Sat.
遺跡に咲く花 4 
素早くきわめて危険なガーディアンとの闘いは、はっきり言えばパーティが押されていた。
なんとなれば、まず最初に妖しい蜂どもは、攻撃の要であるギルとスネグーロチカに守られていたミナスを麻痺させたのである。
続けて、【火炎の壁】で一掃しようとしていたジーニまでもが蜂に刺され、一行の頭に危険信号が灯る。
だが、幸い、この蜂の毒は持続力が弱いものだったようで、【血清の法】を施されたミナスを含め、すぐに全員が戦線に復帰した。

体勢を立て直した”金狼の牙”は、すぐさま反撃に移り、蜂を倒した。
戦いが終わり全員がその場に腰を下ろしたが、エディンだけが、「この辺りから蜂が出たような・・・」と水槽の部屋を調べ直している。
その合間にアウロラが【癒身の法】を唱えて、全員の体力を回復させた。
「隠し扉だ!!」
エディンの興奮した囁きの後、また壁の一部がせりあがり、扉がもうひとつ出現する。
その部屋の向こうは、あいにくと何もないのだったが、鍵を内側から自由に開閉できることができたので、しばらく一行は休憩を取ることにした。
気を取り直して水槽の部屋からさらに先へと行くと、突き当たりの向こうで聞きなれない音が響いている。
「な、なんや?今の音は・・・」
「気をつけたほうがよさそうだ・・・もう一戦あるかもな。おい、リーダー」
「そうだな。リィナさんは、念のため扉の影に隠れててくれ。おい、みんな。さっき休憩したばっかりだから、大丈夫だよな?」
全員が彼の意を汲んで頷き、また戦闘態勢を整えた。
扉を潜ると、そこに待ち構えていたのは・・・。
「こ・・・こいつは・・・」
「きゃぁ!!」
ジグとリィナの反応をあざ笑うかのように、その通路に横たわっていたのは赤い大百足だった。
そのおぞましさに、アウロラが一歩下がる。
「うっ!!」
「なんやっちゅーねん!!!」
聞きなれない音は、おそらく大百足が身をよじっていた音だったのだろう。
まるで鎧を打ち鳴らしているような、硬い音があたりに響く。
それが合図だったかのように、大百足が大きな口を開けて威嚇してきた。
「来るっ!!」
ジーニがすかさず杖を構えて詠唱を始めた。
百足の恐ろしさは、蜂と同じように毒があること。そして、何より大きさによるタフさである。
全体攻撃である【薙ぎ倒し】と【火炎の壁】をしようとしているギルやジーニを横目に、エディンはひたすら、大百足の頭部が、長大な体から現れる隙を狙っていた。
彼が行なおうとしているのは、紅き鷹旅団掃討戦の前に習い覚えた【暗殺の一撃】である。対人であれば、この技が決まれば生きていられる一般人はいない。だが・・・・・・。
(このアホの様にでかい虫に効果があるか・・・やるなら、狙うのは頭だ。他は、俺の細剣じゃさっぱり刺さらない。)
大百足の尻尾が、【薙ぎ倒し】のように”金狼の牙”を襲う中、エディンの体は軽くその攻撃を飛び越え、百足の頭の上にあった。
「こいつを喰らえっ!」
「ギギギャアアアアアア!!」
【暗殺の一撃】は、柔らかい大百足の頭に大ダメージを与えたものの、エディンが危惧したとおり致死にまでは至らなかった。

しかし、尻尾で叩きつけられた床から起き上がったギルが、お返しの【薙ぎ倒し】で敵の体力を奪っていく。
フラフラになっている百足の弱点を、エディンの働きで理解したアレクは、ギルが斧を振り回した背後からタイミングよく飛び込み、一撃を加えた。
「やった・・・のか?」
「・・・みたいやな」
長大な赤い体をそこに横たえ、大百足は息絶えていた。
肩で息をするアレクの背中を、ポンとジグが叩いて労わった。
大百足のいた部屋には上りの階段があり、その先は扉があった。
開けると、なんとそこは石像のあった区画を乗り越えた先に続いていた。
「ここ・・・さっきの場所ですね・・・」
「繋がってたんだね!すごい仕組みだなあ」
遺跡の大体のマッピングしていたミナスが、驚いたように声をあげる。
目的の花は手に入れたのだから、もうここに用事はあるまい。一行は、出口に足を向けた。
久々の外に息をつくジグの横で、リィナがエディンから受け取った花を胸に抱きながら、潤んだ目で一行を見渡した。
「みなさん・・・ほんとに・・・本当にありがとうございました」
「お姉さん、もう行っちゃうの?」
「ええ。今日はもう、このまま帰ります。早く弟の元気な顔が見たいもの」
ミナスの寂しそうな顔に、残念そうに頷きつつも、リィナの顔は晴れ晴れと輝いていた。宿に着いたばかりの頃の、青褪めた様子とは一変している。
村まで送ろうとした”金狼の牙”だったが、リィナが向かう場所を聞いたジグが、
「あっちの方に帰んのやな。ほな、俺が送ってったるわ」
と言い出した。
「送り狼になるなよー?」
「だ、誰がやねん!」
ジグがギルにからかわれながらも、リィナが頷いたこともあり、一行はここで彼ら二人と別れることにした。
少ないけど、と言って差し出してきたリィナの報酬を笑顔で受け取る。

