたのだが、力ある魔術師が当然そうであるように、最果ての搭の内部は、彼女の領域として様々に魔法的な仕掛けを施してあった。
結果――愚かにも対策を練らずに押し入った者たちは、誰一人として生還できなかった。
辛うじて、魔女の仕掛けのことを外で待っていた修道女に伝えた騎士も、体中から血を噴き出す様にして程なく息絶えたらしい。
「つまり、もし私たちが依頼を引き受けた場合――タンタ・トルクの手の内で戦えと?」
「狡猾な魔女は、決してあの搭から外へは出ようとしないだろうからな。搭の中で戦うのなら、御堂騎士団が任に当たるよりは、冒険者の方が状況を打破する手段を持ち得ているだろう、というのが大方の見方だ」
「大方の、ではなく、上層部の、ということではありませんか?」
くすりと小さく笑ったシシリーは、昨年末によく手伝いに行っていた聖北教会の司祭を思い出した。
50歳過ぎのその司祭は、リューンの市営墓地の管理も怠りなく務めており、多くの信徒から慕われている優しい人だ。
冒険者稼業に身を投じながら信仰を貫く聖職者たちも、その教会にはよく出入りしている。
まだシシリーたちが駆け出しと中堅の間くらいの実力であった頃、テーゼンの正体が判明して旗を掲げる爪が解散しかけた時に、天使信仰の司教によって教会を強制的に利用されたこともあるが、司祭は態度を変えることなく、普通にシシリーに接し続けてくれていた。
自分たちを推薦したのは、ひょっとしたらあの人なのではないだろうか――思考を進めながら、シシリーはタンタ・トルクについて出来るだけの情報を得た。
金髪に赤目――いわゆる”アルビノ種”に含まれる容姿であるが、周りの者とあまりにも違う見た目が(仲間であるロンドの過去のように)忌避されたのか、それとも、色素異常によって日光に当たれないために人間扱いされなかったのか、ずいぶんと幼い頃から迫害されていたらしい。
それからどうやって知識を得たのかは謎だが、タンタ・トルクは10代前半の若さで黒魔術に通じており、自分のいた集落が魔女狩りの対象になった際に、悪魔より授かったという術を行使し、数人を殺害。
それ以降、魔女は賞金首となったのである。
「色素の異常で陽光に当たれないなら、余計、どんな策略を用いても搭からは出ないでしょう。やはり、懐に飛び込む以外の選択肢はないかもしれませんね」
「ただ、魔女は護衛を引き連れておる。それらを討ち果たさねば、まず攻撃は彼奴に届くまい」
「何か付け入る隙があるはずです。塔を出れないことは、彼女の弱味ではない。タンタ・トルクの操る黒魔術に対抗する手段があれば……」

「弱点か……魔女の話が真ならば、悪魔より授かりし軟膏を持っている筈だ」
「軟膏?」
「魔女が去った後の居住地に残されていた本を、魔術にも通じた聖北の使徒が解した。それによると、悪魔との契約の印に、魔力を濃縮した軟膏を渡すのだという」
「魔力を濃縮……それなら、魔力感知か、もしくは違和感を探し出す優秀な”目”があれば発見することが可能かもしれません。とすると、やはり騎士団よりも、魔術師や盗賊が仲間にいる私たちの方がこの仕事に向いているのだと判断せざるを得ませんね……」
「おお……では!」
「はい。魔女のタンタ・トルクの討伐。私ども旗を掲げる爪が、銀貨二千枚でお引き受けしましょう」
――という話をリューンでしたのが、三週間前。
かつて古竜を討ち取った英雄の墓があるという地から、さらに徒歩で数日を要する山地へと冒険者たちは訪れていた。
拠点である交易都市よりも色の薄い青空が広がり、昨日降っていた雨がすっかり上がったせいか、白い嶺が連なる光景に虹が掛かっている。
雑然とした街中の現実から遥かに離れた、幻想的ともいえる眺めだった。
まるまっちい子どもの指が、その眺めの只中にある建築物を示す。
「あれかなぁ、魔女の搭って?」
「かもしれません。それにしても……何だか、それっぽくない場所にありますよね」
言葉を交わしたアンジェとミカは、揃って白い搭を見上げた。
黒魔術を操る魔女の居城の割に、瘴気が溢れることも捩じれた木々が周りを取り巻くこともなく、なんとも美しい佇まいである。
だが、タンタ・トルクは確かに数十人を殺害した魔女であった。
旗を掲げる爪は、以前にも複数の組織からお尋ね者とされていた魔女に会ったことがある。
