熊が来た! 2
「あった、あれだね」
冒険者一行は、ミナスが指摘したコルバおばさんの家の前に辿り着いた。
アレクはここで全員の顔を見渡す。
「手順は大丈夫か?」
「できるだけの補助魔法を、僕らがかけるんだよね?それで・・・・・・」
「俺たちが頑張って、網を母熊と仔熊一頭に集中狙いすると」
ミナスとギルが口々に言うのに、アレクが頷いた。
熊は、必ずしも仕留める必要はないのを村人に確認済みである。頭数、とくに危険性の高い母熊さえ抑えられれば、戦闘はぐっと楽なものになるはずなのだ。
「よし、そろそろいこう。呪文頼むぜ」
ギルの合図で、アウロラ・ジーニ・ミナスが【祝福】【魔法の障壁】【蛙の迷彩】の補助魔法を、次々に唱えていく。
うっすらと魔力に包まれた冒険者たちは、勇ましく猟師の家に飛び込んだ。
アレクの目論見は当たり、最初の投げ網でまず母熊を確実に捕らえた一行は、続けてジーニの【眠りの雲】に眠らされた仔熊をそのままに、もう一頭の呪文に抵抗した仔熊へ攻撃を集中させた。

それはあっけないほど見事に決まり、最後の【魔法の矢】でトドメをさした事で、身動きできない残りの熊を安全に捕らえることができたのだった。
「ありがとうございます。お約束の300spですじゃ」
「はいよ。また何かあれば、狼の隠れ家って宿まで・・・・・・ん?」
「ギル、あっちから誰か来るよ。精霊たちが騒いでる」
ロベールがギルに報酬の入った袋を渡した瞬間、村がにわかにあわただしくなる。
そよ風の精霊や森の精霊からの耳打ちを受けたミナスが、ギルの左ひじの辺りを掴み、森の方を指さして言い募ると、そこから獲物を担いだ領主一行が戻ってきた。
きらびやかな狩装束の一団に、元村長であるトマ老人が向かって、留守中の出来事を説明してくれたらしい。
それを聞いた伯爵らしき白髭の男性が、傍らにいる金髪碧眼の若者になにやら耳打ちをすると、若者が冒険者たちの方へやってきた。
「あれは伯爵の八男、フランソワさまですな。貴族の若様も、末の方になると大変なようで・・・・・・おっと」
ロベールが小声で冒険者たちに教えてくれたが、当の本人がもう近くまで来たのを見て、慌てて口を噤んだ。
「これこれ、そなたたち。少々相談したいことがあるのだが。すまぬが、ちょっと向こうで・・・・・・」
伯爵の子息に、少なくとも後ろめたい様子は見られない。
ついていってもとりあえず大丈夫だろう、と判断したギルは、目線で仲間に頷いてみせてから、先頭に立って歩き出した。
「熊狩りに出た留守に村を熊に襲われたとあっては、物笑いの種。父の面目に関わる。そこでだ・・・・・・」
納屋の陰まできてフランソワという子息が切り出した話は、熊退治の手柄に関してだった。
「あの熊は村を襲わなかったと考えてもらいたい。”何か分からないもの”に家を荒らされた気の毒な猟師には、いくらかの見舞金を遣わそう」
「・・・・・・・・・ふむ」
「へえ、”森の中で退治された熊”の亡骸さえ村に下げ渡していただければ・・・・・・われら、何の異存もございません」
冒険者と同じ場所まで連れてこられたロベールが、フランソワの強調した台詞に感づいて、村としての条件を伯爵側・冒険者側に分かるように念押しする。
熊の亡骸を村に下賜することは伯爵側も同意を示したので、後は冒険者側の問題である。
伯爵がやった熊狩りの手伝いで、熊を退治したことにして報奨金を別途に貰うか。
それとも、あくまで自分たちの手柄を主張して名声を得るか。
伯爵子息・フランソワは冒険者たちにぐっと顔を近づけ、笑みを浮かべながら囁く。
「・・・・・・どうせ村人どもは大した額は払っておるまい。どうじゃ、悪い話ではなかろう?」
追加で提示された”報奨金”は1000spだった。
フランソワの笑みは気に入らなかったが、コルバおばさんの家にも見舞金が出るのだし、ある意味で領主に恩を売る機会でもある。
結局、アレクが最後まで渋ったものの、”報奨金”をジーニが1200spまで出させて、冒険者たちは手柄を売ったのであった。

「なんてえんだろうな、この気持ち。ものすごい挫折感がするぜ・・・・・・。ああ、パーッと呑んじまいたいなあ・・・・・・」
「まあまあ。終わり良ければすべて良しですよ」
「アウロラって、たまに本当に尊敬する・・・・・・」
その日、サンカンシオン村で一泊し、宴で熊汁を堪能した冒険者一行は、リューンへの帰途に着いた。
※収入300sp+1200sp※
--------------------------------------------------------
■後書きまたは言い訳
9回目のお仕事は、竹庵さんのシナリオで熊が来た!です。
シナリオタイトルどおり、小村に出没した熊がいて、それをたまたま居合わせた冒険者たちが退治するという話の筋なのですが、この村の人たち(といっても、接するのは5人だけですが)が、妙にキャラが濃くて面白い。
竹庵さんは、ReadMeの中でクロスオーバー等は著作権の誤解のない限り歓迎する、とお書きになっておられるので、この面白い村がまた誰かの作品にちらっとでも出てきたらいいなあ、と思っています。
退治してやれやれ、と思ったら後になって出てくる伯爵親子とのやり取りもあり、「金を取るか名誉を取るか」と、結構考え込まされたシナリオでした。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。
冒険者一行は、ミナスが指摘したコルバおばさんの家の前に辿り着いた。
アレクはここで全員の顔を見渡す。
「手順は大丈夫か?」
「できるだけの補助魔法を、僕らがかけるんだよね?それで・・・・・・」
「俺たちが頑張って、網を母熊と仔熊一頭に集中狙いすると」
ミナスとギルが口々に言うのに、アレクが頷いた。
熊は、必ずしも仕留める必要はないのを村人に確認済みである。頭数、とくに危険性の高い母熊さえ抑えられれば、戦闘はぐっと楽なものになるはずなのだ。
「よし、そろそろいこう。呪文頼むぜ」
ギルの合図で、アウロラ・ジーニ・ミナスが【祝福】【魔法の障壁】【蛙の迷彩】の補助魔法を、次々に唱えていく。
うっすらと魔力に包まれた冒険者たちは、勇ましく猟師の家に飛び込んだ。
アレクの目論見は当たり、最初の投げ網でまず母熊を確実に捕らえた一行は、続けてジーニの【眠りの雲】に眠らされた仔熊をそのままに、もう一頭の呪文に抵抗した仔熊へ攻撃を集中させた。