「それじゃ・・・皆さん・・・ありがとうございました。さようなら」
「弟さん・・・早くよくなるといいな」
”金狼の牙”は二人の背中が見えなくなるまで手を振って見送った。
「振り返らずに行っちまったな・・・」
「ああ。でも、弟が回復したら宿に礼に来る、と言ってたろう?」
「早くその日が来ればいいわね!」
ひとつの依頼をこなして、放心したようなギルの肩をアレクが叩く。
その横を、鼻歌でも歌いそうな表情で、ジーニが駆け抜けて言った。
※収入500sp※
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
12回目のお仕事は、GroupAskさんの公式シナリオ・遺跡に咲く花です。
初めてプレイした時は、少しリィナ達のキャラ絵に違和感がありましたが、それを忘れさせてくれるようなリドルとラスボスの攻略に、すっかり魅せられたものです。
健気なリィナと闊達なジグのコンビ(?)の会話は、同行者として楽しませてもらいましたが・・・ジグの関西弁って、どこで身に着けたんだろう・・・?
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
なんとなれば、まず最初に妖しい蜂どもは、攻撃の要であるギルとスネグーロチカに守られていたミナスを麻痺させたのである。
続けて、【火炎の壁】で一掃しようとしていたジーニまでもが蜂に刺され、一行の頭に危険信号が灯る。
だが、幸い、この蜂の毒は持続力が弱いものだったようで、【血清の法】を施されたミナスを含め、すぐに全員が戦線に復帰した。

体勢を立て直した”金狼の牙”は、すぐさま反撃に移り、蜂を倒した。
戦いが終わり全員がその場に腰を下ろしたが、エディンだけが、「この辺りから蜂が出たような・・・」と水槽の部屋を調べ直している。
その合間にアウロラが【癒身の法】を唱えて、全員の体力を回復させた。
「隠し扉だ!!」
エディンの興奮した囁きの後、また壁の一部がせりあがり、扉がもうひとつ出現する。
その部屋の向こうは、あいにくと何もないのだったが、鍵を内側から自由に開閉できることができたので、しばらく一行は休憩を取ることにした。
気を取り直して水槽の部屋からさらに先へと行くと、突き当たりの向こうで聞きなれない音が響いている。
「な、なんや?今の音は・・・」
「気をつけたほうがよさそうだ・・・もう一戦あるかもな。おい、リーダー」
「そうだな。リィナさんは、念のため扉の影に隠れててくれ。おい、みんな。さっき休憩したばっかりだから、大丈夫だよな?」
全員が彼の意を汲んで頷き、また戦闘態勢を整えた。
扉を潜ると、そこに待ち構えていたのは・・・。
「こ・・・こいつは・・・」
「きゃぁ!!」
ジグとリィナの反応をあざ笑うかのように、その通路に横たわっていたのは赤い大百足だった。
そのおぞましさに、アウロラが一歩下がる。
「うっ!!」
「なんやっちゅーねん!!!」
聞きなれない音は、おそらく大百足が身をよじっていた音だったのだろう。
まるで鎧を打ち鳴らしているような、硬い音があたりに響く。
それが合図だったかのように、大百足が大きな口を開けて威嚇してきた。
「来るっ!!」
ジーニがすかさず杖を構えて詠唱を始めた。
百足の恐ろしさは、蜂と同じように毒があること。そして、何より大きさによるタフさである。
全体攻撃である【薙ぎ倒し】と【火炎の壁】をしようとしているギルやジーニを横目に、エディンはひたすら、大百足の頭部が、長大な体から現れる隙を狙っていた。
彼が行なおうとしているのは、紅き鷹旅団掃討戦の前に習い覚えた【暗殺の一撃】である。対人であれば、この技が決まれば生きていられる一般人はいない。だが・・・・・・。
(このアホの様にでかい虫に効果があるか・・・やるなら、狙うのは頭だ。他は、俺の細剣じゃさっぱり刺さらない。)
大百足の尻尾が、【薙ぎ倒し】のように”金狼の牙”を襲う中、エディンの体は軽くその攻撃を飛び越え、百足の頭の上にあった。
「こいつを喰らえっ!」
「ギギギャアアアアアア!!」
【暗殺の一撃】は、柔らかい大百足の頭に大ダメージを与えたものの、エディンが危惧したとおり致死にまでは至らなかった。

しかし、尻尾で叩きつけられた床から起き上がったギルが、お返しの【薙ぎ倒し】で敵の体力を奪っていく。
フラフラになっている百足の弱点を、エディンの働きで理解したアレクは、ギルが斧を振り回した背後からタイミングよく飛び込み、一撃を加えた。
「やった・・・のか?」
「・・・みたいやな」
長大な赤い体をそこに横たえ、大百足は息絶えていた。
肩で息をするアレクの背中を、ポンとジグが叩いて労わった。
大百足のいた部屋には上りの階段があり、その先は扉があった。
開けると、なんとそこは石像のあった区画を乗り越えた先に続いていた。
「ここ・・・さっきの場所ですね・・・」
「繋がってたんだね!すごい仕組みだなあ」
遺跡の大体のマッピングしていたミナスが、驚いたように声をあげる。
目的の花は手に入れたのだから、もうここに用事はあるまい。一行は、出口に足を向けた。
久々の外に息をつくジグの横で、リィナがエディンから受け取った花を胸に抱きながら、潤んだ目で一行を見渡した。
「みなさん・・・ほんとに・・・本当にありがとうございました」
「お姉さん、もう行っちゃうの?」
「ええ。今日はもう、このまま帰ります。早く弟の元気な顔が見たいもの」
ミナスの寂しそうな顔に、残念そうに頷きつつも、リィナの顔は晴れ晴れと輝いていた。宿に着いたばかりの頃の、青褪めた様子とは一変している。
村まで送ろうとした”金狼の牙”だったが、リィナが向かう場所を聞いたジグが、
「あっちの方に帰んのやな。ほな、俺が送ってったるわ」
と言い出した。
「送り狼になるなよー?」
「だ、誰がやねん!」
ジグがギルにからかわれながらも、リィナが頷いたこともあり、一行はここで彼ら二人と別れることにした。
少ないけど、と言って差し出してきたリィナの報酬を笑顔で受け取る。