アイリス=グリニャールと名乗っていた彼女は、魔法生物や使い魔の知識向上の訓練などに力を入れた研究をしていたため、命を生み出すのは神の営みだと断ずる聖北教会の主流な考えを主張する過激な一派により、危険な思想の魔女だと追われていたのである。
そんなアイリスだったが、彼女個人は、妖魔の襲撃から近所にある村を守らんと準備をするほど、お人よしの魔術師に過ぎなかった。
もしタンタ・トルクがそういった一人であるなら、と前もってアンジェやミカ、元魔術師学連所属のウィルバーも情報を集めたのだが、結果は依頼主の言うとおりだった。
ロンドがスコップを担ぎ直しながら、ぼそりと呟く。
「アイリスみたいな魔女だったら、密かに逃亡手助けしてやろうかと思ったんだがな」
「仕方ないよ、兄ちゃん。迫害を受けてたのは本当だろうけど、殺すところまでいかずに逃げる事だって選べたはずだもん。それなのに御堂騎士のみならず、一般市民の命も奪ってたんだから……」
「それも、疫病を流行らせたことは別にして、ですよ」
ミカは繊細で可憐な面を、沈痛に歪ませた。
魔女の操る術には、多くの死者を出す”黒死病”を発生させるものがあったのだ。
それによって、彼女が逃亡中に通った村の一つは滅んでしまっている。
迫害した相手のみならず、それ以外の無力な民も傷つけた――そのことが、心優しい彼女にはどうしても許せないのだろう。
「それにしても……」
「どうした、ウィルバーさん?」
名を呼ばれた魔術師は、手を首から提げている焦点具に添えていた。
竜の牙に古代魔法文字を刻んだそれは、周囲に漂う魔の力に共鳴して小刻みに震えている。

「大きな魔力の渦が、塔を中心に渦巻いています。……まるで、火事場の煙みたいですね」
「うむ。私にも容易に感じ取れる」
黒いつや消しの鎧が、がしゃりと頷いた。
ナイトはリビングメイル――鎧の中に魔力の核を打ち込まれた、魔法生物である。
自分とは違う魔力の働きが、彼には何となく感知できるのだろう。
ナイトの兜の部分がシシリーに向き、
「策はあるのか?」
と端的に問うた。
彼女をリーダーとして掲げてからまだ一年も経っていないが、シシリーがこんな討伐計画に無策で突っ込むほど無謀な性質ではないと、ナイトは理解している。
シシリーは聖北教会に所属する依頼主から、悪魔との契約で入手したはずの軟膏について説明した。
「だから、アンジェに敵の死角に潜んでもらって、機が熟したら魔女の軟膏を――」
「掠め取れって?」
姉と仰ぐ娘の言葉尻を、ニヤリと笑ったアンジェが引き取った。
こくりと頷いた娘の、金の髪が揺れる。
「護衛を全力で排除することも考えたけど、その方がアンジェ好みでしょ?」
「そうだね。すごくあたし向きの、遣り甲斐のある任務だと思うよ」
元々、人間の子どもと大差ない体格にまでしか成長しない、小人族のアンジェである。
小柄な体躯は人から発見されづらい――と同時に、天性の運動神経の良さと、盗賊として研鑽を積んで身につけた潜伏のレベルの高さは、賞金首だと分かっている魔女相手でも自信があるのだと、幼さが残る笑顔に滲み出ていた。
彼らは方針を決定すると、周囲を警戒しつつ最果ての搭へと近寄った。
破局への入り口か、栄光への標か――罠もなければ、鍵も掛かっていない搭の扉を開ける。
軋みも上げずに開いた扉の向こうは、白い石造りの螺旋階段が、搭の真ん中を貫いていた。
ふわりとシシリーのベルトポーチから飛び出したランプさんの光を頼りに、ウィルバーがじっと上方を見つめる。
「……一番上に、いるようですね」
「そっか。じゃ、あたしは途中の部屋の窓から、外壁を伝って魔女の居室に行くよ。みんなとは別行動になるけど……」
「アンジェ。せめて、前もって【飛翼の術】を掛けておきましょう。そうしたら、ロープで命綱を作っておかなくても何とかできるでしょう?」
「あ、それが貰えるならすごい助かる。頼むよ、おっちゃん」
すでに侵入者があること自体は、タンタ・トルクも察知しているはずだ。
術をここで一つ二つ使ったところで、彼女も遠見の魔法を使ってこちらを監視しようとは思うまい――この後、冒険者たちと対決が控えているとなれば尚更、消耗は避けるのが常道だろう。
仲間たちを手で遠ざけると、彼はさっそく魔力を魔法媒体である杖に集中させた。
