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 男は――いや、ダーフィットは、人気のない墓地の中で、つい数時間ほど前に行なった凶行を思い返していた。
 ただの野鍛冶だった自分が、なぜリューンという都会の治安を担う組織に属する人間を、ああまで多く殺すことが出来たのか、未だに良く分からない。
 だが、あのモルナロヴァという魔術師に渡されて以来、ずっと使ってきたナイフを握っていると、不思議と相手のどこを刺し、刻み、切り裂けば良いのか、本能的に腕が動くのである。
 血盗りナイフ、と個人的に呼んでいるそれは、非力な魔術師でも人体を刻めるよう『魔法で切る』術式が篭められていた。
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2017/01/12 12:43 [edit]

category: ダーフィットの日記(合間の手袋の話と年末の冒険者達)

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 旗を掲げる爪は、モルナロヴァの召喚した骨喰らいの悪魔を退治し、魔術師のアジトを探索していくつかの証拠物件を挙げた後に、何名かの傷を完治させるため、常宿で休養を取っていた。
 治安隊が魔術師から自白の情報を得るのを待つくらいしか、やることはない。
 それまで得た情報を宿の亭主に退屈しのぎに話すと、彼は重いため息を吐いてから言った。

「それは……大変だったな。まあ、怪我はしても飯を食う体力が残っていて良かった。さすがこの宿の冒険者だ」

 それにしても、と亭主はずっと俯いたままのシシリーに目をやった。
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2017/01/12 12:39 [edit]

category: ダーフィットの日記(合間の手袋の話と年末の冒険者達)

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 春の海と同じ青に、頬の削げた男の顔が映っている。
 ずっと見つめていると、自分がゆらゆらと透き通った水の底で、静かに佇んでいるようだった。
 光を通さぬ深海ではない。
 確かな温みを分けてくれる、慈愛に満ちた陽光の差す海の中である。
 澄んだ水に、他でもない血を求めて人を殺す自分――赤黒い色がもくもくと湧き立ち、綺麗な青が染まってしまう。
 それに気づいた時、男の肩から上の毛穴が一斉にぶわっと開いたような気がした。
 ガタッと音を立てて立ち上がる。

「あ、の……?」

 青が、ゆっくりと瞬く――聖北教会の聖印を首から提げた、癖のない金髪の娘は、男がギルドから聞いていた情報で想像していたよりも遥かに若く、恐ろしい怪物や凶悪なクドラ教徒などの退治で名を上げたという割に、雰囲気に血腥さがなかった。
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2017/01/12 12:36 [edit]

category: ダーフィットの日記(合間の手袋の話と年末の冒険者達)

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 マルガレッタは、以前に叔父が買い求めてくれた絵本をゆっくりと捲りながら、本の向こうで彼が己についた汚れを取っている姿を視界に入れていた。
 今月の頭に血が足りなくなって、いよいよ死んでしまうのかと覚悟をしたというのに、今はそれに比べると、なんと平穏でありがたい日々だろう。
 まるで夢みたいだ、とマルガレッタは思った。
 あまり叔父に血を飲む自分を見せたくなくて、必要最小限の血液だけを口にしてきたのだが、叔父から強く勧められて余分の血を摂取したところ、曇り空の下でなら、あの忌々しい太陽の光にも少しだけ耐えられた。

ダーフィットの日記7

 もしかしたら――。
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2017/01/12 12:33 [edit]

category: ダーフィットの日記(合間の手袋の話と年末の冒険者達)

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 少しトウが立っているとは言え、化粧に引き立てられた顔は十二分に他者を魅了するものだった。
 毛皮のコートを肩脱ぎしており、濃い紫色のドレスに包まれた肢体が、豊かに張った胸から引き絞ったようなウエスト、ふっくらと脂の乗った太ももまでの官能的なラインを惜しげもなく晒している。
 きらきらと光る翠のアイシャドウは、孔雀石を砕いた贅沢品だ。
 恐らくはぽってりした唇に塗られたルージュも、リューン最新流行の品なのだろう。
 白く柔らかな肉のついた腕を絡められれば、よほどの朴念仁か特殊な性向の持ち主でもない限り、男なら嫌な気持ちなどしないに違いない。
 豊頬の美女、という言葉がぴったりの相手だった。

「いい女じゃないか。性格は知らないが」
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2017/01/12 12:29 [edit]

category: ダーフィットの日記(合間の手袋の話と年末の冒険者達)

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