「それじゃ・・・皆さん・・・ありがとうございました。さようなら」
「弟さん・・・早くよくなるといいな」
”金狼の牙”は二人の背中が見えなくなるまで手を振って見送った。
「振り返らずに行っちまったな・・・」
「ああ。でも、弟が回復したら宿に礼に来る、と言ってたろう?」
「早くその日が来ればいいわね!」
ひとつの依頼をこなして、放心したようなギルの肩をアレクが叩く。
その横を、鼻歌でも歌いそうな表情で、ジーニが駆け抜けて言った。
※収入500sp※
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■後書きまたは言い訳
12回目のお仕事は、GroupAskさんの公式シナリオ・遺跡に咲く花です。
初めてプレイした時は、少しリィナ達のキャラ絵に違和感がありましたが、それを忘れさせてくれるようなリドルとラスボスの攻略に、すっかり魅せられたものです。
健気なリィナと闊達なジグのコンビ(?)の会話は、同行者として楽しませてもらいましたが・・・ジグの関西弁って、どこで身に着けたんだろう・・・?
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
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Sat.
遺跡に咲く花 3 
ジグがわざわざ鍵を自分でかけて、部屋に閉じこもって考え込んでいた石版の仕掛けは、あっという間にジーニが解いてみせた。

爆音とともに石像が壊れるのを、余裕の笑みを浮かべてジーニが見やり、仲間たちが尊敬の念を籠めて彼女を誉める。
「まあね。あたしにかかれば、どってことないのよ」
だが、すぐ一行を落胆が迎えた。突き当りの部屋には何も見つからなかったのである。
「これで終わり?」
虚脱したようなリィナの横をすっと通り過ぎ、ジグが「ちょい待ち」と言って、辺りを念入りに調査した。
「あるやないの~」
ジグが見つけてみせたその穴は、人が一人通れるくらいの大きさで、光が届かないため、どれくらいの深さなのか、見当もつかない。
「これは・・・・・・・・」
「これは、結構深いかもなぁ」
言葉を切って考え込んでしまったアレクの台詞を、ジグが補足して口に出した。
こういう時に、空中浮揚などの呪文があれば下りれるかもしれないが、あいにくとジーニの覚えている呪文書のストックにそれはない。
ロープみたいなものがあれば、というジグの呟きに、一番早く反応したのはアウロラだった。
「あの蔦・・・!」
「ん?ああ、鍵を見つけた部屋の蔦か!」
「あれならロープの代わりになるんじゃないですか?」
「結構丈夫だったしな。よし。いったん戻るぜ」
アウロラの思い付きを得て、実際に蔦を払った経験のあるギルが言った。
蔦の多い部屋に戻り、目的の物を必要分だけ手に入れた一行は、急く気持ちを抑えつつ扉に近寄る。
すると、見覚えの無い蔦が扉にかかっているのを見て、邪魔そうにギルが斧で払おうとした。
リィナが、蔦であるはずのそれが、ありえない動きでうねったのに気づいて、大声で叫んだ。
「そ、それ、蛇よ!!」
蔦によく似た色合いの大蛇が三匹、遺跡の中でよほど腹を空かせているのか、牙をむき出しにして襲ってきた。
常に無く慌てたアレクだったが、【飛礫の斧】の技で、崩れていた遺跡の一部を炸裂させ、つぶてで蛇を怯ませる。

その間に呪文を紡ぎ終わったジーニが、すかさず【眠りの雲】で大蛇たちを眠らせた。後は、多人数を頼りにしたタコ殴りである。
あっという間に大蛇を退治し終わった一行は、手足の無いものを気持ち悪がるジグを慰めつつ、穴に蔦を垂らしに戻った。
しかし、ほっとしたのもつかの間。
「いいアイデア」と喜んだジグが、すぐさま顔色を変えた。
それは他の面子にもすぐ分かった理由で・・・・・・なんと穴そのものが崩れて蔦が切れてしまい、捕まっていた全員が落ちてしまったのである。
「ぐへっ」
「いった~い。なんなのようっ!」
リィナの弾力ある尻の下敷きにされたジグを、ミナスとアウロラで助け出し、一行は息をついた。
「みんなは・・・なんとか、無事のようだな」
ギルが周りを見回して言う。落ちたのは災難だったが、骨折した者もおらず、誰一人としてはぐれなかったのだから、不幸中の幸いという奴だ。
穴が崩れたのだから、上に戻ることはできない。
結局、細い通路を進んで先の部屋へでることになった。
エディンの調べたところ、罠も鍵もないと判断したドアを開ける。
「これは・・・」
アウロラが、呆然として呟いた。
赤いケーブルに繋がれた無数の水槽らしき物が、部屋のあちらこちらに佇んでいる。
しかし、どの水槽も空だ。
「この部屋は何や・・・?」
警戒信号に何か灯っているのか、今までに無く鋭い目で辺りを探るジグの言葉に、ミナスが言った。
「これは・・・水槽なのかなあ?」
「あっ!見てっ・・・・・・あの真ん中の水槽!」

リィナが指さす先に、たった一つだけ、紫の花のようなものがおさまった水槽がある。
自分が聞いたフィロンラの花の特徴とそっくりだ、と主張するリィナに、ジーニが太鼓判を押した。
「文献で見たのと同じね。間違いないと思うわ」
「培養が難しいってのは、環境に弱いってことか・・・?あの水槽から、出しちまって問題ないのかよ?」
「エディンの心配ももっともだけど・・・あの馬鹿でかい水槽ごと持ってくのは、無理よ」
「もうひとつ、注意すべきだろ」
ぼそりとアレクが言う。
「古代文明期の研究室だ・・・どんな仕掛けがあるか分からん。できる備えはした方がいいんじゃないか」
彼の台詞に、ジーニとアウロラ、ミナスがそれぞれ補助魔法をかけることにした。ミナスに至っては、【雪精召喚】でスネグーロチカを呼び出している。
できれば、この準備がさして意味の無い行動であればいいが・・・と思いながらも、エディンは覚悟を決めて水槽を割った。
ふわりと紫色のフィロンナの花が、エディンの手元に落ちる。
しばらく警戒したが、何の反応も無い。
胸を撫で下ろしたアウロラがきびすを返し、他の仲間に呼びかけようとした、その瞬間。
「な、何っ!?」
リィナが驚きの声をあげ、その小さなガーディアンたちを見やった。
アウロラが彼女を庇いながら叫ぶ。
「気をつけて、蜂よ!」