≪海の呼び声≫の先端にある宝玉が、紫色に輝く。
ウィルバーの深く響く声が、【飛翼の術】の呪文を淡々と紡いだ。
「大気に溶け込む魔法の力よ、風に乗り宙を翔ける力と変わり、かの者の背に宿れ……」
宝玉を小人族の少女の背中に押し付けると、凝縮した魔法の気が一瞬で白い翼へと化した。
その翼を慣れた様子でばさりとはためかせると、アンジェは気軽な調子で仲間たちに手を振り、螺旋階段を使うことなく搭の中を飛んでいく。
それを階下から見送ると、他の者たちも魔女の元へ向かった。
聖北教会の聖印を首から提げた、癖のない金髪のこの娘は、恐らくは筋肉をこれ見よがしに誇示する戦士や、いかにも交渉に長けた様子のすれた感じを与える魔術師などよりも――実力が、上なのだ。
こちらをひたと見据える青い双眸は、光を湛えた海のごとき澄明さで話し相手を見透かすようにも思える。
(これは、よくよく腹を決めて話さねばならぬ。)
紺色の粗末なローブの中で、男は決意を固めて身じろぎした。
これから話す討伐対象について表裏なく語らねば、彼女は依頼を受けようともしないだろう。
まるで見えない後光でも差しているような、妙な威圧感を感じつつ、彼は再び口を開いた。
「聖北の教義に叛く、悪しき魔女。タンタ・トルク。悪魔と交わい得た力をもって人々を惑わし、作物を枯らす……と噂される魔女を、異端審問にかける予定だった」
「悪魔と交わって……ね」
微かな苦笑が、シシリーと名乗った娘の口元を過ぎった。
鉄格子の嵌まった明り取りの窓から、はらりと白い花びらが舞い込む。
ここは狼の隠れ家の中でも、内密にしたい依頼の話をする時などに使われる半地下――かつては≪赤い一夜≫団の討伐依頼について宿の亭主とやり取りをした一室である。
シシリーは、その頃にはまだ仲間であった黒い翼を思い出しつつ、表向きは依頼主へ質問を重ねた。
「予定だったということは……?」
「ああ。派遣された我が教会の御堂騎士を、十人以上殺害された」
「ご存知なのだろうと思っていたのですけど――旗を掲げる爪は、かつて元・御堂騎士の勇士といざこざがあったんですが、それでも私どもを雇いたいのかしら?」
彼女が匂わせたのは、ミカやナイトが途中加入する以前にあった仕事のことで、すでに聖北教会を退いたはずの老人からクドラの祭器を教団に渡さず回収するよう、頼まれた時のことだった。
モーゼル卿と言う名前の第1次聖墳墓戦役で勲功を挙げた老雄は、実は異教徒に対する常軌を逸した猟奇的な弾圧が問題になり、教会から内々に追放された人物である。
そんな人物が、よりにもよって今まで自分が弾圧してきたクドラの祭器を使って邪神を降臨し、我が身を若返らせようと企んでいたのであった。
はたして依頼人は、慌てたように掌をこちらに向け横に振った。
「あの御仁の話ならば、こちらも聞き及んでいる。彼はとうに教会とは関係のなき身であり、我々としてはその後に彼が何をしていたとしても関知はしない。当然、彼と諍いのあった冒険者だとしても、それは聖北教会にとって何ら意味を含むことはない」
「そうですか。では話を続けましょう。最果て、という異名には何か意味が?」
「かの魔女の居城なのだ」
男の話によると、ヴィスマール北方に位置するデロゥキア山地の端、天空を裂き聳え立つ塔に、タンタ・トルクが引き篭もっており、その搭の名前が、最果ての搭と御堂騎士の間で囁かれるようになったという。
派遣された教会勢力は、正面から搭へと立ち入って彼女を引きずり出し、教会へ移送しようとしたのだが、力ある魔術師が当然そうであるように、最果ての搭の内部は、彼女の領域として様々に魔法的な仕掛けを施してあった。
結果――愚かにも対策を練らずに押し入った者たちは、誰一人として生還できなかった。
辛うじて、魔女の仕掛けのことを外で待っていた修道女に伝えた騎士も、体中から血を噴き出す様にして程なく息絶えたらしい。
「つまり、もし私たちが依頼を引き受けた場合――タンタ・トルクの手の内で戦えと?」
「狡猾な魔女は、決してあの搭から外へは出ようとしないだろうからな。搭の中で戦うのなら、御堂騎士団が任に当たるよりは、冒険者の方が状況を打破する手段を持ち得ているだろう、というのが大方の見方だ」
「大方の、ではなく、上層部の、ということではありませんか?」