それはあっけないほど見事に決まり、最後の【魔法の矢】でトドメをさした事で、身動きできない残りの熊を安全に捕らえることができたのだった。
「ありがとうございます。お約束の300spですじゃ」
「はいよ。また何かあれば、狼の隠れ家って宿まで・・・・・・ん?」
「ギル、あっちから誰か来るよ。精霊たちが騒いでる」
ロベールがギルに報酬の入った袋を渡した瞬間、村がにわかにあわただしくなる。
そよ風の精霊や森の精霊からの耳打ちを受けたミナスが、ギルの左ひじの辺りを掴み、森の方を指さして言い募ると、そこから獲物を担いだ領主一行が戻ってきた。
きらびやかな狩装束の一団に、元村長であるトマ老人が向かって、留守中の出来事を説明してくれたらしい。
それを聞いた伯爵らしき白髭の男性が、傍らにいる金髪碧眼の若者になにやら耳打ちをすると、若者が冒険者たちの方へやってきた。
「あれは伯爵の八男、フランソワさまですな。貴族の若様も、末の方になると大変なようで・・・・・・おっと」
ロベールが小声で冒険者たちに教えてくれたが、当の本人がもう近くまで来たのを見て、慌てて口を噤んだ。
「これこれ、そなたたち。少々相談したいことがあるのだが。すまぬが、ちょっと向こうで・・・・・・」
伯爵の子息に、少なくとも後ろめたい様子は見られない。
ついていってもとりあえず大丈夫だろう、と判断したギルは、目線で仲間に頷いてみせてから、先頭に立って歩き出した。
「熊狩りに出た留守に村を熊に襲われたとあっては、物笑いの種。父の面目に関わる。そこでだ・・・・・・」
納屋の陰まできてフランソワという子息が切り出した話は、熊退治の手柄に関してだった。
「あの熊は村を襲わなかったと考えてもらいたい。”何か分からないもの”に家を荒らされた気の毒な猟師には、いくらかの見舞金を遣わそう」
「・・・・・・・・・ふむ」
「へえ、”森の中で退治された熊”の亡骸さえ村に下げ渡していただければ・・・・・・われら、何の異存もございません」
冒険者と同じ場所まで連れてこられたロベールが、フランソワの強調した台詞に感づいて、村としての条件を伯爵側・冒険者側に分かるように念押しする。
熊の亡骸を村に下賜することは伯爵側も同意を示したので、後は冒険者側の問題である。
伯爵がやった熊狩りの手伝いで、熊を退治したことにして報奨金を別途に貰うか。
それとも、あくまで自分たちの手柄を主張して名声を得るか。
伯爵子息・フランソワは冒険者たちにぐっと顔を近づけ、笑みを浮かべながら囁く。
「・・・・・・どうせ村人どもは大した額は払っておるまい。どうじゃ、悪い話ではなかろう?」
追加で提示された”報奨金”は1000spだった。
フランソワの笑みは気に入らなかったが、コルバおばさんの家にも見舞金が出るのだし、ある意味で領主に恩を売る機会でもある。
結局、アレクが最後まで渋ったものの、”報奨金”をジーニが1200spまで出させて、冒険者たちは手柄を売ったのであった。

「なんてえんだろうな、この気持ち。ものすごい挫折感がするぜ・・・・・・。ああ、パーッと呑んじまいたいなあ・・・・・・」
「まあまあ。終わり良ければすべて良しですよ」
「アウロラって、たまに本当に尊敬する・・・・・・」
その日、サンカンシオン村で一泊し、宴で熊汁を堪能した冒険者一行は、リューンへの帰途に着いた。
※収入300sp+1200sp※
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■後書きまたは言い訳
9回目のお仕事は、竹庵さんのシナリオで熊が来た!です。
シナリオタイトルどおり、小村に出没した熊がいて、それをたまたま居合わせた冒険者たちが退治するという話の筋なのですが、この村の人たち(といっても、接するのは5人だけですが)が、妙にキャラが濃くて面白い。
竹庵さんは、ReadMeの中でクロスオーバー等は著作権の誤解のない限り歓迎する、とお書きになっておられるので、この面白い村がまた誰かの作品にちらっとでも出てきたらいいなあ、と思っています。
退治してやれやれ、と思ったら後になって出てくる伯爵親子とのやり取りもあり、「金を取るか名誉を取るか」と、結構考え込まされたシナリオでした。
当リプレイはGroupAsk製作のフリーソフト『Card Wirth』を基にしたリプレイ小説です。
著作権はそれぞれのシナリオの製作者様にあります。
また小説内で用いられたスキル、アイテム、キャスト、召喚獣等は、それぞれの製作者様にあります。使用されている画像の著作権者様へ、問題がありましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処いたします。