爆音とともに石像が壊れるのを、余裕の笑みを浮かべてジーニが見やり、仲間たちが尊敬の念を籠めて彼女を誉める。
「まあね。あたしにかかれば、どってことないのよ」
だが、すぐ一行を落胆が迎えた。突き当りの部屋には何も見つからなかったのである。
「これで終わり?」
虚脱したようなリィナの横をすっと通り過ぎ、ジグが「ちょい待ち」と言って、辺りを念入りに調査した。
「あるやないの~」
ジグが見つけてみせたその穴は、人が一人通れるくらいの大きさで、光が届かないため、どれくらいの深さなのか、見当もつかない。
「これは・・・・・・・・」
「これは、結構深いかもなぁ」
言葉を切って考え込んでしまったアレクの台詞を、ジグが補足して口に出した。
こういう時に、空中浮揚などの呪文があれば下りれるかもしれないが、あいにくとジーニの覚えている呪文書のストックにそれはない。
ロープみたいなものがあれば、というジグの呟きに、一番早く反応したのはアウロラだった。
「あの蔦・・・!」
「ん?ああ、鍵を見つけた部屋の蔦か!」
「あれならロープの代わりになるんじゃないですか?」
「結構丈夫だったしな。よし。いったん戻るぜ」
アウロラの思い付きを得て、実際に蔦を払った経験のあるギルが言った。
蔦の多い部屋に戻り、目的の物を必要分だけ手に入れた一行は、急く気持ちを抑えつつ扉に近寄る。
すると、見覚えの無い蔦が扉にかかっているのを見て、邪魔そうにギルが斧で払おうとした。
リィナが、蔦であるはずのそれが、ありえない動きでうねったのに気づいて、大声で叫んだ。
「そ、それ、蛇よ!!」
蔦によく似た色合いの大蛇が三匹、遺跡の中でよほど腹を空かせているのか、牙をむき出しにして襲ってきた。
常に無く慌てたアレクだったが、【飛礫の斧】の技で、崩れていた遺跡の一部を炸裂させ、つぶてで蛇を怯ませる。

その間に呪文を紡ぎ終わったジーニが、すかさず【眠りの雲】で大蛇たちを眠らせた。後は、多人数を頼りにしたタコ殴りである。
あっという間に大蛇を退治し終わった一行は、手足の無いものを気持ち悪がるジグを慰めつつ、穴に蔦を垂らしに戻った。
しかし、ほっとしたのもつかの間。
「いいアイデア」と喜んだジグが、すぐさま顔色を変えた。
それは他の面子にもすぐ分かった理由で・・・・・・なんと穴そのものが崩れて蔦が切れてしまい、捕まっていた全員が落ちてしまったのである。
「ぐへっ」
「いった~い。なんなのようっ!」
リィナの弾力ある尻の下敷きにされたジグを、ミナスとアウロラで助け出し、一行は息をついた。
「みんなは・・・なんとか、無事のようだな」
ギルが周りを見回して言う。落ちたのは災難だったが、骨折した者もおらず、誰一人としてはぐれなかったのだから、不幸中の幸いという奴だ。
穴が崩れたのだから、上に戻ることはできない。
結局、細い通路を進んで先の部屋へでることになった。
エディンの調べたところ、罠も鍵もないと判断したドアを開ける。
「これは・・・」
アウロラが、呆然として呟いた。
赤いケーブルに繋がれた無数の水槽らしき物が、部屋のあちらこちらに佇んでいる。
しかし、どの水槽も空だ。
「この部屋は何や・・・?」
警戒信号に何か灯っているのか、今までに無く鋭い目で辺りを探るジグの言葉に、ミナスが言った。
「これは・・・水槽なのかなあ?」
「あっ!見てっ・・・・・・あの真ん中の水槽!」

リィナが指さす先に、たった一つだけ、紫の花のようなものがおさまった水槽がある。
自分が聞いたフィロンラの花の特徴とそっくりだ、と主張するリィナに、ジーニが太鼓判を押した。
「文献で見たのと同じね。間違いないと思うわ」
「培養が難しいってのは、環境に弱いってことか・・・?あの水槽から、出しちまって問題ないのかよ?」
「エディンの心配ももっともだけど・・・あの馬鹿でかい水槽ごと持ってくのは、無理よ」
「もうひとつ、注意すべきだろ」
ぼそりとアレクが言う。
「古代文明期の研究室だ・・・どんな仕掛けがあるか分からん。できる備えはした方がいいんじゃないか」
彼の台詞に、ジーニとアウロラ、ミナスがそれぞれ補助魔法をかけることにした。ミナスに至っては、【雪精召喚】でスネグーロチカを呼び出している。
できれば、この準備がさして意味の無い行動であればいいが・・・と思いながらも、エディンは覚悟を決めて水槽を割った。
ふわりと紫色のフィロンナの花が、エディンの手元に落ちる。
しばらく警戒したが、何の反応も無い。
胸を撫で下ろしたアウロラがきびすを返し、他の仲間に呼びかけようとした、その瞬間。
「な、何っ!?」
リィナが驚きの声をあげ、その小さなガーディアンたちを見やった。
アウロラが彼女を庇いながら叫ぶ。
「気をつけて、蜂よ!」
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Sat.
遺跡に咲く花 2 
リィナの案内で遺跡に足を踏み入れた冒険者達は、辺りの光景を見回した。
入口の洞窟部分とは打って変わって、人工的な建物の内部のように感じられる。
「なんだか・・・ひんやりしてますよね」