くすりと小さく笑ったシシリーは、昨年末によく手伝いに行っていた聖北教会の司祭を思い出した。
50歳過ぎのその司祭は、リューンの市営墓地の管理も怠りなく務めており、多くの信徒から慕われている優しい人だ。
冒険者稼業に身を投じながら信仰を貫く聖職者たちも、その教会にはよく出入りしている。
まだシシリーたちが駆け出しと中堅の間くらいの実力であった頃、テーゼンの正体が判明して旗を掲げる爪が解散しかけた時に、天使信仰の司教によって教会を強制的に利用されたこともあるが、司祭は態度を変えることなく、普通にシシリーに接し続けてくれていた。
自分たちを推薦したのは、ひょっとしたらあの人なのではないだろうか――思考を進めながら、シシリーはタンタ・トルクについて出来るだけの情報を得た。
金髪に赤目――いわゆる”アルビノ種”に含まれる容姿であるが、周りの者とあまりにも違う見た目が(仲間であるロンドの過去のように)忌避されたのか、それとも、色素異常によって日光に当たれないために人間扱いされなかったのか、ずいぶんと幼い頃から迫害されていたらしい。
それからどうやって知識を得たのかは謎だが、タンタ・トルクは10代前半の若さで黒魔術に通じており、自分のいた集落が魔女狩りの対象になった際に、悪魔より授かったという術を行使し、数人を殺害。
それ以降、魔女は賞金首となったのである。
「色素の異常で陽光に当たれないなら、余計、どんな策略を用いても搭からは出ないでしょう。やはり、懐に飛び込む以外の選択肢はないかもしれませんね」
「ただ、魔女は護衛を引き連れておる。それらを討ち果たさねば、まず攻撃は彼奴に届くまい」
「何か付け入る隙があるはずです。塔を出れないことは、彼女の弱味ではない。タンタ・トルクの操る黒魔術に対抗する手段があれば……」

「弱点か……魔女の話が真ならば、悪魔より授かりし軟膏を持っている筈だ」
「軟膏?」
「魔女が去った後の居住地に残されていた本を、魔術にも通じた聖北の使徒が解した。それによると、悪魔との契約の印に、魔力を濃縮した軟膏を渡すのだという」
「魔力を濃縮……それなら、魔力感知か、もしくは違和感を探し出す優秀な”目”があれば発見することが可能かもしれません。とすると、やはり騎士団よりも、魔術師や盗賊が仲間にいる私たちの方がこの仕事に向いているのだと判断せざるを得ませんね……」
「おお……では!」
「はい。魔女のタンタ・トルクの討伐。私ども旗を掲げる爪が、銀貨二千枚でお引き受けしましょう」
――という話をリューンでしたのが、三週間前。
かつて古竜を討ち取った英雄の墓があるという地から、さらに徒歩で数日を要する山地へと冒険者たちは訪れていた。
拠点である交易都市よりも色の薄い青空が広がり、昨日降っていた雨がすっかり上がったせいか、白い嶺が連なる光景に虹が掛かっている。
雑然とした街中の現実から遥かに離れた、幻想的ともいえる眺めだった。
まるまっちい子どもの指が、その眺めの只中にある建築物を示す。
「あれかなぁ、魔女の搭って?」
「かもしれません。それにしても……何だか、それっぽくない場所にありますよね」
言葉を交わしたアンジェとミカは、揃って白い搭を見上げた。
黒魔術を操る魔女の居城の割に、瘴気が溢れることも捩じれた木々が周りを取り巻くこともなく、なんとも美しい佇まいである。
だが、タンタ・トルクは確かに数十人を殺害した魔女であった。
旗を掲げる爪は、以前にも複数の組織からお尋ね者とされていた魔女に会ったことがある。
アイリス=グリニャールと名乗っていた彼女は、魔法生物や使い魔の知識向上の訓練などに力を入れた研究をしていたため、命を生み出すのは神の営みだと断ずる聖北教会の主流な考えを主張する過激な一派により、危険な思想の魔女だと追われていたのである。
そんなアイリスだったが、彼女個人は、妖魔の襲撃から近所にある村を守らんと準備をするほど、お人よしの魔術師に過ぎなかった。
もしタンタ・トルクがそういった一人であるなら、と前もってアンジェやミカ、元魔術師学連所属のウィルバーも情報を集めたのだが、結果は依頼主の言うとおりだった。
ロンドがスコップを担ぎ直しながら、ぼそりと呟く。
「アイリスみたいな魔女だったら、密かに逃亡手助けしてやろうかと思ったんだがな」
