Wed.

常夜の街その5  

 一日中、太陽の昇らない街――。
 そんな寒々しさの中でずっと暮らしてきたその人にとって、”陽の光”などと言うものは、もはや物語の中のものに過ぎなかった。
 今まで夢見てきた、あの城での生活のように――いや、それも、ローザがヴァルプスギス伯爵家に嫁ぐまでのことだった。
-- 続きを読む --

2016/05/18 12:06 [edit]

category: 常夜の街

tb: --   cm: 0

Wed.

常夜の街その4  

「また来て悪いんだけどさ」

 けろっとした様子で伯爵に切り出したのは、テーゼンである。
 旗を掲げる爪は、また月下の道を歩んでこの謁見のままで通されていた。
 さすがに一日に二度もやって来た客人に、扉を開けて応対した老人も訝しい顔になっていたが、彼にどう思われようと、自分たちが今抱えている依頼を放り出すわけにはいかない。
 そんな気負いが分かっているのかいないのか、テーゼンは平然とマリアの腕を掴み、自分の前へ引っ張り出した。

「わっ、っとと……」
「街の住民たちは、本当にアンタ以外の領主は欲しくないらしいんだ。アンタが”渇ききる”前に、こっちの子を奥さんにして、血を供給してくれって言うのが総意。住民の総意を頭から無視するのは、さすがに良くないんじゃねえの?僕が言うのもなんだけどさ」

 伯爵はあまり表情を変えてはいないが、その雰囲気は……あえて言うなら、困惑していた。
-- 続きを読む --

2016/05/18 12:02 [edit]

category: 常夜の街

tb: --   cm: 0

Wed.

常夜の街その3  

 吸血鬼への”変化”により尖った耳、暗い中でも冴え冴えとした光を放つ金髪、血の気のないというよりは青ざめたような白皙の美貌――何より、哀しげな色を湛えた緑の瞳。
 家臣による取次ぎで謁見の間で面会したエメリッヒ・フォン・ヴァルプルギスは、色んな人に出会うことの多い冒険者稼業でも、そうそうお目にかかることのない麗しさを具えていた。

「さて、今日はどのような用向きかな?」

とこちらに問いかける声も、月の雫を絞り出したように不思議な響きを伴って耳に入ってくる。
 ウィルバーは賢者の搭で仕込まれた正式な礼を取りながら、

「マリアという娘を花嫁として連れて参りました。我々はその付添です」

と、返答をする。
-- 続きを読む --

2016/05/18 11:59 [edit]

category: 常夜の街

tb: --   cm: 0

Wed.

常夜の街その2  

 常夜の街では、三日月が仄かな光を道に落としていた。
 リューンのような石畳ではないが、躓くと怪我をしてしまいそうな小石やごみなどは落ちていない。
 ざっと回ったところ、極端な貧民街なども見られず、統治の行き届いた都市だという印象を受ける。
 木とレンガで造られた家々が立ち並ぶ中、はしこいアンジェの双眸が、”宿屋”を示すベッドとカップが描かれた錬鉄製の看板を見つけた。

「めっけ!」
「えらいえらい」

 武骨で大きな手が、アンジェの頭をそっと撫でる。
-- 続きを読む --

2016/05/18 11:56 [edit]

category: 常夜の街

tb: --   cm: 0

Wed.

常夜の街その1  

 いつも無愛想極まりない顔を、にっこにこと緩ませながら新たに購入した防具を手入れするロンドを見て、アンジェが年不相応に深いため息をついた。

「新しい鎧がよっぽど嬉しかったんだねえ、兄ちゃんてば」
「そうね。私も彼に貸していた盾が返って来たのは嬉しいんだけど……あの顔はないわ」

 騎兵用の凧型の盾を自分が座る椅子に立てかけたシシリーが、やや半眼になりながらコメントする。
 先輩冒険者からのアドバイスで、手ごろな値段で効果の高い防具を売っているという魔法品物店を教えてもらい、ロンドがかねてより欲しいと熱望していた鎧を買ってきた。

常夜



-- 続きを読む --

2016/05/18 11:51 [edit]

category: 常夜の街

tb: --   cm: 0

プロフィール

最新記事

最新コメント

月別アーカイブ

カテゴリ

カレンダー

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

辺境に足を運んだ方の人数

▲Page top