リィナの怯えたような小さな呟きに、エディンが適当に相槌を打ちながら周りを調査した。
古い遺跡にはよくあることだが、壁には植物の蔓が蔓延っている。
日の光の入らない遺跡なのに・・・と訝しがるリィナを背後に庇うようにしながら、ジーニは、
(ここで植物を育ててたっていうのなら、その種子が残ってる影響なのかも。)
と考えていた。
入って左手には通路が続き、右には扉がある。
一応、敵のバックアタックを警戒して、エディンが扉をざっと調べてみたが、罠も鍵も無い。
扉を開けて中を覗いてみると、また通路が続いた向こう側に扉がある様子だったので、一行は入口部分まで戻り、左手の通路が続く方へ進んでみることにした。
すると、暗い通路を小さなランタンで這うように照らしていたエディンが、一箇所にうずくまり、柔らかな羽毛を撫でるような仕草をする。

「隠し扉だ!!」
という言葉とともに、ギィイと何かの歯車が動いたような音がして、壁の一部がせりあがって扉を露にした。
隠し扉を進んでいくと、折れた通路の突き当たりにまた扉がある。
充分警戒しながら一行が進むと、そこは相当古いらしい石の棺が置いてある部屋だった。
仕掛けが無いことを確かめて、一枚岩の蓋をエディンが開けると、中には、植物の種子のようなものが収められている。
「何かの種だったようだけど・・・もう朽ち果てているようね」
「ジーニ、これってフィロンラの花の種かな?」
「分からないわ、ギル。さすがの私も、花ならともかく、種子の形状までは詳しく知らないのよ。でも、朽ちているからには、今回の依頼には役に立たないでしょうね」
「ん。紙切れが挟まっているみたい」
エディンとジーニの脇の間から顔を出したミナスが、棺の中にさっと手を突っ込んで取り出す。
その紙切れには、
(・・・すべての種子が失敗に終わってしまった・・・)
(・・・残ったのはあの花だけだ・・・)
(・・・大切に培養せねば・・・)
等という書付が残っている。
その解読を聞いて、リィナが顔に血の色を上らせて言った。
「あの花だけって・・・じゃ、じゃあ、この遺跡には花はもう無いってことでしょうか!?」
「落ち着いて、リィナ。培養が上手くいったのなら、30年前に見つかったのと別のフィロンラの花が、この遺跡のどこかに保管されているはずよ」
「諦めるのは早計だな。もう少し探索してみよう」
アレクの提案にみんなが頷き、一行は探索を続行した。
奥の蔦の多い部屋で金色に輝く鍵を見つけ、それに合う鍵のついた部屋を探し当てると、中には隅でぶつぶつと何か言っている男がいる。
「えっと・・・・・・・・・・・・・・・・・・せやから・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ誰だろう?」
「多分、俺の同業者だろうな。モグリかそうでないかは分からんが」
ミナスの疑問に、エディンが答える。ぶつぶつ言う男の装備は、エディンにはよく見慣れた遺跡専門の盗賊のものだった。
「まてよ・・・やっぱり・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・のわっ!!」
一行が男が気づくのを待っていると、波打つ黒髪をしたその盗賊らしい彼は、大げさにのけぞって”金狼の牙”とそれに守られるリィナに気づいた。
「あ、あんたら・・・いつからそこにおったんや!」
妙な訛りをした男の言葉に、困ったようにギルが眉を寄せた。
「えっと・・・・・・・・・・・・・・・」
「もしかして、あんたらもこの遺跡のお宝を・・・?」
男が用心深く体勢を変えたのに、アレクとエディンが反応する。
「もし・・・そうなら・・・商売敵ってことやな・・・」
「あの・・・違うんです」
一触即発のその雰囲気を察したのか、リィナがジーニの背後から出てきて、男に事情を説明した。
「多少胡散臭い気もするが・・・ま、ええやろ。信じたるわ。浪花節には弱いんや、俺は」
(今のお前ほど、胡散臭くはないがね・・・。)
心中でエディンが呟くのも知らず、男が信じたついでに探索を手伝う、と言い出すのに、ミナスの目が丸くなった。
男は、通り名を”疾風のジグ”という、らしい。エディンは長く盗賊ギルドに所属しているが、知らない名だった。詳しく聞いてみると、東の国からやってきた流れ者らしい。
となると、あくまで男を信じるかどうかは、リィナや”金狼の牙”次第である。リィナは、手伝ってもらっていいのだろうか、という目でこちらを見てくる。
ジーニは未知の人物を連れ歩く危険を嫌がったが、元々あまり物事を考えないギルや、人を見る目が確かなエディンからすると、大した脅威にはならないだろう、と判断され、同行を承知することになった。
自分がいれば見つかったも同然、と胸を張るジグから、一行は彼が調べ終わったこと、こちらが調べたことを交換した。
それによると、石像のある部屋の仕掛けを解かないと、遺跡のさらに奥の部屋には進めないらしい。
8人連れになった彼らは、その仕掛けに挑むことにした。
入口の洞窟部分とは打って変わって、人工的な建物の内部のように感じられる。
「なんだか・・・ひんやりしてますよね」