「仕方ないよ、兄ちゃん。迫害を受けてたのは本当だろうけど、殺すところまでいかずに逃げる事だって選べたはずだもん。それなのに御堂騎士のみならず、一般市民の命も奪ってたんだから……」
「それも、疫病を流行らせたことは別にして、ですよ」
ミカは繊細で可憐な面を、沈痛に歪ませた。
魔女の操る術には、多くの死者を出す”黒死病”を発生させるものがあったのだ。
それによって、彼女が逃亡中に通った村の一つは滅んでしまっている。
迫害した相手のみならず、それ以外の無力な民も傷つけた――そのことが、心優しい彼女にはどうしても許せないのだろう。
「それにしても……」
「どうした、ウィルバーさん?」
名を呼ばれた魔術師は、手を首から提げている焦点具に添えていた。
竜の牙に古代魔法文字を刻んだそれは、周囲に漂う魔の力に共鳴して小刻みに震えている。

「大きな魔力の渦が、塔を中心に渦巻いています。……まるで、火事場の煙みたいですね」
「うむ。私にも容易に感じ取れる」
黒いつや消しの鎧が、がしゃりと頷いた。
ナイトはリビングメイル――鎧の中に魔力の核を打ち込まれた、魔法生物である。
自分とは違う魔力の働きが、彼には何となく感知できるのだろう。
ナイトの兜の部分がシシリーに向き、
「策はあるのか?」
と端的に問うた。
彼女をリーダーとして掲げてからまだ一年も経っていないが、シシリーがこんな討伐計画に無策で突っ込むほど無謀な性質ではないと、ナイトは理解している。
シシリーは聖北教会に所属する依頼主から、悪魔との契約で入手したはずの軟膏について説明した。
「だから、アンジェに敵の死角に潜んでもらって、機が熟したら魔女の軟膏を――」
「掠め取れって?」
姉と仰ぐ娘の言葉尻を、ニヤリと笑ったアンジェが引き取った。
こくりと頷いた娘の、金の髪が揺れる。
「護衛を全力で排除することも考えたけど、その方がアンジェ好みでしょ?」
「そうだね。すごくあたし向きの、遣り甲斐のある任務だと思うよ」
元々、人間の子どもと大差ない体格にまでしか成長しない、小人族のアンジェである。
小柄な体躯は人から発見されづらい――と同時に、天性の運動神経の良さと、盗賊として研鑽を積んで身につけた潜伏のレベルの高さは、賞金首だと分かっている魔女相手でも自信があるのだと、幼さが残る笑顔に滲み出ていた。
彼らは方針を決定すると、周囲を警戒しつつ最果ての搭へと近寄った。
破局への入り口か、栄光への標か――罠もなければ、鍵も掛かっていない搭の扉を開ける。
軋みも上げずに開いた扉の向こうは、白い石造りの螺旋階段が、搭の真ん中を貫いていた。
ふわりとシシリーのベルトポーチから飛び出したランプさんの光を頼りに、ウィルバーがじっと上方を見つめる。
「……一番上に、いるようですね」
「そっか。じゃ、あたしは途中の部屋の窓から、外壁を伝って魔女の居室に行くよ。みんなとは別行動になるけど……」
「アンジェ。せめて、前もって【飛翼の術】を掛けておきましょう。そうしたら、ロープで命綱を作っておかなくても何とかできるでしょう?」
「あ、それが貰えるならすごい助かる。頼むよ、おっちゃん」
すでに侵入者があること自体は、タンタ・トルクも察知しているはずだ。
術をここで一つ二つ使ったところで、彼女も遠見の魔法を使ってこちらを監視しようとは思うまい――この後、冒険者たちと対決が控えているとなれば尚更、消耗は避けるのが常道だろう。
仲間たちを手で遠ざけると、彼はさっそく魔力を魔法媒体である杖に集中させた。
≪海の呼び声≫の先端にある宝玉が、紫色に輝く。
ウィルバーの深く響く声が、【飛翼の術】の呪文を淡々と紡いだ。
「大気に溶け込む魔法の力よ、風に乗り宙を翔ける力と変わり、かの者の背に宿れ……」
宝玉を小人族の少女の背中に押し付けると、凝縮した魔法の気が一瞬で白い翼へと化した。
その翼を慣れた様子でばさりとはためかせると、アンジェは気軽な調子で仲間たちに手を振り、螺旋階段を使うことなく搭の中を飛んでいく。
それを階下から見送ると、他の者たちも魔女の元へ向かった。
2017/03/13 12:33 [edit]
category: 最果ての魔女の後の双子星
tb: -- cm: 0
| h o m e |