リィナの怯えたような小さな呟きに、エディンが適当に相槌を打ちながら周りを調査した。
古い遺跡にはよくあることだが、壁には植物の蔓が蔓延っている。
日の光の入らない遺跡なのに・・・と訝しがるリィナを背後に庇うようにしながら、ジーニは、
(ここで植物を育ててたっていうのなら、その種子が残ってる影響なのかも。)
と考えていた。
入って左手には通路が続き、右には扉がある。
一応、敵のバックアタックを警戒して、エディンが扉をざっと調べてみたが、罠も鍵も無い。
扉を開けて中を覗いてみると、また通路が続いた向こう側に扉がある様子だったので、一行は入口部分まで戻り、左手の通路が続く方へ進んでみることにした。
すると、暗い通路を小さなランタンで這うように照らしていたエディンが、一箇所にうずくまり、柔らかな羽毛を撫でるような仕草をする。

「隠し扉だ!!」
という言葉とともに、ギィイと何かの歯車が動いたような音がして、壁の一部がせりあがって扉を露にした。
隠し扉を進んでいくと、折れた通路の突き当たりにまた扉がある。
充分警戒しながら一行が進むと、そこは相当古いらしい石の棺が置いてある部屋だった。
仕掛けが無いことを確かめて、一枚岩の蓋をエディンが開けると、中には、植物の種子のようなものが収められている。
「何かの種だったようだけど・・・もう朽ち果てているようね」
「ジーニ、これってフィロンラの花の種かな?」
「分からないわ、ギル。さすがの私も、花ならともかく、種子の形状までは詳しく知らないのよ。でも、朽ちているからには、今回の依頼には役に立たないでしょうね」
「ん。紙切れが挟まっているみたい」
エディンとジーニの脇の間から顔を出したミナスが、棺の中にさっと手を突っ込んで取り出す。
その紙切れには、
(・・・すべての種子が失敗に終わってしまった・・・)
(・・・残ったのはあの花だけだ・・・)
(・・・大切に培養せねば・・・)
等という書付が残っている。
その解読を聞いて、リィナが顔に血の色を上らせて言った。
「あの花だけって・・・じゃ、じゃあ、この遺跡には花はもう無いってことでしょうか!?」
「落ち着いて、リィナ。培養が上手くいったのなら、30年前に見つかったのと別のフィロンラの花が、この遺跡のどこかに保管されているはずよ」
「諦めるのは早計だな。もう少し探索してみよう」
アレクの提案にみんなが頷き、一行は探索を続行した。
奥の蔦の多い部屋で金色に輝く鍵を見つけ、それに合う鍵のついた部屋を探し当てると、中には隅でぶつぶつと何か言っている男がいる。
「えっと・・・・・・・・・・・・・・・・・・せやから・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ誰だろう?」
「多分、俺の同業者だろうな。モグリかそうでないかは分からんが」
ミナスの疑問に、エディンが答える。ぶつぶつ言う男の装備は、エディンにはよく見慣れた遺跡専門の盗賊のものだった。
「まてよ・・・やっぱり・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・のわっ!!」
一行が男が気づくのを待っていると、波打つ黒髪をしたその盗賊らしい彼は、大げさにのけぞって”金狼の牙”とそれに守られるリィナに気づいた。
「あ、あんたら・・・いつからそこにおったんや!」
妙な訛りをした男の言葉に、困ったようにギルが眉を寄せた。
「えっと・・・・・・・・・・・・・・・」
「もしかして、あんたらもこの遺跡のお宝を・・・?」
男が用心深く体勢を変えたのに、アレクとエディンが反応する。
「もし・・・そうなら・・・商売敵ってことやな・・・」
「あの・・・違うんです」
一触即発のその雰囲気を察したのか、リィナがジーニの背後から出てきて、男に事情を説明した。
「多少胡散臭い気もするが・・・ま、ええやろ。信じたるわ。浪花節には弱いんや、俺は」
(今のお前ほど、胡散臭くはないがね・・・。)
心中でエディンが呟くのも知らず、男が信じたついでに探索を手伝う、と言い出すのに、ミナスの目が丸くなった。
男は、通り名を”疾風のジグ”という、らしい。エディンは長く盗賊ギルドに所属しているが、知らない名だった。詳しく聞いてみると、東の国からやってきた流れ者らしい。
となると、あくまで男を信じるかどうかは、リィナや”金狼の牙”次第である。リィナは、手伝ってもらっていいのだろうか、という目でこちらを見てくる。
ジーニは未知の人物を連れ歩く危険を嫌がったが、元々あまり物事を考えないギルや、人を見る目が確かなエディンからすると、大した脅威にはならないだろう、と判断され、同行を承知することになった。
自分がいれば見つかったも同然、と胸を張るジグから、一行は彼が調べ終わったこと、こちらが調べたことを交換した。
それによると、石像のある部屋の仕掛けを解かないと、遺跡のさらに奥の部屋には進めないらしい。
8人連れになった彼らは、その仕掛けに挑むことにした。
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Sat.
遺跡に咲く花 1 
「おぉ、おはよう。もう、昼過ぎだぞ。いくらなんでも寝過ぎじゃないのか?」
しょぼしょぼした目を瞬かせて起きてきた”金狼の牙”一行に、宿の親父さんが声を掛ける。
が・・・・・・。
「・・・・・・・・・」
愛らしい顔を眠気に歪めたミナスは、まだ頭が前後にフラフラ揺れている。

後ろに立っていたギルが、慌ててミナスの体を支えた。
ジーニが、ゆったりと伸びをしながら親父さんに言う。
「だって・・・・・・フォーチュン=ベルから帰ってきたばかりで、疲れがなんだか取れなくて」
「まぁいいさ。こないだの依頼でたんまり儲けたんだろう?たまにはゆっくりするのもいいだろうよ」
親父さんの言う「こないだの依頼」とは、紅き鷹旅団というモグリの盗賊団を、盗賊ギルドに代わって壊滅させた事件である。
盗賊団に加勢していた魔術師は逃したものの、手ごわいとあらかじめ忠告されていた首領を見事討ち果たし、中々の手際だったと依頼人からも誉められた。
その時に手に入れたお宝を近くのフォーチュン=ベルで売却・練成し、やっと帰ってきたのが昨日の夜のことである。
宿の親父さんが微かに笑みを口の端に上らせて、
「さて、朝飯を作ってやろう。いや、もう昼飯だな。テーブルで待ってな」
と促し、笑いながら店の奥の調理場に入ろうとしたとき、店の扉を開けて一人の女性が入ってきた。
荒事にはおよそ不向きな、華奢な体型。コーラルピンクの唇が可憐な、若い女性だ。
「おや、いらっしゃい。お食事ですかい?それともお泊まりかな」
親父さんは怪訝そうな表情を隠そうともせず、その女性に尋ねた。
宿の親父さんが訝しがるのも無理はない。
その女性の身なりからは、とても冒険者や旅人には見えない。
「あの・・・、こちらで冒険者の方を雇えるって聞いたんですけど・・・」
「あぁ、仕事の依頼だね。ちょっと、待ってなさい」
親父さんは溜め息をついた様に見えた。
無理も無い。こんな何処にでもいるような女性が冒険者なんぞに依頼に来るという事は、それは不幸な境遇にいるからに違いない。
そして、親父さんは奥の棚から紙を持ってきた。
「それじゃぁ、この紙に依頼内容を書いてくれるかな。なるべく詳しく書いておくれよ」
まるで初めて字を習う子供に言い聞かせるかのような、物柔らかい態度で親父さんは彼女に接している。
その様子をこっそり眺めて、ギルとアレクが顔を寄せ合って相談した。
(おい、アレク。今日の宿って、俺たちくらいしか真っ当に動けそうなのはいないんじゃなかったか?)
(ああ。確かアイリーンのパーティは戦士が骨折、ミロンの奴は魔術師が里帰りしてるんだったな。)
(他の格上のパーティならいけるかもしれねぇが・・・)
こそこそした二人を知ってはいるものの、あえて無視して親父さんは彼女に報酬を尋ねた。
「えぇ。えっと、500sp・・・」
(こりゃいかん。その報酬で雇えるまともな面子は、俺たち以外にないぞ。)
(・・・・・・引き受けるのか、ギル。)
(じゃないと、彼女が困るだろ。)
「ふむ。そして、次に・・・」
「ちょっと待って、親父さん」
幼馴染同士の会話が耳にずっと入っていたのだろう。
お人よしのアウロラが、絶妙のタイミングで声を掛けた。
「ん、どうした?お前さん達が引き受けてくれるとでもいうのか?」
「ええ。うちのパーティのリーダーも、そのつもりのようでしたから」
「そうか。よかったな、お嬢さん。こちらの冒険者の方が依頼を引き受けてくださるようだよ。見かけは弱そうだが、仕事の腕はわしが保証するよ」
「『見かけが弱い』なんて、大きなお世話だ!」
親父さんの余計な一言に、ギルが大きな口をあけて反論したが、ギルにも親父さんが安堵していたのは分かっていた。
他の面子が紹介できない以上、”金狼の牙”が受けなければ、この依頼がいつ冒険者の目に止まるか知れないだろう。
リィナ、と名乗った依頼人からいろいろ話を聞く間、親父さんは後を任せたと言って調理場の方へ入っていった。
リィナによると、彼女の弟が病気で倒れたのは2週間ほど前の事だった。
弟は寝ていれば直ると言っていたのだが、2日、3日と経っても一向に病状は回復しない。
そこで、リィナは村の医者に、弟の病状を診てもらう事にした。
『申し訳無いが、これはちょいとやっかいな病気じゃぞ』
『えぇ?・・・では、この子は・・・』
『待ちなさい。やっかいだとは言ったが、治らんとは言うとらんぞ』
「・・・・・・で、その病気を治すお薬に必要なのが・・・」
「ええ。フィロンラの花、というそうです。私も初めて聞いたんですが、非常に希少価値のある花とか・・・」
「フィロンラかあ。やっかいなのは確かね」
「知っているんですか?ジーニ」
リィナが語った依頼の事情から出てきた花の名前は、ジーニの既知のものだったらしい。
アウロラが尋ねると、ジーニは「大雑把にだけどね」と付け加えてから全員に説明した。
フィロンナの花は、一説によると古代文明期の有名な魔道師が作り出したとも言われ、野生のものはほとんど残っていないという。
リィナが頼った医者の話にも、ジーニの記憶にも、フィロンナの花がさる遺跡で見つかったのは30年も昔のことだという。
「そっか。僕らにその遺跡に一緒に行って、花を見つけて欲しいんだね」
「はい。この”狼の隠れ家”のご主人は、村の先生の古い友人だと言ってました。どうしても行くというのならば、ここで冒険者を雇いなさいって」
特製の具タップリのスープと焼き立てのパンが、いい匂いと湯気を立てながら、親父さんの手によって調理場から運ばれてくる。
リィナも、「その様子だと、今日はまだ何も食べていないんだろう?」と薦められ、パンをひとつ手に取った。
冒険者達とリィナは、店の自慢料理である具たっぷりのスープにしばしの間、舌鼓を打った。
空腹を満たした”金狼の牙”は、引き受けた依頼に対して、病気だというなら早いほうがいいだろうと手早く準備を済ませ、遺跡に案内役のリィナを伴って向かった。
しょぼしょぼした目を瞬かせて起きてきた”金狼の牙”一行に、宿の親父さんが声を掛ける。
が・・・・・・。
「・・・・・・・・・」
愛らしい顔を眠気に歪めたミナスは、まだ頭が前後にフラフラ揺れている。

後ろに立っていたギルが、慌ててミナスの体を支えた。
ジーニが、ゆったりと伸びをしながら親父さんに言う。
「だって・・・・・・フォーチュン=ベルから帰ってきたばかりで、疲れがなんだか取れなくて」
「まぁいいさ。こないだの依頼でたんまり儲けたんだろう?たまにはゆっくりするのもいいだろうよ」
親父さんの言う「こないだの依頼」とは、紅き鷹旅団というモグリの盗賊団を、盗賊ギルドに代わって壊滅させた事件である。
盗賊団に加勢していた魔術師は逃したものの、手ごわいとあらかじめ忠告されていた首領を見事討ち果たし、中々の手際だったと依頼人からも誉められた。
その時に手に入れたお宝を近くのフォーチュン=ベルで売却・練成し、やっと帰ってきたのが昨日の夜のことである。
宿の親父さんが微かに笑みを口の端に上らせて、
「さて、朝飯を作ってやろう。いや、もう昼飯だな。テーブルで待ってな」
と促し、笑いながら店の奥の調理場に入ろうとしたとき、店の扉を開けて一人の女性が入ってきた。
荒事にはおよそ不向きな、華奢な体型。コーラルピンクの唇が可憐な、若い女性だ。
「おや、いらっしゃい。お食事ですかい?それともお泊まりかな」
親父さんは怪訝そうな表情を隠そうともせず、その女性に尋ねた。
宿の親父さんが訝しがるのも無理はない。
その女性の身なりからは、とても冒険者や旅人には見えない。
「あの・・・、こちらで冒険者の方を雇えるって聞いたんですけど・・・」
「あぁ、仕事の依頼だね。ちょっと、待ってなさい」
親父さんは溜め息をついた様に見えた。
無理も無い。こんな何処にでもいるような女性が冒険者なんぞに依頼に来るという事は、それは不幸な境遇にいるからに違いない。
そして、親父さんは奥の棚から紙を持ってきた。
「それじゃぁ、この紙に依頼内容を書いてくれるかな。なるべく詳しく書いておくれよ」
まるで初めて字を習う子供に言い聞かせるかのような、物柔らかい態度で親父さんは彼女に接している。
その様子をこっそり眺めて、ギルとアレクが顔を寄せ合って相談した。
(おい、アレク。今日の宿って、俺たちくらいしか真っ当に動けそうなのはいないんじゃなかったか?)
(ああ。確かアイリーンのパーティは戦士が骨折、ミロンの奴は魔術師が里帰りしてるんだったな。)
(他の格上のパーティならいけるかもしれねぇが・・・)
こそこそした二人を知ってはいるものの、あえて無視して親父さんは彼女に報酬を尋ねた。
「えぇ。えっと、500sp・・・」
(こりゃいかん。その報酬で雇えるまともな面子は、俺たち以外にないぞ。)
(・・・・・・引き受けるのか、ギル。)
(じゃないと、彼女が困るだろ。)
「ふむ。そして、次に・・・」
「ちょっと待って、親父さん」
幼馴染同士の会話が耳にずっと入っていたのだろう。
お人よしのアウロラが、絶妙のタイミングで声を掛けた。
「ん、どうした?お前さん達が引き受けてくれるとでもいうのか?」
「ええ。うちのパーティのリーダーも、そのつもりのようでしたから」
「そうか。よかったな、お嬢さん。こちらの冒険者の方が依頼を引き受けてくださるようだよ。見かけは弱そうだが、仕事の腕はわしが保証するよ」
「『見かけが弱い』なんて、大きなお世話だ!」
親父さんの余計な一言に、ギルが大きな口をあけて反論したが、ギルにも親父さんが安堵していたのは分かっていた。
他の面子が紹介できない以上、”金狼の牙”が受けなければ、この依頼がいつ冒険者の目に止まるか知れないだろう。
リィナ、と名乗った依頼人からいろいろ話を聞く間、親父さんは後を任せたと言って調理場の方へ入っていった。
リィナによると、彼女の弟が病気で倒れたのは2週間ほど前の事だった。
弟は寝ていれば直ると言っていたのだが、2日、3日と経っても一向に病状は回復しない。
そこで、リィナは村の医者に、弟の病状を診てもらう事にした。
『申し訳無いが、これはちょいとやっかいな病気じゃぞ』
『えぇ?・・・では、この子は・・・』
『待ちなさい。やっかいだとは言ったが、治らんとは言うとらんぞ』
「・・・・・・で、その病気を治すお薬に必要なのが・・・」
「ええ。フィロンラの花、というそうです。私も初めて聞いたんですが、非常に希少価値のある花とか・・・」
「フィロンラかあ。やっかいなのは確かね」
「知っているんですか?ジーニ」
リィナが語った依頼の事情から出てきた花の名前は、ジーニの既知のものだったらしい。
アウロラが尋ねると、ジーニは「大雑把にだけどね」と付け加えてから全員に説明した。
フィロンナの花は、一説によると古代文明期の有名な魔道師が作り出したとも言われ、野生のものはほとんど残っていないという。
リィナが頼った医者の話にも、ジーニの記憶にも、フィロンナの花がさる遺跡で見つかったのは30年も昔のことだという。
「そっか。僕らにその遺跡に一緒に行って、花を見つけて欲しいんだね」
「はい。この”狼の隠れ家”のご主人は、村の先生の古い友人だと言ってました。どうしても行くというのならば、ここで冒険者を雇いなさいって」
特製の具タップリのスープと焼き立てのパンが、いい匂いと湯気を立てながら、親父さんの手によって調理場から運ばれてくる。
リィナも、「その様子だと、今日はまだ何も食べていないんだろう?」と薦められ、パンをひとつ手に取った。
冒険者達とリィナは、店の自慢料理である具たっぷりのスープにしばしの間、舌鼓を打った。
空腹を満たした”金狼の牙”は、引き受けた依頼に対して、病気だというなら早いほうがいいだろうと手早く準備を済ませ、遺跡に案内役のリィナを伴って向かった。
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